JP2004204904A - ブレーキライニング - Google Patents
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Abstract
【課題】μ―V負勾配が制動開始速度において大きく、停止間際において小さくなるアブレッシブを選択したブレーキライニングを提供するものである。
【解決手段】摩擦調整剤、繊維基材及び結合剤を含む自動車のブレーキ用キャリパーブレーキのライニングにおいて、摩擦調整剤の一部に下式を満たす層状構造アブレッシブを用い、かつ層状構造アブレッシブAL及び粒状アブレッシブAPを合計で5体積%以上含有してなるブレーキライニング。
制動開始時
d(v) > f(v)
Δf(v) / Δv < Δd(v) / Δv
摺動速度2.5m/sec付近で
d(v) = f(v)
速度2.5m/sec付近以下で
d(v) < f(v)
f(v):アブレッシブによる引っ掻き抵抗
d(v):アブレッシブ自体のせん断抵抗
v :速度
【選択図】 なし
【解決手段】摩擦調整剤、繊維基材及び結合剤を含む自動車のブレーキ用キャリパーブレーキのライニングにおいて、摩擦調整剤の一部に下式を満たす層状構造アブレッシブを用い、かつ層状構造アブレッシブAL及び粒状アブレッシブAPを合計で5体積%以上含有してなるブレーキライニング。
制動開始時
d(v) > f(v)
Δf(v) / Δv < Δd(v) / Δv
摺動速度2.5m/sec付近で
d(v) = f(v)
速度2.5m/sec付近以下で
d(v) < f(v)
f(v):アブレッシブによる引っ掻き抵抗
d(v):アブレッシブ自体のせん断抵抗
v :速度
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のブレーキに使用される非石綿系ブレーキライニングに関する。特に、フェノールレジンマトリックスのブレーキパッド摩擦材に摩擦係数の正の速度依存性を持たせたアブレッシブを入れることにより、速度-摩擦係数特性(以下μ−V特性とする)をコントロールして、ドライバーのより高い安心感を得られるようなブレーキの効きの上昇があり、かつ鳴きやブレーキ異音の発生し難いブレーキライニングに関する。
【0002】
【従来の技術】
ブレーキの機能は、ブレーキロータとブレーキライニングの接触で摩擦を発生させ、自動車の運動エネルギーを 熱に変換するものである. ドライバーがブレーキペダルを踏んでブレーキコントロールする時、より意のままに操れるようにするには、ブレーキ踏力が軽く、ペダルストロークも短くすることが望まれる。ブレーキ踏力をより軽くするためには、ブレーキライニングの摩擦係数を高める必要がある。
【0003】
制動時に発生する鳴き(1〜十数KHzのスキール音)や異音(約50〜300Hzのグローン音)は、ドライバーに不快感を与える場合がある。鳴き、異音は摩擦による自励振動が音として伝達したものであり、摩擦係数(μ)が高いと発生しやすく、摩擦係数の速度に対する低下量(μ−V負勾配)が大きいと車両の停止寸前等に発生し易い。
【0004】
ジャダーはブレーキロータの部分的な摩耗で生じる強制振動がハンドルやフロアを振動させるものであるが、これもドライバー不快感を与える。ブレーキロータの部分的な摩耗は、μを高めた場合大きくなり易い。
【0005】
乗用車に用いられるブレーキライニングには、例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1等に示されるように、金属繊維、無機繊維や有機繊維等の繊維基材とフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする結合剤と、さらに黒鉛、三硫化アンチモン等の潤滑剤、鉄、銅、黄銅等の金属粉、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填剤、カシューダスト、NBR、SBR等の摩擦調整剤およびアブレッシブ等が含まれている。ブレーキライニングは、これらの混合物を加熱加圧成形することで得られる。
【0006】
【特許文献1】
特開昭49−21544号公報(第1−2頁)
【特許文献2】
特開平2−132175号公報(第1−3頁)
【非特許文献1】
潤滑第19巻9号(1974年)(第626頁)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ブレーキライニングのμ上昇手段として、アルミナ、シリカ、マイカ等のアブレッシブを配合する。この成分は制動時に相手材であるブレーキロータを通常はミクロンオーダーで引っ掻くことにより、摩擦係数を上昇させる効果をもつ。
【0008】
