JP2004256668A - ポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【発明が解決しようとする課題】潤滑油用分散剤として有用な、本質的に塩素を含有せず、かつ高転化率のポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】ポリオレフィンと無水マレイン酸を有機ラジカル開始剤の存在下に反応させる際に無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を共存させる。
【効果】本方法により得られたポリアルキレンコハク酸無水物は、電荷移動錯体形成によってポリオレフィンの転化率が高く、かつ本質的に塩素を含まないポリアルキレンコハク酸無水物として潤滑油用分散剤の中間体に利用可能である。
【課題を解決するための手段】ポリオレフィンと無水マレイン酸を有機ラジカル開始剤の存在下に反応させる際に無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を共存させる。
【効果】本方法により得られたポリアルキレンコハク酸無水物は、電荷移動錯体形成によってポリオレフィンの転化率が高く、かつ本質的に塩素を含まないポリアルキレンコハク酸無水物として潤滑油用分散剤の中間体に利用可能である。
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は内燃機関用潤滑油の添加剤として用いられる分散剤の中間体として又は分散剤自体として有用であるポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車エンジン等の内燃機関では、運転中に燃料の不完全燃焼や潤滑油の酸化等によってスラッジ、カーボンおよびワニス等の不溶物が発生する。このような不溶物がエンジン内部に堆積し、エンジントラブルが発生するのを防止することを目的として、潤滑油には分散剤と呼ばれる添加剤が加えられている。分散剤は発生したスラッジ、カーボン、ワニス等の不溶物を潤滑油中に可溶化、均一分散化する機能を有しており、このような分散剤としては、現在、ポリアルキレンコハク酸イミド、特にポリイソブテニルコハク酸イミドが多く用いられている。
【0003】
ポリイソブテニルコハク酸イミドは一般に、ポリイソブテニルコハク酸無水物とポリアルキレンアミンの反応により製造される。ポリイソブテニルコハク酸イミドの原料となるポリイソブテニルコハク酸無水物は、米国特許第3361673号に記載の方法のように、ポリイソブチレンと無水マレイン酸の熱的な反応により得ることができる。しかし、本方法は末端基として反応性の高いビニリデン基が多く含まれる特殊な高ビニリデンポリイソブチレンに対してのみ有効な方法であり、一般的なビニリデン末端含有率の低いポリイソブチレンを用いた場合には反応速度が極めて遅く、また転化率が低いといった問題点が指摘されている。
【0004】
反応速度および転化率改善のための有効な方法として、米国特許第3172892号、米国特許第3912764号には塩素存在下でポリイソブチレンに無水マレイン酸を付加させる方法が開示されている。このような塩素存在下で反応させる方法によれば低コストで、反応速度および反応効率が大幅に改善される。
【0005】
しかし、上記の如き塩素を用いた方法によると反応時に有機塩素化物が副生する。生成物中に含まれる塩素含量は0.5〜1%にも達する場合があり、このような副生有機塩素化物は燃焼時に有害な生成物を発生する原因となる等の環境上の問題が指摘されている。そのため、近年では、製品中の含有塩素量が規制される傾向にあり、塩素含有量を削減する方法が各種検討されている。
【0006】
副生有機塩素化物量を低減するための方法としては、例えば特開平7−268102号に記載されているようにポリイソブテニルコハク酸無水物を沃素源または臭素源により処理する方法が提案されている。本方法によってもある程度の塩素量削減は可能であるが、製造工程の複雑化をもたらし、また、完全に残留塩素を消失させることは困難である。
【0007】
特開平7−11275号、特表2000−515176号等には高ビニリデン含量のポリイソブチレンから熱的にポリイソブテニルコハク酸無水物を製造することにより、本質的に有機塩素化物を含まない方法が開示されている。しかし、本方法は前述の通り、特別な製造方法により得られるビニリデン含量の多い高反応性ポリイソブチレンにのみ有効な方法であり、一般的に用いられているビニリデン含量の低いポリイソブチレンは反応性が低く、熱的な反応では機能発現に十分な量の無水マレイン酸を付加することができず、汎用的な方法とは言い難い。
【0008】
また、このような熱的反応による生成物は塩素含有副生物を含むことはないが、反応性の低さを補うために高温条件下で反応を行う必要があり、無水マレイン酸の熱的重合物に起因するタール状副生物が発生する。このようなタール状副生物は反応後の濾過工程等により除去する必要があるが、生成物が高粘度となるため濾過が困難である等の問題が生じる。副生物の抑制についても多く検討されているが未だ有効な方法は見出されていない。
【0009】
更に、本質的に塩素を含まない方法として、米国特許第5286799号、第5319030号、特開昭49−75519および特表平7‐501580には、有機過酸化物の存在下で無水マレイン酸とポリオレフィン(例えばポリイソブチレン)を反応させてポリアルキレンコハク酸無水物を得る方法が開示されている。(特許文献1〜4)
しかし、特表平7‐501580に記載の方法を用いて本願発明者がトレース実験を行ったところ、塩素含有率は低い反面、ポリアルキレンコハク酸無水物への転化率が全般的に低く、実用上十分な機能を発現するための転化率を得ることができないことが分かった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5286799号公報
【0011】
【特許文献2】米国特許第5319030号公報
【0012】
【特許文献3】特開昭49−75519号公報
【0013】
【特許文献4】特表平7‐501580号公報
