JP2004180441A - モータ制御装置,モータ制御方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ACモータをベクトル制御するモータ制御装置及びその方法であって,多極の高トルクモータに対して適用した場合にも電圧飽和による過電流を発生させること無く,該モータを高精度に制御可能なものを提供すること。
【解決手段】上記ACモータの電気角速度ω或いはその符号を算出する電気角速度算出手段6cと,d−q軸座標におけるd軸電圧Vdの不足分Vdn或いはその符号を算出するd軸電圧不足分算出手段6aと,上記電気角速度ω或いはその符号と,上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,に基づいてq軸電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出するq軸電流補正手段6bとを含んでなる過電流防止手段6を具備するモータ制御装置Aとして構成する。
【選択図】図1
【解決手段】上記ACモータの電気角速度ω或いはその符号を算出する電気角速度算出手段6cと,d−q軸座標におけるd軸電圧Vdの不足分Vdn或いはその符号を算出するd軸電圧不足分算出手段6aと,上記電気角速度ω或いはその符号と,上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,に基づいてq軸電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出するq軸電流補正手段6bとを含んでなる過電流防止手段6を具備するモータ制御装置Aとして構成する。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
ACモータを電流制御するモータ制御装置及びその方法に係り,詳しくは,電圧飽和による過電流の発生を防ぎ,高精度にACモータを制御可能なものに関する。
【0002】
【従来の技術】
ACモータを電流制御する手法としては,各相の電流毎にPI制御を行う各相PI制御と,各相の電流を回転直交座標系であるd−q軸座標に変換し,その座標上でPI制御を行うベクトル制御が一般的である(例えば,特許文献1及び特許文献2参照)。
(各相PI制御)
ここでは先ず,図6を参照しつつ,各相PI制御を適用したモータ制御装置Bについて説明する。
ACサーボモータMを制御する上記モータ制御装置Bは,同図に示す如く,2相−3相変換器3,U相電流制御器7,V相電流制御器8,W相電流制御器9,電力増幅器4を具備して概略構成される。
該モータ制御装置Bでは,先ず,上記2相−3相変換器3において,入力されるトルク指令に基づいて決定されるq軸電流指令Iqd及びd軸電流指令Idd(但し,Iddは「0」である)とが,エンコーダ等で検出される上記ACサーボモータMのロータ位相θに応じて逆d−q軸変換され,各相の電流指令値Iud,Ivd,Iwdに変換される。
そして,変換された上記各相の電流指令値から,不図示である電流検出器により検出される各相の電流Iu,Iv,Iwを減じて電流偏差を求め,更に,それら各相の電流偏差を用いて上記U相電流制御器7,V相電流制御器8,W相電流制御器9でPI制御を行うことにより,各相の指令電圧Eu,Ev,Ewが算出される。
最後に,上記各相の電流制御器により算出された指令電圧Eu,Ev,Ewがインバータ等を含んで構成される上記電力増幅器4でPWM制御された後,各相の電流Iu,Iv,Iwとして上記ACサーボモータMに供給され,モータを駆動する。
このように各相PI制御は,トルク指令に応じて交流状に変化する各相の電流指令値によって各相の電流が制御され,上記ACサーボモータMをトルク制御する構成であり,その構成から交流方式と呼ばれる。
(ベクトル制御)
次に,図7を参照しつつ,ベクトル制御を適用したモータ制御装置Cについて説明する。
ACサーボモータMを制御する上記モータ制御装置Cは,同図に示す如く,d軸電流制御器1,q軸電流制御器2,2相−3相変換器3,電力増幅器4,3相−2相変換器5,を具備して概略構成される。
該モータ制御装置Cでは,先ず,上記3相−2相変換器5において,不図示である電流検出器により検出される(いずれか2相を検出すれば良く,図4ではU相,V相を検出する例を示す)各相の電流Iu,Iv,Iwが,エンコーダ等で検出される上記ACサーボモータMのロータ位相θに応じてd−q軸変換され,d−q座標におけるd軸方向に対する電流(以下略してd軸電流と称す)Id及びq軸方向に対する電流(以下略してq軸電流と称す)Iqに変換される。
そして,入力されるトルク指令に基づいて決定されるq軸方向に対する電流指令(以下略してq軸電流指令と称す)Iqd及びd軸方向に対する電流指令(以下略してd軸電流指令と称す)Idd(但し,Iddは「0」である)から,上記3相−2相変換器5において変換された各軸の電流値Id及びIqを減じて電流偏差を求め,更に,それら各軸の電流偏差を用いて上記d軸電流制御器1,q軸電流制御器2でPI制御を行うことにより,各軸の指令電圧Vd,Vqが算出される。
続いて,算出された各軸の指令電圧Vd,Vqが,上記2相−3相変換器3において,ロータ位相θに応じて逆d−q軸変換され,各相の指令電圧Vu,Vv,Vwに変換される。
最後に,上記2相−3相変換器3により算出された各相の指令電圧Vu,Vv,Vwが,インバータ等を含んで構成される上記電力増幅器4でPWM制御された後,各相の電流Iu,Iv,Iwとして上記ACサーボモータMに供給され,モータを駆動する。
このようにベクトル制御は,モータと同期して回転するd−q座標における各軸の電流指令値(直流量)に応じて各相の電流を制御し,上記ACサーボモータMをトルク制御する構成であり,上述した交流方式に対して直流方式と呼ばれる。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−153569号公報
【特許文献2】
特開平8−289599号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで,近年,ACモータは小型化・高トルク化と共に,多極化が進んでいる。
このようなACモータにおいては,高トルクであるが故にトルク定数(誘起電圧定数)が大きく,また多極であるが故に高速回転時の電気角速度が速い。
その結果として,このようなACモータを上述した従来公知の技術を適用したモータ制御装置によって電流制御を行う場合には,以下のような問題が生ずる。
(各相PI制御)
各相PI制御では,上述の如く,各相の電流指令値が交流状に変化する。
例えば,14極の多極モータを4000rpmで回転制御する場合を考えると,各相の電流指令値Iud,Ivd,Iwdの交流変化の周波数は467Hz(=4000/60×(14/2))という高周波になる。
そのため,各相の電流制御器7〜9におけるPI制御では,このような高周波の電流指令値に対して応答することができず,実際の各相の電流は,電流指令値に対して位相の遅れた,振幅の小さい電流とならざるを得ない。
従って,各相PI制御を適用したモータ制御装置では,所望のトルク電流(q軸電流)を発生させることができず出力トルクが過小となるだけでなく,位相が遅れることによって,出力トルクに寄与しない無効電流(d軸電流)が増加し,それによる発熱も問題となっていた。
(ベクトル制御)
一方,ベクトル制御は,回転直行座標系であるd−q座標上の直流量で電流制御を行う構成であるため,上述した各相PI制御に較べて安定で且つ高精度な制御が可能である。
しかしながら,ベクトル制御で用いられるd−q軸座標系においては,軸間の干渉電圧の影響,及びq軸側に発生する逆起電力が問題となる。
ここに,d−q軸座標系で電流制御されるモータを模式的に表したブロック図を図8に示す。同図は,制御対象であるモータをd−q座標系で表す動特性モデルYと,該モータを電流制御する制御部Xとを示すものである。
同図より明かな如く,制御部Xは,各軸毎の電流フィードバック制御を行うものであり,各軸に対する電流指令値(Idd,Iqd)と電流値(Id,Iq)との偏差を無くすべく機能する各々のPI制御(比例ゲインがGp,積分ゲインがGi)によって表される。
