JP2004208637A - 有機溶媒耐性シクロデキストリン合成酵素 - Google Patents

有機溶媒耐性シクロデキストリン合成酵素 Download PDF

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力三 青野
Noriyuki Michihisa
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Abstract

【課題】有機溶媒耐性のシクロデキストリン合成酵素を生産する微生物を自然界から分離し、これを提供する。
【解決手段】下記の性質を有するシクロデキストリン合成酵素を生産する菌株。
(1)分子量が約70,000である(SDS−PAGEによる)。
(2)デンプンをシクロデキストリンに変換し、主要変換物はβ−シクロデキストリンである。
(3)メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、−キシレン、シクロヘキサン、及びヘキサン存在下において安定で、かつ顕著な活性の低下が認められない。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機溶媒に対し耐性を持つシクロデキストリン合成酵素(シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、cyclodextrin glucanotransferase、以下「CGTase」という)、及びこの酵素を生産する微生物、並びにこの微生物を用いた前記酵素の生産方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
CGTaseはデンプンから分子内糖転移反応によりシクロデキストリンを生産する酵素である。シクロデキストリンは、6, 7, 8個のグルコースがα−1−4結合した環状構造をしている (α−,β−,γ−シクロデキストリン)。シクロデキストリンは、その環状構造内へ様々な化合物を取り込むことにより、包接化合物を形成するため、食品、医薬、農業、化粧品、香料生産などの分野で利用されている(Szejtli, J. 1992. Carbohydr. Polym. 12:375−392.)。
【0003】
反応液中に有機溶媒を添加することによりCGTaseの生産物選択性 (α−,β−,γ−シクロデキストリンの割合)を改良する試みがなされている(Blackwood, A. D., and C. Bucke. 2000. Enzyme Microb Technol 27:704−708.、Mori, S., M. Goto, T. Mase, A. Matsuura, T. Oya, and S. Kitahata. 1995. Biosci Biotech Biochem 59:1012−1015.)。バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans) strain 251株由来のCGTaseは、有機溶媒を添加しない条件では、15:65:20 (α−:β−:γ−シクロデキストリン)の割合でシクロデキストリンを生産したが、ブタノールを添加することにより、9:82:9 (α−:β−:γ−シクロデキストリン)の割合でシクロデキストリンを生産した(Blackwood, A. D., and C. Bucke. 2000. Enzyme Microb Technol 27:704−708.)。また、有機溶媒を添加することによりシクロデキストリン生産の総収量が増加することが報告されている。バチルス(Bacillus) sp. BE101 株由来のCGTaseはエタノールを添加することにより、エタノールを添加しない場合に比べて約2倍のシクロデキストリンを生産した(非特許文献1参照)。また、その他にも、有機溶媒存在下における難水溶性のフラボノイドの糖転移反応にCGTaseは利用されている(Suzuki, Y., and K. Suzuki. 1991. Agric. Biol. Chem. 55:181−187.)。しかし、多くの場合、有機溶媒存在下において酵素は不安定であり、用いる有機溶媒によっては失活することが知られている(Antonini, E., G. Carrea, and P. Cremonesi. 1981. Enzyme Microb. Technol. 3:291−296.、Carrea, G. 1984. Trends Biotechnol. 2:102−106.)。有機溶媒存在下において高い安定性と活性を示す酵素は有機溶媒存在下における酵素応用に有用である。有機溶媒耐性微生物は有機溶媒存在下において菌体外酵素を生産するため有機溶媒耐性酵素の検索に用いることができる。これまでに、シクロヘキサン耐性微生物から有機溶媒耐性リパーゼが検索されている(Ogino,H., K. Miyamoto, and H. Ishikawa. 1994. Appl. Environ. Microbiol. 58:145−146.)。また、本発明者は、シクロヘキサン耐性微生物であるバークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia) strain ST−200株が生産する有機溶媒耐性、界面活性剤耐性、熱耐性のコレステロールオキシダーゼを報告している(Doukyu, N., and R. Aono. 2001. Appl. Microbiol. Biotechnol. 57:146−152.)。
【0004】
【非特許文献1】
Lee, Y. D., and H. S. Kim. 1991. Enzyme Microb Technol 13:499−503.