上記の通り、従来好適に用いられているポリイソブチレンを用いて潤滑油用分散剤を製造する方法において、本質的に有機塩素化物を含有せず、かつ、効率的にポリアルキレンコハク酸無水物を製造する方法は見出されていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は潤滑油用分散剤として有用な、本質的に塩素を含有せず、かつ高転化率のポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリオレフィンと無水マレイン酸を遊離ラジカルの存在下に反応させ、高転化率でポリアルキレンコハク酸無水物を得る方法を検討した結果、ポリオレフィンと無水マレイン酸を有機ラジカル開始剤の存在下に反応させる際に無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を共存させることにより、ポリオレフィンの転化率を高めることが可能であり、かつ、生成物中には電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を含まず、また塩素を含まないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明はポリオレフィン、無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を、無水マレイン酸を遊離ラジカル開始剤の存在下で反応させて得られるポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法に関するものであり、本方法により得られたポリアルキレンコハク酸無水物は、電荷移動錯体形成によってポリオレフィンの転化率が高く、かつ本質的に塩素を含まないポリアルキレンコハク酸無水物として潤滑油用分散剤の中間体に利用可能であることを見出した。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法について具体的に説明する。
【0018】
[ ポリオレフィン ]
本発明におけるポリオレフィンは、生成するポリマーが潤滑油中に可溶であるように充分な数の炭素原子を有しており、一般には炭素数2〜20のオレフィン性モノマーの重合体である。このようなオレフィン性モノマーとしてはエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどを例示することができ、上記の如きモノマーをラジカル開始剤を用いたラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、ルイス酸を用いたカチオン重合など、従来既知の方法を用いて単独もしくは二種以上のモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0019】
本発明のポリオレフィンとしては上記の如き重合体を用いることができるが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、エチレン/αオレフィン共重合体が用いられ、更に好ましくはポリイソブチレンが用いられる。
【0020】
本発明の変性に供するポリオレフィンの分子量は特に規定されないが、好ましくは数平均分子量(Mn)が500〜5,000の範囲であり、更に好ましくは900〜2,500の範囲である。このような数平均分子量は、単分散ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0021】
また、本発明の変性に供するポリオレフィンが含有する炭素−炭素不飽和結合量は、一分子当り平均して0.5個以上であり、好ましくは0.8個以上である。このような炭素−炭素不飽和結合の含有量は滴定法、13C−NMR等の方法により測定することができる。
【0022】
[ 無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物 ]
本発明で用いられる無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ペンタセン、コロネン、キノン、ベンゾキノン、アントラキノン、シクロファンなどの縮合芳香族化合物、トリフェニル、テトラフェニルなどの多環芳香族化合物、およびこれらのニトロ置換体やニトロベンゼンである。また、アニソールなど、ベンゼン環上に置換基を有するアルコキシベンゼンもあげられ、アルコキシ基としては、炭素数1〜3のものがあげられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などを例示することができる。
【0023】
[ 電荷移動錯体 ]
本発明の電荷移動錯体とは、電子移動複合体又は電荷移動複合体とも呼ばれ、電子移動力によって形成された分子化合物である(化学大辞典、共立出版社、昭和51年9月10日発行)。即ち、本発明に於いては、ナフタレン、アニソールをドナー(電子供与体)とし、無水マレイン酸をアクセプター(電子受容体)として、前者から後者へ電子が移動することにより、安定な分子化合物即ち電荷移動錯体が形成される。これまでさまざまな電荷移動錯体が知られているが、本発明のように無水マレイン酸をアクセプターとし、アニソール、ナフタレンをドナーとしてなる電荷移動錯体を遊離ラジカル開始剤の存在下で反応させて得られるポリアルキレンコハク酸無水物に関する報告は知られていなかった。
【0024】
一般に、ドナーおよびアクセプターにより電荷移動錯体が造られると、錯化合物の形成にともない、ドナーまたはアクセプターの各々単体の物理的性質とは異なる特徴的な変化が観測される。例えば、電荷移動錯体の形成によりNMRのシフト値が変化する。これらの変化は、核磁気共鳴装置により確認できる。
【0025】
[ 遊離ラジカル開始剤 ]
本発明は、当該技術分野において周知の遊離ラジカル開始剤を用いることができるが、好ましい遊離ラジカル開始剤は過酸化物型重合開始剤とアゾ型重合開始剤であり必要な場合には、放射線を用いて反応を開始することもできる。
【0026】
過酸化物遊離ラジカル開始剤は有機又は無機のいずれでもよく、有機開始剤は一般式:ROOR’[式中、Rは任意の有機基であり、R’は水素及び任意の有機基から成る群から選択される]で表される。RとR’の両方が有機基であることができ、好ましくはアルキル基、アロイル基又はアシル基であり、これらは必要な場合には例えばハロゲン等のような置換基を有することができる。
