JP2004168959A - 複合セルロースエステル溶液の調製方法、複合セルロースエステルフィルム、光学フィルム及び光学フィルムの製造方法 - Google Patents
複合セルロースエステル溶液の調製方法、複合セルロースエステルフィルム、光学フィルム及び光学フィルムの製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】透明性に優れ、弾性率が向上した複合セルロースエステルフィルム及びそれを用いた光学フィルムを提供することにある。
【解決手段】セルロースエステル、水分及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で生成した無機酸化物相を含有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
【選択図】 なし
【解決手段】セルロースエステル、水分及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で生成した無機酸化物相を含有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機金属化合物とセルロースエステルからの無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液の調製方法、それから作られる複合セルロースエステルフィルムに関し、更に写真用感光材料支持体、各種画像表示装置の保護フィルム、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、ガラス板の表面保護フィルム等に有用な複合セルロースエステルを使用した光学フィルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学用途の透明フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリカーボネートフィルム(PC)、ポリメチルメタアクレート(PMMA)、ポリビニルアルコールフィルム(PVA)、ポリアリレートフィルム(PAR)、ポリスルホンフィルム(PSfon)、ポリエーテルスルホンフィルム(PES)、セルローストリアセテートフィルム(TAC)等様々な透明有機樹脂フィルムが使用されている。例えば、写真用感光材料支持体には、高度な透明性を有するPET、PENおよびTACが使われており、また液晶表示装置の偏光板保護フィルムにはTACが用いられている。
【0003】
このような多種の透明樹脂フィルムが開発された背景には、ガラス板は高い弾性率を有しているものの厚さが500μmより薄くなると割れ易く扱いが困難になるが、樹脂フィルムはガラス板に比べると比重が半分以下で、且つ60〜200μm程度の薄手でも割れにくく、また長尺フィルムとして扱え、取り扱いが容易であるが、一般に樹脂フィルムは、ガラス板に比較して弾性率が低く、樹脂フィルムの特徴を生かすために更に薄いフィルムにすることが出来にくかった。弾性率を向上させるための手段として、例えば、延伸により、フィルムを結晶化させて弾性率を上げることにより薄手のフィルムを得ることが出来るが、結晶化により透明性が損なわれたり、意図しない複屈折が生じたりするという欠点が生じてくる。また、有機高分子物質に高い弾性率を付与する方法として、架橋剤を用いる方法、母体として用いる有機高分子よりも弾性率の高い物質を混合する方法などが知られている。前者においては、例えば、長尺フィルムとしてロールで貯蔵する場合、未反応の架橋剤もしくは未反応の官能基が後架橋を起こし、フィルムのまき癖を強くする原因になったり、後者においては、透明な有機高分子相に無機や有機微粒子を分散させると弾性率は向上するものの、透明性が低下したり、脆くなったりして、光学フィルムとして役に立たない。
【0004】
また、水素結合受容基を有する高分子と金属アルコキシドとを組み合わせ光学フィルムを製造する手段が公開されている。この方法は、高分子として、PVA、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリイミド、ポリアミド、PC、ポリ尿素、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリウアミド)、ポリジメチルアクリルアミド、ポリエーテルイミドが挙げられており、これらの組み合わせにより得られた複合物は透明性が高く、酸素及び水蒸気の透過性が低く、耐熱性、耐湿性、耐酸性、耐アルカリ性に優れている安価な液晶表示装置フィルムを提供出来るとしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
金属アルコキシドとセルロースエステルとを反応させた複合ゲルが、繊維形成能がよく、繊維として特徴のある性質が発現するという報告もある(例えば、非特許文献1〜4参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−122038号公報
【0007】
【非特許文献1】
黒川洋一、畑山博之著「材料科学」、1994年11月号、第31巻、第6号、281〜285頁
【0008】
【非特許文献2】
黒川洋一、太田裕士著「高分子加工」、1992年、第8号、第41巻、398〜401頁
【0009】
【非特許文献3】
中根幸治、小形信男、黒川洋一著、Polymer Prepri−nt,Japan.Vol.49,No.10,p3261〜p3262(2000)
【0010】
【非特許文献4】
中根幸治、萩原隆、小形信男、黒川洋一著、「高分子加工」、2001年、第50巻、第8号、362〜366頁
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の文献の方法では、高い弾性率のフィルムを作製することが難しいことがわかった。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、第1の目的は、透明性に優れ、複合セルロースエステル溶液の調製方法、その溶液を使用して製膜した引張弾性率が著しく向上した複合セルロースエステルフィルムを提供することにあり、第2の目的は、薄手の複合セルロースエステルフィルムを使用した優れた光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は下記の構成よりなる。
【0014】
(1) セルロースエステル、水、有機溶媒及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で無機酸化物相を形成することを特徴とする複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0015】
(2) 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:有機溶媒の質量比を1:30〜1:7として行うことを特徴とする(1)に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0016】
(3) 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:有機金属化合物の質量比を1:10〜1:0.1として行うことを特徴とする(1)または(2)に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0017】
(4) 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:水の質量割合で0.001〜0.1として形成することを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0018】
(5) 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする(1)乃至(4)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0019】
(6) 前記セルロースエステルの置換度が、下記2式を満足するものであることを特徴とする(1)乃至(5)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0020】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基のそれぞれの置換度である。
【0021】
(7) 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする(1)乃至(6)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0022】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。
【0023】
(8) 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする(1)乃至(7)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0024】
(9) (1)乃至(8)の何れか1項に記載の調製方法で調整された無機酸化物相を含有する複合セルロースエステル溶液を用いて製膜したフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
【0025】
(10) セルロースエステル、水分及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で生成した無機酸化物相を含有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
【0026】
(11) 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルの他にセルロースエステル含有していることを特徴とする(9)または(10)に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0027】
(12) 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする(10)または(11)に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0028】
(13) 前記セルロースエステルの置換度が、下記2式を満足するものであることを特徴とする(10)乃至(12)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0029】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基のそれぞれの置換度である。
【0030】
(14) 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする(9)乃至(13)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0031】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。
【0032】
