JP2004231743A - ポリフェニレンエーテル系樹脂及びこれを含む樹脂組成物 - Google Patents

ポリフェニレンエーテル系樹脂及びこれを含む樹脂組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】高周波数帯域における低誘電正接及び低誘電率を有する新規ポリフェニレンエーテル系樹脂及びこれを含むポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を提供する。前記樹脂材料を使用した電子回路用基板を提供する。
【解決手段】下記式(I):
【化1】
Figure 2004231743

(式(I)中、Rはアルキル基を表し、Rはアリール基を表す。)
で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテル系樹脂。前記ポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン系エラストマー及び難燃剤のうち少なくとも一方とを含む、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。前記樹脂材料を使用した電子回路用基板。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波帯域における低誘電正接及び低誘電率を有する新規ポリフェニレンエーテル系樹脂及びこれを含むポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に関する。また、本発明は、前記低誘電正接及び低誘電率を有するポリフェニレンエーテル系樹脂材料を使用した電子回路用基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、情報通信のブロードバンド化、情報端末のモバイル/ワイヤレス化に伴い、電子機器、情報通信機器に対する高速通信化、小型軽量化、情報の高速大量処理等が強く要求されている。デジタル携帯電話をはじめとする携帯移動体通信、衛星通信などではメガヘルツ(MHz)からギガヘルツ(GHz)の高周波帯域の電波が使用されており、これらの通信手段として使用されている情報通信機器では、筐体、回路基板及び電子部品の小型化、高密度実装化等が図られている。これに伴い、電子機器、情報通信機器に使用される回路基板用材料にも一層の性能向上が要求されている。
【0003】
高周波帯域における回路基板用材料として要求される特性としては、用途に応じて、低誘電率かつ低誘電正接であること、又は高誘電率かつ低誘電正接であることが挙げられる。低誘電率化は、伝搬信号の高速化、信号伝送損失の抑制、配線板の薄型化、寄生容量の抑制などの要求に対して必要とされ、一方、高誘電率化は、基板の小型化、配線パターンの細密化、コンデンサ機能の内蔵などの要求に対して必要とされる。また、低誘電正接化は、信号伝送損失の抑制などの要求に対して必要とされる。
【0004】
電子機器、情報通信機器等に使用される回路基板としては、セラミック基板、樹脂(有機高分子)基板が挙げられる。基板材料として樹脂を使用した場合は、セラミックと比較して、低誘電率化が図れる、回路を形成する導体の損失を小さくできるなどの特徴がある。このような回路基板用材料に使用される、あるいは期待される樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。
【0005】
エポキシ樹脂やフェノール樹脂は、回路基板用材料として一般的に使用されているものであるが、高周波帯域における低誘電正接化、低誘電率化の要求に対して充分ではなく、また樹脂の吸水率に起因する誘電特性の変動が大きい。また、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などは、低誘電正接化、低誘電率化の要求に対して期待できる材料であるが、やはり樹脂の吸水率に起因する誘電特性の変動が大きいという問題がある。フッ素系樹脂は、樹脂材料の中で低誘電正接化、低誘電率化が最も期待できる材料であるが、フッ素系樹脂自体の物性から加工性等に問題がある。
【0006】
ポリフェニレンエーテル(ポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル))樹脂は、高周波帯域において誘電正接、比誘電率が良好で、吸水率が小さく、比較的高い耐熱性を有する樹脂であり、回路基板用材料として優れた特性を有している材料である。しかし今後、情報通信に使用される電波が高周波帯域にシフトすることを考慮すれば、より一層の低誘電正接化、低誘電率化を図る必要がある。
【0007】
特公平6−82927号公報には、ポリフェニレンオキサイド樹脂系LCR多層板が開示され、特公平8−11781号公報には、高誘電性ポリフェニレンオキサイド系樹脂組成物が開示されている。これら公報に開示のポリフェニレンオキサイドは、フェニレン環上の置換基は炭素数1〜3の炭化水素基のものである。
【0008】
特公平6−78482号公報には、硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂組成物及びその硬化シート又はフィルムが開示されている。この公報に開示のポリフェニレンオキサイドは、フェニレン環上の置換基は特定構造のアルケニル基又はアルキニル基のものである。
【0009】
【特許文献1】
特公平6−82927号公報
【特許文献2】
特公平8−11781号公報
【特許文献3】
特公平6−78482号公報
【特許文献4】
特開2002−128977号公報
【特許文献5】
