JP2004276017A - 有機性廃水の処理システムおよび処理方法 - Google Patents

有機性廃水の処理システムおよび処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 活性汚泥処理法による有機性廃水の処理において、沈殿槽での有機性廃水の固液分離での分離効率を改善する。
【解決手段】 有機性廃水が導入された曝気槽に低濃度の有機系調節剤を添加することで、汚泥容量指標(SVI)、浮遊性物質(SS)濃度および全有機物(TOC)濃度が低下して、汚泥の沈降性と処理水質が改善される。
【選択図】 図3

Description

本発明は、活性汚泥処理法を用いた有機性廃水の処理方法の改善に関し、特に、曝気槽に導入された有機性廃水を処理して得られた処理液を、沈殿槽にて、円滑に固液分離ならしめる処理方法に関する。 また、本発明は、これら処理方法を実施するために用いる有機性廃水の処理システムにも関する。
水処理技術の分野において、活性汚泥処理法(活性汚泥法)は、運転管理が比較的容易で、しかも安価な設備や低い運転コストで比較的良質な処理水が得られるため、工場廃液や下水などの有機性廃水のための生物的処理法として広く利用されている。
この活性汚泥法とは、従来の形態によれば、図8を参照すると、まず、活性汚泥を保持する曝気槽101に有機性廃水Xが導入されて、曝気槽101内で有機性廃水の活性汚泥処理が行われる。 曝気槽101で活性汚泥処理して得られた処理液は、沈殿槽102に送給され、そこで活性汚泥(固形分)と上清とに固液分離される。
沈殿槽102で分離された固形分の一部は、返送汚泥として返送経路103を経て曝気槽101に戻され、一方で、上清は、処理水Yとして活性汚泥処理システム100の系外に排出される。 また、沈殿槽102で発生した余剰の固形分は、余剰汚泥として、排出経路104を通して活性汚泥処理システム100の系外に排出されるか、あるいは、好熱菌による生物処理、オゾン、アルカリ、酸などを用いた化学処理、または、ミル破砕などの物理処理を施してその可溶化作用を促した後に、返送経路103を経て、曝気槽101に返送される。
活性汚泥処理システム100でのこのような構成上、沈殿槽102での廃水の固液分離が不十分であると、沈殿槽102から排出される処理水Yに多量の汚泥が混入してしまい、河川や海洋等への放流基準を満たすことができなくなる。 この状態を放置しておくと、汚泥が活性汚泥処理システム100の系外へ流出してしまうため、環境汚染のみならず、沈殿槽102の性能維持が困難となり、ひいては曝気槽101での活性汚泥濃度の調整にも支障をきたしてしまうため、結果として、活性汚泥処理システム100全体の有機性廃水の処理能力の低下を招く場合がある。 このように、有機性廃水を処理するために活性汚泥法を採用する上で、沈殿槽102にて十分な固液分離を果たすことは、有機性廃水の処理能力を維持する上で極めて重要な技術的要素となっている。
ところで、沈殿槽での固液分離を確実ならしめるためには、上記した理由から、活性汚泥による凝集塊(フロック)の形成を促すことが必要となる。 活性汚泥には、凝集性細菌と浮遊性の非凝集性細菌が生息しており、この内、凝集性細菌はそれ自身がフロック形成に関与しており、また、非凝集性細菌は凝集性細菌が分泌する粘着性物質で相互が粘着されることによってフロック形成に関与すると言われている。 この凝集性細菌の典型として、Zooglea(ズーグレア)という名称の細菌がよく知られている。 そして、フェノールが添加された系内にて、このZoogleaが、その増殖が促進されるとの報告もある(非特許文献1参照)が、その詳細な作用機序は未だ明確になっていない。
