JP2004226396A - ポリヌクレオチドの分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列の有無、標的塩基配列との違い等の判定を、簡便な操作により迅速かつ信頼性よく行う分析方法を提供すること。
【解決手段】被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、及びポリヌクレオチド(B)中の標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、被検ポリヌクレオチド、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において蛍光強度を測定する検出工程を有し、蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とするポリヌクレオチドの分析方法。
【選択図】 図1
【解決手段】被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、及びポリヌクレオチド(B)中の標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、被検ポリヌクレオチド、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において蛍光強度を測定する検出工程を有し、蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とするポリヌクレオチドの分析方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、検体溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドの、標的塩基配列を有するポリヌクレオチドの有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチドの有無、および該標的塩基配列を有さないポリヌクレオチドの前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリヌクレオチドの塩基配列が目的の配列であるか否か、基準とする配列と同一か若しくは異なるか、又は、基準とする配列とどの程度相補性が異なるか等といったポリヌクレオチドの分析方法としては、種々の方法が知られている。
しかし、塩基配列の違いやその長さの差が小さいポリヌクレオチド同士の違いを分析する場合、中でも、置換、挿入、欠失などにより一塩基のみが異なる塩基配列の違いを分析する場合には、既知の分析方法では種々の欠点があり満足できるものではなかった。
【0003】
例えば、DNAチップ(例えば、非特許文献1参照。)のように、固相に固定したプローブ化合物であるオリゴヌクレオチドに被検DNAを選択的にハイブリッド形成させる方法では、一塩基のみ異なるような僅かな塩基配列の違いを十分なコントラストで検出するには数時間以上のインキュベーションを要するといった問題があった。
【0004】
アフィニティークロマトグラフィー(例えば、非特許文献2参照。)は、標的塩基配列の判定にそれ専用の一本のカラムが必要であり、汎用機とすることができなかった。
【0005】
また、電気泳動法の一つに、検体溶液にプローブ化合物を添加して電気泳動を行う方法が知られている(例えば、非特許文献3、4参照。)。これによると、プローブ化合物とミスマッチの塩基配列を有するDNAは、特定の条件では立体構造が変化して泳動時間が大きく変化するため、分離、判定できる。これはアフィニティークロマトグラフと異なり、汎用の装置が使用できるが、測定条件が微妙なため条件設定に多数回の測定を要する上、数十分以上の時間を要するといった問題があった。
【0006】
一方、二本鎖DNAは、該二本鎖(ハイブリッド)の塩基配列が相補的である場合に比べて、ミスマッチ(非相補的な部位)が有れば解離し易くなることが知られている(例えば、非特許文献5参照。)。従って、二本鎖DNAの融解温度を調べれば、該DNAが相補的であるか、塩基配列にミスマッチを有するかが判定できることになる。
しかしながら、例えば分析対象のDNAが変異型であるか野生型であるかという一塩基多型の分析において、試料のDNAが変異型である場合でも、野生型とは塩基配列が異なるものの、それ自身は変異型センス鎖と変異型アンチセンス鎖の相補的な二本鎖であるため、この方法によっては、変異型と野生型を見分けることはできなかった。
【0007】
【非特許文献1】
大野典也,「ニュートン」,1999年,7月号,p.60−61
【非特許文献2】
近藤壽彦,阿部修三,「クロマトグラフィー」,1997年,第18巻,第2号,p.122−125
【非特許文献3】
穴田貴久,前田瑞夫,「バイオサイエンスとインダストリー」,2001年,第59巻,第11号,p.751−754
【非特許文献4】
緒方宣邦,野島博,「遺伝子工学キーワードブック」,1996年,羊土社,110頁「温度勾配ゲル電気泳動法」,356頁「変成ゲル電気泳動法」
【非特許文献5】
緒方宣邦,野島博,「遺伝子工学キーワードブック」,1996年,羊土社,355頁「変成」,356頁「変成ゲル電気泳動法」
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドが、分析の標的とする塩基配列を有するか否か、および/または、標的塩基配列との違い等の判定を行うためのポリヌクレオチドの分析方法、特に、一塩基のみが異なる塩基配列を判別可能な分析方法であって、汎用の装置を用いて、試薬の選定だけで種々の分析が可能なポリヌクレオチドの分析方法を提供することである。さらに、単純な操作で迅速に、しかも高い信頼性で測定が可能な測定方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有するプローブ化合物、および蛍光性インターカレーターを用い、温度調節された検出用流路において蛍光強度を測定することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、および前記ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、前記被検ポリヌクレオチド、前記標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において前記蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程を有し、前記蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とするポリヌクレオチドの分析方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
[検体溶液]
本発明にかかるポリヌクレオチドの分析方法において、測定対象である検体溶液は、被検ポリヌクレオチド、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、および被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドにインターカレートして蛍光性となる蛍光性インターカレーターを含有する。
【0011】
なお、検体溶液は、上記の被検ポリヌクレオチド、プローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターの他に、本発明の方法を妨害しない他の成分、例えば、酵素などの蛋白やヌクレオチドモノマー、PCR用のプライマーなどを含有していもよい。但し、該プライマーは、プローブ化合物と、本分析を妨害するようなハイブリッド形成をしない塩基配列に設計される必要がある。
ここで言う「本分析を妨害するようなハイブリッド形成をしない塩基配列」とは、例えば、分析目的がSNPの判定である場合には、標的塩基配列に2以上のミスマッチを有する塩基配列であるか2以上少ない数の相補的な塩基数の塩基配列であり、分析目的が標準塩基配列とn個異なる塩基配列の検出である場合には、標的塩基配列にn+1以上ミスマッチを有する塩基配列であるかn+1以上少ない数の塩基数の相補的な塩基配列をいう。このような塩基配列であれば、ハイブリッド形成しても、融解温度が充分低くなり、本分析を妨害しない。
【0012】
[被検ポリヌクレオチド]
被検ポリヌクレオチドは、本発明に於ける分析対象のポリヌクレオチドであり、分析目的によって種々の場合があり得る。例えば、全DNA、cDNA、制限酵素により切断されたDNA断片、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などにより増幅された2本鎖又は1本鎖DNA断片、RNA、これらの置換体や化学修飾体などであり得る。
【0013】
被検ポリヌクレオチドが対立ポリヌクレオチド(以下、「対立鎖」と称する場合がある。)の双方を含有する場合には、被検ポリヌクレオチドの長さ(塩基数)は、後述のように、プローブ化合物より1塩基以上長いことが必要であり、プローブ化合物より2塩基以上長いことが好ましく、3塩基以上長いことさらに好ましく、4塩基以上長いことが最も好ましい。被検ポリヌクレオチドが対立鎖の一方のみである場合には、上記の限定は不要である。
【0014】
被検ポリヌクレオチドの長さは、例えば塩基数が数千万であり得るが、分析精度と分析速度を共に高くするために、塩基数20〜100000が好ましく、塩基数30〜10000がさらに好ましく、35〜3000が最も好ましい。この範囲の下限以上とすることにより、検体溶液を調製する際に、PCRなどによる増幅の精度が向上するため、本分析方法の精度が向上する。又上記の上限以下とすることによって、PCRなどによる増幅の速度が向上し、また、ハイブリッド形成や解離の速度が向上するため、本分析方法の速度が向上する。前記検体溶液中に含有される被検ポリヌクレオチドの長さは、制限酵素の選択よって調節でき、また、PCRなどによってポリヌクレオチドを増幅する場合には、プライマーの設計によって調節できる。
【0015】
被検ポリヌクレオチドは、対立鎖の一方又は両方であり得る。対立ポリヌクレオチドの両方である場合には、ホモ接合鎖であり得るし、ヘテロ接合鎖であり得る。また、単独の塩基配列のポリヌクレオチド、互いに異なる塩基配列を有するポリヌクレオチドの混合物、例えば野生型と変異型のポリヌクレオチドの混合物であり得るし、互いに異なる種類のポリヌクレオチドの混合物であり得る。また、異なる長さのポリヌクレオチドの混合物であり得る。勿論、分析結果として検体溶液中に分析目的の塩基配列を有するポリヌクレオチドが含有されないことが判明する場合もあり得る。
【0016】
被検ポリヌクレオチドの検体溶液中の濃度は任意である。蛍光測定機構の感度に応じて設定できる。蛍光測定機構の感度が高ければ1分子であり得る。PCRやLAMP法などのポリヌクレオチド増幅反応の反応生成溶液をそのまま、或いは2〜1000倍に希釈して使用することも好ましい。
【0017】
[標的塩基配列]
標的塩基配列は、分析の基準となる特定の塩基配列である。例えば、一塩基多型の検出を目的とする場合には、変異の生じる部分(ホットスポット)を含む塩基配列部分である。標的塩基配列は、ポリヌクレオチド(A)やポリヌクレオチド(B)が二本鎖である場合には、対立鎖の一方の配列とするか他方の配列とするか、例えば、センス鎖とするかアンチセンス鎖とするかは任意である。
【0018】
標的塩基配列の長さは、例えば標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)(以下、単に「ポリヌクレオチド(A)」という。)が10〜100塩基(対)である場合には、塩基数6以上であればよい。この長さであれば、ポリヌクレオチド(A)が偶然プローブ化合物に相補的な塩基配列を持つ確率は無視できるほど小さいため、充分な精度と信頼性が得られる。
【0019】
ポリヌクレオチド(A)の塩基(対)数がそれ以上である場合には、該塩基数に応じて、プローブ化合物の塩基数も増やすことが、選択エラーを防ぐために好ましい。例えば、ポリヌクレオチド(A)の塩基(対)数が100〜1000である場合には、10以上であることが好ましく、ポリヌクレオチド(A)の塩基(対)数が数千以上である場合には、15以上であることが好ましい。
【0020】
後述のように、プローブ化合物が標的塩基配列に対して1又は2塩基のミスマッチを有するものである場合には、15以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましく、23以上であることが最も好ましい。プローブ化合物が標的塩基配列に対して3又は4塩基のミスマッチを有するものである場合には、25以上であることが好ましく、30以上であることがさらに好ましく、33以上であることが最も好ましい。
【0021】
標的塩基配列の塩基数の上限は任意であり、好ましい上限は標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)(以下、単に「ポリヌクレオチド(B)」という。)の塩基配列と標的塩基配列との違いの程度により異なる。上記配列の違いが大きいほど、それに応じて標的塩基配列の塩基数の上限も大きくてよく、例えば上記上限は1000であってもよいが、50以下であることが好ましく、30以下であることが最も好ましい。
上記配列の違いが1塩基である場合には、30以下が好ましく、25以下がさらに好ましい。この好ましい上限以下とすることで、充分な選択性を維持しつつ分析の迅速化が図れる。
【0022】
[プローブ化合物]
プローブ化合物は、標的塩基配列に実質的に相補的な塩基配列を有し、ポリヌクレオチド(A)とハイブリダイゼーションする化合物であれば任意であり、例えば、オリゴDNA、オリゴRNA、糖部分や燐酸基部分が修飾或いは置換されたオリゴDNAやオリゴRNA、その他の任意の化合物であり得る。このようなプローブ化合物は、合成可能であるし、また、マイクロアレイ用などとして市販されているものが使用できる。
【0023】
「実質的に相補的」とは、標的塩基配列の全体に対して少数の非相補的な部分を有してもよいことを意味し、好ましくは、相補的であるか1〜4塩基の非相補的な塩基を有するものである。[[以下、「(標的塩基配列に)相補的」なことを「(標的塩基配列と)完全マッチ」であると表現する場合がある、また、「(標的塩基配列に相補的な塩基配列に対してN個の)塩基の配列が異なる」ことを「(標的塩基配列とN個の塩基の)ミスマッチを生じる」と表現する場合がある]
【0024】
但し、プローブ化合物は、標的塩基配列に対して少数の、例えば1〜4塩基のミスマッチを生じる場合には、該ミスマッチを生じる塩基は、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる部分において、ポリヌクレオチド(B)と相補的でない塩基とする。その理由は、プローブ化合物が標的塩基配列に相補手金塩基配列を有する場合のポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)が逆転した場合に相当し、本発明のポリヌクレオチド(A)、ポリヌクレオチド(B)の定義に反するからである。
【0025】
例えば、ポリヌクレオチド(B)が、標的塩基配列中の或るグアニンがチミンに変異した塩基配列を有するとき、標的塩基配列に対してミスマッチとなる塩基が、前記チミンに相補的なアデニンであると、プローブ化合物は該部分でポリヌクレオチド(B)と相補的ポリヌクレオチド(A)とミスマッチになってしまう。ミスマッチが挿入や欠失による場合も話は同様である。このような、標的塩基配列に対して、実質的に相補的な塩基配列を有するプローブ化合物は、上記ミスマッチの数がいくつであっても、ポリヌクレオチド(A)に対して、ポリヌクレオチド(B)より強くハイブリダイゼーションする。
【0026】
プローブ化合物が、標的塩基配列に対して1又は2のミスマッチを生じる場合には、該ミスマッチを生じる塩基は、置換、挿入、欠失のいずれであってもよいが、置換であることが、該ミスマッチを導入する効果が発揮されるため好ましい。また、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる塩基の位置と種類が既知の場合、例えば一塩基多型における野生型と変異型の場合には、プローブ化合物は、前記標的塩基配列内でミスマッチを生じる塩基配列部分を、標的塩基配列の端以外の部分とする。端であってもよいが、本発明においては、説明の煩雑さを避けるため、塩基配列の端にある該1〜4塩基異なる部位を除いた部分を標的塩基配列とする。上記以外であれば、該1〜4塩基異なる部位は任意であり、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる部位に隣接した塩基(1つ離れた塩基)であってもよいし、2つ離れた塩基(2個目の塩基)、3つ張られた塩基(3個目の塩基)、或いはさらに離れた位置の塩基であってもよい。これらの中で、1〜4つ離れた塩基であることが好ましく、1又は2つ離れた塩基であることがさらに好ましい。この位置にすることによって、本発明の効果をより発揮できる。
【0027】
プローブ化合物が、前記標的塩基配列に対して2塩基異なる塩基配列を有する場合にも、該部分の位置は任意であり、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる部位から、若しくは、前記異なる第1の塩基から、1〜4つ離れた塩基であることが好ましく、1又は2つ離れた塩基であることがさらに好ましい。この位置にすることによって、本発明の効果をより発揮できる。プローブ化合物が、前記標的塩基配列に対して3又は4塩基異なる塩基配列を有する場合も上記と同様である。
【0028】
プローブ化合物が、標的塩基配列に相補的な塩基配列に対して5個以上の塩基の配列が異なる塩基配列を有していてもよいが、標的塩基配列の全長が同じである場合には、解離温度が常温付近以下となりがちであり、室温以下の温度調節が必要となりがちであり、これらの不都合を避けるためには、標的塩基配列の長さやミスマッチの導入位置が限定されたものとなる。
【0029】
プローブ化合物は、一分子内に標的塩基配列部分を複数有していてもよく、該複数の標的塩基配列部分は同じ標的塩基配列であっても、異なる塩基配列であってもよい。同じである場合は、検出感度を向上させることができるし、異なる場合には、複数の標的塩基配列を同時に測定することができる。
【0030】
プローブ化合物は上記標的塩基配列以外の部分を有していてよい。この場合には、標的塩基配列と実質的に相補的である塩基配列部分がハイブリダイゼーションに寄与する。但しこの場合、標的塩基配列以外の塩基配列部分は、ポリヌクレオチド(B)とハイブリッド形成しない必要がある。
プローブ化合物の塩基数の上限は、特に限定する必要はないが、ポリヌクレオチド(A)の塩基数以下であることが好ましく、50以下であることが好ましく、30以下であることが最も好ましい。この好ましい上限以下とすることによって、ハイブリッド形成に要する時間が短縮され、分析時間を短縮できる。ポリヌクレオチド(B)が、標的塩基配列と一塩基のみ異なる塩基配列を有する場合には、プローブ化合物の塩基数は30以下が好ましく、25以下がさらに好ましく、22以下がさらに好ましい。この上限以下とすることによって、標的塩基配列と一塩基のみ異なる塩基配列を有する場合に、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の分離能が向上する。
【0031】
ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物と相補的な塩基数はポリヌクレオチド(A)の場合より少ないため、ハイブリッド形成の結合能力は低いが、低温あるいは十分にインキュベートしない短時間条件ではプローブ化合物とハイブリッドを形成する。
【0032】
プローブ化合物が標的塩基配列と相補的な塩基配列である場合、標的塩基配列を20〜30塩基程度にすると温度対解離量の曲線(後述の解離曲線)は急峻となり、分析の精度と信頼性が向上する。しかしこの時、解離温度が高くなるため、溶液中での気泡の発生による検出ノイズが増加しがちとなり、また、使い捨て可能なプラスチック製のデバイスを使用すると、耐熱性不足のため測定中に変形し、検出精度が低下しがちである。一方、標的塩基配列の長さを例えば15塩基以下に短くすると、解離温度は低くなり、上述の不都合は回避されるが、解離曲線の傾きが緩慢になり、分析の精度と信頼性が低下しがちとなる。そこで、有効なプローブ化合物の長さ、すなわち、標的塩基配列を20〜30に保ち、1〜4のミスマッチを生じうる塩基配列を採用すると、解離温度が低下するにもかかわらず、解離曲線は、標的塩基配列の長さを短くする場合より急峻となるため、1〜4のミスマッチを生じうる塩基配列とすることが好ましい。1箇所のミスマッチの導入による融解温度の低下量は、標的塩基配列の長さ、ミスマッチの位置や塩基の種類、溶出液の塩濃度などにもよるが、通常3〜10℃である。。
プローブ化合物は、さらに、塩基配列とは無関係な部分を有していてもよい。例えば、該プローブ化合物を固相合成する際に固相に固定するためのアミノ基などの官能基、塩基配列部分と前記固定用官能基の間のスペーサーとなるアルキレン基やポリエチレングリコール基、等を有していてもよい。