(15) 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする(9)乃至(14)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0033】
(16) 前記無機酸化物相の含有率が1〜90質量%であることを特徴とする(9)乃至(15)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0034】
(17) (1)乃至(8)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法で調製した複合セルロースエステル溶液を、無限に移送する無端の金属支持体上に流延してウェブとなし、剥離可能な残留溶媒量に達した後、ウェブを該金属支持体から剥離し、続いて乾燥工程で乾燥することにより得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0035】
(18) セルロースエステル、水分及び加水分解性の有機金属化合物を有機溶媒に溶解してセルロースエステル溶液とし、該セルロースエステル溶液中の有機金属化合物を加水分解して無機酸化物相を形成させた後、該無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液を、無限に移送する無端の金属支持体上に流延してウェブとなし、剥離可能な残留溶媒量に達した後、ウェブを該金属支持体から剥離し、続いて乾燥工程で乾燥することにより得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0036】
(19) 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液と、無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液とを混合して混合溶液とし、該混合溶液を流延することを特徴とする(17)または(18)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0037】
(20) 前記複合セルロースエステル溶液に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びマット剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする(17)乃至(19)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0038】
(21) 前記無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びマット剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする(18)または(19)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0039】
(22) 前記混合溶液に可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤及び配向助剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする(19)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0040】
(23) 前記ウェブを、残留溶媒量が20〜200質量%で剥離することを特徴とする(17)乃至(22)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0041】
(24) 前記剥離後のウェブを少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする(17)乃至(23)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0042】
(25) 前記剥離後のウェブの両端をクリップで把持し、幅保持または幅方向に延伸することを特徴とする(17)乃至(24)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0043】
(26) 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする(18)乃至(25)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0044】
(27) 前記セルロースエステルの置換度が、下記2式を満足するものであることを特徴とする(26)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0045】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基のそれぞれの置換度である。
【0046】
(28) 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする(18)乃至(27)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0047】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。
【0048】
(29) 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする(18)乃至(28)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0049】
(30) 前記無機酸化物相の含有率が1〜90質量%であることを特徴とする(18)乃至(29)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0050】
(31) (17)乃至(30)の何れか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【0051】
(32) 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムE0との引張弾性率の比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする(31)に記載の光学フィルム。
【0052】
(33) (9)乃至(16)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルムを用いることを特徴とする光学フィルム。
【0053】
本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、セルロースエステル、水分、加水分解性を有する有機金属化合物により無機酸化物相を有する複合セルロースエステルを形成させた複合セルロースエステル溶液を調製し、該複合セルロースエステル溶液を用いて製膜することにより、高弾性率を有するセルロースエステルフィルムが得られことを見い出した。そして、これにより、今までの製膜方法や使用面で難しいと言われている薄手のセルロースエステルフィルムが得られることを見いだしたのである。
【0054】
本発明の無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液を用いて製膜した複合セルロースエステルフィルムは、該複合セルロースエステルフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0と上昇した引張弾性率を有することは画期的なことであり、これが本発明の特徴である。その結果、複合セルロースエステルフィルムまたは複合セルロースエステルを使用した光学フィルムは、従来のセルロースエステルフィルムより透明性も失うことなく膜厚を薄くすることが出来るようになった。
【0055】
なお、本発明でいう引張弾性率は、ISO 527−3に準じて、東洋精機製作所(株)製の引張試験機を用いて、25℃、55%RHで引張試験を行い、10%歪みの強度データから求めたものである。また、上記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルフィルムも、無機酸化物層を有しないセルロースエステルフィルムも何れも同条件で製膜したものである。
【0056】
本発明において、以下、引張弾性率を単に弾性率ということがある。
従来、堅い粒子(充填剤)を混合して高分子材料の弾性率を上げる方法では、充填剤の濃度が上がると急激に弾性率が上昇し、また同様に脆さも急激に増加する。このような添加剤により高い弾性率を有する高分子材料を得るには、脆さも加わるため、調節が不可能であり難しい。
【0057】
これに対して、本発明の無機酸化物相を有する複合セルロースエステルフィルムの弾性率は、無機酸化物相の含有率と共に増加するが、含有率を共に増加するはずの脆さの増加がほとんど見られないため、前述のような充填剤と異なり無機酸化物相の含有率を高くすることが出来るのである。
【0058】
2種以上の材料を組み合わせる複合材料では、製造過程で生成した欠陥が原因で材料が破壊するといわれている。また材料の脆さは、この欠陥の生成確率にも関係する。本発明者らは、このような破壊力学の知見から、加水分解性を有する有機金属化合物から生成した無機酸化物相では、材料破壊の起点となる欠陥が出来にくいため、この無機酸化物相による補強と比較して脆さの欠陥がほとんど発現しないものと推定している。
【0059】
本発明の複合セルロースエステルフィルムまたは光学フィルムは、上記のようなことから、フィルムを薄くしても腰の強い、しっかりとしたフィルムとして扱うことが出来、しかも、本発明の場合には、前述の充填剤の場合のような透明性を劣化させることもなく、このことが本発明の特徴である。
【0060】
本発明の複合セルロースエステルフィルムまたは光学フィルムの製造方法は上記のような弾性率が得られるならば、セルロースエステル、水分、有機金属化合物の存在下、加水分解させる方法として、特に制限がないが、下記のような本発明の複合セルロースエステル溶液を使用する方法により、より確実に得ることが出来る。
【0061】
本発明の複合セルロースエステル溶液、複合セルロースエステルフィルム及び光学フィルムに使用するセルロースエステル、有機溶媒、有機金属化合物について以下に述べる。
【0062】
本発明に使用するセルロースエステルのセルロースは、綿花リンターパルプ、木材パルプ、ケナフ等良質のセルロースを使用するのが好ましい。
【0063】
本発明に使用するセルロースエステルのエステル置換基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が好ましい。
【0064】
本発明に使用するセルロースエステルのエステル形成基の置換度は、下記2式を満足するものであることが好ましい。
【0065】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基それぞれの置換度である。
【0066】
これらで示されるセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースエステルプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートを挙げることが出来る。
