JP2004189576A - セラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】比表面積を飛躍的に高め、触媒の担持性、吸着性や耐酸化性の機能を持つ炭化ケイ素系多孔質構造材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を、空気中で仮焼して過剰の炭素を除いた後、焼成して酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させ、それを焼成することにより、セラミックスで被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材を得る。
【選択図】 なし
【解決手段】開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を、空気中で仮焼して過剰の炭素を除いた後、焼成して酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させ、それを焼成することにより、セラミックスで被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材を得る。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコンと炭素との反応により得られるハニカムあるいはスポンジ状の連続多孔質の形状を保持した軽量耐熱性の炭化ケイ素系多孔質構造体の表面を、他のセラミックスで被覆してなる多孔質構造材、およびその製造方法に関するものであり、更に具体的には、被覆されたセラミックスによって比表面積が増大され、あるいは他の機能を付加された炭化ケイ素系多孔質構造材で、高温用触媒担体、高温用フィルター、あるいは溶融金属濾過材等の用途に適する軽量耐熱性の多孔質構造材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化ケイ素系セラミックスは、軽量で、耐熱性、耐磨耗性、耐食性に優れていることから、高温耐食部材、ヒーター材、耐磨耗部材や、さらには研削材、砥石などの用途に幅広く用いられている。この炭化ケイ素系セラミックスは、主に焼結技術によって製造されているため、焼結のための焼結助剤や1600℃以上の高温、特殊な成形技術、あるいは硬度の高い炭化ケイ素を加工するためなどに特別な装置を必要とする。
【0003】
近年、このような炭化ケイ素系セラミックスの特性を用いて軽量の多孔質構造体となし、高温用フィルター、溶融金属濾過材、ヒーター材等として用いる試みがなされている。例えば、非特許文献1に示されているブリジストン社では、スポンジに炭化ケイ素粉末スラリーを含浸後、余剰のスラリーを除去、乾燥、焼成して、多孔質炭化ケイ素構造材を作成し、溶融金属用セラミックフォームフィルターとして使用することを試みている。また、非特許文献2に示されている東海カーボン社では、非特許文献1と同様の方法で得た多孔質炭化ケイ素構造体を、ヒーターとして使用することを試みている。しかし、これらの方法では、含浸によってスポンジの骨格に付着したセラミックス粉末が焼結によって多孔質構造を形成するものであるため、乾燥、焼成中の亀裂の発生や成形体の崩壊を防ぐために、スポンジの骨格に厚めにスラリーを付着させる必要がある。その結果、スポンジの開口径が小さくなると必然的に密度の高い多孔質構造材しか製造できず、また、ある程度以下の開口径になると多孔質構造の骨格そのものの形成が困難になるという欠点がある。
【0004】
ハニカム構造をもつ炭化ケイ素焼結体も押し出し成形法で製造されているが、成形機およびそれに用いる金型が高価であり、形状もその金型によって決められてしまうという欠点がある。
【0005】
本発明者は、特許文献1に示されている方法を開発し、その明細書において、ダンボールまたはスポンジ状の炭化ケイ素系多孔質構造材を容易かつ安価な方法で製造できることを明らかにした。すなわち、ダンボールもしくはスポンジ状の有形骨格に、炭素源として樹脂類およびシリコンを含んだスラリーを含浸させた後、反応焼結させ、炭化ケイ素を生成させると同時に開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体を得、さらに、同一加熱処理中にこの多孔質構造体にシリコンを溶融含浸する方法である。ダンボールあるいはスポンジは加工が容易なことから、スラリーを含浸する前に加工しておけば、任意の形状の炭化ケイ素系多孔質複合構造材を得ることができ、また、適当な形状を持つダンボール状のセラミックスは、ハニカム構造と同じ働きをすることが可能である。
【0006】
しかし、この炭化ケイ素系多孔質構造材の比表面積は、0.27m2/gと十分なものではなく、触媒担体や吸着用フィルターとして使用されるためには比表面積を増加させる必要があった。さらに、この材料を高温用触媒担体として使用しようとする場合、炭化ケイ素あるいはシリコンは担持させる触媒との相性が悪く、良好な担持を実現するためにはその表面が酸化物セラミックスである方が望ましいことが分かった。したがって、高温用触媒担体、高温用フィルターとしてさらに広範囲の利用に耐えるためには、これらの点を改善する必要がある。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−226174号公報
【非特許文献1】
ブリジストン社カタログS−023、セラミックフォーム技術資料N0.2
【非特許文献2】
水野 善章、「多孔質炭化ケイ素ヒーター」、セラミックス、vol.33、No.7、p.534-537 (1998).
