JP2004219225A - 沸騰水型原子炉の炉心 - Google Patents
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Abstract
【課題】装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心において、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を実現する。
【解決手段】10行10列の正方格子状に配列された複数の燃料棒6とこれらを取り囲む内幅13.4cmのチャンネルボックス11とを備えた燃料集合体1を、508体備えた沸騰水型原子炉の炉心103において、各燃料集合体1の格子ピッチをL[インチ]とし、L=6.1として算出した炉心の見かけの出力密度をD[kW/l]としたとき、55≦D≦60かつ125L−716.25≦D≦125L−710.0とする。
【選択図】 図1
【解決手段】10行10列の正方格子状に配列された複数の燃料棒6とこれらを取り囲む内幅13.4cmのチャンネルボックス11とを備えた燃料集合体1を、508体備えた沸騰水型原子炉の炉心103において、各燃料集合体1の格子ピッチをL[インチ]とし、L=6.1として算出した炉心の見かけの出力密度をD[kW/l]としたとき、55≦D≦60かつ125L−716.25≦D≦125L−710.0とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、沸騰水型原子炉に係わり、特に、中型の沸騰水型原子炉の炉心に関する。
【0002】
【従来の技術】
(1)炉心の構成
沸騰水型原子炉の炉心は、格子状に等間隔に配置された多数の燃料集合体と、この燃料集合体の相互間のギャップ水領域に挿入される制御棒と、炉内計装系とから構成される。炉心外部には反射体水領域があり、その外側にはシュラウドが配置され、内側(炉心部)を上方に向かって流れる冷却水と外側を下方に向かって流れる再循環水を分離している。再循環水は、圧力容器とシュラウドの間に配置された再循環ポンプによって強制循環される。
【0003】
燃料集合体は、略四角筒形状のチャンネルボックスと、このチャンネルボックスに取り囲まれた燃料バンドルからなる。燃料バンドルは、正方格子状に規則正しく配列された複数本の燃料棒と、中性子減速棒である水ロッドとから構成される。一方、チャンネルボックスの周囲には制御棒、あるいは、炉内計装系が挿入できるよう飽和水の領域であるギャップ水が満たされる。燃料棒の間には冷却水がチャンネルボックス下方から上方に向かって流れており、中性子減速材としての役割とともに、燃料棒で発生した熱エネルギーをタービン機器側に伝達し電気エネルギーへ変換する役割を担っている。
【0004】
(2)炉心の出力密度
一般に、炉心において、単位時間、炉心の単位体積あたりに発生する熱エネルギーは炉心の出力密度と称される。炉心の体積とは、燃料棒のうち発熱に寄与する部分の長さ(=燃料棒有効長)、燃料集合体の配列ピッチの二乗(=単位格子面積)、および装荷燃料集合体数の積で定義される。
【0005】
近年、原子炉の経済性向上を目的として、単位発電量あたりの発電コスト(=発電単価)を低減するために原子炉出力を増大する傾向がある。原子炉構造を大きく変更せずに出力を増大するためには、炉心の出力密度を増大するのが有効な手段である。例えば米国のクリントン原子力発電所は、従来の炉心出力密度52.4kW/lから20%出力を増大させ約62.9kW/lとすることについて、米国原子力規制委員会(NRC)より既に承認されたことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
(3)炉停止余裕と熱的余裕
このとき、炉心設計の観点から、炉心出力密度をどこまで増大できるかは、主に原子炉運転中や過渡時における燃料の健全性を保証する熱的余裕、および原子炉が安全に停止できることを示す指標である炉停止余裕を、定められた設計基準に従って保てるかどうかで決まる。
【0007】
炉停止余裕は、以下のような理由で炉心出力密度を増大するにつれ減少していく。一般に、沸騰水型原子炉では、炉心の冷却水が沸騰して中性子の減速効果が小さくなる原子炉運転時よりも、冷却水が飽和水となる原子炉停止時の方が、炉心からの中性子漏れが減少する効果、並びに中性子減速効果が増大する効果により、炉心反応度が大きくなる傾向がある。この原子炉運転時と停止時の反応度の差(ホット・コールドスイングと呼ばれる)が大きいほど炉停止余裕が小さくなる。このとき、出力密度を増大した場合は、運転時に冷却水が燃料集合体高さ方向においてより低い位置から沸騰を開始するため、冷却水を水蒸気が占める割合(ボイド率)が大きくなる。ボイド率が大きくなるほど上記効果が増大し、結果として出力密度を増大するほどホット・コールドスイングが大きくなり、炉停止余裕がより減少することになる。
【0008】
一方、熱的余裕は、最大線出力密度(MLHGR)および最小限界出力比(MCPR)によって表される。最大線出力密度は、燃料棒単位長さあたりの最大発熱量によって定義され、設計基準によって決められた値を運転中に超えないようにする必要がある。また、最小限界出力比は、燃料棒被覆管表面において冷却材が膜沸騰状態に遷移し除熱効率が著しく低下し始める燃料棒出力、すなわち限界出力を実際の出力で割った値で定義され、設計基準で決められた値を運転中および過渡時に下回らない様にする必要がある。この熱的余裕は、炉心出力密度を増大することで減少していく傾向となる。
【0009】
近年、電力需要増加割合の鈍化や分散電源志向の強まりなどに対応し、発電容量を小規模とする代わりに、発電に必要な設備物量を低減することで建設コストを抑えた中小型原子炉(例えば、装荷燃料集合体数を300ないし500程度としたもの)のニーズが高まっている。一般に、発電容量を小さくしても、それと同等な割合で設備コストを低減することはできないため、中型炉の発電単価は大型炉(例えば、装荷燃料集合体が600体を超え電気出力が100万kW以上であるような原子炉)と比較すると割高になる傾向がある(=スケール効果)。スケール効果による経済性悪化を克服するため、同規模の設備でできるだけ出力を増大することが、中型炉ではいっそう重要となる。
【0010】
中型炉の場合は炉心サイズが小さいことから、大型炉と比較して中性子が炉心から漏れる割合が大きくなり反応度が減少する。この中性子漏れによる中型炉と大型炉の反応度差は、冷却水のボイド率が大きくなり中性子減速効果が小さくなる運転時に相対的に大きくなり、冷却水が飽和水となる運転停止時には差が小さくなる。すなわち、中型炉の方が相対的にホット・コールドスイングが大きくなって炉停止余裕が小さくなるため、大型炉と比較して出力密度増大が困難となる。
【0011】
ここで、炉停止余裕を増大する手法の一例として、従来、チャンネルボックス間のギャップ水領域を増大する方法がある(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、9行9列の正方格子状に配列された複数の燃料棒とこれらを取り囲むチャンネルボックスとを備えた燃料集合体を備える炉心において、飽和水であるギャップ水領域を増大し、減速材対燃料比を増大することで、原子炉運転時の中性子減速効果を高め、ホット・コールドスイングを低減し、結果として炉停止余裕を増大するものである。
【0012】
【非特許文献1】
World Nuclear Industry Handbook 2001
(Nuclear Engineering International誌)
【特許文献1】
特許2510559号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本願発明者等の検討によれば、上記従来技術による手法をそのまま中型炉における炉停止余裕の増大に適用しようとした場合、そのままでは、経済性の観点で十分な効果を得られなくなる可能性があることがわかった。すなわち、出力の増大の程度とギャップ水領域の拡大の程度との間にはある適正な関係が存在し、これを逸脱して例えばある出力に対してギャップ水領域が大きくなりすぎると中性子の平均エネルギーが減少しすぎて水による中性子吸収が増大しすぎ、かえって反応度が低下し燃料経済性が低下するので原子炉全体で見た経済性の向上効果が不十分となる可能性がある。また逆に、ある出力に対してギャップ水領域が過小であると、十分な炉停止余裕の改善効果が得られない可能性がある。
【0014】
以上説明したように、従来は、中型炉における出力の増大に伴う炉停止余裕及び熱的余裕の低下を防止し、経済性を十分に向上できる構成を実現するのは困難であった。
【0015】
本発明の目的は、装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心において、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を実現できる構成を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、n行n列の正方格子状に配列された複数の燃料棒とこれらを取り囲む内幅13.4cmのチャンネルボックスとを備えた燃料集合体を、300体以上600体以下備えた沸騰水型原子炉の炉心であって、n≧10であり、各燃料集合体の格子ピッチをL[インチ]とし、L=6.1として算出した炉心の見かけの出力密度をD[kW/l]としたとき、55≦D≦60 かつ 125L−716.25≦D≦125L−710.0
としたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【0017】
本発明の沸騰水型原子炉の炉心においては、燃料集合体における燃料棒を、10行10列以上の正方格子状に配列する。これにより、9行9列に配列する従来構造よりも、1本の燃料棒が負担すべき出力が小さくなって最大線出力密度を小さくし最小限界出力比を大きくすることができるので、熱的余裕を向上することができる。
【0018】
一方、沸騰水型原子炉の炉心においては、運転サイクル末期で中性子無限増倍率を最大にする格子ピッチの範囲は、炉心出力密度に対してほぼ線形に変化し、例えば、±0.01%Δkの解析誤差を考慮して、出力密度D=55[kW/l]では格子ピッチ6.12≦L≦6.17[インチ]、出力密度D=60[kW/l]では6.16≦L≦6.21[インチ]の場合に中性子実効増倍率が最大となる。したがって、現行炉心の出力密度50[kW/l]から10%以上の出力密度増大を目的として出力密度の範囲を55[kW/l]以上とした場合、出力密度D=55[kW/l]かつ格子ピッチL=6.12[インチ]、出力密度D=55[kW/l]かつ格子ピッチL=6.17[インチ]、出力密度D=60[kW/l]かつ格子ピッチL=6.16[インチ]、出力密度D=60[kW/l]かつ格子ピッチL=6.21[インチ]の4点で囲まれる領域、すなわち、55≦D≦60かつ125L−716.25≦D≦125L−710.0の領域が中性子実効増倍率をほぼ最大とすることができる。すなわち、出力に対してギャップ水領域が大きくなりすぎる場合のように反応度が低下して燃料経済性が低下するのを防止できるので、燃料経済性を確実に良好にすることができる。なお、D≦60[kW/l]とするのは、上記のn≧10の条件下で熱的余裕が最も厳しいn=10を考えた場合に、最大線出力密度を設計条件内に抑える観点からD=60[kW/l]以上に出力密度を増大することは事実上困難であるからである。
【0019】
このとき、上述したように、沸騰水型原子炉の炉心では格子ピッチLを増大するほど炉停止余裕が増大するが、出力密度D=50[kW/l]で格子ピッチL=6.1[インチ]の現行炉心と同等の炉停止余裕を確保するのであれば、出力密度D=55[kW/l]で格子ピッチL≧約6.12[インチ]、出力密度D=60[kW/l]で格子ピッチL≧6.14[インチ」とすることで足りる。上記の式で表される領域はこの条件を満たしていることから、(現行の炉心と同等またはそれ以上の)良好な停止余裕を確保することができる。
【0020】
但し、熱的余裕の観点からみると、格子ピッチLが大きくなるほど燃料集合体内の局所出力ピーキングや炉心のチャンネル出力ピーキングが増大するため、熱的余裕は低下する傾向となる。しかしながら、本発明においては、上述のようにn≧10とすることにより熱的余裕向上効果が得られるので、両者を相殺させ、(現行の炉心と同等の)熱的余裕を確保することができる。さらにこのとき、炉停止余裕を現行炉心と同等にするために必要な格子ピッチの範囲(D=55[kW/l]でL≧約6.12[インチ]、D=60[kW/l]でL≧6.14[インチ」]の広がりに対し、燃料経済性をほぼ最大にする格子ピッチの範囲(D=55[kW/l]で6.12≦L≦6.17[インチ]、D=60[kW/l]では6.16≦L≦6.21[インチ]は、その下限部分に近くなっている。すなわち、上記のように燃料経済性の観点から格子ピッチを決めることで、結果的に炉停止余裕を現行炉心と同等にするために必要最小限の格子ピッチ拡大となり、格子ピッチ拡大による熱的余裕の減少の影響を最低限に抑制することができる。
以上のように、本発明においては、装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心を構成するにあたり、上記関係式を満たすように炉心出力密度と格子ピッチを決めることにより、燃料経済性、炉停止余裕、熱的余裕の観点から炉心特性の最適化を図ることができる。すなわち、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を得ることができる。
