JP2004217947A - 高強度低熱膨張Fe−Ni系合金およびシャドウマスク - Google Patents
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Abstract
【課題】シャドウマスク用に適した高強度低熱膨張Fe−Ni系合金を達成し、それよりなるシャドウマスクを提供する。
【解決手段】質量%にて、Ni:35〜37%、あるいは、Ni:28〜37%、Co:7%以下であって、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002のFe−Ni系合金である。好ましくは、組織断面に観察されるニオブ化合物の最大粒径が0.5μm未満のFe−Ni系合金である。更には、平均結晶粒径がJIS−G−0551粒度番号にて10以上の細粒である。Si:0.03%未満が好ましく、あるいはB:0.004%以下としてもよい。そして、これらFe−Ni系合金よりなるシャドウマスクである。
【選択図】 図1
【解決手段】質量%にて、Ni:35〜37%、あるいは、Ni:28〜37%、Co:7%以下であって、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002のFe−Ni系合金である。好ましくは、組織断面に観察されるニオブ化合物の最大粒径が0.5μm未満のFe−Ni系合金である。更には、平均結晶粒径がJIS−G−0551粒度番号にて10以上の細粒である。Si:0.03%未満が好ましく、あるいはB:0.004%以下としてもよい。そして、これらFe−Ni系合金よりなるシャドウマスクである。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度でかつ平均熱膨張係数が小さいFe−Ni系合金に関するものであり、特にシャドウマスク、さらには精密機械の各部品等の素材に適用されるものに関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−36%Niに代表されるアンバー系のFe−Ni系合金や、Fe−31%Ni−5%Coに代表されるスーパーアンバー系のFe−Ni−Co系合金は、平均熱膨張係数が小さい低熱膨張合金として知られている。これらFe−Ni系合金やFe−Ni−Co系合金(以下、Fe−Ni系合金と総称する)は、テレビやコンピューターのディスプレイにおけるシャドウマスク、ブラウン管電子銃の電極といった低熱膨張特性が必要とされる用途に使用されている。
【0003】
例えばシャドウマスク材料は、従来一般には軟鋼が用いられていた。軟鋼はプレス成形性およびエッチング性は良好であるが、熱膨張係数が約12×10−6/℃と大きく、電子ビームの照射により加熱されて熱膨張を生じ、色純度を劣化させてしまうという問題があった。近年、ディスプレイの高精細化、高輝度化が要求される中、従来の軟鋼に替えて、熱膨張係数の小さいFe−36%Niに代表されるアンバー系合金がシャドウマスク材料として実用化されている。しかしながら、Fe−36%Niアンバー系合金は、軟鋼と比べてエッチング性に劣り、また、コストが非常に高いという問題点を有している。
【0004】
また、最近のフラット画面化への急速な進展に伴い、従来のプレス成形方式のシャドウマスクに代わって、張力を付与した状態でマスクフレームに支持されるテンション方式が適用されつつある。この場合、特にフレーム枠体に支持していることから、シャドウマスク自体にはその形状保持のための強度が取り立てて必要でなく、コストを下げる目的でシャドウマスクの薄板化が進められている。しかし、その薄板状態としての取扱いに係わり、各工程で折れや変形に対処できるだけのハンドリング性(強度)が求められている。
【0005】
上記の用途に供されるFe−Ni系合金においては、そのエッチング性やプレス成形性、そして強度の向上手段としてNb添加による手段が多数提案されている。例えば、Nを0.01%以下に規制すると共に窒化物を形成しやすいNbを0.01〜1.0%添加することで固溶N量を低減し、更にはCrを適量添加することでレジスト膜の密着性およびプレス成形後の剛性を向上したシャドウマスク用素材が提案されている(特許文献1参照)。また、シャドウマスクやリードフレームを対象とした高強度インバー合金板として、0.10%までのCと1.0%までのNbを添加すると共に、Nを0.005%以下に低減する手法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平04−120251号公報
【0007】
【特許文献2】
特開平10−060528号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した手法は、シャドウマスク等に求められる諸特性の向上に有効な手段である。しかし、その高強度化の手段としてNbを固溶状態で利用し、加工歪みを蓄積して加工硬化を図るものについては、多量のNb添加が必要となり、熱膨張特性の劣化が懸念される。また、含Nb析出物としての高強度化を図るものの場合、これらは主に炭化ニオブとしての分散強化を狙っており、これについてもその効果発揮に十分な析出量を確保するに多量のNbが必要となる。加えてその析出物のサイズも大きい。
【0009】