【0033】
プローブ化合物の検体溶液中の濃度は任意であるが、下限は、被検ポリヌクレオチドが対立鎖の双方を含有する場合には、被検ポリヌクレオチド濃度以上とすることが好ましく、3倍以上がさらに好ましく、5倍以上が最も好ましい。前記倍率の上限は、高いことそれ自体による不都合はなく、例えば、被検ポリヌクレオチドが1分子であるような場合には、1021倍であってよいが、効果対費用の面から1000倍以下が好ましく、100倍以下がさらに好ましい。前記プローブ化合物の濃度の上限は、分析コスト面から1mM以下が好ましく、0.1mM以下がさらに好ましい。上記のように検体溶液中のプローブ化合物の濃度をポリヌクレオチドに対して過剰量とすることによって、検出用流路に導入される検体溶液中において、被検ポリヌクレオチド同士がハイブリッド結合した二本鎖ポリヌクレオチド濃度より、プローブ化合物とのハイブリッドの濃度が高くなり、検出感度が高くなると同時に二本鎖ポリヌクレオチドからの蛍光発光が相対的に少なくなり、分析精度が向上する。
【0034】
本発明に用いるプローブ化合物は互いに相補的な塩基配列を有する対(ポリヌクレオチドで言う対立鎖)の内の一方である。互いに相補的な対の両者を使用すると、それを一本鎖状態と成した混合物として使用しても、後述のハイブリッド形成工程において、プローブ化合物同士がハイブリッド形成してしまい、該ハイブリッドと、プローブ化合物と相補的な塩基配列を持つ被検ポリヌクレオチドとのハイブリッドの区別が付かなくなる。このような対の一方のみのプローブ化合物、例えば一本鎖オリゴDNAは、周知の固相合成法によって合成可能である。
【0035】
[蛍光性インターカレーター]
前記蛍光性のインターカレーターとは、プローブ化合物とポリヌクレオチドとのハイブリッドや二本鎖ポリヌクレオチドが存在しないときには無蛍光性であるが、これらの共存下では、該ハイブリッドまたは二本鎖の間に入り込み(インターカレーション)蛍光性となる化合物である。このような化合物としては公知慣用のものが使用でき、例えば、エチジウムブロマイドが挙げられる。すなわち、蛍光性インターカレーターを検体溶液に添加することによって、蛍光発光の有無から検体溶液中にプローブ化合物とポリヌクレオチドとの、或いはポリヌクレオチド同士のハイブリッドが存在するかどうかを知ることができ、また蛍光強度からその存在量を知ることができる。
【0036】
蛍光性インターカレーターの検体溶液中の濃度は任意であり、二本鎖ポリヌクレオチドの検出に通常用いられる濃度であればよく、例えばエチジウムブロマイドの場合、0.1〜5μg/cm3の範囲が好ましく使用できる。
【0037】
[検出用流路]
本発明で用いる毛細管状の検出用流路は、該検出用流路外から蛍光を観察できれば、それが形成された部材の形状は任意であり、チューブ状でもよいし、板状や塊状の部材内部に形成された物でもよいが、板状の部材中に形成されたものであることが好ましい。また、検出用流路は、一つの部材中に後述の予備解離用流路やハイブリッド形成用流路と共に形成されることも好ましく、さらに、ポリヌクレオチドの抽出、濃縮、精製などの前処理を行う機構や、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などのポリヌクレオチドを増幅する機構と共に同じ部材中に形成されることも好ましい。また、多検体同時測定を行うために、一つの部材中に複数の検出用流路を有することも好ましい。
【0038】
検出用流路を構成する部材は、蛍光性インターカレーターの励起と蛍光の観察が可能であれば任意である。好ましく使用できる素材として、ガラス、石英などの結晶、有機重合体(ポリジメチルシロキサンなどの有機含有無機重合体も含む)を例示できる。
【0039】
検出用流路の断面形状は任意であり、例えば矩形、スリット状、三角形、台形、円、楕円などであり得るが、矩形、台形、またはスリット状であることが、製造、測定が共に容易であり好ましい。本発明に使用する検出用流路は、板状の部材中に形成されており、断面形状が、該部材の幅方向の流路寸法が深さ方向の流路寸法以上であることが、温調精度が向上するため好ましい。
【0040】
検出用流路の直径は3μm〜500μmが好ましく、さらに5〜200μmであることがより好ましい。流路径を3μmより大きくすることによって、圧力損失の増加を防ぎ、検出用流路に検体溶液を流すことが容易となる上、蛍光の検出感度も向上する。一方、流路径を500μm以下とすることによって、前記検体溶液の昇温或いは降温の時間が短縮でき、分析時間の短縮が図れる上、該流路断面積内での温度分布が小さくなり、測定精度が向上する。ただし、検出用流路の断面形状に異方性がある場合、例えば長方形やスリット状の場合には、上記の流路径は短径を言うものとする。
【0041】
検出用流路を微細な毛細管状の空洞とすることによって、検体溶液を検出用流路に導入した時の温度追従性を非常に高くすることができる。よって、例えばマイクロウェルなどの貯液槽中で経時的に蛍光を観察する方法に比べて、検出工程の後述の第一温度への急速な昇温が可能で、その後も時間遅れのほとんど無い昇温が可能であるため、測定の迅速化が図れる。また、検体溶液の流路断面内での温度分布を小さくすることが可能なため測定精度が向上する。
【0042】
[蛍光測定]
蛍光測定のための励起方法は任意であり、紫外線や可視光などの光線、エックス線などのエネルギー線などであってもよいが、紫外線や可視光等の光線が簡便であり好ましい。光線の波長は、用いる蛍光性インターカレーターにより選定できる。光源は任意であり、例えばレーザー、発光ダイオード、クセノンランプや水銀灯などの放電管、白熱灯などが使用できる。
蛍光の検出方法も任意であり、例えば、CCD、光電増倍管、フォトダイオードなどが例示できる。
【0043】
[融解温度、解離温度]
本明細書中において、「解離温度」とは、ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成するハイブリッドを含有する溶液を昇温していったときに、ポリヌクレオチドとプローブ化合物の解離が始まる最低温度をいう。また、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが一本鎖に解離する場合も同様に、解離が始まる最低温度を解離温度という。
「融解温度」とは、ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成するハイブリッドを含有する溶液を昇温していったときに、ハイブリッドの半量が解離する温度をいう。また、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが一本鎖に解離する場合も同様に、半量が解離する温度を融解温度という。
「ハイブリッドの全量が解離する温度」とは、ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成するハイブリッドを含有する溶液を昇温していったときに、ハイブリッドの全量が解離する最低温度をいう。
【0044】
以下、本明細書中では、上述の温度について説明するために、以下のように温度や温度範囲に符号をつけて説明する。
TLB:ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドの解離温度
TMB:ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドの融解温度
THB:ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドの全量が解離する温度
TLA:ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドの解離温度TMA:ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドの融解温度
THA:ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドの全量が解離する温度
このとき(TLB<TMB<THB)、(TLA<TMA<THA)、(TMB<TMA)という関係にある。また、TLB、TMB、THBはそれぞれ、ポリヌクレオチド(B)の標的塩基配列に対する非相補性が大きいほど低い温度になる関係にある。
【0045】
準静的な条件、すなわち検体溶液を充分に遅い昇温速度(例えば、毎分1℃)で昇温した時のポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッド(以下、「プローブ化合物/(A)ハイブリッド」ということがある。)、および、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッド(以下、「プローブ化合物/(B)ハイブリッド」ということがある。)の解離曲線を模式図として図1及び図2に示した。図1および図2において、横軸は被検ポリヌクレオチドを含有する溶液の温度を示し、縦軸はポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッド化率を示す。各図中、破線は、プローブ化合物/(A)ハイブリッドの解離曲線であり、実線は、プローブ化合物/(B)ハイブリッドの解離曲線である。
【0046】
図1は、THB≦TLA なる関係(以下、「解離曲線が非重畳的」と称する場合がある。)にある場合の解離曲線である。この場合には、次のように温度範囲を命名する。
温度範囲α:溶液の氷結温度〜TLB
温度範囲β:TLB〜THB
温度範囲δ:TLA〜THA
温度範囲ε:THB〜溶液の沸騰温度
【0047】
また、図2は、TLA≦THB なる関係(以下、「解離曲線が重畳的」と称する場合がある。)にある場合である。この場合には、次のように温度範囲を命名する。
温度範囲β’:TLB〜TLA
温度範囲γ’:TLA〜THB
温度範囲δ’:THB〜THA
ただし、図2の重畳的な温度関係の場合において、温度範囲αとεは図1の場合と共通である。
【0048】
融解温度および解離温度は、プローブ化合物の塩基数、塩基配列のミスマッチの数、プローブ化合物の構成塩基の種類、検体溶液の塩濃度、検体溶液中のEDTAや有機溶剤などの添加物の濃度などにより変わる。例えば、融解温度は、一般的には50〜95℃である。
上記の解離温度、融解温度等は、例えば、いわゆるDNAマイクロアレイを用いて、温度を変化させて洗浄する実験を行い、洗浄温度対ハイブリッド残留量の曲線から求めることができる。
【0049】
[分析方法]
本発明の分析方法は、被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、および前記ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、前記被検ポリヌクレオチド、前記標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において前記蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程を有し、前記蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とする。
【0050】
ここで、ポリヌクレオチド(B)は、標的塩基配列を有さないポリヌクレオチドであれば特に限定されず、標的塩基配列と1塩基または2塩基以上異なる塩基配列を含むポリヌクレオチドの単独であっても混合物であってもよい。
また、「ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いを判定する」とは、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)が含まれる場合、そのポリヌクレオチド(B)中の標的塩基配列に対する種々の非相補性、例えば非相補的である塩基の個数はいくつであるか、何種類の非相補鎖を有するポリヌクレオチドの混合物であるか、さらに、非相補的である塩基の種類はG又はCであるかそれともA又はTであるか、標的塩基配列の範囲に複数の既知のホットポイントが有る場合に、変異部分はそのどちらであるか、標的塩基配列の範囲に未知の変異が有るか無いが、標的塩基配列の範囲に未知の変異が有る場合は、標的塩基配列内の大凡の位置等を判定することをいう。但し、これらは判定可能である場合があるのであって、常に判定可能であるとは限らない。
【0051】
本発明の分析方法によると、上記検体溶液を、後述するように適切に温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定することにより、上記判定を行うことができる。
【0052】
例えば、ポリヌクレオチド(A)の有無は次のようにして分析できる。典型的には、検出用流路の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッド[プローブ化合物/(B)ハイブリッド]が解離し、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッド[プローブ化合物/(A)ハイブリッド]が解離しない温度(例えば領域δ)に調節することによって、蛍光強度から判定できる。さらに詳細には、検出用流路の温度を、プローブ化合物/(B)ハイブリッドが、少なくとも一部が解離する温度、好ましくは1/2以上が解離する温度、最も好ましくはほぼ全量が解離する温度であって、かつ、プローブ化合物/(A)ハイブリッドが、前記プローブ化合物/(B)ハイブリッドの解離量より少ない解離量である温度、好ましくは解離量がその1/2未満の温度、最も好ましくは解離温度未満の温度、に調節することによって判定できる。該温度においては、検体溶液中にポリヌクレオチド(B)が存在していても蛍光強度に寄与する程度が小さいため、蛍光強度測定値はポリヌクレオチド(A)の存在量を反映する。すなわち、該温度条件において蛍光強度が高ければ、検体溶液がポリヌクレオチド(A)を含有していること、低ければまたはゼロであれば含有していないことがわかる。上記の測定は、検量線を作成すること、検出用流路に入る前の蛍光強度と比較すること、あるいは、検出用流路と異なる温度に調節された比較用流路における蛍光強度と比較することによって、さらに正確に判定できる。
【0053】
ポリヌクレオチド(B)の有無は次のようにして判定できる。例えば、(i)検出用流路の温度を、ポリヌクレオチド(A)、ポリヌクレオチド(B)の両者の大部分、好ましくは全量がプローブ化合物とハイブリッド形成する条件(α、β、またはβ’)に調節し、蛍光強度測定から、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の合計濃度がわかる(これを「測定2」と称する)。従って、該測定2の結果を前記のポリヌクレオチド(A)の有無の判定(「測定1」と称する)と併用し、これら2つの測定結果を比較することによって、検体溶液に含有されるポリヌクレオチドの種類が判定できる。すなわち、測定2で得られるポリヌクレオチドの合計濃度と測定1で得られたポリヌクレオチド(A)の濃度の差がポリヌクレオチド(B)の濃度を示すことになる。
【0054】
また、ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いを判定するには、ポリヌクレオチド(B)はプローブ化合物とのミスマッチ数が増えるほど融解温度(TmB)などが低下することを利用し、上記ポリヌクレオチド(B)の判定方法と同様の方法を用いて、例えば、以下のように行う。
【0055】
ポリヌクレオチド(A)及び1塩基ミスマッチのポリヌクレオチド(B)はハイブリッド形成している状態で変化せず、かつ、標的塩基配列と2塩基ミスマッチのポリヌクレオチド(B)のみが解離状態からハイブリッド形成する条件および/またはハイブリダイズ状態から解離する温度条件を利用し、該温度条件において蛍光強度に変化があれば被検ポリヌクレオチドが、2塩基ミスマッチのポリヌクレオチド(B)を含有していることがわかる。
3〜5個の塩基のミスマッチを有するポリヌクレオチド(B)の判定に関しても同様である。本発明の分析方法においては、5塩基ミスマッチ程度まで判定可能である。
【0056】
本発明の分析方法では、検出工程において、検出用流路を一定温度に調節し、該一定温度で所定時間経過後の検体溶液の蛍光強度を測定することが好ましい。試料液の検出用流路への導入後の時間を好適に選定することにより、一定温度における被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッド形成またはハイブリッド解離の状態を、正確にかつ再現性よく分析することができる。
前記所定時間は、蛍光強度が略一定値に収束する時間以上とすることが、正確かつ再現性のよい分析を行うために好ましいが、迅速な測定を行うためには、蛍光強度が略一定値に収束する時間以下とすることもできる。蛍光強度が略一定値に収束する時間とすることが、正確かつ再現性のよい分析を迅速に行うために最も好ましい。
【0057】
本発明の分析方法は、以下のような2種の分析方法とすることができる。
(1)前記被検ポリヌクレオチドと前記プローブ化合物とがハイブリッドを形成しうる状態とする工程(以下、「ハイブリッド形成工程」という。)と、次いで、前記ハイブリッドが解離しうる状態として、検体溶液中の蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程(以下、「検出工程(I)」という。)とを設ける方法(以下、この方法を「分析方法(I)」という。)
(2)前記ハイブリッド形成工程を設け、該ハイブリッド形成工程が、検体溶液中の蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程(以下、この工程を「検出工程(II)」という。)である方法(以下、この方法を「分析方法(II)」という。)
【0058】
なお、「ハイブリッドを形成しうる状態とする」とは、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)が存在している場合に、ポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)がハイブリッドを形成することができる温度に検体溶液を温度調整することをいう。
「ハイブリッドが解離しうる状態とする」とは、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)が存在している場合に、ポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)がプローブ化合物と形成するハイブリッドが解離することができる温度に検体溶液を温度調整することをいう。
【0059】
すなわち、分析方法(I)は、ハイブリッドの解離に基づく蛍光性インターカレーターの蛍光強度低下の有無または低下の程度を測定する方法であり、分析方法(II)は、ハイブリッド形成に基づく蛍光性インターカレーターの蛍光強度上昇の有無または上昇の程度を測定する方法である。
これら分析方法(I)及び(II)は、いずれを採用しても構わない。しかしながら、ポリヌクレオチドとプローブ化合物を選択的にハイブリッド形成させるより、非選択的にハイブリッド形成させる方が速く、又、ポリヌクレオチドとプローブ化合物を選択的にハイブリッド形成させるより、選択的に解離させる方が速い。
従って、分析方法(I)は、ハイブリッド形成工程と検出工程を必要とするが、全体の所要分析時間は、分析方法(II)より短くすることが可能である。また、分析方法(I)の方が、分析方法(II)よりも再現性が良好である。従って、分析方法(I)を採用することが好ましい。
【0060】
[分析方法(I):ハイブリッドの解離に基づく分析]
分析方法(I)は、ハイブリッド形成工程と、次いで、検出工程(I)とを有するものである。
[ハイブリッド形成工程]
ハイブリッド形成工程は、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドを形成させ、該ハイブリッドに前記蛍光性インターカレーターをインターカレートさせて、検出工程(I)にかける検体溶液をあらかじめ蛍光性とする処理を行う工程である。測定の再現性と信頼性を増すために、本工程は温度及び時間を制御された条件で行うことが好ましい。
【0061】
本ハイブリッド形成工程は、温度の上限が、少なくともポリヌクレオチド(A)がプローブ化合物とハイブリッド形成する条件(THA以下)で行われるが、分析目的や判定論理によっては、ポリヌクレオチド(B)もプローブ化合物とハイブリッド形成する条件(THB以下)で行われることが好ましい。
【0062】
例えば、分析目的が、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)の有無や存在量のみを検出するものである場合には、THA以下であれば任意であり、TMA以下が好ましく、TLA以下がさらに好ましい。分析目的が一塩基多型(SNPs)の分析のように、塩基配列の僅かな違いを分析するものであって、被検ポリヌクレオチドの塩基配列がプローブ化合物と相補的であるか、ミスマッチを有するか、ミスマッチを有する場合にはその数は幾つであるか、等を同時に分析するものである場合には、これらの分離判定すべき対象となるポリヌクレオチドの全部をプローブ化合物と非選択的にハイブリッド形成させる条件で処理することが好ましい。
