JP2004169101A - 浸炭方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】被浸炭処理材である鋼材を浸炭ガスが減圧下で供給される浸炭炉内で加熱すると共に、浸炭ガスとして都市ガス若しくは天然ガスを使用し、これをそのガス圧が3〜10kPaの範囲内となるように制御して浸炭炉内に連続的に供給しながら所定時間保持する浸炭処理を行い、さらにその後必要に応じて1kPa以下の減圧下で所定時間保持する拡散処理を行う。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、浸炭方法に関し、更に詳しくは、被浸炭処理材である鋼材の表面を浸炭炉内で加熱しながら減圧下で導入される浸炭ガスにより浸炭処理する浸炭方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼材表面の硬化技術として古くから知られている「浸炭」は、低炭素鋼を浸炭ガス中で加熱することによって鋼材表面にカーボン(炭素)を取り込み、そのカーボンを鋼材表面から内部へと拡散させてその鋼材表面付近のカーボン濃度を高める方法である。この浸炭方法により鋼材表面付近は高温度のオーステナイト状態からの急冷によりマルテンサイト化された硬化層が形成され、鋼材内部は低炭素のままで高靭性を保持した浸炭鋼製品が得られる。
【0003】
この浸炭処理技術として知られている方法の1つに、常圧ガス雰囲気下での常圧浸炭法がある。この常圧浸炭法は、例えば、一酸化炭素(CO)を浸炭ガスとして用い、これを高温・常圧下で被浸炭処理材(鋼材)と反応させることによってカーボン(C)と二酸化炭素(CO2)を生成させると共に生成カーボンを鋼材表面中へと固溶させ、さらにこのカーボンを鋼材表面から内部へと拡散させるというものである。
【0004】
しかし、近年、環境問題や資源問題に対する関心の高まりを背景として、CO、CO2等のガスを排出する常圧浸炭法が問題視される一方、省エネルギー、省資源や公害防止に極めて有効な浸炭法として減圧下で浸炭処理を行う浸炭法が注目を浴びている。
【0005】
この浸炭法は、減圧下で浸炭ガスとして炭化水素系ガスを導入することにより鋼材表面の浸炭処理を行うものである。浸炭処理に際しては、高温且つ減圧下において炭化水素系ガスが鋼材との反応によってカーボン(C)と水素ガス(H2)に分解し、生成したカーボンが鋼中へと固溶し、鋼表面から内部へと拡散される。従来、減圧下での浸炭処理における浸炭ガスとしてはアセチレンガス(例えば、特許文献1参照)、エチレンガス(例えば、特許文献2参照)や、エチレンと水素との混合ガス(例えば、特許文献3参照)、エチレンとアセチレンとの混合ガス(例えば、特許文献4参照)等が用いられている。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−325701号公報
【特許文献2】
特開2002−146512号公報
【特許文献3】
特開2001−262313号公報
【特許文献4】
特開2000−1765号公報
【0007】
これらの浸炭ガスを用いた浸炭法によれば、高温度での熱処理により高品質の浸炭処理品が得られ、また浸炭処理の熱エネルギーの無駄がなくなり、ガス消費量も常圧浸炭処理プロセスに比べて少なくて済む上、二酸化炭素の排出がないため環境特性にも優れるという利点を有する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、エチレンガスやアセチレンガスを浸炭ガスとして用いた浸炭処理においては、これら浸炭ガス種が不飽和炭化水素からなる反応性の高い可燃性のガスであるため、煤の発生が起こり易く、また、配管等からのガス漏れにより引火する危険性があり取扱いが難しいという問題があり、さらにはこれらのガスが高価であるため熱処理コストが嵩むという問題があった。
【0009】
また、エチレンガスやアセチレンガスは、単位炭素原子数当たりのガス量が少ないため、浸炭炉内で分散・拡散しにくく、浸炭ムラが発生し易いという問題もあった。
