JP2004220655A - 磁気記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【課題】性能、信頼性、コストを満足する大容量の書き換え可能であり、膜強度が高く、充分な走行耐久性が得られ、良好な磁気特性を達成することができる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体の少なくとも一方の面に、硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とをこの順に有し、該硬度制御層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とし、該磁性層の上に第1の保護層と第2の保護層とをこの順に有することが好ましく、該第1の保護層がDCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなり、前記第2の保護層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることが好ましく、該硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことが好ましい。
【選択図】 なし
【解決手段】非磁性支持体の少なくとも一方の面に、硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とをこの順に有し、該硬度制御層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とし、該磁性層の上に第1の保護層と第2の保護層とをこの順に有することが好ましく、該第1の保護層がDCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなり、前記第2の保護層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることが好ましく、該硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことが好ましい。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、デジタル情報の記録に使用する磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、インターネットの普及により、パーソナル・コンピュータを用いて大容量の動画情報や音声情報の処理を行う等、コンピュータの利用形態が変化してきている。これに伴い、ハードディスク等の磁気記録媒体に要求される記憶容量も増大している。
ハードディスク装置においては、磁気ディスクの回転に伴い、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面からわずかに浮上し、非接触で磁気記録を行っている。このため、磁気ヘッドと磁気ディスクとの接触によって磁気ディスクが破損するのを防止している。高密度化に伴って磁気ヘッドの浮上高さは次第に低減されており、鏡面研磨された超平滑なガラス基板上に磁気記録層(磁気層)等を形成した磁気ディスクを用いることにより、現在では10nm〜20nmの浮上高さが実現されている。媒体においては、一般的にCoPtCr系磁性層/Cr下地層の層構造が用いられており、該磁性層及び下地層の形成時に200℃〜500℃の高温にすることで、Cr下地層によりCoPtCr系磁性層の磁化容易方向が膜面内となるよう制御している。さらに、CoPtCr系磁性層中のCrの偏析を促し、磁性層中の磁区を分離している。この様なヘッドの低浮上量化、ヘッド構造の改良、ディスク記録膜の改良等の技術革新によってハードディスクドライブの面記録密度と記録容量はここ数年で飛躍的に増大してきた。
【0003】
取り扱うことができるデジタルデータ量が増大することによって、動画データの様な大容量のデータを可換型媒体に記録して、移動させるというニーズが生まれてきた。しかしながら、ハードディスクは基板が硬質であって、しかも上述のようにヘッドとディスクの間隔が極わずかであるため、フレキシブルディスクや書き換え型光ディスクの様に可換媒体としての使用を試みると、動作中の衝撃や塵埃の巻き込みによって故障を発生する懸念が高く、使用できない。
さらに、媒体製造において高温スパッタ成膜法を用いた場合、生産性が悪いばかりでなく、大量生産時のコスト上昇につながり、安価に生産できない。
【0004】
一方、フレキシブルディスクは基板がフレキシブルな高分子フィルムであり、接触記録可能な媒体であるため可換性に優れており、安価に生産できるが、現在市販されているフレキシブルディスクは記録膜(磁気層)が磁性体を高分子バインダーや研磨剤とともに高分子フィルム上に塗布した構造であるため、スパッタ法で磁性膜を形成しているハードディスクと比較すると、磁性層の高密度記録特性が悪く、ハードディスクの1/10以下の記録密度しか達成できていない。
そこで記録膜をハードディスクと同様のスパッタ法で形成する強磁性金属薄膜型のフレキシブルディスクも提案されているが、ハードディスクと同様の磁性層を高分子フィルム上に形成しようとすると、高分子フィルムの熱ダメージが大きく、実用化が困難である。また、ヘッドとメディアの接触は避けられないため、硬質な保護層が必要不可欠となっている。このため高分子フィルムとして耐熱性の高いポリイミドや芳香族ポリアミドフィルムを使用する提案もなされているが、これらの耐熱性フィルムが非常に高価であり、実用化が困難となっている。また高分子フィルムに熱ダメージを生じないように、高分子フィルムを冷却した状態で磁性膜を形成しようとすると、磁性層の磁気特性が不十分となり、記録密度の向上が困難となっている。
【0005】
それに対し、強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性金属薄膜を用いた場合、室温で成膜した場合においても、200℃〜500℃の高温条件下で成膜したCoPtCr系磁性層とほぼ同等の磁気特性を得られることがわかってきた。このような強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性金属薄膜はハードディスクで提案されているいわゆるグラニュラ構造のものが使用できる(例えば特許文献1及び2参照。)。
しかし、高分子フィルムを用いたフレキシブルディスクはベースから磁性層までの層の膜強度が低く、いまだ充分な走行耐久性が得られていないのが現状である。
【0006】
一方、DVD−R/RWに代表される追記型および書き換え型光ディスクは、磁気ディスクのようにヘッドとディスクが近接していないため、可換性に優れており、広く普及している。しかしながら光ディスクは、光ピックアップの厚みとコストの問題から、高容量化に有利な磁気ディスクのように両面を記録面としたディスク構造を用いることが困難であるといった問題がある。さらに、磁気ディスクと比較すると面記録密度が低く、データ転送速度も低いため、書き換え型の大容量記録媒体としての使用を考えると、未だ十分な性能とはいえない。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−73880号公報
【特許文献2】
特開平7−311929号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することであり、性能、信頼性、コストを満足する大容量の書き換え可能な可換型磁気記録媒体であり、膜強度が高く、充分な走行耐久性が得られ、良好な磁気特性を達成することができる磁気記録媒体を提供することである。
【0009】
【発明が解決するための手段】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を採用することにより、上記目的が達成され、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)非磁性支持体の少なくとも一方の面に、硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、該硬度制御層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)前記磁性層の上に、第1の保護層と、第2の保護層とを、この順に有することを特徴とする前記(1)の磁気記録媒体。
(3)前記第1の保護層がDCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなり、前記第2の保護層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とする前記(2)の磁気記録媒体。
(4)前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことを特徴とする前記(2)または(3)の磁気記録媒体。
【0010】
本発明の磁気記録媒体は、少なくともCo、Pt、Crを含有する強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性金属薄膜磁性層を備えているので、ハードディスクのような高記録密度記録が可能となり、高容量化が可能となる。
さらに、本発明の硬度制御層は膜硬度が高い材料を用いることによる膜全体の強度向上効果があるため、フィルムベースを使用する媒体において課題とされているメディア削れの問題を解決することができる。
上記の様な硬度制御層、磁性層、必要に応じて硬度制御層と磁性層の間に下地層を有し、好ましくは第1保護層、第2保護層を使用することによって、従来のような基板(支持体)加熱が不要となり、基板温度が室温であっても、良好な磁気特性を達成することができ、かつ膜全体の強度向上によりヘッド荷重をかけた際にも充分な走行耐久が得られる磁気記録媒体を得ることが可能となる。このため、ガラス基板やAl基板だけでなく、支持体が高分子フィルムであっても熱ダメージを生じることなく、接触記録に耐性のある、平坦な磁気テープやフレキシブルディスクを提供することが可能である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁気記録媒体について詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上の少なくとも一方の面に、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、必要に応じて硬度制御層と磁性層の間に下地層を有する。
