JP2004184392A - 強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法 - Google Patents

強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】小さい磁界強度での非破壊的な測定で、格子欠陥の種類とその量をより詳しく計測し、強磁性構造材の経年劣化をより正確かつ総合的に評価する。
【解決手段】強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法において、評価情報取得工程で、予め、測定対象の強磁性構造材と同種の材料について、引張試験を行った結果に応じて負荷応力σを与えて得た基準ヒステリシス・マイナーループから、物理量の相関関係(例えばHcと1/χ との関係)を得る。また測定工程で、測定対象の強磁性構造材について得た測定ヒステリシス・マイナーループから物理量の測定値(例えばHc,1/χ )を求める。そして評価工程で、それら測定値と上記物理量の相関関係から強磁性構造材の経年劣化を評価する。各マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい磁界強度の範囲内で、材料に印加する最大磁界を段階的に変化させて強磁性構造材の磁束密度を測定することにより得られた磁界強度と磁束密度との関係から最大磁界ごとに得る。
【選択図】 図40

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、強磁性構造材またはそれを用いた強磁性構造体の経年による材料強度劣化を非破壊的に測定し、定量的に求める方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の一般的な非破壊検査方法は全て、亀裂の発生とその進展を調べることを目的としていた。その結果、現在の非破壊検査方法の発展の方向は、できる限り小さい亀裂の発生を発見することにあり、かかる従来の非破壊検査方法では、亀裂が発生する前の段階での非破壊検査は行なうことができなかった。
【0003】
ところで、強磁性構造材またはそれを用いた強磁性構造体の経年劣化による材料強度を非破壊的に測定する方法として従来から、測定対象の強磁性構造材または強磁性構造体の保磁力および飽和磁化領域における磁化率を測定する方法が知られている。
【0004】
しかし上記従来の方法では、飽和するまで磁化するのにその材料の保磁力よりも遥かに大きな磁界を必要とすることから、大型の磁気ヨークを用いて励磁巻線に大きな励磁電流を流さなければならなかった。それゆえ測定装置の大型化やコストが嵩むという問題点があった。
【0005】
そこで本願発明者は、上記問題点を解決するために、被測定対象の強磁性構造材または強磁性構造体についての、帯磁率(磁化率)χ及び磁界強度Hから得られる帯磁率係数(磁化率の係数)c(=χ)と応力σとの関係から経年劣化を測定する方法(例えば、特許文献1参照)や、保磁力と磁化率との比と、保磁力との関係から材料の経年劣化を測定する方法(例えば、特許文献2参照)を提案した。
【0006】
【特許文献1】
特許第158182号公報
【特許文献2】
特許第3300810号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、かかる被測定対象の強磁性構造材料等の保磁力及び帯磁率係数cを測定する方法では、経年劣化のより詳細な情報を得ることはできなかった。なぜならば、ヒステリシスループから得られる保磁力及び保磁力と磁化率との比はともに、材料に印加する磁界強度の最大値が飽和磁界強度に達して、強磁性構造材料内部の磁壁が最も移動し易くなった状態においてその磁壁の移動の際に格子欠陥から磁壁が受ける最大の力により現れる情報であり、帯磁率係数cも限られた範囲での磁界による情報であって、これらは経年劣化の一部分の情報にすぎないからである。それゆえ、保磁力によって、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの最大値から経年劣化の情報を得ることは出来ても、そのポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることは出来なかった。従って、上記従来技術のいずれの方法によっても、材料内部の個々の欠陥の形態を識別することは困難であるという問題点があった。
【0008】
しかも、保磁力と磁化率との比により経年劣化を評価する場合、それら磁気的物理量を求めるためには保磁力以上の比較的大きな磁界強度が必要である。また、帯磁率係数cにより経年劣化を評価する方法では、より正確に経年劣化を評価するためには理想的なヒステリシスループを求めることが望ましく、磁界強度の最大値をさらに低くすることは困難であった。従って、上記従来技術のいずれの方法によっても、より低い磁界強度での測定により正確かつ詳細な情報を得ることは困難であるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、強磁性構造材またはそれを用いた強磁性構造体の経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とをより詳しく計測し、より小さい磁界強度での測定により、材料の経年劣化をより正確かつ総合的に評価することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
この発明は、強磁性構造材の経年劣化を非破壊で定量的に測定する方法において、あらかじめ、測定対象の強磁性構造材と同種の強磁性材料について、引張試験を行い応力と歪との関係を得て、前記同種の強磁性材料に、前記応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力σを与えて測定した基準ヒステリシス・マイナーループから、前記強磁性構造材の経年劣化の評価情報となる物理量の相関関係を得る評価情報取得工程と、前記測定対象の強磁性構造材について測定にて対象ヒステリシス・マイナーループを得て、前記対象ヒステリシス・マイナーループから、前記物理量の測定値を得る測定工程と、前記評価情報取得工程で得た前記物理量の相関関係に基づいて、前記測定工程で得られた前記物理量の測定値から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価する評価工程と、を具えてなり、前記各ヒステリシス・マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい前記磁界強度Hの範囲内で、材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXを段階的に変化させて強磁性構造材の磁束密度Bを測定することにより得られた前記磁界強度Hと前記磁束密度Bとの関係から、前記磁界強度Hの最大値HMAXごとに得るものである。
【0011】
上記本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法によれば、ヒステリシス・マイナーループから得られる物理量が、後述するように、いずれも転位などの格子欠陥の量に敏感な物理量であり、従来のヒステリシスループから得られる保磁力等の物理量よりも感度や精度の面で優れている。例えば、ヒステリシス・マイナーループから得られる物理量の相関関係である、保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ とは、後述するように、最大磁界HMAXを変化させることにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を求めることができる。従って、かかる物理量の相関関係から、経年劣化のより詳細な情報を得ることができ、材料内部の個々の欠陥の形態を識別することができる。
【0012】
しかも、ヒステリシス・マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい磁界強度Hの範囲内で、材料に印加する磁界強度Hの最大値HMAXを段階的に変化させて強磁性構造材の磁束密度Bを測定することにより得られた磁界強度Hと磁束密度Bとの関係から、磁界強度Hの最大値HMAXごとに得るものである。従って、本発明の測定方法によれば、より低い磁界強度での測定により、強磁性構造材またはそれを用いた強磁性構造体の経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とをより詳しく計測し得て、材料の経年劣化を、より詳細、正確かつ総合的に評価することができる。
【0013】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、前記物理量の相関関係が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係および、前記擬保磁力Hcにおける前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率χ の逆数1/χ と前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第2の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと、前記擬保磁力Hcにおける前記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率χ の逆数1/χ との値であっても良い。
【0014】
ここで、本発明の測定方法における作用及び効果を実際に行なった試験データに基づき説明する。鉄鋼材料の機械的性質と磁気的性質の相関関係を明らかにするため、原子炉圧力容器の材料である低合金鋼A533Bの試験材料と平均結晶粒径37[μm]の多結晶純鉄のそれぞれについて、引張試験を行なった後に、後述するヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なった。図1(a)は、引張試験に用いた試料の形状を示し、図1(b)はヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験に用いた試料の形状を示す。また表1は、試験に用いた低合金鋼A533Bの化学組成を示す。そして図2は引張試験の試験データより得られた低合金鋼A533Bの応力―ひずみ曲線を示す。引張試験を行なった結果、ここでの試料は、負荷応力σを663[MPa]よりも大きくしたときに破断した。
【0015】
【表1】
Figure 2004184392
【0016】
なお、上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験とは、材料に印加する磁界強度Hの最大値(以下、「最大磁界」という。)HMAXが飽和磁化よりも小さな磁界(保磁力の2倍程度の磁界強度)を材料に加えて測定することにより、例えば図3に示すような、ヒステリシスループに相当する曲線(以下、「ヒステリシス・マイナーループ」という。)を得るために行なう試験をいう。このヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験は、本願発明者が、一般的に磁界を飽和する(保磁力の数倍〜十倍程度の磁界強度)まで加えて測定することによりヒステリシスループを得るために行なうヒステリシス磁化特性試験と区別するために便宜的に用いたものである。また本明細書では、ヒステリシスループから求められる保磁力および磁化率との区別のため、ヒステリシス・マイナーループにおいて、保磁力に相当するもの、即ち、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値を擬保磁力Hcといい、磁化率に相当するもの、即ち、擬保磁力Hcにおけるヒステリシス・マイナーループの傾きを擬磁化率χ (=ΔB/ΔH)という(図3参照)。擬保磁力及び擬磁化率は、磁界強度Hの関数で磁界強度Hが十分大きい場合はそれぞれ保磁力、磁化率と一致する。
【0017】
そして、先に行なった引張試験の結果に基づいて所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した材料について、最大磁界HMAXを段階的に変化させて上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。
【0018】
図4及び図5は、低合金鋼A533Bについてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験で得られた、応力を加える前(σ=0[MPa])および、応力を加えた後(σ=550,580,663[MPa])の、材料の変形に伴うヒステリシス・マイナーループ磁化特性の変化である。ここで、図4は、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係についての変形応力依存性を示し、図5は、擬磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係についての変形応力依存性を示す。また、上記負荷応力σの値は、先に引張試験を行った結果をもとにして、応力を加える前(σ=0[MPa])、破断直前の応力(σ=663[MPa])、およびそれらの間の応力(σ=550,580[MPa])を選んでおり、図4及び図5では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0019】
なお、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性は、最大磁界HMAXを0[Oe]から60[Oe]程度までの間で段階的に増加させてその都度測定して得たものであるが、材料によっては最大磁界HMAXを10[Oe]程度にしても良い。特に、原子炉圧力容器の場合、従来の測定方法では50〜100[Oe]程度の磁界強度Hが必要であるところ、本発明の測定方法によれば、経年劣化の正確かつ詳細な情報を得るためには60[Oe]程度の最大磁界HMAXが望ましいことが分かった。しかし、この場合でも、20[Oe]程度の最大磁界HMAXまで測定すれば、従来の測定方法よりも経年劣化に関する詳細な情報が得られることを後で説明する。また、ここでは最大磁界HMAXの増加幅を1[Oe]にして測定したが、最大磁界HMAXの増加幅をさらに小さくして測定するとそれだけ情報量が多くなることはもちろんである。
【0020】
図6は、図4及び図5に示す関係から得られた擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係を示す説明図である。図7は、図6に示す関係を、擬磁化率の逆数1/χ が0〜4[Oe/gauss(エルステッド/ガウス)]の範囲で拡大して示す拡大図である。なお、図6及び図7も、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0021】
図6及び図7に示すように、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係は、負荷応力(変形応力)σの増加とともに変化することが分かる。なお、図6及び図7中、応力負荷663[MPa]での擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係は、試料が破断する寸前の関係である。また図7に示すように、各負荷応力σについての曲線の最大磁界HMAXを最も大きくしたとき(ここでは最大磁界HMAXを60[Oe]にしたとき)の値(曲線の先端部)を結ぶと同じ種類の合金は1つの直線X−Y上にのることも分かる。
【0022】
このことから、変形応力(内部応力に置き換えることも可能である。)と、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。
【0023】
なお、低合金鋼A533B以外の強磁性構造材についても、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係は転位密度の増加により上記低合金鋼A533Bと同じように変化し、また、鉄鋼材料の結晶粒の大きさ、析出物、微量添加元素などによっても変化することが判明した。
【0024】
一方、図8は、平均結晶粒径37[μm]の純鉄について引張試験およびヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られた、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係についての変形応力依存性を示す。ここでの負荷応力σの値は、引張試験の結果に基づいて、0[MPa]及び283〜330[MPa]の範囲で設定し、図8では、負荷応力σ=0,283,311,319,325,326,330[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角,黒菱形,アスタリスク,バツ印でそれぞれプロットしている。なお、ここでは最大磁界HMAXを15[Oe]で測定している。
