JP2004262737A - 粒子状炭素結晶の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】製造工程が簡単で低コストで粒径が大きい粒子状のフラーレン結晶を得る。
【解決手段】ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液およびフラーレンに対して貧溶媒である第2の溶媒を、液−液界面を形成するように接触させ、ついで前記溶液および前記第2溶媒をその状態で所定時間維持することにより前記溶液中にフラーレンを析出させる粒子状炭素結晶の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液およびフラーレンに対して貧溶媒である第2の溶媒を、液−液界面を形成するように接触させ、ついで前記溶液および前記第2溶媒をその状態で所定時間維持することにより前記溶液中にフラーレンを析出させる粒子状炭素結晶の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は粒子状炭素結晶の製造方法、特に炭素の同素体分子フラーレンの粒子状結晶の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素元素のみから合成される物質として、ダイヤモンドやグラファイトが知られているが、最近、新たに60個の炭素原子からなる球状クラスター分子が見いだされ、その物性および応用について研究がなされている。例えば非特許文献1によれば、この分子はフラーレンと呼ばれるもので、サッカーボール状の形状を有している。またフラーレン分子の集合体は面心立方格子であり、各種元素をドーピングすることにより超伝導特性を有する物質が得られることが非特許文献2に報告されている。
【0003】
フラーレンの結晶粒子を得る方法として、フラーレンを溶解した溶液例えばC60フラーレン単量体のベンゼン溶液にフラーレンの貧溶媒例えば10倍容のエタノールを添加して多量体例えば直径50nm程度の結晶を作製する方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
【非特許文献1】
H.W.Kroto等、Nature 318(1985) 162
【非特許文献2】
A.F.Hebard等、Nature 350(1991) 600
【特許文献1】
特開平10−001306号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許文献1による粒子状結晶の作製方法では得られる粒子状結晶の粒径は数nmと小さく、フラーレン結晶の観察や評価、表面反応用の材料としての用途には適していない。
本発明は製造工程が簡単で低コストで50nmを超える平均粒径、特に10μm以上の平均粒径を有する粒子状のフラーレン結晶を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明はベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液およびフラーレンに対して貧溶媒である第2の溶媒を、液−液界面を形成するように接触させ、ついで前記溶液および前記第2溶媒をその状態で所定時間維持することにより前記溶液中にフラーレンを析出させる粒子状炭素結晶の製造方法である。
【0007】
本発明において、ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液を準備する。ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置の置換基としては、例えばアルキル基、ハロゲン基、−NH2、−NHR、−NR2,−OH、−OR、ここでRはアルキル基である、を例示することができる。これらの置換基の中でメチル基および塩素基が特に好ましく用いられる。ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物としては、例えばp−キシレン、p−ジクロロベンゼン、p−ジエチルベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジフルオロベンゼン、4−クロロトルエン、1,2,3−トリメチルベンゼンおよび1,2,3−トリエチルベンゼン等を挙げることができる。これらの中でp−キシレン、p−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼンおよび4−クロロトルエンが特に好ましく用いられる。
【0008】