また本発明の磁気記録媒体は、好ましくは、前記磁性層の上に、DCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなる第1保護層と、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる第2保護層とを、この順に有し、更に好ましくは前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことにより、支持体として高分子フイルムを用いた場合にも、膜全体の強度向上効果がより大きく、熱ダメージを生じることなく、接触記録の耐久性・保存性が更に優れたものである。
ディスク状磁気記録媒体は、通常、支持体の両面に上記各層が設けられる。テープ状媒体は、通常、支持体の片面に上記各層が設けられるが、両面に設けても構わない。
【0012】
以下に本発明の磁気記録媒体について、硬度制御層、磁性層、下地層、非磁性支持体、下塗り層、第1保護層、第2保護層等に分けて説明する。
〔硬度制御層〕
本発明の磁気記録媒体の特徴的構成である硬度制御層は、非磁性支持体上の少なくとも一方の面に設けられ、CVD法で作製されるダイヤモンド状炭素(DLC)と呼ばれる硬質炭素膜である。
硬度制御層の硬度は、ナノインデンテーション法において、5GPa以上を満たすことが好ましい。
硬度制御層としては、磁気ヘッド材質と同等またはそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような膜硬度が高い材料を用いることによる磁気記録媒体全体の膜強度向上に効果がある。
なお、後述の十分な導電性を有する導電性層を用いることで、CVD法でバイアス電圧をかけながら、DLC硬度制御層を成膜することが容易になる。
【0013】
本発明の硬度制御層の成膜に適用可能な高周波プラズマを利用したCVD装置の一例を説明する。
図1は、本発明の硬度制御層の成膜に適用可能な高周波プラズマを利用したCVD装置の一例を説明する図である。
非磁性支持体2は、ロール3から巻き出され、パスローラ4によってバイアス電源5からバイアス電圧が給電され成膜ロール6に巻きつけられた状態で走行する。
一方、炭化水素、窒素、希ガス等を含有する原料気体7は、高周波電源8から印加された電圧によって発生したプラズマによって、成膜ロール6上の支持体2上に窒素、希ガスを含有した硬度制御層が形成され、巻き取りロール9に巻き取られる。また、硬度制御層の作製の前に支持体表面を希ガスや水素ガスによるグロー処理などによって清浄化することでより大きな密着性を確保することができる。
【0014】
〔磁性層〕
本発明の磁気記録媒体に形成する磁性層は、少なくともコバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性成分(物質)から構成された強磁性薄膜磁性層である。
本発明の磁気記録媒体は該磁性層を備えているので、ハードディスクと同様に高記録密度記録が可能となり、リムーバブル型の磁気記録媒体の高容量化が可能となる。また、このコバルトを含有する強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性薄膜磁性層はハードディスクで提案されているいわゆるグラニュラ構造であり、特開平5−73880号公報や特開平7−311929号公報等に記載されているものと同様の方法によって製造したものが使用できる。
【0015】
磁性層は少なくともコバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質から構成されている。強磁性金属合金と非磁性物質は見かけ上は混合して存在しているが、全体組成に比べて強磁性金属合金の存在量が多い部分と、全体組成に比べて非磁性物質が多い部分である。また、強磁性金属合金の存在量が多い部分は、相互に0.01nm〜10nmの間隔を設けて形成されている。
【0016】
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、磁性層面に対して垂直方向に磁化容易軸を有するいわゆる垂直磁気記録膜でも、水平方向に磁化容易軸をを有する面内磁気記録膜でも良い。この磁化容易軸の方向は後述の下地層4の材料、結晶構造または成膜条件および磁性膜の組成と成膜条件によって制御することができる。
【0017】
本発明の磁性層は、必要に応じて硬度制御層と磁性層の間に下地層を設けた該下地層の結晶配向を反映して結晶成長が起こり、柱状構造を形成することが望ましい。この様な構造とすることで、非磁性物質に富んだ領域による磁性金属合金に富んだ領域間の分離構造が安定となり、高い保持力を達成できるとともに、強磁性金属合金に富んだ部分では磁化量が増えるため、高出力化が可能となり、しかも強磁性金属合金に富んだ部分の分散性が均一となるため、ノイズも小さくすることが可能になる。
【0018】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金としてはCo、Cr、PtとNi、Fe、B、Si、Ta、Nb等の元素との合金が使用できるが、記録特性を考慮するとCo−Pt−Cr、Co−Pt−Cr−Ta、Co−Pt−Cr−B等が特に好ましい。
【0019】
非磁性物質としてはSi、Zr、Ta、B、Ti、Al、Cr、Ba、Zn、Na、La、In、Pb等の酸化物、炭化物、窒化物が使用できるが、記録特性を考慮するとSiOx が最も好ましい。
【0020】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質の混合比は、強磁性金属合金:非磁性物質=95:5〜80:20(原子比)の範囲であることが好ましく、90:10〜85:15の範囲であることが特に好ましい。これよりも強磁性金属合金が多くなると、磁性粒子間の分離が不十分となり、保持力が低下してしまうことがある。逆にこれよりも少なくなると、磁化量が減少するため、信号出力が著しく低下してしまうことがある。
【0021】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質の混合物からなる磁性層の厚みとしては好ましくは10nm〜60nm、さらに好ましくは10nm〜40nmの範囲である。これよりも厚みが厚くなるとノイズが著しく増加してしまうことがあり、逆に厚みが薄くなると、出力が著しく減少してしまうことがある。
【0022】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質からなる磁性層を形成する方法としては真空蒸着法、スパッタリング法などの真空成膜法が使用できる。なかでもスパッタリング法は良質な薄膜が容易に成膜可能であることから、本発明に好適である。スパッタリング法としてはDCスパッタリング法、RFスパッタリング法のいずれも使用可能である。スパッタリング法は連続フィルム上に連続して成膜するウェブスパッタリング装置、枚葉式スパッタリング装置を用いることができるがウェブスパッタリング装置を用いることが好ましい。スパッタリング時の雰囲気に使用する気体はアルゴンが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。また非磁性物質の酸素含有率や表面粗さを調整するために微量の酸素を導入しても良い。
【0023】
とくに、本発明のようにスパッタリング法でコバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層を形成するためには、強磁性金属合金ターゲットと非磁性物質ターゲットの2種を用い、これらの共スパッタリング法を使用することも可能であるが、形成すべき強磁性金属合金と非磁性物質の組成比に合致した強磁性金属合金と非磁性物質を均質に混合した混合物ターゲットを用いると、強磁性金属合金が均一に分散した磁性層を形成することができる。また、この混合物ターゲットはホットプレス法等で作製することができる。
【0024】
〔下地層〕
本発明の磁気記録媒体は、必要に応じて前記硬度制御層と磁性層の間に下地層を設けることもできる。該下地層は、磁性層の密着性の向上、膜応力の緩和、磁性層の結晶配向制御が可能となり、より安定な柱状構造を持つ磁性層を形成することができ、記録特性が向上する。
本発明の磁気記録媒体において好ましい下地層は、Li、Mg、Al、Si、P、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Te、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pbからなる群から少なくとも1種が選ばれる。
【0025】
これらのなかでも、Co、Os、Re、Ti、Zn、Ta、Al、Cr、Mo、W、Fe、Sb、Ir、Ru、Rh、Pt、Pd、SiおよびZrから選択される少なくとも1種の元素を有する合金を用いることが好ましいが、格子定数制御及び密着性向上の観点からは、Ti、Be、Ru、Cr、Si、Zr等がさらに望ましい。この様な下地層を用いることによって、磁性層の配向性を改善できるため、記録特性が向上する。
【0026】
下地層の厚みは10nm〜200nmが好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。これよりも厚みが厚くなると、生産性が悪くなるとともに、結晶粒の肥大化によりノイズが増加してしまい、逆にこれよりも厚みが薄くなると、下地層効果による磁気特性の向上が得られない。
【0027】
下地層を成膜する方法としては真空蒸着法、スパッタ法などの真空成膜法が使用できる。中でもスパッタ法は良質な超薄膜が容易に成膜可能であることから、本発明に好適である。スパッタ法としては、公知のDCスパッタ法、RFスパッタ法のいずれも使用可能である。スパッタ法は、可撓性高分子フィルムを支持体としたフレキシブルディスクの場合、連続フィルム上に連続して成膜するウェブスパッタ装置が好適であるが、Al基板やガラス基板を用いる場合に使用されるような枚様式スパッタ装置や通過型スパッタ装置も使用できる。
【0028】
下地層スパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。また、下地層の格子定数制御の目的で、微量の酸素ガスを導入してもかまわない。
【0029】