上述したような従来の合金の場合は、その造塊・凝固時に晶出する炭、窒化物が粗大になり易く、これはエッチング面に突出するといった問題に繋がる。そこで本発明は、粗大になり易い炭、窒化物の晶出を抑えた手法にて高強度低熱膨張Fe−Ni系合金を達成し、そして、それら合金よりなるシャドウマスクを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明者らは、Fe−Ni系合金の高強度化の手法として、粗大となり易い晶出炭化物に依らない手法を検討した。その結果、固溶析出処理により超微細な析出調整が可能なニオブ窒化物を主に、窒化物、炭化物、炭窒化物といったニオブを含む微細なニオブ化合物を組織中に多数析出させることで結晶粒の微細化が達成でき、諸特性の劣化をきたさずに高強度化を達成するに有効な手段であることをつきとめた。つまり、固溶析出処理においてFe−Ni系合金中に完全固溶させることができる範囲内でのNb,C,N量調整を利用することで、少量のNb添加で、超微細なニオブ化合物を析出させる手法であり、粗大な炭、窒化物の晶出を抑えかつ、分散強化を主作用とする従来の方法にも依らないことから、多量のNb添加をも必要としない方法である。
【0011】
そして、優れた低熱膨張特性を達成するためにMnを低減する本発明のFe−Ni系合金は、Mnの低減によって熱間加工性の劣化が懸念されることから、それをMgの含有によって補償するものである。つまり、熱間加工性の劣化は合金中のSの粒界偏析によるところ、Nbの含有により結晶粒が微細化されている本発明のFe−Ni系合金はSが粒界に偏析しやすいことから、このMgの含有が極めて重要である。
【0012】
すなわち、本発明は、質量%にて、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Ni:35〜37%、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金である。
【0013】
あるいは、質量%にて、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Ni:28〜37%、Co:7%以下、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金である。
【0014】
好ましくは、組織断面に観察されるニオブと窒素を主体とする化合物および、ニオブと炭素を主体とする化合物の最大粒径が0.5μm未満であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金である。
【0015】
加えて、これら本発明の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金について、平均結晶粒径がJIS G 0551による粒度番号にて10以上の細粒のものである。また、その含有されるSiを0.03%未満、あるいはBを0.004%以下としてもよい。
【0016】
そして、これら本発明の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金よりなるシャドウマスクであって、高精細・高精度で加工形状の微細化が達成され、色純度に優れたブラウン管に対応できるものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の最大の特徴は、粗大な炭、窒化物の晶出を抑えかつ、分散強化を主作用とする従来の方法にも依らない手法にて、Fe−Ni系合金の高強度化を達成したところにある。そして、この達成手段にNb,C,N量の最適なバランス調整を利用するものであって、このようなFe−Ni系合金だからこそMgの含有を必要としたところにも特徴を有する。
【0018】
本発明者らは、粗大なニオブ炭化物の晶出によって懸念される上記の問題点を解決する手法を検討し、それが同じく分散強化を主作用に利用されていた従来からの窒化物、炭化物、炭窒化物といったニオブと窒素を主体とする化合物および、ニオブと炭素を主体とする化合物(以下、ニオブ化合物と総称する)の更なる調整にあることを見いだした。つまり、固溶析出処理により微細なニオブ化合物の析出が可能であり、固溶化処理で完全に固溶させることができる範囲で調整したNb,C,N量の効果に着眼したのである。
【0019】
そして、さらに優れた低熱膨張特性を達成するためにMnを低減しかつ、そのMnの低減によって劣化が懸念される熱間加工性をMgの添加によって補償するものである。つまり、熱間加工性の劣化が合金中のSの粒界偏析によるものであるところ、本発明のNbを含有するFe−Ni系合金にとってこそ、その熱間加工性の維持にMgの適量の含有が重要なのである。
【0020】
まず、本発明のFe−Ni系合金を構成する具体的組成について、その数値限定理由を述べる。
Niは、Fe−Ni(−Co)系合金の低熱膨張特性に大きな影響を及ぼす元素である。含有量が35%より少なく、または37%を越えるものでは熱膨張係数を低めるインバー効果が低下するため、Niの範囲は35〜57%とする。また、本発明のFe−Ni系合金はその更なる低熱膨張特性確保の点から、Niの一部をCoに置換あるいはCoを添加してもよい。具体的には、Ni:28〜37%、Co:7%以下を含有するFe−Ni系合金であり、好ましくは、Co:2〜6%を含有するFe−Ni系合金である。
【0021】