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
有機溶媒存在下におけるCGTaseによるシクロデキストリンの生産量の向上や生産物選択性を改良する試みが報告されている(Blackwood, A. D., and C. Bucke. 2000. Enzyme Microb Technol 27:704−708.、非特許文献1、Mori, S., M. Goto, T. Mase, A. Matsuura, T. Oya, and S. Kitahata. 1995. Biosci BiotechBiochem 59:1012−1015.)。しかし、これらの研究には主に市販の酵素が用いられており、酵素を生産する微生物に着目し、有機溶媒耐性のCGTaseを生産する微生物を検索した報告例はこれまでになかった。
【0006】
本発明は、このような技術的背景の下になされたものであり、有機溶媒耐性のCGTaseを生産する微生物を自然界から分離し、これを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、関東各地から採取した土壌試料から分離された菌株が、有機溶媒存在下で安定でかつ高い活性を示すCGTaseを生産することを見出し、この知見から本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の性質を有するCGTaseである。
(1)分子量が約70,000である(SDS−PAGEによる)。
(2)デンプンをシクロデキストリンに変換し、主要変換物はβ−シクロデキストリンである。
(3)メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、−キシレン、シクロヘキサン、及びヘキサン存在下において安定で、かつ顕著な活性の低下が認められない。
【0009】
また、本発明は、有機溶媒耐性CGTaseを生産するパエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株、及びその変異株である。
【0010】
更に、本発明は、上記菌株を培地中で培養し、その培養物から上記CGTaseを採取することを特徴とする上記CGTaseの生産方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のCGTaseは、少なくとも、下記の(1)〜(3)の性質を有する。
(1)分子量が約70,000である(SDS−PAGEによる)。
(2)デンプンをシクロデキストリンに変換し、主要変換物はβ−シクロデキストリンである。
(3)メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、−キシレン、シクロヘキサン、及びヘキサン存在下において安定で、かつ顕著な活性の低下が認められない。
【0013】
また、好ましくは、本発明のCGTaseは、下記の(4)〜(8)の性質を有する。
(4)pH5.0〜9.0の範囲で活性が認められる。
(5)pH6〜10の範囲で安定である。
(6)4〜45℃の範囲で安定である(pH7.0、CaCl非存在下)。
(7)至適温度は60℃付近である(pH7.0、CaCl非存在下)。
(8)エタノールの添加により、シクロデキストリンの総生産量及びβ−シクロデキストリンの占める割合が増大する。
【0014】
上述した性質の中で、「分子量は約70,000」とは、通常、分子量が66,000〜97,000、好ましくは68,000〜74,000の範囲であることを指す。また、「安定」とは、活性が保持されていることをいい、処理前の活性に比べ、通常、70%以上、好ましくは、80%以上の活性が保持されていることをいう。「顕著な活性の低下が認められない」とは、有機溶媒の非存在下における活性に比べ、通常、70%以上、好ましくは、80%以上の活性が保持されていることをいう。「活性が認められる」とは、最も高い活性値に比べ、通常、70%以上、好ましくは80%以上の活性が認められることをいう。「至適温度は60℃付近」とは、酵素の至適温度が、通常、50〜70℃、好ましくは55〜65℃の範囲であることを指す。
【0015】
本発明のCGTaseは、後述するパエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株などを培地中で培養し、その培養物からCGTaseを採取することにより得ることができる。培養物から本発明のCGTaseを採取する方法は、常法に従い、硫安塩析、クロマトグラフィーなどを使って行うことができる。