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、鋼材を浸炭処理する際にCO、CO2等の有害ガスの発生がなく、安価で、しかも、煤や浸炭ムラの発生がない高品質の浸炭鋼を得ることが可能な浸炭方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決するための本発明の浸炭方法は、被浸炭処理材である鋼材を浸炭ガスが減圧下で供給される浸炭炉内で加熱しながら浸炭処理するに際し、前記浸炭ガスとして飽和炭化水素系ガスを主成分とする都市ガス若しくは天然ガスを用い、これをそのガス圧が3〜10kPaの範囲内となるように制御した状態で前記浸炭炉内に常時供給しながら、前記鋼材を所定温度下で加熱することを要旨とする。
【0012】
またこの場合、鋼材を浸炭処理する際の浸炭炉内の加熱温度が、850〜1100℃の範囲内にあることが好ましい。さらにこの場合、鋼材を浸炭処理する際の浸炭炉内での保持時間が、15〜120minの範囲内にあることが好ましい。
【0013】
この浸炭方法によれば、使用する都市ガス及び天然ガスがエチレンやアセチレン等のガスに比べて安価に入手可能であるため、浸炭処理コストならびに得られる浸炭処理製品のコストを低減させることができる。特に、都市ガスは、家庭用等のガスラインとして広く普及しているため、浸炭ガス源としての供給が極めて容易である。
【0014】
また、浸炭ガスとして用いる都市ガス及び天然ガスは、比較的浸炭能力の低いメタンを主成分とし、浸炭能力の高い炭素数2以上の炭化水素系のガス種が少量ずつ含まれているので、浸炭制御が容易に行え、かつ、煤などの発生のない表面性状に優れた浸炭処理材が得られる。また、炭素数2以上の浸炭ガス種の分散性に優れているので、浸炭処理時間の短縮化も図られる。
【0015】
また、浸炭時の都市ガス若しくは天然ガスの供給ガス圧が3〜10kPaの範囲内に制御されているので、浸炭反応が適正に行われ浸炭時に煤や浸炭ムラの発生が抑えられる。
【0016】
さらに、浸炭炉内の加熱温度を850〜1100℃の範囲内に制御すること、あるいは、浸炭炉内での保持時間が、15〜120minの範囲内に制御することによって、浸炭ガスと鋼材との反応が効果的に促進されるとともに、煤の発生のない適正量のカーボンを固溶させることができる。
【0017】
また、鋼材を浸炭炉内で浸炭処理した後、1kPa以下の減圧下且つ前記浸炭処理温度下で0〜120min保持する拡散処理を行い、さらに、拡散処理後800〜900℃の温度範囲内に降温しこの温度下で15〜60min保持する焼入れ保持処理を行うことによって良好な拡散効果を得ることができる。
【0018】
また、浸炭炉内の鋼材表面に接触する浸炭ガスの流量が、鋼材の単位表面積当たり26〜210NL/min・m2となるように制御することによって、煤の発生を抑えると共に適正量のカーボンを固溶させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の好適な実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
初めに、本発明に係る浸炭方法について説明する。浸炭炉を用いて鋼材を浸炭処理するに際しては、炉内に浸炭ガスを所定ガス圧に制御して供給すると共に炉内を所定温度まで加熱する。この時、浸炭ガスが例えば式1に示す反応式によってカーボン(C)と水素ガス(H2)に分解し、これにより生成したカーボンが鋼材(Fe)中へと取り込まれる(固溶する)。
【0021】
【式1】
<例えば、浸炭ガスがメタン(CH4)の場合>
Fe+CH4(g)→Fe[C]+2H2(g)
(g):気体状態を表す。
[C]:鋼材(Fe)中に固溶したカーボンを表す。
【0022】
上記のような浸炭反応によりカーボンが固溶されると鋼材の表面部にはオーステナイト相が形成されるが、これを油槽室の油槽に浸けて急冷することによって鋼材の表面部のオーステナイト相が高硬度のマルテンサイト相へと相変態する。このように浸炭処理を施すことによって、表面部にはマルテンサイト化された硬化層が形成される一方、その内部は依然低炭素のままで高靭性を維持した浸炭処理鋼製品が得られる。
【0023】
本発明に係る浸炭方法における浸炭ガスとしては、都市ガス若しくは天然ガスが用いられる。両ガスは、共にメタン(CH4)を主成分とし、これにエタン、プロパン、ブタン等の炭素数2以上の炭化水素系ガスが少量ずつ含まれてなるものである。