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記実状に鑑み、本発明の課題は、従来の炭化ケイ素系多孔質構造材の特性を改善し、比表面積の増加や、触媒の担持性、吸着性の付与、耐酸化性の向上等を実現して、高温用触媒担体、高温用フィルター、ヒーター等としても有効に利用できる炭化ケイ素系多孔質構造材及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明に係る炭化ケイ素系多孔質構造材は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体における過剰な炭素が、空気中での仮焼により除かれており、上記炭化ケイ素系多孔質構造体が、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸して焼成することにより得られる酸化物セラミックスで被覆されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を空気中で仮焼して、過剰の炭素を除いた後、焼成して酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させ、それを焼成することにより、上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の好ましい実施形態においては、上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体が、真空あるいは不活性雰囲気下での焼成後に炭素等の無機物が残存し、その形状を保持する有形骨格を持つ多孔質構造体に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだスラリーを含浸させた後、真空あるいは不活性雰囲気下において900〜1300℃で炭素化し、その炭素化多孔質構造体を、真空あるいは不活性雰囲気下において1300℃以上の温度で焼成して、該多孔質構造体に炭化ケイ素及び体積減少反応に起因する開気孔を生成させると共に、シリコンを溶融含浸して製造される。
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態においては、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液として、水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液のいずれか、あるいはそれらの複数の混合物、あるいは、第2成分となるセラミックスまたは金属等の無機粉末を懸濁したスラリー、及び焼成後第2成分となる物質の可溶性の塩類を加えた溶液のいずれかまたは双方を含んでいるものが用いられる。
【0013】
更に、本発明の好ましい実施形態においては、有形骨格を持つ多孔質構造体の材料として、段ボール若しくは厚紙等の紙類、木材、藁若しくは竹等の植物類、織布、不織布、あるいはスポンジ形状、シート状や筒状の多孔質プラスティックを用いられ、有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させる樹脂類として、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機ケイ素ポリマーまたはピッチから選ばれた少なくとも1種類が用いられる。
【0014】
また、本発明の好ましい実施形態においては、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに、添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末またはカーボンブラックが、骨材あるいは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素およびホウ素から選ばれた少なくとも1種の粉末が添加される。
【0015】
更に、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに含ませるシリコン粉末としては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができ、また、上記開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融含浸するシリコンとしては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の製造方法およびそれによって得られる炭化ケイ素系多孔質構造材の好適な実施形態について説明する。
本発明のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆して製造するため、まず、該炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体の製造方法を説明する。
【0017】
上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体の製造においては、まず、溶解した炭素源としてのフェノール樹脂等とシリコン粉末を混合したスラリーを、段ボール等の多孔質構造体に十分に塗布し、あるいはそのスラリーに多孔質構造体を浸して含浸させた後、乾燥する。この乾燥は、約70℃で12時間程度行うのが望まれる。
上記多孔質構造体は、真空あるいは不活性雰囲気下での焼成後に炭素等の無機物が残存し、その形状を保持して有形骨格を構成するものであり、段ボール若しくは厚紙等の紙類、木材、藁若しくは竹等の植物類、織布、不織布、あるいはスポンジ形状、シート状や筒状の多孔質プラスティックを用いることができる。
【0018】
また、多孔質構造体の有形骨格に含浸させる樹脂類としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機ケイ素ポリマーまたはピッチから選ばれた少なくとも1種類を用いることができ、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーには、炭素粉末、黒鉛粉末またはカーボンブラック等の添加剤その他を添加することができる。
上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーには、骨材あるいは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素およびホウ素から選ばれた少なくとも1種の粉末を添加することができる。
【0019】
更に、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに含ませるシリコン粉末としては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができる。