【0016】
パエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株は、土壌中から分離された菌株で、その菌学的性質は実施例2に示すとおりであり、また、16SrDNAの塩基配列は、配列番号1に示すとおりである。この菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−19177として寄託されている(受託日:平成14年12月26日)。
【0017】
パエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株の代わりに、この菌株の変異株を用いることもできる。ここでいう「変異株」とは、パエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株に変異を加えた菌株のほか、自然界に存在するパエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株と近縁な菌株をいう。有機溶媒耐性CGTaseを生産する菌株であって、実施例2に示したパエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株の菌学的性質と同一の性質を示す菌株、あるいは16SrDNAの塩基配列においてパエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株と高い相同性(全く同一であるか、又は数個程度の違いしかない)を示す菌株は、少なくとも前記した「変異株」に含まれる。
【0018】
【実施例】
最初に本実施例において使用した実験材料及び方法について説明する。
培地の組成
スクリーニング用培地:1% 馬鈴薯デンプン ( 和光純薬 )、1% Bacto Tryptone (Difco社製), 0.5% Bacto Yeast Extract (Difco), 1% NaCl , 10 mM MgSO4, 1.5 % 寒天末
LBMg培地:1% Bacto Tryptone, 0.5% Bacto Yeast Extract, 1% NaCl
【0019】
ヘキサン重層下において CGTase を生産する微生物の分離
関東各地から収集した土壌試料を生理食塩水に懸濁し、スクリーニング用寒天培地に塗布した。この寒天培地にヘキサンを重層し30℃で4日間培養した。培養後ヘキサンを除きヨウ素溶液を注いだ。ヨウ素−デンプン反応により、コロニーの周りにハローを形成した微生物を分離した。続いて、単離した菌株を0.2% 可溶性デンプンを含むLBMg液体培地で30℃、120 rpm、48時間培養した。培養後、培養液を遠心 (6,000 x g, 15 min, 4°C) し上清を回収した。上清中の活性を以下に示す2つの方法(ヨウ素法とDNS法)で測定した。また、デンプン分解産物を以下に説明したTLC分析によって調べた。その結果、デンプンからシクロデキストリンを生産する微生物を選択した。有機溶媒耐性CGTaseを選択するために有機溶媒存在下における安定性を調べた。終濃度20%になるようクロロホルムまたはエタノールを酵素溶液に加え30℃で12時間保温した。100 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 7.0)を用いて4倍に酵素液を希釈し残存活性をヨウ素法で測定した。40℃または50℃における残存活性をヨウ素法で測定することにより、酵素の耐熱性も同時に調べた。
【0020】
アミロース ヨウ素複合体の減少によるデンプン分解活性測定法 ヨウ素法
0.5% デンプン溶液 (100 mMリン酸緩衝液 [pH 7]、0.5% デンプン)300μlに酵素液20μlを加え30℃で10分間反応させた。この反応液に5M 酢酸液0.5ml加えることで反応を停止した後、0.02% I2−0.2% KI 液0.5 mlを加えた。蒸留水3 mlを加え、660 nmにおける吸光度を測定した。この方法において1分間に10%の吸光度を減少させる酵素を1Uとした。
【0021】
還元末端の増加によるデンプン分解活性測定法 (DNS
3,5−ジニトロサリチル酸 (DNS)を用いて還元糖の増加を測定し、デンプン分解活性を求めた。ヨウ素法と同じ反応液を用いて測定した(Miller, G. L. 1959. Anal. Chem. 31:426−428.)。この方法において1分間にグルコース1μmol相当の還元末端を生成する酵素を1Uとした。
