JP2004267133A - 食鳥肉の殺菌方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対し、ヒバ抽出液、台湾ヒノキ抽出液およびウエスタンレッドシダー抽出液からなる群より選ばれる一種以上の抽出液とHLBが8以上の界面活性剤とを含有してなる水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食鳥肉の殺菌方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
毎年、多くの国で食鳥肉が関係した食中毒症の発生が定期的に報告されている。その主な原因は微生物汚染である。すなわち、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌、カンピロバクター、セリウス菌、赤痢菌等の病原菌による汚染である。
【0003】
一般に、食鳥処理における微生物管理は困難である。というのは、多数の食鳥を高速処理するため微生物の拡散に好都合であること、処理中には屠体は丸のまま置かれること、比較的小さな腹部の開口から腸を破損せずに内蔵を除去することは困難であること、皮の存在により微生物の除去が困難となること、ならびに脱羽後は多数の穴が形成されること等の、その他の食肉用動物の場合とは異なる処理上の問題が存在するためである。
【0004】
食鳥肉製品の微生物汚染は食鳥の輸送や処理工程のどの段階でも発生し、食鳥の処理工程の一般的な一例を図1に示すが、空中や処理用水、氷、装置、作業員からも微生物はもたらされる(例えば、非特許文献1参照)。これらの処理工程における微生物管理は、一般には処理水の温度やpHの管理、作業環境の整備、貯蔵や輸送時の温度管理等で行われており、特に処理工程の中でも脱羽、中抜き、および冷却工程では高圧スプレーや塩素等が使用されている。具体的には、(1)冷却工程において使用する冷却水に次亜塩素酸ソーダを添加する方法、(2)冷却工程前に次亜塩素酸ソーダと有機酸の混合液を噴霧する方法、(3)冷却工程前に第三リン酸エステルと有機酸の混合液に浸漬または噴霧する方法、ならびに(4)冷却工程後に次亜塩素酸ソーダまたは類似の塩素系殺菌剤を噴霧する方法等を挙げることができる。
【0005】
しかしながら、(1)の方法は水中の菌の殺菌には効果があり交差汚染の防止には有効であるが、塩素が食鳥肉に接触すると塩素は急速に不活化するため、食鳥肉の表面に付着した菌(以下、付着菌という場合がある)の殺菌には不充分であり、食鳥肉は菌を保持したまま出荷されることになる。(2)の方法は殺菌効果は高いが、有害な塩素ガス発生の危険があり、人体や設備への悪影響が懸念される。また、冷却工程において殺菌剤が除去されることから、冷却工程以後の工程では殺菌効果を期待できない。(3)の方法ではリンによる環境汚染や食鳥肉の食味への悪影響の問題がある。また、(4)の方法は殺菌効果が高い一方、殺菌剤自身の毒性から、食鳥肉からの殺菌剤の除去が必要である。それゆえ、殺菌工程以後の工程では殺菌効果を期待できない。
【0006】
【非特許文献1】
G. C. MEAD/編、(社)日本食鳥協会/監訳、門平恒夫/訳 「食鳥の処理と肉の加工」(株)建帛社、平成8年3月15日発行
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の食鳥肉の殺菌方法は食鳥肉の製造のための食鳥の処理における特定の工程での殺菌に止まっており、いずれも冷却工程以後の工程において持続的に殺菌効果を発揮することはできない。従って、殺菌処理を行いながらも冷却工程以後の工程で再び菌の汚染・増殖を許してしまい、製品である食鳥肉の殺菌が不充分となる場合がある。それゆえ、特に冷却工程以後の工程において持続的かつ効果的に殺菌効果を発揮しうる食鳥肉の殺菌方法の開発が望まれる。また、食鳥肉の殺菌は、通常、工業規模で行われるため、経済性に優れた殺菌方法であるのが好ましい。
【0008】