【0021】
(2)好ましくは、上記(1)において、各燃料集合体の前記複数の燃料棒は、可燃性毒物を含有する毒物入り燃料棒と、可燃性毒物を含有しない通常燃料棒とを含み、前記300体以上600体以下の燃料集合体は、前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が相対的に大きい高毒物燃料集合体と、前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が相対的に小さい低毒物燃料集合体とを含み、かつ、炉心の径方向最外層より6層目に配置される第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において、炉内滞在1サイクル目の複数の新燃料集合体中に占める前記低毒物燃料集合体の割合を、前記外周部領域の径方向内周側に位置する内周部領域よりも大きくしたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【0022】
沸騰水型原子炉の炉心においては、径方向6層目よりも炉心外周部側は平均して相対出力が小さくなる。また、炉内滞在1サイクル目の新燃料集合体では、可燃性毒物が燃え尽きるまでは可燃性毒物含有領域総和が大きい方が反応度が小さくなるため、可燃性毒物が相対的に多い高毒物燃料集合体の方が低毒物燃料集合体に比べて相対的に出力が小さくなる。そこで本発明においては、上記外周部領域において低毒物燃料集合体を多めに配置することにより、それらの燃料出力を増大させ、これによって炉心径方向の出力ピーキングを低減できる。この結果、さらに熱的余裕を向上することができる。
【0023】
ここで、沸騰水型原子炉では、通常、反応度の大きい燃料集合体を炉心のある部分に集中して配置すると、炉停止余裕が減少することになる。しかしながら、本発明においては、上記(1)で説明したように、格子ピッチの増大によって炉停止余裕を予め十分に増大させることができるので、上記減少分を相殺しつつ、大きな径方向出力ピーキング低減効果を得ることが可能である。
【0024】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、各燃料集合体は、集合体内部を燃料有効長の中点を境に上部領域と下部領域に区分したとき、前記下部領域における前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和を、前記上部領域より大きくしたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【0025】
沸騰水型原子炉の炉心を構成する燃料集合体は、軸方向下部領域が上部領域に比べて相対的にボイド率が低く中性子減速効果が大きいために、出力が大きくなる傾向がある。そこで本発明においては、上部領域の可燃性毒物含有領域の総和長さを相対的に短くすることにより、反応度を高めて出力を増大し、炉心軸方向出力分布の平坦化を図ることができる。
【0026】
ここで、沸騰水型原子炉では、通常、原子炉停止時には炉心上部の出力が相対的に大きくなる。これは、燃料集合体の上部領域において、運転時にはボイド率が高いために出力が相対的に小さく燃料の燃焼が進まないため、運転停止時にボイド率が低くなったときの反応度上昇が相対的に大きくなるためである。従って、通常は、燃料集合体の上部領域において可燃性毒物含有領域の総和長さを相対的に短くして反応度を高めると、炉停止余裕が減少することになる。
【0027】
しかしながら、本発明においては、上記(1)で説明したように、格子ピッチの増大によって炉停止余裕を予め十分に増大させることができるので、上記減少分を相殺しつつ、大きな軸方向出力ピーキング低減効果を得ることが可能である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0029】
本発明の第1の実施形態を図1〜図9により説明する。
【0030】
図2は、本実施形態の炉心を備えた沸騰水型原子炉の全体構造を表す垂直縦断面図である。
【0031】
この図2において、沸騰水型原子炉は、圧力容器101内に設置されたシュラウド102と、このシュラウド102内部に格納された炉心103と、シュラウド102の上部に配設された気水分離器104と、この気水分離器4のさらに上部に配設された蒸気乾燥器105とを備えている。
【0032】
図1は、炉心103の燃料集合体配置を表す水平横断面図である。図1において、この炉心103は、格子状に所定の等間隔(=格子ピッチL、この例ではL=6.2[インチ])で配置された300〜600体程度(この例では508体)の上記燃料集合体1と、互いに隣接して水平横断面上で見て略正方形をなす4体の燃料集合体1を1つの単位(セル)として、それら4つの燃料集合体1相互間に1つずつ挿入され炉心出力を調整する制御棒2とを備えている。
【0033】
図2に戻り、圧力容器101内の冷却水は、圧力容器101とシュラウド102との間に配設された再循環ポンプ106によって炉心103下部の下部プレナム107に流入し、上昇して炉心103内に流入するようになっている。炉心103内には多数の燃料集合体1(図2中では、便宜的に4体のみ図示)が配置されており、この燃料集合体1に備えられた燃料棒6(後述の図3及び図4参照)の核分裂性物質の核分裂反応により冷却水が加熱されて沸騰し、水と蒸気の二相混合流となる。このとき、炉心103の外部には反射体水領域があり、上記シュラウド102はその外側に配置されている。そして、このシュラウド102によって、その内側(炉心103)を上方に向かって流れる上記冷却水の二相混合流と、外側を下方に向かって流れる再循環水とが分離されている。
【0034】
炉心103からの二相混合流は、シュラウドヘッド110に流入した後、気水分離器104によって水と分離された蒸気は蒸気乾燥器105で乾燥され、圧力容器101の主蒸気ノズル(図示せず)から流出してタービン(図示せず)に供給されるようになっている。
【0035】
図3は、炉心103に備えられている燃料集合体1の詳細構造を表す水平横断面図であり、図4はその垂直縦断面図である。
【0036】
これら図3及び図4において、燃料集合体1は、n行n列(nは10以上で好ましくは12以下の整数、この例ではn=10)の正方格子状に配列された92本の上記燃料棒6と、中性子減速棒である2本の水ロッド7と、これら燃料棒6及び水ロッド7の軸方向複数箇所を束ねて燃料バンドルとする複数のスペーサ13と、燃料バンドルの上部及び下部をそれぞれ支持する上部タイプレート14及び下部タイプレート15と、燃料バンドルの周囲を取り囲み燃料集合体1の外壁を形成する略四角筒形状(内幅寸法が例えば13.4cm)のチャンネルボックス11とを備えている。
【0037】
燃料棒6は、詳細な図示を省略するが、例えばジルコニウム製の被覆管に核分裂性物質(例えばU−235やU−238等のウラン酸化物)を含む燃料ペレットが充填されており、燃料棒有効長が通常の長さである78本の燃料棒6Aと燃料棒有効長が燃料棒9Aよりも短い14本の短尺燃料棒(部分長燃料棒)6Bとから構成されている。短尺燃料棒6Bは、径方向最外周を含み2層目に合計12本が分散配置されるとともに、水ロッド7,7の間にも2本配置されている。
【0038】
なお、これら78本の燃料棒6A,6Bのうち、径方向最外周を含み2層目及び水ロッド7,7の近傍に位置する16本の燃料棒6A,6Bは、その燃料ペレット中に可燃性毒物(この例ではガドリニア)が所定濃度となるように添加されている毒物入り燃料棒となっている(後述の図5参照)。
【0039】
図5は、燃料集合体1における上記燃料棒6A,6Bの軸方向平均のウラン濃縮度分布(重量パーセント)を示す図である。なお、かっこ内数字は上記ガドリニアの添加濃度を示し、「WR」は水ロッド7の位置を示している。
【0040】
図5において、10行10列の正方格子状配列のうち最外層にある36本の燃料棒6A,6Bについてみると、正方格子状配列の4隅にある4本の燃料棒6Aが平均濃縮度2.6[wt%]と最も小さくなっており、これの両側に隣接する燃料棒6Aが平均濃縮度3.6[wt%]とその次に小さく、さらにそれに隣接する燃料棒6Aが平均濃縮度4.4[wt%]とその次に小さくなっている。そして、残りの16本の燃料棒6Aは、平均濃縮度4.9[wt%]となっている。また、正方格子状配列のうち最外層を含み2層目に配置された28本の燃料棒6A,6B、及びそれより内側の層に配置された14本の燃料棒6A,6Bについては、すべて平均濃縮度4.9[wt%]となっている(なお、すべての燃料棒6A,6Bの軸方向上端部1/24ノード分は、濃縮度0.71[wt%]の天然ウランからなる軸方向ブランケットとなっている)。以上の濃縮度分布の結果、燃料集合体1全体の平均ウラン濃縮度は約4.5[wt%]となっている。
【0041】
なお、径方向最外周を含み2層目及び水ロッド7,7の近傍に配置された上記毒物入り燃料棒6A,6Bにおけるガドリニアの添加濃度は、すべて7.0[wt%]となっている。
【0042】
図1、図3、及び図4に戻り、隣接する燃料集合体1,1の間(隣接するチャンネルボックス15の外幅の間のギャップ幅)には飽和水であるギャップ水8が満たされ、このギャップ水8領域に、圧力容器101下部の制御棒駆動機構118で駆動される横断面十字形の上記制御棒2が制御棒案内管120をガイドにして上下方向に挿抜可能に配置されている。また、図示しないが、このギャップ水領域8には炉心出力を測定する炉内計装系が別途設けられている。
【0043】
なお、本実施形態による炉心103は、以上のような構成により、格子ピッチL=6.1[インチ]として算出した出力密度D(本実施形態では実際にはL=6.2[インチ]であることから、後述のように正確には見かけの出力密度となる)が、現行の炉心より20[%]増大し、D=60[kW/l]となっている。
【0044】
本実施形態による炉心103は、上記の構成により、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ、出力を増大して大型炉と同等の良好な経済性を実現するものである。以下、その作用について順を追って詳細に説明する。
【0045】
(1)経済性から見た最適格子ピッチ
(1−A)格子ピッチによる中性子実効増倍率特性
図6は、経済性からみた格子ピッチの最適値を検討するために、本願発明者等が行った解析結果を表した図である。すなわち、図6は、本実施形態による10行10列格子状配列の燃料集合体1と同様の燃料集合体を508体装荷し、格子ピッチL=6.1[インチ]で出力密度が50[kW/l]となるようにした炉心(=現行炉心に相当)において、燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、運転サイクル末期における中性子実効増倍率の変化を示した図である。
【0046】
なお、格子ピッチLの変化が変化するにつれて出力密度も変化するため、図中、出力密度の指標として、格子ピッチL=6.1[インチ]としたときの出力密度(見かけの出力密度)Dをとり、D=50[kW/l],55[kW/l],60[kW/l]の3つの場合についてその挙動を表している。
【0047】
図6に示されるように、運転サイクル末期での中性子実効増倍率の特性線はいずれの場合も上の凸の放物線形状となり、現行炉心にほぼ相当する出力密度D=50[kW/l]の場合は格子ピッチL≒6.1[インチ]のときに最大(ピーク値)となり、出力密度D=55[kW/l]の場合は格子ピッチL≒6.145[インチ]のときに最大、出力密度D=60[kW/l]の場合は格子ピッチL=6.185[インチ]のときに最大となる。一方、これらピーク値を超えると、格子ピッチLの増大につれて中性子実効増倍率はむしろ減少する。これは、ギャップ水領域が大きくなりすぎ、中性子の平均エネルギーが減少しすぎて水による中性子吸収が増大するためと考えられる。
【0048】
ここで、±0.01%Δkの解析誤差を考慮すると、上記した出力密度D=55[kW/l]の場合における実効増倍率のほぼ最大値を与える格子ピッチLの最適範囲は6.12≦L≦6.17[インチ]となり、出力密度D=60[kW/l]の場合は6.16≦L≦6.21[インチ]となる。
【0049】
(1−B)最適格子ピッチ範囲の画定
上記(1−A)の結果、すなわち、中性子実効増倍率が最大となる格子ピッチのピーク値がD=50,55,60[kW/l]と増加するにつれてL≒6.1,6.145,6.185[インチ]となること、及び、中性子実効増倍率がほぼ最大となる格子ピッチの範囲(最適格子ピッチ範囲)も、D=55[kW/l]では6.12≦L≦6.17[インチ]、D=60[kW/l]で6.16≦L≦6.21[インチ]となること等に基づき、本願発明者等がさらに検討したところ、見かけの出力密度Dに対して上記最適格子ピッチ範囲はほとんど線形に変化することが分かった。
【0050】
そこで、本願発明者等は、見かけの出力密度Dが55〜60[kW/l]の範囲とした場合に、上記のように線形に変化する最適格子ピッチ範囲がどのように表されるかについて考察した。図7は上記の最適格子ピッチ範囲の検討結果を表す図であり、横軸に格子ピッチL[インチ]、縦軸に見かけの出力密度D[kW/l]をとって表したものである。
【0051】
