JP2004225105A - 深絞り性に優れる加工用薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】引張強度が380〜540MPa級の深絞り性に優れる加工用薄鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】C =0.05〜0.2%、Si=0.01〜0.3%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.01〜2%、を含み、さらにSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板および該成分を有する鋼片を粗圧延後にAr3変態点温度以上Ar3変態点+100℃以下の温度域で仕上圧延を終了し、350℃以上450℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】C =0.05〜0.2%、Si=0.01〜0.3%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.01〜2%、を含み、さらにSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板および該成分を有する鋼片を粗圧延後にAr3変態点温度以上Ar3変態点+100℃以下の温度域で仕上圧延を終了し、350℃以上450℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は加工用薄鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に380〜540MPa級の引張強度であっても軟鋼板並みの深絞り性を得ることができる。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上などのために軽量化を目的として、Al合金等の軽金属や高強度鋼板の自動車部材への適用が進められている。ただし、Al合金等の軽金属は比強度が高いという利点があるものの鋼に比較して著しく高価であるためその適用は特殊な用途に限られている。従ってより安価かつ広い範囲に自動車の軽量化を推進するためには鋼板の高強度化が必要とされている。
材料の高強度化は一般的に成形性(加工性)等の材料特性を劣化させるため、材料特性を劣化させずに如何に高強度化を図るかが高強度鋼板開発のカギになる。特に内板部材、構造部材、足廻り部材用鋼板に求められる特性としては成形性、疲労耐久性および耐食性等が重要であり高強度とこれら特性を如何に高次元でバランスさせるかが重要である。
【0003】
しかしながら、現状で270〜340MPa級程度の軟鋼板が使われている部材に590MPa級以上の高強度鋼板を適用することはプレス現場での操業、設備改善の前提なしでは難しく、当面は380〜540MPa級程度の鋼板の使用がより現実的な解決策となる。
380〜540MPaの強度範囲で優れた成形性(加工性)を得るための技術的アプローチは大きく分けて二通り考えられる。
一つは、RHやDHなどの真空脱ガス技術の発展にともない鋼中の固溶元素を低減し高純度化して成形性を向上させた鋼として低炭素Alキルド鋼に代わって軟鋼板に広く用いられるようになった極低炭素鋼やさらにTi、Nb等の添加によって鋼中の固溶C、Nをscavengingすることで飛躍的に成形性(延性および深絞り性)を向上させたInterstitial atoms Free steel(以下IF鋼)の技術を応用し、Mn、P、Si等の固溶強化元素で強化する方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
もう一つは、鋼のミクロ組織中に残留オーステナイトを含むことで成形中にTRIP(TRansformation Induced Plasticity)現象を発現させることで飛躍的に成形性(延性および深絞り性)を向上させたTRIP鋼{非特許文献1:塑性と加工、35巻、404号、(1994−09)、p1109〜1114 、“深絞り成形性に及ぼす加工誘起変態の効果 (TRIP型高強度鋼板の成形機構)”、樋渡 俊二、高橋 学、片山 知久、臼田 松男}がある。(例えば、特許文献2または3参照。)。
しかし、上記に開示されている技術は以下の理由によって380〜540MPaの強度範囲で優れたプレス成形性を得るためには不十分である。
前者は、270〜340MPaの強度範囲では50%前後の高い破断伸びと優れた深絞り性(高r値)を示すが、Mn、P、Si等の固溶強化元素で強化すると高純度化の効果が失われ急激に延性が劣化し、440MPa程度の強度レベルでは36%前後の破断伸びである。
一方、後者は残留オーステナイトのTRIP現象で590MPa程度の強度レベルでは35%を超える破断伸びと優れた深絞り性(LDR:限界絞り比)を示すが、380〜540MPaの強度範囲の鋼板を得るためには必然的にC,Si,Mn等の元素を低減させなければならずC,Si,Mn等の元素を380〜540MPaの強度範囲のレベルまで低減するとTRIP現象を得るために必要な残留オーステナイトを室温でミクロ組織中に保つことができない。
【0005】
【特許文献1】特公昭59−42742号公報
【特許文献2】特開2000−169935号公報
【特許文献3】特開2000−169936号公報
【非特許文献1】塑性と加工、35巻、404号、(1994−09)、p1109〜1114 、“深絞り成形性に及ぼす加工誘起変態の効果 (TRIP型高強度鋼板の成形機構)”、樋渡 俊二、高橋 学、片山 知久、臼田 松男
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、380〜540MPa級の強度範囲であっても安定して38%以上の延びもしくは17000MPa・%以上の強度−延性バランス(引張強度×破断伸び)かつ優れた深絞り性(LDR:限界絞り比)が得られる加工用薄鋼板およびその製造方法に関する。すなわち、本発明は、加工用薄鋼板およびその鋼板を安価に安定して製造できる方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、現在通常に採用されている製造設備により工業的規模で生産されている380〜540MPa級鋼板の製造プロセスを念頭において、380〜540MPa級の強度範囲であっても安定して38%以上の延びもしくは17000MPa・%以上の強度−延性バランスかつ優れた深絞り性(LDR)を得るべく鋭意研究を重ねた。
その結果、C =0.05〜0.2%、Si=0.01〜0.3%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.05〜2%、を含み、さらにSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることが非常に有効であることを新たに見出し、本発明をなしたものである。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 質量%にて、C =0.05〜0.2%、Si=0.01〜0.3%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.01〜2%、を含み、さらにSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(2) (1)に記載の鋼が、さらに、質量%にて、Mo≦1%、V ≦0.2%の一種または二種以上をSi+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)V≧0.3%を満たす範囲で含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(3) (1)または(2)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに質量%にて、Ca=0.0005〜0.002%、REM=0.0005〜0.02%を含有することを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(4) (1)ないし(3)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、B =0.0002〜0.002%を含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(5) (1)ないし(4)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、Ti=0.01〜0.1%、Nb=0.01〜0.1%、Cu=0.2〜1.2%、Ni=0.1〜0.6%、Cr=0.01〜1%、Zr=0.02〜0.2%の一種または二種以上を含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