スパッタリング法で、複数の元素を含有する下地層を形成するためには、各元素ターゲットからなる複数個のターゲットを用い、これらの共スパッタリング法を使用することもできるが、格子定数等を精密に制御し、かつ均質な膜を作製するためには、使用する全元素による複合ターゲットを用いることが好ましい。この複合ターゲットはホットプレス法等で作製することができる。
【0030】
また、前述の硬度制御層の成膜を容易にするために導電性層を設けることができる。
導電性層は、通常、後述の下塗り層と前記硬度制御層の間に設けられる。導電性層としては、磁気記録媒体の導電性確保、即ち硬度制御層等の形成においてCVD法におけるバイアス電圧も膜表面に直接印加することが可能となることに加えて、下地層、ひいては磁気層の密着性の改善や同層の結晶配向制御の目的等で、電気抵抗率は0Ω・mから5Ω・mに、好ましくは、0〜1Ω・mに調整される。電気抵抗率は、4端子電気抵抗率測定器で計測することができる。
【0031】
このような導電性層としては、Ti、Al、Cu、Ag、Ni、Pd、Pt、Mn、Zn、Ge、Sn、PbおよびAuから選択される少なくとも1種の元素を有する合金を使用することができるが、それ以外の元素を含有する合金を用いてもかまわない。
【0032】
上記導電性層の厚みは1nm〜100nmが好ましく、1nm〜50nmが特に好ましい。これよりも厚みが厚くなると、膜応力が増大するため基板変形等の問題が生じる可能性があり、逆にこれよりも厚みが薄くなると、CVD法で硬質な硬度制御層や保護層を成膜する際に必要な導電性が得られないことがある。
【0033】
導電性層を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法などの真空成膜法が使用でき、中でもスパッタ法は良質な超薄膜が容易に成膜可能である。
【0034】
本発明の磁気記録媒体に用いられる支持体としては、磁気ヘッドと磁気ディスクとが接触した時の衝撃を回避するために、可撓性を備えた樹脂フイルム(可撓性高分子支持体)で構成されていることが好ましい。このような合成樹脂フィルムとしては、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセテートセルロース、フッ素樹脂等からなる合成樹脂フィルムが挙げられる。本発明では支持体を加熱することなく良好な記録特性を達成することができるため、表面性が良好で、また入手も容易なポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートが特に好ましい。
【0035】
また、可撓性高分子支持体として合成樹脂フィルムを複数枚を積層したものを用いても良い。複数枚を積層した積層フィルムを用いることにより、可撓性高分子支持体自身に起因する反りやうねりを軽減することができる。その結果、磁気記録媒体の表面が磁気ヘッドと衝突による磁気記録層(磁性層)の耐傷性を著しく改善することがきる。
可撓性フイルムを積層する方法としては、熱ロールによるロール積層、平板熱プレスによる平板積層、接着面に接着剤を塗布してラミネートするドライ積層、予めシート状に成形された接着シートを用いる積層方法等が挙げられる。積層に接着剤を用いる場合には、ホットメルト接着剤、熱硬化性接着剤、UV硬化型接着剤、EB硬化型接着剤、粘着シート、嫌気性接着剤などを使用することがきる。
【0036】
可撓性高分子支持体の厚みは、10μm〜200μm、好ましくは20μm〜150μm、さらに好ましくは30μm〜100μmである。可撓性高分子支持体の厚みが10μmより薄いと、高速回転時の安定性が低下し、面ぶれが増加することがある。一方、可撓性高分子支持体の厚みが200μmより厚いと、回転時の剛性が高くなり、接触時の衝撃を回避することが困難になり磁気ヘッドの跳躍を招くことがある。
【0037】
また、下記式で表される可撓性高分子支持体の腰の強さは、b=10mmでの値が4.9MPa〜19.6MPa(0.5kgf/mm2 〜2.0kgf/mm2 )の範囲にあることが好ましく、6.9MPa〜14.7MPa(0.7kgf/mm2 〜1.5kgf/mm2 )がより好ましい。
【0038】
可撓性高分子支持体の腰の強さ=Ebd3/12
【0039】
なお、この式において、Eはヤング率、bはフィルム幅、dはフィルム厚さを各々表す。
【0040】
可撓性高分子支持体の表面は、磁気ヘッドによる記録を行うために、可能な限り平滑であることが好ましい。支持体表面の凹凸は、信号の記録再生特性を著しく低下させる。具体的には、後述する下塗り層を使用する場合では、光干渉式の表面粗さ計で測定した表面粗さが中心面平均粗さSRaで5nm以内、好ましくは2nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが1μm以内、好ましくは0.1μm以内である。また、下塗り層を用いない場合では、光干渉式の表面粗さ計で測定した表面粗さが中心面平均粗さSRaで3nm以内、好ましくは1nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが0.1μm以内、好ましくは0.06μm以内である。
【0041】
可撓性高分子支持体表面には、平面性の改善と気体遮断性を高めるために下塗り層を設けることが好ましい。磁性層をスパッタリング等で形成するため、下塗り層は耐熱性に優れることが好ましく、下塗り層の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等を使用することができる。熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂は、平滑化効果が高く、特に好ましい。下塗り層の厚みは、0.1μm〜3.0μmが好ましい。支持体に他の樹脂フィルムを積層する場合には、積層加工前に下塗り層を形成してもよく、積層加工後に下塗り層を形成してもよい。
【0042】
熱硬化性ポリイミド樹脂としては、ビスアリルナジイミド(丸善石油化学社製BANI)のように、分子内に末端不飽和基を2つ以上有するイミドモノマーを、熱重合して得られるポリイミド樹脂が好適に用いられる。このイミドモノマーは、モノマーの状態で支持体表面に塗布した後に、比較的低温で熱重合させることができるので、原料となるモノマーを支持体上に直接塗布して硬化させることができる。また、このイミドモノマーは一般的な有機溶剤に溶解させて使用することができ、生産性、作業性に優れると共に、分子量が小さく、その溶液粘度が低いために、塗布時に凹凸に対する回り込みが良く、平滑化効果が高い。
【0043】
熱硬化性シリコーン樹脂としては、有機基が導入されたケイ素化合物を原料としてゾルゲル法で重合したシリコーン樹脂が好適に用いられる。このシリコーン樹脂は、二酸化ケイ素の結合の一部を有機基で置換した構造からなりシリコーンゴムよりも大幅に耐熱性に優れると共に、二酸化ケイ素膜よりも柔軟性に優れるため、可撓性フィルムからなる支持体上に樹脂膜を形成しても、クラックや剥離が生じ難い。また、原料となるモノマーを可撓性高分子支持体上に直接塗布して硬化させることができるため、汎用溶剤を使用することができ、凹凸に対する回り込みも良く、平滑化効果が高い。更に、縮重合反応は、酸やキレート剤などの触媒の添加により比較的低温から進行するため、短時間で硬化させることができ、汎用の塗布装置を用いて樹脂膜を形成することができる。また熱硬化性シリコーン樹脂は気体遮断性に優れており、磁性層形成時に可撓性高分子支持体から発生し、磁性層または下地層の結晶性、配向性を阻害する気体を遮蔽する気体遮蔽性が高く、特に好適である。
【0044】
下塗り層の表面には、磁気ヘッドとフレキシブルディスクとの真実接触面積を低減し、摺動特性を改善することを目的として、微小突起(テクスチャ)を設けることが好ましい。また、微小突起を設けることにより、可撓性高分子支持体の取り扱い性も良好になる。微小突起を形成する方法としては、球状シリカ粒子を塗布する方法、エマルジョンを塗布して有機物の突起を形成する方法などが使用できるが、下塗り層の耐熱性を確保するため、球状シリカ粒子を塗布して微小突起を形成するのが好ましい。
【0045】
微小突起の高さは5nm〜60nmが好ましく、l0nm〜30mmがより好ましい。微小突起の高さが高すぎると記録再生ヘッドと媒体のスペーシング損失によって信号の記録再生特性が劣化することがあり、微小突起が低すぎると摺動特性の改善効果が少なくなることがある。微小突起の密度は0.1〜100個/μm2 が好ましく、1〜10個/μm2 がより好ましい。微小突起の密度が少なすぎる場合は摺動特性の改善効果が少なくなることがあり、多過ぎると凝集粒子の増加によって高い突起が増加して記録再生特性が劣化することがある。
また、バインダーを用いて微小突起を支持体表面に固定することもできる。バインダーには、十分な耐熱性を備えた樹脂を使用することが好ましく、耐熱性を備えた樹脂としては、溶剤可溶型ポリイミド樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコン樹脂を使用することが特に好ましい。
【0046】
磁性層の表面には保護層が設けられることが好ましい。保護層は、磁性層に含まれる金属材料の腐蝕を防止し、磁気ヘッドと磁気ディスクとの擬似接触または接触摺動による摩耗を防止して、走行耐久性、耐食性を改善するために設けられる。保護層には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物、グラファイト、無定型カーボンなどの炭素等の材料を使用することができる。
【0047】
保護層としては、磁気ヘッド材質と同等またはそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような保護膜としては、CVD法で作製されるダイヤモンド状炭素(DLC)と呼ばれる硬質炭素膜が挙げられる。
保護層は、性質の異なる2種類以上の薄膜を積層した構成とすることができる。例えば、表面側に摺動特性を改善するための硬質炭素保護膜を設け、磁性層側に耐食性を改善するための窒化ケイ素などの窒化物保護膜を設けることで、耐食性と耐久性とを高い次元で両立することが可能となる。
【0048】
本発明の磁気記録媒体に用いられる好ましい保護層としては、前記磁性層の上に、DCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなる第1保護層と、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる第2保護層とを、この順に有することが好ましい。
