JP2004180641A - RNAi表現型を有する非ヒト哺乳動物の作製方法 - Google Patents

RNAi表現型を有する非ヒト哺乳動物の作製方法 Download PDF

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Abstract

【課題】RNAi表現型をもつマウスなどの哺乳動物を新規な方法で作製する方法を開発し、新たな子孫への伝達機構によるRNAi発現子孫の生産を可能とすること。さらに、RNAi表現型をもつマウスなどの哺乳動物の取得効率を向上させるために、dsRNAの導入方法を改良すること。
【解決手段】標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を細胞の核に注入することを含む、該標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物の作製方法。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を用いてRNAi表現型を有する非ヒト哺乳動物を作製する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまで、個体レベルにおけるDNAの機能解明においては、遺伝子ノックアウト動物を作成し、その表現系を解析するという方法で行われてきた。しかしながら、このノックアウト法は多大な労力と時間がかかり、数多くの遺伝子機能解析には実用的ではない。従って、これまでのノックアウト法より有効でかつ、より簡便な、動物個体での遺伝子機能抑制方法が望まれている。
【0003】
RNAi(RNA interference)とは、ある遺伝子(標的遺伝子とよぶ)の一部をコードするmRNAの一部を二本鎖にしたRNA(double stranded RNA:dsRNA)を細胞へ導入すると、ターゲット遺伝子の発現が抑制される現象を言う。1998年、生体内へのdsRNAの導入が導入遺伝子と同じ遺伝子の発現に対して抑制作用を持つことが,線虫において発見された(Nature, 391(6669) 806−811, 1998)。その後、真菌類、植物Nicotiana tabaccumとOryza sativa、プラナリア、トリパノソーマTrypanosoma brucei(J.Biol. Chem.,275(51) 40174−40179, 2000)、ハエDrosophila melanogaster(Cell, 95(7) 1017−1026, 1998)及び脊椎動物であるゼブラフィッシュでも観察され、RNAiは種を越えて普遍的に存在する現象であると考えられるようになった。
【0004】
RNAiの技術的応用については、線虫において、遺伝子ノックアウト技術として確立し、線虫全ゲノム配列決定計画により得られた全塩基配列情報を用いた、ゲノム機能解析の主要な手段として利用されている(Nature, 408(6810) 325−330,2000;Nature, 408(6810) 331−336,2000)。哺乳動物のゲノム機能解析においても、遺伝子ノックアウトより時間的、労力的に負担の少ない方法として、効率的な遺伝子発現抑制の方法として期待されている。
【0005】
哺乳類では、マウスの初期胚(Nat. Cell Biol., 2(2) 70−75, 2000)にdsRNAをインジェクションする実験においてRNAi効果が初めて報告されたが、その効果は初期胚に限られ、誕生した時にはRNAi効果が消失していた。この理由としては、1細胞期受精卵に導入したdsRNAが胚の分割増殖に依存して希釈され、RNAiに必要な濃度を維持できなくなっていると考えられているが、その他、哺乳類には生物学的に線虫と異なるメカニズムが存在する可能性もある。
【0006】
【非特許文献1】
Nature, 391(6669) 806−811, 1998
【非特許文献2】
J.Biol. Chem.,275(51) 40174−40179, 2000
【非特許文献3】
Cell, 95(7) 1017−1026, 1998
【非特許文献4】
Nature, 408(6810) 325−330, 2000
【非特許文献5】
Nature, 408(6810) 331−336,2000
【非特許文献6】
Nat. Cell Biol., 2(2) 70−75, 2000
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来法の問題点を解決することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、RNAi表現型をもつマウスなどの哺乳動物を新規な方法で作製する方法を開発し、新たな子孫への伝達機構によるRNAi発現子孫の生産を可能とすることを解決すべき課題とした。さらに、RNAi表現型をもつマウスなどの哺乳動物の取得効率を向上させるために、dsRNAの導入方法を改良することを解決すべき課題とした。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、細胞質以外の部位にdsRNAを導入することにより、RNAi表現型をもつ非ヒト哺乳動物を取得することを試みた。