JP2004256322A - シリコン単結晶の製造方法、シリコン単結晶およびシリコン単結晶の引上げ装置 - Google Patents

シリコン単結晶の製造方法、シリコン単結晶およびシリコン単結晶の引上げ装置 Download PDF

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浩三 中村
Takashi Yokoyama
隆 横山
Ryota Suewaka
良太 末若
Akishi Yoshihara
晃史 吉原
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Abstract

【課題】無欠陥の結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅を拡大して、たとえ結晶成長中にV/Gが動的に変化したとしても、成長条件V/Gの制御を容易ならしめ、無欠陥の結晶の取得率を向上させて、結晶の製造コストを低減して、無欠陥のシリコン単結晶を工業的に容易かつ安定して製造することを可能にする。さらに引上げ装置の製造コストを低減する。
【解決手段】シリコン単結晶中の炭素濃度が3×1015atoms/cm 以下になると、無欠陥の結晶が得られる成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)の幅が急激に拡大する。CZ炉2に既存の熱遮蔽体8がCZ炉2の内壁に接触する位置Aに位置決めされ、引き上げられるシリコン単結晶内の炭素濃度を3×1015atoms/cm 以下に低減させる。引上げの工程では、引き上げられるシリコン単結晶からボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除されるように、成長条件V/Gを調整しつつ、シリコン単結晶が引き上げられる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はシリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶に関し、特に、ボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除された無欠陥のシリコン単結晶を製造する方法およびこの製造方法によって製造された無欠陥のシリコン単結晶並びに上記無欠陥のシリコン単結晶を引き上げる装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シリコン結晶はCZ(チョクラルスキー法)によって引上げ成長されることによって製造される。しかしこの結晶成長の過程でグローイン(Grown−in)欠陥(結晶成長時導入欠陥)と呼ばれる結晶欠陥が発生する。
【0003】
近年、半導体回路の高集積化、微細化の進展に伴い、シリコンウェーハのうちデバイスが作成される表層近くには、こうしたグローイン欠陥が存在することが許されなくなってきている。このため無欠陥結晶の製造の可能性が検討されている。デバイスの特性を劣化させる結晶欠陥は、以下の3種類の欠陥である。
【0004】
a) 空孔が凝集して生じるボイド欠陥 ( 空洞 )。
【0005】
b)OSF ( 酸化誘起積層欠陥, Oxidation Induced Stacking Fault )
c) 格子間シリコンが凝集して生じる転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥、I−defect)。
【0006】
無欠陥のシリコン単結晶とは、上記3種の欠陥のいずれも含まないか、実質的に含まない結晶として認識ないしは定義されている。
【0007】
上記3種の欠陥の発生挙動は成長条件によって以下のように変化することが知られている。成長条件はV/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)であり、Gを固定とすれば成長速度Vによって空孔型点欠陥が変化する。
【0008】
i)成長速度Vが速い場合には、シリコン結晶は空孔型点欠陥が過剰となり、ボイド欠陥のみが発生する。
【0009】
ii)成長速度Vを減じると、シリコン結晶の外周付近にリング状にOSF(R−OSF)が発生し、R−OSF部の内側にボイド欠陥が存在する構造となる。
【0010】
iii)成長速度Vを更に減じると、リング状のOSF(R−OSF)の半径は減少し、リング状OSF部の外側に欠陥が存在しない領域が、その外側には転位ループクラスタが生じ、R−OSF部の内側にボイド欠陥が存在する構造となる。
【0011】
iV)さらに成長速度Vを減じると、R−OSF部は消滅し、シリコン結晶全体に転位ループクラスタが存在する構造となる。
【0012】
上述した現象が起こるのは成長速度Vの減少に伴いシリコン結晶が空孔型点欠陥過剰な状態(空孔過剰状態)から格子間シリコン型点欠陥過剰な状態(格子間シリコン過剰状態)へと変化するためであると考えられており、その変化はシリコン結晶の外周部から始まると理解されている。
【0013】
したがって、デバイス回路が作成される表層付近においてグローイン欠陥を含まないシリコンウェーハを得るために、従来より、「結晶の成長条件を制御して、無欠陥の単結晶インゴットを製造する」という手法が試みられ、下記に示すように特許公報により公知となっている。
【0014】
【従来技術1】
後掲する特許文献1には、「結晶の成長条件を制御して、無欠陥の単結晶インゴットを製造する」という上記1) の方法が開示されている。すなわち結晶中の空孔や格子間シリコンが過剰とならないように成長条件V/G (V: 成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配) を制御して、欠陥を含まない結晶を製造するという発明が記載されている。
【0015】
すなわちこの特許文献1には、R−OSF部と転位ループクラスタ発生領域との間に無欠陥(3種の欠陥のいずれも含まない)領域が存在することが記載されている。無欠陥領域は、空孔過剰状態から格子間シリコン過剰状態への遷移領域に対応し、いずれの欠陥も発生し得る過剰量に達していないニュートラル状態に対応する。そこで、結晶の引上げ速度をV(mm/min)とし、シリコンの融点から1300゜Cの間の軸方向の結晶内の温度分布の平均をG(゜C/mm)としたとき、これらの比V/Gが0.20〜0.22mm/゜Cminとなるように制御して結晶を引き上げれば、上述したニュートラルな状態を結晶全体において実現できるとしている。
【0016】
ここで、上記条件に従えば、Gが半径方向に均一であるとすると、例えばG=3.0゜C/mmのとき、引上げ速度Vを、0.63±0.03mm/minにコントロールすればよいことになる。この制御を実現するのは工業的に不可能なことではない。
【0017】