Nbは本発明の重要かつ必須の元素である。本発明においては、その極少量の添加でニオブ化合物、とりわけニオブ窒化物を超微細に分散析出させることが可能であり、結晶粒の微細化に効果がある。その結晶粒微細化に十分な添加量として0.005%を下限とする。一方、Nb量が0.1%を越えると粗大なニオブ窒化物を晶出しやすく、1350℃を超える均熱処理でも固溶し難くなるため、上限を0.1%に限定する。好ましくは、0.01〜0.05%である。
【0022】
Cも本発明の達成の上でその調整が重要な元素である。多すぎると粗大なニオブ炭化物を晶出し、結晶粒微細化に有効なニオブ窒化物が少なくなるため、0.01%未満とする。好ましくは、0.005%以下である。
【0023】
Nも本発明のNb、Cに合わせて本発明の重要な添加元素であり、超微細なニオブ化合物の析出の上で0.002%以上が必要である。ただし、多量に添加すると粗大なニオブ窒化物を晶出し易く、均熱処理の際の固溶温度も高くなるため、上限を0.02%に限定する。好ましくは、0.003〜0.01%である。
【0024】
そして、本発明にとってこそ重要なことは、必須元素であるNbとNの含有量の相互調整である。つまり、本発明の超微細なニオブ化合物を達成するのに、例えば900〜1350℃の均熱処理により一旦、ニオブ窒化物を固溶させる工程が有効であって、そのため本発明では[%Nb]・[%N]溶解度積を0.000013〜0.002に調整する必要がある。好ましくは、0.000013〜0.001である。
【0025】
窒化ニオブは、その溶解度積が小さいため、炭化ニオブに比べ極少量のNb添加でその窒化物が析出する。そこで本発明では、窒化ニオブの溶解度積が0.000013以上、0.002以下になるよう、NbとNの含有量を調整することで、900℃から1350℃、更には1300℃までの範囲の固溶化処理でも固溶が可能となり、その後に行われる析出処理、あるいは熱間加工後の制御冷却によって、微細に析出させることができる。
【0026】
超微細な析出物は結晶粒界のピンニング粒子として有効に働くことから、結晶粒の超微細化に作用し、その結果、素材の高強度化が達成できる。よって、本発明のFe−Ni系合金とすることで、その合金中に超微細なニオブ化合物、特に窒化ニオブを形成させれば、粗大な炭化物を利用せずとも高強度化が達成できるのである。
【0027】
また、本発明のFe−Ni系合金は、優れた低熱膨張特性を達成するため、従来に比べてMnを低減する。Fe−Ni系合金は36%Ni付近で室温の熱膨張係数が最小となるが、Mn量を下げることにより、さらに低熱膨張特性が得られる。よって、熱膨張係数を小さくするため、Mnは0.1%を上限とした。ただし、Mnは熱間加工性に有害なSを固定する作用があり、Mnを低減することで熱間加工性の低下が問題となる。そこで、本発明では熱間加工性を補償するためS量の低減と、そしてMgの添加を行なったところにも特徴がある。
【0028】
Mgはごく少量でSを固定し、熱間加工性を改善する効果を有するものであるが、Nbの含有により結晶粒が微細化されている本発明のFe−Ni系合金にとってこそ、このMgの含有は極めて重要である。つまり、Sによる熱間加工性の劣化はSの粒界偏析によるものであるところ、本発明の結晶粒が微細な合金の場合、粒界面積が大きくなっていることから粒界にSが偏析しやすくなっている。よって、本発明では熱間加工性を阻害するSを0.001%以下に規制すると共に、1ppm以上のMgを含有せしめることで、熱間加工性の十分な確保をするものである。なお、過多のMgは多量のMg系介在物を形成する要因となり、エッチング品位を悪くすることから、上限を50ppmとした。好ましくは2〜30ppmである。
【0029】
このように、本発明のNb,C,Nが所定量に調整されたFe−Ni系合金において、その更なる低熱膨張特性の達成の上でMnの低減を必須とすれば、結果としてSの低減のみでは熱間加工性の確保が難しい場合がある。そこで、本発明の適量のMgは、そのような時でも十分な熱間加工性の確保に有効であり、エッチング品位への悪影響も抑制できるものである。
【0030】
Siは、通常、製鋼過程での脱酸剤として合金中に存在するものであるが、多すぎると介在物を形成し、エッチングの時に使用するエッチング液のフィルタ目詰まりの原因となる。また熱膨張係数も劣化させるため、好ましくは0.03%未満とする。Bは、エッチング加工時のエッチング孔形状の改善、そして熱間加工性の更なる改善の効果があり、含有してもよい。望ましくは0.0001%以上であるが、多量のB含有はNとの結合によりニオブ窒化物の形成を阻害することから、好ましくは0.004%以下とする。
【0031】
加えて、本発明者らは、その結晶粒の微細化による高強度化を達成するのに有効なニオブ化合物のサイズについても検討した。本発明のFe−Ni系合金においては、その高強度化に効果を示す平均結晶粒径として、JIS G 0551による粒度番号が10以上の細粒であることが望ましい。この場合、Zenerの関係式(R=4/3・r/f2/3:マトリックス平均結晶粒径R、析出物の平均粒径r、析出物体積率f)から導かれる分散粒子径とマトリックスの平均結晶粒径の関係から検討すれば、組織断面に観察されるニオブ化合物の最大粒径を0.5μm未満とすることが望ましい。
【0032】
よって、本発明のFe−Ni系合金は、その組織断面に観察されるニオブ化合物の最大粒径を0.5μm未満とすることが好ましく、更には0.3μm以下である。なお、0.5μm未満の超微細なニオブ化合物は、本発明のFe−Ni系合金の組成条件に合わせて、例えばその製造工程における900〜1350℃の均熱固溶化処理と析出処理の条件を適宜調整することで、調整が可能である。