また,モータの動特性モデルYは,各軸の電気抵抗R及びインダクタンスLの和で与えられる各軸の電気的時定数項(R+sL)に加え,軸電流Id(Iq),モータの電気角速度ω,及び各軸のインダクタンスLに比例する各軸相互の干渉電圧と,電気角速度ωに比例する逆起電力Veとにより表される。
ここで,上述同様に,14極の多極モータを4000rpmで回転制御する場合を考えると,各軸の干渉電圧(q軸のd軸に対する干渉電圧:Iq×ω×L,q軸のd軸に対する干渉電圧:Id×ω×L)は,各軸の電気的時定数項の数百倍,更には適正な制御ゲインによる制御電圧の数十倍の大きさとなるため,各軸の電流の動特性は軸間の干渉電圧により支配される。更には,このような高速回転時には,q軸における逆起電力Veも高い電圧値を示す。
そのため,従来のベクトル制御においては,各軸に供給される電圧の殆どが,これら干渉電圧及び逆起電力によって占められ,電圧飽和を引き起こし易い。更に,軸間の干渉並びに逆起電力が大きな(支配的な)状態で,電圧飽和が発生した場合には,d軸電流及びq軸電流を制御する各軸の制御電圧が不足するため,過電流を招いていた。
このように,ベクトル制御は,高い制御性を有する反面,電圧飽和による過電流を起こし易いため,多極の高トルクモータを高速制御するような制御系には適用することができず,そのような制御系に対してはベクトル制御に較べて制御性の劣る各相PI制御を用いざるを得ないのが現状であった。
そこで本発明は,上記課題に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,モータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置及びその方法であって,多極の高トルクモータに対して適用した場合にも電圧飽和による過電流を発生させること無く,該モータを高精度に制御可能なものを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は,ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置において,直交回転座標系であるd−q軸座標のq軸方向に対する電流指令Iqdを,d軸方向に対する電流Idが0になるように補正し,上記ACモータの過電流を防止する過電流防止手段を具備してなることを特徴とするモータ制御装置として構成される。
ここで,上記過電流防止手段としては,上記ACモータの電気角速度ω或いはその符号を算出する電気角速度算出手段と,回転直交座標系であるd−q軸座標におけるd軸方向に対する電圧成分Vdの不足分Vdn或いはその符号を算出するd軸電圧不足分算出手段と,上記電気角速度算出手段により算出された上記電気角速度ω或いはその符号と,上記d軸電圧不足分算出手段により算出された上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,
に基づいてq軸方向に対する電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出するq軸電流補正手段とを具備するものが考えられる。
また,上記d軸電圧不足分算出手段としては,q軸方向に対する電流Iqが,上記q軸電流補正手段により補正されたq軸方向に対する電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)に一致した場合に想定されるd軸方向に対する電圧成分Vdm及びq軸方向に対する電圧成分Vqmを予想し,その予想された各軸方向の電圧値に基づいて上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号を算出することが可能であり,例えば,以下の式に基づいてd軸電圧Vdm及びq軸電圧Vqmを予想することができる。
・Vdm=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iqc ……(1)
・Vqm=Sq+ω×L×Id+Ve ……(2)
但し,Sd=∫(Idd−Id)×Gi×dt,Sq=∫(Iqd−Iq)×Gi×dtであり,Gpは比例制御ゲイン,Giは積分制御ゲイン,Iddはd軸方向に対する電流指令,Idはd軸方向に対する電流,Lはモータのインダクタンス,Veはモータの逆電圧である。
同様に,上式を変形した以下の式に基づいてもd軸電圧Vdm及びq軸電圧Vqmを算出できる。
・Vdm=Vd+ω×L×(Iqc−Iq) ……(3)
・Vqm=Vq−Gp×(Iqc−Iq) ……(4)
但し,Vqはq軸方向に対する電圧成分である。
また,上記q軸電流補正手段としては,上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,上記電気角速度ω或いはその符号と,所定のゲインGaと,を乗算した値を積分することにより上記補正量Iqaを算出するものが考えられる。
このような構成のモータ制御装置によれば,q軸電流指令値Iqdを補正し,d軸に対するq軸の干渉電圧を任意に操作することにより,d軸電流Idを電流指令値Idd(=0)に制御するために必要なd軸電圧Vdが確保することが可能となる。その結果として,例えば,近年の小型化・高トルク化されたACモータの制御を行う場合にも,電圧飽和による過電流に陥ることなく,供給可能な電圧の範囲内で各軸電流を最適に制御することが可能であり,高トルク化と高応答性を実現し得る。
【0006】
また,上記q軸電流補正手段による補正が不要となった場合には,電流制御ループの応答特性よりも低い減衰特性に従って,上記補正量Iqaを減衰させることが望ましい。
これにより,電流制御ループに悪影響を与えることない非常に簡単な(計算量の少ない)手法によりIqaを減衰させることが可能となり,制御プログラムの簡略化と共に,その処理時間を短縮できる。
【0007】
また,請求項1〜8に記載の上記モータ制御装置において適用されるq軸方向の電流指令の補正方法に特徴を有するモータ制御方法として捉えることにより,本発明は,ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御方法において,上記ACモータの電気角速度或いはその符号を算出する第1の工程と,d−q軸座標系のd軸方向に対する電圧成分の不足分Vdn或いはその符号を算出する第2の工程と,上記第1の工程により算出された電気角速度ω或いはその符号と,上記第2の工程により算出されたd軸電圧不足分Vdn或いはその符号とに基づいてq軸方向の電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出する第3の工程と,を具備してなることを特徴とするモータ制御方法と考えることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態及び実施例について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態及び実施例は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係るモータ制御装置Aの概略構成図,図2は供給可能電圧とd軸方向に対する電圧不足成分との関係を示す図,図3はモータ制御装置Aのステップ応答の測定結果を示す図,図4はモータ制御装置Bのステップ応答の測定結果を示す図,図5はモータ制御装置Cのステップ応答の測定結果を示す図,図6は従来の各相PI制御を適用したモータ制御装置Bの概略構成図,図7は従来のベクトル制御を適用したモータ制御装置Cの概略構成図,図8はd−q軸座標系で電流制御されるモータを模式的に表したブロック図である。
【0009】
本発明の実施形態に係るモータ制御装置Aは,図1に示す如く具現化される。ACサーボモータMを制御する該モータ制御装置Aは,d軸電流制御器1,q軸電流制御器2,2相−3相変換器3,電力増幅器4,3相−2相変換器5,過電流防止回路6(過電流防止手段の一例に該当)を具備して概略構成される。更に,上記過電流防止回路6は,d軸不足電圧検出器6a(d軸電圧不足分算出手段の一例に該当),q軸電流指令補正器6b(q軸電流補正手段の一例に該当),電気角速度検出器6c(電気角速度算出手段の一例に該当)を具備して構成される。