【0024】
都市ガスは、エタン(C2H6):6重量%、プロパン(C3H8):4重量%、ブタン(C4H10):2重量%、及び残部:メタンから構成される。また、天然ガスは、成分は一定ではないが、メタンを主成分として、残部をエタン、プロパン等の飽和炭化水素系ガスで構成される。本発明に係る浸炭方法では、天然ガスとしてメタンが50重量%以上含まれるものを用いるのが好ましい。
【0025】
従来より減圧下での浸炭処理に用いられている浸炭ガスは、エチレン、アセチレン、プロパン等のガスであり、家庭用等ガスとして汎用されている都市ガスや天然ガスが浸炭ガスとして用いられた例はない。これは以下の理由による。すなわち、浸炭は浸炭ガスが鋼材と反応することによりカーボンを生成することにより生じるわけであるが、メタンは反応活性が低い物質であり、浸炭能力に劣るガスである。従って、ガス成分の大部分がメタンで構成される都市ガスや天然ガスも浸炭能力の低く、浸炭ガスとしては不向きとされてきた。
【0026】
しかし、本願発明者らが鋭意研究を重ねた結果、都市ガス、天然ガスを浸炭ガスとして用いた場合でも、その浸炭能力を十分に発揮し実用レベルの浸炭処理製品を提供できることを見出した。これにより、従来のエチレンやアセチレン等の高価なガスに代わって汎用ガスとして広く普及している都市ガスや天然ガスが浸炭ガスとして使用可能となり、浸炭コストが大幅に低減できるという利点がある。
【0027】
さらには、浸炭能力の高い炭素数2以上の炭化水素系のガス種が少量ずつ含まれていることにより、浸炭制御が容易に行え、かつ、煤などの発生のない表面性状に優れた浸炭処理材が得られるという利点もある。その根拠は以下の通りである。すなわち、浸炭炉内に供給される都市ガスや天然ガスには浸炭能力の高い炭素数2以上の炭化水素系のガス種が少量ずつ含まれており、これらのガス種が鋼材の表面と接触し、主に鋼材表面における浸炭処理に寄与するものであるが、都市ガスや天然ガス中の多くは比較的浸炭能力の低いメタンガスであるために、エチレンやアセチレン等のような炭素数2以上の炭化水素系のガス種を単独で浸炭ガスとする場合よりも浸炭反応が緩やかに進行する。このため、所定量のカーボンが鋼材中に固溶されるように浸炭反応を制御することが極めて容易であるという利点がある。また、この場合には、主成分のメタンガスがキャリヤガスの代替となり、炭素数2以上の炭化水素系のガス種が鋼材表面全体にいきわたる結果、均一な浸炭処理を図ることができるので、鋼材中の場所によって浸炭処理に偏りが生じて鋼材表面に多量の煤が発生するといった事態は起こりにくい。これにより、表面性状に優れた浸炭処理材を得ることができるという利点がある。
【0028】
ここで、浸炭時における浸炭ガスのガス圧は3〜10kPaの範囲内にあることが好ましく、さらには、3〜9kPaの範囲内にあることがより好ましい。浸炭ガスのガス圧が3kPaに満たない場合には、鋼材表面部に十分な量のカーボンを接触する時間が短くなる結果、固溶・拡散させることができないという問題があり、一方、浸炭ガスのガス圧が10kPaを超える場合には、カーボンの鋼材中への接触する時間及びカーボンへ分解する時間が長くなる結果、固溶・拡散が律速となり鋼材表面上に飽和カーボンが煤となって発生するという問題があるため好ましくない。
【0029】
また、浸炭時における浸炭炉内の加熱温度は850〜1100℃の範囲内にあることが好ましく、さらには、900〜1050℃の範囲内にあることがより好ましい。加熱温度が850℃に満たない場合には、浸炭反応が促進されず浸炭処理が不十分となるという問題があり、一方、加熱温度が1100℃を超える場合には、鋼材のひずみが大きくなるため実用上適さないという問題があるため好ましくない。
【0030】
また、浸炭時の加熱保持時間は15〜120minの範囲内にあることが好ましく、さらには、15〜60minの範囲内にあることがより好ましい。保持時間が15minに満たない場合には、浸炭反応が促進されず浸炭処理が不十分となるという問題があり、一方、保持時間が120minを超える場合には、保持時間の経過による浸炭効果が得られないばかりでなく、過度の浸炭ガスの供給により鋼材表面部において煤が発生するという問題があるため好ましくない。