アブレッシブはブレーキロータ金属表面を引っ掻く時の抵抗が摩擦力となる。金属のこの引っ掻き抵抗は速度が速くなるにつれて下降する。これをμ−V特性であらわすと図1に示すようなμ−V負勾配を持った特性となる。また摩擦材に一定の面圧を与え、ある速度V0から減速をした場合の摩擦係数-時間(s)特性(以下μ−Tとする)で表すと図2のようになる。すなわち、図1は摺動速度と摩擦係数との関係を示し、フェノールマトリックスに3重量%のアルミナを入れた単純組成で摩擦特性を計測した。
【0009】
なお、図1は初速6(m/sec)、0.3Gで減速した場合のμ−V特性を示す。
タイヤ径:600mm、ブレーキロータ有効径:250mmで減速Gは換算した。
約、2.5m/secは車両速度では20km/hに相当する。
μ−V勾配が図1のように負であると自励振動を起励力とする異音が発生し易くなる。
【0010】
図2は、摩擦係数(μ)の時間変化を示し、図1のμ−Vを制動時間とμ−Sの関係に書き直したものである。
このような摩擦特性のブレーキライニングを用いたとき、ブレーキ踏力に対し期待以上に制動力が増加するので、ドライバーは安心感を得る。しかしながら、従来品は制動力、安心感に直接関係しない速度以下になってもこの上昇傾向が続くため、μ−V負勾配が過度に大きくなり、異音や鳴きが発生しやすくなる特徴をもっていた。
【0011】
本発明は、μ−V負勾配が制動開始速度において大きく(摩擦係数の上昇があり)、停止間際(Vh=2.5m/sec以下)において小さく(摩擦係数の上昇が小さい)なるアブレッシブを選択したブレーキライニングを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、摩擦調整剤、繊維基材及び結合剤を含む自動車用キャリパーブレーキのライニングにおいて、摩擦調整剤の一部に下式を満たす層状構造アブレッシブを用い、かつ層状構造アブレッシブAL及び粒状アブレッシブAPを合計で5体積%以上含有してなるブレーキライニングに関する。
【0013】
制動開始時
d(v) > f(v)
Δf(v) / Δv < Δd(v) / Δv
摺動速度2.5m/sec付近で
d(v) = f(v)
速度2.5m/sec付近以下で
d(v) < f(v)
f(v) :アブレッシブによる引っ掻き抵抗
d(v) :アブレッシブ自体のせん断抵抗
v :速度
また、本発明は、層状構造アブレッシブALと粒状アブレッシブAPとの重量比AL/APが10以上である前記のブレーキライニングに関する。
【0014】
また、本発明は、層状構造アブレッシブALが、へき開性を示す白雲母、金雲母からなる群から選ばれる1種以上である前記のブレーキライニングに関する。
さらに、本発明は、粒状アブレッシブAPが、粒度10μm以下であるアルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素からなる群から選ばれる1種以上である前記のブレーキライニングに関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
一般に用いられるアルミナ(Al2O3)のような粒状アブレッシブを用いた場合、
f(v) < < d(v)
であり、摩擦力Tはアブレッシブ自体のせん断抵抗dの影響を受けないため、
T= f(v)
しかし、層状構造のアブレッシブでは
f(v) > d(v)
となるものがある。このようなアブレッシブによる摩擦力Tは
T= d(v) (f(v) > d(v))
金属を相手材とする場合、速度が遅いほど引っ掻き力は大きくなるので、
Δf(v) / Δv < 0
となる。すなわち、摩擦力Tはf(v)とd(v)の値の低い方の値となり、層状構造のアブレッシブ自体のせん断強さd(v)と引っ掻き抵抗f(v)を模式的に表すと図3に示すようになる。
【0016】
制動初速度Vsでd(v) > f(v) で制動を開始し、摩擦係数上昇を止めたい速度Vhで、d(v) < f(v)となるようなせん断力特性d(v)を持たせれば、制動時の摩擦力上昇はコントロール可能となり、つまり、
V = Vs のときd(v) > f(v) であり、
制動中は
Δf(v) / Δv > Δd(v) / Δv
で,摩擦係数上昇を止めたい速度Vhで
d(v) = f(v)
になるようにすれば良い。
摺動速度Vhは2.5m/sec付近が効きフィーリングと異音発生抑制の観点から最適である。
【0017】