【0063】
ハイブリッド形成の選択性の程度は、後述のように、本工程の温度、時間、溶液組成などで調節できる。すなわち、塩基配列のわずかな違いを分析する場合であって、検体溶液がポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の双方を含有しているには、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)をなるべく非選択的に、すなわちなるべく等しい量だけプローブ化合物とハイブリッド形成させる。そして、後述の検出工程(I)において、ポリヌクレオチド(B)を選択的に解離させ、それを測定する。ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の選択性を小さくすることは、例えば、ハイブリッド形成工程の温度をTLB未満(領域α)とすることや、短時間でハイブリッド形成させる方法で実施できる。
【0064】
ハイブリッド形成工程の温度の下限は、検体溶液の氷結温度以上であれば任意であるが、[検出を目的とするポリヌクレオチドの解離温度マイナス20℃]以上が好ましく、[検出を目的とするポリヌクレオチドの解離温度マイナス10℃]以上がさらに好ましく、[検出を目的とするポリヌクレオチドの解離温度マイナス5℃]以上が最も好ましい。この温度以上とすることによって、標的塩基配列の一部のみ(例えば半分)でのハイブリッド形成や、標的塩基配列部分とは無関係な部分において標的塩基配列の塩基数より短い塩基数でのハイブリッド形成が生じることを防止でき、従って、引き続く検出工程(I)においてこれらの解離がノイズとなって、測定の精度と信頼性が低下することを防止できる。さらに、検体溶液中に、検出目的以外のポリヌクレオチドが存在してもその影響を受けにくくすることができる。
以上の観点から、ハイブリッド形成工程の温度は、一般には40〜65℃が好ましく、45〜55℃がさらに好ましい。
【0065】
本発明の分析方法(I)においては、ハイブリッド形成工程において、必ずしも検体溶液中に存在するポリヌクレオチドの全量あるいは大部分をプローブ化合物とハイブリッド形成させる必要はない。引き続く検出工程(I)の光学的な検出感度を高くすることによって、検体溶液中に存在するポリヌクレオチドの一部をハイブリッド形成させればよい。このため、ハイブリッド形成工程の所要時間を短くでき、分析の迅速化が図れる。
また、本発明の分析方法(I)においては、ハイブリッド形成工程を上記のようなハイブリッドが形成される条件で行う。従って、検体溶液中に前記ハイブリッド形成可能なポリヌクレオチドが含有されていなくて、結果としてハイブリッドがまったく形成されない場合もある。
【0066】
ハイブリッド形成工程の処理時間は任意であるが、過剰に短いとハイブリッド形成量が過小となって感度低下を招き、過剰に長いと、分析時間の伸長を招くだけでなく、本工程においてハイブリッド形成の選択性が高まるため、ポリヌクレオチド(B)の検出感度は低くなりがちである。好適な処理時間は該工程の処理温度と密接な関係があり、高温であるほど短時間にすることが、本工程に於ける選択性の過剰な上昇を防止できるため好ましい。本ハイブリッド形成工程の処理時間は、本工程に処する検体溶液が、予め融解温度以上にまで加熱されるなどして、被検ポリヌクレオチドが一本鎖状態に成っている場合には、好ましくは1秒〜10分、さらに好ましくは5秒〜5分、さらに好ましくは10秒〜3分、最も好ましくは10秒〜1分である。
【0067】
検体溶液に含有される被検ポリヌクレオチドが二本鎖状態であり、ハイブリッド形成工程の温度が該二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドの融解温度未満であっても、ハイブリッドの置換が生じて、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドが生成する。但しこの場合には、ハイブリッド形成工程の処理時間は、好ましくは10秒〜60分、さらに好ましくは30秒〜30分、最も好ましくは1分〜10分である。
【0068】
なお、被検ポリヌクレオチドと、標的塩基配列の違いが大きい場合には、ハイブリッド形成工程において、両者のハイブリッドがほとんど形成されない場合がある。この場合には、該工程において被検ポリヌクレオチド同士の二本鎖形成が優勢となるが、この場合でも、プローブ化合物の設計または選択において、プローブ化合物の塩基数を被検ポリヌクレオチドとの塩基数より少なくして、融解温度に差を設けることによって判定できる。
【0069】
本発明の分析方法(I)においては、ハイブリッド形成工程は、検出用流路に導入する前に、独立した容器、例えばエッペンドルフチューブやマイクロウェル内で行ってもよいし、検出用流路の上流側に接続されたハイブリッド形成工程を行う流路(以下、「ハイブリッド形成用流路」という。)中で行い、その後、連続的に検出用流路に導入してもよい。ハイブリッド形成用流路は、流路の断面形状や寸法は検出用流路と異なっていてよく、例えば断面積が検出用流路より大きく、反応槽状であってもよい。また、検体溶液をハイブリッド形成用流路に流す流速や滞留時間も検出用流路における場合と異なっていてよく、一時的に送液を停止して、ハイブリッド形成用流路に一定時間滞留させてもよい。しかしながら、制御の容易さと分析速度の迅速化の面から、直列に接続されたハイブリッド形成用流路と検出用流路とに一定速度で同じ流量の検体溶液を流すことが好ましい。
【0070】
[検出工程(I)]
次いで、前記ハイブリッド形成工程を行った検体溶液を、所定の温度に調節された検出用流路に流す。
検出用流路の温度は、前記ハイブリッド形成工程を行う温度より高く、かつ、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成したハイブリッドが解離しうる温度であれば任意である。分析対象によって、適切な温度とすることが好ましい。
【0071】
例えば、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(A)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(A)が解離する温度条件(TLA以上、δまたはδ‘)とすることが好ましく、ポリヌクレオチド(A)の融解温度(TMA)以上とすることがさらに好ましく、ポリヌクレオチド(A)の全量が解離する温度(THA)以上とすることが最も好ましい。
【0072】
また、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(B)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(B)が解離する温度条件(TLB以上、βまたはβ‘)とすることが好ましく、ポリヌクレオチド(B)の融解温度(TMB)以上とすることがさらに好ましく、ポリヌクレオチド(B)の全量が解離する温度(THB)以上とすることが最も好ましい。又この場合、上記範囲であってかつ、ポリヌクレオチド(A)の融解温度(TMA)以以下とすることが、ポリヌクレオチド(B)のみが解離し、ポリヌクレオチド(A)の影響を受けないため、高精度の判定ができるため好ましい。
【0073】
さらに、上記ハイブリッド形成工程および検出工程(I)における検体溶液を以下のような温度にすることによって、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、または標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無を分析することが好ましい。
【0074】
(Ia)ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)のいずれか一方又は両方を含有している可能性のある検体溶液について、ポリヌクレオチド(A)の有無を分析する方法。
本方法は、ハイブリッド形成工程において、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドを形成させ、かつ、ポリヌクレオチド(B)はプローブ化合物とハイブリッドを形成させず、検出工程において、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物を解離させる方法である。すなわち、ハイブリッド形成工程における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)以上であって、かつ、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THA)未満、好ましくは融解温度(TMA)未満、さらに好ましくは解離温度(TLA)未満とし、検出工程(I)における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドのTLA以上、好ましくは融解温度(TMA)以上、さらに好ましくはTHA以上とする方法(以下、方法(Ia)という。)。
【0075】
本方法のハイブリッド形成工程の温度を、TMA未満、さらにTLA未満とするとによってハイブリッドの形成量を増加させて感度と信頼性を増すことができる。また、検出工程の温度をTMA以上、さらにTHA以上とすることによって、解離量を増加させて、感度と信頼性を増すことができる。
検出用流路の温度の上限は、検体溶液の沸騰、検体溶液に溶存していた気体の析出、溶解物質の分解、部材の熱変形などの不都合が生じる温度未満である。この観点から検出用流路は90℃以下が好ましく、85℃以下がさらに好ましく、80℃以下が最も好ましい。
【0076】
(Ib)ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)のいずれか一方又は両方を含有している可能性のある検体溶液について、ポリヌクレオチド(B)の有無を分析する方法。
本方法は、ハイブリッド形成工程において、ポリヌクレオチド(A)、ポリヌクレオチド(B)共にプローブ化合物とハイブリッドを形成させ、検出工程において、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドのみを解離させる方法である。すなわち、ハイブリッド形成工程における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)未満、好ましくは融解温度(TMB)未満、さらに好ましくは解離温度(TLB)未満とし、検出工程(I)における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLB)以上、好ましくは融解温度(TMB)以上、さらに好ましくは全量が解離する温度(THB)以上であって、かつ、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLA)未満とする方法(以下、方法(Ib)という。)。
【0077】
本方法のハイブリッド形成工程の温度を、TMB未満、さらにTLB未満とするとによってハイブリッドの形成量を増加させて感度と信頼性を増すことができる。また、検出工程の温度をTMB以上、さらにTHB以上と」することによって、解離量を増加させて、感度と信頼性を増すことができる。
最適な温度は、分析対象の系毎に測定して見いだすことができる。
【0078】
〔検出工程(I)−流速〕
検体溶液を流す流速は任意であるが、検出用流路内で検体溶液が所望の温度に達し、かつ略定常状態となるに十分な速度の流速であることが好ましい。例えば、一定流速、漸増する流速、漸減する流速、間欠的な流速、階段状の流速などであり得るが、一定流速であることが分析の効率の観点から好ましい。流速は、再現性良く制御することが好ましい。しかしながら、本発明に於ける好ましい分析方法である、平衡に達した後の蛍光を測定する方法においては、蛍光測定位置において充分に平衡に達するような流速を選定することにより、流速の変動に起因する誤差を小さくすることができる。
【0079】
〔検出工程(I)−蛍光測定〕
検体溶液は、ハイブリッド形成工程において蛍光性インターカレーターがハイブリッドにインターカレートしたため、検出用流路に導入される時点では、蛍光性、すなわち、励起すると蛍光を発する性質を有するが、検出用流路内で、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドの解離温度以上に昇温されると、ハイブリッドは解離し、蛍光性インターカレーターは無蛍光性となって、検体溶液の蛍光性は該解離量に応じて低下する。従って、検体溶液を励起して蛍光強度を測定することによって、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッドが解離したことを確認できる。或いは、その温度では解離しないことを確認できる。
【0080】
蛍光測定は、検出用流路中の任意の点において行うことができるが、検体溶液が所望の温度になり、温度及び上述の解離量が略定常状態に達している点において測定することが好ましい。測定位置は、流路中において略定常状態に達する位置が、流路径、熱源からの距離、流速等により変化するため、適宜決定することが好ましいが、流路の下流端付近とすることがさらに好ましい。
【0081】
この時、検体溶液中に二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが存在すれば、測定された蛍光強度の減少が、プローブ化合物と被検ポリヌクレオチドとのハイブリッドの解離によるものであるか、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドの解離によるものであるかが判熱できない恐れがある。
しかし、プローブ化合物の塩基数を被検ポリヌクレオチドの塩基数より少なくすることによって、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドの融解温度を、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドの融解温度より充分高い温度とすることができるため、前記二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが解離しない温度で確認試験をすることで判別可能である。該確認試験は、別途行ってもよく、複数の流露を用いて並行して行ってもよい。
また、上記のようにプローブ化合物の長さを調節した場合でも、検出工程の温度において、被検ポリヌクレオチドの二本鎖にインターカレートした蛍光性インターカレーターの蛍光が残存し、解離による蛍光強度の変化量が相対的に小さくなって、測定の障害となる場合がある。しかしながら、プローブ化合物の濃度を被検ポリヌクレオチドの濃度より十分高くすることによって、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチド濃度を測定に差し支えない程度まで減少させることができる。
【0082】
前記のように、複数の温度で蛍光強度を測定して比較する場合には、異なる温度に調節された並列に設けられた検出用流路で測定してもよいし、異なる温度に調節された直列に設けられた検出用流路で測定してもよい。後者の直列に設けられた検出用流路で測定する場合には、分析方法(I)においてはポリヌクレオチドの移動方向に対して検出用流路は温度が順次低くなる順に設けるることが好ましい。また、該複数の温度の一つが分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程と同じ温度である場合には、該ハイブリッド形成用流路にて蛍光強度を測定してもよい。
【0083】
〔予備解離工程〕
前記ハイブリッド形成工程に先立って、披検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッド、プローブ化合物同士の会合物、披検ポリヌクレオチドの二本鎖、などを解離させることが好ましい(以下、この工程を「予備解離工程」という。)。室温以下の温度で保管された被検ポリヌクレオチドは、対立鎖の両方を含む場合には二本鎖となっているし、対立鎖の一方しか含まない場合にも、標的塩基配列より短い塩基数、例えば塩基数4〜10の限定された範囲で自己会合している場合が多い。プローブ化合物についても同様である。
このような被検ポリヌクレオチドやプローブ化合物を用いると、ハイブリッド形成工程において、これらが解離しつつ、標的塩基配列とのハイブリッドが形成されるため、時間を要する上、未解離のこれらが残存してノイズとなりがちである。予備解離工程を行って被検ポリヌクレオチドなどを一本鎖と成した後に、ハイブリッド形成工程を行うことによって、プローブ化合物と被検ポリヌクレオチドのハイブリッド形成時間が短縮でき、測定の迅速化が図れる上、測定精度も向上する。
【0084】
予備解離工程は、検出用流路を有するデバイス外、例えばエッペンドルフチューブ内で行ってもよいが、予備解離工程を行うための流路(以下、「予備解離用流路」という。)およびハイブリッド形成用流路は、前記検出用流路と同じ部在中に形成され、直列に接続されていて、予備解離用流路に検体溶液を導入すると、連続的にハイブリッド形成用流路及び検出用流路に流れるように構成することが好ましい。これにより、ハイブリッド形成工程のハイブリッド形成時間を厳密に管理することが可能になり、測定の再現性と精度が向上する。
【0085】
予備解離用流路は、検体溶液を、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とのハイブリッドの解離温度(TLA)以上、好ましくは、該ハイブリッドの融解温度(TMA)以上、さらに好ましくは、該ハイブリッドの全量が解離する温度(THA)以上の温度に調節される。
【0086】
検体溶液に二本鎖ポリヌクレオチドが含まれる場合には、検体溶液を、二本鎖の被検ポリヌクレオチドの融解温度(これは、通常、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とのハイブリッドや、プローブ化合物同士の会合物や、一本鎖ポリヌクレオチドの自己会合物などの融解温度より高い温度である)以上、好ましくは該二本鎖ポリヌクレオチドの融解温度以上、最も好ましくは二本鎖ポリヌクレオチドの全量が解離する温度以上の温度に調節される。これらの解離温度、融解温度、全量が解離する温度は、公知の方法、例えば、紫外線吸収スペクトルの温度依存性を測定する方法で知ることができる。
予備解離工程の温度の上限は、検体溶液の沸騰、溶解物質の分解、部材の熱変形などの不都合が生じない温度であれば任意である。好ましい解離用流路の温度は、被検ポリヌクレオチドの塩基数や塩基配列により変わるが、一般的には70〜100℃が好ましく、80〜98℃がさらに好ましい。
【0087】
ポリヌクレオチドが対立鎖の一方のみであることが判明している場合には、予備解離工程の温度は、二本鎖の場合より低い温度でも十分であり、標的塩基配列の塩基数やプローブ化合物の塩基数に応じて、これらが解離する温度を選定できる。例えば、60〜90℃が好ましく、70〜85℃がさらに好ましい。
【0088】
予備解離用流路の断面形状や寸法は検出用流路と異なっていてよく、例えば断面積が検出用流路やハイブリッド形成用流路より大きく、反応槽状であってもよい。また、検体溶液を解離用流路に流す流速や滞留時間も検出用流路やハイブリッド形成用流路におけるそれと異なっていてよく、一時的に送液を停止して、解離用流路に一定時間滞留させてもよい。しかしながら、制御の容易さと分析速度の迅速化の面から、前記のように直列に接続された解離用流路、検出用流路、および場合によってはハイブリッド形成用流路に一定速度で同じ流量の検体溶液を流すことが好ましい。
【0089】
このように、予備解離用流路を設けることによって、被検ポリヌクレオチドとして二本鎖ポリヌクレオチドを使用しても迅速な分析が可能となる上、予備解離用流路からハイブリッド形成用流路へ入ってからの時間(距離)を正確に制御できるため測定精度や再現性が向上する。
【0090】
[分析方法(II):ハイブリッド形成に基づく分析]
分析方法(II)は、上記分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程において、検体溶液中の蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する分析方法である。すなわち、分析方法(II)では、ハイブリッド形成工程が、検出工程(II)となる。
【0091】
[検出工程(II)]
検出工程(II)では、被検ポリヌクレオチドがプローブ化合物とのハイブリッドを形成しうる状態として、該ハイブリッドに蛍光性インターカレーターをインターカレートさせて、その蛍光強度を測定する工程である。
本検出工程(II)では、温度条件や時間条件と形成されるハイブリッドに関しては、分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程において述べた内容と同様である。また、以下、特に言及しない限り温度条件と時間条件以外は、上記検出工程(I)と同様に検体溶液の蛍光強度の測定を行うことができる。
【0092】
