JP2004292915A - 機械部品およびその製造方法 - Google Patents

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Koji Matsumura
康志 松村
Tomonori Haniyuda
智紀 羽生田
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Abstract

【課題】窒化処理にて表面硬化処理がなされる鋼を素材とする機械部品において、切削部の表面硬さを考慮した形で、部品強度および曲げ矯正性をともに優れたものとすることを可能とする機械部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼を素材とする機械部品1は、機械加工にて切削された切削部5を有するとともに窒化処理にて表面硬化処理がなされたものである。また、該窒化処理による窒化にて表面硬さが高められた表層部2と、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部3とを有する。ここで、部材表面から深さ0.05mmに対応した基準位置でのビッカース硬さ、及び該ビッカース硬さと内層部3のビッカース硬さとの平均値を示す部材表面からの深さを、本発明内容に属する関数を用いて適正化する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化処理にて表面硬化処理がなされる鋼を素材とした機械部品およびその製造方法に関し、詳細には、該表面硬化処理がなされるとともに部品強度および曲げ矯正性がともに付与される機械部品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯車、軸受、シャフト、クランクシャフト、コネクティングロッドなどの機械部品は、耐摩耗性や疲労強度が高い水準で要求される。また、これら耐摩耗性や疲労強度の必要とされる範囲は予め部品ごとに設定されている。そこで、一般的に、機械部品を製造する際には、耐摩耗性や疲労強度を高めるために表面硬化処理がなされている。例えば、該表面硬化処理は、機械構造用炭素鋼や合金鋼といった鋼よりなる鍛造素材を熱間鍛造し、焼きならし等の調質処理を施し、さらに、種々の機械部品の部品形状に機械加工した後に行われる。そして、この表面硬化処理を施した後に、曲げ矯正などの仕上げを行い、機械部品として製品化される。
【0003】
上記した表面硬化処理は、塩浴窒化処理やガス軟窒化処理などの窒化処理等により行なわれている。一般的に、この窒化処理は、浸炭処理などによる表面硬化処理に比べて、処理後に発生する歪量が小さいことが知られており、特に有用な方法であることが認識されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平09−324258号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、表面硬化処理を窒化処理にて行った場合においても、発生する歪量が許容できないことがあり、この表面硬化処理後に曲げ矯正を行なう必要が往々にして起こる。そこで、曲げ矯正処理にて製品として許容される範囲に曲げを矯正する訳だが、この処理のしやすさ、つまり曲げ矯正性は、表面硬化処理後の表面硬さに強く依存する。該表面硬さの軟化に伴い、曲げ矯正性は高まる。一方、この表面硬さの軟化に伴い、機械部品の耐摩耗性や疲労強度などの部品強度は低下する。このように、機械部品の部品強度を向上させる観点に立てば、表面硬化処理にて表面硬さを十分に高めればよく、一方、該表面硬さが高まると、曲げ矯正性が低下し、曲げ矯正処理時に表面に微小亀裂が誘起されやすくなるので、曲げ矯正性を向上させる観点に立てば、表面硬化処理による表面硬さの向上をより抑制させるほうがよいということになる。
【0006】
上述のごとく、表面硬化処理を行うことで、必要される部品強度を付与し且つ曲げ矯正性をも確保することは、簡便に両立し難いものとされる。しかしながら、製造される機械部品を良好なものとし、また、その製品歩留まりを高めるためには、表面硬化処理を行ない、かつ、該処理後において製品として供される機械部品の部品強度および曲げ矯正性をともに優れたものとすることは重要な課題とされる。
【0007】
さらに、機械部品には、部品形状に応じて切欠きや段差形状などに機械加工された切削部が部位として存在する。そのため、この切削部の表面近傍には応力が集中しやすく、曲げ矯正処理時の外力などに起因する微小亀裂が特に発生しやすい部位となる。そこで、表面硬化処理にて、切削部の表面近傍の硬さをより高めることがよいが、切削部の表面硬さを向上させれば、機械部品の表面硬さ自体も向上してしまう。そして、曲げ矯正性の低下に繋がるという上記同様の問題が発生する。しかしながら、切削部における応力集中に起因した微小亀裂の発生を抑制することは、機械部品を良好なものとし、また、その製品歩留まりを高めるためには重要である。つまり、表面硬化処理を行ない、かつ、該処理後において製品として供される機械部品の部品強度および曲げ矯正性をともに優れたものとする際には、切削部における表面硬さを考慮した形で行うことが重要な課題となる。 まさに、本発明はこの課題を鑑みてなされたものであって、即ち、本発明は窒化処理にて表面硬化処理を行なうものとするとともに、機械部品の部品形状に応じて機械加工される切削部の表面硬さを考慮した形で、部品強度および曲げ矯正性をともに優れたものとすることを可能とする機械部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および作用・効果】
上記課題を解決するための本発明の機械部品は、
鋼を素材とし、機械加工にて部品形状に応じて切削された切削部を有する丸棒の形状からなり、かつ必要疲労強度σが600MPa以上900MPa以下の範囲にて要求されてなるとともに、窒化処理による表面硬化処理が施された機械部品であって、
該機械部品の部材表面からの深さが0.05mmに対応する基準位置での表層部のビッカース硬さH0が、前記必要疲労強度σを変数とした下記数式▲1▼:
【数1】
Figure 2004292915
で定義される疲労強度に対するビッカース硬さ特性の関数H’(σ)を用いたとき、
H’(σ)≦H0≦1.1×H’(σ)
の範囲に収まるものとされ、
前記基準位置での表層部のビッカース硬さH0と、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部のビッカース硬さH1との平均値(H0+H1)/2を、部材断面の深さ方向に対する平均ビッカース硬さHaとしたとき、該平均ビッカース硬さHaとなる前記表層部に属する有効硬化深さ層部における部材表面からの深さEが、
前記切削部に基づき定義される前記機械部品における応力集中係数αと、該応力集中係数αに係わる最大応力σmaxが定義される部材表面での位置に対応する前記機械部品における部材半径rと、前記平均ビッカース硬さHaを前記表層部のビッカース硬さH0で割った値Ha/H0を硬さ規格化定数taとした該硬さ規格化定数taと、を変数とした下記数式▲2▼:
【数2】
Figure 2004292915
で定義される部材表面からの実効硬化深さWを用いて、
W≦E≦1.1×W
の範囲に収まるものとされることを特徴とする。
【0009】
上記本発明においては、鋼を素材とし、機械加工にて部品形状に応じて切削された切削部を有する丸棒の形状からなる機械部品を対象とする。さらに、必要とされる疲労強度、つまり、必要疲労強度σが600MPa以上900MPa以下の一般的な範囲にて要求されるものとし、窒化処理にて表面硬化処理が施される機械部品を対象とする。ここで、窒化処理とは、その処理時において、機械部品の部材表面から内層部に向けて窒素成分を拡散させ、機械部品の表層部を窒化させることにより、部材表面を含めた表層部の表面硬さを高める処理である。なお、窒化処理前においては、機械部品における部材表面からの深さ方向への硬さ分布は略均一であり、表層部と内層部との硬さは略同様なものである。そこで、本発明において問題とするのは、窒化処理にて表面硬さを高めるとともに、該処理後において製品として供される機械部品に対して優れた部品強度および曲げ矯正性をともに付与させることである。詳細には、機械部品の切削部における応力集中に起因した微小亀裂の発生を効果的に抑制させるために、窒化処理にて切削部の表面硬さを含めた機械部品の表面硬さを高めるとともに、該処理後において製品として供される機械部品に対して優れた部品強度および曲げ矯正性をともに付与させることである。なお、本明細書における必要疲労強度とは表層部におけるものであり、機械部品が製品として実際の系で使用される際、曲げやねじり荷重などの荷重への耐久性は、特に表面を含めた表層部の部品強度に強く依存するからである。また、この表層部における必要疲労強度は、切削部において特に重要とされるものであり、切削部において必要疲労強度が満たされていれば、他の部位の強度は満たされるものとされる。