【0027】
上記の有機化酸化物型開始剤としては、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、tert−ブチルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジアセチルペルオキシド、アセチルヒドロペルオキシド、ジエチルペルオキシカーボネート、tert−ブチルペルベンゾエート等を例示することができ、好ましくはジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、過酸化ベンゾイルが用いられる。これらの有機過酸化物は単独もしくは二種以上を組み合わせて使用することもできる
α、α’−アゾビスイソブチロニトリルによって代表されるアゾ型化合物も遊離ラジカル開始剤として使用することができる。これらのアゾ化合物は、分子中に−N=N−基を有し、残部が炭化水素基によって満たされ、これらの炭化水素先の少なくとも1つが好ましくは第3級炭素に結合するような化合物として定義される。
【0028】
他の適当なアゾ化合物としては、p−ブロモベンゼンジアゾニウムフルオボレート、p−トリルジアゾアミノベンゼン、p−ブロモベンゼンジアゾニウムヒドロオキシド、アゾメタン及びフェニルジアゾニウムハライド等も例示することができる。
【0029】
開始剤の使用量は当然、選択した開始剤、用いるポリオレフィン及び反応条件に大きく依存する。通常の使用量は反応物質である無水マレイン酸1モルに対して0.001モルから1モルの範囲であり、好ましい量は0.005モルから0.6モルまでの範囲である。
【0030】
[ 反応条件 ]
反応温度は開始剤を分解して、所望の遊離ラジカルを生ずるために充分に高いことが必要であり、使用する遊離基開始剤の種類により異なる。通常、反応温度は80℃〜220℃の範囲であり、好ましくは120℃〜180℃、最も好ましくは140℃〜165℃の範囲である。
【0031】
反応時間は、反応温度に依存するが、通常は20時間以内であり、好ましくは約1〜15時間の範囲である。
【0032】
[ 電荷移動錯体の製造法 ]
本発明の電荷移動錯体は、アクセプター/ドナーのモル比で約0.5〜3.0の範囲にあるものが好ましく、0.8〜1.2の範囲にあるものがさらに好ましい。例えば無水マレイン酸とアニソールによりモル比1.0で形成された電荷移動錯体は、電荷移動錯体の形成にともない黄色に発色し、またNMRスペクトルにおいてシフトすることを確認することができる。無水マレイン酸は重クロロホルム中において二重結合部分のプロトン値は7.022ppmであり、ドナーであるアニソールと電荷移動錯体を形成するとそのシフト値は6.941ppmと高次場側にシフトすることから錯体形成能を確認しいる。
【0033】
本発明の電荷移動錯体は、次のようにして製造できる。例えば、アクセプターとドナーとを必要量ずつ混合、加熱融解することにより容易に製造できる。このとき加熱融解温度は、アクセプターまたはドナーが融解する温度であればよいが、好ましくは40℃から100℃である。本発明によれば、製造に用いるアクセプターとドナーのモル比(アクセプター/ドナー)は0.5〜3.0が好ましく、この範囲で本発明の電荷移動錯体としての性質を示すが、化学的なモル比1.0に近い0.8〜1.2がより好ましい。本発明によれば電荷移動錯体を製造する際に、必要に応じて有機溶媒、例えばアセトンやメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類や、酢酸メチルや酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、あるいは酢酸、プロピオン酸などの有機カルボン酸類などを使用することも可能である。その場合は、本発明の電荷移動錯体が形成された後、必要ならば溶媒を留去することによっても製造することができる。
本発明のポリアルキレンコハク酸無水物におけるアルキレン基1個あたりのコハク酸基数は下記の方法により求められる「コハク酸比」により表される。コハク酸比1.0とはポリアルキレンコハク酸無水物生成物中のポリオレフィンに起因するアルキレン基1個につきコハク酸基が平均1個存在することを意味する。
【0034】
コハク酸比は生成物の全酸価、ポリアルキレンコハク酸無水物生成物中の活性物質分率および出発ポリオレフィンの分子量とから計算することができる。
【0035】
ポリアルキレンコハク酸無水物生成物中の活性物質分率は、反応生成物中に含まれる活性物質の含有量から[式1]により計算される。本反応の生成物は、▲1▼ポリイソブチレンと無水マレイン酸との反応生成物であるポリアルキレンコハク酸無水物、▲2▼未反応のポリオレフィンの混合物であり、これらの内、▲1▼アルケニルコハク酸無水物を活性物質と呼ぶ。本反応においてはポリオレフィンの転化率が高いほど活性物質分率は高い値となり、活性物質分率1.0は転化率100%に等しい。
【0036】
【式1】
【0037】
活性物質分率は、シリカゲルなどの適当な吸着剤を充填したカラムを用いて、例えばヘキサンの如き非極性溶媒を展開溶媒として試料を分別することにより測定することができる。一定量の反応生成物をヘキサンに溶解した後にシリカゲルカラムで分別することにより、未反応のポリオレフィンはヘキサンにより溶出し、コハク酸変性されたポリアルキレンコハク酸無水物はカラムに残留する。続いてTHFなどの極性溶媒を用いて残留物を全て溶出した後に溶媒を真空下で除去し、各フラクション成分の量を秤量することにより、[式2]を用いて活性物質分率が求められる。
【0038】
【式2】
【0039】
分散剤原料として用いた場合、上記の活性物質分率の高いものほど有効成分量が多く、好適な分散剤原料として使用することができる。
【0040】
また、上記の活性物質分率および生成物の全酸価、出発ポリオレフィンの数平均分子量から活性物質当りのコハク酸基含有量であるコハク酸比は次式[式3]によって算出される。
【0041】
【式3】