EGFPのdsRNAをEGFPマウス受精卵の核に導入してブラストシストまで培養したところ、減光したブラストシストが認められた。減光したブラストシストをレシピエントマウス子宮へ移植し、妊娠12.5日に解剖してEGFP蛍光を観察したところ蛍光が減光した個体(胎児)が観察された。一方、EGFPのdsRNAを受精卵の細胞質へ導入してブラストシストまで培養したところ減光したブラストシストが認められたが、これらのブラストシストをレシピエントマウス子宮へ移植し、妊娠12.5日に解剖したところ、胎児個体の取得率が著しく低く、またEGFP蛍光を観察したところ、EGFP蛍光の減光は認められなかった。さらに、EGFPマウス受精卵の核へEGFP dsRNAを導入して2細胞期にレシピエントマウスへ移植し、誕生した産仔の中に、EGFP蛍光の減少したマウスが認められた。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を細胞の核に注入することを含む、該標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物の作製方法が提供される。
好ましくは、標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)は受精卵の核に注入される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の方法により作製される、標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物又はその子孫又はその一部が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を核に注入した受精卵、当該受精卵から発生した胚、並びに、当該胚を対応する非ヒト哺乳動物の子宮または卵管へ移植して発生させた胎児又はその子孫又はその一部が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を細胞の核に注入することによって、該標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物を作製する方法に関するものである。なお、本明細書において言う「標的遺伝子の機能が抑制されている」とは、RNAi表現型を有することを意味する。
【0012】
本発明者らはこれまでに、導入したdsRNAの細胞内濃度を維持することを目的として、逆向き反復配列を含む遺伝子を哺乳類発現ベクターの下流に連結した遺伝子を構築し、EGFPトランスジェニックマウスの受精卵へ導入し、胚をマウス卵管へ移植することによりEGFP dsRNA発現ベクター遺伝子導入マウスを作成した。このマウスにおいては、ターゲット遺伝子(EGFP)発現の抑制された表現型を示す個体が観察された(特願2001−46089)が、その取得効率は低く、RNAi効果を用いてマウス個体において遺伝子機能解析を行うためにはさらなる改良が望まれていた。
【0013】
本発明においては、標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を受精卵などの細胞の核に注入することによって、該標的遺伝子の機能が抑制されている(即ち、RNAi表現型を有する)非ヒト哺乳動物の作製する方法を採用した。この手法を用いることにより、標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物を効率良く作製できることが今回初めて見出された。
【0014】
(1)標的遺伝子
本発明で用いる標的遺伝子としては任意の遺伝子を使用できる。本発明の方法を用いて標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物を作製する場合、標的遺伝子は発現を抑制することを意図する遺伝子である。このような標的遺伝子としては、クローニングはされているが機能が未知の遺伝子も含まれる。
【0015】
あるいは、標的遺伝子は、外来性レポータータンパク質またはその変異タンパク質の遺伝子であってもよい。このような外来性レポータータンパク質またはその変異タンパク質の遺伝子を標的遺伝子として使用した場合は、本発明による細胞の核にdsRNAを導入する手法により、RNAi効果を容易に検出及び評価することができる。
【0016】
外来性レポータータンパク質としては、エンハンスド・グリーン・フルオレッセント・プロテイン(Enhanced green fluorescent protien)、グリーン・フルオレッセント・プロテイン(Green fluorescent protien)、エクオリン、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、β−グルクロニダーゼなどが挙げられる。
【0017】
外来性レポータータンパク質の変異タンパク質としては、上記した野生型のレポータータンパク質のアミノ酸配列中に1〜複数個(例えば1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個)のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を有するタンパク質であって、好ましくは野生型のレポータータンパク質と同等以上の機能を維持している。