【0009】
(6) (1)ないし(5)のいずれか1項に記載の加工用薄鋼板に亜鉛めっきが施されていることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(7) (1)ないし(6)のいずれか1項に記載の成分を有する加工用薄鋼板を得るための熱間圧延する際に、該成分を有する鋼片を粗圧延後にAr3変態点温度以上Ar3変態点+100℃以下の温度域で仕上圧延を終了し、350℃以上450℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(8) (7)に記載の熱間圧延に際し、鋼片を粗圧延終了した後の粗バーを仕上げ圧延開始までの間、および/または粗バーの仕上圧延中に加熱することを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(9) (7)または(8)のいずれか1項に記載の熱間圧延に際し、粗圧延終了から仕上圧延開始までの間にデスケーリングを行うことを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(10) (7)または(9)のいずれか1項に記載の熱間圧延後、得られた熱延鋼板を酸洗、冷間圧延後、Ac1変態点温度以上Ac3変態点温度以下での焼鈍を行い、冷却することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(11) (7)ないし(9)のいずれか1項に記載の熱間圧延後、得られた熱延鋼板を亜鉛めっき浴中に浸積させて鋼板表面を亜鉛めっきすることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(12) (10)に記載の製造方法に際し、焼鈍後、亜鉛めっきすることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(13) (11)または(12)に記載の製造方法に際し、亜鉛めっき後、合金化処理することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の化学成分の限定理由について説明する。
Cは、所望のミクロ組織を得るのに必要な元素である。ただし、0.2%超含有すると溶接性が劣化するので0.2%以下とする。また、0.15%超含有していると強度を下げるために他の必要元素を制限しなければならないので、0.15%以下が望ましい。一方、0.01%未満である良好な延性を得るための十分な残留オーステナイト量を安定的に得ることができないため0.01%以上とする。
Siは、炭化物の析出を抑制し所望のミクロ組織を得るのに有効な元素であるので0.01%以上含有する必要がある。一方、Siは、固溶強化能が大きく過剰な添加は強度上昇を招いてしまい、さらに、化成処理性、めっき性を考慮すると少ないほど好ましいので、その添加量の含有量の上限は0.3%とする。
Mnは、オーステナイトを安定化し所望のミクロ組織を得るのに有効な元素であるので0.1%以上含有する必要がある。また、Mn以外にSによる熱間割れの発生を抑制するTiなどの元素が十分に添加されない場合には質量%でMn/S≧20となるMn量を添加することが望ましい。一方、2%超添加すると強度上昇により加工性が劣化するため、2%以下とする。
【0011】
Pは、不純物であり低いほど望ましく、0.1%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.1%以下とする。
Sは、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、多すぎると穴拡げ性を劣化させるA系介在物を生成するので極力低減させるべきであるが、0.03%以下ならば許容できる範囲である。
Alは、溶鋼脱酸のために通常添加されているが、本発明において重要な元素の一つである。AlはSiと同様に炭化物の析出を抑制する効果があり、かつ、Siと違い固溶強化能が小さいので、鋼板の強度を上昇させずに所望のミクロ組織を得るのに有効な元素である。従って、0.01%以上、かつSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲で添加する必要がある。ただし、あまり多量に添加するとタンディッシュノズルが詰まりやすくなるため、その上限を2%とする。さらに、Alは非金属介在物を増大させ伸びを劣化させるので望ましくは1.5%以下とする。
【0012】
MoおよびVは、セメンタイトにほとんど固溶しないためSiと同様に炭化物の析出を抑制する効果があるので必要に応じて添加する。この効果を得るためにはSi+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)V≧0.3%を満たす必要がある。一方、Moは1%超添加してもその効果が飽和するだけでなく、非常に高価でもあるためにその上限を1%とする。Vも0.2%超添加してもその効果が飽和するのでその上限を0.2%とする。
Bは、固溶Nを固定し耐時効性を向上させる効果があるので必要に応じ添加する。ただし、0.0002%未満ではその効果を得るために不十分であり、0.002%超添加するとスラブ割れが起こる。よって、Bの添加は、0.0002%以上、0.002%以下とする。
CaおよびREMは、破壊の起点となったり、加工性を劣化させる非金属介在物の形態を変化させて無害化する元素である。ただし、0.0005%未満添加してもその効果がなく、Caならば0.002%超、REMならば0.02%超添加してもその効果が飽和するのでCa=0.0005〜0.002%、REM=0.0005〜0.02%添加することが望ましい。
【0013】
さらに、強度を付与するために、Ti、Nb、Cu、Ni、V、Zrの析出強化もしくは固溶強化元素の一種または二種以上を添加してもよい。ただし、それぞれ、0.01、0.01、0.2、0.1、0.01、0.02未満ではその効果を得ることができない。また、それぞれ、0.1%、0.1%、1.2%、0.6%、1%、0.2%を超え添加してもその効果は飽和する。
なお、これらを主成分とする鋼にSn、Co、Zn、W、を合計で1%以下含有しても構わない。しかしながらSnは熱間圧延時に疵が発生する恐れがあるので0.05%以下が望ましい。
次に、本発明における鋼板のミクロ組織であるが、優れた深絞り性(LDR)と延性を得るために、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることが必要である。さらに優れた延性を確保するためには体積分率3%以上の残留オーステナイトが含まれることが望ましい。ここで、残留オーステナイトの体積分率の上限は、380〜540MPaの範囲に強度を抑えるため必然的にC,Si,Mn等の合金添加量が制限されるが、その合金添加範囲で得られる残留オーステナイト体積分率とした。また、ベイナイトを含む第二相は、本発明の強度範囲である380〜540MPaとするためには、20%以下が望ましい。さらに望ましくは10%以下である。
【0014】
なお、残留オーステナイト、ベイナイトの体積分率とは鋼板板幅の1/4Wもしくは3/4W位置より切出した試料を圧延方向断面に研磨し、ナイタール試薬および特開平5−163590号公報で開示されている試薬を用いてエッチングし、光学顕微鏡を用い200〜500倍の倍率で観察された板厚の1/4tにおけるミクロ組織をポイントカウント法等により見積もった面積分率で定義される。
一方、オーステナイトはフェライトと結晶構造が違うため結晶学的に容易に識別できる。従って、残留オーステナイトの体積分率はX線回折法によっても実験的に求めることができる。すなわち、MoのKα線を用いてオーステナイトとフェライトとの反射面強度の違いより次式を用いてその体積分率を簡便に求める方法である。
Vγ=(2/3){100/(0.7×α(211)/γ(220)+1)}+(1/3){100/(0.78×α(211)/γ(311)+1)}
ただし、α(211)、γ(220)およびγ(311)は、それぞれフェライト(α)オーステナイト(γ)のX線反射面強度である。