しかし、これは原理上の引上げ速度Vの最大許容幅を意味するに過ぎない。その理由は、通常、Gは半径方向に一様ではないからである。Gが変化することを想定すると引上げ速度Vの許容幅は著しく減少し、Gの半径方向での変化が10%に達したとき、引上げ速度Vの許容幅はゼロとなる。このことは、Gの僅かな均一性の低下でも引上げ速度Vの変化は許容されず上記範囲内に成長条件V/Gを収めることは非常に困難であることを意味する。またV/Gは結晶成長中において動的に変化する。このため成長条件V/Gを許容幅内に収める制御が難しく、無欠陥の結晶の取得率が悪くなり、結晶の製造コストが高コストとなる。したがって実質的には、無欠陥結晶を工業的に安定して製造することは不可能である。
【0018】
【従来技術2】
後掲する特許文献2では、上述したニュートラルな無欠陥領域にも、空孔の優位な無欠陥領域と格子間シリコンが優位な無欠陥領域の2種類があることに着目し、格子間シリコン優位な無欠陥結晶の製造方法を提案している。特許文献2では、Gの結晶の半径方向での変化が、Gmaxを最大値、Gminを最小値として(Gmax−Gmin)/Gmin<20%の範囲内に収まる成長条件であれば、無欠陥結晶が引き上げられるとしているが、この成長条件も実質的には許容幅が狭く、上述した従来技術1と同様に実質的には無欠陥結晶の工業的な製造は不可能であると考えられる。
【0019】
【従来技術3】
後掲する特許文献3では、上述したニュートラルな無欠陥領域を結晶全体にわたり実現するために、固液界面の形状を平滑な状態、つまり固液界面の各部の高さを平均高さの±5mm以内に収めるように結晶を引き上げることを提案している。また平滑な形状の固液界面を得るには、融液への磁場印加が有効であり、特に水平磁場2000ガウス以上であればよいとしている。固液界面の形状をこのように平滑にすることによって、Gが均一となり、結晶の端部におけるGをGedge、結晶の中央におけるGをGcenterとすると、Gedge−Gcenter<0.5゜C/mmというGが一定の均一範囲内に収まり、無欠陥結晶が得られるとしている。
【0020】
しかし固液界面を平滑にすることが直ちにGが均一になることを意味するわけではなく、固液界面を平滑に制御することで無欠陥結晶を工業的に製造することは不可能であると考えられる。
【0021】
【従来技術4】
後掲する特許文献4では、上述したニュートラルな無欠陥領域を結晶全体にわたり実現するために、V/Gが0.16〜0.18mm/゜Cminとなり、かつGedge/Gcenter<1.10となるように制御して結晶を引き上げることを提案している。
【0022】
しかし、この成長条件も実質的には許容幅が狭く、無欠陥の結晶の取得率が悪く、高コストになるおそれがある。
【0023】
【従来技術5】
後掲する本発明者らに係る特許文献5では、固液界面の結晶中心における高さと結晶の周辺位置における高さとの差と、固液界面近傍での結晶外周部の軸方向温度勾配という2つの指標を調整することによって無欠陥の結晶を製造することを提案している。この特許文献5によって、従来まちまちな指標で示されてきた無欠陥結晶の育成条件が上記2つの指標により統一的に整理され、また無欠陥結晶を最も容易に育成できる成長条件を見いだすことが可能になった。
【0024】
しかし最適な育成条件においても成長条件V/Gの許容幅は狭いということも明らかにしている。その狭い許容幅の範囲に成長条件V/Gを制御することは不可能ではないが、無欠陥の結晶の取得率が悪く高コストとなることは避けられない。
【0025】
以上のように上述した従来技術1〜5のいずれも、無欠陥の結晶を得るために、成長速度Vと固液界面近傍の軸方向温度勾配Gとの比V/Gを極めて狭い許容幅内で制御するというものであり、結晶成長中にV/Gが動的に変化することもあいまって、制御が困難で、無欠陥の結晶の取得率は悪く、結晶の製造コストは高コストになり、実質的に無欠陥のシリコン単結晶を工業的に安定して製造することは不可能であった。
【0026】
一方において、多結晶シリコン原料を溶融している工程で、炭素が融液に取り込まれ、引上げられるシリコン単結晶中の炭素濃度が増加するという問題が従来より指摘されている。シリコン単結晶中の炭素濃度が高濃度になると、それによって製造される半導体デバイスの電気的特性に悪影響を与えるとともに、結晶欠陥の原因にもなる。
【0027】
CZ法で育成されるシリコン単結晶中に炭素が含まれる主要な原因はつぎの2つであると考えられている。
【0028】
1)図5に示すように石英るつぼ3aとこれを覆い保持する黒鉛るつぼ3bとの反応によってCOガス12が生じ、COガス12がシリコン融液5に接触することで炭素が融液5に供給される。
【0029】
2)高温に加熱されたCZ炉2内のヒータ9等の黒鉛部材と雰囲気中の微量な酸素との反応によってCOガス12が生じ、COガス12がシリコン融液5に接触することによって炭素が融液5に供給される。
【0030】
CZ炉2内の部材には、ヒータ9等の黒鉛部材が多用されており、これら黒鉛部材は高温に晒されている。このためCZ炉2内でのCOガス12の発生は避けられない。この結果引き上げられるシリコン単結晶中にはある程度の量の炭素が含まれることになる。シリコンウェーハを熱処理したときに生じる酸素析出物の密度は、炭素濃度に依存して増加することが知られている。炭素濃度が1×1016atoms/cm を上回ると、上述した炭素濃度依存の効果が顕著となるため、従来よりシリコン単結晶中の炭素濃度を1×1016atoms/cm 以下に制御する方法が提案されている。また近年、より精密な酸素析出制御が要求されるようになってきているため、さらに低炭素化するための技術が提案されている。
【0031】
シリコン単結晶中の炭素濃度を低減することに関する従来技術として以下に示すものがある。
【0032】
【従来技術6】
後掲する特許文献6には、黒鉛部材からなるるつぼ3b、ヒータ9、シールド(熱遮蔽体8)等にSiC(シリコンカーバイト)を被覆することによってCOガス12の発生を防止して、シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させるという技術が記載されている。
【0033】
【従来技術7】
後掲する特許文献7、8、9、10、11には、CZ炉2内にパージチューブを設けてアルゴンガス7の流量を増やして、COガス12を融液5に向かわせることなく効率的にCZ炉2の外に排気する技術が記載されている。
【0034】
すなわち、CZ炉2内にパージチューブを新設することによって、黒鉛部材からなるるつぼ3b、ヒータ9等から発生するCOガス12がシリコン融液5側に流れて触れることを、パージガスの流れにより有効に防止して、シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させるというものである。
【0035】
【従来技術8】