本発明はかかる食鳥肉の殺菌方法を提供することを目的とするものであり、持続的かつ効果的に食鳥肉の殺菌を行うことができ、しかも経済性に優れた食鳥肉の殺菌方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、食鳥肉に対する、ヒバ等の抽出液と特定のHLBを有する界面活性剤とを含有してなる水溶液の接触処理が前記課題の解決に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕 食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対し、ヒバ抽出液、台湾ヒノキ抽出液およびウエスタンレッドシダー抽出液からなる群より選ばれる一種以上の抽出液とHLBが8以上の界面活性剤とを含有してなる水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法、
〔2〕 該界面活性剤が食品添加物として認められた界面活性剤である前記〔1〕記載の殺菌方法、
〔3〕 該水溶液が水溶性アルコールをさらに含有してなるものである前記〔1〕または〔2〕記載の殺菌方法、
〔4〕 複数の処理工程からなる食鳥処理の少なくとも一つの処理工程で、および/または少なくとも一つの連続する2つの処理工程の間で接触処理を行う、前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の殺菌方法、
〔5〕 処理工程が中抜き工程、冷却工程および包装工程からなる群より選ばれる前記〔4〕記載の殺菌方法、
〔6〕 中抜き工程と冷却工程との間で接触処理を行う前記〔5〕記載の殺菌方法、
〔7〕 冷却工程で、および/または冷却工程と包装工程の間で接触処理を行なう前記〔5〕または〔6〕記載の殺菌方法、
〔8〕 該水溶液におけるヒノキチオールの濃度が1〜50000ppmである前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の殺菌方法、
〔9〕 処理温度が0〜70℃である前記〔1〕〜〔8〕いずれか記載の殺菌方法、
〔10〕 接触処理が、塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行われる、前記〔1〕〜〔9〕いずれか記載の殺菌方法、ならびに
〔11〕 食鳥を処理して食鳥肉を製造する工程において前記〔1〕〜〔10〕いずれか記載の殺菌方法を用いる、食鳥肉の製造方法、
に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の食鳥肉の殺菌方法は、食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対しヒバ抽出液、台湾ヒノキ抽出液およびウエスタンレッドシダー抽出液からなる群より選ばれる一種以上の抽出液とHLBが8以上の界面活性剤とを含有してなる水溶液(以下、水溶液製剤という)との接触処理を行うことを1つの大きな特徴とする。本発明はかかる構成を有するので、従来の殺菌方法に比し、より持続的かつ効果的に食鳥肉の殺菌を行うことができ、しかも経済性に優れる。
【0012】
すなわち、本発明において使用する水溶液製剤は食鳥肉の殺菌に対し優れた効果を発揮するので、食鳥肉に対し該水溶液を接触(たとえば、該水溶液に食鳥肉を浸漬)させるのみで簡便に食鳥肉の殺菌を行うことができる。前記したように他の食肉動物の場合とは異なる種々の処理上の問題があり、食鳥処理における微生物管理は一般に困難であるが、水溶液製剤は優れた殺菌効果を発揮する上、後述するように当該水溶液を用いる接触処理は食鳥肉全体に渡ってさえ非常に簡便に行うことができるので、効率的に食鳥肉を殺菌することができる。かかる水溶液製剤に含まれるヒバ等の抽出液は天然に存在する成分であり、本発明において通常使用される程度の量では特に毒性は認められておらず、その安全性は高い。また、本発明において使用する界面活性剤としては、食品である食鳥肉の殺菌に使用することから、食品添加物として認められた界面活性剤等の人体にとって実質的に無毒なものが好適である。従って、本発明の水溶液製剤との接触処理後の食鳥肉は無毒もしくは極めて低毒性であり、該水溶液製剤および/またはその成分を当該接触処理後の食鳥肉から除去する必要はなく、殺菌工程以後の工程においても優れた殺菌効果が持続的に発現される。また、食鳥肉に対する水溶液製剤の接触処理が食鳥肉の色や味等を変化させることはない。しかも、従来の方法において懸念されたような人体、設備、環境等への影響もない。