分析方法(II)では、検出用流路の温度は、少なくともポリヌクレオチド(A)がプローブ化合物とハイブリッド形成する温度(THA以下)であり、分析目的や判定論理によっては、ポリヌクレオチド(B)がプローブ化合物とハイブリッド形成する温度(THB以下)であることが好ましい。
【0093】
例えば、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(A)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(A)のみがハイブリッド形成する温度条件(γ、δまたはδ’)とすることが好ましい。また、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(B)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(B)がハイブリッド形成する温度条件(α、βまたはβ’)とすることが好ましい。
【0094】
後者の場合、予備解離工程の温度を、ポリヌクレオチド(B)が解離しており、ポリヌクレオチド(A)がプローブ化合物とハイブリッド形成している温度条件(例えばγ、β又はβ’)とすることによって、ポリヌクレオチド(A)に由来する蛍光は検出工程に入る前と後で異ならず、ポリヌクレオチド(B)に由来する蛍光強度のみが検出肯定(II)に入る前と後で異なるようにすることができる。従って、検出工程前の蛍光強度と、検出工程(II)で平衡状態になった後の蛍光強度とを比較することで、ポリヌクレオチド(B)の有無と存在量を検出できる。
【0095】
さらに、検出工程(II)における検体溶液を以下のような温度にすることによって、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、または標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無を分析することが好ましい。
(IIa)ポリヌクレオチド(A)の有無を分析する方法。
検出工程(II)における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)以上であって、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THA)未満、好ましくは融解温度(TMA)未満、さらに好ましくは解離温度(TLA)未満とする方法(以下、方法(IIa)という。)。
【0096】
(IIb)ポリヌクレオチド(B)のみの有無を分析する方法。
検出工程(II)の前に実施する予備解離工程の温度を、検体溶液を、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLA)未満未満であって、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLB)以上、好ましくは融解温度(TMA)以上、さらに好ましくは全量が解離する温度(THB)以上である温度に調整して、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とのハイブリッドを形成させ、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とのハイブリッドは少なくとも一部を融解させた状態とする「選択的ハイブリッド形成工程」を設け、次いで、検出工程(II)における検体溶液の温度を、上記選択的ハイブリッド形成工程の温度より低く、かつ、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)未満、好ましくは融解温度(TMB)未満、さらに好ましくは解離温度(TLB)未満とする方法(以下、方法(IIb)という。)。
【0097】
分析方法(II)においても分析方法(I)の場合と同様に、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドを形成させるよりも前に、の予備解離工程を設けることが好ましい。このとき、上記方法(IIa)を採用する場合には検出工程(II)の前に、方法(IIb)を採用する場合には選択的ハイブリッド形成工程の前に、予備解離工程を設けることが好ましい。特に、被検ポリヌクレオチドが対立鎖の両方を含む場合には、上記の予備解離工程を設けることが好ましい。また、方法(IIa)、方法(IIb)においても、該工程の温度を調節して、選択的に予備解離させることも可能である。選択的に予備解離させる温度については、分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程における説明と同様である。例えば、温度の調節により、プローブ化合物/(B)ハイブリッド、プローブ化合物/(A)ハイブリッド、ポリヌクレオチド(B)の二本鎖、ポリヌクレオチド(A)の二本鎖、その他のポリヌクレオチドの二本鎖などを選択的または非選択的に解離させることができる。
予備解離工程を行う装置、その他に関しては、分析方法(I)と同様である。
【0098】
本発明の分析方法(II)は本発明の分析方法(I)に比べて、分析工程数が少ないため、温度調整装置などが簡略化でき、小型の分析装置とすることが可能である。
【0099】
[分析例]
蛍光強度の測定結果から、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(A)の有無、ポリヌクレオチド(B)の有無、およびポリヌクレオチド(B)中の標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定する論理は、分析目的や用いる検体溶液の成分によって任意の論理で判定または決定可能である。例を示せば、以下のようにして、種々の場合について判定または決定できる。
【0100】
[1]変異型ポリヌクレオチドをポリヌクレオチド(A)として、変異型ポリヌクレオチドの有無を判定する場合
分析方法(I)を用いて、検体溶液中に含有される被検DNA(被検ポリヌクレオチド)が変異型であるかどうかという一塩基多型の検出を目的とする分析においては、該一塩基多型の変異型ポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチド(A)とする方法で分析できる。
この場合、プローブ化合物として変異型DNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に実質的に相補的な配列のオリゴDNAを用い、ハイブリッド形成工程においてこれらのハイブリッドを形成させ、その後、検出工程(I)において検出用流路に検体溶液を流す。
【0101】
ここで、ハイブリッド形成工程の温度を、野生型ポリヌクレオチド[ポリヌクレオチド(B)]がプローブ化合物とハイブリッド形成しないが、変異型ポリヌクレオチド[ポリヌクレオチド(A)]がプローブ化合物とハイブリッド形成する温度に設定し、検出用流路の温度を、変異型のポリヌクレオチドがプローブ化合物と形成するハイブリッドが解離する温度に設定すると、検出用流路で定常状態に達した検体溶液の蛍光強度から、検体溶液中に変異型ポリヌクレオチドが存在するか否かが判定できる。
なお、このとき、検体溶液中に野生型と変異型以外の第3のポリヌクレオチド、すなわち全く異なる塩基配列を有するポリヌクレオチドの二本鎖が存在すると、該第3のポリヌクレオチドは、前記ハイブリッド形成工程においてプローブ化合物とはハイブリッドを形成しないが、対立鎖同士で二本鎖を形成する場合がある。その場合には、蛍光強度測定からはプローブ化合物とハイブリッドを形成した変異型DNAと区別できないが、下記の方法によって、その不都合を回避することができる。すなわち、別途、検出工程(I)または(II)の温度をプローブ化合物とポリヌクレオチド(A)のハイブリッドの全量が解離する温度以上で、かつ前記第3のポリヌクレオチドの二本鎖の解離温度未満の温度とした分析を行うと、前記第3のポリヌクレオチドの二本鎖の存在量が分かり、前記の測定と比較することによって判別できる。
【0102】
より具体的に、第一実施形態として、図1に示すように、解離曲線が非重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)が含まれるか否かを分析方法(I)を用いて分析する場合を説明する。
まず、分析対象である被検ポリヌクレオチド、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、および蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を準備する。次いで、この検体溶液をハイブリッド形成工程に付す。ハイブリッド形成工程の検体溶液の温度は、上述の温度範囲γ内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲γ内とすることによって、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成しうるが、ポリヌクレオチド(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成せず、融解したままの状態となる。そして、プローブ化合物/(A)ハイブリッドの形成が略定常状態に達し、蛍光性インターカレーターがハイブリッドにインターカレートした段階で蛍光強度を測定する。
【0103】
次いで、検体溶液を検出用流路に流し、検出工程(I)に付す。検出工程(I)の検体溶液の温度は、TLA以上、すなわち、温度範囲δまたはε内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲δまたはε内とすることによって、検体溶液中のプローブ化合物/(A)ハイブリッドが解離すると、検体溶液の蛍光強度が減弱する。検出用流路の末端付近の一点において、略定常状態に達した検体溶液の蛍光強度を測定する。
測定値から、被検ポリヌクレオチドの種類を判定するには、別途作製しておいた検量線と比較することにより行ってもよいし、このときの蛍光強度と、ハイブリッド形成工程と同じ温度に調節した比較用検出用流路で測定した蛍光強度、または検出工程(I)に付す前に測定した蛍光強度とを比較して、蛍光強度が減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)[変異型ポリヌクレオチド]が含有されていると判定することができる。
【0104】
次に、本発明の第二実施形態として、図2に示すように、解離曲線が重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)が含まれるか否かを分析方法(I)を用いて分析する場合を説明する。
この場合は、ハイブリッド形成工程の温度を温度範囲δ’内のいずれかの温度とし、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成するが、ポリヌクレオチド(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成せず、融解したままの状態とする。次いで、検出工程(I)の温度を、ハイブリッド形成工程の温度より高く、かつ温度範囲δ’またはε内のいずれかの温度に設定して、検体溶液中のプローブ化合物/(A)ハイブリッドが解離しうる状態とする。
その他は第一実施形態と同様にすることにより、蛍光強度の減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)が含有されていると判定することができる。
【0105】
[2]変異型ポリヌクレオチドをポリヌクレオチド(B)として変異型ポリヌクレオチドの有無を判定する場合
検体溶液中に含有される被検DNA(被検ポリヌクレオチド)が野生型であるか変異型であるかという一塩基多型の検出を目的とする分析において、プローブ化合物として野生型DNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に実質的に相補的な配列のオリゴDNAを用い、野生型DNAをポリヌクレオチド(A)、変異型DNAをポリヌクレオチド(B)とする。
ハイブリッド形成工程においてこれら両者をプローブ化合物とハイブリッド形成させ、検出工程(I)において、検出用流路に検体溶液を流す。
【0106】
ここで、ハイブリッド形成工程の温度を、野生型および変異型ポリヌクレオチドがプローブ化合物とハイブリッド形成する温度に設定し、検出用流路の温度を、変異型ポリヌクレオチドがプローブ化合物と形成するハイブリッドは解離するが、野生型ポリヌクレオチドがプローブ化合物と形成するハイブリッドは解離しない温度に設定すると、検出用流路で定常状態に達した検体溶液の蛍光強度から、検体溶液中に変異型ポリヌクレオチドが存在するか否かが判定できる。
【0107】
より具体的に、第三実施形態として、図1に示すように、解離曲線が非重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(B)が含まれるか否かを分析する場合を説明する。
まず、第一実施形態と同様にして検体溶液をハイブリッド形成工程に付す。ハイブリッド形成工程の検体溶液の温度は、上述の温度範囲α内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲α内とすることによって、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)および(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成しうる状態となる。
【0108】
次いで、第一実施形態と同様に検出工程(I)に付すが、このときの検体溶液の温度は、温度範囲βまたはγ内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲βまたはγ内とすることによって、検体溶液中のプローブ化合物/(B)ハイブリッドが解離し、検体溶液の蛍光強度が減弱する。しかし、プローブ化合物/(A)ハイブリッドは解離しない。
【0109】
そして、第一実施形態と同様にして蛍光強度を測定する。得られた蛍光強度測定値を検量線と比較し、蛍光強度が低ければ、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)が含有されていると判定することができる。あるいは、このときの蛍光強度と、ハイブリッド形成工程と同じ温度に調節した比較用検出用流路で測定した蛍光強度、または検出工程(I)に付す前に測定した蛍光強度とを比較して、蛍光強度が減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)[変異型ポリヌクレオチド]が含有されていると判定することができる。
【0110】
次に、本発明の第四実施形態として、図2に示すように、解離曲線が重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(B)が含まれるか否かを分析する場合を説明する。
この場合は、ハイブリッド形成工程の温度を温度範囲αまたはβ’内のいずれかの温度とすると、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)および(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成しうる状態となる。次いで、検出工程(I)の温度を、ハイブリッド形成工程の温度より高く、かつ温度範囲β’内のいずれかの温度に設定することによって、検体溶液中のプローブ化合物/(B)ハイブリッドが解離すると、検体溶液の蛍光強度が減弱する。しかし、プローブ化合物/(A)ハイブリッドは解離しない。
そして、第一実施形態と同様にして蛍光強度を測定する。蛍光強度が減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)が含有されていると判定することができる。
【0111】
[3]多塩基置換を分析する場合
一塩基多型でなく、多塩基置換を分析する場合には、一塩基置換、二塩基置換、三塩基置換それぞれの解離温度、融解温度等を基にハイブリッド形成工程および検出工程の温度設定を適宜行うことによって、上述[2]の例と同様に、検体溶液中のポリヌクレオチドを判定できる。
【0112】
本発明のポリヌクレオチドの分析方法は、種々の用途目的に使用できる。例えば、農林水産業などに於ける種の改良などを目的としたDNAやRNAの塩基配列と機能との関係解明のための使用、感染症の原因微生物の分析、疾患に掛かりやすい遺伝的因子の保有の分析、患者の薬物感受性の分析、ガンであるか否かあるいはガンの種類の分析、または生体移植適合性の分析などの医療用途での使用、同一人判定、親子判定、男女判定などの法務鑑定での使用、生物学的あるいは考古学的研究での使用、農作物において特定種であるか否か又はあるいは遺伝子組み換え作物であるか否かの分析のための使用などを挙げることができる。
【0113】
本発明は、試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物の塩基配列を標的塩基配列と比較して、同じか、異なるか又はどの程度異なるかを、特に、一塩基多型の存在の有無やその種類を簡便かつ迅速に分析できる。また、汎用の装置を用いて、試薬、すなわちプローブ化合物と蛍光性インターカレーターとの選定だけで異なる塩基配列の分析が可能である。
【0114】
また、複数の検出用流路を並列に設置することにより、正確な相互比較が可能となる。さらに、特に多数の検出用流路を用いて多数同時測定する場合に、各測定部を経時的に追って測定する必要が無いため測定装置やデータ処理が簡単になり、測定装置の小型化、低価格化が可能になる。
【0115】
前記検出用流路入り口における蛍光強度と検出用流路の任意の位置に於ける蛍光強度を測定し、その差をとって蛍光強度の減少量を算出したり、その比をとって正規化することによって、検体溶液毎に被検ポリヌクレオチドやプローブ化合物の濃度が異なっていてもそれを補正して正確に判定することができ、また、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドその他の蛍光性の物質が存在しても、それを補正して正確に判定することができる。
【0116】
また、ハイブリッド形成工程の前に、二本鎖の被検ポリヌクレオチドを一本鎖とする予備解離工程を行うことによって、プローブ化合物と被検ポリヌクレオチドのハイブリッド形成時間が短縮でき、測定の迅速化が図れる。さらに、ハイブリッド形成工程のハイブリッド形成時間を厳密に管理することが可能になり、測定の再現性が向上する。
【0117】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の分析方法によれば、試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドが、分析の標的とする塩基配列を有するか否か、および/または、標的塩基配列との違い等の判定を、汎用の装置を用いて、試薬の選定だけで簡便に行うことができ、また、簡易な操作により迅速に、信頼性よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】非重畳的な場合の、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の解離曲線を示した模式図である。
【図2】重畳的な場合の、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の解離曲線を示した模式図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、検体溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドの、標的塩基配列を有するポリヌクレオチドの有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチドの有無、および該標的塩基配列を有さないポリヌクレオチドの前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリヌクレオチドの塩基配列が目的の配列であるか否か、基準とする配列と同一か若しくは異なるか、又は、基準とする配列とどの程度相補性が異なるか等といったポリヌクレオチドの分析方法としては、種々の方法が知られている。
しかし、塩基配列の違いやその長さの差が小さいポリヌクレオチド同士の違いを分析する場合、中でも、置換、挿入、欠失などにより一塩基のみが異なる塩基配列の違いを分析する場合には、既知の分析方法では種々の欠点があり満足できるものではなかった。
【0003】
例えば、DNAチップ(例えば、非特許文献1参照。)のように、固相に固定したプローブ化合物であるオリゴヌクレオチドに被検DNAを選択的にハイブリッド形成させる方法では、一塩基のみ異なるような僅かな塩基配列の違いを十分なコントラストで検出するには数時間以上のインキュベーションを要するといった問題があった。
【0004】
アフィニティークロマトグラフィー(例えば、非特許文献2参照。)は、標的塩基配列の判定にそれ専用の一本のカラムが必要であり、汎用機とすることができなかった。
【0005】