【0067】
本発明に有用なセルロースエステルの製造は、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成出来る。アシル化剤が酸無水物である場合は、反応溶媒として有機酸(例、酢酸)や塩化メチレンが使用され、触媒としては硫酸のような酸性触媒が用いられる。アシル化剤が酸塩化物である場合は、触媒として塩基性化合物が用いられる。工業的に最も一般的な合成方法では、セルロースをアセチル基、プロピオニル基またはビチリル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸または酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸または無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。アセチル化剤、プロピオニル化剤またはブチリル化剤の使用量は、合成するエステルが前述した置換度の範囲となるように調整する。反応溶媒の使用量は、セルロース100質量部に対し100〜1000質量部であることが好ましい。酸性触媒の使用量は、セルロース100質量部に対し0.1〜20質量部であることが好ましい。反応温度は、10〜120℃であることが好ましい。また、アシル化反応が終了した後、必要に応じて加水分解(ケン化)して置換度を調整してもよい。反応終了後、反応混合物(セルロースエステルドープ)を沈澱のような慣用手段を用いて分離し、洗浄、乾燥することによりセルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステルまたは酪酸エステルが得られ、上記アシル化剤を混合して使用することにより、混合セルロースエステル(例えば、セルロースアセテートプロピオネート)が得られる。
【0068】
本発明に有用なセルロースエステルは、綿花リンターから合成されたセルロースエステルと木材パルプから合成されたセルロースエステルのどちらかを単独あるいは混合して用いることが出来る。金属支持体からの剥離性がよい綿花リンターから合成されたセルロースエステルを多く使用した方が生産性が高く好ましい。綿花リンターから合成されたセルロースエステルの比率が60%以上で剥離性が顕著に向上するため、その使用比率は60%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、更には単独で使用することが最も好ましい。
【0069】
本発明に用いるセルロースエステルの数平均分子量は70,000〜300,000、好ましくは90,000〜200,000である。
【0070】
本発明に有用な有機金属化合物は、セルロースエステルを溶解した有機溶媒中に添加して溶解後、水分の存在で加水分解して金属酸化物を生成するものであれば如何なる化合物でもよいが、本発明に有用な有機金属化合物は下記の一般式(I)で示すものが好ましい。
【0071】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。R1のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることが出来る。R2のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等を挙げることが出来る。またアルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。R3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基としては、β−ジケトン錯体基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンともいう)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸エステル錯体基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等を挙げることが出来、またケトオキシとして、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等を挙げることが出来る。これらの基の炭素原子数は、上記例有機金属示化合物を含んで、18以下が好ましい。また例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0072】
本発明において取り扱いの問題から、爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも一つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとしてR2のアルコキシ基を少なくとも一つを含有する有機金属化合物、またR3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する金属化合物が好ましい。
【0073】
本発明に有用な有機金属化合物の金属元素は、遷移金属元素、典型金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素が好ましい。
【0074】
遷移金属元素としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Ir、La、Ce、Nd、Th等を挙げることが出来る。
【0075】
典型金属元素としては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Tl、Bi、Ra、La、Ce、Nd等を挙げることが出来る。
【0076】
半金属元素としては、B、Si、Ge*、As、Sb*、Te、Bi*、Se等を挙げることが出来る。*印の元素は典型金属元素ではあるが、半金属あるいは半導体として半金属元素としてもよいものである。
【0077】
これらのうち、本発明に有用な有機金属化合物のより好ましい金属元素としては、B、Mg、Al、Si、Ti、Ni、Zn、Zr、Mo、Rh、In、Sn、Ba、Hf、Ir、Thであり、更に好ましくは、Al、Si、Ti、Zn、Zr、In、Sn、Ceである。有機金属化合物が加水分解して金属酸化物(無機酸化物相)となった時、可視光に対して優れた透明性を有することがこのましく、上記の金属元素を有する有機金属化合物が好ましい。
【0078】
本発明に有用な有機金属化合物は、セルロースエステルを溶解する有機溶媒に可溶性であることが好ましい。また、加水分解後、ハロゲン化合物を生成するものは、電子機器に悪影響を及ぼす可能性があるので、避けた方がよい。
【0079】
有機金属化合物としては、例えば、ジブチルジエトキシ錫、ブチル錫トリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはブチル錫トリアセトアセトナート、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、エチルエトキシ錫、メチルメトキシ錫、イソプロピルイソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、ジブチリルオキシ錫、ジブチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジブチル錫ジアセトアセトナート、錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいは錫ジアセトアセトナート、エチル錫(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタート錫、ジアセトキシ錫、ジブトキシジアセトキシ錫、ジアセトオキシ錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジアセトオキシ錫アセトアセトナート、ジブチル錫ジアセタート、ジブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、ジメチルチタンビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジメチルチタンジアセトアセトナート、エチルチタントリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエチルチタントリアセトアセトナート、チタントリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはチタントリアセトアセトナート、チタントリス(アセトメチルアセタート)、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン、テトライソプロピルシラン、テトラメトキシシランまたはオルトメチルシリケート、テトラエトキシシランまたはオルトエチルシリケート、テトライソプロポキシシランまたはオルトイソプロピルシリケート、テトラブトキシシランまたはオルトブチルシリケート、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルシランビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジエチルシランジアセトアセトナート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、インジウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはインジウムトリアセトアセトナート、インジウムトリス(ヘキサフルオロペンタンジオナート)あるいはインジウムトリヘキサフルオロアセトアセトナート、インジウムトリアセトアセタート、トリアセトキシインジウム、ジエトキシアセトキシインジウム、トリイソプロポキシインジウム、ジエトキシインジウム(1,1,1−トリフルオロペンタンジオナート)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)インジウム、エトキシインジウムビス(アセトメチルアセタート)、亜鉛ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいは亜鉛ジアセトアセトナート、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、アルミニウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはアルミニウムトリアセトアセトナート、テトラエトキシセリウム、テトライソプロポキシセリウム、テトラブトキシセリウム、メチルトリエトキシセリウム、エチルジエトキシセリウム、ジエチルジエトキシセリウム、ジブチルジエトキシセリウム、ジメチルメトキシセリウム、トリメトキシセリウム、トリエトキシセリウム、トリイソプロポキシセリウム、トリブトキシセリウム、トリイソプロピルエトキシセリウム、イソプロピルジイソプロポキシセリウム、ジブチルジアセトキシセリウム、ジブチルセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジブチルセリウムジアセトアセトナート、ブチルセリウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはブチルセリウムトリアセトアセトナート、セリウムテトラ(2,4−ペンタンジオナート)あるいはセリウムテトラアセトアセトナート、エチルセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエチルセリウムビスアセトアセトナート、エトキシトリスセリウム(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエトキシセリウムトリスアセトアセトナート、ジメチルセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタートセリウム、トリアセトキシセリウム、ジブトキシジアセトキシセリウム、ジアセトオキシセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジアセトオキシセリウムアセトアセトナート、ジブチルセリウムジアセタートを挙げることが出来るが、これらに限定されない。なお、上記化合物の基が断らない限り、プロピル、プロポキシ、プロピオニル等はn−、i−の何れでもよく、またブチル、ブトキシ等はn−、i−、s−、t−の何れでもよい。