【0018】
レポータータンパク質の変異タンパク質の遺伝子として具体的には、レポータータンパク質の遺伝子中の塩基配列の一部が欠損した遺伝子、レポーター遺伝子の塩基配列が他の塩基配列で置換された遺伝子、レポーター遺伝子の一部に他の塩基配列が挿入された遺伝子などが用いられる。欠損、置換または付加を受ける塩基の数は、特に限定されないが、通常、1ないし60個程度、好ましくは1から30個程度、より好ましくは1ないし10個程度である。なお、これらの変異遺伝子は、レポーター遺伝子としての機能を維持していることが望ましい。
【0019】
変異タンパク質の遺伝子は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。具体的には、天然型レポータータンパク質をコードするDNAに対して変異原となる薬剤を接触作用させたり、紫外線を照射したり、あるいはPCR法などの遺伝子工学的手法を用いることにより変異タンパク質をコードする遺伝子を取得することができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから特に有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nD ED., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、及びCurrent Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987−1997)等に記載の方法に準じて実施することができる。
【0020】
(2)二本鎖RNA(dsRNA)
二本鎖RNA(dsRNA)とは、標的遺伝子のセンス鎖RNAとアンチセンス鎖RNAとを混合して両者をアニーリングすることにより調製することができる。具体的には、先ず、標的遺伝子のセンス鎖RNA転写用テンプレートDNA及びアンチセンス鎖RNA転写用テンプレートDNAをそれぞれ当業者に公知の遺伝子組み換え手法により調製する。次いで、これらのRNA転写用テンプレートDNAを用いて常法によりRNAの転写を行なう。RNAの転写は、RiboMAX Large Scale RNA Production System − T7(Promega)などの市販のキットを用いて実施することもできる。転写反応の反応産物はDNase処理を行い、さらにフェノール−クロロホルム、クロロホルム抽出、及びエタノール沈殿などの常法により転写RNAを精製することができる。最後に、上記で調製したセンスRNA及びアンチセンスRNAを好ましくは等量になるように混合し、アニーリング操作を行なうことにより2本鎖を形成させ、二本鎖RNA(dsRNA)を作製することができる。なお、過剰に存在する一本鎖RNAは適当なヌクレアーゼ(RNase)で処理し、フェノール−クロロホルム、クロロホルム抽出及びエタノール沈殿などの常法によりdsRNAを精製することができる。
【0021】
(3)細胞の核への導入
本発明において標的遺伝子のdsRNAを導入する細胞の種類は特に限定されないが、非ヒト哺乳動物を効率の作製という目的から見て、好ましくは、発生系列の細胞であり、具体的には、受精卵、未受精卵、精子およびその始原細胞を含む生殖細胞を挙げることができ、さらに好ましくは、非ヒト哺乳動物の発生における胚形成初期の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階で、かつ一般に8細胞期以前)を挙げることができる。これらの細胞の核にdsRNAを導入し、この細胞を用いて個体を発生させることにより、標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物を作製することができる。本発明において好ましくは、標的遺伝子のdsRNAは、受精卵の核に導入される。
【0022】
二本鎖RNA(dsRNA)の細胞の核への導入は、当業者に公知の方法により行なうことができ、例えば、核内注入は、位相差顕微鏡下でマイクロインジェクションにより行なうことができる。
【0023】
(4)非ヒト哺乳動物の作製
本発明においては、上記(3)で得られた標的遺伝子のdsRNAを核に導入した細胞を用いて、該標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物を作製する。得られる非ヒト哺乳動物又はその子孫又はその一部も本発明の範囲内のものである。即ち、本発明は、標的遺伝子のdsRNAを核に導入した受精卵、未受精卵、精子又はES細胞などから発生した胚、並びにこの胚を、対応する非ヒト哺乳動物の子宮または卵管へ移植して発生させた胎児にも関する。
【0024】
該非ヒト哺乳動物の一部としては、非ヒト哺乳動物の細胞内小器官、細胞、組織および臓器のほか、頭部、指、手、足、腹部、尾などが挙げられる。
