JP2004256895A - 耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】引張り強さが 400 MPa程度以上で、優れた耐2次加工脆性、深絞り性およびめっき特性を併せ持つ高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】Siを0.01〜1.50mass%含有する極低炭素鋼において、特にその成分のうちB,Ti,PおよびN量に関し、次式(3)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
の関係式を満足する範囲に成分調整した鋼材を素材とし、950 〜1300℃で加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取り、酸洗後、50〜95%の圧下率で冷間圧延したのち、連続焼鈍により 700〜950 ℃の温度で再結晶焼鈍を施し、ついで酸洗後、 550〜900 ℃の温度範囲でかつ 690〜710℃の温度域の滞留時間が30s未満となる焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理を施す。
【選択図】 図1
【解決手段】Siを0.01〜1.50mass%含有する極低炭素鋼において、特にその成分のうちB,Ti,PおよびN量に関し、次式(3)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
の関係式を満足する範囲に成分調整した鋼材を素材とし、950 〜1300℃で加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取り、酸洗後、50〜95%の圧下率で冷間圧延したのち、連続焼鈍により 700〜950 ℃の温度で再結晶焼鈍を施し、ついで酸洗後、 550〜900 ℃の温度範囲でかつ 690〜710℃の温度域の滞留時間が30s未満となる焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理を施す。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の車体用鋼板等のように、曲げ加工やプレス成形加工、絞り加工などが施される用途に供して好適な、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題による自動車の排気ガス規制などの観点から、燃費向上のために車体の軽量化に対する要請が高まって来ている。また、自動車の安全性向上も重要な課題となっている。
そこで、かような課題の対応策の一つとして、引張り強さが 400 MPa程度以上で、しかも優れたプレス成形性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板が求められている。
【0003】
しかしながら、一般に冷延鋼板は、高強度化に伴って深絞り性すなわちランクフォード値(r値)やTS−Elバランスが劣化し、まためっき特性などの表面特性も劣化する傾向にある。
従って、自動車用鋼板として供するためには、高強度化と共に、深絞り性およびめっき特性を向上させることが重要になる。
【0004】
高強度化に伴う深絞り性の改善策としては、これまでにも各種の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、Cを低減した極低炭素鋼をベースとして、加工性、時効性を改善するために炭窒化物形成成分であるTi,Nbなどを添加すると共に、加工性を害さないSi,Mn,Pで主に高強度化を図ることによって成形性を向上させた高強度冷延鋼板が提案されている。
しかしながら、Siは、r値やElなどを劣化させることなく高強度化を図る上では有用な成分ではあるが、一方で多量のSiを含有させると表面特性の劣化が避け難く、めっき特性が著しく劣化するという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、極低炭素鋼にNbを添加し、さらに高強度化を図るためにSi,Mn,Pを適量添加した鋼を、フェライト域にて潤滑熱延を行うことによってr値を向上させた、高強度冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
この技術によれば、引張り強さが 400 MPa程度以上で、しかも高いr値を有する深絞り用高強度鋼板の製造が可能とはなるものの、熱間圧延時に潤滑圧延を施さなければならないため、圧延時のスリップや噛み込み不良等の問題が発生する。また、上述したSi添加に伴うめっき特性の劣化に関しては、何ら考慮が払われていない。
【0006】
このため、合金化溶融亜鉛めっき用鋼板を高強度化する場合には、特許文献3に開示されているように、Siを0.03%以下に制限し、強化成分として主にP,Mnを用いる方法が一般的であった。
しかしながら、多量のPの添加は、溶融亜鉛めっき鋼板の合金化を遅延させるだけでなく、特に極低炭素鋼においては耐2次加工脆性が劣化するという問題があった。
【0007】
耐2次加工脆性の劣化に関しては、その改善手段としてBを添加する方法が一般的に知られている。
また、特許文献4には、SおよびNの積極的な添加により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐2次加工脆性を改善する技術が開示されている。しかしながら、これらの元素は、スラブ加熱工程〜熱間圧延工程〜巻取り工程において、SはTiSおよびMnS、NはTiN、AlNおよびBN等の化合物を形成する傾向が見られる。特にBNの形成は固溶B量の低下につながり、結果的に耐2次加工脆性の低下を引き起こす。
【0008】
固溶Bを確保する方法としては、特許文献5に、引張り強さが 300 MPa前後の鋼板において、微量Tiによりスラブ加熱段階でNをTiNとして析出固定することで、BNの析出を抑制することが可能である旨が示されている。しかしながら、この方法だけでは、強度確保のためにPを高めた引張り強さが 400 MPa程度以上の鋼板においては、焼鈍後の冷却工程で粒界へのP濃化が助長されるのに伴い、粒界Bが減少する傾向にあることから、2次加工脆化の抑制に十分な効果を上げることができない。
このように、P,Mn,BおよびTiだけで、深絞り性、耐2次加工脆性およびめっき特性を維持しつつ高強度化を図るには限界があった。
【0009】
その他にも、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき特性を改善する技術について、いくつかの提案がなされている。
例えば特許文献6には、P添加鋼板を、焼鈍後、酸洗処理した後に、亜鉛めっきを施すことによって、P添加鋼の合金化速度を向上させ、めっき密着性および耐パウダリング性を改善する旨が示されている。
しかしながら、この技術でも、上述したSi添加鋼におけるめっき特性の改善については何ら考慮が払われていない。
【0010】
【特許文献1】
特開昭63−100158号公報
【特許文献2】
特開平5−339641号公報
【特許文献3】
特開平5−255807号公報
【特許文献4】
特開平10−17994 号公報
【特許文献5】
特公平3−72134 号公報
【特許文献6】
特公平7−9055号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したとおり、現在までのところ、深絞り性やめっき特性の劣化を招くことなしに耐2次加工脆性を有利に改善した高強度溶融亜鉛めっき鋼板は知られてなく、その開発が望まれていた。
本発明は、上記の要請に有利に応えるもので、引張り強さが 400 MPa程度以上で、優れた深絞り性および耐2次加工脆性を有し、さらにはめっき特性にも優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、強化成分としてSi,Mn, P,MoおよびCを活用すると共に、炭化物形成元素としてNb、耐2次加工脆性向上元素としてMo,BおよびTiを添加し、さらにこれらの元素のうち特にB,Ti,PおよびNが所定の関係式を満足するように成分調整を行った鋼を素材とし、熱延後の巻取り温度を高温にすると共に、通常の再結晶焼鈍後、さらに焼鈍を施すいわゆる2回焼鈍法を適用することによって、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.0010〜0.0080%、