構成する特許文献12には、CZ炉2内に「るつぼ頂部隔壁手段」を新設して、これにより最も黒鉛部材が高温となりCOガス12の発生が甚だしい原料シリコンの溶融工程において、炉内雰囲気と、原料が収容されたるつぼ3a内の雰囲気とを遮蔽して、シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させるという技術が記載されている。
【0036】
【従来技術9】
後掲する特許文献13、14には、CZ炉2内の黒鉛部材を、SiC、TiC、NbC、TaC、ZrC、BNのいずれかで被覆するとともに、COガス12を排気する専用の通路、排出口を新設して、これによりパージガスの流れを制御し、黒鉛部材からなるるつぼ3b、ヒータ9等から発生するCOガス12がシリコン融液5側に流れて触れることを防止し、シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させるという技術が記載されている。また、この装置構成により、炭素濃度が1×1014atoms/cm にまで低減できると記載されている。
【0037】
しかし、上述した従来技術6〜9のいずれも、CZ炉の部材を新たに被覆したり、パージチューブ、通路、排出口、「るつぼ頂部隔壁手段」を新設したりする必要があり、CZ炉を製造するにあたり製造工数が増加するとともに、部品点数が増加して、高コスト化を招く。
【0038】
【従来技術10】
なお後掲する非特許文献1には、シリコン単結晶中の炭素濃度が高いほど格子間シリコンに関連する欠陥(B欠陥という)の発生が促進されると記載されている。
【0039】
しかし、B欠陥の実体およびB欠陥と転位クラスタ(A欠陥と呼ばれることがある)との関係は、現在も明らかになっていない。また炭素濃度と転位クラスタとの関係についても記載されていない。
【0040】
【特許文献1】
特開平8−3303161号公報
【特許文献2】
特開平11−199387号公報
【特許文献3】
特開平11−79889号公報
【特許文献4】
特開2000−159594号公報
【特許文献5】
特開2001−261495号公報
【特許文献6】
特開昭53−45679号公報
【特許文献7】
特開昭54−119375号公報
【特許文献8】
特開昭56−21758号公報
【特許文献9】
特開昭63−319288号公報
【特許文献10】
特開平2−172884号公報
【特許文献11】
特開平6−16490号公報
【特許文献12】
特開平6−56572号公報
【特許文献13】
特開平5−319976号公報
【特許文献14】
特開平7−89789号公報
【非特許文献1】
A.J.R.de kock and W.M.van de Wijgert,Journal of Crystal Gruwth vol.49(1980)718
【発明が解決しようとする課題】
第1発明は、上述した従来技術1〜5の問題点を解決すべくなされたものであり、無欠陥の結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅を拡大して、たとえ結晶成長中にV/Gが動的に変化したとしても、成長条件V/Gの制御を容易ならしめ、無欠陥の結晶の取得率を向上させて、結晶の製造コストを低減して、無欠陥のシリコン単結晶を工業的に容易かつ安定して製造することを可能にすることを、第1の解決課題とするものである。
【0041】
また第2発明は、上記第1の解決課題を達成することに加えて、上述した従来技術6〜9の問題点を解決すべくなされたものであり、CZ炉の部材を被覆したり新たに部材を新設することなく既存の部材を有効に利用することによって、低炭素化を図るようにして、引上げ装置の製造コストを低減することを第2の解決課題とするものである。
【0042】
【課題を解決するための手段、作用および効果】
第1発明は、第1の解決課題を達成するための製造方法であり、
炭素の濃度を3×1015atoms/cm 以下とし、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整することによって、ボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)を排除した無欠陥のシリコン単結晶を製造する方法であることを特徴とする。
【0043】
第2発明は、第1の解決課題を達成するためのシリコン単結晶であり、
炭素の濃度が3×1015atoms/cm 以下の範囲で、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整することによって、製造されてなる、ボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除された無欠陥のシリコン単結晶であることを特徴とする。
【0044】
第3発明は、第2の解決課題を達成するためのシリコン単結晶引上げ装置であり、
上方よりキャリアガスが供給され下方より排気される単結晶引上げ用チャンバと、前記単結晶引上げ用チャンバ内に設けられ、原料が供給されて原料を溶融するるつぼと、前記るつぼの上方に配置されキャリアガスを前記るつぼ内の融液表面に導く熱遮蔽体とが備えられ、前記るつぼ内の融液からシリコン単結晶を引き上げるようにしたシリコン単結晶の引上げ装置において、
前記熱遮蔽体を、昇降自在とし、
引き上げられるシリコン単結晶内の炭素濃度が3×1015atoms/cm 以下となる位置に、前記熱遮蔽体を位置決めするとともに、
引き上げられるシリコン単結晶からボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除されるように、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整しつつ、シリコン単結晶を引き上げること
を特徴とする。
【0045】
本発明の知見は、シリコン単結晶に含まれる炭素濃度を従来のレベルの濃度よりも低下させると、転位クラスタの発生が抑制されることを見いだした点と、ある一定レベル以下に低減すると転位クラスタの発生が急激に抑制され無欠陥結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅が急激に拡大される点を見いだした点にある。
【0046】
上記従来技術10との関連でいえば、従来技術10にはB欠陥の発生が炭素濃度に依存する点のみが示唆されているが、本発明の知見は、B欠陥が転位クラスタ発生の前駆体であり、シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させることでB欠陥の発生が抑制されこれにより転位クラスタの発生が抑制されて、無欠陥結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅が拡大されることを見いだした点にある。
【0047】
本発明は図1に示される。図1の横軸はシリコン単結晶中の炭素濃度(atoms/cm )であり、縦軸は炭素無添加結晶におけるV/Gの臨界値(V/G)0で規格化した成長条件V/Gを示す。
【0048】
