JP2004263735A - 複層摺動部材 - Google Patents
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Abstract
【課題】Pbを必須元素としない複層摺動部材を提供すること。
【解決手段】上記課題を解決する本発明の複層摺動部材は、鋼裏金層と多孔質焼結層と樹脂層とを有する複層摺動部材である。その鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介して多孔質焼結層が接合される。その多孔質焼結層は、Al合金からなり、樹脂層が接合されている。多孔質焼結層がAl合金からなるので、Pbを必須元素としない複層摺動部材を実現することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】上記課題を解決する本発明の複層摺動部材は、鋼裏金層と多孔質焼結層と樹脂層とを有する複層摺動部材である。その鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介して多孔質焼結層が接合される。その多孔質焼結層は、Al合金からなり、樹脂層が接合されている。多孔質焼結層がAl合金からなるので、Pbを必須元素としない複層摺動部材を実現することができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は複層摺動部材に関する。特に、自動車、船舶、建設機械、一般産業機械、OA機器等の回転摺動部や往復摺動部等に用いられる複層摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】鋼裏金層にCu合金(例えばCu−Sn−PbやCu−Sn−Pb−P)からなる多孔質焼結層が接合され、その多孔質焼結層に樹脂層が接合されている複層摺動部材が知られている(例えば、特許文献1参照。)。その多孔質焼結層を構成する多孔質焼結体は空隙を有しており、多孔質焼結体の空隙及び表面に樹脂層を構成する樹脂を充填し被覆することによって、多孔質焼結層と樹脂層とが接合されている。多孔質焼結層は、金属との接合力の弱い樹脂層を鋼裏金層に強固に接合させる役割を果たす。
Cu合金からなる多孔質焼結層を有する複層摺動部材は、最表層である樹脂層が摩耗して多孔質焼結層が表面に露出した場合においても、その露出面は多孔質焼結体領域と樹脂領域とが混在するので、耐摩耗性、低摩擦性を維持することができる。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−194380号公報(第2頁、第2図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】通常、複層摺動部材を装置の摺動部に用いる場合は、耐摩耗性や低摩擦性等の摺動特性向上のために、油中で用いられる。その際上述した複層摺動材を油中にて使用する場合、非焼付性向上のため銅合金からなる多孔質焼結層にPbを含ませている。
【0005】
ところで、油中で摺動部材を使用していると、油が劣化して有機酸が発生する。有機酸が発生すると、Pbを含む多孔質焼結層を有する複層摺動部材の場合、その多孔質焼結層における切削加工された端部や摺動面に露出したPbが、有機酸によって腐食され、いわゆるPb抜けが発生することがある。その場合、相手部材からの荷重を受ける多孔質焼結層の強度が低下し、かつ摩耗が促進されてしまう。同時に、その複層摺動部材の非焼付性も低下してしまう。
そして、多孔質焼結層がCu合金からなる場合は、Cuが触媒となって油の劣化を早める傾向がある。油が劣化すると、その複層摺動部材の非焼付性や耐摩耗性が低下するとともに、発生した有機酸がPbの腐食を促進させてしまう。
【0006】
また、例えば、装置を廃棄するときにPbを含む複層摺動部材を埋め立て処分すると酸性雨によりPbが溶け出して地下水を汚染することが懸念される。近年はPbの使用が敬遠される傾向が高まっており、法的なPb規制も始まっている。
【0007】