特開2001−181460号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、高周波帯域における低誘電正接及び低誘電率を有する新規ポリフェニレンエーテル系樹脂及びこれを含むポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の目的は、前記低誘電正接及び低誘電率を有するポリフェニレンエーテル系樹脂材料を使用した、電子機器、情報通信機器の高速通信化、小型軽量化、情報の大量高速処理等を実現する電子回路用基板を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリフェニレンオキサイドにおけるフェニレン環の2,6位の一方にアリール基を導入し、他方をアルキル基とすることにより、誘電正接をポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)の1/2以下とすることができることを見いだした。
【0012】
本発明には、次の発明が含まれる。
(1) 下記式(I):
【化2】
Figure 2004231743
(式(I)中、Rはアルキル基を表し、Rはアリール基を表す。)
で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテル系樹脂。
【0013】
(2) 前記式(I)において、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基を表す、(1) のポリフェニレンエーテル系樹脂。
(3) 前記式(I)において、Rは炭素原子数4〜10のアルキル基を表す、(1) のポリフェニレンエーテル系樹脂。
(4) 前記式(I)において、Rはフェニル基を表す、(1) 〜(3) のうちのいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂。
【0014】
(5) (1) 〜(4) のうちのいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン系エラストマー及び難燃剤のうち少なくとも一方とを含む、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【0015】
(6) (1) 〜(4) のうちのいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂又は(5) のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を主体として含む樹脂基板。
【0016】
(7) (1) 〜(4) のうちのいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂又は(5) のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物をクロス基材に塗工して得られる基材塗工物。
(8) クロス基材がガラスクロスである、(7) の基材塗工物。
【0017】
(9) (1) 〜(4) のうちのいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂又は(5) のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を金属箔上に塗工して得られる金属箔塗工物。
(10)前記金属箔が銅箔である、(9) の金属箔塗工物。
【0018】
(11) (7) 又は(8) の基材塗工物の2枚以上を重ねた状態で加熱加圧成形して得られる基板。
(12) (7) 又は(8) の基材塗工物の1枚を、あるいは前記基材塗工物の2枚以上を重ねた状態で、金属箔間に挟んで加熱加圧成形して得られる両面金属貼り基板。
(13) 前記金属箔が銅箔である、(12)の両面金属貼り基板。
【0019】
(14) (9) 又は(10)の金属箔塗工物の2枚以上を両外側面が金属箔となるように重ねた状態で加熱加圧成形して得られる両面金属貼り基板。
【0020】
(15) (7) 又は(8) の基材塗工物、(11)の基板、又は(12)又は(13)の両面金属貼り基板の片面又は両面に、(9) 又は(10)の金属箔塗工物を金属箔が外側面となるように重ねた状態で加熱加圧成形して得られる多層基板。
【0021】
【発明の実施の形態】
まず、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂について説明する。
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂は、式(I)で示される繰り返し単位からなる。式(I)において、Rはアルキル基を表し、Rはアリール基を表す。
【0022】
【化3】
Figure 2004231743
【0023】
が表すアリール基として、望ましくはフェニル基が挙げられ、前記アリール基は各種の置換基(例えば、メチル、エチル等の低級アルキル基、メトキシ、エトキシ等の低級アルコキシ基、ハロゲン原子など)を有していても良い。
【0024】
が表すアルキル基はCn H2n+1で示され、直鎖構造であっても枝分かれ構造であっても良く、前記アルキル基は各種の置換基(例えば、メトキシ、エトキシ等の低級アルコキシ基、ハロゲン原子など)を有していても良い。アルキル基の炭素数nについては、n=11以上となると、樹脂材料として用いた場合の成形性が悪くなりやすいため、n=1〜10のアルキル基が好ましい。また、ポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)よりも小さい比誘電率が得られるという観点から、n=4〜10のアルキル基がより好ましい。アルキル基としては、具体的に、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、オクチル、ノニル基等が例示される。
