JP2004226224A - 物質の光応答を測定する方法およびその装置 - Google Patents
物質の光応答を測定する方法およびその装置 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】ポンプ&プローブ分光法において、時間遅延回路上の時間遅延発生装置(13)における反復動作を、高速リニアスキャンを用いて20Hz以上100Hz以下の高速で行い、かつ固体試料(10)に照射した後Si−PINフォトダイオード(17)で受光したプローブ光(6)の光電流出力の信号を電流増幅器(18)に取り込んで増幅し、さらにその増幅された信号を、デジタルオシロスコープ(15)において時間遅延発生装置(13)からの位置信号(14)によりトリガーすることでそのデジタルオシロスコープ(15)上に記録する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、物質の光応答を測定する方法および装置に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、レーザパルス励起により生じた固体の非平衡キャリアおよび非平衡格子振動による固体の反射率または透過率変化を高速且つS/N比良く測定することのできる、物質の光応答を測定する方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
近年、固体試料の光応答時間を正確に測定する手法として、フェムト秒(1fs=10−15s)パルスレーザ光を励起光(ポンプ光)およびプローブ光として用い、励起光照射によって固体試料中に生じた反射率変化あるいは透過率変化を、プローブ光を用いて測定するというポンプ&プローブ分光法が注目されている。このポンプ&プローブ分光法で測定できる事象は、固体の光励起状態であり、電子−電子散乱、電子正孔対(光励起キャリアあるいは励起子)の再結合緩和時間、格子振動の寿命、電子−格子散乱時間などで、光スイッチの光応答特性の評価や格子欠陥によるキャリアの短寿命化などに応用されている。その典型的な手法としては、光学遅延回路と光変調器を組み合わせたいわゆる“スロースキャン型”時間分解ポンプ&プローブ法である(特開2002−214137)。
【0003】
具体的には、このタイプの測定方法では、固体試料に、直線偏光であって且つ光変調器により2kHz程度で変調された励起パルス光を照射し、その後励起パルス光の偏光方向と直交した方向に直線偏光したプローブ(探査)光を時間遅延させた状態で固体試料の励起パルス光照射位置に照射し、光検出器で固体試料によって反射されたプローブ光強度を測定している。そして、プローブ光の信号成分のうち、励起光と同じ周波数で光変調された信号成分のみをロックイン・アンプを用いて取り出し、プローブ光の遅延時間を少しずつ変化させながら繰り返し記録することで固体試料の反射率あるいは透過率を時間分解測定している。
【0004】
このときプローブ光の遅延時間の変化は、ステッピングモータ(もしくはDCモータ)駆動の光学遅延回路によってなされる。このスロースキャン型時間分解ポンプ&プローブ法では通常S/N比の向上のために上記のようなステッピングモータ駆動の光学遅延回路によるスキャンを測定時間範囲において反復動作させる。その反復回数Nに対してN1/2(√N)倍のS/N比向上が可能である。
【0005】
なおこの方法を“スロースキャン型”というのは、反復回数Nを行うためには光学遅延回路のステッピングモータ(もしくはDCモータ)を約1μm/s(時間分解能が約6.7fsの典型的な場合)のゆっくりとした速さで走査させなくてはならないからである。
【0006】
つまりこの手法で10ピコ秒(1ps=10−12s)の時間範囲の時間分解信号を100回反復させることによりS/N比を10倍向上させるのに要する測定時間を計算すると、
測定時間=2×(10×10−12(s))×(光速c(3×108(m/s))÷(ステッピングモータの速度(1.0×10−6(m/s))×(反復回数(100(回)))
で表され、測定時間=6000sとなり、100分を要することになる。さらにこの測定手法の未解決課題としては、測定可能な反射率(透過率)変化ΔR/R(ΔT/T)が最小値でΔR/R(ΔT/T)=10−4程度に限られていることが挙げられる。このとき、信号のノイズレベルは10−5に相当する。
【0007】
これまで、この手法ではGaAsなど直接遷移型半導体のキャリアダイナミクスおよびBi、Sbなど半金属のコヒーレントフォノン信号(位相が揃った格子振動の信号)が測定されており、その信号強度はおおよそΔT/T=10−4〜10−3(GaAsのキャリア)、ΔR/R=10−4〜10−3(Bi、Sbのコヒーレントフォノン)であった。しかしながら、他の間接遷移型半導体(Si、Geなど)などでは光励起キャリアやコヒーレントフォノンの信号強度がさらに小さいと考えられることから、さらに反射率(透過率)変化の測定感度をΔR/R=10−5以下に下げる必要があった。