しかしながら、従来のCu合金からなる多孔質焼結層を有する複層摺動部材では、非焼付性を持たせるために、Cu合金中にPbを含ませざるを得ないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、複層摺動部材に関する従来の問題点を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、Pbを必須元素としない複層摺動部材を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によって提供される複層摺動部材は、鋼裏金層と多孔質焼結層と樹脂層とを有する複層摺動部材である。その鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介して多孔質焼結層が接合される。その多孔質焼結層は、Al合金からなり、樹脂層が接合されている。
【0010】
かかる構成の本発明の複層摺動部材によると、多孔質焼結層がAl合金からなるので、Pbを必須元素としない複層摺動部材を実現することができる。一般にAl合金は酸化し易く、その表面にアルミナ(Al2O3)酸化皮膜が形成されている。本発明の多孔質焼結層を構成するAl合金からなる多孔質焼結体の表面にも酸化皮膜が形成されている。そのため、本発明の多孔質焼結層は、良好な耐摩耗性や非焼付性を有することができる。
【0011】
ところで、鋼とAl合金との間ではFe−Al金属間化合物が生成され易い。一般に金属間化合物は脆く、そのようなFe−Al金属間化合物が、鋼裏金層と多孔質焼結層との間に存在すると、それらの層間の接合力が低下してしまう。しかし、本発明の鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介してAl合金からなる多孔質焼結層が接合されているので、Fe−Al金属間化合物の生成を防止することができる。そのため、本発明の鋼裏金層と多孔質焼結層との間においては、良好な接合力を有することができる。
【0012】
本発明のめっき部として好ましいものは、Cuめっき、Niめっき又は溶融Alめっきからなることを特徴とする。
Al合金からなる多孔質焼結体を鋼裏金に焼結する温度では、Cuめっき中のCu又はNiめっき中のNiは、それらと多孔質焼結体中のAlとの間で金属間化合物を生成しない。
また、溶融Alめっき処理では、一般にAl−Siめっき浴(Si:7.5〜9.0質量%)を使用する。そのため、本発明の溶融Alめっきからなるめっき部にはSiが含まれており、そのSiがFe−Al金属間化合物の生成を抑制する。
したがって、かかるめっきが施された本発明の複層摺動部材によると、Fe−Al金属間化合物のみならず、他の金属間化合物の生成をも抑制することができるので、鋼裏金層と多孔質焼結層との間において、良好な接合力を有することができる。
【0013】
本発明の多孔質焼結層を構成するAl合金として好ましいものは、Si、Cu、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素を総量で1〜8質量%含み、Sn及び/又はBiを総量で0〜6質量%含むことを特徴とする。かかる元素をかかる量だけ含む本発明の多孔質焼結層は、優れた強度と非焼付性とを有する。このため、耐荷重性及び非焼付性に優れた複層摺動部材を実現することができる。
【0014】
Siは、Alマトリクスに固溶することによって多孔質焼結体の疲労強度を向上させる。しかも、Si粒子や、Cu、MgやMnとの金属間化合物粒子として晶出することによって、摺動面として多孔質焼結層が露出した場合に、優れた多孔質焼結層の耐摩耗性を実現させる。同時に、上記粒子によって、相手部材に付着した焼付きを引き起こす凝着物が掻き落とされ、優れた非焼付性を実現させる。
これらの元素の総量は、1質量%より少ないと上記効果はなく、8質量%より多いと多孔質焼結体が脆くなる場合があるので、1〜8質量%含むことが好ましい。
【0015】
