JP2004204277A - ソーワイヤ用鋼線 - Google Patents
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Abstract
【課題】稼働時の断線を起こさず切断面積90m2以上を安定的に達成しうる、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上の耐稼働時断線性(すなわち、稼働時に断線を起こし難い特性)に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線を提供する。
【解決手段】線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し、あるいはさらにCr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織とした。
【選択図】 なし
【解決手段】線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し、あるいはさらにCr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織とした。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、浮遊砥粒式ワイヤソーに使用されるソーワイヤ用鋼線に関し、とくに線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上の細径高強度鋼線に、シリコン結晶スライシング用ソーワイヤとしての使途に十分な耐摩耗性および耐稼働時断線性(:スライシング中に断線しにくい特性)をもたせたソーワイヤ用鋼線に関する。
【0002】
【従来の技術】
浮遊砥粒式ワイヤソー用鋼線に関する従来の技術としては次のようなものがある。
・重量%で、C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%を含有し、あるいはさらに、Cr:0.10〜0.30%、Ni:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜0.80%の1種以上を含有し、不可避的不純物であるAlを0.003 %以下に制限し、残部Feおよびその他の不可避的不純物よりなる鋼の熱間圧延線材から製造される線径0.7 〜2.5mm φのワイヤにオーステナイト化処理後350 〜500 ℃で恒温変態させる処理を行って上部ベイナイト組織のワイヤとし、さらにワイピングノズルや表面にめっき処理を施した後伸線加工により線径150 μm 以下のソーワイヤとすることを特徴とするソーワイヤの製造方法(特許文献1参照)。
【0003】
・質量%で、C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、パーライト中に球状セメンタイトが分散してなる組織とを有することを特徴とする線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のワイヤソー用鋼線(特許文献2参照)。この鋼線の製造方法は、前記組成の素鋼線に粗伸線→中間伸線→パテンチング→仕上伸線を順次施す方法において、パテンチングよりも前に球状化焼鈍を行うことを特徴としている。
【0004】
・質量%で、C:0.95〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、体積%で層状セメンタイトを15〜30%含む、パーライトまたはパーライトとベイナイトの混合からなる組織とを有することを特徴とする線径200 μm 以下の高強度ワイヤソー用鋼線(特許文献3参照)。この鋼線の製造方法は、前記組成の素鋼線に粗伸線→中間伸線→パテンチング→仕上伸線を順次施す方法において、パテンチングでのオーステナイト化処理温度から変態処理温度までの冷却速度を500 ℃/s以上としたことを特徴としている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−200667号公報
【特許文献2】
特開2002−212676号公報
【特許文献3】
特開2002−256391号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1所載の方法で製造されたソーワイヤ(以下、単にワイヤともいう)の耐摩耗性は、シリコン結晶の切断面積で評価して30〜65m2程度という不十分なものである。シリコン結晶の切断は、例えば、二本のローラにワイヤをこれらローラ間で複数条等間隔に並列するよう巻回し、ワイヤを高速で一方向走行または往復走行させながらローラ間のワイヤの複数条並列走行部にシリコンインゴットをゆっくりと押付けていくことにより行われる。このときシリコンインゴットにはSiC 等の硬質微粒子からなる砥粒を混ぜたスラリーがかけられ、この砥粒がシリコンインゴットのワイヤ接触部を削ることにより切断が進行するが、ワイヤも砥粒によって摩耗する。
【0007】
前記切断面積は、次式で表される。
切断面積=シリコンインゴット断面積×(シリコンインゴット長さ/ ワイヤピッチ−1)×繰返し使用回数
ここで、繰返し使用回数:断線するまでに切断できたインゴット本数
例えば、150mm 角×400mm 長さのシリコンインゴットを特許文献1所載の方法で製造した線径(直径)180 μm のワイヤで、ピッチ570 μm 、砥粒サイズ#800、一方向走行としてスライス試行する実験を行ったところ、2回目の試行終了時でワイヤの最大摩耗量(最も摩耗した箇所の線径減少量)が14.5μm となり、さらに3回目を試行したが途中でワイヤが断線し、スライスできなかった。
【0008】
さらに、線径を120 μm と細くして同様にスライス試行実験したところ、3本中2本が1回目の試行時に断線し、シリコンインゴット切断用としては使用できなかった。また、スライスにより形成されたシリコン基板(以下、単に基板ともいう)についてみると、ワイヤがインゴットに入ってから出るまでの間に摩耗縮径するために、基板のワイヤ出側部厚がワイヤ入側部厚よりも20μm 程度大きくなっていた。この基板厚差は、基板平均厚350 μm の約6%と大きく、基板に反りを発生させ次工程の基板加工での割れ等の原因となる。
