JP2004292984A - ポリフェニレンサルファイド繊維、その製造方法および工業用織物 - Google Patents

ポリフェニレンサルファイド繊維、その製造方法および工業用織物 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリエステル繊維と併用して交織した場合に、熱セット加工後の表面皺を発生せず、かつ耐久性が優れた工業用織物を提供可能なポリフェニレンサルファイド繊維、およびその製造方法と繊維を用いた工業用織物の提供。
【解決手段】メルトフローレートが150以下のポリフェニレンサルファイドからなる繊維であって、140℃の乾熱収縮率Sd140と、同じく200℃の乾熱収縮率Sd200との差の絶対値ΔSdが3.0%以上、破断時の往復摩擦回数が7000回以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリフェニレンサルファイド繊維、その製造方法および工業用織物に関するものである。さらに詳しくは、ポリエステル繊維と併用して交織した場合に、表面皺の発生を抑制した工業用織物を与えることができるポリフェニレンサルファイド繊維とその製造方法、およびこのポリフェニレンサルファイド繊維とポリエステル繊維とを併用し交織してなり、表面皺の発生を抑制した搬送ベルト用織物、抄紙用ドライヤーカンバス織物、フィルター用織物、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベア、抄紙用ワイヤーなどの工業用織物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
搬送ベルト用織物、抄紙用ドライヤーカンバス用織物、フィルター用織物、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベアおよび抄紙用ワイヤーなどの工業用織物用途においては、これらの織物が例えば130℃以上の高温雰囲気や、高濃度の酸やアルカリなどの薬品環境下にさらされることから、織物素材である繊維には、高強度、高伸度、高結節強度および高屈曲摩耗性などの機械特性と共に、耐熱性および耐薬品性が強く要求されている。
【0003】
ポリフェニレンサルファイドは、こうした使用条件下に置いて特に優れた耐熱性および抜群の耐薬品性を有する上に、溶融成形が可能であることから、いわゆる成形品用途以外にも、繊維やフィルムに応用され多くの分野で利用されている。
【0004】
特に抄紙用ドライヤーカンバスは、抄紙機のフード内で高温・高湿度条件下で使用されるため、ポリエステル繊維を使用した抄紙用ドライヤーカンバスは、加水分解反応が促進されて耐久性の低下が生じることになる。
【0005】
これに対し、ポリフェニレンサルファイドは、耐熱性に優れ、高温・高湿度条件下においても高い耐久性能を長時間発現できるという特徴を有していることから、ポリフェニレンサルファイド繊維を抄紙用ドライヤーカンバスへ適用する提案(例えば、特許文献1参照)がすでになされている。
【0006】
また、抄紙用ドライヤーカンバス用途への適用を目的とするポリフェニレンサルファイド繊維の様々な品質改善検討がなされており、例えば耐摩耗性や耐屈曲性などの特性を改善する方法としては、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系ポリマーをブレンド紡糸する方法(例えば、特許文献2、3参照)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体に代表されるオレフィン系共重合体をブレンド紡糸する方法(例えば、特許文献4参照)、ある種のアイオノマー樹脂を配合する方法(例えば、特許文献5参照)、低密度ポリエチレンの存在下に芳香族ビニル化合物およびシアン化ビニル化合物との単量体混合物をグラフト共重合してなるグラフト共重合体を配合する方法(例えば、特許文献6参照)、ポリカルボジイミド化合物を配合する方法(例えば特許文献7参照)、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体を配合する方法(例えば、特許文献8参照)、炭酸カルシウムを配合する方法(例えば、特許文献9参照)、ポリフェニレンサルファイドの融点以上を含む高温で短時間熱処理する方法(例えば、特許文献10参照)、およびポリフェニレンサルファイドを溶融紡糸し冷却した後、加圧飽和水蒸気雰囲気下の特定の条件で一次延伸を行う方法(例えば、特許文献11参照)などの数多くの提案が行われており、さらには抄紙用スパイラルカンバスの通気性改善を目的とした高収縮性ポリフェニレンサルファイドモノフィラメント(例えば、特許文献12参照)についても提案されている。
【0007】
しかるに、ポリフェニレンサルファイド繊維は、ポリエステル繊維に比べて原料が割高なため、抄紙用織物のような全長が数百メートルにも及ぶ織物に全面使用した場合は、極めて高コストとなる。したがって、実際に抄紙用織物の素材としては、安価なポリエステル繊維が主流であり、耐熱安定剤を特別に吟味した耐加水分解グレードのポリエステル繊維が用いられている場合もある。
【0008】
かかる実情から、ポリフェニレンサルファイド繊維は、織物の耐熱強度を保持するために、ポリエステル繊維と併用して交織したり、単位面積当たりの織り密度が小さい平織りやその他の搬送ベルト用織物やフィルター用織物、織物の耳部補強部材などとして使用されているのが実情である。