【0025】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂は、対応するモノマーである2−アルキル−6−アリールフェノールを合成し、そのモノマーを重合することにより得られる。モノマー及びポリマーの合成については、種々の方法を採りうる。実施例に合成例を記載するが、本発明に記載の方法に限らず、他の公知の原料の使用や反応プロセスの適用等で合成しても良い。
【0026】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂の分子量は、限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量(Mw)1.0×10〜1.0×10程度であり、数平均分子量(Mn)5.0×10〜3.0×10程度であり、分子量分布(Mw/Mn)2〜6程度である。
【0027】
本発明において、ポリフェニレンエーテル系樹脂の1種又は2種以上をそのまま電子回路用基板材料として用いることもでき、次に説明する樹脂組成物の形態で電子回路用基板材料として用いてもよい。
【0028】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上述のポリフェニレンエーテル系樹脂をベースとして、スチレン系エラストマーを配合することにより、又は難燃剤を配合することにより、又はスチレン系エラストマー及び難燃剤の両者を配合することにより得られる。スチレン系エラストマーの配合により、得られる基板に可撓性が付与され、金属泊付き樹脂基板を得る際の金属泊との密着強度が向上し、また作業性も向上する。難燃剤の配合により、用途に応じた難燃性の要求が満たされる。
【0029】
スチレン系エラストマーはポリフェニレンエーテル系樹脂と相溶性が高く、低誘電率及び低誘電正接のエラストマーとして選択されたものである。スチレン系エラストマーはスチレン−ポリオレフィン系共重合体であり、スチレン比が質量比で50%以上、さらに好ましくは50〜80%のものである。スチレン比が50%より小さいと、ポリフェニレンエーテル系樹脂との相溶性が低下する傾向にある。一方、スチレン比が80%よりも大きくなると、得られる基板の可撓性が低下する傾向にある。ポリオレフィン相としては、ポリ(ポリエチレン−プロピレン)、ポリエチレン−ポリブチレンランダムコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどが挙げられる。スチレン系エラストマーの配合量は、ポリフェニレンエーテル系樹脂:スチレン系エラストマーの配合重量比で表して、95:5〜75:25程度が好ましい。この程度の配合量で、スチレン系エラストマーの配合効果が得られる。スチレン系エラストマーは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
難燃剤は難燃性が要求される場合、必要に応じて配合する。難燃剤としては、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属塩系難燃剤、シリコーン系難燃剤などが挙げられる。難燃剤の配合量は、ポリフェニレンエーテル系樹脂:難燃剤の配合重量比で表して、95:5〜70:30程度が好ましい。この程度の配合量で、難燃効果が得られる。難燃剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂にスチレン系エラストマー及び/又は難燃剤を加え、混練して作製するとよい。混練は、混練機、ニーダ、ボールミル、攪拌機、ロール等の公知の手段を用いて行うとよい。また、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、溶剤中において、ポリフェニレンエーテル系樹脂にスチレン系エラストマー及び/又は難燃剤を混合して、乾燥して作製してもよい。この際に使用する溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系揮発性溶剤が好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の添加剤を添加してもよい。
【0032】
次に、本発明の種々の形態を採りうる電子回路用基板について説明する。
本発明において、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂をそのままで、又は樹脂組成物の形態で、樹脂材料として用いて、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂を主体と含む樹脂基板を作製することができる。前記ポリフェニレンエーテル系樹脂又は前記ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を、ポリフェニレンエーテル系樹脂材料と総称する。
【0033】
樹脂基板には種々の形態がある。前記ポリフェニレンエーテル系樹脂材料を加熱加圧プレス成形することにより、樹脂基板が得られる。前記ポリフェニレンエーテル系樹脂材料を溶剤に溶解した溶液を、ガラスクロス等のクロス基材に塗工し、乾燥することにより、基材塗工物が得られ、また前記溶液を銅箔等の金属箔上に塗工し、乾燥することにより、金属箔塗工物が得られる。さらに、前記基材塗工物、銅箔等の金属箔、及び前記金属箔塗工物を適宜組み合わせて重ね合わせ、これらを加熱加圧成形することにより、基板が得られる。これらの基板においては、その組み合わせにより銅箔等の金属箔を両面又は片面に有するものや、金属箔を有しないものとすることができ、さらには多層化が可能である。
【0034】