【0013】
本発明に使用するヒバ等の抽出液は一般に水への溶解性が低く、均一な該抽出液の水溶液を得ることは困難であり、また、該水溶液の保存安定性も低い。本発明の水溶液製剤は、該抽出液と特定のHLBを有する界面活性剤とを組合せて水に溶解させて得られるものであり、該抽出液の水への溶解性は格段に向上する。従って、本発明の水溶液製剤は均一な濃度で非常に容易に調製することができ、また、所望の殺菌効果を得る観点から、該抽出液の高濃度化を適宜行うこともできる。さらに、殺菌効果を維持させたまま長期に渡って安定して保存することも可能である。このように、本発明の水溶液製剤の取扱い上の自由度は非常に高いので、本発明の殺菌方法は、特に工業規模での食鳥肉の製造において優れた経済効果をもたらしうる。
【0014】
本発明に用いられる抽出液は、ヒバ、台湾ヒノキ(ヒノキ科ヒノキ属タイワンヒノキ)、ウエスタンレッドシダー(ヒノキ科クロベ属ウエスタンレッドシダー)から抽出される抽出液である。これらの抽出液にはヒノキチオールが含まれていることが知られている。かかる抽出液は単独で用いても良く、複数成分を併用しても良い。抽出液はその樹木のオガクズやチップを原料とした溶剤抽出や水蒸気蒸留等の方法により得ることができる。とりわけ、ヒバの抽出液はヒバ油として市販されているため、入手が容易である。溶剤抽出法とは、エタノール、メタノール、アセトン、エーテル、その他炭化水素などの有機溶媒により樹木成分を抽出したのち、有機溶媒を除去する方法である。水蒸気蒸留法とは、オガクズやチップに水蒸気を吹き込み、水蒸気とともに樹木成分を留去し、後に水と樹木成分を分離する方法である。
【0015】
前記ヒバ油は、青森県に広く分布するヒバ(ヒノキ科アスナロ属ヒノキアスナロ)から抽出される樹木成分であり、抗菌性や防虫効果がある。一般にヒバ油は水蒸気蒸留により抽出されている。たとえば、ヒバのオガクズ約1トンから約10kgのヒバ油を得ることができる。ヒバ油には抗菌成分としてヒノキチオール、β−ドラブリンが含まれている。
【0016】
ヒバ油の成分は大きく中性油と酸性油とに分けることができる。中性油の主成分はツヨプセン、セドロール、ウィドロール、その他多くのテルペン類等から成り、害虫忌避等の効果がある。酸性油はヒバ油をアルカリ抽出することにより得られ、その主成分はカルバクロール、1−ロジン酸、ヒノキチオール、β−ドラブリン、その他トロポロン誘導体やフェノール誘導体等から成り、抗菌効果がある。特に酸性油を精製して得られるヒノキチオールは高い安全性、広い抗菌スペクトル、強い抗菌性および耐性菌を出現させない等の特徴を有しており、天然の抗菌剤として有用な化合物で、医療、化粧品、食品、農業等の分野において応用が可能である。
【0017】
さらに、酸性油からフェノールおよびカルボン酸類を除去し、蒸留精製することにより、トロポロン類を主として含む画分(トロポロン類抽出液)が得られる。また、ヒバ油を水蒸気蒸留で抽出する際、同時に留出する留出水をスチレン−ジビニルベンゼンコポリマー樹脂でヒバ油の酸性成分のみを固相抽出し、アセトン、メタノール、エタノール等の溶剤で脱着することにより、ヒノキチオールを主として含む画分(樹脂油)が得られる。
【0018】
よって、ヒバ抽出液としては、前記したヒバ油、酸性油、トロポロン類抽出液および樹脂油が好適に用いられる。なお、ヒバ油からの酸性油等の各種抽出液の詳細な調製条件等については、例えば、「木材保存」vol.2,p.18−28(1993)を参照して適宜決定することができる。
【0019】
抽出液中のヒノキチオールの含有量は特に限定されない。たとえば、抽出液に天然ヒノキチオールおよび/または合成ヒノキチオールを添加し、任意の含有量に調整してもよい。抽出液中のヒノキチオールの含有量は、添加前の抽出液に元々含まれているヒノキチオールの含有量に依存するが、ヒノキチオール含有率(天然ヒノキチオールおよび/または合成ヒノキチオールと抽出液との総量におけるヒノキチオール総量の割合)で、3〜50重量%が好ましく、4〜40重量%がより好ましく、6〜20重量%がさらに好ましい。
