JP2004196727A - アカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤 - Google Patents
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Abstract
【目的】本発明は農作物の主要害虫として知られるアカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンを利用した交信攪乱による防除における交信攪乱製剤。
【構成】ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエートを基本的な有効成分とする。この二物質にノーマルオクチル・ノーマルブチレイトを加えた三物質で構成する場合がある。また他のカメムシ類にも有効であると考え得るアカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンを加える場合がある。
【選択図】 なし。
【構成】ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエートを基本的な有効成分とする。この二物質にノーマルオクチル・ノーマルブチレイトを加えた三物質で構成する場合がある。また他のカメムシ類にも有効であると考え得るアカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンを加える場合がある。
【選択図】 なし。
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、イネ科作物の害虫であるカメムシ類、とくに重要害虫であるアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
アカヒゲホソミドリカスミカメ(Trigonotylus caelestialium(Kirkaldy))は、イネ、麦類、トウモロコシ、およびイネ科牧草の重要害虫であり、東北地方から北海道にかけての重要種である。
【0003】
この害虫は、雑草地や水田の畦畔等で越冬し、成虫が飛翔して本田や農耕地(畑地)に浸入し増殖すると考えられており、作物の果実や葉を吸汁加害することによって、イネでは斑点米を発生させ、その他の作物でも収穫物の品質低下を発生させる。本種による被害を防ぐには、現在、有効な方法として化学農薬(殺虫剤)の散布が一般に行われている(例えば特開2002−145709)。
【0004】
一方、最近多くの害虫について性フェロモンの化学構造が明らかにされており、この性フェロモンを利用した交信攪乱剤が用いられるようになっている。例えば、特開平11−139904号公報、特開平09−194303号公報、特開2002−142640等である。これらの技術は、イネ科植物に関するものではないが、性フェロモンを利用した交信攪乱により農薬を用いることなく害虫被害を抑制している点で注目される。
【0005】
性フェロモンとは一般的に雌成虫が分泌する化学物質で、同種の雄に対して種特異的な誘引作用を持ち交尾行動の重要なプロセスに関係している。交信攪乱法とは性フェロモンを利用した防除法で、通常の雌が出す量より多い合成性フェロモンを農耕地に処理して、一連の雌による誘引や交尾行動を阻害して、増殖を抑える方法である。
【0006】
アカヒゲホソミドリカスミカメもまた雌成虫が雄成虫を誘引する性フェロモンをもつと考えられる。アカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンは、本発明者がすでに同定し終えており、結果を公表している(Kakizaki and Sugie, 2001, J. chem.Ecol.Vol.27:2447-2458.)。以下の表1に、同定結果を示す。本種の性フェロモンは、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエートおよびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトの混合物であり、残りの10物質は誘引性および誘引阻害性はないことが明らかとなっている。
【0007】
【表1】
【0008】
なお、表1で使用している物質略号(物質名)は次の通りである。
H:H、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート (n-hexyl n-hexanoate)E2H:H、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-hexenyl n-hexanoate)
O:B、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト (n-octyl n-butyrate)
H:E2H、ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート(n-hexyl (E)-2-hexenoate)
O:H、ノーマルオクチル・ノーマルヘキサノエート(n-octyl n-hexanoate)
E2O:H、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-octenyl n-hexanoate)
P:H、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート(n-pentyl n-hexanoate)
H:B、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト(n-hexyl n-butyrate)
E2H:B、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト((E)-2-hexenyl n-butyrate)
H:E2B、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート(n-hexyl (E)-2-butenoate)
H:Ac、ノーマルヘキシル・アセテート(n-hexyl acetate)
E2H:Ac、トランス−2−ヘキセニル・アセテート((E)-2-hexenyl acetate)