同図1に示すようにシリコン単結晶中の炭素濃度が3×1015atoms/cm以下になると、無欠陥で結晶を製造できる範囲(無欠陥領域)が急激に拡大することがわかる。それによって縦軸の無欠陥の結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅が拡大されることになり、たとえ結晶成長中にV/Gが動的に変化したとしても、成長条件V/Gの制御が容易となり、無欠陥の結晶の取得率が向上し、結晶の製造コストが低減する。この結果、無欠陥のシリコン単結晶を工業的に容易かつ安定して製造することが可能になる。シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させる手段、手法は、上述した従来技術6〜9を適用してもよく、本明細書に開示された技術を適用してもよい。
【0049】
特に第3発明では、図8に示すように、CZ炉2に既存の熱遮蔽体8を利用して炭素濃度の低減が図られる。
【0050】
すなわち熱遮蔽体8が、その上端がCZ炉2の内壁に接触する位置Aに位置される。
【0051】
熱遮蔽体8がA位置に位置決めされると、アルゴンガス7がCOガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8の回りを上下方向に回流する流れは形成されなくなる。すなわちアルゴンガス7は整流され、CZ炉2内で生成されたCOガス12をのせて、CZ炉2の上方から熱遮蔽体8の下方、ヒータ9と黒鉛るつぼ3bとの間を介してCZ炉2の下方より効率よく排気される。このようにアルゴンガス7が整流されることによって、CZ炉2の上部に漂うCOガス12のみならず石英るつぼ3aと黒鉛るつぼ3bとの反応で発生したCOガス12も下方に向かって効率よく排気されるため、溶解中に融液5に取り込まれる炭素の量が図9の場合と比較して格段に減少する。これにより、引き上げられるシリコン単結晶内の炭素濃度を3×1015atoms/cm 以下まで低減することができる。
【0052】
なおアルゴンガス7の整流作用によってガスが効率的に排気されるため、CZ炉2内のシリコンアモルファス等の不純物も炉外に効率よく排出され、炉内の汚染を従来よりも低減できるという副次的な効果も得られる。
【0053】
また熱遮蔽体8をCZ炉2の内壁に接触させた位置Aに位置させているので、ガス流によって熱遮蔽体8が揺動することが抑制され、安定したガスの流れが形成される。
【0054】
引上げの工程では、引き上げられるシリコン単結晶からボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除されるように、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整しつつ、シリコン単結晶が引き上げられる。このとき図1に示すように、シリコン単結晶中の炭素濃度が3×1015atoms/cm 以下になっており、無欠陥の結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅が拡大している。このため、たとえ結晶成長中にV/Gが動的に変化したとしても、成長条件V/Gの制御を容易に行うことができる。
【0055】
第3発明によれば、単結晶引上げ装置1に既存の熱遮蔽体8を利用し、その位置決めを行うだけで、シリコン単結晶中の炭素濃度を3×1015atoms/cm以下にまで低減することができる。このため従来技術6〜9と比較して、単結晶引上げ装置1自体の製造コストを減らすことができるとともに、シリコン単結晶中の炭素濃度を安定して低くすることができる。
【0056】
また本発明としては、熱遮蔽体8をCZ炉2の内壁に接触する位置Aまで上昇させ、必ずしも完全に内壁に接触させる必要はなく、図8と同様なガスの流れが実現できるのであれば、熱遮蔽体8の上端とCZ炉2の内壁とが近接(0〜30mm程度)した状態になっていたとしてもよい。
【0057】
また炭素濃度を定めるパラメータには、熱遮蔽体8の位置以外にるつぼ位置C/Pがあり、るつぼ位置C/Pを変化させることで、炭素濃度を制御することができる。図13の水準▲4▼に示すように(熱遮蔽体8の位置がA、るつぼ位置C/Pが−100mm)、るつぼ位置C/Pをマイナス、つまり黒鉛るつぼ3bの上端をヒータ9の上端よりも下方に位置させることで、シリコン単結晶中の炭素濃度を更に低くすることができる。
【0058】
また炭素濃度を定めるパラメータには、熱遮蔽体8の位置以外にアルゴンガス7の流量があり、アルゴンガス7の流量を変化させることで、炭素濃度を制御することができる。アルゴンガス7の流量を増加させることで、シリコン単結晶中の炭素濃度を更に低下させることができる。
【0059】
または本発明は、溶融工程のうちゲートバルブ11が閉じられた状態のときに、図8ないしは図13(水準▲4▼)ないしは図10(水準▲1▼)で示される位置に、熱遮蔽体8、るつぼ3a、3bを位置決めすることが望ましいが、溶融工程のうちゲートバルブ11が閉じられていない状態のときに、図8ないしは図13(水準▲4▼)ないしは図10(水準▲1▼)で示される位置に、熱遮蔽体8、るつぼ3a、3bを位置決めしてもよい。さらに溶融工程以外の工程で、同様に位置決めを行うようにしてもよい。
【0060】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して実施形態について説明する。
【0061】
図5は実施形態の装置の構成を側面からみた図である。
【0062】
同図5に示すように、実施形態の単結晶引上げ装置1は、単結晶引上げ用チャンバとしてのCZ炉2を備えている。
【0063】
CZ炉2内には、多結晶シリコンの原料を溶融して融液5として収容する石英るつぼ3aが設けられている。石英るつぼ3aの外側は黒鉛るつぼ3bによって覆われている。黒鉛るつぼ3bの外側にあって側方には、石英るつぼ3a内の多結晶シリコン原料を加熱して溶融するヒータ9が設けられている。
【0064】
ヒータ9とCZ炉2の内壁との間には、保温筒13が設けられている。
【0065】
石英るつぼ3aの上方には図示しない引上げ機構が設けられている。溶融が安定化すると、この引上げ機構により種結晶が融液5に浸漬されて融液5からシリコン単結晶のインゴットが引き上げられる。
【0066】
CZ炉2の上方には、ゲートバルブ11が取り付けられている。ゲートバルブ11が閉じられることにより炉2内と外気が遮断され炉2内を真空(たとえば20Torr程度)に維持することができる。
【0067】
単結晶引上げのプロセス(1バッチ)の間で、CZ炉2内には種々の蒸発物が発生する。そこでCZ炉2にはキャリアガスとしてアルゴンガス7が上方より供給され図示しない下方の排気口からポンプによって排気される。これにより炉2内は所定の低圧に減圧されるとともに炉2内の不純物がアルゴンガス7とともに排気され炉2内がクリーンに保たれる。アルゴンガス7の供給流量は1バッチ中の各工程毎に設定される。