該モータ制御装置Aでは,先ず,上記3相−2相変換器5において,不図示である電流検出器により検出される(いずれか2相を検出すれば良く,図1ではU相,V相を検出する例を示す)各相の実電流Iu,Iv,Iwが,不図示であるエンコーダ等で検出された上記ACサーボモータMのロータ位相θに応じてd−q軸変換され,回転直交座標であるd−q座標におけるd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換される。
一方,入力されるトルク指令に基づいて決定されるq軸電流指令Iqdは,上記過電流防止回路6により算出されるq軸電流指令補正量Iqaによって補正され,補正q軸電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)となる。ここで,上記過電流防止回路6により算出されるq軸電流指令補正量Iqaは,各軸の電圧Vd,Vq,及び電気角速度ωに基づいて算出される補正量であって,その補正によりd軸電流Idが0となるように算出されるものであり,その算出方法については,後に説明する。
そして,補正q軸電流指令Iqc及びd軸電流指令Idd(但し,Iddは「0」である)から,上記3相−2相変換器5において変換された各軸の電流値Id及びIqを減じて電流偏差を求め,更に,それら各軸の電流偏差を用いて上記d軸電流制御器1,q軸電流制御器2でPI制御を行うことにより,各軸の指令電圧Vd,Vqが算出される。
続いて,算出された各軸の指令電圧Vd,Vqが,上記2相−3相変換器3において,ロータ位相θに応じて逆d−q軸変換され,各相の指令電圧Vu,Vv,Vwに変換される。
最後に,上記2相−3相変換器3により算出された各相の指令電圧Vu,Vv,Vwが,インバータ等を含んで構成される上記電力増幅器4でPWM制御された後,各相の電流Iu,Iv,Iwとして上記ACサーボモータMに供給され,モータを駆動する。
このように,本実施形態に係るモータ制御装置Aは,回転直交座標系であるd−q軸座標によりACモータをベクトル制御するという基本的動作については従来公知のものと同様であるが,q軸方向に対する電流指令として,d軸電流Idを「0」とすべく補正された補正q軸電流Iqcを用いることにより,q軸のd軸に対する干渉電圧を操作し,電圧飽和による過電流を回避している点で従来公知のものと異なる。
【0010】
次に,電圧飽和による過電流を回避するべく上記過電流防止回路6において算出されるq軸電流指令補正量Iqaの算出方法について説明する。
電圧飽和による過電流を回避するために,本実施形態では,d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧Vdを確保することを優先し,d軸電流Idを「0」に制御するために必要な電圧分が確保した残りの電圧によってq軸電流Iqを制御することを考える。
具体的には,上記d軸不足電圧検出器6aにより算出されるd軸電圧Vdの不足分(以下略してd軸電圧不足分と称し,算出方法については後に詳説する)Vdnと,上記電気角速度検出器6cにより算出される電気角速度ωとに基づいて,以下の式によりq軸電流指令補正量Iqaを算出し,該q軸電流指令補正量Iqaでq軸電流指令Iqqを補正することにより,q軸のd軸に対する干渉電圧を操作し,d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧Vdを確保している。
・Iqa=∫(Vdn/(ω×L))dt ……(5)
ここで,上式(5)では,Vdn/(ω×L)を積分することによってq軸電流指令補正量Iqaを算出しているが,その本質は,d軸不足電圧分Vdnと電気角速度ωの符号に応じてq軸電流指令補正量Iqa,ひいては干渉電圧を増減させる点にある。
即ち,q軸電流指令補正量Iqaの算出は,上記(5)に限定されるものではなく,例えば,
・Iqa=∫(sgn(Vdn)×sgn(ω)×Ga)dt ……(6)
但し,sgn(X)は引数に指定された数の符号に応じた整数(X>0の場合には1,X<0の場合には−1)を演算する数値演算関数である。
或いは,
・Iqa=∫(Vdn/ω×Ga)dt ……(7)
但し,Gaは所定のゲインである。
等の如く算出することもできる。
このようにして算出されたq軸電流指令補正量Iqaによりq軸電流指令Iqdを補正すれば,q軸のd軸に対する干渉電圧によってd軸電圧不足分Vdnが補償され,d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧Vdを確保をすることができる。
【0011】
次に,d軸電圧不足分Vdnの算出について説明する。
ここで,d軸電圧不足分Vdnを直接的に算出する方法としては,実際の各相電圧(Vu,Vv,Vw)と供給可能電圧V_maxとを比較することによって,電圧飽和により供給できなかった不足電圧分(Vus,Vvs,Vws)を算出し,該不足電圧分を逆d−q変換して各軸電圧の不足分Vds,Vqsに変換し,変換されたd軸電圧不足分Vdsをd軸不足電圧Vdnとする方法が考え得る。
しかしながら,上述のようにして得られたd軸電圧不足分Vdsは,その時点における瞬時値を表すものであるため,それを用いて上式(5)乃至(7)によりq軸電流指令補正量Iqaを求めたとしても,制御応答性が悪い。
そこで,本実施形態では,高い制御応答性を実現するものとして,前もって電圧飽和を予測してd軸不足電圧Vdnを算出し,該d軸不足電圧Vdnに基づいてq軸電流指令補正量Iqaを算出する方法を考える。
ところで,ベクトル制御における各軸の電圧方程式は,一般的に以下の如く表される。
・Vd=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iq ……(8)
・Vq=Gp×(Iqd−Iq)+Sq+ω×L×Id+Ve ……(9)
但し,Sd=∫(Idd−Id)×Gi×dt,Sq=∫(Iqd−Iq)×Gi×dtであり,Gpは比例制御ゲイン,Giは積分制御ゲイン,Lはモータのインダクタンス,Veはモータの逆電圧補償分である。
ここで,上式(8)及び(9)は,非干渉制御並びに逆電圧補償を行った場合の電圧方程式を表しており,上式(8)の右項における第二項,及び上式(9)の右項における第二項が,非干渉制御分であり,上式(9)の右項における第二項が逆起電圧補償分である。このような制御手法は,ベクトル制御の制御性を向上させ得る手法として公知の手法であるため,ここでは詳細な説明を省略する。無論,本実施形態は,非干渉制御並びに逆電圧補償を行う場合に限られるものではなく,そのような機能を有しない制御系に対しても適用可能であることは言うまでも無い。
d軸電圧不足分Vdnを算出するために,先ず上記d軸不足電圧検出器6aにおいて,上記(8),(9)式で表されるd軸電圧,q軸電圧におけるq軸電流Iqが,補正q軸電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)に一致した場合に想定されるd軸電圧Vdm,q軸電圧Vqmを算出し,算出された各軸の電圧に基づいてd軸不足電圧分Vdnが算出される。
つまり,上記(8),(9)式において,q軸電流Iqが補正q軸電流指令Iqcであるとした以下の式に基づいて各軸の想定電圧が算出される。
・Vdm=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iqc ……(1)
・Vqm=Sq+ω×L×Id+Ve ……(2)
また,上記(8),(9)式においてq軸電流指令Iqdが,補正q軸電流指令Iqcであるとすると,
・Vd=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iq ……(10)
・Vq=Gp×(Iqc−Iq)+Sq+ω×L×Id+Ve ……(11)
とすることができるので,該(10),(11)式を用いて,上記(1),(2)を変形した以下の式に基づいて算出することもできる。