H:O、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエート(n-hexyl n-octanoate)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
問題は、本発明者が同定したアカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンのうち、どの成分が交信攪乱剤として有効に機能するかが不明であった点にある。交信攪乱剤は、その作用機能から狭い空間内で実験しても、その成果からは実用上の防除効果を確かめることができないからである。
【0010】
交信攪乱法では、処理区に性フェロモンを均一にただよわさなければいけないことや周辺からのアカヒゲホソミドリカスミカメの処理区内への飛込みの影響を少なくするために十分に広い面積での処理が必要であり、他の防除(農薬など)の影響もなくした試験条件での効果の確認が必要である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、アカヒゲホソミドリカスミカメを中心とするカメムシ類の性フェロモンのうち、実用的に有効な性フェロモンを特定して交信攪乱剤として利用する点にある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、かかる事情から、アカヒゲホソミドリカスミカメの性誘引物質の研究を行い、アカヒゲホソミドリカスミカメの雄が雌に誘引される行動や交尾行動を阻害する現象を確認することによって、発生密度を低く抑える有効成分を特定するに至った。本発明はこれらの知見にもとづいて完成されたものである。
【0013】
そして、前記課題を達成するため、本発明に係るアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤は、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート(n-hexyl n-hexanoate)およびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-hexenyl n-hexanoate)を有効成分とする。後述するように、この二物質が、イネ科植物の害虫防除に特に優れた効果を発揮する。
【0014】
また、これらの二物質に加えて、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト(n-octyl n-butyrate)を含む成分を交信攪乱剤とする場合がある(請求項2)。基本となる二成分に、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト(n-octyl n-butyrate)を加えた三物質構成の交信攪乱剤は、最も望ましい効果を確認した。
【0015】
ところで、このように特定した物質(有効成分および抽出物から同定された関連物質)は他のカメムシの抽出物から同定されているフェロモン関連物質と共通しているものが少なくなく、多種多様なカメムシの発生地域に応じて、当該地域に特有な害虫の性フェロモンを選択利用し、さらに有効な交信攪乱剤を提供することが可能となる。
【0016】
そこで請求項3では、以上の二種または三種の成分に加えて、ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート(n-hexyl (E)-2-hexenoate)、ノーマルオクチル
・ノーマルヘキサノエート(n-octyl n-hexanoate)、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-octenyl n-hexanoate)、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト(n-hexyl n-butyrate)、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト((E)-2-hexenyl n-butyrate)、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート(n-hexyl n-butenoate)、ノーマルヘキシル・アセテート(n-hexyl acetate)、トランス−2−ヘキセニル・アセテート((E)-2-hexenyl acetate)、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート(n-pentyl n-hexanoate)、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエート(n-hexyl n-octanoate)のうち、一成分または数成分を組み合わせて若しくは全成分を含有するよう構成する。これは、カメムシ類の発生事情に応じた最も好ましい交信攪乱剤を得るためである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態および結果を説明する。
実施形態は、アカヒゲホソミドリカスミカメの合成性フェロモン(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトを100:40:3の混合比に混ぜたもの)の50mgまたは250mgを、ポリエチレン製チューブ内(外径10mm、長さ20mm、厚さ0.4mm)に封入した交信攪乱用フェロモン製剤(以下:ディスペンサー)を作成して効果を確認したものである。
【0018】
実験室内において、飼育箱内(H28×W30×D25cm)の天上部に合成性フェロモン50mgを封入したディスペンサーを1個吊るした区と無処理区をそれぞれ3反復で設置し、それぞれの飼育箱の中にアカヒゲホソミドリカスミカメの未交尾の雌成虫50頭および雄成虫50頭を放飼し、放飼後5時間にわたり交尾ペア数を観察した。その結果(表2)、無処理区では放飼虫の交尾率が平均9.2%であったのに対して、ディスペンサー処理区では交尾が観察されず、本処理が交尾を抑制することが明らかとなった。
【0019】
【表2】
【0020】