【0025】
図8に示すように、各負荷応力σの曲線の、最大磁界HMAXを大きくしたとき(ここでは最大磁界HMAXを15[Oe]にしたとき)の値(曲線の先端部)を結ぶと、粒径の大きさが同じ合金も1つの直線X−Y上にのることが分かる。また、先に低合金鋼A533Bの場合で説明したように、図8からも、同じ種類の材料の、最大磁界HMAXを大きくしたときの値を結ぶと、直線X−Y上にのることが分かる。
【0026】
しかも、図8に示す純鉄のデータと先に図7に示した低合金鋼A533Bのデータとは、別の傾向を持ち、別の直線、即ち、傾き及び横軸(擬保磁力Hcの座標軸)の交点Yの異なる直線X−Yが得られることも分かる。さらにこのことについて詳細に調べてみたところ、交点Yでの擬磁力Hcの値は結晶粒径の大きさが小さいほど大きい値となることが判明した。従って、この結果を利用することにより、異なった結晶粒径や析出物をもつ材料の分類もできる。
【0027】
なお、上記測定方法では、亀裂が発生する前段階での転位密度およびその分布の変化を非破壊的に検査するに際して、負荷応力σ、即ち、変形応力を変数に取っているが、この変形応力と転位密度との間には密接な相関があることが従来から分かっている。つまり、一般に変形の初期では応力と転位密度とは比例し、変形の中期及び後期では応力は転位密度の平方根に比例する。そして、局所的に転位密度が最大に達し亀裂が発生し、破壊に至る。従って、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係における変形応力依存性から転位密度の変化を知ることができる。
【0028】
また、上記図7や図8に示した、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係から分かるように、この関係全体を測定により求めなくとも、以下に示すように経年劣化の評価が可能である。
【0029】
即ち、擬保磁力Hcの値が小さい部分の比較によっても経年劣化の進行状態が分かる。例えば図6及び図7は、60[Oe]まで最大磁界HMAXを加えて求められた関係であるが、20[Oe]までの最大磁界HMAXでも、擬保磁力Hc=8[Oe]以下での、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係(例えば、図6では破線C1の左側の部分、図7では一点鎖線C2の左側の部分)が得られ、この関係から、材料の経年劣化の評価を十分に行なうことができる。
【0030】
さらに、図9は、図6,図7の関係から得られた、擬保磁力Hc=8[Oe](図6では破線C1,図7では一点鎖線C2)における変形応力σ[MPa]と擬磁化率の逆数1/χ との関係を示す説明図である。この図9に示す関係線図によれば、小さな磁界により計測して得られた関係から、測定対象の材料についてマイナーループ磁化特性試験により測定を行なって、擬磁化率の逆数1/χ の値を得れば、これにより、経年劣化の程度や転位密度の変化を知ることもできる。つまり、このことは小さな磁界により計測した情報からでも材料の経年劣化を十分に評価できることを意味する。
【0031】
ところで、ヒステリシスループにおいて、磁化率の逆数は材料内の磁壁の移動のしにくさを表し、保磁力はその磁化率において磁壁が運動を始める閾値を表し、その磁壁移動のポテンシャルエネルギーは転位、結晶粒界、析出物、その他の格子欠陥により作られることが知られている。これに対して、本発明における擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ とは、ヒステリシスループにおける保磁力Hcと磁化率とにそれぞれ対応することが本願発明者により確かめられた。それゆえ、最大磁界HMAXを変化させることにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像をとらえることができる。
【0032】
従って、上記構成の本発明の測定方法によれば、評価情報取得工程で得た、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図4に示す関係)及び擬磁化率の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係である第2の関係(例えば上記図5に示す関係)に基づいて、磁壁が受ける力の大きさ及びその分布を求めることができるから、経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化できる。
【0033】
これにより、測定工程で得られた、測定対象の強磁性構造材の擬保磁力Hcおよび擬磁化率の逆数1/χ の値と上記第1の関係及び第2の関係とを評価することで、その原子炉圧力容器等の測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態として経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とを詳しく計測することができる。従って、材料の経年劣化をより詳細、正確かつ総合的に評価することができる。しかも、評価情報取得工程及び測定工程では、保磁力の2倍程度の最大磁界HMAXまで測定して得たマイナーループから擬保磁力及び擬磁化率χ を求めることができるから、より低い磁界強度で測定を行なうことができる。
【0034】
従って、これまでの方法ではヒステリシスループを求める際に比較的大きな磁界50〜100[Oe]が必要であったが、本発明によれば20[Oe]以下の磁界でも経年劣化に関する十分な情報を得ることが可能である。
【0035】
また、本発明の測定方法では、例えば上記図7及び図8に示すように、評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第2の関係から、前記擬磁化率χ の逆数1/χ と前記擬保磁力Hcとの関係である第3の関係を得て、前記評価工程で、前記第3の関係から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価しても良い。このようにすれば、この関係により示される関係線図(例えば図7及び図8に示す曲線)が磁壁移動のポテンシャルエネルギーの形状及び大きさを示すので、この関係線図に基づいて測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0036】
なお、擬磁化率χ 及び擬保磁力Hcはどちらも材料の特性に関する磁気的な量であるので、擬磁化率χ と擬保磁力Hcとで表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、擬磁化率χ と擬保磁力Hcとで表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。
【0037】
また、本発明の測定方法では、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第2の関係、または前記第3の関係から、所定の値の前記擬保磁力Hcにおける前記擬磁化率χ の逆数1/χ と前記負荷応力σとの関係である第4の関係(例えば上記図9に示す関係)を得て、前記評価工程で、前記第4の関係から、前記強磁性構造材の経年劣化の状態を評価しても良い。
【0038】
このようにすれば、測定対象の擬磁化率の逆数1/χ の値を測定により求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での変形応力の値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、変形応力の値から転位密度の変化を知ることができる。
【0039】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、前記物理量の相関関係が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係および、前記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失Wと前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第5の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと、前記対象ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失Wとの値であっても良い。
【0040】
この発明の測定方法においても、前述した測定方法と同様にして、先に行った引張試験の結果に基づいて所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した材料について、最大磁界を段階的に変化させて、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。なお、本明細書では、図10に示すように、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積を擬ヒステリシス損失W、ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積のうち第二象限に位置する部分の面積(図中、右上がりの斜線で示す部分)を後述する擬レマネンス損失Wという。
【0041】
かかる測定方法による作用及び効果を、前述した低合金鋼A533Bの試験材料についてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られたヒステリシス・マイナーループの試験データを用いて以下に説明する。
【0042】
即ち、上記ヒステリシス・マイナーループから、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(先の発明において図4に示す関係)及び、擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係である第5の関係をそれぞれ得る。上記図4に、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)についての応力依存性を示し、図11に、擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第5の関係)の応力依存性を示す。図11中の負荷応力σの値は、先の図4と同様に、先に行った引張試験の結果をもとにして、応力を加える前(σ=0[MPa])、破断直前の応力(σ=663[MPa])、およびそれらの間の応力(σ=550,580[MPa])を選んでおり、図11では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0043】
また、図12および図13は、多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)の試験材料について引張試験およびヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られた、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)および、擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第5の関係)についての変形応力依存性を示す。ここでの負荷応力σの値は、引張試験の結果に基づいて、0[MPa]及び283〜330[MPa]の範囲で設定し、負荷応力σ=0,283,311,319,325,326,330[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角,黒菱形,アスタリスク,バツ印でそれぞれプロットしている。
【0044】
そして、図14は、図4に示す第1の関係および図11に示す第5の関係から得られた低合金鋼A533Bについての擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第6の関係)を示す説明図である。また図15は、図12に示す第1の関係および図13に示す第5の関係から得られた多結晶純鉄についての擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第6の関係)を示す説明図である。
【0045】
図14および図15に示すように、擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第6の関係)は、負荷応力σの増加とともに変化することが分かる。なお、図15に示す負荷応力σ=663[MPa]での擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hc*との関係は試料が破断する直前の関係である。
【0046】
このことから、変形応力(内部応力に置き換えることも可能である)と、擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hc*との関係(第6の関係)との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。また擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hc*との関係は材料によっても異なることから、材料を識別することもできる。
【0047】
また、上記図14や図15に示した、擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hc*との関係から分かるように、この関係全体を測定により求めなくとも、以下に示すように経年劣化の評価が可能である。
【0048】
即ち、擬保磁力Hcの値が小さい部分の比較によっても経年劣化の進行状態が分かる。図14では、例えば、擬保磁力Hc=7[Oe](図中破線C3)と擬保磁力Hc=11[Oe](図中破線C4)との、負荷応力σの変化に応じた擬ヒステリシス損失Wの変化を比較することによって経年劣化を評価することができる。つまり、擬保磁力Hcの値が小さい部分(図中破線C3)では、負荷応力σの値が小さいときの擬ヒステリシス損失Wの変化が大きいことから、塑性変形の初期状態の変化に敏感であることが分かる。これに対して、擬保磁力Hcの値が大きい部分(図中破線C4)では負荷応力σの値が大きいときの擬ヒステリシス損失Wの変化が大きいことから塑性変形が進んだ状態に対して敏感であることが分かる。また、図15についても同様のことが言える。
【0049】
さらに図16には擬保磁力Hc=7[Oe](図14の破線C3)および擬保磁力Hc=11[Oe](図14の破線C4)についての、擬ヒステリシス損失Wと負荷応力σ[MPa]との関係(第7の関係)を示す。なお、図16中、擬保磁力Hc=7[Oe]についての関係は黒四角で示し、また擬保磁力Hc=11[Oe]についての関係は白丸で示す。
【0050】
上記図16に示す関係線図を用いて、例えば図17に示すように、予め始点と亀裂発生点とをプロットした擬ヒステリシス損失Wと変形応力(負荷応力)σとの関係線図上に、小さな磁界により計測して得られた測定値(ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験の試験データ)をプロットする。これにより、図17の関係線図上に、被測定対象の材料の劣化の程度δと余寿命δとを図示することができる。なお、この関係線図によれば、材料の経年劣化の初期状態の時には、擬保磁力Hcの値が小さい部分(例えば、図17では、h<hのとき、擬保磁力Hc=h[Oe])での関係線図を用いた評価によって経年劣化の進行状況である劣化の程度(図17ではδ)を感度良く測定することができる。また、材料の経年劣化がある程度進んだ状態の時には、擬保磁力Hcの値が大きい部分(例えば、図17では、h<hのとき、擬保磁力Hc=h[Oe])での関係線図を用いた評価によって、亀裂が発生するまでの余寿命(図17ではδ)を感度良く測定することができる。
【0051】
それゆえ、評価情報取得工程で、あらかじめ、測定対象の強磁性構造材と同種の強磁性材料についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験で小さな磁界により測定して得られた基準ヒステリシス・マイナーループから、第1の関係(図4参照)及び第5の関係(図11参照)を得ておき、測定工程で、測定対象の強磁性構造材についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験で小さな磁界により測定して得られた対象ヒステリシス・マイナーループから、所定の擬保磁力Hc*の値における擬ヒステリシス損失Wの値を得ることにより、評価工程で、第1の関係及び第5の関係に基づいて、経年劣化の程度や転位密度の変化を知ることができる。つまり、このことは小さな磁界により計測した情報からでも材料の経年劣化を十分に評価できることを意味する。