・Vdm=Vd+ω×L×(Iqc−Iq) ……(3)
・Vqm=Vq−Gp×(Iqc−Iq) ……(4)
このようにして,上記d軸不足電圧算出器6aにおいては,上記(1)乃至(4)式から算出される各軸毎の想定電圧Vdm,Vqmと,供給可能電圧とを比較することによりd軸電圧不足分Vdnを算出することが可能である。
【0012】
ここでは,上記d軸不足電圧算出器6aにおいて,想定される各軸電圧Vdm,Vqmからd軸電圧不足分Vdnを算出する手法について,図2を参照しつつ,説明する。
ここで,ACサーボモータMに対して供給可能な電圧V_maxは,同図に示す如く,各相(U,V,W相)に対して6角形で示される。即ち,d軸電圧Vd並びにq軸電圧Vqを合成して得られる合成電圧Vが該6角形を上回った分が,不足電圧分を示すこととなり,更にその不足電圧分のd軸方向の成分がd軸方向不足分Vdnを示す。
このようにすれば,算出された各軸電圧Vdm,Vqmから,d軸方向不足分Vdnを正確に演算することが可能であるが,現実にd軸方向不足分Vdnを演算する際に,厳密な6角形である供給可能電圧V_maxを用いた場合,その計算量が膨大となり,演算処理の複雑化,ひいては処理時間の増大を招く虞がある。
そこで,本実施形態では,供給可能電圧V_maxを,6角形に外接する円C_1,或いは内接する円C_2のいずれかに円近似し,その円近似された供給可能電圧V_maxを用いてd軸方向不足分Vdnを演算している。
これにより,d軸方向不足分Vdnの演算係る計算量を著しく減少させることが可能となる。
ここで,供給可能電圧V_maxを円近似したことにより算出されるd軸方向不足分Vdnには誤差分が生ずることとなるが,該誤差分は,上記q軸電流制御器2における積分器等により十分吸収可能な程度であるため,厳密な6角形とした場合較べても,制御性の面で劣ることは無い。
【0013】
次に,図3乃至5を用いて,図6,7に示した従来のモータ制御装置B,C,及び本実施形態に係るモータ制御装置Aそれぞれによる制御結果の検証を行う。図3乃至5において,縦軸は各軸の電流指令値及び電流値を,横軸は時間軸を表す。
図4は,各相PI制御を適用したモータ制御装置Bにより,14極の多極モータを4000rpmで回転させた場合のステップ応答の測定結果を表す。
同図より,q軸電流はq軸電流指令値に対して追従することができずに大きく減衰し,更には,無効電流であるd軸電流も大きいことがわかる。
また図5は,ベクトル制御を適用したモータ制御装置Cにより,14極の多極モータを4000rpmで回転させた場合のステップ応答の測定結果を表す。
同図より,電圧飽和によるd軸電圧が不足し,d軸電流が「0」に制御されずに大きく流れ,結果として,q軸電流とd軸電流の総和が,供給可能な最大電流(本測定に用いた装置における最大電流は96Aである)を上回り(例えば,0.008secでは,q軸電流(96A)+d軸電流(20A)=116A)過電流を発生していることがわかる。
一方図6は,本発明に係るモータ制御装置Aにより,14極の多極モータを4000rpmで回転させた場合のステップ応答の測定結果を表す。
同図より明らかな如く,d軸電流はd軸電流指令通りに「0」に正確に制御される共に,q軸電流は上述した演算により補正される補正q軸電流指令(図中には変更された目標値に該当)に対して高精度に制御されていることがわかる。
このように,当該モータ制御装置Aによれば,上記過電流防止回路6におけるq軸電流指令値Iqdの補正により,d軸に対するq軸の干渉電圧が操作されることで,d軸電流Idをその電流指令値(Idd=0)に制御するために必要なd軸電圧Vdが確保され,残る電圧の範囲内でq軸電流を高精度に制御することが可能である。即ち,電圧飽和による過電流を招くことなく,供給可能な電圧の範囲内で各軸の電流を最適に制御することが可能となり,高い応答性と高トルクを実現することができる。
【0014】
最後に,d軸電圧Vd並びにq軸電圧Vqを合成して得られる合成電圧Vが供給可能電圧V_maxを下回り(電力が余剰し),Iqaによる補正が不要となった場合の処理手順について説明する。
このような状況では,電圧飽和に陥ることが無いため,q軸電流指令補正量Iqaを「0」に減衰する必要がある。
そこで,q軸電流指令補正量Iqaを「0」に減衰する処理としては,
▲1▼適当な減衰係数に従って減衰させる
▲2▼上述したd軸電圧不足分と同様の手順に従って,供給可能電圧V_maxまでのd軸田圧余力分を算出すると共に,その余力分を「0」にするべくq軸電流指令補正量Iqaを算出する。
ことが考えられる。
無論,▲2▼の方法が精密にq軸電流指令補正量Iqaを減衰させることが可能であるが,その制御演算が複雑となるため,本実施例では,▲1▼の方法を採用するものとする。
ここで,▲1▼を採用する場合の減衰係数としては,モータ制御装置における電流制御ループの応答特性よりも低い周波数を採用することにより,電流制御ループに悪影響を及ぼすことなく,速やかにIqaを「0」に減衰させることができる。
【0015】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明によれば,ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置において,直交回転座標系であるd−q軸座標のq軸方向に対する電流指令Iqdを補正し,d軸に対するq軸の干渉電圧を操作することによって,d軸電流Idを「0」に制御する(d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧を確保する)ことが可能となる。その結果として,例えば,近年の小型化・高トルク化されたACモータの制御を行う場合にも,電圧飽和による過電流に陥ることなく,供給可能な電圧の範囲内で各軸電流を最適に制御することが可能となり,高トルク化と高応答性化とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータ制御装置Aの概略構成図。
【図2】供給可能電圧とd軸方向に対する電圧不足成分との関係を示す図。
【図3】モータ制御装置Aのステップ応答の測定結果を示す図。
【図4】モータ制御装置Bのステップ応答の測定結果を示す図。
【図5】モータ制御装置Cのステップ応答の測定結果を示す図。
【図6】従来の各相PI制御を適用したモータ制御装置Bの概略構成図。
【図7】従来のベクトル制御を適用したモータ制御装置Cの概略構成図。
【図8】d−q軸座標系で電流制御されるモータを模式的に表したブロック図。
【符号の説明】
A …モータ制御装置
B …モータ制御装置
C …モータ制御装置
M …ACサーボモータ
1 …d軸電流制御器
2 …q軸電流制御器
3 …2相―3相変換器
4 …電力増幅器
5 …3相―2相変換器
6 …過電流防止回路
6a…d軸不足電圧算出器
6b…q軸電流指令補正器
【発明の属する技術分野】
ACモータを電流制御するモータ制御装置及びその方法に係り,詳しくは,電圧飽和による過電流の発生を防ぎ,高精度にACモータを制御可能なものに関する。
【0002】
【従来の技術】
ACモータを電流制御する手法としては,各相の電流毎にPI制御を行う各相PI制御と,各相の電流を回転直交座標系であるd−q軸座標に変換し,その座標上でPI制御を行うベクトル制御が一般的である(例えば,特許文献1及び特許文献2参照)。
(各相PI制御)
ここでは先ず,図6を参照しつつ,各相PI制御を適用したモータ制御装置Bについて説明する。
ACサーボモータMを制御する上記モータ制御装置Bは,同図に示す如く,2相−3相変換器3,U相電流制御器7,V相電流制御器8,W相電流制御器9,電力増幅器4を具備して概略構成される。
該モータ制御装置Bでは,先ず,上記2相−3相変換器3において,入力されるトルク指令に基づいて決定されるq軸電流指令Iqd及びd軸電流指令Idd(但し,Iddは「0」である)とが,エンコーダ等で検出される上記ACサーボモータMのロータ位相θに応じて逆d−q軸変換され,各相の電流指令値Iud,Ivd,Iwdに変換される。