【0022】
ST−12K 株からの CGTase の精製
0.2% 可溶性デンプンを含むLBMg液体培地800mlにST−12K株を植菌し、30℃、120 rpmで14時間培養した。遠心分離 (6,000×g、15分、4℃) により、培養上清を回収した。この培養上清に硫酸アンモニウムを70% 飽和量加え、4℃で一晩静置した。沈殿画分を遠心分離 (15,000×g、25分、4℃) により回収した後、10 mM Tris−HCl (pH 8)緩衝液を用いて懸濁し、同緩衝液で透析した。続いて、10 mM Tris−HCl (pH 8)で平衡化したDE53カラムに透析後のサンプルをアプライした。カラムを同緩衝液で洗浄した後、0から50 mM NaCl濃度勾配をかけ吸着タンパク質を溶出し、活性の認められた画分を回収した。30%飽和硫酸アンモニウム−10mM Tris−HCl (pH 8)で平衡化したブチルトヨパール650MカラムにDE53溶出画分をアプライした。硫酸アンモニウム濃度を下げることにより吸着タンパク質を溶出し、活性の認められた画分を回収した。10mM Tris−HCl(pH8)を用いて透析し精製標品とした。
【0023】
タンパク質濃度の測定
ブラッドフォード法によりタンパク質濃度を測定した(Laemmli, U. K. 1970.Nature 224:680−685.)。
【0024】
活性染色
SDS−PAGEは Laemmli の方法を改変し、10% (wt/vol) ポリアクリルアミドゲルに1% (wt/vol) 可溶性デンプンを加えた。泳動後ゲルを100 mM Tris−HCl 緩衝液−25% (vol/vol) イソプロパノール混合液で洗浄した。さらに、100 mM Tris−HCl緩衝液 (pH 8.0)に浸して平衡化後、30℃で12時間保温した。ゲルをヨウ素溶液に浸けることにより、ハローを検出した。
【0025】
薄層クロマトグラフィー (TLC)
0.5% 可溶性デンプンに酵素液を加え反応後、反応液1 μlをシリカゲルプレート(0.2−mm thick silica gel 60, Merck, Germany)にスポットした。酢酸:酢酸エチル:水 (2:2:1) の展開溶媒により上昇法により室温で展開した。グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、α−,β−,γ−シクロデキストリンを標品として用いた。展開後、オルシノール−50%硫酸溶液をプレート全体に均一に噴霧し、120℃で10分間加熱した。メタノールに1% ヨウ素を溶解した溶液を噴霧してシクロデキストリンを検出した。
【0026】
酵素活性と安定性に対する pH の影響
酵素活性に対する反応 pH の影響を調べために、様々なpH下における酵素活性をヨウ素法により測定した。100 mM濃度の citric acid−NaHPO緩衝液 (pH 3.0−5.5)、 CHCOOH−CHCOONa緩衝液 (pH 4.0−5.5) 、KHPO−NaHPO緩衝液 (pH 5.5−7.5) 、Tris−HCl緩衝液 (pH 7.5−9.0) 、NaCO−NaHCO緩衝液 (pH 9.0−11.0) 、NaCl−NaOH緩衝液 (pH 11.0−13.0)緩衝液を用いてpHを調整した。pH安定性は各pHで30℃、1時間保温し100 mMリン酸緩衝液 (pH 7) を用いて希釈後、ヨウ素法により活性測定を行った。
【0027】
シクロデキストリン量の測定
NH−1251−N (センシュー科学) カラムを用いてHPLC分析を行った。アセトニトリル:水 (6:4,vol/vol) の溶媒を用いて流速0.5ml/minで溶出し、示差屈折器(RID−300, 日本分光)により糖の検出を行った。
【0028】
市販 CGTase の購入
バチルス・マセランス由来のCGTaseは、天野エンザイム(Nagoya, Japan)から購入した。
【0029】
〔実施例1〕 有機溶媒耐性CGTaseを生産する微生物の分離
まず最初にヘキサンを重層した寒天培地上でデンプンを分解する酵素を生産する微生物を検索した。約400の土壌試料から、425株のデンプン分解菌を単離した。ヨウ素法により酵素活性を測定した結果、425株のうち38株の培養上清中にデンプン分解活性が認められた。また、培養上清中の酵素活性をDNS法により測定した結果、38株のうち12株において培養上清中にDNS法によるデンプン分解活性が認められなかった。これら12株による生産物を、薄層クロマトグラフィーにより調べた結果、シクロデキストリンが主要生産物として生産されていることが分かった。これら12株のうち、ST−12K株の生産するCGTaseは最も高い熱安定性を示した。また、ST−12K株由来の酵素は、他の11株の生産する酵素に比べて、エタノールやクロロホルム存在下においてより高い安定性を示した。そこで、ST−12K株由来の有機溶媒耐性CGTaseを解析することにした。