【0009】
特許文献2〜3所載の技術は、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤの耐摩耗性を、前記切断面積が90m2以上になるレベルに向上させたものである。
しかし、特許文献2〜3所載の技術では、稼働時(:シリコンインゴットのスライシング中の意。以下同じ。)にワイヤ表面に砥粒による切り疵が発生し、そこから微細剥片が脱落することによる摩耗の進行を十分に抑制できているとは言い難く、また、高強度になるほど曲げ破壊感受性が高くなり、そのため、稼働時に断線が生じる現象を十分に防止しうるには至らないという問題があった。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決し、稼働時の断線を起こさず切断面積90m2以上を安定的に達成しうる、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上の耐稼働時断線性(すなわち、稼働時に断線を起こし難い特性)に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために種々研究した結果、次の知見を得た。
硬いセメンタイトの量を増加させることや、マトリックスのフェライトを固溶硬化させることによってもそれなりに耐摩耗性は向上する。しかし、さらなる高耐摩耗性を付与するには、ラメラフェライトを粘っこくして靭性を向上させることのほか、砥粒による切り疵による微細剥片化とその脱落を抑制すること、および、曲げ加工性を向上させることが必要である。
【0012】
砥粒による切り疵による微細剥片化とその脱落を促進し、また曲げ加工性をも劣化させる原因は、スライシングによって継続的に発生するシリコンインゴットの活性な新生表面と、スライシング中にスラリー中に増加する水分との作用で水素が発生し、この水素がワイヤに吸蔵されてしまうことにある。そこで、水素を吸蔵しにくいワイヤとすることが重要であり、そうするためにはNiを特許文献2〜3よりも多い1.6 %以上含有するように添加することが有効である。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明は、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織としたことを特徴とする耐稼働時断線性に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線である。
【0014】
また、本発明は、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し、かつ、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し残部がFe及び不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織としたことを特徴とする耐稼働時断線性に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線である。
【0015】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に係る鋼線の化学組成(鋼組成)を上記範囲とした点について説明する。
C:0.80〜2.05%
Cが0.80%未満では、耐摩耗性を向上させるセメンタイトの量が不足するので、Cは0.80%以上とする。好ましくは1.20%以上である。一方、Cが2.05%を超えると巨大セメンタイトの発生による伸線加工性の劣化を防止することが困難になり、鋼線の製造工程(粗伸線→中間伸線→パテンチング→仕上伸線)において、加熱温度、変態処理温度、冷却速度および熱処理時間等の厳しい管理が必要となって生産性がきわめて悪化するので、Cは2.05%以下とする。
【0016】
Si:0.15〜0.30%
Siは、非金属介在物の減少に寄与するが、0.15%未満ではその効果に乏しく、一方、0.30%を超えると鋼線表面の脱炭が進行し、耐摩耗性が劣化しやすくなる。よって、Siは0.15〜0.30%とする。好ましくは0.15〜0.25%である。
Mn:0.2 〜0.6 %
Mnは、脱酸、非金属介在物の組成制御および焼入性向上に有効な元素であるが、0.2 %未満ではその効果に乏しく、一方、0.6 %を超えると中心部に過剰に偏析してマルテンサイトを誘発し、該中心部にクラックが発生しやすくなって変形能および加工性が劣化し線材の取扱いが困難となる。よって、Mnは0.2 〜0.6 %とする。好ましくは0.35〜0.45%である。
【0017】
Ni:1.6 〜10.0%
Niは、フェライトの靭性を向上させることにより耐摩耗性を向上させるのみならず、稼働時のワイヤの水素吸蔵を抑制して、砥粒による切り疵とそれによる微細剥片化およびその脱落による摩耗の進行を防止し、かつ曲げ加工性を向上させる作用を有し、この作用により耐稼働時断線性を向上させる効果を発揮する、本発明における最重要元素である。このNiの作用効果は、1.6 %未満ではさほど顕著に現れないので、Niは1.6 %以上とする。一方、Niが10.0%を超えるとNiの完全固溶が実現せず、セメンタイトの形態が崩れ、伸線加工性を損なうようになるので、Niは10.0%以下とする。
【0018】
Al:0.005 %以下
Alは、Al2O3 主体の硬い非金属介在物を生成し、伸線加工時あるいは稼働時の断線の一大原因となるのであるが、0.005 %以下とすることでこれを回避しうる。よって、Alは0.005 %以下とする。好ましくは0.002 %以下である。
本発明ではさらに、必要に応じてCr、Mo、Vの1種または2種以上を添加することができる。添加する場合、それぞれの含有量は以下の範囲とする。