【0031】
また、上記加熱処理の後には、通常、浸炭温度域において一定時間、浸炭処理材を保持する拡散処理を行う。この拡散処理では、前段階の加熱処理により浸炭処理材の表面部に固溶されたカーボンを処理材内部へと拡散させて浸炭処理の均質化ならびに硬化層範囲の拡大を図ることを目的とする。また、拡散処理時の炉内の加熱温度は浸炭温度と同じであることが好ましい。ここで、拡散処理時の保持時間は0〜120minの範囲内にあることが好ましい。保持時間が120minを超える場合には、保持時間の経過による浸炭効果が得られず処理に無駄が生じてしまうため好ましくない。
【0032】
また、さらに拡散処理後に所定温度域に降温して一定時間保持する焼入れ保持処理を行うのが好ましい。この焼入れ保持処理により上記カーボンの拡散効果が顕著なものとなる。ここで、焼入れ保持処理温度は800〜900℃の範囲内にあることが好ましく、さらには、850℃であることがより好ましい。保持処理温度が800℃に満たない場合には、拡散効果が少なく、一方、保持処理温度が900℃を超える場合には、焼入れ性能が劣るため好ましくない。
【0033】
またここで、焼入れ保持処理の保持時間は5〜60minの範囲内にあることが好ましく、さらには、5〜30minの範囲内にあることがより好ましい。保持時間が5minに満たない場合には、焼入れ保持処理によるカーボンの拡散効果が得られず、一方、保持時間が60minを超える場合には、保持時間の経過による拡散効果が得られず処理に無駄が生じてしまうため好ましくない。
【0034】
また、浸炭炉内の鋼材表面に接触する浸炭ガスの流量が、鋼材の単位表面積当たり26〜210NL/min・m2であることが好ましい。ここで鋼材の表面積とは、浸炭炉内に鋼材を設置した場合に、浸炭ガスと接触し得る鋼材部分の総表面積を意味する。また、ここでいう浸炭ガスの流量は、標準状態(0℃、1atm)におけるガス流量をいう。鋼材単位表面積当たりに流量が26NL/min・m2に満たない場合には、浸炭反応が十分に促進されないという問題があり、一方、流量が210NL/min・m2を超える場合には、流量の増加による浸炭反応の促進効果が得られないため好ましくない。
【0035】
(浸炭処理材の評価手段)
上記浸炭処理プロセスにより得られた浸炭処理材の評価としては、浸炭処理材のビッカース硬さHVの測定を行った。このビッカース硬さHVは、マルテンサイト化された硬化層中のカーボン濃度に対応するもので、浸炭処理材中にカーボンがどの程度固溶されているかの指標となるものである。測定は、浸炭処理材の深さ方向に対して行った。ビッカース硬さHVの測定は、日本工業規格「JISG 0557」に準拠して行い、圧入荷重は4.903Nとした。試験は各深さにおいて3点ずつ行い、その平均値を測定結果とした。
【0036】
ここで浸炭処理材の評価基準として、硬化層がビッカース硬さHVが550以上であり、かつ、このHV≧550の条件を満たす硬化層(以下、「有効硬化層」という。)が表面から0.6mm以上の深さまで達しているものは実用化レベルにある浸炭処理製品であると判断した。
【0037】
【実施例】
本発明の効果を、実施例により具体的に説明する。
【0038】
(実施例1/浸炭ガス種の違いによる浸炭挙動の比較)
浸炭処理材として鋼材(材質:SCM415、寸法:幅400mm×奥行500mm×高さ300mm)を用い、これを浸炭炉(室内寸法:幅460mm、奥行610mm、高さ460mm)内に挿置して、炉内の温度が930℃となるように加熱した後、浸炭ガスを表1に示す流量及びガス圧となるように連続的に供給しながら、30min浸炭処理を行った。浸炭ガスとしては、都市ガス(13A)、プロパンガス(C3H8)、アセチレンガス(C2H2)及びエチレン(C2H4)と水素(H2)の混合ガスの4種類を使用した。なお、鋼材単位面積当たりの浸炭ガスの流量は、都市ガス(13A)及びエチレン(C2H4)と水素(H2)の混合ガスにおいては104.9NL/min・m2、プロパンガスにおいては41.95NL/min・m2、アセチレンガスにおいては62.9NL/min・m2である。さらに、浸炭処理後浸炭ガスの供給を停止して、1kPa以下となるように炉内を減圧し同温度(930℃)に保持した状態で20min拡散処理を行い、次いで、850℃で20min焼入れ保持した後、油焼入れを行った。