【0020】
このように、抽出液には天然ヒノキチオールおよび/または合成ヒノキチオールが添加される場合があるので、本明細書において水溶液製剤中のヒノキチオールの濃度をいう場合、抽出液中に元々含まれているヒノキチオールのみならず別途ヒノキチオールが添加される場合には添加された天然ヒノキチオールおよび/または合成ヒノキチオールをも含んだ濃度であり、すなわち、水溶液製剤中のヒノキチオールの濃度とは抽出液中に元々含まれているヒノキチオールと添加された天然ヒノキチオールおよび/または合成ヒノキチオールとの総量を意味することになる。
【0021】
界面活性剤としては、市販のノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を特に制限なく使用することができる。食品である食鳥肉の殺菌に使用することから人体にとって実質的に無毒なものが好ましく、食品添加物として認められた界面活性剤が好適に用いられる。当該界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0022】
好適なノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油および硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルがより好適に使用され、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノラウリン酸デカグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル等が、ソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノヤシ油脂肪酸POE(20)ソルビタン、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン、モノイソステアリン酸POE(20)ソルビタン等が挙げられる。なお、各脂肪酸エステルの重合度およびエステル化度は特に限定されるものではない。「POE」はポリオキシエチレンを表わす。
【0023】
また、本発明において界面活性剤は前記ヒバ等の抽出液の水への溶解性を向上させるために使用されることから、該抽出液を良好に乳化させうるHLB値が8以上の界面活性剤を用いる。HLB値としては10〜20が好ましく、13〜18がより好ましい。なお、界面活性剤は単独で用いても良く、複数を併用しても良い。HLB値は、戸田義郎ら著「食品用乳化剤」(株)光琳出版の「界面活性剤のHLB(p.12〜14)」の記載に従って求めることができる。
【0024】
本発明の水溶液製剤には、その保存安定性をより向上させる観点から、水溶性アルコールをさらに含有させても良い。水溶性アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
本発明の水溶液製剤の媒体としての水は特に限定されるものではなく、たとえば、水道水、蒸留水、イオン交換水等を使用することができる。当該水溶液における前記抽出液の含有量は、本発明の食鳥肉の殺菌方法の適用対象である食鳥肉の加工度、生鮮状態に依存して異なり、本発明の所望の効果が得られるよう適宜調節することができる。該抽出液は、水溶液製剤中のヒノキチオールの濃度が好ましくは1〜50000ppm、より好ましくは10〜5000ppm、さらに好ましくは25〜1000ppmとなるように、水溶液製剤中に含まれるのが好適である。本発明の水溶液製剤は、各成分を水と混合して溶解させることにより容易に調製することができる。なお、本明細書において「ppm」とは、溶液1L当たりに含まれる溶質のmg数で表した、溶液中の溶質の濃度を示す。
【0026】
好適な態様において、本発明の水溶液製剤は、抽出液0.1〜30重量%および界面活性剤0.2〜60重量%を含むのが好ましく、抽出液1〜20重量%および界面活性剤2〜40重量%を含むのがより好ましい。また、より好適な態様において、本発明の水溶液製剤は、抽出液1〜20重量%、界面活性剤2〜40重量%および水溶性アルコール2〜40重量%を含むのが好ましく、抽出液5〜10重量%、界面活性剤10〜20重量%および水溶性アルコール10〜20重量%を含むのがより好ましい。該製剤の安定性の向上および所望の効果を発揮させる観点から、かかる範囲が好ましい。なお、抽出液中のヒバ抽出液、台湾ヒノキ抽出液およびウエスタンレッドシダー抽出液の組成は任意である。