【0015】
残留オーステナイトの体積分率は光学顕微鏡観察およびX線回折法のいずれの方法を用いてもほぼ一致した値が得られたので、いずれの測定値を用いても差し支えない。
続いて、本発明の製造方法の限定理由であるが、本発明は、鋳造後、熱間圧延後冷却ままもしくは熱間圧延後、熱間圧延後冷却・酸洗し冷延した後に熱処理、あるいは熱延鋼板もしくは冷延鋼板を溶融めっきラインにて熱処理を施したまま、更にはこれらの鋼板に別途表面処理を施すことによっても得られる。
本発明において熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉、転炉や電炉等による溶製に引き続き、各種の2次精練で目的の成分含有量になるように成分調整を行い、次いで通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。原料にはスクラップを使用しても構わない。連続鋳造よって得たスラブの場合には高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもよいし、室温まで冷却後に加熱炉にて再加熱した後に熱間圧延してもよい。
【0016】
スラブ再加熱温度については特に制限はないが、1400℃以上であると、スケールオフ量が多量になり歩留まりが低下するので、再加熱温度は1400℃未満が望ましい。また、1000℃未満の加熱ではスケジュール上操業効率を著しく損なうため、スラブ再加熱温度は1000℃以上が望ましい。さらには、1100℃未満の加熱ではスケールオフ量が少なくスラブ表層の介在物をスケールと共に後のデスケーリングによって除去できなくなる可能性が、スラブ再加熱温度は1100℃以上が望ましい。
熱間圧延工程は、粗圧延を終了後、仕上げ圧延を行うが、仕上げ圧延終了温度(FT)をAr3変態点温度+40℃以上とするためには少なくとも仕上げ圧延噛込み温度がAr3変態点温度+150℃以上であることが望ましい。ただし、粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上圧延中に粗バーまたは圧延材を加熱する場合は、この限りではなく仕上げ圧延噛込み温度がAr3変態点温度+100℃以上であるように加熱すればよい。さらに望ましくはAr3変態点温度+150℃以上である。
【0017】
粗圧延終了から後の粗バーを仕上げ圧延開始までの間、および/または粗バーの仕上げ圧延中に加熱は必要に応じて行う。特に本発明のうちでも優れた破断延びを安定して得るためにはMnS等の微細析出を抑制することが有効である。通常、MnS等の析出物は1250℃程度のスラブ再加熱で再固溶が起こり、後の熱間圧延中に微細析出する。従って、スラブ再加熱温度を1150℃程度に制御しMnS等の再固溶を抑制できれば延性を改善できる。ただし、圧延終了温度を本発明の範囲にするためには粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中での粗バーまたは圧延材の加熱が有効な手段となる。
粗圧延終了と仕上げ圧延開始の間にデスケーリングを行う場合は、鋼板表面での高圧水の衝突圧P(MPa)×流量L(リットル/cm2)≧0.0025の条件を満たすことが望ましい。
【0018】
鋼板表面での高圧水の衝突圧Pは以下のように記述される。(「鉄と鋼」1991 vol.77 No.9 p1450参照)
P(MPa)=5.64×P0×V/H2
ただし、
P0(MPa):液圧力
V(リットル/min):ノズル流液量
H(cm):鋼板表面とノズル間の距離
流量Lは以下のように記述される。
L(リットル/cm2)=V/(W×v)
ただし、
V(リットル/min):ノズル流液量
W(cm):ノズル当たり噴射液が鋼板表面に当たっている幅
v(cm/min):通板速度
衝突圧P×流量Lの上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、ノズル流液量を増加させるとノズルの摩耗が激しくなる等の不都合が生じるため、0.02以下とすることが望ましい。
【0019】
さらに、仕上げ圧延後の鋼板表面の最大高さRyがJIS B 0601で定義するところの15μm(最大高さ15μm,基準長さ2.5mm,評価長さ12.5mm)以下であることが望ましい。これは、例えば金属材料疲労設計便覧、日本材料学会編、84ページに記載されている通り熱延または酸洗ままの鋼板の疲労強度は鋼板表面の最大高さRyと相関があることから明らかである。また、その後の仕上げ圧延はデスケーリング後に再びスケールが生成してしまうのを防ぐために5秒以内に行うのが望ましい。
また、粗圧延と仕上げ圧延の間にシートバーを接合し、連続的に仕上げ圧延をしてもよい。その際に粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行ってもよい。
【0020】
仕上げ圧延は、熱延鋼板として最終製品にする場合においては、その仕上げ圧延後半にAr3変態点温度+100℃以下の温度域で合計圧下率25%以上の圧延を行うことが望ましい。ここでAr3変態点温度とは、例えば以下の計算式により鋼成分との関係で簡易的に示される。すなわち
Ar3=910−310×%C+25×%Si−80×%Mn−80×%Mo+40×%Al
仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温未満であるとα+γの二相域圧延となる可能性があり圧延後のフェライト粒に加工組織が残留し延性が劣化する恐れがあるのでAr3変態点温度以上とする。一方、Ar3変態点温度+100℃超であるとフェライト変態によるオーステナイトへのC等の濃化が不十分となり所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがあるのでAr3変態点温度+100℃以下とする。
【0021】
仕上げ圧延後に所定の巻取温度(CT)で巻き取るまでの冷却は、本発明では特に規定しないが、冷却開始は仕上げ圧延終了後5秒以降15秒以内に開始する。5秒より短いと十分なフェライト変態が進行せず、所望するミクロ組織が得られなくなり、15秒を超えるとパーライト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。また、冷却速度は10℃/sec以上とする。冷却速度が10℃/sec未満ではパーライト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。従って、所定の巻取温度(CT)で巻き取るまでの冷却は5秒以降15秒以内に開始し、冷却速度は10℃/sec以上が望ましい。さらに望ましくは20℃/sec以上である。
【0022】
本発明において巻取温度(CT)は350℃以上450℃以下とする。350℃未満では、マルテンサイト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。従って、巻取温度(CT)は350℃以上と限定する。一方、450℃超では、巻取後にパーライト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。従って、巻取温度(CT)は450℃以下と限定する。
熱間圧延工程終了後は必要に応じて酸洗し、その後インラインまたはオフラインで圧下率10%以下のスキンパスまたは圧下率40%程度までの冷間圧延を施しても構わない。
次に、冷延鋼板として最終製品にする場合であるが、熱間での仕上げ圧延条件は特に限定しない。仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度未満としても差し支えないが、その場合は、圧延前もしくは圧延中に析出したフェライトに強い加工組織が残留するため、続く巻取処理または加熱処理により回復、再結晶させることが望ましい。ただし、より良好な延性を得るためには、仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度+40℃以上であることが望ましい。
【0023】
続く酸洗後に冷間圧延された鋼板の熱処理は連続焼鈍工程を前提としている。