【0080】
本発明の複合セルロースエステル溶液を調製する際に、またドープとして使用する有機溶媒としては、セルロースエステル及び有機金属化合物を溶解することの出来る有機溶媒であれば制限なく使用出来るが、塩化メチレン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール等を挙げることが出来る。これらの溶媒は二種以上を併用してもよい。中でも塩化メチレン、酢酸メチルまたはアセトンが好ましく、特に塩化メチレン、酢酸メチルが好ましい。溶解性がよく、透明性に優れるセルロースエステルフィルムを得ることが出来る。
【0081】
この他に、後述の溶液流延製膜法で述べるように、セルロースエステルに対して貧溶媒を上記有機溶媒(良溶媒)に混合して用いることも出来る。貧溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサン、等が有用で、特に安全性からエタノールが好ましい。良溶媒と貧溶媒との混合比率は良溶媒が70〜95質量%、貧溶媒が5〜30質量%である。
【0082】
次に、本発明の複合セルロースエステルフィルム及び光学フィルムを製膜するのに有用な溶液流延製膜法について述べる。
【0083】
本発明において、前述のように、複合セルロースエステル溶液だけをドープとして製膜する場合と、セルロースエステル溶液と複合セルロースエステル溶液を混合してドープとして製膜する場合とがある。
【0084】
本発明の複合セルロースエステル溶液は、セルロースエステル及び加水分解性を有する有機金属化合物を有機溶媒に溶解して、若干の水分を存在させることによって行うことによって得ることが出来る。
【0085】
本発明において、セルロースエステルと有機溶媒の関係を、セルロースエステル:有機溶媒の質量比を1:30〜1:7とし、通常セルロースエステルフィルムを製膜するドープよりも薄い状態で行うのが好ましい。セルロースエステルの濃度が高いと不均一の無機酸化物相が出来、均一なセルロースエステルとの緩やかな結合状態をを形成しにくくなる。
【0086】
また、本発明において、セルロースエステルと有機金属化合物との関係も、セルロースエステル:有機金属化合物の質量比を1:10〜1:0.1とすることが好ましく、金属有機化合物をこの範囲より多量に使用することと、セルロースエステルと遊離した金属酸化物粒子が存在するようになり、上記弾性率の不等式に従わなくなり、また有機金属化合物がこの範囲より少ないとセルロースエステルの濃度が高く、無機酸化物相が少なく、セルロースエステルのみのものと変わらなくなってしまう。
【0087】
本発明において、有機金属化合物の加水分解に必要な水の量としては、セルロースエステル:水の質量割合が0.001〜0.1が好ましい。また原料としてのセルロースエステル中に含まれる水分も加水分解に用いられるし、複合セルロースエステル溶液調製の際に、同程度の水を添加してもよい。本発明において、酸触媒等を使っても構わないが、酸触媒を使用すると、製品となってからのフィルムの物理的性質の劣化を招く虞があり、出来るならば使用しない方が好ましい。
【0088】
複合セルロースエステル溶液を調製する際、加水分解に必要とする水分量は、発明の目的である複合セルロースエステルフィルム中に形成される無機酸化物相の量によって決定される。
【0089】
本発明に従い、有機金属化合物とセルロースエステルとを有機溶媒を用いて混合後、フィルムを作製する。水を添加しないで作製した、このフィルムを150℃で一昼夜熱処理を行ったところ、有機金属化合物とセルロースエステルとの配合割合から期待される質量よりも軽くなる。このことは、揮発性の低分子物が蒸発したためであるが、その低分子物には、有機金属化合物も含まれている。有機金属化合物とセルロースエステルとを有機溶媒を用いて混合する時に水を添加すると、加熱による質量減を少なくすることが出来る。しかし、水を多く添加しすぎると、混合溶液中で水が分離したり、有機金属化合物の分解が早く進行して析出したりする弊害が生じる。水の添加がなくともセルロースエステル中に無機化合物相の生成は可能であるが、好ましくは、セルロースエステル:水の質量比が0.001〜0.1である。
【0090】
本発明の複合セルロースエステル溶液を調製する際の調製温度は、20〜有機溶媒の沸点(℃)位が好ましく、あまり急激に加水分解が起こるような温度では、バランスのよい無機酸化物相が形成されにくくなり、粒子化へと進み易くなる。また温度が低過ぎると加水分解があまり進行せず、未反応物が生成し易くなる。調製に要する時間は、仕込む量にもよるが、生産規模では12〜36時間程度が好ましく、特に20〜28時間が好ましい。また十分攪拌することが好ましい。
【0091】
セルロースエステルを有機溶媒中に溶解する方法は、特に限定はなく、通常の方法により調製出来る。例えば、ドープを容器に入れ、常温で、あるいは溶媒が沸騰しない温度、圧力条件下で撹拌混合することにより得られる。撹拌混合は、容器内部の液膜残りのないような装置、方式であることが好ましい。また容器内には窒素ガスなどの不活性ガスで充満させて分解を抑制することが好ましい。また、加圧容器などを用いて加圧条件下で撹拌混合することも溶解性を向上出来好ましい。複合セルロースエステル溶液の調製は、無機酸化物相を均一にしかもセルロースエステルとの結合を保たせるには常圧付近の圧力で調製するのが好ましく、圧力としては103〜500kPa程度が好ましい。攪拌は、パドル式、アンカー式、ヘリカル式、デュスパー式等の攪拌機を制限なく使用することが出来る。
【0092】
本発明により調製された複合セルロースエステル溶液だけを用いて製膜を行ってもよいが、本発明においては、複合セルロースエステル溶液と、別に準備した無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液とを混合して製膜することによって優れたフィルムを得ることも出来る。複合セルロースエステル溶液の粘度は、同濃度のセルロースエステルのみの溶液よりも濃度が高く、それだけで製膜供することが出来る。また後からセルロースエステル溶液と混合してもそれほど粘度の上昇もなく取り扱い易い。
【0093】
また、本発明の複合セルロースエステル溶液のセルロースエステルの濃度が低い場合には、有機溶媒を蒸発させて濃縮した複合セルロースエステル溶液としてもよく、濃縮することによって後述の流延の際の流延し易さ、適度な膜厚のフィルムが得られる。
【0094】
複合セルロースエステル溶液とセルロースエステル溶液を混合してドープとする場合の複合セルロースエステル溶液:セルロースエステル溶液の混合質量比は、0.5:1〜2:1程度が好ましい。
【0095】
無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液の調製において、セルロースエステルと有機溶媒の質量比率は1:1.5〜1:10とすることが好ましく、好ましくは1:2〜1:4である。
【0096】
セルロースエステルを有機溶媒に溶解する方法は、上記複合セルロースエステル溶液の場合と同様であるが、複合セルロースエステル溶液の調製方法よりは、調製のやり方の幅は広く、例えば、特開平9−95538号公報などに記載の冷却溶解法や特開平11−21379号公報に記載の圧力下での溶解処理などにより溶解してもよい。
【0097】
溶解する順序は、沸点以下の有機溶媒中に、セルロースエステルを粉体状で少しずつ加え、ゲルやママコが発生しないように十分攪拌しながら行うのがよい。前記質量比が近ければ近いほど、添加する場合の毎分の量は少ない方がよい。添加終了後溶解開始と同時に200〜500kPa程度に加圧し、攪拌を続行することが好ましい。
【0098】
複合セルロースエステル溶液とセルロースエステル溶液の混合は通常の注入にて混合し、上記のようなの攪拌機を用いいてよく攪拌すればよいが、両方の液をインラインミキサー(例えば、東レエンジニアリング製Hi−Mixer)のような混合効率のよい混合機を使用することが好ましい。
【0099】
製膜する際の粘度は、流延可能な範囲であればよく、通常0.5〜100Pa・secの範囲に調製されることが好ましい。これは複合セルロースエステル溶液をドープとする場合も混合されたドープの場合も同じである。
【0100】
本発明の複合セルロースエステルフィルムは、複合セルロースエステル溶液または複合セルロースエステル溶液とセルロースエステル溶液を混合した混合溶液の2種類の何れかから形成したドープから作製される。溶解行程以降において、他の添加剤を加えたり、延伸したりすることにより光学用の光学フィルムが得られる。
【0101】
本発明の光学フィルムに有用な添加剤は、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤またはマット剤等である。
【0102】
可塑剤は、可塑化効果の他に、耐湿性を光学フィルムに与えることが出来る。可塑剤としては、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステルやカルボン酸エステル等が挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルク゛リコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等、リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等、カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、及びクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類を挙げることが出来る。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を用いてもよい。可塑剤の量はセルロースエステルに対し1〜30質量%が好ましく、特に4〜13%が好ましい。可塑剤は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加しても良く、溶液調整中や調整後に添加してもよい。可塑剤は、複合セルロースエステル溶液に加えてもよいが、無機酸化物相を正常に生成させるためには出来るだけセルロースエステル溶液に添加する方法が望ましい。