また、電気泳動法の一つに、検体溶液にプローブ化合物を添加して電気泳動を行う方法が知られている(例えば、非特許文献3、4参照。)。これによると、プローブ化合物とミスマッチの塩基配列を有するDNAは、特定の条件では立体構造が変化して泳動時間が大きく変化するため、分離、判定できる。これはアフィニティークロマトグラフと異なり、汎用の装置が使用できるが、測定条件が微妙なため条件設定に多数回の測定を要する上、数十分以上の時間を要するといった問題があった。
【0006】
一方、二本鎖DNAは、該二本鎖(ハイブリッド)の塩基配列が相補的である場合に比べて、ミスマッチ(非相補的な部位)が有れば解離し易くなることが知られている(例えば、非特許文献5参照。)。従って、二本鎖DNAの融解温度を調べれば、該DNAが相補的であるか、塩基配列にミスマッチを有するかが判定できることになる。
しかしながら、例えば分析対象のDNAが変異型であるか野生型であるかという一塩基多型の分析において、試料のDNAが変異型である場合でも、野生型とは塩基配列が異なるものの、それ自身は変異型センス鎖と変異型アンチセンス鎖の相補的な二本鎖であるため、この方法によっては、変異型と野生型を見分けることはできなかった。
【0007】
【非特許文献1】
大野典也,「ニュートン」,1999年,7月号,p.60−61
【非特許文献2】
近藤壽彦,阿部修三,「クロマトグラフィー」,1997年,第18巻,第2号,p.122−125
【非特許文献3】
穴田貴久,前田瑞夫,「バイオサイエンスとインダストリー」,2001年,第59巻,第11号,p.751−754
【非特許文献4】
緒方宣邦,野島博,「遺伝子工学キーワードブック」,1996年,羊土社,110頁「温度勾配ゲル電気泳動法」,356頁「変成ゲル電気泳動法」
【非特許文献5】
緒方宣邦,野島博,「遺伝子工学キーワードブック」,1996年,羊土社,355頁「変成」,356頁「変成ゲル電気泳動法」
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドが、分析の標的とする塩基配列を有するか否か、および/または、標的塩基配列との違い等の判定を行うためのポリヌクレオチドの分析方法、特に、一塩基のみが異なる塩基配列を判別可能な分析方法であって、汎用の装置を用いて、試薬の選定だけで種々の分析が可能なポリヌクレオチドの分析方法を提供することである。さらに、単純な操作で迅速に、しかも高い信頼性で測定が可能な測定方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有するプローブ化合物、および蛍光性インターカレーターを用い、温度調節された検出用流路において蛍光強度を測定することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、および前記ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、前記被検ポリヌクレオチド、前記標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において前記蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程を有し、前記蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とするポリヌクレオチドの分析方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
[検体溶液]
本発明にかかるポリヌクレオチドの分析方法において、測定対象である検体溶液は、被検ポリヌクレオチド、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、および被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドにインターカレートして蛍光性となる蛍光性インターカレーターを含有する。
【0011】
なお、検体溶液は、上記の被検ポリヌクレオチド、プローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターの他に、本発明の方法を妨害しない他の成分、例えば、酵素などの蛋白やヌクレオチドモノマー、PCR用のプライマーなどを含有していもよい。但し、該プライマーは、プローブ化合物と、本分析を妨害するようなハイブリッド形成をしない塩基配列に設計される必要がある。
ここで言う「本分析を妨害するようなハイブリッド形成をしない塩基配列」とは、例えば、分析目的がSNPの判定である場合には、標的塩基配列に2以上のミスマッチを有する塩基配列であるか2以上少ない数の相補的な塩基数の塩基配列であり、分析目的が標準塩基配列とn個異なる塩基配列の検出である場合には、標的塩基配列にn+1以上ミスマッチを有する塩基配列であるかn+1以上少ない数の塩基数の相補的な塩基配列をいう。このような塩基配列であれば、ハイブリッド形成しても、融解温度が充分低くなり、本分析を妨害しない。
【0012】
[被検ポリヌクレオチド]
被検ポリヌクレオチドは、本発明に於ける分析対象のポリヌクレオチドであり、分析目的によって種々の場合があり得る。例えば、全DNA、cDNA、制限酵素により切断されたDNA断片、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などにより増幅された2本鎖又は1本鎖DNA断片、RNA、これらの置換体や化学修飾体などであり得る。
【0013】
被検ポリヌクレオチドが対立ポリヌクレオチド(以下、「対立鎖」と称する場合がある。)の双方を含有する場合には、被検ポリヌクレオチドの長さ(塩基数)は、後述のように、プローブ化合物より1塩基以上長いことが必要であり、プローブ化合物より2塩基以上長いことが好ましく、3塩基以上長いことさらに好ましく、4塩基以上長いことが最も好ましい。被検ポリヌクレオチドが対立鎖の一方のみである場合には、上記の限定は不要である。
【0014】
被検ポリヌクレオチドの長さは、例えば塩基数が数千万であり得るが、分析精度と分析速度を共に高くするために、塩基数20〜100000が好ましく、塩基数30〜10000がさらに好ましく、35〜3000が最も好ましい。この範囲の下限以上とすることにより、検体溶液を調製する際に、PCRなどによる増幅の精度が向上するため、本分析方法の精度が向上する。又上記の上限以下とすることによって、PCRなどによる増幅の速度が向上し、また、ハイブリッド形成や解離の速度が向上するため、本分析方法の速度が向上する。前記検体溶液中に含有される被検ポリヌクレオチドの長さは、制限酵素の選択よって調節でき、また、PCRなどによってポリヌクレオチドを増幅する場合には、プライマーの設計によって調節できる。
【0015】
被検ポリヌクレオチドは、対立鎖の一方又は両方であり得る。対立ポリヌクレオチドの両方である場合には、ホモ接合鎖であり得るし、ヘテロ接合鎖であり得る。また、単独の塩基配列のポリヌクレオチド、互いに異なる塩基配列を有するポリヌクレオチドの混合物、例えば野生型と変異型のポリヌクレオチドの混合物であり得るし、互いに異なる種類のポリヌクレオチドの混合物であり得る。また、異なる長さのポリヌクレオチドの混合物であり得る。勿論、分析結果として検体溶液中に分析目的の塩基配列を有するポリヌクレオチドが含有されないことが判明する場合もあり得る。
【0016】
被検ポリヌクレオチドの検体溶液中の濃度は任意である。蛍光測定機構の感度に応じて設定できる。蛍光測定機構の感度が高ければ1分子であり得る。PCRやLAMP法などのポリヌクレオチド増幅反応の反応生成溶液をそのまま、或いは2〜1000倍に希釈して使用することも好ましい。
【0017】
[標的塩基配列]
標的塩基配列は、分析の基準となる特定の塩基配列である。例えば、一塩基多型の検出を目的とする場合には、変異の生じる部分(ホットスポット)を含む塩基配列部分である。標的塩基配列は、ポリヌクレオチド(A)やポリヌクレオチド(B)が二本鎖である場合には、対立鎖の一方の配列とするか他方の配列とするか、例えば、センス鎖とするかアンチセンス鎖とするかは任意である。
【0018】
標的塩基配列の長さは、例えば標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)(以下、単に「ポリヌクレオチド(A)」という。)が10〜100塩基(対)である場合には、塩基数6以上であればよい。この長さであれば、ポリヌクレオチド(A)が偶然プローブ化合物に相補的な塩基配列を持つ確率は無視できるほど小さいため、充分な精度と信頼性が得られる。
【0019】
ポリヌクレオチド(A)の塩基(対)数がそれ以上である場合には、該塩基数に応じて、プローブ化合物の塩基数も増やすことが、選択エラーを防ぐために好ましい。例えば、ポリヌクレオチド(A)の塩基(対)数が100〜1000である場合には、10以上であることが好ましく、ポリヌクレオチド(A)の塩基(対)数が数千以上である場合には、15以上であることが好ましい。
【0020】
後述のように、プローブ化合物が標的塩基配列に対して1又は2塩基のミスマッチを有するものである場合には、15以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましく、23以上であることが最も好ましい。プローブ化合物が標的塩基配列に対して3又は4塩基のミスマッチを有するものである場合には、25以上であることが好ましく、30以上であることがさらに好ましく、33以上であることが最も好ましい。
【0021】
標的塩基配列の塩基数の上限は任意であり、好ましい上限は標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)(以下、単に「ポリヌクレオチド(B)」という。)の塩基配列と標的塩基配列との違いの程度により異なる。上記配列の違いが大きいほど、それに応じて標的塩基配列の塩基数の上限も大きくてよく、例えば上記上限は1000であってもよいが、50以下であることが好ましく、30以下であることが最も好ましい。
上記配列の違いが1塩基である場合には、30以下が好ましく、25以下がさらに好ましい。この好ましい上限以下とすることで、充分な選択性を維持しつつ分析の迅速化が図れる。
【0022】
[プローブ化合物]
プローブ化合物は、標的塩基配列に実質的に相補的な塩基配列を有し、ポリヌクレオチド(A)とハイブリダイゼーションする化合物であれば任意であり、例えば、オリゴDNA、オリゴRNA、糖部分や燐酸基部分が修飾或いは置換されたオリゴDNAやオリゴRNA、その他の任意の化合物であり得る。このようなプローブ化合物は、合成可能であるし、また、マイクロアレイ用などとして市販されているものが使用できる。
【0023】
「実質的に相補的」とは、標的塩基配列の全体に対して少数の非相補的な部分を有してもよいことを意味し、好ましくは、相補的であるか1〜4塩基の非相補的な塩基を有するものである。[[以下、「(標的塩基配列に)相補的」なことを「(標的塩基配列と)完全マッチ」であると表現する場合がある、また、「(標的塩基配列に相補的な塩基配列に対してN個の)塩基の配列が異なる」ことを「(標的塩基配列とN個の塩基の)ミスマッチを生じる」と表現する場合がある]
【0024】
但し、プローブ化合物は、標的塩基配列に対して少数の、例えば1〜4塩基のミスマッチを生じる場合には、該ミスマッチを生じる塩基は、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる部分において、ポリヌクレオチド(B)と相補的でない塩基とする。その理由は、プローブ化合物が標的塩基配列に相補手金塩基配列を有する場合のポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)が逆転した場合に相当し、本発明のポリヌクレオチド(A)、ポリヌクレオチド(B)の定義に反するからである。
【0025】
例えば、ポリヌクレオチド(B)が、標的塩基配列中の或るグアニンがチミンに変異した塩基配列を有するとき、標的塩基配列に対してミスマッチとなる塩基が、前記チミンに相補的なアデニンであると、プローブ化合物は該部分でポリヌクレオチド(B)と相補的ポリヌクレオチド(A)とミスマッチになってしまう。ミスマッチが挿入や欠失による場合も話は同様である。このような、標的塩基配列に対して、実質的に相補的な塩基配列を有するプローブ化合物は、上記ミスマッチの数がいくつであっても、ポリヌクレオチド(A)に対して、ポリヌクレオチド(B)より強くハイブリダイゼーションする。
【0026】
プローブ化合物が、標的塩基配列に対して1又は2のミスマッチを生じる場合には、該ミスマッチを生じる塩基は、置換、挿入、欠失のいずれであってもよいが、置換であることが、該ミスマッチを導入する効果が発揮されるため好ましい。また、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる塩基の位置と種類が既知の場合、例えば一塩基多型における野生型と変異型の場合には、プローブ化合物は、前記標的塩基配列内でミスマッチを生じる塩基配列部分を、標的塩基配列の端以外の部分とする。端であってもよいが、本発明においては、説明の煩雑さを避けるため、塩基配列の端にある該1〜4塩基異なる部位を除いた部分を標的塩基配列とする。上記以外であれば、該1〜4塩基異なる部位は任意であり、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる部位に隣接した塩基(1つ離れた塩基)であってもよいし、2つ離れた塩基(2個目の塩基)、3つ張られた塩基(3個目の塩基)、或いはさらに離れた位置の塩基であってもよい。これらの中で、1〜4つ離れた塩基であることが好ましく、1又は2つ離れた塩基であることがさらに好ましい。この位置にすることによって、本発明の効果をより発揮できる。
【0027】
プローブ化合物が、前記標的塩基配列に対して2塩基異なる塩基配列を有する場合にも、該部分の位置は任意であり、ポリヌクレオチド(B)が標的塩基配列と異なる部位から、若しくは、前記異なる第1の塩基から、1〜4つ離れた塩基であることが好ましく、1又は2つ離れた塩基であることがさらに好ましい。この位置にすることによって、本発明の効果をより発揮できる。プローブ化合物が、前記標的塩基配列に対して3又は4塩基異なる塩基配列を有する場合も上記と同様である。
【0028】
プローブ化合物が、標的塩基配列に相補的な塩基配列に対して5個以上の塩基の配列が異なる塩基配列を有していてもよいが、標的塩基配列の全長が同じである場合には、解離温度が常温付近以下となりがちであり、室温以下の温度調節が必要となりがちであり、これらの不都合を避けるためには、標的塩基配列の長さやミスマッチの導入位置が限定されたものとなる。
【0029】
プローブ化合物は、一分子内に標的塩基配列部分を複数有していてもよく、該複数の標的塩基配列部分は同じ標的塩基配列であっても、異なる塩基配列であってもよい。同じである場合は、検出感度を向上させることができるし、異なる場合には、複数の標的塩基配列を同時に測定することができる。
【0030】
プローブ化合物は上記標的塩基配列以外の部分を有していてよい。この場合には、標的塩基配列と実質的に相補的である塩基配列部分がハイブリダイゼーションに寄与する。但しこの場合、標的塩基配列以外の塩基配列部分は、ポリヌクレオチド(B)とハイブリッド形成しない必要がある。
プローブ化合物の塩基数の上限は、特に限定する必要はないが、ポリヌクレオチド(A)の塩基数以下であることが好ましく、50以下であることが好ましく、30以下であることが最も好ましい。この好ましい上限以下とすることによって、ハイブリッド形成に要する時間が短縮され、分析時間を短縮できる。ポリヌクレオチド(B)が、標的塩基配列と一塩基のみ異なる塩基配列を有する場合には、プローブ化合物の塩基数は30以下が好ましく、25以下がさらに好ましく、22以下がさらに好ましい。この上限以下とすることによって、標的塩基配列と一塩基のみ異なる塩基配列を有する場合に、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の分離能が向上する。
【0031】
ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物と相補的な塩基数はポリヌクレオチド(A)の場合より少ないため、ハイブリッド形成の結合能力は低いが、低温あるいは十分にインキュベートしない短時間条件ではプローブ化合物とハイブリッドを形成する。
【0032】
プローブ化合物が標的塩基配列と相補的な塩基配列である場合、標的塩基配列を20〜30塩基程度にすると温度対解離量の曲線(後述の解離曲線)は急峻となり、分析の精度と信頼性が向上する。しかしこの時、解離温度が高くなるため、溶液中での気泡の発生による検出ノイズが増加しがちとなり、また、使い捨て可能なプラスチック製のデバイスを使用すると、耐熱性不足のため測定中に変形し、検出精度が低下しがちである。一方、標的塩基配列の長さを例えば15塩基以下に短くすると、解離温度は低くなり、上述の不都合は回避されるが、解離曲線の傾きが緩慢になり、分析の精度と信頼性が低下しがちとなる。そこで、有効なプローブ化合物の長さ、すなわち、標的塩基配列を20〜30に保ち、1〜4のミスマッチを生じうる塩基配列を採用すると、解離温度が低下するにもかかわらず、解離曲線は、標的塩基配列の長さを短くする場合より急峻となるため、1〜4のミスマッチを生じうる塩基配列とすることが好ましい。1箇所のミスマッチの導入による融解温度の低下量は、標的塩基配列の長さ、ミスマッチの位置や塩基の種類、溶出液の塩濃度などにもよるが、通常3〜10℃である。。
プローブ化合物は、さらに、塩基配列とは無関係な部分を有していてもよい。例えば、該プローブ化合物を固相合成する際に固相に固定するためのアミノ基などの官能基、塩基配列部分と前記固定用官能基の間のスペーサーとなるアルキレン基やポリエチレングリコール基、等を有していてもよい。
【0033】
プローブ化合物の検体溶液中の濃度は任意であるが、下限は、被検ポリヌクレオチドが対立鎖の双方を含有する場合には、被検ポリヌクレオチド濃度以上とすることが好ましく、3倍以上がさらに好ましく、5倍以上が最も好ましい。前記倍率の上限は、高いことそれ自体による不都合はなく、例えば、被検ポリヌクレオチドが1分子であるような場合には、1021倍であってよいが、効果対費用の面から1000倍以下が好ましく、100倍以下がさらに好ましい。前記プローブ化合物の濃度の上限は、分析コスト面から1mM以下が好ましく、0.1mM以下がさらに好ましい。上記のように検体溶液中のプローブ化合物の濃度をポリヌクレオチドに対して過剰量とすることによって、検出用流路に導入される検体溶液中において、被検ポリヌクレオチド同士がハイブリッド結合した二本鎖ポリヌクレオチド濃度より、プローブ化合物とのハイブリッドの濃度が高くなり、検出感度が高くなると同時に二本鎖ポリヌクレオチドからの蛍光発光が相対的に少なくなり、分析精度が向上する。
【0034】
本発明に用いるプローブ化合物は互いに相補的な塩基配列を有する対(ポリヌクレオチドで言う対立鎖)の内の一方である。互いに相補的な対の両者を使用すると、それを一本鎖状態と成した混合物として使用しても、後述のハイブリッド形成工程において、プローブ化合物同士がハイブリッド形成してしまい、該ハイブリッドと、プローブ化合物と相補的な塩基配列を持つ被検ポリヌクレオチドとのハイブリッドの区別が付かなくなる。このような対の一方のみのプローブ化合物、例えば一本鎖オリゴDNAは、周知の固相合成法によって合成可能である。
【0035】
[蛍光性インターカレーター]
前記蛍光性のインターカレーターとは、プローブ化合物とポリヌクレオチドとのハイブリッドや二本鎖ポリヌクレオチドが存在しないときには無蛍光性であるが、これらの共存下では、該ハイブリッドまたは二本鎖の間に入り込み(インターカレーション)蛍光性となる化合物である。このような化合物としては公知慣用のものが使用でき、例えば、エチジウムブロマイドが挙げられる。すなわち、蛍光性インターカレーターを検体溶液に添加することによって、蛍光発光の有無から検体溶液中にプローブ化合物とポリヌクレオチドとの、或いはポリヌクレオチド同士のハイブリッドが存在するかどうかを知ることができ、また蛍光強度からその存在量を知ることができる。
【0036】
蛍光性インターカレーターの検体溶液中の濃度は任意であり、二本鎖ポリヌクレオチドの検出に通常用いられる濃度であればよく、例えばエチジウムブロマイドの場合、0.1〜5μg/cm3の範囲が好ましく使用できる。
【0037】
[検出用流路]
本発明で用いる毛細管状の検出用流路は、該検出用流路外から蛍光を観察できれば、それが形成された部材の形状は任意であり、チューブ状でもよいし、板状や塊状の部材内部に形成された物でもよいが、板状の部材中に形成されたものであることが好ましい。また、検出用流路は、一つの部材中に後述の予備解離用流路やハイブリッド形成用流路と共に形成されることも好ましく、さらに、ポリヌクレオチドの抽出、濃縮、精製などの前処理を行う機構や、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などのポリヌクレオチドを増幅する機構と共に同じ部材中に形成されることも好ましい。また、多検体同時測定を行うために、一つの部材中に複数の検出用流路を有することも好ましい。
