JP2004283439A - 有機−無機ハイブリッド体の製法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シラノール基を有する化合物が共有結合した水溶性多糖類を主成分とするゲル基材に、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを含有する水溶液を接触させ、該ゲル基材にアパタイト類を沈着させることを含む有機−無機ハイブリッド体の製法。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シラノール基を有する多糖類を含むゲル基材とアパタイト類との新規な有機−無機ハイブリッド体、特に、人工骨、骨修復材料、骨充填材料、人工関節固定材料、顎骨再建材料および骨組織の組織工学や再生医療による構築のための基材等の生体埋植材料などの生体親和性材料として有用な有機−無機ハイブリッド体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、生体活性ガラスとしての「バイオグラス(Bioglass)」(登録商標)や結晶化ガラスA−W[「セラボーン(Cerabone)」(登録商標)A−W]等の特定のセラミックスが生体内で骨と結合することが知られている。このセラミックスと骨との結合は、生体内またはヒトの体液に近いイオン濃度を有する水溶液中で、該セラミックスの表面にヒドロキシアパタイト層を形成することに起因している。その結合メカニズムは、先ず、該セラミックスの表面に形成されたケイ酸イオンやシラノール基が水溶液中のカルシウムとリン酸イオンと反応してヒドロキシアパタイトの核を形成し、この核をベースに水溶液中の過飽和なカルシウムとリン酸イオンを取り込んで成長すると考えられる。
【0003】
当該分野においては、上記の技術に関連して、種々の知見が得られている。例えば、板状、棒状、線維状、粒状など各種の形状の金属およびセラミックスなどの基材に、液状のシリカヒドロゾル又はゲルをコーティングし、乾燥し加熱処理してシリカゲルを基材に結合させた後、ヒドロキシアパタイトに対して過飽和となる量のカルシウムとリン酸イオンとを含む水溶液(疑似体液)に浸漬することにより、基材表面にヒドロキシアパタイト層をコーティングする生体活性層のコーティング方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、アパタイト被覆材料は、人工骨、生体埋込材料、生体埋込医療機器および器具などへ利用できることも記載されているが、該基材は生体内での分解が困難で、また骨と著しく異なる強度や柔軟性を持つために生体への長期間の埋植によって様々な不具合が生じる。
【0004】
一方、アルギン酸等の多糖類を共有結合で架橋して得られる高分子ゲル(特許文献2参照)は、水膨潤性に優れ、低毒性であることから、皮膚の損傷の修復材や神経の修復材料、また骨形成材料や血管新生材料の基材として優れていることが報告されている(非特許文献1参照)。しかしながら、多糖類から得られる高分子ゲルは、柔軟性は高いが、強度が低いために、単独では荷重のかかる骨欠損部に使用することはできない。
【0005】
強度と柔軟性を備えた骨欠損部の充填材料として、ヒドロキシアパタイト微粉末とアルギン酸ナトリウム水溶液からなる自己硬化材料が報告されている(非特許文献2参照)。粉末部と練和液のいずれかまたは両方にリン酸成分、カルシウム成分、アルギン酸化合物が含有されている硬化性組成物が提案されている(特許文献3参照)。リン酸カルシウムなどのセラミック粒子が多糖ゲルに懸濁されている組織増強物質が提案されている(特許文献4参照)。リン酸三カルシウムと他のリン酸カルシウムを含むセメント粉体、アルギン酸塩類などの凝集促進剤、リン酸水素二ナトリウムの硬化加速剤からなるボーンセメントペーストが提案されている(特許文献5参照)。
【0006】
また、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性多糖類にシラン化合物を結合した化合物が加水分化によって生じるシラノール基の縮合によって硬化することが報告されている(非特許文献3および4参照)。さらに、多糖類などの親水性物質とポリシロキサンまたはシランを結合させ、シラノール性水酸基を有するものと、加水分解によってシラノール性水酸基を生成するものとを共重合して得られたポリシロキサン粒子が提案されている(特許文献6参照)。しかしながら、これらはいずれも骨と近い力学的特性を示すものではなく、また体内分解性にも優れていない。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−103829号公報
【特許文献2】
特開平8−24325公報