【0103】
液晶表示装置は屋外で使用される機会も多くなっており、偏光板保護フィルムに紫外線をカットする機能を付与することも重要であり、本発明の光学フィルムには紫外線吸収剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点から波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましい。特に、波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましい。
【0104】
このような紫外線吸収剤吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、サリチル酸系化合物等が挙げられる。
【0105】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、
2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチル−フェノール、2−オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール等を挙げることが出来、これらの紫外線吸収剤は市販されているものもある。例えば、チヌビン(TINUVIN、以下片仮名のチヌビンを使用する)171、チヌビン109、チヌビン234等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。また、上記のチヌビン109、チヌビン171、チヌビン326等チヌビンは何れもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の市販品で、好ましく使用出来る。ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。本発明においては、これらの紫外線吸収剤を2種以上用いていることが好ましい。
【0106】
紫外線吸収剤の添加方法は、前記有機溶媒に溶解してから何れの溶液またはドープに添加してもよいが、無機酸化物相生成前の複合セルロースエステル溶液には無機酸化物相の生成の何らかの影響を及ぼす可能性もあるので出来るだけ添加しない方が望ましい。セルロースエステル溶液またはドープに添加するか、または直接セルロースエステル溶液またはドープ中に添加するのが好ましい。
【0107】
本発明において、紫外線吸収剤の使用量は使用した全セルロースエステルに対し、0.1〜2.5質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%、より好ましくは0.8〜2.0質量%である。紫外線吸収剤の使用量が2.5質量%より多いと透明性が悪くなる傾向があり好ましくない。
【0108】
フィルムの劣化防止、または耐熱性を向上する目的で、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤を光学フィルムに含有させることが望ましい。
【0109】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどを挙げることが出来る。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。また、この他、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等の熱安定剤を加えてもよい。
【0110】
酸化防止剤の添加は、酸化防止剤を有機溶媒に溶解または分散させて、セルロースエステル溶液、無機酸化物相形成後に安定した複合セルロースエステル溶液、またはドープ中に添加することが出来る。複合セルロースエステル溶液において、無機酸化物相形成中または形成が安定するまでこの酸化防止剤は添加しないようにする必要がある。
【0111】
光学フィルムが、滑り難いとフィルム同士がブロッキングし、取扱性に劣る場合がある。本発明の光学フィルムには、二酸化ケイ素、二酸化チタン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子等のマット剤を含有させることが好ましい。また、フィルムのヘイズを低下するため、二酸化ケイ素のような微粒子は有機物によって表面処理されていることが好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等があげられる。マット効果は微粒子の平均径が大きい方が大きく、透明性は平均径の小さい方が優れるため、微粒子の一次粒子の平均径は0.1μm(100nm)以下、好ましくは5〜50nm、より好ましくは7〜14nmである。二酸化ケイ素の微粒子としては日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL、以降片仮名のアエロジルを使用する)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等が挙げられ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812等が挙げられる。このマット剤の配合はフィルムのヘイズが0.6%以下、動摩擦係数が0.5以下となるように配合することが好ましい。この目的で用いるマット剤の量は、セルロースエステルに対し0.005〜0.3質量%が好ましい。
【0112】
本発明において、マット剤をドープ中に均一に分散して存在させる方法は特に制限ないが、微粒子が凝集する場合もあり、十分に分散する必要がある。微粒子を分散するには、まず、有機溶媒と微粒子を混合してから高圧力分散装置で細分散した微粒子分散原液を調製するのが望ましいが、直接有機溶媒に微粒子を分散してもよい。微粒子分散原液を調製した後に、多量の有機溶媒を混合し更に分散して微粒子分散液を調製する方法を用いるが、微粒子分散原液をセルロースエステル溶液に直接混合してドープとしてもよい。微粒子分散原液として細分散するには、微粒子と有機溶媒を混合した組成物を高圧力分散装置で処理するのがよい。ここでいう高圧分散装置は、微粒子と有機溶媒を混合した組成物を細管中に高速通過させることで、高剪断力や高圧状態など特殊な条件を作り出す装置である。例えば1〜2000μmの細管中で装置内部の最大内部圧力条件が5〜100MPaあるものがよく、10〜100MPaであることが好ましく、更に、好ましくは20〜100MPaである。また、その際、最高到達速度が100m/秒に達するもの、伝熱速度が420kJ/hrに達するものが好ましい。上記のような高圧分散装置には、マントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモジナイザー、三和機械(株)社製UHN−01等を挙げることが出来る。微粒子原液は、微粒子と有機溶媒を混合した組成物をディゾルバーのような分散機で予備分散した後、上記に示した高圧力分散機で非常に細かいレベルにまで分散し調製するのが好ましい。高圧力分散装置で分散する場合、分散中の液が空気と触れないように行うのが良好な分散原液を得るには好ましい。高圧力分散装置に導入される瞬間の微粒子及び/または有機溶媒の混合液を空気と遮断しながら導入するのがよい。微粒子分散原液は調製後、一旦貯蔵してもよいが、より多量の有機溶媒に直接に投入してもよい。微粒子分散原液は、少量のセルロースエステルを含有する有機溶媒溶液に添加してからセルロースエステル溶液やドープに添加することが望ましい。無機酸化物相形成中、または形成後安定するまでの間は複合セルロースエステル溶液にはこの微粒子分散原液は添加しない方がよい。それは、微粒子に無機酸化物相及びその形成中の化合物が吸着等が起こらないようにするためである。
【0113】
本発明において、光学フィルム中のシリカ等の無機物の微粒子マット剤は、本発明の光学フィルム中の無機酸化物相と異なることを説明する。マット剤は明確な粒子であるのに対して本発明に係る無機酸化物相は、前述のように明確な粒子として様相を呈していないということである。それは電子顕微鏡の観察によっても明白である。本発明の光学フィルムを化学的な処理を行わないでSEM観察を行うと無機酸化物相は、明確に識別されるような形態では観察されないのに対して、マット剤はSEMで明確な粒子として観察されるので区別される。
【0114】
本発明の光学フィルムには、上記の添加剤の他に下記のような添加剤を含有してもよい。
【0115】
光学フィルムをハロゲン化銀写真感光材料の支持体に使用する場合、通常、青色染料アントラキノン系の染料や、グレーに着色する2、3種の染料を混合する場合がある。セルロースエステルフィルムは若干黄色みを帯びる場合があり、これを嫌う場合には、上記感光材料の支持体に使用するような染料を微量してもよい。その場合、青色や紫色の染料が好ましく用いられる。含有量は少なくて良く、セルロースエステルに対し質量割合として1〜100ppmが好ましく、更に2〜50ppmが好ましい。
【0116】
また、更に上記の他に、帯電防止剤、難燃剤、滑り剤、油剤等も適宜添加してよい。
【0117】
本発明においてドープは、上記セルロースエステル溶液、複合セルロースエステル溶液、微粒子マット剤液等を混合して形成される。混合方法は前述のインラインミキサーで行うのが好ましい。
【0118】
インラインミキサーで混合する前に、各液を濾過しておくことが好ましい。
不溶解異物を含有するセルロースエステル溶液をフィルム化すると不溶解異物が乱反射の原因となるため、液晶表示装置に組み入れた場合には液晶セルの光が散乱してディスプレイが見にくくなる。不溶解異物は通常光では検出し難いが、2枚の偏光板を直交(クロスニコル)状態にし、その間にセルロースエステルフィルムを置いて反対側から光源の光を当てて観察すると、暗視野の中で異物が光って見えるので容易にその大きさと個数を測定出来る。大きさが5〜50μmの異物が250mm2当たり200個以下、50μmを超える大きさの異物は0個であることが好ましい。さらに好ましくは、5〜50μmの異物が250mm2当たり100個以下である。5μm未満の異物は目視上あまり問題とならない。また、50μmを超える大きさの異物は、通常のセルロースエステル製造法ではほとんど生成せず、50μmを超える大きさの異物はセルロースエステル製造プロセス内で除去される。このため、セルロースエステル溶液、複合セルロースエステル溶液、またはドープをフィルターで濾過し、異物を除去することが好ましい。使用するフィルターは、有機溶媒に対して耐性のあるものであればよく、例えば焼結金属フィルター、金属繊維フィルター、樹脂フィルター(織布、不織布)、セラミックスフィルター、ガラスフィルター、濾紙が使用出来る。また、フィルターの平均目開きは、除去しようとする異物の大きさによって適宜変更して使用することが出来るが、通常0.1〜100μmの範囲から選択される。フィルターは単独で用いてもよいし、複数個を直列に連続して用いてもよい。特に、濾水時間が20秒以上の濾紙を使用し、かつ濾過圧力を1.6MPa以下で濾過することが好ましい。より好ましくは、濾水時間が30秒以上の濾紙を使用し、かつ濾過圧力を1.2MPa以下、さらに好ましくは濾水時間が40秒以上の濾紙を使用し、かつ濾過圧力を1.0MPa以下で濾過することが好ましい。濾紙は2枚以上重ねて用いることが好ましい。濾過圧力は濾過流量と濾過面積を適宜選択することで調整出来る。