【0019】
Cr :0.05〜2.0 %
Cr は、パーライトのラメラー間隔を狭くして強度を上昇させ、また、固溶硬化によりマトリックスのフェライトの硬さを向上させるが、0.05%未満ではその効果に乏しく、一方、2.0 %を超えるとパーライト変態を遅延させまた鋳片に巨大炭化物を生成しやすくなるので、0.05〜2.0 %の範囲とする。
【0020】
Mo :0.05〜0.5 %
Mo は、固溶硬化の作用をし、強度を向上させるのに都合がよい元素であるが、0.05%未満ではその効果が不十分であり、一方、0.5 %を超えるとパーライト変態を遅延させまた鋳片に巨大炭化物を生成しやすくなるので、0.05〜0.5 %の範囲とする。
【0021】
V:0.01〜0.5 %
Vは、基地鉄の強度を上げ、また、有害なNを固定する。この効果は0.01%未満では十分に発揮できず、一方、0.5 %を超えると、炭化物が過剰になり、鋳片の冷却過程でVCを生成し、鋳片割れを伴うようになる。よって、Vは0.01〜0.5 %の範囲とする。
【0022】
以上の元素およびFeを除いた残りの成分は不可避的不純物である。不可避的不純物のうちとくにPおよびSは、伸線加工性および延性を劣化させるので、それぞれ0.010 %以下に制限することが望ましい。
次に、本発明に係る鋼線の組織(鋼組織)について説明する。
この鋼組織は、パーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織とする。このように規定したのは、この鋼組織が、高強度にした鋼線の延性を確保するのに最適であるからである。
【0023】
この鋼組織中に含まれる層状セメンタイトの体積率は、次の理由から12〜30%とすることが好ましい。すなわち、本発明に係る鋼組成になる過共析鋼では、層状セメンタイトの体積率を12%未満にしようとすると初析セメンタイトが過剰に存在してパーライト量が不十分となり、耐摩耗性を確保するのが難しくなる。一方、層状セメンタイトの体積率を30%超にしようとすると伸線加工が困難になる。
【0024】
本発明では、パーライトとベイナイトの混合組織とする場合、伸線加工後の延性を確保する観点から、ベイナイトの体積率は50%以下が好ましく、より好ましくは30%以下である。
本発明に係る鋼組織は、パーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織中に球状セメンタイトが含まれているものであってもよい。しかし、球状セメンタイトの体積率が20%を超えるとパーライトの層状組織が破壊されて延性が低下しやすくなるので、球状セメンタイトの体積率は20%以下とするのが好ましい。
【0025】
次に、本発明に係る鋼線の好ましい製造方法について述べる。
この製造方法は、素鋼線を出発素材として、基本的には、次の各工程を順次行うものである。
粗伸線(線径3〜2.5mm 程度)→中間伸線(線径1.3 〜0.7mm 程度)→パテンチング→仕上伸線(線径200 μm 以下)
素鋼線には、本発明に係る鋼組成を有する鋼線(線径5.5 〜4.5mm 程度)を用いる。この素材は、転炉法あるいはさらに真空脱ガス法等で本発明範囲内の鋼組成となるように溶製した鋼を連続鋳造法等にて鋳片となし、これを熱間圧延あるいはさらに制御冷却することにより製造される。なお、本発明では過共析鋼を対象とするから、C量が増加するにつれ、素鋼線の中心線上に、伸線加工時の断線あるいはソーワイヤとして使用時の断線の原因となる濃厚な偏析を生じ易くなる。これを防止するには、連続鋳造法において連続鍛圧等により鋳片中心部の濃厚偏析を排除するかあるいは該中心部をC≦0.80%の負偏析にすることが望ましい。
(粗伸線、中間伸線:)
粗伸線と中間伸線とは、仕上伸線での必要な加工度(減面率96%以上、好ましくは98%以上)を得るための仕上前線径を確保するためのもので、従来技術の範囲内でセブロンクラックや表面疵などの有害な欠陥が発生しない加工条件を選択して実施しうる。
【0026】
ただし、過共析鋼では、熱間圧延あるいは熱処理することにより、しばしば不良組織としての大きな初析セメンタイトがオーステナイト粒界にネット状に生成し、伸線加工性を劣化させる。これを防止するために、粗、中間のいずれか一方または両方の伸線加工の前、および/または、中間伸線後パテンチング前の段階で、球状化焼鈍または軟化焼鈍を行うことが好ましい。この球状化焼鈍または軟化焼鈍は、例えばA1 点超〜Acm点未満の温度域で適当な時間(好ましくは1時間以上)保持するパターンや、Acm点以上に加熱後A1 点超〜Acm点未満の温度域に冷却し引続きそこで保持するパターンや、A1 点の上下を往復させるパターンなどが好ましく用いうる。とくに、粗伸線後の球状化焼鈍または軟化焼鈍および中間伸線後の同焼鈍では、蓄積された伸線加工歪エネルギーにより微細球状化が進行する。
【0027】
なお、伸線加工性をさらに改善するために、粗伸線および/または中間伸線の前(該前に球状化焼鈍または軟化焼鈍を行う場合は同焼鈍の後)に、酸洗→表面処理(リン酸亜鉛被膜処理等)を行ってもよい。
(パテンチング:)
パテンチングは、オーステナイト(以下適宜γと略記する。)化処理→変態処理の順に行われる。このパテンチング処理により、鋼組織がパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織とされる。
【0028】
鋼組織を前記好適範囲(層状セメンタイトの体積率12〜30%、ベイナイトの体積率50%以下、球状セメンタイトの体積率20%以下)内とするには、γ化処理において850 〜1150℃の温度に加熱して5〜100 秒保持し、変態処理において450 〜650 ℃の温度に10〜150 秒保持することが好ましい。変態処理は、具体的には、処理温度に保った鉛浴等の変態装置に被処理材を装入(浴の場合は浸漬)し、変態完了所要時間の予測値を基に設定したタイミングで抽出するといった方法で行いうる。
【0029】