Si:0.01〜1.50%、
Mn:1.0 〜3.0 %、
P:0.01〜0.1 %、
S:0.02%以下、
Al:0.005 〜0.20%、
N:0.01%以下、
B:0.0005〜0.0050%、
Mo:0.05〜2.0 %、
Nb:0.001 〜0.20%および
Ti:0.002 〜0.03%
を、下記式(1), (2), (3) を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、 950〜1300℃で加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取り、酸洗後、50〜95%の圧下率で冷間圧延したのち、連続焼鈍により 700〜950 ℃の温度で再結晶焼鈍を施し、ついで酸洗後、 550〜900 ℃の温度範囲でかつ 690〜710 ℃の温度域の滞留時間が30s未満となる焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
0.5 ×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12) −−− (1)
([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32) −−− (2)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
ここで、[%C], [%Nb], [%Ti], [%N], [%S], [%B] および[%P] はそれぞれ、C,Nb, Ti, N, S, BおよびPの含有量(質量%)
【0014】
2.上記1において、鋼スラブが、さらに質量%で
Cu:0.02〜2.0 %および
Ni:0.02〜2.0 %
のうちから選んだ1種または2種を含有する組成になることを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0015】
3.上記1または2おいて、鋼スラブが、さらに質量%で
Sb:0.001 〜0.03%
を含有する組成になることを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0016】
4.上記1,2または3おいて、溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化熱処理を施すことを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の基礎となった実験結果について述べる。
表1に示す成分組成になるシートバーを、1250℃に加熱−均熱後、仕上温度が900 ℃となるように3パス圧延を行って板厚:3.5 mmの熱延板とした後、700 ℃で1時間のコイル巻取り処理を施した。
ついで、酸洗後、80%の圧下率で冷間圧延を施したのち、 850℃で40sの再結晶焼鈍を施し、ついで室温まで冷却し、酸洗後、 750℃で40sの焼鈍を行った。その後 450〜500 ℃の温度域まで急冷したのち、Alを0.13mass%含有する溶融亜鉛めっき浴中に浸漬してめっき処理を施し、その後 450〜550 ℃の温度で合金化処理(めっき層中のFe含有率:約10mass%)を施し、さらに圧下率:0.8 %の調質圧延を施した。
【0018】
【表1】
【0019】
かくして得られた供試材について、以下の方法により耐2次加工脆性を評価した。
板厚:0.7 mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板より50mmφの試験片を打ち抜いたのち、この試験片を24.4mmφの球頭ポンチにて絞り抜き、得られたカップを探さ:21mmの位置で切断したのち、種々の温度(設定温度±5 ℃)に10分間以上保持してから、試験台に横向きに置き、このカップに対して重錘重量:5kg、落下高さ:80cmの落重試験を行い、割れが発生しない最低の温度を脆性遷移温度Tcrとして評価した。
【0020】
上記の方法により得られた結果を、鋼成分より求めた式X= 100×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])とTcrとの関係で、図1に示す。
図1より明らかなように、Tcrと式Xとの間には高い相関関係が有ることが判明した。
【0021】
自動車の走行環境を考慮すると、Tcr≦−45℃が必要と考えられる。この点を考慮してTcrとXとの関係を見ると、X≧0.040 を満足するように成分調整を行うことによって、優れた耐2次加工脆性が得られることが明らかとなった。
好ましくはX≧0.055 の範囲、さらに好ましくはX:0.100 の範囲である。
また、めっき特性に関しては、熱延後の高温巻取り処理後、酸洗し、ついで再結晶焼鈍後、さらに酸洗処理を施すことによって、Si含有量が多い場合であってもめっき特性が有利に改善され、実用上問題のない優れためっき特性が得られることも判明した。
【0022】
ここに、耐2次加工脆性に及ぼす鋼組成の影響については、次のように考えられる。
本発明鋼のような極低炭−P,B,Nb添加鋼の場合、スラブ加熱工程〜熱間圧延工程〜巻取り工程においてBNが生成する傾向にある。また、引き続く酸洗、冷延、再結晶焼鈍、酸洗、焼鈍およびその後の冷却工程において、Pの粒界偏析が促進される。その結果、溶融亜鉛めっき処理後の鋼板においては、粒界脆化要因であるPの粒界偏析量の増加および固溶B量の減少により、耐2次加工脆性が顕著に低下する。
この点、まず固溶NとBの関係が(([%N] − (14/48)[%Ti])/14)/([%B]/11)<0.04、すなわち、[%B] >(19.6[%N] −5.7[%Ti])であれば、スラブ加熱時〜熱延巻取り時にTiNが形成されるため、固溶B量が確保され、添加したBが耐2次加工脆性の向上に有効に寄与する。そして、[%B] が(19.6[%N] −5.7[%Ti])より大きい値であるほど、固溶B量が多くなり、耐2次加工脆性は向上する。
また、粒界偏析元素であるPとBの成分比([%P]/[%B])が小さいほど、粒界脆化が抑制される。このことから、上記のXの値が大きいほど、耐2次加工脆性に対して有利であるものと考えられる。
前掲図1に示した結果は、この考えとよく一致している。
加えて、Mo添加によっても耐2次加工脆性を有利に改善されることが判明した。この理由は、現時点では明らかではないが、MoはPやBの粒界偏析量には影響を与えないことから、Moには粒界偏析したPの粒界脆化への寄与を軽減させる働きがあるものと考えられる。
【0023】
次に、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.0010〜0.0080%
Cは、少ないほど深絞り性が向上するので有利であるが、0.0080%以下であればさほどの悪影響を及ぼさない。一方、0.0010%よりも少なくしてもそれ以上の深絞り性の向上は見られず、かえって引張り強度 400 MPa以上の確保が困難となり、また製鋼コストの上昇を招くことにもなるので、C量は0.0010〜0.0080%の範囲に限定した。
【0024】
Si:0.01〜1.50%
Siは、深絞り性をほとんど劣化させることなく高強度化を達成するのに有用な元素であり、所望の強度に応じて必要量が添加される。しかしながら、含有量が0.01%未満ではその添加効果に乏しく、一方Si量が1.50%を超えると、本発明の2回焼鈍法を適用してもめっき特性が劣化するので、Si量は0.01〜1.50%の範囲に限定した。
なお、本発明は、2回焼鈍法を利用するので、Siを通常よりも多量に含有させることができ、この意味での好適Si量は 0.7〜1.5 %である。
【0025】
Mn:1.0 〜3.0 %
Mnは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量が添加されるが、含有量が 1.0%未満では強度改善効果に乏しく、一方 3.0%を超えると深絞り性の低下を招くので、Mn量は 1.0〜3.0 %の範囲に限定した。