本発明における第1の溶媒は前記ベンゼン化合物のいずれか一種であることが最も好ましいが、前記ベンゼン化合物の二種またはそれ以上の混合物であってもよく、また上記一種または二種以上の前記ベンゼン化合物を少なくとも50質量%含有するものであってもよく、フラーレンの溶解度が5mg/ml以上である溶媒が好ましい。第1の溶媒に50質量%未満含有させてもよい溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ヨードベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、o−キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、o−ジクロロベンゼンおよびm−ジクロロベンゼン、二硫化炭素、トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1−メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、2−メチルチオフェン等を挙げることができる。
【0009】
上記第1の溶媒に溶解させるフラーレンとしては、C60、C70,C76,C78,C82,C84,C240,C540およびC720等を使用することができるが、それらの中でC60、C70,C76,C78,C82およびC84を好ましく用いることができ、C60およびC70が最も好ましく用いられる。またフラーレン分子の内部に異元素(例えば典型元素金属または遷移金属)を内包したもの、またはフラーレン分子の間に異元素を配置したものも用いることができる。
【0010】
本発明において、上記第1の溶媒にフラーレンを溶解させて溶液とするが、フラーレンの濃度があまり低すぎるとフラーレン結晶の析出速度が小さくなったり、析出量が少量になる。従って前記溶液中のフラーレンの濃度は3mg/ml以上でかつ第1溶媒に対する溶解度の30%以上の濃度で含有させることが好ましく、4mg/ml以上でかつ第1溶媒に対する溶解度の35%以上の濃度で含有させることがさらに好ましい。例えばp−キシレンのC60の溶解度(飽和濃度)は約5.9mg/mlであるので、フラーレンの濃度は3mg/ml以上にすることが好ましく、4mg/ml以上にすることがさらに好ましい。
【0011】
前記溶液に接触させる第2の溶媒としてフラーレンに対して貧溶媒であるものが用いられる。フラーレンに対する貧溶媒とはフラーレンの溶解度(飽和濃度)が0.01mg/ml以下の溶媒を指す。また第2の溶媒は前記溶液の第1溶媒と相互に溶解することができるものが用いられる。第2溶媒としてn−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコールおよびi−ペンチルアルコールのようなアルコールが好ましく用いられ、これらの中でn−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコールおよびi−ペンチルアルコールが特に好ましく用いられる。メチルアルコール、エチルアルコールは拡散速度が大き過ぎて粒子状の結晶が成長し難く、沈殿が生じやすいので好ましくない。
【0012】
本発明における第2の溶媒は前記アルコールのいずれか一種であることが最も好ましいが、前記アルコールの二種またはそれ以上の混合物であってもよく、また上記一種または二種以上の前記アルコールを少なくとも50質量%含有するものであってもよい。第2溶媒に50質量%未満含有させてもよい溶媒としては、例えばメチルアルコールおよびエチルアルコール等を挙げることができる。
【0013】
本発明において、前記溶液および前記第2溶媒を、前記溶液と前記第2溶媒とが液−液界面を形成するように接触させる。例えば容器に前記溶液を入れ、ついで前記第2溶媒を静かに注いで容器内で前記溶液と前記第2溶媒とが2層に分離してその2層の境界に液−液界面を形成させる。
【0014】
互いに接触させる前記溶液および前記第2溶媒のいずれか一方があまりに多量であったり少量であると、フラーレンの析出が効率的に行われないので、前記溶液および前記第2溶媒をその合計体積Vに対して前記溶液が好ましくは10〜50体積%になるように使用される。
【0015】
この状態の前記溶液および前記第2溶媒を所定時間維持する。好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、ただし前記溶液および前記第2溶媒の凝固点のうち高い方の温度より高い温度で静置することが、均一な大きさの結晶を析出させる上で好ましい。この維持時間が経過するつれて、液−液界面の両側の前記溶液と前記第2溶媒とが徐々に相互に拡散する。フラーレンは液−液界面を中心として析出しそして成長して、前記溶液および前記第2溶媒の相互拡散が終わる10〜100時間経過した後には粒子状のフラーレン結晶が得られる。図1は粒子状フラーレン結晶の光学顕微鏡写真であり、粒子状フラーレン結晶の直径は約0.3mmである。(拡大率100倍で写真の大きさ約90mm×118mm)
【0016】
もし、上述の前記溶液および前記第2溶媒の接触の際に液−液界面が形成されずに前記溶液と前記第2溶媒が急激に混合されたり、前記静置がされずに前記溶液と前記第2溶媒の相互拡散が急激に生じた場合には、前記溶液中でフラーレンが急速に析出するため、粒子状のフラーレン結晶は生成されない。
【0017】
得られる粒子状のフラーレン結晶は10〜5000μmの平均粒径および2以下のアスペクト比を有する。なお平均粒径とは粒子の最大寸法の個数平均値であり、アスペクト比は粒子の最大寸法と最小寸法との比である。この粒子状のフラーレン結晶はフラーレン分子同士がファンデルワールス結合したものであり、指でつまむ位では壊れない程度の機械的強度を有する。