γ化処理では、十分な固溶C量を得るために温度850 ℃以上かつ保持時間5秒以上とし、一方、γ結晶粒の粗大化を抑え、表面の脱炭を抑制するために温度1150℃以下かつ保持時間100 秒以下とした。なお、γ化処理の完了時に未溶解の球状炭化物が存在してもよい。
変態処理の温度は、450 ℃未満ではパーライト組織が得難く上部ベイナイトが多くなって伸線加工性および加工後の延性が劣化し、一方、650 ℃超では強度および伸線加工性の確保に足る微細なパーライトが得難いので、450 〜650 ℃の範囲とした。保持時間は、10秒未満ではパーライト変態が不十分で、変態装置から抽出後も変態するため微細な組織にコントロールすることが難しく、一方、150 秒超では変態したパーライトに異常(セメンタイトの崩壊)が起こり易く、また生産性・設備費の面でも不利になるので、10〜150 秒の範囲とした。
【0030】
また、γ結晶粒界への初析セメンタイトの生成を極力抑制するために、γ化処理温度から変態処理温度までの冷却速度は500 ℃/s以上(より好ましくは1000℃/s以上)とすることが好ましい。
(仕上伸線:)
仕上伸線は、粗伸線および中間伸線と同様、従来技術の範囲内で実施できる。仕上伸線での伸線加工性を改善するために、仕上伸線前にブラスめっき、銅めっき等のめっきを施してもよい。
【0031】
【実施例】
(1)表1に示す化学組成になる鋼を、真空溶解により溶製、鋳造した。その各鋳片をφ5.5mm に熱間圧延し次いで制御冷却して素鋼線とした。この素鋼線を次の工程で処理して線径φ160 μm の鋼線とした。
軟化焼鈍(表2参照)→酸洗→リン酸亜鉛被膜処理→粗伸線(φ3.0mm )→球状化焼鈍(表2参照)→酸洗→リン酸亜鉛被膜処理→中間伸線(φ1.15mm)→パテンチング(表2参照)→仕上伸線(φ160 μm )
ここで、パテンチングにあたっては鋼組成に応じて処理条件(温度、時間)を変えた。
【0032】
【表1】
【0033】
仕上伸線後の鋼線について以下の調査を行った。なお、一部のものは仕上伸線で断線した。断線したものを伸線性=NG、断線しなかったものを伸線性=Gとして表2に示す。
1)断面を走査型電子顕微鏡で観察し、鋼組織がパーライト(P)またはパーライトとベイナイトの混合(P+B)組織であるものと、そうでないものとを判別した。前者を鋼組織=PまたはP+B、後者を鋼組織=othersとして表2に示す。なお、othersは、ネット状炭化物や残留γ等であった。鋼組織がPまたはP+Bであると判別されたものをさらに透過型電子顕微鏡で観察し、その観察像を画像解析して、層状セメンタイト、ベイナイト、球状セメンタイトの体積率(記号をそれぞれVL 、VB 、VC とする。)を測定した。VL の測定ではセメンタイトの板が観察面に垂直となる状態を観察できた10視野を測定対象とし、VB の測定では観察視野中のベイナイト領域数の累計が100 以上となるまで観察視野を無作為に選び、該ベイナイト領域数が100 以上となった視野数の視野を測定対象とし、VC の測定では観察視野中の球状セメンタイト個数の累計が1000個以上になるまで観察視野を無作為に選び、該球状セメンタイト個数が1000個以上となった視野数の視野を測定対象とした。
【0034】
2)伸線性=Gの鋼線についてJIS Z 2241に準拠した引張試験により引張強さTSを測定した。
3)伸線性=Gの鋼線をワイヤソーに用いて150mm 角×400mm 長さのシリコン多結晶インゴットを下記の切断条件で同時に2本切断(スライシング)し、最大摩耗量を測定した。この測定では、稼働後のワイヤ長さ方向5箇所について最少径を測定して平均し、この平均値を初期の線径から差し引いた値δ(μm )を、測定時までの稼働長L(km)との比例関係式:δ/ L×300 にて、稼働長300km とした場合に換算した値でもって、最大摩耗量を評価した。
<切断条件>
・ワイヤピッチ500 μm (切断面積=0.152 ×(400/0.5-1=799) ×2=36m2)
・ワイヤ使用長300km
・ワイヤ走行スピード600 m/min(一方向走行)
・ワイヤ張力25N
・切断速度0.40mm/min
・砥粒SiC (#1000 )を配合した油性のスラリーをかけながら切断
この調査の結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2より、本発明例では、TS3800MPa 以上の高強度が得られるとともに、比較例に比べ、最大摩耗量は小さく、スライシング中の断線は発生せず、本発明の目的が達成された。
(2)上記(1)の素鋼線(φ5.5mm )のうち、表1の鋼BおよびKに対応するするものを表3に示す条件で伸線加工(熱処理も含む)し、得られた鋼線について、(1)と同様の調査を行い、さらに、該鋼線をワイヤソーに用いて150mm 角×400mm 長さのシリコン多結晶インゴットを下記の切断条件で切断試行し、何本まで切断できるか(切断面積(m2)=0.152 ×(400/ ワイヤピッチ(mm)-1) ×切断本数)を調査した。
<切断条件>
・ワイヤピッチ500 μm
・ワイヤ使用長300km
・ワイヤ走行スピード600 m/min(一方向走行)
・ワイヤ張力25N
・切断速度0.40mm/min
・砥粒SiC (ワイヤ線径180 μm は#800、その他は#1200 )を配合した油性のスラリーをかけながら切断
この調査の結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3より、比較例では、線径180 μm で2.5 本(切断面積45m2)まで、線径140 μm で1本(切断面積18m2)までしか切断できず、線径140 μm では実用に至らなかった。これに対し、本発明例では、線径180 μm で8本(切断面積144m2 )まで、線径140 μm で5.5 本(切断面積99m2)まで、線径120 μm で5本(切断面積90m2)まで切断することができ、線径120 μm までのワイヤを実用に供し得た。
【0039】
【発明の効果】