【0026】
P:0.01〜0.1 %
Pは、本発明において重要な元素であり、深絞り性をあまり劣化させずに高強度化を図ることができるため、所望の強度に応じて必要量が添加される。しかしながら、含有量が0.01%未満ではその添加効果に乏しく、一方 0.1%を超えると深絞り性の劣化を招くだけでなく、耐2次加工脆性も劣化させるので、P量は0.01〜0.1 %の範囲に限定した。
【0027】
S:0.02%以下
Sは、少ないほど深絞り性が向上するので極力低減することが望ましいが、含有量が0.02%以下ではさほどの悪影響を及ぼさないので、S量は0.02%以下に限定した。
【0028】
Al:0.005 〜0.20%
Alは、脱酸により、炭窒化物形成元素の歩留りを向上させる有用元素であるが、含有量が 0.005%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.20%を超えて添加してもそれ以上の脱酸効果は得られないので、Al量は 0.005〜0.20%の範囲に限定した。
【0029】
N:0.01%以下
Nは、少ないほど深絞り性が向上するので極力低減することが望ましいが、含有量が0.01%以下ではさほどの悪影響を及ぼさないので、N量は0.01%以下に限定した。
【0030】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、本発明において重要な元素であり、粒界に偏析することによって耐2次加工脆性を改善する効果がある。しかしながら、含有量が0.0005%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.0050%を超えるとその効果は飽和に達し、むしろ深絞り性の劣化につながるので、B量は0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。
【0031】
Mo:0.05〜2.0 %
Moは、めっき性を劣化させることなく高強度化を達成する有用元素であり、さらに耐2次加工脆性の改善にも有用に寄与する。しかしながら、含有量が0.05%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 2.0%を超えるとその効果は飽和に達し、むしろ深絞り性の劣化につながるので、Mo量は0.05〜2.0 %の範囲に限定した。
【0032】
Nb:0.001 〜0.20%かつ 0.5×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12)
Nbは、本発明において重要な元素であり、鋼中の固溶CをNbCとして析出固定して低減し、再結晶焼鈍時に{111}再結晶集合組織を発達させて深絞り性を向上させる効果がある。しかしながら、含有量が 0.001%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.2%を超えると逆に深絞り性を劣化させる。
また、Nb量が 0.5×([%C]/12)より少ないと、鋼中に多量の固溶Cが残留するため再結晶焼鈍時に{111}再結晶集合組織が発達せず、r値が劣化する。一方、Nb量が 4.0×([%C]/12)より多いと固溶Nbが多量に残留するため、熱延板の硬度が上昇し、熱間圧延時の圧延抵抗増大につながる。
従って、Nb量は 0.001〜0.2 %で、かつ次式(1)
0.5 ×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12) −−− (1)
を満足する範囲に限定した。
【0033】
Ti:0.002 〜0.03%かつ([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32)
Tiは、本発明において重要な元素であり、鋼中の固溶N,SをTiN,TiSとして析出固定させて低減し、深絞り性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が 0.002%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.03%を超えたり、([%Ti]/48)> 1.5×([%N]/14+[%S]/32)になると、高温での熱延巻取り時にTiとPの化合物が形成されるため、冷延−焼鈍時に{111}再結晶集合組織の発達が抑制されてr値の低下を招く。従って、Ti量は0.002 〜0.03%でかつ([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32)を満足する範囲に限定した。
【0034】
以上、基本成分について説明したが、本発明では、各成分を上記の範囲に単に調整するだけでは不十分で、基本成分中とくにB,Ti,PおよびNについては、次式(3)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
の範囲を満足させることが重要である。
すなわち、B,Ti,PおよびNは、本発明において重要な元素であり、これらのバランスが耐2次加工脆性へ影響を及ぼす。それは、TiN析出によりBN析出を抑制することで固溶Bを確保し、耐2次加工脆性の向上に有効に寄与するものである。さらに、2回目の焼鈍において 700℃前後の温度域で処理するとPの粒界偏析が促進されるのであるが、かかる偏析もこれらの元素をバランスさせることによって有利に防止することができ、その結果耐2次加工脆性が向上する。しかしながら、B,Ti,PおよびNが前記の範囲を満足していたとしても、100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])<0.040 では、十分な耐2次加工脆性が得られないので、これらの元素は上掲式(3) を満足する範囲に調整するものとした。
【0035】
以上、基本成分について説明したが、この発明ではその他にも必要に応じて、以下の元素を適宜含有させることができる。
Cu:0.02〜2.0 %、Ni:0.02〜2.0 %
CuおよびNiはいずれも、めっき性を劣化させずに強度を向上させる効果を有している。しかしながら、含有量が0.02%未満では添加の効果に乏しく、一方 2.0%を超えて添加すると深絞り性の劣化を招くので、いずれも0.02〜2.0 %の範囲に限定した。
【0036】
Sb:0.001 〜0.03%
Sbは、表面濃化することにより、熱延板焼鈍時における浸窒を効果的に防止して、めっき特性とくに溶融亜鉛めっき後の合金化特性を向上させる働きがある。しかしながら、含有量が 0.001%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.03%を超えて添加してもその効果は飽和に達し、逆に深絞り性の劣化につながるので、Sbは 0.001〜0.03%の範囲に限定した。より好ましくは 0.003〜0.02%の範囲である。
【0037】
次に、本発明の各製造工程について説明する。
(a) 熱間圧延工程
950〜1300℃でスラブを加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取る。
スラブ加熱−均熱温度(SRT):950 〜1300℃
スラブを加熱−均熱処理する場合、処理温度は低い方が固溶C,Nを炭窒化物として析出固定させる上で有利である。従って、スラブ加熱−均熱温度は1300℃以下に限定した。加工性のより一層の向上のためには、1250℃以下とすることが望ましい。しかしながら、処理温度を 950℃よりも低くしても、それ以上の加工性の改善効果は見られず、むしろ熱間圧延時における圧延負荷の増大に伴う圧延トラブルの発生が懸念されるので、処理温度の下限は 950℃とした。
なお、本発明鋼のスラブは、連続鋳造されたものを一旦、Ar3変態点以下まで冷却したものを再加熱しても良いし、またAr3変態点まで冷却されずにそのまま加熱あるいは保熱されたものを使用しても良いのはいうまでもない。
【0038】
熱延圧下率:70%以上
熱間圧延によって熱延板の結晶粒を微細化するためには、熱間圧延時におけるトータル圧下率は70%以上とすることが好ましい。
