JP2004232519A - サーモスタットの診断装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】内燃機関の冷却水通路に設けられたサーモスタットの作動状態を精度よく診断することのできるサーモスタットの診断装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の冷却水通路に設けられたサーモスタットの作動状態を診断する診断装置は、サーモスタットの正常作動を想定した条件下での冷却水の温度推移を推定する。このとき、内燃機関の潤滑油温が冷却水温に与える影響を考慮するために、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、及び前運転時間DTから推定される潤滑油温に基づいて模擬カウンタ補正値Kを算出し、推定される冷却水温を補正する。そして、実際の冷却水の温度推移における上昇率が推定された温度推移における上昇率よりも低い場合にはサーモスタットに異常有りと診断する。
【選択図】 図2
【解決手段】内燃機関の冷却水通路に設けられたサーモスタットの作動状態を診断する診断装置は、サーモスタットの正常作動を想定した条件下での冷却水の温度推移を推定する。このとき、内燃機関の潤滑油温が冷却水温に与える影響を考慮するために、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、及び前運転時間DTから推定される潤滑油温に基づいて模擬カウンタ補正値Kを算出し、推定される冷却水温を補正する。そして、実際の冷却水の温度推移における上昇率が推定された温度推移における上昇率よりも低い場合にはサーモスタットに異常有りと診断する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関のラジエータに流れる冷却水の流量を調節するサーモスタットの作動異常を診断する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の冷却装置としては、機関本体とラジエータとの間で冷却水を循環させる水冷式のものが知られている。こうした冷却装置では、ラジエータに流れる冷却水の流量を調節するサーモスタットが設けられている。このサーモスタットは、機関始動直後の暖機運転時等、冷却水温が所定値(通常、80℃程度)より低い場合には閉弁しており、この状態ではラジエータ側への冷却水の循環が停止される。このため、速やかな内燃機関の暖機が図られる。一方、サーモスタットは、冷却水温が所定値より高くなると開弁し、この状態ではラジエータ側への冷却水の循環が行われる。このため、機関温度の過度な上昇が抑制される。こうしたサーモスタットの機能を通じて機関温度は適正な温度範囲内に調節される。
【0003】
一方、内燃機関ではその暖機性能の向上や冷間時の安定した燃焼状態を確保するために、同機関が低温状態にあるときに燃料噴射量を増量する、いわゆる暖機増量が行われる。ここで、サーモスタットが何らかの理由により全開状態あるいは半開状態のままになると、冷却水がラジエータ側に常に循環するようになり、内燃機関は過冷却状態となる。このような場合、暖機増量が常時実行されるようになり、燃費やエミッションの悪化を招くおそれがある。
【0004】
そこで従来より、このようなサーモスタットの作動異常を診断する装置が種々提案されている。例えば特許文献1に記載の診断装置では、サーモスタットが正常な場合の冷却水の温度推移を機関運転状態等から推定する。そして、この推定冷却水温を基準値とし、同基準値と実際に水温センサによって検出される冷却水温の実際値とを比較することにより、サーモスタットが正常に作動しているか否かを診断するようにしている。
【0005】
図15は、この特許文献1に記載の診断装置によって算出される上記推定冷却水温及び実冷却水温の推移の一例を示している。この図15に実線Aで示される曲線は、サーモスタットが正常な場合の実冷却水温の推移を示している。また、破線Bで示される曲線は、サーモスタットに異常が生じている場合の実冷却水温の推移を示している。そして、二点鎖線Cで示される曲線は、機関始動後における上記推定冷却水温の推移を示している。なお、この推定冷却水温は、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が低いサーモスタットによる冷却水温の推移が推定されている。また、同図15に示す診断温度θAは、サーモスタットが開弁状態となる温度であり、その部品公差等、個体差を考慮して最も低い温度に設定されている。
【0006】
まず、サーモスタットが正常な場合には、機関始動後しばらくの間はラジエータに冷却水が循環されないため、実冷却水温は速やかに上昇する。従って、図15に示されるように、推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAに達する前に実冷却水温(実線A)が診断温度θAに到達する場合(時刻t1)には、サーモスタットが閉弁状態となり速やかに実冷却水温が上昇したと判断することができる。すなわち、実冷却水温の上昇率が推定冷却水温の上昇率よりも高ければ、サーモスタットに開弁固着といった異常は生じていないと判断することができる。そしてこの場合には、サーモスタットが正常に作動していると診断される。
【0007】
一方、サーモスタットが開弁状態で固着している場合には、機関始動直後からラジエータに冷却水が循環されるため、実冷却水温の上昇が鈍くなる。従って、図15に示されるように、推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAに達しているにもかかわらず、実冷却水温(実線A)が診断温度θAに達していない場合(時刻t2)には、サーモスタットが開弁状態で固着しているために実冷却水温の上昇が鈍くなっていると判断することができる。そしてこの場合には、サーモスタットに開弁固着といった異常が発生していると診断される。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−220456号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1に記載の診断装置は、上述したようなサーモスタットの診断処理を機関冷間時からの始動時に限って実行するようにしている。そのため、機関冷間時以外の状態からの始動時においても上記診断処理を実行した場合には以下のような不具合が生じるものとなっている。
【0010】
すなわち、機関始動がなされ、暖機が完了するまでの間の半暖機状態では、内燃機関の摺動部等に供給される潤滑油の油温が冷却水温よりも低くなっている。そのため、半暖機状態で機関停止された後、冷間状態になる前に機関始動が行われるときには、冷却水から潤滑油への熱移動に起因して冷却水温の上昇率は低下する傾向がある。
【0011】
一方、完全暖機後に機関停止がなされ、同機関が冷間状態になるまでの間の状態である半ソーク状態では、潤滑油温が冷却水温よりも高くなっているため、半ソーク状態から機関始動が行われるときには、潤滑油から冷却水への熱移動に起因して冷却水温の上昇率は増大する傾向がある。
【0012】
従来の診断装置にあっては、こうした冷却水温に対する潤滑油温の影響を考慮することなく冷却水温の推定を行っていたために、その推定結果に基づいてサーモスタットの作動状態を診断すると、その誤診断を招くおそれがあることを本発明者は確認した。
【0013】
ちなみに、サーモスタットが閉弁状態で固着している場合の異常診断は、上述した推定冷却水温等を以下のように変更することで行うことができる。すなわち、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が高いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定する。そして、この推定された冷却水温の上昇率よりも、実冷却水温の上昇率が高ければ、冷却水温の上昇率が過剰に高く、サーモスタットに閉弁固着といった異常が生じていると判断することができる。そして、このような場合であっても、冷却水温に対する潤滑油温の影響を考慮することなく冷却水温の推定を行うと、サーモスタットの作動状態の診断に際して、誤診断を招くおそれがある。
【0014】
この発明はこうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、サーモスタットの作動状態を精度よく診断することのできるサーモスタットの診断装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための手段及びその作用効果について以下に記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の冷却水通路に設けられてラジエータに流れる冷却水の流量を調整するサーモスタットについて、その正常作動時の冷却水温に基づき設定される基準値と冷却水温の実際値との比較に基づいて同サーモスタットの作動状態を診断する装置において、前記基準値を前記内燃機関の潤滑油の温度に基づいて補正する補正手段を備えるようにしている。
【0016】
上記構成では、サーモスタットの作動状態を診断するための上記基準値を内燃機関の潤滑に供される潤滑油の温度に基づいて補正するようにしている。そのため、上述したような潤滑油温が冷却水温の推移に及ぼす影響を考慮しつつサーモスタットの診断を行うことができ、その作動状態、すなわちサーモスタットが正常に作動しているか否かについて、精度よく診断することができるようになる。
【0017】
こうした潤滑油温に基づく基準値の具体的な補正方法としては、請求項2記載の発明によるように、潤滑油温が実際の冷却水温よりも低いときに前記基準値をより低い温度に補正する、或いは請求項3記載の発明によるように、潤滑油温が実際の冷却水温よりも高いときに前記基準値をより高い温度に補正する、といった方法を採用できる。
【0018】
上述したように、内燃機関が半暖機状態或いは半ソーク状態にあるときの始動時に、冷却水温の温度推移に対する潤滑油温の影響は大きくなる。従って、温度センサにより潤滑油温を直接検出し、その検出結果に基づいて上記基準値を補正する他、同補正を内燃機関の状態に基づいて行うこともできる。具体的には、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかを判断し、その判断結果に基づいて前記基準値を補正することにより、実質的に潤滑油温に基づく前記基準値の補正を行うことができる。またここで、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかについては、請求項4記載の発明によるように、機関始動前の機関停止時間及び前回の機関運転時間に基づいて判断することができる。そしてこの判断に基づいて潤滑油温を推定し、その推定される潤滑油温に基づいて前記基準値の補正を実質的に行うことができる。ちなみに、機関始動前の機関停止時間が長いときほど、内燃機関は完全冷間状態にある可能性が高い。換言すれば、機関始動前の機関停止時間が短いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにあると判断することができる。また前回の機関運転時間が短いときほど内燃機関が半暖機状態で停止された可能性が高いと判断することができる。換言すれば前回の機関運転時間が長いときほど内燃機関が半ソーク状態にある可能性が高いと判断することができる。即ち、機関始動前の機関停止時間及び前回の機関運転時間に基づいて内燃機関が半暖機状態にあること、或いは半ソーク状態にあることを判断することができる。
【0019】
更に、内燃機関が半暖機状態にあること、或いは半ソーク状態にあることを判断するパラメータとしては、機関始動前の機関停止時間、前回の機関運転時間の他、請求項5記載の発明によるように、更に前回の機関停止時における冷却水温を採用することができる。前回の機関停止時における冷却水温が高いときほど、これが周囲温度と略等しくなるまで低下するのに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この機関停止時の冷却水温が高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断できる。即ち、上記構成によれば、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある旨の判断をより正確に行うことができる。
【0020】
その他、上記パラメータとしては、請求項6記載の発明によるように、外気温を採用することができる。外気温が高いときほど、機関停止中における冷却水温の低下速度が小さくなり、これが周囲温度と略等しくなるまでに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この外気温が高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断できる。即ち、上記構成によれば、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある旨の判断をより正確に行うことができる。尚、上記補正に用いられる外気温としては、機関始動時に検出される外気温の値、或いは前回の機関停止時に検出される外気温の値を採用できる他、例えば、前回の機関停止時から機関始動時までの外気温の推移を監視し、その監視結果に基づき算出される平均値を採用することもできる。
【0021】
また、サーモスタットが正常に作動しているか否かを診断する際には、例えば、請求項7記載の発明によるように、機関始動後における前記実際値の上昇率と前記基準値の上昇率との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する、といった診断態様を採用できる。或いは、請求項8記載の発明によるように、機関始動から所定時間経過後の冷却水温について前記実際値と前記基準値との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する、或いは、請求項9記載の発明によるように、機関始動後に冷却水温が所定値に到達するまでの到達時間について、実際の時間と前記基準値の推移から求められる時間との乖離が大きいときにサーモスタットに異常有りと診断する、といった診断態様も採用できる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、この発明にかかるサーモスタットの診断装置を車載内燃機関の冷却システムに適用した一実施の形態について図1〜図7に基づき、詳細に説明する。
【0023】
図1は、この診断装置が適用されるエンジン1とともに、その周辺構成を示す概略構成図である。
図1に示すように、エンジン1は、シリンダ3、ピストン4、クランクシャフト5、ピストン4とクランクシャフト5とを連結するコンロッド6等を有して構成されている。また、エンジン1の冷却システムは、シリンダヘッド12及びシリンダブロック13においてシリンダ3の周囲に形成されたウォータジャケット7、ウォータジャケット7と連通されたラジエータ8、冷却ファン9、及びウォータポンプ10等から構成されている。
【0024】
このエンジン1では、各シリンダ3の燃焼室11内における混合気の爆発・燃焼により、ピストン4が上下運動し、この上下運動がコンロッド6を介してクランクシャフト5の回転駆動力に変換される。また、混合気の供給や燃焼ガスの排出は、吸排気ポートを介して行われる。そして、混合気の爆発・燃焼により熱せられたシリンダヘッド12やシリンダブロック13等を必要に応じて冷却、あるいは定温維持するための冷却水の循環経路としてウォータジャケット7が昨日する。
【0025】
また、ラジエータ8とウォータジャケット7とは、上部連絡通路14、及び下部連絡通路15によって連通されている。この上部連絡通路14の途中には、ラジエータ8に流れる冷却水の流量を調整するサーモスタット16が設けられている。サーモスタット16は、水温に応じて自立開閉するバルブであり、本実施の形態にあっては、水温が所定温度(例えば82℃)以下である時には閉弁状態となって上部連絡通路14を閉鎖し、水温が同所定温度を上回ると開弁状態となって上部連絡通路14を開放する。
【0026】
また、シリンダブロック13に設けられた水温センサ42は、冷却水の温度、すなわち実冷却水温THWを検出し、その検出信号は後述する制御装置51に入力される。
【0027】
この他にも、前記エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが備えられている。例えば、クランク角センサ43は、クランクシャフト5の回転速度、すなわち機関回転速度NE等を検出する。吸気圧センサ44は、吸気圧PMを検出する。車速センサ45は、車速SPDを検出する。吸気温センサ46は、吸入空気の温度、すなわち吸気温THAを検出する。
【0028】
次に、エンジン1の運転状態に基づいてエンジン各部の制御や診断を行う制御装置(以下、ECUという)51について説明する。このECU51は中央処理制御装置(CPU)を備えるマイクロコンピュータを中心として構成されており、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)等が設けられている。またECU51には、演算結果や予め記憶されたデータ等を機関停止後も保存するためのバックアップRAM、入力インターフェース、並びに出力インターフェース等も設けられている。