【0052】
ところで、金属疲労が進むに従い、転位密度が高くなる。材料内の磁壁移動も転位密度の増加に伴い動き難くなる。上記擬保磁力Hcは、最大磁界HMAXになるまでの間で擬磁化率χ が最大となる磁界強度Hである。また、擬ヒステリシス損失Wは、磁壁移動が非可逆的に起こるときにその仕事が熱エネルギーに変化した量を示し、磁壁移動の障害物となる転位に関係した量である。それゆえ、上記のようにして最大磁界HMAXを変化させて得た、擬保磁力Hc*と擬ヒステリシス損失Wとの関係を用いて経年劣化を評価することにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0053】
従って、上記構成の本発明の測定方法によれば、評価情報取得工程で得た、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図4に示す関係)及び、擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係である第5の関係(例えば上記図11に示す関係)に基づいて、磁壁が受ける力の大きさおよびその分布を求めることができるから、経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化できる。
【0054】
それゆえ、測定対象の強磁性構造材の擬保磁力Hcおよび擬ヒステリシス損失Wの値と上記第1の関係及び第5の関係とで評価することで、その原子炉圧力容器等の測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態として経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とを詳しく計測することができる。従って、材料の経年劣化をより詳細、正確かつ総合的に評価することができる。
【0055】
また、本発明の測定方法では、評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第5の関係から、先に説明したように、前記擬ヒステリシス損失Wと前記擬保磁力Hcとの関係である第6の関係(例えば上記図14及び図15)を得て、前記評価工程で、前記第6の関係から前記測定対象の強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。このようにすれば、例えば上記図12〜15に示すような関係線図に基づいて測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0056】
また、本発明の測定方法では、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第5の関係、または前記第6の関係から、先に説明したように、所定の値の前記擬保磁力Hcにおける前記擬ヒステリシス損失Wと前記負荷応力σとの関係である第7の関係を得て、前記評価工程で、前記第7の関係から、前記強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。
【0057】
このようにすれば、測定対象の擬レマネンス損失Wの値を測定により求めてその測定値を上記図17に例示するように関係線図上にプロットすることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での変形応力の値を定量的に求めることができる。従って、経年劣化の進行の程度や寿命予測をより正確に行なうことができる。また、先に説明した情報取得工程により、変形応力の値から転位密度の変化を知ることができる。
【0058】
なお、図11の関係線図から、最大磁界HMAXが40[Oe]以下で擬ヒステリシス損失Wが負荷応力σの増加と共に減少することが分かる。これは、最大磁界HMAXが40[Oe]以下になると転位密度の増加により障害物のポテンシャルエネルギーが大きくなることから磁壁の移動可能な範囲が狭くなり、その範囲ではエネルギー損失が小さくなるためであると考えられる。一方、図11の関係線図から、最大磁界HMAXが40[Oe]以上で擬ヒステリシス損失Wが負荷応力σの増加と共に増加することが分かる。これは、最大磁界HMAXが40[Oe]以上になると磁壁の移動可能な範囲が広くなることから、障害物量の増加によりエネルギー損失が増加するためであると考えられる。
【0059】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、前記物理量の相関関係が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係、前記磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Brと材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第8の関係および、前記残留磁束密度Brにおける前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第9の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと、前記磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Brと、前記擬残留磁束密度Brにおける前記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである前記擬残留磁化率χ の逆数1/χ の値であっても良い。
【0060】
なお、本明細書では、ヒステリシスループから求められる擬残留磁束密度(残留磁化)及び磁化率との区別のため、図18に示すように、ヒステリシス・マイナーループにおいて、残留磁束密度に相当するもの、即ち、磁界Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値を擬残留磁束密度Brといい、その擬残留磁束密度Brにおける磁化率に相当するもの、即ち、擬残留磁束密度Br(擬残留密度M )におけるヒステリシス・マイナーループの傾きを擬残留磁化率χ (=(ΔB/ΔH)H= 0, B=Br*)という。擬保磁力Hc、擬残留磁束密度Br及び擬残留磁化率χ は最大磁界HMAXの関数で、最大磁界HMAXが十分大きい場合はそれぞれ保磁力、擬残留磁束密度(残留磁化)及び残留磁化率(残留磁束密度における磁化率)と一致する。
【0061】
この発明の測定方法においても、前述した測定方法と同様にして、先に行った引張試験の結果に基づいて所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した材料について、最大磁界を段階的に変化させて、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。その得られたヒステリシス・マイナーループから、先の発明と同様の擬保磁力Hc、擬残留磁束密度Br及び擬残留磁化率χ の逆数1/χ を求め、それらの値をグラフ上にプロットして、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(先の発明において図4に示す関係)及び、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係である第8の関係および、残留磁束密度Brにおける基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係である第9の関係をそれぞれ得る。
【0062】
かかる測定方法による作用及び効果を、前述した低合金鋼A533Bの試験材料についてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られたヒステリシス・マイナーループの試験データを用いて以下に説明する。
【0063】
即ち、上記ヒステリシス・マイナーループから、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(先の発明において図4に示す関係)及び、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係である第8の関係をそれぞれ得る。上記図4に、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)についての応力依存性を示す。また図19に、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係(第8の関係)についての応力依存性を示し、図20に、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係(第9の関係)についての応力依存性を示す。図19及び図20中の負荷応力σの値は、上記図4と同様に、先に行った引張試験の結果をもとにして、応力を加える前(σ=0[MPa])、破断直前の応力(σ=663[MPa])、およびそれらの間の応力(σ=550,580[MPa])を選んでおり、図19,図20では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0064】
また、図21,図22は、多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)の試験材料について引張試験およびヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られた、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係(第8の関係)についての応力依存性と、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係(第9の関係)についての応力依存性とを示す。ここでの擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)についての応力依存性は先に説明した上記図12に示す関係線図を用いることができる。図21及び図22の負荷応力σの値は、引張試験の結果に基づいて、0[MPa]及び283〜330[MPa]の範囲で設定し、図21では、負荷応力σ=0,283,311,319,325,330[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角,黒菱形,バツ印でそれぞれプロットしている。また、図22では、負荷応力σ=283,311,319,325,330[MPa]の順に、白丸,上向き白三角,下向き黒三角,黒菱形,バツ印でそれぞれプロットしている。
【0065】
なお、ここでのヒステリシス・マイナーループ磁化特性は、最大磁界HMAXを0[Oe]から40[Oe]程度まで段階的に増加させその都度測定して得られたものである。しかし、本発明の測定方法によれば、20[Oe]程度の最大磁界HMAXまで測定すれば、経年劣化に関する十分詳細な情報が得られることを後で説明する。また、ここでは最大磁界HMAXの段階を1[Oe]にしたが、さらに細かく分けるとそれだけ情報量が多くなるのはもちろんのことである。
【0066】
図23は、上記図4に示す擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)と、図19に示す擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係(第8の関係)とから得られた低合金鋼A533Bの擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係(第10の関係)を示す説明図である。また、図24は、多結晶純鉄の擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係(第10の関係)を示す説明図である。
【0067】
図23及び図24に示すように、擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係は負荷応力σの増加とともに変化することが分かる。図23では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。また、図24では、負荷応力σ=0,283,311,319,325,330[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角,黒菱形,バツ印でそれぞれプロットしている。なお、図23の下向き黒三角で示す負荷応力σ=663[MPa]と、図24のバツ印で示す負荷応力σ=330[MPa]とは試料が破断する寸前の関係を示している。
【0068】
このことから、変形応力(内部応力に置き換えることも可能である。)と、擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。しかも擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係は材料によっても異なることから、材料を識別することも可能である。
【0069】
図25は、図19及び図20に示す関係から得られた、低合金鋼A533Bの擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係(第12の関係)を示す説明図である。図26は、多結晶純鉄の擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係(第12の関係)を示す説明図である。
【0070】
図25及び図26に示すように、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係(第12の関係)は負荷応力σの増加とともに変化することが分かる。図25では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。また、図26では、負荷応力σ=283,311,319,325,330[MPa]の順に、黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角,黒菱形,バツ印でそれぞれプロットしている。ここでは、図25の下向き黒三角で示す負荷応力σ=663[MPa]と、図26のバツ印で示す負荷応力σ=330[MPa]とは試料が破断する寸前の関係を示している。
【0071】
このことから、変形応力(内部応力に置き換えることも可能である。)と、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。しかも擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係は材料によっても異なることから、材料を識別することも可能である。
【0072】
なお、上記図23の関係線図全体を測定により求めなくとも、擬残留磁束密度Brの値が小さい部分の比較によっても経年劣化の進行状態が分かり、経年劣化の評価が可能である。つまり、図23では、以下で説明するように、例えば、擬残留磁束密度Br=6[gauss](図中破線C5)での負荷応力σの変化に応じた擬保磁力Hcの変化を比較することによって、経年劣化を評価することができる。
【0073】
図27に、図23に示す関係について擬残留磁束密度Brが=6[gauss]における擬保磁力Hc*と変形応力σとの関係(第11の関係)を示す。この関係線図によれば、擬保磁力Hc*は変形応力σの増加と共に増加することが分かる。従って、この関係から材料の経年劣化を定量的に評価することができる。
【0074】
しかも、上記図27に示す関係線図によれば、小さな磁界により計測して得られた関係から、測定対象の材料についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により特定の値の擬残留磁束密度Brの値における擬保磁力Hc*の値を得れば、これにより、経年劣化の程度や転位密度の変化を知ることもできる。つまり、このことは小さな磁界により計測した情報からでも材料の経年劣化を十分に評価することができることを意味する。
【0075】
また、図28に、図25に示す関係について擬残留磁束密度Brが=1.5[gauss](図25中破線C6)における擬残留磁化率χ の逆数1/χ と変形応力σとの関係を示す。図28に示す関係線図を用いることにより、測定対象の擬残留磁化率χ の逆数1/χ の値を求めることで、経年劣化前の状態と亀裂発生時の状態との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができる。それゆえ、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできる。また、変形応力の値から転位密度の変化を知ることができる。
【0076】
