JP2004250752A - プレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

プレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】純亜鉛めっき鋼板の防錆油に要求される諸性能を満足する、防錆油を適切な条件下に適用することによって、プレス成形性および防錆性を両立した純亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】鉱油および合成油の少なくとも1種を基油として、さらに油溶性防錆添加剤の群から選択される少なくとも1種を0.2〜10質量%、塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートの群から選択される少なくとも1種をカルシウム分として0.2〜2質量%およびエステル化合物の群から選択される少なくとも1種を5〜50質量%で含有する防錆油を、純亜鉛めっき鋼板の表面に、0.2〜3.2g/mにて塗布する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車用鋼板に適した、プレス成形性および防錆性に優れた、電気亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板等の純亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車用鋼板としては、主に冷延鋼板、熱延酸洗鋼板が使用されてきたが、近年では耐蝕性の向上を目的として、亜鉛系合金電気めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板などの表面処理鋼板が主流となってきている。これらの表面処理鋼板は、より硬質な鉄−亜鉛や、亜鉛−ニッケルなどの合金電気めっきを施したものか、熱処理により母材である鉄と亜鉛めっき層とを合金化したものであるが、プレス成形性に優れる反面、鋼板の生産コストが高いだけでなく、上記の処理に伴い亜鉛めっき鋼板本来の耐蝕性が損なわれる、といった問題がある。
【0003】
最近では、自動車用鋼板の耐蝕性をさらに向上し、かつ鋼板コストを下げることを目的として、溶融亜鉛めっき鋼板の適用が検討されている。しかしながら、溶融亜鉛めっき鋼板等の純亜鉛めっき鋼板(本発明では、めっき層が鉄−亜鉛、亜鉛−ニッケル等の亜鉛合金でないものを純亜鉛めっきと呼ぶ)は表面が軟質な亜鉛で構成されているために、プレス成型時に型かじりや、金型へ亜鉛が溶着して堆積する等の問題点があり、日本国内ではほとんど実用化されていないのが実状である。
【0004】
一方、欧米の自動車メーカーでは、溶融亜鉛めっき鋼板の表面に潤滑性を付与した高粘度(30mm/s程度)の高潤滑防錆油を塗油してプレス成形性を確保することによって、溶融亜鉛めっき鋼板の使用が実現されている。
ここに、このような特性を有する高潤滑防錆油については、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4等に、それぞれ提案されている。
【0005】
これらの提案のうち、まず特許文献1に記載の高潤滑防錆油は、プレス加工兼用鋼板防錆油と称するものであり、この加工油は、石油系基油および超高塩基性スルホネートを含んでなり、かつ最終製品の塩基価が15mgKOH/g以上であることを特徴とするものである。
【0006】
また、特許文献2にて提案されている高潤滑防錆油は、亜鉛めっき鋼板用防錆兼用プレス加工油と称するものであり、この加工油は、基油65〜95質量部、塩基性アルキルスルフォネート塩を含む防錆添加剤1〜20質量部、潤滑助剤としてアルキル亜リン酸エステル1〜20質量部、不活性タイプの硫黄系極圧剤1〜20質量部からなり、アルキル亜リン酸エステルと不活性タイプの硫黄系極圧剤の含有比率が1:15〜2:1、活性硫黄分が0.5質量部以下であって、動粘度が40℃で5〜30cStの範囲にあることを特徴とするものである。
【0007】
さらに、特許文献3にて提案されている高潤滑防錆油は、表面処理鋼板用成形加工兼防錆油組成物と称するものであり、この防錆油は、40℃での動粘度が5〜50cStである鉱油および/または合成油を基油とし、該基油100重量部に対して(A)硫化エステル2〜15重量部(B)脂肪酸金属塩、ナフテン酸金属塩、樹脂酸金属塩、酸化パラフィン金属塩、アルケニルコハク酸金属塩およびアミノ酸金属塩の中から選ばれる少なくとも1種の金属塩2〜15重量部および(C)金属スルホネート2〜15重量部を必須成分として配合してなる実質的に水を含まないことを特徴とするものである。
【0008】
また、特許文献4にて提案されている高潤滑防錆油は、防錆油組成物と称するものであり、この防錆油は、平均粒径が15nm以上の炭酸金属塩の結晶を含む塩基価が100mgKOH/g以上のスルホネートを1〜30質量%、脂肪酸エステルを1〜50質量%、基油を20〜98質量%の割合で含有するものである。
【0009】
【特許文献1】
特公平7−30349号公報
