JP2004238727A - 高炭素熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】熱延板における脱炭層の形成を抑制した、新規な高炭素熱延鋼板およびその製造方法について提案する。
【解決手段】C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延した、脱炭層厚が板厚に対し0.0015以下の高炭素熱延鋼板。熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整するよう製造する。
【選択図】 なし
【解決手段】C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延した、脱炭層厚が板厚に対し0.0015以下の高炭素熱延鋼板。熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整するよう製造する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高炭素熱延鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に熱間圧延後の焼鈍工程における脱炭を抑制できる、高炭素熱延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ギヤ、ワッシャー、刃物、鋸、自動車の駆動系部品および座金等の高硬度部品には、非常に高い含有率で炭素を含む高炭素鋼が素材として用いられている。
【0003】
この高硬度部品用素材としては、熱間圧延による高炭素熱延鋼板(以下、単に熱延板とも称す)に酸洗、そして焼鈍を施して、熱延板製品とするのが通例であり、さらに冷間圧延とそれに続く球状化焼鈍を行って、適当な強度に調整することもある。
【0004】
一方、例えば自動車の駆動系部品の素材となる、特に板厚が8mmを超える、厚物の高炭素熱延鋼板は、元々硬質であるのと板厚が厚いことが相俟って高剛性となるため、酸洗の処理プロセスラインに通板しようにも、同ライン内で行う、板厚方向の曲げおよび曲げ戻しの加工により加わる力に、同ラインのデフレクタロールなどの駆動設備が仕様上耐えきれず、通板不能になる場合が多い。また、駆動設備に十分な仕様上の能力をもつ駆動設備を設計制作し直して強引に通板したとしても、今度は通板中の板の方が蛇行や低靭性ゆえの板割れを起こす可能性がある。
また、板厚が8mmを超えないまでも、元来高炭素鋼は硬質であることから、通板不可能とまではいかないまでも、この種の蛇行、板割れといった通板トラブルを起こしやすい傾向がある。
【0005】
従って、このような高炭素鋼板、特に厚物の場合は、酸洗と焼鈍の処理順序を逆にし、先に焼鈍して同板を軟化させてから酸洗の処理プロセスラインに通板して酸洗処理を行う場合があるほか、需要家が許せば、酸洗処理を省略して、焼鈍後に黒皮製品として出荷する、あるいはショットブラストによる脱スケールを施した上で出荷する、という場合もある。
【0006】
ここで、焼鈍の話に移る。圧延ままの熱延板、またはさらに酸洗後の熱延板において、炭化物は層状のパーライト組織となっており、熱延板焼鈍では、この炭化物を球状化するために、A1変態点以上の温度に数時間保持して炭化物の一部を、オーステナイト中に固溶させ、その後に徐冷またはA1変態点直下に数時間保持して、固溶した炭素を、残留する炭化物のまわりに析出球状化させるようにしている。
【0007】
しかし、A1変態点以上の温度では炭素の拡散速度が非常に速く、焼鈍雰囲気ガス中に水分や酸素等の脱炭性成分が存在すると、焼鈍中の熱延板表面において、焼鈍雰囲気ガス中の脱炭性成分と炭素とが速やかに反応し脱炭が進行する。この脱炭層は、熱延板表層の板厚方向に数100μm前後に達する場合がある。
【0008】
ここに、圧延ままの熱延板またはさらに酸洗後の熱延板に施す焼鈍は、一般に(Ac1−50)〜Ac1℃、あるいはAc1〜(Ac1+30)℃の温度域において6〜24時間の長時間にわたって均熱される箱焼鈍のプロセスを用いており、このときの雰囲気はN2やAr等の不活性雰囲気または、コークスガスやメタンガス等の浸炭雰囲気、すなわち脱炭防止のため慎重に選択された雰囲気で行われている。
【0009】
しかし、このような雰囲気下においても、焼鈍後の熱延板に脱炭層が形成されるのを完全に防止することはできなかった。
というのは、第1に、焼鈍雰囲気制御を厳しく行ったとしても、その雰囲気中へのO2混入を完全に防ぐことは難しく、この雰囲気中のO2濃度がある程度以上になると、熱延板表層においてO2が酸素原子に分離し、熱延板表層から内部に侵入し、この酸素原子が熱延板表層中のCと結合してCOやCO2を形成して熱延板表層から外部へ放出される結果、脱炭が進行する。
【0010】
第2に、特に厚物の高炭素熱延鋼板の場合は、前述の通り、酸洗前に焼鈍を行うか酸洗自体を省略することから、熱間圧延時に生成したスケールが存在したままの状態で焼鈍することになるため、スケールに起因した脱炭が進行する。すなわち、熱間圧延時に熱延板表層に生成したスケールの主成分であるFeOxが焼鈍中に分解してO2を発生し、熱延板表層から分離し、残されたスケールが純鉄となって熱延板表層に脱炭層が形成される。
【0011】
かくして形成された脱炭層は、製品板表面の硬度を低下させ耐摩耗性を著しく劣化させ、また強度の低下をもまねくため、前述した用途には極めて不利であった。さらに、脱炭層が存在すると、製品加工時の打ち抜き加工等において、熱延板表層が板厚方向にだれる等の不都合が生じる。このだれは、製品に残存することが許されないことから、従来は打ち抜き加工前に、表面研削して脱炭層を除去していたが、そのためのコストが高く問題となっていた。
【0012】