【0033】
また、組織断面に観察されるニオブ化合物の粒径測定法としては、例えばスピード法にて腐食した組織面を観察する方法が適用できる。図1は、スピード法にて腐食したFe−Ni系合金の組織面を16000倍の走査電子顕微鏡にて観察したものであり、最大粒径が0.06μmのニオブ化合物を示している。なお、ニオブと窒素を主体とする化合物、そしてニオブと炭素を主体とする化合物であることは、EDX(エネルギー分散X線分析計)による分析によりニオブと窒素あるいは炭素を主体に含む粒として確認が可能である。
【0034】
主に炭化ニオブといった晶出物による分散強化を利用した従来の技術の場合、先述したようにその十分な晶出量を確保するためのNbはおおむね0.1%を大きく超える添加量が必要であり、その晶出物の径は大きいものである。それに比して、超微細なニオブ化合物の固溶析出による結晶粒微細化を目的とする本発明は、その必要とするNb添加量は少量であることから、粗大なニオブ化合物、特にニオブ窒化物の晶出を抑制することができ、Nb自体の添加量も抑えることができる。
【0035】
【実施例】
(実施例1)
真空誘導溶解炉により、表1に示す各種成分に調整したFe−36%Niアンバー系合金の鋼塊を作製した。その後、1100℃に加熱して固溶化処理を行ない、続いて鍛造と熱間圧延を施して厚さ2.5mmの板材とした。なお、この熱間圧延後の板材の表面状態を観察したところ、No.6〜8のエッジ部には割れが認められた。次に、この板材に650〜750℃でのニオブ化合物の析出処理を行なった後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの冷間圧延材とし、この冷間圧延材を850℃で焼鈍して、供試材とした。
【0036】
そして、各供試材についての平均結晶粒径(JIS G 0551による結晶粒度番号)と、最大のニオブ化合物の粒径、0.2%耐力、熱膨張係数を測定した。なお、ニオブ化合物の粒径測定は、供試材をスピード法で腐食した組織面について、その総測定観察視野面積500μm2を走査電子顕微鏡にて観察することで行なった。また、0.2%耐力は20℃おいて、熱膨張係数は30〜100℃の範囲で測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明を満たすNo.1〜5は、ニオブ化合物の微細析出により微細な結晶粒が得られている。そして、Nbを添加しない通常のインバー合金材(No.7)に比べて結晶粒は小さく、耐力が高い。なお、ニオブ化合物は析出処理条件により調整が可能であって、例えば析出処理温度を高くすればニオブ化合物が凝集粗大化して、そのサイズも大きくなり、その結果、結晶粒も大きくなる。析出処理温度の高いNo.5は、最大のニオブ化合物は小さいが、結晶粒をピンニングするのに特に有効に作用する粒径50nm程度の粒子が少なく、平均粒径は大きめであることから、結晶粒はやや大きめである。そして、本発明を満たすNo.1〜5は、Mn量の低減により通常のインバー合金材(No.7)よりも低い熱膨張係数が得られている。
【0039】
一方、Nb量が多く、N量もやや多いNo.6は、0.2%耐力こそ向上しているものの、造塊時の冷却速度が遅い部分でやや大きなニオブ窒化物の晶出が見られるため、熱間加工性やエッチング性状が悪い。また、過多のNbを含有することから熱膨張係数もやや大きめの傾向にある。No.8はC量が多いため、熱膨張係数が大きい。
【0040】
(実施例2)
真空誘導溶解炉により、表2に示す各種成分に調整したFe−32%Ni−5%Coスーパーインバー系合金の鋼塊を作製した。その後、1100℃に加熱して固溶化処理を行ない、続いて鍛造と熱間圧延を施して厚さ2.5mmの板材とした。なお、この熱間圧延後の板材の表面状態を観察したところ、No.13,14のエッジ部には割れが認められた。次に、この板材に650℃でのニオブ化合物の析出処理を行なった後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの冷間圧延材とし、これに850℃の焼鈍を行なって供試材とした。そして、各供試材についての平均結晶粒径(JIS G 0551による結晶粒度番号)と、最大のニオブ化合物の粒径、0.2%耐力、熱膨張特性を測定した。測定要領は実施例1に従う。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明を満たすNo.9〜12は、ニオブ化合物の微細析出により微細な結晶粒が得られている。そして、Nb無添加材(No.14)に比べて、低熱膨張特性やその他の特性を損なうこと無く、耐力を向上させることができた。一方、Nb量の多いNo.13は、造塊時の冷却速度が遅い部分でやや大きなニオブ窒化物の晶出が見られるため、熱間加工性やエッチング性状が悪い。
【0043】
【発明の効果】