【特許文献3】
特開平7−289627号公報
【特許文献4】
特公表2003−507351号公報
【特許文献5】
特開2000−295号公報
【特許文献6】
特開2000−191792号公報
【0008】
【非特許文献1】
谷原正夫編・著「有機・無機ハイブリッドと組織再生材料」(株)アイピーシー、東京、2002年、第31頁〜第53頁
【非特許文献2】
J. Biomed. Mater. Res.、1995年、第29巻、第329頁〜第336頁
【非特許文献3】
Adv. Colloid. Interface Sci.、2002年、第99巻(3)、第215頁〜第228頁
【非特許文献4】
Biopolymers、2002年、第63巻(4)、第232頁〜第238頁
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、多糖類の基材に対して骨様のアパタイトが三次元的にナノスケールでハイブリッド体を形成しており、骨と同様の柔軟性と強度を合わせ持ち、生体内で分解・吸収され、生体に適用しても修復性や安全性の高い新規な有機−無機ハイブリッド体を簡便かつ効率よく製造できる方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、水溶性多糖類にシラノール基を導入した材料を、カルシウムイオンとリン酸イオンとを含む水溶液中(または疑似体液)に浸漬すると、骨様のアパタイトが材料の表面だけでなく材料の内部まで効率よく析出し、三次元的な有機−無機ハイブリッド体を形成することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、シラノール基を有する化合物が共有結合した水溶性多糖類を主成分とするゲル基材に、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを含有する水溶液を接触させ、該ゲル基材にアパタイト類を沈着させることを含む有機−無機ハイブリッド体の製法に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明による製法によれば、シラノール基を含む化合物を共有結合で結合した水溶性多糖類を、多糖類部分および/またはシラノール基を含む化合物部分で架橋してゲル化し、任意の形状に成型した後に、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを含む水溶液を接触させ、該成型ゲル体にアパタイト類(リン酸カルシウム系化合物またはリン酸カルシウム系セラミックス)を表面および内部に沈着させることにより有機−無機ハイブリッド体が製造される。
【0013】
本発明においては、前記アパタイト類としては、通常、ヒドロキシアパタイト類を使用する。
【0014】
成型ゲル体としては、シラノール基を含有する水溶性多糖類のゲル化物の一次元的、二次元的または三次元的構造体等、例えば、繊維、該繊維で構成される織布、編物、不織布、フィルム、シート、スポンジ、粉末およびビーズなどが使用される。
【0015】
本発明において用いる前記の水溶液としては、リン酸カルシウムに対して過飽和量のカルシウムとリン酸イオンを含有する水溶液、即ち、リン酸カルシウムの溶解度(約0.0025g/水100g)を越える濃度でカルシウムイオンとリン酸イオンを含有する水溶液を使用するのが有利である。カルシウムイオンとリン酸イオンの濃度は、例えば、36.5℃において、カルシウムイオン2.5mM以上(例えば、2.5〜30mM、好ましくは2.5〜20mM)およびリン酸イオン1mM以上(例えば、1〜30mM、好ましくは1〜20mM)である。
【0016】
本発明には、本発明による前記製法によって得られる有機−無機ハイブリッド体も包含される。
【0017】
本明細書において、「シラノール基」とは、下記の式(I)で表されるヒドロキシシリル基、または下記の式(II)(式中、 Rはメチル基、エチル基およびブチル基等のアルキル基を示す)で表されるアルコキシシリル基や下記の式(III)(式中、Xはフッ素原子および塩素原子等のハロゲン原子を示す)で表されるハロゲン化シリル基等のように加水分解反応で容易にヒドロキシシリル基を生じる官能基を言う。
【0018】
【化1】
【化2】
【化3】
【0019】
また、「不織布」とは、繊維が絡み合ったウェブ構造を有する不織布のみならず、ウェブ構造や抄紙構造を有する紙類も含む意味に用いる。さらに、「アパタイト類」とは、ヒドロキシアパタイトの他、ヒドロキシアパタイトを構成するOHがハロゲン元素などで置換されたアパタイト、例えば、塩化アパタイトおよびフッ化アパタイトなども含む意味に用いる。
【0020】