【0018】
この粒子状のフラーレン結晶を加圧、例えば3〜9Paでのプレス、加熱、例えば250〜400℃保持またはレーザ照射、例えば波長300nm以下のレーザ光照射の操作により結晶を構成するフラーレン分子同士の間に存在する前記第1溶媒などを除去して緻密化して機械的強度を高めることができる。空気中で加熱する場合は、450℃以上では分解が起こってしまうので、450℃以下での加熱が望ましい。なお、真空中や窒素雰囲気など、酸素の存在しない環境では昇華が始まる600℃より低い温度での処理が望ましい。
【0019】
本発明により得られる粒子状のフラーレン結晶はπ結合を有するため、粒子状のフラーレンの表面では新たな反応や物質の合成が期待できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
[実施例]
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
フラーレンC60(純度99%、サイエンスラボラトリーズ社製) 100mgをp−キシレン(第1溶媒)20mlに溶解し、2mlを分取した。フラーレンの濃度は5.0mg/mlであり、溶解度(飽和濃度)は約5.9mg/mlである。これをガラス製の円筒形容器(直径1.9cm、高さ3.2cm)に入れた。この溶液と混合しないようにガラス容器の側面壁に沿ってゆっくりと約60秒かけてi−プロピルアルコール(第2溶媒)4mlを加えた。容器の中には約6mmの高さの前記溶液の下層と、その溶液の層の上に約10mmの高さの第2溶媒の上層とに分離しており、前記下層と上層との境界に直径1.9cmの円形の液−液界面が形成されていた。その後、容器に蓋をかぶせて、10℃で48時間静置した。その結果、溶液内で成長してガラス容器の底面に沈んだ平均粒径約200μm、アスペクト比約1.0の多数のフラーレンの結晶粒子(合計約7mg)が得られた。
【0021】
[実施例2〜9]
実施例1において使用したp−キシレン(第1溶媒)およびi−プロピルアルコール(第2溶媒)に代えて表1に示す物質[第1溶媒;1,2,3−トリメチルベンゼン(1,2,3−TMB)、4−クロロトルエン、第2溶媒;2−ブチルアルコール(2−BuA)、n−ブチルアルコール(n−BuA)、i−ブチルアルコール(i−BuA)、n−プロピルアルコール(n−PrA)、エチルアルコール(EtA)]およびフラーレン濃度を使用した以外は実施例1と同様にして200〜500μmの平均粒径の粒子状のフラーレンの結晶が得られた。結果を表1に示す。なお、実施例8においては、第2溶媒としてi−ブチルアルコール80体積%およびエチルアルコール 20体積%からなる混合溶媒を使用した。
【0022】
【表1】
1,2,3−TMB:1,2,4−トリメチルベンゼン
n−BuA:n−ブチルアルコール
2−BuA:2−ブチルアルコール
i−BuA:i−ブチルアルコール
n−PrA:n−プロピルアルコール
EtA:エチルアルコール
【0023】
[実施例10]
実施例1において使用したフラーレンC60 100mgに代えてフラーレンC70(純度99%、サイエンスラボラトリーズ社製)100mgを使用した他は実施例1と同様にして平均粒径約200μm、アスペクト比約1.0の多数のフラーレンの結晶粒子(合計約7mg)が得られた。
【0024】
[比較例1]
実施例1において使用したp−キシレン(第1溶媒)2mlおよびi−プロピルアルコール(第2溶媒)4mlに代えてトルエン2mlおよびi−プロピルアルコール4mlおよびフラーレン濃度2.8mg/ml(飽和濃度約2.8mg/ml)を使用した以外は実施例1と同様に処理したところ、ガラス容器内の液−液界面から出発して延びて析出した平均直径約1μm、平均長さ約0.5mmの多数の針状の単結晶(合計約3mg)が得られた。しかし粒子状のフラーレンの結晶は得られなかった。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な工程で低コストで10μm以上の平均粒径の粒子状のフラーレン結晶が得られる。フラーレンの粒子状結晶の平坦な結晶面を用いた各種応用面での進展が促進される。またフラーレンの各種物性の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で得られる粒子状のフラーレンの結晶の光学顕微鏡写真
【発明が属する技術分野】
本発明は粒子状炭素結晶の製造方法、特に炭素の同素体分子フラーレンの粒子状結晶の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素元素のみから合成される物質として、ダイヤモンドやグラファイトが知られているが、最近、新たに60個の炭素原子からなる球状クラスター分子が見いだされ、その物性および応用について研究がなされている。例えば非特許文献1によれば、この分子はフラーレンと呼ばれるもので、サッカーボール状の形状を有している。またフラーレン分子の集合体は面心立方格子であり、各種元素をドーピングすることにより超伝導特性を有する物質が得られることが非特許文献2に報告されている。