なお、見かけの出力密度Dの範囲を55[kW/l]以上としたのは、本発明の炉心における出力増大の指標として、現行炉心の出力密度[50kW/l]から少なくとも10%以上の出力密度増大と設定したためである。また、見かけの出力密度Dの範囲を60[kW/l]以下としたのは、n≧10である燃料集合体を用いた本発明の炉心において、熱的余裕が最も厳しいn=10(10行10列正方格子状配列)の燃料集合体を使用した場合には、最大線出力密度を設計条件内に抑える観点からこれ以上出力密度を増大することは困難であるためである。
【0052】
図7において、見かけの出力密度D=55[kW/l]の場合に中性子実効増倍率がほぼ最大となる最適格子ピッチ範囲6.12≦L≦6.17[インチ]は、線分ABで表される。同様に、見かけの出力密度D=60[kW/l]の場合の最適格子ピッチ範囲6.16≦L≦6.21[インチ]は、線分CDで表される。そして、上述したように、見かけの出力密度Dに対し最適格子ピッチ範囲はほとんど線形に変化することから、55≦D≦60[kW/l]の範囲で変化した場合における最適格子ピッチ範囲は、四角形ABCDの内部の領域(斜線の領域)で表されることとなる。
【0053】
このとき、上記の点A(D=55[kW/l]、L=6.12[インチ])と点C(D=60[kW/l]、L=6.16[インチ])とを結ぶ直線ACは、
D=125L−710 … (式1)
で表され、同様に点B(D=55[kW/l]、L=6.17[インチ])と点D(D=60[kW/l]、L=6.21[インチ])とを結ぶ直線BDは、
D=125L−716.25 … (式2)
で表される。したがって、見かけの出力密度Dが55[kW/l]以上60[kW/l]において中性子実効増倍率をほぼ最大とする最適格子ピッチ範囲を表す、四角形ABCDの内部領域は、上記(式1)と(式2)とにより、
55≦D≦60 かつ
125L−716.25≦D≦125L−710.0 … (式3)
で表すことができる。
【0054】
本実施形態の炉心103においては、見かけの出力密度D=60[kW/l]、格子ピッチL=6.2[インチ]であり、上記式(3)で表される領域内に含まれる(図7中における線分CD上、線分Dに近い点となる)ことから、中性子実効増倍率をほぼ最大とする最適格子ピッチ範囲に含まれ、良好な経済性を確保できることがわかる。
【0055】
(2)炉停止余裕からみた最適格子ピッチ
次に、本願発明者等は、上記(式3)で表される経済性の最適格子ピッチの範囲が、炉停止余裕からみてどのようなものであるかを検証した。
【0056】
図8は、炉停止余裕からみた格子ピッチの最適値を検討するために、本願発明者等が行った解析結果を表した図である。すなわち、図8は、本実施形態による10行10列格子状配列の燃料集合体1と同様の燃料集合体を508体装荷し、格子ピッチL=6.1[インチ]で出力密度が50[kW/l]となるようにした炉心(=現行炉心にほぼ相当)において、燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、炉停止余裕の変化を示した図である。前述の図6と同様、図中、出力密度の指標として、格子ピッチL=6.1[インチ]としたときの出力密度(見かけの出力密度)Dをとり、D=55[kW/l],60[kW/l]の2つの場合について、D=50[kW/l]の場合における炉停止余裕値を基準値とし、これとの変化分(偏差)を縦軸にとりその挙動を表している。
【0057】
図8に示されるように、見かけの出力密度D=55[kW/l],60[kW/l]のいずれの場合も、格子ピッチLを増大させるほど炉停止余裕は向上し、D=50[kW/l]の場合との偏差は直線的に右上がりに増加する傾向となる。
【0058】
そして、
D=55[kW/l]の場合、L≧約6.12[インチ] … (式4)
D=60[kW/l]の場合、L≧約6.14[インチ] … (式5)
であれば、偏差が0以上、すなわち格子ピッチL=6.1[インチ]で出力密度D=50[kW/l]の現行炉心と同等又はそれ以上の炉停止余裕を確保できることがわかる。
【0059】
この結果、上記(1)で考察した良好な経済性を確保できる範囲は、上記(式4)及び(式5)範囲に含まれることから、上記式(3)で定められる範囲に格子ピッチLが設定されていれば、現行炉心と同等又はそれ以上の炉停止余裕を有することが分かった。
【0060】
本実施形態の炉心103においては、見かけの出力密度D=60[kW/l]、格子ピッチL=6.2[インチ]であることから、図8より、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心よりも炉停止余裕が約1%Δk増大することがわかる。
【0061】
(3)熱的余裕への格子ピッチ拡大の影響
ここで、本願発明者等は、上記(1)(2)のようにして格子ピッチLを大きくすることが、熱的余裕に与える影響について考察した。
【0062】
図9は、格子ピッチが熱的余裕に与える影響を検討するために、本願発明者等が行った解析結果を表した図である。すなわち、図9は、本実施形態による10行10列格子状配列の燃料集合体1と同様の燃料集合体を508体装荷し、所定の出力密度となるようにした炉心において、燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、燃料集合体の局所出力ピーキングと、炉心のチャンネル出力ピーキングの変化を示した図である。縦軸は、格子ピッチL=6.1[インチ]とした場合を基準値とした相対値で示している。
【0063】
図9に示されるように、格子ピッチLが増大するにつれて、局所出力ピーキング、チャンネル出力ピーキングともに直線的又は上に凸の曲線的に右上がりに増大する傾向となる。
【0064】
燃料集合体の局所出力ピーキングが増大するのは、格子ピッチLの増大につれてギャップ水領域が大きくなりギャップ水での中性子減速効果が高まることで、相対的に燃料集合体の正方格子状配列における最外層燃料棒の出力が大きくなり、この結果最外層以外の燃料棒との出力差が広がることによる。
【0065】
一方、チャンネル出力ピーキングが増大することは次のように説明される。
一般に、チャンネル出力ピーキングは、チャンネルボックス内のボイド率変化によってある程度抑制される。すなわち、チャンネル出力が増大しチャンネルボックス内のボイド率が高くなると、中性子減速効果が小さくなるために核分裂反応度が相対的に小さくなり、結果として出力を抑制する効果となる。
ところが、格子ピッチが増大すると、ギャップ水による中性子減速効果が大きくなり、チャンネル内冷却水による中性子減速効果が相対的に小さくなる(すなわちチャンネル内部側の寄与率が低くなる)。このため、上述したチャンネル出力増大時におけるチャンネル内ボイド率増大による出力抑制効果も相対的に小さくなってしまう。この結果、チャンネル出力ピーキングを抑制する効果が減少することになるのである。
以上のように、格子ピッチLが増大するにつれて局所出力ピーキングおよびチャンネル出力ピーキングが増大すると、最大線出力密度(MLHGR)が増大し、最小限界出力比(MCPR)が減少して熱的余裕が減少することとなる。
【0066】
しかしながら、本実施形態の炉心103においては、燃料集合体1における燃料棒6を、10行10列の正方格子状に配列することにより、9行9列に配列する従来構造よりも、1本の燃料棒6が負担すべき出力が小さくなって最大線出力密度を小さくし最小限界出力比を大きくし、熱的余裕を向上させている。したがって、この熱的余裕向上効果で上記の熱的余裕減少分を相殺させ、現行炉心と同等の熱的余裕を確保することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の炉心103によれば、各燃料集合体1の格子ピッチL=6.2[インチ]とし、見かけの出力密度D=60[kW/l]とするので、中性子実効増倍率をほぼ最大とすることができる。すなわち、出力に対してギャップ水領域8が大きくなりすぎる場合のように反応度が低下して燃料経済性が低下するのを防止できる。したがって、燃料経済性を確実に良好にすることができる。また、上記構成によって現行炉心と同等以上の良好な停止余裕を確保することができる。さらに、燃料集合体1において燃料棒6を10行10列に配置して熱的余裕を向上するので、上記格子ピッチ拡大による熱的余裕の減少分を補い、現行炉心と同等の熱的余裕を確保することができる。
【0068】
すなわち、上記のようにして、燃料経済性、炉停止余裕、熱的余裕の観点から炉心特性の最適化を図るので、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を得ることができる。
【0069】
本発明の第2の実施形態を図10〜図12を用いて説明する。本実施形態は、前述のような格子ピッチ拡大による炉停止余裕増大効果を活用し、炉心径方向出力分布を平坦化し、熱的余裕のさらなる増大を図った実施形態である。第1の実施形態と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0070】
図10は、本実施形態による炉心203の燃料集合体配置を表す1/4炉心水平横断面である。この炉心203は、上記第1の実施形態の炉心103同様、508体の燃料集合体1を格子ピッチL=6.2[インチ])で格子状に配置している。
【0071】
図中、各燃料集合体1に付記された数字は、炉内滞在サイクル数(1〜3サイクル)を表しており、この例では、平衡炉心状態で燃料集合体1は炉内に3サイクル滞在するようになっている。図示のように、炉内滞在1サイクル目の燃料集合体(新燃料集合体)1が188(=47×4)体、2サイクル目の燃料集合体1が188(=47×4)体、3サイクル目の燃料集合体1が132(=33×4)体配置されている。
【0072】
このとき、炉心203の特徴は、まず、上記508体の燃料集合体1中に、毒物入り燃料棒6A,6Bにおいて燃料ペレット中のガドリニア含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が互いに異なる2種類の燃料集合体を含んでいることである。すなわち、ガドリニアを添加した燃料ペレットの総和が相対的に長い(ガドリニア含有領域が相対的に大きい)燃料集合体(高毒物燃料集合体)と、上記総和が相対的に短い(ガドリニア含有領域が相対的に小さい)燃料集合体(低毒物燃料集合体)とが備えられている。
【0073】
図11は、それら高毒物燃料集合体(高Gd燃料集合体と表す)及び低毒物燃料集合体(低Gd燃料集合体と表す)の構造をそれぞれ表す水平横断面図である。図中、太線の○は前述の短尺燃料棒6Bを表しており、またそれ以外の通常有効長の燃料棒6Aのうち「G」と付記されたものが、毒物入り燃料棒を表している。
【0074】
図11において、上記第1の実施形態の図3と比較して分かるように、高毒物燃料集合体、低毒物燃料集合体ともに、通常有効長の燃料棒6A及び短尺燃料棒6Bの配置自体は同一である。但し、図5と比較して分かるように、毒物入り燃料棒の配置は第1の実施形態とはそれぞれ異なっている。すなわち、図11の上側に示す高毒物燃料集合体では、径方向最外周を含み2層目に12本、3層目に4本の合計16本の毒物入り燃料棒が配置されている。また、図11の下側に示す低毒物燃料集合体では、径方向最外周を含み2層目に12本、4層目に2本の合計14本の毒物入り燃料棒が配置されている。すなわち高毒物燃料集合体では低毒物燃料集合体よりも毒物入り燃料棒の本数が2本多くなっており、これによってガドリニアを添加した燃料ペレットの燃料棒軸方向長さの総和が相対的に長く(ガドリニア含有領域が相対的に大きく)なっている。
【0075】
そして、図10に戻り、本実施形態の炉心203の第2の特徴は、「1」が付記された炉内滞在1サイクル目の燃料集合体(新燃料集合体)1についてみた場合に、炉心の径方向最外層より6層目に配置される第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において上記低毒物燃料集合体の占める割合を、上記外周部領域の径方向内周側に位置する内周部領域において上記低毒物燃料集合体の占める割合よりも大きくしている。
【0076】
なお、上記の炉心の径方向6層目とは次のように定義する。まず、燃料集合体1のうち、チャンネルボックス11側面のいずれか1面を炉心203外部の水反射体領域に接しているものを最外層燃料集合体とする。次に、この最外層燃料集合体とチャンネルボックス11側面のいずれか1面を面している燃料を径方向2層目の第2層燃料集合体とする。これを繰り返して、炉心径方向外周部から順に定義していき、第6層目としたものである。
【0077】
このような定義により、本実施形態の炉心203では、図10に示す1/4部分で見ると、上記内周部領域は斜線ハッチングを施した部分となり、施していない部分が外周部領域となる。内周部領域には全部で41体の燃料集合体1がある。「1」を付された新燃料集合体は16体あるが、そのうち▲1▼で表される低毒物燃料集合体は4体であって25%を占めるに過ぎない。一方、外周部領域には全部で86体の燃料集合体1がある。「1」を付された新燃料集合体は31体あり、そのうち▲1▼で表される低毒物燃料集合体は24体であり、約77.4%を占めている。
【0078】
次に、本実施形態の作用を図12を用いて以下に説明する。