【0039】
熱間圧延仕上げ温度(FDT):650 〜1000℃
熱間圧延仕上げ温度は、Ar3変態点以上のγ域またはAr3変態点以下の(α+γ)2相域およびα域でもよいが、熱延仕上温度があまりに高いと、熱延板の結晶粒が粗大となり、深絞り性の劣化を招く。一方、低すぎると、熱間圧延時の圧延負荷の増大につながるので、FDTは 650〜1000℃の範囲に限定した。
【0040】
巻取り温度(CT):500 〜850 ℃
熱間圧延後のコイル巻取り温度は、高温ほど前述した炭窒化物の粗大化に有利なだけではなく、特に本発明のように鋼中のSi量を1.50%と高めに許容している場合には、熱延板表層部の地鉄内部に多量の酸化物が形成されてSiの表面濃化を阻止できるので、めっき特性の改善に有利である。ここに、巻取り温度が 500℃未満ではその効果に乏しく、一方 850℃を超えると結晶粒が粗大化しすぎ、逆にr値が低下するので、CTは 500〜850 ℃程度とするのが好ましい。より好ましくは、600 〜800 ℃の範囲である。
【0041】
(b) 冷間圧延工程
上記のようにして得られた熱延鋼板は、酸洗処理を行ったのち、冷間圧延に供する。この酸洗の際、任意の酸洗液を任意の温度で使用しても構わないが、塩酸で表層のSi濃化層を除去することが好ましい。
【0042】
冷延圧下率:50〜95%
この冷延工程は高いr値を得るために必要であり、そのためには冷延圧下率を50%以上とする必要がある。というのは、圧下率が50%に満たないと、優れた深絞り性が得られないからである。しかしながら、圧下率があまりに大きいと逆にr値が低下するので、圧下率の上限は95%程度とすることが好ましい。
【0043】
(c) 連続焼鈍工程
焼鈍温度:700 〜950 ℃
冷間圧延工程を経た冷延鋼板は、再結晶焼鈍を施す必要がある。この再結晶焼鈍は、連続焼鈍ラインで行い、焼鈍温度は 700〜950 ℃とする必要がある。というのは、焼鈍温度が 700℃未満では再結晶が完了しないため、優れた深絞り性が得られず、一方 950℃よりも高いとγ域焼鈍となって深絞り性が劣化するからである。なお、この連続焼鈍工程は、鋼中のSiを表面に濃化させるという目的も有している。
【0044】
(d) 連続溶融亜鉛めっき工程
連続焼鈍工程を経た冷延板は、酸洗を行ったのち、再度焼鈍を施し、その後溶融亜鉛めっきを施す必要がある。酸洗は、通常、連続溶融亜鉛めっきラインにおいて行うが、別ラインで行っても良い。また、任意の酸洗液を任意の温度で使用しても構わないが、塩酸で前述の連続焼鈍工程により表面に生成したSi濃化層を除去するのが好ましい。この連続焼鈍、酸洗工程により、Siを 1.5%まで含有する鋼であっても不めっきの発生を抑えられる。
【0045】
酸洗後、めっき前の焼鈍は、焼鈍温度:550 〜900 ℃で行う。というのは、この焼鈍は、めっき性に悪影響を及ぼすSi, Mn, Al等の表面酸化物を還元する目的を有しているのであるが、焼鈍温度が 550℃未満ではこの効果を得ることができず、めっき特性に悪影響を及ぼし、一方 900℃よりも高い温度域で焼鈍するとγ域焼鈍になり、深絞り性が劣化するからである。より好ましくは 750〜880 ℃である。
また、上記した2回目の焼鈍工程において、 690〜710 ℃の温度域での滞留時間は30s未満とする必要がある。
というのは、この温度域における滞留時間は30s以上になると、Pの結晶粒界への偏析量が増加し、耐2次加工脆性が劣化する不利が生じるからである。ここに、 690〜710 ℃という温度域は、Pの結晶粒界への偏析が促進される温度域である。
なお、この焼鈍における雰囲気は、Si, Mn, Al等を還元する目的から、H2を1〜25 vol%程度含むN2雰囲気とすることが好ましい。
【0046】
上記の焼鈍後は、 380〜530 ℃の温度域に急冷するのが好ましい。というのは、急冷停止温度が 380℃未満では不めっきが発生し易く、一方 530℃超えではめっき表面にむらが発生し易いからである。
【0047】
上記の急冷処理後、引き続いて溶融亜鉛めっき浴中に浸漬してめっきを施す。この時、めっき浴のAl濃度は0.12〜0.145 mass%程度とするのが好ましい。というのは、浴中のAl含有量が0.12mass%未満では合金化が進み過ぎてかえってめっき密着性(耐パウダリング性)が劣化し、一方 0.145mass%を超えると不めっきが発生するからである。
また、上記のめっき処理に引き続いて加熱による合金化を施す場合には、めっき層中のFe含有率が9 〜12mass%程度となるように実施するのが好ましい。
【0048】
なお、上記の溶融亜鉛めっき後、またさらには合金が処理後の鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整のために、圧下率:10%以下程度の調質圧延を加えても良い。
また、本発明鋼板では、亜鉛めっき後、特殊な処理を施して、加成処理性、溶接性、プレス成形性および耐食性等の一層の改善を図ることもできる。
【0049】
【実施例】
表2に示す成分組成になる鋼スラブを、表3に示す製造条件下で、板厚:3.5mmの熱延鋼板とし、ついで酸洗後、冷間圧延にて板厚:0.7mm の冷延鋼板とした。ついで、酸洗後、連続焼鈍ラインにて再結晶焼鈍を施したのち、再度酸洗してから、連続溶融亜鉛めっきラインにて再度焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を施した。なお、連続溶融亜鉛めっきラインにおける焼鈍は、H2:1〜25 vol%を含むN2雰囲気で行い、めっき浴温は 460〜480 ℃、浸入板温はめっき浴温以上、(浴温+10℃)以下とし、また合金化条件は 480〜540 ℃の温度で15〜28秒の加熱保持とした。その後、鋼板に圧下率:0.7 %の調質圧延を施した。
かくして得られた溶融亜鉛めっき鋼板の材料特性およびめっき特性について調べた結果を表4に示す。
【0050】
なお、引張特性はJIS 5 号引張試験片を使用して測定した。
また、r値は15%引張予ひずみを与えた後、3点法にて測定し、L方向(圧延方向)、D方向(圧延方向に対し45度方向)およびC方向(圧延方向に付し90°方向)の平均値を、次式
r=(rL +2rD +rC )/4
より求めた。そして、プレス成形性の観点から、r値≧1.5 を○、r<1.5 を×として評価した。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐2次加工脆性の評価については、実験結果の項に記載の方法にて実施した。合否の判定も同様に、Tcrが−45℃以下の時を○(可)、−45℃超えの時を×(不可)とした。
さらに、めっき特性は、不めっきの発生状況を目視にて判定した。○印は実用上問題のないめっき特性を表す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示したとおり、本発明に従い得られた溶融亜鉛めっき鋼板はいずれも、引張り強さが 400 MPa以上と高く、また耐2次加工脆性は勿論のこと、深絞り性およびめっき特性にも優れていた。
【0055】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、TS≧400 MPa という優れた引張り強さの下で、耐2次加工脆性、深絞り性およびめっき特性の全てに優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】式X= 100×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])と遷移温度(Tcr)との関係を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の車体用鋼板等のように、曲げ加工やプレス成形加工、絞り加工などが施される用途に供して好適な、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題による自動車の排気ガス規制などの観点から、燃費向上のために車体の軽量化に対する要請が高まって来ている。また、自動車の安全性向上も重要な課題となっている。