このように、活性汚泥の凝集塊形成における細菌の関与の一端が明らかになりつつあるが、沈殿槽での固液分離が不十分となった場合に採られている対処策は、専ら薬剤処理に頼っているのが実情である。 具体的には、沈殿槽での固液分離の進行が低調になると、塩化第二鉄、硫酸バンド、有機性ポリマーなどの凝集剤を沈殿槽に投入して対処していたのである。
また、当該技術分野では、曝気槽に導入された有機性廃水を処理して得られた処理液の沈殿槽での固液分離の改善に寄与する化合物の探索が続けられていた。 かような試みの成果の一例として、フェノール類および有機酸の少なくとも一つを含む化合物を、活性汚泥処理システムの曝気槽でのその濃度が0.01ppb〜100ppbとなるように保持せしめたことを特徴とする、活性汚泥法を用いた有機性廃水の処理方法が提案されている(特許文献1参照)。 同様に、フェノール類、有機酸および木酢液の少なくとも一つを含む化合物を、曝気槽における濃度が0.01ppb〜1ppmとなるように保持すると共に、曝気槽におけるBOD-汚泥負荷を0.01〜0.25Kg/Kg MLSS・dayに保持することを特徴とする、活性汚泥法を用いた有機性廃水の処理方法も提案されている(特許文献2参照)。
Unz, R. et al., Appl. Microbio. vol.23, p.524 (1972) 特開2002−1380号公報 特開2002−113485号公報
ところが、凝集剤の添加によった方法では、汚泥の固液分離が改善されるまで継続的に実施する必要があるので相応の管理労力を必要とする上に、凝集剤の薬剤価格も高価であるなど、経済面での難点が指摘されている。 加えて、凝集剤、例えば、塩化第二鉄などでは、それを投入することで、余剰汚泥の発生量の増大を招くなど、廃棄物削減の目標に逆行するのみならず、余剰汚泥の処理費用を押し上げるなどの様々な不都合な側面が出現してくることになる。 さらに、汚泥の固液分離を改善するために投入された凝集剤の一部が、処理水と共に活性汚泥処理システムの系外へ流出して、河川や海洋などの水質悪化を引き起こすことも懸念されている。
すなわち、これまでに提案されてきた有機性廃水の処理方法のいずれもが、一般的に、沈殿槽での所望の固液分離状態を得るために長時間(60日程度)を要するなど、依然として相応の管理労力が継続して必要とされるなどの不都合が解消されずにいるのである。
本発明は、従来技術で認識されていた上掲の問題点に鑑みて発明されたものであって、その要旨とするところは、有機性廃水が導入される曝気槽、曝気槽から排出された処理液を固液分離する沈殿槽、沈殿槽から排出された汚泥の一部を曝気槽に送給するための返送経路、および有機性廃水に含まれる汚泥の沈降を促す有機系調節剤を曝気槽または有機性廃水(処理原水)に送給する貯留槽を含む、活性汚泥処理法を利用した有機性廃水の処理システムである。
また、本発明の別の態様によれば、活性汚泥処理法を用いた有機性廃水の処理方法おいて、有機性廃水が導入された曝気槽に、有機性廃水に含まれる汚泥の沈降を促す低濃度の有機系調節剤を添加する工程を含む有機性廃水の処理方法も提供される。
本発明の有機性廃水の処理システムおよび処理方法によれば、凝集剤などの化学薬品に頼らなくとも、沈殿槽に送給された廃水の固液分離処理が、容易に、しかも短期間の内に行うことができる。 すなわち、本発明者は、活性汚泥処理法のために用いられる処理システム内の曝気槽に導入された活性汚泥を、低濃度に濃度調整された有機系調節剤、例えば、フェノール類に属する芳香族化合物の存在下で馴養することによって、曝気槽での汚泥の沈降が促され、しかも処理水中の浮遊性物質(SS:suspended solid)の濃度が抑制されることを知見するに至り、本発明を完成したのである。