まず、熱処理はAc1変態点温度以上Ac3変態点温度以下の温度域で行う。ここでAc3変態点、Ac1変態点温度とは、例えばレスリー鉄鋼材科学(1985年発行、熊井浩 野田龍彦訳、丸善株式会社)273頁に記載の計算式により鋼成分との関係で示される。(当該式のAlの項は除外する。)このとき、その温度域内でも低温すぎると、熱延板段階でセメンタイトが析出していた場合、セメンタイトが再固溶するのに時間がかかりすぎ、高温すぎるとオーステナイトの体積率が大きくなりすぎてオーステナイト中のC濃度が低下し、炭化物を多量に含むベイナイトもしくはパーライト変態のノーズにかかりやすくなるため、750℃以上900℃以下で加熱するのが好ましい。保持時間は5〜150秒間が望ましい。保持時間は短いほど生産性が良いが、5秒未満ではフェライトとオーステナイトの体積分率が定常状態に達しない恐れがある。また、150秒保持すれば二相分率がほぼ安定する。従って保持時間は5〜150秒間が望ましい。保持後の冷却速度は20℃/s未満では、炭化物を多量に含むベイナイトもしくはパーライト変態のノーズにかかる恐れがあるため、20℃/s以上の冷却速度が望ましい。
【0024】
次にベイナイト変態を促進し必要な量の残留オーステナイトを安定化する工程であるが、冷却終了温度が450℃以上では残留したオーステナイトが炭化物を多量に含むベイナイトまたはパーライトに分解してしまい、所望するミクロ組織が得られない。また350℃未満では、マルテンサイトが多量に生成する可能性があり、十分な残留オーステナイトが得られず、所望するミクロ組織が得られないため350℃超の温度域まで冷却することが望ましい。
さらに、その温度域での保持時間であるが、5秒未満では残留オーステナイトを安定化するためのベイナイト変態が不十分であり、不安定な残留オーステナイトが続く冷却終了時にマルテンサイト変態する恐れがあり、所望するミクロ組織が得られない。また600秒超では、ベイナイト変態が促進しすぎて必要な量の安定した残留オーステナイトを得ることができず、所望するミクロ組織が得られない。従って、その温度域での保持時間は5秒以上600秒以下が望ましい。
【0025】
最後に、冷却終了までの冷却速度は、5℃/s未満では冷却中にベイナイト変態が促進しすぎる可能性があり、必要な量の安定した残留オーステナイトを得ることができず、所望するミクロ組織が得られない恐れがあるので、5℃/s以上が望ましい。また冷却終了温度は、200℃超では時効性が劣化する恐れがあるので200℃以下とする。冷却終了温度の下限については特に限定しないが、水冷もしくはミストで冷却する場合、コイルが長時間水濡れの状態にあると錆による外観不良が懸念されるため、50℃以上が望ましい。
さらにその後、必要に応じてスキンパス圧延を実施する。
酸洗後の熱延鋼板、もしくは上記の再結晶熱処理終了後の冷延鋼板に亜鉛めっきを施すためには、亜鉛めっき浴中に浸積し、必要に応じて合金化処理してもよい。
【0026】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに説明する。
表1に示す化学成分を有するA〜Jの鋼は、転炉にて溶製して、連続鋳造後、表2に示す加熱温度で再加熱し、粗圧延に続く仕上げ圧延した後に巻き取った。ただし、表中の化学組成についての表示は質量%である。また、鋼Gについては粗圧延後に衝突圧2.7MPa、流量0.001リットル/cm2の条件でデスケーリングを施した。さらに、表2に示すように鋼Aの一部については熱間圧延工程後、酸洗、冷延、熱処理を行った。一方、上記鋼板のうち鋼A−6および鋼Bについては、亜鉛めっきを施した。
【0027】
製造条件の詳細を表2に示す。ここで、「FT」は仕上げ圧延温度、「CT」とは巻取温度を示している。を示す。ただし、後に冷延工程にて圧延を行う場合はこのような制限の限りではないので「―」とした。また、「粗バー加熱」は粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中に粗バーまたは圧延材を加熱の有無を示した。次に、「ST」とは、熱処理温度(焼鈍)である。
ここで、得られた鋼板の板厚は、すべて1.4mmである。
このようにして得られた薄鋼板の引張試験は、供試材を、まず、JIS Z 2201記載の5号試験片に加工し、JIS Z 2241記載の試験方法に従って行った。表2に降伏強度(YP)、引張強度(TS)、破断伸び(El)、を示す。ここで、「残留オーステナイト体積分率」、「第二相体積分率」とは前述した方法によって得られた値である。次に、限界絞り比(LDR)であるが、例えばプレス成形難易ハンドブック第2版(1997年発行、仲川威雄監修、薄鋼板成形技術研究会編、日刊工業新聞社)465頁に記載のTZP試験方法により得た。TZP試験は図1に示すように円筒パンチ:100mmφ、肩R=10mm、ダイ:クリアランス=2.5mm、肩R=10mmの工具を用い、しわ押さえ過重:3.5tonとし、ブランク径を190、195、200mmと変えて行った。これら試験で得られたT値より、限界絞り比(LDR)を図2に示す方法にて求めた。
【0028】
本発明に沿うものは、鋼A−1、A−2、A−6、B、C、D、E、F、Gの9鋼であり、所定の量の鋼成分を含有し、そのミクロ組織が体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板が得られており、従って、本発明記載の方法によって評価した従来鋼の限界絞り比(LDR)を上回っている。
上記以外の鋼は、以下の理由によって本発明の範囲外である。すなわち、鋼A−3は、仕上げ圧延終了温度(FT)が本発明請求項の範囲外であるので、請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼A−4、鋼A−5は、巻取温度(CT)が本発明請求項の範囲外であるので、請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼A−7、熱処理温度(ST)が本発明請求項の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼Hは、Cの含有量が本発明請求項の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼Iは、Siの含有量が本発明請求項の範囲外であるので目的とする範囲の強度が得られていない。鋼Jは、式Si+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)Vの値が本発明請求項の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。
【表1】
【表2】
【0029】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、深絞り性に優れる加工用薄鋼板およびその製造方法に関するものであり、これらの鋼板を用いることにより安価かつ安定的に380〜540MPa級の引張強度であっても軟鋼板並みのプレス深絞り性を得ることができる。また、めっき性や化成処理性を劣化させるSi含有量が少ないのでめっき原板や塗装原板としても使用可能であるため、本発明は、工業的価値が高い発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】深絞り性を測定するTZP(Schmidt&Engelhardt法)試験方法を示す図である。
【図2】TZP試験方法より得られたT値より限界絞り比(LDR)を得る方法を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は加工用薄鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に380〜540MPa級の引張強度であっても軟鋼板並みの深絞り性を得ることができる。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上などのために軽量化を目的として、Al合金等の軽金属や高強度鋼板の自動車部材への適用が進められている。ただし、Al合金等の軽金属は比強度が高いという利点があるものの鋼に比較して著しく高価であるためその適用は特殊な用途に限られている。従ってより安価かつ広い範囲に自動車の軽量化を推進するためには鋼板の高強度化が必要とされている。
材料の高強度化は一般的に成形性(加工性)等の材料特性を劣化させるため、材料特性を劣化させずに如何に高強度化を図るかが高強度鋼板開発のカギになる。特に内板部材、構造部材、足廻り部材用鋼板に求められる特性としては成形性、疲労耐久性および耐食性等が重要であり高強度とこれら特性を如何に高次元でバランスさせるかが重要である。
【0003】
しかしながら、現状で270〜340MPa級程度の軟鋼板が使われている部材に590MPa級以上の高強度鋼板を適用することはプレス現場での操業、設備改善の前提なしでは難しく、当面は380〜540MPa級程度の鋼板の使用がより現実的な解決策となる。