【0008】
上記のような状況の中、ドイツの研究グループが反射率ΔR/R=10−5の大きさのGaAsのコヒーレントフォノン信号およびΔR/R=10−6のGeのコヒーレントフォノン信号を高速スキャンとデータ積算器およびAD変換ボードを用いて測定したが(非特許文献1および非特許文献2)、その研究においても半導体Siのコヒーレントフォノンおよび光励起キャリアダイナミクスはS/N比の不足で観測されていなかった。なおそのドイツのシステムのノイズレベルは10−7程度であった。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−214137
【非特許文献1】
G.C.Cho, W.KuttおよびH. Kurz、”Subpicosecond time−resolved coherent−phonon oscillations in GaAs” Physical Review Letters,65巻,p.764−766 1990年
【非特許文献2】
T.Pfeifer, W.Kutt, H. KurzおよびR.Scholz、”Generation and detection of coherent optical phonons in germanium”, Physical Review Letters,69巻,p.3248−3251 1992年
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、ポンプ&プローブ分光法において、レーザパルス励起により生じた固体の非平衡キャリアおよび非平衡格子振動による固体の反射率または透過率変化を高速且つS/N比良く(10−8以下のノイズレベルで)測定することのできる、物質の光応答を測定する方法および装置を提供することを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、フェムト秒レーザパルス光であって直線偏光しかつ変調された励起パルス光と、フェムト秒レーザパルス光であって励起パルス光の偏光方向と直交した方向もしくは45°傾いた方向に直線偏光したプローブ光とを、いずれか一方の光を時間遅延回路により時間遅延させた状態で固体試料に照射し、励起パルス光により反射率あるいは透過率が変化した固体試料において反射あるいは透過されたプローブ光の強度を測定する方法において、時間遅延回路上の時間遅延発生装置における反復動作を、高速リニアスキャンを用いて20Hz以上100Hz以下の高速で行い、かつ固体試料に照射した後フォトダイオードで受光したプローブ光の光電流出力の信号を電流増幅器に取り込んで増幅し、さらにその増幅された信号を、デジタルオシロスコープにおいて時間遅延発生装置からの位置信号によりトリガーすることでそのデジタルオシロスコープ上に記録することを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0011】
第2には、この出願の発明は、第1の発明においてプローブ光を時間遅延させることを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0012】
第3には、この出願の発明は、第1または2の発明において、フォトダイオードがSi−PINダイオードであることを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0013】
第4には、第1ないし3いずれかの発明において、時間遅延発生装置におけるスキャンの振幅が20μm以上200mm以下であって、スキャン周波数が0.1Hz以上1kHz以下であることを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0014】
さらに、第5には、第1ないし4いずれかの発明において、時間遅延発生装置におけるスキャンの振幅が1mm以上5mm以下であってスキャンの周波数が20Hz以上100Hz以下であることを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0015】
また第6には、第1ないし5のいずれかの発明において、反射率80%以上の金属ミラーコーティングを施したレトロミラーが時間遅延回路に組み込まれ、パルス幅1フェムト秒以上200フェムト秒以下、パルスエネルギー1pJ以上1J以下、波長200nm以上2000nm以下のフェムト秒レーザパルス光を、このレトロミラーにより入射光と同方向に反射することを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0016】
第7には、第1ないし6いずれかの発明において、時間遅延発生装置の電圧値である位置信号をデジタルオシロスコープにより記録し、この電圧波形を、
(時間軸)=(位置信号の電圧値)×(位置信号の感度)