本発明の複層摺動部材では、SnとBiは任意元素であり、SnやBiを含まなくても、上記のように十分な非焼付性を有するが、SnやBiを含むと、Alマトリクス中に単体金属粒子として晶出し、更に優れた非焼付性を実現させる。これらの元素の総量が6質量%より多いと、多孔質焼結体を鋼裏金に焼結する時に、多孔質焼結体粉末と裏金の接着界面に低融点金属であるSn、Biが溶出しAl合金粉末と裏金の接着が困難になる。また、Al粉末間の焼結においても粉末間の隙間に低融点金属が溶出し、焼結が困難となるため、6質量%以下含むことが好ましい。
【0016】
なお、本明細書において多孔質焼結層とは、多孔質焼結体を構成するAl合金粉末が、鋼裏金層側から樹脂層側に積層されずに一粒でも鋼裏金に配置されているものも含む。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
本発明の実施形態では、鉄―アルミ金属間化合物の生成を阻止し裏金表面に銅めっきまたはニッケルめっき、または溶融アルミめっきを施す。めっき表面へのアルミ粉末の焼結は、平均粒径50〜150μmの純アルミ粉に予め灯油などの接着剤を加えて、添加する元素の高濃度アルミ微細粉末(平均粒径1〜30μm)を加えて撹拌し、純アルミ粉末表面に元素高濃度微細粉末を付着させた合金粉末をめっき付裏金上に散布して行う。
【0018】
焼結時に純アルミ粉末より融点が低い微細合金粉末が溶融し部分的な液晶焼結がなされ強固なアルミ粉末表面上にある酸化皮膜を破壊し焼結する。このとき、めっきがない場合のアルミ合金粉末が鉄板上で反応し脆いFe―アルミ金属間化合物が生成されるのに比較して、裏金上に施された銅、ニッケルめっきは、密着強度を大幅に向上させる。アルミ溶融めっき付裏金の場合はさらに密着強度を向上させる。
【0019】
溶融アルミめっき中にはSiがおよそ8質量%含まれており、このSiが鉄―アルミ金属間化合物の生成を抑制する。
【0020】
含浸被覆する樹脂材料については、PTFE系樹脂を含浸させると低摩擦性、耐摩耗性が良好となり、POM系樹脂を含浸させると耐摩耗性が良好になる。
さらに、PTFE系樹脂を用いる場合には、FEP樹脂や、PFA樹脂を摺動特性向上のため添加しても良い。またPOM系樹脂の場合にはオイルを樹脂に予め練りこんで、含油樹脂としても良い。
【0021】
更にそれぞれの樹脂には、摺動特性向上のため、アルミナやシリカなどの微細なセラミック粒子やSn、Inの単体やそれらの合金や酸化物を添加し樹脂層中に分布させれば、耐摩耗性や低摩擦性などの摺動特性は更に向上する。またグラファイトや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤の添加も有効である。これらの樹脂材料をロールなどにより表面から加圧し、多孔質焼結層内部に含浸させる。
【0022】
これらの裏金、多孔質焼結金属を樹脂含浸前に、溶体化処理を行ってさらに耐摩耗性を向上させても良い。溶体化処理はこれらの成分範囲では400℃〜550℃の温度範囲で行い、合金が溶体化された状態で水中への浸漬や水の吹き付けなどにより、急冷させる。またさらに必要に応じて、時効処理を行っても良い。この処理を行うことにより、靭性が向上し、耐摩耗性、耐荷重性が向上する。
【0023】
以下この発明を実施例をもってさらに詳細に説明する。試験試料の作製は、銅めっきを施した厚さ1.7mmの鋼板上に、予め混合したアルミ粉末を0.3mm厚に散布し、還元性雰囲気で焼結して、多孔質複層材を得た。
【0024】
この場合多孔質形状を維持するため、平均粒径100μmのエアーアトマイズ粉の純アルミ粉と、平均粒径8μmのAl−Si粉、Al−Cu粉などの合金粉を(合金粉の合金濃度はいずれも40質量%とした)を混合して焼結後の平均的な化学組成が実施例の成分に相当するようにした。焼結後、PFA(4フッ化エチレンパーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)10体積%と残PTFEからなる樹脂組成物にトルエンを加えた混合物を、この多孔質複層材に塗布し、ロールで圧下して摺動用樹脂組成物を多孔質層内に含浸被覆した。ついで350℃〜400℃で焼成し、さらにロール間を通して厚みを均一にして実施例、比較例の試験試料を得た(表3参照)。ここで使用したPTFEは旭硝子社製の、商品名AD1(分子量300万)、PFAは三井デュポン社製PFA340Jを使用した。このPFAは溶融粘度が低く、PTFEとの結合性に優れている。