基材塗工物を作製する場合には、まず前記ポリフェニレンエーテル系樹脂材料及び適切な溶剤を用いて、ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が質量百分率で20〜60%の塗工用溶液を調製する。溶液調製時に使用する溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系揮発性溶剤が好ましい。前記樹脂材料と溶剤を混合攪拌機で混合し、必要に応じて加温、脱気等を行い、塗工用溶液を作製する。
【0035】
このようにして得られた塗工用溶液を、ガラスクロス等のクロス基材に塗工する。クロス基材としてはガラスクロスを使用することが好ましい。ガラスクロスは一般に市販されているもの(例えば旭シュエーベル製のもの)が使用できるが、所望の電気的特性を得るために必要に応じてEガラスクロス、Dガラスクロス等を使い分けることができる。また、クロス基材への塗工性や接着強度向上等の目的に応じて、クロス基材のカップリング処理等を行っても良い。塗工方法とてしは、公知の縦型塗工機で所定の厚みに塗工する方法、公知のドクターブレード法によりクロス基材に塗工する方法等、公知のいずれの方法であってもよい。このような方法で塗工したものを、100〜140℃で、0.5〜5時間乾燥し、基材塗工物を得る。
【0036】
この基材塗工物を使用して、例えば銅貼り基板を作製する場合には、所定の厚みになるように、1枚の基材塗工物の両面又は片面に、又は複数枚の基材塗工物を重ね合わせその両面又は片面に、又は予め複数枚の基材塗工物が加熱加圧成形された積層体の両面又は片面に、銅箔等の金属箔を重ねて配置し加熱加圧成形し一体化する。成形方法は熱プレス等の公知の方法にて行えばよい。成形条件としては、温度150〜250℃、圧力9.8×10〜4.9×10Pa、プレス時間0.5〜5時間程度が好ましい。このとき金属箔としては一般的には銅箔が使用されるが、他に金箔、銀箔、アルミ箔等から選択することができる。また、ピール強度を充分に得たい場合は電解箔を使用し、高周波特性を重視したい場合は表面凹凸による表皮効果の少ない圧延箔を使用するとよい。金属箔厚みについては、基板の用途や要求特性などに応じて8〜80μmのものを使用する。
【0037】
また、上述のような銅箔等の金属箔上に前記の塗工用溶液をドクターブレード法等により塗工、乾燥することにより、金属箔塗工物が得られる。この金属箔塗工物から基板を作製することができる。
【0038】
さらに、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂材料を用いて、プレス成形樹脂基板を作製することができる。前記樹脂材料の固体粉末を金型にて温度150〜250℃、圧力9.8×10〜4.9×10Pa、プレス時間0.5〜5時間の成形条件でプレス成形し、基板を得る。基板厚みとしては、0.5〜5mmであることが好ましいが、所望の厚みに応じて適宜選択する。
【0039】
このようにして作製した、基材塗工物、金属箔塗工物、基板、金属箔などを適宜組み合わせて成形を行い、多層基板を作製することができる。成形条件としては、温度150〜250℃、圧力9.8×10〜4.9×10Pa、プレス時間0.5〜5時間が好ましい。
【0040】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1:ポリ(2−エチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)]
ポリ(2−エチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)次の化学反応式に示すルートで合成した。
【0042】
【化4】
Figure 2004231743
【0043】
(1)2−フェニルアニソール(2) の合成
炭酸カリウム(126g,912mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(100ml)懸濁液に、窒素雰囲気下、2−フェニルフェノール(1) (50.2g,295mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(50ml)溶液を加えて、60℃で1時間撹拌した後、室温まで放冷した。これにヨードメタン(34.5ml,554mmol)を滴下して室温で撹拌した。TLC分析(薄層クロマトグラフィー)により反応の完結を確認した後、セライトろ過により塩を取り除いた。ろ液にヘキサン(200ml)と水(200ml)を加えて分液操作を行い、有機層と水層とを得た。水層を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を先に得られた有機層とあわせて飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、2−フェニルアニソール(2) (48.5g,89%)を得た。
【0044】
(2)2−メトキシ−3− フェニルベンズアルデヒド(3) の合成
窒素雰囲気下、2−フェニルアニソール(2) (20.0g,109mmol)のN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(24.6ml,163mmol)溶液に1.59M n−ブチルリチウムヘキサン溶液(102ml,163mmol)を滴下して、50℃で4時間撹拌した。反応溶液をドライアイス−アセトン浴で−78℃に冷却して、N,N−ジメチルホルムアミド(12.6ml,163mmol)を滴下した後、ドライアイス−アセトン浴を外して室温まで徐々に昇温した。TLC分析により反応の完結を確認した後、0℃で3M塩酸を滴下し、反応を停止した(pH7)。酢酸エチルで抽出した有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。抽出液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、2−メトキシ−3− フェニルベンズアルデヒド(3) (16.9g,73%)を得た。