そこで、かような課題の対応策の一つとして、引張り強さが 400 MPa程度以上で、しかも優れたプレス成形性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板が求められている。
【0003】
しかしながら、一般に冷延鋼板は、高強度化に伴って深絞り性すなわちランクフォード値(r値)やTS−Elバランスが劣化し、まためっき特性などの表面特性も劣化する傾向にある。
従って、自動車用鋼板として供するためには、高強度化と共に、深絞り性およびめっき特性を向上させることが重要になる。
【0004】
高強度化に伴う深絞り性の改善策としては、これまでにも各種の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、Cを低減した極低炭素鋼をベースとして、加工性、時効性を改善するために炭窒化物形成成分であるTi,Nbなどを添加すると共に、加工性を害さないSi,Mn,Pで主に高強度化を図ることによって成形性を向上させた高強度冷延鋼板が提案されている。
しかしながら、Siは、r値やElなどを劣化させることなく高強度化を図る上では有用な成分ではあるが、一方で多量のSiを含有させると表面特性の劣化が避け難く、めっき特性が著しく劣化するという問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、極低炭素鋼にNbを添加し、さらに高強度化を図るためにSi,Mn,Pを適量添加した鋼を、フェライト域にて潤滑熱延を行うことによってr値を向上させた、高強度冷延鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
この技術によれば、引張り強さが 400 MPa程度以上で、しかも高いr値を有する深絞り用高強度鋼板の製造が可能とはなるものの、熱間圧延時に潤滑圧延を施さなければならないため、圧延時のスリップや噛み込み不良等の問題が発生する。また、上述したSi添加に伴うめっき特性の劣化に関しては、何ら考慮が払われていない。
【0006】
このため、合金化溶融亜鉛めっき用鋼板を高強度化する場合には、特許文献3に開示されているように、Siを0.03%以下に制限し、強化成分として主にP,Mnを用いる方法が一般的であった。
しかしながら、多量のPの添加は、溶融亜鉛めっき鋼板の合金化を遅延させるだけでなく、特に極低炭素鋼においては耐2次加工脆性が劣化するという問題があった。
【0007】
耐2次加工脆性の劣化に関しては、その改善手段としてBを添加する方法が一般的に知られている。
また、特許文献4には、SおよびNの積極的な添加により、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐2次加工脆性を改善する技術が開示されている。しかしながら、これらの元素は、スラブ加熱工程〜熱間圧延工程〜巻取り工程において、SはTiSおよびMnS、NはTiN、AlNおよびBN等の化合物を形成する傾向が見られる。特にBNの形成は固溶B量の低下につながり、結果的に耐2次加工脆性の低下を引き起こす。
【0008】
固溶Bを確保する方法としては、特許文献5に、引張り強さが 300 MPa前後の鋼板において、微量Tiによりスラブ加熱段階でNをTiNとして析出固定することで、BNの析出を抑制することが可能である旨が示されている。しかしながら、この方法だけでは、強度確保のためにPを高めた引張り強さが 400 MPa程度以上の鋼板においては、焼鈍後の冷却工程で粒界へのP濃化が助長されるのに伴い、粒界Bが減少する傾向にあることから、2次加工脆化の抑制に十分な効果を上げることができない。
このように、P,Mn,BおよびTiだけで、深絞り性、耐2次加工脆性およびめっき特性を維持しつつ高強度化を図るには限界があった。
【0009】
その他にも、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき特性を改善する技術について、いくつかの提案がなされている。
例えば特許文献6には、P添加鋼板を、焼鈍後、酸洗処理した後に、亜鉛めっきを施すことによって、P添加鋼の合金化速度を向上させ、めっき密着性および耐パウダリング性を改善する旨が示されている。
しかしながら、この技術でも、上述したSi添加鋼におけるめっき特性の改善については何ら考慮が払われていない。
【0010】
【特許文献1】
特開昭63−100158号公報
【特許文献2】
特開平5−339641号公報
【特許文献3】
特開平5−255807号公報
【特許文献4】
特開平10−17994 号公報
【特許文献5】
特公平3−72134 号公報
【特許文献6】
特公平7−9055号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述したとおり、現在までのところ、深絞り性やめっき特性の劣化を招くことなしに耐2次加工脆性を有利に改善した高強度溶融亜鉛めっき鋼板は知られてなく、その開発が望まれていた。
本発明は、上記の要請に有利に応えるもので、引張り強さが 400 MPa程度以上で、優れた深絞り性および耐2次加工脆性を有し、さらにはめっき特性にも優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、強化成分としてSi,Mn, P,MoおよびCを活用すると共に、炭化物形成元素としてNb、耐2次加工脆性向上元素としてMo,BおよびTiを添加し、さらにこれらの元素のうち特にB,Ti,PおよびNが所定の関係式を満足するように成分調整を行った鋼を素材とし、熱延後の巻取り温度を高温にすると共に、通常の再結晶焼鈍後、さらに焼鈍を施すいわゆる2回焼鈍法を適用することによって、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.0010〜0.0080%、
Si:0.01〜1.50%、
Mn:1.0 〜3.0 %、
P:0.01〜0.1 %、
S:0.02%以下、
Al:0.005 〜0.20%、
N:0.01%以下、
B:0.0005〜0.0050%、
Mo:0.05〜2.0 %、
Nb:0.001 〜0.20%および
Ti:0.002 〜0.03%
を、下記式(1), (2), (3) を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、 950〜1300℃で加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取り、酸洗後、50〜95%の圧下率で冷間圧延したのち、連続焼鈍により 700〜950 ℃の温度で再結晶焼鈍を施し、ついで酸洗後、 550〜900 ℃の温度範囲でかつ 690〜710 ℃の温度域の滞留時間が30s未満となる焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
0.5 ×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12) −−− (1)
([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32) −−− (2)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
ここで、[%C], [%Nb], [%Ti], [%N], [%S], [%B] および[%P] はそれぞれ、C,Nb, Ti, N, S, BおよびPの含有量(質量%)
【0014】
2.上記1において、鋼スラブが、さらに質量%で
Cu:0.02〜2.0 %および
Ni:0.02〜2.0 %
のうちから選んだ1種または2種を含有する組成になることを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0015】
3.上記1または2おいて、鋼スラブが、さらに質量%で
Sb:0.001 〜0.03%
を含有する組成になることを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0016】