そして,変換された上記各相の電流指令値から,不図示である電流検出器により検出される各相の電流Iu,Iv,Iwを減じて電流偏差を求め,更に,それら各相の電流偏差を用いて上記U相電流制御器7,V相電流制御器8,W相電流制御器9でPI制御を行うことにより,各相の指令電圧Eu,Ev,Ewが算出される。
最後に,上記各相の電流制御器により算出された指令電圧Eu,Ev,Ewがインバータ等を含んで構成される上記電力増幅器4でPWM制御された後,各相の電流Iu,Iv,Iwとして上記ACサーボモータMに供給され,モータを駆動する。
このように各相PI制御は,トルク指令に応じて交流状に変化する各相の電流指令値によって各相の電流が制御され,上記ACサーボモータMをトルク制御する構成であり,その構成から交流方式と呼ばれる。
(ベクトル制御)
次に,図7を参照しつつ,ベクトル制御を適用したモータ制御装置Cについて説明する。
ACサーボモータMを制御する上記モータ制御装置Cは,同図に示す如く,d軸電流制御器1,q軸電流制御器2,2相−3相変換器3,電力増幅器4,3相−2相変換器5,を具備して概略構成される。
該モータ制御装置Cでは,先ず,上記3相−2相変換器5において,不図示である電流検出器により検出される(いずれか2相を検出すれば良く,図4ではU相,V相を検出する例を示す)各相の電流Iu,Iv,Iwが,エンコーダ等で検出される上記ACサーボモータMのロータ位相θに応じてd−q軸変換され,d−q座標におけるd軸方向に対する電流(以下略してd軸電流と称す)Id及びq軸方向に対する電流(以下略してq軸電流と称す)Iqに変換される。
そして,入力されるトルク指令に基づいて決定されるq軸方向に対する電流指令(以下略してq軸電流指令と称す)Iqd及びd軸方向に対する電流指令(以下略してd軸電流指令と称す)Idd(但し,Iddは「0」である)から,上記3相−2相変換器5において変換された各軸の電流値Id及びIqを減じて電流偏差を求め,更に,それら各軸の電流偏差を用いて上記d軸電流制御器1,q軸電流制御器2でPI制御を行うことにより,各軸の指令電圧Vd,Vqが算出される。
続いて,算出された各軸の指令電圧Vd,Vqが,上記2相−3相変換器3において,ロータ位相θに応じて逆d−q軸変換され,各相の指令電圧Vu,Vv,Vwに変換される。
最後に,上記2相−3相変換器3により算出された各相の指令電圧Vu,Vv,Vwが,インバータ等を含んで構成される上記電力増幅器4でPWM制御された後,各相の電流Iu,Iv,Iwとして上記ACサーボモータMに供給され,モータを駆動する。
このようにベクトル制御は,モータと同期して回転するd−q座標における各軸の電流指令値(直流量)に応じて各相の電流を制御し,上記ACサーボモータMをトルク制御する構成であり,上述した交流方式に対して直流方式と呼ばれる。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−153569号公報
【特許文献2】
特開平8−289599号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで,近年,ACモータは小型化・高トルク化と共に,多極化が進んでいる。
このようなACモータにおいては,高トルクであるが故にトルク定数(誘起電圧定数)が大きく,また多極であるが故に高速回転時の電気角速度が速い。
その結果として,このようなACモータを上述した従来公知の技術を適用したモータ制御装置によって電流制御を行う場合には,以下のような問題が生ずる。
(各相PI制御)
各相PI制御では,上述の如く,各相の電流指令値が交流状に変化する。
例えば,14極の多極モータを4000rpmで回転制御する場合を考えると,各相の電流指令値Iud,Ivd,Iwdの交流変化の周波数は467Hz(=4000/60×(14/2))という高周波になる。
そのため,各相の電流制御器7〜9におけるPI制御では,このような高周波の電流指令値に対して応答することができず,実際の各相の電流は,電流指令値に対して位相の遅れた,振幅の小さい電流とならざるを得ない。
従って,各相PI制御を適用したモータ制御装置では,所望のトルク電流(q軸電流)を発生させることができず出力トルクが過小となるだけでなく,位相が遅れることによって,出力トルクに寄与しない無効電流(d軸電流)が増加し,それによる発熱も問題となっていた。
(ベクトル制御)
一方,ベクトル制御は,回転直行座標系であるd−q座標上の直流量で電流制御を行う構成であるため,上述した各相PI制御に較べて安定で且つ高精度な制御が可能である。
しかしながら,ベクトル制御で用いられるd−q軸座標系においては,軸間の干渉電圧の影響,及びq軸側に発生する逆起電力が問題となる。
ここに,d−q軸座標系で電流制御されるモータを模式的に表したブロック図を図8に示す。同図は,制御対象であるモータをd−q座標系で表す動特性モデルYと,該モータを電流制御する制御部Xとを示すものである。
同図より明かな如く,制御部Xは,各軸毎の電流フィードバック制御を行うものであり,各軸に対する電流指令値(Idd,Iqd)と電流値(Id,Iq)との偏差を無くすべく機能する各々のPI制御(比例ゲインがGp,積分ゲインがGi)によって表される。
また,モータの動特性モデルYは,各軸の電気抵抗R及びインダクタンスLの和で与えられる各軸の電気的時定数項(R+sL)に加え,軸電流Id(Iq),モータの電気角速度ω,及び各軸のインダクタンスLに比例する各軸相互の干渉電圧と,電気角速度ωに比例する逆起電力Veとにより表される。
ここで,上述同様に,14極の多極モータを4000rpmで回転制御する場合を考えると,各軸の干渉電圧(q軸のd軸に対する干渉電圧:Iq×ω×L,q軸のd軸に対する干渉電圧:Id×ω×L)は,各軸の電気的時定数項の数百倍,更には適正な制御ゲインによる制御電圧の数十倍の大きさとなるため,各軸の電流の動特性は軸間の干渉電圧により支配される。更には,このような高速回転時には,q軸における逆起電力Veも高い電圧値を示す。
そのため,従来のベクトル制御においては,各軸に供給される電圧の殆どが,これら干渉電圧及び逆起電力によって占められ,電圧飽和を引き起こし易い。更に,軸間の干渉並びに逆起電力が大きな(支配的な)状態で,電圧飽和が発生した場合には,d軸電流及びq軸電流を制御する各軸の制御電圧が不足するため,過電流を招いていた。
このように,ベクトル制御は,高い制御性を有する反面,電圧飽和による過電流を起こし易いため,多極の高トルクモータを高速制御するような制御系には適用することができず,そのような制御系に対してはベクトル制御に較べて制御性の劣る各相PI制御を用いざるを得ないのが現状であった。
そこで本発明は,上記課題に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,モータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置及びその方法であって,多極の高トルクモータに対して適用した場合にも電圧飽和による過電流を発生させること無く,該モータを高精度に制御可能なものを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は,ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置において,直交回転座標系であるd−q軸座標のq軸方向に対する電流指令Iqdを,d軸方向に対する電流Idが0になるように補正し,上記ACモータの過電流を防止する過電流防止手段を具備してなることを特徴とするモータ制御装置として構成される。
ここで,上記過電流防止手段としては,上記ACモータの電気角速度ω或いはその符号を算出する電気角速度算出手段と,回転直交座標系であるd−q軸座標におけるd軸方向に対する電圧成分Vdの不足分Vdn或いはその符号を算出するd軸電圧不足分算出手段と,上記電気角速度算出手段により算出された上記電気角速度ω或いはその符号と,上記d軸電圧不足分算出手段により算出された上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,