上記シリコン粉末としては、微粉末が適しており、特に平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミル等により粉砕して微粉化すればよい。
【0020】
次に、上記によって得られた多孔質構造体を、真空あるいはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、900〜1300℃程度の温度において炭素化する。これによって得られる炭素化複合体においては、有機物の多孔質構造体は熱分解しており、骨格部分は熱分解後の炭素を含む無機物とフェノール樹脂の炭素化による炭素部分と、シリコン粉末が混ざりあっている状態になり、骨格部分の形状も、元の形状と同じである。また、炭素化した多孔質構造体は加工可能な程度の強度がある。
【0021】
この炭素化した多孔質構造体は、真空あるいはアルゴンなどの不活性雰囲気下で1300℃以上の温度において焼成処理し、炭素とシリコンとを反応させて炭化ケイ素を構造体の有形骨格部分上に形成させる。同時に、この反応が体積減少反応であるため、その体積減少反応に起因する開気孔が生成される。その結果、マトリックス部が、気孔を有する炭化ケイ素により形成された炭化ケイ素系多孔質構造体を得る。
【0022】
次に、この炭化ケイ素系多孔質構造体を、真空あるいは不活性雰囲気下において1300〜1800℃程度の温度に加熱し、骨格上にあるポーラスな炭化ケイ素と炭素部分にシリコンを溶融含浸することにより、炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体が得られる。
上記シリコンを溶融含浸させる熱処理は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体を作成してから行っても良いが、上記シリコンと炭素の反応焼結処理とシリコンの溶融含浸を同じ熱処理で行っても良く、また、炭素化を含めた全ての熱処理を同じ熱処理で行っても良い。
上記炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融含浸するシリコンとしては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができる。
【0023】
次に、上記方法で製造された炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆する方法を説明する。
上記方法で製造された炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体は、炭化、焼成とも真空あるいはアルゴン等の不活性雰囲気中で行われるため、未反応の炭素が残留することが多いが、酸化物セラミックスをコーティングする場合、この炭素が雰囲気あるいは酸化物中の酸素と反応して皮膜を損なう可能性があるため、炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を空気中で仮焼して過剰の炭素を予め酸化し除いておく必要がある。
また、この炭素を除去する処理は、多孔質構造体表面のシリコンをわずかに酸化させて極薄いシリカの膜を生成させることにより、コーティングする酸化物セラミックスの付着を容易にするという利点もある。
【0024】
段ボール等を有形骨格として用いる場合、それらにフィラーとしてカルシウム化合物等の無機物を含有しているものがあるが、このような物質は炭化、焼成後も灰分として残留するので、この灰分が皮膜となるセラミックスの特性を低下させる可能性がある場合は、塩酸洗浄等適当な方法で予め除去しておくことが望ましい。
【0025】
次に、このようにして過剰の炭素を除いた炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させる。
上記焼成により酸化物セラミックスとなる溶液としては、水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液のいずれか、あるいはそれらの複数の混合物を用いることができる。これらの水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液等は、どのような濃度でも含浸することは可能であるが、あまり希薄すぎると、比表面積の増加等の効果に乏しく、また、あまり濃厚すぎると多孔質構造体骨格に厚く付着しすぎて、乾燥時に皮膜の割れを招くことから、溶質となる水酸化物の種類によって異なるものの、概ね酸化物に換算して0.5〜50重量%が望ましい。
焼成して酸化物セラミックスとなる溶液には、第2成分となるセラミックスまたは金属等の無機粉末を懸濁したスラリー、あるいは焼成後第2成分となる物質の可溶性の塩類を加えた溶液のいずれかまたは双方を加えることもできる。
【0026】
上記水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液としては、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、アルキルシリケートをそれそれ加水分解して得た水溶液を用いることができる。
また、上記水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液等に混合して使用する無機粉末としては、特に制限はないが、通常耐熱セラミックスとして使われるもの、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等があり、またそれらの2種以上を混合して、あるいはそれらの焼結助剤、粒成長抑制剤等となる粉末、例えば、イットリア、マグネシア等を同時に混合して用いることができる。
【0027】
多孔質炭化ケイ素構造体への水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液等の含浸は、適当に成形した炭化ケイ素構造体をそれら溶液中に浸漬するだけで充分であるが、大型あるいは異形の部材について、より確実に行いたい場合は減圧容器を用いて行うことが望ましい。
【0028】
その後、上記焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸した炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体は、乾燥させた後、空気中で焼成することにより該多孔質構造体の表面に酸化物セラミックスを生成させる。
このようにして製造された炭化ケイ素系多孔質構造材は、軽量耐熱性のの炭化ケイ素系多孔質構造体の表面全体が比表面積の大きい酸化物セラミックスで被覆されているため、その比表面積を飛躍的に高めることができる。
また、該酸化物セラミックス膜は、構造材が酸化雰囲気中で使用される際には酸化のバリアーとなり、しかも、炭化ケイ素あるいはシリコンに比して触媒の担持性や吸着性が格段に良いため、炭化ケイ素系多孔質構造材に触媒の担持性、吸着性や耐酸化性の機能を持たせることができる。
【0029】
【実施例】
次に、実施例により本発明の方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