本発明に用いられるブレーキライニングの繊維基材としては、アラミド繊維、アクリル繊維、フェノール繊維等の有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維等の無機繊維、スチール繊維、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等の金属繊維の1種又は2種以上併用したものを用いることができる。繊維基材の含有量は、ブレーキライニング全体積に対して15〜40体積%とすることが好ましく、20〜35体積%とすることがさらに好ましい。繊維基材が15体積%未満であるとブレーキライニングの補強成分が少なく、また、40体積%を超えると繊維基材がスプリングバックしていずれの場合にも製造性が低下し易くなる傾向がある。
【0018】
結合剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限はないが、例えば、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂等を単独または併用して用いることができる。結合剤の含有量は、ブレーキライニング全体積に対してに10〜30体積%とすることが好ましく、15〜25体積%とすることがさらに好ましい。結合剤が10体積%未満であると製造性が低下し易くなる傾向があり、30体積%を超えると鳴きが発生し易くなる傾向がある。
【0019】
また、摩擦調整剤としては、黒鉛、三硫化アンチモン等の潤滑剤、鉄、銅、黄銅等の金属粉、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填剤、カシューダスト、NBR、SBR等の有機質摩擦調整剤など1種又は2種以上併用したものを用いることができる。摩擦調整剤の含有量については特に制限はなく、100体積%から他の成分の総含有量を差し引いた量が摩擦調整剤の含有量とされる。
【0020】
なお、本発明においては、摩擦調整剤の一部に粒状アブレッシブ及び層状アブレッシブを合わせてブレーキライニング全体積に対して5体積%以上、好ましくは7〜10.5体積%、さらに好ましくは7.5〜10体積%の範囲含有することが必要とされ、含有量が5体積%未満であると摩擦係数の上昇効果が小さくなる傾向がある。10.5体積%を超えると鳴きが発生したり、ブレーキロータの摩耗が増加する傾向がある。
層状アブレッシブとしては、へき開性を有する白雲母、金雲母等を用いることが好ましい。前記のような層状アブレッシブを用いることにより、摩擦係数の上昇を2.5m/sec以下に抑えることができる。層状アブレッシブの含有量は、ブレーキライニング全体積に対して4体積%以上であることが好ましく、4.4体積パーセント以上であることがさらに好ましい。
【0021】
粒状アブレッシブとしては、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素等、モース硬度が3以上で、融点が1800℃以上のものを用いることが好ましい。融点が1800℃未満では摩擦係数の上昇効果が小さくなる傾向がある。また粒状アブレッシブの粒度は、10μm以下であることが好ましく、その含有量は、ブレーキライニング全体積に対して1体積%以下であることが好ましく、0.6体積%以下である事が更に好ましい。粒度が10μmを超えたり、含有量が1体積%を超えると、ブレーキロータ摩耗が大きくなる。
【0022】
層状構造アブレッシブALと粒状アブレッシブAPとの重量比AL/APは10以上であることが好ましい。粒状アブレッシブALの含有量が多くなると摩擦係数の上昇を抑えることができない。
なお、上記に示す成分は、全組成物が100体積%となるように配合される。各成分の体積%は、その成分の使用重量をその成分の密度で除して算出した値である。
【0023】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
表1に示す配合割合に従って繊維基材としてアラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、銅繊維、結合剤としてノボラックフェノール樹脂(日立化成工業(株)製、商品名HP491UP)を用い、摩擦調整剤として黒鉛、硫酸バリウム、カシューダスト、ジルコンサンドさらに粒状アブレッシブとして比重が4.0及び平均粒径が1μmのアルミナ又は比重が3.12および平均粒径が3μmsicを用い、層状構造アブレッシブとして比重が3.3の金雲母を用いた。
【0024】
前記の成分をレディーゲミキサーで均一に攪拌混合した。得られた混合粉を室温で圧力40MPaの条件で予備加圧成形した後、150℃、圧力40MPaの条件で10分間加熱成形した。
その後、200℃で6時間熱処理して表1に示す組成のブレーキライニングを得た。なお、表1に示す組成の数値は体積%を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