に基づいてq軸方向に対する電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出するq軸電流補正手段とを具備するものが考えられる。
また,上記d軸電圧不足分算出手段としては,q軸方向に対する電流Iqが,上記q軸電流補正手段により補正されたq軸方向に対する電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)に一致した場合に想定されるd軸方向に対する電圧成分Vdm及びq軸方向に対する電圧成分Vqmを予想し,その予想された各軸方向の電圧値に基づいて上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号を算出することが可能であり,例えば,以下の式に基づいてd軸電圧Vdm及びq軸電圧Vqmを予想することができる。
・Vdm=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iqc ……(1)
・Vqm=Sq+ω×L×Id+Ve ……(2)
但し,Sd=∫(Idd−Id)×Gi×dt,Sq=∫(Iqd−Iq)×Gi×dtであり,Gpは比例制御ゲイン,Giは積分制御ゲイン,Iddはd軸方向に対する電流指令,Idはd軸方向に対する電流,Lはモータのインダクタンス,Veはモータの逆電圧である。
同様に,上式を変形した以下の式に基づいてもd軸電圧Vdm及びq軸電圧Vqmを算出できる。
・Vdm=Vd+ω×L×(Iqc−Iq) ……(3)
・Vqm=Vq−Gp×(Iqc−Iq) ……(4)
但し,Vqはq軸方向に対する電圧成分である。
また,上記q軸電流補正手段としては,上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,上記電気角速度ω或いはその符号と,所定のゲインGaと,を乗算した値を積分することにより上記補正量Iqaを算出するものが考えられる。
このような構成のモータ制御装置によれば,q軸電流指令値Iqdを補正し,d軸に対するq軸の干渉電圧を任意に操作することにより,d軸電流Idを電流指令値Idd(=0)に制御するために必要なd軸電圧Vdが確保することが可能となる。その結果として,例えば,近年の小型化・高トルク化されたACモータの制御を行う場合にも,電圧飽和による過電流に陥ることなく,供給可能な電圧の範囲内で各軸電流を最適に制御することが可能であり,高トルク化と高応答性を実現し得る。
【0006】
また,上記q軸電流補正手段による補正が不要となった場合には,電流制御ループの応答特性よりも低い減衰特性に従って,上記補正量Iqaを減衰させることが望ましい。
これにより,電流制御ループに悪影響を与えることない非常に簡単な(計算量の少ない)手法によりIqaを減衰させることが可能となり,制御プログラムの簡略化と共に,その処理時間を短縮できる。
【0007】
また,請求項1〜8に記載の上記モータ制御装置において適用されるq軸方向の電流指令の補正方法に特徴を有するモータ制御方法として捉えることにより,本発明は,ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御方法において,上記ACモータの電気角速度或いはその符号を算出する第1の工程と,d−q軸座標系のd軸方向に対する電圧成分の不足分Vdn或いはその符号を算出する第2の工程と,上記第1の工程により算出された電気角速度ω或いはその符号と,上記第2の工程により算出されたd軸電圧不足分Vdn或いはその符号とに基づいてq軸方向の電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出する第3の工程と,を具備してなることを特徴とするモータ制御方法と考えることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態及び実施例について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態及び実施例は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係るモータ制御装置Aの概略構成図,図2は供給可能電圧とd軸方向に対する電圧不足成分との関係を示す図,図3はモータ制御装置Aのステップ応答の測定結果を示す図,図4はモータ制御装置Bのステップ応答の測定結果を示す図,図5はモータ制御装置Cのステップ応答の測定結果を示す図,図6は従来の各相PI制御を適用したモータ制御装置Bの概略構成図,図7は従来のベクトル制御を適用したモータ制御装置Cの概略構成図,図8はd−q軸座標系で電流制御されるモータを模式的に表したブロック図である。
【0009】
本発明の実施形態に係るモータ制御装置Aは,図1に示す如く具現化される。ACサーボモータMを制御する該モータ制御装置Aは,d軸電流制御器1,q軸電流制御器2,2相−3相変換器3,電力増幅器4,3相−2相変換器5,過電流防止回路6(過電流防止手段の一例に該当)を具備して概略構成される。更に,上記過電流防止回路6は,d軸不足電圧検出器6a(d軸電圧不足分算出手段の一例に該当),q軸電流指令補正器6b(q軸電流補正手段の一例に該当),電気角速度検出器6c(電気角速度算出手段の一例に該当)を具備して構成される。
該モータ制御装置Aでは,先ず,上記3相−2相変換器5において,不図示である電流検出器により検出される(いずれか2相を検出すれば良く,図1ではU相,V相を検出する例を示す)各相の実電流Iu,Iv,Iwが,不図示であるエンコーダ等で検出された上記ACサーボモータMのロータ位相θに応じてd−q軸変換され,回転直交座標であるd−q座標におけるd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換される。
一方,入力されるトルク指令に基づいて決定されるq軸電流指令Iqdは,上記過電流防止回路6により算出されるq軸電流指令補正量Iqaによって補正され,補正q軸電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)となる。ここで,上記過電流防止回路6により算出されるq軸電流指令補正量Iqaは,各軸の電圧Vd,Vq,及び電気角速度ωに基づいて算出される補正量であって,その補正によりd軸電流Idが0となるように算出されるものであり,その算出方法については,後に説明する。
そして,補正q軸電流指令Iqc及びd軸電流指令Idd(但し,Iddは「0」である)から,上記3相−2相変換器5において変換された各軸の電流値Id及びIqを減じて電流偏差を求め,更に,それら各軸の電流偏差を用いて上記d軸電流制御器1,q軸電流制御器2でPI制御を行うことにより,各軸の指令電圧Vd,Vqが算出される。
続いて,算出された各軸の指令電圧Vd,Vqが,上記2相−3相変換器3において,ロータ位相θに応じて逆d−q軸変換され,各相の指令電圧Vu,Vv,Vwに変換される。
最後に,上記2相−3相変換器3により算出された各相の指令電圧Vu,Vv,Vwが,インバータ等を含んで構成される上記電力増幅器4でPWM制御された後,各相の電流Iu,Iv,Iwとして上記ACサーボモータMに供給され,モータを駆動する。
このように,本実施形態に係るモータ制御装置Aは,回転直交座標系であるd−q軸座標によりACモータをベクトル制御するという基本的動作については従来公知のものと同様であるが,q軸方向に対する電流指令として,d軸電流Idを「0」とすべく補正された補正q軸電流Iqcを用いることにより,q軸のd軸に対する干渉電圧を操作し,電圧飽和による過電流を回避している点で従来公知のものと異なる。
【0010】
次に,電圧飽和による過電流を回避するべく上記過電流防止回路6において算出されるq軸電流指令補正量Iqaの算出方法について説明する。
電圧飽和による過電流を回避するために,本実施形態では,d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧Vdを確保することを優先し,d軸電流Idを「0」に制御するために必要な電圧分が確保した残りの電圧によってq軸電流Iqを制御することを考える。