【0029】
そして、クランク角センサ43からの出力信号は、波形整形回路(2値化回路)を介して入力インターフェースに入力される。また、水温センサ42、吸気圧センサ44、車速センサ45、吸気温センサ46等からの出力信号はA/D(アナログ/デジタル)変換器を介して入力インターフェースに入力される。これら各センサ42〜46等により、エンジン1の運転状態が検出される。
【0030】
一方、出力インターフェースは、各々対応する駆動回路等を介して制御対象、例えば燃料噴射弁等に接続されている。そして、ECU51は上記各センサ42〜46等からの信号に基づき、ROM内に格納された制御プログラム及び制御データに従って、燃料噴射弁による燃料噴射量や燃料噴射タイミングの制御など、各種運転制御や種々の故障診断等を実行する。
【0031】
さて、上記サーモスタット16が開弁状態で固着しており、閉弁しないといった作動異常時には、前述したように、暖機増量による燃費や排気エミッションの悪化等が懸念されるため、本実施の形態では、次のようにしてサーモスタットの作動状態を診断するようにしている。すなわち、サーモスタットが正常に閉弁する場合には、機関始動後速やかに冷却水温が上昇する一方、サーモスタットが閉弁状態にならない異常時には、機関始動後の冷却水の温度上昇が緩やかになる。従って、実際の冷却水の温度推移における上昇率が、サーモスタットの正常作動を想定して推定された冷却水の温度推移における上昇率よりも高ければ、サーモスタットは正常に作動していると考えることができる。そこで、本実施の形態では、サーモスタットが正常に作動していると想定した場合の冷却水温にかかる基準値として、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が低いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定している。そしてこの推定冷却水温、すなわち後述する模擬水温カウンタなまし値を、サーモスタットの作動状態の診断に際しての判定値として算出し、この判定値と冷却水温の実際値とを比較するようにしている。そして、この判定値よりも実際の冷却水温が低いとき、換言すれば実際の冷却水温の上昇率が、正常なサーモスタットによる冷却水温の上昇率のうち、最も低い上昇率よりも低いときには次のように判定する。すなわち、実際の冷却水温の上昇率と推定された冷却水温の上昇率との乖離が大きいとして、サーモスタットに開弁固着異常が生じている旨の判定を行うようにしている。
【0032】
ここで、上述したように、内燃機関が半暖機状態或いは半ソーク状態にあるときの始動時には、冷却水温と潤滑油温との温度差が冷却水温の温度推移に大きく影響する。そこで、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかについて判断し、この判断に基づいて潤滑油温を推定する推定手段と、この推定される潤滑油温に基づいて前記基準値である推定冷却水温の補正を行う補正手段を備えるようにしている。より具体的には、各種パラメータから推定される潤滑油温に基づいて模擬カウンタ補正値Kを算出し、この値を用いて上記模擬水温カウンタなまし値を算出する際に用いられる模擬水温カウンタ値を補正するようにしている。以下、本実施の形態におけるサーモスタットの診断処理を、図2〜図6を併せ参照して詳細に説明する。
【0033】
図2〜図4は、本実施の形態にかかるサーモスタットの診断処理について、その診断手順を示したものである。なお本実施の形態において、この診断処理はECU51により実行され、イグニッションスイッチが「オン」にされてから、サーモスタットの正常あるいは異常の診断がなされるまで所定時間毎に繰り返し実行される。
【0034】
この処理が開始されると、まず、機関が始動されているか否かが判定される(ステップS110)。ここでは、例えばイグニッションスイッチが「オン」になっており、且つ機関回転速度が所定速度以上(例えば500rpm/min以上)になっている場合に、機関は始動していると判定される。そして機関が始動していない場合には(ステップS110でNO)、一旦、本処理を終了される。
【0035】
一方、機関が始動している場合には(ステップS110でYES)、異常診断実行条件が成立しているか否かが判定される(ステップS120)。ここで、本診断処理では、サーモスタットの閉弁時と閉弁時とにおける冷却水温の変化態様の違いに着目してその作動状態を診断するようにしている。ところが完全暖機時には、サーモスタットが異常であるか否かにかかわらず、同サーモスタットは開弁状態にあるため、冷却水温の変化態様に大きな変化が見られなくなり、作動状態の診断が困難になる。そこで、本診断処理では、エンジン1が完全暖機状態にないことを異常診断処理の実行条件としている。なお、エンジン1の完全暖機状態は、例えばイグニッションスイッチが「オン」にされたときの実冷却水温THWに基づいて判定することができる。ちなみに完全暖機時には、上述した暖機時における燃料噴射量の増量が行われないため、燃費や排気エミッションの悪化等といった不具合が生じにくい状態でもある。
【0036】
さて、このステップS120において、エンジン1が完全暖機状態になっていると判定される場合には(ステップS120でNO)、本処理を終了する。
一方、エンジン1が完全暖機状態ではないと判定される場合には(ステップS120でYES)、始動時認識フラグFが「1」に設定されているか否かが判定される(ステップS130)。この始動時認識フラグFは、イグニッションスイッチが「オン」にされたとき、「0」に設定される。従って、本処理が初めて実行されるときには否定判定され、ステップS140以降の処理が行われる。一方、ステップS130にて肯定判定されるときには、後述するステップS220以降の処理が行われる。
【0037】
次に、ステップS140では、ソーク時間STが所定の判定時間T1(例えば8時間)以上であるか否かが判定される。このソーク時間STは、前回イグニッションスイッチが「オフ」にされたときから今回「オン」にされたときまでの時間を計測したものであり、機関停止時間のことである。なお、ソーク時間STは、例えば、ECU51に設けられてバックアップ電源で作動するタイマカウンタ等で計測することができる。
【0038】
そして、ソーク時間STが判定時間T1以上である場合には(ステップS140でYES)、模擬カウンタ補正値Kが「1」に設定される(ステップS160)。これは、ソーク時間STが判定時間T1以上である場合には、エンジン1は確実に完全冷間状態となっており、冷却水温と潤滑油温との温度差が小さくなっているため、冷却水温に対する潤滑油温の影響も少ないと考えられるためである。なお、本実施の形態では、冷却水温と潤滑油温との温度差が小さくなると考えられるソーク時間STの判定時間T1を「8時間」に設定しているが、この値は適宜に変更してもよい。
【0039】
一方、ソーク時間STが判定時間T1未満である場合には(ステップS140でNO)、ステップS150の処理が行われる。すなわち前述した模擬カウンタ補正値Kが、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づき、図5(イ)〜図5(ニ)に示す模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDより求められる(ステップS150)。
【0040】
ここで、前トリップ水温TWは、前回の機関停止時において検出された実冷却水温であり、前記RAMに一時記憶されている値である。ちなみに、前トリップ水温TWが高いときほど、これが周囲温度と略等しくなるまで低下するのに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この前トリップ水温TWが高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断できることができ、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。
【0041】
吸気温THAは、機関始動時に吸気温センサ46によって検出された吸気温である。ちなみに、吸気温THAが高いときほど、機関停止中における冷却水温の低下速度が小さくなり、これが周囲温度と略等しくなるまでに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この吸気温THAが高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断でき、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。なお、本実施の形態では吸気温を外気温の代用として用いているが、これは吸気温と外気温との間に相関が存在するためである。このため、例えば外気温センサを別途設けて、吸気温THAの代わりにこの外気温センサによって検出される外気温を用いるようにしてもよい。
【0042】
前運転時間DTは、前回の機関運転時間であり、例えば、イグニッションスイッチが「オン」にされたときから「オフ」にされたときまでの時間を前述したタイマカウンタ等で計測しておき、その計測時間を前記RAMに一時記憶しておけばよい。また、前運転時間DTが長いほど潤滑油温は高くなる傾向にある。一方、ソーク時間STが長いほど潤滑油温は低下する傾向にある。ちなみに、上述したようにソーク時間STが長いときほど、内燃機関は完全冷間状態にある可能性が高い。換言すれば、ソーク時間STが短いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにあると判断することができる。また前運転時間DTが短いときほど内燃機関が半暖機状態で停止された可能性が高いと判断することができる。換言すれば前運転時間DTが長いときほど内燃機関が半ソーク状態にある可能性が高いと判断することができる。すなわち、ソーク時間ST及び前運転時間DTに基づいて内燃機関が半暖機状態にあること、或いは半ソーク状態にあることを判断することができる。
【0043】
このように本実施の形態では、潤滑油温と相関関係にある上記各パラメータを用いて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしている。
ここで、図5に示す各模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDは、以下のように設定されている。まず、前トリップ水温TWと吸気温THAとに基づき、各模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDのうちのいずれかが選択されるように設定されている。より具体的には、
・「前トリップ水温TW≧70℃、かつ吸気温THA≧30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPAが選択され、
・「前トリップ水温TW≧70℃、かつ吸気温THA<30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPBが選択され、
・「前トリップ水温TW<70℃、かつ吸気温THA≧30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPCが選択され、
・「前トリップ水温TW<70℃、かつ吸気温THA<30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPDが選択される。
【0044】
また、各模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDでは、ソーク時間ST及び前運転時間DTと模擬カウンタ補正値Kとの対応関係が定義されており、この関係に従って模擬カウンタ補正値Kは以下のように設定される。
【0045】
まず、潤滑油温が冷却水温よりも低く、冷却水温の上昇率が低下する機関状態、例えば前述した半暖機後の再始動時における機関状態等に対応する領域では、潤滑油温が冷却水温よりも低くなるほど、模擬カウンタ補正値Kは「1.0」より小さくなるように設定されている。
【0046】
一方、潤滑油温が冷却水温よりも高く、冷却水温の上昇率が増大する機関状態、例えば、前述した半ソーク状態からの機関始動時における機関状態等に対応する領域では、潤滑油温が冷却水温よりも高くなるほど、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」より大きくなるように設定されている。
【0047】
そして、潤滑油温と冷却水温との温度差が小さく、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響が少ない機関状態に対応した領域では、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」に設定されている。
【0048】
また、前トリップ水温TWが高いときほど、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。そのため、前トリップ水温TWが高いほど、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」以外の値に設定される領域を広く設定している。
【0049】
また、吸気温THAが高いときほど、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。そのため、前トリップ水温TWが高いほど、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」以外の値に設定される領域を広く設定している。
【0050】
ちなみに、これら模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDに示す模擬カウンタ補正値Kは一例であって、実験等を通じて上述した関係が満たされるものであればよい。また、前トリップ水温TWについては70℃を境にして、吸気温THAについては30℃を境にして、模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDを分けているが、これらの温度は適宜に変更してよい。また、前トリップ水温TW及び吸気温THAについて、複数の温度毎にマップを設けてもよい。
【0051】
さて、ステップS150にて模擬カウンタ補正値Kが求められると、次に、水温センサ42によって検出された実冷却水温THWが始動時実水温THWstとされ、吸気温センサ46によって検出された吸気温THAが始動時吸気温THAstとされる(図3のステップS170)。
【0052】
次に、始動時実水温THWstが始動時吸気温THAst以下であるか否かが判定される(ステップS180)。そして、始動時実水温THWstが始動時吸気温THAst以下である場合には(ステップS180でYES)、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM、及び模擬水温カウンタ値ECTHWの初期値として始動時実水温THWstが設定される(ステップS190)。そして、始動時認識フラグFが「1」に設定される(ステップS210)。
【0053】
一方、始動時実水温THWstが始動時吸気温THAstよりも大きい場合には(ステップS180でNO)、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM、及び模擬水温カウンタ値ECTHWの初期値と始動時吸気温THAstが設定される(ステップS200)。そして、始動時認識フラグFが「1」に設定される(ステップS210)。このように本処理では、始動時実水温THWst及び始動時吸気温THAstのうち、より低い値を模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM、及び模擬水温カウンタ値ECTHWの初期値として設定するようにしている。これは、吸気温THAが実冷却水温THWよりも低いときには実冷却水温THWが上昇しにくくなるため、できるだけ模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの初期値を低く設定し、後述する診断温度θAに到達する時間を遅らせた方が誤診断を抑制することができるためである。
【0054】
次に、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが前回の模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMn−1に設定され、模擬水温カウンタ値ECTHWが前回の模擬水温カウンタ値ECTHWn−1に設定される(ステップS220)。そして、前回の模擬水温カウンタ値ECTHWn−1と最低吸気温ECTHAMINとの偏差αが算出される(ステップS230)。ここで、最低吸気温ECTHAMINは外気温の代用として用いられている。すなわち、吸気温センサ46はエンジンルーム内に設けられているため、吸気温センサ46の検出値は外気温よりも高い値を示し、外気温よりも低い値を示すことはない。そのため、最も外気温に近いと考えられる始動開始時の吸気温THAを最低吸気温ECTHAMINとし、これを外気温の代用として用いることができる。なお、最低吸気温ECTHAMINの算出は、例えば以下のように行えばよい。すなわち、所定時間毎にECU51に吸気温THAを読み込む。そしてこの読み込まれた吸気温THAと最低吸気温ECTHAMINとを比較し、吸気温THAが最低吸気温ECTHAMINよりも低い場合には、このときの吸気温THAを新たな最低吸気温ECTHAMINとして更新するようにすればよい。