さらに、実験室内において、飼育箱内(H28×W30×D25cm)の天上部に合成性フェロモン50mgを封入したディスペンサーを1個吊るした区と無処理区の箱を3反復で設置し、それぞれの飼育箱の中にアカヒゲホソミドリカスミカメの雌雄ほぼ同数の終齢幼虫を放飼し、成虫期間の全期間それらの中で飼育した。餌植物(コムギ)に産卵され孵化したアカヒゲホソミドリカスミカメの幼虫数を計数し、増殖倍率(孵化幼虫数/放飼虫数)を比較した。その結果(表3)、無処理区の増殖倍率は3.22倍であったのに対して、ディスペンサー処理区での増殖倍率は0.37倍と無処理区の11.5%の増殖倍率となり、性フェロモン剤の処理が増殖も抑えることが明らかとなった。
【0021】
【表3】
【0022】
次に、野外において、次のような試験を行った。アカヒゲホソミドリカスミカメが発生している6haのイネ科牧草圃場において、性フェロモンの3成分混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート50mg、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート20mg、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイト1.5mg)、それらの単成分ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート50mg、単成分トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート50mg、または主成分の2成分の混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート50mgおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート20mg)を封入した4種類のディスペンサーを作成し、それらを50cmの高さで、10m×10mの試験区に5m間隔に格子状に9本ずつ設置して処理区とし、これと併せて無処理区を設置した。
【0023】
そして、区内に未交尾雌3頭を金網かごに入れたものを誘引源とした雌トラップと、ガラス細管(内径0.021mm、長さ125mm)の中に合成性フェロモンを担持した誘引剤(Kakizaki and Sugie, 2001)を誘引源とした性フェロモントラップを配置し、アカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数を調査した。
【0024】
トラップは、径10cm、長さ40cm、5mmメッシュの網円筒の表面に粘着物質を吹きつけ地面に針金等で垂直に設置した中に誘引源を設置したもので、網表面に捕殺されたアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫を計数した。
【0025】
その結果は表4に示すように、単成分ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、単成分トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、または主成分の2成分の混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート)を封入したディスペンサーの設置区では性フェロモントラップでの雄成虫の誘殺数は、無処理区より明らかに少なくなった。
【0026】
これにより2成分の混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート)による一応の有効性が認められた。
【0027】
また、3成分混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイト)を封入したディスペンサーの設置区では、性フェロモントラップでの雄成虫の誘殺数および雌トラップでの雄成虫の誘殺数はほぼゼロとなった。このため3成分混合物は、アカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の雌成虫への誘引を効率的に阻止することがわかった。
【0028】
【表4】
【0029】
しかしながら、これらの3成分の交信攪乱剤処理による性フェロモントラップおよび雌トラップへの雄の誘引阻害効果が、直ちにアカヒゲホソミドリカスミカメの密度抑制効果(防除効果)に結びつくかどうかは不明であった。一般に、交信攪乱処理は、フェロモントラップの試験結果と防除での実用的な有効性とは、必ずしも完全に一致するわけではないからである。さらに、カメムシ類での交信攪乱法による実用的な防除効果については、確かめられた例がないからである。そこで、実用的防除に適用できるのかどうかについては、さらに厳密な試験を行う必要があった。
【0030】
このため、本発明の化合物の混合物を封入したディスペンサーを実際に広い面積で設置してアカヒゲホソミドリカスミカメに対する防除効果を試験した。その結果を表5、表6に示す。試験内容は次の通りである。
【0031】
野外において、アカヒゲホソミドリカスミカメが発生している6haのイネ科牧草圃場において、合成性フェロモン(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイト)250mgを封入したディスペンサーを50cmの高さで、10m×5mの間隔に1haに200本設置した処理区とその周辺に無処理区を設置した。その区内に前述のガラス細管の中に合成性フェロモンを担持した誘引剤(Kakizaki and Sugie, 2001)を誘引源とする性フェロモントラップによりアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数を調査し、さらに、アカヒゲホソミドリカスミカメの発生期間中に捕虫網によるすくい取り調査法により、処理区と無処理区内でのアカヒゲホソミドリカスミカメの発生密度を比較した。
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