【0039】
【表1】
【0040】
得られた浸炭処理製品について表面から深さ方向に対してビッカース硬さHVの測定を行い、浸炭ガス種の違いによる浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)を比較した。
【0041】
(実施例2/浸炭ガスのガス圧の違いによる浸炭挙動の比較)
実施例1と同じ被浸炭処理材及び浸炭炉を用い、浸炭ガスとして都市ガス(13A)を3〜9kPaのガス圧範囲且つ60L/minの流量(鋼材単位面積当たりの流量:(104.9NL/min・m2)で炉内に連続供給しながら浸炭処理を行った。さらに、その後実施例1と同じ条件で拡散処理及び焼入れを行った。
【0042】
得られた浸炭処理製品について、カーボンがどの程度の深さまで固溶・拡散したかを示す浸炭深さの測定、製品表面のビッカース硬さHVの測定及びその表面におけるビッカース硬さHV値のばらつきの測定を行った。ここで、ビッカース硬さHV値のばらつきとは、複数の測定点における最高硬度値と最低硬度値との差を採ったものであり、硬度差が50以下の場合には実用可能な浸炭製品の許容範囲内であると判断した。
【0043】
(実施例3/浸炭ガスの流量の違いによる浸炭挙動の比較)
実施例1及び2と同じ被浸炭処理材及び浸炭炉を用い、浸炭ガスとして都市ガス(13A)を3kPaのガス圧且つ15〜120L/minの流量範囲内(鋼材単位面積当たりの流量:26〜210NL/min・m2)で炉内に連続供給しながら浸炭処理を行った。さらに、その後実施例1及び2と同じ条件で拡散処理を行った。
【0044】
得られた浸炭処理製品について表面から深さ方向に対してビッカース硬さHVの測定を行い、浸炭ガスの流量の違いによる浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)を比較した。
【0045】
(実施例4/拡散時間の違いによる浸炭挙動の比較)
実施例1〜3と同じ被浸炭処理材及び浸炭炉を用い、浸炭ガスとして都市ガス(13A)を9kPaのガス圧且つ60L/minの流量(鋼材単位面積当たりの流量:104.9NL/min・m2)で炉内に連続供給しながら浸炭処理を行った。浸炭処理後、浸炭ガスの供給を停止して、1kPa以下となるように炉内を減圧し同温度(930℃)に保持した状態で0〜30minの拡散時間を変化させて拡散処理を行い、さらに一部処理材を除き850℃で20min焼入れ保持を行った後油焼入れ(急冷)を行った。本実施例の浸炭処理、拡散処理及び焼入れ時の加熱履歴を図4に示す。
【0046】
得られた浸炭処理製品について表面から深さ方向に対してビッカース硬さHVの測定を行い、拡散処理における拡散時間の違いによる浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)を比較した。
【0047】
図1に実施例1に係る浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)に及ぼす浸炭ガス種の影響についての結果を示す。図示したように、アセチレンガスを使用した場合に表面付近のビッカース硬さHV値が最も高くなったが、他の浸炭ガスとの違いは顕著に認められなかった。すなわち、浸炭ガスとして都市ガス(13A)を使用した場合にも、従来のアセチレンガスやプロパンガス等と同様の浸炭挙動を示した。また、都市ガス(13A)を浸炭ガスとした場合には、煤の発生や浸炭ムラの発生がない良質の浸炭処理製品が得られた。
【0048】