の式を用いて実時間の値に変換し、これをプローブ光の反射率信号あるいは透過率信号の時間軸とすることを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0017】
第8には、第1ないし7いずれかの発明において、フォトダイオードからの光電流出力の信号を電流増幅器に取り込んで104〜108倍に増幅し、その後その信号を高速デジタルオシロスコープにおいて時間遅延発生装置からの位置信号をトリガーとして1〜10000回積算記録することを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0018】
第9には、第1ないし8いずれかの発明において、電流増幅器において増幅する信号にバンドパスフィルターをかけることを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0019】
第10には、第1ないし9いずれかの発明において、半金属、金属、半導体、誘電体、分子性結晶の固体試料ならびにそれらの混晶、超格子、微結晶、ナノ結晶の試料のコヒーレントな電子励起状態やフォノン励起状態による試料の反射率変化あるいは透過率変化を時間分解測定することを特徴とする物質の光応答を測定する方法を提供する。
【0020】
第11には、第1ないし10いずれかの発明の物質の光応答を測定する方法に用いられる装置であって、少なくともフェムト秒レーザパルス光を発振するレーザ光源と、高速リニアスキャンを備えた時間遅延回路と、固体試料に照射された後のプローブ光を受光するフォトダイオードと、フォトダイオードで受光したプローブ光の光電流出力の信号を取り込んで増幅する電流増幅器と、その増幅された信号が高速リニアスキャンからの位置信号によりトリガーされかつ記録されるデジタルオシロスコープとを備えていることを特徴とする物質の光応答を測定する装置をも提供する。
【0021】
第12には、第11の発明において、フォトダイオードがSi−PINダイオードであることを特徴とする物質の光応答を測定する装置を提供する。
【0022】
第13には、第11または12の発明において、反射率80%以上の金属ミラーコーティングを施したレトロミラーが時間遅延回路に組み込まれていることを特徴とする物質の光応答を測定する装置を提供する。
【0023】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0024】
この出願の発明の物質の光応答を測定する方法は、フェムト秒レーザパルス光であって直線偏光しかつ変調された励起パルス光と、フェムト秒レーザパルス光であって励起パルス光の偏光方向と直交した方向もしくは45°傾いた方向に直線偏光したプローブ光とを、いずれか一方の光を時間遅延回路により時間遅延させた状態で固体試料に照射し、励起パルス光により反射率あるいは透過率が変化した固体試料において反射あるいは透過されたプローブ光の強度を測定する、いわゆるポンプ&プローブ分光法に関するものであって、とくに時間遅延回路上の時間遅延発生装置における励起パルス光とプローブ光のいずれか一方の光の時間遅延のための反復動作を、ドイツAPE社製のMINIなどの高速リニアスキャンを用いて20Hz以上100Hz以下の高速で行い、プローブ光を固体試料に照射した後にフォトダイオードで受光し、そのプローブ光の光電流出力の信号を、米国Stanford Research Systems 社製SR−530などの電流増幅器に取り込んで増幅し、その信号をデジタルオシロスコープにおいて時間遅延発生装置からの位置信号によりトリガーすることでデジタルオシロスコープ上に記録することを大きな特徴としている。
【0025】
このとき、時間遅延回路においては励起パルス光とプローブ光の相対的な時間遅延が生じればよいことから、励起パルス光とプローブ光のどちらか一方の光を時間遅延させればよく、励起パルス光をプローブ光よりも時間遅延させることも可能であるが、通常はプローブ光を励起パルス光よりも時間遅延させる。
【0026】
また、プローブ光を受光するフォトダイオードとしては、他のフォトダイオードに比べて高速の光応答性を有するSi−PINフォトダイオードを用いるのが望ましいが、もちろんSi−PINフォトダイオード以外のフォトダイオードを用いても実施可能である。
【0027】
このとき時間遅延発生装置におけるスキャンの振幅を20μm以上200mm以下とし、スキャン周波数を0.1Hz以上1kHz以下として高速スキャンを行うことが望ましく、とくにスキャンの振幅を1mm以上5mm以下としスキャン周波数を20Hz以上100Hz以下とすることによりさらに物質の光応答を測定するのに適した高速スキャンを行うことができる。
【0028】
すなわち、時間遅延発生装置において上記のように高速リニアスキャンを用いることによって、これまでのスロースキャン法においては時間分解信号のS/N比の向上のため100回の反復を行うのに100分以上かかっていたものを、スキャン周波数20Hzの場合に5秒で終了することができ、従来のスロースキャンの積算速度に比べると約1200倍にもなるのである。