ところで、金属疲労が進むに従い、転位密度が高くなる。材料内の磁壁移動も転位密度の増加に伴い動き難くなる。上記擬残留磁束密度Brは、磁界を最大磁界HMAXまで上げた後ゼロにしたときに、磁壁が障害物に阻まれる際に生ずる磁化の大きさである。また擬残留磁化率χ の逆数1/χ は、磁壁が障害物から受ける抵抗力に対応する。それゆえ、擬残留磁束密度Brも擬残留磁化率χ の逆数1/χ も磁壁移動の際に障害物となる転位などの格子欠陥に関係した量であり、最大磁界HMAXを変化させることにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0077】
従って、かかる測定方法によれば、評価情報取得工程で得た、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係である第8の関係(例えば上記図19に示す関係)及び擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係である第9の関係(例えば上記図20に示す関係)に基づいて、磁壁が受ける力の大きさ及びその分布を求めることができるから、経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化できる。
【0078】
これにより、測定工程で得られた、測定対象の強磁性構造材の擬残留磁化率χ の逆数1/χ および擬残留磁束密度Brの値と上記した第8〜第11の関係を評価することで、その原子炉圧力容器等の測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態として経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とを詳しく計測することができる。従って、材料の経年劣化をより詳細、正確かつ総合的に評価することができる。
【0079】
また、本発明の測定方法では、例えば、上記図4の関係線図と上記図19の関係線図とから上記図23の関係線図を得たように、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第8の関係から、前記擬残留磁束密度Brと前記擬保磁力Hcとの関係である第10の関係を得て、前記評価工程で、前記第10の関係から前記測定対象の強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。この方法によれば、先に説明したように、変形応力と、擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係との間には密接な相関があり、材料の識別も可能である。従って、第10の関係により、材料の経年劣化をより詳細、正確かつ総合的に評価することができる。
【0080】
また、本発明の測定方法では、例えば、上記図23の関係線図から上記図27の関係線図を得たように、前記評価情報取得工程で、前記第10の関係から、所定の値の擬残留磁束密度Brにおける擬保磁力Hcと前記負荷応力σとの関係である第11の関係を得てこの第11の関係から前記強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。このようにすれば、以下に説明するように、第11の関係を示す関係線図に基づいて測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0081】
即ち、図29は、所定の値の擬残留磁束密度Brの値における擬保磁力Hcと負荷応力σとの関係(第11の関係)を示す概念図である。この概念図は、所定の値の擬残留磁束密度Brの値における擬保磁力Hcと負荷応力σとの関係線図(例えば上記図27に示す関係線図)上に、始点と測定値と亀裂発生点とをプロットしたものである。従って、図29に例示するように、第11の関係を示す関係線図に基づいて、測定値と始点及び亀裂発生点との擬保磁力Hcの値の差から、劣化の程度(図29ではδ)と余寿命(図29ではδ)とを図示することができるので、それらδ,δを用いて経年劣化を容易に評価することができる。
【0082】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、例えば、上記図19の関係線図及び上記図20の関係線図から上記図25の関係線図を得たように、前記評価情報取得工程で、前記第8の関係及び前記第9の関係から、前記磁界強度Hの値がゼロのときの磁束密度Bの値である擬残留磁束密度Brと、前記残留磁束密度Brにおける前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬残留磁化率χ の逆数1/χ との関係である第12の関係を得て、前記評価工程で、前記第12の関係から、前記強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。このようにすれば、例えば上記図25や図26のような、第12の関係を示す関係線図に基づいて測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0083】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、例えば、上記図25の関係線図から図28の関係線図を得たように、前記評価情報取得工程で、前記第8の関係及び前記第9の関係または前記第12の関係から、所定の値の前記残留磁束密度Brにおける前記擬残留磁化率χ の逆数1/χ と前記負荷応力σとの関係である第13の関係を得て、前記評価工程で、前記第13の関係から、前記強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。このようにすれば、第13の関係を例示する上記図28のような関係線図に基づいて、先に説明したように、経年劣化の進行の程度や寿命予測がさらに正確にできるとともに、変形応力の値から転位密度の変化を知ることができる。従って、測定対象の経年劣化をより正確かつ容易に評価することができる。
【0084】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、前記物理量の相関関係が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係および、前記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失Wと前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第14の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと、前記対象ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失Wとの値であっても良い。
【0085】
この発明の測定方法においても先の発明の測定方法と同様にして、先に行った引張試験の結果に基づいて所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した材料について、最大磁界を段階的に変化させて、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。
【0086】
かかる測定方法による作用及び効果を、前述した低合金鋼A533Bの試験材料についてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られたヒステリシス・マイナーループの試験データを用いて以下に説明する。
【0087】
即ち、上記ヒステリシス・マイナーループから、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(先の発明において図4に示す関係)及び、擬レマネンス損失W(上記図10参照)と最大磁界HMAXとの関係である第14の関係をそれぞれ得る。上記図4に、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)についての応力依存性を示し、図30に、擬レマネンス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第14の関係)についての応力依存性を示す。図30中の負荷応力σの値は、先の図4と同様に、先に行った引張試験の結果をもとにして、応力を加える前(σ=0[MPa])、破断直前の応力(σ=663[MPa])、およびそれらの間の応力(σ=550,580[MPa])を選んでおり、図30では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0088】
なお、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性は、最大磁界HMAXを0[Oe]から50[Oe]程度まで段階的に増加させてその都度測定して得たものであるが、20[Oe]程度の最大磁界HMAXまで測定すれば、従来の測定方法よりも経年劣化に関する詳細な情報が得られることを後で説明する。また、ここでの測定では最大磁界HMAXの段階を1[Oe]にしたが、さらに細かく分けるとそれだけ情報量も多くなることはもちろんである。
【0089】
図31は上記図4に示す第1の関係及び図30に示す第14の関係から得られた低合金鋼A533Bの擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第15の関係)を示す説明図である。図31では、図4と同様に、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0090】
図31に示すように、擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係は、負荷応力σの増加とともに変化することが分かる。なお、図31に示す負荷応力σ=663[MPa]での擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係は、試料が破断する寸前の関係である。
【0091】
このことから、変形応力(内部応力に置き換えることも可能である。)と、擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第15の関係)との間には密接な相関があることが本願発明者の研究により明らかになった。しかも擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係は材料によっても異なることから、材料を識別することも可能である。
【0092】
ところで、上記図25に示す、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係から分かるように、この関係全体を測定により求めなくとも、以下に示すように経年劣化の評価が可能である。
【0093】
即ち、擬保磁力Hcの値が小さい部分の比較によっても経年劣化の進行状態が分かる。図31では、例えば、擬保磁力Hc=7[Oe](図中破線C7)と擬保磁力Hc=8[Oe](図中破線C8)との、負荷応力σの変化に応じた擬レマネンス損失Wの変化を比較することによって経年劣化を評価することができる。つまり、擬保磁力Hcの値が小さいところ(図中破線C7)では負荷応力σが小さいときの擬レマネンス損失Wの変化が大きいことから塑性変形の初期状態の変化に敏感であることが分かる。これに対して、擬保磁力Hcの値が大きいところ(図中破線C8)では、擬保磁力Hcの値が小さいときよりも負荷応力σが大きいときの擬レマネンス損失Wの変化は大きいことから塑性変形が進んだ状態に対して敏感であることが分かる。
【0094】
図32に、擬保磁力Hc=7[Oe](図31中破線C7)及び擬保磁力Hc=8[Oe](図31中破線C8)における擬レマネンス損失Wと負荷応力(変形応力)σとの関係(第16の関係)を示す。なお、図32中、擬保磁力Hc=7[Oe]については白正方形で示し、擬保磁力Hc=8[Oe]については白丸で示す。
【0095】
上記図32に示す関係線図によれば、小さな磁界により計測して得られた関係から、測定対象の材料についてヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い所定の擬保磁力Hcの値における擬レマネンス損失Wの値を得ることにより、経年劣化の程度や転位密度の変化を知ることができる。つまり、このことは小さな磁界により計測した情報からでも材料の経年劣化を十分に評価できることを意味する。
【0096】
上記擬保磁力Hcは、上述したように最大磁界HMAXになるまでの間で擬磁化率χ が最大となる磁界強度Hである。また擬レマネンス損失Wは、磁壁移動が非可逆的に起こる場合に、擬残留磁束密度Brをゼロにするときに仕事が熱エネルギーに変化した量を表す。それゆえ、擬レマネンス損失Wも磁壁移動の障害物となる転位に関係した量であり、最大磁界HMAXを変化させることにより、磁壁移動のポテンシャルエネルギーの全体像を捕らえることができる。
【0097】
従って、上記構成の本発明の測定方法によれば、評価情報取得工程で得た、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(例えば上記図4に示す関係)及び、擬レマネンス損失Wと最大磁界HMAXとの関係である第14の関係(例えば上記図30に示す関係)に基づいて、磁壁が受ける力の大きさおよびその分布を求めることができるから、経年劣化の原因である様々な格子欠陥の形態を識別し、それらの量を定量化できる。
【0098】
これにより、測定工程で得られた、測定対象の強磁性構造材の擬保磁力Hcおよび擬レマネンス損失Wの値と上記第1の関係及び第14の関係とを評価することで、その原子炉圧力容器等の測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態として経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とを詳しく計測することができる。従って、材料の経年劣化をより詳細、正確かつ総合的に評価することができる。
【0099】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、例えば、上記図4の関係線図及び上記図30の関係線図から上記図31の関係線図を得たように、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第14の関係から、前記擬レマネンス損失Wと前記擬保磁力Hcとの関係である第15の関係を得て、前記評価工程で、前記第15の関係から、前記強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。このようにすれば、この関係線図に基づいて、測定対象の経年劣化を正確かつ容易に評価することができる。
【0100】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第14の関係、または前記第15の関係から、所定の値の前記擬保磁力Hcにおける前記擬レマネンス損失Wと前記負荷応力σとの関係である第16の関係を得て、前記評価工程で、前記第16の関係から、前記強磁性低合金鋼の金属疲労による組織変化の状態を評価しても良い。このようにすれば、測定対象のレマネンス損失Wの値を測定により求めることで、例えば、上記図32に基づき作成した図33に示すように、経年劣化前の初期状態を表す始点と、亀裂発生時点との間での負荷応力σの値を定量的に求めることができるので、経年劣化の進行の程度(図中符号δ)や、余寿命(図中符号δ)の予測がさらに正確にできる。また、先に説明した情報取得工程により、負荷応力σの値から転位密度の変化を知ることができる。
【0101】
なお、上記図10において説明した、上記擬レマネンス損失Wと先の発明で用いた物理量である擬ヒステリシス損失Wとは、図34から分かるように相関関係があることが予想されるが、一方を求めることにより他方が求まるものではない。従って、擬レマネンス損失Wと擬ヒステリシス損失Wとの値をそれぞれ求めることにより、経年劣化に対する情報が増えることとなる。
【0102】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法は、前記物理量の相関関係が、磁束密度Bの値がゼロのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと材料に印加する前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第1の関係および、前記磁界強度Hの最大値HMAXにおける前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と前記磁界強度Hの最大値HMAXとの関係である第17の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、前記磁界強度Hの最大値HMAXのときの磁界強度Hの値である擬保磁力Hcと、前記磁界強度Hの最大値HMAXにおける前記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX との値であっても良い。