【0010】
本発明において機械部品の切削部に着目する応力集中に関して図5を用いて説明する。図5は、丸棒形状の機械部品の断面を概略的に示す模式図である。図5(a)は、切欠や段差などの切削部を有さない場合である。図5(a)の場合は、紙面上下方向に荷重Fを印加させた際、断面ABに発生する応力は一様なσnとされる。しかしながら、図5(b)のように、切欠き形状(左図)や段差形状(右図)の切削部がある場合、切削部の断面ABに発生する応力は部材表面に向かい増大する形となる。つまり、部材表面に応力が集中し、部材表面に最大応力σmaxが発生する。また、断面A’B’や断面A”B”には、一様な応力が発生する。そして、σmaxを、断面ABの円面積で荷重Fを割った値σavにて割った値が、応力集中係数αとされる。このように、切削部を有する機械部品には、該切削部に応力が集中し、この応力集中は部品破壊の一要因とされる。なお、図5における荷重Fは引っ張り荷重に対応するが、曲げ荷重、ねじり荷重でも同様のことが言える。
【0011】
そこで、本発明においては、まず、機械部品の部材表面からの深さが0.05mmに対応する基準位置での表層部(以下、表層部基準位置とも称する)のビッカース硬さH0を適正化させる。疲労強度とビッカース硬さとの相関は比例関係にあることに着目し、必要疲労強度σを変数とした数式H’(σ)=(σ―31.2)/1.579で定義される疲労強度に対するビッカース硬さ特性の関数H’(σ)を用いて、表層部基準位置でのビッカース硬さH0をH’(σ)≦H0≦1.1×H’(σ)の範囲に収まるように適正化させてなる。ここで、数式H’(σ)は、ビッカース硬さと疲労強度との相関を実測した実験結果に基づく。表層部基準位置でのビッカース硬さH0がH’(σ)未満となると、機械部品における疲労強度を含めた部品強度が十分に確保されず、ひいては必要疲労強度を満たさないことによる部品変形や微小亀裂などの不具合が、機械部品、特に切削部に発生しやすくなる。一方、H0の値はH’(σ)よりも大きいほど部品強度はより優れたものとなるが、1.1×H’(σ)を超えると、表層部の硬さが過大なものとなり曲げ矯正性が十分に確保できない。つまりは、曲げ矯正に必要な外力が過大となり、特に切削部に対応する機械部品の表層部に微小亀裂などの不具合が発生しやすくなる。このような内容より、表層部基準位置でのビッカース硬さH0は、H’(σ)≦H0≦1.1×H’(σ)の範囲に収めるのが望ましい。
【0012】
窒化処理にて部材表面から深さ方向に対して窒素成分を拡散させる際、該窒素成分の拡散濃度は、深さ方向に向かい減衰し、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部に至る時点で、窒素成分の拡散が止まることになる。つまり、窒化処理にて硬化される硬さの増加量は、部材表面から内層部への深さ方向に対して減衰することになる。また、この減衰の減衰率は、機械部品の素材とされる鋼の成分元素の種類・含有量や、窒化処理における処理温度・処理時間などにより任意に変化するものである。そのため、上記のように、表層部基準位置の硬さ範囲を規定しただけでは、窒化処理後の表層部の深さ方向への硬さ分布を適正化するには十分ではない場合がある。そこで、本発明では、以下のように表層部の深さ方向への硬さ分布を適正化させてなる。
【0013】
表層部基準位置でのビッカース硬さH0と、内層部のビッカース硬さH1との平均値(H0+H1)/2を、部材断面の深さ方向に対する平均ビッカース硬さHaとする。そして、この平均ビッカース硬さHaとなる表層部に属する有効硬化深さ層部における部材表面からの深さ(以下、有効硬化深さとも称する)Eを適正化させる。ここで、有効硬化深さEが大きいほど、表層部の硬さは増大する。具体的に図4を用いて説明する。図4は、機械部品の断面の概略を模式的に示す図(左図)と、深さ方向への硬さ変化を模式的に示す図(右図)とを併せて示すものである。図4左図に示すように、断面は表層部と内層部から構成される。そして、その断面における深さ方向への硬さは、右図に示すように部材表面から内層部に向かい減衰し、内層部において略一定硬さH1となる。図4右図から分かるように、断面の深さ方向に対する平均ビッカース硬さHaが大きい、つまり、有効硬化深さEが大きいほど表層部の硬さは増大する。このような有効硬化深さEを、切削部に基づき定義される上述した機械部品における応力集中係数αと、応力集中係数αに係わる最大応力σmaxが定義される部材表面での位置に対応する部材半径(以下、単に最大応力規定半径とも言う)rと、平均ビッカース硬さHaを表層部基準位置でのビッカース硬さH0で割ったHa/H0にて定義される硬さ規格化定数taとを変数とする次の数式Wを用いて適正化させる。数式Wは、W=r×(2.517445−0.36671×ta−1.452898×α1/8にて定義される。
【0014】
上記数式Wは、切削部における最大応力σmaxが定義される断面(例えば、図5(b)における断面AB)での深さ方向に対する応力分布の計算結果に基づくものである。この応力分布の計算は、一般的な有限要素法による非線形構造解析汎用プログラム(例えば、Marcなど)を用いて計算することができる。そこで、本発明者らにおいては、機械部品をなす鋼の種類や切削部を含めた機械部品の形状ごとに変化する、応力係数α、部材表面からの深さxを最大応力規定半径rで割ったx/r、部材表面からの深さxでの応力σxを部材表面で示す最大応力σmaxで割ったσx/σmaxの3者の変数が、一義的な回帰関数で表されることを応力分布計算の計算結果から得られる応力係数α、σx/σmaxを、x/rに対してプロットすることにより導き出した。その回帰関数は、(x/r)1/8=2.517445−0.36671×(σx/σmax)−1.452898×α1/8とされる。この回帰関数の意味するところは、応力σxは、深さxが大きくなるほど急峻に減少し、その減少率は応力集中係数αが増大にするに従い急峻に増大する点である。次に、このような回帰関数における変数(σx/σmax)に注目する。応力が過大となる深さ位置での硬さを、他の深さ位置での硬さに比べて大きく設定することにより、疲労強度は増す。つまり、硬さが大きいほど荷重による変位を小さくすることができる。そこで、応力σxを同一の深さ位置xでのビッカース硬さHxに置き換え、最大応力σmaxを表層部基準位置でのビッカース硬さH0に置き換える。そうすると、変数(σx/σmax)は変数(Hx/H0)となり、上記回帰関数は、(x/r)1/8=2.517445−0.36671×(Hx/H0)−1.452898×α1/8の近似式に置き換わる。この近似式の意味するところは、応力とビッカース硬さとを一対一にて近似することにより、表層部、特に表面近傍の深さ方向への硬さ分布を、より部品強度を高めるのに適した関数として成立させている点である。そして、この近似式を変形すると、x=r×(2.517445−0.36671×(Hx/H0)−1.452898×α1/8となり、HxにHaを代入し、このHaに対応する深さ位置xをWとすることで、上式W=r×(2.517445−0.36671×ta−1.452898×α1/8となる。
【0015】
上記のように意味を持つ式にて定義される部材表面からの深さWを実効硬化深さとして、有効硬化深さEは、W≦E≦1.1×Wの範囲に収まるように適正化されてなる。有効硬化深さEが、実効硬化深さW未満となると、ある荷重に対する応力に起因した表層部、特に切削部における変位を十分に抑制できず、ひいては、部品強度をより有為に確保できない。一方、有効硬化深さEが、1.1×Wを超えると、表層部の硬さが過度に高めまることにより、曲げ矯正性をより有為に確保できない。このような内容より、有効硬化深さEは、W≦E≦1.1×Wの範囲に収まるように適正化させることが望ましい。