この問題に対して、特許文献1では、鋼板にSbを添加して、焼鈍時に鋼板表層のSbによってO2ガスのO原子への分解を抑制し、脱炭を抑制することが、提案されている。
【0013】
【特許文献1】
特開平3−44422号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Sbは非常に高価であるため、コストの低減が難しくなり、また熱間圧延時にSbに起因した焼割れを生じるおそれがある。さらに、Sbは焼入性に影響を及ぼし、製品加工後の最終焼入れ時に、Sb添加量に応じた焼入れ条件を設定しないと、硬さの変動をまねくおそれがある。
【0015】
そこで、この発明は、上記の問題を解消し、高価な添加成分を用いることなく、簡便な手法によって熱延板における脱炭層の形成を抑制した、新規な高炭素熱延鋼板およびその製造方法について提案することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、熱延板焼鈍における脱炭の進行を回避する手段について鋭意究明したところ、従来は脱炭進行の主要因とされていたスケールは、その厚みを適正化することによって、逆に脱炭の進行を抑制できることを見出し、この発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、この発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る高炭素熱延鋼板であって、該鋼板の表層に、板厚に対する比率が0.0015以下の厚みの脱炭層を有する高炭素熱延鋼板。
【0018】
(2)C:0.15〜1.30mass%およびCr:1.0 mass%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る高炭素熱延鋼板であって、該鋼板の表層に、板厚に対する比率が0.0015以下 の厚みの脱炭層を有する高炭素熱延鋼板。
【0019】
(3)上記(1)又は(2)において、組成として、さらに、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0mass%以下、Cu:0.1mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Al:0.5mass%以下、Mo:1.0mass%以下、Ti:0.5mass%以下、Nb:0.5mass%以下、V:0.5 mass%以下およびZr:0.5mass%以下から選ばれる一種または二種以上を含有する高炭素熱延鋼板。
【0020】
(4)C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延して高炭素熱延鋼板を製造するに当り、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することを特徴とする高炭素熱延鋼板の製造方法。
【0021】
(5)C:0.15〜1.30mass%およびCr:1.0 mass%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延して高炭素熱延鋼板を製造するに当り、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することを特徴とする高炭素熱延鋼板の製造方法。
【0022】
(6)上記(4)又は(5)において、組成として、さらに、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0mass%以下、Cu:0.1mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Al:0.5mass%以下、Mo:1.0mass%以下、Ti:0.5mass%以下、Nb:0.5mass%以下、V:0.5 mass%以下およびZr:0.5mass%以下から選ばれる一種または二種以上を含有する高炭素熱延鋼板の製造方法。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、詳しく説明する。
本発明の高炭素熱延鋼板は、その表層に、板厚に対する比率が0.0015 以下の厚みの脱炭層を有する。それは、板の表と裏の各々について言えるが、少なくとも鋼板表裏のいずれか片側は、板厚に対する比率が0.0015 以下の厚みの脱炭層を有するものとする。勿論、該脱炭層は、鋼板の両側にあっても、特に構わない。すなわち、鋼板表裏の片側当りの脱炭層の厚みが板厚に対して0.0015 倍以下であれば、熱延板表層での実質的な硬度低下は回避され、また打ち抜き加工時のだれの発生を許容範囲に抑制することができる。なお、本発明に従って規定された脱炭層が表裏のいずれか片側だけである場合は、規定されない側の鋼板面に向かって先に打ち抜き加工することによって、だれを抑制することができる。
【0024】
本発明では、高炭素熱延鋼板の素材として、C:0.15〜1.30mass%を含有する鋼素材を用いる。すなわち、鋼素材のC含有量が0.15mass%未満では、上述した各種用途において求められる、硬さを得ることができなくなり、一方C含有量が1.30mass%をこえると、鋼素材、例えばスラブの製造時に割れが生じて、事実上製造が不可能になる。
【0025】
さらに、C以外の成分として、Crを1.0 mass%以下の範囲で含有させることができる。すなわち、Crは焼入性を向上して硬度を高めるために、好ましくは0.10mass%以上で添加するが、1.0 mass%を超えて添加すると、効果向上代がさほど見込めないことにくわえ、熱間圧延における脱スケール性が悪くなることから、1.0 mass%以下とする。
【0026】
なお、CおよびCr以外の成分は、JIS G3311に準拠し、例えばS55CMやSK2M等の記号で表される、各鋼種ごとに許容される各成分範囲に従う場合も多いが、近年の需要家ニーズの多様化に対応するため、用途や要求性能に応じて、適宜その他の成分の添加量を増減することが可能である。例えば、