【0025】
また実施例8では樹脂を含浸する前に多孔質複層材を還元性雰囲気の連続炉のなかで溶体化処理を450℃15分間行い、炉から出たところで下面裏金側から水を吹きかけ急冷した。
【0026】
実施例、比較例ともに樹脂層厚は多孔質焼結層の平均高さから測定して20μmであった。
【0027】
比較例1は従来材として裏金上にCu―5質量%Sn−5質量%Pbの平均粒径100μmの合金粉を散布し850℃で還元性雰囲気の中で20分焼結し裏金上に多孔質焼結体を形成させた。厚さの構成は実施例と同様である。また摺動樹脂皮膜の作製は上述の実施例と同樹脂材料を同様の工程で行い試作した。
【0028】
実施例1〜8と比較例1、2はめっき有り無しとめっき種類の密着性の差を確認するために折り曲げテストを行った。折り曲げ試験方法は裏金側を内側として180°曲げを行い、曲げ起点で密着界面での剥離状況を確認した。
○ は合金割れがあるものの合金粉末の剥がれがないもの
△ は一部合金剥離が密着層から観察されるもの
× は全面的に多孔質焼結層が剥離しているもの
(△は通常の使用状況では、密着性に問題ないため合格とした。)
【0029】
比較例2では×となり、密着が不十分で軸受として成立しないことを確認した。比較例2ではX線マイクロアナライザーでその断面界面を調査したところ、脆いFe―AL金属間化合物の生成が確認された。
【0030】
次に折り曲げ試験で合格したサンプルについて腐食試験を実施した。腐食試験については1cm2の正方形形状を有するサンプル50ヶをタービン油(ISOVG68)1リットル中に油温130℃に保ち200時間浸漬した。油中にはバブリングエアーを常時1リットル/minで吹き込んだ。試験終了後、溶剤で超音波洗浄を行い乾燥後、その50ヶの腐食重量減少量を測定した。終了後のオイル状態を確認したところ、従来品の比較例1では銅の触媒作用により黒色に変化し、どろどろの状態であった。一方アルミ系多孔質層である実施例、比較例ではオイルは褐色に変化した程度で粘度の増加もあまり観察されなかった。腐食は、端部の銅合金多孔質層の露出部から開始されていた。腐食による重量減少量の測定結果から、アルミ合金製の多孔質複層材は比較例1の従来品に比較して著しく腐食重量減少量が少ないことが判明した。
【0031】
次にスラスト型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験、焼付試験を実施した。
試験条件は以下の通りである。
【0032】
摩耗試験
タービン油(油種;ISOVG68)1Lに対して腐食試験に使用した各々の試験サンプルを、腐食試験にて100時間浸漬劣化させたオイルを、表1に示す条件にて試験を行った。
【0033】
【表1】
【0034】
焼付試験
摩耗試験と同様の劣化タービン油(ISOVG68)を用い表2に示す条件にて試験を行った。試験は累積荷重方式を用い、トルク急上昇及び試験片背面温度が180℃となった時を焼付きと判断し、その前の面圧を限界焼付面圧とした。
【0035】
【表2】
【0036】
上述の試験結果を表3に示す。比較例1の従来品に比べ本発明品は著しく摩耗量が減少していることがわかる。これは本来のオイル性能を従来材の銅系多孔質焼結層に比べ、アルミ合金系の方が劣化させないため、アルミ合金系焼結層の方が摩耗量が少なくなったものと思われる。
【0037】
【表3】
【0038】
また、表3に示された限界焼付面圧の試験結果から明らかなように、本発明の具体例である実施例1〜8は、比較例1と比較して格段に非焼付性が優れていることが判る。
【0039】
上述したように、本発明の具体例である実施例1〜8は、Pbを必須元素としない複層摺動部材を実現しながら、優れた密着性、耐腐食性、耐摩耗性、非焼付性を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示すもので、摺動部材の構造を概略的に示す断面図
【符号の説明】
1 複層摺動部材
2 鋼裏金層