380〜540MPaの強度範囲で優れた成形性(加工性)を得るための技術的アプローチは大きく分けて二通り考えられる。
一つは、RHやDHなどの真空脱ガス技術の発展にともない鋼中の固溶元素を低減し高純度化して成形性を向上させた鋼として低炭素Alキルド鋼に代わって軟鋼板に広く用いられるようになった極低炭素鋼やさらにTi、Nb等の添加によって鋼中の固溶C、Nをscavengingすることで飛躍的に成形性(延性および深絞り性)を向上させたInterstitial atoms Free steel(以下IF鋼)の技術を応用し、Mn、P、Si等の固溶強化元素で強化する方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
もう一つは、鋼のミクロ組織中に残留オーステナイトを含むことで成形中にTRIP(TRansformation Induced Plasticity)現象を発現させることで飛躍的に成形性(延性および深絞り性)を向上させたTRIP鋼{非特許文献1:塑性と加工、35巻、404号、(1994−09)、p1109〜1114 、“深絞り成形性に及ぼす加工誘起変態の効果 (TRIP型高強度鋼板の成形機構)”、樋渡 俊二、高橋 学、片山 知久、臼田 松男}がある。(例えば、特許文献2または3参照。)。
しかし、上記に開示されている技術は以下の理由によって380〜540MPaの強度範囲で優れたプレス成形性を得るためには不十分である。
前者は、270〜340MPaの強度範囲では50%前後の高い破断伸びと優れた深絞り性(高r値)を示すが、Mn、P、Si等の固溶強化元素で強化すると高純度化の効果が失われ急激に延性が劣化し、440MPa程度の強度レベルでは36%前後の破断伸びである。
一方、後者は残留オーステナイトのTRIP現象で590MPa程度の強度レベルでは35%を超える破断伸びと優れた深絞り性(LDR:限界絞り比)を示すが、380〜540MPaの強度範囲の鋼板を得るためには必然的にC,Si,Mn等の元素を低減させなければならずC,Si,Mn等の元素を380〜540MPaの強度範囲のレベルまで低減するとTRIP現象を得るために必要な残留オーステナイトを室温でミクロ組織中に保つことができない。
【0005】
【特許文献1】特公昭59−42742号公報
【特許文献2】特開2000−169935号公報
【特許文献3】特開2000−169936号公報
【非特許文献1】塑性と加工、35巻、404号、(1994−09)、p1109〜1114 、“深絞り成形性に及ぼす加工誘起変態の効果 (TRIP型高強度鋼板の成形機構)”、樋渡 俊二、高橋 学、片山 知久、臼田 松男
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、380〜540MPa級の強度範囲であっても安定して38%以上の延びもしくは17000MPa・%以上の強度−延性バランス(引張強度×破断伸び)かつ優れた深絞り性(LDR:限界絞り比)が得られる加工用薄鋼板およびその製造方法に関する。すなわち、本発明は、加工用薄鋼板およびその鋼板を安価に安定して製造できる方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、現在通常に採用されている製造設備により工業的規模で生産されている380〜540MPa級鋼板の製造プロセスを念頭において、380〜540MPa級の強度範囲であっても安定して38%以上の延びもしくは17000MPa・%以上の強度−延性バランスかつ優れた深絞り性(LDR)を得るべく鋭意研究を重ねた。
その結果、C =0.05〜0.2%、Si=0.01〜0.3%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.05〜2%、を含み、さらにSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることが非常に有効であることを新たに見出し、本発明をなしたものである。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 質量%にて、C =0.05〜0.2%、Si=0.01〜0.3%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.01〜2%、を含み、さらにSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(2) (1)に記載の鋼が、さらに、質量%にて、Mo≦1%、V ≦0.2%の一種または二種以上をSi+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)V≧0.3%を満たす範囲で含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(3) (1)または(2)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに質量%にて、Ca=0.0005〜0.002%、REM=0.0005〜0.02%を含有することを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(4) (1)ないし(3)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、B =0.0002〜0.002%を含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(5) (1)ないし(4)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、Ti=0.01〜0.1%、Nb=0.01〜0.1%、Cu=0.2〜1.2%、Ni=0.1〜0.6%、Cr=0.01〜1%、Zr=0.02〜0.2%の一種または二種以上を含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
【0009】
(6) (1)ないし(5)のいずれか1項に記載の加工用薄鋼板に亜鉛めっきが施されていることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
(7) (1)ないし(6)のいずれか1項に記載の成分を有する加工用薄鋼板を得るための熱間圧延する際に、該成分を有する鋼片を粗圧延後にAr3変態点温度以上Ar3変態点+100℃以下の温度域で仕上圧延を終了し、350℃以上450℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(8) (7)に記載の熱間圧延に際し、鋼片を粗圧延終了した後の粗バーを仕上げ圧延開始までの間、および/または粗バーの仕上圧延中に加熱することを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(9) (7)または(8)のいずれか1項に記載の熱間圧延に際し、粗圧延終了から仕上圧延開始までの間にデスケーリングを行うことを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(10) (7)または(9)のいずれか1項に記載の熱間圧延後、得られた熱延鋼板を酸洗、冷間圧延後、Ac1変態点温度以上Ac3変態点温度以下での焼鈍を行い、冷却することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(11) (7)ないし(9)のいずれか1項に記載の熱間圧延後、得られた熱延鋼板を亜鉛めっき浴中に浸積させて鋼板表面を亜鉛めっきすることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(12) (10)に記載の製造方法に際し、焼鈍後、亜鉛めっきすることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
(13) (11)または(12)に記載の製造方法に際し、亜鉛めっき後、合金化処理することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の化学成分の限定理由について説明する。