【特許文献2】
特公平7−42470号公報
【特許文献3】
特許第2988887号公報
【特許文献4】
特開平8−302490号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
これらの高潤滑防錆油は、純亜鉛めっき鋼板に高い防錆性と高い潤滑性を付与することができるものであれば、鋼板の製造コストおよび加工コストの低減が実現される結果、鋼板の加工品価格を低減させることができる。
【0011】
しかしながら、欧米で使用されている高粘度高潤滑防錆油の適用は、鋼板同士が密着し剥がれにくくなるなどのハンドリング性の低下や、脱脂性の低下に伴う化成処理性の低下や塗装密着性の低下などを引き起こすため適当でないこともあり、日本国内では3〜20mm/s程度の低粘度の防錆油が鋼板用防錆油として使用されている。また、高粘度高潤滑防錆油の基油を低粘度化して粘度調整する方法も考えられるが、粘度低下に伴う潤滑性の低下は避けられず適当ではない。
【0012】
また、特許文献1に提案されているプレス加工兼用鋼板防錆油は、超高塩基性スルホネートを潤滑成分として含むものであるが、超高塩基性スルホネート単独で亜鉛めっき鋼板に対して必要な潤滑性を得るためには、超高塩基性スルホネートを多量に添加する必要があり、その場合、自動車用鋼板に求められる脱脂性、化成処理性、油面接着性すなわち鋼板同士を接着剤にて接着した時の強度等の性能が低下するため適当ではない。
【0013】
さらに、特許文献2に提案されている亜鉛めっき鋼板用防錆兼用プレス加工油および特許文献3に提案されている表面処理鋼板用成形加工兼防錆油組成物は、共に硫黄系化合物を潤滑剤として使用しており、冷延鋼板、熱延酸洗鋼板、合金電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対しては高い潤滑性を示すものの、表面がほとんど亜鉛だけで構成されている電気亜鉛めっきおよび溶融亜鉛めっき等の純亜鉛めっきに対して硫黄系化合物は潤滑効果を示さないばかりか、潤滑性を低下させる作用があり適当ではない。
【0014】
また、特許文献4に提案されている防錆油では、鋼板の種類によって防錆性、脱脂性、潤滑性、油面接着等の作用効果に大きな差異が認められる。特に、純亜鉛めっき鋼板に対する作用効果は不明である。
【0015】
従って、本発明はこれらの問題に対処すべくなされたものであり、その目的とするところは、純亜鉛めっき鋼板の防錆油に要求される諸性能を満足する、防錆油を適切な条件下に適用することによって、プレス成形性および防錆性を両立した純亜鉛めっき鋼板を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、次に示す(i)〜(iii)に記載の技術事項を知見するに到った。
(i)純亜鉛めっき鋼板に対しては、塩基性カルシウムスルフォネートが優れた潤滑性を示すが、塩基性カルシウムスルフォネートを多量に添加すると、脱脂性や油面接着性等に悪影響を及ぼす。
(ii)エステル化合物を加えることで相乗効果により潤滑性が向上する。従って、塩基性カルシウムスルフォネートとエステル化合物とを組み合わせて使用することにより、塩基性カルシウムスルフォネートの添加量を減量することが可能となり、上の(i)に記載した悪影響を抑えることができる。
(iii)エステル製造時の未反応物としてエステル化合物中に含まれるカルボン酸およびアルコールの残基が多い場合、これらの官能基は鋼板に対する吸着性が強いため、脱脂性が大きく低下する。エステル化合物の酸価および水酸基価の合計を、組成物全量基準で酸価0.5mgKOH/g以下、水酸基価10mgKOH/g以下とすることでエステル化合物添加による脱脂性の低下を抑えることができる。
【0017】
発明者等は、これらの技術事項の知見から、純亜鉛めっき鋼板に対し要請される潤滑性、防錆性、脱脂性、そして油面接着性等を十分に満たすことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)鉱油および合成油の少なくとも1種を基油として、さらに油溶性防錆添加剤の群から選択される少なくとも1種を0.2〜10質量%、塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートの群から選択される少なくとも1種をカルシウム分として0.2〜2質量%およびエステル化合物の群から選択される少なくとも1種を5〜50質量%で含有する防錆油を、純亜鉛めっき鋼板の表面に、0.2〜3.2g/mにて塗布して成るプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
【0018】
(2)上記(1)において、防錆油の塗布量が1.6g/m以下であるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
【0019】