Si:1.0 mass% 以下、
Mn:1.0 mass% 以下、
Cu:0.1 mass% 以下、
Ni:1.0 mass% 以下、
Al:0.5 mass% 以下、
Mo:1.0 mass% 以下、
Ti:0.5 mass% 以下、
Nb:0.5 mass% 以下、
V:0.5 mass% 以下および
Zr:0.5 mass% 以下
等から選ばれる一種または二種以上の添加が可能である。
【0027】
Siは、脱酸に有用なだけでなく、焼入れ性の向上にも有効に寄与するため、1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、所謂赤スケールと呼ばれるファイアライトの強固なスケールの層が、加熱炉でのスラブの加熱中にスラブの表層に生じ、噴射圧30MPa程度の高圧のデスケーリングを施しても、なかなか完全には剥離しにくいため、製品表面の見栄えが悪くなり、著しく表面品質を損ねる。よって、上限を1.0mass%とすることが好ましい。なお、好ましい含有範囲は、0.1〜1.0mass%である。
【0028】
Mnは、強度の向上あるいは焼入性の向上のために1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、靱性の低下を招くことから、上限を1.0mass%とすることが好ましい。なお、含有量が0.05mass%未満では、固溶Sが多くなって熱間圧延時に脆化が生じる場合もあるため、0.05mass%以上での含有がさらに好ましい。
【0029】
Cuは、強度の向上あるいは靱性の向上のために、0.1mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、0.1mass%を超えて含有すると、熱間圧延時に割れが発生し製品の表面品質を損ねる。よって、上限を0.1mass%とすることが好ましい。
【0030】
Niは、焼入れ性の向上に寄与するため、1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、効果は飽和してコストアップをまねくだけになるため、上限を1.0mass%とすることが好ましい。
【0031】
Alは、脱酸に有用なため、0.5mass%以下の範囲で含有することが好ましい。0.5mass%を超えて含有すると脆化を招くので、上限を0.5mass%とすることが好ましい。
【0032】
Moは、焼入れ性を高めて耐摩耗性の改善に有効に寄与するだけでなく、特定の焼戻温度で発生する「焼戻脆化」の抑制にも効果があるため、1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、効果が飽和してコストアップをまねくだけになるため、上限を1.0mass%とすることが好ましい。
【0033】
Ti、Nb、VおよびZrは、γ粒界におけるフェライトの生成を抑制し、結晶粒を微細化して強度を向上するため、いずれも0.5mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、0.5mass%を超えて含有すると却って逆に結晶粒の微細化が妨げられるため、上限を0.5mass%とした。
【0034】
なお、以上の添加成分のうち、下限について言及しなかった成分については、各0.01mass%以上添加することが好ましい。添加による効果が高まるからである。
【0035】
このほか、Pは、0.05 mass%を超えると粒界脆化が生じ易くなるため、0.05 mass%以下に抑制することが好ましい。より好ましくは、0.03mass%以下である。
また、Sは、0.05mass%を超えると靱性を著しく低下するため、0.05 mass%以下に抑制することが好ましい。より好ましくは、0.01mass%以下である。
【0036】
上記成分組成の鋼素材を、熱間圧延して高炭素熱延鋼板とするが、本発明では、この熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整して製造する。すなわち、熱延板焼鈍における脱炭の進行は、第1に、焼鈍雰囲気中のO2が、熱延板表層において酸素原子に分離して熱延板内部に侵入すること、第2に、スケールの主成分であるFeOxが焼鈍中に分解してO2を発生すること、に起因しているのは、既に述べたとおりであり、この発明に従って鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することによって、この適正厚のスケールが、焼鈍雰囲気中のO2起因の酸素原子の内部侵入を阻止する一方、焼鈍中に分解するO2の発生量の抑制にも作用する。これら作用の相乗によって、最終的に形成される脱炭層は極めて薄い、実害のないものとなる。正確にいえば、極表層部ではいくらか脱炭される。しかし、本発明はその程度が小さい。
【0037】
ここで、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整するには、熱間圧延ライン中、仕上圧延直前に高圧デスケーリングすることがとくに有効である。
すなわち、図1に示すように、加熱炉1、粗圧延機2、クロップシャー3、デスケーリング装置4、仕上圧延機5、冷却ゾーン6およびコイラー7の順次配列になる、熱間圧延ラインにおいて、粗圧延機2を出てクロップシャー3での不良除去を経た、粗圧延材8は、仕上圧延機5での圧延に先立ち、その表面にデスケーリング装置4にてデスケーリングを施される。このデスケーリングは、図2に示すように、ノズルから超高圧水を粗圧延材8に向けて噴射することにより行うことができる。なお、図3に示すように、粗圧延材8の幅方向に隣接するノズルの噴射の向きを逆方向にして、粗圧延材8へ水を噴射することも可能である。