【0042】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0043】
本実施例中に用いられる数平均分子量(Mn)はテトラヒドロフラン(以下THF)を展開溶媒として用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られたポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0044】
また、本実施例中に用いられる活性物質分率の測定には、シリカゲル(ワコーゲルC−300)を充填剤として用いたカラムクロマトグラフィーを使用し、未反応ポリオレフィン成分と極性基含有成分を分取し(展開溶媒:ヘキサン→THF)、各フラクションの重量から下式により算出した。
【0045】
【式4】
【0046】
[実施例1]
数平均分子量が2,430、分子末端の約10%がメチルビニリデンであるポリイソブチレン200g(0.082モル)を反応容器に入れ、機械攪拌器により700rpmで攪拌しながら160℃まで加熱した。これに16.05g(0.13モル)のジ−tert−ブチルペルオキシド(160℃半減期:約10分)、及びアニソール27.02g(0.25モル)24.5g(0.25モル)の無水マレイン酸の混合物をあらかじめ滴下ろうとにて混合し、65℃にて加熱溶解させ、7時間かけて滴下した。滴下終了後、更に160℃で1時間反応を行った。反応終了後、アニソール、無水マレイン酸を減圧下190℃で除去した。生成物をヘキサンに溶解し、3μmのフィルターでろ過した後、ヘキサンを留去し、減圧乾燥した。
【0047】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物の全酸価は68.9mg−KOH/g、活性物質分率は0.77、コハク酸比は1.74であった。
【0048】
[実施例2]
ポリオレフィンとして、数平均分子量が2,500であり、分子末端の約70%がメチルビニリデンであるポリイソブチレンを用いたこと以外は実施例1と同様に反応を行い、全酸価64.9mg−KOH/g、活性物質分率0.85、コハク酸比1.7のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0049】
[実施例3]
反応温度を180℃に変更したこと以外は実施例1と同様に反応を行い、全酸価56.0mg−KOH/g、活性物質分率0.78、コハク酸比1.6のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0050】
[実施例4]
ドナーをアニソールの代わりにナフタレンに変更したこと以外は実施例1と同様に反応を行い、全酸価53.3mg−KOH/g、活性物質分率0.77、コハク酸比1.5のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0051】
[実施例5]
遊離基開始剤としてジ−t−ブチルペルオキシドの代わりに31.47g(0.13モル)の過酸化ベンゾイル(160℃半減期:1分未満)を用いたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、全酸価62.3mg−KOH/g、活性物質分率0.75、コハク酸比1.85のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0052】
[実施例6]
数平均分子量が2,430、分子末端の約10%がメチルビニリデンであるポリイソブチレン200g(0.082モル)、27.02g(0.25モル)のアニソール、及び24.5g(0.25モル)の無水マレイン酸を反応容器に入れ、200mlのトルエンを加えて還流温度まで加熱した(110℃)。これに、合計32.5g(0.17モル)のα,α´‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、110℃半減期:約3分)を20%トルエン溶液として4時間かけて滴下した。後反応を2時間行った後、アニソール、未反応の無水マレイン酸を減圧留去した。生成物をトルエンに溶解して分液漏斗に入れ、水洗した後、下相を分離し、最後にトルエンを減圧下190℃で除去した。
【0053】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物を分析した結果、全酸価70.6mg−KOH/g、活性物質分率0.72、コハク酸比1.75であった。
【0054】
[実施例7]
数平均分子量が2,500であり、分子末端の約70%がメチルビニリデンであるポリイソブチレンを200g(0.08モル)、無水マレイン酸24.5g(0.25モル)、アニソール27.02g(0.25モル)を反応容器に入れ、200mlのトルエンを加えて、還流温度まで加熱した(110℃)。これに、合計32.5g(0.17モル)のα,α´‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、110℃半減期:約3分)を20%トルエン溶液として4時間かけて滴下した。後反応を2時間行った。後反応を2時間行った後、アニソール、未反応の無水マレイン酸を減圧留去した。生成物をトルエンに溶解して分液漏斗に入れ、水洗した後、下相を分離し、最後にトルエンを減圧下190℃で除去した。
【0055】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物を分析した結果、全酸価68.6mg−KOH/g、活性物質分率0.85、コハク酸比1.80であった。
【0056】
[比較例1]
ドナーであるアニソールを使用しないこと以外は実施例1と同様にして反応を行うことにより、ポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0057】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物を分析した結果、ポリイソブチレンの転化率は低く、活性物質分率0.55であり、全酸価46.9mg−KOH/g、コハク酸比1.9であった。
【産業上の利用分野】