4.上記1,2または3おいて、溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化熱処理を施すことを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の基礎となった実験結果について述べる。
表1に示す成分組成になるシートバーを、1250℃に加熱−均熱後、仕上温度が900 ℃となるように3パス圧延を行って板厚:3.5 mmの熱延板とした後、700 ℃で1時間のコイル巻取り処理を施した。
ついで、酸洗後、80%の圧下率で冷間圧延を施したのち、 850℃で40sの再結晶焼鈍を施し、ついで室温まで冷却し、酸洗後、 750℃で40sの焼鈍を行った。その後 450〜500 ℃の温度域まで急冷したのち、Alを0.13mass%含有する溶融亜鉛めっき浴中に浸漬してめっき処理を施し、その後 450〜550 ℃の温度で合金化処理(めっき層中のFe含有率:約10mass%)を施し、さらに圧下率:0.8 %の調質圧延を施した。
【0018】
【表1】
【0019】
かくして得られた供試材について、以下の方法により耐2次加工脆性を評価した。
板厚:0.7 mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板より50mmφの試験片を打ち抜いたのち、この試験片を24.4mmφの球頭ポンチにて絞り抜き、得られたカップを探さ:21mmの位置で切断したのち、種々の温度(設定温度±5 ℃)に10分間以上保持してから、試験台に横向きに置き、このカップに対して重錘重量:5kg、落下高さ:80cmの落重試験を行い、割れが発生しない最低の温度を脆性遷移温度Tcrとして評価した。
【0020】
上記の方法により得られた結果を、鋼成分より求めた式X= 100×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])とTcrとの関係で、図1に示す。
図1より明らかなように、Tcrと式Xとの間には高い相関関係が有ることが判明した。
【0021】
自動車の走行環境を考慮すると、Tcr≦−45℃が必要と考えられる。この点を考慮してTcrとXとの関係を見ると、X≧0.040 を満足するように成分調整を行うことによって、優れた耐2次加工脆性が得られることが明らかとなった。
好ましくはX≧0.055 の範囲、さらに好ましくはX:0.100 の範囲である。
また、めっき特性に関しては、熱延後の高温巻取り処理後、酸洗し、ついで再結晶焼鈍後、さらに酸洗処理を施すことによって、Si含有量が多い場合であってもめっき特性が有利に改善され、実用上問題のない優れためっき特性が得られることも判明した。
【0022】
ここに、耐2次加工脆性に及ぼす鋼組成の影響については、次のように考えられる。
本発明鋼のような極低炭−P,B,Nb添加鋼の場合、スラブ加熱工程〜熱間圧延工程〜巻取り工程においてBNが生成する傾向にある。また、引き続く酸洗、冷延、再結晶焼鈍、酸洗、焼鈍およびその後の冷却工程において、Pの粒界偏析が促進される。その結果、溶融亜鉛めっき処理後の鋼板においては、粒界脆化要因であるPの粒界偏析量の増加および固溶B量の減少により、耐2次加工脆性が顕著に低下する。
この点、まず固溶NとBの関係が(([%N] − (14/48)[%Ti])/14)/([%B]/11)<0.04、すなわち、[%B] >(19.6[%N] −5.7[%Ti])であれば、スラブ加熱時〜熱延巻取り時にTiNが形成されるため、固溶B量が確保され、添加したBが耐2次加工脆性の向上に有効に寄与する。そして、[%B] が(19.6[%N] −5.7[%Ti])より大きい値であるほど、固溶B量が多くなり、耐2次加工脆性は向上する。
また、粒界偏析元素であるPとBの成分比([%P]/[%B])が小さいほど、粒界脆化が抑制される。このことから、上記のXの値が大きいほど、耐2次加工脆性に対して有利であるものと考えられる。
前掲図1に示した結果は、この考えとよく一致している。
加えて、Mo添加によっても耐2次加工脆性を有利に改善されることが判明した。この理由は、現時点では明らかではないが、MoはPやBの粒界偏析量には影響を与えないことから、Moには粒界偏析したPの粒界脆化への寄与を軽減させる働きがあるものと考えられる。
【0023】
次に、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.0010〜0.0080%
Cは、少ないほど深絞り性が向上するので有利であるが、0.0080%以下であればさほどの悪影響を及ぼさない。一方、0.0010%よりも少なくしてもそれ以上の深絞り性の向上は見られず、かえって引張り強度 400 MPa以上の確保が困難となり、また製鋼コストの上昇を招くことにもなるので、C量は0.0010〜0.0080%の範囲に限定した。
【0024】
Si:0.01〜1.50%
Siは、深絞り性をほとんど劣化させることなく高強度化を達成するのに有用な元素であり、所望の強度に応じて必要量が添加される。しかしながら、含有量が0.01%未満ではその添加効果に乏しく、一方Si量が1.50%を超えると、本発明の2回焼鈍法を適用してもめっき特性が劣化するので、Si量は0.01〜1.50%の範囲に限定した。
なお、本発明は、2回焼鈍法を利用するので、Siを通常よりも多量に含有させることができ、この意味での好適Si量は 0.7〜1.5 %である。
【0025】
Mn:1.0 〜3.0 %
Mnは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量が添加されるが、含有量が 1.0%未満では強度改善効果に乏しく、一方 3.0%を超えると深絞り性の低下を招くので、Mn量は 1.0〜3.0 %の範囲に限定した。
【0026】
P:0.01〜0.1 %
Pは、本発明において重要な元素であり、深絞り性をあまり劣化させずに高強度化を図ることができるため、所望の強度に応じて必要量が添加される。しかしながら、含有量が0.01%未満ではその添加効果に乏しく、一方 0.1%を超えると深絞り性の劣化を招くだけでなく、耐2次加工脆性も劣化させるので、P量は0.01〜0.1 %の範囲に限定した。
【0027】
S:0.02%以下
Sは、少ないほど深絞り性が向上するので極力低減することが望ましいが、含有量が0.02%以下ではさほどの悪影響を及ぼさないので、S量は0.02%以下に限定した。
【0028】
Al:0.005 〜0.20%
Alは、脱酸により、炭窒化物形成元素の歩留りを向上させる有用元素であるが、含有量が 0.005%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.20%を超えて添加してもそれ以上の脱酸効果は得られないので、Al量は 0.005〜0.20%の範囲に限定した。
【0029】
N:0.01%以下
Nは、少ないほど深絞り性が向上するので極力低減することが望ましいが、含有量が0.01%以下ではさほどの悪影響を及ぼさないので、N量は0.01%以下に限定した。
【0030】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、本発明において重要な元素であり、粒界に偏析することによって耐2次加工脆性を改善する効果がある。しかしながら、含有量が0.0005%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.0050%を超えるとその効果は飽和に達し、むしろ深絞り性の劣化につながるので、B量は0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。
【0031】
Mo:0.05〜2.0 %
Moは、めっき性を劣化させることなく高強度化を達成する有用元素であり、さらに耐2次加工脆性の改善にも有用に寄与する。しかしながら、含有量が0.05%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 2.0%を超えるとその効果は飽和に達し、むしろ深絞り性の劣化につながるので、Mo量は0.05〜2.0 %の範囲に限定した。
【0032】
Nb:0.001 〜0.20%かつ 0.5×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12)