【0027】
本発明の食鳥肉の殺菌方法を適用し得る食鳥としては特に限定されるものではなく、たとえば、ニワトリ、カモ、シチメンチョウ、ウズラ、アヒル、サギドリ、ダチョウ、エミュウ等を挙げることができる。本発明の食鳥肉の殺菌方法は、食鳥肉において検出され得る、たとえば、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌(たとえば、O157大腸菌)、リステリア菌、カンピロバクター等の殺菌に有効であり、中でも、サルモネラ菌、リステリア菌、O157大腸菌の殺菌に特に有効である。
【0028】
本明細書において「食鳥肉に対し水溶液製剤との接触処理を行う」とは、たとえば、好適には水溶液製剤を食鳥肉に対し塗布、噴霧、もしくは擦り込むこと、または食鳥肉を水溶液製剤に対し浸漬すること、をいうが、食鳥肉に対し水溶液製剤を接触させ得る操作であればよく、特に限定されるものではない。なお、前記各接触の態様は単独であっても、いくつかの態様を組み合わせてもよい。すなわち、接触処理は、塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行われるのが好ましい。また、接触処理では、水溶液製剤を食鳥肉の全体に対し接触させるのが好ましい。なお、噴霧には、たとえば、水溶液製剤を食鳥肉に対しシャワーする態様、水溶液製剤のシャワーの下を食鳥肉を通過させる態様、食鳥肉に対し水溶液製剤をスプレーする態様、および食鳥肉を水溶液製剤を霧状で充満させた一定区域において一定時間維持する、もしくは当該区域を通過させる態様を含む。また、浸漬には、たとえば、食鳥肉を水溶液製剤中を維持または通過させる態様を含む。
【0029】
接触処理において用いる際の水溶液製剤のpHとしては特に制限されるものではないが、食鳥肉の優れた殺菌効果を得る観点から、酸性域〜中性域であるのが好ましい。また、処理温度としては、同様の観点から、好ましくは0〜70℃であり、より好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは0〜55℃である。
【0030】
本発明の食鳥肉の殺菌方法においては、前記接触処理は食鳥を処理して食鳥肉を製造する際に行う。好適には複数の処理工程からなる食鳥処理の少なくとも一つの処理工程で(態様A)、および/または少なくとも一つの連続する2つの処理工程の間で(態様B)、接触処理を行う。
【0031】
本発明の好適な態様において「処理工程」としては、たとえば、中抜き工程、冷却工程および包装工程からなる群より選ばれる。なお、前記各工程は食鳥肉の製造分野および当該分野に技術的関連のある分野において理解され得るものであれば特に限定はない。たとえば、中抜き工程とは内蔵の除去を、冷却工程とは食鳥肉を冷却水に浸漬して、または冷気に曝露して食鳥肉の冷却を、包装工程とは屠体を胸肉、もも肉等の部位単位に分解し包装を、それぞれ行う工程をいう。
【0032】
態様Aにおいては、たとえば、以下のようにして接触処理を行うことができる。たとえば、中抜き工程および包装工程では水溶液製剤を食鳥肉に対して噴霧することにより接触処理を行うことができる。一方、冷却工程では、当該工程で使用する冷却水を水溶液製剤とし、食鳥肉を浸漬することにより接触処理を行うことができる。
【0033】
中でも、接触処理は冷却工程時に行なうのがより好適である。冷却工程時に行う場合、たとえば、前記するように、食鳥肉を冷却水に浸漬する場合は、当該冷却水を本発明に使用する水溶液製剤とすることで容易に行うことができる。また、冷気に曝露する冷却工程の場合は、かかる状況下において、食鳥肉に対して、水溶液製剤の塗布、擦り込みおよび噴霧からなる群より選ばれる少なくとも1つを適宜行うことにより容易に行うことができる。なお、浸漬により接触処理を行う場合、水溶液製剤と食鳥肉との接触時間としては好ましくは5〜10分間、より好ましくは5〜30分間である。また、噴霧により接触処理を行う際に、たとえば、水溶液製剤のシャワーの下を食鳥肉を通過させる場合や、食鳥肉を水溶液製剤を霧状で充満させた一定区域において一定時間維持する、もしくは当該区域を通過させる場合、水溶液製剤と食鳥肉との接触時間としては好ましくは5〜10分間、より好ましくは5〜30分間である。