非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびサルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。非ヒト哺乳動物としてはマウス、ラット、モルモットなどの齧歯目の哺乳動物が好ましく、マウス又はラットが特に好ましい。マウスとしては、例えば、純系としてはC57BL/6系統,DBA2系統などが挙げられ、交雑系としてはB6C3F1系統,BDF1系統,B6D2F1系統,BALB/c系統,ICR系統などが挙げられる。ラットの具体例としては、例えば、Wistar,SDなどが挙げられる。
【0025】
二本鎖RNA(dsRNA)を非ヒト哺乳動物またはその先祖の受精卵に導入する際に用いられる受精卵は、同種の雄非ヒト哺乳動物と雌非ヒト哺乳動物とを交配させることによって得られる。受精卵は自然交配によっても得られるが、雌非ヒト哺乳動物の性周期を人工的に調節した後、雄非ヒト哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌非ヒト哺乳動物の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を例えば腹腔注射などにより投与する方法が好ましい。好ましいホルモンの投与量及び投与間隔は非ヒト哺乳動物の種類により適宜決定できる。
【0026】
受精卵の核に二本鎖RNA(dsRNA)を導入した後、雌非ヒト哺乳動物に人工的に移植・着床することにより、dsRNAが導入された非ヒト哺乳動物が得られる。黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)あるいはその類縁体を投与後、雄非ヒト哺乳動物と交配させることにより、受精能を誘起された偽妊娠雌非ヒト哺乳動物に、dsRNAが導入された受精卵を人工的に移植・着床させる方法が好ましい。LHRHあるいはその類縁体の投与量ならびにその投与後に雄非ヒト哺乳動物と交配させる時期は非ヒト哺乳動物の種類等により適宜選択できる。
【0027】
dsRNAの導入後の作出動物の生殖細胞においてもdsRNAが存在することは、作出動物の後代が、RNAi効果を示すことを意味する。RNAi効果を受け継いだこの種の動物の子孫も本発明の範囲内である。
【0028】
本発明の方法により作製される非ヒト哺乳動物においては、RNAi効果により標的遺伝子の発現は抑制されていることが期待される。このような標的遺伝子の機能がノックアウトしているモデル動物は、新規遺伝子の機能解析などに有用である。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0029】
【実施例】
実施例1:dsRNAの調製
インジェクションに用いたEGFP dsRNA、コントロールとして用いたHPRT dsRNAは以下に示す方法で調製した。
(1)EGFP RNA転写用テンプレートDNAの調製
pCE EGFP−1(文献名: Takada, T., 他、 Selective production of transgenic mice using green fluorescent protein as a marker. Nature Biotech. 15:458−461, 1997)を制限酵素Nco I、Dra Iで切断し1%アガロース電気泳動で分離後、800bpのバンドを切り出しDNAを回収し、挿入用フラグメントとした。このフラグメントを、Nco I、Eco RV処理したLitmus 28ベクター(New England Biolabs)とライゲーションして大腸菌JM109をトランスフォームし、EGFP遺伝子が組み込まれたプラスミドEGFP LIを取得した。その後、EGFP LIプラスミドをSpe I処理してEGFPセンスRNA転写用テンプレートDNAとし、Afl II処理してEGFPアンチセンスRNA転写用テンプレートDNAとした。
【0030】
(2)HPRT RNA転写用テンプレートDNAの調製
HPRT cDNAを含むプラスミドpHPT5はATCCより分譲を受けた(ATCC Number 37424)。pHRT5をAge I及びBal Iで処理して得られたフラグメントを、Age I及びEcoRV処理後、CIP処理したLitmus28ベクターにライゲーションしてHPRT遺伝子が組み込まれたプラスミドHPRT LIを取得した。その後、HPRT LIプラスミドをSpe I処理してHPRTセンスRNA転写用テンプレートDNAとし、Afl II処理してHPRTアンチセンスRNA転写用テンプレートDNAとした。
【0031】
(3)RNAの調製
RNAの転写はRiboMAX Large Scale RNA Production System − T7(Promega)を用いて実施した。転写の条件は添付資料に従い、それぞれの遺伝子について、センスRNA、アンチセンスRNAを独立に転写した。転写後、添付資料の条件に従ってDNase処理を行い、フェノール−クロロホルム、クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により転写RNAを精製した。
【0032】
(4)インジェクションに用いるdsRNAの調製
調製したセンスRNA、アンチセンスRNAを等量になるように混合し、アニーリング操作により2本鎖を形成させた。過剰に存在する一本鎖RNAを除去する為、MungBean Nuclease(TaKaRa)処理し、フェノール−クロロホルム、クロロホルム抽出及びエタノール沈殿によりdsRNAを精製した。精製したdsRNAは5μg/μl水溶液として凍結保存し、使用時はPBS(−)溶液とした。