(3)上記(1)または(2)において、防錆油のエステル化合物の1種または2種以上の合計の酸価および水酸基価が、防錆油の組成物全量基準にて、酸価0.5mgKOH/g以下および水酸基価10mgKOH/g以下であるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
【0020】
(4)上記(1)、(2)または(3)において、防錆油の40℃における動粘度が3〜20mm/sであるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
【0021】
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかにおいて、純亜鉛めっきの表面が算術平均粗さで0.7〜2.0μmであるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明において、純亜鉛めっき鋼板の表面に塗布される、高潤滑性の防錆油は、鉱油および合成油の少なくとも1種を基油として、さらに下記のA、BおよびC成分を、それぞれ所定比率の下に、含有して成る。

A:油溶性防錆添加剤の群から選択される少なくとも1種を0.2〜10質量%、
B:塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートの群から選択される少なくとも1種をカルシウム分として0.2〜2質量%
C:エステル化合物の群から選択される少なくとも1種を5〜50質量%
【0023】
まず、基油としては、防錆油、金属加工油等の基油として一般に使用されている鉱油や合成油を採用することができる。この場合には、1種の基油を単独で使用することができるとともに、2種以上の複数種の基油を併用することもできる。鉱油としては、例えば、原油を蒸留して得られる留分を精製したパラフィン系、ナフテン系等の精製鉱油を挙げることができ、合成油としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、オレフィン系等の炭化水素系合成油、および、エステル系の合成油を挙げることができる。
【0024】
さらに、純亜鉛めっき鋼板用の防錆油に要請される、潤滑性および防錆性等を十分に満たすために、上記したA、BおよびC成分を含有させる。
すなわち、A成分である油溶性防錆添加剤は、防錆性を付与するために添加される成分であり、本発明に従う高潤滑防錆油を純亜鉛めっき鋼板に塗油した後、例えば鋼板ユーザーにて脱脂除去されるまで間の錆や変色を防止するものである。
【0025】
この油溶性防錆添加剤の含有量を0.2〜10質量%とするのは、0.2質量%未満になると、防錆性付与機能が不十分であり、一方10質量%を超えると、脱脂性および油面接着性が低下する。
【0026】
ここに、油溶性防錆添加剤は、中性スルフォネート、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸エステルの群から選択されるもので、これらのうちの1種を単独で使用することができるとともに、2種以上の複数種を併用することもできる。
【0027】
中性スルフォネートとしては、例えば、石油留出成分の芳香族成分をスルホン化して得られる石油スルホン酸や、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等の合成スルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等を挙げることができる。
【0028】
カルボン酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸、ノナデカン酸、アラキン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ナフテン酸、アビエチン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルこはく酸、酸化ワックス等を挙げることができる。カルボン酸塩としては、これら各カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアミン塩等を挙げることができる。
【0029】
カルボン酸エステルとしては、上記した各カルボン酸とアルコールとのエステル化合物を挙げることができる。
アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ポリアルキレングリコール等を挙げることができる。
【0030】
次に、B成分である塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートは、潤滑性を付与するために添加される成分である。すなわち、塩基性カルシウムスルフォネート中には、炭酸カルシウム粒子が含まれており、この炭酸カルシウム粒子は、プレス加工時金型と鋼板との間に介在することによって金属同士の接触を妨げる作用があり、純亜鉛めっき鋼板で特に問題となる金型への亜鉛溶着や型かじりを効果的に抑制する。しかしながら、プレス加工後の製品組み付け時に使用される接着剤の種類によっては、塩基性カルシウムスルフォネートとの相性が悪いものがあり、多量に添加した場合には油面接着性が低下する。