【0016】
上述のように、表層部における表層部基準位置でのビッカース硬さH0と、表層部における有効硬化深さEとを適正化させることにより、本発明の機械部品は、機械部品の部品形状に応じて機械加工される切削部の表面硬さを考慮した形で、部品強度および曲げ矯正性ともに確実に優れたものとなる。つまり、本発明の機械部品においては、その表層部の深さ方向への硬さ分布を切削部に発生する応力集中を考慮した形で適正化させてなるので、効果的に部品強度および曲げ矯正性ともに優れた機械部品とすることができる。なお、切削部を含む機械部品の形状は丸棒であれば特に限定されず、機械部品の構成素材も鋼であれば特に限定されない。なぜなら、上記した式Wにおいては、変数taは内層部のビッカース硬さH1を表層部基準位置におけるビッカース硬さH0の定数倍(但し、0超過1未満)として無次元化(意味がある数値範囲は、0.5超過1未満)させたものであり、rや応力集中係数αも任意に変化可能であるからである。つまり、Wを導出する際に用いた回帰関数は、無次元化させた(x/r)および(σx/σmax)と、αを変数として一意的に定義したものであり、鋼の一般的なヤング率やポアソン比を用いた応力分布計算の計算結果に基づくものであるからである。このような理由にて、本発明の機械部品としては、第一には形状が丸棒であれば切削部の形状は特に限定されず、機械部品の構成素材も鋼であれば特に限定されない。また、内層部のビッカース硬さH1も特に限定されないが、窒化処理される前の鋼からなる鍛造素材、もしくは該鍛造素材を調質処理したものの一般的なビッカース硬さ範囲であればよい。具体的には、150〜300HVの範囲としておけばよい。
【0017】
次に、本発明の機械部品は、該機械部品が調質処理されてなるものの場合に0とし、該調質処理がなされていないものの場合に1と定義される定数項Aを用いて、重量%でクロム当量Cr[eq.]を、0.475×C+0.164×Si+0.241×Mn+Cr+0.10×Aと定義したとき、該クロム当量Cr[eq.]を変数として定義される下記数式▲3▼:
【数3】
Figure 2004292915
で定義される含有成分量に対するビッカース硬さ特性H”(Cr[eq.])は、基準位置での表面層部のビッカース硬さH0にて、
H0≦H”(Cr[eq.])≦1.1×H0
となるようにクロム当量Cr[eq.]が調整されてなり、
窒化処理により部材表面から深さ方向xへ拡散する窒素成分の深さ方向xに対する濃度変化を表す関数をN(x)としたとき、基準位置に対応する表層部における窒素成分の濃度N(0.05)と、実効硬化深さWにおける窒素成分の濃度N(W)との比Zを、下記数式▲4▼:
【数4】
Figure 2004292915
で定義するとともに、このZの値が0.5以上0.8以下となるように上記式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせが与えられてなることを特徴とする。
【0018】
窒化処理を施す際、機械部品の素材となる鋼の組成により、窒化にて硬化される表層部の度合いは影響を受ける。そのため、上記した範囲に、表層部基準位置での硬さ、有効硬化深さをより確実に収めるためには、窒化処理にて有効に寄与する鋼の組成成分を適正化させることが効果的である。そこで、機械部品の素材である鋼におけるクロム当量Cr[eq.]を、機械部品が調質処理されてなるものの場合に0とし、該調質処理がなれていないものの場合に1と定義される定数項Aと、重量%とされる含有元素とを用いて、Cr[eq.]=0.475×C+0.164×Si+0.241×Mn+Cr+0.10×Aと定義する。このCr[eq.]は、表層部基準位置での硬さを効果的に高める組成成分の指標とされる。窒化処理を施した後の機械部品における表層部基準位置での硬さを、効果的に高める組成成分が、その効果が顕著な順にCr、C、Mn、Siであることが分かった。また、鍛造素材に対して、焼きならしや、焼き入れ・焼き戻しなどの調質処理を行なわない場合、鋼におけるフェライト相の領域が小さく、窒素成分の拡散が抑えられる。つまりは、表層部基準位置での硬さは高められることになり、定数項Aは重要な指標とされる。このような意味をなすCr[eq.]における、それぞれの係数は、詳細に測定した結果に基づく実測的な値である。
【0019】
上述したCr[eq.]は、表層部基準位置での硬さを効果的に高めるための指標となすが、このCr[eq.]と硬さ特性との関係を詳細に観測した結果、Cr[eq.]を変数とするビッカース硬さ特性H”(Cr[eq.])は、H”(Cr[eq.])=Cr[eq.]×392+65.8でよく再現できることが分かった。そこで、このH”(Cr[eq.])は、表層部基準位置でのビッカース硬さH0を用いて、H0≦H”(Cr[eq.])≦1.1×H0となるように、Cr[eq.]を調整するのが望ましい。ここで、H”(Cr[eq.])がH0未満となると、Cr[eq.]が過小となり、表層部基準位置でのビッカース硬さH0の値が効果的に高められず、ひいては部品強度の低下を招く場合がある。一方、H”(Cr[eq.])が、1.1×H0を超えると、Cr[eq.]が過大となり、表層部基準位置でのビッカース硬さH0が効果的に増大してしまうことにより、曲げ矯正性の低下を招く場合がある。このような内容より、Cr[eq.]は、H0≦H”(Cr[eq.])≦1.1×H0となるように調整されてなるのが望ましい。その結果、より効果的に機械部品を、部品強度および曲げ矯正性ともに優れたものとできる。
【0020】
さらに、窒化処理により部材表面から深さ方向xへ拡散する窒素成分の深さ方向xに対する濃度変化を表す関数N(x)を、表層部の深さ方向xへの硬さ分布の関数H’(x)の近似式として用いて、表層部の深さ方向への硬さ分布をより確実に適正化させるものとする。具体的な説明を行う。表層部基準位置(x=0.05)での窒素成分の濃度N(0.05)と、実効硬化深さWにおける窒素成分の濃度N(W)との比をZ=N(W)/N(0.05)とする。ここで、N(x)は、一般的に下記数式▲5▼:
【数5】
Figure 2004292915
により表すことができる。式▲5▼は、部材表面での時間t=0(窒化処理開始時間)におけるx>0(部材表面をx=0とし、部材表面からの深さ方向xが正)の領域の窒素成分の濃度をN1(本窒化処理においてはN1=0)とし、x=0におけるN(0)は常時一定の窒素成分濃度が部材表面に存在するとして、定数N0とされる場合における、部材表面(x=0)から深さ方向xに向けての窒素成分の拡散濃度の変化を表す式である。そこで、この式を近似的に用いて、機械部品における表層部の深さ方向の硬さ分布をより確実に適正化させる。
【0021】
窒化処理とは、部材表面から深さ方向に向けて窒素成分を拡散させ、その表層部を窒化させることにより硬化させる処理である。よって、部材表面からのある深さ位置xでの窒素成分の拡散濃度は、該深さ位置xでの窒化にて硬化される硬さの大きさに近似的に置き換えが可能である。つまり、式▲5▼におけるN(x)は、窒化処理後における部材表面からの深さ方向xに対する硬さ分布H’(x)とみなすことができる。具体的に、N1は機械部品の内層部の硬さH’1、つまり、窒化処理時における表層部の硬さを内層部の硬さとみなすことができ、N0は機械部品の部材表面での硬さを示すH’0とみなすことができる。このようにしてN(x)の式は近似的にH’(x)に置き換えることができるので、該N(x)の式は、機械部品における表層部の深さ方向への硬さ分布をより効果的に適正化させるための指標となり得る。なお、本明細書では、Z=N(W)/N(0.05)とされるN(W)とN(0.05)との比が重要とされるので、N(x)を、N(x)=(N0−N1)[1−erf(x/2√Dt)]として扱っている。つまり、N1は0として扱い、(N0−N1)を所定の差分値として扱っている。
【0022】
