JP2004250565A - ポリウロン酸の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】キチン・キトサンのアミノ基の一部又は全部をN−アセチル化し、その後N−アセチルグルコサミン又はグルコサミンのピラノース環中、6位の水酸基のみを選択的に酸化し、カルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とするポリウロン酸の製造方法である。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、天然多糖類であるキチン・キトサン由来のポリウロン酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キチンは、カニやエビなどの甲殻類や、昆虫類の骨格物質として、また菌類や細胞壁にも存在し、N−アセチルD−グルコサミン残基が多数、β−(1,4)−結合した多糖類であり、セルロースにおける2位の炭素に結合している水酸基の代わりにアセトアミド基が付加したアミノ多糖類(ムコ多糖類)である。キチンやキトサンはセルロースと構造が類似しており、同じ頃に研究が始まったにも関わらず、未だ十分な研究が進んではおらず、有効に利用しきれていない。特にキチンは一般に水不溶性である上、適正な溶媒が少ないことがこれらの研究の阻害要因となっていた。
【0003】
一方、キトサンはキチンを脱アセチル化して得られる多糖類であり、キチンの脱アセチル化は一般的にアルカリ条件下で行う。そして、キトサンはグルコサミン残基またはN−アセチルグルコサミン残基がβ−(1,4)−結合した多糖類であり、グルコサミン残基に由来するカチオン性のアミノ基をもつ。キトサンのアミノ基は酸性の水溶液で塩を形成し溶解するため、材料としては扱い易い。これらのキチン・キトサンは生分解性高分子材料として、また生体親和性材料として注目され、現在ではその利用について多くの研究がなされ、創傷治癒促進効果、抗凝血作用、免疫賦活活性、静菌・抗菌活性などさまざまな生理活性効果など数々の知見が得られている。
【0004】
このような材料として、特に医薬、化粧品、食品の分野で利用する場合、取扱い上の利便性、各種化学薬品、薬剤との相溶性、薬効の均一性、加工性等の観点から、広範なpH領域に於いて水溶性であること、様々な置換基の分布や量が制御可能で材料設計が容易であることが望ましい。
しかし、一般的にキチンは色素やタンパク、灰分などと結合した形で存在しており、その精製方法はかなり厳しい条件下で単離精製されるため、アセチル基の脱離は避け難く、100%全く脱アセチル化していないキチンというものは通常の方法では得られない。
【0005】
一方、キトサンのアミノ基を再びN−アセチル化するとキチンが得られる。このN−アセチル化の手法としては、様々な方法が挙げられる。例えばキトサンを酸性水溶液に溶解し、メタノールの混合溶液中で無水酢酸と反応させると水酸基はアセチル化されずにアミノ基のみがアセチル化される。こうした均一反応により得られたN−アセチル化キトサン(即ちキチン)は、N−アセチル基の分布も均一で、無水酢酸の添加量でN−アセチル基量を制御することもできる。
さらに、キチンの様々な誘導体化や、酸化による水溶化も研究されている。特にキチンの6位1級水酸基のみをカルボキシル基にまで酸化すると、ヒアルロン酸類似のウロン酸型構造となることから、その有用性が高いと考えられており、盛んに研究されている。しかしピラノース環のC6位の1級水酸基のみを選択的に酸化する手法は少なく、困難であった。現在提案されている酸化手法としては二酸化窒素による酸化がまず挙げられる。しかし、二酸化窒素による酸化では、ピラノース環のC6位の1級水酸基を全て酸化しようとすると、C3位等の2級水酸基も酸化されてしまったり、重合度低下などの副反応が大きいことが報告されている。
【0006】
また、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOと称する場合もある)等のN−オキシル化合物触媒による6位の高選択的酸化が挙げられる。このN−オキシル化合物による酸化では、反応条件を制御することでより選択性高くC6位の1級水酸基を酸化して、構造の均一なポリウロン酸を得ることができる。
しかし、天然のキチンは結晶性が高く、キチンにそのままTEMPO触媒酸化処理を施しても、均一にカルボキシル基の分布した高重合度の完全水溶性のポリウロン酸は得られない。