本発明による有機−無機ハイブリッド体は、シラノール基を含有する水溶性多糖類から成るゲル化物と、該ゲル化物に沈着したアパタイト類(リン酸カルシウム系化合物またはリン酸カルシウム系セラミックス)とで構成されている。本発明による製法においては、カルシウムイオンとリン酸イオンとを含有する水溶液に前記のゲル化物を接触させるため、アパタイト類は均質な骨様の結晶状である。また、ゲル化物の表面および/または内部にアパタイト類が沈着しハイブリッド化していることは、本発明による無機−有機ハイブリッド体の特徴である。
【0021】
シラノール基を有する化合物は、前記の式(I)で表されるヒドロキシシリル基、または前記の式(II)で表されるアルコキシシリル基や前記の式(III)で表されるハロゲン化シリル基等のように加水分解反応で容易にヒドロキシシリル基を生じる官能基を分子内に有し、かつアミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基、水酸基、ハロゲン化アルキル基、イソシアネート基、ビニル基およびメルカプト基などの水溶性多糖類と共有結合を形成し得る官能基を分子内に有する化合物を言う。例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランおよび3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
水溶性多糖類としては、分子内に水酸基、カルボキシル基およびアミノ基などの反応性基を有するいずれの水溶性多糖類を用いてもよく、このような多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、澱粉、アミロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロース等が例示される。
【0023】
シラノール基を有する化合物と水溶性多糖類とは共有結合で架橋されていることが好ましい。共有結合の形成は、シラノール基を有する化合物と水溶性多糖類の水酸基、カルボキシル基およびアミノ基などの反応性基間を直接的に結合させておこなってもよく、あるいはジアミン、ジカルボン酸またはジエポキシド等の多価架橋剤を用いる常套法により結合させておこなってもよい。
【0024】
シラノール基を含有する水溶性多糖類から成るゲル化物の生成は、水溶性多糖類の有する反応性基間をジアミン、ジカルボン酸、ジエポキシド、ジアルデヒド等の多価の架橋剤で通常の有機化学反応を用いて架橋してもよく、あるいはシラノール基を有する化合物のシラノール基間の縮合反応によって架橋してもよい。これらの架橋法は併用してもよい。また、シラノール基を有する化合物のシラノール基間の縮合反応においては、多価のシラノール基を形成する化合物を架橋剤として共存させてもよい。
【0025】
多価の架橋剤としては、エチレンジアミン、シュウ酸、コハク酸、β−アラニンおよびグルタルアルデヒド等が例示される。
【0026】
多価のシラノール基を形成する化合物としては、メチルトリクロルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランおよびジメチルジジエトキシシラン等が例示される。
【0027】
前記シラノール基を含有する水溶性多糖類から成るゲル化物は少なくとも表面および/または内部にシラノール基が存在すればよく、ゲル化物の形状や構造は特に制限されない。例えば、ゲル化物は、粉粒体や顆粒、ペレット、無定形粉粒体などの形態の他、繊維、線状または棒状体(ロッド)などの一次元的構造体、フィルム、シートや布、円板などのプレートなどの二次元的構造体、スポンジ、筒体、多角体、ブロック、ネジなどの三次元的構造体であってもよく、ゲル化物は非多孔質体であってもよく、あるいは、多孔体であってもよい。好ましいゲル化物としては、繊維、この繊維で構成された生地(織布、編物または不織布や紙類)、フィルム、シートおよびスポンジなどが例示される。
【0028】
前記ゲル化物は、シラノール基を含有する水溶性多糖類単独であってもよく、または、シラノール基を含有する水溶性多糖類を含む組成物で形成してもよく、あるいは、表面をシラノール基を含有する水溶性多糖類もしくはそれらを含む組成物で被覆することにより形成してもよい。また、繊維、布や多孔体などの多孔質基材に、シラノール基を含有する水溶性多糖類を含浸させてもよい。
【0029】
該ゲル化物中のシラノール基を含有する水溶性多糖類の含有量は1〜100重量%、好ましくは5〜100重量%、さらに好ましくは10〜100重量%である。なお、上記シラノール基を含有する水溶性多糖類の組成物で基材を被覆する場合、被覆量は、例えば、1〜50g/m2、好ましくは1〜30g/m2、さらに好ましくは1〜10g/m2である。
【0030】