Nbは、本発明において重要な元素であり、鋼中の固溶CをNbCとして析出固定して低減し、再結晶焼鈍時に{111}再結晶集合組織を発達させて深絞り性を向上させる効果がある。しかしながら、含有量が 0.001%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.2%を超えると逆に深絞り性を劣化させる。
また、Nb量が 0.5×([%C]/12)より少ないと、鋼中に多量の固溶Cが残留するため再結晶焼鈍時に{111}再結晶集合組織が発達せず、r値が劣化する。一方、Nb量が 4.0×([%C]/12)より多いと固溶Nbが多量に残留するため、熱延板の硬度が上昇し、熱間圧延時の圧延抵抗増大につながる。
従って、Nb量は 0.001〜0.2 %で、かつ次式(1)
0.5 ×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12) −−− (1)
を満足する範囲に限定した。
【0033】
Ti:0.002 〜0.03%かつ([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32)
Tiは、本発明において重要な元素であり、鋼中の固溶N,SをTiN,TiSとして析出固定させて低減し、深絞り性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が 0.002%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.03%を超えたり、([%Ti]/48)> 1.5×([%N]/14+[%S]/32)になると、高温での熱延巻取り時にTiとPの化合物が形成されるため、冷延−焼鈍時に{111}再結晶集合組織の発達が抑制されてr値の低下を招く。従って、Ti量は0.002 〜0.03%でかつ([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32)を満足する範囲に限定した。
【0034】
以上、基本成分について説明したが、本発明では、各成分を上記の範囲に単に調整するだけでは不十分で、基本成分中とくにB,Ti,PおよびNについては、次式(3)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
の範囲を満足させることが重要である。
すなわち、B,Ti,PおよびNは、本発明において重要な元素であり、これらのバランスが耐2次加工脆性へ影響を及ぼす。それは、TiN析出によりBN析出を抑制することで固溶Bを確保し、耐2次加工脆性の向上に有効に寄与するものである。さらに、2回目の焼鈍において 700℃前後の温度域で処理するとPの粒界偏析が促進されるのであるが、かかる偏析もこれらの元素をバランスさせることによって有利に防止することができ、その結果耐2次加工脆性が向上する。しかしながら、B,Ti,PおよびNが前記の範囲を満足していたとしても、100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])<0.040 では、十分な耐2次加工脆性が得られないので、これらの元素は上掲式(3) を満足する範囲に調整するものとした。
【0035】
以上、基本成分について説明したが、この発明ではその他にも必要に応じて、以下の元素を適宜含有させることができる。
Cu:0.02〜2.0 %、Ni:0.02〜2.0 %
CuおよびNiはいずれも、めっき性を劣化させずに強度を向上させる効果を有している。しかしながら、含有量が0.02%未満では添加の効果に乏しく、一方 2.0%を超えて添加すると深絞り性の劣化を招くので、いずれも0.02〜2.0 %の範囲に限定した。
【0036】
Sb:0.001 〜0.03%
Sbは、表面濃化することにより、熱延板焼鈍時における浸窒を効果的に防止して、めっき特性とくに溶融亜鉛めっき後の合金化特性を向上させる働きがある。しかしながら、含有量が 0.001%未満ではその添加効果に乏しく、一方0.03%を超えて添加してもその効果は飽和に達し、逆に深絞り性の劣化につながるので、Sbは 0.001〜0.03%の範囲に限定した。より好ましくは 0.003〜0.02%の範囲である。
【0037】
次に、本発明の各製造工程について説明する。
(a) 熱間圧延工程
950〜1300℃でスラブを加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取る。
スラブ加熱−均熱温度(SRT):950 〜1300℃
スラブを加熱−均熱処理する場合、処理温度は低い方が固溶C,Nを炭窒化物として析出固定させる上で有利である。従って、スラブ加熱−均熱温度は1300℃以下に限定した。加工性のより一層の向上のためには、1250℃以下とすることが望ましい。しかしながら、処理温度を 950℃よりも低くしても、それ以上の加工性の改善効果は見られず、むしろ熱間圧延時における圧延負荷の増大に伴う圧延トラブルの発生が懸念されるので、処理温度の下限は 950℃とした。
なお、本発明鋼のスラブは、連続鋳造されたものを一旦、Ar3変態点以下まで冷却したものを再加熱しても良いし、またAr3変態点まで冷却されずにそのまま加熱あるいは保熱されたものを使用しても良いのはいうまでもない。
【0038】
熱延圧下率:70%以上
熱間圧延によって熱延板の結晶粒を微細化するためには、熱間圧延時におけるトータル圧下率は70%以上とすることが好ましい。
【0039】
熱間圧延仕上げ温度(FDT):650 〜1000℃
熱間圧延仕上げ温度は、Ar3変態点以上のγ域またはAr3変態点以下の(α+γ)2相域およびα域でもよいが、熱延仕上温度があまりに高いと、熱延板の結晶粒が粗大となり、深絞り性の劣化を招く。一方、低すぎると、熱間圧延時の圧延負荷の増大につながるので、FDTは 650〜1000℃の範囲に限定した。
【0040】
巻取り温度(CT):500 〜850 ℃
熱間圧延後のコイル巻取り温度は、高温ほど前述した炭窒化物の粗大化に有利なだけではなく、特に本発明のように鋼中のSi量を1.50%と高めに許容している場合には、熱延板表層部の地鉄内部に多量の酸化物が形成されてSiの表面濃化を阻止できるので、めっき特性の改善に有利である。ここに、巻取り温度が 500℃未満ではその効果に乏しく、一方 850℃を超えると結晶粒が粗大化しすぎ、逆にr値が低下するので、CTは 500〜850 ℃程度とするのが好ましい。より好ましくは、600 〜800 ℃の範囲である。
【0041】
(b) 冷間圧延工程
上記のようにして得られた熱延鋼板は、酸洗処理を行ったのち、冷間圧延に供する。この酸洗の際、任意の酸洗液を任意の温度で使用しても構わないが、塩酸で表層のSi濃化層を除去することが好ましい。
【0042】
冷延圧下率:50〜95%
この冷延工程は高いr値を得るために必要であり、そのためには冷延圧下率を50%以上とする必要がある。というのは、圧下率が50%に満たないと、優れた深絞り性が得られないからである。しかしながら、圧下率があまりに大きいと逆にr値が低下するので、圧下率の上限は95%程度とすることが好ましい。
【0043】
(c) 連続焼鈍工程
焼鈍温度:700 〜950 ℃
冷間圧延工程を経た冷延鋼板は、再結晶焼鈍を施す必要がある。この再結晶焼鈍は、連続焼鈍ラインで行い、焼鈍温度は 700〜950 ℃とする必要がある。というのは、焼鈍温度が 700℃未満では再結晶が完了しないため、優れた深絞り性が得られず、一方 950℃よりも高いとγ域焼鈍となって深絞り性が劣化するからである。なお、この連続焼鈍工程は、鋼中のSiを表面に濃化させるという目的も有している。
【0044】
(d) 連続溶融亜鉛めっき工程
連続焼鈍工程を経た冷延板は、酸洗を行ったのち、再度焼鈍を施し、その後溶融亜鉛めっきを施す必要がある。酸洗は、通常、連続溶融亜鉛めっきラインにおいて行うが、別ラインで行っても良い。また、任意の酸洗液を任意の温度で使用しても構わないが、塩酸で前述の連続焼鈍工程により表面に生成したSi濃化層を除去するのが好ましい。この連続焼鈍、酸洗工程により、Siを 1.5%まで含有する鋼であっても不めっきの発生を抑えられる。
【0045】