また、本発明の有機性廃水の処理システムおよび処理方法によると、凝集剤を投入した際に問題となっていた余剰汚泥の発生量の抑制も可能となり、その処理コストの負担軽減が図れる。 さらに、本発明の有機性廃水の処理システムおよび処理方法で用いる有機系調節剤が低濃度であるが故に、その一部が、処理水と共に活性汚泥処理システムの系外へそれが流出したとしても、河川や海洋などの水質悪化は規制値の許容範囲内に止めることも容易となる。
本発明の有機性廃水の処理システムおよび処理方法を、以下に詳細に説明する。
まず、本明細書で使用する「有機性廃水」の語は、下水、農業集落廃水、し尿などの他、食品工場、製紙工場、化学薬品工場、飲食店などの事業所から排出される廃水、廃液、廃棄物などを含んだ廃水一般を指す。
また、本明細書で使用する「活性汚泥」の語は、雑多の微生物を含有した/含有していると考えられる汚泥一般を指すものであって、特に、食品工場、製紙工場、化学薬品工場、飲食店などの事業所から排出される廃水、廃液、廃棄物などを生物学的に処理するための処理装置、下水処理装置、し尿処理装置、コンポスト化装置などに含まれる汚泥を指す。
また、本明細書で使用する「有機性調節剤」の語は、曝気槽に導入された有機性廃水に含まれる汚泥の沈降を促す作用を呈する物質を総称するものである。 そのような有機性調節剤としては、フェノール類に属する芳香族化合物が好適に利用できる。 とりわけ、これら芳香族化合物の中でも、水道法における検出対象にも指定されている、フェノール、クレゾール、ナフトール、カテコールなどの芳香族化合物がより好適に利用できるが、良好な活性汚泥処理成績を得る観点からすれば、芳香族化合物として、フェノールを使用することが望ましい。 また、前掲の芳香族化合物を利用すれば、沈殿槽の有機性調節剤の濃度管理を、通常の水道水の水質管理と同様の手法で行えるので、新たな検出手法を確立する必要もなく、この点からしても、前掲の芳香族化合物の利用は有利であるといえる。
本発明によれば、有機性廃水は、活性汚泥を用いた活性汚泥処理法によって生物学的に好気的に処理される。
本発明の活性汚泥処理システム10の構成は、図1を参照すると、ポンプPaを設置した経路aを介して曝気槽11と貯留槽14が連絡している以外は、従来の活性汚泥処理システムと同様である。 すなわち、活性汚泥処理システム10によれば、活性汚泥を保持する曝気槽11に有機性廃水Aが導入され、貯留槽14から送給された有機系調節剤の存在下で、有機性廃水の活性汚泥処理が行われる。 曝気槽11で活性汚泥処理して得られた処理液は、沈殿槽12に送給され、そこで固形分と上清とに固液分離される。 そして、沈殿槽12で分離された固形分の一部は、返送汚泥として返送経路13を経て曝気槽11に戻され、一方で、上清は、処理水Bとして活性汚泥処理システム10の系外に排出される。 また、沈殿槽12で発生した残余の固形分は、余剰汚泥として、排出経路15を通して活性汚泥処理システム10の系外に排出されるか、あるいは、他の態様として、返送経路13とは別に、沈殿槽12と曝気槽11とを連絡し、かつ可溶化槽を設置した別個の経路(図示せず)を設け、そこに余剰汚泥の少なくとも一部を導入し、当該可溶化槽で、好熱菌による生物処理、オゾン、アルカリ、酸などによる化学処理、または、ミル破砕などの物理処理を余剰汚泥に施して可溶化作用を促して得た処理汚泥を、曝気槽11に返送することもできる。
ところで、曝気槽11に供給される有機系調節剤の濃度としては、後出の実施例に記載の結果からも明らかなように、沈殿槽12での良好な汚泥沈降性を実現する観点からして、曝気槽11内でのその最終濃度を、約12.5mg/lを超え、かつ200mg/l以下の濃度に調整する。
また、沈殿槽12での汚泥沈降性の改善に加えて、沈殿槽12から排出される処理水の水質改善という双方の目的を実現する観点からすれば、曝気槽11に供給される有機系調節剤の濃度を、約15mg/l〜約200mg/l、好ましくは約25mg/l〜約100mg/lの濃度に調整する。