本発明であれば、高強度でかつ熱膨張係数が小さいFe−Ni系合金の提供が可能である。また、熱間加工性にも優れ、シャドウマスク材の用途においてはハンドリングが容易かつ、更なる薄板化も可能であることから、マスク原価の低減が図れ、フラット管用シャドウマスクの用途等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Fe−Ni系合金の組織面に観察されるニオブ化合物を示す金属ミクロ組織写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度でかつ平均熱膨張係数が小さいFe−Ni系合金に関するものであり、特にシャドウマスク、さらには精密機械の各部品等の素材に適用されるものに関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−36%Niに代表されるアンバー系のFe−Ni系合金や、Fe−31%Ni−5%Coに代表されるスーパーアンバー系のFe−Ni−Co系合金は、平均熱膨張係数が小さい低熱膨張合金として知られている。これらFe−Ni系合金やFe−Ni−Co系合金(以下、Fe−Ni系合金と総称する)は、テレビやコンピューターのディスプレイにおけるシャドウマスク、ブラウン管電子銃の電極といった低熱膨張特性が必要とされる用途に使用されている。
【0003】
例えばシャドウマスク材料は、従来一般には軟鋼が用いられていた。軟鋼はプレス成形性およびエッチング性は良好であるが、熱膨張係数が約12×10−6/℃と大きく、電子ビームの照射により加熱されて熱膨張を生じ、色純度を劣化させてしまうという問題があった。近年、ディスプレイの高精細化、高輝度化が要求される中、従来の軟鋼に替えて、熱膨張係数の小さいFe−36%Niに代表されるアンバー系合金がシャドウマスク材料として実用化されている。しかしながら、Fe−36%Niアンバー系合金は、軟鋼と比べてエッチング性に劣り、また、コストが非常に高いという問題点を有している。
【0004】
また、最近のフラット画面化への急速な進展に伴い、従来のプレス成形方式のシャドウマスクに代わって、張力を付与した状態でマスクフレームに支持されるテンション方式が適用されつつある。この場合、特にフレーム枠体に支持していることから、シャドウマスク自体にはその形状保持のための強度が取り立てて必要でなく、コストを下げる目的でシャドウマスクの薄板化が進められている。しかし、その薄板状態としての取扱いに係わり、各工程で折れや変形に対処できるだけのハンドリング性(強度)が求められている。
【0005】
上記の用途に供されるFe−Ni系合金においては、そのエッチング性やプレス成形性、そして強度の向上手段としてNb添加による手段が多数提案されている。例えば、Nを0.01%以下に規制すると共に窒化物を形成しやすいNbを0.01〜1.0%添加することで固溶N量を低減し、更にはCrを適量添加することでレジスト膜の密着性およびプレス成形後の剛性を向上したシャドウマスク用素材が提案されている(特許文献1参照)。また、シャドウマスクやリードフレームを対象とした高強度インバー合金板として、0.10%までのCと1.0%までのNbを添加すると共に、Nを0.005%以下に低減する手法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平04−120251号公報
【0007】
【特許文献2】
特開平10−060528号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述した手法は、シャドウマスク等に求められる諸特性の向上に有効な手段である。しかし、その高強度化の手段としてNbを固溶状態で利用し、加工歪みを蓄積して加工硬化を図るものについては、多量のNb添加が必要となり、熱膨張特性の劣化が懸念される。また、含Nb析出物としての高強度化を図るものの場合、これらは主に炭化ニオブとしての分散強化を狙っており、これについてもその効果発揮に十分な析出量を確保するに多量のNbが必要となる。加えてその析出物のサイズも大きい。
【0009】
上述したような従来の合金の場合は、その造塊・凝固時に晶出する炭、窒化物が粗大になり易く、これはエッチング面に突出するといった問題に繋がる。そこで本発明は、粗大になり易い炭、窒化物の晶出を抑えた手法にて高強度低熱膨張Fe−Ni系合金を達成し、そして、それら合金よりなるシャドウマスクを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明者らは、Fe−Ni系合金の高強度化の手法として、粗大となり易い晶出炭化物に依らない手法を検討した。その結果、固溶析出処理により超微細な析出調整が可能なニオブ窒化物を主に、窒化物、炭化物、炭窒化物といったニオブを含む微細なニオブ化合物を組織中に多数析出させることで結晶粒の微細化が達成でき、諸特性の劣化をきたさずに高強度化を達成するに有効な手段であることをつきとめた。つまり、固溶析出処理においてFe−Ni系合金中に完全固溶させることができる範囲内でのNb,C,N量調整を利用することで、少量のNb添加で、超微細なニオブ化合物を析出させる手法であり、粗大な炭、窒化物の晶出を抑えかつ、分散強化を主作用とする従来の方法にも依らないことから、多量のNb添加をも必要としない方法である。
【0011】
そして、優れた低熱膨張特性を達成するためにMnを低減する本発明のFe−Ni系合金は、Mnの低減によって熱間加工性の劣化が懸念されることから、それをMgの含有によって補償するものである。つまり、熱間加工性の劣化は合金中のSの粒界偏析によるところ、Nbの含有により結晶粒が微細化されている本発明のFe−Ni系合金はSが粒界に偏析しやすいことから、このMgの含有が極めて重要である。
【0012】
すなわち、本発明は、質量%にて、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Ni:35〜37%、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金である。