【0033】
実施例2:受精卵の作出
受精卵の作出は、豊田らの手法に従い(マウス卵子の体外受精に関する研究、家畜繁殖誌16:147−151、1971)体外受精で行った。すなわち、メスマウスに48時間間隔でPMGS及びhCG(7.5単位)を腹腔内注射し、その後16−18時間に卵子を採取し、EGFPトランスジェニックマウス(Masaru Okabe, et al, FEBS Letters 407( 1997 ) 313−319)精子(卵子採取の約1.5時間前に精子採取)を媒精した(約100−150精子/μl)。媒精約6時間後に卵子の第2極体の放出と雌雄両前核の有無を確認し、受精卵のみ選抜した。得られた前核期受精卵は中尾らの手法(1997)に従って、簡易ガラス化法を用い凍結保存した。凍結された受精卵は実験前に融解し、顕微注入操作に供した。
【0034】
実施例3:dsRNAインジェクション
受精卵前核へのdsRNAインジェクションは、勝木らの手法(発生工学実験マニュアル トランスジェニックマウスの作り方、1987)に従って行った。受精卵は修正ウィッテン培地(mWM培地)の液滴に移し、核内注入では、位相差顕微鏡(DMIRB、Leica社)下で雄性前核を確認した後、精製したdsRNA溶液(2.0μg/μl)を約2pl注入した。細胞質内注入では、細胞質内にdsRNA溶液を約2pl注入した。生残胚はmWM培地に移し、5%CO、95%Air、37℃の条件下で培養した。インジェクション後4日目に蛍光実体顕微鏡(MZ. FL III, Leica社)を用いてEGFPの発現を観察し、EGFP発現が抑制された胚(減光胚)の存在を確認した。これらの減光胚を含む胚を偽妊娠の雌ICR系統マウスの子宮へ移植し、着床させた。
【0035】
インジェクション後14日目に解剖して胎児を取り出し、蛍光実体顕微鏡を用いてEGFPの発現を観察した。EGFP dsRNAをインジェクションした受精卵より作成した胎児の中にEGFP発現が抑制された胎児の存在を確認した(図1)。
EGFP dsRNAインジェクションの胚盤胞観察の結果を以下の表1に示し、胚移植の結果(解剖観察)の結果を以下の表1に示す。
【0036】
【表1】
Figure 2004180641
【0037】
【表2】
Figure 2004180641
【0038】
実施例4:dsRNAインジェクションによる産仔取得
実施例3と同様な方法で、EGFP dsRNAを受精卵前核及び細胞質内へインジェクションした。生残胚をmWM培地に移し、5%CO、95%Air、37℃の条件下で培養し、翌日2細胞期の段階で偽妊娠の雌ICR系統マウスの卵管へ移植し、着床させた。移植後18日目に誕生した産仔に、暗室内で365nm紫外線ランプ(UVP社UVL−56型)を照射し、EGFP蛍光観察を行ったところ、EGFP dsRNAを核にインジェクションした仔マウスの中に、体表EGFP蛍光が減少した仔マウスが認められた(図2)。
【0039】
【発明の効果】
本発明により、従来の方法よりも効率的に、RNAi表現型非ヒト哺乳動物を取得することができる。さらに、RNAi効果を用いた疾病等の関連遺伝子の解析、医薬品のターゲット遺伝子の解析等において、これまでのマウスよりもより確実に遺伝子の抑制が可能となり、産業上大いに貢献すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、EGFP dsRNAをインジェクションした受精卵より作成した胎児を取り出し、蛍光実体顕微鏡を用いてEGFPの発現を観察した結果を示す。上段はインジェクションなしの胎児を示す、下段左は減光した胎児を示し、下段中央は若干減光した胎児を示し、下段右は減光しなかった胎児を示す。
【図2】図2は、産仔に、暗室内で365nm紫外線ランプを照射し、EGFP蛍光観察を行った結果を示す。左の2匹はインジェクションなしのマウスを示し、真中の二匹は減光しなかったマウスを示し、右から2番目のマウスは減光したマウスを示し、右から一番目のマウスは若干減光したマウスを示す。

Claims (6)

  1. 標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を細胞の核に注入することを含む、該標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物の作製方法。
  2. 標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を受精卵の核に注入することを含む、請求項1に記載の非ヒト哺乳動物の作製方法。
  3. 請求項1又は2に記載の方法により作製される、標的遺伝子の機能が抑制されている非ヒト哺乳動物又はその子孫又はその一部。
  4. 標的遺伝子の二本鎖RNA(dsRNA)を核に注入した受精卵。
  5. 請求項4に記載の受精卵から発生した胚。
  6. 請求項5に記載の胚を、対応する非ヒト哺乳動物の子宮または卵管へ移植して発生させた胎児又はその子孫又はその一部。
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