ところで、本明細書で使用する「最終濃度」の語は、曝気槽へ有機系調節剤を添加した後の曝気槽内での有機系調節剤の濃度、つまり、曝気槽で処理される有機性廃水に対して有機系調節剤を添加した後の有機性廃水中の有機系調節剤の濃度を指す。
このように濃度調整された有機系調節剤を、沈殿槽12での汚泥沈降性を改善し、なおかつ、沈殿槽12から排出される処理水の水質改善を図るべく、適宜の期間にわたって添加する。 有機系調節剤を曝気槽11に添加する期間は、特に限定されるものではなく、運転条件などに応じて作業管理者によって適宜決定されるものであるが、沈殿槽での汚泥沈降性や運転コストなどの点を鑑みれば、約1週間〜約4週間、好ましくは、約2週間〜約4週間の期間に設定する。
なお、有機系調節剤は、ポンプPbを設置した経路b(図1)を介して、予め有機性廃水に添加することもできる。 つまり、有機系調節剤は、経路a、bの一方または双方を介して曝気槽11に選択的に導入することができるのである。
前出の活性汚泥処理システム10(図1)の他に、凝集性細菌を馴養するための独立した培養槽をさらに具備した活性汚泥処理システムでも、同様の効果を企図することができる。
その一例として、図2に記載の活性汚泥処理システム20によれば、まず、ポンプP1を設置した経路を介して貯留槽24と培養槽25が連絡しており、貯留槽24から送給された有機系調節剤の存在下にて室内で馴養した細菌群および/またはポンプP2によって導入された有機性廃水Cと共に、好ましくは、ブロワー26で空気(酸素)を供給して、水理学的滞留時間(HRT:hydraulic retention time)が約0.5日〜約3日になるように調整しながら、培養槽25にて凝集性細菌が馴養される。
その他の構成は、活性汚泥処理システム10(図1)の構成と同様である。 すなわち、活性汚泥と共に有機性廃水Cが導入された曝気槽21にて、培養槽25にて有機系調節剤の存在下で馴養した凝集性細菌を含み、かつポンプP3によって送給された活性汚泥と共に、有機性廃水の活性汚泥処理が行われる。 曝気槽21で活性汚泥処理して得られた処理液は、沈殿槽22に送給され、そこで固形分と上清とに固液分離される。 そして、沈殿槽22で分離された固形分の一部は、返送汚泥として返送経路23を経て曝気槽21に戻され、一方で、上清は、処理水Dとして活性汚泥処理システム20の系外に排出されるのである。
また、沈殿槽22で発生した残余の固形分は、余剰汚泥として、排出経路27を通して活性汚泥処理システム20の系外に排出されるか、あるいは、他の態様として、返送経路23とは別に、沈殿槽22と曝気槽21とを連絡し、かつ可溶化槽を設置した別個の経路(図示せず)を設け、そこに余剰汚泥の少なくとも一部を導入し、当該可溶化槽で、好熱菌による生物処理、オゾン、アルカリ、酸などによる化学処理、または、ミル破砕などの物理処理を余剰汚泥に施して可溶化作用を促して得た処理汚泥を、曝気槽21に返送することもできる。
なお、凝集性細菌の活性を高める目的で、培養槽25に沈殿槽(図示せず)をさらに付加し、次いで、培養槽25で得られた培養液を曝気槽21に供給することも可能である。
以下に、本発明を、有機系調節剤としてフェノールを用いた実施例に沿って説明するが、この実施例の開示に基づいて、本発明が限定的に解釈されるべきでないことは勿論である。
有機系調節剤を利用した活性汚泥処理
図1に記載の処理システムを用いて、活性汚泥処理法を実施した。
まず、下水処理場から採取した活性汚泥を種汚泥とし、また、ペプトン(1g/l)、グルコース(1.6g/l)および酵母エキス(0.5g/l)よりなる合成廃水を原水とする条件を、約2年間にわたって維持して本実施例の活性汚泥を得た。
そして、曝気槽でのフェノールの最終濃度が50mg/lになるように、ポンプaを設置した経路aを介して貯留槽から断続的にフェノールを曝気槽に供給した。