【0009】
また、ポリフェニレンサルファイド繊維は、その素材の特性から、ポリエステル繊維に比べて温度と乾熱収縮率の関係をグラフ化した時に描かれる乾熱収縮率曲線の勾配が小さいことから、例えばポリエステル繊維と併用して経糸および/または緯糸の一部にポリフェニレンサルファイド繊維を交織した場合には、ポリエステル繊維と乾熱収縮率曲線が大きく異なることに起因して、熱セット加工後の織物に表面皺が発生し、織物表面の平滑性が著しく失われるという問題があった。
【0010】
従来の知見として、ポリフェニレンサルファイド繊維を製糸する際に高倍率で延伸すれば、乾熱収縮率曲線の勾配が大きくなる傾向が得られることが知られているが、この場合には乾熱収縮率曲線が全体的に高収縮側にシフトし、かえってポリエステル繊維との収縮特性に差異が生じるばかりか、耐屈曲摩耗性も低下する傾向にあった。
【0011】
また、上述した従来のポリフェニレンサルファイド繊維の特性改善技術においては、ポリエステル繊維との乾熱収縮特性の差異までを解決するには至ってはいないため、そこで得られた改質ポリフェニレンサルファイド繊維とポリエステル繊維と併用交織して表面皺の発生がない工業用織物を得ることは難しく、また様々な化合物を添加配合しているため、引張強度、結節強度、引掛強度の低下などの不具合を招くばかりか、配合する化合物によっては、使用後の産業廃棄物処理が困難になるなどの問題もあった。
【0012】
このように、ポリフェニレンサルファイド繊維の特性改善技術については、従来から数多くの検討がなされてきたが、ポリフェニレンサルファイド繊維の乾熱収縮率をポリエステル繊維の乾熱収縮率に近づける改善に関する検討はなされてはいなかった。現在では、工業用織物の多くが、ポリエステル繊維を主流としている現状を再認識した場合には、ポリフェニレンサルファイド繊維を工業用織物の分野でポリエステル繊維と併用することを可能とするための品質改善が必要であり、特にポリフェニレンサルファイド繊維の乾熱収縮特性の改善が大きな課題であるといえる。
【0013】
【特許文献1】
特開昭61−6390号公報
【特許文献2】
米国特許第3487454号明細書
【特許文献3】
特開平10−60736号公報
【特許文献4】
米国特許第4610916号明細書
【特許文献5】
特開平2−53913号公報
【特許文献6】
特開平5−279918号公報
【特許文献7】
特開平10−251918号公報
【特許文献8】
特開平6−346323号公報
【特許文献9】
特開2001−254227号公報
【特許文献10】
特開平4−222217号公報
【特許文献11】
特開2002−38332号公報
【特許文献12】
特開平5−195318号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0015】
したがって、本発明の目的は、ポリフェニレンサルファイドの優れた耐湿熱性と耐薬品性を活かしつつ、ポリエステル繊維とほぼ同等の乾熱収縮率特性を有し、ポリエステル繊維と併用して交織した場合に、表面皺の発生を抑制した工業用織物を与えることができるポリフェニレンサルファイド繊維とその製造方法、およびこのポリフェニレンサルファイド繊維とポリエステル繊維とを併用し交織してなり、表面皺の発生を抑制した搬送ベルト用織物、抄紙用ドライヤーカンバス織物、フィルター用織物、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベア、抄紙用ワイヤーなどの工業用織物を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリフェニレンサルファイドを主成分とするポリマ樹脂を、特定の方法により紡糸、延伸、定長熱処理することにより得られるポリフェニレンサルファイド繊維が、乾熱収縮率曲線の勾配が大きく、かつ優れた耐屈曲摩耗性を有したものであり、このポリフェニレンサルファイド繊維をポリエステル繊維と併用交織して工業用織物とした場合の表面皺の発生を効果的に抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
すなわち、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維は、構成単位の85モル%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなり、メルトフローレートが150以下のポリフェニレンサルファイドからなるポリフェニレンサルファイド繊維であって、フリー状態で測定した140℃の乾熱収縮率Sd140と、同じく200℃の乾熱収縮率Sd200との差の絶対値ΔSdが3.0%以上、JIS.L1095の規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験での破断時の往復摩擦回数が7000回以上であることを特徴とし、さらにはJIS.L1013の規定に準じて測定した乾引張強度が2.65cN/dtex以上であることが好ましい。
【0018】