【0013】
あるいは、質量%にて、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Ni:28〜37%、Co:7%以下、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金である。
【0014】
好ましくは、組織断面に観察されるニオブと窒素を主体とする化合物および、ニオブと炭素を主体とする化合物の最大粒径が0.5μm未満であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金である。
【0015】
加えて、これら本発明の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金について、平均結晶粒径がJIS G 0551による粒度番号にて10以上の細粒のものである。また、その含有されるSiを0.03%未満、あるいはBを0.004%以下としてもよい。
【0016】
そして、これら本発明の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金よりなるシャドウマスクであって、高精細・高精度で加工形状の微細化が達成され、色純度に優れたブラウン管に対応できるものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の最大の特徴は、粗大な炭、窒化物の晶出を抑えかつ、分散強化を主作用とする従来の方法にも依らない手法にて、Fe−Ni系合金の高強度化を達成したところにある。そして、この達成手段にNb,C,N量の最適なバランス調整を利用するものであって、このようなFe−Ni系合金だからこそMgの含有を必要としたところにも特徴を有する。
【0018】
本発明者らは、粗大なニオブ炭化物の晶出によって懸念される上記の問題点を解決する手法を検討し、それが同じく分散強化を主作用に利用されていた従来からの窒化物、炭化物、炭窒化物といったニオブと窒素を主体とする化合物および、ニオブと炭素を主体とする化合物(以下、ニオブ化合物と総称する)の更なる調整にあることを見いだした。つまり、固溶析出処理により微細なニオブ化合物の析出が可能であり、固溶化処理で完全に固溶させることができる範囲で調整したNb,C,N量の効果に着眼したのである。
【0019】
そして、さらに優れた低熱膨張特性を達成するためにMnを低減しかつ、そのMnの低減によって劣化が懸念される熱間加工性をMgの添加によって補償するものである。つまり、熱間加工性の劣化が合金中のSの粒界偏析によるものであるところ、本発明のNbを含有するFe−Ni系合金にとってこそ、その熱間加工性の維持にMgの適量の含有が重要なのである。
【0020】
まず、本発明のFe−Ni系合金を構成する具体的組成について、その数値限定理由を述べる。
Niは、Fe−Ni(−Co)系合金の低熱膨張特性に大きな影響を及ぼす元素である。含有量が35%より少なく、または37%を越えるものでは熱膨張係数を低めるインバー効果が低下するため、Niの範囲は35〜57%とする。また、本発明のFe−Ni系合金はその更なる低熱膨張特性確保の点から、Niの一部をCoに置換あるいはCoを添加してもよい。具体的には、Ni:28〜37%、Co:7%以下を含有するFe−Ni系合金であり、好ましくは、Co:2〜6%を含有するFe−Ni系合金である。
【0021】
Nbは本発明の重要かつ必須の元素である。本発明においては、その極少量の添加でニオブ化合物、とりわけニオブ窒化物を超微細に分散析出させることが可能であり、結晶粒の微細化に効果がある。その結晶粒微細化に十分な添加量として0.005%を下限とする。一方、Nb量が0.1%を越えると粗大なニオブ窒化物を晶出しやすく、1350℃を超える均熱処理でも固溶し難くなるため、上限を0.1%に限定する。好ましくは、0.01〜0.05%である。
【0022】
Cも本発明の達成の上でその調整が重要な元素である。多すぎると粗大なニオブ炭化物を晶出し、結晶粒微細化に有効なニオブ窒化物が少なくなるため、0.01%未満とする。好ましくは、0.005%以下である。
【0023】
Nも本発明のNb、Cに合わせて本発明の重要な添加元素であり、超微細なニオブ化合物の析出の上で0.002%以上が必要である。ただし、多量に添加すると粗大なニオブ窒化物を晶出し易く、均熱処理の際の固溶温度も高くなるため、上限を0.02%に限定する。好ましくは、0.003〜0.01%である。
【0024】
そして、本発明にとってこそ重要なことは、必須元素であるNbとNの含有量の相互調整である。つまり、本発明の超微細なニオブ化合物を達成するのに、例えば900〜1350℃の均熱処理により一旦、ニオブ窒化物を固溶させる工程が有効であって、そのため本発明では[%Nb]・[%N]溶解度積を0.000013〜0.002に調整する必要がある。好ましくは、0.000013〜0.001である。
【0025】
窒化ニオブは、その溶解度積が小さいため、炭化ニオブに比べ極少量のNb添加でその窒化物が析出する。そこで本発明では、窒化ニオブの溶解度積が0.000013以上、0.002以下になるよう、NbとNの含有量を調整することで、900℃から1350℃、更には1300℃までの範囲の固溶化処理でも固溶が可能となり、その後に行われる析出処理、あるいは熱間加工後の制御冷却によって、微細に析出させることができる。