ゲル化物の形態は用途に応じて選択できる。例えば、骨折部位の被覆材や骨補修材として用いる場合には、織物、編み物、不織布、フィルムおよびシートなどの二次元的構造体、スポンジなどの三次元的構造体が好ましく用いられる。顎骨の再建や人工関節の固定に用いる場合には、粒子、粉末またはこれらを生理学的に許容される液体に懸濁したペーストが好ましく用いられる。
【0031】
前記ゲル化物は、予め前処理してカルシウムイオンおよびリン酸イオンを含む水溶液に接触させてもよい。例えば、前記ゲル化物を、カルシウムイオンを含有する水溶液(前処理液)で処理すると、アパタイト類の沈着速度及び密着力を向上できる。カルシウムイオンを含む前処理液は、通常、カルシウムイオンを0.1M以上(例えば、0.1〜10M、好ましくは0.5〜7.5M、さらに好ましくは1〜5M)の濃度で含んでいる。なお、ゲル化物の前処理は、浸漬、含浸および塗布などの慣用の方法で行うことができる。
【0032】
本発明では、前記ゲル化物をカルシウムイオンおよびリン酸イオンを含む水溶液(又は疑似体液)を接触させることによりアパタイト類をゲル化物に対して沈着させる。
【0033】
カルシウムイオンは、種々のカルシウム化合物を用いることにより水溶液に導入できる。カルシウム化合物としては、例えば、ハロゲン化カルシウム(塩化カルシウムなど)、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、無機酸塩(硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウムなど)および有機酸塩(酢酸カルシウムなど)などが例示できる。これらのカルシウム化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
リン酸イオンも、種々のリン酸成分を用いることにより水溶液に導入できる。例えば、オルトリン酸又はその塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのリン酸アルカリ金属塩、リン酸アンモニウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウムなどのリン酸水素アルカリ金属塩、リン酸水素アンモニウムおよびリン酸水素カルシウムなど)などが例示できる。これらの化合物も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
前記水溶液において、カルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度はアパタイト類の沈着効率が低下しない限り特に制限されないが、本発明ではカルシウムイオンおよびリン酸イオンの濃度が低くてもアパタイト類を効率よく沈着できる。前記水溶液は、リン酸カルシウムに対して過飽和量のカルシウムイオンおよびリン酸イオンを含むことが好ましい。すなわち、リン酸カルシウムの溶解度を越える濃度でカルシウムイオンおよびリン酸イオンを含むことが好ましい。なお、水溶液ではリン酸カルシウムが析出しないことが好ましいが、水相が過飽和である限り、リン酸カルシウムが析出していてもよい。
【0036】
例えば、温度36.5℃において、前記水溶液中のカルシウムイオン濃度は、2〜50mM程度の範囲から選択でき、通常、2.5mM以上(2.5〜30mM、好ましくは2.5〜20mM、特に3〜10mM)であり、リン酸イオンの濃度は、0.5〜50mM/L程度の範囲から選択でき、通常、1mM以上(1〜30mM、好ましくは1〜20mM、特に1.2〜10mM)である。
【0037】
なお、水溶液は、他のイオン種、例えば、金属イオン[アルカリ金属イオン(ナトリウム、カリウムイオンなど)、アルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオンなど)、チタンイオン、ジルコニウムイオン、コバルトイオン、ケイ素イオンなど]、ハロゲンイオン(臭素アニオン、塩素アニオン、フッ素アニオンなど)、炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび硫酸イオンなどを含んでいてもよい。これらのイオン種は、リン酸カルシウム系化合物の組成や結晶構造に対応させて、単独で又は二種以上組み合わせて選択可能である。
【0038】
カルシウムイオンおよびリン酸イオンを含む水溶液のpHは、緩衝剤により調整してもよい。緩衝剤としては、トリス(Tris)[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]緩衝剤、リン酸系緩衝剤、ホウ酸系緩衝剤、炭酸系緩衝剤、クエン酸系緩衝剤および酢酸系緩衝剤などが利用できる。水溶液のpHは、通常、6〜8程度である。
【0039】