汚泥の沈降性の変化は、活性汚泥浮遊物質が占める容積(ml/g)を示す汚泥容量指標(SVI:Sludge Volume Index)で表した。 このSVIは、数値が小さいほど汚泥の沈降性、すなわち、沈殿槽での汚泥の固液分離が良好であることを示す。
また、処理水の水質の変化は、浮遊性物質(SS)および全有機物(TOC:Total Organic Carbon)の各濃度(mg/l)によって測定した。
その結果を、図3のグラフに示した。 それによると、フェノール無添加(有機系調節剤無添加)の通常処理時の沈殿槽での汚泥の沈降は芳しくなく、沈殿槽からの汚泥の流出がしばしば認められ、その間の汚泥容量指標(SVI)は不安定で、160ml/g〜180ml/gの数値を示していた。
それに対して、フェノール添加を開始してフェノール添加処理に切り替えて(図3の黒三角で示した時点)以降は、汚泥容量指標(SVI)の低下が始まり、約2週間後に最小値を示し、その後、130ml/g周辺で推移し、また、汚泥の沈降性の方もすこぶる改善された。
また、浮遊性物質(SS)および全有機物(TOC)の各濃度も、フェノール添加処理に切り替えて以降、一様に数値の低下が認められて、この点から、汚泥の沈降性の改善のみならず、処理水質の改善も認められた。
活性汚泥内の細菌群集
実施例1に記載の活性汚泥処理の実施期間中の活性汚泥に棲息する細菌の構成変化を、経時的に解析した。
変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法による微生物群集の解析ならびにPCR法によるZoogloea ramigeraの検出を行うために、まず、実施例1にて経時的に採取した各活性汚泥に含まれる微生物の核酸(DNA)を取得した。 すなわち、微生物の核酸は、P. Chomczynsli, et al., Anal. Biochem., 162, p.156 (1987)に記載の方法の改良法に従って抽出した。
さらに、製造業者の推奨する方法に従って、抽出した核酸をRNase(株式会社ニッポンジーン)で処理することで、高純度のDNAを得た。 このようにして得られたDNAについて、16SrRNA遺伝子のV3領域に関して、PCR増幅を行った。
PCR増幅は、真性細菌の16SrRNA遺伝子に特異的なプライマーセット(PRBA338f、PRUN519r:L. Ovreas, et al., Appl. Environ, Microbiol, 63, p.3367 (1997))の組み合わせを利用した。
しかしながら、勿論のことであるが、本発明にあっては、これらDNAにおいて、16SrRNA遺伝子に由来する塩基配列を有するプライマーであれば、いずれのものでも使用可能である。
PCRは、94℃で30秒間保持する熱変性工程、58℃で30秒間保持するアニーリング工程、それに、72℃で30秒間保持する伸長工程からなるサイクルを30回繰り返して実施した。
PCR増幅して得たDNA断片を、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)に供した。
なお、ゲル支持体として、6.5%アクリルアミドゲルを用いた。 また、40〜45%の範囲の濃度勾配の変性剤(40%ホルムアミドと7M尿素の混合物を100%変性剤とした)を、DGGE用の変性剤として用いた。 そして、ポリアクリルアミドゲルに200Vの電圧を印加して、60℃で、5時間かけて、電気泳動を行った。 泳動終了後、ゲルを0.5μg/mlのエチジウムブロマイドで染色して、紫外線(302nm)を照射してDNAのバンドを検出した。
そして、電気泳動して得られた電気泳動図(図4)を詳細に検討すると、種汚泥のレーンに現れた(矢印で示した)3本のバンドは、フェノール添加後に消滅していた。 逆に、フェノール添加を境に、数本のバンドの陰影が濃くなった。