【0038】
検出用流路を構成する部材は、蛍光性インターカレーターの励起と蛍光の観察が可能であれば任意である。好ましく使用できる素材として、ガラス、石英などの結晶、有機重合体(ポリジメチルシロキサンなどの有機含有無機重合体も含む)を例示できる。
【0039】
検出用流路の断面形状は任意であり、例えば矩形、スリット状、三角形、台形、円、楕円などであり得るが、矩形、台形、またはスリット状であることが、製造、測定が共に容易であり好ましい。本発明に使用する検出用流路は、板状の部材中に形成されており、断面形状が、該部材の幅方向の流路寸法が深さ方向の流路寸法以上であることが、温調精度が向上するため好ましい。
【0040】
検出用流路の直径は3μm〜500μmが好ましく、さらに5〜200μmであることがより好ましい。流路径を3μmより大きくすることによって、圧力損失の増加を防ぎ、検出用流路に検体溶液を流すことが容易となる上、蛍光の検出感度も向上する。一方、流路径を500μm以下とすることによって、前記検体溶液の昇温或いは降温の時間が短縮でき、分析時間の短縮が図れる上、該流路断面積内での温度分布が小さくなり、測定精度が向上する。ただし、検出用流路の断面形状に異方性がある場合、例えば長方形やスリット状の場合には、上記の流路径は短径を言うものとする。
【0041】
検出用流路を微細な毛細管状の空洞とすることによって、検体溶液を検出用流路に導入した時の温度追従性を非常に高くすることができる。よって、例えばマイクロウェルなどの貯液槽中で経時的に蛍光を観察する方法に比べて、検出工程の後述の第一温度への急速な昇温が可能で、その後も時間遅れのほとんど無い昇温が可能であるため、測定の迅速化が図れる。また、検体溶液の流路断面内での温度分布を小さくすることが可能なため測定精度が向上する。
【0042】
[蛍光測定]
蛍光測定のための励起方法は任意であり、紫外線や可視光などの光線、エックス線などのエネルギー線などであってもよいが、紫外線や可視光等の光線が簡便であり好ましい。光線の波長は、用いる蛍光性インターカレーターにより選定できる。光源は任意であり、例えばレーザー、発光ダイオード、クセノンランプや水銀灯などの放電管、白熱灯などが使用できる。
蛍光の検出方法も任意であり、例えば、CCD、光電増倍管、フォトダイオードなどが例示できる。
【0043】
[融解温度、解離温度]
本明細書中において、「解離温度」とは、ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成するハイブリッドを含有する溶液を昇温していったときに、ポリヌクレオチドとプローブ化合物の解離が始まる最低温度をいう。また、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが一本鎖に解離する場合も同様に、解離が始まる最低温度を解離温度という。
「融解温度」とは、ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成するハイブリッドを含有する溶液を昇温していったときに、ハイブリッドの半量が解離する温度をいう。また、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが一本鎖に解離する場合も同様に、半量が解離する温度を融解温度という。
「ハイブリッドの全量が解離する温度」とは、ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成するハイブリッドを含有する溶液を昇温していったときに、ハイブリッドの全量が解離する最低温度をいう。
【0044】
以下、本明細書中では、上述の温度について説明するために、以下のように温度や温度範囲に符号をつけて説明する。
TLB:ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドの解離温度
TMB:ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドの融解温度
THB:ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドの全量が解離する温度
TLA:ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドの解離温度TMA:ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドの融解温度
THA:ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドの全量が解離する温度
このとき(TLB<TMB<THB)、(TLA<TMA<THA)、(TMB<TMA)という関係にある。また、TLB、TMB、THBはそれぞれ、ポリヌクレオチド(B)の標的塩基配列に対する非相補性が大きいほど低い温度になる関係にある。
【0045】
準静的な条件、すなわち検体溶液を充分に遅い昇温速度(例えば、毎分1℃)で昇温した時のポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッド(以下、「プローブ化合物/(A)ハイブリッド」ということがある。)、および、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッド(以下、「プローブ化合物/(B)ハイブリッド」ということがある。)の解離曲線を模式図として図1及び図2に示した。図1および図2において、横軸は被検ポリヌクレオチドを含有する溶液の温度を示し、縦軸はポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッド化率を示す。各図中、破線は、プローブ化合物/(A)ハイブリッドの解離曲線であり、実線は、プローブ化合物/(B)ハイブリッドの解離曲線である。
【0046】
図1は、THB≦TLA なる関係(以下、「解離曲線が非重畳的」と称する場合がある。)にある場合の解離曲線である。この場合には、次のように温度範囲を命名する。
温度範囲α:溶液の氷結温度〜TLB
温度範囲β:TLB〜THB
温度範囲δ:TLA〜THA
温度範囲ε:THB〜溶液の沸騰温度
【0047】
また、図2は、TLA≦THB なる関係(以下、「解離曲線が重畳的」と称する場合がある。)にある場合である。この場合には、次のように温度範囲を命名する。
温度範囲β’:TLB〜TLA
温度範囲γ’:TLA〜THB
温度範囲δ’:THB〜THA
ただし、図2の重畳的な温度関係の場合において、温度範囲αとεは図1の場合と共通である。
【0048】
融解温度および解離温度は、プローブ化合物の塩基数、塩基配列のミスマッチの数、プローブ化合物の構成塩基の種類、検体溶液の塩濃度、検体溶液中のEDTAや有機溶剤などの添加物の濃度などにより変わる。例えば、融解温度は、一般的には50〜95℃である。
上記の解離温度、融解温度等は、例えば、いわゆるDNAマイクロアレイを用いて、温度を変化させて洗浄する実験を行い、洗浄温度対ハイブリッド残留量の曲線から求めることができる。
【0049】
[分析方法]
本発明の分析方法は、被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、および前記ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、前記被検ポリヌクレオチド、前記標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において前記蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程を有し、前記蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とする。
【0050】
ここで、ポリヌクレオチド(B)は、標的塩基配列を有さないポリヌクレオチドであれば特に限定されず、標的塩基配列と1塩基または2塩基以上異なる塩基配列を含むポリヌクレオチドの単独であっても混合物であってもよい。
また、「ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いを判定する」とは、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)が含まれる場合、そのポリヌクレオチド(B)中の標的塩基配列に対する種々の非相補性、例えば非相補的である塩基の個数はいくつであるか、何種類の非相補鎖を有するポリヌクレオチドの混合物であるか、さらに、非相補的である塩基の種類はG又はCであるかそれともA又はTであるか、標的塩基配列の範囲に複数の既知のホットポイントが有る場合に、変異部分はそのどちらであるか、標的塩基配列の範囲に未知の変異が有るか無いが、標的塩基配列の範囲に未知の変異が有る場合は、標的塩基配列内の大凡の位置等を判定することをいう。但し、これらは判定可能である場合があるのであって、常に判定可能であるとは限らない。
【0051】
本発明の分析方法によると、上記検体溶液を、後述するように適切に温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定することにより、上記判定を行うことができる。
【0052】
例えば、ポリヌクレオチド(A)の有無は次のようにして分析できる。典型的には、検出用流路の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッド[プローブ化合物/(B)ハイブリッド]が解離し、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッド[プローブ化合物/(A)ハイブリッド]が解離しない温度(例えば領域δ)に調節することによって、蛍光強度から判定できる。さらに詳細には、検出用流路の温度を、プローブ化合物/(B)ハイブリッドが、少なくとも一部が解離する温度、好ましくは1/2以上が解離する温度、最も好ましくはほぼ全量が解離する温度であって、かつ、プローブ化合物/(A)ハイブリッドが、前記プローブ化合物/(B)ハイブリッドの解離量より少ない解離量である温度、好ましくは解離量がその1/2未満の温度、最も好ましくは解離温度未満の温度、に調節することによって判定できる。該温度においては、検体溶液中にポリヌクレオチド(B)が存在していても蛍光強度に寄与する程度が小さいため、蛍光強度測定値はポリヌクレオチド(A)の存在量を反映する。すなわち、該温度条件において蛍光強度が高ければ、検体溶液がポリヌクレオチド(A)を含有していること、低ければまたはゼロであれば含有していないことがわかる。上記の測定は、検量線を作成すること、検出用流路に入る前の蛍光強度と比較すること、あるいは、検出用流路と異なる温度に調節された比較用流路における蛍光強度と比較することによって、さらに正確に判定できる。
【0053】
ポリヌクレオチド(B)の有無は次のようにして判定できる。例えば、(i)検出用流路の温度を、ポリヌクレオチド(A)、ポリヌクレオチド(B)の両者の大部分、好ましくは全量がプローブ化合物とハイブリッド形成する条件(α、β、またはβ’)に調節し、蛍光強度測定から、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の合計濃度がわかる(これを「測定2」と称する)。従って、該測定2の結果を前記のポリヌクレオチド(A)の有無の判定(「測定1」と称する)と併用し、これら2つの測定結果を比較することによって、検体溶液に含有されるポリヌクレオチドの種類が判定できる。すなわち、測定2で得られるポリヌクレオチドの合計濃度と測定1で得られたポリヌクレオチド(A)の濃度の差がポリヌクレオチド(B)の濃度を示すことになる。
【0054】
また、ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いを判定するには、ポリヌクレオチド(B)はプローブ化合物とのミスマッチ数が増えるほど融解温度(TmB)などが低下することを利用し、上記ポリヌクレオチド(B)の判定方法と同様の方法を用いて、例えば、以下のように行う。
【0055】
ポリヌクレオチド(A)及び1塩基ミスマッチのポリヌクレオチド(B)はハイブリッド形成している状態で変化せず、かつ、標的塩基配列と2塩基ミスマッチのポリヌクレオチド(B)のみが解離状態からハイブリッド形成する条件および/またはハイブリダイズ状態から解離する温度条件を利用し、該温度条件において蛍光強度に変化があれば被検ポリヌクレオチドが、2塩基ミスマッチのポリヌクレオチド(B)を含有していることがわかる。
3〜5個の塩基のミスマッチを有するポリヌクレオチド(B)の判定に関しても同様である。本発明の分析方法においては、5塩基ミスマッチ程度まで判定可能である。
【0056】
本発明の分析方法では、検出工程において、検出用流路を一定温度に調節し、該一定温度で所定時間経過後の検体溶液の蛍光強度を測定することが好ましい。試料液の検出用流路への導入後の時間を好適に選定することにより、一定温度における被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッド形成またはハイブリッド解離の状態を、正確にかつ再現性よく分析することができる。
前記所定時間は、蛍光強度が略一定値に収束する時間以上とすることが、正確かつ再現性のよい分析を行うために好ましいが、迅速な測定を行うためには、蛍光強度が略一定値に収束する時間以下とすることもできる。蛍光強度が略一定値に収束する時間とすることが、正確かつ再現性のよい分析を迅速に行うために最も好ましい。
【0057】
本発明の分析方法は、以下のような2種の分析方法とすることができる。
(1)前記被検ポリヌクレオチドと前記プローブ化合物とがハイブリッドを形成しうる状態とする工程(以下、「ハイブリッド形成工程」という。)と、次いで、前記ハイブリッドが解離しうる状態として、検体溶液中の蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程(以下、「検出工程(I)」という。)とを設ける方法(以下、この方法を「分析方法(I)」という。)
(2)前記ハイブリッド形成工程を設け、該ハイブリッド形成工程が、検体溶液中の蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程(以下、この工程を「検出工程(II)」という。)である方法(以下、この方法を「分析方法(II)」という。)
【0058】
なお、「ハイブリッドを形成しうる状態とする」とは、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)が存在している場合に、ポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)がハイブリッドを形成することができる温度に検体溶液を温度調整することをいう。
「ハイブリッドが解離しうる状態とする」とは、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)が存在している場合に、ポリヌクレオチド(A)および/またはポリヌクレオチド(B)がプローブ化合物と形成するハイブリッドが解離することができる温度に検体溶液を温度調整することをいう。
【0059】
すなわち、分析方法(I)は、ハイブリッドの解離に基づく蛍光性インターカレーターの蛍光強度低下の有無または低下の程度を測定する方法であり、分析方法(II)は、ハイブリッド形成に基づく蛍光性インターカレーターの蛍光強度上昇の有無または上昇の程度を測定する方法である。
これら分析方法(I)及び(II)は、いずれを採用しても構わない。しかしながら、ポリヌクレオチドとプローブ化合物を選択的にハイブリッド形成させるより、非選択的にハイブリッド形成させる方が速く、又、ポリヌクレオチドとプローブ化合物を選択的にハイブリッド形成させるより、選択的に解離させる方が速い。
従って、分析方法(I)は、ハイブリッド形成工程と検出工程を必要とするが、全体の所要分析時間は、分析方法(II)より短くすることが可能である。また、分析方法(I)の方が、分析方法(II)よりも再現性が良好である。従って、分析方法(I)を採用することが好ましい。
【0060】
[分析方法(I):ハイブリッドの解離に基づく分析]
分析方法(I)は、ハイブリッド形成工程と、次いで、検出工程(I)とを有するものである。
[ハイブリッド形成工程]
ハイブリッド形成工程は、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドを形成させ、該ハイブリッドに前記蛍光性インターカレーターをインターカレートさせて、検出工程(I)にかける検体溶液をあらかじめ蛍光性とする処理を行う工程である。測定の再現性と信頼性を増すために、本工程は温度及び時間を制御された条件で行うことが好ましい。
【0061】
本ハイブリッド形成工程は、温度の上限が、少なくともポリヌクレオチド(A)がプローブ化合物とハイブリッド形成する条件(THA以下)で行われるが、分析目的や判定論理によっては、ポリヌクレオチド(B)もプローブ化合物とハイブリッド形成する条件(THB以下)で行われることが好ましい。
【0062】
例えば、分析目的が、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)の有無や存在量のみを検出するものである場合には、THA以下であれば任意であり、TMA以下が好ましく、TLA以下がさらに好ましい。分析目的が一塩基多型(SNPs)の分析のように、塩基配列の僅かな違いを分析するものであって、被検ポリヌクレオチドの塩基配列がプローブ化合物と相補的であるか、ミスマッチを有するか、ミスマッチを有する場合にはその数は幾つであるか、等を同時に分析するものである場合には、これらの分離判定すべき対象となるポリヌクレオチドの全部をプローブ化合物と非選択的にハイブリッド形成させる条件で処理することが好ましい。
【0063】
ハイブリッド形成の選択性の程度は、後述のように、本工程の温度、時間、溶液組成などで調節できる。すなわち、塩基配列のわずかな違いを分析する場合であって、検体溶液がポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の双方を含有しているには、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)をなるべく非選択的に、すなわちなるべく等しい量だけプローブ化合物とハイブリッド形成させる。そして、後述の検出工程(I)において、ポリヌクレオチド(B)を選択的に解離させ、それを測定する。ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の選択性を小さくすることは、例えば、ハイブリッド形成工程の温度をTLB未満(領域α)とすることや、短時間でハイブリッド形成させる方法で実施できる。
【0064】
ハイブリッド形成工程の温度の下限は、検体溶液の氷結温度以上であれば任意であるが、[検出を目的とするポリヌクレオチドの解離温度マイナス20℃]以上が好ましく、[検出を目的とするポリヌクレオチドの解離温度マイナス10℃]以上がさらに好ましく、[検出を目的とするポリヌクレオチドの解離温度マイナス5℃]以上が最も好ましい。この温度以上とすることによって、標的塩基配列の一部のみ(例えば半分)でのハイブリッド形成や、標的塩基配列部分とは無関係な部分において標的塩基配列の塩基数より短い塩基数でのハイブリッド形成が生じることを防止でき、従って、引き続く検出工程(I)においてこれらの解離がノイズとなって、測定の精度と信頼性が低下することを防止できる。さらに、検体溶液中に、検出目的以外のポリヌクレオチドが存在してもその影響を受けにくくすることができる。
以上の観点から、ハイブリッド形成工程の温度は、一般には40〜65℃が好ましく、45〜55℃がさらに好ましい。
【0065】
本発明の分析方法(I)においては、ハイブリッド形成工程において、必ずしも検体溶液中に存在するポリヌクレオチドの全量あるいは大部分をプローブ化合物とハイブリッド形成させる必要はない。引き続く検出工程(I)の光学的な検出感度を高くすることによって、検体溶液中に存在するポリヌクレオチドの一部をハイブリッド形成させればよい。このため、ハイブリッド形成工程の所要時間を短くでき、分析の迅速化が図れる。
また、本発明の分析方法(I)においては、ハイブリッド形成工程を上記のようなハイブリッドが形成される条件で行う。従って、検体溶液中に前記ハイブリッド形成可能なポリヌクレオチドが含有されていなくて、結果としてハイブリッドがまったく形成されない場合もある。
【0066】
ハイブリッド形成工程の処理時間は任意であるが、過剰に短いとハイブリッド形成量が過小となって感度低下を招き、過剰に長いと、分析時間の伸長を招くだけでなく、本工程においてハイブリッド形成の選択性が高まるため、ポリヌクレオチド(B)の検出感度は低くなりがちである。好適な処理時間は該工程の処理温度と密接な関係があり、高温であるほど短時間にすることが、本工程に於ける選択性の過剰な上昇を防止できるため好ましい。本ハイブリッド形成工程の処理時間は、本工程に処する検体溶液が、予め融解温度以上にまで加熱されるなどして、被検ポリヌクレオチドが一本鎖状態に成っている場合には、好ましくは1秒〜10分、さらに好ましくは5秒〜5分、さらに好ましくは10秒〜3分、最も好ましくは10秒〜1分である。