【0034】
態様Bにおいては、たとえば、以下のようにして接触処理を行うことができる。たとえば、中抜き工程と冷却工程との間で、または冷却工程と包装工程との間で、以下のようにして接触処理を行うのが好適である。
【0035】
中抜き工程と冷却工程との間で接触処理を行う場合、たとえば、噴霧または浸漬により接触処理を行うのが好適であり、噴霧により接触処理を行うのがより好適である。なお、かかる場合の好ましい水溶液製剤と食鳥肉との接触時間としては前記範囲と同様である。
【0036】
冷却工程と包装工程との間で接触処理を行う場合、たとえば、浸漬により接触処理を行うのが好適である。具体的には以下のような態様が例示される。
【0037】
冷却水を用いて冷却工程を行った場合、食鳥肉の表面には水膜が付着し、内蔵が除去されて空洞状となった腹腔内には大量の水が保持されているため、たとえば、任意の方法により食鳥肉に振動もしくは回転等を数10秒間程度に渡って加えることにより前水切りを行う。これにより、次に行う接触処理において、使用する水溶液製剤の希釈を防止することができるので好ましい。
【0038】
接触処理は、水溶液製剤を殺菌対象の食鳥肉の量に応じた所望の大きさを有する容器に入れ、前水切りを行った食鳥肉を当該容器に浸漬して行う。たとえば、食鳥肉1kg当たり、0℃の水溶液製剤(ヒノキチオール濃度:125ppm)3L中に好ましくは5〜10分間、より好ましくは5〜30分間浸漬する。前記容器には、水溶液製剤の食鳥肉への含浸を促進する観点から、攪拌機を備えるのが好ましい。
【0039】
なお、接触処理後、さらに後水切りとして、前記前水切りと同様の方法により食鳥肉の水切りを行って余分な水溶液製剤を回収し、回収された水溶液製剤を前記接触処理において再度使用するのが、経済性の観点から好ましい。
【0040】
以上のようにして接触処理を行った後、次いで、包装工程を行う。
【0041】
このように、本発明の食鳥肉の殺菌方法においては、中抜き工程と冷却工程との間、冷却工程、および冷却工程と包装工程の間からなる群より選ばれる少なくとも1つの時点で接触処理を行なうのが、本発明の所望の効果を得る観点より特に好適である。
【0042】
また、本発明の一態様として、食鳥を処理して食鳥肉を製造する工程において本発明の食鳥肉の殺菌方法を用いる、食鳥肉の製造方法を提供する。かかる食鳥肉の製造方法によれば、従来に比し高度に殺菌された、安全性の高い食鳥肉を効率的に生産することができる。
【0043】
本発明において使用する抽出液等の安全性は一般に高く、本発明によれば、安全に食鳥肉の殺菌を行うことができる。また、食鳥の処理に使用される設備や作業環境に対し水溶液製剤を、たとえば、噴霧することにより、間接的に食鳥肉の殺菌効果を高めることもできる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例により、さらに本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施例のみ限定されるものではない。
【0045】
製造例1
表1に示す配合に従って各成分をイオン交換水と混合して溶解させることで水溶液製剤I〜IVを得た。具体的には、抽出液をエタノールに溶解し、そこに界面活性剤を加えて80℃程度に加温し、室温まで冷却後、ヒノキチオール濃度が表1の値となるように適宜イオン交換水を加えて溶解させ、所望の水溶液製剤を得た。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノラウリン酸デカグリセリル(HLB15.5)を使用した。
【0046】