かくして本発明によれば、引張強さ3800MPa 以上の高強度を有するとともに、稼働時の断線がなく、シリコン結晶の切断面積が90m2以上に達する高耐摩耗性を有する線径200 μm 以下のワイヤソー用鋼線が得られるという優れた効果を奏する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、浮遊砥粒式ワイヤソーに使用されるソーワイヤ用鋼線に関し、とくに線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上の細径高強度鋼線に、シリコン結晶スライシング用ソーワイヤとしての使途に十分な耐摩耗性および耐稼働時断線性(:スライシング中に断線しにくい特性)をもたせたソーワイヤ用鋼線に関する。
【0002】
【従来の技術】
浮遊砥粒式ワイヤソー用鋼線に関する従来の技術としては次のようなものがある。
・重量%で、C:0.80〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00%を含有し、あるいはさらに、Cr:0.10〜0.30%、Ni:0.10〜1.00%、Cu:0.10〜0.80%の1種以上を含有し、不可避的不純物であるAlを0.003 %以下に制限し、残部Feおよびその他の不可避的不純物よりなる鋼の熱間圧延線材から製造される線径0.7 〜2.5mm φのワイヤにオーステナイト化処理後350 〜500 ℃で恒温変態させる処理を行って上部ベイナイト組織のワイヤとし、さらにワイピングノズルや表面にめっき処理を施した後伸線加工により線径150 μm 以下のソーワイヤとすることを特徴とするソーワイヤの製造方法(特許文献1参照)。
【0003】
・質量%で、C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、パーライト中に球状セメンタイトが分散してなる組織とを有することを特徴とする線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のワイヤソー用鋼線(特許文献2参照)。この鋼線の製造方法は、前記組成の素鋼線に粗伸線→中間伸線→パテンチング→仕上伸線を順次施す方法において、パテンチングよりも前に球状化焼鈍を行うことを特徴としている。
【0004】
・質量%で、C:0.95〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、体積%で層状セメンタイトを15〜30%含む、パーライトまたはパーライトとベイナイトの混合からなる組織とを有することを特徴とする線径200 μm 以下の高強度ワイヤソー用鋼線(特許文献3参照)。この鋼線の製造方法は、前記組成の素鋼線に粗伸線→中間伸線→パテンチング→仕上伸線を順次施す方法において、パテンチングでのオーステナイト化処理温度から変態処理温度までの冷却速度を500 ℃/s以上としたことを特徴としている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−200667号公報
【特許文献2】
特開2002−212676号公報
【特許文献3】
特開2002−256391号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1所載の方法で製造されたソーワイヤ(以下、単にワイヤともいう)の耐摩耗性は、シリコン結晶の切断面積で評価して30〜65m2程度という不十分なものである。シリコン結晶の切断は、例えば、二本のローラにワイヤをこれらローラ間で複数条等間隔に並列するよう巻回し、ワイヤを高速で一方向走行または往復走行させながらローラ間のワイヤの複数条並列走行部にシリコンインゴットをゆっくりと押付けていくことにより行われる。このときシリコンインゴットにはSiC 等の硬質微粒子からなる砥粒を混ぜたスラリーがかけられ、この砥粒がシリコンインゴットのワイヤ接触部を削ることにより切断が進行するが、ワイヤも砥粒によって摩耗する。
【0007】
前記切断面積は、次式で表される。
切断面積=シリコンインゴット断面積×(シリコンインゴット長さ/ ワイヤピッチ−1)×繰返し使用回数
ここで、繰返し使用回数:断線するまでに切断できたインゴット本数
例えば、150mm 角×400mm 長さのシリコンインゴットを特許文献1所載の方法で製造した線径(直径)180 μm のワイヤで、ピッチ570 μm 、砥粒サイズ#800、一方向走行としてスライス試行する実験を行ったところ、2回目の試行終了時でワイヤの最大摩耗量(最も摩耗した箇所の線径減少量)が14.5μm となり、さらに3回目を試行したが途中でワイヤが断線し、スライスできなかった。
【0008】
さらに、線径を120 μm と細くして同様にスライス試行実験したところ、3本中2本が1回目の試行時に断線し、シリコンインゴット切断用としては使用できなかった。また、スライスにより形成されたシリコン基板(以下、単に基板ともいう)についてみると、ワイヤがインゴットに入ってから出るまでの間に摩耗縮径するために、基板のワイヤ出側部厚がワイヤ入側部厚よりも20μm 程度大きくなっていた。この基板厚差は、基板平均厚350 μm の約6%と大きく、基板に反りを発生させ次工程の基板加工での割れ等の原因となる。
【0009】
特許文献2〜3所載の技術は、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤの耐摩耗性を、前記切断面積が90m2以上になるレベルに向上させたものである。
しかし、特許文献2〜3所載の技術では、稼働時(:シリコンインゴットのスライシング中の意。以下同じ。)にワイヤ表面に砥粒による切り疵が発生し、そこから微細剥片が脱落することによる摩耗の進行を十分に抑制できているとは言い難く、また、高強度になるほど曲げ破壊感受性が高くなり、そのため、稼働時に断線が生じる現象を十分に防止しうるには至らないという問題があった。
【0010】