【0055】
次に、エンジン1を搭載した車両が、現在走行中であるか否かが判定される(図4のステップS240)。ここで、車両が走行中であるか否かを判定する理由は次の通りである。すなわち、車両走行中は、ラジエータやエンジン1に走行風が当たるため、冷却水温の上昇率が低下する。そのため、車両走行中と車両停車中とでは、冷却水温の変化態様が異なり、後述する模擬水温カウンタの算出に際して用いるマップを切り替える必要があるためである。なお、このステップS240における判定は、例えば車速センサ45で検出される車速SPDが3km/h以上である場合に車両走行中であると判定されるようにすればよい。そして、車両走行中でない場合には(ステップS240でNO)、前記算出された偏差αに基づき、図6(イ)に示すMAP(1)よりカウンタ加算値Δβが求められる(ステップS260)。
【0056】
一方、車両走行中である場合には(ステップS240でYES)、現在燃料噴射が一時中断されているか否か、すなわち燃料カット中であるか否かが判定される(ステップS250)。ここで、燃料カット中であるか否かを判定する理由は次の通りである。すなわち、燃料カット中は、エンジン1の発熱量がほぼ「0」に近くなるため、冷却水温の上昇率が低下する。そのため、燃料カット中と燃料噴射中とでは、冷却水温の変化態様が異なり、後述する模擬水温カウンタの算出に際して用いるマップを切り替える必要があるためである。なお、このステップS250における判定は、例えばECU51から出力される燃料カット信号に基づいて判定するようにすればよい。そして、燃料カット中である場合には(ステップS250でYES)、前記算出された偏差αに基づき、図6(ロ)に示すMAP(2)よりカウンタ加算値Δβが求められる(ステップS270)。
【0057】
一方、燃料噴射が行われている場合には(ステップS250でNO)、図6(ハ)に示すMAP(3)よりカウンタ加算値Δβが求められる(ステップS280)。ここで、MAP(3)ではカウンタ加算値Δβを求める際に、前記算出される偏差αだけではなく、機関回転速度NEと吸気圧PM等から算出される吸入空気量GAもパラメータとして用いられる。これは、通常の燃料噴射制御では、吸入空気量の増大に伴って燃料噴射量も増大するように制御されるため、吸入空気量が増大するとエンジン1の発熱量も増大するようになる。そのため、車両走行中であって、燃料噴射が実行されているときには、上記偏差αだけではなく、吸入空気量GAも考慮してカウンタ加算値Δβを求めるようにしている。
【0058】
さて、カウンタ加算値Δβが求められると、次に、前回の模擬水温カウンタ値ECTHWn−1、前記算出された模擬カウンタ補正値K、並びにカウンタ加算値Δβを用いて、次式(1)に基づき、今回の処理ルーチンにおける模擬水温カウンタ値ECTHWが算出される(ステップS290)。
【0059】
ECTHW=(ECTHWn−1+Δβ)×K … (1)
ここで、上記式(1)に示されるように、本実施の形態では、模擬水温カウンタ値ECTHWの算出に際して、前記模擬カウンタ補正値Kを乗算することで、模擬水温カウンタ値ECTHWを補正するようにしている。従って、模擬カウンタ補正値Kの値が「1.0」より小さい場合、すなわち、潤滑油温の影響を受けて冷却水温の上昇率が低下する場合には、補正なしの場合と比較して、模擬水温カウンタ値ECTHWの値が小さくなる。
【0060】
一方、模擬カウンタ補正値Kの値が「1.0」より大きい場合、すなわち、潤滑油温の影響を受けて冷却水温の上昇率が増加する場合には、補正なしの場合と比較して、模擬水温カウンタ値ECTHWの値が大きくなる。
【0061】
また、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」に設定されている場合、すなわち、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響がほとんどない場合には、補正なしと補正ありとにおける模擬水温カウンタ値ECTHWの値は同じになる。
【0062】
次に、こうして算出された模擬水温カウンタ値ECTHWのハンチングを抑制するために、なまし処理が行われる(ステップS300)。このなまし処理では、次式(2)に基づき、前回の模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMn−1、前記算出された模擬水温カウンタ値ECTHW、並びに適宜に設定されたなまし率γを用いて、今回の処理ルーチンにおける模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが算出される。
【0063】
ECTHWSM=ECTHWSMn−1+(ECTHW―ECTHWSMn−1)/γ …(2)
次に、前記算出された模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが、診断温度θA未満であるか否かが判定される(ステップS310)。この診断温度θAは、サーモスタット16の作動状態を診断するタイミングをとるために予め設定されている温度である。また、サーモスタット16の開弁温度誤差、及び水温センサ42の検出誤差等を考慮に入れて、サーモスタット16が開弁する基準温度(本実施の形態では82℃)よりも若干低い温度(例えば75℃程度)に設定されている。そして、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θA未満である場合には(ステップS310でYES)、実冷却水温THWが前記診断温度θA以上であるか否かが判定される(ステップS320)。そして、実冷却水温THWが診断温度θA未満である場合には(ステップS320でNO)、本処理を一旦終了し、所定時間となったときにふたたび、先の図2に示したステップS110以降の処理が実行される。
【0064】
なお、再度ステップS110以降の処理が実行されるときには、先の図3に示したステップS210で、前述した始動時認識フラグFが「1」に設定されているために、図2に示すステップS130での判定が肯定され、図3のステップS220以降の処理が実行される。すなわち、模擬カウンタ補正値Kの算出、並びに模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMと模擬水温カウンタ値ECTHWの初期化処理は省略される。
【0065】
一方、実冷却水温THWが診断温度θA以上である場合には(ステップS320でYES)、サーモスタット16は正常に作動していると判定される(ステップS330)。このように、機関運転状態から推定された模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θAに達する前に、実冷却水温THWが診断温度θAに達したということは、サーモスタット16が正常に作動しており、実冷却水温THWが適正に上昇したことになる。そしてサーモスタット16の診断がなされたあとは、本処理を終了し、その割り込み処理を禁止する。
【0066】
さて、前述したステップS310において、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θA以上であると判定される場合には(ステップS310でNO)、サーモスタット16に異常が生じていると判定される(ステップS340)。このように、ステップS320にて実冷却水温THWが診断温度θAに達しているか否かが判定される前に、機関運転状態から推定された模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θAに達したということは、次のように考えられる。すなわち、ラジエータ8で冷却水からの熱放出が行われ、実冷却水温THWが適正に上昇していない結果であり、ラジエータ8に冷却水が循環される状態になっている、すなわちサーモスタット16が開弁状態で固着しており異常が生じていると考えられる。そしてサーモスタット16の診断がなされたあとは、本処理を終了し、その割り込み処理を禁止する。なお、サーモスタット16に異常が生じていると判定されたときには、運転者に対して警告灯の点灯等による警告が行われる。
【0067】
次に、本実施の形態にかかる診断装置の作用を従来の診断装置との違いを中心に、図7を併せ参照して説明する。
図7(イ)は、半暖機状態で機関停止された後、冷間状態になる前に機関始動が行われたときの模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM及び実冷却水温THWの変化態様の一例を示している。この図7(イ)に実線Aで示される曲線は、サーモスタットが正常な場合の実冷却水温THWの変化を示している。また、一点鎖線Dで示される曲線は、機関始動後における模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの変化、すなわち本実施の形態における診断装置によって算出される推定冷却水温の変化を示している。そして、二点鎖線Cで示される曲線は、前述した従来の診断装置によって算出される推定冷却水温の変化を示している。
【0068】
この場合には、前述したように、冷間時からの機関始動時と比較して、冷却水から潤滑油への熱移動に起因する冷却水温の上昇率低下が起きる。そのため、実冷却水温THWは、実線Aで示されるように機関始動(時刻t0)後緩やかに上昇していき、所定温度に達したところで一定温度を保持するという態様を示す。
【0069】
さて、従来の診断装置では、前述したように、潤滑油温の影響による冷却水温の上昇率低下を考慮することなく推定冷却水温の算出が行われる。そのため、推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAに到達した段階で実冷却水温THW(実線A)が診断温度θAよりも低い温度となっている(時刻t1)ことをもって、サーモスタットが正常に作動していないと診断してしまう。すなわち、サーモスタットが正常に作動しているにもかかわらず、異常が生じていると誤診断されてしまう。
【0070】
一方、本実施の形態における診断装置では、上記診断処理が繰り返し実行されるたびに、模擬水温カウンタ値ECTHWにカウンタ加算値Δβが加算され(図4のステップS290)、機関運転時間の経過とともに模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの値は増加していく。ここで、本実施の形態では、潤滑油温の影響により冷却水温の上昇率が低下してしまう状況下では、機関始動時において模擬カウンタ補正値Kが「1.0」より小さい値で求められる(図2のステップS150)。そして上記診断処理が繰り返し実行される際には、模擬水温カウンタ値ECTHWにこの模擬カウンタ補正値Kが乗算される(図4のステップS290)。従って、模擬水温カウンタ値ECTHWの値は小さくなるように補正され、その結果、一点鎖線Dで示されるように、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率も低下された状態で、その値は上昇していく。すなわち、実冷却水温THWの変化態様に即した形で模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMも変化し、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)は、サーモスタットの正常作動時における実冷却水温THW(実線A)を下回るように推移する。そのため、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)が診断温度θAに到達する前に実冷却水温THW(実線A)が診断温度θAに到達する(時刻t2)ようになり、サーモスタットの正常作動が正確に診断される。
【0071】
図7(ロ)は、完全暖機後の半ソーク状態から機関始動が行われたときの模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM及び実水温の変化態様の一例を示しており、破線Bで示される曲線は、サーモスタットに異常が生じている場合の実冷却水温THWの変化を示している。また、一点鎖線Dで示される曲線は、機関始動後における模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの変化、すなわち本実施の形態における診断装置によって算出される推定冷却水温の変化を示している。そして、二点鎖線Cで示される曲線は、前述した従来の診断装置において算出される推定冷却水温の変化を示している。
【0072】
この場合には、前述したように、冷間時からの機関始動時と比較して、潤滑油から冷却水への熱移動に起因する冷却水温の上昇率増加が起きる。そのため、頻度自体はあまり高くないものの、場合によっては、サーモスタット16に異常が生じている場合であっても実冷却水温THWが、破線Bで示されるように機関始動(時刻t0)後、急速に上昇するという変化態様を示すことも懸念される。このような場合であっても、従来の診断装置では、前述したように、潤滑油温の影響による冷却水温の上昇率増加を考慮することなく推定冷却水温の算出が行われる。そのため、実冷却水温THW(破線B)が診断温度θAに到達した段階で推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAよりも低い温度となっている(時刻t2)ことをもって、サーモスタットが正常に作動していると診断してしまう。すなわち、サーモスタットに異常が生じているにもかかわらず、正常であると誤診断されてしまう。
【0073】
一方、本実施の形態における診断装置では、上記診断処理が繰り返し実行されることで、機関運転時間の経過とともに模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの値は増加していく。ここで、本実施の形態では、潤滑油温の影響により冷却水温の上昇率が増加してしまう状況下では、機関始動時において模擬カウンタ補正値Kが「1.0」より大きい値で求められる(図2のステップS150)。そして上記診断処理が繰り返し実行される際には、模擬水温カウンタ値ECTHWにこの模擬カウンタ補正値Kが乗算される(図4のステップS290)。従って、模擬水温カウンタ値ECTHWの値は大きくなるように補正され、その結果、一点鎖線Dで示されるように、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率も増大された状態で、その値は上昇していく。すなわち、実冷却水温THWの変化態様に即した形で模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMも変化し、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)は、サーモスタットの異常作動時における実冷却水温THW(破線B)を上回るように推移する。そのため、実冷却水温THW(破線B)が診断温度θAに到達する前に、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)が診断温度θAに到達する(時刻t1)ようになり、サーモスタットの異常作動が正確に診断される。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態にかかるサーモスタットの診断装置によれば、次のような効果が得られるようになる。
(1)本実施の形態では、サーモスタットが正常に作動していると想定した場合の冷却水温にかかる基準値として、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が低いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定し、これを模擬水温カウンタ値ECTHWにしている。そしてこの模擬水温カウンタ値ECTHWのなまし値を、サーモスタットの作動状態の診断に際しての判定値とし、実冷却水温THWの上昇率が模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率よりも低い場合には、サーモスタットに開弁固着異常が生じている旨の判定を行うようにしている。すなわち、実冷却水温THWの上昇率と模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率との乖離が大きいときには、サーモスタットに開弁固着異常が生じている旨の判定が行われるようにしている。このように実冷却水温THWと模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMとの比較により、サーモスタットが正常に作動しているか否かの診断を行うことができるようになる。