Cは、所望のミクロ組織を得るのに必要な元素である。ただし、0.2%超含有すると溶接性が劣化するので0.2%以下とする。また、0.15%超含有していると強度を下げるために他の必要元素を制限しなければならないので、0.15%以下が望ましい。一方、0.01%未満である良好な延性を得るための十分な残留オーステナイト量を安定的に得ることができないため0.01%以上とする。
Siは、炭化物の析出を抑制し所望のミクロ組織を得るのに有効な元素であるので0.01%以上含有する必要がある。一方、Siは、固溶強化能が大きく過剰な添加は強度上昇を招いてしまい、さらに、化成処理性、めっき性を考慮すると少ないほど好ましいので、その添加量の含有量の上限は0.3%とする。
Mnは、オーステナイトを安定化し所望のミクロ組織を得るのに有効な元素であるので0.1%以上含有する必要がある。また、Mn以外にSによる熱間割れの発生を抑制するTiなどの元素が十分に添加されない場合には質量%でMn/S≧20となるMn量を添加することが望ましい。一方、2%超添加すると強度上昇により加工性が劣化するため、2%以下とする。
【0011】
Pは、不純物であり低いほど望ましく、0.1%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.1%以下とする。
Sは、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、多すぎると穴拡げ性を劣化させるA系介在物を生成するので極力低減させるべきであるが、0.03%以下ならば許容できる範囲である。
Alは、溶鋼脱酸のために通常添加されているが、本発明において重要な元素の一つである。AlはSiと同様に炭化物の析出を抑制する効果があり、かつ、Siと違い固溶強化能が小さいので、鋼板の強度を上昇させずに所望のミクロ組織を得るのに有効な元素である。従って、0.01%以上、かつSi+(28/27)Al≧0.3%を満たす範囲で添加する必要がある。ただし、あまり多量に添加するとタンディッシュノズルが詰まりやすくなるため、その上限を2%とする。さらに、Alは非金属介在物を増大させ伸びを劣化させるので望ましくは1.5%以下とする。
【0012】
MoおよびVは、セメンタイトにほとんど固溶しないためSiと同様に炭化物の析出を抑制する効果があるので必要に応じて添加する。この効果を得るためにはSi+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)V≧0.3%を満たす必要がある。一方、Moは1%超添加してもその効果が飽和するだけでなく、非常に高価でもあるためにその上限を1%とする。Vも0.2%超添加してもその効果が飽和するのでその上限を0.2%とする。
Bは、固溶Nを固定し耐時効性を向上させる効果があるので必要に応じ添加する。ただし、0.0002%未満ではその効果を得るために不十分であり、0.002%超添加するとスラブ割れが起こる。よって、Bの添加は、0.0002%以上、0.002%以下とする。
CaおよびREMは、破壊の起点となったり、加工性を劣化させる非金属介在物の形態を変化させて無害化する元素である。ただし、0.0005%未満添加してもその効果がなく、Caならば0.002%超、REMならば0.02%超添加してもその効果が飽和するのでCa=0.0005〜0.002%、REM=0.0005〜0.02%添加することが望ましい。
【0013】
さらに、強度を付与するために、Ti、Nb、Cu、Ni、V、Zrの析出強化もしくは固溶強化元素の一種または二種以上を添加してもよい。ただし、それぞれ、0.01、0.01、0.2、0.1、0.01、0.02未満ではその効果を得ることができない。また、それぞれ、0.1%、0.1%、1.2%、0.6%、1%、0.2%を超え添加してもその効果は飽和する。
なお、これらを主成分とする鋼にSn、Co、Zn、W、を合計で1%以下含有しても構わない。しかしながらSnは熱間圧延時に疵が発生する恐れがあるので0.05%以下が望ましい。
次に、本発明における鋼板のミクロ組織であるが、優れた深絞り性(LDR)と延性を得るために、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることが必要である。さらに優れた延性を確保するためには体積分率3%以上の残留オーステナイトが含まれることが望ましい。ここで、残留オーステナイトの体積分率の上限は、380〜540MPaの範囲に強度を抑えるため必然的にC,Si,Mn等の合金添加量が制限されるが、その合金添加範囲で得られる残留オーステナイト体積分率とした。また、ベイナイトを含む第二相は、本発明の強度範囲である380〜540MPaとするためには、20%以下が望ましい。さらに望ましくは10%以下である。
【0014】
なお、残留オーステナイト、ベイナイトの体積分率とは鋼板板幅の1/4Wもしくは3/4W位置より切出した試料を圧延方向断面に研磨し、ナイタール試薬および特開平5−163590号公報で開示されている試薬を用いてエッチングし、光学顕微鏡を用い200〜500倍の倍率で観察された板厚の1/4tにおけるミクロ組織をポイントカウント法等により見積もった面積分率で定義される。
一方、オーステナイトはフェライトと結晶構造が違うため結晶学的に容易に識別できる。従って、残留オーステナイトの体積分率はX線回折法によっても実験的に求めることができる。すなわち、MoのKα線を用いてオーステナイトとフェライトとの反射面強度の違いより次式を用いてその体積分率を簡便に求める方法である。
Vγ=(2/3){100/(0.7×α(211)/γ(220)+1)}+(1/3){100/(0.78×α(211)/γ(311)+1)}
ただし、α(211)、γ(220)およびγ(311)は、それぞれフェライト(α)オーステナイト(γ)のX線反射面強度である。
【0015】
残留オーステナイトの体積分率は光学顕微鏡観察およびX線回折法のいずれの方法を用いてもほぼ一致した値が得られたので、いずれの測定値を用いても差し支えない。
続いて、本発明の製造方法の限定理由であるが、本発明は、鋳造後、熱間圧延後冷却ままもしくは熱間圧延後、熱間圧延後冷却・酸洗し冷延した後に熱処理、あるいは熱延鋼板もしくは冷延鋼板を溶融めっきラインにて熱処理を施したまま、更にはこれらの鋼板に別途表面処理を施すことによっても得られる。
本発明において熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉、転炉や電炉等による溶製に引き続き、各種の2次精練で目的の成分含有量になるように成分調整を行い、次いで通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。原料にはスクラップを使用しても構わない。連続鋳造よって得たスラブの場合には高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもよいし、室温まで冷却後に加熱炉にて再加熱した後に熱間圧延してもよい。
【0016】
スラブ再加熱温度については特に制限はないが、1400℃以上であると、スケールオフ量が多量になり歩留まりが低下するので、再加熱温度は1400℃未満が望ましい。また、1000℃未満の加熱ではスケジュール上操業効率を著しく損なうため、スラブ再加熱温度は1000℃以上が望ましい。さらには、1100℃未満の加熱ではスケールオフ量が少なくスラブ表層の介在物をスケールと共に後のデスケーリングによって除去できなくなる可能性が、スラブ再加熱温度は1100℃以上が望ましい。
熱間圧延工程は、粗圧延を終了後、仕上げ圧延を行うが、仕上げ圧延終了温度(FT)をAr3変態点温度+40℃以上とするためには少なくとも仕上げ圧延噛込み温度がAr3変態点温度+150℃以上であることが望ましい。ただし、粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上圧延中に粗バーまたは圧延材を加熱する場合は、この限りではなく仕上げ圧延噛込み温度がAr3変態点温度+100℃以上であるように加熱すればよい。さらに望ましくはAr3変態点温度+150℃以上である。
【0017】
粗圧延終了から後の粗バーを仕上げ圧延開始までの間、および/または粗バーの仕上げ圧延中に加熱は必要に応じて行う。特に本発明のうちでも優れた破断延びを安定して得るためにはMnS等の微細析出を抑制することが有効である。通常、MnS等の析出物は1250℃程度のスラブ再加熱で再固溶が起こり、後の熱間圧延中に微細析出する。従って、スラブ再加熱温度を1150℃程度に制御しMnS等の再固溶を抑制できれば延性を改善できる。ただし、圧延終了温度を本発明の範囲にするためには粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中での粗バーまたは圧延材の加熱が有効な手段となる。