次に、本発明になる実施例1〜4のブレーキライニングと比較例1〜2のブレーキライニングについて、ダイナモ試験機でJASO C406−87(乗用車ブレーキ装置ダイナモメータ試験方法)に準じて平均摩擦係数及び摩擦係数上昇を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0027】
また、25mm角のテストピースをブレーキロータに0.07MPaの圧力で24時間押し付ける方法でブレーキロータの摩耗量と次式により鳴き発生率を調べた。これらの結果も合わせて表2に示す。
なお、表2は、各ブレーキライニングの制動速度100km/h、減速度0.2Gにおける1制動中のμ(摩擦係数)の変化を測定したものである。
【0028】
【表2】
【0029】
【数1】
鳴き発生率(%)=鳴き発生回数(回)/制動回数(回)×100 …(数1)
表2に示されるように本発明になるブレーキライニングは、比較例1のブレーキライニングに比較してブレーキロータの摩耗量が少なく、鳴き発生率が少ないことが明らかである。また比較例2のブレーキライニングに比較して平均μ及びμの上昇が大きいことが明らかである。μの上昇が大きければ効きの上昇があり、ドライバーの安心感をより高めることができる。
【0030】
また、図4に実施例4のブレーキライニングを用いたときのμ−V曲線を示す。このμ−V曲線から、2.5m/sec以下の速度ではμ−V勾配が小さいことが明らかである。なお、ブレーキロータの摺動速度2.5m/secは車両速度約20km/hに相当する。
即ち、自励振動による異音が問題となる速度域ではμ−V負勾配が小さくなり、異音が発生し難いというものである。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、μ−V負勾配が制動開始速度において大きく(摩擦係数の上昇があり)、停止間際(Vh=2.5m/sec以下)において小さく(摩擦係数の上昇が小さい)なるアブレッシブを選択したブレーキライニングを提供することがでる。詳しくは、ブレーキの効き感が良く、かつブレーキロータの摩耗が少なく、異音や鳴きの発生を低減することができ、工業的に極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】摺動速度と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【図2】制動時間と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【図3】摺動時間と摩擦力との関係を示すグラフである。
【図4】実施例4のブレーキライニングを用いたときの摺動速度と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のブレーキに使用される非石綿系ブレーキライニングに関する。特に、フェノールレジンマトリックスのブレーキパッド摩擦材に摩擦係数の正の速度依存性を持たせたアブレッシブを入れることにより、速度-摩擦係数特性(以下μ−V特性とする)をコントロールして、ドライバーのより高い安心感を得られるようなブレーキの効きの上昇があり、かつ鳴きやブレーキ異音の発生し難いブレーキライニングに関する。
【0002】
【従来の技術】
ブレーキの機能は、ブレーキロータとブレーキライニングの接触で摩擦を発生させ、自動車の運動エネルギーを 熱に変換するものである. ドライバーがブレーキペダルを踏んでブレーキコントロールする時、より意のままに操れるようにするには、ブレーキ踏力が軽く、ペダルストロークも短くすることが望まれる。ブレーキ踏力をより軽くするためには、ブレーキライニングの摩擦係数を高める必要がある。
【0003】
制動時に発生する鳴き(1〜十数KHzのスキール音)や異音(約50〜300Hzのグローン音)は、ドライバーに不快感を与える場合がある。鳴き、異音は摩擦による自励振動が音として伝達したものであり、摩擦係数(μ)が高いと発生しやすく、摩擦係数の速度に対する低下量(μ−V負勾配)が大きいと車両の停止寸前等に発生し易い。
【0004】
ジャダーはブレーキロータの部分的な摩耗で生じる強制振動がハンドルやフロアを振動させるものであるが、これもドライバー不快感を与える。ブレーキロータの部分的な摩耗は、μを高めた場合大きくなり易い。
【0005】
乗用車に用いられるブレーキライニングには、例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1等に示されるように、金属繊維、無機繊維や有機繊維等の繊維基材とフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする結合剤と、さらに黒鉛、三硫化アンチモン等の潤滑剤、鉄、銅、黄銅等の金属粉、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填剤、カシューダスト、NBR、SBR等の摩擦調整剤およびアブレッシブ等が含まれている。ブレーキライニングは、これらの混合物を加熱加圧成形することで得られる。