【0075】
(2)上記診断に際して、サーモスタットの作動状態を診断するための模擬水温カウンタ値ECTHWを内燃機関の潤滑に供される潤滑油の温度に基づいて補正するようにしている。より具体的には、潤滑油温が実際の冷却水温よりも低い状態では模擬水温カウンタ値ECTHWをより低い温度に補正するようにしている。また、潤滑油温が実際の冷却水温よりも高い状態では、模擬水温カウンタ値ECTHWをより高い温度に補正するようにしている。そのため、上述したような潤滑油温が冷却水温の推移に及ぼす影響を考慮しつつサーモスタットの診断を行うことができ、その作動状態、すなわちサーモスタットが正常に作動しているか否かについて、精度よく診断することができるようになる。
【0076】
(3)内燃機関が半暖機状態或いは半ソーク状態にあるときの始動時に、冷却水温の温度推移に対する潤滑油温の影響が大きくなる。そこで、本実施形態では、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかについて、上記ソーク時間ST及び前運転時間DTに基づいて判断し、この判断に基づいて潤滑油温を推定し、その推定される潤滑油温に基づいて模擬水温カウンタ値ECTHWの補正を行うようにしている。従って、上記各パラメータに基づいて、実質的に潤滑油温に基づく模擬水温カウンタ値ECTHWの補正を行うことができるようになる。
【0077】
(4)また、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかの判断に際して、実質的には模擬カウンタ補正値Kの算出に際して、ソーク時間ST及び前運転時間DTに加え、前トリップ水温TW及び吸気温THAも考慮するようにしている。そのため、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかの判断をより正確に行うことができ、もって模擬水温カウンタ値ECTHWの補正を行う必要のある機関状態の領域を正確に設定することができるようになる。
【0078】
なお、上記実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態における吸気温THAは、機関始動時に吸気温センサ46によって検出される温度であった。この他にも、前回の機関停止時に検出された吸気温や外気温を吸気温THAに代わる値として採用してもよい。また、前回の機関停止時から機関始動時までの吸気温や外気温の推移を監視し、その監視結果に基づき算出される平均値を吸気温THAに代わる値として採用することもできる。
【0079】
・上記実施の形態では、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTといった潤滑油温と相関関係にある各パラメータに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにした。
【0080】
この他にも、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。この場合には、上記実施の形態と比較して、潤滑油温に応じた模擬カウンタ補正値Kの算出に際しての精度が若干低下するものの、より容易に模擬カウンタ補正値Kを求めることができるようになる。
【0081】
また、前トリップ水温TW、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。この場合には、上記変形例よりもより正確に模擬カウンタ補正値Kを求めることができるようになる。
【0082】
・上記実施の形態では、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTといった潤滑油温と相関関係にある各パラメータに基づいて直接模擬カウンタ補正値Kを求めるようにした。この他にも、例えば、上記実施の形態で説明した診断処理において、図2に示したステップS150の代わりに図8に示すステップS400、ステップS410の処理を実行する。すなわち、上記各パラメータに基づいて潤滑油温を推定し(ステップS400)、この推定された潤滑油温と実冷却水温THWとの温度差に基づいてマップから模擬カウンタ補正値Kを求める(ステップS410)ようにしてもよい。なお、このとき参照するマップは、図9に示すように、推定潤滑油温から実冷却水温THWを減じた値ΔEが正の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも大きくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も大きくなるように設定する。一方、値ΔEが負の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも小さくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も負の方向に大きくなるように設定する。この場合には、一旦潤滑油温を推定する分、処理手順が増えるものの、上記実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。ちなみに、値ΔEを変数とする関数から模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。
【0083】
・上記実施の形態では、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにした。この他にも、エンジン1に潤滑油の油温を直接検出する潤滑油温センサを設け、この検出値と実冷却水温THWとの差に基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。例えば、図1に示すように、エンジン1の下部に設けられるオイルパンに、潤滑油の温度を検出する温度センサ47を取り付ける。そして、上記実施の形態で説明した診断処理において、図2に示したステップS150の代わりに図10に示すステップS500の処理を実行する。すなわち、実際の潤滑油温と実冷却水温THWとの差に基づき、マップから模擬カウンタ補正値Kを求める。なお、このとき参照するマップも先の図9に示したように、潤滑油温から実冷却水温THWを減じた値ΔEが正の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも大きくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も大きくなるように設定する。一方、値ΔEが負の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも小さくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も負の方向に大きくなるように設定する。この場合には、実際の潤滑油温が検出されるとともに、この潤滑油温と実冷却水温THWとの差に基づいて模擬カウンタ補正値Kが算出される。そのため、温度センサが必要にはなるものの、上記実施の形態と比較して、より正確に推定冷却水温を補正することができるようになる。ちなみに、値ΔEを変数とする関数から模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。
【0084】
・上記実施の形態では、サーモスタット16が正常に作動していると診断される条件を、「模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM<診断温度θA」かつ「実冷却水温THW≧診断温度θA」とした。しかし、何らこのような条件に限定されるものではなく、要するに「実冷却水温THW≧模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM」という状態になっていることをもってサーモスタット16が正常に作動していると診断されるようにすればよい。また、サーモスタット16に異常が生じていると診断される条件を、「模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM≧診断温度θA」かつ「実冷却水温THW<診断温度θA」とした。しかしこれも何らこのような条件に限定されるものではなく、要するに「実冷却水温THW<模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM」という状態になっていることをもってサーモスタット16に異常が生じていると診断されるようにすればよい。換言すれば、上記推定冷却水温と実際の冷却水温とのずれ、すなわち両者の乖離度合いに基づいて上記診断を行えばよく、例えば以下のようにすることもできる。
【0085】
(例1)サーモスタット16の作動状態を診断する判定値として、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後の所定時間における冷却水温を推定した推定水温を用いるようにしてもよい。すなわち、図11に示すように、サーモスタットが正常に開閉する場合には、機関始動後速やかに冷却水温が上昇する(実線Aに示す曲線)。一方、サーモスタットが閉弁状態にならない異常時には、機関始動後の冷却水の温度上昇が緩やかになる(破線Bに示す曲線)。従って、機関始動後の所定時間Xにおける実冷却水温THWが、サーモスタットの正常作動を想定して推定された機関始動後の所定時間Xにおける推定水温GTHWよりも高ければ、サーモスタットは正常に作動していると考えることができる。すなわち、機関始動から所定時間経過後の冷却水温について実冷却水温THWが基準値たる推定水温GTHWよりも低ければ、実冷却水温THWと推定水温GTHWとの乖離が大きいとして、サーモスタットに異常有りと診断する。
【0086】
この場合には、図12に例示する処理手順によって、サーモスタット16の作動状態を精度よく診断することができる。すなわち、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後の所定時間Xにおける冷却水温を推定した推定水温GTHWを求める(ステップS700)。次に、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響を考慮するべく、推定水温GTHWを補正するための推定水温補正値THWKを求める(ステップS710)。次に、この求められた推定水温補正値THWKに基づいて推定水温GTHWを補正する(ステップS720)。次に、補正後推定水温GFTHWと機関始動後の所定時間Xにおける実冷却水温THWとを比較する(ステップS730)。そして、実冷却水温THWが補正後推定水温GFTHWよりも高い場合(実冷却水温THW≧補正後推定水温GFTHW)には(ステップS730でYES)、サーモスタット16が正常に作動していると診断する(ステップS740)。一方、実冷却水温THWが補正後推定水温GFTHWよりも低い場合(実冷却水温THW<補正後推定水温GFTHW)には(ステップS730でNO)、サーモスタット16に異常が生じていると診断する(ステップS750)。この変形例においても、冷却水温の変化態様を示す一例である上記推定水温GTHWが潤滑油温に基づいて補正されるため、上記実施の形態に準じた効果が得られるようになる。
【0087】
(例2)サーモスタット16の作動状態を診断する判定値として、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後に冷却水温が所定温度に到達するのに要する時間を推定した推定時間を用いるようにしてもよい。すなわち、図13に示すように、サーモスタットが正常に開閉する場合には、機関始動後速やかに冷却水温が上昇する(実線Aに示す曲線)。一方、サーモスタットが閉弁状態にならない異常時には、機関始動後の冷却水の温度上昇が緩やかになる(破線Bに示す曲線)。従って、機関始動後において冷却水温が所定温度Yに到達するのに要した実際の実時間RTが、サーモスタットの正常作動を想定して推定される推定時間GTよりも短ければ、サーモスタットは正常に作動していると考えることができる。すなわち、機関始動後に冷却水温が所定値に到達するまでの到達時間について、実時間RTが基準値たる推定時間GTよりも長ければ、実時間RTと推定時間GTとの乖離が大きいとして、サーモスタットに異常有りと診断する。
【0088】
この場合には、図14に例示する処理手順によって、サーモスタット16の作動状態を精度よく診断することができる。すなわち、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後に冷却水温が所定温度Yに到達するのに要する推定時間GTを推定する(ステップS800)。次に、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響を考慮するべく、推定時間GTを補正するための推定時間補正値TKを求める(ステップS810)。次に、この求められた推定時間補正値TKに基づいて推定時間GTを補正する(ステップS820)。次に、補正後推定時間GFTと実際に冷却水温が所定温度Yに到達するまでに要した実時間RTとを比較する(ステップS830)。そして、実際に要した実時間RTが補正後推定時間GFTよりも短い場合(実時間RT<補正後推定時間GFT)には(ステップS830でYES)、サーモスタット16が正常に作動していると診断する(ステップS840)。一方、実際に要した実時間RTが補正後推定時間GFTよりも長い場合(実時間RT≧補正後推定時間GFT)には(ステップS830でNO)、サーモスタット16に異常が生じていると診断する(ステップS850)。この変形例においても、冷却水温の変化態様を示す一例である上記推定時間GTが潤滑油温に基づいて補正されるため、上記実施の形態に準じた効果が得られるようになる。
【0089】
・上記実施の形態及びその変形では、サーモスタットの開弁固着異常といった異常を診断する場合について説明した。この他にも、サーモスタットの閉弁固着異常といった異常を診断する場合についても本発明は同様に適用することができる。すなわち、上記模擬水温カウンタ値ECTHWを、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が高いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定した値として算出する。そして、上記実施の形態と同様に模擬カウンタ補正値Kを求めて模擬水温カウンタ値ECTHWを補正する。そして、この推定冷却水温(模擬水温カウンタ値ECTHW)の上昇率よりも、実冷却水温の上昇率が高いときには、冷却水温の上昇率が過剰に高く、サーモスタットに閉弁固着といった異常が生じていると判断する。すなわち、実冷却水温の上昇率が推定冷却水温の上昇率よりも高ければ、実冷却水温の上昇率と推定冷却水温の上昇率との乖離が大きいとして、サーモスタットに異常有りと診断する。そして、この場合にも、潤滑油温が冷却水温の推移に及ぼす影響を考慮しつつサーモスタットの診断を行うことができるため、その作動状態、すなわちサーモスタットが正常に作動しているか否かについて、精度よく診断することができるようになる。
【0090】
ちなみに、上記(例1)、(例2)で説明した診断態様においても、同様な変更を行うことにより、サーモスタットの開弁固着異常に関する診断を行うとともにその精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるサーモスタットの診断装置の一実施の形態について、その概略構成を示す図。
【図2】同実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順を示すフローチャート。
【図4】同実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順を示すフローチャート。
【図5】同実施の形態において模擬カウンタ補正値を求めるためのマップ。
【図6】同実施の形態においてカウンタ加算値を求めるためのマップ。
【図7】同実施の形態における診断装置によって算出される推定冷却水温の変化態様と、実際の冷却水温の変化態様と、従来の診断装置によって算出される推定冷却水温の変化態様とをそれぞれ例示するグラフ。
【図8】上記実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順についてその変形例を示すフローチャート。
【図9】同変形例において模擬カウンタ補正値を求めるためのマップ構造を示すグラフ。
【図10】上記実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順についてその変形例を示すフローチャート。
【図11】上記実施の形態の変形例によるサーモスタットの診断態様を説明するグラフ。
【図12】同変形例によるサーモスタットの診断処理の手順を示すフローチャート。
【図13】上記実施の形態の変形例によるサーモスタットの診断態様を説明するグラフ。
【図14】同変形例によるサーモスタットの診断処理の手順を示すフローチャート。
【図15】従来の診断装置によるサーモスタットの診断態様を説明するグラフ。
【符号の説明】