酸洗後、めっき前の焼鈍は、焼鈍温度:550 〜900 ℃で行う。というのは、この焼鈍は、めっき性に悪影響を及ぼすSi, Mn, Al等の表面酸化物を還元する目的を有しているのであるが、焼鈍温度が 550℃未満ではこの効果を得ることができず、めっき特性に悪影響を及ぼし、一方 900℃よりも高い温度域で焼鈍するとγ域焼鈍になり、深絞り性が劣化するからである。より好ましくは 750〜880 ℃である。
また、上記した2回目の焼鈍工程において、 690〜710 ℃の温度域での滞留時間は30s未満とする必要がある。
というのは、この温度域における滞留時間は30s以上になると、Pの結晶粒界への偏析量が増加し、耐2次加工脆性が劣化する不利が生じるからである。ここに、 690〜710 ℃という温度域は、Pの結晶粒界への偏析が促進される温度域である。
なお、この焼鈍における雰囲気は、Si, Mn, Al等を還元する目的から、H2を1〜25 vol%程度含むN2雰囲気とすることが好ましい。
【0046】
上記の焼鈍後は、 380〜530 ℃の温度域に急冷するのが好ましい。というのは、急冷停止温度が 380℃未満では不めっきが発生し易く、一方 530℃超えではめっき表面にむらが発生し易いからである。
【0047】
上記の急冷処理後、引き続いて溶融亜鉛めっき浴中に浸漬してめっきを施す。この時、めっき浴のAl濃度は0.12〜0.145 mass%程度とするのが好ましい。というのは、浴中のAl含有量が0.12mass%未満では合金化が進み過ぎてかえってめっき密着性(耐パウダリング性)が劣化し、一方 0.145mass%を超えると不めっきが発生するからである。
また、上記のめっき処理に引き続いて加熱による合金化を施す場合には、めっき層中のFe含有率が9 〜12mass%程度となるように実施するのが好ましい。
【0048】
なお、上記の溶融亜鉛めっき後、またさらには合金が処理後の鋼板には、形状矯正、表面粗度等の調整のために、圧下率:10%以下程度の調質圧延を加えても良い。
また、本発明鋼板では、亜鉛めっき後、特殊な処理を施して、加成処理性、溶接性、プレス成形性および耐食性等の一層の改善を図ることもできる。
【0049】
【実施例】
表2に示す成分組成になる鋼スラブを、表3に示す製造条件下で、板厚:3.5mmの熱延鋼板とし、ついで酸洗後、冷間圧延にて板厚:0.7mm の冷延鋼板とした。ついで、酸洗後、連続焼鈍ラインにて再結晶焼鈍を施したのち、再度酸洗してから、連続溶融亜鉛めっきラインにて再度焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を施した。なお、連続溶融亜鉛めっきラインにおける焼鈍は、H2:1〜25 vol%を含むN2雰囲気で行い、めっき浴温は 460〜480 ℃、浸入板温はめっき浴温以上、(浴温+10℃)以下とし、また合金化条件は 480〜540 ℃の温度で15〜28秒の加熱保持とした。その後、鋼板に圧下率:0.7 %の調質圧延を施した。
かくして得られた溶融亜鉛めっき鋼板の材料特性およびめっき特性について調べた結果を表4に示す。
【0050】
なお、引張特性はJIS 5 号引張試験片を使用して測定した。
また、r値は15%引張予ひずみを与えた後、3点法にて測定し、L方向(圧延方向)、D方向(圧延方向に対し45度方向)およびC方向(圧延方向に付し90°方向)の平均値を、次式
r=(rL +2rD +rC )/4
より求めた。そして、プレス成形性の観点から、r値≧1.5 を○、r<1.5 を×として評価した。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐2次加工脆性の評価については、実験結果の項に記載の方法にて実施した。合否の判定も同様に、Tcrが−45℃以下の時を○(可)、−45℃超えの時を×(不可)とした。
さらに、めっき特性は、不めっきの発生状況を目視にて判定した。○印は実用上問題のないめっき特性を表す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示したとおり、本発明に従い得られた溶融亜鉛めっき鋼板はいずれも、引張り強さが 400 MPa以上と高く、また耐2次加工脆性は勿論のこと、深絞り性およびめっき特性にも優れていた。
【0055】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、TS≧400 MPa という優れた引張り強さの下で、耐2次加工脆性、深絞り性およびめっき特性の全てに優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】式X= 100×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])と遷移温度(Tcr)との関係を示した図である。
Claims (4)
- 質量%で
C:0.0010〜0.0080%、
Si:0.01〜1.50%、
Mn:1.0 〜3.0 %、
P:0.01〜0.1 %、
S:0.02%以下、
Al:0.005 〜0.20%、
N:0.01%以下、
B:0.0005〜0.0050%、
Mo:0.05〜2.0 %、
Nb:0.001 〜0.20%および
Ti:0.002 〜0.03%
を、下記式(1), (2), (3) を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、 950〜1300℃で加熱−均熱後、 650〜1000℃で熱間圧延を終了したのち、 500〜850 ℃で巻取り、酸洗後、50〜95%の圧下率で冷間圧延したのち、連続焼鈍により 700〜950 ℃の温度で再結晶焼鈍を施し、ついで酸洗後、 550〜900 ℃の温度範囲でかつ 690〜710 ℃の温度域の滞留時間が30s未満となる焼鈍を施したのち、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
0.5 ×([%C]/12)≦([%Nb]/93)≦ 4.0×([%C]/12) −−− (1)
([%Ti]/48)≦ 1.5×([%N]/14+[%S]/32) −−− (2)
100 ×([%B]+5.7[%Ti]−19.6[%N])/([%P]/[%B])≧ 0.040 −−− (3)
ここで、[%C], [%Nb], [%Ti], [%N], [%S], [%B] および[%P] はそれぞれ、C,Nb, Ti, N, S, BおよびPの含有量(質量%) - 請求項1において、鋼スラブが、さらに質量%で
Cu:0.02〜2.0 %および
Ni:0.02〜2.0 %
のうちから選んだ1種または2種を含有する組成になることを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。 - 請求項1または2おいて、鋼スラブが、さらに質量%で
Sb:0.001 〜0.03%
を含有する組成になることを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。 - 請求項1,2または3おいて、溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化処理を施すことを特徴とする、耐2次加工脆性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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JP2009506208A (ja) * | 2005-08-25 | 2009-02-12 | ポスコ | 加工性に優れた亜鉛メッキ用鋼板及びその製造方法 |
CN114000060A (zh) * | 2021-11-10 | 2022-02-01 | 山东钢铁集团日照有限公司 | 一种高强度抗低温冲击含磷高强钢带的生产方法 |
-
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- 2003-02-27 JP JP2003051506A patent/JP2004256895A/ja active Pending
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