上記のようにして、Z=[1―erf(W/2√(pDt))]/[1―erf(0.05/2√(pDt))]とされる式▲4▼が定義される。この式▲4▼の意味するところは、窒素拡散に伴う拡散方程式を、表層部の深さ方向への硬さ分布の適正化の指標として用いた場合に、実効硬化硬化深さWと表層部基準位置とにおけるビッカース硬さの比の適正値を与えるものである。なお、式▲4▼におけるDは金属や合金中の拡散係数であり、一般的に振動数項D0、活性化エネルギーQ、1molの気体定数Rおよび摂氏温度Tにて、D=D0×exp(−Q/(R×(T+273)))と表される。本発明においては、機械部品の素材が鋼であり、含有される主成分Feの含有量は少なくとも50重量%以上とさるので、拡散定数Dを、純Fe中をNが拡散元素として拡散する場合と仮定した。具体的な数値としは、文献(改訂3版金属データブック(丸善);p21)における、α−δ−Fe中をNが拡散元素として拡散する場合の値を用い、振動数項D0=1.13×10−6、Q=83000×(1−14.03/(T+273))とし、また、Rの値は8.314とされる。
【0023】
次に、式▲5▼中にはない式▲4▼中のpは、式▲4▼にて用いる拡散係数Dを補正するための補正拡散係数である。そこで、補正拡散係数pを、p=exp(−1.47×Si−0.918×Mn+J)とした。この補正拡散係数pは、鋼に含有されるFe以外の成分元素がNの拡散に及ぼす影響を、N(x)つまりはH’(x)に取り込むためのものである。そして、このpも詳細に硬さ測定した結果に基づく実測的な値とされる。ここで注目することは、鋼に含有されるSiおよびMn、特にSiは、Nの拡散を抑制する成分元素であることである。つまり、SiおよびMnの含有量が増加するに従い、pが急峻に減衰する。よって、機械部品における表層部の深さ方向への硬さ分布を確実に適正化するためには、Siの含有量を適正化することが一つの重要な点とされる。例えば、pの範囲を0.3〜1.6の範囲となるようにSiおよびMnの含有量を調整するのがよい。また、Jは、機械部品が調質処理されてなるものの場合0.998、調質処理されていないものの場合0.172と定義する硬さ測定結果に基づく実測的な値とされる。つまり、上述のように、調質処理されていないものの場合は、Nの拡散が抑制されることになる。よって、機械部品における表層部の深さ方向への硬さ分布を確実に適正化するためには、調質処理がなされた機械部品であることが望ましいと言える。なお、pにおけるJ以外の変数SiやMnはそれぞれの含有重量%を意味する。
【0024】
上述のようにして、式▲4▼におけるZを定義するとともに、該Zの値は0.5以上0.8以下となるように式▲4▼中におけるp、t、Tとの組み合わせがなされてなるのが望ましい。ここで、tは窒化処理の処理時間を示ものであり、その値としては一般的に1.8×10〜14.4×10秒の範囲である。また、Tは窒化処理の処理温度を示すものであり、その値としては一般的に500〜650℃の範囲である。つまり、一般的な窒化処理における処理時間および処理温度の範囲内にて、適宜t、Tは選択されるとともに、Zの値が0.5以上0.8以下となるように選択することで、より確実に部品強度および曲げ矯正性が付与された機械部品とすることができる。また、Zの値を0.5以上0.8以下に適正化させる際には、先の一般的な窒化処理時間tおよび窒化処理温度Tの範囲にて、それぞれt、Tを任意に選択する場合には、上記した補正拡散係数pをZの値が0.5以上0.8以下となるように適正化させればよく、例えば、pを上記した0.3〜1.6の範囲内にて調整すればよい。このようにZの値を0.5以上0.8以下となるように、式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせを適正化させることは、一般的な窒化処理条件下において、Si含有量、Mn含有量といった機械部品の素材の鋼の組成に関する要件を適正化したことを意味する。ここで、Zの範囲の限定理由であるが、Zが0.5未満となるような、式▲4▼中のp、t、Tの組合わせを選択した場合、ある荷重に対する応力に起因した表層部、特に切削部における変位を効果的に抑制できず、ひいては、部品強度をより有為に確保できない場合がある。つまり、有効硬化深さEを確実に実効硬化深さW以上とできない場合がある。一方、Zが0.8を超えると、表層部の硬さが過度に高めまることにより、曲げ矯正性を有為に確保できない場合がある。このような内容より、Zの値を0.5以上0.8以下となるようにp、t、Tの組み合わせがなされたものとするのが望ましい。その結果、より確実に優れた部品強度および曲げ矯正性をともに機械部品に付与することができる訳である。
【0025】
上記したZについて模式図を用いて説明する。図3は、上述した応力分布σxをHxとみなすことにより定義するWを模式的に示す図(上図)と、上述した拡散方程式N(x)をH’(x)とみなした場合のWの位置での硬さの変化を模式的に示す図(下図)とを併せて示している。図3上図に示すようにWは定義されるが、H’(x)におけるWの深さ位置での硬さは、補正拡散係数p、窒化処理時間tや窒化処理温度Tにより種々な値を示す。ここで、H’(W)2は、H’w2となり、Zの値が0.5未満となる場合、H’(W)1は、H’w1となり、Zの値が0.5以上となる場合を模式的に示している。このように、H’(x)2は、xの増加に伴い急峻に減少する形とされる。つまり、H’(x)2のような関数となるように、p、t、Tの組み合わせを選択した場合、機械部品の表層部の深さ方向への硬さ分布は、部材表面近傍のみの硬さが過大となりやすいことを示している。よって、Wの深さ位置でのH’(W)を適正化させる、つまり、Zの値を適正化させることで、表層部における部品強度および曲げ矯正性をともにより確実に優れたものとできる訳である。
【0026】
次に本発明の機械部品においては、重量%で、Feの含有率が90%以上とされるとともに、それぞれ、C:0.35〜0.5%、Si:0.01〜0.3%、Mn:0.8〜1.8%、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:0.01〜0.5%、Al:0.001〜0.01%、N:0.005〜0.025%とされる成分元素が含有されてなることを特徴とする。
【0027】
本発明の機械部品は、素材を鋼とするものである。そのため、上記したようにFeを主成分とするが、具体的には、該Feの含有率は、重量%で90%以上とされる。そこで、Fe以外の成分元素であるが、まず、Cが重量%で、0.35〜0.5%含有される。Cは、機械部品の内層部および表層部基準位置での硬さを効果的に高めるための有効なものであり、0.35%以上含有させることで、その効果を顕著なものとすることができる。一方、その含有率が0.5%を超えると、その効果が過度になりすぎ、機械部品の表層部の硬さを所望のものとできない場合がある。また、機械部品の所望の形状に、例えば、鋼よりなる鍛造素材などを機械加工する際の被削性の低下を招く場合がある。続いて、Siが重量%で、0.01〜0.3%含有される。Siは、鋼を溶製する際に脱酸元素として用いるために、その含有量は、少なくとも0.01%以上必要とされる。しかしながら、上述のごとく、Siは、窒化処理においてNの拡散を抑制する成分元素である。そのため、機械部品に所望の硬さプロファイルを確実に付与させるには、その含有率を0.3%以下とするのが本発明においては好適である。次に、Mnが重量%で、0.8〜1.8%含有される。Mnは、機械部品の内層部および表層部基準位置での硬さを効果的に高めるための有効なものであり、0.8%以上含有させることで、その効果を顕著なものとすることができる。一方、その含有率が1.8%を超えると、窒化処理前における熱間鍛造や焼きならしといった作業時にベイナイトが発生する場合があり、被削性の低下を招く場合ある。また、MnもSiほどではないが、窒化処理においてNの拡散を抑制する成分元素である。そのような意味でも、Mnの含有量は、1.8%以下とするのが望ましい。
【0028】