【0003】
フラーレンの結晶粒子を得る方法として、フラーレンを溶解した溶液例えばC60フラーレン単量体のベンゼン溶液にフラーレンの貧溶媒例えば10倍容のエタノールを添加して多量体例えば直径50nm程度の結晶を作製する方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
【非特許文献1】
H.W.Kroto等、Nature 318(1985) 162
【非特許文献2】
A.F.Hebard等、Nature 350(1991) 600
【特許文献1】
特開平10−001306号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許文献1による粒子状結晶の作製方法では得られる粒子状結晶の粒径は数nmと小さく、フラーレン結晶の観察や評価、表面反応用の材料としての用途には適していない。
本発明は製造工程が簡単で低コストで50nmを超える平均粒径、特に10μm以上の平均粒径を有する粒子状のフラーレン結晶を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明はベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液およびフラーレンに対して貧溶媒である第2の溶媒を、液−液界面を形成するように接触させ、ついで前記溶液および前記第2溶媒をその状態で所定時間維持することにより前記溶液中にフラーレンを析出させる粒子状炭素結晶の製造方法である。
【0007】
本発明において、ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液を準備する。ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置の置換基としては、例えばアルキル基、ハロゲン基、−NH2、−NHR、−NR2,−OH、−OR、ここでRはアルキル基である、を例示することができる。これらの置換基の中でメチル基および塩素基が特に好ましく用いられる。ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物としては、例えばp−キシレン、p−ジクロロベンゼン、p−ジエチルベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジフルオロベンゼン、4−クロロトルエン、1,2,3−トリメチルベンゼンおよび1,2,3−トリエチルベンゼン等を挙げることができる。これらの中でp−キシレン、p−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼンおよび4−クロロトルエンが特に好ましく用いられる。
【0008】
本発明における第1の溶媒は前記ベンゼン化合物のいずれか一種であることが最も好ましいが、前記ベンゼン化合物の二種またはそれ以上の混合物であってもよく、また上記一種または二種以上の前記ベンゼン化合物を少なくとも50質量%含有するものであってもよく、フラーレンの溶解度が5mg/ml以上である溶媒が好ましい。第1の溶媒に50質量%未満含有させてもよい溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ヨードベンゼン、フルオロベンゼン、ブロモベンゼン、o−キシレン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、o−ジクロロベンゼンおよびm−ジクロロベンゼン、二硫化炭素、トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1−メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、2−メチルチオフェン等を挙げることができる。
【0009】
上記第1の溶媒に溶解させるフラーレンとしては、C60、C70,C76,C78,C82,C84,C240,C540およびC720等を使用することができるが、それらの中でC60、C70,C76,C78,C82およびC84を好ましく用いることができ、C60およびC70が最も好ましく用いられる。またフラーレン分子の内部に異元素(例えば典型元素金属または遷移金属)を内包したもの、またはフラーレン分子の間に異元素を配置したものも用いることができる。
【0010】
本発明において、上記第1の溶媒にフラーレンを溶解させて溶液とするが、フラーレンの濃度があまり低すぎるとフラーレン結晶の析出速度が小さくなったり、析出量が少量になる。従って前記溶液中のフラーレンの濃度は3mg/ml以上でかつ第1溶媒に対する溶解度の30%以上の濃度で含有させることが好ましく、4mg/ml以上でかつ第1溶媒に対する溶解度の35%以上の濃度で含有させることがさらに好ましい。例えばp−キシレンのC60の溶解度(飽和濃度)は約5.9mg/mlであるので、フラーレンの濃度は3mg/ml以上にすることが好ましく、4mg/ml以上にすることがさらに好ましい。