【0068】
石英るつぼ3aの容量には限りがあることから、引き上げられるシリコン単結晶の重量に応じて、あるいは引上げ回数に応じて、石英るつぼ3a内に追いチャージやリチャージによって多結晶シリコン原料が追加供給される。石英るつぼ3a内に多結晶シリコン原料を追加供給することで、石英るつぼ1個当たりで製造されるシリコン単結晶の量を増やすことができ、製造コストを低減させることができる。
【0069】
黒鉛るつぼ3bの底には回転軸10が固定されている。シリコン単結晶が引き上げられる際に、石英るつぼ3aは黒鉛るつぼ3bとともに回転軸10によって所定の回転速度で回転する。
【0070】
また回転軸10は鉛直方向に昇降自在であり、石英るつぼ3aを黒鉛るつぼ3bとともに上下動させて任意の位置に移動させることができる。ここでヒータ9の上端に対する黒鉛るつぼ3bの上端の相対距離を、るつぼ位置C/Pと定義する。るつぼ位置C/Pの極性は、ヒータ9の上端よりも黒鉛るつぼ3bの上端が上方に位置した場合をプラス(+)とし、ヒータ9の上端よりも黒鉛るつぼ3bの上端が下方に位置した場合をマイナス(−)とする。
【0071】
石英るつぼ3aの上方にあって、引き上げられるシリコン単結晶の周囲には、略逆円錐台形状の熱遮蔽体(ガス整流筒)8が設けられている。熱遮蔽体8は、種結晶により成長されるシリコン単結晶を、石英るつぼ3a、黒鉛るつぼ3b、融液5、ヒータ9などの高温部で発生する輻射熱から断熱、遮蔽するために設けられている。また熱遮蔽体8は、引き上げられるシリコン単結晶に、炉内で発生した不純物(シリコンアモルファス)等が付着して、単結晶の育成を阻害することを防止する。熱遮蔽体8の下端と融液5の表面との間隙のギャップHの大きさは、シリコン単結晶の成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を制御する上で重要なパラメータである。そこでギャップHの大きさを調整するために、熱遮蔽体8を昇降させる昇降機構が設けられている。この昇降機構により熱遮蔽体8はCZ炉2内で鉛直方向に昇降自在であり、熱遮蔽体8を上下動させて任意の位置に移動させることができる。
【0072】
図6は熱遮蔽体8を斜視的に示す。同図6に示すように、熱遮蔽体8には、上面が平坦となるようにフレーム材として吊り部8aが架け渡されている。この吊り部8aは、たとえばC.C.M(カーボン・カーボンファイバ複合材料)で構成されている。
【0073】
吊り部8aには吊りケーブル14が接続されており、吊りケーブル14によって熱遮蔽体8が吊り下げられている。吊りケーブル14は、たとえばタングステンで構成されている。
【0074】
図7は熱遮蔽体8を昇降させる昇降機構を示している。
【0075】
同図7に示すように吊りケーブル14は巻上ドラム16に巻かれている。巻上ドラム16は駆動モータ16が作動することによって回転される。駆動モータ16は直流の電源21より電気信号線22を介して印加される電圧(たとえば12V)によって作動する。電源21と駆動モータ16との間の電気信号線22には電流制限抵抗20が介在されており、駆動モータ16に流れる電流が制限される。
【0076】
熱遮蔽体8、吊りケーブル14、巻上ドラム16は電気信号線22に電気的に接続されている。また電気信号線22に印加されている電圧を検出する電圧検出器18が設けられている。電圧検出器18にはリレー19が付設されており、このリレー19は、電圧検出器18で検出される電圧が、所定のしきい値(たとえば6V)以下になると、付勢されて、駆動モータ16を停止させる。CZ炉2は接地(アース)されている。
【0077】
図5に示すように、熱遮蔽体8の外径は、保温筒13の上端開口部に応じた大きさに形成されている。熱遮蔽体8が上昇しその端がCZ炉2の内壁に接触したときの位置をA、熱遮蔽体8が位置Aよりも下降して、熱遮蔽体8の下部が保温筒13の開口部に位置したときの位置をB、熱遮蔽体8が位置Bよりも更に下降して、熱遮蔽体8の上部が保温筒13の開口部に位置したときの位置をCとする。
【0078】
熱遮蔽体8は、図8に示すように、CZ炉2内に上方より供給されるアルゴンガス7を、融液5の表面の中央に導き、さらに融液5の表面を通過させて融液5の表面の周縁部に導く。そして、アルゴンガス7は、CZ炉2内で生成されたCOガス12、特にCZ炉2の上部に漂うCOガス12や石英るつぼ3aと黒鉛るつぼ3bが上端で接触する部分Dで生成されたCOガス12を、そのアルゴンガス7の流れにのせて、CZ炉2の下部に設けた排気口から排出させる。
【0079】
また熱遮蔽体8によって融液5の液面上のガス流速が安定化し、融液5から蒸発する酸素を安定な状態に保つことができる。
【0080】
つぎに上述した実施形態装置の動作について説明する。
【0081】
CZ法によるプロセスは概略すると、溶融、溶融安定化、引上げ、冷却、取り出しの各工程からなる。リチャージによる方法ではこのプロセスが繰り返され複数本のシリコン単結晶が引き上げられ、1本シリコン単結晶が引き上げられる毎に、つぎの溶融工程で多結晶シリコン原料の追加供給が行われる。追いチャージによる方法では溶融工程で初期の多結晶シリコン原料を供給しで初期の分が溶融した後に追加分の原料が供給される。リチャージや追いチャージが行われる際にはゲートバルブ11が閉じられる。シリコン単結晶の製造のプロセス中、特に溶融工程でCOガス12が融液5に取り込まれる易く、さらに溶融工程のうちゲートバルブ11が閉じられた状態でCOガス12が融液5に特に取り込まれる易いといわれている。
【0082】
・溶融工程
溶融工程ではゲートバルブ11が閉じられる。そしてゲートバルブ11が閉じられた状態では、熱遮蔽体8は図5に示す位置Aまで上昇される。
【0083】
すなわち図7の昇降機構において駆動モータ17が作動し巻上ドラム16が回転する。これにより吊りケーブル14が上昇し熱遮蔽体8が上昇される。熱遮蔽体8が位置Aに達すると熱遮蔽体8の上端がCZ炉2の内壁に接触する。このため熱遮蔽体8がアースされた状態となり、熱遮蔽体8、吊りケーブル14、巻上ドラム16を介して電気信号線22が接地電位となる。このため電圧検出器18で検出される電圧がしきい値以下となりリレー19が付勢され、駆動モータ17が停止する。このため熱遮蔽体8は、CZ炉2の内壁に接触した位置Aで丁度停止する。
【0084】
なお熱遮蔽体8の吊り部8aは、可撓性のあるC.C.Mで構成されているため、駆動モータ17がオーバーランしたときに吊りケーブル14の撓みを吸収することができる。
熱遮蔽体8が位置Aに位置されたときのガスの流れは図8に示される。従来にあっては熱遮蔽体8は図9に示されるように位置Bに位置されていた。以下図9の対比において図8のガスの流れについて説明する。
【0085】