【0030】
〔実施例2〕 ST−12K株の同定
ST−12K株の16SrDNAの部分塩基配列 (1480 bp、配列番号1に示す。)を決定した結果、パエニバチルス・イリノイセンシス(Paenibacillus illinoisensis)と99%、パエニバチルス・アミロリティカス(Paenibacillus amylolyticus)と96%、パエニバチルス・ボレアリス(Paenibacillus borealis)と94%の相同性を示した(Lane, D. J., B. Pace, G. J. Olsen, D. A. Stahl, M. L. Sogin, andN. R. Pace. 1985. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82:6955−6959.)。ST−12K株の分類学的諸性質を、既報のパエニバチルス属細菌の同定試験に基づき調べた(Shida, O., H. Takagi, K. Kadowaki, L. K. Nalamura, and K. Komagata. 1997. Int. J. Sys. Bacteriol. 47:299−306.)。この結果、本菌は、幅0.8 から 1.0 μm、長さ3.0 から4.0 μmのグラム陽性のかん菌であった。また、本菌は、運動性があり、胞子を形成した。コロニーの形状を観察した結果、扁平状に隆起したコロニーが認められ、コロニー周辺は全縁状、表面は平滑であり、黄色みがかった灰色であった。色素の生産は認められなかった。カタラーゼ活性は陽性であり、オキシダーゼ活性は陰性であった。ゼラチンの分解活性は陽性であった。カゼインの分解活性も弱いが認められた。単一炭素源として酢酸は利用できるが、クエン酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、グルタミン酸の資化能は認められなかった。ST−12K株は40℃、pH 5.7、2% NaCl存在下において生育した。L−アラビノース、グリセロール、D−マンノース、ラフィノースから酸の生成が認められたが、ラクトース、L−ラムノースからは酸の生成は認められなかった。これらの微生物学的性質は、パエニバチルス・イリノイセンシスの性質と一致していた。
【0031】
ST−12K株の有機溶媒存在下における生育を調べた結果、10%(vol/vol)のドデカン(log ow 7.0), デカン (log ow 6.0), ノナン (log ow 5.5), オクタン (log ow 4.9) ジフェニルエーテル (log ow4.2)存在下ではST−12K株の生育が認められた。一方、シクロヘキサン (log ow 3.4) または −キシレン (log ow 3.1) 存在下では生育は認められなかった。
【0032】
〔実施例3〕 ST−12K株由来のCGTaseの精製
ST−12K株の培養上清から、DEAE−Cellulose を用いたイオン交換クロマトグラフィーおよびButyl−Toyopearl を用いた疎水クロマトグラフィーにより、CGTaseを精製した (表1)。
【0033】
【表1】
Figure 2004208637
【0034】
本酵素は、DEAE−Cellulose DE52 カラム に吸着し、塩化ナトリウム濃度が15 mMのときに溶出した。また、Butyl Toyopearl 650M カラム に吸着し、飽和硫安濃度 10% から 0% にかけて溶出した。この結果、SDS−PAGE で単一なバンドを示すCGTase精製標品を取得することができた。比活性は、1,200 U/mg であった。ST−12K株由来のCGTaseの分子量は、おおよそ 70,000 であった。
【0035】
図1に各精製画分のSDS−PAGEの結果を示す。図中のAはCoomassie brilliant blue (CBB)で染色しており、Bは2%ヨウ素−2%ヨウ化カリウム溶液で染色している。また、レーン1、2、3は、それぞれ70%飽和硫安沈殿画分、DE53カラム溶出画分、ブチルトヨパール650Mカラム溶出画分を試料(1UのCGTaseに相当する量)としており、レーンMは分子量マーカーを泳動させている。