代表的な水溶液としては、以下の組成を有する溶液が例示される:
(1)Na+ 142mM、K+ 5mM、Ca2+ 2.5mM、Mg2+1.5mM、C1− 148.8mM、HCO3 − 4.2mM、HPO4 2− 1mM、SO4 2− 0.5mMを含み、トリス緩衝剤でpHを7.25〜7.4に調整した水溶液、
(2)Na+ 213mM、K+ 7.5mM、Ca2+ 3.8mM、Mg2+ 2.3mM、Cl− 223.3mM、HCO3 − 6.3mM、HPO4 2− 1.5mM、SO4 2− 0.75mMを含み、トリス緩衝剤でpHを7.25〜7.4に調整した水溶液。
【0040】
前記のゲル化物と水溶液とを接触させる方法は、ゲル化物の表面および/または内部にアパタイト類(リン酸カルシウム系化合物)を沈着できる方法であればよく、噴霧法、含浸法および塗布法などであってもよいが、水溶液中へ浸漬する方法が簡便である。ゲル化物と水溶液との接触温度(例えば、浸漬温度)は、被覆するアパタイト類(リン酸カルシウム系化合物)に応じて、10〜100℃の範囲から適宜選択でき、通常、10〜60℃、好ましくは20〜50℃、さらに好ましくは30〜45℃(例えば、35〜39℃)である。接触時間(例えば、浸漬時間)はアパタイト類の種類に応じて選択でき、通常、10日間以内(特に7日間以内)である。なお、水溶液中へゲル化物を浸漬する場合、通常、靜置状態でアパタイトをゲル化物に沈着させるが、必要であれば、該水溶液を撹拌してもよい。
【0041】
前記アパタイト類の代表的な化合物はヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)であるが、前記アパタイト類は、リン酸カルシウム系化合物、例えば、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)およびリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)なども包含する。
【0042】
なお、必要であれば、得られた有機−無機ハイブリッド体を焼成処理に付すことによって、該ハイブリッド体中に焼結アパタイト類(焼結ヒドロキシアパタイトなど)を生成させてもよい。
【0043】
本発明による有機−無機ハイブリッド体は、そのまま目的とする用途に用いてもよいが、特に、医療用途等に用いる場合には、殺菌または滅菌処理に付してから用いることが好ましい。殺菌または滅菌処理法としては、湿熱蒸気滅菌法、ガンマ線滅菌法、エチレンオキサイドガス滅菌法、薬剤殺菌法および紫外線殺菌法等が例示されるが、湿熱蒸気滅菌法、ガンマ線滅菌法およびエチレンオキサイドガス滅菌法は、滅菌効率が高く、しかも該ハイブリッド体に与える影響が少ないので好ましい。
【0044】
本発明による有機−無機ハイブリッド体は、特に、生体親和性または生体適合性に優れているために、例えば、人工骨、人工歯根、骨修復剤、骨充填剤、顎骨再建基材および人工関節固定化材などの生体埋植材料として利用できる。
【0045】
【実施例】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0046】
実施例1
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)の製品;500cp)0.2gを超純水20mlに溶解させた溶液中へ、アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマアルドリッチジャパン社の製品)71mgと1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl;(株)ペプチド研究所の製品)374mgを添加して溶解させ、得られた溶液を室温で3日間静置することによりゲル化物を調製した。得られたゲル化物を、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムをそれぞれ2.5mMおよび143mMの濃度で含有する水溶液で十分に洗浄した後、さらに超純水を用いて数回洗浄し、次いで凍結乾燥処理に付すことによってキセロゲル状のゲル化物を調製した。
【0047】
該ゲル化物を1MのCaCl2水溶液(36.5℃)中に24時間浸漬した。次いで、該水溶液から引く上げたゲル化物の表面を超純水で洗浄した後、該ゲル化物を、トリス緩衝剤でpHを7.25に調整した水溶液であって、Na+(142mM)、K+(5mM)、Ca2+(2.5mM)、Mg2+(1.5mM)、Cl−(148.8mM)、HCO3 −(4.2mM)、HPO4 2−(1mM)およびSO4 2−(0.5mM)を含有する水溶液(36.5℃)中に7日間浸漬した。該水溶液から引き上げたゲル化物は、超純水で洗浄した後、乾燥処理に付した。乾燥後のゲル化物の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ゲル化物の表面および断面には、ヒドロキシアパタイトの結晶に特徴的な針状微結晶の集合体からなる球状の結晶が多数存在していた。