また、上記の特性を有する本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法は、構成単位の85モル%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなり、メルトフローレートが150以下のポリフェニレンサルファイドを紡糸口金から溶融紡出し、紡出糸を冷却固化した後二段延伸および熱定長処理を行うに際し、前記定長熱処理を、二段目延伸温度よりも40〜100℃低い温度で行なうことを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の工業用織物は、上記のポリフェニレンサルファイド繊維を経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用し、かつポリエステル繊維と併用交織してなることを特徴とし、なかでも抄紙用ドライヤーカンバスおよび抄紙用ワイヤーに適用した場合に最良の効果を発現する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明に用いるポリフェニレンサルファイドとは、構成単位の85モル%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなるポリマーであって、15モル%以下の範囲で他の共重合成分を含有させることができる。なお、p−フェニレンサルファイド単位が85モル%未満では耐熱性が損なわれるため工業用織物用途を目的とした場合は好ましくない。
【0022】
また、本発明で用いるポリフェニレンサルファイドは、JIS K−6900によって測定されたポリマの溶融流れ:メルトフローレート(以下、MFRと呼ぶ)が150以下、好ましくは50〜110のは範囲にあることが重要である。
【0023】
ポリフェニレンサルファイドのMFRが150を越える場合は、得られる繊維の引張強度が低下し、また50未満では、粘度が高すぎるため溶融押出機の圧力が異常上昇し、安定した紡糸を行うことができなくなる。
【0024】
さらに、使用するポリフェニレンサルファイドは、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、窒化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジリコニウム酸など各種無機粒子や架橋高分子粒子のほか、従来公知の酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤、各種強化繊維類、フッ素樹脂類、ポリエステル類、ポリアミド類、およびポリオレフィン類などが添加されたものであってもよい。
【0025】
本発明のポリフェニレンサルファイド繊維は、フリー状態で測定した140℃の乾熱収縮率Sd140と、同じく200℃の乾熱収縮率Sd200との差の絶対値ΔSdが3.0%以上、特に3.5%以上、JIS.L1095の規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験での破断時の往復摩擦回数が7000回以上、特に8000回以上であることが必須の要件であり、これらの要件を満たすことによって、乾熱収縮率特性がポリエステル繊維の乾熱収縮率特性とほぼ同等となり、かつすぐれた耐屈曲摩耗性を具備し、ポリエステル繊維と併用交織して工業用織物とした場合の表面皺の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0026】
ここで、上記乾熱収縮率の差の絶対値ΔSdが3.0%未満では、このポリフェニレンサルファイド繊維をポリエステル繊維と併用交織した工業用織物に表面皺が発生しやすくなり、また破断時の往復摩擦回数が7000回未満では、このポリフェニレンサルファイド繊維をポリエステル繊維と併用交織した工業用織物の耐久性が低下するため、いずれの場合も好ましくない。
【0027】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維は、ポリエステル繊維と併用交織した場合に十分な糸強度を発現させるために、乾引張強度が2.65cN/dtex以上、特に3.00cN/dtex以上であることが望ましい。
【0028】
次に、上記の特性を有する本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法について説明する。
【0029】
本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の製造は、公知の溶融紡糸機、例えばエクストルーダーのような混練押出機、あるいはプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機を用いて、ポリマー樹脂を紡糸口金から一定量溶融押出し、引き続き冷却、熱延伸、定長熱処理することにより行われる。
【0030】
特に、本発明の乾熱収縮特性が改善されたポリフェニレンサルファイド繊維を得るためには、ポリフェニレンサルファイドを主成分とするポリマ樹脂を紡糸口金から溶融紡出して、紡出糸を冷却固化した後、二段延伸および定長熱処理を行うに際し、前記定長熱処理を、二段目延伸温度よりも40〜100℃低い温度、特に50〜80℃低い温度で行うことが重要である。
【0031】
ポリフェニレンサルファイド繊維のフリー状態で測定した140℃の乾熱収縮率Sd140と、同じく200℃で測定した乾熱収縮率Sd200との差の絶対値ΔSdを3.0%以上にするためには、定長熱処理温度を、二段目延伸温度よりも40〜100℃低い温度にすることが必要であり、この範囲から外れる温度差では、目標とする乾熱収縮率の差を得ることができない。