第1保護層の硬度はナノインデンテーション法において、5GPa以上を満たすことが望ましい。
第2保護層の硬度はナノインデンテーション法において、10GPa以上を満たすことが望ましい。
第1保護層の成膜方法としては、カーボンターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタ法により形成することができる。形成された膜はアモルファス構造を有しており、CVD法を用いたカーボン膜に比べ、膜応力も小さく磁性層への密着性も高い。
第2保護層の成膜方法としては、前述の硬度制御層の成膜と同様の方法が用いられる。
【0049】
また、前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすこと好ましい。
このような膜硬度が高い材料を用いることによる磁気記録媒体全体の膜強度向上に効果がある。
【0050】
保護層上には、走行耐久性および耐食性を改善するために、必要に応じて、潤滑層が設けられる。潤滑層には、炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤等の潤滑剤が使用される。
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類、ステアリン酸ブチル等のエステル類、オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類、リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類、ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類、ステアリルアミン等のアミン類などが挙げられる。
【0051】
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)n、またはこれらの共重合体等である。具体的には、分子鎖末端に水酸基を有するパーフルオロメチレン−パーフルオロエチレン共重合体(アウジモント社製、商品名:FOMBLIN Z−DOL)等が挙げられる。
【0052】
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類、亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類、二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤などが挙げられる。
【0053】
上記の潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用することができ、潤滑剤を有機溶剤に溶解した溶液を、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ディップコート法等で保護層表面に塗布するか、真空蒸着法により保護層表面に付着させればよい。潤滑剤の塗布量としては、1〜30mg/m2 が好ましく、2〜20mg/m2 が特に好ましい。
【0054】
また、耐食性をさらに高めるために、防錆剤を併用することが好ましい。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体等が挙げられる。これら防錆剤は、潤滑剤に混合して保護層上に塗布してもよく、潤滑剤を塗布する前に保護層上に塗布し、その上に潤滑剤を塗布してもよい。防錆剤の塗布量としては、0.1〜10mg/m2が好ましく、0.5〜5mg/m2が特に好ましい。
【0055】
以下に、可撓性高分子支持体を用いた磁気記録媒体の作製方法の一例について説明する。
図1に示すCVD装置で、前述の通り、支持体上に硬度制御層を成膜した後、該硬度制御層上に磁性層等の層を成膜装置を用いて形成する。
成膜装置は、真空室を有し、真空ポンプによって所定の圧力に減圧された状態でアルゴンガスがスパッタリング気体供給管から所定の流量で供給されている。可撓性高分子支持体は、巻だしロールから巻きだされ、張力調整ロールによって張力を調整されて、成膜ロールに沿って搬送された状態で、下地層(必要に応じて)、磁性層、第1保護層(好ましくは)の各々の形成用スパッタリング装置のターゲットを用いて、該支持体上に順次、下地層、磁性層、第1保護層の各々の層が成膜される。
次に、磁性層が形成された面を第2の成膜ロールに沿わせた状態で、上記と同様に各々の層が成膜される。
【0056】
以上の工程によって、可撓性高分子支持体の両面に磁性層等が形成されて、巻き取りロールによって巻き取られる。
また、以上の説明では、可撓性高分子支持体の両面に磁性層等を形成する方法について説明をしたが、同様の方法で一方の面のみに形成することも可能である。また第1保護層を形成した後に、その層上にダイヤモンド状炭素からなる第2保護層がCVD法によって形成される。
【0057】
この第2保護層を形成するには前述の硬度制御層の形成と同様の方法が採られる。
【0058】
【実施例】
以下に本発明を実施例によって更に具体的に本発明を説明するが、勿論本発明の範囲は、これらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
厚み63μm、表面粗さRa=1.4nmのポリエチレンナフタレートフィルム上に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、塩酸、アルミニウムアセチルアセトネート、エタノールからなる下塗り液をグラビアコート法で塗布した後、100℃で乾燥と硬化を行い、厚み1.0μmのシリコン樹脂からなる下塗り層を作製した。
この下塗り層上に粒子径25nmのシリカゾルと前記下塗り液を混合した塗布液をグラビアコート法で塗布して、下塗り層上に高さ15nmの突起を10個/μm2 の密度で形成した。
この下塗り層は支持体フィルムの両面に形成した。次に図1に示したウェブ式のCVD装置にこの支持体を設置し、エチレンガス、窒素ガス、アルゴンガスを反応ガスとして用いたRFプラズマCVD法でC:H:N=62:29:7mol比からなる窒素添加DLC硬度制御層を10nmの厚みで両面形成した。
【0059】
その後、該原反をウェブスパッタ装置に設置し、水冷したキャン上にフィルムを密着させながら搬送し、硬度制御層上に、DCマグネトロンスパッタ法で、Ruからなる下地層を25nmの厚みで形成し、引き続き{(Co:Pt:Cr=70:20:10原子比):SiO2=88:12(原子比)、即ち(Co70Pt20Cr10)88−(SiO2)12と記す}からなる磁性層を20nmの厚みで形成し、引き続き、Cからなる第1保護層を順に形成した。
この下地層、磁性層、第1保護層はフィルムの両面に成膜した。次にこの原反を再度ウェブ式のCVD装置に設置し、エチレンガス、窒素ガス、アルゴンガスを反応ガスとして用いたRFプラズマCVD法でC:H:N=62:29:7mol比からなる窒素添加DLC第2保護層を10nmの厚みで形成した。
なおこのとき磁性層には−500Vのバイアスを印加した。この第2保護層もフィルムの両面に成膜した。
【0060】
次にこの第2保護層表面に分子末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤(モンテフルオス社製、FOMBLIN Z−DOL)をフッ素系潤滑剤(住友スリーエム社製、HFE−7200)に溶解した溶液をグラビアコート法で塗布し、厚み1nmの潤滑層を形成した。この潤滑層もフィルムの両面に形成した。
次にこの原反から3.5inchサイズのディスクを打ち抜き、これをテープバーニッシュした後、樹脂製カートリッジ(富士写真フイルム社製Zip100用)に組み込んで、フレキシブルディスクを作製した。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1において、下地層を下記表1に示すものに変更して形成した以外は、実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0062】
【表1】
【0063】
〔比較例1〕
実施例1において、CVD法炭素硬度制御層を支持体上に設けなかった以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0064】
〔比較例2〕
実施例1において、CVD法炭素硬度制御層をDCマグネトロンスパッタ法による炭素硬度制御層に変更した以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0065】
得られた上記試料を以下により評価した。結果を表2に示す。
(評価)
▲1▼走行耐久性
得られたフレキシブルディスクをZip100ドライブで記録再生を繰り返し行いながら走行させ、出力が初期値−3dBとなった時点で走行を中止し、耐久時間とした。なお環境は23℃50%RHとし、試験は最大500時間とした。
▲2▼保護層磨耗量評価方法
ダイヤモンド圧子により、保護層のWear試験[圧子に0〜100μNまで段階的に荷重をかけながら保護層の引っかきを行い、荷重に対する磨耗量を測定する]を行い、引っかき荷重:50μNでの磨耗深さを測定し、評価を行った。
▲3▼ナノインデンテーション法による硬度評価
ダイヤモンドチップから成る圧子を薄膜表面に押し込み、その時の圧子にかかる荷重Pと圧子の下の射影面積Aから求まる。
H=P/A
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果からわかるように、本発明の磁気記録媒体である各実施例のフレキシブルディスクは、走行耐久性およびWear試験による保護層の磨耗量が良好であり、満足すべき結果を得たが、一方、CVD法炭素硬度制御層を有しない比較例1及び炭素硬度制御層をスパッタ法により設けた比較例2におけるフレキシブルディスクは、走行耐久性および保護層の磨耗量において不満足なものであった。
【0068】
【発明の効果】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上の少なくとも一方の面に、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、好ましくは、前記磁性層の上に、DCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなる第1保護層と、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる第2保護層とを、この順に有することにより、支持体として高分子フイルムを用いた場合にも、膜全体の強度向上効果があり、熱ダメージを生じることなく、接触記録の耐久性・保存性の優れた、フレキシブルディスク等の磁気記録媒体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に適用可能な高周波プラズマを利用したCVD装置の一例を説明する図である。