【0119】
本発明の複合セルロースエステルフィルム及び光学フィルムは、溶液流延製膜方法によって作製される。ここで溶液流延製膜方法について述べる。
【0120】
溶液流延製膜装置は、上記の溶解、濾過、混合してドープを調製する工程を含めて、ドープ輸送工程、流延工程、金属支持体上の乾燥工程(溶媒蒸発工程)、剥離工程、乾燥工程(ロール乾燥工程、幅保持乾燥工程または延伸工程)、巻取工程等を有する製膜装置である。
【0121】
流延工程:ドープを加圧型定量ギアポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、無限に移送する無端の金属支持体(ベルトあるいは回転する金属ドラム)上に加圧ダイからドープを流延する工程である。金属支持体の表面は鏡面となっている。その他の流延方法として、ドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーター法があるが、口金部分のスリット形状を調製出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイにはコートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを2基以上設けても、ドープ量を分割して2層以上に重層してもよい。金属支持体上に流延されたドープ膜を、この工程以降ウェブと呼ぶ。
【0122】
溶媒蒸発工程:ウェブを金属支持体上で加熱し有機溶媒を蒸発させる工程である。有機溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により加熱する方法、輻射熱により表裏から加熱する方法があるが、裏面液体加熱方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。
【0123】
剥離工程: ウェブの残留溶媒量が剥離可能になった時点で、金属支持体上で有機溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。
【0124】
本発明でいう残留溶媒量とは下記の式で表されるものをいう。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/M}×100
ここで、式中、Mは、製膜中の任意の時点での有機溶媒を含有するウェブの質量、Nは、Mのものを3時間110℃で乾燥した質量である。
【0125】
剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると途中でウェブの一部が剥がれたりする。製膜速度を上げる方法として、ゲル流延法(ゲルキャスティング法、残留溶媒が多くても剥離出来る)がある。ゲル流延法には、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えてドープ流延後ゲル化させる方法や金属支持体の温度を下げてゲル化させる方法等がある。またドープ中に金属塩を加える方法もある。金属支持体上でゲル化させ膜を強くすることによって、剥離を早め製膜速度を上げることが出来る。残量溶媒量が多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易く、生産性と品質との兼ね合いで残留溶媒量を決める。
【0126】
乾燥工程:ウェブを上下に多数配置したロールに上下交互に通して搬送させる乾燥装置、及び/またはピンまたはクリップでウェブの両端の幅を保持して搬送するテンター装置を用いてウェブを乾燥する工程である。乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒量が8%以下から行うのがよい。全体を通して、通常乾燥温度は40〜250℃で、70〜180℃が好ましい。使用する有機溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、乾燥条件は使用する有機溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。乾燥工程では有機溶媒の蒸発によってはウェブは巾方向に収縮しようとする。高温度で急激に乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を巾方向にクリップでウェブの巾両端を保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。必要に応じてテンターで横方向に延伸する場合もあり、本発明の光学フィルムにおいては、1.01〜1.20倍に延伸することにより、平面性、寸法安定性、光学特性に優れたフィルムを得ることが出来る。
【0127】
巻き取り工程:ウェブを残留溶媒量が2質量%以下となってからフィルムとして巻き取る工程である。残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることが出来る。巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いれば良く、定トルク法、定テンション法、テーバーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使い分ければよい。
【0128】
セルロースエステルフィルムの膜厚の調節は、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力及び金属支持体の速度をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて得た情報を上記装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0129】
流延直後から乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。ただし、乾燥雰囲気中の蒸発有機溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならない。
【0130】
本発明の方法で製造された無機酸化物相を有する光学フィルムは、透明性、等方性、適度のリターデーションを有することにより、液晶画像表示装置、EL画像表示装置、PDP、FED等の保護フィルム、位相差フィルム、偏光板用保護フィルム等に適用される。
【0131】
【実施例】
本発明を以下に詳細に説明するが、これらに限定されない。
【0132】
実施例1
〔複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)の調製〕
表1に示した有機金属化合物の種類及び量、セルロースエステルの種類及び量、有機溶媒の種類及び水の量で下記のように複合セルロースエステル溶液を調製した。耐圧性の溶解釜に、有機溶媒、セルロースエステル、水の順に釜に投入し、パドル式、アンカー式、ディスパー式のそれぞれを有する攪拌機で攪拌しながら、310kPaの圧力をかけて、溶媒の沸点付近で2時間溶解を行い、その後24時間30℃で攪拌しながら加水分解を行い、複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)を調製した。
【0133】
【表1】
【0134】
なお、表1において、Acはアセチル基、Prはプロピオニル基、TPOTはテトライソプロポキシチタン、TEOSはテトラエトキシシラン、TTAAはチタンテトラアセトアセトナート、MCは塩化メチレン、MAは酢酸メチル、EOHはエタノールである。
【0135】
〔ドープDA1〜DA8及びDB1〜DB8の調製〕
上記複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)をそれぞれ別に安積濾紙No.244を使用して濾過してドープDA1〜DA8とした。
【0136】
また、下記セルロースエステル溶液(CE1〜CE8)それぞれと複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)それぞれを加圧精密ギアポンプでインラインミキサー(東レエンジニアリング製Hi−Mixer)に送って両溶液を混合し、安積濾紙No.244を使用して濾過してドープDB1〜DB8とした。
【0137】
〈セルロースエステル溶液(CE1〜CE8)の調製〉
セルロースエステル(表2に示した置換基、置換度の) 150質量部
有機溶媒(表2に示した種類と比率の) 450質量部
を耐圧溶解釜に投入し、上記と同様に攪拌して、310kPaの圧力をかけて、使用した主の有機溶媒の沸点付近に加熱して8時間溶解しセルロースエステル溶液(CE1〜CE8)を調製した。
【0138】
〔複合セルロースエステルフィルムFA1〜FA8及びFB1〜FB8の作製〕
上記ドープDA1〜DA8及びDB1〜DB8を用いて溶液流延製膜方法によりそれぞれ複合セルロースエステルフィルムFA1〜FA8及びFB1〜FB8を作製した。それぞれのドープを別々に加圧ダイスに導入して、乾燥後の膜厚が30〜50μmとなるように、ステンレススティールベルト上に流延した。ステンレススティールベルトの裏側から38℃の温水で加熱し、ウェブ側からは40℃の温風を横から当て、更に50〜70℃の温風をウェブ上から垂直に吹かせて乾燥させ、残留溶媒量40〜60質量%となった時点で、ステンレススティールベルトから剥離し、すぐにウェブの両端をクリップで把持し、80から100℃の熱で乾燥させ、クリップを脱着して、ロール乾燥機で110〜130℃で乾燥させ、フィルムの残留溶媒量が0.8質量%以下になった時点で冷却してそれぞれを巻き取った。
【0139】
比較例1
〔ドープDC1及びDCの2調製〕
〈セルロースエステル溶液CE9とびCE10及びドープDC1とDC2の調製〉
セルロースエステル(表2に示した置換基と置換度) 100質量部
有機溶媒(表2に示した種類と比率) 450質量部
を耐圧溶解釜に投入し、上記と同様に攪拌し、310kPaに加圧、及び使用した主の有機溶媒の沸点付近に加熱して8時間溶解したセルロースエステル溶液CE9及びCE10をそれぞれドープDC1及びDC2とした。
【0140】
〔セルロースエステルフィルムFC1及びFC2の製膜〕
上記ドープDC1及びDC2を実施例1と同様に濾過し、実施例1と同様の溶液流延製膜によって製膜し、比較のセルロースエステルフィルムFC1及びFC2を作製した。
【0141】
〔評価〕
〈引張弾性率〉
フィルムを長さ20mm、幅10mmの大きさに切り出し、25℃、55%RHの雰囲気で24時間コンディショニングした後、ISO 527−3に準じて、東洋精機製作所(株)製の引張試験機を用いて、25℃、55%RHで引張試験を行った。1試料あたり10ピースずつ測定を行い、伸びが10%での加重を読引張弾性率を算出し、10ピースの平均値をもって引張弾性率(MPa)とし、下記のレベルにわけ評価した。なお、E0は比較例1のセルロースエステルフィルムFC1及びFC2の引張弾性率である。
【0142】
a:E/E0が1.20〜3.00
b:E/E0が1.10〜1.19
c:E/E0が1.05〜1.09
d:E/E0が1.02〜1.04
e:E/E0が1.00〜1.01