なお、ヒバ抽出液(ヒバ油)は有限会社 木村産業(青森県北津軽郡)により入手した。また、ヒバ酸性油は、上述のヒバ抽出液を、その過剰量のアルカリ(水酸化ナトリウム)で60℃にて抽出して得た。トロポロン類抽出液は、さらにヒバ酸性油からフェノールおよびカルボン酸類を5%炭酸ソーダ水溶液により除去し、蒸留精製して得た。ヒバ樹脂油は、ヒバ抽出液を水蒸気蒸留で抽出する際、同時に留出する留出水をスチレン−ジビニルベンゼンコポリマー樹脂(オルガノ株式会社製、XAD−2000)でヒバ油の酸性成分のみを固相抽出し、溶剤(アセトン)で脱着することにより得た。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1 水溶液製剤の殺菌力試験1
水溶液製剤の殺菌力を、製造例1で得られた水溶液製剤I〜IV、ならびにヒバ抽出液を原料とするヒノキチオール水溶性製剤〔商品名:アクアHT−5(ヒノキチオール 5重量%;モノラウリン酸デカグリセリル 20重量%;エタノール 18重量%;ヒノキチオール濃度 50000ppm、大阪有機化学工業株式会社製〕をそれぞれ試験液1〜5として用い、寒天平板希釈法により最小発育阻止濃度(MIC)を求めることにより評価した。試験方法は以下の通りである。
【0049】
(試験方法)
普通寒天培地用液体に各試験液を添加し、室温で固化させて、寒天培地を作製した。作製した各寒天培地に、普通ブイヨン培地中で37℃にて18時間培養して得られた試験菌株を一白金耳接種し、37℃にて3日間培養し、菌の発育状態を観察した。コロニーの発生が全く認められない場合をMICとする。使用した試験菌株と共に結果を表2に示す。なお、MICは、各寒天培地中のヒノキチオールの濃度(ppm)として示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2より、本発明の水溶液製剤の殺菌効果は、そのヒノキチオール濃度が50ppm程度で充分に発現することが分かる。
【0052】
実施例2 水溶液製剤の殺菌力試験2
前記アクアHT−5をイオン交換水で50倍および100倍にそれぞれ希釈したものを試験液として用いた。また、当該試験液は表3および表4にそれぞれ示すpHにクエン酸を用いて調整した。試験方法は以下の通りである。
【0053】
(試験方法)
普通ブイヨン培地で37℃にて18時間培養した試験菌株〔Salmonella enteritidis(IFO3313) 、Salmonella typhimurium(IFO13245)〕を滅菌水により100倍希釈した。その希釈液0.05mLを各試験液(5mL)に接種し、よく攪拌した。室温に静置し、表3および表4に示す各処理時間経過後、その0.1mLを4.5mLの生理食塩水にいれて攪拌し、すぐさまその生理食塩水中における生菌数を測定した。対照試験液として試験液の代わりに生理食塩水を用いた。生菌数の測定は衛生試験法・注解(1990)微生物試験法、(4)生菌数(p143)に従った。Salmonella enteritidisについての結果を表3に、Salmonella typhimuriumについての結果を表4に示す。なお、表において%表示した値は減菌率であり、対照試験液を用いた場合の生菌数から試験液を用いた場合の生菌数を差し引き、得られた値を対照試験液を用いた場合の生菌数で除して100を乗じて算出した。また、−は生菌数の測定を行わなかったことを示す。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
結果より、本発明の水溶液製剤は前記試験菌株に対し優れた殺菌効果を示すことが分かる。
【0057】
実施例3 病原細菌の付着したニワトリ肉に対する水溶液製剤の接触処理試験
ヒノキチオールを500ppm含むヒノキチオール水溶液(pH4.6)、ならびにヒバ抽出液(ヒノキチオール換算で500ppm)およびTO−10〔モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(HLB15.0)、日光ケミカルズ社製〕を100ppm含む水溶液製剤(pH5.8)を試験液とし、それを用いて病原細菌の付着したニワトリ肉を接触処理することにより、ヒノキチオール水溶液および水溶液製剤の殺菌効果を評価した。媒体としての水は滅菌水を用いた。試験方法は以下の通りである。
【0058】
(試験方法)