【符号の説明】
1 CVD装置
2 非磁性支持体
3 ロール
4 パスローラ
5 バイアス電源
6 成膜ロール
7 原料気体
8 高周波電源
9 巻き取りロール
【発明の属する技術分野】
本発明は、デジタル情報の記録に使用する磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、インターネットの普及により、パーソナル・コンピュータを用いて大容量の動画情報や音声情報の処理を行う等、コンピュータの利用形態が変化してきている。これに伴い、ハードディスク等の磁気記録媒体に要求される記憶容量も増大している。
ハードディスク装置においては、磁気ディスクの回転に伴い、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面からわずかに浮上し、非接触で磁気記録を行っている。このため、磁気ヘッドと磁気ディスクとの接触によって磁気ディスクが破損するのを防止している。高密度化に伴って磁気ヘッドの浮上高さは次第に低減されており、鏡面研磨された超平滑なガラス基板上に磁気記録層(磁気層)等を形成した磁気ディスクを用いることにより、現在では10nm〜20nmの浮上高さが実現されている。媒体においては、一般的にCoPtCr系磁性層/Cr下地層の層構造が用いられており、該磁性層及び下地層の形成時に200℃〜500℃の高温にすることで、Cr下地層によりCoPtCr系磁性層の磁化容易方向が膜面内となるよう制御している。さらに、CoPtCr系磁性層中のCrの偏析を促し、磁性層中の磁区を分離している。この様なヘッドの低浮上量化、ヘッド構造の改良、ディスク記録膜の改良等の技術革新によってハードディスクドライブの面記録密度と記録容量はここ数年で飛躍的に増大してきた。
【0003】
取り扱うことができるデジタルデータ量が増大することによって、動画データの様な大容量のデータを可換型媒体に記録して、移動させるというニーズが生まれてきた。しかしながら、ハードディスクは基板が硬質であって、しかも上述のようにヘッドとディスクの間隔が極わずかであるため、フレキシブルディスクや書き換え型光ディスクの様に可換媒体としての使用を試みると、動作中の衝撃や塵埃の巻き込みによって故障を発生する懸念が高く、使用できない。
さらに、媒体製造において高温スパッタ成膜法を用いた場合、生産性が悪いばかりでなく、大量生産時のコスト上昇につながり、安価に生産できない。
【0004】
一方、フレキシブルディスクは基板がフレキシブルな高分子フィルムであり、接触記録可能な媒体であるため可換性に優れており、安価に生産できるが、現在市販されているフレキシブルディスクは記録膜(磁気層)が磁性体を高分子バインダーや研磨剤とともに高分子フィルム上に塗布した構造であるため、スパッタ法で磁性膜を形成しているハードディスクと比較すると、磁性層の高密度記録特性が悪く、ハードディスクの1/10以下の記録密度しか達成できていない。
そこで記録膜をハードディスクと同様のスパッタ法で形成する強磁性金属薄膜型のフレキシブルディスクも提案されているが、ハードディスクと同様の磁性層を高分子フィルム上に形成しようとすると、高分子フィルムの熱ダメージが大きく、実用化が困難である。また、ヘッドとメディアの接触は避けられないため、硬質な保護層が必要不可欠となっている。このため高分子フィルムとして耐熱性の高いポリイミドや芳香族ポリアミドフィルムを使用する提案もなされているが、これらの耐熱性フィルムが非常に高価であり、実用化が困難となっている。また高分子フィルムに熱ダメージを生じないように、高分子フィルムを冷却した状態で磁性膜を形成しようとすると、磁性層の磁気特性が不十分となり、記録密度の向上が困難となっている。
【0005】
それに対し、強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性金属薄膜を用いた場合、室温で成膜した場合においても、200℃〜500℃の高温条件下で成膜したCoPtCr系磁性層とほぼ同等の磁気特性を得られることがわかってきた。このような強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性金属薄膜はハードディスクで提案されているいわゆるグラニュラ構造のものが使用できる(例えば特許文献1及び2参照。)。
しかし、高分子フィルムを用いたフレキシブルディスクはベースから磁性層までの層の膜強度が低く、いまだ充分な走行耐久性が得られていないのが現状である。
【0006】
一方、DVD−R/RWに代表される追記型および書き換え型光ディスクは、磁気ディスクのようにヘッドとディスクが近接していないため、可換性に優れており、広く普及している。しかしながら光ディスクは、光ピックアップの厚みとコストの問題から、高容量化に有利な磁気ディスクのように両面を記録面としたディスク構造を用いることが困難であるといった問題がある。さらに、磁気ディスクと比較すると面記録密度が低く、データ転送速度も低いため、書き換え型の大容量記録媒体としての使用を考えると、未だ十分な性能とはいえない。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−73880号公報
【特許文献2】
特開平7−311929号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することであり、性能、信頼性、コストを満足する大容量の書き換え可能な可換型磁気記録媒体であり、膜強度が高く、充分な走行耐久性が得られ、良好な磁気特性を達成することができる磁気記録媒体を提供することである。
【0009】
【発明が解決するための手段】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を採用することにより、上記目的が達成され、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)非磁性支持体の少なくとも一方の面に、硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、該硬度制御層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)前記磁性層の上に、第1の保護層と、第2の保護層とを、この順に有することを特徴とする前記(1)の磁気記録媒体。
(3)前記第1の保護層がDCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなり、前記第2の保護層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とする前記(2)の磁気記録媒体。
(4)前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことを特徴とする前記(2)または(3)の磁気記録媒体。
【0010】
本発明の磁気記録媒体は、少なくともCo、Pt、Crを含有する強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性金属薄膜磁性層を備えているので、ハードディスクのような高記録密度記録が可能となり、高容量化が可能となる。
さらに、本発明の硬度制御層は膜硬度が高い材料を用いることによる膜全体の強度向上効果があるため、フィルムベースを使用する媒体において課題とされているメディア削れの問題を解決することができる。
上記の様な硬度制御層、磁性層、必要に応じて硬度制御層と磁性層の間に下地層を有し、好ましくは第1保護層、第2保護層を使用することによって、従来のような基板(支持体)加熱が不要となり、基板温度が室温であっても、良好な磁気特性を達成することができ、かつ膜全体の強度向上によりヘッド荷重をかけた際にも充分な走行耐久が得られる磁気記録媒体を得ることが可能となる。このため、ガラス基板やAl基板だけでなく、支持体が高分子フィルムであっても熱ダメージを生じることなく、接触記録に耐性のある、平坦な磁気テープやフレキシブルディスクを提供することが可能である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁気記録媒体について詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上の少なくとも一方の面に、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、必要に応じて硬度制御層と磁性層の間に下地層を有する。
また本発明の磁気記録媒体は、好ましくは、前記磁性層の上に、DCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなる第1保護層と、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる第2保護層とを、この順に有し、更に好ましくは前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことにより、支持体として高分子フイルムを用いた場合にも、膜全体の強度向上効果がより大きく、熱ダメージを生じることなく、接触記録の耐久性・保存性が更に優れたものである。
ディスク状磁気記録媒体は、通常、支持体の両面に上記各層が設けられる。テープ状媒体は、通常、支持体の片面に上記各層が設けられるが、両面に設けても構わない。
【0012】
以下に本発明の磁気記録媒体について、硬度制御層、磁性層、下地層、非磁性支持体、下塗り層、第1保護層、第2保護層等に分けて説明する。
〔硬度制御層〕
本発明の磁気記録媒体の特徴的構成である硬度制御層は、非磁性支持体上の少なくとも一方の面に設けられ、CVD法で作製されるダイヤモンド状炭素(DLC)と呼ばれる硬質炭素膜である。
硬度制御層の硬度は、ナノインデンテーション法において、5GPa以上を満たすことが好ましい。