図12は、一般的な沸騰水型原子炉の炉心において、上記のように定義した層毎の平均相対出力分布を本願発明者等が解析によって求めたものである。図中、横軸には、上記の定義による層数(0,1,2,3,…)をとり、縦軸には、全燃料集合体の平均出力を1とした相対値をとって表しており、通常の大型炉の一例として872体の燃料集合体を備えた炉心と、本発明の適用対象である中型炉の一例として本実施形態と同様の508体の燃料集合体を備えた炉心とをそれぞれ曲線で例示している。
【0079】
図12から分かるように、炉心サイズによって若干の差違はあるものの、少なくとも径方向6層目よりも炉心外周部側(すなわち層数0〜5)は相対出力が1よりも小さくなる。従って、この領域の燃料集合体出力を増大させることで、炉心径方向の出力ピーキングを低減することが可能である。
【0080】
本実施形態の炉心203は、以上の点に鑑み、第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において低毒物燃料集合体の占める割合を、内周部領域よりも大きくしている。すなわち、新燃料集合体においては、ガドリニアが燃え尽きるまでは毒物入り燃料棒本数の少ない方が反応度が大きくなることから、低毒物燃料集合体のほうが高毒物燃料集合体よりも相対的に出力が大きくなる。従って、そのような相対的に出力が大きくなる低毒物燃料集合体を、炉心径方向6層目より外周側に配置することで、径方向の出力ピーキングを低減することができる。具体的には以下の通りである。
【0081】
すなわち、本願発明者等の検討によれば、高毒物燃料集合体と低毒物燃料集合体とからなる本実施形態の炉心203は、全て高毒物燃料集合体とした場合に比べれば径方向出力ピーキングを約10%低減できることがわかった。このとき、図9を用いて前述したように、格子ピッチLを6.1インチから6.2インチに拡大することで、出力ピーキングが約4%増大(局所出力ピーキングの増大分とチャンネル出力ピーキングの増大分の積)するものの、差し引き本実施形態の炉心203によれば結果として出力ピーキングを約6%低減できることになる。
【0082】
一方このとき、沸騰水型原子炉では、通常、反応度の大きい燃料集合体を炉心のある部分に集中して配置すると、炉停止余裕が減少することになる。しかしながら、本実施形態の炉心203では、前述したように、格子ピッチをL=6.2[インチ]に増大することによる炉停止余裕向上効果により、上記炉停止余裕減少分を補うことが可能である。具体的には、以下の通りである。
【0083】
すなわち、本願発明者等の検討によれば、高毒物燃料集合体と低毒物燃料集合体とからなる本実施形態の炉心203は、全て高毒物燃料集合体とした場合に比べれば炉停止余裕が約0.4%Δk減少する。しかしながら、図8を用いて前述したように、見かけの出力密度D=60[kW/l]とし格子ピッチL=6.2[インチ]に拡大することにより、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心より炉停止余裕を約1%Δk増大できることから、上記減少分を十分に補い、差し引きで炉停止余裕を約0.6%Δk増大することができる。
【0084】
以上のように、本実施形態の炉心203によれば、第1の実施形態の炉心103と同様、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を得ることができるとともに、径方向の出力ピーキングを低減して熱的余裕をさらに向上することができる。
【0085】
本発明の第3の実施形態を図13により説明する。本実施形態は、前述のような格子ピッチ拡大による炉停止余裕増大効果を活用し、炉心軸方向出力分布平坦化を図った実施形態である。第1の実施形態と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0086】
図13は、本実施形態による炉心に備えられる(1種類の)燃料集合体1の構造を表す水平横断面図を示す。図13中上側の図は、燃料集合体1を燃料有効長の長さ方向中央(中点)から上側の領域(上部領域)と下側の領域(下部領域)とに分けたときにおける上部領域の水平横断面図であり、図13中下側の図は、下部領域の水平横断面図である。第2の実施形態の図11と同様、図13中、太線の○は前述の短尺燃料棒6Bを表しており、燃料棒6A,6Bのうち「G」と付記されたものが、毒物入り燃料棒を表している。
【0087】
図13下側の下部領域断面図と、上記第1の実施形態の図3や第2の実施形態の図11と比較して分かるように、通常有効長の燃料棒6A及び短尺燃料棒6Bの配置自体は同一である。但し、毒物入り燃料棒の配置はそれらとは異なっている。すなわち、本実施形態の燃料集合体では、毒物入り燃料棒として、径方向最外周を含み2層目に12本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが、4層目に2本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが配置されるのに加え、5層目(水ロッド7,7の間)に2本の毒物入り短尺燃料棒6Bが配置されている。
【0088】
図13中上側の上部領域断面図に示されように、短尺燃料棒6Bは上部領域においては存在しないことから、本実施形態の燃料集合体においては、上記2本の毒物入り短尺燃料棒6Bの分、ガドリニアを添加した燃料ペレットの燃料棒軸方向長さ(ガドリニアの含有領域の燃料棒軸方向長さ)の総和が、下部領域のほうが上側領域よりも大きくなっている。
【0089】
本実施形態における炉心は、各燃料集合体における上記構成によって炉心軸方向出力分布の平坦化を図ることができる。
【0090】
すなわち、一般に、沸騰水型原子炉の炉心を構成する燃料集合体は、下部領域が上部領域に比べて相対的にボイド率が低く中性子減速効果が大きいために、出力が大きくなる傾向がある。そこで本実施形態においては、燃料集合体1の上部領域のガドリニア含有領域の総和長さを相対的に短くすることにより、反応度を高めて出力を増大し、炉心軸方向出力分布の平坦化を図ることができる。具体的には、本願発明者等の検討によれば、軸方向出力ピーキングを約10%低減できることがわかった。
【0091】
一方このとき、沸騰水型原子炉では、通常、原子炉停止時には炉心上部の出力が相対的に大きくなる。これは、各燃料集合体の上部領域において、運転時にはボイド率が高いために出力が相対的に小さく燃料の燃焼が進まないため、運転停止時にボイド率が低くなったときの反応度上昇が相対的に大きくなるためである。従って、通常は、燃料集合体の上部領域においてガドリニア含有領域の総和長さを短くして反応度を高めると、炉停止余裕が減少することになる。しかしながら、本実施形態の炉心203では、前述したように、格子ピッチをL=6.2[インチ]に増大することによる炉停止余裕向上効果により、上記炉停止余裕減少分を補うことが可能である。具体的には、以下の通りである。
【0092】
すなわち、本願発明者等の検討によれば、燃料集合体の上部領域においてガドリニア含有領域の総和長さを短くした本実施形態の炉心は、上部領域と下部領域とで総和長さを等しくした場合に比べれば炉停止余裕が約0.6%Δk減少する。しかしながら、図8を用いて前述したように、見かけの出力密度D=60[kW/l]とし格子ピッチL=6.2[インチ]に拡大することにより、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心より炉停止余裕を約1%Δk増大できることから、上記減少分を十分に補い、差し引きで炉停止余裕を約0.4%Δk増大することができる。
【0093】
なお、上記の例では短尺燃料棒6Bを用いてガドリニアの燃料棒軸方向分布に差をつけたが、これに限られず、通常燃料棒の例えば下側領域にのみガドリニアを添加する等によって分布に差をつけてもよい。
【0094】
また、上記第2の実施形態と第3の実施形態とを組み合わせ、格子ピッチを拡大することで増大した炉停止余裕を、炉心径方向および軸方向の両方向の出力分布平坦化に用いることもできる。このような変形例を図14を用いて説明する。
【0095】
図14は、本変形例による炉心に備えられる高毒物燃料集合体(右側)及び低毒物燃料集合体(左側)の構造を表す水平横断面図であり、それぞれ上側の図は、燃料集合体1の上部領域の水平横断面図、下側の図は下部領域の水平横断面図である。上記同様、太線の○は前述の短尺燃料棒6Bを表しており、燃料棒6A,6Bのうち「G」と付記されたものが、毒物入り燃料棒を表している。
【0096】
図14において、図13や図11と比較して分かるように、高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体ともに、通常有効長の燃料棒6A及び短尺燃料棒6Bの配置自体は同一である。
【0097】
そして、高毒物燃料集合体では、図14中右側の図に示されるように、毒物入り燃料棒として、径方向最外周を含み2層目に12本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが、4層目に2本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが配置されるのに加え、5層目(水ロッド7,7の間)に2本の毒物入り短尺燃料棒6Bが配置されている(合計16本)。図13と同様、この高毒物燃料集合体においては、上記2本の毒物入り短尺燃料棒6Bの分、ガドリニアを添加した燃料ペレットの燃料棒軸方向長さの総和が、下部領域のほうが上側領域よりも大きくなっている。
【0098】
また、低毒物燃料集合体では、図14中左側の図に示されるように、上記高毒物燃料集合体において5層目(水ロッド7,7の間)の2本を除く合計14本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが配置されている。
【0099】
そして、本変形例では、これら高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体を、第2の実施形態における図10で示したように配置する。
【0100】
これにより、上記第2実施形態による効果と第3実施形態による効果を併せて得られ、径方向出力分布ピーキングを約10%、および軸方向出力ピーキングを約10%同時に低減することができる。
【0101】
このとき、炉停止余裕が約1%Δk減少するが、図8を用いて前述したように、見かけの出力密度D=60[kW/l]とし格子ピッチL=6.2[インチ]に拡大することにより、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心より炉停止余裕を約1%Δk増大できることから、上記減少分を相殺し、差し引きで現行炉心とほぼ同程度の炉停止余裕を確保することができる。
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心を構成するにあたり、燃料経済性、炉停止余裕、熱的余裕の観点から炉心特性の最適化を図れ、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し大型炉と同等の良好な経済性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による炉心の燃料集合体配置を表す水平横断面図である。
【図2】図1に示した炉心を備えた沸騰水型原子炉の全体構造を表す垂直縦断面図である。
【図3】図1に示した炉心に備えられている燃料集合体の詳細構造を表す水平横断面図である。
【図4】図1に示した炉心に備えられている燃料集合体の詳細構造を表す垂直縦断面図である。
【図5】図3及び図4に示した燃料集合体における燃料棒の軸方向平均のウラン濃縮度分布を示す図である。
【図6】燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチのみを変化させたときにおける、運転サイクル末期における炉心の中性子実効増倍率の変化を示した図である。
【図7】見かけの出力密度が55〜60[kW/l]の範囲とした場合に、線形に変化する最適格子ピッチ範囲がどのように表されるかの検討結果を表す図である。
【図8】燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、炉心の炉停止余裕の変化を示した図である。
【図9】燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチのみを変化させたときにおける、燃料集合体の局所出力ピーキングと、炉心のチャンネル出力ピーキングの変化を示した図である。
【図10】本発明の第2実施形態による炉心の燃料集合体配置を表す1/4炉心水平横断面である。
【図11】図10に示した高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体の構造をそれぞれ表す水平横断面図である。
【図12】一般的な沸騰水型原子炉の炉心において、層毎の平均相対出力分布を解析によって求めた図である。
【図13】本発明の第3の実施形態による炉心に備えられる燃料集合体の構造を表す水平横断面図である。
【図14】第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせた変形例による炉心に備えられる高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体の構造を表す水平横断面図でである。
【符号の説明】
1 燃料集合体
6 燃料棒
6A 通常有効長の燃料棒
6B 短尺燃料棒
【発明の属する技術分野】
本発明は、沸騰水型原子炉に係わり、特に、中型の沸騰水型原子炉の炉心に関する。