【0029】
また、この出願の発明の物質の光応答を測定する方法において、反射率80%以上の金属ミラーコーティングを施したレトロミラーが、時間遅延回路、より具体的には時間遅延回路上の時間遅延発生装置に組み込まれ、パルス幅1フェムト秒以上200フェムト秒以下、パルスエネルギー1pJ以上1J以下、波長200nm以上2000nm以下のフェムト秒レーザパルス光が、このレトロミラーにより入射光と同方向に反射される。
【0030】
このレトロミラーはフェムト秒レーザパルス光である励起パルス光もしくはプローブ光の時間遅延を精度良く与えるためのものであって、もしフェムト秒レーザパルス光が入射方向と同じ方向に反射されなければ、時間遅延発生装置を動作させた際にレーザパルス光の位置にブレが生じ、これにより試料上でのレーザパルス光の光照射位置に狂いが生じてしまい、結果として信号取得の精度が大幅に減少してしまうのである。
【0031】
そしてこのとき、時間遅延発生装置の電圧値である位置信号をデジタルオシロスコープにより記録し、この電圧波形を(時間軸)=(位置信号の電圧値)×(位置信号の感度)の式を用いて実時間の値に変換し、これをプローブ光の反射率信号あるいは透過率信号の時間軸とすることができ、また、フォトダイオードからの光電流出力の信号を電流増幅器において104〜108倍に増幅し、その後、その信号を、高速デジタルオシロスコープによって時間遅延発生装置からの位置信号をトリガーとすることで1〜10000回積算記録することにより、反復の時間を大幅に減らすことができる。さらに電流増幅器において増幅する信号にバンドパスフィルターをかけることでS/N比の向上を助け、たとえば、3Hzから300kHzのバンドパスフィルターを用いることにより、低周波のノイズと高周波ノイズを低減することができる。
【0032】
また、この出願の発明においては、半金属、金属、半導体、誘電体、分子性結晶の固体試料ならびにそれらの混晶、超格子、微結晶、ナノ結晶の試料のコヒーレントな電子励起状態やフォノン励起状態による試料の反射率変化あるいは透過率変化を時間分解測定できる。
【0033】
さらに、上記のようなこの出願の発明の光応答を測定する方法に用いられる装置として、少なくとも、フェムト秒レーザパルス光を発振するレーザ光源と、時間遅延発生装置として高速リニアスキャンを備えた時間遅延回路と、固体試料に照射された後のプローブ光を受光するフォトダイオードと、フォトダイオードで受光したプローブ光の光電流出力の信号を取り込んで増幅する電流増幅器と、その信号を高速リニアスキャンからの位置信号によりトリガーし記録するデジタルオシロスコープとを備えた物質の光応答を測定する装置を用いることができる。このとき、フォトダイオードとしては他のフォトダイオードに比べて高速の光応答性を有するSi−PINフォトダイオードを用いるのが望ましい。さらにその装置において、反射率80%以上の金属ミラーコーティングを施したレトロミラーが時間遅延回路に組み込むことも可能である。
【0034】
上記のようにこの出願の発明の物質の光応答を測定する方法および装置を用いることで、時間遅延発生装置における高速の反復動作、電流増幅器およびデジタルオシロスコープを組み合わせることによって、従来のスロースキャンの積算速度に比べて約1200倍もの積算速度が得られるとともに、固体の反射率または透過率変化をΔR/R=10−7(ΔT/T=10−7)の大きさまで測定することが可能となる程度までS/N比を向上させることができるのである。このとき、信号のノイズレベルは10−8に相当する。
【0035】
また、この出願の発明の方法および装置を用いることで、半金属、半導体、金属、誘電体などの光物性、とくに光応答特性を正確に決めることができるほか、いままで測定が困難であったSiの励起状態の緩和信号を測定することが可能となるため、実用材料であるSi半導体デバイスなどの光応答特性を測定することなどにも応用することができる。
【0036】
ここでこの出願の発明の物質の光応答測定方法の原理を図1および図2に示す。
【0037】
図1はこの出願の発明の物質の光応答測定装置の全体図の一例であり、まずレーザ光源(1)から発振されたフェムト秒レーザパルス光(2)をミラー(3)で反射させた後ビームスプリッタ(4)により分割して一方を励起パルス光(5)とし他方をプローブ光(6)とする。
【0038】
励起パルス光(5)は波長板(7)を通過し45°ミラー(8)を含めた複数のミラー(3)によって反射されることで進行方向を変え、レンズ(9)で集光された後固体試料(10)に照射される。
【0039】
一方プローブ光(6)は偏光子(11)を通ってレトロミラー(12)を備えた時間遅延発生装置(13)に到達し、そこで時間遅延が行われ、その後励起パルス光(5)と同様にミラー(3)で反射されレンズ(9)で集光された後、固体試料(10)に照射される。