1…エンジン、3…シリンダ、4…ピストン、5…クランクシャフト、6…コンロッド、7…ウォータジャケット、8…ラジエータ、9…冷却ファン、10…ウォータポンプ、11…燃焼室、12…シリンダヘッド、13…シリンダブロック、14…上部連絡通路、15…下部連絡通路、16…サーモスタット、42…水温センサ、43…クランク角センサ、44…吸気圧センサ、45…車速センサ、46…吸気温センサ、47…温度センサ、51…制御装置(ECU)。
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関のラジエータに流れる冷却水の流量を調節するサーモスタットの作動異常を診断する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の冷却装置としては、機関本体とラジエータとの間で冷却水を循環させる水冷式のものが知られている。こうした冷却装置では、ラジエータに流れる冷却水の流量を調節するサーモスタットが設けられている。このサーモスタットは、機関始動直後の暖機運転時等、冷却水温が所定値(通常、80℃程度)より低い場合には閉弁しており、この状態ではラジエータ側への冷却水の循環が停止される。このため、速やかな内燃機関の暖機が図られる。一方、サーモスタットは、冷却水温が所定値より高くなると開弁し、この状態ではラジエータ側への冷却水の循環が行われる。このため、機関温度の過度な上昇が抑制される。こうしたサーモスタットの機能を通じて機関温度は適正な温度範囲内に調節される。
【0003】
一方、内燃機関ではその暖機性能の向上や冷間時の安定した燃焼状態を確保するために、同機関が低温状態にあるときに燃料噴射量を増量する、いわゆる暖機増量が行われる。ここで、サーモスタットが何らかの理由により全開状態あるいは半開状態のままになると、冷却水がラジエータ側に常に循環するようになり、内燃機関は過冷却状態となる。このような場合、暖機増量が常時実行されるようになり、燃費やエミッションの悪化を招くおそれがある。
【0004】
そこで従来より、このようなサーモスタットの作動異常を診断する装置が種々提案されている。例えば特許文献1に記載の診断装置では、サーモスタットが正常な場合の冷却水の温度推移を機関運転状態等から推定する。そして、この推定冷却水温を基準値とし、同基準値と実際に水温センサによって検出される冷却水温の実際値とを比較することにより、サーモスタットが正常に作動しているか否かを診断するようにしている。
【0005】
図15は、この特許文献1に記載の診断装置によって算出される上記推定冷却水温及び実冷却水温の推移の一例を示している。この図15に実線Aで示される曲線は、サーモスタットが正常な場合の実冷却水温の推移を示している。また、破線Bで示される曲線は、サーモスタットに異常が生じている場合の実冷却水温の推移を示している。そして、二点鎖線Cで示される曲線は、機関始動後における上記推定冷却水温の推移を示している。なお、この推定冷却水温は、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が低いサーモスタットによる冷却水温の推移が推定されている。また、同図15に示す診断温度θAは、サーモスタットが開弁状態となる温度であり、その部品公差等、個体差を考慮して最も低い温度に設定されている。
【0006】
まず、サーモスタットが正常な場合には、機関始動後しばらくの間はラジエータに冷却水が循環されないため、実冷却水温は速やかに上昇する。従って、図15に示されるように、推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAに達する前に実冷却水温(実線A)が診断温度θAに到達する場合(時刻t1)には、サーモスタットが閉弁状態となり速やかに実冷却水温が上昇したと判断することができる。すなわち、実冷却水温の上昇率が推定冷却水温の上昇率よりも高ければ、サーモスタットに開弁固着といった異常は生じていないと判断することができる。そしてこの場合には、サーモスタットが正常に作動していると診断される。
【0007】
一方、サーモスタットが開弁状態で固着している場合には、機関始動直後からラジエータに冷却水が循環されるため、実冷却水温の上昇が鈍くなる。従って、図15に示されるように、推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAに達しているにもかかわらず、実冷却水温(実線A)が診断温度θAに達していない場合(時刻t2)には、サーモスタットが開弁状態で固着しているために実冷却水温の上昇が鈍くなっていると判断することができる。そしてこの場合には、サーモスタットに開弁固着といった異常が発生していると診断される。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−220456号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1に記載の診断装置は、上述したようなサーモスタットの診断処理を機関冷間時からの始動時に限って実行するようにしている。そのため、機関冷間時以外の状態からの始動時においても上記診断処理を実行した場合には以下のような不具合が生じるものとなっている。
【0010】
すなわち、機関始動がなされ、暖機が完了するまでの間の半暖機状態では、内燃機関の摺動部等に供給される潤滑油の油温が冷却水温よりも低くなっている。そのため、半暖機状態で機関停止された後、冷間状態になる前に機関始動が行われるときには、冷却水から潤滑油への熱移動に起因して冷却水温の上昇率は低下する傾向がある。
【0011】
一方、完全暖機後に機関停止がなされ、同機関が冷間状態になるまでの間の状態である半ソーク状態では、潤滑油温が冷却水温よりも高くなっているため、半ソーク状態から機関始動が行われるときには、潤滑油から冷却水への熱移動に起因して冷却水温の上昇率は増大する傾向がある。
【0012】
従来の診断装置にあっては、こうした冷却水温に対する潤滑油温の影響を考慮することなく冷却水温の推定を行っていたために、その推定結果に基づいてサーモスタットの作動状態を診断すると、その誤診断を招くおそれがあることを本発明者は確認した。
【0013】
ちなみに、サーモスタットが閉弁状態で固着している場合の異常診断は、上述した推定冷却水温等を以下のように変更することで行うことができる。すなわち、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が高いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定する。そして、この推定された冷却水温の上昇率よりも、実冷却水温の上昇率が高ければ、冷却水温の上昇率が過剰に高く、サーモスタットに閉弁固着といった異常が生じていると判断することができる。そして、このような場合であっても、冷却水温に対する潤滑油温の影響を考慮することなく冷却水温の推定を行うと、サーモスタットの作動状態の診断に際して、誤診断を招くおそれがある。
【0014】
この発明はこうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、サーモスタットの作動状態を精度よく診断することのできるサーモスタットの診断装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための手段及びその作用効果について以下に記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の冷却水通路に設けられてラジエータに流れる冷却水の流量を調整するサーモスタットについて、その正常作動時の冷却水温に基づき設定される基準値と冷却水温の実際値との比較に基づいて同サーモスタットの作動状態を診断する装置において、前記基準値を前記内燃機関の潤滑油の温度に基づいて補正する補正手段を備えるようにしている。
【0016】
上記構成では、サーモスタットの作動状態を診断するための上記基準値を内燃機関の潤滑に供される潤滑油の温度に基づいて補正するようにしている。そのため、上述したような潤滑油温が冷却水温の推移に及ぼす影響を考慮しつつサーモスタットの診断を行うことができ、その作動状態、すなわちサーモスタットが正常に作動しているか否かについて、精度よく診断することができるようになる。
【0017】
こうした潤滑油温に基づく基準値の具体的な補正方法としては、請求項2記載の発明によるように、潤滑油温が実際の冷却水温よりも低いときに前記基準値をより低い温度に補正する、或いは請求項3記載の発明によるように、潤滑油温が実際の冷却水温よりも高いときに前記基準値をより高い温度に補正する、といった方法を採用できる。
【0018】
上述したように、内燃機関が半暖機状態或いは半ソーク状態にあるときの始動時に、冷却水温の温度推移に対する潤滑油温の影響は大きくなる。従って、温度センサにより潤滑油温を直接検出し、その検出結果に基づいて上記基準値を補正する他、同補正を内燃機関の状態に基づいて行うこともできる。具体的には、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかを判断し、その判断結果に基づいて前記基準値を補正することにより、実質的に潤滑油温に基づく前記基準値の補正を行うことができる。またここで、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかについては、請求項4記載の発明によるように、機関始動前の機関停止時間及び前回の機関運転時間に基づいて判断することができる。そしてこの判断に基づいて潤滑油温を推定し、その推定される潤滑油温に基づいて前記基準値の補正を実質的に行うことができる。ちなみに、機関始動前の機関停止時間が長いときほど、内燃機関は完全冷間状態にある可能性が高い。換言すれば、機関始動前の機関停止時間が短いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにあると判断することができる。また前回の機関運転時間が短いときほど内燃機関が半暖機状態で停止された可能性が高いと判断することができる。換言すれば前回の機関運転時間が長いときほど内燃機関が半ソーク状態にある可能性が高いと判断することができる。即ち、機関始動前の機関停止時間及び前回の機関運転時間に基づいて内燃機関が半暖機状態にあること、或いは半ソーク状態にあることを判断することができる。
【0019】
更に、内燃機関が半暖機状態にあること、或いは半ソーク状態にあることを判断するパラメータとしては、機関始動前の機関停止時間、前回の機関運転時間の他、請求項5記載の発明によるように、更に前回の機関停止時における冷却水温を採用することができる。前回の機関停止時における冷却水温が高いときほど、これが周囲温度と略等しくなるまで低下するのに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この機関停止時の冷却水温が高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断できる。即ち、上記構成によれば、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある旨の判断をより正確に行うことができる。
【0020】
その他、上記パラメータとしては、請求項6記載の発明によるように、外気温を採用することができる。外気温が高いときほど、機関停止中における冷却水温の低下速度が小さくなり、これが周囲温度と略等しくなるまでに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この外気温が高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断できる。即ち、上記構成によれば、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある旨の判断をより正確に行うことができる。尚、上記補正に用いられる外気温としては、機関始動時に検出される外気温の値、或いは前回の機関停止時に検出される外気温の値を採用できる他、例えば、前回の機関停止時から機関始動時までの外気温の推移を監視し、その監視結果に基づき算出される平均値を採用することもできる。
【0021】
また、サーモスタットが正常に作動しているか否かを診断する際には、例えば、請求項7記載の発明によるように、機関始動後における前記実際値の上昇率と前記基準値の上昇率との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する、といった診断態様を採用できる。或いは、請求項8記載の発明によるように、機関始動から所定時間経過後の冷却水温について前記実際値と前記基準値との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する、或いは、請求項9記載の発明によるように、機関始動後に冷却水温が所定値に到達するまでの到達時間について、実際の時間と前記基準値の推移から求められる時間との乖離が大きいときにサーモスタットに異常有りと診断する、といった診断態様も採用できる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、この発明にかかるサーモスタットの診断装置を車載内燃機関の冷却システムに適用した一実施の形態について図1〜図7に基づき、詳細に説明する。
【0023】
図1は、この診断装置が適用されるエンジン1とともに、その周辺構成を示す概略構成図である。
図1に示すように、エンジン1は、シリンダ3、ピストン4、クランクシャフト5、ピストン4とクランクシャフト5とを連結するコンロッド6等を有して構成されている。また、エンジン1の冷却システムは、シリンダヘッド12及びシリンダブロック13においてシリンダ3の周囲に形成されたウォータジャケット7、ウォータジャケット7と連通されたラジエータ8、冷却ファン9、及びウォータポンプ10等から構成されている。
【0024】
このエンジン1では、各シリンダ3の燃焼室11内における混合気の爆発・燃焼により、ピストン4が上下運動し、この上下運動がコンロッド6を介してクランクシャフト5の回転駆動力に変換される。また、混合気の供給や燃焼ガスの排出は、吸排気ポートを介して行われる。そして、混合気の爆発・燃焼により熱せられたシリンダヘッド12やシリンダブロック13等を必要に応じて冷却、あるいは定温維持するための冷却水の循環経路としてウォータジャケット7が昨日する。
【0025】
また、ラジエータ8とウォータジャケット7とは、上部連絡通路14、及び下部連絡通路15によって連通されている。この上部連絡通路14の途中には、ラジエータ8に流れる冷却水の流量を調整するサーモスタット16が設けられている。サーモスタット16は、水温に応じて自立開閉するバルブであり、本実施の形態にあっては、水温が所定温度(例えば82℃)以下である時には閉弁状態となって上部連絡通路14を閉鎖し、水温が同所定温度を上回ると開弁状態となって上部連絡通路14を開放する。
【0026】
また、シリンダブロック13に設けられた水温センサ42は、冷却水の温度、すなわち実冷却水温THWを検出し、その検出信号は後述する制御装置51に入力される。
【0027】
この他にも、前記エンジン1には、機関運転状態を検出するための各種センサが備えられている。例えば、クランク角センサ43は、クランクシャフト5の回転速度、すなわち機関回転速度NE等を検出する。吸気圧センサ44は、吸気圧PMを検出する。車速センサ45は、車速SPDを検出する。吸気温センサ46は、吸入空気の温度、すなわち吸気温THAを検出する。
【0028】
次に、エンジン1の運転状態に基づいてエンジン各部の制御や診断を行う制御装置(以下、ECUという)51について説明する。このECU51は中央処理制御装置(CPU)を備えるマイクロコンピュータを中心として構成されており、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)等が設けられている。またECU51には、演算結果や予め記憶されたデータ等を機関停止後も保存するためのバックアップRAM、入力インターフェース、並びに出力インターフェース等も設けられている。
【0029】
そして、クランク角センサ43からの出力信号は、波形整形回路(2値化回路)を介して入力インターフェースに入力される。また、水温センサ42、吸気圧センサ44、車速センサ45、吸気温センサ46等からの出力信号はA/D(アナログ/デジタル)変換器を介して入力インターフェースに入力される。これら各センサ42〜46等により、エンジン1の運転状態が検出される。
【0030】
一方、出力インターフェースは、各々対応する駆動回路等を介して制御対象、例えば燃料噴射弁等に接続されている。そして、ECU51は上記各センサ42〜46等からの信号に基づき、ROM内に格納された制御プログラム及び制御データに従って、燃料噴射弁による燃料噴射量や燃料噴射タイミングの制御など、各種運転制御や種々の故障診断等を実行する。
【0031】