【0038】
この超高圧水によるデスケーリングが、熱間圧延後の鋼板表面のスケール厚を1〜10μmに調整するのに、極めて有効な手段であり、そのためには、次式で示す衝突圧を45〜150MPaにすればよい。
衝突圧S=9.8H÷s(=9800 ρ・Q・Cv・V:発明者らの場合)
H:衝突力(H=ρ・Q・Cv・V)kgf
ρ:密度 102kg・s2/m4
Q:ノズル1個当りの水量 m3/s
Cv:大気中の流速減退係数(実験にて評価した値)
{距離 200mm、Cv=1 (板とノズルの距離200mmの発明者らの場合)距離 300mm、Cv=0.95}
V:流速 (m/s)
s:スプレー断面積m2(=0.001m2:発明者らの場合)
【0039】
ここで、下限を45MPaとしたのは、これよりも衝突圧が下がるとスケール厚が10μmよりも厚くなってしまうからである。また、上限を150MPaに制限する理由はとくにないが、現実的なデスケーリング水供給ポンプ仕様の上限から、このように決まる。
【0040】
【実施例】
表1に示す成分組成を有する、厚さ:260mmの鋼スラブA〜Pを、図1に示した熱間圧延ラインに通して熱延板を製造するに際し、仕上圧延機の入側において、35mmのシートバー厚になるよう粗圧延し、粗圧延材に対して表2〜8に示す条件でのデスケーリングを行い、熱間仕上圧延後の熱延板におけるスケール厚を表2〜8に示すように調整し、その後、雰囲気をH2:5 mass%、N2:95 mass%で温度:680℃〜710℃および均熱時間:24〜30hの条件の熱延板焼鈍を施し、熱延板製品とした。
かくして得られた製品板について、表層の脱炭層の厚みを調査した。その結果も、表2〜8に併記する。
鋼板の表裏両側について高圧デスケーリングを施したが、スケール厚、脱炭層厚の数値は、ともに表裏片側の数値(平均値)を示してある。
【0041】
尚、スケール厚は、製品板のスケール厚を板厚方向断面顕微鏡写真におけるスケール部分を物差しで測定した値に、シートバー厚/製品板板厚を乗じて得た値である。なお、スケールの表面に起伏がある場合は、写真の視野の範囲で最頂部から、底面に起伏がある場合は、最底部までを測定した。又、脱炭層厚は、JIS G0558附属書3に準拠し、電子線マイクロアナリシス(EPMA)により測定した値である。
【0042】
装置は、島津製作所製EPM810を使用し、製品板の板厚断面方向に、ビーム直径1μmの電子線を走査させ、1μmピッチで炭素(C)のmass%を測定し、図4に示すように、製品板の脱炭層のある側(表裏にある場合は両側)の板厚の各10%を除いた板厚中央部分について、炭素(C)のmass%を平均し、その平均した値の95%を示す直線と、測定値を結んだ曲線とが交わる板厚方向位置を求め、その位置の(各)製品表(裏)面からの距離を測って脱炭層厚とした。表裏に脱炭層がある場合は、両者の平均とした。
【0043】
また、表層部分(鋼板表面から板厚方向に板厚の約1/3000の深さの箇所)の炭素(C)のmass%を測定し、その測定値の、上記した板厚中央部分における炭素(C)濃度を平均した値に対する比率を、表2〜8に併記した。脱炭層の生成抑制に効果がある、本発明例といえども、極表層部では脱炭されているが、その脱炭の程度は抑制されていることがわかる。
ちなみに、脱炭層厚の測定は、上記のEPMAのほか、GDS(グロー放電発光分光分析)による等して、同様に測定してもよい。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
各表に示した結果より、本発明例はいずれも、比較例に比べ、脱炭層厚が小さく、かつ表層部分(表面から板厚方向に板厚の約1/3000の深さの箇所)の炭素(C)のmass%の、板厚中央部分における炭素(C)のmass%を平均した値に対する比率が70%以上と、比較例の40%以下よりも大きくなっている。
【0053】
尚、以上の例では、高圧デスケーリングする場合の例について説明したが、スケール厚を1〜10μmに調節する方法は、これに限るものではなく、例えば仕上圧延機入側にブラッシングロールやショットブラストなどの機械的脱スケール装置を設置して脱スケールするなど、この他の方法によってもよい。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、脱炭層厚を極めて薄くし、耐摩耗性の劣化を抑止し、打ち抜き加工等によるだれを低減し、表面研削およびそのコストを低く抑えられる高炭素熱延鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱間圧延ラインを示す図である。
【図2】デスケーリングに用いるノズルを示す図である。
【図3】デスケーリングに用いる他のノズルを示す図である。
【図4】脱炭層厚の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
1 加熱炉
2 粗圧延機
3 クロップシャ
4 デスケーリング装置
5 仕上圧延機
6 冷却ゾーン
7 コイラー
8 粗圧延材
【発明の属する技術分野】
本発明は、高炭素熱延鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に熱間圧延後の焼鈍工程における脱炭を抑制できる、高炭素熱延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ギヤ、ワッシャー、刃物、鋸、自動車の駆動系部品および座金等の高硬度部品には、非常に高い含有率で炭素を含む高炭素鋼が素材として用いられている。
【0003】
この高硬度部品用素材としては、熱間圧延による高炭素熱延鋼板(以下、単に熱延板とも称す)に酸洗、そして焼鈍を施して、熱延板製品とするのが通例であり、さらに冷間圧延とそれに続く球状化焼鈍を行って、適当な強度に調整することもある。