さらに、Cu、Niともに、重量%で、0.01〜0.5%含有される。Cu、Niともに不可避的な不純物として、0.01%以上含有されるものであるが、両元素ともに、機械部品の内層部の硬さを効果的に高める有効なものである。しかしながら、経済的な観点より、その含有量が0.5%を超えると不経済となるとともに、被削性の低下を招くので、それら含有量は0.5%以下とされる。次に、Crが重量%で、0.01〜0.5%含有される。Crは、機械部品の内層部および表層部基準位置での硬さを効果的に高める有効なものである。そこで、その含有率を0.01%以上とすることで、その効果を顕著なものとすることができる。一方、その含有率が0.5%を超えると、その効果が過度になりすぎ、機械部品の表層部の硬さを所望のものとできない場合があり、被削性の低下にも繋がる。次に、Alが0.001〜0.01%含有される。Alは、Siと同様に鋼を溶製する際に脱酸元素として用いるために、その含有量は、少なくと0.001%以上必要とされる。しかしながら、Alは、機械部品の表面基準位置での硬さを過度に高める場合があるので、その含有量は、0.01%以下とするのが望ましい。次に、Nが重量%で、0.005〜0.025%含有される。Nは、Alと窒化物を形成し、熱間鍛造時などにおける鋼成分の結晶粒成長を効果的に抑制するものである。よって、その含有量を0.005%以上含有させることがよいが、0.025%を超えるとその効果が飽和するので、0.025%を上限値とすれば十分である。
【0029】
次に、本発明の機械部品は、重量%で、それぞれ、Pb:0.01〜0.30%、S:0.02〜0.20%、Ca:0.0005〜0.01%、Bi:0.01〜0.20%とされる成分元素のうち1種または2種以上が含有されてなることを特徴とする。
【0030】
上記Pb、S、Ca、Biは、鋼よりなる鍛造素材などを機械部品の所望の形状に機械加工する際の被削性を高めるのに有効な成分元素である。該被削性が確保できないと、機械加工時に加工歪みなどが過度に部材表面に発生し、ひいては、機械部品に所望の曲げ矯正性を確実に付与できない場合があるからである。そこで、Pb、S、Ca、Biのそれぞれの含有量であるが、それぞれの下限値未満では、十分に被削性を高めることができない場合があり、一方、それぞれの上限値を超えると、熱間加工性や、機械部品の疲れ特性といった部品強度を低下させる場合があり、被削性向上の効果も飽和するので、それぞれ重量%で、Pbは0.01〜0.30%、Sは0.02〜0.20%、Caは0.0005〜0.01%、Biは0.01〜0.20%とするのが望ましい。
【0031】
ここまでに、部品強度および曲げ矯正性をともに付与させるための本発明の機械部品に関する要件を述べてきた。本発明が対象とする機械部品としては、丸棒形状であり鋼を素材とするものであるとともに、切削部の表面にて最大応力が定義されるものであれば、特に限定されるものではなく、歯車、軸受、シャフト、クランクシャフト、コネクティングロッドなどの公知の機械部品に適用可能である。その中でも、限定するならクランクシャフトである。クランクシャフトは、高速回転にて使用されるものであり、その偏芯を曲げ矯正処理により、確実に制御することが必要とされる機械部品であるからである。そのため、部品強度とともにその曲がり矯正性をともに優れたものとすることが可能とされる本発明の機械部品に適用した際、その有用性を高いものとすることができる。
【0032】
次に、本発明の機械部品の製造方法は、
鋼を素材とした丸棒の形状とされ、該丸棒には機械加工による切削にて部品形状に応じた切削部を形成するとともに、窒化処理にて表面硬化処理を施す機械部品の製造方法であって、
前記表面硬化処理は、
前記機械部品に要求される必要疲労強度σに応じて、該機械部品の部材表面からの深さが0.05mmに対応する基準位置での表層部のビッカース硬さH0が、前記必要疲労強度σを変数とした下記数式▲1▼:
【数1】
Figure 2004292915
で定義される疲労強度に対するビッカース硬さ特性の関数H’(σ)を用いたとき、
H’(σ)≦H0≦1.1×H’(σ)
の範囲に収まるように処理するとともに、
前記基準位置での表層部のビッカース硬さH0と、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部のビッカース硬さH1との平均値(H0+H1)/2を、部材断面の深さ方向に対する平均ビッカース硬さHaとしたとき、該平均ビッカース硬さHaとなる前記表層部に属する有効硬化深さ層部における部材表面からの深さEが、
前記切削部に基づき定義される前記機械部品における応力集中係数αと、該応力集中係数αに係わる最大応力σmaxが定義される部材表面での位置に対応する前記機械部品における部材半径rと、前記平均ビッカース硬さHaを前記表層部のビッカース硬さH0で割った値Ha/H0を硬さ規格化定数taとした該硬さ規格化定数taと、を変数とした下記数式▲2▼:
【数2】
Figure 2004292915
で定義される部材表面からの実効硬化深さWを用いて、
W≦E≦1.1×W
の範囲に収まるように処理することを特徴とする。
【0033】
上記本発明の機械部品の製造方法は、上述した本発明の機械部品を製造するための製造方法とされる。よって、重複する要件については詳細な説明を省略する。そこで、本発明の製造方法であるが、図4の模式図に示すように、機械部品の形状に対応する切削部を機械加工による切削にて形成した鋼からなる丸棒の鍛造素材に対して、窒化処理にて表面硬化処理を施すものとされる。そして、この表面硬化処理に該当する窒化処理に係わるものとされる。該窒化処理は、表層部基準位置のビッカース硬さH0および、有効硬化深さEを適正化させるように処理するものとする。具体的には、表層部基準位置のビッカース硬さH0は、機械部品に予め設定されてなる必要疲労強度σを変数とした式▲1▼で定義される関数H’(σ)を用いて、H’(σ)以上1.1×H’(σ)以下となるように調整される。ここで、必要疲労強度σの値は特に限定されないが、σの一般的な範囲としては600〜900MPa程度とされるものである。次に、有効硬化深さEは、最大応力規定半径r、硬さ規格化定数ta、応力集中係数αの三者の変数にて一意的に決まる式▲2▼にて定義される実効硬化深さWを用いて、W以上1.1×W以下となるように調整される。ここで、Wは、切削部における最大応力σmaxが定義される断面での深さ方向に対する応力分布の計算を行うことにより求めることができる。また、この計算上においては変数r、taおよびαは、機械部品の形状および素材により一意的に決まるものであり、変数taの具体的な値については、窒化処理前の機械部品のビッカース硬さつまりは内層部のビッカース硬さと、表層部基準位置のビッカース硬さにて一意的に決まるものである。ここで、内層部のビッカース硬さは特に限定されないが、一般的な鍛造素材もしくは該鍛造素材に調質処理したもののビッカース硬さの範囲である150〜300HVとされる。
【0034】
上記のように、表層部基準位置の硬さ、および有効硬化深さを規定し、機械部品の部材表面からの深さ方向への硬さ分布を適正化することで、機械部品を、部品強度および曲げ矯正性がともに優れたものとすることが可能となる。
機械部品は、適用分野により、その素材となる鋼の組成は種々のものが採用される。そこで、製造方法上においては、該素材となる鋼の組成に適宜対応する形で、窒化処理における、部材表面への窒素成分の時間あたりの流入量、処理温度、処理時間などを調整することにより、表層部基準位置の硬さ、および有効硬化深さを上記範囲に収めることができるとともに、機械部品を部品強度および曲げ矯正性がともに優れたものとすることが可能となる。
【0035】
次に、本発明の製造方法においても、特には、Cr[eq.]=0.475×C+0.164×Si+0.241×Mn+Cr+0.10×Aとされるクロム当量Cr[eq.]を変数とした数式▲3▼にて定義されるH”(Cr[eq.])が、表層部基準位置でのビッカース硬さH0を用いて、H0以上1.1×H0以下となるように、クロム当量Cr[eq.]を構成する各成分の組成を調整することが望ましい。また、式▲4▼にて定義されるZの値が0.5以上0.8以下となるような式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせにて窒化処理を行なうことが望ましい。ここで、Zの値を0.5以上0.8以下とするような式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせにおいては、例えば、pは任意なものとして、窒化処理におけるそれぞれ処理時間tおよび処理温度Tを、それぞれ一般的な範囲である1.8×10〜14.4×10秒および500〜650℃の範囲内にて、適宜t、Tの組み合わせを選択してもよいし、先の一般的な窒化処理時間tおよび窒化処理温度Tの範囲にて、それぞれt、Tを任意に選択する場合には、上記した補正拡散係数pをZの値が0.5以上0.8以下なるように適正化させればよく、例えば、pを上記した0.3〜1.6の範囲内にて調整すればよい。
【0036】