図9に示すように、通常、溶融工程ではヒータ9からの熱吸収をよくするため、そしてCOガス12の巻き込みを抑制するために、るつぼ位置C/Pを、引上げ工程の位置よりも高く保っている。一方、熱遮蔽体8は多結晶シリコン原料の熔解の熱効率を高める観点からはなるべく低い位置(C位置)に位置させる必要があるが、原料や融液5との接触を回避するために中間の位置Bに位置させるようにしている。この状態では、アルゴンガス7の一部は、CZ炉2内で生成されたCOガス12とともに、CZ炉2の上方から熱遮蔽体8の下方、ヒータ9と黒鉛るつぼ3bとの間を介してCZ炉2の下方より排気されるものの、アルゴンガス7の一部は、COガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8を上下方向に回流する流れを形成する。このためCOガス12が融液5に接触し炭素が融液5に取り込まれる易くなる。
【0086】
これに対して図8に示すように熱遮蔽体8を、その上端がCZ炉2の内壁に接触する位置Aに位置させた場合には、アルゴンガス7がCOガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8の回りを上下方向に回流する流れは形成されない。すなわちアルゴンガス7は整流され、CZ炉2内で生成されたCOガス12をのせて、CZ炉2の上方から熱遮蔽体8の下方、ヒータ9と黒鉛るつぼ3bとの間を介してCZ炉2の下方より効率よく排気される。このようにアルゴンガス7が整流されることによって、CZ炉2の上部に漂うCOガス12のみならず石英るつぼ3aと黒鉛るつぼ3bとの反応で発生したCOガス12も下方に向かって効率よく排気されるため、溶解中に融液5に取り込まれる炭素の量が図9の場合と比較して格段に減少する。
【0087】
これにより、引き上げられるシリコン単結晶内の炭素濃度を3×1015atoms/cm 以下まで低減することができる。
【0088】
なおアルゴンガス7の整流作用によってガスが効率的に排気されるため、CZ炉2内のシリコンアモルファス等の不純物も炉外に効率よく排出され、炉内の汚染を従来よりも低減できるという副次的な効果も得られる。
【0089】
また本実施形態では、熱遮蔽体8をCZ炉2の内壁に接触させた位置Aに位置させているので、ガス流によって熱遮蔽体8が揺動することが抑制され、安定したガスの流れが形成される。
【0090】
・引上げ工程
引上げ工程では、種結晶が融液5に浸漬され種結晶を引き上げることでシリコン単結晶のインゴットが生成される。
【0091】
引上げ工程では、熱遮蔽体8は、本来の機能を果たすことができる位置、つまり石英るつぼ3a内の融液5で発生する輻射熱から、引き上げられるシリコン単結晶を遮蔽できる位置に位置決めされる。溶融工程でA位置に位置されていた場合には、熱遮蔽体8はB位置まで下降される。
【0092】
引上げの工程では、引き上げられるシリコン単結晶からボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除されるように、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整しつつ、シリコン単結晶が引き上げられる。
【0093】
図1の詳細は、後述するが、ここでは図1を用いて、シリコン単結晶中の炭素濃度と引上げの際の成長条件V/Gとの関係について説明する。図1の横軸はシリコン単結晶中の炭素濃度(atoms/cm )であり、縦軸は(V/G)0で規格化した成長条件V/Gである。ここで(V/G)0は、炭素無添加結晶におけるV/Gの臨界値つまり極微量炭素条件でのニュートラルな状態を表すV/G値である。
【0094】
同図1に示すようにシリコン単結晶中の炭素濃度が3×1015atoms/cm以下になると、無欠陥で結晶を製造できる範囲(無欠陥領域)が急激に拡大することがわかる。それによって縦軸の無欠陥の結晶が得られる成長条件V/Gの許容幅が拡大される。このため、たとえ結晶成長中にV/Gが動的に変化したとしても、引上げ速度Vの許容幅が大きく、成長条件V/Gの制御が容易となる。
【0095】
このため無欠陥のシリコン単結晶の取得率が向上し、無欠陥のシリコン単結晶の製造コストが低減する。この結果、無欠陥のシリコン単結晶を工業的に容易かつ安定して製造することが可能になる。たとえばICおよびLSIの基板として優れたシリコンウェーハを高い歩留まりで製造することができるとともに、ICおよびLSIの製造工程には欠かせないパーティクルモニタ用シリコンウェーハを安価に製造することができる。
【0096】
また本実施形態によれば、単結晶引上げ装置1に既存の熱遮蔽体8を利用し、その位置決めを行うだけで、COガス12が融液5に取り込まれないアルゴンガス7の流れを安定して形成することができ、COガス12を効率よく炉外に排出することができる。このため従来技術6〜9と比較して、単結晶引上げ装置1自体の製造コストを減らすことができるとともに、シリコン単結晶中の炭素濃度を安定して低くすることができる。
【0097】
上述した説明では、熱遮蔽体8をCZ炉2の内壁に接触する位置Aまで上昇させているが、必ずしも完全に接触させる必要はなく、図8と同様なガスの流れが実現できるのであれば、熱遮蔽体8の上端とCZ炉2の内壁との距離が0〜30mm程度に近接した距離になっていたとしてもよい。
【0098】
また上述した説明では、るつぼ位置C/Pが通常(従来)の溶融工程と同じ位置(図9と同じ位置)であるものとして説明したが、回転軸10を下降させて、るつぼ位置C/Pを通常(従来)の溶融工程よりも低い位置まで下降させて、更にシリコン単結晶中の炭素濃度を低下させてもよい。
【0099】
また上述した説明では、アルゴンガス7の流量については言及しなかったが、アルゴンガス7の流量を通常(従来)の溶融工程で設定される流量よりも増加させることで、更にシリコン単結晶中の炭素濃度を低下させてもよい。
【0100】
図17は、熱遮蔽体8が位置Aに位置されている状態で、るつぼ位置C/P(mm)、アルゴンガス7の流量(L/min)を変化させたときのシリコン単結晶中の炭素濃度(atoms/cm)を示した表である。同図17に示すように。るつぼ位置C/Pをマイナスの位置にするか、ガス流量を増加することで炭素濃度の低減が図られることが確認された。るつぼ位置C/Pを−70(mm)まで下げ、アルゴンガス7の流量を120(L/min)まで増加させたときに炭素濃度が0.01×1017atoms/cm となり、最も炭素濃度が減っているのがわかる。
【0101】
つぎに熱遮蔽体8の位置、るつぼ位置C/Pと、ガスの流れ、炭素濃度との関係について図10〜図15を参照して説明する。図16は図10〜図15の各水準▲1▼〜▲6▼に対応させて熱遮蔽体8の位置、るつぼ位置C/P、炭素濃度の低い順位((1)〜(6))を表で示している。図16に示すように、図13の水準▲4▼→図10の水準▲1▼→図15の水準▲6▼→図12の水準▲3▼→図14の水準▲5▼→図11の水準▲2▼の順番にシリコン単結晶中の炭素濃度が高くなった。以下炭素濃度が低い順にガスの流れと炭素濃度との関係について説明する。
【0102】