【0026】
超微細な析出物は結晶粒界のピンニング粒子として有効に働くことから、結晶粒の超微細化に作用し、その結果、素材の高強度化が達成できる。よって、本発明のFe−Ni系合金とすることで、その合金中に超微細なニオブ化合物、特に窒化ニオブを形成させれば、粗大な炭化物を利用せずとも高強度化が達成できるのである。
【0027】
また、本発明のFe−Ni系合金は、優れた低熱膨張特性を達成するため、従来に比べてMnを低減する。Fe−Ni系合金は36%Ni付近で室温の熱膨張係数が最小となるが、Mn量を下げることにより、さらに低熱膨張特性が得られる。よって、熱膨張係数を小さくするため、Mnは0.1%を上限とした。ただし、Mnは熱間加工性に有害なSを固定する作用があり、Mnを低減することで熱間加工性の低下が問題となる。そこで、本発明では熱間加工性を補償するためS量の低減と、そしてMgの添加を行なったところにも特徴がある。
【0028】
Mgはごく少量でSを固定し、熱間加工性を改善する効果を有するものであるが、Nbの含有により結晶粒が微細化されている本発明のFe−Ni系合金にとってこそ、このMgの含有は極めて重要である。つまり、Sによる熱間加工性の劣化はSの粒界偏析によるものであるところ、本発明の結晶粒が微細な合金の場合、粒界面積が大きくなっていることから粒界にSが偏析しやすくなっている。よって、本発明では熱間加工性を阻害するSを0.001%以下に規制すると共に、1ppm以上のMgを含有せしめることで、熱間加工性の十分な確保をするものである。なお、過多のMgは多量のMg系介在物を形成する要因となり、エッチング品位を悪くすることから、上限を50ppmとした。好ましくは2〜30ppmである。
【0029】
このように、本発明のNb,C,Nが所定量に調整されたFe−Ni系合金において、その更なる低熱膨張特性の達成の上でMnの低減を必須とすれば、結果としてSの低減のみでは熱間加工性の確保が難しい場合がある。そこで、本発明の適量のMgは、そのような時でも十分な熱間加工性の確保に有効であり、エッチング品位への悪影響も抑制できるものである。
【0030】
Siは、通常、製鋼過程での脱酸剤として合金中に存在するものであるが、多すぎると介在物を形成し、エッチングの時に使用するエッチング液のフィルタ目詰まりの原因となる。また熱膨張係数も劣化させるため、好ましくは0.03%未満とする。Bは、エッチング加工時のエッチング孔形状の改善、そして熱間加工性の更なる改善の効果があり、含有してもよい。望ましくは0.0001%以上であるが、多量のB含有はNとの結合によりニオブ窒化物の形成を阻害することから、好ましくは0.004%以下とする。
【0031】
加えて、本発明者らは、その結晶粒の微細化による高強度化を達成するのに有効なニオブ化合物のサイズについても検討した。本発明のFe−Ni系合金においては、その高強度化に効果を示す平均結晶粒径として、JIS G 0551による粒度番号が10以上の細粒であることが望ましい。この場合、Zenerの関係式(R=4/3・r/f2/3:マトリックス平均結晶粒径R、析出物の平均粒径r、析出物体積率f)から導かれる分散粒子径とマトリックスの平均結晶粒径の関係から検討すれば、組織断面に観察されるニオブ化合物の最大粒径を0.5μm未満とすることが望ましい。
【0032】
よって、本発明のFe−Ni系合金は、その組織断面に観察されるニオブ化合物の最大粒径を0.5μm未満とすることが好ましく、更には0.3μm以下である。なお、0.5μm未満の超微細なニオブ化合物は、本発明のFe−Ni系合金の組成条件に合わせて、例えばその製造工程における900〜1350℃の均熱固溶化処理と析出処理の条件を適宜調整することで、調整が可能である。
【0033】
また、組織断面に観察されるニオブ化合物の粒径測定法としては、例えばスピード法にて腐食した組織面を観察する方法が適用できる。図1は、スピード法にて腐食したFe−Ni系合金の組織面を16000倍の走査電子顕微鏡にて観察したものであり、最大粒径が0.06μmのニオブ化合物を示している。なお、ニオブと窒素を主体とする化合物、そしてニオブと炭素を主体とする化合物であることは、EDX(エネルギー分散X線分析計)による分析によりニオブと窒素あるいは炭素を主体に含む粒として確認が可能である。
【0034】
主に炭化ニオブといった晶出物による分散強化を利用した従来の技術の場合、先述したようにその十分な晶出量を確保するためのNbはおおむね0.1%を大きく超える添加量が必要であり、その晶出物の径は大きいものである。それに比して、超微細なニオブ化合物の固溶析出による結晶粒微細化を目的とする本発明は、その必要とするNb添加量は少量であることから、粗大なニオブ化合物、特にニオブ窒化物の晶出を抑制することができ、Nb自体の添加量も抑えることができる。
【0035】
【実施例】
(実施例1)
真空誘導溶解炉により、表1に示す各種成分に調整したFe−36%Niアンバー系合金の鋼塊を作製した。その後、1100℃に加熱して固溶化処理を行ない、続いて鍛造と熱間圧延を施して厚さ2.5mmの板材とした。なお、この熱間圧延後の板材の表面状態を観察したところ、No.6〜8のエッジ部には割れが認められた。次に、この板材に650〜750℃でのニオブ化合物の析出処理を行なった後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの冷間圧延材とし、この冷間圧延材を850℃で焼鈍して、供試材とした。