その結果、性フェロモントラップによるアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数は無処理区に比較して処理区では捕獲されないか、または低く推移し(表5)、捕虫網によるすくい取り調査法においても、処理区でのアカヒゲホソミドリカスミカメの捕獲虫数は無処理区に比較して低く推移した(表6)。
【0035】
この結果により、本交信攪乱剤の処理によるアカヒゲホソミドリカスミカメに対するの密度抑制効果が確認され、交信攪乱剤として防除効果が優れていることが判明した。
【0036】
これらの結果、少なくとも、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトの3成分の混合物を成分とした交信攪乱剤がアカヒゲホソミドリカスミカメの交尾、増殖、雌への誘引を効率的に阻害するのに有効で、防除に有効であることを確認し、本発明に係る基本的な交信攪乱剤を完成した。
【0037】
この交信攪乱剤の物質(有効成分および残る性フェロモン関連物質)は、他のカメムシの抽出物から同定されている性フェロモン関連物質と共通しているものが少なくない。このため、イネ科作物の栽培地域に特有なカメムシ類の性フェロモンを選択的に利用し、さらに有効な交信攪乱剤を提供することが出来ると考えられる。
【0038】
このような見地から、効果が確認されたアカヒゲホソミドリカスミカメの合成性フェロモンに、他のカメムシ類からも抽出可能と考えられる性フェロモン関連物質を加えて、次のような試験を行った。
【0039】
すなわち、アカヒゲホソミドリカスミカメの合成性フェロモン(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトを100:40:3の混合比に混ぜたもの)の3成分に加え、アカヒゲホソミドリカスミカメから抽出同定されている10物質(ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート、ノーマルオクチル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート、ノーマルヘキシル・アセテート、トランス−2−ヘキセニル・アセテート、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエートを1:1:1:1:1:1:1:1:1:1の割合で加えたもの)を加えた混合物をポリエチレン製チューブ内に封入した交信攪乱用フェロモン製剤(ディスペンサー)を作成した。
【0040】
ディスペンサーの設置によるアカヒゲホソミドリカスミカメに対する誘引阻害効果の試験例で示す。野外において、アカヒゲホソミドリカスミカメが発生している6haのイネ科牧草圃場において、13物質の合成品300mgを封入したディスペンサーを50cmの高さで、10m×5mの間隔に10aに20本設置した処理区とその周辺に無処理区を設置した。
【0041】
その区内に前述のガラス細管の中に合成性フェロモンを担持した誘引剤(Kakizaki and Sugie, 2001)を誘引源とする性フェロモントラップによりアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数を調査し、処理区と無処理区内でのアカヒゲホソミドリカスミカメの捕獲数を調査した。
【0042】
【表7】
【0043】
その結果、性フェロモントラップによるアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数は無処理区に比較して処理区では少なく推移した(表7)。この結果により、性フェロモン3成分に関連物質10物質を加えた13物質を有効成分とする交信攪乱剤の処理についてもアカヒゲホソミドリカスミカメに対して同様の誘引阻害効果が確認され、交信攪乱剤として有効な防除効果があることが判明した。アカヒゲホソミドリカスミカメおよびこれらの成分を性フェロモン関連物質として持つ他のカメムシ類を同時に交信攪乱する剤として有効性が明らかとなり、請求項3に係る発明を完成した。
【0044】
本発明を実施するために使用する、フェロモン化合物を封入するディスペンサーは、特定した化合物が経時的にゆっくりと成分放散できるものであればよい。本発明に係る化合物は、各ディスペンサーに充当する使用量が少量で、作物に直接触れることなく、揮発性である。ディスペンサーは、徐々に揮発する成分の揮発性を保証しつつ外気を遮断して封入できるもの、例えば、比較的肉薄のポリエチレンチューブ(肉厚0.01〜2mm程度)や容器を用いる。また、適当な担体(例えば各種合成高分子体、天然ゴム、合成ゴムなど)に吸着させたり、これらの担体素材の成形物に封入した形態で使用してもよい。
【0045】
有効成分の含有率および比率は適宜に定めることができる。担体素材形成物に封入する場合や吸着させる場合には、ディスペンサー1個当たり合成性フェロモンの量は0.1mg〜100gの範囲で、圃場には合成性フェロモン量で0.001g〜1Kg/10a相当量の範囲で設置ができる。
【0046】
本発明の交信攪乱剤の使用にあたっては、ブチルヒドロキシトルエン、ビタミンE等の抗酸化剤や2−ヒドロキシー4−オクトキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤等を適量加えても良い。
【0047】
このような有効成分を含有する担体あるいは担体素材形成物は、適当な支持体(鉄線や針金など)によって、圃場内の作物体のやや上方に設置するのが望ましい。設置場所は、アカヒゲホソミドリカスミカメが発生する水田、イネ科作物を栽培する畑や牧草地など農耕地および発生源となる周辺雑草地である。
【0048】
【発明の効果】
本発明による交信攪乱剤は、アカヒゲホソミドリカスミカメに対する防除効果が高く、長期間有効であり、既存の農薬による防除法に比べて、作物に直接散布することなく少量で効果があり、安全性の高い有効な方法である。また、カメムシ類を対象とした交信攪乱剤としては国内では他に例がない。
【産業上の利用分野】
本発明は、イネ科作物の害虫であるカメムシ類、とくに重要害虫であるアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
アカヒゲホソミドリカスミカメ(Trigonotylus caelestialium(Kirkaldy))は、イネ、麦類、トウモロコシ、およびイネ科牧草の重要害虫であり、東北地方から北海道にかけての重要種である。