上記のように、クロム当量Cr[eq.]および式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせを適正化することで、より確実に優れた部品強度および曲げ矯正性をともに機械部品に付与することができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の機械部品に係わる一実施形態を図面を併用して説明する。
図1(a)は、機械部品の一実施形態であるクランクシャフトの一要部のフィレット部を示す概略断面図である。また、図1(b)は、図1(a)におけるフィレット部の図面A−B線上にて断面をとった場合の概略断面図である。また、ここでは図面上、フィレット部1を機械部品1とする。フィレット部も含めて、構成部を個別に製造した後、それらを組み付けることによりクランクシャフトは形成されるので、フィレット部を本発明の機械部品と見なしても本発明の趣旨から外れることはない。そこで、該フィレット部1であるが、鋼を素材とするとともに、窒化処理が施されたものとされる。また、フィレット部1は丸棒の形状からなるとともに、機械加工による切削が施された切削部5を有する。ここで、フィレット部1における必要疲労強度σは、800MPa程度のものとされる。このように機械部品には、予め必要疲労強度σが設定されてなり、一般的に600〜900MPaの範囲内とされる。そして、図1(b)に示すように、窒化処理による窒化にて表面の硬さが高められた表層部2と、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部3とからなる。この表層部2は、部材表面4から内層部3への深さ方向に対して、硬さが減衰する形とされる。このように、フィレット部1は窒化処理による表面硬化処理が施されてなる。そして、表層部2における表層部基準位置のビッカース硬さH0は、上記した数式▲1▼にて定義されるH’(σ)を用いて、H’(σ)以上1.1×H’(σ)以下の範囲に収まるものとされる。さらに、上述した有効硬化深さEは、上記した数式▲2▼にて定義される実効硬化深さEを用いて、W以上1.1×W以下の範囲に収まるものとされる。このように、表層部2における部材表面4から深さ方向への硬さ分布を調整することで、機械部品1を、切削部5の表面に集中する応力に起因した変位を効果的に抑制する形にて、つまりは、切削部5の表面硬さを考慮した形にて、耐摩耗性や疲れ特性といった部品強度に優れたものとすることができるとともに、窒化処理後に行う曲げ矯正処理時における曲げ矯正性を優れたものとすることができる。
【0038】
上記のように機械部品に対して、優れた部品強度および曲げ矯正性をともに付与することで、曲げ矯正処理時において微少亀裂などの発生を効果的に抑制することが可能となるとともに、部品強度に優れた良好な機械部品とすることができる。
【0039】
次に、図1に示すフィレット部も含めて、本発明の機械部品の製造方法の一例を説明する。まず、機械部品の素材とされる鋼の組成となるように、所定の組成に調整した鋼を溶製し、熱間鍛造にて鍛造素材とする。そして、この鋼からなる鍛造素材を、焼きならしや、焼き入れ・焼き戻しなどの熱処理にて調質した後、所望の機械部品の形状に合わせて機械加工を行う。この機械加工にて切削部が形成されることになる。この機械加工の後に、窒化処理による表面硬化処理を行い、部品強度の向上を図る。次に、該窒化処理にて発生した歪みに起因する曲がりもふくめて、所望の許容範囲に曲がりを矯正するために、曲がり矯正処理を行う。このような製造の流れの後に、機械部品は製品として供される。また、機械部品が2種以上の構成部よりなるとともに、それらが個別に製造されるものは、それぞれの構成部を機械部品と見なして、上述の製造の流れにて製造した後、それらを組み込むことにより所望の形状の機械部品となる。その意味で、本発明の機械部品は、歯車、軸受、シャフト、クランクシャフト、コネクティングロッドなどの公知の機械部品を対象とするが、2種以上の構成部よりなるものは、それらを個別に本発明の機械部品と見なしてもよい。
【0040】
上記の製造方法は一例であって、熱間鍛造後に行う熱処理による調質を省略した非調質なものとしてもよい。重要なことは、少なくとも窒化処理にて表面硬化処理を行うとともに、その後、曲げ矯正処理にて仕上げを行い、機械部品を製品とする製造方法であれば、本発明の製造方法として適用されうるものである。また、窒化処理としては、塩浴窒化処理やガス軟窒化処理などの公知のものを用いることができる。そして、この窒化処理の処理条件である、処理温度、処理時間、部材表面に流入させる窒素の単位時間あたりの流入量などを、適宜調整することで、表層部基準位置でのビッカース硬さH0および有効硬化深さEを上記した範囲に収めることで、機械部品における表層部の深さ方向への硬さ分布を所望のものとすることが可能となる。
【0041】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について示す。
【0042】
(実施例)
上記の数式▲1▼が一義的に決定できる関数であることを示す。図2の表に示すような種々の組成からなる鋼を溶製し、熱間鍛造にて鍛造素材とした。そして、この鍛造素材を、焼入れ・焼き戻しにて調質した後、平滑試験片(φ8mm)に機械加工した。これら平滑試験片のビッカース硬さを、ビッカース硬度計にて測定した。また、これら平滑試験片に対して、小野式回転曲げ疲れ試験機による回転曲げ疲労試験を行ない、疲労強度(MPa)を測定した。これら測定結果による測定値は図2の表に示す通りであり、フィッティング結果は図2のグラフに示す通りである。図2に示すように、疲労強度σとビッカース硬さH’とは比例関係にあり、フィッティング結果を最小二乗法にて回帰した直線は、H’(σ)=(σ―31.2)/1.579とされた。このように、数式▲1▼は一義的に決定できる関数とされる。
【0043】
次に数式▲2▼が一義的に決定できる関数であることを示す。図5にて示したような最大応力σmaxが定義される断面での深さxに対する応力分布を計算した。計算は、公知の非線形構造解析汎用プログラムMarcを用いた。計算条件は、図6に示すような断面形状の丸棒形状を対象として、切削部がVノッチ形状であり、底部がR部のものを対象とした。そして、図6にて図示するもの(図中斜線領域)を4辺形軸対象要素とし、軸方向および原点を拘束するとともに、図示する形のモーメントを曲げモーメントして付与した条件とした。また、Vノッチの深さを4mmとして、素材条件は、ヤング率を21000kgf/mm、ポアソン比を0.3とした。このような条件にて、種々のR径とされるR部に対する応力分布の計算を行った。ここで、R部の形状(R径)を変化させることにより、応力集中係数αが変化することになる。このように計算した応力分布の計算結果をもとに、応力集中係数αを求めた。そして、種々のαに対する、σx/σmaxと、x/rとの値も併せて求めた。ここで求めた、種々のαに対する、σx/σmaxとx/rとの相関関係をプロットしたグラフを図7に示す。図7に示すように、応力σxは、深さxが大きくなるほど急峻に減少し、その減少率は応力集中係数αが増大するに従い急峻に増大したものとなる。このような相関を示す、応力集中係数α、σx/σmaxおよびx/rの3者の係数であるが、図7のそれぞれのプロット点は、図中に示す曲線にて回帰させることができる。この回帰関数は、最小二乗法に基づくものであり、(x/r)1/8=2.517445−0.36671×(σx/σmax)−1.452898×α1/8とされる。この式を変形することにより、数式▲2▼が求まることは上述した通りである。つまり、図7の結果は、数式▲2▼が一義的に決定される関数であることを示している。
【0044】