【0036】
〔実施例4〕 ST−12K株由来のCGTaseの活性、安定性に対するpH、温度の影響
精製した酵素標品を用いて、CGTaseの活性、安定性に対するpH、温度の影響を調べた。
【0037】
図2Aに、様々な温度における酵素活性をヨウ素法により測定した結果を示す。また、図2Bに、100 mM リン酸緩衝液 (pH 7.0) 中、様々な温度で30分間保温した後の残存活性をヨウ素法により測定した結果を示す。図中の(○)はCaCl無添加での測定値、(●)は 5 mM CaCl存在下での測定値を示す。これらの図に示すように、本酵素の至適温度(pH 7.0)は60℃で、4℃から45℃までの温度範囲で安定であった。5 mM CaClを添加することにより、至適温度は65℃となった。また、5 mM CaCl存在下では60℃および70℃においても85%および40%の活性を維持しており、温度安定性の向上が認められた。
【0038】
一方pHに関して、本酵素は、pH 5.0から9.0までのpH範囲で活性が認められ、特にpH 5.0から8.0の範囲で高い活性を示した。30℃で1時間処理することにより、pH安定性を調べた結果、pH 6から10までの範囲で本酵素は安定であった。
【0039】
〔実施例5〕 ST−12K株由来のCGTaseによるシクロデキストリンの生産
1% (wt/vol) 可溶性デンプン溶液を用いてST−12K株由来のCGTaseによるシクロデキストリンの生成をHPLCにより調べた。実験は、エタノールを含まない反応液〔1% 可溶性デンプン−100 mM リン酸緩衝液 (pH 7.0)から成る反応液 300μl〕とエタノールを含む反応液〔1% 可溶性デンプン−100 mM リン酸緩衝液 (pH 7.0)−10%(vol/vol) エタノールから成る反応液300μl〕の2種類を調製し、これに酵素溶液 (20 U/ml) 30μlを添加して、30℃で保温して行った。エタノール不在下及び存在下で変換されたデンプンの割合をそれぞれ図3A及び図3Bに示す。図中の(○)はα−シクロデキストリン、(●)はβ−シクロデキストリン、(▲)はγ−シクロデキストリン、(□)はシクロデキストリン総量をそれぞれ示す。
【0040】
これらの図に示すように、いずれの条件でも主要変換物としてβ−シクロデキストリンが生成した。エタノール不在下においては、24時間後、シクロデキストリンの総生産量は3.26 mg/ml(初期添加デンプン量の33%)であった。このときのα−,β−,γ−シクロデキストリンの割合は、24:69:7であった。また、10% (vol/vol) エタノールを添加することにより、シクロデキストリンの生産量は4.52 mg/ml (初期添加デンプン量の45%)にまで向上した。このときのα−,β−,γ−シクロデキストリンの割合は、12:82:6であった。
【0041】
シクロデキストリンの生産量と産物の選択性に対するエタノール濃度の影響を調べた。即ち0〜50%エタノールを含む反応液〔1% 可溶性デンプン−100 mM リン酸緩衝液 (pH 7.0)−0%から50%(vol/vol) エタノールから成る反応液300μl〕に酵素溶液(20 U/ml)30μlを添加して、30℃で保温し、その後、生成するα−,β−,γ−シクロデキストリンの量を調べた。この結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
Figure 2004208637
【0043】
エタノール濃度が10%および20%のときに、シクロデキストリンの生産量は、初期添加デンプン量に対して、45%および46%となり、その他のエタノール濃度に比べて高い生産量であった。β−シクロデキストリンの選択性は10% エタノール存在下の場合に、82%となり、最も高かった。
【0044】
〔実施例6〕 ST−12K株由来のCGTaseの活性、安定性に対する有機溶媒の影響
ST−12K株由来のCGTase及び市販のバチルス・マセランス(Bacillus macerans)由来のCGTaseの安定性に対する有機溶媒の影響を調べた。
【0045】
各有機溶媒 (75μl) を CGTase溶液 (0.2 U/ml in 100 mM sodium phosphate [pH 7.0] ) 300μlに添加し、30℃で12時間反応させた後、溶液をリン酸ナトリウム緩衝液を用いて4倍希釈して、ヨウ素法により活性を測定した。この結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