3 めっき部
4 多孔質焼結層
5 樹脂層
【発明の属する技術分野】本発明は複層摺動部材に関する。特に、自動車、船舶、建設機械、一般産業機械、OA機器等の回転摺動部や往復摺動部等に用いられる複層摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】鋼裏金層にCu合金(例えばCu−Sn−PbやCu−Sn−Pb−P)からなる多孔質焼結層が接合され、その多孔質焼結層に樹脂層が接合されている複層摺動部材が知られている(例えば、特許文献1参照。)。その多孔質焼結層を構成する多孔質焼結体は空隙を有しており、多孔質焼結体の空隙及び表面に樹脂層を構成する樹脂を充填し被覆することによって、多孔質焼結層と樹脂層とが接合されている。多孔質焼結層は、金属との接合力の弱い樹脂層を鋼裏金層に強固に接合させる役割を果たす。
Cu合金からなる多孔質焼結層を有する複層摺動部材は、最表層である樹脂層が摩耗して多孔質焼結層が表面に露出した場合においても、その露出面は多孔質焼結体領域と樹脂領域とが混在するので、耐摩耗性、低摩擦性を維持することができる。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−194380号公報(第2頁、第2図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】通常、複層摺動部材を装置の摺動部に用いる場合は、耐摩耗性や低摩擦性等の摺動特性向上のために、油中で用いられる。その際上述した複層摺動材を油中にて使用する場合、非焼付性向上のため銅合金からなる多孔質焼結層にPbを含ませている。
【0005】
ところで、油中で摺動部材を使用していると、油が劣化して有機酸が発生する。有機酸が発生すると、Pbを含む多孔質焼結層を有する複層摺動部材の場合、その多孔質焼結層における切削加工された端部や摺動面に露出したPbが、有機酸によって腐食され、いわゆるPb抜けが発生することがある。その場合、相手部材からの荷重を受ける多孔質焼結層の強度が低下し、かつ摩耗が促進されてしまう。同時に、その複層摺動部材の非焼付性も低下してしまう。
そして、多孔質焼結層がCu合金からなる場合は、Cuが触媒となって油の劣化を早める傾向がある。油が劣化すると、その複層摺動部材の非焼付性や耐摩耗性が低下するとともに、発生した有機酸がPbの腐食を促進させてしまう。
【0006】
また、例えば、装置を廃棄するときにPbを含む複層摺動部材を埋め立て処分すると酸性雨によりPbが溶け出して地下水を汚染することが懸念される。近年はPbの使用が敬遠される傾向が高まっており、法的なPb規制も始まっている。
【0007】
しかしながら、従来のCu合金からなる多孔質焼結層を有する複層摺動部材では、非焼付性を持たせるために、Cu合金中にPbを含ませざるを得ないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、複層摺動部材に関する従来の問題点を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、Pbを必須元素としない複層摺動部材を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明によって提供される複層摺動部材は、鋼裏金層と多孔質焼結層と樹脂層とを有する複層摺動部材である。その鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介して多孔質焼結層が接合される。その多孔質焼結層は、Al合金からなり、樹脂層が接合されている。
【0010】
かかる構成の本発明の複層摺動部材によると、多孔質焼結層がAl合金からなるので、Pbを必須元素としない複層摺動部材を実現することができる。一般にAl合金は酸化し易く、その表面にアルミナ(Al2O3)酸化皮膜が形成されている。本発明の多孔質焼結層を構成するAl合金からなる多孔質焼結体の表面にも酸化皮膜が形成されている。そのため、本発明の多孔質焼結層は、良好な耐摩耗性や非焼付性を有することができる。
【0011】