硬度制御層としては、磁気ヘッド材質と同等またはそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような膜硬度が高い材料を用いることによる磁気記録媒体全体の膜強度向上に効果がある。
なお、後述の十分な導電性を有する導電性層を用いることで、CVD法でバイアス電圧をかけながら、DLC硬度制御層を成膜することが容易になる。
【0013】
本発明の硬度制御層の成膜に適用可能な高周波プラズマを利用したCVD装置の一例を説明する。
図1は、本発明の硬度制御層の成膜に適用可能な高周波プラズマを利用したCVD装置の一例を説明する図である。
非磁性支持体2は、ロール3から巻き出され、パスローラ4によってバイアス電源5からバイアス電圧が給電され成膜ロール6に巻きつけられた状態で走行する。
一方、炭化水素、窒素、希ガス等を含有する原料気体7は、高周波電源8から印加された電圧によって発生したプラズマによって、成膜ロール6上の支持体2上に窒素、希ガスを含有した硬度制御層が形成され、巻き取りロール9に巻き取られる。また、硬度制御層の作製の前に支持体表面を希ガスや水素ガスによるグロー処理などによって清浄化することでより大きな密着性を確保することができる。
【0014】
〔磁性層〕
本発明の磁気記録媒体に形成する磁性層は、少なくともコバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性成分(物質)から構成された強磁性薄膜磁性層である。
本発明の磁気記録媒体は該磁性層を備えているので、ハードディスクと同様に高記録密度記録が可能となり、リムーバブル型の磁気記録媒体の高容量化が可能となる。また、このコバルトを含有する強磁性金属合金と非磁性物質からなる強磁性薄膜磁性層はハードディスクで提案されているいわゆるグラニュラ構造であり、特開平5−73880号公報や特開平7−311929号公報等に記載されているものと同様の方法によって製造したものが使用できる。
【0015】
磁性層は少なくともコバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質から構成されている。強磁性金属合金と非磁性物質は見かけ上は混合して存在しているが、全体組成に比べて強磁性金属合金の存在量が多い部分と、全体組成に比べて非磁性物質が多い部分である。また、強磁性金属合金の存在量が多い部分は、相互に0.01nm〜10nmの間隔を設けて形成されている。
【0016】
本発明の磁気記録媒体における磁性層は、磁性層面に対して垂直方向に磁化容易軸を有するいわゆる垂直磁気記録膜でも、水平方向に磁化容易軸をを有する面内磁気記録膜でも良い。この磁化容易軸の方向は後述の下地層4の材料、結晶構造または成膜条件および磁性膜の組成と成膜条件によって制御することができる。
【0017】
本発明の磁性層は、必要に応じて硬度制御層と磁性層の間に下地層を設けた該下地層の結晶配向を反映して結晶成長が起こり、柱状構造を形成することが望ましい。この様な構造とすることで、非磁性物質に富んだ領域による磁性金属合金に富んだ領域間の分離構造が安定となり、高い保持力を達成できるとともに、強磁性金属合金に富んだ部分では磁化量が増えるため、高出力化が可能となり、しかも強磁性金属合金に富んだ部分の分散性が均一となるため、ノイズも小さくすることが可能になる。
【0018】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金としてはCo、Cr、PtとNi、Fe、B、Si、Ta、Nb等の元素との合金が使用できるが、記録特性を考慮するとCo−Pt−Cr、Co−Pt−Cr−Ta、Co−Pt−Cr−B等が特に好ましい。
【0019】
非磁性物質としてはSi、Zr、Ta、B、Ti、Al、Cr、Ba、Zn、Na、La、In、Pb等の酸化物、炭化物、窒化物が使用できるが、記録特性を考慮するとSiOx が最も好ましい。
【0020】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質の混合比は、強磁性金属合金:非磁性物質=95:5〜80:20(原子比)の範囲であることが好ましく、90:10〜85:15の範囲であることが特に好ましい。これよりも強磁性金属合金が多くなると、磁性粒子間の分離が不十分となり、保持力が低下してしまうことがある。逆にこれよりも少なくなると、磁化量が減少するため、信号出力が著しく低下してしまうことがある。
【0021】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質の混合物からなる磁性層の厚みとしては好ましくは10nm〜60nm、さらに好ましくは10nm〜40nmの範囲である。これよりも厚みが厚くなるとノイズが著しく増加してしまうことがあり、逆に厚みが薄くなると、出力が著しく減少してしまうことがある。
【0022】
コバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質からなる磁性層を形成する方法としては真空蒸着法、スパッタリング法などの真空成膜法が使用できる。なかでもスパッタリング法は良質な薄膜が容易に成膜可能であることから、本発明に好適である。スパッタリング法としてはDCスパッタリング法、RFスパッタリング法のいずれも使用可能である。スパッタリング法は連続フィルム上に連続して成膜するウェブスパッタリング装置、枚葉式スパッタリング装置を用いることができるがウェブスパッタリング装置を用いることが好ましい。スパッタリング時の雰囲気に使用する気体はアルゴンが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。また非磁性物質の酸素含有率や表面粗さを調整するために微量の酸素を導入しても良い。
【0023】
とくに、本発明のようにスパッタリング法でコバルト、白金、クロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層を形成するためには、強磁性金属合金ターゲットと非磁性物質ターゲットの2種を用い、これらの共スパッタリング法を使用することも可能であるが、形成すべき強磁性金属合金と非磁性物質の組成比に合致した強磁性金属合金と非磁性物質を均質に混合した混合物ターゲットを用いると、強磁性金属合金が均一に分散した磁性層を形成することができる。また、この混合物ターゲットはホットプレス法等で作製することができる。
【0024】
〔下地層〕
本発明の磁気記録媒体は、必要に応じて前記硬度制御層と磁性層の間に下地層を設けることもできる。該下地層は、磁性層の密着性の向上、膜応力の緩和、磁性層の結晶配向制御が可能となり、より安定な柱状構造を持つ磁性層を形成することができ、記録特性が向上する。
本発明の磁気記録媒体において好ましい下地層は、Li、Mg、Al、Si、P、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Sb、Te、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Pbからなる群から少なくとも1種が選ばれる。
【0025】
これらのなかでも、Co、Os、Re、Ti、Zn、Ta、Al、Cr、Mo、W、Fe、Sb、Ir、Ru、Rh、Pt、Pd、SiおよびZrから選択される少なくとも1種の元素を有する合金を用いることが好ましいが、格子定数制御及び密着性向上の観点からは、Ti、Be、Ru、Cr、Si、Zr等がさらに望ましい。この様な下地層を用いることによって、磁性層の配向性を改善できるため、記録特性が向上する。
【0026】
下地層の厚みは10nm〜200nmが好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。これよりも厚みが厚くなると、生産性が悪くなるとともに、結晶粒の肥大化によりノイズが増加してしまい、逆にこれよりも厚みが薄くなると、下地層効果による磁気特性の向上が得られない。
【0027】
下地層を成膜する方法としては真空蒸着法、スパッタ法などの真空成膜法が使用できる。中でもスパッタ法は良質な超薄膜が容易に成膜可能であることから、本発明に好適である。スパッタ法としては、公知のDCスパッタ法、RFスパッタ法のいずれも使用可能である。スパッタ法は、可撓性高分子フィルムを支持体としたフレキシブルディスクの場合、連続フィルム上に連続して成膜するウェブスパッタ装置が好適であるが、Al基板やガラス基板を用いる場合に使用されるような枚様式スパッタ装置や通過型スパッタ装置も使用できる。
【0028】
下地層スパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。また、下地層の格子定数制御の目的で、微量の酸素ガスを導入してもかまわない。
【0029】
スパッタリング法で、複数の元素を含有する下地層を形成するためには、各元素ターゲットからなる複数個のターゲットを用い、これらの共スパッタリング法を使用することもできるが、格子定数等を精密に制御し、かつ均質な膜を作製するためには、使用する全元素による複合ターゲットを用いることが好ましい。この複合ターゲットはホットプレス法等で作製することができる。
【0030】
また、前述の硬度制御層の成膜を容易にするために導電性層を設けることができる。
導電性層は、通常、後述の下塗り層と前記硬度制御層の間に設けられる。導電性層としては、磁気記録媒体の導電性確保、即ち硬度制御層等の形成においてCVD法におけるバイアス電圧も膜表面に直接印加することが可能となることに加えて、下地層、ひいては磁気層の密着性の改善や同層の結晶配向制御の目的等で、電気抵抗率は0Ω・mから5Ω・mに、好ましくは、0〜1Ω・mに調整される。電気抵抗率は、4端子電気抵抗率測定器で計測することができる。
【0031】
このような導電性層としては、Ti、Al、Cu、Ag、Ni、Pd、Pt、Mn、Zn、Ge、Sn、PbおよびAuから選択される少なくとも1種の元素を有する合金を使用することができるが、それ以外の元素を含有する合金を用いてもかまわない。
【0032】
上記導電性層の厚みは1nm〜100nmが好ましく、1nm〜50nmが特に好ましい。これよりも厚みが厚くなると、膜応力が増大するため基板変形等の問題が生じる可能性があり、逆にこれよりも厚みが薄くなると、CVD法で硬質な硬度制御層や保護層を成膜する際に必要な導電性が得られないことがある。
【0033】
導電性層を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法などの真空成膜法が使用でき、中でもスパッタ法は良質な超薄膜が容易に成膜可能である。