具体的には,上記d軸不足電圧検出器6aにより算出されるd軸電圧Vdの不足分(以下略してd軸電圧不足分と称し,算出方法については後に詳説する)Vdnと,上記電気角速度検出器6cにより算出される電気角速度ωとに基づいて,以下の式によりq軸電流指令補正量Iqaを算出し,該q軸電流指令補正量Iqaでq軸電流指令Iqqを補正することにより,q軸のd軸に対する干渉電圧を操作し,d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧Vdを確保している。
・Iqa=∫(Vdn/(ω×L))dt ……(5)
ここで,上式(5)では,Vdn/(ω×L)を積分することによってq軸電流指令補正量Iqaを算出しているが,その本質は,d軸不足電圧分Vdnと電気角速度ωの符号に応じてq軸電流指令補正量Iqa,ひいては干渉電圧を増減させる点にある。
即ち,q軸電流指令補正量Iqaの算出は,上記(5)に限定されるものではなく,例えば,
・Iqa=∫(sgn(Vdn)×sgn(ω)×Ga)dt ……(6)
但し,sgn(X)は引数に指定された数の符号に応じた整数(X>0の場合には1,X<0の場合には−1)を演算する数値演算関数である。
或いは,
・Iqa=∫(Vdn/ω×Ga)dt ……(7)
但し,Gaは所定のゲインである。
等の如く算出することもできる。
このようにして算出されたq軸電流指令補正量Iqaによりq軸電流指令Iqdを補正すれば,q軸のd軸に対する干渉電圧によってd軸電圧不足分Vdnが補償され,d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧Vdを確保をすることができる。
【0011】
次に,d軸電圧不足分Vdnの算出について説明する。
ここで,d軸電圧不足分Vdnを直接的に算出する方法としては,実際の各相電圧(Vu,Vv,Vw)と供給可能電圧V_maxとを比較することによって,電圧飽和により供給できなかった不足電圧分(Vus,Vvs,Vws)を算出し,該不足電圧分を逆d−q変換して各軸電圧の不足分Vds,Vqsに変換し,変換されたd軸電圧不足分Vdsをd軸不足電圧Vdnとする方法が考え得る。
しかしながら,上述のようにして得られたd軸電圧不足分Vdsは,その時点における瞬時値を表すものであるため,それを用いて上式(5)乃至(7)によりq軸電流指令補正量Iqaを求めたとしても,制御応答性が悪い。
そこで,本実施形態では,高い制御応答性を実現するものとして,前もって電圧飽和を予測してd軸不足電圧Vdnを算出し,該d軸不足電圧Vdnに基づいてq軸電流指令補正量Iqaを算出する方法を考える。
ところで,ベクトル制御における各軸の電圧方程式は,一般的に以下の如く表される。
・Vd=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iq ……(8)
・Vq=Gp×(Iqd−Iq)+Sq+ω×L×Id+Ve ……(9)
但し,Sd=∫(Idd−Id)×Gi×dt,Sq=∫(Iqd−Iq)×Gi×dtであり,Gpは比例制御ゲイン,Giは積分制御ゲイン,Lはモータのインダクタンス,Veはモータの逆電圧補償分である。
ここで,上式(8)及び(9)は,非干渉制御並びに逆電圧補償を行った場合の電圧方程式を表しており,上式(8)の右項における第二項,及び上式(9)の右項における第二項が,非干渉制御分であり,上式(9)の右項における第二項が逆起電圧補償分である。このような制御手法は,ベクトル制御の制御性を向上させ得る手法として公知の手法であるため,ここでは詳細な説明を省略する。無論,本実施形態は,非干渉制御並びに逆電圧補償を行う場合に限られるものではなく,そのような機能を有しない制御系に対しても適用可能であることは言うまでも無い。
d軸電圧不足分Vdnを算出するために,先ず上記d軸不足電圧検出器6aにおいて,上記(8),(9)式で表されるd軸電圧,q軸電圧におけるq軸電流Iqが,補正q軸電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)に一致した場合に想定されるd軸電圧Vdm,q軸電圧Vqmを算出し,算出された各軸の電圧に基づいてd軸不足電圧分Vdnが算出される。
つまり,上記(8),(9)式において,q軸電流Iqが補正q軸電流指令Iqcであるとした以下の式に基づいて各軸の想定電圧が算出される。
・Vdm=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iqc ……(1)
・Vqm=Sq+ω×L×Id+Ve ……(2)
また,上記(8),(9)式においてq軸電流指令Iqdが,補正q軸電流指令Iqcであるとすると,
・Vd=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iq ……(10)
・Vq=Gp×(Iqc−Iq)+Sq+ω×L×Id+Ve ……(11)
とすることができるので,該(10),(11)式を用いて,上記(1),(2)を変形した以下の式に基づいて算出することもできる。
・Vdm=Vd+ω×L×(Iqc−Iq) ……(3)
・Vqm=Vq−Gp×(Iqc−Iq) ……(4)
このようにして,上記d軸不足電圧算出器6aにおいては,上記(1)乃至(4)式から算出される各軸毎の想定電圧Vdm,Vqmと,供給可能電圧とを比較することによりd軸電圧不足分Vdnを算出することが可能である。
【0012】
ここでは,上記d軸不足電圧算出器6aにおいて,想定される各軸電圧Vdm,Vqmからd軸電圧不足分Vdnを算出する手法について,図2を参照しつつ,説明する。
ここで,ACサーボモータMに対して供給可能な電圧V_maxは,同図に示す如く,各相(U,V,W相)に対して6角形で示される。即ち,d軸電圧Vd並びにq軸電圧Vqを合成して得られる合成電圧Vが該6角形を上回った分が,不足電圧分を示すこととなり,更にその不足電圧分のd軸方向の成分がd軸方向不足分Vdnを示す。
このようにすれば,算出された各軸電圧Vdm,Vqmから,d軸方向不足分Vdnを正確に演算することが可能であるが,現実にd軸方向不足分Vdnを演算する際に,厳密な6角形である供給可能電圧V_maxを用いた場合,その計算量が膨大となり,演算処理の複雑化,ひいては処理時間の増大を招く虞がある。
そこで,本実施形態では,供給可能電圧V_maxを,6角形に外接する円C_1,或いは内接する円C_2のいずれかに円近似し,その円近似された供給可能電圧V_maxを用いてd軸方向不足分Vdnを演算している。
これにより,d軸方向不足分Vdnの演算係る計算量を著しく減少させることが可能となる。
ここで,供給可能電圧V_maxを円近似したことにより算出されるd軸方向不足分Vdnには誤差分が生ずることとなるが,該誤差分は,上記q軸電流制御器2における積分器等により十分吸収可能な程度であるため,厳密な6角形とした場合較べても,制御性の面で劣ることは無い。
【0013】
次に,図3乃至5を用いて,図6,7に示した従来のモータ制御装置B,C,及び本実施形態に係るモータ制御装置Aそれぞれによる制御結果の検証を行う。図3乃至5において,縦軸は各軸の電流指令値及び電流値を,横軸は時間軸を表す。
図4は,各相PI制御を適用したモータ制御装置Bにより,14極の多極モータを4000rpmで回転させた場合のステップ応答の測定結果を表す。
同図より,q軸電流はq軸電流指令値に対して追従することができずに大きく減衰し,更には,無効電流であるd軸電流も大きいことがわかる。
また図5は,ベクトル制御を適用したモータ制御装置Cにより,14極の多極モータを4000rpmで回転させた場合のステップ応答の測定結果を表す。
同図より,電圧飽和によるd軸電圧が不足し,d軸電流が「0」に制御されずに大きく流れ,結果として,q軸電流とd軸電流の総和が,供給可能な最大電流(本測定に用いた装置における最大電流は96Aである)を上回り(例えば,0.008secでは,q軸電流(96A)+d軸電流(20A)=116A)過電流を発生していることがわかる。