【0103】
なお、本明細書では、先の発明で説明した図10に示すように、最大磁界HMAXにおける基準ヒステリシス・マイナーループの傾きのうち、そのループの傾きの大きいものを擬最大磁界磁化率χMAX としている。
【0104】
この発明の測定方法においても、前述した測定方法と同様にして、先に行った引張試験の結果に基づいて所定の応力を負荷した後、その負荷を取り除き、その変形した材料について、最大磁界を段階的に変化させて、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行い、その都度ヒステリシス・マイナーループを得る。その得られたヒステリシス・マイナーループから、先の発明と同様の擬保磁力Hc、擬残留磁束密度Br及び最大磁界HMAXにおける擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX を求め、それらの値をグラフ上にプロットして、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(先の発明において図4に示す関係)及び、最大磁界HMAXにおける基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と最大磁界HMAXとの関係である第17の関係を得る。
【0105】
かかる測定方法についても、前述した低合金鋼A533Bの試験材料についてのヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なって得られたヒステリシス・マイナーループの試験データを用いて以下に説明する。
【0106】
即ち、上記ヒステリシス・マイナーループから、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係(先の発明において図4に示す関係)及び、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と最大磁界HMAXとの関係である第17の関係をそれぞれ得る。上記図4に、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)についての応力依存性を示し、図35に、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と最大磁界HMAXとの関係(第17の関係)についての応力依存性を示す。図35中の負荷応力σの値は、先の図4と同様に、先に行った引張試験の結果をもとにして、応力を加える前(σ=0[MPa])、破断直前の応力(σ=663[MPa])、およびそれらの間の応力(σ=550,580[MPa])を選んでおり、図35では、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。
【0107】
なお、ここでのヒステリシス・マイナーループ磁化特性は、最大磁界HMAXを0[Oe]から40[Oe]程度まで段階的に増加させその都度測定して得られたものである。しかし、本発明の測定方法によれば、15[Oe]程度の最大磁界HMAXまで測定することにより、経年劣化に関する十分詳細な情報が得られることを後で説明する。また、ここでは最大磁界HMAXの段階を1[Oe]にしたが、さらに細かく分けるとそれだけ情報量が多くなるのはもちろんのことである。
【0108】
さらに、本発明の測定方法では、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第17の関係から、前記擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と前記擬保磁力Hcとの関係である第18の関係を得て、前記評価工程で、前記第3の関係から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価しても良い。このようにすれば、以下で説明するように、従来の経年劣化の測定よりもさらに詳細な評価を行なうことができる。
【0109】
図36は、上記図4に示す擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)と、図35に示す擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と最大磁界HMAXとの関係(第17の関係)とから得られた低合金鋼A533Bの擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と擬保磁力Hcとの関係(第17の関係)を示す説明図である。図36でも、上記図4及び図35と同様に、負荷応力σ=0,550,580,663[MPa]の順に黒正方形,白丸,上向き白三角,下向き黒三角でそれぞれプロットしている。なお、図36の下向き黒三角で示す負荷応力σ=663[MPa]は試料が破断する寸前の関係を示している。また、図36では、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の値が0〜18×10−3[Oe/gauss]の範囲で取っている。
【0110】
図36に示すように、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と擬保磁力Hcとの関係は、負荷応力(変形応力)σの増加とともに変化する。この図から、負荷応力(内部応力)σと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と擬保磁力Hcとの関係の間には密接な関係があることが分かる。
【0111】
従来の経年劣化の指標は保磁力Hcによって行なわれているところ、本発明では、保磁力Hcが殆ど変化しなくても、擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の関係が変化する場合がある。従って、従来の経年劣化の測定方法では一つの点(保磁力Hcの値)で劣化状態を評価するのに対し、本発明の経年劣化の測定方法では、保磁力Hcの値が一定である場合においても擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の関係の変化により描かれる点の集合体である線により評価することができるから、従来の経年劣化の測定よりもさらに詳細な評価を行なうことができる。
【0112】
しかも、その他の強磁性構造材に対しても擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の関係は転位密度の増加により同じように変化することが本願発明者の研究により確かめられた。また、鉄鋼材料の結晶粒の大きさ、析出物、微量添加元素などによっても変化することも確かめられた。
【0113】
ところで、上記図36に示す、擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の関係から分かるように、この関係全体を測定により求めなくとも、以下に示すように経年劣化の評価が可能である。すなわち、例えば、図36では、磁界強度Hを、擬保磁力Hc=15[Oe]まで加えて求められた関係であるが、擬保磁力Hc=6[Oe]以下での、擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX との関係からでも、経年劣化の評価を十分に行なうことができる。このことは計測時に小さな磁界による計測でも十分に経年劣化を評価することができることを意味する。
【0114】
なお、上記測定方法では、亀裂が発生する前段階での転位密度およびその分布の変化を非破壊的に検査するに際して、変形応力(負荷応力)を変数に取っているが、この変形応力と転位密度との間には密接な相関があることが従来から分かっている。つまり、一般に変形の初期では応力と転位密度とは比例し、変形の中期及び後期では応力は転位密度の平方根に比例する。従って、擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の関係から転位密度の変化を知ることができる。この変形応力は上述したように内部応力と置き換えることも可能であり、また材料内部では局所的に転位密度が最大に達したときに亀裂が発生し破壊に至る。よって、擬保磁力Hcと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の関係から亀裂発生時又は破壊時を予測することができる。
【0115】
また、本発明の測定方法では、前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第17の関係、または前記第18の関係から、所定の値の前記擬保磁力Hcにおける前記擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と前記負荷応力σとの関係である第19の関係を得て、前記評価工程で、前記第19の関係から、前記強磁性構造材の経年劣化の状態を評価しても良い。このようにすれば、以下に説明するように、第19の関係を示す関係線図に基づいて測定対象の経年劣化を、感度良く正確かつ容易に評価することができる。
【0116】
即ち、図37は、上記図36において、擬保磁力Hc=4[Oe](図36中破線C9)での変形応力σと擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX との関係を示す関係線図である。図37で、塑性変形前の状態(σ=0[MPa])と破壊寸前の状態(σ=663[MPa])とを比較すると、擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX は、1×10−3[Oe/gauss]から6×10−3[Oe/gauss]に増加していることが分かる。これに対して、図36の擬保磁力Hcの最大値で示される保磁力(従来のヒステリシスループにより得られる保磁力に相当する)の値は、8.5[Oe/gauss]から14.2[Oe/gauss]に増加している。このことから、従来から行なわれた測定方法では保磁力の値の増加率が1.7倍程度であるのに対して擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX の値の増加率は6倍程度である。従って、本発明の測定方法による評価値の感度は従来の測定方法において保磁力の値を比較するよりも優れていることがわかる。
【0117】
また、図38は、所定の値の擬保磁力Hcの値における擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX と負荷応力σとの関係(第19の関係)を示す概念図である。この概念図は、所定の値の擬保磁力Hcの値における擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX と負荷応力σとの関係線図(例えば上記図37に示す関係線図)上に、始点と測定値と亀裂発生点とをプロットしたものである。従って、この図38に例示するように、第19の関係を示す関係線図に基づいて、測定値と始点及び亀裂発生点との擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX の値の差から、劣化の程度(図38ではδ)と余寿命(図38ではδ)とを図示することができるので、それらδi,δを用いて経年劣化を容易に評価することができる。
【0118】
なお、本発明において経年劣化の評価に用いた、擬保磁力Hc,擬磁化率の逆数1/χ ,擬ヒステリシス損失W,擬残留磁化率の逆数1/χ*,擬レマネンス損失W,擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX はいずれも、転位などの格子欠陥の量に敏感な物理量であるから、従来のヒステリシスループから得られる保磁力等の物理量よりも感度や精度の面でも優れている。それゆえ、上記何れの物理量によっても、より詳細な経年劣化の情報を得ることができる。
【0119】
しかも、それら物理量は、上述したように、ヒステリシス・マイナーループから得ることができる。従って、従来から一般的に行われているヒステリシスループを得るための測定では、磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要があるのに対して、本発明において行われる測定では、磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要がなく、小さな外部磁界でヒステリシス・マイナーループを得ることができる。その上、測定装置を構成する観点からも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なう本発明の測定方法の方が、ヒステリシスループ磁化特性試験を行なう従来の一般的な測定方法よりも、測定装置を簡易に構成することができて有利である。
【0120】
また、ヒステリシスループを得るためには、磁化が完全に飽和するまで外部から磁界を加えるため、これにより得られる物理量は外部磁界に依存しない量である。これに対して、本発明の測定方法では、外部磁界の強さの変化に伴い変化するヒステリシス・マイナーループを得る。それゆえ、このヒステリシス・マイナーループから得られる物理量は外部磁界に応じて変化するため、ヒステリシス・マイナーループを測定する際に、反磁界や漏れ磁場の効果を考慮し、内部磁界の絶対値を正確に求める必要がある。しかし、それら物理量の相関関係は、先に述べたように、外部磁界の強さHは直接入っておらず、材料特有のものである。それゆえ、前記した物理量の相関関係を本発明の非破壊検査に適用する場合には、必ずしも内部磁界の絶対値が必要となるわけではない。
【0121】
なお、本発明で用いた物理量である、擬ヒステリシス損失W,擬保磁力Hc,擬残留磁化率χ の逆数1/χ ,擬残留磁束密度Br,擬レマネンス損失Wはいずれも材料の特性に関する磁気的な量である。それゆえ、かかる物理量で表される関係は、最大磁界HMAXのような外部変数が含まれておらず、材料の内部因子だけの関係である。従って、それら物理量で表される関係は格子欠陥を含めた材料内部の物性の情報を与えるもので外部変数に依らない。
【0122】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施の形態を、実施例によって図面に基づき詳細に説明する。図39は、この発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法の第1実施例を示す説明図である。図中符号1は、何らかの材料の劣化が存在している強磁性構造材によって構成された被測定強磁性構造体、2は励磁巻線、3は磁束検出巻線、4はそれらの巻線が巻かれた磁気ヨークであり、ここでは、図39に示すように、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを直接巻けない形状の被測定強磁性構造体1に対し、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを有する磁気ヨーク4を密着させ、磁気閉回路5を形成する。6は、上記励磁巻線2と磁束検出巻線3とが接続されたヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置であり、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、一般の市販品を用いることができる。また7は、この実施例を実施した結果として、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に表示される、被測定強磁性構造体1のヒステリシス・マイナーループ磁化特性である。
【0123】
上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6によれば、励磁巻線2に励磁電流が供給され、このとき磁束検出巻線3に誘起した電圧が、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6に導かれて増幅積分され、その結果ヒステリシス・マイナーループ磁化特性(対象ヒステリシス・マイナーループ)7が得られる。このヒステリシス・マイナーループ磁化特性7から、擬保磁力H およびその点での擬磁化率χ を求めることができる(上記図3参照)。なお、このヒステリシス・マイナーループ磁化特性7から、後述するように、擬保磁力Hc,擬磁化率の逆数1/χ ,擬ヒステリシス損失W,擬残留磁化率の逆数1/χ*,擬レマネンス損失W,擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX も求めることができる(上記図3及び上記図10参照)。
【0124】