さて、上記サーモスタット16が開弁状態で固着しており、閉弁しないといった作動異常時には、前述したように、暖機増量による燃費や排気エミッションの悪化等が懸念されるため、本実施の形態では、次のようにしてサーモスタットの作動状態を診断するようにしている。すなわち、サーモスタットが正常に閉弁する場合には、機関始動後速やかに冷却水温が上昇する一方、サーモスタットが閉弁状態にならない異常時には、機関始動後の冷却水の温度上昇が緩やかになる。従って、実際の冷却水の温度推移における上昇率が、サーモスタットの正常作動を想定して推定された冷却水の温度推移における上昇率よりも高ければ、サーモスタットは正常に作動していると考えることができる。そこで、本実施の形態では、サーモスタットが正常に作動していると想定した場合の冷却水温にかかる基準値として、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が低いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定している。そしてこの推定冷却水温、すなわち後述する模擬水温カウンタなまし値を、サーモスタットの作動状態の診断に際しての判定値として算出し、この判定値と冷却水温の実際値とを比較するようにしている。そして、この判定値よりも実際の冷却水温が低いとき、換言すれば実際の冷却水温の上昇率が、正常なサーモスタットによる冷却水温の上昇率のうち、最も低い上昇率よりも低いときには次のように判定する。すなわち、実際の冷却水温の上昇率と推定された冷却水温の上昇率との乖離が大きいとして、サーモスタットに開弁固着異常が生じている旨の判定を行うようにしている。
【0032】
ここで、上述したように、内燃機関が半暖機状態或いは半ソーク状態にあるときの始動時には、冷却水温と潤滑油温との温度差が冷却水温の温度推移に大きく影響する。そこで、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかについて判断し、この判断に基づいて潤滑油温を推定する推定手段と、この推定される潤滑油温に基づいて前記基準値である推定冷却水温の補正を行う補正手段を備えるようにしている。より具体的には、各種パラメータから推定される潤滑油温に基づいて模擬カウンタ補正値Kを算出し、この値を用いて上記模擬水温カウンタなまし値を算出する際に用いられる模擬水温カウンタ値を補正するようにしている。以下、本実施の形態におけるサーモスタットの診断処理を、図2〜図6を併せ参照して詳細に説明する。
【0033】
図2〜図4は、本実施の形態にかかるサーモスタットの診断処理について、その診断手順を示したものである。なお本実施の形態において、この診断処理はECU51により実行され、イグニッションスイッチが「オン」にされてから、サーモスタットの正常あるいは異常の診断がなされるまで所定時間毎に繰り返し実行される。
【0034】
この処理が開始されると、まず、機関が始動されているか否かが判定される(ステップS110)。ここでは、例えばイグニッションスイッチが「オン」になっており、且つ機関回転速度が所定速度以上(例えば500rpm/min以上)になっている場合に、機関は始動していると判定される。そして機関が始動していない場合には(ステップS110でNO)、一旦、本処理を終了される。
【0035】
一方、機関が始動している場合には(ステップS110でYES)、異常診断実行条件が成立しているか否かが判定される(ステップS120)。ここで、本診断処理では、サーモスタットの閉弁時と閉弁時とにおける冷却水温の変化態様の違いに着目してその作動状態を診断するようにしている。ところが完全暖機時には、サーモスタットが異常であるか否かにかかわらず、同サーモスタットは開弁状態にあるため、冷却水温の変化態様に大きな変化が見られなくなり、作動状態の診断が困難になる。そこで、本診断処理では、エンジン1が完全暖機状態にないことを異常診断処理の実行条件としている。なお、エンジン1の完全暖機状態は、例えばイグニッションスイッチが「オン」にされたときの実冷却水温THWに基づいて判定することができる。ちなみに完全暖機時には、上述した暖機時における燃料噴射量の増量が行われないため、燃費や排気エミッションの悪化等といった不具合が生じにくい状態でもある。
【0036】
さて、このステップS120において、エンジン1が完全暖機状態になっていると判定される場合には(ステップS120でNO)、本処理を終了する。
一方、エンジン1が完全暖機状態ではないと判定される場合には(ステップS120でYES)、始動時認識フラグFが「1」に設定されているか否かが判定される(ステップS130)。この始動時認識フラグFは、イグニッションスイッチが「オン」にされたとき、「0」に設定される。従って、本処理が初めて実行されるときには否定判定され、ステップS140以降の処理が行われる。一方、ステップS130にて肯定判定されるときには、後述するステップS220以降の処理が行われる。
【0037】
次に、ステップS140では、ソーク時間STが所定の判定時間T1(例えば8時間)以上であるか否かが判定される。このソーク時間STは、前回イグニッションスイッチが「オフ」にされたときから今回「オン」にされたときまでの時間を計測したものであり、機関停止時間のことである。なお、ソーク時間STは、例えば、ECU51に設けられてバックアップ電源で作動するタイマカウンタ等で計測することができる。
【0038】
そして、ソーク時間STが判定時間T1以上である場合には(ステップS140でYES)、模擬カウンタ補正値Kが「1」に設定される(ステップS160)。これは、ソーク時間STが判定時間T1以上である場合には、エンジン1は確実に完全冷間状態となっており、冷却水温と潤滑油温との温度差が小さくなっているため、冷却水温に対する潤滑油温の影響も少ないと考えられるためである。なお、本実施の形態では、冷却水温と潤滑油温との温度差が小さくなると考えられるソーク時間STの判定時間T1を「8時間」に設定しているが、この値は適宜に変更してもよい。
【0039】
一方、ソーク時間STが判定時間T1未満である場合には(ステップS140でNO)、ステップS150の処理が行われる。すなわち前述した模擬カウンタ補正値Kが、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づき、図5(イ)〜図5(ニ)に示す模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDより求められる(ステップS150)。
【0040】
ここで、前トリップ水温TWは、前回の機関停止時において検出された実冷却水温であり、前記RAMに一時記憶されている値である。ちなみに、前トリップ水温TWが高いときほど、これが周囲温度と略等しくなるまで低下するのに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この前トリップ水温TWが高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断できることができ、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。
【0041】
吸気温THAは、機関始動時に吸気温センサ46によって検出された吸気温である。ちなみに、吸気温THAが高いときほど、機関停止中における冷却水温の低下速度が小さくなり、これが周囲温度と略等しくなるまでに要する時間が長くなる。すなわち機関状態が冷間状態になるまでの時間が長くなる。そのため、この吸気温THAが高いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにある可能性が高いと判断でき、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。なお、本実施の形態では吸気温を外気温の代用として用いているが、これは吸気温と外気温との間に相関が存在するためである。このため、例えば外気温センサを別途設けて、吸気温THAの代わりにこの外気温センサによって検出される外気温を用いるようにしてもよい。
【0042】
前運転時間DTは、前回の機関運転時間であり、例えば、イグニッションスイッチが「オン」にされたときから「オフ」にされたときまでの時間を前述したタイマカウンタ等で計測しておき、その計測時間を前記RAMに一時記憶しておけばよい。また、前運転時間DTが長いほど潤滑油温は高くなる傾向にある。一方、ソーク時間STが長いほど潤滑油温は低下する傾向にある。ちなみに、上述したようにソーク時間STが長いときほど、内燃機関は完全冷間状態にある可能性が高い。換言すれば、ソーク時間STが短いときほど、内燃機関が半暖機状態及び半ソーク状態のいずれかにあると判断することができる。また前運転時間DTが短いときほど内燃機関が半暖機状態で停止された可能性が高いと判断することができる。換言すれば前運転時間DTが長いときほど内燃機関が半ソーク状態にある可能性が高いと判断することができる。すなわち、ソーク時間ST及び前運転時間DTに基づいて内燃機関が半暖機状態にあること、或いは半ソーク状態にあることを判断することができる。
【0043】
このように本実施の形態では、潤滑油温と相関関係にある上記各パラメータを用いて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしている。
ここで、図5に示す各模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDは、以下のように設定されている。まず、前トリップ水温TWと吸気温THAとに基づき、各模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDのうちのいずれかが選択されるように設定されている。より具体的には、
・「前トリップ水温TW≧70℃、かつ吸気温THA≧30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPAが選択され、
・「前トリップ水温TW≧70℃、かつ吸気温THA<30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPBが選択され、
・「前トリップ水温TW<70℃、かつ吸気温THA≧30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPCが選択され、
・「前トリップ水温TW<70℃、かつ吸気温THA<30℃」の場合には、模擬カウンタ補正値マップMAPDが選択される。
【0044】
また、各模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDでは、ソーク時間ST及び前運転時間DTと模擬カウンタ補正値Kとの対応関係が定義されており、この関係に従って模擬カウンタ補正値Kは以下のように設定される。
【0045】
まず、潤滑油温が冷却水温よりも低く、冷却水温の上昇率が低下する機関状態、例えば前述した半暖機後の再始動時における機関状態等に対応する領域では、潤滑油温が冷却水温よりも低くなるほど、模擬カウンタ補正値Kは「1.0」より小さくなるように設定されている。
【0046】
一方、潤滑油温が冷却水温よりも高く、冷却水温の上昇率が増大する機関状態、例えば、前述した半ソーク状態からの機関始動時における機関状態等に対応する領域では、潤滑油温が冷却水温よりも高くなるほど、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」より大きくなるように設定されている。
【0047】
そして、潤滑油温と冷却水温との温度差が小さく、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響が少ない機関状態に対応した領域では、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」に設定されている。
【0048】
また、前トリップ水温TWが高いときほど、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。そのため、前トリップ水温TWが高いほど、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」以外の値に設定される領域を広く設定している。
【0049】
また、吸気温THAが高いときほど、冷却水温に対する潤滑油温の影響時間が長くなる。そのため、前トリップ水温TWが高いほど、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」以外の値に設定される領域を広く設定している。
【0050】
ちなみに、これら模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDに示す模擬カウンタ補正値Kは一例であって、実験等を通じて上述した関係が満たされるものであればよい。また、前トリップ水温TWについては70℃を境にして、吸気温THAについては30℃を境にして、模擬カウンタ補正値マップMAPA〜MAPDを分けているが、これらの温度は適宜に変更してよい。また、前トリップ水温TW及び吸気温THAについて、複数の温度毎にマップを設けてもよい。
【0051】
さて、ステップS150にて模擬カウンタ補正値Kが求められると、次に、水温センサ42によって検出された実冷却水温THWが始動時実水温THWstとされ、吸気温センサ46によって検出された吸気温THAが始動時吸気温THAstとされる(図3のステップS170)。
【0052】
次に、始動時実水温THWstが始動時吸気温THAst以下であるか否かが判定される(ステップS180)。そして、始動時実水温THWstが始動時吸気温THAst以下である場合には(ステップS180でYES)、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM、及び模擬水温カウンタ値ECTHWの初期値として始動時実水温THWstが設定される(ステップS190)。そして、始動時認識フラグFが「1」に設定される(ステップS210)。
【0053】
一方、始動時実水温THWstが始動時吸気温THAstよりも大きい場合には(ステップS180でNO)、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM、及び模擬水温カウンタ値ECTHWの初期値と始動時吸気温THAstが設定される(ステップS200)。そして、始動時認識フラグFが「1」に設定される(ステップS210)。このように本処理では、始動時実水温THWst及び始動時吸気温THAstのうち、より低い値を模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM、及び模擬水温カウンタ値ECTHWの初期値として設定するようにしている。これは、吸気温THAが実冷却水温THWよりも低いときには実冷却水温THWが上昇しにくくなるため、できるだけ模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの初期値を低く設定し、後述する診断温度θAに到達する時間を遅らせた方が誤診断を抑制することができるためである。
【0054】
次に、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが前回の模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMn−1に設定され、模擬水温カウンタ値ECTHWが前回の模擬水温カウンタ値ECTHWn−1に設定される(ステップS220)。そして、前回の模擬水温カウンタ値ECTHWn−1と最低吸気温ECTHAMINとの偏差αが算出される(ステップS230)。ここで、最低吸気温ECTHAMINは外気温の代用として用いられている。すなわち、吸気温センサ46はエンジンルーム内に設けられているため、吸気温センサ46の検出値は外気温よりも高い値を示し、外気温よりも低い値を示すことはない。そのため、最も外気温に近いと考えられる始動開始時の吸気温THAを最低吸気温ECTHAMINとし、これを外気温の代用として用いることができる。なお、最低吸気温ECTHAMINの算出は、例えば以下のように行えばよい。すなわち、所定時間毎にECU51に吸気温THAを読み込む。そしてこの読み込まれた吸気温THAと最低吸気温ECTHAMINとを比較し、吸気温THAが最低吸気温ECTHAMINよりも低い場合には、このときの吸気温THAを新たな最低吸気温ECTHAMINとして更新するようにすればよい。
【0055】
次に、エンジン1を搭載した車両が、現在走行中であるか否かが判定される(図4のステップS240)。ここで、車両が走行中であるか否かを判定する理由は次の通りである。すなわち、車両走行中は、ラジエータやエンジン1に走行風が当たるため、冷却水温の上昇率が低下する。そのため、車両走行中と車両停車中とでは、冷却水温の変化態様が異なり、後述する模擬水温カウンタの算出に際して用いるマップを切り替える必要があるためである。なお、このステップS240における判定は、例えば車速センサ45で検出される車速SPDが3km/h以上である場合に車両走行中であると判定されるようにすればよい。そして、車両走行中でない場合には(ステップS240でNO)、前記算出された偏差αに基づき、図6(イ)に示すMAP(1)よりカウンタ加算値Δβが求められる(ステップS260)。
【0056】