【0004】
一方、例えば自動車の駆動系部品の素材となる、特に板厚が8mmを超える、厚物の高炭素熱延鋼板は、元々硬質であるのと板厚が厚いことが相俟って高剛性となるため、酸洗の処理プロセスラインに通板しようにも、同ライン内で行う、板厚方向の曲げおよび曲げ戻しの加工により加わる力に、同ラインのデフレクタロールなどの駆動設備が仕様上耐えきれず、通板不能になる場合が多い。また、駆動設備に十分な仕様上の能力をもつ駆動設備を設計制作し直して強引に通板したとしても、今度は通板中の板の方が蛇行や低靭性ゆえの板割れを起こす可能性がある。
また、板厚が8mmを超えないまでも、元来高炭素鋼は硬質であることから、通板不可能とまではいかないまでも、この種の蛇行、板割れといった通板トラブルを起こしやすい傾向がある。
【0005】
従って、このような高炭素鋼板、特に厚物の場合は、酸洗と焼鈍の処理順序を逆にし、先に焼鈍して同板を軟化させてから酸洗の処理プロセスラインに通板して酸洗処理を行う場合があるほか、需要家が許せば、酸洗処理を省略して、焼鈍後に黒皮製品として出荷する、あるいはショットブラストによる脱スケールを施した上で出荷する、という場合もある。
【0006】
ここで、焼鈍の話に移る。圧延ままの熱延板、またはさらに酸洗後の熱延板において、炭化物は層状のパーライト組織となっており、熱延板焼鈍では、この炭化物を球状化するために、A1変態点以上の温度に数時間保持して炭化物の一部を、オーステナイト中に固溶させ、その後に徐冷またはA1変態点直下に数時間保持して、固溶した炭素を、残留する炭化物のまわりに析出球状化させるようにしている。
【0007】
しかし、A1変態点以上の温度では炭素の拡散速度が非常に速く、焼鈍雰囲気ガス中に水分や酸素等の脱炭性成分が存在すると、焼鈍中の熱延板表面において、焼鈍雰囲気ガス中の脱炭性成分と炭素とが速やかに反応し脱炭が進行する。この脱炭層は、熱延板表層の板厚方向に数100μm前後に達する場合がある。
【0008】
ここに、圧延ままの熱延板またはさらに酸洗後の熱延板に施す焼鈍は、一般に(Ac1−50)〜Ac1℃、あるいはAc1〜(Ac1+30)℃の温度域において6〜24時間の長時間にわたって均熱される箱焼鈍のプロセスを用いており、このときの雰囲気はN2やAr等の不活性雰囲気または、コークスガスやメタンガス等の浸炭雰囲気、すなわち脱炭防止のため慎重に選択された雰囲気で行われている。
【0009】
しかし、このような雰囲気下においても、焼鈍後の熱延板に脱炭層が形成されるのを完全に防止することはできなかった。
というのは、第1に、焼鈍雰囲気制御を厳しく行ったとしても、その雰囲気中へのO2混入を完全に防ぐことは難しく、この雰囲気中のO2濃度がある程度以上になると、熱延板表層においてO2が酸素原子に分離し、熱延板表層から内部に侵入し、この酸素原子が熱延板表層中のCと結合してCOやCO2を形成して熱延板表層から外部へ放出される結果、脱炭が進行する。
【0010】
第2に、特に厚物の高炭素熱延鋼板の場合は、前述の通り、酸洗前に焼鈍を行うか酸洗自体を省略することから、熱間圧延時に生成したスケールが存在したままの状態で焼鈍することになるため、スケールに起因した脱炭が進行する。すなわち、熱間圧延時に熱延板表層に生成したスケールの主成分であるFeOxが焼鈍中に分解してO2を発生し、熱延板表層から分離し、残されたスケールが純鉄となって熱延板表層に脱炭層が形成される。
【0011】
かくして形成された脱炭層は、製品板表面の硬度を低下させ耐摩耗性を著しく劣化させ、また強度の低下をもまねくため、前述した用途には極めて不利であった。さらに、脱炭層が存在すると、製品加工時の打ち抜き加工等において、熱延板表層が板厚方向にだれる等の不都合が生じる。このだれは、製品に残存することが許されないことから、従来は打ち抜き加工前に、表面研削して脱炭層を除去していたが、そのためのコストが高く問題となっていた。
【0012】
この問題に対して、特許文献1では、鋼板にSbを添加して、焼鈍時に鋼板表層のSbによってO2ガスのO原子への分解を抑制し、脱炭を抑制することが、提案されている。
【0013】
【特許文献1】
特開平3−44422号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Sbは非常に高価であるため、コストの低減が難しくなり、また熱間圧延時にSbに起因した焼割れを生じるおそれがある。さらに、Sbは焼入性に影響を及ぼし、製品加工後の最終焼入れ時に、Sb添加量に応じた焼入れ条件を設定しないと、硬さの変動をまねくおそれがある。
【0015】
そこで、この発明は、上記の問題を解消し、高価な添加成分を用いることなく、簡便な手法によって熱延板における脱炭層の形成を抑制した、新規な高炭素熱延鋼板およびその製造方法について提案することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、熱延板焼鈍における脱炭の進行を回避する手段について鋭意究明したところ、従来は脱炭進行の主要因とされていたスケールは、その厚みを適正化することによって、逆に脱炭の進行を抑制できることを見出し、この発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、この発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る高炭素熱延鋼板であって、該鋼板の表層に、板厚に対する比率が0.0015以下の厚みの脱炭層を有する高炭素熱延鋼板。
【0018】
(2)C:0.15〜1.30mass%およびCr:1.0 mass%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る高炭素熱延鋼板であって、該鋼板の表層に、板厚に対する比率が0.0015以下 の厚みの脱炭層を有する高炭素熱延鋼板。