この結果から、有機性廃水および活性汚泥が導入された曝気槽に、低濃度のフェノールを添加することで、活性汚泥内に棲息する細菌の構成種に変化が及び、このことが、沈殿槽での汚泥の沈降性の改善と処理水の水質向上に寄与したものと考えられる。
活性汚泥内のZooglea細菌の検出
当該技術分野において、低濃度のフェノールが、凝集性細菌であるZoogleaの増殖を促進するものと認識されていたので、Zooglea属での主要菌種であるZooglea ramigeraに特異的なPCRプライマーを用いて、実施例1に記載の活性汚泥処理で得られた活性汚泥におけるZooglea ramigeraの存在について、以下の手順に従って確認を行った。
まず、実施例1に記載の活性汚泥処理においてフェノール添加の約2週間前に得られた活性汚泥、フェノール添加を開始して約2週間後に得られた活性汚泥、それに、下水処理場の活性汚泥の各汚泥に棲息する微生物の核酸(DNA)を、P. Chomczynsli, et al.,(前出)に記載の方法の改良法に従って抽出した。
このようにして抽出したDNAを鋳型として、Zooglea ramigeraに特異的なプライマー(Lu, F. et al., Wat. Res., 35, p.4011 (2001)を用いたPCRを実施した。
すなわち、まず、各抽出DNA 50ng、1×PCR Buffer(東洋紡)、各プライマー 0.5μM、dNTP 200μM、KOD-Plus-(東洋紡)0.5U、および1.0mM MgSO4からなる反応液を、94℃で2分間処理した。 その後、94℃で30秒間保持する熱変性工程、59℃で30秒間保持するアニーリング工程、それに、68℃で30秒間保持する伸長工程からなるサイクルを30回繰り返してPCRを実施した。 68℃で5分間の伸長反応を最後に行った後に、得られた反応物10μl を、アガロース電気泳動に供した。
そして、電気泳動を30分間行った後に、ゲルを1μg/mlのエチジウムブロマイドで染色して、紫外線(302nm)を照射して写真撮影を行って、図5に示した電気泳動図を得た。
このようにして得た電気泳動図(図5)において、レーン1には分子量マーカー(100bp Ladder、東洋紡)、レーン2にはフェノール添加前の活性汚泥から得た細菌DNA、レーン3にはフェノール添加後の活性汚泥から得た細菌DNA、レーン4には下水処理場の活性汚泥から得た細菌DNA、そして、レーン5にはネガティブコントロール(負の対照)を、それぞれ泳動している。
この電気泳動図に現れた泳動パターンから明らかなように、フェノール添加前の活性汚泥(レーン2)と下水処理場由来の活性汚泥(レーン4)にあっては、Zooglea ramigeraに特異的な約600bpのバンドが検出された。 これに対して、フェノールを添加した活性汚泥(レーン3)では、Zooglea ramigeraに特異的な約600bpのバンドは消失していたため、Zooglea ramigeraの存在は認められなかった。
この結果から、沈殿槽での汚泥の沈降性の改善と処理水の水質向上という、本発明による作用効果は、当該技術分野でのこれまでの認識に反して、活性汚泥内で集積培養されたZoogleaによるものではなく、Zooglea以外の要素、例えば、Zooglea以外の凝集性細菌などが深く関与しているものと考えられる。
有機系調節剤の濃度の検討
図1に記載の処理システムを用いて、活性汚泥処理法を実施した。
まず、下水処理場から採取した活性汚泥を種汚泥とし、また、ペプトン(1g/l)、グルコース(1.6g/l)および酵母エキス(0.5g/l)よりなる合成廃水を原水とする条件を、約2年間にわたって維持して本実施例の活性汚泥を得た。