【0031】
ここに、塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートに限定したのは、塩基価が200mgKOH/g未満の低い塩基価の塩基性カルシウムスルフォネートを採用して、塩基価の高い塩基性カルシウムスルフォネートと同等の効果を得るには、低い塩基価の塩基性カルシウムスルフォネートを多量に添加する必要があり、この場合には、脱脂性、油面接着性等が低下する。
【0032】
この塩基性カルシウムスルフォネートの含有量をカルシウム分として0.2〜2質量%とするのは、0.2質量%未満になると、十分な潤滑性が得られず、一方2質量%を超えると、脱脂性、油面接着性等が低下する。より好ましくは、0.5〜1.5質量%の範囲である。
【0033】
なお、塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートとしては、例えば、石油留出成分中の芳香族成分をスルホン化して得られる石油スルホン酸、または、ドデシルベンセンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等の合成スルホン酸のCa塩を挙げることができる。また、塩基性カルシウムスルフォネートは、その製造工程において、中性カルシウムスルフォネートに対しさらに過剰量の水酸化カルシウムを添加し、その後炭酸ガスを吹き込むことによって過剰な水酸化カルシウムのほとんどを炭酸塩としているため、微細な炭酸カルシウム粒子を多量に含んでいる。
【0034】
最後に、C成分であるエステル化合物は、潤滑性を付与するために添加される成分であり、単独でもある程度の潤滑性向上効果を有するが、B成分である塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートと組み合わせることにより潤滑性を大きく向上する効果を有する。この相乗効果の作用機構は必ずしも明らかではないが、エステル化合物が炭酸カルシウム粒子を加工部へ運ぶキャリヤー効果と、金型表面および鋼板表面に形成されたエステル化合物吸着膜が、油中に分散している炭酸カルシウム粒子を保持するアンカーとしての作用によるものと考えられる。また、この相乗効果により、高い潤滑性を維持したまま、前述した相性の悪い接着剤に対し、B成分である塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートの添加量を問題とならないレベルまで抑えることが可能となる。
【0035】
このC成分は、エステル化合物の群から選択されるものであり、これらのうちの1種を単独で使用することができるとともに、2種以上の複数種を併用することもできる。その含有量は5〜50質量%とする。なぜなら、C成分の含有量が5質量%未満では、必要な潤滑性の付与機能が得られない。一方50質量%を超えると、それ以上の潤滑性の付与機能の向上は認められず不経済であり、かつ、過剰な添加は脱脂性を低下させるため適当ではない。
【0036】
ここに、エステル化合物としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸、ノナデカン酸、アラキン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ナフテン酸、アビエチン酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルこはく酸、酸化ワックス等のカルボン酸類と、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ポリアルキレングリコール等のアルコール類から合成された、エステル化合物を挙げることができる。
【0037】
また、C成分であるエステル化合物の酸価および水酸基価の合計は、防錆油の組成物全量基準にて、酸価0.5mgKOH/g以下および水酸基価10mgKOH/g以下であることが好ましい。なぜなら、エステル化合物の酸価および水酸基価は、エステル化合物の製造時、未反応物としてエステル化合物中に含まれるカルボン酸およびアルコールの残基によるものであり、これらの官能基は鋼板に対する吸着性が強いため、これらの数値が高い場合には脱脂性が低下する。エステル化合物の酸化および水酸基価を、組成物全量基準で酸価0.5mgKOH/g以下、水酸基価10mgKOH/g以下とすることで、エステル化合物添加による脱脂性の低下を抑えることができる。
【0038】
さらに、防錆油の40℃における動粘度が、3〜20mm/sであることが好ましい。すなわち、動粘度が3mm/s未満である場合には、粘度が低すぎて十分な潤滑性が得られない。また、低粘度の組成物を調製するには、基油として低引火点の溶剤を使用しなけばならないため、使用に際し火災の危険性が高くなるという問題がある。一方、動粘度が20mm/sを越える場合には、防錆油の鋼板への塗布が困難になるとともに、当該組成物が塗布された鋼板のハンドリング性が悪くなる。
【0039】