一方、車両走行中である場合には(ステップS240でYES)、現在燃料噴射が一時中断されているか否か、すなわち燃料カット中であるか否かが判定される(ステップS250)。ここで、燃料カット中であるか否かを判定する理由は次の通りである。すなわち、燃料カット中は、エンジン1の発熱量がほぼ「0」に近くなるため、冷却水温の上昇率が低下する。そのため、燃料カット中と燃料噴射中とでは、冷却水温の変化態様が異なり、後述する模擬水温カウンタの算出に際して用いるマップを切り替える必要があるためである。なお、このステップS250における判定は、例えばECU51から出力される燃料カット信号に基づいて判定するようにすればよい。そして、燃料カット中である場合には(ステップS250でYES)、前記算出された偏差αに基づき、図6(ロ)に示すMAP(2)よりカウンタ加算値Δβが求められる(ステップS270)。
【0057】
一方、燃料噴射が行われている場合には(ステップS250でNO)、図6(ハ)に示すMAP(3)よりカウンタ加算値Δβが求められる(ステップS280)。ここで、MAP(3)ではカウンタ加算値Δβを求める際に、前記算出される偏差αだけではなく、機関回転速度NEと吸気圧PM等から算出される吸入空気量GAもパラメータとして用いられる。これは、通常の燃料噴射制御では、吸入空気量の増大に伴って燃料噴射量も増大するように制御されるため、吸入空気量が増大するとエンジン1の発熱量も増大するようになる。そのため、車両走行中であって、燃料噴射が実行されているときには、上記偏差αだけではなく、吸入空気量GAも考慮してカウンタ加算値Δβを求めるようにしている。
【0058】
さて、カウンタ加算値Δβが求められると、次に、前回の模擬水温カウンタ値ECTHWn−1、前記算出された模擬カウンタ補正値K、並びにカウンタ加算値Δβを用いて、次式(1)に基づき、今回の処理ルーチンにおける模擬水温カウンタ値ECTHWが算出される(ステップS290)。
【0059】
ECTHW=(ECTHWn−1+Δβ)×K … (1)
ここで、上記式(1)に示されるように、本実施の形態では、模擬水温カウンタ値ECTHWの算出に際して、前記模擬カウンタ補正値Kを乗算することで、模擬水温カウンタ値ECTHWを補正するようにしている。従って、模擬カウンタ補正値Kの値が「1.0」より小さい場合、すなわち、潤滑油温の影響を受けて冷却水温の上昇率が低下する場合には、補正なしの場合と比較して、模擬水温カウンタ値ECTHWの値が小さくなる。
【0060】
一方、模擬カウンタ補正値Kの値が「1.0」より大きい場合、すなわち、潤滑油温の影響を受けて冷却水温の上昇率が増加する場合には、補正なしの場合と比較して、模擬水温カウンタ値ECTHWの値が大きくなる。
【0061】
また、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」に設定されている場合、すなわち、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響がほとんどない場合には、補正なしと補正ありとにおける模擬水温カウンタ値ECTHWの値は同じになる。
【0062】
次に、こうして算出された模擬水温カウンタ値ECTHWのハンチングを抑制するために、なまし処理が行われる(ステップS300)。このなまし処理では、次式(2)に基づき、前回の模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMn−1、前記算出された模擬水温カウンタ値ECTHW、並びに適宜に設定されたなまし率γを用いて、今回の処理ルーチンにおける模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが算出される。
【0063】
ECTHWSM=ECTHWSMn−1+(ECTHW―ECTHWSMn−1)/γ …(2)
次に、前記算出された模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが、診断温度θA未満であるか否かが判定される(ステップS310)。この診断温度θAは、サーモスタット16の作動状態を診断するタイミングをとるために予め設定されている温度である。また、サーモスタット16の開弁温度誤差、及び水温センサ42の検出誤差等を考慮に入れて、サーモスタット16が開弁する基準温度(本実施の形態では82℃)よりも若干低い温度(例えば75℃程度)に設定されている。そして、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θA未満である場合には(ステップS310でYES)、実冷却水温THWが前記診断温度θA以上であるか否かが判定される(ステップS320)。そして、実冷却水温THWが診断温度θA未満である場合には(ステップS320でNO)、本処理を一旦終了し、所定時間となったときにふたたび、先の図2に示したステップS110以降の処理が実行される。
【0064】
なお、再度ステップS110以降の処理が実行されるときには、先の図3に示したステップS210で、前述した始動時認識フラグFが「1」に設定されているために、図2に示すステップS130での判定が肯定され、図3のステップS220以降の処理が実行される。すなわち、模擬カウンタ補正値Kの算出、並びに模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMと模擬水温カウンタ値ECTHWの初期化処理は省略される。
【0065】
一方、実冷却水温THWが診断温度θA以上である場合には(ステップS320でYES)、サーモスタット16は正常に作動していると判定される(ステップS330)。このように、機関運転状態から推定された模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θAに達する前に、実冷却水温THWが診断温度θAに達したということは、サーモスタット16が正常に作動しており、実冷却水温THWが適正に上昇したことになる。そしてサーモスタット16の診断がなされたあとは、本処理を終了し、その割り込み処理を禁止する。
【0066】
さて、前述したステップS310において、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θA以上であると判定される場合には(ステップS310でNO)、サーモスタット16に異常が生じていると判定される(ステップS340)。このように、ステップS320にて実冷却水温THWが診断温度θAに達しているか否かが判定される前に、機関運転状態から推定された模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMが診断温度θAに達したということは、次のように考えられる。すなわち、ラジエータ8で冷却水からの熱放出が行われ、実冷却水温THWが適正に上昇していない結果であり、ラジエータ8に冷却水が循環される状態になっている、すなわちサーモスタット16が開弁状態で固着しており異常が生じていると考えられる。そしてサーモスタット16の診断がなされたあとは、本処理を終了し、その割り込み処理を禁止する。なお、サーモスタット16に異常が生じていると判定されたときには、運転者に対して警告灯の点灯等による警告が行われる。
【0067】
次に、本実施の形態にかかる診断装置の作用を従来の診断装置との違いを中心に、図7を併せ参照して説明する。
図7(イ)は、半暖機状態で機関停止された後、冷間状態になる前に機関始動が行われたときの模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM及び実冷却水温THWの変化態様の一例を示している。この図7(イ)に実線Aで示される曲線は、サーモスタットが正常な場合の実冷却水温THWの変化を示している。また、一点鎖線Dで示される曲線は、機関始動後における模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの変化、すなわち本実施の形態における診断装置によって算出される推定冷却水温の変化を示している。そして、二点鎖線Cで示される曲線は、前述した従来の診断装置によって算出される推定冷却水温の変化を示している。
【0068】
この場合には、前述したように、冷間時からの機関始動時と比較して、冷却水から潤滑油への熱移動に起因する冷却水温の上昇率低下が起きる。そのため、実冷却水温THWは、実線Aで示されるように機関始動(時刻t0)後緩やかに上昇していき、所定温度に達したところで一定温度を保持するという態様を示す。
【0069】
さて、従来の診断装置では、前述したように、潤滑油温の影響による冷却水温の上昇率低下を考慮することなく推定冷却水温の算出が行われる。そのため、推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAに到達した段階で実冷却水温THW(実線A)が診断温度θAよりも低い温度となっている(時刻t1)ことをもって、サーモスタットが正常に作動していないと診断してしまう。すなわち、サーモスタットが正常に作動しているにもかかわらず、異常が生じていると誤診断されてしまう。
【0070】
一方、本実施の形態における診断装置では、上記診断処理が繰り返し実行されるたびに、模擬水温カウンタ値ECTHWにカウンタ加算値Δβが加算され(図4のステップS290)、機関運転時間の経過とともに模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの値は増加していく。ここで、本実施の形態では、潤滑油温の影響により冷却水温の上昇率が低下してしまう状況下では、機関始動時において模擬カウンタ補正値Kが「1.0」より小さい値で求められる(図2のステップS150)。そして上記診断処理が繰り返し実行される際には、模擬水温カウンタ値ECTHWにこの模擬カウンタ補正値Kが乗算される(図4のステップS290)。従って、模擬水温カウンタ値ECTHWの値は小さくなるように補正され、その結果、一点鎖線Dで示されるように、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率も低下された状態で、その値は上昇していく。すなわち、実冷却水温THWの変化態様に即した形で模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMも変化し、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)は、サーモスタットの正常作動時における実冷却水温THW(実線A)を下回るように推移する。そのため、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)が診断温度θAに到達する前に実冷却水温THW(実線A)が診断温度θAに到達する(時刻t2)ようになり、サーモスタットの正常作動が正確に診断される。
【0071】
図7(ロ)は、完全暖機後の半ソーク状態から機関始動が行われたときの模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM及び実水温の変化態様の一例を示しており、破線Bで示される曲線は、サーモスタットに異常が生じている場合の実冷却水温THWの変化を示している。また、一点鎖線Dで示される曲線は、機関始動後における模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの変化、すなわち本実施の形態における診断装置によって算出される推定冷却水温の変化を示している。そして、二点鎖線Cで示される曲線は、前述した従来の診断装置において算出される推定冷却水温の変化を示している。
【0072】
この場合には、前述したように、冷間時からの機関始動時と比較して、潤滑油から冷却水への熱移動に起因する冷却水温の上昇率増加が起きる。そのため、頻度自体はあまり高くないものの、場合によっては、サーモスタット16に異常が生じている場合であっても実冷却水温THWが、破線Bで示されるように機関始動(時刻t0)後、急速に上昇するという変化態様を示すことも懸念される。このような場合であっても、従来の診断装置では、前述したように、潤滑油温の影響による冷却水温の上昇率増加を考慮することなく推定冷却水温の算出が行われる。そのため、実冷却水温THW(破線B)が診断温度θAに到達した段階で推定冷却水温(二点鎖線C)が診断温度θAよりも低い温度となっている(時刻t2)ことをもって、サーモスタットが正常に作動していると診断してしまう。すなわち、サーモスタットに異常が生じているにもかかわらず、正常であると誤診断されてしまう。
【0073】
一方、本実施の形態における診断装置では、上記診断処理が繰り返し実行されることで、機関運転時間の経過とともに模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの値は増加していく。ここで、本実施の形態では、潤滑油温の影響により冷却水温の上昇率が増加してしまう状況下では、機関始動時において模擬カウンタ補正値Kが「1.0」より大きい値で求められる(図2のステップS150)。そして上記診断処理が繰り返し実行される際には、模擬水温カウンタ値ECTHWにこの模擬カウンタ補正値Kが乗算される(図4のステップS290)。従って、模擬水温カウンタ値ECTHWの値は大きくなるように補正され、その結果、一点鎖線Dで示されるように、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率も増大された状態で、その値は上昇していく。すなわち、実冷却水温THWの変化態様に即した形で模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMも変化し、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)は、サーモスタットの異常作動時における実冷却水温THW(破線B)を上回るように推移する。そのため、実冷却水温THW(破線B)が診断温度θAに到達する前に、模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM(一点鎖線D)が診断温度θAに到達する(時刻t1)ようになり、サーモスタットの異常作動が正確に診断される。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態にかかるサーモスタットの診断装置によれば、次のような効果が得られるようになる。
(1)本実施の形態では、サーモスタットが正常に作動していると想定した場合の冷却水温にかかる基準値として、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が低いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定し、これを模擬水温カウンタ値ECTHWにしている。そしてこの模擬水温カウンタ値ECTHWのなまし値を、サーモスタットの作動状態の診断に際しての判定値とし、実冷却水温THWの上昇率が模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率よりも低い場合には、サーモスタットに開弁固着異常が生じている旨の判定を行うようにしている。すなわち、実冷却水温THWの上昇率と模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMの上昇率との乖離が大きいときには、サーモスタットに開弁固着異常が生じている旨の判定が行われるようにしている。このように実冷却水温THWと模擬水温カウンタなまし値ECTHWSMとの比較により、サーモスタットが正常に作動しているか否かの診断を行うことができるようになる。
【0075】
(2)上記診断に際して、サーモスタットの作動状態を診断するための模擬水温カウンタ値ECTHWを内燃機関の潤滑に供される潤滑油の温度に基づいて補正するようにしている。より具体的には、潤滑油温が実際の冷却水温よりも低い状態では模擬水温カウンタ値ECTHWをより低い温度に補正するようにしている。また、潤滑油温が実際の冷却水温よりも高い状態では、模擬水温カウンタ値ECTHWをより高い温度に補正するようにしている。そのため、上述したような潤滑油温が冷却水温の推移に及ぼす影響を考慮しつつサーモスタットの診断を行うことができ、その作動状態、すなわちサーモスタットが正常に作動しているか否かについて、精度よく診断することができるようになる。
【0076】
(3)内燃機関が半暖機状態或いは半ソーク状態にあるときの始動時に、冷却水温の温度推移に対する潤滑油温の影響が大きくなる。そこで、本実施形態では、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかについて、上記ソーク時間ST及び前運転時間DTに基づいて判断し、この判断に基づいて潤滑油温を推定し、その推定される潤滑油温に基づいて模擬水温カウンタ値ECTHWの補正を行うようにしている。従って、上記各パラメータに基づいて、実質的に潤滑油温に基づく模擬水温カウンタ値ECTHWの補正を行うことができるようになる。
【0077】
(4)また、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかの判断に際して、実質的には模擬カウンタ補正値Kの算出に際して、ソーク時間ST及び前運転時間DTに加え、前トリップ水温TW及び吸気温THAも考慮するようにしている。そのため、機関始動時に内燃機関が半暖機状態にあるか或いは半ソーク状態にあるかの判断をより正確に行うことができ、もって模擬水温カウンタ値ECTHWの補正を行う必要のある機関状態の領域を正確に設定することができるようになる。