【0045】
(3)2−フェニル−6− ビニルアニソール(4) の合成
ヨードメタンとトリフェニルホスフィンから合成したホスホニウム塩(42.3g,105mmol)のテトラヒドロフランTHF(250ml)懸濁液にカリウム−t−ブトキシド(18.3g,163mmol)を加え、窒素雰囲気下、室温で30分間撹拌した後、2−メトキシ−3− フェニルベンズアルデヒド(3) (16.9g,79.7mmol)のTHF(10ml)溶液を滴下して、室温でさらに撹拌した。TLC分析により反応の完結を確認した後、ヘキサン(200ml)を加えて、生じた沈殿をセライトろ過で取り除いた。ろ液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=50/1)で精製し、2−フェニル−6− ビニルアニソール(4) (11.8g,70%)を得た。
【0046】
2−フェニル−6− ビニルアニソール(4) のNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=3.38(3H, s), 5.34(1H, d, J=11.1 Hz), 5.80(1H, d, J=17.8Hz), 7.01−7.62(9H, m)
【0047】
(4)2−エチル−6− フェニルアニソール(5) の合成
触媒として5%Pt/C(520mg,0.0573mmol)と2−フェニル−6− ビニルアニソール(4) (6.02g,28.6mmol)のエタノール(30ml)懸濁液を、1 atmの水素下、70℃で撹拌した。TLC分析により反応の完結を確認した後、窒素置換を行い、ろ過により触媒を取り除いた。ろ液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=100/1)で精製し、2−エチル−6− フェニルアニソール(5) (5.87g,97%)を得た。
【0048】
2−エチル−6− フェニルアニソール(5) のNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=1.28(3H, t, J=7.5 Hz), 2.74(2H, q, J=7.5 Hz), 3.35(3H, s), 7.06−7.23(2H, m), 7.29−7.47(3H, m), 7.53−7.63(2H, m)
【0049】
(5)2−エチル−6− フェニルフェノール(6) の合成
窒素雰囲気下、2−エチル−6− フェニルアニソール(5) (5.32g,25.1mmol)の塩化メチレン(15ml)溶液に、2M三臭化ホウ素の塩化メチレン溶液(10ml)を−78℃で滴下した。TLC分析により反応の完結を確認した後、反応溶液を0℃の水(100ml)に注いで反応を停止した。ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。抽出液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=30/1)で精製し、2−エチル− 6− フェニルフェノール(6) (4.38g,88%)を得た。
【0050】
2−エチル−6− フェニルフェノール(6) のH−NMRチャートを図1に示す。
H−NMR(CDCl) ;δ=1.27(3H, t, J=7.6 Hz), 2.71(2H, q, J=7.6 Hz), 5.25(1H, s), 6.93(1H, t, J=7.5 Hz), 7.03−7.21(2H, m), 7.33−7.56(5H, m)
【0051】
(6)2−エチル−6− フェニルフェノール(6) の重合
塩化銅(45.0mg,0.454mmol)のニトロベンゼン(6ml)とピリジン(1.90ml,45.4mmol)の混合溶液に酸素を通気した。5分後に、2−エチル−6− フェニルフェノール(6) (300mg,1.51mmol)のニトロベンゼン(4ml)溶液を5分間かけて滴下し、さらに通気を続けた。3時間後に酸素の通気を止め、メタノール(5ml)を注いで反応を停止した。反応溶液を1M塩酸−メタノール溶液(150ml)に注いで、30分間撹拌し、吸引ろ過により粗製物を得た。粗製物を真空ポンプで減圧乾燥後、クロロホルム(3ml)に溶解し、溶解液を1M塩酸−メタノール溶液(150ml)に滴下して再沈澱操作を行い、ポリ(2−エチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)(7) (103mg,35%)を得た。ポリ(2−エチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)(7) のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるMwは8.8×10、Mnは2.3×10であった。
【0052】
(7)基板の作製
得られたポリ(2−エチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)樹脂の所定量を40mm×25mmの金型に詰め、成形温度190℃、成形圧力2.9×10Pa、プレス時間1時間の成形条件で加熱加圧プレス成形を行い、厚み約1mmの基板を作製した。得られた基板から、40mm長、1mm幅、1mm厚のスティックを切り出し、空洞共振器摂動法にて5GHzにおける比誘電率ε、誘電正接tanδ、及びQ値(=1/tanδ)を求めた。
【0053】
[実施例2:ポリ(2−メチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)]