本発明は、これらの問題を解決し、稼働時の断線を起こさず切断面積90m2以上を安定的に達成しうる、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上の耐稼働時断線性(すなわち、稼働時に断線を起こし難い特性)に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために種々研究した結果、次の知見を得た。
硬いセメンタイトの量を増加させることや、マトリックスのフェライトを固溶硬化させることによってもそれなりに耐摩耗性は向上する。しかし、さらなる高耐摩耗性を付与するには、ラメラフェライトを粘っこくして靭性を向上させることのほか、砥粒による切り疵による微細剥片化とその脱落を抑制すること、および、曲げ加工性を向上させることが必要である。
【0012】
砥粒による切り疵による微細剥片化とその脱落を促進し、また曲げ加工性をも劣化させる原因は、スライシングによって継続的に発生するシリコンインゴットの活性な新生表面と、スライシング中にスラリー中に増加する水分との作用で水素が発生し、この水素がワイヤに吸蔵されてしまうことにある。そこで、水素を吸蔵しにくいワイヤとすることが重要であり、そうするためにはNiを特許文献2〜3よりも多い1.6 %以上含有するように添加することが有効である。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明は、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織としたことを特徴とする耐稼働時断線性に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線である。
【0014】
また、本発明は、線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し、かつ、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し残部がFe及び不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織としたことを特徴とする耐稼働時断線性に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線である。
【0015】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に係る鋼線の化学組成(鋼組成)を上記範囲とした点について説明する。
C:0.80〜2.05%
Cが0.80%未満では、耐摩耗性を向上させるセメンタイトの量が不足するので、Cは0.80%以上とする。好ましくは1.20%以上である。一方、Cが2.05%を超えると巨大セメンタイトの発生による伸線加工性の劣化を防止することが困難になり、鋼線の製造工程(粗伸線→中間伸線→パテンチング→仕上伸線)において、加熱温度、変態処理温度、冷却速度および熱処理時間等の厳しい管理が必要となって生産性がきわめて悪化するので、Cは2.05%以下とする。
【0016】
Si:0.15〜0.30%
Siは、非金属介在物の減少に寄与するが、0.15%未満ではその効果に乏しく、一方、0.30%を超えると鋼線表面の脱炭が進行し、耐摩耗性が劣化しやすくなる。よって、Siは0.15〜0.30%とする。好ましくは0.15〜0.25%である。
Mn:0.2 〜0.6 %
Mnは、脱酸、非金属介在物の組成制御および焼入性向上に有効な元素であるが、0.2 %未満ではその効果に乏しく、一方、0.6 %を超えると中心部に過剰に偏析してマルテンサイトを誘発し、該中心部にクラックが発生しやすくなって変形能および加工性が劣化し線材の取扱いが困難となる。よって、Mnは0.2 〜0.6 %とする。好ましくは0.35〜0.45%である。
【0017】
Ni:1.6 〜10.0%
Niは、フェライトの靭性を向上させることにより耐摩耗性を向上させるのみならず、稼働時のワイヤの水素吸蔵を抑制して、砥粒による切り疵とそれによる微細剥片化およびその脱落による摩耗の進行を防止し、かつ曲げ加工性を向上させる作用を有し、この作用により耐稼働時断線性を向上させる効果を発揮する、本発明における最重要元素である。このNiの作用効果は、1.6 %未満ではさほど顕著に現れないので、Niは1.6 %以上とする。一方、Niが10.0%を超えるとNiの完全固溶が実現せず、セメンタイトの形態が崩れ、伸線加工性を損なうようになるので、Niは10.0%以下とする。
【0018】
Al:0.005 %以下
Alは、Al2O3 主体の硬い非金属介在物を生成し、伸線加工時あるいは稼働時の断線の一大原因となるのであるが、0.005 %以下とすることでこれを回避しうる。よって、Alは0.005 %以下とする。好ましくは0.002 %以下である。
本発明ではさらに、必要に応じてCr、Mo、Vの1種または2種以上を添加することができる。添加する場合、それぞれの含有量は以下の範囲とする。
【0019】
Cr :0.05〜2.0 %
Cr は、パーライトのラメラー間隔を狭くして強度を上昇させ、また、固溶硬化によりマトリックスのフェライトの硬さを向上させるが、0.05%未満ではその効果に乏しく、一方、2.0 %を超えるとパーライト変態を遅延させまた鋳片に巨大炭化物を生成しやすくなるので、0.05〜2.0 %の範囲とする。
【0020】
Mo :0.05〜0.5 %
Mo は、固溶硬化の作用をし、強度を向上させるのに都合がよい元素であるが、0.05%未満ではその効果が不十分であり、一方、0.5 %を超えるとパーライト変態を遅延させまた鋳片に巨大炭化物を生成しやすくなるので、0.05〜0.5 %の範囲とする。
【0021】
V:0.01〜0.5 %
Vは、基地鉄の強度を上げ、また、有害なNを固定する。この効果は0.01%未満では十分に発揮できず、一方、0.5 %を超えると、炭化物が過剰になり、鋳片の冷却過程でVCを生成し、鋳片割れを伴うようになる。よって、Vは0.01〜0.5 %の範囲とする。
【0022】
以上の元素およびFeを除いた残りの成分は不可避的不純物である。不可避的不純物のうちとくにPおよびSは、伸線加工性および延性を劣化させるので、それぞれ0.010 %以下に制限することが望ましい。