本発明は内燃機関用潤滑油の添加剤として用いられる分散剤の中間体として又は分散剤自体として有用であるポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車エンジン等の内燃機関では、運転中に燃料の不完全燃焼や潤滑油の酸化等によってスラッジ、カーボンおよびワニス等の不溶物が発生する。このような不溶物がエンジン内部に堆積し、エンジントラブルが発生するのを防止することを目的として、潤滑油には分散剤と呼ばれる添加剤が加えられている。分散剤は発生したスラッジ、カーボン、ワニス等の不溶物を潤滑油中に可溶化、均一分散化する機能を有しており、このような分散剤としては、現在、ポリアルキレンコハク酸イミド、特にポリイソブテニルコハク酸イミドが多く用いられている。
【0003】
ポリイソブテニルコハク酸イミドは一般に、ポリイソブテニルコハク酸無水物とポリアルキレンアミンの反応により製造される。ポリイソブテニルコハク酸イミドの原料となるポリイソブテニルコハク酸無水物は、米国特許第3361673号に記載の方法のように、ポリイソブチレンと無水マレイン酸の熱的な反応により得ることができる。しかし、本方法は末端基として反応性の高いビニリデン基が多く含まれる特殊な高ビニリデンポリイソブチレンに対してのみ有効な方法であり、一般的なビニリデン末端含有率の低いポリイソブチレンを用いた場合には反応速度が極めて遅く、また転化率が低いといった問題点が指摘されている。
【0004】
反応速度および転化率改善のための有効な方法として、米国特許第3172892号、米国特許第3912764号には塩素存在下でポリイソブチレンに無水マレイン酸を付加させる方法が開示されている。このような塩素存在下で反応させる方法によれば低コストで、反応速度および反応効率が大幅に改善される。
【0005】
しかし、上記の如き塩素を用いた方法によると反応時に有機塩素化物が副生する。生成物中に含まれる塩素含量は0.5〜1%にも達する場合があり、このような副生有機塩素化物は燃焼時に有害な生成物を発生する原因となる等の環境上の問題が指摘されている。そのため、近年では、製品中の含有塩素量が規制される傾向にあり、塩素含有量を削減する方法が各種検討されている。
【0006】
副生有機塩素化物量を低減するための方法としては、例えば特開平7−268102号に記載されているようにポリイソブテニルコハク酸無水物を沃素源または臭素源により処理する方法が提案されている。本方法によってもある程度の塩素量削減は可能であるが、製造工程の複雑化をもたらし、また、完全に残留塩素を消失させることは困難である。
【0007】
特開平7−11275号、特表2000−515176号等には高ビニリデン含量のポリイソブチレンから熱的にポリイソブテニルコハク酸無水物を製造することにより、本質的に有機塩素化物を含まない方法が開示されている。しかし、本方法は前述の通り、特別な製造方法により得られるビニリデン含量の多い高反応性ポリイソブチレンにのみ有効な方法であり、一般的に用いられているビニリデン含量の低いポリイソブチレンは反応性が低く、熱的な反応では機能発現に十分な量の無水マレイン酸を付加することができず、汎用的な方法とは言い難い。
【0008】
また、このような熱的反応による生成物は塩素含有副生物を含むことはないが、反応性の低さを補うために高温条件下で反応を行う必要があり、無水マレイン酸の熱的重合物に起因するタール状副生物が発生する。このようなタール状副生物は反応後の濾過工程等により除去する必要があるが、生成物が高粘度となるため濾過が困難である等の問題が生じる。副生物の抑制についても多く検討されているが未だ有効な方法は見出されていない。
【0009】
更に、本質的に塩素を含まない方法として、米国特許第5286799号、第5319030号、特開昭49−75519および特表平7‐501580には、有機過酸化物の存在下で無水マレイン酸とポリオレフィン(例えばポリイソブチレン)を反応させてポリアルキレンコハク酸無水物を得る方法が開示されている。(特許文献1〜4)
しかし、特表平7‐501580に記載の方法を用いて本願発明者がトレース実験を行ったところ、塩素含有率は低い反面、ポリアルキレンコハク酸無水物への転化率が全般的に低く、実用上十分な機能を発現するための転化率を得ることができないことが分かった。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5286799号公報
【0011】
【特許文献2】米国特許第5319030号公報
【0012】
【特許文献3】特開昭49−75519号公報
【0013】
【特許文献4】特表平7‐501580号公報
上記の通り、従来好適に用いられているポリイソブチレンを用いて潤滑油用分散剤を製造する方法において、本質的に有機塩素化物を含有せず、かつ、効率的にポリアルキレンコハク酸無水物を製造する方法は見出されていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は潤滑油用分散剤として有用な、本質的に塩素を含有せず、かつ高転化率のポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリオレフィンと無水マレイン酸を遊離ラジカルの存在下に反応させ、高転化率でポリアルキレンコハク酸無水物を得る方法を検討した結果、ポリオレフィンと無水マレイン酸を有機ラジカル開始剤の存在下に反応させる際に無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を共存させることにより、ポリオレフィンの転化率を高めることが可能であり、かつ、生成物中には電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を含まず、また塩素を含まないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明はポリオレフィン、無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を、無水マレイン酸を遊離ラジカル開始剤の存在下で反応させて得られるポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法に関するものであり、本方法により得られたポリアルキレンコハク酸無水物は、電荷移動錯体形成によってポリオレフィンの転化率が高く、かつ本質的に塩素を含まないポリアルキレンコハク酸無水物として潤滑油用分散剤の中間体に利用可能であることを見出した。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法について具体的に説明する。