【0002】
【従来の技術】
(1)炉心の構成
沸騰水型原子炉の炉心は、格子状に等間隔に配置された多数の燃料集合体と、この燃料集合体の相互間のギャップ水領域に挿入される制御棒と、炉内計装系とから構成される。炉心外部には反射体水領域があり、その外側にはシュラウドが配置され、内側(炉心部)を上方に向かって流れる冷却水と外側を下方に向かって流れる再循環水を分離している。再循環水は、圧力容器とシュラウドの間に配置された再循環ポンプによって強制循環される。
【0003】
燃料集合体は、略四角筒形状のチャンネルボックスと、このチャンネルボックスに取り囲まれた燃料バンドルからなる。燃料バンドルは、正方格子状に規則正しく配列された複数本の燃料棒と、中性子減速棒である水ロッドとから構成される。一方、チャンネルボックスの周囲には制御棒、あるいは、炉内計装系が挿入できるよう飽和水の領域であるギャップ水が満たされる。燃料棒の間には冷却水がチャンネルボックス下方から上方に向かって流れており、中性子減速材としての役割とともに、燃料棒で発生した熱エネルギーをタービン機器側に伝達し電気エネルギーへ変換する役割を担っている。
【0004】
(2)炉心の出力密度
一般に、炉心において、単位時間、炉心の単位体積あたりに発生する熱エネルギーは炉心の出力密度と称される。炉心の体積とは、燃料棒のうち発熱に寄与する部分の長さ(=燃料棒有効長)、燃料集合体の配列ピッチの二乗(=単位格子面積)、および装荷燃料集合体数の積で定義される。
【0005】
近年、原子炉の経済性向上を目的として、単位発電量あたりの発電コスト(=発電単価)を低減するために原子炉出力を増大する傾向がある。原子炉構造を大きく変更せずに出力を増大するためには、炉心の出力密度を増大するのが有効な手段である。例えば米国のクリントン原子力発電所は、従来の炉心出力密度52.4kW/lから20%出力を増大させ約62.9kW/lとすることについて、米国原子力規制委員会(NRC)より既に承認されたことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
(3)炉停止余裕と熱的余裕
このとき、炉心設計の観点から、炉心出力密度をどこまで増大できるかは、主に原子炉運転中や過渡時における燃料の健全性を保証する熱的余裕、および原子炉が安全に停止できることを示す指標である炉停止余裕を、定められた設計基準に従って保てるかどうかで決まる。
【0007】
炉停止余裕は、以下のような理由で炉心出力密度を増大するにつれ減少していく。一般に、沸騰水型原子炉では、炉心の冷却水が沸騰して中性子の減速効果が小さくなる原子炉運転時よりも、冷却水が飽和水となる原子炉停止時の方が、炉心からの中性子漏れが減少する効果、並びに中性子減速効果が増大する効果により、炉心反応度が大きくなる傾向がある。この原子炉運転時と停止時の反応度の差(ホット・コールドスイングと呼ばれる)が大きいほど炉停止余裕が小さくなる。このとき、出力密度を増大した場合は、運転時に冷却水が燃料集合体高さ方向においてより低い位置から沸騰を開始するため、冷却水を水蒸気が占める割合(ボイド率)が大きくなる。ボイド率が大きくなるほど上記効果が増大し、結果として出力密度を増大するほどホット・コールドスイングが大きくなり、炉停止余裕がより減少することになる。
【0008】
一方、熱的余裕は、最大線出力密度(MLHGR)および最小限界出力比(MCPR)によって表される。最大線出力密度は、燃料棒単位長さあたりの最大発熱量によって定義され、設計基準によって決められた値を運転中に超えないようにする必要がある。また、最小限界出力比は、燃料棒被覆管表面において冷却材が膜沸騰状態に遷移し除熱効率が著しく低下し始める燃料棒出力、すなわち限界出力を実際の出力で割った値で定義され、設計基準で決められた値を運転中および過渡時に下回らない様にする必要がある。この熱的余裕は、炉心出力密度を増大することで減少していく傾向となる。
【0009】
近年、電力需要増加割合の鈍化や分散電源志向の強まりなどに対応し、発電容量を小規模とする代わりに、発電に必要な設備物量を低減することで建設コストを抑えた中小型原子炉(例えば、装荷燃料集合体数を300ないし500程度としたもの)のニーズが高まっている。一般に、発電容量を小さくしても、それと同等な割合で設備コストを低減することはできないため、中型炉の発電単価は大型炉(例えば、装荷燃料集合体が600体を超え電気出力が100万kW以上であるような原子炉)と比較すると割高になる傾向がある(=スケール効果)。スケール効果による経済性悪化を克服するため、同規模の設備でできるだけ出力を増大することが、中型炉ではいっそう重要となる。
【0010】
中型炉の場合は炉心サイズが小さいことから、大型炉と比較して中性子が炉心から漏れる割合が大きくなり反応度が減少する。この中性子漏れによる中型炉と大型炉の反応度差は、冷却水のボイド率が大きくなり中性子減速効果が小さくなる運転時に相対的に大きくなり、冷却水が飽和水となる運転停止時には差が小さくなる。すなわち、中型炉の方が相対的にホット・コールドスイングが大きくなって炉停止余裕が小さくなるため、大型炉と比較して出力密度増大が困難となる。
【0011】
ここで、炉停止余裕を増大する手法の一例として、従来、チャンネルボックス間のギャップ水領域を増大する方法がある(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、9行9列の正方格子状に配列された複数の燃料棒とこれらを取り囲むチャンネルボックスとを備えた燃料集合体を備える炉心において、飽和水であるギャップ水領域を増大し、減速材対燃料比を増大することで、原子炉運転時の中性子減速効果を高め、ホット・コールドスイングを低減し、結果として炉停止余裕を増大するものである。
【0012】
【非特許文献1】
World Nuclear Industry Handbook 2001
(Nuclear Engineering International誌)
【特許文献1】
特許2510559号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本願発明者等の検討によれば、上記従来技術による手法をそのまま中型炉における炉停止余裕の増大に適用しようとした場合、そのままでは、経済性の観点で十分な効果を得られなくなる可能性があることがわかった。すなわち、出力の増大の程度とギャップ水領域の拡大の程度との間にはある適正な関係が存在し、これを逸脱して例えばある出力に対してギャップ水領域が大きくなりすぎると中性子の平均エネルギーが減少しすぎて水による中性子吸収が増大しすぎ、かえって反応度が低下し燃料経済性が低下するので原子炉全体で見た経済性の向上効果が不十分となる可能性がある。また逆に、ある出力に対してギャップ水領域が過小であると、十分な炉停止余裕の改善効果が得られない可能性がある。
【0014】
以上説明したように、従来は、中型炉における出力の増大に伴う炉停止余裕及び熱的余裕の低下を防止し、経済性を十分に向上できる構成を実現するのは困難であった。
【0015】
本発明の目的は、装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心において、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を実現できる構成を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、n行n列の正方格子状に配列された複数の燃料棒とこれらを取り囲む内幅13.4cmのチャンネルボックスとを備えた燃料集合体を、300体以上600体以下備えた沸騰水型原子炉の炉心であって、n≧10であり、各燃料集合体の格子ピッチをL[インチ]とし、L=6.1として算出した炉心の見かけの出力密度をD[kW/l]としたとき、55≦D≦60 かつ 125L−716.25≦D≦125L−710.0
としたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【0017】
本発明の沸騰水型原子炉の炉心においては、燃料集合体における燃料棒を、10行10列以上の正方格子状に配列する。これにより、9行9列に配列する従来構造よりも、1本の燃料棒が負担すべき出力が小さくなって最大線出力密度を小さくし最小限界出力比を大きくすることができるので、熱的余裕を向上することができる。
【0018】
一方、沸騰水型原子炉の炉心においては、運転サイクル末期で中性子無限増倍率を最大にする格子ピッチの範囲は、炉心出力密度に対してほぼ線形に変化し、例えば、±0.01%Δkの解析誤差を考慮して、出力密度D=55[kW/l]では格子ピッチ6.12≦L≦6.17[インチ]、出力密度D=60[kW/l]では6.16≦L≦6.21[インチ]の場合に中性子実効増倍率が最大となる。したがって、現行炉心の出力密度50[kW/l]から10%以上の出力密度増大を目的として出力密度の範囲を55[kW/l]以上とした場合、出力密度D=55[kW/l]かつ格子ピッチL=6.12[インチ]、出力密度D=55[kW/l]かつ格子ピッチL=6.17[インチ]、出力密度D=60[kW/l]かつ格子ピッチL=6.16[インチ]、出力密度D=60[kW/l]かつ格子ピッチL=6.21[インチ]の4点で囲まれる領域、すなわち、55≦D≦60かつ125L−716.25≦D≦125L−710.0の領域が中性子実効増倍率をほぼ最大とすることができる。すなわち、出力に対してギャップ水領域が大きくなりすぎる場合のように反応度が低下して燃料経済性が低下するのを防止できるので、燃料経済性を確実に良好にすることができる。なお、D≦60[kW/l]とするのは、上記のn≧10の条件下で熱的余裕が最も厳しいn=10を考えた場合に、最大線出力密度を設計条件内に抑える観点からD=60[kW/l]以上に出力密度を増大することは事実上困難であるからである。
【0019】
このとき、上述したように、沸騰水型原子炉の炉心では格子ピッチLを増大するほど炉停止余裕が増大するが、出力密度D=50[kW/l]で格子ピッチL=6.1[インチ]の現行炉心と同等の炉停止余裕を確保するのであれば、出力密度D=55[kW/l]で格子ピッチL≧約6.12[インチ]、出力密度D=60[kW/l]で格子ピッチL≧6.14[インチ」とすることで足りる。上記の式で表される領域はこの条件を満たしていることから、(現行の炉心と同等またはそれ以上の)良好な停止余裕を確保することができる。
【0020】
但し、熱的余裕の観点からみると、格子ピッチLが大きくなるほど燃料集合体内の局所出力ピーキングや炉心のチャンネル出力ピーキングが増大するため、熱的余裕は低下する傾向となる。しかしながら、本発明においては、上述のようにn≧10とすることにより熱的余裕向上効果が得られるので、両者を相殺させ、(現行の炉心と同等の)熱的余裕を確保することができる。さらにこのとき、炉停止余裕を現行炉心と同等にするために必要な格子ピッチの範囲(D=55[kW/l]でL≧約6.12[インチ]、D=60[kW/l]でL≧6.14[インチ」]の広がりに対し、燃料経済性をほぼ最大にする格子ピッチの範囲(D=55[kW/l]で6.12≦L≦6.17[インチ]、D=60[kW/l]では6.16≦L≦6.21[インチ]は、その下限部分に近くなっている。すなわち、上記のように燃料経済性の観点から格子ピッチを決めることで、結果的に炉停止余裕を現行炉心と同等にするために必要最小限の格子ピッチ拡大となり、格子ピッチ拡大による熱的余裕の減少の影響を最低限に抑制することができる。
以上のように、本発明においては、装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心を構成するにあたり、上記関係式を満たすように炉心出力密度と格子ピッチを決めることにより、燃料経済性、炉停止余裕、熱的余裕の観点から炉心特性の最適化を図ることができる。すなわち、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を得ることができる。
【0021】
(2)好ましくは、上記(1)において、各燃料集合体の前記複数の燃料棒は、可燃性毒物を含有する毒物入り燃料棒と、可燃性毒物を含有しない通常燃料棒とを含み、前記300体以上600体以下の燃料集合体は、前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が相対的に大きい高毒物燃料集合体と、前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が相対的に小さい低毒物燃料集合体とを含み、かつ、炉心の径方向最外層より6層目に配置される第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において、炉内滞在1サイクル目の複数の新燃料集合体中に占める前記低毒物燃料集合体の割合を、前記外周部領域の径方向内周側に位置する内周部領域よりも大きくしたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【0022】
沸騰水型原子炉の炉心においては、径方向6層目よりも炉心外周部側は平均して相対出力が小さくなる。また、炉内滞在1サイクル目の新燃料集合体では、可燃性毒物が燃え尽きるまでは可燃性毒物含有領域総和が大きい方が反応度が小さくなるため、可燃性毒物が相対的に多い高毒物燃料集合体の方が低毒物燃料集合体に比べて相対的に出力が小さくなる。そこで本発明においては、上記外周部領域において低毒物燃料集合体を多めに配置することにより、それらの燃料出力を増大させ、これによって炉心径方向の出力ピーキングを低減できる。この結果、さらに熱的余裕を向上することができる。