実施例1の(2)において、N,N−ジメチルホルムアミドの代わりにヨードメタンを作用させ、2−メチル−6− フェニルアニソールを得た。以後、実施例1の(5)、(6)のプロセスに従い、2−メチル−6− フェニルフェノールを得て、これを重合してポリ(2−メチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)を得た。このポリマーのGPCによるMwは5.1×10、Mnは1.8×10であった。
【0054】
得られたポリ(2−メチル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)樹脂の所定量を40mm×25mmの金型に詰め、成形温度250℃、成形圧力2.9×10Pa、プレス時間1.5時間の成形条件で加熱加圧プレス成形を行い、厚み約1mmの基板を作製した。得られた基板から、40mm長、1mm幅、1mm厚のスティックを切り出し、空洞共振器摂動法にて5GHzにおける比誘電率ε、誘電正接tanδ、及びQ値(=1/tanδ)を求めた。
【0055】
[実施例3〜8:ポリ(2−アルキル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)]
実施例1の(3)におけるホスホニウム塩の合成に使用したヨードメタンの代わりに、以下に示す炭素数の異なるモノハロゲン化アルキル;
実施例3において、臭化エチル、
実施例4において、臭化イソプロピル、
実施例5において、臭化n−ブチル、
実施例6において、臭化n−ヘキシル、
実施例7において、臭化n−オクチル、
実施例8において、臭化n−デシル
をそれぞれ使用して、続いて、実施例1の(4)、(5)のプロセスに従い、表1に示されるアルキル基Rが導入された2−アルキル−6− フェニルフェノールをそれぞれ得た。
【0056】
2−イソブチル−6− フェニルフェノールのNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=0.96(6H, d, J=6.3 Hz), 1.91−2.07(1H, m), 2.55(2H, d, J=7.3 Hz), 5.22(1H, s), 6.91(1H, t, J=7.6 Hz), 7.05−7.12(2H, m), 7.37−7.43(1H, m), 7.43−7.53(4H, m)
【0057】
2−ペンチル−6− フェニルフェノールのNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=0.91(3H, t, J=7.1 Hz) 1.28−1.46(4H, m), 1.58−1.73(2H,m), 2.67(2H, d, J=7.9 Hz), 5.24(1H, s), 6.91(1H, t, J=7.4 Hz), 7.04−7.17(2H, m), 7.35−7.54(5H, m)
【0058】
2−ヘプチル−6− フェニルフェノールのNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=0.88(3H, t, J=6.8 Hz), 1.23−1.46(8H, m), 1.65(2H, quint, J=7.6 Hz), 2.67(2H, t, J=7.8 Hz), 5.24(1H, s), 6.92(1H, t, J=7.3 Hz), 7.06−7.10(1H, m), 7.11−7.17(1H, m), 7.37−7.53(5H, m)
【0059】
2−ノニル−6− フェニルフェノールのNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=0.88(3H, t, J=6.2 Hz), 1.14−1.46(12H, m), 1.57−1.72(2H, m), 2.67(2H, t, J=7.8 Hz), 5.24(1H, s), 6.92(1H, t, J=7.5 Hz), 7.04−7.17(2H, m), 7.35−7.54(5H, m)
【0060】
2−ウンデシル−6− フェニルフェノールのNMRデータ:
H−NMR(CDCl) ;δ=0.88(3H, t, J=6.5 Hz), 1.16−1.46(16H, m), 1.58−1.71(2H, m), 2.67(2H, t, J=7.8 Hz), 5.24(1H, s), 6.92(1H, t, J=7.5 Hz), 7.03−7.17(2H, m), 7.36−7.54(5H, m)
【0061】
各2−アルキル−6− フェニルフェノールを重合して対応するポリ(2−アルキル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)を得た。各ポリマーのGPCによるMw、及びMnは表1に示すとおりであった。
【0062】
得られた各ポリ(2−アルキル−6− フェニル−1,4− フェニレンエーテル)樹脂の所定量を40mm×25mmの金型に詰め、成形温度150〜250℃、成形圧力9.8×10〜4.9×10Pa、プレス時間0.5〜5時間の成形条件で加熱加圧プレス成形を行い、厚み約1mmの基板を作製した。得られた基板から、40mm長、1mm幅、1mm厚のスティックを切り出し、空洞共振器摂動法にて5GHzにおける比誘電率ε、誘電正接tanδ、及びQ値(=1/tanδ)を求めた。
【0063】
[比較例1:ポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)]
実施例1の(6)と同様の方法で、市販の2,6−ジメチルフェノールを重合してポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)を得た。このポリマーのGPCによるMwは6.0×10、Mnは1.1×10であった。
【0064】
得られたポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)の所定量を40mm×25mmの金型に詰め、成形温度250℃、成形圧力2.9×10Pa、プレス時間2時間の成形条件で加熱加圧プレス成形を行い、厚み約1mmの基板を作製した。得られた基板から、40mm長、1mm幅、1mm厚のスティックを切り出し、空洞共振器摂動法にて5GHzにおける比誘電率ε、誘電正接tanδ、及びQ値(=1/tanδ)を求めた。
【0065】
実施例1〜8及び比較例1のポリフェニレンエーテル樹脂についての評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
Figure 2004231743
【0067】
表1より、実施例1〜7のポリフェニレンエーテル樹脂は、フェニレン環の2,6位の一方にフェニル基が導入され、他方がアルキル基とされたものであり、それらの誘電正接は、ポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)と比較して大幅に低下した。また、アルキル基の炭素数が多くなると、誘電正接は同程度のままで、比誘電率が小さくできることが明らかとなった。アルキル基の炭素数が4〜9のポリフェニレンエーテル樹脂(実施例4〜7)は、ポリ(2,6−ジメチル−1,4− フェニレンエーテル)と同等以下の小さい比誘電率を示した。アルキル基は、直鎖構造であっても枝分かれ構造であっても同様の効果が得られることが明らかとなった。
【0068】
実施例8のポリフェニレンエーテル樹脂は、新規なポリマーであるが、アルキル基の炭素数が11と大きく、この成形法では、基板を成形できなかったため、評価できなかった。
【0069】
【発明の効果】
本発明によれば、高周波帯域における低誘電正接及び低誘電率を有する新規ポリフェニレンエーテル系樹脂及びこれを含むポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が提供される。さらに、本発明によれば、前記低誘電正接及び低誘電率を有するポリフェニレンエーテル系樹脂材料を使用した電子回路用基板が提供される。この電子回路用基板は、電子機器、情報通信機器の高速通信化、小型軽量化、情報の大量高速処理等に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】2−エチル−6− フェニルフェノール(6) のH−NMRチャートである。

Claims (15)

  1. 下記式(I):
    Figure 2004231743
    (式(I)中、Rはアルキル基を表し、Rはアリール基を表す。)
    で示される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテル系樹脂。
  2. 前記式(I)において、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基を表す、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂。
  3. 前記式(I)において、Rは炭素原子数4〜10のアルキル基を表す、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂。
  4. 前記式(I)において、Rはフェニル基を表す、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂。
  5. 請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン系エラストマー及び難燃剤のうち少なくとも一方とを含む、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
  6. 請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂又は請求項5に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を主体として含む樹脂基板。
  7. 請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂又は請求項5に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物をクロス基材に塗工して得られる基材塗工物。
  8. クロス基材がガラスクロスである、請求項7に記載の基材塗工物。
  9. 請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂又は請求項5に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を金属箔上に塗工して得られる金属箔塗工物。
  10. 前記金属箔が銅箔である、請求項9に記載の金属箔塗工物。
  11. 請求項7又は8に記載の基材塗工物の2枚以上を重ねた状態で加熱加圧成形して得られる基板。
  12. 請求項7又は8に記載の基材塗工物の1枚を、あるいは前記基材塗工物の2枚以上を重ねた状態で、金属箔間に挟んで加熱加圧成形して得られる両面金属貼り基板。
  13. 前記金属箔が銅箔である、請求項12に記載の両面金属貼り基板。
  14. 請求項9又は10に記載の金属箔塗工物の2枚以上を両外側面が金属箔となるように重ねた状態で加熱加圧成形して得られる両面金属貼り基板。
  15. 請求項7又は8に記載の基材塗工物、請求項11に記載の基板、又は請求項12又は13に記載の両面金属貼り基板の片面又は両面に、請求項9又は10に記載の金属箔塗工物を金属箔が外側面となるように重ねた状態で加熱加圧成形して得られる多層基板。
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