【0018】
[ ポリオレフィン ]
本発明におけるポリオレフィンは、生成するポリマーが潤滑油中に可溶であるように充分な数の炭素原子を有しており、一般には炭素数2〜20のオレフィン性モノマーの重合体である。このようなオレフィン性モノマーとしてはエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどを例示することができ、上記の如きモノマーをラジカル開始剤を用いたラジカル重合、チーグラー・ナッタ触媒を用いた配位重合、ルイス酸を用いたカチオン重合など、従来既知の方法を用いて単独もしくは二種以上のモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0019】
本発明のポリオレフィンとしては上記の如き重合体を用いることができるが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、エチレン/αオレフィン共重合体が用いられ、更に好ましくはポリイソブチレンが用いられる。
【0020】
本発明の変性に供するポリオレフィンの分子量は特に規定されないが、好ましくは数平均分子量(Mn)が500〜5,000の範囲であり、更に好ましくは900〜2,500の範囲である。このような数平均分子量は、単分散ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0021】
また、本発明の変性に供するポリオレフィンが含有する炭素−炭素不飽和結合量は、一分子当り平均して0.5個以上であり、好ましくは0.8個以上である。このような炭素−炭素不飽和結合の含有量は滴定法、13C−NMR等の方法により測定することができる。
【0022】
[ 無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物 ]
本発明で用いられる無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ペンタセン、コロネン、キノン、ベンゾキノン、アントラキノン、シクロファンなどの縮合芳香族化合物、トリフェニル、テトラフェニルなどの多環芳香族化合物、およびこれらのニトロ置換体やニトロベンゼンである。また、アニソールなど、ベンゼン環上に置換基を有するアルコキシベンゼンもあげられ、アルコキシ基としては、炭素数1〜3のものがあげられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などを例示することができる。
【0023】
[ 電荷移動錯体 ]
本発明の電荷移動錯体とは、電子移動複合体又は電荷移動複合体とも呼ばれ、電子移動力によって形成された分子化合物である(化学大辞典、共立出版社、昭和51年9月10日発行)。即ち、本発明に於いては、ナフタレン、アニソールをドナー(電子供与体)とし、無水マレイン酸をアクセプター(電子受容体)として、前者から後者へ電子が移動することにより、安定な分子化合物即ち電荷移動錯体が形成される。これまでさまざまな電荷移動錯体が知られているが、本発明のように無水マレイン酸をアクセプターとし、アニソール、ナフタレンをドナーとしてなる電荷移動錯体を遊離ラジカル開始剤の存在下で反応させて得られるポリアルキレンコハク酸無水物に関する報告は知られていなかった。
【0024】
一般に、ドナーおよびアクセプターにより電荷移動錯体が造られると、錯化合物の形成にともない、ドナーまたはアクセプターの各々単体の物理的性質とは異なる特徴的な変化が観測される。例えば、電荷移動錯体の形成によりNMRのシフト値が変化する。これらの変化は、核磁気共鳴装置により確認できる。
【0025】
[ 遊離ラジカル開始剤 ]
本発明は、当該技術分野において周知の遊離ラジカル開始剤を用いることができるが、好ましい遊離ラジカル開始剤は過酸化物型重合開始剤とアゾ型重合開始剤であり必要な場合には、放射線を用いて反応を開始することもできる。
【0026】
過酸化物遊離ラジカル開始剤は有機又は無機のいずれでもよく、有機開始剤は一般式:ROOR’[式中、Rは任意の有機基であり、R’は水素及び任意の有機基から成る群から選択される]で表される。RとR’の両方が有機基であることができ、好ましくはアルキル基、アロイル基又はアシル基であり、これらは必要な場合には例えばハロゲン等のような置換基を有することができる。
【0027】
上記の有機化酸化物型開始剤としては、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、tert−ブチルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジアセチルペルオキシド、アセチルヒドロペルオキシド、ジエチルペルオキシカーボネート、tert−ブチルペルベンゾエート等を例示することができ、好ましくはジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、過酸化ベンゾイルが用いられる。これらの有機過酸化物は単独もしくは二種以上を組み合わせて使用することもできる
α、α’−アゾビスイソブチロニトリルによって代表されるアゾ型化合物も遊離ラジカル開始剤として使用することができる。これらのアゾ化合物は、分子中に−N=N−基を有し、残部が炭化水素基によって満たされ、これらの炭化水素先の少なくとも1つが好ましくは第3級炭素に結合するような化合物として定義される。
【0028】
他の適当なアゾ化合物としては、p−ブロモベンゼンジアゾニウムフルオボレート、p−トリルジアゾアミノベンゼン、p−ブロモベンゼンジアゾニウムヒドロオキシド、アゾメタン及びフェニルジアゾニウムハライド等も例示することができる。
【0029】