【0032】
ここで、乾熱収縮率曲線の勾配を大きくするための他の手段としては、延伸倍率を上げる方法も考えられるが、この方法で得られるポリフェニレンサルファイド繊維は、乾熱収縮率曲線が全体的に高収縮率側にシフトし、ポリエステル繊維と併用交織する際に、かえってポリエステル繊維との乾熱収縮率に違いが生じて表面皺が発生しやすくなるばかりか、耐屈曲摩耗性も大幅に低下するため、本発明の目的を達成することができない。この耐屈曲摩耗性の低下については、ポリフェニレンサルファイド繊維は硬くて脆く、靱性が不足するといった欠点を本来持っており、さらに高倍率で延伸すると糸中のポリマー結晶に歪みが生じて靱性不足が助長されることに起因するものであると考えられる。
【0033】
それに対し、本発明の製造方法は、こうしたポリフェニレンサルファイド繊維本来の靱性不足を助長することなく、乾熱収縮率曲線の勾配を大きくすることができるところに最大の特長がある。
【0034】
このようにして得られた本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の太さは、特に限定されるものではないが、工業用織物として使用する場合は0.05〜3mm、特に0.1〜2.5mmの範囲が好ましい。
【0035】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維の断面形状についても、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、三角形、正方形、扁平形、菱形、半月形、五角形以上の多角形、多葉形、ドッグボーン形および繭型などが挙げられるが、特に工業用織物の構成素材として用いる場合は、円形、楕円または扁平形であることが好ましい。
【0036】
かくして得られた本発明のポリフェニレンサルファイド繊維は、ポリエステル繊維と同様に乾熱収縮曲線の勾配が大きく、また十分な耐屈曲摩耗性および乾引張強度を具備し、これまでのポリフェニレンサルファイド繊維にない特異的な性質を発現させることが可能である。
【0037】
そして、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維を、ポリエステル繊維と併用して経糸および/または緯糸の少なくとも一部に交織した本発明の工業用織物、特に搬送ベルト用織物、抄紙用ドライヤーカンバス織物、フィルター用織物、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベア、および抄紙用ワイヤーなどは、熱セット加工後の表面皺が生じにくく、また搬送機ローラーや抄紙機ローラーよる繰り返し摩擦と屈曲を受けても十分な耐屈曲摩耗性を維持し、織物としての耐久性能を持続させることができる。
【0038】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
また、上記および下記に記載の物性は、以下の方法により測定した値である。〔乾熱収縮率〕
乾熱処理前の繊維に0.044cN/dtexの荷重をかけて測定した試料の長さL0、試料をフリー状態で乾熱空気中に入れ、140℃または200℃で30分間乾熱処理した後の繊維に0.044cN/dtexの荷重をかけて測定した試料の長さをL1としたとき、下記式により求めた値を乾熱収縮率とした。
【0040】
(L0− L1)/L0×100
〔乾引張強度〕
JIS. L1013の規定に準じて測定した。
〔屈曲摩耗特性試験〕
JIS. L1095に準じて、固定された直径3mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−ASF))の上に接触させた繊維を、摩擦子の左右各55°となるよう斜め下に設けたフリーローラー2個(ローラー間距離63.5mm)の下に掛け、別の1個のフリーローラーの上を介して繊維の一端に繊維1dtex当たり0.20gの荷重を掛けてセットする。繊維を往復回数105回/分、往復ストローク20mmで摩擦子に接触往復させて、同一試料につき各10本の繊維について切断するまでの往復摩擦回数を測定して平均値を求めた。この平均値が大きいほど良好なことを表す。
〔メルトフローレート測定〕
ASTM.D1238−86に準拠し、316℃、オリフィス径2.095mm、オリフィス長さ8.00mm、荷重5kgの条件で測定した10分当たりの流出ポリマ量(g)をメルトフローレートの値とした。
〔織物の表面皺評価〕
織物の製織には実施例、比較例のポリフェニレンサルファイド繊維およびそれと同径のポリエチレンテレフタレート繊維(東レ・モノフィラメント(株)製、580Dタイプ糸)を使用した。ポリフェニレンサルファイド繊維をポリエチレンテレフタレート繊維と1:1の繊維本数比で二重織りの緯方向に製織をした。その後140℃で10分、160℃で10分、200℃で10分の3条件で熱セット加工し、表面皺の発生を調べた。表面皺が発生しなかった場合を○、発生した場合を×として評価した。
〔実施例1〕