一方図6は,本発明に係るモータ制御装置Aにより,14極の多極モータを4000rpmで回転させた場合のステップ応答の測定結果を表す。
同図より明らかな如く,d軸電流はd軸電流指令通りに「0」に正確に制御される共に,q軸電流は上述した演算により補正される補正q軸電流指令(図中には変更された目標値に該当)に対して高精度に制御されていることがわかる。
このように,当該モータ制御装置Aによれば,上記過電流防止回路6におけるq軸電流指令値Iqdの補正により,d軸に対するq軸の干渉電圧が操作されることで,d軸電流Idをその電流指令値(Idd=0)に制御するために必要なd軸電圧Vdが確保され,残る電圧の範囲内でq軸電流を高精度に制御することが可能である。即ち,電圧飽和による過電流を招くことなく,供給可能な電圧の範囲内で各軸の電流を最適に制御することが可能となり,高い応答性と高トルクを実現することができる。
【0014】
最後に,d軸電圧Vd並びにq軸電圧Vqを合成して得られる合成電圧Vが供給可能電圧V_maxを下回り(電力が余剰し),Iqaによる補正が不要となった場合の処理手順について説明する。
このような状況では,電圧飽和に陥ることが無いため,q軸電流指令補正量Iqaを「0」に減衰する必要がある。
そこで,q軸電流指令補正量Iqaを「0」に減衰する処理としては,
▲1▼適当な減衰係数に従って減衰させる
▲2▼上述したd軸電圧不足分と同様の手順に従って,供給可能電圧V_maxまでのd軸田圧余力分を算出すると共に,その余力分を「0」にするべくq軸電流指令補正量Iqaを算出する。
ことが考えられる。
無論,▲2▼の方法が精密にq軸電流指令補正量Iqaを減衰させることが可能であるが,その制御演算が複雑となるため,本実施例では,▲1▼の方法を採用するものとする。
ここで,▲1▼を採用する場合の減衰係数としては,モータ制御装置における電流制御ループの応答特性よりも低い周波数を採用することにより,電流制御ループに悪影響を及ぼすことなく,速やかにIqaを「0」に減衰させることができる。
【0015】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明によれば,ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置において,直交回転座標系であるd−q軸座標のq軸方向に対する電流指令Iqdを補正し,d軸に対するq軸の干渉電圧を操作することによって,d軸電流Idを「0」に制御する(d軸電流Idを「0」に制御するために必要なd軸電圧を確保する)ことが可能となる。その結果として,例えば,近年の小型化・高トルク化されたACモータの制御を行う場合にも,電圧飽和による過電流に陥ることなく,供給可能な電圧の範囲内で各軸電流を最適に制御することが可能となり,高トルク化と高応答性化とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータ制御装置Aの概略構成図。
【図2】供給可能電圧とd軸方向に対する電圧不足成分との関係を示す図。
【図3】モータ制御装置Aのステップ応答の測定結果を示す図。
【図4】モータ制御装置Bのステップ応答の測定結果を示す図。
【図5】モータ制御装置Cのステップ応答の測定結果を示す図。
【図6】従来の各相PI制御を適用したモータ制御装置Bの概略構成図。
【図7】従来のベクトル制御を適用したモータ制御装置Cの概略構成図。
【図8】d−q軸座標系で電流制御されるモータを模式的に表したブロック図。
【符号の説明】
A …モータ制御装置
B …モータ制御装置
C …モータ制御装置
M …ACサーボモータ
1 …d軸電流制御器
2 …q軸電流制御器
3 …2相―3相変換器
4 …電力増幅器
5 …3相―2相変換器
6 …過電流防止回路
6a…d軸不足電圧算出器
6b…q軸電流指令補正器
Claims (10)
- ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御装置において,
直交回転座標系であるd−q軸座標のq軸方向に対する電流指令Iqdを,d軸方向に対する電流Idが0になるように補正し,上記ACモータの過電流を防止する過電流防止手段を具備してなることを特徴とするモータ制御装置。 - 上記過電流防止手段が,
上記ACモータの電気角速度ω或いはその符号を算出する電気角速度算出手段と,
回転直交座標系であるd−q軸座標におけるd軸方向に対する電圧成分Vdの不足分Vdn或いはその符号を算出するd軸電圧不足分算出手段と,
上記電気角速度算出手段により算出された上記電気角速度ω或いはその符号と,上記d軸電圧不足分算出手段により算出された上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,
に基づいてq軸方向に対する電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出するq軸電流補正手段と,を具備してなる請求項1に記載のモータ制御装置。 - 上記d軸電圧不足分算出手段が,
q軸方向に対する電流Iqが,上記q軸電流補正手段により補正されたq軸方向に対する電流指令Iqc(=Iqd−Iqa)に一致した場合に想定されるd軸方向に対する電圧成分Vdm及びq軸方向に対する電圧成分Vqmを予想し,その予想された各軸方向の電圧値に基づいて上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号を算出するものである請求項2に記載のモータ制御装置。 - 上記d軸電圧不足分算出手段が,以下の式に基づいて上記d軸電圧Vdm及び上記q軸電圧Vqmを予想するものである請求項3に記載のモータ制御装置。
・Vdm=Gp×(Idd−Id)+Sd+ω×L×Iqc ……(1)
・Vqm=Sq+ω×L×Id+Ve ……(2)
但し,Sd=∫(Idd−Id)×Gi×dt,Sq=∫(Iqd−Iq)×Gi×dtであり,Gpは比例制御ゲイン,Giは積分制御ゲイン,Iddはd軸方向に対する電流指令,Idはd軸方向に対する電流,Lはモータのインダクタンス,Veはモータの逆電圧である。 - 上記d軸電圧不足分算出手段が,以下の式に基づいて上記d軸電圧Vdm及び上記q軸電圧Vqmを算出するものである請求項3に記載のモータ制御装置。
・Vdm=Vd+ω×L×(Iqc−Iq) ……(3)
・Vqm=Vq−Gp×(Iqc−Iq) ……(4)
但し,Vqはq軸方向に対する電圧成分である。 - 上記q軸電流補正手段が,上記d軸電圧不足分Vdn或いはその符号と,上記電気角速度ω或いはその符号と,所定のゲインGaと,を乗算した値を積分することにより上記補正量Iqaを算出するものである請求項1〜5のいずれかに記載のモータ制御装置。
- 上記q軸電流補正手段による補正が不要となった場合に,所定の減衰係数に従って,上記補正量Iqaを減衰させる減衰手段を設けてなる請求項1〜6のいずれかに記載のモータ制御装置。
- 上記所定の減衰係数が,電流制御ループの応答特性よりも低い周波数である請求項7に記載のモータ制御装置。
- ACモータをベクトル制御により電流制御するモータ制御方法において,
直交回転座標系であるd−q軸座標系のq軸方向に対する電流指令Iqdを,d軸方向に対する電流Idが0になるように補正し,上記ACモータの過電流を防止してなることを特徴とするモータ制御方法。 - 上記ACモータの過電流を防止するモータ制御方法であって,
上記ACモータの電気角速度或いはその符号を算出する第1の工程と,
d軸方向の電圧成分に対する不足分Vdn或いはその符号を算出する第2の工程と,
上記第1の工程により算出された電気角速度ω或いはその符号と,上記第2の工程により算出されたd軸電圧不足分Vdn或いはその符号とに基づいてq軸方向の電流指令Iqdに対する補正量Iqaを算出する第3の工程と,
を具備してなる請求項9に記載のモータ制御方法。
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-
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