シリコン粉末52.5gおよびフェノール樹脂25.0gをエタノール50.0gに溶解し、ボールミルで20時間混合した。次に、このスラリーに約10×10×50mmに成形した3枚重ねの段ボールを浸漬した後、風乾した。乾燥後の成形体は、アルゴン雰囲気中、1000℃で焼成して炭化した。得られた炭素質多孔体を真空中で1450℃まで昇温して保持し、反応焼結とシリコンの溶融含浸を同時に行い、段ボール形状の炭化ケイ素多孔質構造体を得た。
別途、アルミニウムイソプロポキシド10gを沸騰蒸留水約100mlに加え、1時間加熱して加水分解し、イソプロパノールを除いて約50mlに濃縮した後、冷却した。冷却後の溶液に希塩酸を加えpH3に調整した後20時間撹拌して解膠し、水酸化アルミニウムゾル水溶液を得た。
【0031】
次いで、先に作成した多孔質炭化ケイ素構造体を、空気中で1000℃、1時間加熱して過剰の炭素を除いた後、この水酸化アルミニウムゾル水溶液に浸漬して水酸化アルミニウムを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で900℃、1時間加熱してアルミナ皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。この多孔質構造体の重量は、水酸化アルミニウムゾル水溶液含浸前に比べて0.151g増加しており、その比表面積は2.94m2/gで、元の多孔質構造体の0.27m2/gに比べて10倍以上増加した。
【0032】
[実施例2]
シリコン粉末52.5gおよびフェノール樹脂25.0gをエタノール50.0gに溶解し、ボールミルで20時間混合した。約10×20×50mmに成形したスポンジを、このスラリーに浸漬した後、余分なスラリーを絞って風乾し、乾燥後の成形体を、アルゴン雰囲気中、1000℃で焼成して炭化した。得られた炭素質多孔体を真空中で1450℃まで昇温して保持し、反応焼結とシリコンの溶融含浸を同時に行い、スポンジ状の炭化ケイ素多孔質構造材を得た。
別途、アルミニウムイソプロポキシド16gを沸騰蒸留水約100mlに加え、1時間加熱して加水分解し、イソプロパノールを除いて約50mlに濃縮した後、冷却した。冷却後の溶液に希塩酸を加えてpH3に調整した後、20時間撹拌して解膠し、水酸化アルミニウムゾル水溶液を得た。
【0033】
次いで、先に作成した多孔質炭化ケイ素構造体を、空気中で1000℃、1時間加熱して過剰の炭素を除いた後、この水酸化アルミニウムゾル水溶液に浸漬して水酸化アルミニウムを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で600℃、1時間加熱してアルミナ皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。炭素除去後の多孔質構造体の重量は1.615g、水酸化アルミニウム含浸、焼成後の重量は1.713gで、約0.1gのアルミナ皮膜を構造体に被覆することができた。
【0034】
[実施例3]
チタニウムイソプロポキシド10.5gを蒸留水約100mlに撹拌しながら徐々に加え、加水分解した。加水分解後の白濁液を加熱してイソプロパノールを除き、約50mlに濃縮して冷却した。冷却後の溶液に希塩酸を加え、pH3に調整した後、20時間撹拌して解膠し、水酸化チタニウムゾル水溶液を得た。
実施例1と同様にして過剰の炭素を除いた段ボール状炭化ケイ素多孔質構造体を、この溶液に浸漬して水酸化チタニウムを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で500℃、2時間加熱して酸化チタン皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。炭素除去後の多孔質構造体の重量は1.507g、水酸化チタニウム含浸、焼成後の重量は1.614gで、約0.1gの酸化チタン皮膜を構造体に被覆することができた。
【0035】
[実施例4]
エチルシリケート14.0gをpH3の希塩酸約100mlに加え、エチルシリケートの油相が消失するまで撹拌して加水分解した。加水分解後の溶液を加熱して約50mlに濃縮して冷却したシリカゾル水溶液を得た。実施例1と同様にして過剰の炭素を除いた炭化ケイ素多孔質構造体をこの溶液に浸漬して、シリカゾルを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で800℃、2時間加熱してシリカ皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。炭素除去後の多孔質構造体の重量は1.462g、シリカゾル含浸、焼成後の重量は1.551gで、約0.1gのシリカ皮膜を構造体に被覆することができた。
【0036】
【発明の効果】
以上に詳述した本発明によれば、比表面積を飛躍的に高めることができ、また、触媒の担持性や吸着性や耐酸化性の機能を持つ、セラミックスで被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材及びその製造方法を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコンと炭素との反応により得られるハニカムあるいはスポンジ状の連続多孔質の形状を保持した軽量耐熱性の炭化ケイ素系多孔質構造体の表面を、他のセラミックスで被覆してなる多孔質構造材、およびその製造方法に関するものであり、更に具体的には、被覆されたセラミックスによって比表面積が増大され、あるいは他の機能を付加された炭化ケイ素系多孔質構造材で、高温用触媒担体、高温用フィルター、あるいは溶融金属濾過材等の用途に適する軽量耐熱性の多孔質構造材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化ケイ素系セラミックスは、軽量で、耐熱性、耐磨耗性、耐食性に優れていることから、高温耐食部材、ヒーター材、耐磨耗部材や、さらには研削材、砥石などの用途に幅広く用いられている。この炭化ケイ素系セラミックスは、主に焼結技術によって製造されているため、焼結のための焼結助剤や1600℃以上の高温、特殊な成形技術、あるいは硬度の高い炭化ケイ素を加工するためなどに特別な装置を必要とする。
【0003】
近年、このような炭化ケイ素系セラミックスの特性を用いて軽量の多孔質構造体となし、高温用フィルター、溶融金属濾過材、ヒーター材等として用いる試みがなされている。例えば、非特許文献1に示されているブリジストン社では、スポンジに炭化ケイ素粉末スラリーを含浸後、余剰のスラリーを除去、乾燥、焼成して、多孔質炭化ケイ素構造材を作成し、溶融金属用セラミックフォームフィルターとして使用することを試みている。また、非特許文献2に示されている東海カーボン社では、非特許文献1と同様の方法で得た多孔質炭化ケイ素構造体を、ヒーターとして使用することを試みている。しかし、これらの方法では、含浸によってスポンジの骨格に付着したセラミックス粉末が焼結によって多孔質構造を形成するものであるため、乾燥、焼成中の亀裂の発生や成形体の崩壊を防ぐために、スポンジの骨格に厚めにスラリーを付着させる必要がある。その結果、スポンジの開口径が小さくなると必然的に密度の高い多孔質構造材しか製造できず、また、ある程度以下の開口径になると多孔質構造の骨格そのものの形成が困難になるという欠点がある。