この課題を解決すべく、キチンを例えばアルカリ水溶液などの溶媒に溶解させた後、再生させて得られる再生キチンを用いてTEMPO触媒酸化を行う手法が開発されているが、再生処理により更にアセチル基が脱離してしまう恐れがある。低温条件下で素早く処理することによりアセチル基の脱離を抑えることができるが、原料に含まれていたアセチル基量や、溶解処理の温度や時間、溶解状態などの要因により、生成物に含まれるN−アセチル基量を制御することは難しい。(例えば、非特許文献1)
【0007】
また、酸化原料となるキチン・キトサンのN−アセチル基量は、TEMPO触媒酸化反応に影響し、得られたポリウロン酸の収率や溶解性などの物性が変化する。キチン・キトサンのN−アセチル基量が少ない、即ち、アミノ基が多いと、TEMPO酸化により得られるポリウロン酸の収率が低く、分子量は小さくなる上に、水への溶解性が低くなる傾向がある。従ってTEMPO酸化により得られるポリウロン酸の物性を制御する上で、N−アセチル基量の制御は重要であると言える。また、より均一な構造のポリウロン酸を得る事を目的とする場合、N−アセチル基量は100%に近い程良い。
【0008】
【非特許文献1】
Carbohydrate Polymers 39(1999)361−367
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、キチン・キトサンから医薬分野あるいは化粧品分野等、様々な分野において有用な、アセチル基量やカルボキシル基またはその塩の含有量を自由に制御できる高純度のポリウロン酸を簡便な精製工程で容易かつ安価に得ることができる製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、より安全な試薬を用いて、温和な反応条件下で、前記の如くキチンを均一かつ効率よく酸化でき、高い水溶性を付与できる方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、下記一般式(1)で表わされるキチン・キトサンのアミノ基の一部又は全部をN−アセチル化し、その後N−アセチルグルコサミン又はグルコサミンのピラノース環中、6位の水酸基のみを選択的に酸化し、カルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とするポリウロン酸の製造方法である。
【0011】
【化2】
【0012】
請求項2の発明は、前記N−アセチル化により、アセチル基量が構成単糖の全モル数に対し80から100%にすることを特徴とする請求項1記載のポリウロン酸の製造方法である。
【0013】
請求項3の発明は、前記酸化方法がN−オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化することにより得られる請求項1または2記載のポリウロン酸の製造方法である。
【0014】
請求項4の発明は、前記酸化方法がN−オキシル化合物の触媒の存在下、臭化アルカリ金属と酸化剤を用いて酸化することにより得られる請求項3記載のポリウロン酸の製造方法である。
【0015】
請求項5の発明は、前記N−オキシル化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルであり、前記臭化アルカリ金属が臭化ナトリウムであり、前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである請求項3または4記載のポリウロン酸の製造方法である。
【0016】
請求項6の発明は、前記一般式(1)で表されるキチン・キトサンのアミノ基の一部又は全部をN−アセチル化したもののX線回折法により求めた回折角度2θ=9.2°付近(X線源=CuKα)のピークの半価幅が1.2°以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載ポリウロン酸の製造方法である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリウロン酸は、下記一般式(2)に示す構造からなるものであり、N−アセチル−D−グルコサミン、N−アセチル−D−グルコサミヌロン酸或いはN−アセチル−D−グルコサミヌロン酸のアルカリ金属塩とD−グルコサミン、D−グルコサミヌロン酸或いはD−グルコサミヌロン酸のアルカリ金属塩がβ−(1,4)−結合したもので、化学構造が明確、均一であり、二次修飾する場合の合成原料として特に好ましい。また、式(2)中のX及びYが、水素又はアルカリ金属であれば、25℃の蒸留水に対して、10%以上の溶解性を示すため、水系のコーティング材料として、及び、水系での反応原料として有用である。また、本発明の製造方法中の酸化工程では、後に述べるように、式(2)に含まれるカルボキシル基の量を制御できる。