図13は、熱遮蔽体8が位置Aに位置決めされ、るつぼ位置C/Pが−100(mm)に位置決めされた水準▲4▼のガスの流れを示している。同図13に示すように、水準▲4▼では、アルゴンガス7がCOガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8の回りを上下方向に回流する流れは形成されていない。すなわちアルゴンガス7は整流化されている。図13の水準▲4▼は全ての水準の中で最もガス流れが層流化しており、石英るつぼ3a内で内側に巻き込む渦も形成されていない。このため水準▲4▼は全ての水準の中で最も炭素濃度が低くなっている(炭素濃度順位(1))。
【0103】
図10は、熱遮蔽体8が位置Aに位置決めされ、るつぼ位置C/Pが23(mm)に位置決めされた水準▲1▼のガスの流れを示している。同図10に示すように、水準▲1▼では、アルゴンガス7がCOガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8の回りを上下方向に回流する流れは形成されていない。すなわちアルゴンガス7は整流化されている。しかし図10の水準▲1▼は図13の水準▲4▼と比較して石英るつぼ3a内で内側に巻き込む渦が形成されている。このため図13の水準▲4▼よりも炭素濃度の低減の効果が低くなっている(炭素濃度順位(2))。
【0104】
図15は、熱遮蔽体8が位置Cに位置決めされ、るつぼ位置C/Pが−100(mm)に位置決めされた水準▲6▼のガスの流れを示している。同様に図12は、熱遮蔽体8が位置Cに位置決めされ、るつぼ位置C/Pが23(mm)に位置決めされた水準▲3▼のガスの流れを示している。
【0105】
これら図15、図12に示すように、水準▲6▼、▲3▼では、アルゴンガス7がCOガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8の回りを上下方向に回流する流れは形成されていない。すなわちアルゴンガス7は整流化されている。ガスの流れとしては層流的であるといえるが、融液5の上方からガスが舞い上がり熱遮蔽体8の内側をとおり熱遮蔽体8の上方に逆流するガスの流れが形成されているため、水準▲4▼、▲1▼よりも炭素濃度の低減の効果が低くなっている(水準▲6▼は炭素濃度順位(3)、水準▲3▼は炭素濃度順位(4))。なお、熱遮蔽体8がC位置に位置決めされると熱遮蔽体8の上部が保温筒13と開口部と接触し、炭素が発生するおそれがある。このため炭素の発生要因を少なくするためにも熱遮蔽体8をC位置に位置決めするのは望ましくない。
【0106】
図14は、熱遮蔽体8が位置Bに位置決めされ、るつぼ位置C/Pが−100(mm)に位置決めされた水準▲5▼のガスの流れを示している。同様に図11は、熱遮蔽体8が位置Bに位置決めされ、るつぼ位置C/Pが23(mm)に位置決めされた水準▲2▼のガスの流れを示している。
【0107】
これら図14、図11に示すように、水準▲5▼、▲2▼では、アルゴンガス7がCOガス12とともに、熱遮蔽体8の外側から熱遮蔽体8の上端、内側を介して融液5に向かう流れ、つまり熱遮蔽体8の回りを上下方向に回流する流れが形成されている。すなわちアルゴンガス7は整流化されていない。このためCOガス12が融液5に取り込まれやすく、炭素濃度が高くなっている(水準▲5▼は炭素濃度順位(5)、水準▲2▼は炭素濃度順位(6))。
【0108】
なお上記各水準▲1▼〜▲6▼それぞれについてアルゴンガス7を流量を80(L/min)から100(L/min)に増加させたところ、流量を増加させた場合の方が各水準で炭素濃度が低くなるという結果を得た。
【0109】
以上のことから、シリコン単結晶中の炭素濃度に影響を与えるパラメータには、熱遮蔽体8の位置、るつぼ位置C/P、アルゴンガス7の流量があり、図13(水準▲4▼)に示すように、熱遮蔽体8の位置をCZ炉2の内壁に接触する位置AかCZ炉2の内壁に近接させた位置に位置させ、かつるつぼ位置C/Pをマイナスの位置つまり黒鉛るつぼ3bの上端がヒータ9の上端よりも下方にある位置に位置させ、更にアルゴンガス7の流量を増加させることで、炭素濃度を最も低下させることができることがわかった。ただし重要なパラメータは、熱遮蔽体8の位置であり、図13(水準▲4▼)、図10(水準▲1▼)に示すように、るつぼ位置C/Pに関係なく、熱遮蔽体8の位置をCZ炉2の内壁に接触する位置AかCZ炉2の内壁に近接させた位置に位置させることで、炭素濃度を低下させることができることがわかった。
【0110】
なお上述した説明では、溶融工程のうちゲートバルブ11が閉じられた状態のときに、図8ないしは図13(水準▲4▼)ないしは図10(水準▲1▼)で示される位置に、熱遮蔽体8、るつぼ3a、3bが位置決めされる場合を想定したが、溶融工程のうちゲートバルブ11が閉じられていない状態のときに、図8ないしは図13(水準▲4▼)ないしは図10(水準▲1▼)で示される位置に、熱遮蔽体8、るつぼ3a、3bを位置決めしてもよい。さらに溶融工程以外の工程で、同様に位置決めを行うようにしてもよい。
【0111】
シリコン単結晶中の炭素濃度を低下させる手段、手法は、上述した従来技術6〜9を併用してもよい。たとえば黒鉛るつぼ3b、ヒータ9、熱遮蔽体8などの高温に晒される黒鉛部材をSiCで被覆して、COガス12の発生自体を抑制してもよい。
【0112】
つぎに図1〜図4を用いてシリコン単結晶中の炭素濃度と成長条件V/Gとの関係について考察する。
【0113】
図2は、石英るつぼ3aの直径が22インチの単結晶引上げ装置1を用いて、結晶の直径が200mmで炭素濃度が3×1015atoms/cm のシリコン単結晶を引き上げた場合の実験結果であり、成長速度Vを変化させたときの結晶内の欠陥種の分布を示している。実験では成長速度Vを徐々に低下させてシリコン単結晶を得た。図3は、炭素濃度を図2よりも6×1014atoms/cm と更に低下させた他は、図2と同じ条件で結晶内の欠陥種の分布を調べた結果を示している。
【0114】
図2、図3の横軸は成長速度V(mm/min)であり、縦軸は結晶の中心からの距離(半径方向位置)(mm)である。
【0115】
実験では結晶の各位置における欠陥種の分布を、酸素析出熱処理後の X線トポグラフ法、銅デコレーション後の X 線トポグラフ法、Secco エッチング法の併用により、判定、評価した。図2のシリコン単結晶中の炭素濃度(3×1015atoms/cm )は、厚さ2mmのサンプルを用いて、FTIR法により測定した。また図3のシリコン単結晶中の炭素濃度(6×1014atoms/cm )は、放射化分析により評価、測定した。
【0116】
図2、図3に示すように、横軸位置、縦軸位置に対応させて各欠陥種が顕れる。それらはボイド欠陥が顕れるボイド欠陥領域であり、OSFのリングであるR−OSFが顕れるOSFリング領域であり、転位クラスタが顕れる転位クラスタ領域である。無欠陥結晶が得られる無欠陥領域は、転位クラスタ領域とボイド欠陥領域との間に顕れる。無欠陥領域は空孔型無欠陥領域と格子間シリコン型無欠陥領域とに分けられ、それらのニュートラルな境界は破線で示している。