【0040】
より具体的には、図2の要部拡大図に示すように、レトロミラー(12)を備えたフェムト秒レーザパルス光の時間分解反射率(透過率)測定の時間遅延発生装置(13)においてプローブ光(探査光)(6)の時間遅延を高速リニアスキャンにより与える。そのときのスキャン周波数は20Hz以上100Hz以下とする。このとき時間遅延発生装置(13)からの位置信号(14)はトリガー信号として高速デジタルオシロスコープ(15)に送られる。
【0041】
図3にこの位置信号(14)の波形の一例を実線の正弦波で示す。時間遅延発生装置(13)の位置信号(14)の感度が1.5ps/Vであったので、位置信号波形(電圧値)にこの感度を掛け合わせることにより実際の遅延時間に変換することができ、その実時間への変換結果を点線で示している。
【0042】
高速スキャンにより励起パルス光(5)に対してある遅延時間を与えられたプローブ光(6)は、固体試料(10)によって反射あるいは透過した後、図1に示すように、レンズ(16)を通ってSi−PINフォトダイオード(17)に取り込まれる。このSi−PINフォトダイオード(17)からの光電流出力の信号を電流増幅器(18)に入力しここで信号を104〜108倍程度増幅する。
【0043】
このとき増幅する信号に3Hz〜300kHzのバンドパスフィルターを用いることにより、低周波ノイズと高周波ノイズを低減することができる。
【0044】
電流増幅器(18)から出力された信号は高速デジタルオシロスコープ(15)に入力され、ここでこの信号は予め入力されている時間遅延発生装置(13)からのトリガー信号により時間軸がトリガーされる。この状態で高速デジタルオシロスコープ(15)内の積算機能を用いて信号を100回以上積算する。
【0045】
以上のような物質の光応答を測定する方法および装置を用いることにより、レーザパルス励起により生じた固体の非平衡キャリアおよび非平衡格子振動による固体の反射率または透過率変化を高速且つS/N比良く測定することが可能となるのである。
【0046】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0047】
【実施例】
<実施例1>
図4に半導体Siにおいて実際に得られた時間分解反射率信号を示す。励起光強度は52mW(0.65nJ/pulse)、レーザ波長は400nm、レーザパルスの幅は約10fsであり、積算回数は1500回である。また信号の時間微分を取ることによって光励起キャリアによる遅い信号成分を消去している。振動成分は位相の揃った格子振動(コヒーレントフォノン)に対応する。このコヒーレントフォノンによる反射率変化の値は2×10−6と非常に小さい。この振動モードは光学フォノンに対応し、この周波数は図4の右上挿入図のグラフのフーリエ変換スペクトルから明らかなように、約15.2THzである。これは時間周期に変換すると約66fsになる。
【0048】
したがってこの出願の発明によってこれまで困難であった反射率(ΔR/R)にして10−7程度の半導体シリコンのフォノン励起状態の時間分解測定が高速且つS/N比良く(信号のノイズレベル:10−8)測定されることが可能となったのである。
【0049】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、レーザパルス励起により生じた固体の非平衡キャリアおよび非平衡格子振動による固体の反射率または透過率変化を高速且つS/N比良く測定することのできる、物質の光応答を測定する方法および装置が提供される。
【0050】
そしてこの出願の発明を用いることにより、実用材料であるSi半導体デバイスなどの光応答特性を測定することや、テラヘルツ帯域(1012Hz)の電磁波発生デバイスに用いられる低温成長GaAsのキャリア寿命を感度良く測定することにも応用することができるようになる。
【0051】
またこの出願の発明の物質の光応答を測定する装置はシステム構成が分かりやすく汎用性のある電流増幅器、デジタルオシロスコープ、高速リニアスキャンを組み合わせるため、システムの立ち上げに複雑な準備を必要とせず、また測定時間が短縮化されているため、効率の良い物性評価装置としての実用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の物質の光応答を測定する装置の全体を例示した概念図である。
【図2】この発明の物質の光応答を測定する装置の要部を例示した概念図である。
【図3】この発明における時間遅延を校正する方法を示したグラフである。
【図4】この発明の手法を用いて得られた半導体Siのコヒーレントフォノンによる時間分解反射率変化およびフォノン信号のフーリエ変換スペクトルを示した図である。
【符号の説明】
1 レーザ光源
2 フェムト秒レーザパルス光
3 ミラー
4 ビームスプリッタ
5 励起パルス光
6 プローブ光
7 波長板