【0006】
【特許文献1】
特開昭49−21544号公報(第1−2頁)
【特許文献2】
特開平2−132175号公報(第1−3頁)
【非特許文献1】
潤滑第19巻9号(1974年)(第626頁)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ブレーキライニングのμ上昇手段として、アルミナ、シリカ、マイカ等のアブレッシブを配合する。この成分は制動時に相手材であるブレーキロータを通常はミクロンオーダーで引っ掻くことにより、摩擦係数を上昇させる効果をもつ。
【0008】
アブレッシブはブレーキロータ金属表面を引っ掻く時の抵抗が摩擦力となる。金属のこの引っ掻き抵抗は速度が速くなるにつれて下降する。これをμ−V特性であらわすと図1に示すようなμ−V負勾配を持った特性となる。また摩擦材に一定の面圧を与え、ある速度V0から減速をした場合の摩擦係数-時間(s)特性(以下μ−Tとする)で表すと図2のようになる。すなわち、図1は摺動速度と摩擦係数との関係を示し、フェノールマトリックスに3重量%のアルミナを入れた単純組成で摩擦特性を計測した。
【0009】
なお、図1は初速6(m/sec)、0.3Gで減速した場合のμ−V特性を示す。
タイヤ径:600mm、ブレーキロータ有効径:250mmで減速Gは換算した。
約、2.5m/secは車両速度では20km/hに相当する。
μ−V勾配が図1のように負であると自励振動を起励力とする異音が発生し易くなる。
【0010】
図2は、摩擦係数(μ)の時間変化を示し、図1のμ−Vを制動時間とμ−Sの関係に書き直したものである。
このような摩擦特性のブレーキライニングを用いたとき、ブレーキ踏力に対し期待以上に制動力が増加するので、ドライバーは安心感を得る。しかしながら、従来品は制動力、安心感に直接関係しない速度以下になってもこの上昇傾向が続くため、μ−V負勾配が過度に大きくなり、異音や鳴きが発生しやすくなる特徴をもっていた。
【0011】
本発明は、μ−V負勾配が制動開始速度において大きく(摩擦係数の上昇があり)、停止間際(Vh=2.5m/sec以下)において小さく(摩擦係数の上昇が小さい)なるアブレッシブを選択したブレーキライニングを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、摩擦調整剤、繊維基材及び結合剤を含む自動車用キャリパーブレーキのライニングにおいて、摩擦調整剤の一部に下式を満たす層状構造アブレッシブを用い、かつ層状構造アブレッシブAL及び粒状アブレッシブAPを合計で5体積%以上含有してなるブレーキライニングに関する。
【0013】
制動開始時
d(v) > f(v)
Δf(v) / Δv < Δd(v) / Δv
摺動速度2.5m/sec付近で
d(v) = f(v)
速度2.5m/sec付近以下で
d(v) < f(v)
f(v) :アブレッシブによる引っ掻き抵抗
d(v) :アブレッシブ自体のせん断抵抗
v :速度
また、本発明は、層状構造アブレッシブALと粒状アブレッシブAPとの重量比AL/APが10以上である前記のブレーキライニングに関する。
【0014】
また、本発明は、層状構造アブレッシブALが、へき開性を示す白雲母、金雲母からなる群から選ばれる1種以上である前記のブレーキライニングに関する。
さらに、本発明は、粒状アブレッシブAPが、粒度10μm以下であるアルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素からなる群から選ばれる1種以上である前記のブレーキライニングに関する。
【0015】
【発明の実施の形態】
一般に用いられるアルミナ(Al2O3)のような粒状アブレッシブを用いた場合、
f(v) < < d(v)
であり、摩擦力Tはアブレッシブ自体のせん断抵抗dの影響を受けないため、
T= f(v)
しかし、層状構造のアブレッシブでは
f(v) > d(v)
となるものがある。このようなアブレッシブによる摩擦力Tは
T= d(v) (f(v) > d(v))
金属を相手材とする場合、速度が遅いほど引っ掻き力は大きくなるので、
Δf(v) / Δv < 0
となる。すなわち、摩擦力Tはf(v)とd(v)の値の低い方の値となり、層状構造のアブレッシブ自体のせん断強さd(v)と引っ掻き抵抗f(v)を模式的に表すと図3に示すようになる。
【0016】
制動初速度Vsでd(v) > f(v) で制動を開始し、摩擦係数上昇を止めたい速度Vhで、d(v) < f(v)となるようなせん断力特性d(v)を持たせれば、制動時の摩擦力上昇はコントロール可能となり、つまり、