粗圧延終了と仕上げ圧延開始の間にデスケーリングを行う場合は、鋼板表面での高圧水の衝突圧P(MPa)×流量L(リットル/cm2)≧0.0025の条件を満たすことが望ましい。
【0018】
鋼板表面での高圧水の衝突圧Pは以下のように記述される。(「鉄と鋼」1991 vol.77 No.9 p1450参照)
P(MPa)=5.64×P0×V/H2
ただし、
P0(MPa):液圧力
V(リットル/min):ノズル流液量
H(cm):鋼板表面とノズル間の距離
流量Lは以下のように記述される。
L(リットル/cm2)=V/(W×v)
ただし、
V(リットル/min):ノズル流液量
W(cm):ノズル当たり噴射液が鋼板表面に当たっている幅
v(cm/min):通板速度
衝突圧P×流量Lの上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、ノズル流液量を増加させるとノズルの摩耗が激しくなる等の不都合が生じるため、0.02以下とすることが望ましい。
【0019】
さらに、仕上げ圧延後の鋼板表面の最大高さRyがJIS B 0601で定義するところの15μm(最大高さ15μm,基準長さ2.5mm,評価長さ12.5mm)以下であることが望ましい。これは、例えば金属材料疲労設計便覧、日本材料学会編、84ページに記載されている通り熱延または酸洗ままの鋼板の疲労強度は鋼板表面の最大高さRyと相関があることから明らかである。また、その後の仕上げ圧延はデスケーリング後に再びスケールが生成してしまうのを防ぐために5秒以内に行うのが望ましい。
また、粗圧延と仕上げ圧延の間にシートバーを接合し、連続的に仕上げ圧延をしてもよい。その際に粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行ってもよい。
【0020】
仕上げ圧延は、熱延鋼板として最終製品にする場合においては、その仕上げ圧延後半にAr3変態点温度+100℃以下の温度域で合計圧下率25%以上の圧延を行うことが望ましい。ここでAr3変態点温度とは、例えば以下の計算式により鋼成分との関係で簡易的に示される。すなわち
Ar3=910−310×%C+25×%Si−80×%Mn−80×%Mo+40×%Al
仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温未満であるとα+γの二相域圧延となる可能性があり圧延後のフェライト粒に加工組織が残留し延性が劣化する恐れがあるのでAr3変態点温度以上とする。一方、Ar3変態点温度+100℃超であるとフェライト変態によるオーステナイトへのC等の濃化が不十分となり所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがあるのでAr3変態点温度+100℃以下とする。
【0021】
仕上げ圧延後に所定の巻取温度(CT)で巻き取るまでの冷却は、本発明では特に規定しないが、冷却開始は仕上げ圧延終了後5秒以降15秒以内に開始する。5秒より短いと十分なフェライト変態が進行せず、所望するミクロ組織が得られなくなり、15秒を超えるとパーライト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。また、冷却速度は10℃/sec以上とする。冷却速度が10℃/sec未満ではパーライト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。従って、所定の巻取温度(CT)で巻き取るまでの冷却は5秒以降15秒以内に開始し、冷却速度は10℃/sec以上が望ましい。さらに望ましくは20℃/sec以上である。
【0022】
本発明において巻取温度(CT)は350℃以上450℃以下とする。350℃未満では、マルテンサイト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。従って、巻取温度(CT)は350℃以上と限定する。一方、450℃超では、巻取後にパーライト変態が進行し所望するミクロ組織が得られなくなる恐れがある。従って、巻取温度(CT)は450℃以下と限定する。
熱間圧延工程終了後は必要に応じて酸洗し、その後インラインまたはオフラインで圧下率10%以下のスキンパスまたは圧下率40%程度までの冷間圧延を施しても構わない。
次に、冷延鋼板として最終製品にする場合であるが、熱間での仕上げ圧延条件は特に限定しない。仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度未満としても差し支えないが、その場合は、圧延前もしくは圧延中に析出したフェライトに強い加工組織が残留するため、続く巻取処理または加熱処理により回復、再結晶させることが望ましい。ただし、より良好な延性を得るためには、仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度+40℃以上であることが望ましい。
【0023】
続く酸洗後に冷間圧延された鋼板の熱処理は連続焼鈍工程を前提としている。
まず、熱処理はAc1変態点温度以上Ac3変態点温度以下の温度域で行う。ここでAc3変態点、Ac1変態点温度とは、例えばレスリー鉄鋼材科学(1985年発行、熊井浩 野田龍彦訳、丸善株式会社)273頁に記載の計算式により鋼成分との関係で示される。(当該式のAlの項は除外する。)このとき、その温度域内でも低温すぎると、熱延板段階でセメンタイトが析出していた場合、セメンタイトが再固溶するのに時間がかかりすぎ、高温すぎるとオーステナイトの体積率が大きくなりすぎてオーステナイト中のC濃度が低下し、炭化物を多量に含むベイナイトもしくはパーライト変態のノーズにかかりやすくなるため、750℃以上900℃以下で加熱するのが好ましい。保持時間は5〜150秒間が望ましい。保持時間は短いほど生産性が良いが、5秒未満ではフェライトとオーステナイトの体積分率が定常状態に達しない恐れがある。また、150秒保持すれば二相分率がほぼ安定する。従って保持時間は5〜150秒間が望ましい。保持後の冷却速度は20℃/s未満では、炭化物を多量に含むベイナイトもしくはパーライト変態のノーズにかかる恐れがあるため、20℃/s以上の冷却速度が望ましい。
【0024】
次にベイナイト変態を促進し必要な量の残留オーステナイトを安定化する工程であるが、冷却終了温度が450℃以上では残留したオーステナイトが炭化物を多量に含むベイナイトまたはパーライトに分解してしまい、所望するミクロ組織が得られない。また350℃未満では、マルテンサイトが多量に生成する可能性があり、十分な残留オーステナイトが得られず、所望するミクロ組織が得られないため350℃超の温度域まで冷却することが望ましい。
さらに、その温度域での保持時間であるが、5秒未満では残留オーステナイトを安定化するためのベイナイト変態が不十分であり、不安定な残留オーステナイトが続く冷却終了時にマルテンサイト変態する恐れがあり、所望するミクロ組織が得られない。また600秒超では、ベイナイト変態が促進しすぎて必要な量の安定した残留オーステナイトを得ることができず、所望するミクロ組織が得られない。従って、その温度域での保持時間は5秒以上600秒以下が望ましい。
【0025】
最後に、冷却終了までの冷却速度は、5℃/s未満では冷却中にベイナイト変態が促進しすぎる可能性があり、必要な量の安定した残留オーステナイトを得ることができず、所望するミクロ組織が得られない恐れがあるので、5℃/s以上が望ましい。また冷却終了温度は、200℃超では時効性が劣化する恐れがあるので200℃以下とする。冷却終了温度の下限については特に限定しないが、水冷もしくはミストで冷却する場合、コイルが長時間水濡れの状態にあると錆による外観不良が懸念されるため、50℃以上が望ましい。
さらにその後、必要に応じてスキンパス圧延を実施する。
酸洗後の熱延鋼板、もしくは上記の再結晶熱処理終了後の冷延鋼板に亜鉛めっきを施すためには、亜鉛めっき浴中に浸積し、必要に応じて合金化処理してもよい。
【0026】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに説明する。