8 45°ミラー
9 レンズ
10 固体試料
11 偏光子
12 レトロミラー
13 時間遅延発生装置
14 位置信号
15 (高速)デジタルオシロスコープ
16 レンズ
17 Si−PINフォトダイオード
18 電流増幅器
Claims (13)
- フェムト秒レーザパルス光であって直線偏光しかつ変調された励起パルス光と、フェムト秒レーザパルス光であって励起パルス光の偏光方向と直交した方向もしくは45°傾いた方向に直線偏光したプローブ光とを、いずれか一方の光を時間遅延回路により時間遅延させた状態で固体試料に照射し、励起パルス光により反射率あるいは透過率が変化した固体試料において反射あるいは透過されたプローブ光の強度を測定する方法において、時間遅延回路上の時間遅延発生装置における反復動作を、高速リニアスキャンを用いて20Hz以上100Hz以下の高速で行い、かつ固体試料に照射した後フォトダイオードで受光したプローブ光の光電流出力の信号を電流増幅器に取り込んで増幅し、さらにその増幅された信号を、デジタルオシロスコープにおいて時間遅延発生装置からの位置信号によりトリガーすることでそのデジタルオシロスコープ上に記録することを特徴とする物質の光応答を測定する方法。
- プローブ光を時間遅延させることを特徴とする請求項1記載の物質の光応答を測定する方法。
- フォトダイオードがSi−PINダイオードであることを特徴とする請求項1または2記載の物質の光応答を測定する方法。
- 時間遅延発生装置におけるスキャンの振幅が20μm以上200mm以下であって、スキャン周波数が0.1Hz以上1kHz以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。
- 時間遅延発生装置におけるスキャンの振幅が1mm以上5mm以下であってスキャンの周波数が20Hz以上100Hz以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。
- 反射率80%以上の金属ミラーコーティングを施したレトロミラーが時間遅延回路に組み込まれ、パルス幅1フェムト秒以上200フェムト秒以下、パルスエネルギー1pJ以上1J以下、波長200nm以上2000nm以下のフェムト秒レーザパルス光を、このレトロミラーにより入射光と同方向に反射することを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。
- 時間遅延発生装置の電圧値である位置信号をデジタルオシロスコープにより記録し、この電圧波形を、
(時間軸)=(位置信号の電圧値)×(位置信号の感度)
の式を用いて実時間の値に変換し、これをプローブ光の反射率信号あるいは透過率信号の時間軸とすることを特徴とする請求項1ないし6いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。 - フォトダイオードからの光電流出力の信号を電流増幅器に取り込んで104〜108倍に増幅し、その後その信号を高速デジタルオシロスコープにおいて時間遅延発生装置からの位置信号をトリガーとして1〜10000回積算記録することを特徴とする請求項1ないし7いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。
- 電流増幅器において増幅する信号にバンドパスフィルターをかけることを特徴とする請求項1ないし8いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。
- 半金属、金属、半導体、誘電体、分子性結晶の固体試料ならびにそれらの混晶、超格子、微結晶、ナノ結晶の試料のコヒーレントな電子励起状態やフォノン励起状態による試料の反射率変化あるいは透過率変化を時間分解測定することを特徴とする請求項1ないし9いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法。
- 請求項1ないし10いずれかに記載の物質の光応答を測定する方法に用いられる装置であって、少なくともフェムト秒レーザパルス光を発振するレーザ光源と、高速リニアスキャンを備えた時間遅延回路と、固体試料に照射された後のプローブ光を受光するフォトダイオードと、フォトダイオードで受光したプローブ光の光電流出力の信号を取り込んで増幅する電流増幅器と、その増幅された信号が高速リニアスキャンからの位置信号によりトリガーされかつ記録されるデジタルオシロスコープとを備えていることを特徴とする物質の光応答を測定する装置。
- フォトダイオードがSi−PINダイオードであることを特徴とする請求項11記載の物質の光応答を測定する装置。
- 反射率80%以上の金属ミラーコーティングを施したレトロミラーが時間遅延回路に組み込まれていることを特徴とする請求項11または12記載の物質の光応答を測定する装置。
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