【0019】
(3)上記(1)又は(2)において、組成として、さらに、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0mass%以下、Cu:0.1mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Al:0.5mass%以下、Mo:1.0mass%以下、Ti:0.5mass%以下、Nb:0.5mass%以下、V:0.5 mass%以下およびZr:0.5mass%以下から選ばれる一種または二種以上を含有する高炭素熱延鋼板。
【0020】
(4)C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延して高炭素熱延鋼板を製造するに当り、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することを特徴とする高炭素熱延鋼板の製造方法。
【0021】
(5)C:0.15〜1.30mass%およびCr:1.0 mass%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延して高炭素熱延鋼板を製造するに当り、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することを特徴とする高炭素熱延鋼板の製造方法。
【0022】
(6)上記(4)又は(5)において、組成として、さらに、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0mass%以下、Cu:0.1mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Al:0.5mass%以下、Mo:1.0mass%以下、Ti:0.5mass%以下、Nb:0.5mass%以下、V:0.5 mass%以下およびZr:0.5mass%以下から選ばれる一種または二種以上を含有する高炭素熱延鋼板の製造方法。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、詳しく説明する。
本発明の高炭素熱延鋼板は、その表層に、板厚に対する比率が0.0015 以下の厚みの脱炭層を有する。それは、板の表と裏の各々について言えるが、少なくとも鋼板表裏のいずれか片側は、板厚に対する比率が0.0015 以下の厚みの脱炭層を有するものとする。勿論、該脱炭層は、鋼板の両側にあっても、特に構わない。すなわち、鋼板表裏の片側当りの脱炭層の厚みが板厚に対して0.0015 倍以下であれば、熱延板表層での実質的な硬度低下は回避され、また打ち抜き加工時のだれの発生を許容範囲に抑制することができる。なお、本発明に従って規定された脱炭層が表裏のいずれか片側だけである場合は、規定されない側の鋼板面に向かって先に打ち抜き加工することによって、だれを抑制することができる。
【0024】
本発明では、高炭素熱延鋼板の素材として、C:0.15〜1.30mass%を含有する鋼素材を用いる。すなわち、鋼素材のC含有量が0.15mass%未満では、上述した各種用途において求められる、硬さを得ることができなくなり、一方C含有量が1.30mass%をこえると、鋼素材、例えばスラブの製造時に割れが生じて、事実上製造が不可能になる。
【0025】
さらに、C以外の成分として、Crを1.0 mass%以下の範囲で含有させることができる。すなわち、Crは焼入性を向上して硬度を高めるために、好ましくは0.10mass%以上で添加するが、1.0 mass%を超えて添加すると、効果向上代がさほど見込めないことにくわえ、熱間圧延における脱スケール性が悪くなることから、1.0 mass%以下とする。
【0026】
なお、CおよびCr以外の成分は、JIS G3311に準拠し、例えばS55CMやSK2M等の記号で表される、各鋼種ごとに許容される各成分範囲に従う場合も多いが、近年の需要家ニーズの多様化に対応するため、用途や要求性能に応じて、適宜その他の成分の添加量を増減することが可能である。例えば、
Si:1.0 mass% 以下、
Mn:1.0 mass% 以下、
Cu:0.1 mass% 以下、
Ni:1.0 mass% 以下、
Al:0.5 mass% 以下、
Mo:1.0 mass% 以下、
Ti:0.5 mass% 以下、
Nb:0.5 mass% 以下、
V:0.5 mass% 以下および
Zr:0.5 mass% 以下
等から選ばれる一種または二種以上の添加が可能である。
【0027】
Siは、脱酸に有用なだけでなく、焼入れ性の向上にも有効に寄与するため、1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、所謂赤スケールと呼ばれるファイアライトの強固なスケールの層が、加熱炉でのスラブの加熱中にスラブの表層に生じ、噴射圧30MPa程度の高圧のデスケーリングを施しても、なかなか完全には剥離しにくいため、製品表面の見栄えが悪くなり、著しく表面品質を損ねる。よって、上限を1.0mass%とすることが好ましい。なお、好ましい含有範囲は、0.1〜1.0mass%である。
【0028】
Mnは、強度の向上あるいは焼入性の向上のために1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、靱性の低下を招くことから、上限を1.0mass%とすることが好ましい。なお、含有量が0.05mass%未満では、固溶Sが多くなって熱間圧延時に脆化が生じる場合もあるため、0.05mass%以上での含有がさらに好ましい。
【0029】