【0023】
ここで、沸騰水型原子炉では、通常、反応度の大きい燃料集合体を炉心のある部分に集中して配置すると、炉停止余裕が減少することになる。しかしながら、本発明においては、上記(1)で説明したように、格子ピッチの増大によって炉停止余裕を予め十分に増大させることができるので、上記減少分を相殺しつつ、大きな径方向出力ピーキング低減効果を得ることが可能である。
【0024】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、各燃料集合体は、集合体内部を燃料有効長の中点を境に上部領域と下部領域に区分したとき、前記下部領域における前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和を、前記上部領域より大きくしたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心が提供される。
【0025】
沸騰水型原子炉の炉心を構成する燃料集合体は、軸方向下部領域が上部領域に比べて相対的にボイド率が低く中性子減速効果が大きいために、出力が大きくなる傾向がある。そこで本発明においては、上部領域の可燃性毒物含有領域の総和長さを相対的に短くすることにより、反応度を高めて出力を増大し、炉心軸方向出力分布の平坦化を図ることができる。
【0026】
ここで、沸騰水型原子炉では、通常、原子炉停止時には炉心上部の出力が相対的に大きくなる。これは、燃料集合体の上部領域において、運転時にはボイド率が高いために出力が相対的に小さく燃料の燃焼が進まないため、運転停止時にボイド率が低くなったときの反応度上昇が相対的に大きくなるためである。従って、通常は、燃料集合体の上部領域において可燃性毒物含有領域の総和長さを相対的に短くして反応度を高めると、炉停止余裕が減少することになる。
【0027】
しかしながら、本発明においては、上記(1)で説明したように、格子ピッチの増大によって炉停止余裕を予め十分に増大させることができるので、上記減少分を相殺しつつ、大きな軸方向出力ピーキング低減効果を得ることが可能である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0029】
本発明の第1の実施形態を図1〜図9により説明する。
【0030】
図2は、本実施形態の炉心を備えた沸騰水型原子炉の全体構造を表す垂直縦断面図である。
【0031】
この図2において、沸騰水型原子炉は、圧力容器101内に設置されたシュラウド102と、このシュラウド102内部に格納された炉心103と、シュラウド102の上部に配設された気水分離器104と、この気水分離器4のさらに上部に配設された蒸気乾燥器105とを備えている。
【0032】
図1は、炉心103の燃料集合体配置を表す水平横断面図である。図1において、この炉心103は、格子状に所定の等間隔(=格子ピッチL、この例ではL=6.2[インチ])で配置された300〜600体程度(この例では508体)の上記燃料集合体1と、互いに隣接して水平横断面上で見て略正方形をなす4体の燃料集合体1を1つの単位(セル)として、それら4つの燃料集合体1相互間に1つずつ挿入され炉心出力を調整する制御棒2とを備えている。
【0033】
図2に戻り、圧力容器101内の冷却水は、圧力容器101とシュラウド102との間に配設された再循環ポンプ106によって炉心103下部の下部プレナム107に流入し、上昇して炉心103内に流入するようになっている。炉心103内には多数の燃料集合体1(図2中では、便宜的に4体のみ図示)が配置されており、この燃料集合体1に備えられた燃料棒6(後述の図3及び図4参照)の核分裂性物質の核分裂反応により冷却水が加熱されて沸騰し、水と蒸気の二相混合流となる。このとき、炉心103の外部には反射体水領域があり、上記シュラウド102はその外側に配置されている。そして、このシュラウド102によって、その内側(炉心103)を上方に向かって流れる上記冷却水の二相混合流と、外側を下方に向かって流れる再循環水とが分離されている。
【0034】
炉心103からの二相混合流は、シュラウドヘッド110に流入した後、気水分離器104によって水と分離された蒸気は蒸気乾燥器105で乾燥され、圧力容器101の主蒸気ノズル(図示せず)から流出してタービン(図示せず)に供給されるようになっている。
【0035】
図3は、炉心103に備えられている燃料集合体1の詳細構造を表す水平横断面図であり、図4はその垂直縦断面図である。
【0036】
これら図3及び図4において、燃料集合体1は、n行n列(nは10以上で好ましくは12以下の整数、この例ではn=10)の正方格子状に配列された92本の上記燃料棒6と、中性子減速棒である2本の水ロッド7と、これら燃料棒6及び水ロッド7の軸方向複数箇所を束ねて燃料バンドルとする複数のスペーサ13と、燃料バンドルの上部及び下部をそれぞれ支持する上部タイプレート14及び下部タイプレート15と、燃料バンドルの周囲を取り囲み燃料集合体1の外壁を形成する略四角筒形状(内幅寸法が例えば13.4cm)のチャンネルボックス11とを備えている。
【0037】
燃料棒6は、詳細な図示を省略するが、例えばジルコニウム製の被覆管に核分裂性物質(例えばU−235やU−238等のウラン酸化物)を含む燃料ペレットが充填されており、燃料棒有効長が通常の長さである78本の燃料棒6Aと燃料棒有効長が燃料棒9Aよりも短い14本の短尺燃料棒(部分長燃料棒)6Bとから構成されている。短尺燃料棒6Bは、径方向最外周を含み2層目に合計12本が分散配置されるとともに、水ロッド7,7の間にも2本配置されている。
【0038】
なお、これら78本の燃料棒6A,6Bのうち、径方向最外周を含み2層目及び水ロッド7,7の近傍に位置する16本の燃料棒6A,6Bは、その燃料ペレット中に可燃性毒物(この例ではガドリニア)が所定濃度となるように添加されている毒物入り燃料棒となっている(後述の図5参照)。
【0039】
図5は、燃料集合体1における上記燃料棒6A,6Bの軸方向平均のウラン濃縮度分布(重量パーセント)を示す図である。なお、かっこ内数字は上記ガドリニアの添加濃度を示し、「WR」は水ロッド7の位置を示している。
【0040】
図5において、10行10列の正方格子状配列のうち最外層にある36本の燃料棒6A,6Bについてみると、正方格子状配列の4隅にある4本の燃料棒6Aが平均濃縮度2.6[wt%]と最も小さくなっており、これの両側に隣接する燃料棒6Aが平均濃縮度3.6[wt%]とその次に小さく、さらにそれに隣接する燃料棒6Aが平均濃縮度4.4[wt%]とその次に小さくなっている。そして、残りの16本の燃料棒6Aは、平均濃縮度4.9[wt%]となっている。また、正方格子状配列のうち最外層を含み2層目に配置された28本の燃料棒6A,6B、及びそれより内側の層に配置された14本の燃料棒6A,6Bについては、すべて平均濃縮度4.9[wt%]となっている(なお、すべての燃料棒6A,6Bの軸方向上端部1/24ノード分は、濃縮度0.71[wt%]の天然ウランからなる軸方向ブランケットとなっている)。以上の濃縮度分布の結果、燃料集合体1全体の平均ウラン濃縮度は約4.5[wt%]となっている。
【0041】
なお、径方向最外周を含み2層目及び水ロッド7,7の近傍に配置された上記毒物入り燃料棒6A,6Bにおけるガドリニアの添加濃度は、すべて7.0[wt%]となっている。
【0042】
図1、図3、及び図4に戻り、隣接する燃料集合体1,1の間(隣接するチャンネルボックス15の外幅の間のギャップ幅)には飽和水であるギャップ水8が満たされ、このギャップ水8領域に、圧力容器101下部の制御棒駆動機構118で駆動される横断面十字形の上記制御棒2が制御棒案内管120をガイドにして上下方向に挿抜可能に配置されている。また、図示しないが、このギャップ水領域8には炉心出力を測定する炉内計装系が別途設けられている。
【0043】
なお、本実施形態による炉心103は、以上のような構成により、格子ピッチL=6.1[インチ]として算出した出力密度D(本実施形態では実際にはL=6.2[インチ]であることから、後述のように正確には見かけの出力密度となる)が、現行の炉心より20[%]増大し、D=60[kW/l]となっている。
【0044】
本実施形態による炉心103は、上記の構成により、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ、出力を増大して大型炉と同等の良好な経済性を実現するものである。以下、その作用について順を追って詳細に説明する。
【0045】
(1)経済性から見た最適格子ピッチ
(1−A)格子ピッチによる中性子実効増倍率特性
図6は、経済性からみた格子ピッチの最適値を検討するために、本願発明者等が行った解析結果を表した図である。すなわち、図6は、本実施形態による10行10列格子状配列の燃料集合体1と同様の燃料集合体を508体装荷し、格子ピッチL=6.1[インチ]で出力密度が50[kW/l]となるようにした炉心(=現行炉心に相当)において、燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、運転サイクル末期における中性子実効増倍率の変化を示した図である。
【0046】
なお、格子ピッチLの変化が変化するにつれて出力密度も変化するため、図中、出力密度の指標として、格子ピッチL=6.1[インチ]としたときの出力密度(見かけの出力密度)Dをとり、D=50[kW/l],55[kW/l],60[kW/l]の3つの場合についてその挙動を表している。
【0047】
図6に示されるように、運転サイクル末期での中性子実効増倍率の特性線はいずれの場合も上の凸の放物線形状となり、現行炉心にほぼ相当する出力密度D=50[kW/l]の場合は格子ピッチL≒6.1[インチ]のときに最大(ピーク値)となり、出力密度D=55[kW/l]の場合は格子ピッチL≒6.145[インチ]のときに最大、出力密度D=60[kW/l]の場合は格子ピッチL=6.185[インチ]のときに最大となる。一方、これらピーク値を超えると、格子ピッチLの増大につれて中性子実効増倍率はむしろ減少する。これは、ギャップ水領域が大きくなりすぎ、中性子の平均エネルギーが減少しすぎて水による中性子吸収が増大するためと考えられる。
【0048】
ここで、±0.01%Δkの解析誤差を考慮すると、上記した出力密度D=55[kW/l]の場合における実効増倍率のほぼ最大値を与える格子ピッチLの最適範囲は6.12≦L≦6.17[インチ]となり、出力密度D=60[kW/l]の場合は6.16≦L≦6.21[インチ]となる。
【0049】
(1−B)最適格子ピッチ範囲の画定
上記(1−A)の結果、すなわち、中性子実効増倍率が最大となる格子ピッチのピーク値がD=50,55,60[kW/l]と増加するにつれてL≒6.1,6.145,6.185[インチ]となること、及び、中性子実効増倍率がほぼ最大となる格子ピッチの範囲(最適格子ピッチ範囲)も、D=55[kW/l]では6.12≦L≦6.17[インチ]、D=60[kW/l]で6.16≦L≦6.21[インチ]となること等に基づき、本願発明者等がさらに検討したところ、見かけの出力密度Dに対して上記最適格子ピッチ範囲はほとんど線形に変化することが分かった。
【0050】
そこで、本願発明者等は、見かけの出力密度Dが55〜60[kW/l]の範囲とした場合に、上記のように線形に変化する最適格子ピッチ範囲がどのように表されるかについて考察した。図7は上記の最適格子ピッチ範囲の検討結果を表す図であり、横軸に格子ピッチL[インチ]、縦軸に見かけの出力密度D[kW/l]をとって表したものである。
【0051】
なお、見かけの出力密度Dの範囲を55[kW/l]以上としたのは、本発明の炉心における出力増大の指標として、現行炉心の出力密度[50kW/l]から少なくとも10%以上の出力密度増大と設定したためである。また、見かけの出力密度Dの範囲を60[kW/l]以下としたのは、n≧10である燃料集合体を用いた本発明の炉心において、熱的余裕が最も厳しいn=10(10行10列正方格子状配列)の燃料集合体を使用した場合には、最大線出力密度を設計条件内に抑える観点からこれ以上出力密度を増大することは困難であるためである。
【0052】
図7において、見かけの出力密度D=55[kW/l]の場合に中性子実効増倍率がほぼ最大となる最適格子ピッチ範囲6.12≦L≦6.17[インチ]は、線分ABで表される。同様に、見かけの出力密度D=60[kW/l]の場合の最適格子ピッチ範囲6.16≦L≦6.21[インチ]は、線分CDで表される。そして、上述したように、見かけの出力密度Dに対し最適格子ピッチ範囲はほとんど線形に変化することから、55≦D≦60[kW/l]の範囲で変化した場合における最適格子ピッチ範囲は、四角形ABCDの内部の領域(斜線の領域)で表されることとなる。
【0053】
このとき、上記の点A(D=55[kW/l]、L=6.12[インチ])と点C(D=60[kW/l]、L=6.16[インチ])とを結ぶ直線ACは、
D=125L−710 … (式1)
で表され、同様に点B(D=55[kW/l]、L=6.17[インチ])と点D(D=60[kW/l]、L=6.21[インチ])とを結ぶ直線BDは、
D=125L−716.25 … (式2)