表1に示す化学成分を有するA〜Jの鋼は、転炉にて溶製して、連続鋳造後、表2に示す加熱温度で再加熱し、粗圧延に続く仕上げ圧延した後に巻き取った。ただし、表中の化学組成についての表示は質量%である。また、鋼Gについては粗圧延後に衝突圧2.7MPa、流量0.001リットル/cm2の条件でデスケーリングを施した。さらに、表2に示すように鋼Aの一部については熱間圧延工程後、酸洗、冷延、熱処理を行った。一方、上記鋼板のうち鋼A−6および鋼Bについては、亜鉛めっきを施した。
【0027】
製造条件の詳細を表2に示す。ここで、「FT」は仕上げ圧延温度、「CT」とは巻取温度を示している。を示す。ただし、後に冷延工程にて圧延を行う場合はこのような制限の限りではないので「―」とした。また、「粗バー加熱」は粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中に粗バーまたは圧延材を加熱の有無を示した。次に、「ST」とは、熱処理温度(焼鈍)である。
ここで、得られた鋼板の板厚は、すべて1.4mmである。
このようにして得られた薄鋼板の引張試験は、供試材を、まず、JIS Z 2201記載の5号試験片に加工し、JIS Z 2241記載の試験方法に従って行った。表2に降伏強度(YP)、引張強度(TS)、破断伸び(El)、を示す。ここで、「残留オーステナイト体積分率」、「第二相体積分率」とは前述した方法によって得られた値である。次に、限界絞り比(LDR)であるが、例えばプレス成形難易ハンドブック第2版(1997年発行、仲川威雄監修、薄鋼板成形技術研究会編、日刊工業新聞社)465頁に記載のTZP試験方法により得た。TZP試験は図1に示すように円筒パンチ:100mmφ、肩R=10mm、ダイ:クリアランス=2.5mm、肩R=10mmの工具を用い、しわ押さえ過重:3.5tonとし、ブランク径を190、195、200mmと変えて行った。これら試験で得られたT値より、限界絞り比(LDR)を図2に示す方法にて求めた。
【0028】
本発明に沿うものは、鋼A−1、A−2、A−6、B、C、D、E、F、Gの9鋼であり、所定の量の鋼成分を含有し、そのミクロ組織が体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板が得られており、従って、本発明記載の方法によって評価した従来鋼の限界絞り比(LDR)を上回っている。
上記以外の鋼は、以下の理由によって本発明の範囲外である。すなわち、鋼A−3は、仕上げ圧延終了温度(FT)が本発明請求項の範囲外であるので、請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼A−4、鋼A−5は、巻取温度(CT)が本発明請求項の範囲外であるので、請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼A−7、熱処理温度(ST)が本発明請求項の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼Hは、Cの含有量が本発明請求項の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。鋼Iは、Siの含有量が本発明請求項の範囲外であるので目的とする範囲の強度が得られていない。鋼Jは、式Si+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)Vの値が本発明請求項の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な限界絞り比(LDR)が得られていない。
【表1】
【表2】
【0029】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、深絞り性に優れる加工用薄鋼板およびその製造方法に関するものであり、これらの鋼板を用いることにより安価かつ安定的に380〜540MPa級の引張強度であっても軟鋼板並みのプレス深絞り性を得ることができる。また、めっき性や化成処理性を劣化させるSi含有量が少ないのでめっき原板や塗装原板としても使用可能であるため、本発明は、工業的価値が高い発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】深絞り性を測定するTZP(Schmidt&Engelhardt法)試験方法を示す図である。
【図2】TZP試験方法より得られたT値より限界絞り比(LDR)を得る方法を示す図である。
Claims (13)
- 質量%にて、
C =0.05〜0.2%、
Si=0.01〜0.3%、
Mn=0.1〜2%、
P ≦0.1%、
S ≦0.03%、
Al=0.01〜2%を含み、さらに、
Si+(28/27)Al≧0.3%
を満たす範囲でSi、Alを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板であって、そのミクロ組織が、体積分率1%以上15%以下の残留オーステナイトを含み、残部が主にフェライト、ベイナイトからなる複合組織であることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。 - 請求項1に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Mo≦1%、
V ≦0.2%の一種または二種以上を
Si+(28/27)Al+(28/96)Mo+(28/51)V≧0.3%を満たす範囲で含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。 - 請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の鋼が、さらに質量%にて、
Ca=0.0005〜0.002%、
REM=0.0005〜0.02%を含有することを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
B =0.0002〜0.002%、
を含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Ti=0.01〜0.1%、
Nb=0.01〜0.1%、
Cu=0.2〜1.2%、
Ni=0.1〜0.6%、
Cr=0.01〜1%、
Zr=0.02〜0.2%の一種または二種以上を含有することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の加工用薄鋼板に亜鉛めっきが施されていることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の成分を有する加工用薄鋼板を得るための熱間圧延する際に、該成分を有する鋼片を粗圧延後にAr3変態点温度以上Ar3変態点+100℃以下の温度域で仕上圧延を終了し、350℃以上450℃以下の温度で巻き取ることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
- 請求項7に記載の熱間圧延に際し、鋼片を粗圧延終了した後の粗バーを仕上げ圧延開始までの間、および/または粗バーの仕上圧延中に加熱することを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
- 請求項7または請求項8のいずれか1項に記載の熱間圧延に際し、粗圧延終了から仕上圧延開始までの間にデスケーリングを行うことを特徴とする、深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
- 請求項7または請求項9のいずれか1項に記載の熱間圧延後、得られた熱延鋼板を酸洗、冷間圧延後、Ac1変態点温度以上Ac3変態点温度以下での焼鈍を行い、冷却することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
- 請求項7ないし請求項9のいずれか1項に記載の熱間圧延後、得られた熱延鋼板を亜鉛めっき浴中に浸積させて鋼板表面を亜鉛めっきすることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
- 請求項10に記載の製造方法に際し、焼鈍後、亜鉛めっきすることを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
- 請求項11または請求項12に記載の製造方法に際し、亜鉛めっき後、合金化処理することを特徴とする深絞り性に優れる加工用薄鋼板の製造方法。
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-
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