ところで、鋼とAl合金との間ではFe−Al金属間化合物が生成され易い。一般に金属間化合物は脆く、そのようなFe−Al金属間化合物が、鋼裏金層と多孔質焼結層との間に存在すると、それらの層間の接合力が低下してしまう。しかし、本発明の鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介してAl合金からなる多孔質焼結層が接合されているので、Fe−Al金属間化合物の生成を防止することができる。そのため、本発明の鋼裏金層と多孔質焼結層との間においては、良好な接合力を有することができる。
【0012】
本発明のめっき部として好ましいものは、Cuめっき、Niめっき又は溶融Alめっきからなることを特徴とする。
Al合金からなる多孔質焼結体を鋼裏金に焼結する温度では、Cuめっき中のCu又はNiめっき中のNiは、それらと多孔質焼結体中のAlとの間で金属間化合物を生成しない。
また、溶融Alめっき処理では、一般にAl−Siめっき浴(Si:7.5〜9.0質量%)を使用する。そのため、本発明の溶融Alめっきからなるめっき部にはSiが含まれており、そのSiがFe−Al金属間化合物の生成を抑制する。
したがって、かかるめっきが施された本発明の複層摺動部材によると、Fe−Al金属間化合物のみならず、他の金属間化合物の生成をも抑制することができるので、鋼裏金層と多孔質焼結層との間において、良好な接合力を有することができる。
【0013】
本発明の多孔質焼結層を構成するAl合金として好ましいものは、Si、Cu、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素を総量で1〜8質量%含み、Sn及び/又はBiを総量で0〜6質量%含むことを特徴とする。かかる元素をかかる量だけ含む本発明の多孔質焼結層は、優れた強度と非焼付性とを有する。このため、耐荷重性及び非焼付性に優れた複層摺動部材を実現することができる。
【0014】
Siは、Alマトリクスに固溶することによって多孔質焼結体の疲労強度を向上させる。しかも、Si粒子や、Cu、MgやMnとの金属間化合物粒子として晶出することによって、摺動面として多孔質焼結層が露出した場合に、優れた多孔質焼結層の耐摩耗性を実現させる。同時に、上記粒子によって、相手部材に付着した焼付きを引き起こす凝着物が掻き落とされ、優れた非焼付性を実現させる。
これらの元素の総量は、1質量%より少ないと上記効果はなく、8質量%より多いと多孔質焼結体が脆くなる場合があるので、1〜8質量%含むことが好ましい。
【0015】
本発明の複層摺動部材では、SnとBiは任意元素であり、SnやBiを含まなくても、上記のように十分な非焼付性を有するが、SnやBiを含むと、Alマトリクス中に単体金属粒子として晶出し、更に優れた非焼付性を実現させる。これらの元素の総量が6質量%より多いと、多孔質焼結体を鋼裏金に焼結する時に、多孔質焼結体粉末と裏金の接着界面に低融点金属であるSn、Biが溶出しAl合金粉末と裏金の接着が困難になる。また、Al粉末間の焼結においても粉末間の隙間に低融点金属が溶出し、焼結が困難となるため、6質量%以下含むことが好ましい。
【0016】
なお、本明細書において多孔質焼結層とは、多孔質焼結体を構成するAl合金粉末が、鋼裏金層側から樹脂層側に積層されずに一粒でも鋼裏金に配置されているものも含む。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
本発明の実施形態では、鉄―アルミ金属間化合物の生成を阻止し裏金表面に銅めっきまたはニッケルめっき、または溶融アルミめっきを施す。めっき表面へのアルミ粉末の焼結は、平均粒径50〜150μmの純アルミ粉に予め灯油などの接着剤を加えて、添加する元素の高濃度アルミ微細粉末(平均粒径1〜30μm)を加えて撹拌し、純アルミ粉末表面に元素高濃度微細粉末を付着させた合金粉末をめっき付裏金上に散布して行う。
【0018】
焼結時に純アルミ粉末より融点が低い微細合金粉末が溶融し部分的な液晶焼結がなされ強固なアルミ粉末表面上にある酸化皮膜を破壊し焼結する。このとき、めっきがない場合のアルミ合金粉末が鉄板上で反応し脆いFe―アルミ金属間化合物が生成されるのに比較して、裏金上に施された銅、ニッケルめっきは、密着強度を大幅に向上させる。アルミ溶融めっき付裏金の場合はさらに密着強度を向上させる。