【0003】
この害虫は、雑草地や水田の畦畔等で越冬し、成虫が飛翔して本田や農耕地(畑地)に浸入し増殖すると考えられており、作物の果実や葉を吸汁加害することによって、イネでは斑点米を発生させ、その他の作物でも収穫物の品質低下を発生させる。本種による被害を防ぐには、現在、有効な方法として化学農薬(殺虫剤)の散布が一般に行われている(例えば特開2002−145709)。
【0004】
一方、最近多くの害虫について性フェロモンの化学構造が明らかにされており、この性フェロモンを利用した交信攪乱剤が用いられるようになっている。例えば、特開平11−139904号公報、特開平09−194303号公報、特開2002−142640等である。これらの技術は、イネ科植物に関するものではないが、性フェロモンを利用した交信攪乱により農薬を用いることなく害虫被害を抑制している点で注目される。
【0005】
性フェロモンとは一般的に雌成虫が分泌する化学物質で、同種の雄に対して種特異的な誘引作用を持ち交尾行動の重要なプロセスに関係している。交信攪乱法とは性フェロモンを利用した防除法で、通常の雌が出す量より多い合成性フェロモンを農耕地に処理して、一連の雌による誘引や交尾行動を阻害して、増殖を抑える方法である。
【0006】
アカヒゲホソミドリカスミカメもまた雌成虫が雄成虫を誘引する性フェロモンをもつと考えられる。アカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンは、本発明者がすでに同定し終えており、結果を公表している(Kakizaki and Sugie, 2001, J. chem.Ecol.Vol.27:2447-2458.)。以下の表1に、同定結果を示す。本種の性フェロモンは、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエートおよびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトの混合物であり、残りの10物質は誘引性および誘引阻害性はないことが明らかとなっている。
【0007】
【表1】
【0008】
なお、表1で使用している物質略号(物質名)は次の通りである。
H:H、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート (n-hexyl n-hexanoate)E2H:H、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-hexenyl n-hexanoate)
O:B、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト (n-octyl n-butyrate)
H:E2H、ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート(n-hexyl (E)-2-hexenoate)
O:H、ノーマルオクチル・ノーマルヘキサノエート(n-octyl n-hexanoate)
E2O:H、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-octenyl n-hexanoate)
P:H、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート(n-pentyl n-hexanoate)
H:B、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト(n-hexyl n-butyrate)
E2H:B、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト((E)-2-hexenyl n-butyrate)
H:E2B、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート(n-hexyl (E)-2-butenoate)
H:Ac、ノーマルヘキシル・アセテート(n-hexyl acetate)
E2H:Ac、トランス−2−ヘキセニル・アセテート((E)-2-hexenyl acetate)
H:O、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエート(n-hexyl n-octanoate)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
問題は、本発明者が同定したアカヒゲホソミドリカスミカメの性フェロモンのうち、どの成分が交信攪乱剤として有効に機能するかが不明であった点にある。交信攪乱剤は、その作用機能から狭い空間内で実験しても、その成果からは実用上の防除効果を確かめることができないからである。
【0010】
交信攪乱法では、処理区に性フェロモンを均一にただよわさなければいけないことや周辺からのアカヒゲホソミドリカスミカメの処理区内への飛込みの影響を少なくするために十分に広い面積での処理が必要であり、他の防除(農薬など)の影響もなくした試験条件での効果の確認が必要である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、アカヒゲホソミドリカスミカメを中心とするカメムシ類の性フェロモンのうち、実用的に有効な性フェロモンを特定して交信攪乱剤として利用する点にある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、かかる事情から、アカヒゲホソミドリカスミカメの性誘引物質の研究を行い、アカヒゲホソミドリカスミカメの雄が雌に誘引される行動や交尾行動を阻害する現象を確認することによって、発生密度を低く抑える有効成分を特定するに至った。本発明はこれらの知見にもとづいて完成されたものである。
【0013】
そして、前記課題を達成するため、本発明に係るアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤は、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート(n-hexyl n-hexanoate)およびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-hexenyl n-hexanoate)を有効成分とする。後述するように、この二物質が、イネ科植物の害虫防除に特に優れた効果を発揮する。