開始剤の使用量は当然、選択した開始剤、用いるポリオレフィン及び反応条件に大きく依存する。通常の使用量は反応物質である無水マレイン酸1モルに対して0.001モルから1モルの範囲であり、好ましい量は0.005モルから0.6モルまでの範囲である。
【0030】
[ 反応条件 ]
反応温度は開始剤を分解して、所望の遊離ラジカルを生ずるために充分に高いことが必要であり、使用する遊離基開始剤の種類により異なる。通常、反応温度は80℃〜220℃の範囲であり、好ましくは120℃〜180℃、最も好ましくは140℃〜165℃の範囲である。
【0031】
反応時間は、反応温度に依存するが、通常は20時間以内であり、好ましくは約1〜15時間の範囲である。
【0032】
[ 電荷移動錯体の製造法 ]
本発明の電荷移動錯体は、アクセプター/ドナーのモル比で約0.5〜3.0の範囲にあるものが好ましく、0.8〜1.2の範囲にあるものがさらに好ましい。例えば無水マレイン酸とアニソールによりモル比1.0で形成された電荷移動錯体は、電荷移動錯体の形成にともない黄色に発色し、またNMRスペクトルにおいてシフトすることを確認することができる。無水マレイン酸は重クロロホルム中において二重結合部分のプロトン値は7.022ppmであり、ドナーであるアニソールと電荷移動錯体を形成するとそのシフト値は6.941ppmと高次場側にシフトすることから錯体形成能を確認しいる。
【0033】
本発明の電荷移動錯体は、次のようにして製造できる。例えば、アクセプターとドナーとを必要量ずつ混合、加熱融解することにより容易に製造できる。このとき加熱融解温度は、アクセプターまたはドナーが融解する温度であればよいが、好ましくは40℃から100℃である。本発明によれば、製造に用いるアクセプターとドナーのモル比(アクセプター/ドナー)は0.5〜3.0が好ましく、この範囲で本発明の電荷移動錯体としての性質を示すが、化学的なモル比1.0に近い0.8〜1.2がより好ましい。本発明によれば電荷移動錯体を製造する際に、必要に応じて有機溶媒、例えばアセトンやメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類や、酢酸メチルや酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、あるいは酢酸、プロピオン酸などの有機カルボン酸類などを使用することも可能である。その場合は、本発明の電荷移動錯体が形成された後、必要ならば溶媒を留去することによっても製造することができる。
本発明のポリアルキレンコハク酸無水物におけるアルキレン基1個あたりのコハク酸基数は下記の方法により求められる「コハク酸比」により表される。コハク酸比1.0とはポリアルキレンコハク酸無水物生成物中のポリオレフィンに起因するアルキレン基1個につきコハク酸基が平均1個存在することを意味する。
【0034】
コハク酸比は生成物の全酸価、ポリアルキレンコハク酸無水物生成物中の活性物質分率および出発ポリオレフィンの分子量とから計算することができる。
【0035】
ポリアルキレンコハク酸無水物生成物中の活性物質分率は、反応生成物中に含まれる活性物質の含有量から[式1]により計算される。本反応の生成物は、▲1▼ポリイソブチレンと無水マレイン酸との反応生成物であるポリアルキレンコハク酸無水物、▲2▼未反応のポリオレフィンの混合物であり、これらの内、▲1▼アルケニルコハク酸無水物を活性物質と呼ぶ。本反応においてはポリオレフィンの転化率が高いほど活性物質分率は高い値となり、活性物質分率1.0は転化率100%に等しい。
【0036】
【式1】
【0037】
活性物質分率は、シリカゲルなどの適当な吸着剤を充填したカラムを用いて、例えばヘキサンの如き非極性溶媒を展開溶媒として試料を分別することにより測定することができる。一定量の反応生成物をヘキサンに溶解した後にシリカゲルカラムで分別することにより、未反応のポリオレフィンはヘキサンにより溶出し、コハク酸変性されたポリアルキレンコハク酸無水物はカラムに残留する。続いてTHFなどの極性溶媒を用いて残留物を全て溶出した後に溶媒を真空下で除去し、各フラクション成分の量を秤量することにより、[式2]を用いて活性物質分率が求められる。
【0038】
【式2】
【0039】
分散剤原料として用いた場合、上記の活性物質分率の高いものほど有効成分量が多く、好適な分散剤原料として使用することができる。
【0040】
また、上記の活性物質分率および生成物の全酸価、出発ポリオレフィンの数平均分子量から活性物質当りのコハク酸基含有量であるコハク酸比は次式[式3]によって算出される。
【0041】
【式3】
【0042】
【実施例】
以下に、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0043】
本実施例中に用いられる数平均分子量(Mn)はテトラヒドロフラン(以下THF)を展開溶媒として用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られたポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0044】
また、本実施例中に用いられる活性物質分率の測定には、シリカゲル(ワコーゲルC−300)を充填剤として用いたカラムクロマトグラフィーを使用し、未反応ポリオレフィン成分と極性基含有成分を分取し(展開溶媒:ヘキサン→THF)、各フラクションの重量から下式により算出した。
【0045】
【式4】
【0046】
[実施例1]
数平均分子量が2,430、分子末端の約10%がメチルビニリデンであるポリイソブチレン200g(0.082モル)を反応容器に入れ、機械攪拌器により700rpmで攪拌しながら160℃まで加熱した。これに16.05g(0.13モル)のジ−tert−ブチルペルオキシド(160℃半減期:約10分)、及びアニソール27.02g(0.25モル)24.5g(0.25モル)の無水マレイン酸の混合物をあらかじめ滴下ろうとにて混合し、65℃にて加熱溶解させ、7時間かけて滴下した。滴下終了後、更に160℃で1時間反応を行った。反応終了後、アニソール、無水マレイン酸を減圧下190℃で除去した。生成物をヘキサンに溶解し、3μmのフィルターでろ過した後、ヘキサンを留去し、減圧乾燥した。