乾燥したポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製、E2080)を、40mmの1軸エクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、320℃の温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出した。次いで、溶融状態の紡出糸を温水中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく100℃の第1延伸ゾーンで3.80倍に延伸し、さらに200℃の第2延伸ゾーンで1.11倍に延伸した2段延伸糸を、130℃の熱風によるヒートセットゾーンで定長熱処理し、公知の油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、直径0.5mmのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0041】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維の物性結果を表1に示す。乾熱収縮率曲線の勾配は大きく、140℃および200℃における乾熱収縮率Sd140とSd200の差のΔSdは3.0%よりも高く、ポリエステル繊維の乾熱収縮特性と同等になった。また耐屈曲摩耗性も至って良好であった。
〔実施例2〕
実施例1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂を、40mmの1軸エクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、320℃の温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出した。次いで、溶融状態の紡出糸を温水中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく100℃の第1延伸ゾーンで3.80倍に延伸し、さらに220℃の第2延伸ゾーンで1.20倍に延伸した2段延伸糸を、160℃のヒートセットゾーンで定長熱処理し、公知の油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、直径0.5mmのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0042】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維の物性結果を表1に示す。実施例1よりも高倍率条件で延伸したため、耐屈曲摩耗性がやや低下し乾熱収縮率曲線が全体的に高収縮側にシフトしたが、さらに乾熱収縮率曲線の勾配は大きく、乾熱収縮特性は至って良好であった。
〔実施例3〕
実施例1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂を、40mmの1軸エクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、320℃の温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出した。次いで溶融状態の紡出糸を温水中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく100℃の第1延伸ゾーンで3.80倍に延伸し、さらに230℃の第2延伸ゾーンで1.11倍に延伸した2段延伸糸を、130℃のヒートセットゾーンで定長熱処理し、公知の油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、直径0.5mmのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0043】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維の物性結果を表1に示す。二段目延伸温度と熱定長処理温度との温度差が大きいため、実施例1および2の結果に比べ乾熱収縮率曲線の勾配は小さいが、140℃および200℃における乾熱収縮率Sd140とSd200の差のΔSdは3.0%より高く、乾熱収縮特性は良好であった。
〔比較例1〕
実施例1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂を、40mmの1軸エクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、320℃の温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出した。次いで、溶融状態の紡出糸を温水中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく100℃の第1延伸ゾーンで3.80倍に延伸し、さらに140℃の第2延伸ゾーンで1.11倍に延伸した2段延伸糸を、130℃のヒートセットゾーンで定長熱処理し、公知の油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、直径0.5mmのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0044】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維の物性結果を表1に示す。乾熱収縮率曲線の勾配は小さく、140℃および200℃における乾熱収縮率Sd140とSd200の差のΔSdは3.0%より低かった。