なお、本発明に係る高潤滑防錆油は、上記したA成分、B成分、およびC成分のみを含有するものに限定されるものではなく、必要により、極圧添加剤、油性向上剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、水置換剤、消泡剤等を添加することもできる。
【0040】
このように、本発明に係る高潤滑防錆油組成物は、従来の高潤滑防錆油組成物では不可能であった純亜鉛めっき鋼板での加工を可能とする潤滑性と、防錆油として要請される防錆性、脱脂性等を兼ね備えたものである。従って、本発明に係る高潤滑防錆油は、純亜鉛めっき鋼板用の防錆油に要請される全ての性能を満たすものであるから、従来の高潤滑防錆油では不可能であった純亜鉛めっき鋼板に対して良好な潤滑性を付与することができる。この高潤滑防錆油を純亜鉛めっき鋼板に適用する際、次に示す条件の下に該防錆油を塗布することが肝要である。
【0041】
すなわち、上記防錆油を純亜鉛めっき鋼板のめっき表面に、0.2〜3.2g/mにて塗布することが肝要である。なぜなら、防錆油の塗油量が0.2g/m未満であると十分な防錆性能が得られなくなり、一方3.2g/mを超えると、脱脂が難しくなるためである。とりわけ、上限については、鋼板同士が密着したり、吸引パットでのハンドリング性の悪化を防止する観点から、1.6g/m以下とすることが好ましい。好適な塗油量は1.2〜1.6g/mである。
【0042】
ここで、防錆油を適切な塗油量の下に塗布するには、静電塗油装置等を用いて均一に塗油する手法を用いることが好ましい。
【0043】
また、防錆油を塗布するめっきの表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.7〜2.0μmであることが好ましい。すなわち、めっきの表面粗さが0.7μmRa未満では、プレス成形時に防錆油の保持が困難になって高い潤滑を維持することが難しくなり、一方2.0μmRaを超えると、プレス成形時に金型との摩擦係数が大きくなり、成形性が阻害されるおそれがある。
【0044】
なお、めっきの表面粗さを適切に制御するには、上記の表面粗さを有するロールによる調質圧延等を行えばよい。
【0045】
【実施例】
(防錆油)
表1(潤滑防錆油組成物を構成する成分)に示す基油、A成分、B成分およびC成分を使用して、これらの各成分を、表2および3に示すように種々に組合わせて、12種類の高潤滑防錆油(適合例)と、その比較として12種類の防錆油(比較例)とを調製し、これらの防錆油を試験油として、下記に示す防錆試験、脱脂試験、平面摺動試験および油面接着試験を行った。なお、調製された各防錆油および市販の各試験油の組成並びに動粘度は、表2および表3に示すとおりである。さらに、同様の試験を、従来使用されている市販の鋼板用防錆油I〜IIIについても行った。ここで、市販防錆油Iは、欧米の自動車メーカー向け純亜鉛めっき鋼板に適用されるカルシウムスルホネートをカルシウム分として約1.5質量%含有する高粘度(動粘度27.2mm/s)の潤滑防錆油である。市販防錆油IIは、日本国内の自動車メーカー向け合金化溶融亜鉛めっき鋼板に適用される硫黄化合物含有の潤滑防錆油(動粘度13.8mm/s)である。市販防錆油IIIは、潤滑性が要求されない冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板に適用される防錆油(動粘度10.4mm/s)である。
【0046】
【表1】
Figure 2004250752
【0047】
【表2】
Figure 2004250752
【0048】
【表3】
Figure 2004250752
【0049】

防錆試験
溶融亜鉛めっき鋼板(0.8×70×100mm)を試験片として、この試験片の表面にゴムローラを用いて試験油を2g/mで塗布して、各試験油ごとの供試片を作製し、同様に試験油を塗布した5枚の供試片を重ね合わせて支持板に挟みボルト・ナットで締結し、各試験油ごとの供試体を作製した。これらの各供試体を、恒温恒湿の試験箱(温度50℃、湿度90%)に720時間収容して防錆試験を行い、720時間後の各供試体を構成する各供試片の発錆状態を観察して、発錆状態の評価を行った。評価の基準は、720時間後の錆発生面積(%)とし、錆発生面積が零(発錆なし)の状態を◎、5%未満の状態を○、5〜10%未満の状態を△、10%以上の状態を×とした。
【0050】
脱脂試験
溶融亜鉛めっき鋼板(0.8×70×100mm)を試験片として、試験片の表面にゴムローラを用いて試験油を2g/mで塗布して、各試験油ごとの供試片を作製し、同様に試験油を塗布した5枚の供試片を重ね合わせて支持板に挟みボルト・ナットで締結し、各試験油ごとの供試体を作製した。これらの各供試体を、室内に720時間放置した後に脱脂試験に供した。脱脂試験で採用した脱脂剤は、ファインクリーナー4480(日本パーカライジング株式会社製:登録商標)であり、脱脂剤の1.8質量%水溶液を42℃に調整し、この水溶液を撹拌しつつ同水溶液に各供試体を2分間浸漬した。浸漬後の各供試体を構成する各供試片を流水中で30秒間水洗し、水洗後の各供試片の脱脂状態を観察して評価した。評価の基準は、水洗後の各供試片の水濡れ面積(%)とし、水濡れ面積が90%以上の状態を◎、90未満〜80%の状態を○、80未満〜70%を状態を△、70%未満を×とした。