【0018】
【化3】
【0019】
(式中のX及びYは、水素又はアルカリ金属を示す)
【0020】
また、本発明におけるポリウロン酸は、式(2)中のm:nの比率、つまりN−アセチル基とアミノ基の比率を自由に制御することが可能である。このN−アセチル基量の制御は、主にN−アセチル化反応における試薬の添加量をコントロールし、十分に反応させることで達成される。
【0021】
本発明の原料となるキチン・キトサンは下記一般式(1)で表わされる。ここで、N−アセチル基量は特に限定されるものではない。一般的にN−アセチル基量0から60%位までは酸性水溶液に溶解するが、N−アセチル基量が0から30%までのキチン・キトサンが原料調達の面から好ましい。また、酸がなくても溶解するN−アセチル基量45から55%のキチン・キトサンが好ましい。さらに反応試薬の添加量によるN−アセチル基量の制御の面からはN−アセチル基量が0から10%のキチン・キトサンが好ましい。
【0022】
【化4】
【0023】
ここで、キチン・キトサンのグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率は、コロイド滴定や、KBr錠剤法による赤外分光法(IR)、或いは酸性溶液に溶解して核磁気共鳴分光法(NMR)、元素分析法等により求めることができる。
N−アセチル化の反応は特に限定されるものではないが、よりN−アセチル基の分布を均一にする為には、N−アセチル化を均一系で行うことが好ましい。最も簡便で、その後の生成物の医療・医薬分野への利用のためにも試薬が安全、かつ安価である、希酢酸−メタノール溶液中での無水酢酸によるN−アセチル化がより好ましい。
【0024】
この処理は、まずキチン・キトサンを酢酸溶液に均一に溶解させ、メタノールで希釈する。この時の酢酸やキチン・キトサンの濃度、メタノールの量は攪拌可能な均一溶媒であれば特に限定されるものでは無いが、一般的には重量で10%の酢酸水溶液に固形分濃度5%のキチン・キトサンを溶解させ、全体の4、5倍のメタノールを添加するくらいがよい。ここに、無水酢酸を添加する。この時、添加量を制御することで、得られるキチン・キトサンに含まれるN−アセチル基量をコントロールすることができる。例えば、N−アセチル基量を低くしたい場合は、構成単糖中の反応しうるアミノ基1モルに対し、添加する無水酢酸1モルに満たない量で反応を行い、N−アセチル基量を100%に近づけたい場合は2、3倍モルの無水酢酸を添加し反応を行うとよい。この反応液はいずれも室温で一晩以上十分に反応させる。
【0025】
こうして、N−アセチル化されたキチン・キトサンで特にN−アセチル化率の高いものでは、反応液がゲル状になっている。このゲルをメタノールで希釈しながら、ホモジナイザーを用いて攪拌したり、充分洗浄を行う。こうした処理では、水酸基はアセチル化されず、N−アセチル化反応だけが起こる。
本発明では原料となるキチン・キトサンを溶解させた後、前記のN−アセチル化反応を行い、十分に洗い、乾燥させないものを酸化試料として用いる。或いは、酸化前の試料の保存、取扱の面からは、乾燥させた試料を用いてもよい。但し、乾燥させる場合には凍結乾燥など、試料の再結晶化や水素結合を防ぐ方法で乾燥させる。
【0026】
N−アセチル化の反応を行うことにより、精製されたキチン・キトサンは結晶性の低いものとなり、後のTEMPO酸化反応がスムーズに進行し、副反応も少なく、均一で高重合度の完全水溶性のポリウロン酸を得ることができる。また、酸化原料であるキチン・キトサンのN−アセチル基量を明確に把握できる。
【0027】
キチン・キトサンのN−アセチル化は、N−アセチルグルコサミンとグルコサミンの比が、8:2から10:0の範囲、つまりN−アセチル基量が構成単糖の全モル数に対し80から100%にあるキチン・キトサンにすることが好ましい。80%以下のN−アセチル基量のキチン・キトサン用いると、キトサン由来のアミノ基が多い為に、その後の酸化反応に対する安定性、酸化生成物であるポリウロン酸の安定性や水溶性等が低下する場合がある。
ここで述べた反応ではほとんどN−アセチル化反応だけが選択的に起こるが、O−アセチル化された部分を弱い条件で加水分解し、より均一な構造のものを得ることもできる。
【0028】