【0067】
検体溶液に含有される被検ポリヌクレオチドが二本鎖状態であり、ハイブリッド形成工程の温度が該二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドの融解温度未満であっても、ハイブリッドの置換が生じて、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドが生成する。但しこの場合には、ハイブリッド形成工程の処理時間は、好ましくは10秒〜60分、さらに好ましくは30秒〜30分、最も好ましくは1分〜10分である。
【0068】
なお、被検ポリヌクレオチドと、標的塩基配列の違いが大きい場合には、ハイブリッド形成工程において、両者のハイブリッドがほとんど形成されない場合がある。この場合には、該工程において被検ポリヌクレオチド同士の二本鎖形成が優勢となるが、この場合でも、プローブ化合物の設計または選択において、プローブ化合物の塩基数を被検ポリヌクレオチドとの塩基数より少なくして、融解温度に差を設けることによって判定できる。
【0069】
本発明の分析方法(I)においては、ハイブリッド形成工程は、検出用流路に導入する前に、独立した容器、例えばエッペンドルフチューブやマイクロウェル内で行ってもよいし、検出用流路の上流側に接続されたハイブリッド形成工程を行う流路(以下、「ハイブリッド形成用流路」という。)中で行い、その後、連続的に検出用流路に導入してもよい。ハイブリッド形成用流路は、流路の断面形状や寸法は検出用流路と異なっていてよく、例えば断面積が検出用流路より大きく、反応槽状であってもよい。また、検体溶液をハイブリッド形成用流路に流す流速や滞留時間も検出用流路における場合と異なっていてよく、一時的に送液を停止して、ハイブリッド形成用流路に一定時間滞留させてもよい。しかしながら、制御の容易さと分析速度の迅速化の面から、直列に接続されたハイブリッド形成用流路と検出用流路とに一定速度で同じ流量の検体溶液を流すことが好ましい。
【0070】
[検出工程(I)]
次いで、前記ハイブリッド形成工程を行った検体溶液を、所定の温度に調節された検出用流路に流す。
検出用流路の温度は、前記ハイブリッド形成工程を行う温度より高く、かつ、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とが形成したハイブリッドが解離しうる温度であれば任意である。分析対象によって、適切な温度とすることが好ましい。
【0071】
例えば、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(A)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(A)が解離する温度条件(TLA以上、δまたはδ‘)とすることが好ましく、ポリヌクレオチド(A)の融解温度(TMA)以上とすることがさらに好ましく、ポリヌクレオチド(A)の全量が解離する温度(THA)以上とすることが最も好ましい。
【0072】
また、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(B)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(B)が解離する温度条件(TLB以上、βまたはβ‘)とすることが好ましく、ポリヌクレオチド(B)の融解温度(TMB)以上とすることがさらに好ましく、ポリヌクレオチド(B)の全量が解離する温度(THB)以上とすることが最も好ましい。又この場合、上記範囲であってかつ、ポリヌクレオチド(A)の融解温度(TMA)以以下とすることが、ポリヌクレオチド(B)のみが解離し、ポリヌクレオチド(A)の影響を受けないため、高精度の判定ができるため好ましい。
【0073】
さらに、上記ハイブリッド形成工程および検出工程(I)における検体溶液を以下のような温度にすることによって、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、または標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無を分析することが好ましい。
【0074】
(Ia)ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)のいずれか一方又は両方を含有している可能性のある検体溶液について、ポリヌクレオチド(A)の有無を分析する方法。
本方法は、ハイブリッド形成工程において、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物のハイブリッドを形成させ、かつ、ポリヌクレオチド(B)はプローブ化合物とハイブリッドを形成させず、検出工程において、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物を解離させる方法である。すなわち、ハイブリッド形成工程における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)以上であって、かつ、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THA)未満、好ましくは融解温度(TMA)未満、さらに好ましくは解離温度(TLA)未満とし、検出工程(I)における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドのTLA以上、好ましくは融解温度(TMA)以上、さらに好ましくはTHA以上とする方法(以下、方法(Ia)という。)。
【0075】
本方法のハイブリッド形成工程の温度を、TMA未満、さらにTLA未満とするとによってハイブリッドの形成量を増加させて感度と信頼性を増すことができる。また、検出工程の温度をTMA以上、さらにTHA以上とすることによって、解離量を増加させて、感度と信頼性を増すことができる。
検出用流路の温度の上限は、検体溶液の沸騰、検体溶液に溶存していた気体の析出、溶解物質の分解、部材の熱変形などの不都合が生じる温度未満である。この観点から検出用流路は90℃以下が好ましく、85℃以下がさらに好ましく、80℃以下が最も好ましい。
【0076】
(Ib)ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)のいずれか一方又は両方を含有している可能性のある検体溶液について、ポリヌクレオチド(B)の有無を分析する方法。
本方法は、ハイブリッド形成工程において、ポリヌクレオチド(A)、ポリヌクレオチド(B)共にプローブ化合物とハイブリッドを形成させ、検出工程において、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物のハイブリッドのみを解離させる方法である。すなわち、ハイブリッド形成工程における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)未満、好ましくは融解温度(TMB)未満、さらに好ましくは解離温度(TLB)未満とし、検出工程(I)における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLB)以上、好ましくは融解温度(TMB)以上、さらに好ましくは全量が解離する温度(THB)以上であって、かつ、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLA)未満とする方法(以下、方法(Ib)という。)。
【0077】
本方法のハイブリッド形成工程の温度を、TMB未満、さらにTLB未満とするとによってハイブリッドの形成量を増加させて感度と信頼性を増すことができる。また、検出工程の温度をTMB以上、さらにTHB以上と」することによって、解離量を増加させて、感度と信頼性を増すことができる。
最適な温度は、分析対象の系毎に測定して見いだすことができる。
【0078】
〔検出工程(I)−流速〕
検体溶液を流す流速は任意であるが、検出用流路内で検体溶液が所望の温度に達し、かつ略定常状態となるに十分な速度の流速であることが好ましい。例えば、一定流速、漸増する流速、漸減する流速、間欠的な流速、階段状の流速などであり得るが、一定流速であることが分析の効率の観点から好ましい。流速は、再現性良く制御することが好ましい。しかしながら、本発明に於ける好ましい分析方法である、平衡に達した後の蛍光を測定する方法においては、蛍光測定位置において充分に平衡に達するような流速を選定することにより、流速の変動に起因する誤差を小さくすることができる。
【0079】
〔検出工程(I)−蛍光測定〕
検体溶液は、ハイブリッド形成工程において蛍光性インターカレーターがハイブリッドにインターカレートしたため、検出用流路に導入される時点では、蛍光性、すなわち、励起すると蛍光を発する性質を有するが、検出用流路内で、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドの解離温度以上に昇温されると、ハイブリッドは解離し、蛍光性インターカレーターは無蛍光性となって、検体溶液の蛍光性は該解離量に応じて低下する。従って、検体溶液を励起して蛍光強度を測定することによって、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッドが解離したことを確認できる。或いは、その温度では解離しないことを確認できる。
【0080】
蛍光測定は、検出用流路中の任意の点において行うことができるが、検体溶液が所望の温度になり、温度及び上述の解離量が略定常状態に達している点において測定することが好ましい。測定位置は、流路中において略定常状態に達する位置が、流路径、熱源からの距離、流速等により変化するため、適宜決定することが好ましいが、流路の下流端付近とすることがさらに好ましい。
【0081】
この時、検体溶液中に二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが存在すれば、測定された蛍光強度の減少が、プローブ化合物と被検ポリヌクレオチドとのハイブリッドの解離によるものであるか、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドの解離によるものであるかが判熱できない恐れがある。
しかし、プローブ化合物の塩基数を被検ポリヌクレオチドの塩基数より少なくすることによって、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドの融解温度を、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドの融解温度より充分高い温度とすることができるため、前記二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドが解離しない温度で確認試験をすることで判別可能である。該確認試験は、別途行ってもよく、複数の流露を用いて並行して行ってもよい。
また、上記のようにプローブ化合物の長さを調節した場合でも、検出工程の温度において、被検ポリヌクレオチドの二本鎖にインターカレートした蛍光性インターカレーターの蛍光が残存し、解離による蛍光強度の変化量が相対的に小さくなって、測定の障害となる場合がある。しかしながら、プローブ化合物の濃度を被検ポリヌクレオチドの濃度より十分高くすることによって、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチド濃度を測定に差し支えない程度まで減少させることができる。
【0082】
前記のように、複数の温度で蛍光強度を測定して比較する場合には、異なる温度に調節された並列に設けられた検出用流路で測定してもよいし、異なる温度に調節された直列に設けられた検出用流路で測定してもよい。後者の直列に設けられた検出用流路で測定する場合には、分析方法(I)においてはポリヌクレオチドの移動方向に対して検出用流路は温度が順次低くなる順に設けるることが好ましい。また、該複数の温度の一つが分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程と同じ温度である場合には、該ハイブリッド形成用流路にて蛍光強度を測定してもよい。
【0083】
〔予備解離工程〕
前記ハイブリッド形成工程に先立って、披検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッド、プローブ化合物同士の会合物、披検ポリヌクレオチドの二本鎖、などを解離させることが好ましい(以下、この工程を「予備解離工程」という。)。室温以下の温度で保管された被検ポリヌクレオチドは、対立鎖の両方を含む場合には二本鎖となっているし、対立鎖の一方しか含まない場合にも、標的塩基配列より短い塩基数、例えば塩基数4〜10の限定された範囲で自己会合している場合が多い。プローブ化合物についても同様である。
このような被検ポリヌクレオチドやプローブ化合物を用いると、ハイブリッド形成工程において、これらが解離しつつ、標的塩基配列とのハイブリッドが形成されるため、時間を要する上、未解離のこれらが残存してノイズとなりがちである。予備解離工程を行って被検ポリヌクレオチドなどを一本鎖と成した後に、ハイブリッド形成工程を行うことによって、プローブ化合物と被検ポリヌクレオチドのハイブリッド形成時間が短縮でき、測定の迅速化が図れる上、測定精度も向上する。
【0084】
予備解離工程は、検出用流路を有するデバイス外、例えばエッペンドルフチューブ内で行ってもよいが、予備解離工程を行うための流路(以下、「予備解離用流路」という。)およびハイブリッド形成用流路は、前記検出用流路と同じ部在中に形成され、直列に接続されていて、予備解離用流路に検体溶液を導入すると、連続的にハイブリッド形成用流路及び検出用流路に流れるように構成することが好ましい。これにより、ハイブリッド形成工程のハイブリッド形成時間を厳密に管理することが可能になり、測定の再現性と精度が向上する。
【0085】
予備解離用流路は、検体溶液を、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とのハイブリッドの解離温度(TLA)以上、好ましくは、該ハイブリッドの融解温度(TMA)以上、さらに好ましくは、該ハイブリッドの全量が解離する温度(THA)以上の温度に調節される。
【0086】
検体溶液に二本鎖ポリヌクレオチドが含まれる場合には、検体溶液を、二本鎖の被検ポリヌクレオチドの融解温度(これは、通常、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とのハイブリッドや、プローブ化合物同士の会合物や、一本鎖ポリヌクレオチドの自己会合物などの融解温度より高い温度である)以上、好ましくは該二本鎖ポリヌクレオチドの融解温度以上、最も好ましくは二本鎖ポリヌクレオチドの全量が解離する温度以上の温度に調節される。これらの解離温度、融解温度、全量が解離する温度は、公知の方法、例えば、紫外線吸収スペクトルの温度依存性を測定する方法で知ることができる。
予備解離工程の温度の上限は、検体溶液の沸騰、溶解物質の分解、部材の熱変形などの不都合が生じない温度であれば任意である。好ましい解離用流路の温度は、被検ポリヌクレオチドの塩基数や塩基配列により変わるが、一般的には70〜100℃が好ましく、80〜98℃がさらに好ましい。
【0087】
ポリヌクレオチドが対立鎖の一方のみであることが判明している場合には、予備解離工程の温度は、二本鎖の場合より低い温度でも十分であり、標的塩基配列の塩基数やプローブ化合物の塩基数に応じて、これらが解離する温度を選定できる。例えば、60〜90℃が好ましく、70〜85℃がさらに好ましい。
【0088】
予備解離用流路の断面形状や寸法は検出用流路と異なっていてよく、例えば断面積が検出用流路やハイブリッド形成用流路より大きく、反応槽状であってもよい。また、検体溶液を解離用流路に流す流速や滞留時間も検出用流路やハイブリッド形成用流路におけるそれと異なっていてよく、一時的に送液を停止して、解離用流路に一定時間滞留させてもよい。しかしながら、制御の容易さと分析速度の迅速化の面から、前記のように直列に接続された解離用流路、検出用流路、および場合によってはハイブリッド形成用流路に一定速度で同じ流量の検体溶液を流すことが好ましい。
【0089】
このように、予備解離用流路を設けることによって、被検ポリヌクレオチドとして二本鎖ポリヌクレオチドを使用しても迅速な分析が可能となる上、予備解離用流路からハイブリッド形成用流路へ入ってからの時間(距離)を正確に制御できるため測定精度や再現性が向上する。
【0090】
[分析方法(II):ハイブリッド形成に基づく分析]
分析方法(II)は、上記分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程において、検体溶液中の蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する分析方法である。すなわち、分析方法(II)では、ハイブリッド形成工程が、検出工程(II)となる。
【0091】
[検出工程(II)]
検出工程(II)では、被検ポリヌクレオチドがプローブ化合物とのハイブリッドを形成しうる状態として、該ハイブリッドに蛍光性インターカレーターをインターカレートさせて、その蛍光強度を測定する工程である。
本検出工程(II)では、温度条件や時間条件と形成されるハイブリッドに関しては、分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程において述べた内容と同様である。また、以下、特に言及しない限り温度条件と時間条件以外は、上記検出工程(I)と同様に検体溶液の蛍光強度の測定を行うことができる。
【0092】
分析方法(II)では、検出用流路の温度は、少なくともポリヌクレオチド(A)がプローブ化合物とハイブリッド形成する温度(THA以下)であり、分析目的や判定論理によっては、ポリヌクレオチド(B)がプローブ化合物とハイブリッド形成する温度(THB以下)であることが好ましい。
【0093】
例えば、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(A)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(A)のみがハイブリッド形成する温度条件(γ、δまたはδ’)とすることが好ましい。また、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(B)の有無を判定する場合には、ポリヌクレオチド(B)がハイブリッド形成する温度条件(α、βまたはβ’)とすることが好ましい。
【0094】
後者の場合、予備解離工程の温度を、ポリヌクレオチド(B)が解離しており、ポリヌクレオチド(A)がプローブ化合物とハイブリッド形成している温度条件(例えばγ、β又はβ’)とすることによって、ポリヌクレオチド(A)に由来する蛍光は検出工程に入る前と後で異ならず、ポリヌクレオチド(B)に由来する蛍光強度のみが検出肯定(II)に入る前と後で異なるようにすることができる。従って、検出工程前の蛍光強度と、検出工程(II)で平衡状態になった後の蛍光強度とを比較することで、ポリヌクレオチド(B)の有無と存在量を検出できる。
【0095】
さらに、検出工程(II)における検体溶液を以下のような温度にすることによって、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、または標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無を分析することが好ましい。
(IIa)ポリヌクレオチド(A)の有無を分析する方法。
検出工程(II)における検体溶液の温度を、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)以上であって、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THA)未満、好ましくは融解温度(TMA)未満、さらに好ましくは解離温度(TLA)未満とする方法(以下、方法(IIa)という。)。
【0096】
(IIb)ポリヌクレオチド(B)のみの有無を分析する方法。
検出工程(II)の前に実施する予備解離工程の温度を、検体溶液を、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLA)未満未満であって、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度(TLB)以上、好ましくは融解温度(TMA)以上、さらに好ましくは全量が解離する温度(THB)以上である温度に調整して、ポリヌクレオチド(A)とプローブ化合物とのハイブリッドを形成させ、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とのハイブリッドは少なくとも一部を融解させた状態とする「選択的ハイブリッド形成工程」を設け、次いで、検出工程(II)における検体溶液の温度を、上記選択的ハイブリッド形成工程の温度より低く、かつ、ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とが形成するハイブリッドの全量が解離する温度(THB)未満、好ましくは融解温度(TMB)未満、さらに好ましくは解離温度(TLB)未満とする方法(以下、方法(IIb)という。)。