上述した測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7は、被測定強磁性構造体1の内部での3次元的磁路の広がりや反磁界係数の影響による誤差を含んだものである。ゆえに、この誤差を除去したヒステリシス・マイナーループ磁化特性を得るための補正係数を求める必要があるが、この補正係数は、既知の静磁界解析手法を用いた計算機実験あるいは実測定体系を模擬したモックアップ実験により前もって求めておくことができる。
【0125】
なお、本実施例では、測定対象の鉄鋼材料を、磁界強度Hが飽和磁界強度よりも小さい磁界強度の範囲内である、0〜60[Oe]までの間で、最大磁界HMAXを1[Oe]毎に段階的に変化させて測定してその都度上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性7を得た。また、測定対象の鉄鋼材料の種類によっては60[Oe]を必要としない。例えば、純鉄では最大磁界HMAXを15[Oe]までとることで十分である。
【0126】
そして、上記のようにして段階的に最大磁界HMAXを測定することにより得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7から、測定対象の鉄鋼材料の経年劣化の評価情報となる物理量の測定値として、ここでは擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値を求めることができる。
【0127】
なお、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値から材料の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程において、あらかじめ、検査対象と同じ材料のテストピースについて、引張試験を行い応力と歪との関係を得る。その得られた応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力σをテストピースに与えて、磁界強度Hが0〜60[Oe]の間で、最大磁界HMAXを1[Oe]毎に段階的に変化させて測定してその都度ヒステリシス・マイナーループを得る。このようにして得られたヒステリシス・マイナーループを基準ヒステリシス・マイナーループとして、その磁化特性から、物理量の相関関係として、ここでは、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係である、図40に示すような第3の関係をプロットして求めておく。
【0128】
そして、評価工程で、測定工程で得られた測定対象の擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値(物理量の測定値)と上記第3の関係(物理量の相関関係)とを比較することで、経年劣化の状態が定量的に調べられる。なお、図40では、変形応力σの増加とともに、応力を加える前の初期状態である曲線aから、曲線a→曲線b→曲線c→曲線d→曲線e→曲線f→曲線gと関係が変化し、最終的に曲線gで破壊する。
【0129】
さらに、上記で求めた測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値と、被測定構造体1の初期状態及び亀裂発生時または破壊時の、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係を比較するために、図41に示すように、Hc=一定(上記図9ではHc=8[Oe])での引張応力σと擬磁化率の逆数1/χ との関係を求める。測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値を測定値として図中にプロットすることで、経年劣化を受けている被測定強磁性構造体1の内部の実質的な内部応力を求めることができる。
【0130】
さらに、図41でプロットした測定値と、始点(初期状態)及び亀裂発生点との差δを求める。図41中、δは初期状態からの擬磁化率の逆数1/χ の変化を表し、またδは亀裂発生までに変化が見込まれる擬磁化率の逆数1/χ の値を表す。このδ,δは被測定強磁性構造体の経年による機械強度の劣化の程度を示すパラメータとなることから、強磁性構造体の経年による劣化の程度を非破壊的に測定することができる。ここでのδは材料のこれまでに受けた経年劣化の度合いを示すのに対し、δは余寿命、即ち、現状から材料に亀裂が発生するまでの期間を示す。
【0131】
なお、経年劣化の評価は、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係により示される曲線に基づいて行なわれるべきであるが、特定の擬保磁力Hcにおける擬磁化率の逆数1/χ の値を評価することもでき、これにより簡便的にしかも定量的に経年劣化を評価することができる。
【0132】
ところで、上記図9において、Hc=8[Oe]における塑性変形前(σ=0[MPa])と663[MPa]の応力σを加えた後との結果を比較すると、擬磁化率の逆数1/χ の値は0.2[Oe/gauss]から2.4[Oe/gauss]に増加している。これに対して保磁力Hcの値は、図7に示すように8.5[Oe]から14.2[Oe]に増加している。このことから、保磁力Hcの増加率は1.7倍であるのに対して擬磁化率の逆数1/χ の値の増加率は12倍であることが分かる。それゆえ、本実施例の評価値の感度は従来の保磁力の値による方法より優れていて、本実施例の測定方法によれば高感度な経年劣化の評価を行なうことができる。
【0133】
従って、第1実施例の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法によれば、測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7から、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係(物理量の相関関係)を得ることができ、これにより、経年劣化の程度を非破壊的に正確に求めることができる。しかも、経年劣化した材料と、その材料の亀裂発生時または破壊時の状態を比較することから、強磁性構造材の経年劣化の程度及び余寿命を非破壊的に測定することができる。それゆえ、この実施例の測定方法によれば、多結晶の強磁性構造材だけでなく色々な種類の低合金鋼にも適用できることから、原子炉圧力容器等、強磁性構造材で製造される全ての構造物の経年劣化の程度を、亀裂が発生する前段階での転位密度及びその分布の変化から非破壊的に正確に検査でき、なおかつ、小型の磁気ヨークと励磁電源を具える簡単な装置で測定することができる。
【0134】
また、上記第1実施例の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法では、物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値を以下で説明する、第1変形例から第4変形例までの物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値に変えることができる。
【0135】
即ち、物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値の第1変形例は、物理量の相関関係が、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係および、基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失W(上記図10参照)と最大磁界HMAXとの関係である第5の関係であって、測定工程にて得られる物理量の測定値が、擬保磁力Hcと、対象ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失Wとの値である。
【0136】
本第1変形例でも、測定工程で、本実施例の上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性(対象ヒステリシス・マイナーループ)7から、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬ヒステリシス損失W(上記図10参照)の値を求めることができる。
【0137】
なお、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬ヒステリシス損失Wの値から材料の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程で、あらかじめ得ておいた本実施例の上記基準ヒステリシス・マイナーループから、例えば上記図16に示すような、擬保磁力Hcを一定にしたときの擬ヒステリシス損失Wと負荷応力σとの関係(第7の関係)をプロットして求めておく。この第7の関係は、例えば上記図4に示す擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)及び例えば上記図11,13に示す擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第5の関係)、又は例えば図14,15に示すヒステリシス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第6の関係)から求めることができる。
【0138】
そして、評価工程で、測定工程にて、上記対象ヒステリシス・マイナーループから得られた測定対象の擬ヒステリシス損失Wの値と上記第7の関係とを比較するために、例えば上記図17に示すように、測定対象の擬ヒステリシス損失Wの値を測定値として図中にプロットする。これにより、経年劣化を受けている被測定強磁性構造体1の内部の実質的な内部応力(変形応力)σを求めることができ、被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態が定量的に調べられる。
【0139】
なお、本第1変形例では、評価工程で、第7の関係の関係を求めているが、これに変えて、第1の関係と前記第5の関係又はこれらの関係から求めた第6の関係に基づき、測定工程で得られた擬保磁力Hcおよび擬ヒステリシス損失Wの値から被測定強磁性構造体1の金属疲労による組織変化を評価することもできる。
【0140】
また、物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値の第2変形例は、物理量の相関関係が、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係、擬残留磁束密度Br(上記図18参照)と最大磁界HMAXとの関係である第8の関係および、残留磁束密度Brにおける上記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係である第9の関係であって、測定工程にて得られる物理量の測定値が、擬保磁力Hcと、擬残留磁束密度Brと、その擬残留磁束密度Brにおける上記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬残留磁化率χ の逆数1/χ の値である。
【0141】
本第2変形例でも、測定工程で、本実施例の上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性(対象ヒステリシス・マイナーループ)7から、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc、擬残留磁束密度Br(上記図18参照)及び擬残留磁化率χ の逆数1/χ の値を求めることができる。
【0142】
なお、測定対象の本変形例の物理量の測定値から材料の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程において、あらかじめ得ておいた本実施例の上記基準ヒステリシス・マイナーループから、例えば上記図4に示すような擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)と、例えば上記図19,21に示すような、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係(第8の関係)と、例えば上記図20,22に示すような、擬残留磁化率χ (上記図18参照)の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係(第9の関係)とをプロットして求めておく。
【0143】
そして、評価工程で、上記第1の関係、第8の関係及び第9の関係に基づいて、測定工程で対象ヒステリシス・マイナーループより得られた測定対象の擬保磁力Hcと、擬残留磁束密度Brと、擬残留磁化率χ の逆数1/χ との値から、被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態が定量的に調べられる。低合金鋼A533Bについては、例えば、上記図4及び図19、20の関係線図と測定値とを比較することにより、被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態が定量的に調べられる。また、多結晶純鉄については、上記図12及び図21、22の関係線図と測定値とを比較することにより、被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態が定量的に調べられる。
【0144】
なお、本第2変形例では、評価工程で、第1の関係、第8の関係及び第9の関係に基づいて経年劣化を評価しているが、これに変えて、第1の関係と第8の関係から求めた、例えば上記図23,24に示す擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係(第10の関係)に基づいて、測定工程で得られた擬保磁力Hcおよび擬残留磁束密度Brの値から被測定強磁性構造体1の金属疲労による組織変化を評価することもできる。
【0145】
さらに、第10の関係から、例えば上記図27に示す、擬残留磁束密度Brが一定のときの擬保磁力Hcと負荷応力σとの関係(第11の関係)を求め、これにより経年劣化を評価することもできる。
【0146】
また、第8の関係及び第9の関係から、例えば上記図25,図26に示す擬残留磁束密度Brと擬残留磁化率χ の逆数1/χ との関係(第12の関係)を求め、これにより経年劣化を評価することもできる。さらに、第8の関係及び第9の関係又は第12の関係から、例えば上記図28に示す、所定の値の擬残留磁束密度Brにおける擬残留磁化率χ の逆数1/χ と負荷応力σとの関係である第13の関係を求め、これにより経年劣化を評価することもできる。
【0147】
また、物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値の第3変形例は、物理量の相関関係が、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係および、上記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失W(上記図10参照)と最大磁界HMAXとの関係である第14の関係であって、測定工程にて得られる物理量の測定値が、擬保磁力Hcと、上記対象ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失Wとの値である。
【0148】
本第3変形例でも、測定工程で、本実施例の上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性(対象ヒステリシス・マイナーループ)7から、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬レマネンス損失W(上記図10参照)の値を求めることができる。
【0149】
なお、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬レマネンス損失Wの値から材料の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程において、あらかじめ得ておいた本実施例の上記基準ヒステリシス・マイナーループから、例えば上記図4に示すような、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)と、例えば上記図30に示すような、擬レマネンス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第14の関係)とをプロットして求めておく。
【0150】
そして、評価工程で、上記第1の関係及び第14の関係に基づいて、測定工程で対象ヒステリシス・マイナーループより得られた測定対象の擬保磁力Hcと擬レマネンス損失Wとの値から、被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態が定量的に調べられる。
【0151】