【0051】
平面摺動試験
溶融亜鉛めっき鋼板(0.8×50×300mm)を試験片として、試験片の表面に、ゴムローラを用いて試験油を2g/mで塗布し、各試験油ごとの供試片を作製した。これらの各供試片を、ダイス(SKD−11:R=2.5,幅15mm)を用いて、面圧15MPa、摺動速度20mm/s、摺動距離130mmの条件下で平面摺動試験を行い各試験油の潤滑性(摩擦係数)を評価した。摩擦係数評価基準は、摩擦係数が0.150未満の場合を◎、0.150〜0.160未満の場合を○、0.160〜0.170未満の場合を△、0.170以上の場合を×とした。
【0052】
油面接着試験
溶融亜鉛めっき鋼板(0.8×25×150mm)を試験片として、試験片の表面にゴムローラを用いて試験油を2g/mで塗布し、各試験油ごとの供試片を作製した。これらの各供試片を、室内に立てかけて24時間放置した後、油面接着試験に供した。油面接着試験は、接着剤として、SRシールZ75(サンライズMSI株式会社製)を採用し、接着剤厚み3mmの接着面(25×25mm)にて2枚の供試片を張り合わせ、170℃のオーブンに入れて、170℃に昇温後20分間加熱して硬化させた。互いに接着した供試片を室内で24時間放置した後、万能材料試験機を用いて、引張速度50mm/minの条件で引き剥がして接着強度を測定し、供試片の油面接着性の評価を行った。油面接着性の評価基準は、接着強度とし、接着強度が1.0MPa以上の場合を◎、接着強度が1.0未満〜0.9MPaの場合を○、接着強度が0.9未満〜0.8MPaの場合を△、接着強度が0.8MPa未満の場合を×とした。
以上の防錆試験(発錆評価)、脱脂試験(水濡れ評価)および平面摺動試験(摩擦係数評価)、油面接着試験(接着強度)の結果を、表4および表5に示す。
【0053】
【表4】
Figure 2004250752
【0054】
【表5】
Figure 2004250752
【0055】
表4および5に示すように、本発明に従う防錆油は、防錆性、脱脂性、平面摺動性および油面接着性のいずれにおいても、優れた性能を示すことがわかる。
【0056】
(溶融亜鉛めっき鋼板)
溶融亜鉛めっき鋼板(純亜鉛めっき鋼板)を用いて、この鋼板から平面摺動試験用に0.8×50×300mmの試験片を、また防錆試験並びに脱脂性試験用に0.8×70×100mmの試験片を、それぞれ採取し、そのめっき表面に、表6に示す種々の塗油量にて、表2に示した試験油6と、表3に示した市販の防錆油IおよびIIとを、それぞれ塗布し、上記した防錆試験、脱脂試験および平面摺動試験(プレス成形性評価)に供した。その評価結果を、表6に併記するように、本発明に従う防錆油の場合は、塗油量を0.4〜3.2g/mの範囲にすることで、全ての性能を高水準に維持できることがわかる。
【0057】
【表6】
Figure 2004250752
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、プレス成形性および防錆性を両立した純亜鉛めっき鋼板を簡便な手段により提供することができる。

Claims (5)

  1. 鉱油および合成油の少なくとも1種を基油として、さらに油溶性防錆添加剤の群から選択される少なくとも1種を0.2〜10質量%、塩基価200mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートの群から選択される少なくとも1種をカルシウム分として0.2〜2質量%およびエステル化合物の群から選択される少なくとも1種を5〜50質量%で含有する防錆油を、純亜鉛めっき鋼板の表面に、0.2〜3.2g/mにて塗布して成るプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
  2. 請求項1において、防錆油の塗布量が1.6g/m以下であるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
  3. 請求項1または2において、防錆油のエステル化合物の1種または2種以上の合計の酸価および水酸基価が、防錆油の組成物全量基準にて、酸価0.5mgKOH/g以下および水酸基価10mgKOH/g以下であるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
  4. 請求項1、2または3において、防錆油の40℃における動粘度が3〜20mm/sであるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
  5. 請求項1ないし4のいずれかにおいて、純亜鉛めっきの表面が算術平均粗さで0.7〜2.0μmであるプレス成形性および防錆性に優れた純亜鉛めっき鋼板。
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