【0011】
前記溶液に接触させる第2の溶媒としてフラーレンに対して貧溶媒であるものが用いられる。フラーレンに対する貧溶媒とはフラーレンの溶解度(飽和濃度)が0.01mg/ml以下の溶媒を指す。また第2の溶媒は前記溶液の第1溶媒と相互に溶解することができるものが用いられる。第2溶媒としてn−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコールおよびi−ペンチルアルコールのようなアルコールが好ましく用いられ、これらの中でn−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコールおよびi−ペンチルアルコールが特に好ましく用いられる。メチルアルコール、エチルアルコールは拡散速度が大き過ぎて粒子状の結晶が成長し難く、沈殿が生じやすいので好ましくない。
【0012】
本発明における第2の溶媒は前記アルコールのいずれか一種であることが最も好ましいが、前記アルコールの二種またはそれ以上の混合物であってもよく、また上記一種または二種以上の前記アルコールを少なくとも50質量%含有するものであってもよい。第2溶媒に50質量%未満含有させてもよい溶媒としては、例えばメチルアルコールおよびエチルアルコール等を挙げることができる。
【0013】
本発明において、前記溶液および前記第2溶媒を、前記溶液と前記第2溶媒とが液−液界面を形成するように接触させる。例えば容器に前記溶液を入れ、ついで前記第2溶媒を静かに注いで容器内で前記溶液と前記第2溶媒とが2層に分離してその2層の境界に液−液界面を形成させる。
【0014】
互いに接触させる前記溶液および前記第2溶媒のいずれか一方があまりに多量であったり少量であると、フラーレンの析出が効率的に行われないので、前記溶液および前記第2溶媒をその合計体積Vに対して前記溶液が好ましくは10〜50体積%になるように使用される。
【0015】
この状態の前記溶液および前記第2溶媒を所定時間維持する。好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、ただし前記溶液および前記第2溶媒の凝固点のうち高い方の温度より高い温度で静置することが、均一な大きさの結晶を析出させる上で好ましい。この維持時間が経過するつれて、液−液界面の両側の前記溶液と前記第2溶媒とが徐々に相互に拡散する。フラーレンは液−液界面を中心として析出しそして成長して、前記溶液および前記第2溶媒の相互拡散が終わる10〜100時間経過した後には粒子状のフラーレン結晶が得られる。図1は粒子状フラーレン結晶の光学顕微鏡写真であり、粒子状フラーレン結晶の直径は約0.3mmである。(拡大率100倍で写真の大きさ約90mm×118mm)
【0016】
もし、上述の前記溶液および前記第2溶媒の接触の際に液−液界面が形成されずに前記溶液と前記第2溶媒が急激に混合されたり、前記静置がされずに前記溶液と前記第2溶媒の相互拡散が急激に生じた場合には、前記溶液中でフラーレンが急速に析出するため、粒子状のフラーレン結晶は生成されない。
【0017】
得られる粒子状のフラーレン結晶は10〜5000μmの平均粒径および2以下のアスペクト比を有する。なお平均粒径とは粒子の最大寸法の個数平均値であり、アスペクト比は粒子の最大寸法と最小寸法との比である。この粒子状のフラーレン結晶はフラーレン分子同士がファンデルワールス結合したものであり、指でつまむ位では壊れない程度の機械的強度を有する。
【0018】
この粒子状のフラーレン結晶を加圧、例えば3〜9Paでのプレス、加熱、例えば250〜400℃保持またはレーザ照射、例えば波長300nm以下のレーザ光照射の操作により結晶を構成するフラーレン分子同士の間に存在する前記第1溶媒などを除去して緻密化して機械的強度を高めることができる。空気中で加熱する場合は、450℃以上では分解が起こってしまうので、450℃以下での加熱が望ましい。なお、真空中や窒素雰囲気など、酸素の存在しない環境では昇華が始まる600℃より低い温度での処理が望ましい。
【0019】
本発明により得られる粒子状のフラーレン結晶はπ結合を有するため、粒子状のフラーレンの表面では新たな反応や物質の合成が期待できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
[実施例]
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
フラーレンC60(純度99%、サイエンスラボラトリーズ社製) 100mgをp−キシレン(第1溶媒)20mlに溶解し、2mlを分取した。フラーレンの濃度は5.0mg/mlであり、溶解度(飽和濃度)は約5.9mg/mlである。これをガラス製の円筒形容器(直径1.9cm、高さ3.2cm)に入れた。この溶液と混合しないようにガラス容器の側面壁に沿ってゆっくりと約60秒かけてi−プロピルアルコール(第2溶媒)4mlを加えた。容器の中には約6mmの高さの前記溶液の下層と、その溶液の層の上に約10mmの高さの第2溶媒の上層とに分離しており、前記下層と上層との境界に直径1.9cmの円形の液−液界面が形成されていた。その後、容器に蓋をかぶせて、10℃で48時間静置した。その結果、溶液内で成長してガラス容器の底面に沈んだ平均粒径約200μm、アスペクト比約1.0の多数のフラーレンの結晶粒子(合計約7mg)が得られた。