次に、本発明に係る鋼線の組織(鋼組織)について説明する。
この鋼組織は、パーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織とする。このように規定したのは、この鋼組織が、高強度にした鋼線の延性を確保するのに最適であるからである。
【0023】
この鋼組織中に含まれる層状セメンタイトの体積率は、次の理由から12〜30%とすることが好ましい。すなわち、本発明に係る鋼組成になる過共析鋼では、層状セメンタイトの体積率を12%未満にしようとすると初析セメンタイトが過剰に存在してパーライト量が不十分となり、耐摩耗性を確保するのが難しくなる。一方、層状セメンタイトの体積率を30%超にしようとすると伸線加工が困難になる。
【0024】
本発明では、パーライトとベイナイトの混合組織とする場合、伸線加工後の延性を確保する観点から、ベイナイトの体積率は50%以下が好ましく、より好ましくは30%以下である。
本発明に係る鋼組織は、パーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織中に球状セメンタイトが含まれているものであってもよい。しかし、球状セメンタイトの体積率が20%を超えるとパーライトの層状組織が破壊されて延性が低下しやすくなるので、球状セメンタイトの体積率は20%以下とするのが好ましい。
【0025】
次に、本発明に係る鋼線の好ましい製造方法について述べる。
この製造方法は、素鋼線を出発素材として、基本的には、次の各工程を順次行うものである。
粗伸線(線径3〜2.5mm 程度)→中間伸線(線径1.3 〜0.7mm 程度)→パテンチング→仕上伸線(線径200 μm 以下)
素鋼線には、本発明に係る鋼組成を有する鋼線(線径5.5 〜4.5mm 程度)を用いる。この素材は、転炉法あるいはさらに真空脱ガス法等で本発明範囲内の鋼組成となるように溶製した鋼を連続鋳造法等にて鋳片となし、これを熱間圧延あるいはさらに制御冷却することにより製造される。なお、本発明では過共析鋼を対象とするから、C量が増加するにつれ、素鋼線の中心線上に、伸線加工時の断線あるいはソーワイヤとして使用時の断線の原因となる濃厚な偏析を生じ易くなる。これを防止するには、連続鋳造法において連続鍛圧等により鋳片中心部の濃厚偏析を排除するかあるいは該中心部をC≦0.80%の負偏析にすることが望ましい。
(粗伸線、中間伸線:)
粗伸線と中間伸線とは、仕上伸線での必要な加工度(減面率96%以上、好ましくは98%以上)を得るための仕上前線径を確保するためのもので、従来技術の範囲内でセブロンクラックや表面疵などの有害な欠陥が発生しない加工条件を選択して実施しうる。
【0026】
ただし、過共析鋼では、熱間圧延あるいは熱処理することにより、しばしば不良組織としての大きな初析セメンタイトがオーステナイト粒界にネット状に生成し、伸線加工性を劣化させる。これを防止するために、粗、中間のいずれか一方または両方の伸線加工の前、および/または、中間伸線後パテンチング前の段階で、球状化焼鈍または軟化焼鈍を行うことが好ましい。この球状化焼鈍または軟化焼鈍は、例えばA1 点超〜Acm点未満の温度域で適当な時間(好ましくは1時間以上)保持するパターンや、Acm点以上に加熱後A1 点超〜Acm点未満の温度域に冷却し引続きそこで保持するパターンや、A1 点の上下を往復させるパターンなどが好ましく用いうる。とくに、粗伸線後の球状化焼鈍または軟化焼鈍および中間伸線後の同焼鈍では、蓄積された伸線加工歪エネルギーにより微細球状化が進行する。
【0027】
なお、伸線加工性をさらに改善するために、粗伸線および/または中間伸線の前(該前に球状化焼鈍または軟化焼鈍を行う場合は同焼鈍の後)に、酸洗→表面処理(リン酸亜鉛被膜処理等)を行ってもよい。
(パテンチング:)
パテンチングは、オーステナイト(以下適宜γと略記する。)化処理→変態処理の順に行われる。このパテンチング処理により、鋼組織がパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織とされる。
【0028】
鋼組織を前記好適範囲(層状セメンタイトの体積率12〜30%、ベイナイトの体積率50%以下、球状セメンタイトの体積率20%以下)内とするには、γ化処理において850 〜1150℃の温度に加熱して5〜100 秒保持し、変態処理において450 〜650 ℃の温度に10〜150 秒保持することが好ましい。変態処理は、具体的には、処理温度に保った鉛浴等の変態装置に被処理材を装入(浴の場合は浸漬)し、変態完了所要時間の予測値を基に設定したタイミングで抽出するといった方法で行いうる。
【0029】
γ化処理では、十分な固溶C量を得るために温度850 ℃以上かつ保持時間5秒以上とし、一方、γ結晶粒の粗大化を抑え、表面の脱炭を抑制するために温度1150℃以下かつ保持時間100 秒以下とした。なお、γ化処理の完了時に未溶解の球状炭化物が存在してもよい。
変態処理の温度は、450 ℃未満ではパーライト組織が得難く上部ベイナイトが多くなって伸線加工性および加工後の延性が劣化し、一方、650 ℃超では強度および伸線加工性の確保に足る微細なパーライトが得難いので、450 〜650 ℃の範囲とした。保持時間は、10秒未満ではパーライト変態が不十分で、変態装置から抽出後も変態するため微細な組織にコントロールすることが難しく、一方、150 秒超では変態したパーライトに異常(セメンタイトの崩壊)が起こり易く、また生産性・設備費の面でも不利になるので、10〜150 秒の範囲とした。
【0030】
また、γ結晶粒界への初析セメンタイトの生成を極力抑制するために、γ化処理温度から変態処理温度までの冷却速度は500 ℃/s以上(より好ましくは1000℃/s以上)とすることが好ましい。
(仕上伸線:)
仕上伸線は、粗伸線および中間伸線と同様、従来技術の範囲内で実施できる。仕上伸線での伸線加工性を改善するために、仕上伸線前にブラスめっき、銅めっき等のめっきを施してもよい。
【0031】
【実施例】