本発明における結晶性は、X線回折法により以下のように測定した。まず、リガクRAD−rX(X線源=CuKα、電圧40kV、電流100mA、)を用い、回折角度2θ=9.2°辺りのピークの半価幅を算出し、結晶性を評価した。半価幅は大きいほど結晶のサイズが小さく、結晶性が低い。
結晶性の低いキチン・キトサンを用いて、後述する酸化反応を行うことにより、均一にカルボキシル基の分布した高重合度の水溶性のポリウロン酸を得ることができる。
【0029】
本発明の酸化反応は、N−オキシル化合物を触媒に用いる。更に、均一な構造を有して且つ高分子量のポリウロン酸を得るために、基質のアクセシビリティーを充分に高めるとともに、穏やかな条件で酸化することが重要である。原料にはキチン・キトサンをN−アセチル化したものを用い、N−オキシル化合物の触媒の存在下、臭化アルカリ金属と酸化剤を用いて、5℃以下の低温、水系で、pHを10〜11.5の範囲で一定に保ちながら酸化することを特徴とする。ここでN−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOとする)が、臭化アルカリ金属としては臭化ナトリウムが、酸化剤としては次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
【0030】
ここで前記酸化手法は、TEMPOと臭化ナトリウムを溶解した水溶液に、上記のN−アセチル化したキチン・キトサンからなる原料を加えて均一に分散させ、系内を5℃以下に冷却、pHを10に調整し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム溶液を反応の進行に応じて添加するとともに、水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、系内のpHを10〜11.5の範囲で一定に保つ。また反応中は系内の温度を5℃以下に維持する。酸化が進むにつれ、試料は溶解し、均一な溶液となる。添加される水酸化ナトリウムの量により、導入されるカルボキシル基の量を調節することができる。例えば、原料のC6位の1級水酸基量と当モルの添加量に達した時点で、エタノールを添加して過剰の酸化剤を失活させ、過剰量のエタノール中で再沈させる。生成物はアセトンと水の混合溶液を用いて十分洗浄後、アセトンで脱水してから減圧乾燥することにより、導入されたカルボキシル基が100%のポリウロン酸のナトリウム塩が得られる。
【0031】
なお得られたポリウロン酸のナトリウム塩を水溶後酸処理し、上記のようにエタノールで再沈、洗浄、乾燥することにより、脱塩したポリウロン酸を得ることができる。
また、得られたポリウロン酸にN−アセチル化処理を施しても良い。N−アセチル化処理の方法としては、上述した方法と同様に処理できる。この処理により、酸化処理過程で、脱アセチル化し、アセチル化度が低下したポリウロン酸のアセチル化度をあげることができる。
【0032】
本発明により製造されたポリウロン酸は、キトサンなどのカチオン性物質とイオンコンプレックスを形成させるために用いることができる。
これらのイオンコンプレックスの物性はN−アセチル基量により大きく影響される。そこで、本発明により製造されたポリウロン酸を用いることで、N−アセチル基量を制御でき、要求される物性のイオンコンプレックスを得ることができるものである。
【0033】
【実施例】
以下実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。
【0034】
<実施例1>
脱アセチル化度100%のキトサン(大日精化工業(株)製)を5g、10%酢酸95gに溶解した。濾過により不溶分を除去し、メタノール500mlで希釈して、攪拌しながら無水酢酸4.76gを添加すると数分でゲル化した。1晩静置後、ホモジナイザーで多量のメタノール中に分散させた。メタノール及び水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄し、さらに水洗してメタノールおよびアセトンを完全に除き、N−アセチル化キトサンの5%濃度の懸濁液とした。
【0035】
このN−アセチル化キトサンの懸濁液の一部を凍結乾燥して、元素分析によりN−アセチル化度を求めたところ、98%であった。つまり前記一般式(1)におけるm:n=98:2であった。