なお、比較例の引張り弾性率がE0であるため、E/E0が1.00であり、評価においては(e)とした。
【0143】
〈透過率の測定〉
日立製作所製U−3400分光光度計を用いて波長550nmの光透過率を測定した。
【0144】
実施例1と比較例1で製膜した複合セルロースエステルフィルムFA1〜FA8及びFB1〜FB8とセルロースエステルフィルムFC1及びFC2について測定・評価の結果を表2に示した。
【0145】
【表2】
【0146】
(結果)
比較例のセルロースエステルフィルムに対して本発明の複合セルロースエステルフィルムは透過率を下げることなく、少なくとも1.05倍以上引張弾性率を向上させることが出来ることがわかった。
【0147】
実施例2
〔光学フィルム用ドープDD1〜DD8及びDE1〜DE8の調製〕
〈光学フィルム用ドープDD1〜DD8の調製〉
実施例1で使用したドープDA1〜DA8の500質量部に、下記添加剤添加液TS1〜TS8を30℃で5時間調製後、Hi−Mixerインラインミキサーで添加剤添加液TS1〜TS8を混合し光学フィルム用ドープDD1〜DD8とした。
【0148】
《添加剤添加液TS1〜TS8の調製》
セルロースエステル(表1に記載のH1〜H8に使用したものと同様なそれぞれの置換基、置換度のもの) 3質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 1.8質量部
チヌビン326及びチヌビン171の1:1の混合物 0.45質量部
有機溶媒(表1に記載のH1〜H8に使用したものと同様なそれぞれの種類と比率) 50質量部
微粒子分散液(下記) 0.5質量部
《微粒子分散原液の調製》
4.2質量部のアエロジル200Vを耐圧密閉容器に投入し、30℃にて内部を徐々に減圧して2時間20kPaとし、そこに19質量部のエタノールを導入して1000rpmで攪拌混合し、密閉耐圧容器の底部から20MPaのマントンゴーリン型高圧力分散装置に導入し分散した。
【0149】
《微粒子分散液の調製》
微粒子分散液調製用の耐圧密閉容器に282質量部のメチレンクロライドまたは酢酸メチル(セルロースエステルの種類に合わせて)、1.7質量部のセルロースエステル(セルロースアセテートまたはセルロースアセテートプロピオネート)を溶解しておく。この耐圧密閉容器の空間を内部のメチレンクロライドまたは酢酸メチルの飽和蒸気圧になるような温度として、マントンゴーリン型高圧分散機から微細に分散された微粒子分散原液を導入し500rpmで攪拌し微粒子分散液を得た。
【0150】
《微粒子分散液の濾過及び貯蔵》
この微粒子分散液を既に脱気とメチレンクロライドまたは酢酸メチル:エタノール(質量比9:1)混合液で満たしておいたファインポアNF濾過器(絶対精度10μm)で濾過し、30℃で一旦貯蔵容器に貯蔵した。
【0151】
〈光学フィルム用ドープDE1〜DE8の調製〉
実施例1で使用したドープDB1〜DB8の800質量部に、Hi−Mixerインラインミキサーで上記添加剤添加液TS1〜TS8を混合し光学フィルム用ドープDD1〜DD8とした。
【0152】
〔光学フィルムFD1〜FD8及びFE1〜FE8の作製〕
表3に示した光学フィルム用ドープDD1〜DD8及びDE1〜DE8を別々に、実施例1と同様に溶液流延製膜方法により光学フィルムFD1〜FD8及びFE1〜FE2を作製した。
【0153】
比較例2
〔光学フィルム用ドープDF1及びDF2の調製〕
比較例1で使用したドープDC1とDC2の550質量部に、東レエンジニアリング(株)製のHi−Mixerインラインミキサーで上記添加剤添加液TS1とTS3を混合し光学フィルム用ドープDF1及びDF2とした。
【0154】
〔光学フィルムFF1及びFF2の作製〕
光学フィルム用ドープFF1とFF2それぞれをダイからステンレススティールベルトの上に流延し、実施例1と同様に光学フィルムFF1及びFF2を作製した。
【0155】
光学フィルムFD、FE及びFFについて、実施例1の評価と同様にして、引張弾性率と透過率の測定を行い評価し、結果を表3に示した。
【0156】
【表3】
【0157】
(結果)
添加剤を添加した光学フィルムの引張弾性率は実施例1と同様な引張弾性率の向上がみられ、しかもそれほど透過率が低下しなかった。
【0158】
【発明の効果】
本発明の無機酸化物相を有する複合セルロースエステルフィルムにより、セルロースエステルフィルムと同様に透明性に優れ、弾性率が向上したセルロースエステルフィルムを提供することが出来、この複合セルロースエステルフィルムを使用することにより透明性が良好で、引張弾性率が高い薄手化が可能な光学フィルムを提供出来る。
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機金属化合物とセルロースエステルからの無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液の調製方法、それから作られる複合セルロースエステルフィルムに関し、更に写真用感光材料支持体、各種画像表示装置の保護フィルム、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、ガラス板の表面保護フィルム等に有用な複合セルロースエステルを使用した光学フィルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学用途の透明フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリカーボネートフィルム(PC)、ポリメチルメタアクレート(PMMA)、ポリビニルアルコールフィルム(PVA)、ポリアリレートフィルム(PAR)、ポリスルホンフィルム(PSfon)、ポリエーテルスルホンフィルム(PES)、セルローストリアセテートフィルム(TAC)等様々な透明有機樹脂フィルムが使用されている。例えば、写真用感光材料支持体には、高度な透明性を有するPET、PENおよびTACが使われており、また液晶表示装置の偏光板保護フィルムにはTACが用いられている。
【0003】
このような多種の透明樹脂フィルムが開発された背景には、ガラス板は高い弾性率を有しているものの厚さが500μmより薄くなると割れ易く扱いが困難になるが、樹脂フィルムはガラス板に比べると比重が半分以下で、且つ60〜200μm程度の薄手でも割れにくく、また長尺フィルムとして扱え、取り扱いが容易であるが、一般に樹脂フィルムは、ガラス板に比較して弾性率が低く、樹脂フィルムの特徴を生かすために更に薄いフィルムにすることが出来にくかった。弾性率を向上させるための手段として、例えば、延伸により、フィルムを結晶化させて弾性率を上げることにより薄手のフィルムを得ることが出来るが、結晶化により透明性が損なわれたり、意図しない複屈折が生じたりするという欠点が生じてくる。また、有機高分子物質に高い弾性率を付与する方法として、架橋剤を用いる方法、母体として用いる有機高分子よりも弾性率の高い物質を混合する方法などが知られている。前者においては、例えば、長尺フィルムとしてロールで貯蔵する場合、未反応の架橋剤もしくは未反応の官能基が後架橋を起こし、フィルムのまき癖を強くする原因になったり、後者においては、透明な有機高分子相に無機や有機微粒子を分散させると弾性率は向上するものの、透明性が低下したり、脆くなったりして、光学フィルムとして役に立たない。
【0004】
また、水素結合受容基を有する高分子と金属アルコキシドとを組み合わせ光学フィルムを製造する手段が公開されている。この方法は、高分子として、PVA、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリイミド、ポリアミド、PC、ポリ尿素、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリウアミド)、ポリジメチルアクリルアミド、ポリエーテルイミドが挙げられており、これらの組み合わせにより得られた複合物は透明性が高く、酸素及び水蒸気の透過性が低く、耐熱性、耐湿性、耐酸性、耐アルカリ性に優れている安価な液晶表示装置フィルムを提供出来るとしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
金属アルコキシドとセルロースエステルとを反応させた複合ゲルが、繊維形成能がよく、繊維として特徴のある性質が発現するという報告もある(例えば、非特許文献1〜4参照。)。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−122038号公報
【0007】
【非特許文献1】
黒川洋一、畑山博之著「材料科学」、1994年11月号、第31巻、第6号、281〜285頁
【0008】
【非特許文献2】
黒川洋一、太田裕士著「高分子加工」、1992年、第8号、第41巻、398〜401頁
【0009】
【非特許文献3】
中根幸治、小形信男、黒川洋一著、Polymer Prepri−nt,Japan.Vol.49,No.10,p3261〜p3262(2000)
【0010】
【非特許文献4】
中根幸治、萩原隆、小形信男、黒川洋一著、「高分子加工」、2001年、第50巻、第8号、362〜366頁
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の文献の方法では、高い弾性率のフィルムを作製することが難しいことがわかった。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、第1の目的は、透明性に優れ、複合セルロースエステル溶液の調製方法、その溶液を使用して製膜した引張弾性率が著しく向上した複合セルロースエステルフィルムを提供することにあり、第2の目的は、薄手の複合セルロースエステルフィルムを使用した優れた光学フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は下記の構成よりなる。
【0014】
(1) セルロースエステル、水、有機溶媒及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で無機酸化物相を形成することを特徴とする複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0015】
(2) 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:有機溶媒の質量比を1:30〜1:7として行うことを特徴とする(1)に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0016】
(3) 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:有機金属化合物の質量比を1:10〜1:0.1として行うことを特徴とする(1)または(2)に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0017】
(4) 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:水の質量割合で0.001〜0.1として形成することを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0018】