【0034】
本発明の磁気記録媒体に用いられる支持体としては、磁気ヘッドと磁気ディスクとが接触した時の衝撃を回避するために、可撓性を備えた樹脂フイルム(可撓性高分子支持体)で構成されていることが好ましい。このような合成樹脂フィルムとしては、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセテートセルロース、フッ素樹脂等からなる合成樹脂フィルムが挙げられる。本発明では支持体を加熱することなく良好な記録特性を達成することができるため、表面性が良好で、また入手も容易なポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートが特に好ましい。
【0035】
また、可撓性高分子支持体として合成樹脂フィルムを複数枚を積層したものを用いても良い。複数枚を積層した積層フィルムを用いることにより、可撓性高分子支持体自身に起因する反りやうねりを軽減することができる。その結果、磁気記録媒体の表面が磁気ヘッドと衝突による磁気記録層(磁性層)の耐傷性を著しく改善することがきる。
可撓性フイルムを積層する方法としては、熱ロールによるロール積層、平板熱プレスによる平板積層、接着面に接着剤を塗布してラミネートするドライ積層、予めシート状に成形された接着シートを用いる積層方法等が挙げられる。積層に接着剤を用いる場合には、ホットメルト接着剤、熱硬化性接着剤、UV硬化型接着剤、EB硬化型接着剤、粘着シート、嫌気性接着剤などを使用することがきる。
【0036】
可撓性高分子支持体の厚みは、10μm〜200μm、好ましくは20μm〜150μm、さらに好ましくは30μm〜100μmである。可撓性高分子支持体の厚みが10μmより薄いと、高速回転時の安定性が低下し、面ぶれが増加することがある。一方、可撓性高分子支持体の厚みが200μmより厚いと、回転時の剛性が高くなり、接触時の衝撃を回避することが困難になり磁気ヘッドの跳躍を招くことがある。
【0037】
また、下記式で表される可撓性高分子支持体の腰の強さは、b=10mmでの値が4.9MPa〜19.6MPa(0.5kgf/mm2 〜2.0kgf/mm2 )の範囲にあることが好ましく、6.9MPa〜14.7MPa(0.7kgf/mm2 〜1.5kgf/mm2 )がより好ましい。
【0038】
可撓性高分子支持体の腰の強さ=Ebd3/12
【0039】
なお、この式において、Eはヤング率、bはフィルム幅、dはフィルム厚さを各々表す。
【0040】
可撓性高分子支持体の表面は、磁気ヘッドによる記録を行うために、可能な限り平滑であることが好ましい。支持体表面の凹凸は、信号の記録再生特性を著しく低下させる。具体的には、後述する下塗り層を使用する場合では、光干渉式の表面粗さ計で測定した表面粗さが中心面平均粗さSRaで5nm以内、好ましくは2nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが1μm以内、好ましくは0.1μm以内である。また、下塗り層を用いない場合では、光干渉式の表面粗さ計で測定した表面粗さが中心面平均粗さSRaで3nm以内、好ましくは1nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが0.1μm以内、好ましくは0.06μm以内である。
【0041】
可撓性高分子支持体表面には、平面性の改善と気体遮断性を高めるために下塗り層を設けることが好ましい。磁性層をスパッタリング等で形成するため、下塗り層は耐熱性に優れることが好ましく、下塗り層の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等を使用することができる。熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂は、平滑化効果が高く、特に好ましい。下塗り層の厚みは、0.1μm〜3.0μmが好ましい。支持体に他の樹脂フィルムを積層する場合には、積層加工前に下塗り層を形成してもよく、積層加工後に下塗り層を形成してもよい。
【0042】
熱硬化性ポリイミド樹脂としては、ビスアリルナジイミド(丸善石油化学社製BANI)のように、分子内に末端不飽和基を2つ以上有するイミドモノマーを、熱重合して得られるポリイミド樹脂が好適に用いられる。このイミドモノマーは、モノマーの状態で支持体表面に塗布した後に、比較的低温で熱重合させることができるので、原料となるモノマーを支持体上に直接塗布して硬化させることができる。また、このイミドモノマーは一般的な有機溶剤に溶解させて使用することができ、生産性、作業性に優れると共に、分子量が小さく、その溶液粘度が低いために、塗布時に凹凸に対する回り込みが良く、平滑化効果が高い。
【0043】
熱硬化性シリコーン樹脂としては、有機基が導入されたケイ素化合物を原料としてゾルゲル法で重合したシリコーン樹脂が好適に用いられる。このシリコーン樹脂は、二酸化ケイ素の結合の一部を有機基で置換した構造からなりシリコーンゴムよりも大幅に耐熱性に優れると共に、二酸化ケイ素膜よりも柔軟性に優れるため、可撓性フィルムからなる支持体上に樹脂膜を形成しても、クラックや剥離が生じ難い。また、原料となるモノマーを可撓性高分子支持体上に直接塗布して硬化させることができるため、汎用溶剤を使用することができ、凹凸に対する回り込みも良く、平滑化効果が高い。更に、縮重合反応は、酸やキレート剤などの触媒の添加により比較的低温から進行するため、短時間で硬化させることができ、汎用の塗布装置を用いて樹脂膜を形成することができる。また熱硬化性シリコーン樹脂は気体遮断性に優れており、磁性層形成時に可撓性高分子支持体から発生し、磁性層または下地層の結晶性、配向性を阻害する気体を遮蔽する気体遮蔽性が高く、特に好適である。
【0044】
下塗り層の表面には、磁気ヘッドとフレキシブルディスクとの真実接触面積を低減し、摺動特性を改善することを目的として、微小突起(テクスチャ)を設けることが好ましい。また、微小突起を設けることにより、可撓性高分子支持体の取り扱い性も良好になる。微小突起を形成する方法としては、球状シリカ粒子を塗布する方法、エマルジョンを塗布して有機物の突起を形成する方法などが使用できるが、下塗り層の耐熱性を確保するため、球状シリカ粒子を塗布して微小突起を形成するのが好ましい。
【0045】
微小突起の高さは5nm〜60nmが好ましく、l0nm〜30mmがより好ましい。微小突起の高さが高すぎると記録再生ヘッドと媒体のスペーシング損失によって信号の記録再生特性が劣化することがあり、微小突起が低すぎると摺動特性の改善効果が少なくなることがある。微小突起の密度は0.1〜100個/μm2 が好ましく、1〜10個/μm2 がより好ましい。微小突起の密度が少なすぎる場合は摺動特性の改善効果が少なくなることがあり、多過ぎると凝集粒子の増加によって高い突起が増加して記録再生特性が劣化することがある。
また、バインダーを用いて微小突起を支持体表面に固定することもできる。バインダーには、十分な耐熱性を備えた樹脂を使用することが好ましく、耐熱性を備えた樹脂としては、溶剤可溶型ポリイミド樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコン樹脂を使用することが特に好ましい。
【0046】
磁性層の表面には保護層が設けられることが好ましい。保護層は、磁性層に含まれる金属材料の腐蝕を防止し、磁気ヘッドと磁気ディスクとの擬似接触または接触摺動による摩耗を防止して、走行耐久性、耐食性を改善するために設けられる。保護層には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物、グラファイト、無定型カーボンなどの炭素等の材料を使用することができる。
【0047】
保護層としては、磁気ヘッド材質と同等またはそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような保護膜としては、CVD法で作製されるダイヤモンド状炭素(DLC)と呼ばれる硬質炭素膜が挙げられる。
保護層は、性質の異なる2種類以上の薄膜を積層した構成とすることができる。例えば、表面側に摺動特性を改善するための硬質炭素保護膜を設け、磁性層側に耐食性を改善するための窒化ケイ素などの窒化物保護膜を設けることで、耐食性と耐久性とを高い次元で両立することが可能となる。
【0048】
本発明の磁気記録媒体に用いられる好ましい保護層としては、前記磁性層の上に、DCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなる第1保護層と、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる第2保護層とを、この順に有することが好ましい。
第1保護層の硬度はナノインデンテーション法において、5GPa以上を満たすことが望ましい。
第2保護層の硬度はナノインデンテーション法において、10GPa以上を満たすことが望ましい。
第1保護層の成膜方法としては、カーボンターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタ法により形成することができる。形成された膜はアモルファス構造を有しており、CVD法を用いたカーボン膜に比べ、膜応力も小さく磁性層への密着性も高い。
第2保護層の成膜方法としては、前述の硬度制御層の成膜と同様の方法が用いられる。
【0049】
また、前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすこと好ましい。
このような膜硬度が高い材料を用いることによる磁気記録媒体全体の膜強度向上に効果がある。
【0050】
保護層上には、走行耐久性および耐食性を改善するために、必要に応じて、潤滑層が設けられる。潤滑層には、炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤等の潤滑剤が使用される。
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類、ステアリン酸ブチル等のエステル類、オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類、リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類、ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類、ステアリルアミン等のアミン類などが挙げられる。