Figure 2004208637
【0047】
バチルス・マセランス由来のCGTaseは、これまでに非常によく研究されているCGTaseの一つである(Tonkova, A. 1998. Enzyme Microbiol Technol 22:678−686.)。log ow 値が2以下の高い極性の有機溶媒が酵素を失活させることが知られている(Laane, C., S. Boeren, K. Vos, and C. Veegar. 1987. Biotechnol.Bioeng. 30:81−87.)が、ST−12K株由来およびバチルス・マセランス由来のCGTaseは、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、−キシレン、シクロヘキサン、ヘキサンなど様々な有機溶媒存在下において安定であった。しかし、クロロホルム存在下 (30℃、12時間後) では、溶媒無添加の活性を100%とした場合、25%から50%程度活性の低下が認められた。
【0048】
続いて、有機溶媒存在下における活性を調べた。
【0049】
各有機溶媒 (75μl) を 0.5% 可溶性デンプンを含むCGTase溶液 (0.2 U/ml in100 mM sodium phosphate [pH 7.0] ) 300μlに添加し、ヨウ素法により活性を測定した。この結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
Figure 2004208637
【0051】
バチルス・マセランス由来のCGTaseは、メタノール、エタノール、2−プロパノール、クロロホルム存在下では、15%から65%まで活性が低下していた。一方、ST−12K株由来のCGTaseを用いた場合には、これらの溶媒存在下においても顕著な活性の低下は認められなかった。
【0052】
【発明の効果】
本発明により、酵素活性を低下させることなく、有機溶媒存在下でシクロデキストリン合成酵素反応を行うことができるようになる。これにより、シクロデキストリンの生産量の増大やシクロデキストリンの選択性の改良を図ることができる。
【0053】
【配列表】
Figure 2004208637
Figure 2004208637

【図面の簡単な説明】
【図1】CGTaseの精製画分を試料としたSDS−PAGEの結果を示す図。
【図2】CGTaseの活性及び安定性と温度との関係を示す図。
【図3】CGTaseによる各種シクロデキストリンの生成量を示す図。

Claims (4)

  1. 下記の性質を有するシクロデキストリン合成酵素。
    (1)分子量が約70,000である(SDS−PAGEによる)。
    (2)デンプンをシクロデキストリンに変換し、主要変換物はβ−シクロデキストリンである。
    (3)メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、−キシレン、シクロヘキサン、及びヘキサン存在下において安定で、かつ顕著な活性の低下が認められない。
  2. 下記の性質を有するシクロデキストリン合成酵素。
    (1)分子量が約70,000である(SDS−PAGEによる)。
    (2)デンプンをシクロデキストリンに変換し、主要変換物はβ−シクロデキストリンである。
    (3)メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、−キシレン、シクロヘキサン、及びヘキサン存在下において安定で、かつ顕著な活性の低下が認められない。
    (4)pH5.0〜9.0の範囲で活性が認められる。
    (5)pH6〜10の範囲で安定である。
    (6)4〜45℃の範囲で安定である(pH7.0、CaCl非存在下)。
    (7)至適温度は60℃付近である(pH7.0、CaCl非存在下)。
    (8)エタノールの添加により、シクロデキストリンの総生産量及びβ−シクロデキストリンの占める割合が増大する。
  3. 有機溶媒耐性シクロデキストリン合成酵素を生産するパエニバチルス・イリノイセンシスST−12K株、及びその変異株。
  4. 請求項3記載の菌株を培地中で培養し、その培養物から請求項1又は2記載のシクロデキストリン合成酵素を採取することを特徴とする請求項1又は2記載シクロデキストリン合成酵素の生産方法。
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