【0048】
実施例2
N−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu;(株)ペプチド研究所の製品)2.3g(20mmol)を酢酸エチル150mlに溶解させた溶液に、酢酸エチル10mlにエチレンジアミン(EDA;和光純薬工業(株)の製品)0.6g(10mmol)を溶解させた溶液を室温で撹拌しながら滴下した。滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに1時間続行した。析出した結晶を熱メタノールから再結晶させることによって、エチレンジアミン2N−ヒドロキシコハク酸イミド塩(EDA・2HOSu)を2.0g得た(収率:約70%)。
【0049】
アルギン酸ナトリウム((株)キミカの製品;グレード:I−1M; M/G比:2.4;89mPa)0.2gを超純水20mlに溶解させた溶液中へ、EDA・2HOSu43.7mg、アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマアルドリッチジャパン社の製品)71mgおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl;(株)ペプチド研究所の製品)374mgを添加して溶解させ、得られた溶液を室温で3日間静置することによってゲル化物を調製した。得られたゲル化物を、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムをそれぞれ2.5mMおよび143mMの濃度で含有する水溶液で十分に洗浄した後、さらに超純水を用いて数回洗浄し、次いで凍結乾燥処理に付すことによってキセロゲル状のゲル化物を調製した。
【0050】
該ゲル化物を、トリス緩衝剤でpHを7.25に調製した水溶液であって、Na+(213mM)、K+(7.5mM)、Ca2+(3.8mM)、Mg2+(2.3mM)、Cl−(223.3mM)、HCO3 −(6.3mM)、HPO4 2−(1.5mM)およびSO4 2−(0.75mM)を含有する水溶液(36.5℃)中へ7日間浸漬した。該水溶液から引き上げたゲル化物は、超純水で洗浄した後、風乾処理に付した。得られたゲル化物を走査型電子顕微鏡で観察したところ、該ゲル化物の表面および断面にヒドロキシアパタイトの微結晶が確認された。
【0051】
実施例3
アルギン酸ナトリウム((株)キミカの製品;グレード:I−1M; M/G比:2.4;89mPa)0.2gを超純水20mlに溶解させた溶液中へ、アミノプロピルトリエトキシシラン(シグマアルドリッチジャパン社の製品)71mgと1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl;(株)ペプチド研究所の製品)374mgを添加して溶解させ、得られた溶液を室温で3日間静置することによってゲル化物を調製した。
得られたゲル化物を、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムをそれぞれ2.5mMおよび143mMの濃度で含有する水溶液で十分に洗浄した後、さらに超純水を用いて数回洗浄し、次いで凍結乾燥処理に付すことによってキセロゲル状のゲル化物を調製した。
【0052】
該ゲル化物を1MのCaCl2水溶液(36.5℃)中に24時間浸漬した。次いで、該水溶液から引く上げたゲル化物の表面を超純水で洗浄した後、該ゲル化物を、トリス緩衝剤でpHを7.25に調整した水溶液であって、Na+(213mM)、K+(7.5mM)、Ca2+(3.8mM)、Mg2+(2.3mM)、Cl−(223.3mM)、HCO3 −(6.3mM)、HPO4 2−(1.5mM)およびSO4 2−(0.75mM)を含有する水溶液(36.5℃)中に7日間浸漬した。該水溶液から引き上げたゲル化物は、超純水で洗浄した後、乾燥処理に付した。乾燥後のゲル化物の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ゲル化物の表面および断面には、ヒドロキシアパタイトの微結晶が確認された(図1参照)。
【0053】
比較例1