【0036】
そして、各供試材についての平均結晶粒径(JIS G 0551による結晶粒度番号)と、最大のニオブ化合物の粒径、0.2%耐力、熱膨張係数を測定した。なお、ニオブ化合物の粒径測定は、供試材をスピード法で腐食した組織面について、その総測定観察視野面積500μm2を走査電子顕微鏡にて観察することで行なった。また、0.2%耐力は20℃おいて、熱膨張係数は30〜100℃の範囲で測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明を満たすNo.1〜5は、ニオブ化合物の微細析出により微細な結晶粒が得られている。そして、Nbを添加しない通常のインバー合金材(No.7)に比べて結晶粒は小さく、耐力が高い。なお、ニオブ化合物は析出処理条件により調整が可能であって、例えば析出処理温度を高くすればニオブ化合物が凝集粗大化して、そのサイズも大きくなり、その結果、結晶粒も大きくなる。析出処理温度の高いNo.5は、最大のニオブ化合物は小さいが、結晶粒をピンニングするのに特に有効に作用する粒径50nm程度の粒子が少なく、平均粒径は大きめであることから、結晶粒はやや大きめである。そして、本発明を満たすNo.1〜5は、Mn量の低減により通常のインバー合金材(No.7)よりも低い熱膨張係数が得られている。
【0039】
一方、Nb量が多く、N量もやや多いNo.6は、0.2%耐力こそ向上しているものの、造塊時の冷却速度が遅い部分でやや大きなニオブ窒化物の晶出が見られるため、熱間加工性やエッチング性状が悪い。また、過多のNbを含有することから熱膨張係数もやや大きめの傾向にある。No.8はC量が多いため、熱膨張係数が大きい。
【0040】
(実施例2)
真空誘導溶解炉により、表2に示す各種成分に調整したFe−32%Ni−5%Coスーパーインバー系合金の鋼塊を作製した。その後、1100℃に加熱して固溶化処理を行ない、続いて鍛造と熱間圧延を施して厚さ2.5mmの板材とした。なお、この熱間圧延後の板材の表面状態を観察したところ、No.13,14のエッジ部には割れが認められた。次に、この板材に650℃でのニオブ化合物の析出処理を行なった後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚さ0.1mmの冷間圧延材とし、これに850℃の焼鈍を行なって供試材とした。そして、各供試材についての平均結晶粒径(JIS G 0551による結晶粒度番号)と、最大のニオブ化合物の粒径、0.2%耐力、熱膨張特性を測定した。測定要領は実施例1に従う。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明を満たすNo.9〜12は、ニオブ化合物の微細析出により微細な結晶粒が得られている。そして、Nb無添加材(No.14)に比べて、低熱膨張特性やその他の特性を損なうこと無く、耐力を向上させることができた。一方、Nb量の多いNo.13は、造塊時の冷却速度が遅い部分でやや大きなニオブ窒化物の晶出が見られるため、熱間加工性やエッチング性状が悪い。
【0043】
【発明の効果】
本発明であれば、高強度でかつ熱膨張係数が小さいFe−Ni系合金の提供が可能である。また、熱間加工性にも優れ、シャドウマスク材の用途においてはハンドリングが容易かつ、更なる薄板化も可能であることから、マスク原価の低減が図れ、フラット管用シャドウマスクの用途等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Fe−Ni系合金の組織面に観察されるニオブ化合物を示す金属ミクロ組織写真である。
Claims (7)
- 質量%にて、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Ni:35〜37%、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
- 質量%にて、Mn:0.1%以下、S:0.001%以下、Ni:28〜37%、Co:7%以下、Nb:0.005〜0.1%、C:0.01%未満、N:0.002〜0.02%、Mg:1〜50ppm、残部が実質的にFeからなり、0.000013≦[%Nb]・[%N]≦0.002であることを特徴とする高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
- 組織断面に観察されるニオブと窒素を主体とする化合物および、ニオブと炭素を主体とする化合物の最大粒径が0.5μm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
- 平均結晶粒径がJIS G 0551による粒度番号にて10以上の細粒であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
- 質量%にて、Si:0.03%未満であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
- 質量%にて、B:0.004%以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の高強度低熱膨張Fe−Ni系合金。
- 請求項1ないし6のいずれかに記載のFe−Ni系合金よりなることを特徴とするシャドウマスク。
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