【0078】
なお、上記実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態における吸気温THAは、機関始動時に吸気温センサ46によって検出される温度であった。この他にも、前回の機関停止時に検出された吸気温や外気温を吸気温THAに代わる値として採用してもよい。また、前回の機関停止時から機関始動時までの吸気温や外気温の推移を監視し、その監視結果に基づき算出される平均値を吸気温THAに代わる値として採用することもできる。
【0079】
・上記実施の形態では、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTといった潤滑油温と相関関係にある各パラメータに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにした。
【0080】
この他にも、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。この場合には、上記実施の形態と比較して、潤滑油温に応じた模擬カウンタ補正値Kの算出に際しての精度が若干低下するものの、より容易に模擬カウンタ補正値Kを求めることができるようになる。
【0081】
また、前トリップ水温TW、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。この場合には、上記変形例よりもより正確に模擬カウンタ補正値Kを求めることができるようになる。
【0082】
・上記実施の形態では、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTといった潤滑油温と相関関係にある各パラメータに基づいて直接模擬カウンタ補正値Kを求めるようにした。この他にも、例えば、上記実施の形態で説明した診断処理において、図2に示したステップS150の代わりに図8に示すステップS400、ステップS410の処理を実行する。すなわち、上記各パラメータに基づいて潤滑油温を推定し(ステップS400)、この推定された潤滑油温と実冷却水温THWとの温度差に基づいてマップから模擬カウンタ補正値Kを求める(ステップS410)ようにしてもよい。なお、このとき参照するマップは、図9に示すように、推定潤滑油温から実冷却水温THWを減じた値ΔEが正の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも大きくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も大きくなるように設定する。一方、値ΔEが負の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも小さくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も負の方向に大きくなるように設定する。この場合には、一旦潤滑油温を推定する分、処理手順が増えるものの、上記実施の形態と同様な作用効果を得ることができる。ちなみに、値ΔEを変数とする関数から模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。
【0083】
・上記実施の形態では、前トリップ水温TW、吸気温THA、ソーク時間ST、並びに前運転時間DTに基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにした。この他にも、エンジン1に潤滑油の油温を直接検出する潤滑油温センサを設け、この検出値と実冷却水温THWとの差に基づいて模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。例えば、図1に示すように、エンジン1の下部に設けられるオイルパンに、潤滑油の温度を検出する温度センサ47を取り付ける。そして、上記実施の形態で説明した診断処理において、図2に示したステップS150の代わりに図10に示すステップS500の処理を実行する。すなわち、実際の潤滑油温と実冷却水温THWとの差に基づき、マップから模擬カウンタ補正値Kを求める。なお、このとき参照するマップも先の図9に示したように、潤滑油温から実冷却水温THWを減じた値ΔEが正の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも大きくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も大きくなるように設定する。一方、値ΔEが負の場合には、模擬カウンタ補正値Kが「1.0」よりも小さくなるように、且つ値ΔEの絶対値が大きいほど、模擬カウンタ補正値Kの値も負の方向に大きくなるように設定する。この場合には、実際の潤滑油温が検出されるとともに、この潤滑油温と実冷却水温THWとの差に基づいて模擬カウンタ補正値Kが算出される。そのため、温度センサが必要にはなるものの、上記実施の形態と比較して、より正確に推定冷却水温を補正することができるようになる。ちなみに、値ΔEを変数とする関数から模擬カウンタ補正値Kを求めるようにしてもよい。
【0084】
・上記実施の形態では、サーモスタット16が正常に作動していると診断される条件を、「模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM<診断温度θA」かつ「実冷却水温THW≧診断温度θA」とした。しかし、何らこのような条件に限定されるものではなく、要するに「実冷却水温THW≧模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM」という状態になっていることをもってサーモスタット16が正常に作動していると診断されるようにすればよい。また、サーモスタット16に異常が生じていると診断される条件を、「模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM≧診断温度θA」かつ「実冷却水温THW<診断温度θA」とした。しかしこれも何らこのような条件に限定されるものではなく、要するに「実冷却水温THW<模擬水温カウンタなまし値ECTHWSM」という状態になっていることをもってサーモスタット16に異常が生じていると診断されるようにすればよい。換言すれば、上記推定冷却水温と実際の冷却水温とのずれ、すなわち両者の乖離度合いに基づいて上記診断を行えばよく、例えば以下のようにすることもできる。
【0085】
(例1)サーモスタット16の作動状態を診断する判定値として、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後の所定時間における冷却水温を推定した推定水温を用いるようにしてもよい。すなわち、図11に示すように、サーモスタットが正常に開閉する場合には、機関始動後速やかに冷却水温が上昇する(実線Aに示す曲線)。一方、サーモスタットが閉弁状態にならない異常時には、機関始動後の冷却水の温度上昇が緩やかになる(破線Bに示す曲線)。従って、機関始動後の所定時間Xにおける実冷却水温THWが、サーモスタットの正常作動を想定して推定された機関始動後の所定時間Xにおける推定水温GTHWよりも高ければ、サーモスタットは正常に作動していると考えることができる。すなわち、機関始動から所定時間経過後の冷却水温について実冷却水温THWが基準値たる推定水温GTHWよりも低ければ、実冷却水温THWと推定水温GTHWとの乖離が大きいとして、サーモスタットに異常有りと診断する。
【0086】
この場合には、図12に例示する処理手順によって、サーモスタット16の作動状態を精度よく診断することができる。すなわち、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後の所定時間Xにおける冷却水温を推定した推定水温GTHWを求める(ステップS700)。次に、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響を考慮するべく、推定水温GTHWを補正するための推定水温補正値THWKを求める(ステップS710)。次に、この求められた推定水温補正値THWKに基づいて推定水温GTHWを補正する(ステップS720)。次に、補正後推定水温GFTHWと機関始動後の所定時間Xにおける実冷却水温THWとを比較する(ステップS730)。そして、実冷却水温THWが補正後推定水温GFTHWよりも高い場合(実冷却水温THW≧補正後推定水温GFTHW)には(ステップS730でYES)、サーモスタット16が正常に作動していると診断する(ステップS740)。一方、実冷却水温THWが補正後推定水温GFTHWよりも低い場合(実冷却水温THW<補正後推定水温GFTHW)には(ステップS730でNO)、サーモスタット16に異常が生じていると診断する(ステップS750)。この変形例においても、冷却水温の変化態様を示す一例である上記推定水温GTHWが潤滑油温に基づいて補正されるため、上記実施の形態に準じた効果が得られるようになる。
【0087】
(例2)サーモスタット16の作動状態を診断する判定値として、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後に冷却水温が所定温度に到達するのに要する時間を推定した推定時間を用いるようにしてもよい。すなわち、図13に示すように、サーモスタットが正常に開閉する場合には、機関始動後速やかに冷却水温が上昇する(実線Aに示す曲線)。一方、サーモスタットが閉弁状態にならない異常時には、機関始動後の冷却水の温度上昇が緩やかになる(破線Bに示す曲線)。従って、機関始動後において冷却水温が所定温度Yに到達するのに要した実際の実時間RTが、サーモスタットの正常作動を想定して推定される推定時間GTよりも短ければ、サーモスタットは正常に作動していると考えることができる。すなわち、機関始動後に冷却水温が所定値に到達するまでの到達時間について、実時間RTが基準値たる推定時間GTよりも長ければ、実時間RTと推定時間GTとの乖離が大きいとして、サーモスタットに異常有りと診断する。
【0088】
この場合には、図14に例示する処理手順によって、サーモスタット16の作動状態を精度よく診断することができる。すなわち、サーモスタットの正常作動を想定した条件下で、機関始動後に冷却水温が所定温度Yに到達するのに要する推定時間GTを推定する(ステップS800)。次に、冷却水温の上昇率に対する潤滑油温の影響を考慮するべく、推定時間GTを補正するための推定時間補正値TKを求める(ステップS810)。次に、この求められた推定時間補正値TKに基づいて推定時間GTを補正する(ステップS820)。次に、補正後推定時間GFTと実際に冷却水温が所定温度Yに到達するまでに要した実時間RTとを比較する(ステップS830)。そして、実際に要した実時間RTが補正後推定時間GFTよりも短い場合(実時間RT<補正後推定時間GFT)には(ステップS830でYES)、サーモスタット16が正常に作動していると診断する(ステップS840)。一方、実際に要した実時間RTが補正後推定時間GFTよりも長い場合(実時間RT≧補正後推定時間GFT)には(ステップS830でNO)、サーモスタット16に異常が生じていると診断する(ステップS850)。この変形例においても、冷却水温の変化態様を示す一例である上記推定時間GTが潤滑油温に基づいて補正されるため、上記実施の形態に準じた効果が得られるようになる。
【0089】
・上記実施の形態及びその変形では、サーモスタットの開弁固着異常といった異常を診断する場合について説明した。この他にも、サーモスタットの閉弁固着異常といった異常を診断する場合についても本発明は同様に適用することができる。すなわち、上記模擬水温カウンタ値ECTHWを、正常なサーモスタットのうち、最も水温上昇率が高いサーモスタットによる冷却水温の推移を推定した値として算出する。そして、上記実施の形態と同様に模擬カウンタ補正値Kを求めて模擬水温カウンタ値ECTHWを補正する。そして、この推定冷却水温(模擬水温カウンタ値ECTHW)の上昇率よりも、実冷却水温の上昇率が高いときには、冷却水温の上昇率が過剰に高く、サーモスタットに閉弁固着といった異常が生じていると判断する。すなわち、実冷却水温の上昇率が推定冷却水温の上昇率よりも高ければ、実冷却水温の上昇率と推定冷却水温の上昇率との乖離が大きいとして、サーモスタットに異常有りと診断する。そして、この場合にも、潤滑油温が冷却水温の推移に及ぼす影響を考慮しつつサーモスタットの診断を行うことができるため、その作動状態、すなわちサーモスタットが正常に作動しているか否かについて、精度よく診断することができるようになる。
【0090】
ちなみに、上記(例1)、(例2)で説明した診断態様においても、同様な変更を行うことにより、サーモスタットの開弁固着異常に関する診断を行うとともにその精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるサーモスタットの診断装置の一実施の形態について、その概略構成を示す図。
【図2】同実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順を示すフローチャート。
【図4】同実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順を示すフローチャート。
【図5】同実施の形態において模擬カウンタ補正値を求めるためのマップ。
【図6】同実施の形態においてカウンタ加算値を求めるためのマップ。
【図7】同実施の形態における診断装置によって算出される推定冷却水温の変化態様と、実際の冷却水温の変化態様と、従来の診断装置によって算出される推定冷却水温の変化態様とをそれぞれ例示するグラフ。
【図8】上記実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順についてその変形例を示すフローチャート。
【図9】同変形例において模擬カウンタ補正値を求めるためのマップ構造を示すグラフ。
【図10】上記実施の形態によるサーモスタットの診断にかかる処理手順についてその変形例を示すフローチャート。
【図11】上記実施の形態の変形例によるサーモスタットの診断態様を説明するグラフ。
【図12】同変形例によるサーモスタットの診断処理の手順を示すフローチャート。
【図13】上記実施の形態の変形例によるサーモスタットの診断態様を説明するグラフ。
【図14】同変形例によるサーモスタットの診断処理の手順を示すフローチャート。
【図15】従来の診断装置によるサーモスタットの診断態様を説明するグラフ。
【符号の説明】
1…エンジン、3…シリンダ、4…ピストン、5…クランクシャフト、6…コンロッド、7…ウォータジャケット、8…ラジエータ、9…冷却ファン、10…ウォータポンプ、11…燃焼室、12…シリンダヘッド、13…シリンダブロック、14…上部連絡通路、15…下部連絡通路、16…サーモスタット、42…水温センサ、43…クランク角センサ、44…吸気圧センサ、45…車速センサ、46…吸気温センサ、47…温度センサ、51…制御装置(ECU)。
Claims (9)
- 内燃機関の冷却水通路に設けられてラジエータに流れる冷却水の流量を調整するサーモスタットについて、その正常作動時の冷却水温に基づき設定される基準値と冷却水温の実際値との比較に基づいて同サーモスタットの作動状態を診断する装置において、
前記基準値を前記内燃機関の潤滑油の温度に基づいて補正する補正手段を備える
ことを特徴とするサーモスタットの診断装置。 - 前記補正手段は潤滑油温が実際の冷却水温よりも低いときに前記基準値をより低い温度に補正する
請求項1に記載のサーモスタットの診断装置。 - 前記補正手段は潤滑油温が実際の冷却水温よりも高いときに前記基準値をより高い温度に補正する
請求項1又は2記載のサーモスタットの診断装置。 - 前記補正手段は機関始動前の機関停止時間及び前回の機関運転時間に基づいて潤滑油温を推定する推定手段を備える
請求項1〜3のいずれかに記載のサーモスタットの診断装置。 - 前記推定手段は更に前回の機関停止時における冷却水温に基づいて潤滑油温を推定する
請求項4記載のサーモスタットの診断装置。 - 前記推定手段は更に外気温に基づいて潤滑油温を推定する
請求項4又は5記載のサーモスタットの診断装置。 - 機関始動後における前記実際値の上昇率と前記基準値の上昇率との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する
請求項1〜6のいずれかに記載のサーモスタットの診断装置。 - 機関始動から所定時間経過後の冷却水温について前記実際値と前記基準値との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する
請求項1〜6のいずれかに記載のサーモスタットの診断装置。 - 機関始動後に冷却水温が所定値に到達するまでの到達時間について、実際の時間と前記基準値の推移から求められる時間との乖離が大きいときに前記サーモスタットに異常有りと診断する
請求項1〜6のいずれかに記載のサーモスタットの診断装置。
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