【0117】
図2と図3を比較すると、図2よりも炭素濃度が低く極低炭素濃度(6×1014atoms/cm )となっている図3の方が、無欠陥領域に対応する成長速度Vの幅が著しく拡大しているのがわかる。図2では結晶の半径方向の全領域で無欠陥となるような成長速度Vは存在せず、成長速度Vを一定とすれば必ずいずれかの欠陥が結晶の半径方向のどこかには存在することになる。しかし図3では極低炭素化によって無欠陥領域に対応する成長速度Vの幅が著しく拡大されており、成長速度Vを多少変化させたとしても結晶の半径方向の全領域で無欠陥となる。
【0118】
つぎに炭素濃度と欠陥種との関係を調べるために、炭素濃度がそれぞれ6×1014atoms/cm3、 、1×1015atoms/cm 、3×1015atoms/cm 、 6×1016atoms/cm のシリコン単結晶を育成し、図2、図3に示す実験と同様な評価を行った。ここで高炭素濃度6×1016atoms/cm のシリコン単結晶は、炭素を故意にドープすることで取得したものであり、低炭素濃度6×1014atoms/cm、1×1015atoms/cm のシリコン単結晶は、図5に示す実施形態装置1を用いCOガス12を効率的に排出することよって取得したものである。
【0119】
図4に示す表は実験結果を示しており、各炭素濃度に対応させて各欠陥種が変化する境界における(V/G)/(V/G)0値を示している。図4では、低成長速度V側のOSF境界α、ニュートラル位置β、転位クラスタ発生境界γの(V/G)/(V/G)0値を示している。ここで低成長速度V側のOSF境界αとはOSFリング領域と無欠陥領域との境界のことであり、ニュートラル位置βとは無欠陥領域中で空孔型無欠陥領域と格子間シリコン型無欠陥領域とを分ける境界のことであり、転位クラスタ発生境界γとは無欠陥領域と転位クラスタ領域との境界のことである。
【0120】
なお(V/G)/(V/G)0は、前述したようにV/G0で規格化した成長条件V/Gであり、V/G0は極微量炭素条件でのニュートラル状態を表すV/G値である。Gは前述した本発明者らに係る特許文献5に開示された方法を用いて計算により求めた。
【0121】
図1は、図4に表として示される実験結果を、炭素濃度(atoms/cm )、規格化した成長条件(V/G)/(V/G)0に対応させて欠陥種の分布として表したものである。前述したようにシリコン単結晶中の炭素濃度が3×1015atoms/cm 以下になると急激に、無欠陥のシリコン単結晶が得られる成長条件V/Gの幅が拡大しているのがわかる。
【0122】
なお上述した説明では、図5に示す引上げ装置1を用い効率的にCOガス12を排出することにより炭素濃度を3×1015atoms/cm 以下に低下させているが、この技術を適用することなく従来技術6〜9に示される従来技術のみを適用して炭素濃度を低下させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は炭素濃度と成長条件とに対応させて欠陥種の分布を表したグラフである。
【図2】図2は成長速度(引上げ速度)と結晶の中心からの距離とに対応させて欠陥種の分布を表したグラフであり、炭素濃度が3×1015atoms/cm の場合のグラフである。
【図3】図3は成長速度(引上げ速度)と結晶の中心からの距離とに対応させて欠陥種の分布を表したグラフであり、炭素濃度が6×1014atoms/cm の場合のグラフである。
【図4】図4は各炭素濃度に対応させて各欠陥種が変化する境界における(V/G)/(V/G)0値を示した表である。
【図5】図5は実施形態の装置構成を示す側面図である。
【図6】図6は熱遮蔽体の斜視図である。
【図7】図7は熱遮蔽体を昇降させる機構を示す図である。
【図8】図8は実施形態のガスの流れを示す図である。
【図9】図9は従来のガスの流れを示す図である。
【図10】図10は水準▲1▼の位置決めがなされたときのガスの流れを示す図である。
【図11】図11は水準▲2▼の位置決めがなされたときのガスの流れを示す図である。
【図12】図12は水準▲3▼の位置決めがなされたときのガスの流れを示す図である。
【図13】図13は水準▲4▼の位置決めがなされたときのガスの流れを示す図である。
【図14】図14は水準▲5▼の位置決めがなされたときのガスの流れを示す図である。
【図15】図15は水準▲6▼の位置決めがなされたときのガスの流れを示す図である。
【図16】図16は図10〜図15の各水準▲1▼〜▲6▼に対応させて、熱遮蔽体の位置、るつぼ位置と炭素濃度の低い順位((1)〜(6))を示した表である。
【図17】図17はガス流量とるつぼ位置と炭素濃度との関係を示した表である。
【符号の説明】
1 単結晶引上げ装置
2 単結晶引上げ用チャンバ(CZ炉)
3a 石英るつぼ
3b 黒鉛るつぼ
5 融液
7 アルゴンガス
9 ヒータ
10 回転軸
11 ゲートバルブ
12 COガス

Claims (3)

  1. 炭素の濃度を3×1015atoms/cm 以下とし、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整することによって、ボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)を排除した無欠陥のシリコン単結晶を製造する方法。
  2. 炭素の濃度が3×1015atoms/cm 以下の範囲で、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整することによって、製造されてなる、ボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除された無欠陥のシリコン単結晶。
  3. 上方よりキャリアガスが供給され下方より排気される単結晶引上げ用チャンバと、前記単結晶引上げ用チャンバ内に設けられ、原料が供給されて原料を溶融するるつぼと、前記るつぼの上方に配置されキャリアガスを前記るつぼ内の融液表面に導く熱遮蔽体とが備えられ、前記るつぼ内の融液からシリコン単結晶を引き上げるようにしたシリコン単結晶の引上げ装置において、
    前記熱遮蔽体を、昇降自在とし、
    引き上げられるシリコン単結晶内の炭素濃度が3×1015atoms/cm 以下となる位置に、前記熱遮蔽体を位置決めするとともに、
    引き上げられるシリコン単結晶からボイド欠陥、OSF(酸素誘起積層欠陥)および転位クラスタ(格子間シリコン型転位欠陥)が排除されるように、成長条件V/G(V:成長速度、G:結晶の軸方向温度勾配)を調整しつつ、シリコン単結晶を引き上げること
    を特徴とするシリコン単結晶の引上げ装置。
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