Cuは、強度の向上あるいは靱性の向上のために、0.1mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、0.1mass%を超えて含有すると、熱間圧延時に割れが発生し製品の表面品質を損ねる。よって、上限を0.1mass%とすることが好ましい。
【0030】
Niは、焼入れ性の向上に寄与するため、1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、効果は飽和してコストアップをまねくだけになるため、上限を1.0mass%とすることが好ましい。
【0031】
Alは、脱酸に有用なため、0.5mass%以下の範囲で含有することが好ましい。0.5mass%を超えて含有すると脆化を招くので、上限を0.5mass%とすることが好ましい。
【0032】
Moは、焼入れ性を高めて耐摩耗性の改善に有効に寄与するだけでなく、特定の焼戻温度で発生する「焼戻脆化」の抑制にも効果があるため、1.0mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、1.0mass%を超えて含有すると、効果が飽和してコストアップをまねくだけになるため、上限を1.0mass%とすることが好ましい。
【0033】
Ti、Nb、VおよびZrは、γ粒界におけるフェライトの生成を抑制し、結晶粒を微細化して強度を向上するため、いずれも0.5mass%以下の範囲で含有することが好ましい。すなわち、0.5mass%を超えて含有すると却って逆に結晶粒の微細化が妨げられるため、上限を0.5mass%とした。
【0034】
なお、以上の添加成分のうち、下限について言及しなかった成分については、各0.01mass%以上添加することが好ましい。添加による効果が高まるからである。
【0035】
このほか、Pは、0.05 mass%を超えると粒界脆化が生じ易くなるため、0.05 mass%以下に抑制することが好ましい。より好ましくは、0.03mass%以下である。
また、Sは、0.05mass%を超えると靱性を著しく低下するため、0.05 mass%以下に抑制することが好ましい。より好ましくは、0.01mass%以下である。
【0036】
上記成分組成の鋼素材を、熱間圧延して高炭素熱延鋼板とするが、本発明では、この熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整して製造する。すなわち、熱延板焼鈍における脱炭の進行は、第1に、焼鈍雰囲気中のO2が、熱延板表層において酸素原子に分離して熱延板内部に侵入すること、第2に、スケールの主成分であるFeOxが焼鈍中に分解してO2を発生すること、に起因しているのは、既に述べたとおりであり、この発明に従って鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することによって、この適正厚のスケールが、焼鈍雰囲気中のO2起因の酸素原子の内部侵入を阻止する一方、焼鈍中に分解するO2の発生量の抑制にも作用する。これら作用の相乗によって、最終的に形成される脱炭層は極めて薄い、実害のないものとなる。正確にいえば、極表層部ではいくらか脱炭される。しかし、本発明はその程度が小さい。
【0037】
ここで、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整するには、熱間圧延ライン中、仕上圧延直前に高圧デスケーリングすることがとくに有効である。
すなわち、図1に示すように、加熱炉1、粗圧延機2、クロップシャー3、デスケーリング装置4、仕上圧延機5、冷却ゾーン6およびコイラー7の順次配列になる、熱間圧延ラインにおいて、粗圧延機2を出てクロップシャー3での不良除去を経た、粗圧延材8は、仕上圧延機5での圧延に先立ち、その表面にデスケーリング装置4にてデスケーリングを施される。このデスケーリングは、図2に示すように、ノズルから超高圧水を粗圧延材8に向けて噴射することにより行うことができる。なお、図3に示すように、粗圧延材8の幅方向に隣接するノズルの噴射の向きを逆方向にして、粗圧延材8へ水を噴射することも可能である。
【0038】
この超高圧水によるデスケーリングが、熱間圧延後の鋼板表面のスケール厚を1〜10μmに調整するのに、極めて有効な手段であり、そのためには、次式で示す衝突圧を45〜150MPaにすればよい。
衝突圧S=9.8H÷s(=9800 ρ・Q・Cv・V:発明者らの場合)
H:衝突力(H=ρ・Q・Cv・V)kgf
ρ:密度 102kg・s2/m4
Q:ノズル1個当りの水量 m3/s
Cv:大気中の流速減退係数(実験にて評価した値)
{距離 200mm、Cv=1 (板とノズルの距離200mmの発明者らの場合)距離 300mm、Cv=0.95}
V:流速 (m/s)
s:スプレー断面積m2(=0.001m2:発明者らの場合)
【0039】
ここで、下限を45MPaとしたのは、これよりも衝突圧が下がるとスケール厚が10μmよりも厚くなってしまうからである。また、上限を150MPaに制限する理由はとくにないが、現実的なデスケーリング水供給ポンプ仕様の上限から、このように決まる。
【0040】
【実施例】
表1に示す成分組成を有する、厚さ:260mmの鋼スラブA〜Pを、図1に示した熱間圧延ラインに通して熱延板を製造するに際し、仕上圧延機の入側において、35mmのシートバー厚になるよう粗圧延し、粗圧延材に対して表2〜8に示す条件でのデスケーリングを行い、熱間仕上圧延後の熱延板におけるスケール厚を表2〜8に示すように調整し、その後、雰囲気をH2:5 mass%、N2:95 mass%で温度:680℃〜710℃および均熱時間:24〜30hの条件の熱延板焼鈍を施し、熱延板製品とした。
かくして得られた製品板について、表層の脱炭層の厚みを調査した。その結果も、表2〜8に併記する。
鋼板の表裏両側について高圧デスケーリングを施したが、スケール厚、脱炭層厚の数値は、ともに表裏片側の数値(平均値)を示してある。