【0004】
ハニカム構造をもつ炭化ケイ素焼結体も押し出し成形法で製造されているが、成形機およびそれに用いる金型が高価であり、形状もその金型によって決められてしまうという欠点がある。
【0005】
本発明者は、特許文献1に示されている方法を開発し、その明細書において、ダンボールまたはスポンジ状の炭化ケイ素系多孔質構造材を容易かつ安価な方法で製造できることを明らかにした。すなわち、ダンボールもしくはスポンジ状の有形骨格に、炭素源として樹脂類およびシリコンを含んだスラリーを含浸させた後、反応焼結させ、炭化ケイ素を生成させると同時に開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体を得、さらに、同一加熱処理中にこの多孔質構造体にシリコンを溶融含浸する方法である。ダンボールあるいはスポンジは加工が容易なことから、スラリーを含浸する前に加工しておけば、任意の形状の炭化ケイ素系多孔質複合構造材を得ることができ、また、適当な形状を持つダンボール状のセラミックスは、ハニカム構造と同じ働きをすることが可能である。
【0006】
しかし、この炭化ケイ素系多孔質構造材の比表面積は、0.27m2/gと十分なものではなく、触媒担体や吸着用フィルターとして使用されるためには比表面積を増加させる必要があった。さらに、この材料を高温用触媒担体として使用しようとする場合、炭化ケイ素あるいはシリコンは担持させる触媒との相性が悪く、良好な担持を実現するためにはその表面が酸化物セラミックスである方が望ましいことが分かった。したがって、高温用触媒担体、高温用フィルターとしてさらに広範囲の利用に耐えるためには、これらの点を改善する必要がある。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−226174号公報
【非特許文献1】
ブリジストン社カタログS−023、セラミックフォーム技術資料N0.2
【非特許文献2】
水野 善章、「多孔質炭化ケイ素ヒーター」、セラミックス、vol.33、No.7、p.534-537 (1998).
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記実状に鑑み、本発明の課題は、従来の炭化ケイ素系多孔質構造材の特性を改善し、比表面積の増加や、触媒の担持性、吸着性の付与、耐酸化性の向上等を実現して、高温用触媒担体、高温用フィルター、ヒーター等としても有効に利用できる炭化ケイ素系多孔質構造材及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明に係る炭化ケイ素系多孔質構造材は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体における過剰な炭素が、空気中での仮焼により除かれており、上記炭化ケイ素系多孔質構造体が、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸して焼成することにより得られる酸化物セラミックスで被覆されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を空気中で仮焼して、過剰の炭素を除いた後、焼成して酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させ、それを焼成することにより、上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の好ましい実施形態においては、上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体が、真空あるいは不活性雰囲気下での焼成後に炭素等の無機物が残存し、その形状を保持する有形骨格を持つ多孔質構造体に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだスラリーを含浸させた後、真空あるいは不活性雰囲気下において900〜1300℃で炭素化し、その炭素化多孔質構造体を、真空あるいは不活性雰囲気下において1300℃以上の温度で焼成して、該多孔質構造体に炭化ケイ素及び体積減少反応に起因する開気孔を生成させると共に、シリコンを溶融含浸して製造される。
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態においては、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液として、水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液のいずれか、あるいはそれらの複数の混合物、あるいは、第2成分となるセラミックスまたは金属等の無機粉末を懸濁したスラリー、及び焼成後第2成分となる物質の可溶性の塩類を加えた溶液のいずれかまたは双方を含んでいるものが用いられる。
【0013】
更に、本発明の好ましい実施形態においては、有形骨格を持つ多孔質構造体の材料として、段ボール若しくは厚紙等の紙類、木材、藁若しくは竹等の植物類、織布、不織布、あるいはスポンジ形状、シート状や筒状の多孔質プラスティックを用いられ、有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させる樹脂類として、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機ケイ素ポリマーまたはピッチから選ばれた少なくとも1種類が用いられる。
【0014】
また、本発明の好ましい実施形態においては、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに、添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末またはカーボンブラックが、骨材あるいは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素およびホウ素から選ばれた少なくとも1種の粉末が添加される。
【0015】
更に、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに含ませるシリコン粉末としては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができ、また、上記開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融含浸するシリコンとしては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の製造方法およびそれによって得られる炭化ケイ素系多孔質構造材の好適な実施形態について説明する。