V = Vs のときd(v) > f(v) であり、
制動中は
Δf(v) / Δv > Δd(v) / Δv
で,摩擦係数上昇を止めたい速度Vhで
d(v) = f(v)
になるようにすれば良い。
摺動速度Vhは2.5m/sec付近が効きフィーリングと異音発生抑制の観点から最適である。
【0017】
本発明に用いられるブレーキライニングの繊維基材としては、アラミド繊維、アクリル繊維、フェノール繊維等の有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維等の無機繊維、スチール繊維、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等の金属繊維の1種又は2種以上併用したものを用いることができる。繊維基材の含有量は、ブレーキライニング全体積に対して15〜40体積%とすることが好ましく、20〜35体積%とすることがさらに好ましい。繊維基材が15体積%未満であるとブレーキライニングの補強成分が少なく、また、40体積%を超えると繊維基材がスプリングバックしていずれの場合にも製造性が低下し易くなる傾向がある。
【0018】
結合剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限はないが、例えば、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂等を単独または併用して用いることができる。結合剤の含有量は、ブレーキライニング全体積に対してに10〜30体積%とすることが好ましく、15〜25体積%とすることがさらに好ましい。結合剤が10体積%未満であると製造性が低下し易くなる傾向があり、30体積%を超えると鳴きが発生し易くなる傾向がある。
【0019】
また、摩擦調整剤としては、黒鉛、三硫化アンチモン等の潤滑剤、鉄、銅、黄銅等の金属粉、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填剤、カシューダスト、NBR、SBR等の有機質摩擦調整剤など1種又は2種以上併用したものを用いることができる。摩擦調整剤の含有量については特に制限はなく、100体積%から他の成分の総含有量を差し引いた量が摩擦調整剤の含有量とされる。
【0020】
なお、本発明においては、摩擦調整剤の一部に粒状アブレッシブ及び層状アブレッシブを合わせてブレーキライニング全体積に対して5体積%以上、好ましくは7〜10.5体積%、さらに好ましくは7.5〜10体積%の範囲含有することが必要とされ、含有量が5体積%未満であると摩擦係数の上昇効果が小さくなる傾向がある。10.5体積%を超えると鳴きが発生したり、ブレーキロータの摩耗が増加する傾向がある。
層状アブレッシブとしては、へき開性を有する白雲母、金雲母等を用いることが好ましい。前記のような層状アブレッシブを用いることにより、摩擦係数の上昇を2.5m/sec以下に抑えることができる。層状アブレッシブの含有量は、ブレーキライニング全体積に対して4体積%以上であることが好ましく、4.4体積パーセント以上であることがさらに好ましい。
【0021】
粒状アブレッシブとしては、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素等、モース硬度が3以上で、融点が1800℃以上のものを用いることが好ましい。融点が1800℃未満では摩擦係数の上昇効果が小さくなる傾向がある。また粒状アブレッシブの粒度は、10μm以下であることが好ましく、その含有量は、ブレーキライニング全体積に対して1体積%以下であることが好ましく、0.6体積%以下である事が更に好ましい。粒度が10μmを超えたり、含有量が1体積%を超えると、ブレーキロータ摩耗が大きくなる。
【0022】
層状構造アブレッシブALと粒状アブレッシブAPとの重量比AL/APは10以上であることが好ましい。粒状アブレッシブALの含有量が多くなると摩擦係数の上昇を抑えることができない。
なお、上記に示す成分は、全組成物が100体積%となるように配合される。各成分の体積%は、その成分の使用重量をその成分の密度で除して算出した値である。
【0023】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
表1に示す配合割合に従って繊維基材としてアラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、セラミック繊維、銅繊維、結合剤としてノボラックフェノール樹脂(日立化成工業(株)製、商品名HP491UP)を用い、摩擦調整剤として黒鉛、硫酸バリウム、カシューダスト、ジルコンサンドさらに粒状アブレッシブとして比重が4.0及び平均粒径が1μmのアルミナ又は比重が3.12および平均粒径が3μmsicを用い、層状構造アブレッシブとして比重が3.3の金雲母を用いた。