また、図2に実施例2に係る浸炭ガス圧を変化させた場合の浸炭挙動についての結果を示す。図示したように、ガス流量を60L/minと一定にしてガス圧を3〜9kPaの範囲内で変化させた場合には、いずれのガス圧下でも浸炭深さが0.6mm以上且つビッカース硬さHV値が550以上、すなわち、有効硬化層の厚みが0.6mm以上であり目標値(実用化レベル)に達していた。また、ガス圧が6kPa以上では、ビッカース硬さHVの最大値と最小値との差が50以下とビッカース硬さHV値のばらつきが少なく、煤や浸炭ムラの発生のない良質な浸炭処理材が得られた。なお、ガス圧が3kPaの場合には、硬度差が50を超えているが、ガス流量を増大させることによって50以下に抑えることができる。また、ガス圧が3kPa未満については示していないが、3kPa未満ではビッカース硬さHV値、浸炭深さ共に大幅に低下し、さらにビッカース硬さHV値のバラツキも大きく、浸炭処理が不十分であった。一方、ガス圧が9kPaを超える範囲では、ガス圧の増加による浸炭効果は認められなかった。
【0049】
また、図3に実施例3に係るガス流量を変化させた場合の浸炭挙動についての結果を示す。図示したように、ガス流量の増加に伴いカーボンの固溶・拡散量も増大する傾向にあり、流量45L/min以上では浸炭ガス圧が3kPaであっても、浸炭深さが約0.6mmの部分までビッカース硬さHVが550以上の有効硬化層が形成されていた。なお、流量が60L/minを超える範囲では、流量の増加による浸炭効果は認められなかった。
【0050】
また、図5に実施例4に係る拡散処理における拡散時間の変化させた場合の浸炭挙動についての結果を示す。図示したように、浸炭処理後すぐに油焼入れした場合(焼入れ保持なし)には、鋼材内部へのカーボンの拡散が少なく表面からの0.2〜0.3mmの深さにおいてビッカース硬さHVが最大値となるなどカーボンの濃度ムラが生じた。一方、浸炭処理後、拡散時間を0〜30minとしその後850℃で20min焼入れ保持を施した条件では、カーボンが鋼材内部へと拡散し、さらに拡散時間が15min以上では有効硬化層が表面から約0.6mm以上の深さまで形成されると共に、煤や浸炭ムラの発生のない良質の浸炭処理製品が得られた。
【0051】
以上の結果から、浸炭ガスとして都市ガス(13A)を使用し、そのガス圧を3〜9kPaの範囲内に制御して連続供給しながら浸炭処理を行うことによって、従来より減圧下での浸炭処理において浸炭ガスとして使用されているアセチレンガス、エチレンガス、プロパンガス等と同様の優れた浸炭効果が得られた。具体的には、一般に浸炭処理材としての実用化レベルとされるビッカース硬さHVが550以上の有効硬化層が表面から0.6mm以上の深さまで形成されるという条件を満たし、かつ、煤や浸炭ムラの発生のない良質の浸炭処理製品を得ることができた。なお、上記実施例では、浸炭ガス圧を3〜9kPaの範囲内で制御しているが、浸炭ガス圧が10kPaの範囲までは浸炭反応に対するガス圧の効果を確認している。
【0052】
また、上記の浸炭効果は都市ガス(13A)を浸炭ガスとして用いた場合だけでなく、天然ガスを用いた場合にも、浸炭ガス圧を3〜10kPa、浸炭温度を850〜1100℃、浸炭時間を15〜120minとする浸炭条件下で鋼材を浸炭処理することによって、上記都市ガス(13A)を用いた場合と同様に有効硬化層が表面から0.6mm以上の深さまで形成され、かつ、煤や浸炭ムラの発生のない浸炭処理製品を得ることができた。
【0053】
本発明は上記した実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、浸炭処理並びに拡散処理を行う処理装置は上記のものに限られず種々の形態を有するもので構わない。また、被浸炭処理材として使用する鋼材も上記実施例のものに限られない。さらに、浸炭処理、拡散処理及び焼入れ時の加熱履歴についても上記実施例ものに限られない。
【0054】
【発明の効果】
本発明の浸炭方法によれば、浸炭ガスとして、従来減圧下での浸炭処理において浸炭用の供給ガスとして有効であるとされてきたエチレンガスやアセチレンガス等よりも安価な都市ガス若しくは天然ガスを使用することによって、浸炭処理コストならびに得られる浸炭処理製品のコストを低減させることができるという効果がある。特に、家庭用等のガスラインとして広く普及している都市ガスを浸炭ガスとして使用することによって、浸炭処理設備への浸炭ガスの供給が極めて容易であり、浸炭処理コスト等をより安価に抑えることができるという効果がある。
【0055】