本発明のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆して製造するため、まず、該炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体の製造方法を説明する。
【0017】
上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体の製造においては、まず、溶解した炭素源としてのフェノール樹脂等とシリコン粉末を混合したスラリーを、段ボール等の多孔質構造体に十分に塗布し、あるいはそのスラリーに多孔質構造体を浸して含浸させた後、乾燥する。この乾燥は、約70℃で12時間程度行うのが望まれる。
上記多孔質構造体は、真空あるいは不活性雰囲気下での焼成後に炭素等の無機物が残存し、その形状を保持して有形骨格を構成するものであり、段ボール若しくは厚紙等の紙類、木材、藁若しくは竹等の植物類、織布、不織布、あるいはスポンジ形状、シート状や筒状の多孔質プラスティックを用いることができる。
【0018】
また、多孔質構造体の有形骨格に含浸させる樹脂類としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機ケイ素ポリマーまたはピッチから選ばれた少なくとも1種類を用いることができ、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーには、炭素粉末、黒鉛粉末またはカーボンブラック等の添加剤その他を添加することができる。
上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーには、骨材あるいは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素およびホウ素から選ばれた少なくとも1種の粉末を添加することができる。
【0019】
更に、上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに含ませるシリコン粉末としては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができる。
上記シリコン粉末としては、微粉末が適しており、特に平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミル等により粉砕して微粉化すればよい。
【0020】
次に、上記によって得られた多孔質構造体を、真空あるいはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、900〜1300℃程度の温度において炭素化する。これによって得られる炭素化複合体においては、有機物の多孔質構造体は熱分解しており、骨格部分は熱分解後の炭素を含む無機物とフェノール樹脂の炭素化による炭素部分と、シリコン粉末が混ざりあっている状態になり、骨格部分の形状も、元の形状と同じである。また、炭素化した多孔質構造体は加工可能な程度の強度がある。
【0021】
この炭素化した多孔質構造体は、真空あるいはアルゴンなどの不活性雰囲気下で1300℃以上の温度において焼成処理し、炭素とシリコンとを反応させて炭化ケイ素を構造体の有形骨格部分上に形成させる。同時に、この反応が体積減少反応であるため、その体積減少反応に起因する開気孔が生成される。その結果、マトリックス部が、気孔を有する炭化ケイ素により形成された炭化ケイ素系多孔質構造体を得る。
【0022】
次に、この炭化ケイ素系多孔質構造体を、真空あるいは不活性雰囲気下において1300〜1800℃程度の温度に加熱し、骨格上にあるポーラスな炭化ケイ素と炭素部分にシリコンを溶融含浸することにより、炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体が得られる。
上記シリコンを溶融含浸させる熱処理は、開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体を作成してから行っても良いが、上記シリコンと炭素の反応焼結処理とシリコンの溶融含浸を同じ熱処理で行っても良く、また、炭素化を含めた全ての熱処理を同じ熱処理で行っても良い。
上記炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融含浸するシリコンとしては、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いることができる。
【0023】
次に、上記方法で製造された炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆する方法を説明する。
上記方法で製造された炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体は、炭化、焼成とも真空あるいはアルゴン等の不活性雰囲気中で行われるため、未反応の炭素が残留することが多いが、酸化物セラミックスをコーティングする場合、この炭素が雰囲気あるいは酸化物中の酸素と反応して皮膜を損なう可能性があるため、炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を空気中で仮焼して過剰の炭素を予め酸化し除いておく必要がある。
また、この炭素を除去する処理は、多孔質構造体表面のシリコンをわずかに酸化させて極薄いシリカの膜を生成させることにより、コーティングする酸化物セラミックスの付着を容易にするという利点もある。
【0024】
段ボール等を有形骨格として用いる場合、それらにフィラーとしてカルシウム化合物等の無機物を含有しているものがあるが、このような物質は炭化、焼成後も灰分として残留するので、この灰分が皮膜となるセラミックスの特性を低下させる可能性がある場合は、塩酸洗浄等適当な方法で予め除去しておくことが望ましい。
【0025】
次に、このようにして過剰の炭素を除いた炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させる。
上記焼成により酸化物セラミックスとなる溶液としては、水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液のいずれか、あるいはそれらの複数の混合物を用いることができる。これらの水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液等は、どのような濃度でも含浸することは可能であるが、あまり希薄すぎると、比表面積の増加等の効果に乏しく、また、あまり濃厚すぎると多孔質構造体骨格に厚く付着しすぎて、乾燥時に皮膜の割れを招くことから、溶質となる水酸化物の種類によって異なるものの、概ね酸化物に換算して0.5〜50重量%が望ましい。