なお、本第3変形例では、評価工程で、第1の関係及び第14の関係の関係を求めているが、これに変えて、第1の関係と前記第14の関係から求めた、例えば上記図31に示す擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係である第15の関係に基づいて、測定工程で得られた擬保磁力Hcおよび擬レマネンス損失Wの値から被測定強磁性構造体1の金属疲労による組織変化を評価することもできる。さらに、第1の関係及び第14の関係、または第15の関係から、所定の値の擬保磁力Hcにおける擬レマネンス損失Wと負荷応力σとの関係である第16の関係(上記図32,図33参照)を求め、この関係から金属疲労による組織変化を評価することもできる。
【0152】
また、物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値の第4変形例は、擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係である第1の関係および、最大磁界HMAXにおける上記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と最大磁界HMAXとの関係である第17の関係であって、測定工程にて得られる物理量の測定値が、最大磁界HMAXのときの磁擬保磁力Hcと、最大磁界HMAXにおける上記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX との値である。
【0153】
本第4変形例でも、測定工程で、本実施例の上記ヒステリシス・マイナーループ磁化特性(対象ヒステリシス・マイナーループ)7から、擬保磁力Hc及び擬最大磁界磁化率χMAX (上記図18参照)の逆数1/χMAX の値を求めることができる。
【0154】
なお、測定対象の鉄鋼材料の擬保磁力Hc及び擬最大磁界磁化率χMAX (上記図18参照)の逆数1/χMAX の値から材料の経年劣化を評価するに際しては、評価情報取得工程において、あらかじめ得ておいた本実施例の上記基準ヒステリシス・マイナーループから、例えば上記図4に示すような擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)及び、例えば上記図35に示すような、最大磁界HMAXと擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX との関係(第17の関係)をプロットして求めておく。
【0155】
そして、評価工程で、上記第1の関係及び第17の関係に基づいて、測定工程で対象ヒステリシス・マイナーループより得られた測定対象の測定工程で得られた擬保磁力Hcおよび擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の値から、被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態が定量的に調べられる。
【0156】
なお、本第4変形例では、評価工程で、第1の関係及び第17の関係の関係を求めているが、これに変えて、第1の関係と第17の関係から求めた、例えば上記図36に示すような擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と擬保磁力Hcとの関係(第18の関係)に基づき、測定工程で得られた擬保磁力Hcおよび擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX の値から被測定強磁性構造体1の金属疲労による組織変化を評価することもできる。さらに、第1の関係及び第17の関係、または第18の関係から、例えば上記図37,図38に示すような、所定の値の擬保磁力Hcにおける擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と負荷応力σとの関係である第19の関係を求め、この関係から金属疲労による組織変化を評価することもできる。
【0157】
図42は、この発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法の第2実施例を示す説明図である。この実施例では、第1実施例と異なり、何らかの経年劣化を受けている被測定強磁性構造体1が、励磁巻線2と磁束検出巻線3とを直接巻ける形状を有していることから、その被測定構造体1に、励磁巻線2と磁束検出巻線3とが直接巻かれている。ここでも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、先の第1実施例と同様に、一般の市販品を用いることができる。そのヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置6には、この実施例を実施した結果として、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性7が表示される。
【0158】
この実施例では、先の第1実施例と同様にして、測定工程で、測定により得られたヒステリシス・マイナーループ磁化特性7から擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値を求め、評価情報取得工程で、あらかじめ、被測定強磁性構造体1と同種の材料のテストピースについて擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係(第3の関係)を求めておき、評価工程で、測定工程で得られた擬保磁力Hc及び擬磁化率の逆数1/χ の値と評価情報取得工程で求めた第3の関係とを比較することにより、材料の実質的な経年劣化の程度を評価できる。
【0159】
なお、上記第1実施例において示した、第1変形例から第4変形例までの物理量の相関関係及び測定工程にて得られる物理量の測定値は、本第2実施例の測定方法においても適用できることはもちろんである。
【0160】
従って、第2実施例の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法によれば、先の第1実施例と同様に強磁性構造体の経年劣化を感度良く非破壊的に測定でき、しかも磁気ヨークを使用しなくても済むことから、測定装置の単純化及び軽量化を図ることができる。
【0161】
ここで、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法における上記実施例で経年劣化の評価を行なった関係の番号と、ヒステリシス・マイナーループから得られた物理量の関係との対応を表2に示す。
【0162】
【表2】
Figure 2004184392
【0163】
上記実施例の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法において経年劣化の評価に用いた、上記表2に示す物理量である、擬保磁力Hc、擬磁化率χ 、擬ヒステリシス損失W、擬残留磁束密度Br、擬残留磁化率χ 、擬レマネンス損失WおよびχMAX は何れも、転位などの格子欠陥の量に敏感な物理量であり、従来のヒステリシスループから得られる保磁力等の物理量よりも感度や精度の面でも優れている。従って、上記何れの物理量によっても、より詳細な経年劣化の情報を得ることができる。
【0164】
しかも、それら物理量は、上述したように、ヒステリシス・マイナーループから得ることができる。従って、従来から一般的に行われているヒステリシスループを得るための測定では、磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要があるのに対して、本発明において行われる測定では、磁化が完全に飽和するまで磁界を外部から加える必要がなく、小さな外部磁界でヒステリシス・マイナーループを得ることができる。その上、測定装置を構成する観点からも、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験を行なう本発明の測定方法の方が、ヒステリシスループ磁化特性試験を行なう従来の一般的な測定方法よりも、測定装置を簡易に構成することができて有利である。
【0165】
従って、上記第1実施例及び第2実施例の測定方法によれば、原子炉圧力容器等の被測定強磁性構造体1の経年劣化の状態として経年劣化の原因である格子欠陥の種類とその量とを詳しく計測し得て、材料の経年劣化をより詳細、正確かつ総合的に評価することができる。
【0166】
なお、ヒステリシスループを得るためには、磁化が完全に飽和するまで外部から磁界を加えるため、これにより得られる物理量は外部磁界に依存しない量である。これに対して、本発明の測定方法では、外部磁界の強さの変化に伴い変化するヒステリシス・マイナーループを得る。従って、これにより得られる物理量(測定量)は外部磁界に応じて変化するため、ヒステリシス・マイナーループを測定する際に、反磁界や漏れ磁場の効果を考慮し、内部磁界の値を正確に求める必要がある。しかし、それら物理量の相関関係は、先に述べたように、外部磁界の強さHは直接入っておらず、材料特有のものである。それゆえ、本発明の非破壊検査に適用する場合には、必ずしも内部磁界の絶対値が必要となるわけではない。
【0167】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものではない。例えば上記実施例では構造体について測定したが、構造体用の構造材料についても測定し得ることは言うまでもない。また、本願発明者が発明した帯磁率係数cによる測定方法(特許第158182号)と、保磁力と磁化率との比による測定方法(特許第3300810号)と、本願発明の擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ による測定方法とを組み合わせても良い。このようにすれば、強磁性構造材の経年劣化のより一層正確な情報を得ることができる。
【0168】
また、本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法に適用できる、ヒステリシス・マイナーループから得られる物理量の相関関係及びそれらの組合せと測定工程で得られる物理量の測定値とは、上記実施例に示したものに限定されるものではなく、適宜変更できるのはもちろんである。さらに、本明細書では、強磁性鋼材として低合金鋼A533Bや多結晶純鉄を用いた場合について説明したが、これらの材料以外の強磁性構造材にも本発明の測定方法を適用することができるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は引張変形を加えた試料の形状を示す斜視図であり、(b)はヒステリシス・マイナーループ磁化特性を測定した際の試料の形状を示す斜視図である。
【図2】低合金鋼A533Bの引張試験を行なって得られた応力−ひずみ特性を例示する説明図である。
【図3】ヒステリシス・マイナーループから得られる、最大磁界HMAX、擬保磁力Hc及びその擬保磁力Hcにおける擬磁化率χ を例示する説明図である。
【図4】低合金鋼A533Bについて、応力負荷を加える前および加えた後のヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験により得られた擬保磁力Hcと最大磁界HMAXとの関係を例示する説明図である。
【図5】応力負荷後の低合金鋼A533Bについて、ヒステリシス・マイナーループ磁化特性試験から得られた擬保磁力Hcにおける擬磁化率の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係を例示する説明図である。
【図6】負荷応力(変形応力)σ=0,550,580,663[MPa]を加えた低合金鋼A533Bについて、擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係を例示する説明図である。
【図7】上記図6に示す説明図の部分拡大図である。
【図8】平均結晶粒径37[μm]の純鉄に塑性変形を加えた時の擬保磁力Hcと擬磁化率の逆数1/χ との関係を例示する説明図である。
【図9】低合金鋼A533Bについて、擬保磁力H =8[Oe]における擬磁化率の逆数1/χ と変形応力σとの関係を例示する説明図である。
【図10】ヒステリシス・マイナーループから得られる、擬ヒステリシス損失W、擬レマネンス損失W及び擬最大磁界磁化率χMAX を例示する説明図である。
【図11】低合金鋼A533Bについて、擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第5の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図12】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)の試験材料について、擬保磁力Hcと磁界強度Hの最大磁界HMAXとの関係(第1の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図13】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)の試験材料について、擬ヒステリシス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第5の関係)の変形応力依存性を例示する説明図である。
【図14】低合金鋼A533Bについて、擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第6の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図15】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)について、擬ヒステリシス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第6の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図16】低合金鋼A533Bについて、擬保磁力Hc=7[Oe]および擬保磁力Hc=11[Oe]における、擬ヒステリシス損失Wと負荷応力σ[MPa]との関係(第7の関係)を例示する説明図である。
【図17】所定の擬保磁力Hcの値(擬保磁力H =一定)における擬ヒステリシス損失Wと負荷応力σ[MPa]との関係(第7の関係)を示す関係線図において、劣化の程度および余寿命の評価を説明するための説明図である。
【図18】ヒステリシス・マイナーループから得られる、擬残留磁束密度Brおよび擬残留磁化率χ を例示する説明図である。
【図19】低合金鋼A533Bについて、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係(第8の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図20】低合金鋼A533Bについて、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係(第9の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図21】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)について、擬残留磁束密度Brと最大磁界HMAXとの関係(第8の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図22】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)について、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と最大磁界HMAXとの関係(第9の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図23】低合金鋼A533Bについて、擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係(第10の関係)を例示する説明図である。
【図24】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)について、擬残留磁束密度Brと擬保磁力Hcとの関係(第10の関係)を例示する説明図である。
【図25】低合金鋼A533Bについて、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係(第11の関係)を例示する説明図である。
【図26】多結晶純鉄(平均結晶粒径37μm)について、擬残留磁化率χ の逆数1/χ と擬残留磁束密度Brとの関係(第11の関係)を例示する説明図である。
【図27】上記図23に示す関係について擬残留磁束密度Brが=6[gauss]における擬保磁力Hc*と変形応力σとの関係を例示する説明図である。