さらに前記N−アセチル化キトサンの5%濃度の懸濁液100gに、TEMPO 75mg、臭化ナトリウム 1.0gを溶解させた水溶液を加え、キチンの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液44gを滴下し、酸化反応を開始する。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下速度を調節しながら滴下した。6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、反応速度は遅くなり、系内は完全に溶解してくる。アルカリ添加量が前記の100%(49.2ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は1時間30分であった。反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリウロン酸のナトリウム塩5.4gを得た。収率は90%以上となった。
【0036】
<実施例2>
実施例1のポリウロン酸のナトリウム塩2gを40mlの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、pH1になるまで2N−塩酸を添加した。溶液は透明な溶液のままであった。この溶液を過剰量のエタノール中に投入し、生成物を再沈させた。さらに水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状の脱塩したポリウロン酸1.6gを得た。
【0037】
<実施例3>
脱アセチル化度100%のキトサン(大日精化工業(株)製)を5g、10%酢酸95gに溶解した。濾過により不溶分を除去し、メタノール500mlで希釈して、攪拌しながら無水酢酸2.85gを添加した。1晩静置後、ゲル化した反応液をホモジナイザーで多量のメタノール中に分散させた。メタノール及び水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄し、さらに水洗してメタノールおよびアセトンを完全に除き、N−アセチル化キトサンの5%濃度の懸濁液とした。
【0038】
このN−アセチル化キトサンの懸濁液の一部を凍結乾燥して、元素分析によりN−アセチル化度を求めたところ、85%であった。つまり前記一般式(1)におけるm:n=85:15であった。
5%のN−アセチル化率85%キトサン懸濁液100gに対し、実施例1と同様の酸化処理を行った。反応時間は2時間であった。過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、黄白色粉末状のポリウロン酸のナトリウム塩5.0gを得た。収率は85%以上となった。
【0039】
<比較例1>
キチン(和光純薬工業(株)製)5gに実施例1と同様の酸化処理を行った。反応時間は7時間であった。この反応溶液は、濾過により不溶の不純物を除いてから、過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリウロン酸のナトリウム塩4.5gを得た。収率は76%となった。
【0040】
<比較例2>
キチン(和光純薬工業(株)製)を5g、45%水酸化ナトリウム水溶液50gに浸漬し、容器の周囲を氷水で冷却しながら、2時間攪拌した。これに、砕いた氷175gを、攪拌しながら添加した。このアルカリ処理によりキチンはほぼ溶解する。低温に維持したまま、塩酸で中和して析出した微細フレークを十分に水洗した後、乾燥させずに、5%のアルカリ処理キチン懸濁液とし、この5%のアルカリ処理キチン懸濁液100gに対し、実施例1と同様の酸化処理を行った。反応時間は2時間であった。この反応溶液は、濾過により不溶の不純物を除いてから、過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに水:アセトン=1:7の溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリウロン酸のナトリウム塩5.4gを得た。収率は90%以上となった。
【0041】
次に実施例、比較例で得られたサンプルを以下のように評価した。
<水溶性>
実施例1、2、3のポリウロン酸1.0gを、25℃の蒸留水10mlに溶解させた。いずれも完全に溶解し、さらに高濃度での溶解も可能であった。
【0042】
<NMRによる構造分析>
実施例1、2のサンプルを重水に溶解させ、13C−NMRを測定した。その結果を図1、2に示す。NMRスペクトルから、キチンのピラノース環C6位の水酸基をもつ炭素に由来するピーク(δ=60〜65ppm付近)が完全に消えて、カルボキシル基(δ=170〜180ppm付近)に変換しており、2位、3位の炭素に由来するピークは変化せず、ケトンなどのピーク(δ=200〜210ppm付近)は確認されなかった。従って、本発明のポリウロン酸は、ほぼ構造が均一な、β−(1,4)−N−アセチル−D−グルコサミヌロン酸であると言える。