【0014】
また、これらの二物質に加えて、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト(n-octyl n-butyrate)を含む成分を交信攪乱剤とする場合がある(請求項2)。基本となる二成分に、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト(n-octyl n-butyrate)を加えた三物質構成の交信攪乱剤は、最も望ましい効果を確認した。
【0015】
ところで、このように特定した物質(有効成分および抽出物から同定された関連物質)は他のカメムシの抽出物から同定されているフェロモン関連物質と共通しているものが少なくなく、多種多様なカメムシの発生地域に応じて、当該地域に特有な害虫の性フェロモンを選択利用し、さらに有効な交信攪乱剤を提供することが可能となる。
【0016】
そこで請求項3では、以上の二種または三種の成分に加えて、ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート(n-hexyl (E)-2-hexenoate)、ノーマルオクチル
・ノーマルヘキサノエート(n-octyl n-hexanoate)、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-octenyl n-hexanoate)、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト(n-hexyl n-butyrate)、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト((E)-2-hexenyl n-butyrate)、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート(n-hexyl n-butenoate)、ノーマルヘキシル・アセテート(n-hexyl acetate)、トランス−2−ヘキセニル・アセテート((E)-2-hexenyl acetate)、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート(n-pentyl n-hexanoate)、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエート(n-hexyl n-octanoate)のうち、一成分または数成分を組み合わせて若しくは全成分を含有するよう構成する。これは、カメムシ類の発生事情に応じた最も好ましい交信攪乱剤を得るためである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態および結果を説明する。
実施形態は、アカヒゲホソミドリカスミカメの合成性フェロモン(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトを100:40:3の混合比に混ぜたもの)の50mgまたは250mgを、ポリエチレン製チューブ内(外径10mm、長さ20mm、厚さ0.4mm)に封入した交信攪乱用フェロモン製剤(以下:ディスペンサー)を作成して効果を確認したものである。
【0018】
実験室内において、飼育箱内(H28×W30×D25cm)の天上部に合成性フェロモン50mgを封入したディスペンサーを1個吊るした区と無処理区をそれぞれ3反復で設置し、それぞれの飼育箱の中にアカヒゲホソミドリカスミカメの未交尾の雌成虫50頭および雄成虫50頭を放飼し、放飼後5時間にわたり交尾ペア数を観察した。その結果(表2)、無処理区では放飼虫の交尾率が平均9.2%であったのに対して、ディスペンサー処理区では交尾が観察されず、本処理が交尾を抑制することが明らかとなった。
【0019】
【表2】
【0020】
さらに、実験室内において、飼育箱内(H28×W30×D25cm)の天上部に合成性フェロモン50mgを封入したディスペンサーを1個吊るした区と無処理区の箱を3反復で設置し、それぞれの飼育箱の中にアカヒゲホソミドリカスミカメの雌雄ほぼ同数の終齢幼虫を放飼し、成虫期間の全期間それらの中で飼育した。餌植物(コムギ)に産卵され孵化したアカヒゲホソミドリカスミカメの幼虫数を計数し、増殖倍率(孵化幼虫数/放飼虫数)を比較した。その結果(表3)、無処理区の増殖倍率は3.22倍であったのに対して、ディスペンサー処理区での増殖倍率は0.37倍と無処理区の11.5%の増殖倍率となり、性フェロモン剤の処理が増殖も抑えることが明らかとなった。
【0021】
【表3】
【0022】
次に、野外において、次のような試験を行った。アカヒゲホソミドリカスミカメが発生している6haのイネ科牧草圃場において、性フェロモンの3成分混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート50mg、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート20mg、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイト1.5mg)、それらの単成分ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート50mg、単成分トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート50mg、または主成分の2成分の混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート50mgおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート20mg)を封入した4種類のディスペンサーを作成し、それらを50cmの高さで、10m×10mの試験区に5m間隔に格子状に9本ずつ設置して処理区とし、これと併せて無処理区を設置した。