【0021】
[実施例2〜9]
実施例1において使用したp−キシレン(第1溶媒)およびi−プロピルアルコール(第2溶媒)に代えて表1に示す物質[第1溶媒;1,2,3−トリメチルベンゼン(1,2,3−TMB)、4−クロロトルエン、第2溶媒;2−ブチルアルコール(2−BuA)、n−ブチルアルコール(n−BuA)、i−ブチルアルコール(i−BuA)、n−プロピルアルコール(n−PrA)、エチルアルコール(EtA)]およびフラーレン濃度を使用した以外は実施例1と同様にして200〜500μmの平均粒径の粒子状のフラーレンの結晶が得られた。結果を表1に示す。なお、実施例8においては、第2溶媒としてi−ブチルアルコール80体積%およびエチルアルコール 20体積%からなる混合溶媒を使用した。
【0022】
【表1】
1,2,3−TMB:1,2,4−トリメチルベンゼン
n−BuA:n−ブチルアルコール
2−BuA:2−ブチルアルコール
i−BuA:i−ブチルアルコール
n−PrA:n−プロピルアルコール
EtA:エチルアルコール
【0023】
[実施例10]
実施例1において使用したフラーレンC60 100mgに代えてフラーレンC70(純度99%、サイエンスラボラトリーズ社製)100mgを使用した他は実施例1と同様にして平均粒径約200μm、アスペクト比約1.0の多数のフラーレンの結晶粒子(合計約7mg)が得られた。
【0024】
[比較例1]
実施例1において使用したp−キシレン(第1溶媒)2mlおよびi−プロピルアルコール(第2溶媒)4mlに代えてトルエン2mlおよびi−プロピルアルコール4mlおよびフラーレン濃度2.8mg/ml(飽和濃度約2.8mg/ml)を使用した以外は実施例1と同様に処理したところ、ガラス容器内の液−液界面から出発して延びて析出した平均直径約1μm、平均長さ約0.5mmの多数の針状の単結晶(合計約3mg)が得られた。しかし粒子状のフラーレンの結晶は得られなかった。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な工程で低コストで10μm以上の平均粒径の粒子状のフラーレン結晶が得られる。フラーレンの粒子状結晶の平坦な結晶面を用いた各種応用面での進展が促進される。またフラーレンの各種物性の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で得られる粒子状のフラーレンの結晶の光学顕微鏡写真
Claims (9)
- ベンゼン環のパラ位置または1,2,3の位置に置換基を有するベンゼン化合物を含有する第1の溶媒にフラーレンを溶解してなる溶液およびフラーレンに対して貧溶媒である第2の溶媒を、液−液界面を形成するように接触させ、ついで前記溶液および前記第2溶媒をその状態で所定時間維持することにより前記溶液中にフラーレンを析出させる粒子状炭素結晶の製造方法。
- 前記ベンゼン化合物がp−キシレン、1,2,3−トリメチルベンゼン、p−ジクロロベンゼンおよび4−クロロトルエンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の粒子状炭素結晶の製造方法。
- 前記第1溶媒が前記ベンゼン化合物を少なくとも50質量%含有する請求項1または2記載の粒子状炭素結晶の製造方法。
- 前記第2溶媒がn−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコールおよびi−ペンチルアルコールの中から選ばれた少なくとも1種を50質量%以上含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の粒子状炭素結晶の製造方法。
- 前記溶液はフラーレンを3mg/ml以上でかつ第1溶媒に対する溶解度の30%以上の濃度で含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の粒子状炭素結晶の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法で得られた粒子状炭素結晶を加圧、加熱またはレーザ照射する粒子状炭素結晶の製造方法。
- 前記溶液に溶解するフラーレンはフラーレン分子、フラーレン分子の内部に異元素を内包したもの、またはフラーレン分子の間に異元素を配置したものである請求項1〜6のいずれか1項記載の粒子状炭素結晶の製造方法。
- 前記フラーレン分子はC60またはC70である請求項7記載の粒子状炭素結晶の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法で得られた粒子状炭素結晶であって、10〜5000μmの平均粒径を有する粒子状炭素結晶。
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