〔比較例2〕
実施例1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂を40mmの1軸エクストルーダ型溶融紡糸機に供給し、320℃の温度で溶融混練した後、紡糸口金から紡出した。次いで、溶融状態の紡出糸を温水中に導いて冷却固化せしめた後、巻き取ることなく100℃の第1延伸ゾーンで3.80倍に延伸し、さらに140℃の第2延伸ゾーンで1.14倍に延伸した2段延伸糸を、150℃のヒートセットゾーンで定長熱処理し、公知の油剤を付与しボビンに巻き取ることによって、直径0.5mmのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0045】
得られたポリフェニレンサルファイド繊維の物性結果を表1に示す。乾熱収縮率曲線の勾配は小さく、140℃および200℃における乾熱収縮率Sd140とSd200の差のΔSdは3.0%以下となり、耐屈曲摩耗性も低かった。
【0046】
【表1】
Figure 2004292984
【0047】
〔実施例4〜6〕
実施例1〜3で得られた各ポリフェニレンサルファイド繊維を、それぞれポリエチレンテレフタレート繊維と交織した後、140℃で10分、160℃で10分、200℃で10分の3条件で熱セット加工した。
【0048】
各熱セット条件における表面皺発生評価結果を表2に示す。いずれの織物も各熱セット条件下において表面皺の発生がなく良好な結果が得られた。
〔比較例3〕
比較例1で得られたポリフェニレンサルファイド繊維を、ポリエチレンテレフタレート繊維と交織した後、140℃で10分、160℃で10分、200℃で10分の3条件で熱セット加工した。
【0049】
各熱セット条件における表面皺発生評価結果を表2に示す。表面皺の発生は140℃は×、160℃は○、200℃は×であった。つまり、比較例1のポリフェニレンサルファイド繊維は、適用熱セット温度条件範囲が狭く、広範囲の温度条件で熱セットできるものではなかった。
〔比較例4〕
比較例2で得られたポリフェニレンサルファイド繊維を、ポリエチレンテレフタレート繊維と交織した後、140℃で10分、160℃で10分、200℃で10分の3条件で熱セット加工した。
【0050】
各熱セット条件における表面皺発生評価結果を表2に示す。いずれの熱セット温度条件でも表面皺が発生し、また耐屈曲摩耗性が低いため耐久性も十分なものではなかった。
【0051】
【表2】
Figure 2004292984
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維は、ポリエステル繊維と併用して経糸および/または緯糸の少なくとも一部に交織した場合、乾熱収縮特性がポリエステル繊維とほぼ同等であるため、熱セット加工後の表面皺が発生しにくく、また耐屈曲摩耗性に優れているため、搬送機ローラーや抄紙機ローラーによる摩擦や屈曲に耐え、高い耐久性を保持することができる。
【0053】
したがって、本発明のポリフェニレンサルファイド繊維とポリエステル繊維とを併用して交織した工業用織物は、搬送ベルト用織物、抄紙用ドライヤーカンバス用織物およびフィルター用織物、サーマルボンド法不織布接着工程用ネットコンベアおよび抄紙ワイヤーなどの各種用途に対し極めて有用である。

Claims (5)

  1. 構成単位の85モル%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなり、メルトフローレートが150以下のポリフェニレンサルファイドからなるポリフェニレンサルファイド繊維であって、フリー状態で測定した140℃の乾熱収縮率Sd140と、同じく200℃の乾熱収縮率Sd200との差の絶対値ΔSdが3.0%以上、JIS.L1095の規定に準じて測定した屈曲摩耗特性試験での破断時の往復摩擦回数が7000回以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド繊維。
  2. JIS.L1013の規定に準じて測定した乾引張強度が2.65cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド繊維。
  3. 構成単位の85モル%以上がp−フェニレンサルファイド単位からなり、メルトフローレートが150以下のポリフェニレンサルファイドを紡糸口金から溶融紡出し、紡出糸を冷却固化した後二段延伸および熱定長処理を行うに際し、前記定長熱処理を、二段目延伸温度よりも40〜100℃低い温度で行なうことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイド繊維の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイド繊維を経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用し、かつポリエステル繊維と併用交織してなることを特徴とする工業用織物。
  5. 抄紙用ドライヤーカンバスおよび抄紙用ワイヤーであることを特徴とする請求項4に記載の工業用織物。
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