【0024】
前記の成分をレディーゲミキサーで均一に攪拌混合した。得られた混合粉を室温で圧力40MPaの条件で予備加圧成形した後、150℃、圧力40MPaの条件で10分間加熱成形した。
その後、200℃で6時間熱処理して表1に示す組成のブレーキライニングを得た。なお、表1に示す組成の数値は体積%を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
次に、本発明になる実施例1〜4のブレーキライニングと比較例1〜2のブレーキライニングについて、ダイナモ試験機でJASO C406−87(乗用車ブレーキ装置ダイナモメータ試験方法)に準じて平均摩擦係数及び摩擦係数上昇を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0027】
また、25mm角のテストピースをブレーキロータに0.07MPaの圧力で24時間押し付ける方法でブレーキロータの摩耗量と次式により鳴き発生率を調べた。これらの結果も合わせて表2に示す。
なお、表2は、各ブレーキライニングの制動速度100km/h、減速度0.2Gにおける1制動中のμ(摩擦係数)の変化を測定したものである。
【0028】
【表2】
【0029】
【数1】
鳴き発生率(%)=鳴き発生回数(回)/制動回数(回)×100 …(数1)
表2に示されるように本発明になるブレーキライニングは、比較例1のブレーキライニングに比較してブレーキロータの摩耗量が少なく、鳴き発生率が少ないことが明らかである。また比較例2のブレーキライニングに比較して平均μ及びμの上昇が大きいことが明らかである。μの上昇が大きければ効きの上昇があり、ドライバーの安心感をより高めることができる。
【0030】
また、図4に実施例4のブレーキライニングを用いたときのμ−V曲線を示す。このμ−V曲線から、2.5m/sec以下の速度ではμ−V勾配が小さいことが明らかである。なお、ブレーキロータの摺動速度2.5m/secは車両速度約20km/hに相当する。
即ち、自励振動による異音が問題となる速度域ではμ−V負勾配が小さくなり、異音が発生し難いというものである。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、μ−V負勾配が制動開始速度において大きく(摩擦係数の上昇があり)、停止間際(Vh=2.5m/sec以下)において小さく(摩擦係数の上昇が小さい)なるアブレッシブを選択したブレーキライニングを提供することがでる。詳しくは、ブレーキの効き感が良く、かつブレーキロータの摩耗が少なく、異音や鳴きの発生を低減することができ、工業的に極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】摺動速度と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【図2】制動時間と摩擦係数との関係を示すグラフである。
【図3】摺動時間と摩擦力との関係を示すグラフである。
【図4】実施例4のブレーキライニングを用いたときの摺動速度と摩擦係数との関係を示すグラフである。
Claims (4)
- 摩擦調整剤、繊維基材及び結合剤を含む自動車用キャリパーブレーキのライニングにおいて、摩擦調整剤の一部に下式を満たす層状構造アブレッシブを用い、かつ層状構造アブレッシブAL及び粒状アブレッシブAPを合計で5体積%以上含有してなるブレーキライニング。
制動開始時
d(v) > f(v)
Δf(v) / Δv < Δd(v) / Δv
摺動速度2.5m/sec付近で
d(v) = f(v)
速度2.5m/sec付近以下で
d(v) < f(v)
f(v):アブレッシブによる引っ掻き抵抗
d(v):アブレッシブ自体のせん断抵抗
v :速度 - 層状構造アブレッシブALと粒状アブレッシブAPとの重量比AL/APが10以上である請求項1記載のブレーキライニング。
- 層状構造アブレッシブALが、へき開性を示す白雲母、金雲母からなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載のブレーキライニング。
- 粒状アブレッシブAPが、粒度10μm以下であるアルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素からなる群から選ばれる1種以上である請求項1、2又は3記載のブレーキライニング。
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