上記のように、数式▲1▼および数式▲2▼が一義的に決定される関数であることを示した。次に、本発明の効果を具体的に示すために行った実験結果について説明する。表1に示す化学組成(単位:重量%)の鋼を溶製し、熱間鍛造にて、φ50mmとなる棒状の鍛造素材を形成した。そして、該鍛造素材に対して880℃で60分間加熱保持した後、室温まで放冷する焼きならし処理を施すものと、該焼きならし処理を行なわないものとを用意した。その後、該鍛造素材を用いて、それぞれ直径がφ44mm(表1における発明品1、7、10)のものと、直径がφ24mm(表1における発明品2)のものと、直径がφ10mm(表1における発明品3〜6、8、9、11、比較品1〜10)のものとなるように機械加工した。また、これら発明品および比較品には、Vノッチ形状の切削部を機械加工にて施した。該切削部の形状は、φ44mmのものについてはノッチ深さ2mmおよびノッチ底半径(R径)1.1Rとし、φ24mmのものについてはノッチ深さ1mmおよびノッチ底半径1.3Rとした。そして、φ10mmのものについては、発明品3のもののみノッチ深さ1mmおよびノッチ底半径0.6Rとし、その他はノッチ深さ1mmおよびノッチ底半径2.5Rとした。なお、当然であるが、このようなVノッチ形状の切削部におけるノッチ底に対応する位置での直径は、φ44mmのものではφ40mmとなり、φ24mmのものではφ20mmとなり、φ10mmのものではφ8mmとなる。これらノッチ底に対応する位置での直径を表1に示す。また、このような形状の発明品および比較品は図5に示したような断面形状となり、上記同様の応力分布計算を行った際に得られる応力集中係数も併せて表1に示す。また、表1には、必要疲労強度σも併せて示してある。さらに、表1の鋼組成においては、表記したもの以外の残部が実質的にFeとされる。
【0045】
【表1】
Figure 2004292915
【0046】
そして、上記のように機械加工した発明品および比較品に対して、ガス軟窒化処理による窒化処理を行なった。ここでは、窒化処理における処理温度を全てにおいて600℃とし、処理時間は表2に示すものとした。これら処理温度および処理時間は、一般的な範囲内とされる。このように作製した発明品1〜11および比較品1〜10の試験品に対して以下に示す測定を行なった。
【0047】
(断面硬度) 試験品の部材表面から深さ方向に対して内層部に至る形で、ビッカース硬度計により深さ0.05mm刻みで、荷重2.9kN、時間15秒の条件で、試験品の断面硬度を測定した。但し、部材表面のまさに表面は測定できないので、ここでは、部材表面から0.05mmの位置でのビッカース硬さ、つまり、表層部基準位置でのビッカース硬さを、表面硬さを測定したこととする。
(疲労強度) 試験品に対して、小野式回転曲げ疲れ試験機により回転曲げ疲労試験を行い、その疲労強度(MPa)を測定した。そして、この疲労試験にて得られた疲労強度と応力集中係数との積が、切削部において実際に有する疲労強度となる。そこで、回転曲げ疲労試験にて得られる疲労強度と応力集中係数との積を、ここでは疲労強度と呼ぶ。
(曲げ矯正性) 試験品に対して、万能材料試験器により4点曲げ試験を行ない、R部にクラックが発生した際の歪みゲージの歪み値を測定することで、曲げ矯正性の指標とした。但し、この歪み値は、用いた歪みゲージがどの程度歪んだかの割合(%)を示すものとされ、該歪み値(%)を、クラック発生歪みとした。
上記のような測定を行なうことで得た、表面硬さ(部材表面から深さ0.05mmの位置での硬さ)、内部硬さ(略一定硬さを示す内層部の硬さ)、これら表面硬さH0と内部硬さH1との平均値(H0+H1)/2の硬さを示す有効硬化深さE、および、疲れ特性の指標の疲労強度、曲げ矯正性の指標のクラック発生ひずみを表2に示す。なお、ここで、行なったそれぞれ断面硬度測定、疲労強度測定、曲げ矯正性測定は、同様の条件にて作製したそれぞれ個別の試験品を用いて行なったものである。
また、試験品を作製する際の機械加工などにおける被削性の評価を行なった。この被削性の評価は、次のように行なった。まず、上記同様に表1に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間鍛造にて作製したφ50mmとなる棒状の鍛造素材を作製した。そして、表2に示す焼きならし行うか否かと同様の条件にて、焼きならしを行う条件のものには、作製した鍛造素材に対して880℃で60分間加熱保持した後、室温まで放冷する焼きならし処理を施した。そして、これら鍛造素材に対して、超硬工具を用いた切削試験を行なうことで、被削性の評価とした。切削試験は、切削速度300m/分、送り速度0.2mm/回転、切削幅2mmで、超硬工具の横逃げ面の磨耗幅が0.2mmになるまでの切削時間を測定するものとした。また、ここで測定した実施品1に対応する鍛造素材の切削時間を100として、この値にて他の試験品に対応する鍛造素材の切削時間を規格化したものを表2に、切削性を表す工具寿命比として示す。
【0048】
また、本試験品における製造条件や測定結果を基に求めた、数式▲1▼のH’(σ)、数式▲2▼のW、数式▲3▼のH”(Cr[eq.])および数式▲4▼のZの値も表2に示してある。
【0049】
【表2】
Figure 2004292915
【0050】
表2より、発明品は、表面硬さがH’(σ)以上1.1×H’(σ)以下であり、硬化深さEがW以上1.1×W以下の範囲とされる。その結果、疲労強度およびクラック発生ひずみともに優れたものとなっていることが分かる。比較品1〜6のものは、クラック発生ひずみは優れている、つまり、曲げ矯正性は発明品と同程度以上に優れたものとなっているが、疲労強度が十分ではない。また、例えば、比較品7〜10は、疲労強度は発明品と同程度以上に優れたものとなっているが、曲げ矯正性が十分でない。このように、表面硬さをH’(σ)以上1.1×H’(σ)以下とし、硬化深さEをW以上1.1×W以下の範囲とすることで、疲労強度および曲げ矯正性を、切削部の形状を加味した形で優れたものとすることができる。なお、比較品のものは全て必要疲労強度σが650MPaとされ、この必要疲労強度の場合のクラック発生歪みが、少なくとも1.20%以上であることを曲げ矯正性の良否の基準としてある。また、必要疲労強度が750MPaの場合は、クラック発生歪みが、少なくとも0.90%以上であることを曲げ矯正性の良否の基準としてある。
【0051】
次に、比較品において、表面硬さや硬化深さEが本発明の範囲内に収まらない原因を考察する。まず、比較品1や3においては、焼きならしを行わず鍛造のままであるので、窒化処理による窒化の拡散が抑制されたものと考えられ、その結果、表面硬さや硬化深さEが小さいものとなった。そこで、一般的な窒化処理の処理時間や処理温度の範囲内にて確実に、表面硬さや硬化深さEを本発明の範囲内に収めるには、特に焼きならしなどの調質処理を行うものが望ましいと言える。比較品2においては、切削部の形状(ノッチ底半径)が発明品3に比べて大きく、窒化処理時間が足りないために、硬化深さEが本発明の範囲内に収まらないものとなったと考えられる。つまり、窒化処理時間を調整することで、比較品2は発明品とすることも可能である。比較品4は、C成分が低い(0.35重量%未満)ために、表面硬さを十分に高めることができず、硬化深さEも小さいものとなったと考えられる。そこで、確実に表面硬さおよび硬化深さEを本発明の範囲内に収めるには、特にC成分を調整するのが望ましい。比較品5は、Si成分が高い(0.3重量%超過)ために、窒化処理における窒素の拡散が過度に抑制され、硬化深さEが本発明の範囲内に収まらなかったと言える。そこで、確実に硬化深さEを本発明の範囲内に収めるには、特にSi成分を調整するのが望ましい。比較品6は、Mn成分が低い(0.8重量%未満)ために、表面硬さが本発明の範囲内に収まらなかったと言える。そこで、確実に表面硬さを本発明の範囲内に収めるには、特にMn成分を調整するのが望ましい。比較品7は、Cr成分が高い(0.5重量%超過)ために、表面硬さが過度に高まったと言える。そこで、確実に表面硬さを本発明の範囲内に収めるためには、特にCr成分を調整するのが望ましい。比較品8、9は、他の比較品に比べて発明品に近いものであるが、比較品8はCu成分が高い(0.5重量%超過)ために、比較品9はNi成分が高い(0.5重量%超過)ために、工具寿命比が過度に低下したものとなり、ひいては被削性の低下に伴い表面硬さが低下したものとなったと言える。つまり、特に被削性を十分に確保することが、確実に表面硬さを本発明の範囲内に収める点で望ましい。比較品10は、Al成分が高い(0.01重量%超過)ために、表面硬さが過度に高まったと言える。そこで、確実に表面硬さを本発明の範囲内に収めるためには、特にAl成分を調整するのが望ましい。
【0052】