【図28】上記図25に示す関係について擬残留磁束密度Brが=1.5[gauss]における擬残留磁化率χ の逆数1/χ と変形応力σとの関係を示す説明図である。
【図29】所定の擬残留磁束密度Brの値(擬残留磁束密度Br=一定)における擬保磁力Hcと負荷応力σとの関係(第11の関係)を示す概念図である。
【図30】擬レマネンス損失Wと最大磁界HMAXとの関係(第14の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図31】低合金鋼A533Bについて、擬レマネンス損失Wと擬保磁力Hcとの関係(第15の関係)を例示する説明図である。
【図32】擬保磁力Hc=7[Oe]及び擬保磁力Hc=8[Oe]における擬レマネンス損失Wと負荷応力(変形応力)σとの関係(第16の関係)を例示する関係線図である。
【図33】所定の擬保磁力Hcの値(擬保磁力H =一定)における前記擬レマネンス損失Wと前記負荷応力σとの関係(第16の関係)において、劣化の程度および余寿命の評価を説明するための説明図である。
【図34】低合金鋼A533Bについて、擬レマネンス損失Wと擬ヒステリシス損失Wとの相関関係を例示する説明図である。
【図35】低合金鋼A533Bについて、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と最大磁界HMAXとの関係(第17の関係)の応力依存性を例示する説明図である。
【図36】低合金鋼A533Bについて、擬最大磁界磁化率χMAX の逆数1/χMAX と擬保磁力Hcとの関係(第18の関係)を例示する説明図である。
【図37】上記図36において図中破線C9に示す擬保磁力Hc=4[Oe]での変形応力σと擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX との関係を示す関係線図である。
【図38】所定の擬保磁力Hcの値(擬保磁力H =一定)における擬最大磁界磁化率の逆数1/χMAX と負荷応力σとの関係(第19の関係)を示す概念図である。
【図39】本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法の第1実施例を示す説明図である。
【図40】上記第1実施例において、擬保磁力H と擬磁化率の逆数1/χ との関係である第3の関係を例示する関係線図である。
【図41】所定の擬保磁力Hcの値(擬保磁力H =一定)における擬磁化率の逆数1/χ と変形応力σとの関係を示す説明図である。
【図42】本発明の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法の第2実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 被測定強磁性構造体
2 励磁巻線
3 磁束検出巻線
4 磁気ヨーク
5 磁気閉回路
6 ヒステリシス・マイナーループ磁化特性測定装置
7 ヒステリシス・マイナーループ磁化特性

Claims (18)

  1. 強磁性構造材の経年劣化を非破壊で定量的に測定する方法において、
    あらかじめ、測定対象の強磁性構造材と同種の強磁性材料について、引張試験を行い応力と歪との関係を得て、前記同種の強磁性材料に、前記応力と歪との関係に応じて値を変化させた負荷応力(σ)を与えて測定した基準ヒステリシス・マイナーループから、前記強磁性構造材の経年劣化の評価情報となる物理量の相関関係を得る評価情報取得工程と、
    前記測定対象の強磁性構造材について測定にて対象ヒステリシス・マイナーループを得て、前記対象ヒステリシス・マイナーループから、前記物理量の測定値を得る測定工程と、
    前記評価情報取得工程で得た前記物理量の相関関係に基づいて、前記測定工程で得られた前記物理量の測定値から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価する評価工程と、を具えてなり、
    前記各ヒステリシス・マイナーループは、飽和磁界強度よりも小さい前記磁界強度(H)の範囲内で、材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)を段階的に変化させて強磁性構造材の磁束密度(B)を測定することにより得られた前記磁界強度(H)と前記磁束密度(B)との関係から、前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)ごとに得るものである、強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  2. 前記物理量の相関関係が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第1の関係および、前記擬保磁力(Hc)における前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率(χ )の逆数(1/χ )と前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第2の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と、前記擬保磁力(Hc)における前記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬磁化率(χ )の逆数(1/χ )との値であることを特徴とする、請求項1記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法
  3. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第2の関係から、前記擬磁化率(χ )の逆数(1/χ )と前記擬保磁力(Hc)との関係である第3の関係を得て、前記評価工程で、前記第3の関係から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項2記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  4. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第2の関係、または前記第3の関係から、所定の値の前記擬保磁力(Hc)における前記擬磁化率(χ )の逆数(1/χ )と前記負荷応力(σ)との関係である第4の関係を得て、前記評価工程で、前記第4の関係から、前記強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項2または請求項3記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  5. 前記物理量の相関関係が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第1の関係および、前記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失(W)と前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第5の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と、前記対象ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積である擬ヒステリシス損失(W)との値であることを特徴とする、請求項1に記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  6. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第5の関係から、前記擬ヒステリシス損失(W)と前記擬保磁力(Hc)との関係である第6の関係を得て、前記評価工程で、前記第6の関係から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項5記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  7. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第5の関係、または前記第6の関係から、所定の値の前記擬保磁力(Hc)における前記擬ヒステリシス損失(W)と前記負荷応力(σ)との関係である第7の関係を得て、前記評価工程で、前記第7の関係から、前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項5または請求項6記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  8. 前記物理量の相関関係が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第1の関係、前記磁界強度(H)の値がゼロのときの磁束密度(B)の値である擬残留磁束密度(Br)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第8の関係および、前記残留磁束密度(Br)における前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬残留磁化率(χ )の逆数(1/χ )と前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第9の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と、前記磁界強度(H)の値がゼロのときの磁束密度(B)の値である擬残留磁束密度(Br)と、前記擬残留磁束密度(Br)における前記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである前記擬残留磁化率(χ )の逆数(1/χ )の値であることを特徴とする、請求項1記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  9. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第8の関係から、前記擬残留磁束密度(Br)と前記擬保磁力(Hc)との関係である第10の関係を得て、前記評価工程で、前記第10の関係から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項8記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  10. 前記評価情報取得工程で、前記第10の関係から、所定の値の擬残留磁束密度(Br)における擬保磁力(Hc)と前記負荷応力(σ)との関係である第11の関係を得てこの第11の関係から、前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項9記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  11. 前記評価情報取得工程で、前記第8の関係及び前記第9の関係から、前記磁界強度(H)の値がゼロのときの磁束密度(B)の値である擬残留磁束密度(Br)と、前記残留磁束密度(Br)における前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである、擬残留磁化率(χ )の逆数(1/χ )との関係である第12の関係を得て、前記評価工程で、前記第12の関係から、前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項7から請求項9までの何れか一項に記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  12. 前記評価情報取得工程で、前記第8の関係及び前記第9の関係、または前記第12の関係から、所定の値の前記残留磁束密度(Br)における前記擬残留磁化率(χ )の逆数(1/χ )と前記負荷応力σとの関係である第13の関係を得て、前記評価工程で、前記第13の関係から、前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項8または請求項11記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  13. 前記物理量の相関関係が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第1の関係および、前記基準ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失(W)と前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第14の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と、前記対象ヒステリシス・マイナーループで囲まれた部分の面積より求めた擬レマネンス損失(W)との値であることを特徴とする、請求項1記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  14. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第14の関係から、前記擬レマネンス損失(W)と前記擬保磁力(Hc)との関係である第15の関係を得て、前記評価工程で、前記第15の関係から、前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項13記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  15. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第14の関係、または前記第15の関係から、所定の値の前記擬保磁力(Hc)における前記擬レマネンス損失(W)と前記負荷応力σとの関係である第16の関係を得て、前記評価工程で、前記第16の関係から、前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項13または請求項14記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  16. 前記物理量の相関関係が、磁束密度(B)の値がゼロのときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と材料に印加する前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第1の関係および、前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)における前記基準ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬最大磁界磁化率(χMAX )の逆数(1/χMAX )と前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)との関係である第17の関係であって、前記測定工程にて得られる物理量の測定値が、前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)のときの磁界強度(H)の値である擬保磁力(Hc)と、前記磁界強度(H)の最大値(HMAX)における前記対象ヒステリシス・マイナーループの傾きである擬最大磁界磁化率(χMAX )の逆数(1/χMAX )との値であることを特徴とする、請求項1記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法
  17. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係および前記第17の関係から、前記擬最大磁界磁化率(χMAX )の逆数(1/χMAX )と前記擬保磁力(Hc)との関係である第18の関係を得て、前記評価工程で、前記第18の関係から前記測定対象の強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項16記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
  18. 前記評価情報取得工程で、前記第1の関係及び前記第17の関係、または前記第18の関係から、所定の値の前記擬保磁力(Hc)における前記擬最大磁界磁化率(χMAX )の逆数(1/χMAX )と前記負荷応力(σ)との関係である第19の関係を得て、前記評価工程で、前記第19の関係から、前記強磁性構造材の経年劣化の状態を評価することを特徴とする、請求項16または請求項17記載の強磁性構造材の経年劣化の非破壊測定方法。
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