また、都市ガスや天然ガスは、比較的浸炭能力の低いメタンが主成分として含まれていることにより、浸炭制御が容易に行え、かつ、煤などの発生のない表面性状に優れた浸炭処理材が得られるという効果がある。また、炭素数2以上の浸炭ガス種の分散性が良好であることから、浸炭時の反応ムラが少なく拡散処理時間ひいては浸炭処理工程全体の短縮化をも図ることができるという効果がある。さらには、常圧浸炭法のように浸炭時に有害なCOが一切発生せず、環境面からも優れている。
【0056】
また、浸炭処理を所定浸炭ガス圧(3〜10kPa)、所定温度(850〜1100℃)、所定保持時間(15〜120min)の条件下で行うことによって、煤や浸炭ムラの発生がなく、鋼材内部までカーボンが十分に固溶・拡散された高品質の浸炭処理製品を提供することができるという効果がある。
【0057】
また、浸炭処理後に、浸炭処理製品を1kPa以下の減圧下で所定時間、特に5〜30minの間保持する拡散処理を行うことによって、浸炭処理によって鋼材の表面部に固溶されたカーボンを処理材内部へと効果的に拡散させることができる。これにより、浸炭ムラの発生が抑えられ、最適な厚みを有する硬化層が形成された良質の浸炭処理製品を提供することができるという効果がある。さらに拡散処理後で所定温度(800〜900℃)、所定時間(5〜60min)の条件下で行うことによって、カーボン拡散効果がさらに向上しより均一且つ高品質の浸炭処理製品を提供することができるという効果がある。
【0058】
また、浸炭処理時の流量を所定条件下(鋼材単位面積当たりの流量:26〜210NL/min・m2)に制御することにより、浸炭処理製品の品質等をより高めることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る浸炭処理材における浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)に及ぼす浸炭ガス種の影響を示した図である。
【図2】本発明の第2実施例に係る浸炭処理材における浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)に及ぼす浸炭ガス圧の影響を示した図である。
【図3】本発明の第3実施例に係る浸炭処理材における浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)に及ぼす浸炭ガス流量を示した図である。
【図4】本発明の第4実施例に係る浸炭処理、拡散処理及び焼入れ時の加熱履歴を示した図である。
【図5】上記実施例に係る浸炭処理材における浸炭挙動(深さ方向に対するビッカース硬さHVの変化)に及ぼす拡散時間の影響を示した図である。
Claims (5)
- 被浸炭処理材である鋼材を浸炭ガスが減圧下で供給される浸炭炉内で加熱しながら浸炭処理する浸炭方法において、
前記浸炭ガスとして飽和炭化水素系ガスを主成分とする都市ガス若しくは天然ガスを用い、これをそのガス圧が3〜10kPaの範囲内となるように制御した状態で前記浸炭炉内に常時供給しながら、前記鋼材を所定温度下で加熱することを特徴とする浸炭方法。 - 前記鋼材を浸炭処理する際の前記浸炭炉内の加熱温度が、850〜1100℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の浸炭方法。
- 前記鋼材を浸炭処理する際の前記浸炭炉内での保持時間が、15〜120minの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の浸炭方法。
- 前記鋼材を浸炭炉内で浸炭処理した後、1kPa以下の減圧下且つ前記浸炭処理温度下で0〜120min保持する拡散処理を行い、さらに、拡散処理後800〜900℃の温度範囲内に降温しこの温度下で5〜60min保持する焼入れ保持処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の浸炭方法。
- 浸炭炉内の鋼材表面に接触する浸炭ガスの流量が、鋼材の単位表面積当たり26〜210NL/min・m2としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の浸炭方法。
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