ニワトリの処理工程中のニワトリ胸肉(冷却工程後の肉)200gに対し以下に示す病原細菌の懸濁液10mLを数箇所に渡りランダムに接種し、20〜30分間に渡り室温で放置後、4℃の温度で18時間冷凍保存した。
【0059】
なお、使用した病原細菌および病原細菌懸濁液1mL当たりの生菌数は以下の通りである。細菌懸濁液には、0.5%塩化ナトリウム添加ニュートリエントブロス中で細菌を37℃にて18時間培養して得られたものを用いた。
Escherichia coli FMK1254 :1×106 /mL培地
Salmonella typhimurium (ATCC 1985007) :1×106 /mL培地
【0060】
上記の病原細菌懸濁液を接種したニワトリ胸肉を4ピースごと3群に分け、A、BおよびCとした。Aは10℃でヒノキチオール水溶液300mLに15秒間浸漬させた。Bは、同様に水溶液製剤に浸漬させた。Cは、いずれの試験液にも浸漬させず、媒体である滅菌水に同様に浸漬させた。
【0061】
浸漬後、ニワトリ胸肉を、水きりを1分間行なった後、Butterfield’s リン酸緩衝液250mLの入った滅菌ナイロンバッグに入れ、当該緩衝液中に菌を懸濁させ、A、BおよびC由来の細菌液を得た。当該細菌液をシャーレの寒天培地上に塗布し、37℃にて24時間培養した。培養後、コロニー数の測定を行い、各細菌液1mL中のコロニー数(平均値)を算出した。なお、寒天培地は慣用のものを用いた。
【0062】
以上の結果を図2および3に示す。Cはいずれの試験液とも接触処理を行っておらず、従って、細菌接種後冷凍保存した後の細菌数を示す。結果より、水溶液製剤にニワトリ胸肉を浸漬した場合(B)、ヒノキチオール水溶液の場合(A)と同様、優れた殺菌効果が得られることが明らかになり、本発明の水溶液製剤はヒノキチオール水溶液と同等の効果を有することから、本発明の水溶液製剤にニワトリ胸肉を浸漬した場合、優れた殺菌効果が得られることが分かる。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、安全かつ簡便に、しかも持続的かつ効果的に食鳥肉の殺菌を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、食鳥の処理工程の一般的な一例を示す工程図である。
【図2】図2は、Escherichia coli FMK1254の付着したニワトリ肉に対する水溶液製剤の接触処理試験の結果を示すグラフである。
【図3】図3は、Salmonella typhimuriumの付着したニワトリ肉に対する水溶液製剤の接触処理試験の結果を示すグラフである。
Claims (11)
- 食鳥を処理して食鳥肉を製造するに際して、食鳥肉に対し、ヒバ抽出液、台湾ヒノキ抽出液およびウエスタンレッドシダー抽出液からなる群より選ばれる一種以上の抽出液とHLBが8以上の界面活性剤とを含有してなる水溶液との接触処理を行う、食鳥肉の殺菌方法。
- 該界面活性剤が食品添加物として認められた界面活性剤である請求項1記載の殺菌方法。
- 該水溶液が水溶性アルコールをさらに含有してなるものである請求項1または2記載の殺菌方法。
- 複数の処理工程からなる食鳥処理の少なくとも一つの処理工程で、および/または少なくとも一つの連続する2つの処理工程の間で接触処理を行う、請求項1〜3いずれか記載の殺菌方法。
- 処理工程が中抜き工程、冷却工程および包装工程からなる群より選ばれる請求項4記載の殺菌方法。
- 中抜き工程と冷却工程との間で接触処理を行う請求項5記載の殺菌方法。
- 冷却工程で、および/または冷却工程と包装工程の間で接触処理を行なう請求項5または6記載の殺菌方法。
- 該水溶液におけるヒノキチオールの濃度が1〜50000ppmである請求項1〜7いずれか記載の殺菌方法。
- 処理温度が0〜70℃である請求項1〜8いずれか記載の殺菌方法。
- 接触処理が、塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行われる、請求項1〜9いずれか記載の殺菌方法。
- 食鳥を処理して食鳥肉を製造する工程において請求項1〜10いずれか記載の殺菌方法を用いる、食鳥肉の製造方法。
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