【0023】
そして、区内に未交尾雌3頭を金網かごに入れたものを誘引源とした雌トラップと、ガラス細管(内径0.021mm、長さ125mm)の中に合成性フェロモンを担持した誘引剤(Kakizaki and Sugie, 2001)を誘引源とした性フェロモントラップを配置し、アカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数を調査した。
【0024】
トラップは、径10cm、長さ40cm、5mmメッシュの網円筒の表面に粘着物質を吹きつけ地面に針金等で垂直に設置した中に誘引源を設置したもので、網表面に捕殺されたアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫を計数した。
【0025】
その結果は表4に示すように、単成分ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、単成分トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、または主成分の2成分の混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート)を封入したディスペンサーの設置区では性フェロモントラップでの雄成虫の誘殺数は、無処理区より明らかに少なくなった。
【0026】
これにより2成分の混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート)による一応の有効性が認められた。
【0027】
また、3成分混合物(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイト)を封入したディスペンサーの設置区では、性フェロモントラップでの雄成虫の誘殺数および雌トラップでの雄成虫の誘殺数はほぼゼロとなった。このため3成分混合物は、アカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の雌成虫への誘引を効率的に阻止することがわかった。
【0028】
【表4】
【0029】
しかしながら、これらの3成分の交信攪乱剤処理による性フェロモントラップおよび雌トラップへの雄の誘引阻害効果が、直ちにアカヒゲホソミドリカスミカメの密度抑制効果(防除効果)に結びつくかどうかは不明であった。一般に、交信攪乱処理は、フェロモントラップの試験結果と防除での実用的な有効性とは、必ずしも完全に一致するわけではないからである。さらに、カメムシ類での交信攪乱法による実用的な防除効果については、確かめられた例がないからである。そこで、実用的防除に適用できるのかどうかについては、さらに厳密な試験を行う必要があった。
【0030】
このため、本発明の化合物の混合物を封入したディスペンサーを実際に広い面積で設置してアカヒゲホソミドリカスミカメに対する防除効果を試験した。その結果を表5、表6に示す。試験内容は次の通りである。
【0031】
野外において、アカヒゲホソミドリカスミカメが発生している6haのイネ科牧草圃場において、合成性フェロモン(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイト)250mgを封入したディスペンサーを50cmの高さで、10m×5mの間隔に1haに200本設置した処理区とその周辺に無処理区を設置した。その区内に前述のガラス細管の中に合成性フェロモンを担持した誘引剤(Kakizaki and Sugie, 2001)を誘引源とする性フェロモントラップによりアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数を調査し、さらに、アカヒゲホソミドリカスミカメの発生期間中に捕虫網によるすくい取り調査法により、処理区と無処理区内でのアカヒゲホソミドリカスミカメの発生密度を比較した。
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
その結果、性フェロモントラップによるアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数は無処理区に比較して処理区では捕獲されないか、または低く推移し(表5)、捕虫網によるすくい取り調査法においても、処理区でのアカヒゲホソミドリカスミカメの捕獲虫数は無処理区に比較して低く推移した(表6)。
【0035】
この結果により、本交信攪乱剤の処理によるアカヒゲホソミドリカスミカメに対するの密度抑制効果が確認され、交信攪乱剤として防除効果が優れていることが判明した。
【0036】
これらの結果、少なくとも、ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトの3成分の混合物を成分とした交信攪乱剤がアカヒゲホソミドリカスミカメの交尾、増殖、雌への誘引を効率的に阻害するのに有効で、防除に有効であることを確認し、本発明に係る基本的な交信攪乱剤を完成した。
【0037】
この交信攪乱剤の物質(有効成分および残る性フェロモン関連物質)は、他のカメムシの抽出物から同定されている性フェロモン関連物質と共通しているものが少なくない。このため、イネ科作物の栽培地域に特有なカメムシ類の性フェロモンを選択的に利用し、さらに有効な交信攪乱剤を提供することが出来ると考えられる。
【0038】
このような見地から、効果が確認されたアカヒゲホソミドリカスミカメの合成性フェロモンに、他のカメムシ類からも抽出可能と考えられる性フェロモン関連物質を加えて、次のような試験を行った。
【0039】
すなわち、アカヒゲホソミドリカスミカメの合成性フェロモン(ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエートおよびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート、およびノーマルオクチル・ノーマルブチレイトを100:40:3の混合比に混ぜたもの)の3成分に加え、アカヒゲホソミドリカスミカメから抽出同定されている10物質(ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート、ノーマルオクチル・ノーマルヘキサノエート、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート、ノーマルヘキシル・アセテート、トランス−2−ヘキセニル・アセテート、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエートを1:1:1:1:1:1:1:1:1:1の割合で加えたもの)を加えた混合物をポリエチレン製チューブ内に封入した交信攪乱用フェロモン製剤(ディスペンサー)を作成した。