で表される。したがって、見かけの出力密度Dが55[kW/l]以上60[kW/l]において中性子実効増倍率をほぼ最大とする最適格子ピッチ範囲を表す、四角形ABCDの内部領域は、上記(式1)と(式2)とにより、
55≦D≦60 かつ
125L−716.25≦D≦125L−710.0 … (式3)
で表すことができる。
【0054】
本実施形態の炉心103においては、見かけの出力密度D=60[kW/l]、格子ピッチL=6.2[インチ]であり、上記式(3)で表される領域内に含まれる(図7中における線分CD上、線分Dに近い点となる)ことから、中性子実効増倍率をほぼ最大とする最適格子ピッチ範囲に含まれ、良好な経済性を確保できることがわかる。
【0055】
(2)炉停止余裕からみた最適格子ピッチ
次に、本願発明者等は、上記(式3)で表される経済性の最適格子ピッチの範囲が、炉停止余裕からみてどのようなものであるかを検証した。
【0056】
図8は、炉停止余裕からみた格子ピッチの最適値を検討するために、本願発明者等が行った解析結果を表した図である。すなわち、図8は、本実施形態による10行10列格子状配列の燃料集合体1と同様の燃料集合体を508体装荷し、格子ピッチL=6.1[インチ]で出力密度が50[kW/l]となるようにした炉心(=現行炉心にほぼ相当)において、燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、炉停止余裕の変化を示した図である。前述の図6と同様、図中、出力密度の指標として、格子ピッチL=6.1[インチ]としたときの出力密度(見かけの出力密度)Dをとり、D=55[kW/l],60[kW/l]の2つの場合について、D=50[kW/l]の場合における炉停止余裕値を基準値とし、これとの変化分(偏差)を縦軸にとりその挙動を表している。
【0057】
図8に示されるように、見かけの出力密度D=55[kW/l],60[kW/l]のいずれの場合も、格子ピッチLを増大させるほど炉停止余裕は向上し、D=50[kW/l]の場合との偏差は直線的に右上がりに増加する傾向となる。
【0058】
そして、
D=55[kW/l]の場合、L≧約6.12[インチ] … (式4)
D=60[kW/l]の場合、L≧約6.14[インチ] … (式5)
であれば、偏差が0以上、すなわち格子ピッチL=6.1[インチ]で出力密度D=50[kW/l]の現行炉心と同等又はそれ以上の炉停止余裕を確保できることがわかる。
【0059】
この結果、上記(1)で考察した良好な経済性を確保できる範囲は、上記(式4)及び(式5)範囲に含まれることから、上記式(3)で定められる範囲に格子ピッチLが設定されていれば、現行炉心と同等又はそれ以上の炉停止余裕を有することが分かった。
【0060】
本実施形態の炉心103においては、見かけの出力密度D=60[kW/l]、格子ピッチL=6.2[インチ]であることから、図8より、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心よりも炉停止余裕が約1%Δk増大することがわかる。
【0061】
(3)熱的余裕への格子ピッチ拡大の影響
ここで、本願発明者等は、上記(1)(2)のようにして格子ピッチLを大きくすることが、熱的余裕に与える影響について考察した。
【0062】
図9は、格子ピッチが熱的余裕に与える影響を検討するために、本願発明者等が行った解析結果を表した図である。すなわち、図9は、本実施形態による10行10列格子状配列の燃料集合体1と同様の燃料集合体を508体装荷し、所定の出力密度となるようにした炉心において、燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、燃料集合体の局所出力ピーキングと、炉心のチャンネル出力ピーキングの変化を示した図である。縦軸は、格子ピッチL=6.1[インチ]とした場合を基準値とした相対値で示している。
【0063】
図9に示されるように、格子ピッチLが増大するにつれて、局所出力ピーキング、チャンネル出力ピーキングともに直線的又は上に凸の曲線的に右上がりに増大する傾向となる。
【0064】
燃料集合体の局所出力ピーキングが増大するのは、格子ピッチLの増大につれてギャップ水領域が大きくなりギャップ水での中性子減速効果が高まることで、相対的に燃料集合体の正方格子状配列における最外層燃料棒の出力が大きくなり、この結果最外層以外の燃料棒との出力差が広がることによる。
【0065】
一方、チャンネル出力ピーキングが増大することは次のように説明される。
一般に、チャンネル出力ピーキングは、チャンネルボックス内のボイド率変化によってある程度抑制される。すなわち、チャンネル出力が増大しチャンネルボックス内のボイド率が高くなると、中性子減速効果が小さくなるために核分裂反応度が相対的に小さくなり、結果として出力を抑制する効果となる。
ところが、格子ピッチが増大すると、ギャップ水による中性子減速効果が大きくなり、チャンネル内冷却水による中性子減速効果が相対的に小さくなる(すなわちチャンネル内部側の寄与率が低くなる)。このため、上述したチャンネル出力増大時におけるチャンネル内ボイド率増大による出力抑制効果も相対的に小さくなってしまう。この結果、チャンネル出力ピーキングを抑制する効果が減少することになるのである。
以上のように、格子ピッチLが増大するにつれて局所出力ピーキングおよびチャンネル出力ピーキングが増大すると、最大線出力密度(MLHGR)が増大し、最小限界出力比(MCPR)が減少して熱的余裕が減少することとなる。
【0066】
しかしながら、本実施形態の炉心103においては、燃料集合体1における燃料棒6を、10行10列の正方格子状に配列することにより、9行9列に配列する従来構造よりも、1本の燃料棒6が負担すべき出力が小さくなって最大線出力密度を小さくし最小限界出力比を大きくし、熱的余裕を向上させている。したがって、この熱的余裕向上効果で上記の熱的余裕減少分を相殺させ、現行炉心と同等の熱的余裕を確保することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の炉心103によれば、各燃料集合体1の格子ピッチL=6.2[インチ]とし、見かけの出力密度D=60[kW/l]とするので、中性子実効増倍率をほぼ最大とすることができる。すなわち、出力に対してギャップ水領域8が大きくなりすぎる場合のように反応度が低下して燃料経済性が低下するのを防止できる。したがって、燃料経済性を確実に良好にすることができる。また、上記構成によって現行炉心と同等以上の良好な停止余裕を確保することができる。さらに、燃料集合体1において燃料棒6を10行10列に配置して熱的余裕を向上するので、上記格子ピッチ拡大による熱的余裕の減少分を補い、現行炉心と同等の熱的余裕を確保することができる。
【0068】
すなわち、上記のようにして、燃料経済性、炉停止余裕、熱的余裕の観点から炉心特性の最適化を図るので、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を得ることができる。
【0069】
本発明の第2の実施形態を図10〜図12を用いて説明する。本実施形態は、前述のような格子ピッチ拡大による炉停止余裕増大効果を活用し、炉心径方向出力分布を平坦化し、熱的余裕のさらなる増大を図った実施形態である。第1の実施形態と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0070】
図10は、本実施形態による炉心203の燃料集合体配置を表す1/4炉心水平横断面である。この炉心203は、上記第1の実施形態の炉心103同様、508体の燃料集合体1を格子ピッチL=6.2[インチ])で格子状に配置している。
【0071】
図中、各燃料集合体1に付記された数字は、炉内滞在サイクル数(1〜3サイクル)を表しており、この例では、平衡炉心状態で燃料集合体1は炉内に3サイクル滞在するようになっている。図示のように、炉内滞在1サイクル目の燃料集合体(新燃料集合体)1が188(=47×4)体、2サイクル目の燃料集合体1が188(=47×4)体、3サイクル目の燃料集合体1が132(=33×4)体配置されている。
【0072】
このとき、炉心203の特徴は、まず、上記508体の燃料集合体1中に、毒物入り燃料棒6A,6Bにおいて燃料ペレット中のガドリニア含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が互いに異なる2種類の燃料集合体を含んでいることである。すなわち、ガドリニアを添加した燃料ペレットの総和が相対的に長い(ガドリニア含有領域が相対的に大きい)燃料集合体(高毒物燃料集合体)と、上記総和が相対的に短い(ガドリニア含有領域が相対的に小さい)燃料集合体(低毒物燃料集合体)とが備えられている。
【0073】
図11は、それら高毒物燃料集合体(高Gd燃料集合体と表す)及び低毒物燃料集合体(低Gd燃料集合体と表す)の構造をそれぞれ表す水平横断面図である。図中、太線の○は前述の短尺燃料棒6Bを表しており、またそれ以外の通常有効長の燃料棒6Aのうち「G」と付記されたものが、毒物入り燃料棒を表している。
【0074】
図11において、上記第1の実施形態の図3と比較して分かるように、高毒物燃料集合体、低毒物燃料集合体ともに、通常有効長の燃料棒6A及び短尺燃料棒6Bの配置自体は同一である。但し、図5と比較して分かるように、毒物入り燃料棒の配置は第1の実施形態とはそれぞれ異なっている。すなわち、図11の上側に示す高毒物燃料集合体では、径方向最外周を含み2層目に12本、3層目に4本の合計16本の毒物入り燃料棒が配置されている。また、図11の下側に示す低毒物燃料集合体では、径方向最外周を含み2層目に12本、4層目に2本の合計14本の毒物入り燃料棒が配置されている。すなわち高毒物燃料集合体では低毒物燃料集合体よりも毒物入り燃料棒の本数が2本多くなっており、これによってガドリニアを添加した燃料ペレットの燃料棒軸方向長さの総和が相対的に長く(ガドリニア含有領域が相対的に大きく)なっている。
【0075】
そして、図10に戻り、本実施形態の炉心203の第2の特徴は、「1」が付記された炉内滞在1サイクル目の燃料集合体(新燃料集合体)1についてみた場合に、炉心の径方向最外層より6層目に配置される第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において上記低毒物燃料集合体の占める割合を、上記外周部領域の径方向内周側に位置する内周部領域において上記低毒物燃料集合体の占める割合よりも大きくしている。
【0076】
なお、上記の炉心の径方向6層目とは次のように定義する。まず、燃料集合体1のうち、チャンネルボックス11側面のいずれか1面を炉心203外部の水反射体領域に接しているものを最外層燃料集合体とする。次に、この最外層燃料集合体とチャンネルボックス11側面のいずれか1面を面している燃料を径方向2層目の第2層燃料集合体とする。これを繰り返して、炉心径方向外周部から順に定義していき、第6層目としたものである。
【0077】
このような定義により、本実施形態の炉心203では、図10に示す1/4部分で見ると、上記内周部領域は斜線ハッチングを施した部分となり、施していない部分が外周部領域となる。内周部領域には全部で41体の燃料集合体1がある。「1」を付された新燃料集合体は16体あるが、そのうち▲1▼で表される低毒物燃料集合体は4体であって25%を占めるに過ぎない。一方、外周部領域には全部で86体の燃料集合体1がある。「1」を付された新燃料集合体は31体あり、そのうち▲1▼で表される低毒物燃料集合体は24体であり、約77.4%を占めている。
【0078】
次に、本実施形態の作用を図12を用いて以下に説明する。
図12は、一般的な沸騰水型原子炉の炉心において、上記のように定義した層毎の平均相対出力分布を本願発明者等が解析によって求めたものである。図中、横軸には、上記の定義による層数(0,1,2,3,…)をとり、縦軸には、全燃料集合体の平均出力を1とした相対値をとって表しており、通常の大型炉の一例として872体の燃料集合体を備えた炉心と、本発明の適用対象である中型炉の一例として本実施形態と同様の508体の燃料集合体を備えた炉心とをそれぞれ曲線で例示している。
【0079】
図12から分かるように、炉心サイズによって若干の差違はあるものの、少なくとも径方向6層目よりも炉心外周部側(すなわち層数0〜5)は相対出力が1よりも小さくなる。従って、この領域の燃料集合体出力を増大させることで、炉心径方向の出力ピーキングを低減することが可能である。
【0080】
本実施形態の炉心203は、以上の点に鑑み、第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において低毒物燃料集合体の占める割合を、内周部領域よりも大きくしている。すなわち、新燃料集合体においては、ガドリニアが燃え尽きるまでは毒物入り燃料棒本数の少ない方が反応度が大きくなることから、低毒物燃料集合体のほうが高毒物燃料集合体よりも相対的に出力が大きくなる。従って、そのような相対的に出力が大きくなる低毒物燃料集合体を、炉心径方向6層目より外周側に配置することで、径方向の出力ピーキングを低減することができる。具体的には以下の通りである。
【0081】
すなわち、本願発明者等の検討によれば、高毒物燃料集合体と低毒物燃料集合体とからなる本実施形態の炉心203は、全て高毒物燃料集合体とした場合に比べれば径方向出力ピーキングを約10%低減できることがわかった。このとき、図9を用いて前述したように、格子ピッチLを6.1インチから6.2インチに拡大することで、出力ピーキングが約4%増大(局所出力ピーキングの増大分とチャンネル出力ピーキングの増大分の積)するものの、差し引き本実施形態の炉心203によれば結果として出力ピーキングを約6%低減できることになる。