そして、曝気槽でのフェノールの最終濃度が、0.1mg/l (100ppb)、12.5mg/l、15mg/l、25mg/l、50mg/l、100mg/l、150mg/lおよび200mg/lになるように、ポンプPaを設置した経路aを介して貯留槽から断続的にフェノールを曝気槽に供給した。 汚泥の沈降性の変化は、汚泥容量指標(SVI)で表した。 また、処理水の水質の変化は、浮遊性物質(SS)の濃度(mg/l)によって測定した。
汚泥容量指標(SVI) の変化を図6に、また、浮遊性物質(SS)の濃度変化を図7にそれぞれ示した。 なお、図6および図7において、フェノール添加を開始してフェノール添加処理に切り替えた時点を、0日目(黒三角で示した時点)としている。
図6に記載の結果によると、まず、0.1mg/lと12.5mg/lの濃度のフェノールを添加した場合には、汚泥沈降性の改善が全くまたは殆ど認められないことが明らかとなった。 また、12.5mg/lの濃度のフェノールを添加した場合での浮遊性物質(SS)の濃度変化でも、処理水質の明確な改善は認められなかった(図7)。
そこで、フェノール濃度を15mg/lに調整してみると、フェノール無添加の通常処理時の170前後のSVI値が、15mg/lの濃度へとフェノール濃度を調整して以降は徐々に低下し、約4週間後には140ml/g前後にまで至った。 また、15mg/lのフェノール濃度の場合、SS濃度も同様の変化を示した。 このように、フェノール濃度を、12.5mg/lからわずかに増大させただけで、汚泥の沈降性と処理水質の双方において改善が認められた。
次に、フェノール濃度を25mg/lにまで上げてみると、フェノール無添加の通常処理時の180前後のSVI値が、25mg/l濃度のフェノール添加処理に切り替えて以降は徐々に低下し、約2週間後には140ml/g前後にまで至った。 また、25mg/lのフェノール濃度の場合、SS濃度も同様の変化を示した。 このように、25mg/lのフェノール濃度においても、汚泥の沈降性の改善のみならず、処理水質の改善も認められたのである。
このような改善傾向は、50mg/l、100mg/lおよび150mg/lの各フェノール濃度において、より顕著に表れた。 これらの濃度条件下では、フェノール添加処理に切り替えて3日後からSVI値が低下し始めて、そして、急落した。 さらに、フェノール添加処理に切り替えて2週間後には、110ml/g前後にまでSVI値は低下して、汚泥沈降性の顕著な改善が認められた。 SS濃度も同様の変化を示した。
最後に、フェノール濃度を200mg/lにまで引き上げてみたが、この濃度では、汚泥沈降性の改善はある程度認められたものの、SS濃度はむしろ増大してしまい、処理水の水質は悪化していた。 この現象は、フェノールが、活性汚泥中に棲息する微生物に対して毒性を示し、これら微生物の活性を阻害したことが原因であると考えられた。
本実施例の結果から、曝気槽に供給するフェノール類の濃度を、約15mg/l〜約200mg/l、最も好ましくは約50mg/l〜約100mg/lの範囲に調整することで、比較的短期間の内に、沈殿槽での汚泥の沈降性の改善と処理水の水質向上という所望の効果が同時に得られることが明らかとなったのである。
このように、本発明の有機性廃水の処理システムおよび処理方法は、凝集剤などの化学薬品を使用せずに、短期間の内に効率的に沈殿槽に送給された廃水の固液分離を進行せしめる目的で好適に利用可能である。
また、本発明の有機性廃水の処理システムおよび処理方法は、活性汚泥処理法における沈殿槽での余剰汚泥の発生量を抑制し、かつ沈殿槽から排出される処理水の水質を改善するための手段としても有用である。