【0097】
分析方法(II)においても分析方法(I)の場合と同様に、被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドを形成させるよりも前に、の予備解離工程を設けることが好ましい。このとき、上記方法(IIa)を採用する場合には検出工程(II)の前に、方法(IIb)を採用する場合には選択的ハイブリッド形成工程の前に、予備解離工程を設けることが好ましい。特に、被検ポリヌクレオチドが対立鎖の両方を含む場合には、上記の予備解離工程を設けることが好ましい。また、方法(IIa)、方法(IIb)においても、該工程の温度を調節して、選択的に予備解離させることも可能である。選択的に予備解離させる温度については、分析方法(I)におけるハイブリッド形成工程における説明と同様である。例えば、温度の調節により、プローブ化合物/(B)ハイブリッド、プローブ化合物/(A)ハイブリッド、ポリヌクレオチド(B)の二本鎖、ポリヌクレオチド(A)の二本鎖、その他のポリヌクレオチドの二本鎖などを選択的または非選択的に解離させることができる。
予備解離工程を行う装置、その他に関しては、分析方法(I)と同様である。
【0098】
本発明の分析方法(II)は本発明の分析方法(I)に比べて、分析工程数が少ないため、温度調整装置などが簡略化でき、小型の分析装置とすることが可能である。
【0099】
[分析例]
蛍光強度の測定結果から、被検ポリヌクレオチド中のポリヌクレオチド(A)の有無、ポリヌクレオチド(B)の有無、およびポリヌクレオチド(B)中の標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定する論理は、分析目的や用いる検体溶液の成分によって任意の論理で判定または決定可能である。例を示せば、以下のようにして、種々の場合について判定または決定できる。
【0100】
[1]変異型ポリヌクレオチドをポリヌクレオチド(A)として、変異型ポリヌクレオチドの有無を判定する場合
分析方法(I)を用いて、検体溶液中に含有される被検DNA(被検ポリヌクレオチド)が変異型であるかどうかという一塩基多型の検出を目的とする分析においては、該一塩基多型の変異型ポリヌクレオチドを、ポリヌクレオチド(A)とする方法で分析できる。
この場合、プローブ化合物として変異型DNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に実質的に相補的な配列のオリゴDNAを用い、ハイブリッド形成工程においてこれらのハイブリッドを形成させ、その後、検出工程(I)において検出用流路に検体溶液を流す。
【0101】
ここで、ハイブリッド形成工程の温度を、野生型ポリヌクレオチド[ポリヌクレオチド(B)]がプローブ化合物とハイブリッド形成しないが、変異型ポリヌクレオチド[ポリヌクレオチド(A)]がプローブ化合物とハイブリッド形成する温度に設定し、検出用流路の温度を、変異型のポリヌクレオチドがプローブ化合物と形成するハイブリッドが解離する温度に設定すると、検出用流路で定常状態に達した検体溶液の蛍光強度から、検体溶液中に変異型ポリヌクレオチドが存在するか否かが判定できる。
なお、このとき、検体溶液中に野生型と変異型以外の第3のポリヌクレオチド、すなわち全く異なる塩基配列を有するポリヌクレオチドの二本鎖が存在すると、該第3のポリヌクレオチドは、前記ハイブリッド形成工程においてプローブ化合物とはハイブリッドを形成しないが、対立鎖同士で二本鎖を形成する場合がある。その場合には、蛍光強度測定からはプローブ化合物とハイブリッドを形成した変異型DNAと区別できないが、下記の方法によって、その不都合を回避することができる。すなわち、別途、検出工程(I)または(II)の温度をプローブ化合物とポリヌクレオチド(A)のハイブリッドの全量が解離する温度以上で、かつ前記第3のポリヌクレオチドの二本鎖の解離温度未満の温度とした分析を行うと、前記第3のポリヌクレオチドの二本鎖の存在量が分かり、前記の測定と比較することによって判別できる。
【0102】
より具体的に、第一実施形態として、図1に示すように、解離曲線が非重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)が含まれるか否かを分析方法(I)を用いて分析する場合を説明する。
まず、分析対象である被検ポリヌクレオチド、標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、および蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を準備する。次いで、この検体溶液をハイブリッド形成工程に付す。ハイブリッド形成工程の検体溶液の温度は、上述の温度範囲γ内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲γ内とすることによって、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成しうるが、ポリヌクレオチド(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成せず、融解したままの状態となる。そして、プローブ化合物/(A)ハイブリッドの形成が略定常状態に達し、蛍光性インターカレーターがハイブリッドにインターカレートした段階で蛍光強度を測定する。
【0103】
次いで、検体溶液を検出用流路に流し、検出工程(I)に付す。検出工程(I)の検体溶液の温度は、TLA以上、すなわち、温度範囲δまたはε内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲δまたはε内とすることによって、検体溶液中のプローブ化合物/(A)ハイブリッドが解離すると、検体溶液の蛍光強度が減弱する。検出用流路の末端付近の一点において、略定常状態に達した検体溶液の蛍光強度を測定する。
測定値から、被検ポリヌクレオチドの種類を判定するには、別途作製しておいた検量線と比較することにより行ってもよいし、このときの蛍光強度と、ハイブリッド形成工程と同じ温度に調節した比較用検出用流路で測定した蛍光強度、または検出工程(I)に付す前に測定した蛍光強度とを比較して、蛍光強度が減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)[変異型ポリヌクレオチド]が含有されていると判定することができる。
【0104】
次に、本発明の第二実施形態として、図2に示すように、解離曲線が重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)が含まれるか否かを分析方法(I)を用いて分析する場合を説明する。
この場合は、ハイブリッド形成工程の温度を温度範囲δ’内のいずれかの温度とし、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成するが、ポリヌクレオチド(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成せず、融解したままの状態とする。次いで、検出工程(I)の温度を、ハイブリッド形成工程の温度より高く、かつ温度範囲δ’またはε内のいずれかの温度に設定して、検体溶液中のプローブ化合物/(A)ハイブリッドが解離しうる状態とする。
その他は第一実施形態と同様にすることにより、蛍光強度の減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(A)が含有されていると判定することができる。
【0105】
[2]変異型ポリヌクレオチドをポリヌクレオチド(B)として変異型ポリヌクレオチドの有無を判定する場合
検体溶液中に含有される被検DNA(被検ポリヌクレオチド)が野生型であるか変異型であるかという一塩基多型の検出を目的とする分析において、プローブ化合物として野生型DNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に実質的に相補的な配列のオリゴDNAを用い、野生型DNAをポリヌクレオチド(A)、変異型DNAをポリヌクレオチド(B)とする。
ハイブリッド形成工程においてこれら両者をプローブ化合物とハイブリッド形成させ、検出工程(I)において、検出用流路に検体溶液を流す。
【0106】
ここで、ハイブリッド形成工程の温度を、野生型および変異型ポリヌクレオチドがプローブ化合物とハイブリッド形成する温度に設定し、検出用流路の温度を、変異型ポリヌクレオチドがプローブ化合物と形成するハイブリッドは解離するが、野生型ポリヌクレオチドがプローブ化合物と形成するハイブリッドは解離しない温度に設定すると、検出用流路で定常状態に達した検体溶液の蛍光強度から、検体溶液中に変異型ポリヌクレオチドが存在するか否かが判定できる。
【0107】
より具体的に、第三実施形態として、図1に示すように、解離曲線が非重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(B)が含まれるか否かを分析する場合を説明する。
まず、第一実施形態と同様にして検体溶液をハイブリッド形成工程に付す。ハイブリッド形成工程の検体溶液の温度は、上述の温度範囲α内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲α内とすることによって、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)および(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成しうる状態となる。
【0108】
次いで、第一実施形態と同様に検出工程(I)に付すが、このときの検体溶液の温度は、温度範囲βまたはγ内のいずれかの温度とする。検体溶液の温度を温度範囲βまたはγ内とすることによって、検体溶液中のプローブ化合物/(B)ハイブリッドが解離し、検体溶液の蛍光強度が減弱する。しかし、プローブ化合物/(A)ハイブリッドは解離しない。
【0109】
そして、第一実施形態と同様にして蛍光強度を測定する。得られた蛍光強度測定値を検量線と比較し、蛍光強度が低ければ、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)が含有されていると判定することができる。あるいは、このときの蛍光強度と、ハイブリッド形成工程と同じ温度に調節した比較用検出用流路で測定した蛍光強度、または検出工程(I)に付す前に測定した蛍光強度とを比較して、蛍光強度が減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)[変異型ポリヌクレオチド]が含有されていると判定することができる。
【0110】
次に、本発明の第四実施形態として、図2に示すように、解離曲線が重畳的である場合に、被検ポリヌクレオチドに、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(B)が含まれるか否かを分析する場合を説明する。
この場合は、ハイブリッド形成工程の温度を温度範囲αまたはβ’内のいずれかの温度とすると、検体溶液中のポリヌクレオチド(A)および(B)は、プローブ化合物とハイブリッドを形成しうる状態となる。次いで、検出工程(I)の温度を、ハイブリッド形成工程の温度より高く、かつ温度範囲β’内のいずれかの温度に設定することによって、検体溶液中のプローブ化合物/(B)ハイブリッドが解離すると、検体溶液の蛍光強度が減弱する。しかし、プローブ化合物/(A)ハイブリッドは解離しない。
そして、第一実施形態と同様にして蛍光強度を測定する。蛍光強度が減少している場合は、被検ポリヌクレオチド中にポリヌクレオチド(B)が含有されていると判定することができる。
【0111】
[3]多塩基置換を分析する場合
一塩基多型でなく、多塩基置換を分析する場合には、一塩基置換、二塩基置換、三塩基置換それぞれの解離温度、融解温度等を基にハイブリッド形成工程および検出工程の温度設定を適宜行うことによって、上述[2]の例と同様に、検体溶液中のポリヌクレオチドを判定できる。
【0112】
本発明のポリヌクレオチドの分析方法は、種々の用途目的に使用できる。例えば、農林水産業などに於ける種の改良などを目的としたDNAやRNAの塩基配列と機能との関係解明のための使用、感染症の原因微生物の分析、疾患に掛かりやすい遺伝的因子の保有の分析、患者の薬物感受性の分析、ガンであるか否かあるいはガンの種類の分析、または生体移植適合性の分析などの医療用途での使用、同一人判定、親子判定、男女判定などの法務鑑定での使用、生物学的あるいは考古学的研究での使用、農作物において特定種であるか否か又はあるいは遺伝子組み換え作物であるか否かの分析のための使用などを挙げることができる。
【0113】
本発明は、試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物の塩基配列を標的塩基配列と比較して、同じか、異なるか又はどの程度異なるかを、特に、一塩基多型の存在の有無やその種類を簡便かつ迅速に分析できる。また、汎用の装置を用いて、試薬、すなわちプローブ化合物と蛍光性インターカレーターとの選定だけで異なる塩基配列の分析が可能である。
【0114】
また、複数の検出用流路を並列に設置することにより、正確な相互比較が可能となる。さらに、特に多数の検出用流路を用いて多数同時測定する場合に、各測定部を経時的に追って測定する必要が無いため測定装置やデータ処理が簡単になり、測定装置の小型化、低価格化が可能になる。
【0115】
前記検出用流路入り口における蛍光強度と検出用流路の任意の位置に於ける蛍光強度を測定し、その差をとって蛍光強度の減少量を算出したり、その比をとって正規化することによって、検体溶液毎に被検ポリヌクレオチドやプローブ化合物の濃度が異なっていてもそれを補正して正確に判定することができ、また、二本鎖状態の被検ポリヌクレオチドその他の蛍光性の物質が存在しても、それを補正して正確に判定することができる。
【0116】
また、ハイブリッド形成工程の前に、二本鎖の被検ポリヌクレオチドを一本鎖とする予備解離工程を行うことによって、プローブ化合物と被検ポリヌクレオチドのハイブリッド形成時間が短縮でき、測定の迅速化が図れる。さらに、ハイブリッド形成工程のハイブリッド形成時間を厳密に管理することが可能になり、測定の再現性が向上する。
【0117】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の分析方法によれば、試料溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドが、分析の標的とする塩基配列を有するか否か、および/または、標的塩基配列との違い等の判定を、汎用の装置を用いて、試薬の選定だけで簡便に行うことができ、また、簡易な操作により迅速に、信頼性よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】非重畳的な場合の、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の解離曲線を示した模式図である。
【図2】重畳的な場合の、ポリヌクレオチド(A)とポリヌクレオチド(B)の解離曲線を示した模式図である。
Claims (11)
- 被検ポリヌクレオチド中の、標的塩基配列を有するポリヌクレオチド(A)の有無、前記標的塩基配列を有さないポリヌクレオチド(B)の有無、および前記ポリヌクレオチド(B)中の前記標的塩基配列との違いから選ばれる1種以上を判定するポリヌクレオチドの分析方法であって、
前記被検ポリヌクレオチド、前記標的塩基配列と実質的に相補的な塩基配列を有する一本鎖のプローブ化合物、及び蛍光性インターカレーターを含有する検体溶液を、温度調節された毛細管状の検出用流路に流して、該流路において前記蛍光性インターカレーターの蛍光強度を測定する検出工程を有し、前記蛍光強度の測定値により上記判定を行うことを特徴とするポリヌクレオチドの分析方法。 - 前記検出工程において、前記検出用流路を一定温度に調節し、該一定温度での前記検体溶液の略定常状態における蛍光強度を測定する請求項1に記載のポリヌクレオチドの分析方法。
- 前記検出工程の前に、前記検出用流路の最高温部の温度より低い温度で、かつ前記被検ポリヌクレオチドと前記プローブ化合物とのハイブリッドを形成しうる状態とするハイブリッド形成工程を有し、
前記検出工程において、前記検出用流路中で前記ハイブリッドの全部または一部が解離しうる状態とする請求項1または2に記載のポリヌクレオチドの分析方法。 - 前記ハイブリッド形成工程において、前記検体溶液の温度を、前記ポリヌクレオチド(B)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上であって、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度未満の温度に調整し、
前記検出工程において、検出用流路の温度を、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上の温度に調整する請求項3に記載のポリヌクレオチドの分析方法。 - 前記ハイブリッド形成工程において、前記検体溶液の温度を、前記ポリヌクレオチド(B)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度未満の温度に調整し、
前記検出工程において、検出用流路の温度を、前記ポリヌクレオチド(B)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上であって、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの解離温度未満である温度に調整する請求項3に記載のポリヌクレオチドの分析方法。 - さらに、前記ハイブリッド形成工程の前に、前記検体溶液を、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上の温度に調整し、前記検体溶液中に存在する被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッドを解離させて一本鎖とする予備解離工程を有する請求項3〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドの分析方法。
- 前記検出工程において、前記検出用流路中で被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物とのハイブリッドを形成しうる状態とする請求項1または2に記載のポリヌクレオチドの分析方法。
- 前記検出工程において、検出用流路の温度を、前記ポリヌクレオチド(B)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上であって、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度未満である温度に調整する請求項7に記載のポリヌクレオチドの分析方法。
- さらに、前記検出工程の前に、前記検体溶液を、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上の温度に調整し、前記検体溶液中に存在する二本鎖の被検ポリヌクレオチド及び被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッドを解離させて一本鎖とする予備解離工程を有する請求項7または8に記載のポリヌクレオチドの分析方法。
- 前記検出工程の前に、前記検体溶液を、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度未満であって、前記ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とのハイブリッドの融解温度以上である温度に調整して、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドを形成させ、前記ポリヌクレオチド(B)とプローブ化合物とのハイブリッドは融解させた状態とする選択的ハイブリッド形成工程を有し、
前記検出工程において、検出用流路の温度を、前記ポリヌクレオチド(B)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度未満である温度に調整する請求項7に記載のポリヌクレオチドの分析方法。 - さらに、前記選択的ハイブリッド形成工程の前に、前記検体溶液を、前記ポリヌクレオチド(A)と前記プローブ化合物とが形成するハイブリッドの融解温度以上の温度に調整し、前記検体溶液中に存在する二本鎖の被検ポリヌクレオチド及び被検ポリヌクレオチドとプローブ化合物のハイブリッドを解離させて一本鎖とする予備解離工程を有する請求項10に記載のポリヌクレオチドの分析方法。
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