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)の製品;500cp)0.2gを超純水20mlに溶解させた溶液中へ、EDA・2HOSu43.7mgと1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl;(株)ペプチド研究所の製品)374mgを添加して溶解させ、得られた溶液を室温で3日間静置することによってゲル化物を調製した。得られたゲル化物を、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムをそれぞれ2.5mMおよび143mMの濃度で含有する水溶液で十分に洗浄した後、さらに超純水を用いて数回洗浄し、次いで凍結乾燥処理に付すことによってキセロゲル状のゲル化物を調製した。
【0054】
該ゲル化物を1MのCaCl2水溶液(36.5℃)中に24時間浸漬した。次いで、該水溶液から引く上げたゲル化物の表面を超純水で洗浄した後、該ゲル化物を、トリス緩衝剤でpHを7.25に調整した水溶液であって、Na+(213mM)、K+(7.5mM)、Ca2+(3.8mM)、Mg2+(2.3mM)、Cl−(223.3mM)、HCO3 −(6.3mM)、HPO4 2−(1.5mM)およびSO4 2−(0.75mM)を含有する水溶液(36.5℃)中に7日間浸漬した。該水溶液から引き上げたゲル化物は、超純水で洗浄した後、乾燥処理に付した。乾燥後のゲル化物の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、ゲル化物の表面および断面には、ヒドロキシアパタイトの結晶が全く認められなかった。
【0055】
比較例2
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)の製品;500cp)0.2gを超純水20mlに溶解させた溶液中へアミノプロピルトリエトキシシラン(シグマアルドリッチジャパン社の製品)71mgを添加して溶解させ、得られた溶液を室温で3日間静置したところ、ゲル化物は生成しなかった。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、シラノール基を含有するゲル化物に対してヒドロキシアパタイトを効率よく沈着させることができ、これによってヒドロキシアパタイトが高い密着力で三次元的に複合した有機−無機ハイブリッド体を得ることができる。この場合、過飽和濃度のカルシウムイオンとリン酸イオンを含有する水溶液を用いると、ゲル化物に対してヒドロキシアパタイトを短時間内にさらに効率よく複合化することが可能となるので、有機−無機ハイブリッド体の生産性を向上させることができる。
また、本発明によって提供される有機−無機ハイブリッド体は、生体適合性や生体活性が高いため、生体に適用しても高い修復性と安全性が保証される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3で得られたゲル化物の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
Claims (10)
- シラノール基を有する化合物が共有結合した水溶性多糖類を主成分とするゲル基材に、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを含有する水溶液を接触させ、該ゲル基材にアパタイト類を沈着させることを含む有機−無機ハイブリッド体の製法。
- アパタイト類がヒドロキシアパタイトである請求項1記載の製法。
- ゲル基材が、水溶性多糖類を共有結合で架橋して得られる基材である請求項1または2記載の製法。
- ゲル基材が、シラノール基の縮合によって架橋された基材である請求項1または2記載の製法。
- ゲル基材が、水溶性多糖類の共有結合による架橋とシラノール基の縮合による架橋によって得られる基材であるる請求項1または2記載の製法。
- 水溶性多糖類がアルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、澱粉、アミロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースから成る群から選択される1種または2種以上の多糖類である請求項1から5いずれかに記載の製法。
- 水溶液が、リン酸カルシウムに対して過飽和量のカルシウムイオンとリン酸イオンを含有する請求項1から6いずれかに記載の製法。
- 水溶液が、36.5℃において、2.5mM以上のカルシウムイオンと1mM以上のリン酸イオンを含有する水溶液である請求項1から6いずれかに記載の製法。
- 水溶液が、36.5℃において、2.5〜30mMのカルシウムイオンと1〜30mMのリン酸イオンを含有する請求項1から6いずれかに記載の製法。
- 請求項1から9いずれかに記載の製法によって得られる有機−無機ハイブリッド体。
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