本発明の活性汚泥処理システムの一実施例を示す概略図である。 本発明の活性汚泥処理システムの他の実施例を示す概略図である。 本発明の処理方法に従って処理された活性汚泥の汚泥容量指標、浮遊性物質濃度および全有機物濃度の変化を示すグラフである。 本発明の処理方法に従って処理した活性汚泥内での微生物の16SrRNA遺伝子断片のDGGE電気泳動結果を示す写真である。 本発明の処理方法に従って処理した活性汚泥内でのZooglea ramigeraの16SrRNA遺伝子断片に関するDGGE電気泳動結果を示す写真である。 本発明の処理方法に従って処理された活性汚泥の汚泥容量指標の変化を示すグラフである。 本発明の処理方法に従って処理された活性汚泥の浮遊性物質濃度の変化を示すグラフである。 従来の活性汚泥処理システムの一実施例を示す概略図である。
符号の説明
10、20 …… 活性汚泥処理システム
11、21 …… 曝気槽
12、22 …… 沈殿槽
13、23 …… 返送経路
14、24 …… 貯留槽
15、27 …… 排出経路
25 …… 培養槽
26 …… ブロワー
A、C …… 有機性廃水
B、D …… 処理水

Claims (14)

  1. 活性汚泥処理法を利用した有機性廃水の処理システムであって、当該処理システムが、有機性廃水が導入される曝気槽、当該曝気槽から排出された処理液を固液分離する沈殿槽、当該沈殿槽から排出された汚泥の一部を当該曝気槽に送給するための返送経路、および有機性廃水に含まれる汚泥の沈降を促す有機系調節剤を当該曝気槽または当該有機性廃水に送給する貯留槽を含む、ことを特徴とする有機性廃水の処理システム。
  2. 前記曝気槽と前記貯留槽との間に配置され、かつ有機系調節剤の存在下で有機性廃水に含まれる汚泥の沈降を促す細菌群を培養するための培養槽をさらに含む請求項1に記載の処理システム。
  3. 前記有機系調節剤が、フェノール類に属する芳香族化合物を含む請求項1または2に記載の処理システム。
  4. 前記芳香族化合物が、フェノール、クレゾール、ナフトール、カテコール、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項3に記載の処理システム。
  5. 前記曝気槽が、Zoogloea ramigera以外の凝集性細菌を含む活性汚泥を保持している請求項1乃至4のいずれかに記載の処理システム。
  6. 前記曝気槽内での前記有機系調節剤の濃度が、12.5mg/lを超え、かつ200mg/l以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の処理システム。
  7. 前記曝気槽内での前記有機系調節剤の濃度が、15mg/l〜200mg/lである請求項1乃至5のいずれかに記載の処理システム。
  8. 活性汚泥処理法を用いた有機性廃水の処理方法おいて、有機性廃水が導入された曝気槽に、当該廃水に含まれる汚泥の沈降を促す有機系調節剤を、12.5mg/lを超え、かつ200mg/l以下の濃度で添加する工程を含む、ことを特徴とする有機性廃水の処理方法。
  9. 前記有機系調節剤が、2週間〜4週間にわたって前記曝気槽に添加される請求項8に記載の処理方法。
  10. 前記有機系調節剤が、フェノール類に属する芳香族化合物を含む請求項8または9に記載の処理方法。
  11. 前記芳香族化合物が、フェノール、クレゾール、ナフトール、カテコール、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択される請求項10に記載の処理方法。
  12. 前記曝気槽が、Zoogloea ramigera以外の凝集性細菌を含む活性汚泥を保持している請求項8乃至11のいずれかに記載の処理方法。
  13. 前記有機系調節剤が、15mg/l〜200mg/lの濃度で添加される請求項8乃至12のいずれかに記載の処理方法。
  14. 前記有機系調節剤が、25mg/l〜100mg/lの濃度で添加される請求項8乃至12のいずれかに記載の処理方法。
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