【0041】
尚、スケール厚は、製品板のスケール厚を板厚方向断面顕微鏡写真におけるスケール部分を物差しで測定した値に、シートバー厚/製品板板厚を乗じて得た値である。なお、スケールの表面に起伏がある場合は、写真の視野の範囲で最頂部から、底面に起伏がある場合は、最底部までを測定した。又、脱炭層厚は、JIS G0558附属書3に準拠し、電子線マイクロアナリシス(EPMA)により測定した値である。
【0042】
装置は、島津製作所製EPM810を使用し、製品板の板厚断面方向に、ビーム直径1μmの電子線を走査させ、1μmピッチで炭素(C)のmass%を測定し、図4に示すように、製品板の脱炭層のある側(表裏にある場合は両側)の板厚の各10%を除いた板厚中央部分について、炭素(C)のmass%を平均し、その平均した値の95%を示す直線と、測定値を結んだ曲線とが交わる板厚方向位置を求め、その位置の(各)製品表(裏)面からの距離を測って脱炭層厚とした。表裏に脱炭層がある場合は、両者の平均とした。
【0043】
また、表層部分(鋼板表面から板厚方向に板厚の約1/3000の深さの箇所)の炭素(C)のmass%を測定し、その測定値の、上記した板厚中央部分における炭素(C)濃度を平均した値に対する比率を、表2〜8に併記した。脱炭層の生成抑制に効果がある、本発明例といえども、極表層部では脱炭されているが、その脱炭の程度は抑制されていることがわかる。
ちなみに、脱炭層厚の測定は、上記のEPMAのほか、GDS(グロー放電発光分光分析)による等して、同様に測定してもよい。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
各表に示した結果より、本発明例はいずれも、比較例に比べ、脱炭層厚が小さく、かつ表層部分(表面から板厚方向に板厚の約1/3000の深さの箇所)の炭素(C)のmass%の、板厚中央部分における炭素(C)のmass%を平均した値に対する比率が70%以上と、比較例の40%以下よりも大きくなっている。
【0053】
尚、以上の例では、高圧デスケーリングする場合の例について説明したが、スケール厚を1〜10μmに調節する方法は、これに限るものではなく、例えば仕上圧延機入側にブラッシングロールやショットブラストなどの機械的脱スケール装置を設置して脱スケールするなど、この他の方法によってもよい。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、脱炭層厚を極めて薄くし、耐摩耗性の劣化を抑止し、打ち抜き加工等によるだれを低減し、表面研削およびそのコストを低く抑えられる高炭素熱延鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱間圧延ラインを示す図である。
【図2】デスケーリングに用いるノズルを示す図である。
【図3】デスケーリングに用いる他のノズルを示す図である。
【図4】脱炭層厚の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
1 加熱炉
2 粗圧延機
3 クロップシャ
4 デスケーリング装置
5 仕上圧延機
6 冷却ゾーン
7 コイラー
8 粗圧延材
Claims (6)
- C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る高炭素熱延鋼板であって、該鋼板の表層に、板厚に対する比率が0.0015以下 の厚みの脱炭層を有する高炭素熱延鋼板。
- C:0.15〜1.30mass%およびCr:1.0 mass%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る高炭素熱延鋼板であって、該鋼板の表層に、板厚に対する比率が0.0015以下 の厚みの脱炭層を有する高炭素熱延鋼板。
- 請求項1または2において、組成として、さらに、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0mass%以下、Cu:0.1mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Al:0.5mass%以下、Mo:1.0mass%以下、Ti:0.5mass%以下、Nb:0.5mass%以下、V:0.5 mass%以下およびZr:0.5mass%以下から選ばれる一種または二種以上を含有する高炭素熱延鋼板。
- C:0.15〜1.30mass%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延して高炭素熱延鋼板を製造するに当り、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することを特徴とする高炭素熱延鋼板の製造方法。
- C:0.15〜1.30mass%およびCr:1.0 mass%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物の組成に成る鋼素材を熱間圧延して高炭素熱延鋼板を製造するに当り、熱間圧延後の鋼板表層のスケール厚を1〜10μmに調整することを特徴とする高炭素熱延鋼板の製造方法。
- 請求項4または5において、組成として、さらに、Si:1.0mass%以下、Mn:1.0mass%以下、Cu:0.1mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Al:0.5mass%以下、Mo:1.0mass%以下、Ti:0.5mass%以下、Nb:0.5mass%以下、V:0.5 mass%以下およびZr:0.5mass%以下から選ばれる一種または二種以上を含有する高炭素熱延鋼板の製造方法。
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