焼成して酸化物セラミックスとなる溶液には、第2成分となるセラミックスまたは金属等の無機粉末を懸濁したスラリー、あるいは焼成後第2成分となる物質の可溶性の塩類を加えた溶液のいずれかまたは双方を加えることもできる。
【0026】
上記水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液としては、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、アルキルシリケートをそれそれ加水分解して得た水溶液を用いることができる。
また、上記水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液等に混合して使用する無機粉末としては、特に制限はないが、通常耐熱セラミックスとして使われるもの、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等があり、またそれらの2種以上を混合して、あるいはそれらの焼結助剤、粒成長抑制剤等となる粉末、例えば、イットリア、マグネシア等を同時に混合して用いることができる。
【0027】
多孔質炭化ケイ素構造体への水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液等の含浸は、適当に成形した炭化ケイ素構造体をそれら溶液中に浸漬するだけで充分であるが、大型あるいは異形の部材について、より確実に行いたい場合は減圧容器を用いて行うことが望ましい。
【0028】
その後、上記焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸した炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体は、乾燥させた後、空気中で焼成することにより該多孔質構造体の表面に酸化物セラミックスを生成させる。
このようにして製造された炭化ケイ素系多孔質構造材は、軽量耐熱性のの炭化ケイ素系多孔質構造体の表面全体が比表面積の大きい酸化物セラミックスで被覆されているため、その比表面積を飛躍的に高めることができる。
また、該酸化物セラミックス膜は、構造材が酸化雰囲気中で使用される際には酸化のバリアーとなり、しかも、炭化ケイ素あるいはシリコンに比して触媒の担持性や吸着性が格段に良いため、炭化ケイ素系多孔質構造材に触媒の担持性、吸着性や耐酸化性の機能を持たせることができる。
【0029】
【実施例】
次に、実施例により本発明の方法をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
シリコン粉末52.5gおよびフェノール樹脂25.0gをエタノール50.0gに溶解し、ボールミルで20時間混合した。次に、このスラリーに約10×10×50mmに成形した3枚重ねの段ボールを浸漬した後、風乾した。乾燥後の成形体は、アルゴン雰囲気中、1000℃で焼成して炭化した。得られた炭素質多孔体を真空中で1450℃まで昇温して保持し、反応焼結とシリコンの溶融含浸を同時に行い、段ボール形状の炭化ケイ素多孔質構造体を得た。
別途、アルミニウムイソプロポキシド10gを沸騰蒸留水約100mlに加え、1時間加熱して加水分解し、イソプロパノールを除いて約50mlに濃縮した後、冷却した。冷却後の溶液に希塩酸を加えpH3に調整した後20時間撹拌して解膠し、水酸化アルミニウムゾル水溶液を得た。
【0031】
次いで、先に作成した多孔質炭化ケイ素構造体を、空気中で1000℃、1時間加熱して過剰の炭素を除いた後、この水酸化アルミニウムゾル水溶液に浸漬して水酸化アルミニウムを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で900℃、1時間加熱してアルミナ皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。この多孔質構造体の重量は、水酸化アルミニウムゾル水溶液含浸前に比べて0.151g増加しており、その比表面積は2.94m2/gで、元の多孔質構造体の0.27m2/gに比べて10倍以上増加した。
【0032】
[実施例2]
シリコン粉末52.5gおよびフェノール樹脂25.0gをエタノール50.0gに溶解し、ボールミルで20時間混合した。約10×20×50mmに成形したスポンジを、このスラリーに浸漬した後、余分なスラリーを絞って風乾し、乾燥後の成形体を、アルゴン雰囲気中、1000℃で焼成して炭化した。得られた炭素質多孔体を真空中で1450℃まで昇温して保持し、反応焼結とシリコンの溶融含浸を同時に行い、スポンジ状の炭化ケイ素多孔質構造材を得た。
別途、アルミニウムイソプロポキシド16gを沸騰蒸留水約100mlに加え、1時間加熱して加水分解し、イソプロパノールを除いて約50mlに濃縮した後、冷却した。冷却後の溶液に希塩酸を加えてpH3に調整した後、20時間撹拌して解膠し、水酸化アルミニウムゾル水溶液を得た。
【0033】
次いで、先に作成した多孔質炭化ケイ素構造体を、空気中で1000℃、1時間加熱して過剰の炭素を除いた後、この水酸化アルミニウムゾル水溶液に浸漬して水酸化アルミニウムを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で600℃、1時間加熱してアルミナ皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。炭素除去後の多孔質構造体の重量は1.615g、水酸化アルミニウム含浸、焼成後の重量は1.713gで、約0.1gのアルミナ皮膜を構造体に被覆することができた。
【0034】
[実施例3]
チタニウムイソプロポキシド10.5gを蒸留水約100mlに撹拌しながら徐々に加え、加水分解した。加水分解後の白濁液を加熱してイソプロパノールを除き、約50mlに濃縮して冷却した。冷却後の溶液に希塩酸を加え、pH3に調整した後、20時間撹拌して解膠し、水酸化チタニウムゾル水溶液を得た。
実施例1と同様にして過剰の炭素を除いた段ボール状炭化ケイ素多孔質構造体を、この溶液に浸漬して水酸化チタニウムを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で500℃、2時間加熱して酸化チタン皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。炭素除去後の多孔質構造体の重量は1.507g、水酸化チタニウム含浸、焼成後の重量は1.614gで、約0.1gの酸化チタン皮膜を構造体に被覆することができた。
【0035】
[実施例4]
エチルシリケート14.0gをpH3の希塩酸約100mlに加え、エチルシリケートの油相が消失するまで撹拌して加水分解した。加水分解後の溶液を加熱して約50mlに濃縮して冷却したシリカゾル水溶液を得た。実施例1と同様にして過剰の炭素を除いた炭化ケイ素多孔質構造体をこの溶液に浸漬して、シリカゾルを含浸させた。含浸後の成形体を80℃で24時間乾燥した後、空気中で800℃、2時間加熱してシリカ皮膜を多孔質構造体表面に生成させた。炭素除去後の多孔質構造体の重量は1.462g、シリカゾル含浸、焼成後の重量は1.551gで、約0.1gのシリカ皮膜を構造体に被覆することができた。