【0040】
ディスペンサーの設置によるアカヒゲホソミドリカスミカメに対する誘引阻害効果の試験例で示す。野外において、アカヒゲホソミドリカスミカメが発生している6haのイネ科牧草圃場において、13物質の合成品300mgを封入したディスペンサーを50cmの高さで、10m×5mの間隔に10aに20本設置した処理区とその周辺に無処理区を設置した。
【0041】
その区内に前述のガラス細管の中に合成性フェロモンを担持した誘引剤(Kakizaki and Sugie, 2001)を誘引源とする性フェロモントラップによりアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数を調査し、処理区と無処理区内でのアカヒゲホソミドリカスミカメの捕獲数を調査した。
【0042】
【表7】
【0043】
その結果、性フェロモントラップによるアカヒゲホソミドリカスミカメの雄成虫の誘殺数は無処理区に比較して処理区では少なく推移した(表7)。この結果により、性フェロモン3成分に関連物質10物質を加えた13物質を有効成分とする交信攪乱剤の処理についてもアカヒゲホソミドリカスミカメに対して同様の誘引阻害効果が確認され、交信攪乱剤として有効な防除効果があることが判明した。アカヒゲホソミドリカスミカメおよびこれらの成分を性フェロモン関連物質として持つ他のカメムシ類を同時に交信攪乱する剤として有効性が明らかとなり、請求項3に係る発明を完成した。
【0044】
本発明を実施するために使用する、フェロモン化合物を封入するディスペンサーは、特定した化合物が経時的にゆっくりと成分放散できるものであればよい。本発明に係る化合物は、各ディスペンサーに充当する使用量が少量で、作物に直接触れることなく、揮発性である。ディスペンサーは、徐々に揮発する成分の揮発性を保証しつつ外気を遮断して封入できるもの、例えば、比較的肉薄のポリエチレンチューブ(肉厚0.01〜2mm程度)や容器を用いる。また、適当な担体(例えば各種合成高分子体、天然ゴム、合成ゴムなど)に吸着させたり、これらの担体素材の成形物に封入した形態で使用してもよい。
【0045】
有効成分の含有率および比率は適宜に定めることができる。担体素材形成物に封入する場合や吸着させる場合には、ディスペンサー1個当たり合成性フェロモンの量は0.1mg〜100gの範囲で、圃場には合成性フェロモン量で0.001g〜1Kg/10a相当量の範囲で設置ができる。
【0046】
本発明の交信攪乱剤の使用にあたっては、ブチルヒドロキシトルエン、ビタミンE等の抗酸化剤や2−ヒドロキシー4−オクトキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤等を適量加えても良い。
【0047】
このような有効成分を含有する担体あるいは担体素材形成物は、適当な支持体(鉄線や針金など)によって、圃場内の作物体のやや上方に設置するのが望ましい。設置場所は、アカヒゲホソミドリカスミカメが発生する水田、イネ科作物を栽培する畑や牧草地など農耕地および発生源となる周辺雑草地である。
【0048】
【発明の効果】
本発明による交信攪乱剤は、アカヒゲホソミドリカスミカメに対する防除効果が高く、長期間有効であり、既存の農薬による防除法に比べて、作物に直接散布することなく少量で効果があり、安全性の高い有効な方法である。また、カメムシ類を対象とした交信攪乱剤としては国内では他に例がない。
Claims (3)
- ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート(n-hexyl n-hexanoate)およびトランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-hexenyl n-hexanoate)を有効成分とするアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤。
- ノーマルヘキシル・ノーマルヘキサノエート(n-hexyl n-hexanoate)と、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-hexenyl n-hexanoate)と、ノーマルオクチル・ノーマルブチレイト(n-octyl n-butyrate)とを有効成分とする請求項1記載のアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤。
- ノーマルヘキシル・トランス−2−ヘキセノエート(n-hexyl (E)-2-hexenoate)、ノーマルオクチル・ノーマルヘキサノエート(n-octyl n-hexanoate)、トランス−2−オクテニル・ノーマルヘキサノエート((E)-2-octenyl n-hexanoate)、ノーマルヘキシル・ノーマルブチレイト(n-hexyl n-butyrate)、トランス−2−ヘキセニル・ノーマルブチレイト((E)-2-hexenyl n-butyrate)、ノーマルヘキシル・トランス−2−ブテノエート(n-hexyl n-butenoate)、ノーマルヘキシル・アセテート(n-hexyl acetate)、トランス−2−ヘキセニル・アセテート((E)-2-hexenyl acetate)、ノーマルペンチル・ノーマルヘキサノエート(n-pentyl n-hexanoate)、ノーマルヘキシル・ノーマルオクタノエート(n-hexyl n-octanoate)のうち、一成分または数成分を組み合わせて若しくは全成分を含有する請求項1または請求項2記載のアカヒゲホソミドリカスミカメの交信攪乱剤。
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