【0019】
溶融アルミめっき中にはSiがおよそ8質量%含まれており、このSiが鉄―アルミ金属間化合物の生成を抑制する。
【0020】
含浸被覆する樹脂材料については、PTFE系樹脂を含浸させると低摩擦性、耐摩耗性が良好となり、POM系樹脂を含浸させると耐摩耗性が良好になる。
さらに、PTFE系樹脂を用いる場合には、FEP樹脂や、PFA樹脂を摺動特性向上のため添加しても良い。またPOM系樹脂の場合にはオイルを樹脂に予め練りこんで、含油樹脂としても良い。
【0021】
更にそれぞれの樹脂には、摺動特性向上のため、アルミナやシリカなどの微細なセラミック粒子やSn、Inの単体やそれらの合金や酸化物を添加し樹脂層中に分布させれば、耐摩耗性や低摩擦性などの摺動特性は更に向上する。またグラファイトや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤の添加も有効である。これらの樹脂材料をロールなどにより表面から加圧し、多孔質焼結層内部に含浸させる。
【0022】
これらの裏金、多孔質焼結金属を樹脂含浸前に、溶体化処理を行ってさらに耐摩耗性を向上させても良い。溶体化処理はこれらの成分範囲では400℃〜550℃の温度範囲で行い、合金が溶体化された状態で水中への浸漬や水の吹き付けなどにより、急冷させる。またさらに必要に応じて、時効処理を行っても良い。この処理を行うことにより、靭性が向上し、耐摩耗性、耐荷重性が向上する。
【0023】
以下この発明を実施例をもってさらに詳細に説明する。試験試料の作製は、銅めっきを施した厚さ1.7mmの鋼板上に、予め混合したアルミ粉末を0.3mm厚に散布し、還元性雰囲気で焼結して、多孔質複層材を得た。
【0024】
この場合多孔質形状を維持するため、平均粒径100μmのエアーアトマイズ粉の純アルミ粉と、平均粒径8μmのAl−Si粉、Al−Cu粉などの合金粉を(合金粉の合金濃度はいずれも40質量%とした)を混合して焼結後の平均的な化学組成が実施例の成分に相当するようにした。焼結後、PFA(4フッ化エチレンパーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)10体積%と残PTFEからなる樹脂組成物にトルエンを加えた混合物を、この多孔質複層材に塗布し、ロールで圧下して摺動用樹脂組成物を多孔質層内に含浸被覆した。ついで350℃〜400℃で焼成し、さらにロール間を通して厚みを均一にして実施例、比較例の試験試料を得た(表3参照)。ここで使用したPTFEは旭硝子社製の、商品名AD1(分子量300万)、PFAは三井デュポン社製PFA340Jを使用した。このPFAは溶融粘度が低く、PTFEとの結合性に優れている。
【0025】
また実施例8では樹脂を含浸する前に多孔質複層材を還元性雰囲気の連続炉のなかで溶体化処理を450℃15分間行い、炉から出たところで下面裏金側から水を吹きかけ急冷した。
【0026】
実施例、比較例ともに樹脂層厚は多孔質焼結層の平均高さから測定して20μmであった。
【0027】
比較例1は従来材として裏金上にCu―5質量%Sn−5質量%Pbの平均粒径100μmの合金粉を散布し850℃で還元性雰囲気の中で20分焼結し裏金上に多孔質焼結体を形成させた。厚さの構成は実施例と同様である。また摺動樹脂皮膜の作製は上述の実施例と同樹脂材料を同様の工程で行い試作した。
【0028】
実施例1〜8と比較例1、2はめっき有り無しとめっき種類の密着性の差を確認するために折り曲げテストを行った。折り曲げ試験方法は裏金側を内側として180°曲げを行い、曲げ起点で密着界面での剥離状況を確認した。
○ は合金割れがあるものの合金粉末の剥がれがないもの
△ は一部合金剥離が密着層から観察されるもの
× は全面的に多孔質焼結層が剥離しているもの
(△は通常の使用状況では、密着性に問題ないため合格とした。)
【0029】