【0036】
【発明の効果】
以上に詳述した本発明によれば、比表面積を飛躍的に高めることができ、また、触媒の担持性や吸着性や耐酸化性の機能を持つ、セラミックスで被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材及びその製造方法を提供することができる。
Claims (14)
- 開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体における過剰な炭素が、空気中での仮焼により除かれており、
上記炭化ケイ素系多孔質構造体が、焼成により酸化物セラミックスとなる溶液を含浸して焼成することにより得られる酸化物セラミックスで被覆されている、ことを特徴とするセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材。 - 上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体が、真空あるいは不活性雰囲気下での焼成後に炭素等の無機物が残存し、その形状を保持する有形骨格を持つ多孔質構造体に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだスラリーを含浸させて焼成することにより、多孔質構造体に炭化ケイ素及び体積減少反応に起因する開気孔を生成させると共に、シリコンを溶融含浸して形成したものである、
ことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材。 - 焼成により酸化物セラミックスとなる溶液が、水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液のいずれか、あるいはそれらの複数の混合物である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材。 - 焼成により酸化物セラミックスとなる溶液が、第2成分となるセラミックスまたは金属等の無機粉末を懸濁したスラリー、及び焼成後第2成分となる物質の可溶性の塩類を加えた溶液のいずれかまたは双方を含んでいる、
ことを特徴とする請求項3に記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材。 - 開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体にシリコンを溶融含浸して得た炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を空気中で仮焼して、過剰の炭素を除いた後、焼成して酸化物セラミックスとなる溶液を含浸させ、それを焼成することにより、上記炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体に酸化物セラミックスを被覆する、
ことを特徴とするセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 炭化ケイ素系耐熱性多孔質構造体を、真空あるいは不活性雰囲気下での焼成後に炭素等の無機物が残存し、その形状を保持する有形骨格を持つ多孔質構造体に、炭素源としての樹脂類及びシリコン粉末を含んだスラリーを含浸させた後、真空あるいは不活性雰囲気下において900〜1300℃で炭素化し、その炭素化多孔質構造体を、真空あるいは不活性雰囲気下において1300℃以上の温度で焼成して、該多孔質構造体に炭化ケイ素及び体積減少反応に起因する開気孔を生成させると共に、シリコンを溶融含浸して製造する、
ことを特徴とする請求項5に記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 焼成して酸化物セラミックスとなる溶液が、水酸化アルミニウムゾル水溶液、水酸化チタニウムゾル水溶液、シリカゾル水溶液のいずれか、あるいはそれらの複数の混合物である、
ことを特徴とする請求項5または6に記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 上記焼成して酸化物セラミックスとなる溶液が、第2成分となるセラミックスまたは金属等の無機粉末を懸濁したスラリー、及び焼成後第2成分となる物質の可溶性の塩類を加えた溶液のいずれかまたは双方を含んでいる、
ことを特徴とする請求項7に記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 有形骨格を持つ多孔質構造体の材料として、段ボール若しくは厚紙等の紙類、木材、藁若しくは竹等の植物類、織布、不織布、あるいはスポンジ形状、シート状や筒状の多孔質プラスティックを用いる、
ことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させる樹脂類として、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機ケイ素ポリマー及びピッチから選ばれた少なくとも1種類を用いる、
ことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに、添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末またはカーボンブラックを加える、
ことを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 上記有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに、骨材あるいは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素及びホウ素から選ばれた少なくとも1種の粉末を添加する、
ことを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 有形骨格を持つ多孔質構造体に含浸させるスラリーに含ませるシリコン粉末として、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いる、
ことを特徴とする請求項6〜12のいずれかに記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。 - 開気孔を生成させた炭化ケイ素系多孔質構造体に溶融含浸するシリコンとして、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンあるいはタングステンから選ばれた少なくとも1種のシリコン合金、またはそれらの少なくとも1種とシリコン粉末の混合物を用いる、
ことを特徴とする請求項5〜12のいずれかに記載のセラミックス被覆された炭化ケイ素系多孔質構造材の製造方法。
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