【0047】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物の全酸価は68.9mg−KOH/g、活性物質分率は0.77、コハク酸比は1.74であった。
【0048】
[実施例2]
ポリオレフィンとして、数平均分子量が2,500であり、分子末端の約70%がメチルビニリデンであるポリイソブチレンを用いたこと以外は実施例1と同様に反応を行い、全酸価64.9mg−KOH/g、活性物質分率0.85、コハク酸比1.7のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0049】
[実施例3]
反応温度を180℃に変更したこと以外は実施例1と同様に反応を行い、全酸価56.0mg−KOH/g、活性物質分率0.78、コハク酸比1.6のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0050】
[実施例4]
ドナーをアニソールの代わりにナフタレンに変更したこと以外は実施例1と同様に反応を行い、全酸価53.3mg−KOH/g、活性物質分率0.77、コハク酸比1.5のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0051】
[実施例5]
遊離基開始剤としてジ−t−ブチルペルオキシドの代わりに31.47g(0.13モル)の過酸化ベンゾイル(160℃半減期:1分未満)を用いたこと以外は、実施例1と同様に反応を行い、全酸価62.3mg−KOH/g、活性物質分率0.75、コハク酸比1.85のポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0052】
[実施例6]
数平均分子量が2,430、分子末端の約10%がメチルビニリデンであるポリイソブチレン200g(0.082モル)、27.02g(0.25モル)のアニソール、及び24.5g(0.25モル)の無水マレイン酸を反応容器に入れ、200mlのトルエンを加えて還流温度まで加熱した(110℃)。これに、合計32.5g(0.17モル)のα,α´‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、110℃半減期:約3分)を20%トルエン溶液として4時間かけて滴下した。後反応を2時間行った後、アニソール、未反応の無水マレイン酸を減圧留去した。生成物をトルエンに溶解して分液漏斗に入れ、水洗した後、下相を分離し、最後にトルエンを減圧下190℃で除去した。
【0053】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物を分析した結果、全酸価70.6mg−KOH/g、活性物質分率0.72、コハク酸比1.75であった。
【0054】
[実施例7]
数平均分子量が2,500であり、分子末端の約70%がメチルビニリデンであるポリイソブチレンを200g(0.08モル)、無水マレイン酸24.5g(0.25モル)、アニソール27.02g(0.25モル)を反応容器に入れ、200mlのトルエンを加えて、還流温度まで加熱した(110℃)。これに、合計32.5g(0.17モル)のα,α´‐アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、110℃半減期:約3分)を20%トルエン溶液として4時間かけて滴下した。後反応を2時間行った。後反応を2時間行った後、アニソール、未反応の無水マレイン酸を減圧留去した。生成物をトルエンに溶解して分液漏斗に入れ、水洗した後、下相を分離し、最後にトルエンを減圧下190℃で除去した。
【0055】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物を分析した結果、全酸価68.6mg−KOH/g、活性物質分率0.85、コハク酸比1.80であった。
【0056】
[比較例1]
ドナーであるアニソールを使用しないこと以外は実施例1と同様にして反応を行うことにより、ポリイソブテニルコハク酸無水物を得た。
【0057】
得られたポリイソブテニルコハク酸無水物を分析した結果、ポリイソブチレンの転化率は低く、活性物質分率0.55であり、全酸価46.9mg−KOH/g、コハク酸比1.9であった。
Claims (3)
- ポリオレフィン、無水マレイン酸を遊離ラジカル開始剤の存在下で反応させて得られるポリアルキレンコハク酸無水物を製造するに当たり、無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物を存在させることを特徴とするポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法。
- ポリオレフィンが数平均分子量500〜5000のポリイソブチレンであり、無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物がアニソール、もしくはナフタレンであり、該芳香族化合物を無水マレイン酸1モルに対して0.001〜50モル用いる請求項1に記載のポリアルキレンコハク酸無水物の製造方法。
- 無水マレイン酸と電荷移動錯体を形成する芳香族化合物が存在することを特徴とする請求項1〜2記載の製造方法によって得られるポリアルキレンコハク酸無水物。
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JP2011517723A (ja) * | 2008-04-14 | 2011-06-16 | シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー | 準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性試薬とから製造した共重合体、それを用いた分散剤、およびその製造方法 |
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-
2003
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