【0082】
一方このとき、沸騰水型原子炉では、通常、反応度の大きい燃料集合体を炉心のある部分に集中して配置すると、炉停止余裕が減少することになる。しかしながら、本実施形態の炉心203では、前述したように、格子ピッチをL=6.2[インチ]に増大することによる炉停止余裕向上効果により、上記炉停止余裕減少分を補うことが可能である。具体的には、以下の通りである。
【0083】
すなわち、本願発明者等の検討によれば、高毒物燃料集合体と低毒物燃料集合体とからなる本実施形態の炉心203は、全て高毒物燃料集合体とした場合に比べれば炉停止余裕が約0.4%Δk減少する。しかしながら、図8を用いて前述したように、見かけの出力密度D=60[kW/l]とし格子ピッチL=6.2[インチ]に拡大することにより、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心より炉停止余裕を約1%Δk増大できることから、上記減少分を十分に補い、差し引きで炉停止余裕を約0.6%Δk増大することができる。
【0084】
以上のように、本実施形態の炉心203によれば、第1の実施形態の炉心103と同様、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し、大型炉と同等の良好な経済性を得ることができるとともに、径方向の出力ピーキングを低減して熱的余裕をさらに向上することができる。
【0085】
本発明の第3の実施形態を図13により説明する。本実施形態は、前述のような格子ピッチ拡大による炉停止余裕増大効果を活用し、炉心軸方向出力分布平坦化を図った実施形態である。第1の実施形態と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0086】
図13は、本実施形態による炉心に備えられる(1種類の)燃料集合体1の構造を表す水平横断面図を示す。図13中上側の図は、燃料集合体1を燃料有効長の長さ方向中央(中点)から上側の領域(上部領域)と下側の領域(下部領域)とに分けたときにおける上部領域の水平横断面図であり、図13中下側の図は、下部領域の水平横断面図である。第2の実施形態の図11と同様、図13中、太線の○は前述の短尺燃料棒6Bを表しており、燃料棒6A,6Bのうち「G」と付記されたものが、毒物入り燃料棒を表している。
【0087】
図13下側の下部領域断面図と、上記第1の実施形態の図3や第2の実施形態の図11と比較して分かるように、通常有効長の燃料棒6A及び短尺燃料棒6Bの配置自体は同一である。但し、毒物入り燃料棒の配置はそれらとは異なっている。すなわち、本実施形態の燃料集合体では、毒物入り燃料棒として、径方向最外周を含み2層目に12本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが、4層目に2本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが配置されるのに加え、5層目(水ロッド7,7の間)に2本の毒物入り短尺燃料棒6Bが配置されている。
【0088】
図13中上側の上部領域断面図に示されように、短尺燃料棒6Bは上部領域においては存在しないことから、本実施形態の燃料集合体においては、上記2本の毒物入り短尺燃料棒6Bの分、ガドリニアを添加した燃料ペレットの燃料棒軸方向長さ(ガドリニアの含有領域の燃料棒軸方向長さ)の総和が、下部領域のほうが上側領域よりも大きくなっている。
【0089】
本実施形態における炉心は、各燃料集合体における上記構成によって炉心軸方向出力分布の平坦化を図ることができる。
【0090】
すなわち、一般に、沸騰水型原子炉の炉心を構成する燃料集合体は、下部領域が上部領域に比べて相対的にボイド率が低く中性子減速効果が大きいために、出力が大きくなる傾向がある。そこで本実施形態においては、燃料集合体1の上部領域のガドリニア含有領域の総和長さを相対的に短くすることにより、反応度を高めて出力を増大し、炉心軸方向出力分布の平坦化を図ることができる。具体的には、本願発明者等の検討によれば、軸方向出力ピーキングを約10%低減できることがわかった。
【0091】
一方このとき、沸騰水型原子炉では、通常、原子炉停止時には炉心上部の出力が相対的に大きくなる。これは、各燃料集合体の上部領域において、運転時にはボイド率が高いために出力が相対的に小さく燃料の燃焼が進まないため、運転停止時にボイド率が低くなったときの反応度上昇が相対的に大きくなるためである。従って、通常は、燃料集合体の上部領域においてガドリニア含有領域の総和長さを短くして反応度を高めると、炉停止余裕が減少することになる。しかしながら、本実施形態の炉心203では、前述したように、格子ピッチをL=6.2[インチ]に増大することによる炉停止余裕向上効果により、上記炉停止余裕減少分を補うことが可能である。具体的には、以下の通りである。
【0092】
すなわち、本願発明者等の検討によれば、燃料集合体の上部領域においてガドリニア含有領域の総和長さを短くした本実施形態の炉心は、上部領域と下部領域とで総和長さを等しくした場合に比べれば炉停止余裕が約0.6%Δk減少する。しかしながら、図8を用いて前述したように、見かけの出力密度D=60[kW/l]とし格子ピッチL=6.2[インチ]に拡大することにより、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心より炉停止余裕を約1%Δk増大できることから、上記減少分を十分に補い、差し引きで炉停止余裕を約0.4%Δk増大することができる。
【0093】
なお、上記の例では短尺燃料棒6Bを用いてガドリニアの燃料棒軸方向分布に差をつけたが、これに限られず、通常燃料棒の例えば下側領域にのみガドリニアを添加する等によって分布に差をつけてもよい。
【0094】
また、上記第2の実施形態と第3の実施形態とを組み合わせ、格子ピッチを拡大することで増大した炉停止余裕を、炉心径方向および軸方向の両方向の出力分布平坦化に用いることもできる。このような変形例を図14を用いて説明する。
【0095】
図14は、本変形例による炉心に備えられる高毒物燃料集合体(右側)及び低毒物燃料集合体(左側)の構造を表す水平横断面図であり、それぞれ上側の図は、燃料集合体1の上部領域の水平横断面図、下側の図は下部領域の水平横断面図である。上記同様、太線の○は前述の短尺燃料棒6Bを表しており、燃料棒6A,6Bのうち「G」と付記されたものが、毒物入り燃料棒を表している。
【0096】
図14において、図13や図11と比較して分かるように、高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体ともに、通常有効長の燃料棒6A及び短尺燃料棒6Bの配置自体は同一である。
【0097】
そして、高毒物燃料集合体では、図14中右側の図に示されるように、毒物入り燃料棒として、径方向最外周を含み2層目に12本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが、4層目に2本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが配置されるのに加え、5層目(水ロッド7,7の間)に2本の毒物入り短尺燃料棒6Bが配置されている(合計16本)。図13と同様、この高毒物燃料集合体においては、上記2本の毒物入り短尺燃料棒6Bの分、ガドリニアを添加した燃料ペレットの燃料棒軸方向長さの総和が、下部領域のほうが上側領域よりも大きくなっている。
【0098】
また、低毒物燃料集合体では、図14中左側の図に示されるように、上記高毒物燃料集合体において5層目(水ロッド7,7の間)の2本を除く合計14本の毒物入り(通常有効長の)燃料棒6Aが配置されている。
【0099】
そして、本変形例では、これら高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体を、第2の実施形態における図10で示したように配置する。
【0100】
これにより、上記第2実施形態による効果と第3実施形態による効果を併せて得られ、径方向出力分布ピーキングを約10%、および軸方向出力ピーキングを約10%同時に低減することができる。
【0101】
このとき、炉停止余裕が約1%Δk減少するが、図8を用いて前述したように、見かけの出力密度D=60[kW/l]とし格子ピッチL=6.2[インチ]に拡大することにより、D=50[kW/l]、L=6.1[インチ]の現行炉心より炉停止余裕を約1%Δk増大できることから、上記減少分を相殺し、差し引きで現行炉心とほぼ同程度の炉停止余裕を確保することができる。
【0102】
【発明の効果】
本発明によれば、装荷燃料集合体数600体以下の中型の沸騰水型原子炉の炉心を構成するにあたり、燃料経済性、炉停止余裕、熱的余裕の観点から炉心特性の最適化を図れ、炉停止余裕及び熱的余裕を確保しつつ出力を増大し大型炉と同等の良好な経済性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による炉心の燃料集合体配置を表す水平横断面図である。
【図2】図1に示した炉心を備えた沸騰水型原子炉の全体構造を表す垂直縦断面図である。
【図3】図1に示した炉心に備えられている燃料集合体の詳細構造を表す水平横断面図である。
【図4】図1に示した炉心に備えられている燃料集合体の詳細構造を表す垂直縦断面図である。
【図5】図3及び図4に示した燃料集合体における燃料棒の軸方向平均のウラン濃縮度分布を示す図である。
【図6】燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチのみを変化させたときにおける、運転サイクル末期における炉心の中性子実効増倍率の変化を示した図である。
【図7】見かけの出力密度が55〜60[kW/l]の範囲とした場合に、線形に変化する最適格子ピッチ範囲がどのように表されるかの検討結果を表す図である。
【図8】燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチLのみを変化させたときにおける、炉心の炉停止余裕の変化を示した図である。
【図9】燃料集合体を変えることなく出力を一定のまま格子ピッチのみを変化させたときにおける、燃料集合体の局所出力ピーキングと、炉心のチャンネル出力ピーキングの変化を示した図である。
【図10】本発明の第2実施形態による炉心の燃料集合体配置を表す1/4炉心水平横断面である。
【図11】図10に示した高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体の構造をそれぞれ表す水平横断面図である。
【図12】一般的な沸騰水型原子炉の炉心において、層毎の平均相対出力分布を解析によって求めた図である。
【図13】本発明の第3の実施形態による炉心に備えられる燃料集合体の構造を表す水平横断面図である。
【図14】第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせた変形例による炉心に備えられる高毒物燃料集合体及び低毒物燃料集合体の構造を表す水平横断面図でである。
【符号の説明】
1 燃料集合体
6 燃料棒
6A 通常有効長の燃料棒
6B 短尺燃料棒
Claims (3)
- n行n列の正方格子状に配列された複数の燃料棒とこれらを取り囲む内幅13.4cmのチャンネルボックスとを備えた燃料集合体を、300体以上600体以下備えた沸騰水型原子炉の炉心であって、
n≧10であり、
各燃料集合体の格子ピッチをL[インチ]とし、L=6.1として算出した炉心の見かけの出力密度をD[kW/l]としたとき、
55≦D≦60 かつ
125L−716.25≦D≦125L−710.0
としたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心。 - 請求項1記載の沸騰水型原子炉の炉心において、
各燃料集合体の前記複数の燃料棒は、可燃性毒物を含有する毒物入り燃料棒と、可燃性毒物を含有しない通常燃料棒とを含み、
前記300体以上600体以下の燃料集合体は、前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が相対的に大きい高毒物燃料集合体と、前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和が相対的に小さい低毒物燃料集合体とを含み、
かつ、炉心の径方向最外層より6層目に配置される第6層燃料集合体より径方向外周側の外周部領域において、炉内滞在1サイクル目の複数の新燃料集合体中に占める前記低毒物燃料集合体の割合を、前記外周部領域の径方向内周側に位置する内周部領域よりも大きくしたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心。 - 請求項1又は2記載の沸騰水型原子炉の炉心において、
各燃料集合体は、集合体内部を燃料有効長の中点を境に上部領域と下部領域に区分したとき、前記下部領域における前記可燃性毒物の含有領域の燃料棒軸方向長さの総和を、前記上部領域より大きくしたことを特徴とする沸騰水型原子炉の炉心。
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