【0051】
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)n、またはこれらの共重合体等である。具体的には、分子鎖末端に水酸基を有するパーフルオロメチレン−パーフルオロエチレン共重合体(アウジモント社製、商品名:FOMBLIN Z−DOL)等が挙げられる。
【0052】
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類、亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類、二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤などが挙げられる。
【0053】
上記の潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用することができ、潤滑剤を有機溶剤に溶解した溶液を、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ディップコート法等で保護層表面に塗布するか、真空蒸着法により保護層表面に付着させればよい。潤滑剤の塗布量としては、1〜30mg/m2 が好ましく、2〜20mg/m2 が特に好ましい。
【0054】
また、耐食性をさらに高めるために、防錆剤を併用することが好ましい。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体等が挙げられる。これら防錆剤は、潤滑剤に混合して保護層上に塗布してもよく、潤滑剤を塗布する前に保護層上に塗布し、その上に潤滑剤を塗布してもよい。防錆剤の塗布量としては、0.1〜10mg/m2が好ましく、0.5〜5mg/m2が特に好ましい。
【0055】
以下に、可撓性高分子支持体を用いた磁気記録媒体の作製方法の一例について説明する。
図1に示すCVD装置で、前述の通り、支持体上に硬度制御層を成膜した後、該硬度制御層上に磁性層等の層を成膜装置を用いて形成する。
成膜装置は、真空室を有し、真空ポンプによって所定の圧力に減圧された状態でアルゴンガスがスパッタリング気体供給管から所定の流量で供給されている。可撓性高分子支持体は、巻だしロールから巻きだされ、張力調整ロールによって張力を調整されて、成膜ロールに沿って搬送された状態で、下地層(必要に応じて)、磁性層、第1保護層(好ましくは)の各々の形成用スパッタリング装置のターゲットを用いて、該支持体上に順次、下地層、磁性層、第1保護層の各々の層が成膜される。
次に、磁性層が形成された面を第2の成膜ロールに沿わせた状態で、上記と同様に各々の層が成膜される。
【0056】
以上の工程によって、可撓性高分子支持体の両面に磁性層等が形成されて、巻き取りロールによって巻き取られる。
また、以上の説明では、可撓性高分子支持体の両面に磁性層等を形成する方法について説明をしたが、同様の方法で一方の面のみに形成することも可能である。また第1保護層を形成した後に、その層上にダイヤモンド状炭素からなる第2保護層がCVD法によって形成される。
【0057】
この第2保護層を形成するには前述の硬度制御層の形成と同様の方法が採られる。
【0058】
【実施例】
以下に本発明を実施例によって更に具体的に本発明を説明するが、勿論本発明の範囲は、これらによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
厚み63μm、表面粗さRa=1.4nmのポリエチレンナフタレートフィルム上に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、塩酸、アルミニウムアセチルアセトネート、エタノールからなる下塗り液をグラビアコート法で塗布した後、100℃で乾燥と硬化を行い、厚み1.0μmのシリコン樹脂からなる下塗り層を作製した。
この下塗り層上に粒子径25nmのシリカゾルと前記下塗り液を混合した塗布液をグラビアコート法で塗布して、下塗り層上に高さ15nmの突起を10個/μm2 の密度で形成した。
この下塗り層は支持体フィルムの両面に形成した。次に図1に示したウェブ式のCVD装置にこの支持体を設置し、エチレンガス、窒素ガス、アルゴンガスを反応ガスとして用いたRFプラズマCVD法でC:H:N=62:29:7mol比からなる窒素添加DLC硬度制御層を10nmの厚みで両面形成した。
【0059】
その後、該原反をウェブスパッタ装置に設置し、水冷したキャン上にフィルムを密着させながら搬送し、硬度制御層上に、DCマグネトロンスパッタ法で、Ruからなる下地層を25nmの厚みで形成し、引き続き{(Co:Pt:Cr=70:20:10原子比):SiO2=88:12(原子比)、即ち(Co70Pt20Cr10)88−(SiO2)12と記す}からなる磁性層を20nmの厚みで形成し、引き続き、Cからなる第1保護層を順に形成した。
この下地層、磁性層、第1保護層はフィルムの両面に成膜した。次にこの原反を再度ウェブ式のCVD装置に設置し、エチレンガス、窒素ガス、アルゴンガスを反応ガスとして用いたRFプラズマCVD法でC:H:N=62:29:7mol比からなる窒素添加DLC第2保護層を10nmの厚みで形成した。
なおこのとき磁性層には−500Vのバイアスを印加した。この第2保護層もフィルムの両面に成膜した。
【0060】
次にこの第2保護層表面に分子末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤(モンテフルオス社製、FOMBLIN Z−DOL)をフッ素系潤滑剤(住友スリーエム社製、HFE−7200)に溶解した溶液をグラビアコート法で塗布し、厚み1nmの潤滑層を形成した。この潤滑層もフィルムの両面に形成した。
次にこの原反から3.5inchサイズのディスクを打ち抜き、これをテープバーニッシュした後、樹脂製カートリッジ(富士写真フイルム社製Zip100用)に組み込んで、フレキシブルディスクを作製した。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1において、下地層を下記表1に示すものに変更して形成した以外は、実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0062】
【表1】
【0063】
〔比較例1〕
実施例1において、CVD法炭素硬度制御層を支持体上に設けなかった以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0064】
〔比較例2〕
実施例1において、CVD法炭素硬度制御層をDCマグネトロンスパッタ法による炭素硬度制御層に変更した以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0065】
得られた上記試料を以下により評価した。結果を表2に示す。
(評価)
▲1▼走行耐久性
得られたフレキシブルディスクをZip100ドライブで記録再生を繰り返し行いながら走行させ、出力が初期値−3dBとなった時点で走行を中止し、耐久時間とした。なお環境は23℃50%RHとし、試験は最大500時間とした。
▲2▼保護層磨耗量評価方法
ダイヤモンド圧子により、保護層のWear試験[圧子に0〜100μNまで段階的に荷重をかけながら保護層の引っかきを行い、荷重に対する磨耗量を測定する]を行い、引っかき荷重:50μNでの磨耗深さを測定し、評価を行った。
▲3▼ナノインデンテーション法による硬度評価
ダイヤモンドチップから成る圧子を薄膜表面に押し込み、その時の圧子にかかる荷重Pと圧子の下の射影面積Aから求まる。
H=P/A
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果からわかるように、本発明の磁気記録媒体である各実施例のフレキシブルディスクは、走行耐久性およびWear試験による保護層の磨耗量が良好であり、満足すべき結果を得たが、一方、CVD法炭素硬度制御層を有しない比較例1及び炭素硬度制御層をスパッタ法により設けた比較例2におけるフレキシブルディスクは、走行耐久性および保護層の磨耗量において不満足なものであった。
【0068】
【発明の効果】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上の少なくとも一方の面に、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、好ましくは、前記磁性層の上に、DCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなる第1保護層と、CVD法により成膜されたカーボン膜からなる第2保護層とを、この順に有することにより、支持体として高分子フイルムを用いた場合にも、膜全体の強度向上効果があり、熱ダメージを生じることなく、接触記録の耐久性・保存性の優れた、フレキシブルディスク等の磁気記録媒体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に適用可能な高周波プラズマを利用したCVD装置の一例を説明する図である。
【符号の説明】
1 CVD装置
2 非磁性支持体
3 ロール
4 パスローラ
5 バイアス電源
6 成膜ロール
7 原料気体
8 高周波電源
9 巻き取りロール
Claims (4)
- 非磁性支持体の少なくとも一方の面に、硬度制御層と、少なくともコバルト、白金及びクロムを含有する強磁性金属合金と非磁性物質とからなる磁性層とを、この順に有し、該硬度制御層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とする磁気記録媒体。
- 前記磁性層の上に、第1の保護層と、第2の保護層とを、この順に有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
- 前記第1の保護層がDCスパッタ法により成膜されたカーボン膜からなり、前記第2の保護層がCVD法により成膜されたカーボン膜からなることを特徴とする請求項2記載の磁気記録媒体。
- 前記硬度制御層、第1保護層、第2保護層の硬度をそれぞれS0、S1、S2とすると、S1<S0、S1<S2を満たすことを特徴とする請求項2または3記載の磁気記録媒体。
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