(1)表1に示す化学組成になる鋼を、真空溶解により溶製、鋳造した。その各鋳片をφ5.5mm に熱間圧延し次いで制御冷却して素鋼線とした。この素鋼線を次の工程で処理して線径φ160 μm の鋼線とした。
軟化焼鈍(表2参照)→酸洗→リン酸亜鉛被膜処理→粗伸線(φ3.0mm )→球状化焼鈍(表2参照)→酸洗→リン酸亜鉛被膜処理→中間伸線(φ1.15mm)→パテンチング(表2参照)→仕上伸線(φ160 μm )
ここで、パテンチングにあたっては鋼組成に応じて処理条件(温度、時間)を変えた。
【0032】
【表1】
【0033】
仕上伸線後の鋼線について以下の調査を行った。なお、一部のものは仕上伸線で断線した。断線したものを伸線性=NG、断線しなかったものを伸線性=Gとして表2に示す。
1)断面を走査型電子顕微鏡で観察し、鋼組織がパーライト(P)またはパーライトとベイナイトの混合(P+B)組織であるものと、そうでないものとを判別した。前者を鋼組織=PまたはP+B、後者を鋼組織=othersとして表2に示す。なお、othersは、ネット状炭化物や残留γ等であった。鋼組織がPまたはP+Bであると判別されたものをさらに透過型電子顕微鏡で観察し、その観察像を画像解析して、層状セメンタイト、ベイナイト、球状セメンタイトの体積率(記号をそれぞれVL 、VB 、VC とする。)を測定した。VL の測定ではセメンタイトの板が観察面に垂直となる状態を観察できた10視野を測定対象とし、VB の測定では観察視野中のベイナイト領域数の累計が100 以上となるまで観察視野を無作為に選び、該ベイナイト領域数が100 以上となった視野数の視野を測定対象とし、VC の測定では観察視野中の球状セメンタイト個数の累計が1000個以上になるまで観察視野を無作為に選び、該球状セメンタイト個数が1000個以上となった視野数の視野を測定対象とした。
【0034】
2)伸線性=Gの鋼線についてJIS Z 2241に準拠した引張試験により引張強さTSを測定した。
3)伸線性=Gの鋼線をワイヤソーに用いて150mm 角×400mm 長さのシリコン多結晶インゴットを下記の切断条件で同時に2本切断(スライシング)し、最大摩耗量を測定した。この測定では、稼働後のワイヤ長さ方向5箇所について最少径を測定して平均し、この平均値を初期の線径から差し引いた値δ(μm )を、測定時までの稼働長L(km)との比例関係式:δ/ L×300 にて、稼働長300km とした場合に換算した値でもって、最大摩耗量を評価した。
<切断条件>
・ワイヤピッチ500 μm (切断面積=0.152 ×(400/0.5-1=799) ×2=36m2)
・ワイヤ使用長300km
・ワイヤ走行スピード600 m/min(一方向走行)
・ワイヤ張力25N
・切断速度0.40mm/min
・砥粒SiC (#1000 )を配合した油性のスラリーをかけながら切断
この調査の結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2より、本発明例では、TS3800MPa 以上の高強度が得られるとともに、比較例に比べ、最大摩耗量は小さく、スライシング中の断線は発生せず、本発明の目的が達成された。
(2)上記(1)の素鋼線(φ5.5mm )のうち、表1の鋼BおよびKに対応するするものを表3に示す条件で伸線加工(熱処理も含む)し、得られた鋼線について、(1)と同様の調査を行い、さらに、該鋼線をワイヤソーに用いて150mm 角×400mm 長さのシリコン多結晶インゴットを下記の切断条件で切断試行し、何本まで切断できるか(切断面積(m2)=0.152 ×(400/ ワイヤピッチ(mm)-1) ×切断本数)を調査した。
<切断条件>
・ワイヤピッチ500 μm
・ワイヤ使用長300km
・ワイヤ走行スピード600 m/min(一方向走行)
・ワイヤ張力25N
・切断速度0.40mm/min
・砥粒SiC (ワイヤ線径180 μm は#800、その他は#1200 )を配合した油性のスラリーをかけながら切断
この調査の結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3より、比較例では、線径180 μm で2.5 本(切断面積45m2)まで、線径140 μm で1本(切断面積18m2)までしか切断できず、線径140 μm では実用に至らなかった。これに対し、本発明例では、線径180 μm で8本(切断面積144m2 )まで、線径140 μm で5.5 本(切断面積99m2)まで、線径120 μm で5本(切断面積90m2)まで切断することができ、線径120 μm までのワイヤを実用に供し得た。
【0039】
【発明の効果】
かくして本発明によれば、引張強さ3800MPa 以上の高強度を有するとともに、稼働時の断線がなく、シリコン結晶の切断面積が90m2以上に達する高耐摩耗性を有する線径200 μm 以下のワイヤソー用鋼線が得られるという優れた効果を奏する。
Claims (2)
- 線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織としたことを特徴とする耐稼働時断線性に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線。
- 線径200 μm 以下、引張強さ3800MPa 以上のソーワイヤ用鋼線において、鋼組成を質量%で、C:0.80〜2.05%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Ni:1.6 〜10.0%、Al:0.005 %以下を含有し、かつ、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し残部がFe及び不可避的不純物からなるものとし、鋼組織をパーライトまたはパーライトとベイナイトの混合組織としたことを特徴とする耐稼働時断線性に優れた高耐摩耗性高強度ソーワイヤ用鋼線。
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