【0043】
<元素分析>
実施例1と比較例のポリウロン酸を5回づつ調整し、FLASH EA1112を用いてNC分析モードで元素分析を行い、窒素と炭素の重量比(N/C)を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
得られたN/Cの値は、実施例1の方が安定していた。このことからポリウロン酸のNアセチル基量も、N−アセチル化したキトサンを用いた方が安定して制御しやすいことが言える。
【0046】
<結晶性>
比較例1のキチンと比較例2、実施例1、実施例3の酸化前のキチンを凍結乾燥させたものを試料とし、粉末法によりリガクRAD−rX(X線源=CuKα、電圧40kV、電流100mA、)を用い、回折角度2θ=9.2°辺りのピークの半価幅を算出し、結晶性を評価した。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【発明の効果】
本発明の製造方法により、キチン・キトサンから、アセチル基量やカルボキシル基またはその塩の含有量を自由に制御できる構造の明確な高純度のポリウロン酸を簡便な精製工程で容易かつ安価に得ることができる。また、様々な溶媒に難溶性であるキチンに高い水溶性を付与することもできる。従って、本発明の製造方法により得られたポリウロン酸は、構造が明確ゆえに、各種機能と化学構造の関係を解析していく上で、極めて有用な材料であり、材料設計のし易い合成原料となり得る。また、水系のコーティング材料として、及び水系の反応原料として好ましく用いることができる。さらには、本発明の製造方法により、キチン・キトサンから、アセチル基量やカルボキシル基またはその塩の含有量を自由に制御できるポリウロン酸を得ることが可能であり、ポリウロン酸単体、或いは二次修飾や複合化した材料の物性の向上にも寄与しうる。
こうして得られたポリウロン酸或いは複合化した材料は、食品、医療・医薬、化粧品等、様々な機能性材料として応用されることが期待できる。
【0049】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のポリウロン酸ナトリウム塩を重水に溶解して測定した13C−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2のポリウロン酸ナトリウム塩を重水に溶解して測定した13C−NMRスペクトルである。
【図3】実施例3のポリウロン酸ナトリウム塩を重水に溶解して測定した13C−NMRスペクトルである。
Claims (6)
- 前記N−アセチル化により、アセチル基量を構成単糖の全モル数に対し80から100%にすることを特徴とする請求項1記載のポリウロン酸の製造方法。
- 前記酸化方法がN−オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化することにより得られる請求項1または2記載のポリウロン酸の製造方法。
- 前記酸化方法がN−オキシル化合物の触媒の存在下、臭化アルカリ金属と酸化剤を用いて酸化することにより得られる請求項3記載のポリウロン酸の製造方法。
- 前記N−オキシル化合物が、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルであり、前記臭化アルカリ金属が臭化ナトリウムであり、前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである請求項3または4記載のポリウロン酸の製造方法。
- 前記一般式(1)で表されるキチン・キトサンのアミノ基の一部又は全部をN−アセチル化したもののX線回折法により求めた回折角度2θ=9.2°付近(X線源=CuKα)のピークの半価幅が1.2°以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載ポリウロン酸の製造方法。
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JP2003042198A JP4411847B2 (ja) | 2003-02-20 | 2003-02-20 | ポリウロン酸の製造方法 |
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