比較例2では×となり、密着が不十分で軸受として成立しないことを確認した。比較例2ではX線マイクロアナライザーでその断面界面を調査したところ、脆いFe―AL金属間化合物の生成が確認された。
【0030】
次に折り曲げ試験で合格したサンプルについて腐食試験を実施した。腐食試験については1cm2の正方形形状を有するサンプル50ヶをタービン油(ISOVG68)1リットル中に油温130℃に保ち200時間浸漬した。油中にはバブリングエアーを常時1リットル/minで吹き込んだ。試験終了後、溶剤で超音波洗浄を行い乾燥後、その50ヶの腐食重量減少量を測定した。終了後のオイル状態を確認したところ、従来品の比較例1では銅の触媒作用により黒色に変化し、どろどろの状態であった。一方アルミ系多孔質層である実施例、比較例ではオイルは褐色に変化した程度で粘度の増加もあまり観察されなかった。腐食は、端部の銅合金多孔質層の露出部から開始されていた。腐食による重量減少量の測定結果から、アルミ合金製の多孔質複層材は比較例1の従来品に比較して著しく腐食重量減少量が少ないことが判明した。
【0031】
次にスラスト型摩擦摩耗試験機を用いて摩耗試験、焼付試験を実施した。
試験条件は以下の通りである。
【0032】
摩耗試験
タービン油(油種;ISOVG68)1Lに対して腐食試験に使用した各々の試験サンプルを、腐食試験にて100時間浸漬劣化させたオイルを、表1に示す条件にて試験を行った。
【0033】
【表1】
【0034】
焼付試験
摩耗試験と同様の劣化タービン油(ISOVG68)を用い表2に示す条件にて試験を行った。試験は累積荷重方式を用い、トルク急上昇及び試験片背面温度が180℃となった時を焼付きと判断し、その前の面圧を限界焼付面圧とした。
【0035】
【表2】
【0036】
上述の試験結果を表3に示す。比較例1の従来品に比べ本発明品は著しく摩耗量が減少していることがわかる。これは本来のオイル性能を従来材の銅系多孔質焼結層に比べ、アルミ合金系の方が劣化させないため、アルミ合金系焼結層の方が摩耗量が少なくなったものと思われる。
【0037】
【表3】
【0038】
また、表3に示された限界焼付面圧の試験結果から明らかなように、本発明の具体例である実施例1〜8は、比較例1と比較して格段に非焼付性が優れていることが判る。
【0039】
上述したように、本発明の具体例である実施例1〜8は、Pbを必須元素としない複層摺動部材を実現しながら、優れた密着性、耐腐食性、耐摩耗性、非焼付性を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示すもので、摺動部材の構造を概略的に示す断面図
【符号の説明】
1 複層摺動部材
2 鋼裏金層
3 めっき部
4 多孔質焼結層
5 樹脂層
Claims (3)
- 鋼裏金層と多孔質焼結層と樹脂層とを有する複層摺動部材において、
前記鋼裏金層は、めっき部を有し、そのめっき部を介して前記多孔質焼結層が接合され、
その多孔質焼結層は、Al合金からなり、前記樹脂層が接合されている、複層摺動部材。 - 前記めっき部は、Cuめっき、Niめっき又は溶融Alめっきからなる、請求項1に記載の複層摺動部材。
- 前記多孔質焼結層を構成するAl合金は、Si、Cu、Mg及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素を総量で1〜8質量%含み、Sn及び/又はBiを総量で0〜6質量%含む、請求項1又は2に記載の複層摺動部材。
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KR100959060B1 (ko) | 2009-03-04 | 2010-05-20 | 부광에이엠티(주) | 에어베어링용 다공질체 및 그 제조방법 |
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- 2003-02-28 JP JP2003052474A patent/JP2004263735A/ja active Pending
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