上記比較品の結果からの知見は、表面硬さを確実に本発明の範囲内に収めるには、Cr[eq.]をなす各成分を調整することや、調質処理を行なうことが重要な点となり、硬化深さEを確実に本発明の範囲内に収めるには、Zを調整する、つまり関数Zのパラメターである補正拡散定数、窒化処理温度や処理時間を調整することが重要な点となることである。また、被削性を確保することも重要な点であり、被削性を確保するための成分としては、Pb成分、S成分、Ca成分や、Bi成分であることが工具寿命比の結果から分かる。
【0053】
上記本実施例の結果より、本発明がなす効果とともに、所期の目的が達成できることが示された。なお、本実施形態および実施例は、あくまで例示的なものであり、これらに本発明は限定されるものではなく、請求項の記載に基づく記載範囲を逸脱しない限りは、本発明に概念的に内包されるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の機械部品の一実施形態を示す概略断面図。
【図2】本実施例の結果を示す図。
【図3】本発明の効果を説明するための模式図。
【図4】本発明の形状を説明するための模式図。
【図5】本発明に係わる応力集中を説明するための模式図。
【図6】本実施例における応力分布計算にて用いた条件を説明するための模式図。
【図7】本実施例の結果を示す図。
【符号の説明】
1 機械部品
2 表層部
3 内層部
4 部材表面
5 切削部

Claims (7)

  1. 鋼を素材とし、機械加工にて部品形状に応じて切削された切削部を有する丸棒の形状からなり、かつ必要疲労強度σが600MPa以上900MPa以下の範囲にて要求されてなるとともに、窒化処理による表面硬化処理が施された機械部品であって、
    該機械部品の部材表面からの深さが0.05mmに対応する基準位置での表層部のビッカース硬さH0が、前記必要疲労強度σを変数とした下記数式▲1▼:
    Figure 2004292915
    で定義される疲労強度に対するビッカース硬さ特性の関数H’(σ)を用いたとき、
    H’(σ)≦H0≦1.1×H’(σ)
    の範囲に収まるものとされ、
    前記基準位置での表層部のビッカース硬さH0と、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部のビッカース硬さH1との平均値(H0+H1)/2を、部材断面の深さ方向に対する平均ビッカース硬さHaとしたとき、該平均ビッカース硬さHaとなる前記表層部に属する有効硬化深さ層部における部材表面からの深さEが、
    前記切削部に基づき定義される前記機械部品における応力集中係数αと、該応力集中係数αに係わる最大応力σmaxが定義される部材表面での位置に対応する前記機械部品における部材半径rと、前記平均ビッカース硬さHaを前記表層部のビッカース硬さH0で割った値Ha/H0を硬さ規格化定数taとした該硬さ規格化定数taと、を変数とした下記数式▲2▼:
    Figure 2004292915
    で定義される部材表面からの実効硬化深さWを用いて、
    W≦E≦1.1×W
    の範囲に収まるものとされることを特徴とする機械部品。
  2. 前記機械部品が調質処理されてなるものの場合に0とし、該調質処理がなされていないものの場合に1と定義される定数項Aを用いて、重量%でクロム当量Cr[eq.]を、0.475×C+0.164×Si+0.241×Mn+Cr+0.10×Aと定義したとき、該クロム当量Cr[eq.]を変数として定義される下記数式▲3▼:
    Figure 2004292915
    で定義される含有成分量に対するビッカース硬さ特性H”(Cr[eq.])は、前記基準位置での表面層部のビッカース硬さH0にて、
    H0≦H”(Cr[eq.])≦1.1×H0
    となるように前記クロム当量Cr[eq.]が調整されてなり、
    前記窒化処理により部材表面から深さ方向xへ拡散する窒素成分の深さ方向xに対する濃度変化を表す関数をN(x)としたとき、前記基準位置に対応する表層部における窒素成分の濃度N(0.05)と、前記実効硬化深さWにおける窒素成分の濃度N(W)との比Zを、下記数式▲4▼:
    Figure 2004292915
    で定義するとともに、このZの値が0.5以上0.8以下となるように上記式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせが与えられてなることを特徴とする請求項1記載の機械部品。
  3. 重量%で、Feの含有率が90%以上とされるとともに、それぞれ、C:0.35〜0.5%、Si:0.01〜0.3%、Mn:0.8〜1.8%、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:0.01〜0.5%、Al:0.001〜0.01%、N:0.005〜0.025%とされる成分元素が含有されてなることを特徴とする請求項2に記載の機械部品。
  4. 重量%で、それぞれ、Pb:0.01〜0.30%、S:0.02〜0.20%、Ca:0.0005〜0.01%、Bi:0.01〜0.20%とされる成分元素のうち1種または2種以上が含有されてなることを特徴とする請求項3記載の機械部品。
  5. 前記機械部品は、クランクシャフトとされることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の機械部品。
  6. 鋼を素材とした丸棒の形状とされ、該丸棒には機械加工による切削にて部品形状に応じた切削部を形成するとともに、窒化処理にて表面硬化処理を施す機械部品の製造方法であって、
    前記表面硬化処理は、
    前記機械部品に要求される必要疲労強度σに応じて、該機械部品の部材表面からの深さが0.05mmに対応する基準位置での表層部のビッカース硬さH0が、前記必要疲労強度σを変数とした下記数式▲1▼:
    Figure 2004292915
    で定義される疲労強度に対するビッカース硬さ特性の関数H’(σ)を用いたとき、
    H’(σ)≦H0≦1.1×H’(σ)
    の範囲に収まるように処理するとともに、
    前記基準位置での表層部のビッカース硬さH0と、窒化の影響が及んでいない略一定硬さを示す内層部のビッカース硬さH1との平均値(H0+H1)/2を、部材断面の深さ方向に対する平均ビッカース硬さHaとしたとき、該平均ビッカース硬さHaとなる前記表層部に属する有効硬化深さ層部における部材表面からの深さEが、
    前記切削部に基づき定義される前記機械部品における応力集中係数αと、該応力集中係数αに係わる最大応力σmaxが定義される部材表面での位置に対応する前記機械部品における部材半径rと、前記平均ビッカース硬さHaを前記表層部のビッカース硬さH0で割った値Ha/H0を硬さ規格化定数taとした該硬さ規格化定数taと、を変数とした下記数式▲2▼:
    Figure 2004292915
    で定義される部材表面からの実効硬化深さWを用いて、
    W≦E≦1.1×W
    の範囲に収まるように処理することを特徴とする機械部品の製造方法。
  7. 前記機械部品を調質処理されるものとする場合に0とし、該調質処理されないものとする場合に1と定義する定数項Aを用いて、重量%でクロム当量Cr[eq.]を、0.475×C+0.164×Si+0.241×Mn+Cr+0.10×Aと定義したとき、該クロム当量Cr[eq.]を変数として定義される下記数式▲3▼:
    Figure 2004292915
    で定義される含有成分量に対するビッカース硬さ特性H”(Cr[eq.])が、前記基準位置での表面層部のビッカース硬さH0にて、
    H0≦H”(Cr[eq.])≦1.1×H0
    となるように前記クロム当量Cr[eq.]を構成する各成分の組成を調整し、かつ、
    前記窒化処理により部材表面から深さ方向xへ拡散する窒素成分の深さ方向xに対する濃度変化を表す関数をN(x)としたとき、前記基準位置に対応する表層部における窒素成分の濃度N(0.05)と、前記実効硬化深さWにおける窒素成分の濃度N(W)との比Zを、下記数式▲4▼:
    Figure 2004292915
    で定義したとき、このZの値が0.5以上0.8以下となるような上記式▲4▼中のp、t、Tの組み合わせにて前記窒化処理を行うことを特徴とする請求項6記載の機械部品の製造方法。
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