(5) 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする(1)乃至(4)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0019】
(6) 前記セルロースエステルの置換度が、下記2式を満足するものであることを特徴とする(1)乃至(5)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0020】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基のそれぞれの置換度である。
【0021】
(7) 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする(1)乃至(6)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0022】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。
【0023】
(8) 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする(1)乃至(7)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
【0024】
(9) (1)乃至(8)の何れか1項に記載の調製方法で調整された無機酸化物相を含有する複合セルロースエステル溶液を用いて製膜したフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
【0025】
(10) セルロースエステル、水分及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で生成した無機酸化物相を含有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
【0026】
(11) 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルの他にセルロースエステル含有していることを特徴とする(9)または(10)に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0027】
(12) 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする(10)または(11)に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0028】
(13) 前記セルロースエステルの置換度が、下記2式を満足するものであることを特徴とする(10)乃至(12)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0029】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基のそれぞれの置換度である。
【0030】
(14) 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする(9)乃至(13)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0031】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。
【0032】
(15) 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする(9)乃至(14)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0033】
(16) 前記無機酸化物相の含有率が1〜90質量%であることを特徴とする(9)乃至(15)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
【0034】
(17) (1)乃至(8)の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法で調製した複合セルロースエステル溶液を、無限に移送する無端の金属支持体上に流延してウェブとなし、剥離可能な残留溶媒量に達した後、ウェブを該金属支持体から剥離し、続いて乾燥工程で乾燥することにより得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0035】
(18) セルロースエステル、水分及び加水分解性の有機金属化合物を有機溶媒に溶解してセルロースエステル溶液とし、該セルロースエステル溶液中の有機金属化合物を加水分解して無機酸化物相を形成させた後、該無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液を、無限に移送する無端の金属支持体上に流延してウェブとなし、剥離可能な残留溶媒量に達した後、ウェブを該金属支持体から剥離し、続いて乾燥工程で乾燥することにより得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0036】
(19) 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液と、無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液とを混合して混合溶液とし、該混合溶液を流延することを特徴とする(17)または(18)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0037】
(20) 前記複合セルロースエステル溶液に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びマット剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする(17)乃至(19)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0038】
(21) 前記無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びマット剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする(18)または(19)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0039】
(22) 前記混合溶液に可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤及び配向助剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする(19)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0040】
(23) 前記ウェブを、残留溶媒量が20〜200質量%で剥離することを特徴とする(17)乃至(22)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0041】
(24) 前記剥離後のウェブを少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする(17)乃至(23)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0042】
(25) 前記剥離後のウェブの両端をクリップで把持し、幅保持または幅方向に延伸することを特徴とする(17)乃至(24)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0043】
(26) 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする(18)乃至(25)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0044】
(27) 前記セルロースエステルの置換度が、下記2式を満足するものであることを特徴とする(26)に記載の光学フィルムの製造方法。
【0045】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基のそれぞれの置換度である。
【0046】
(28) 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする(18)乃至(27)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0047】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。
【0048】
(29) 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする(18)乃至(28)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0049】
(30) 前記無機酸化物相の含有率が1〜90質量%であることを特徴とする(18)乃至(29)の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0050】
(31) (17)乃至(30)の何れか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【0051】
(32) 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムE0との引張弾性率の比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする(31)に記載の光学フィルム。
【0052】
(33) (9)乃至(16)の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルムを用いることを特徴とする光学フィルム。
【0053】
本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、セルロースエステル、水分、加水分解性を有する有機金属化合物により無機酸化物相を有する複合セルロースエステルを形成させた複合セルロースエステル溶液を調製し、該複合セルロースエステル溶液を用いて製膜することにより、高弾性率を有するセルロースエステルフィルムが得られことを見い出した。そして、これにより、今までの製膜方法や使用面で難しいと言われている薄手のセルロースエステルフィルムが得られることを見いだしたのである。
【0054】
本発明の無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液を用いて製膜した複合セルロースエステルフィルムは、該複合セルロースエステルフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0と上昇した引張弾性率を有することは画期的なことであり、これが本発明の特徴である。その結果、複合セルロースエステルフィルムまたは複合セルロースエステルを使用した光学フィルムは、従来のセルロースエステルフィルムより透明性も失うことなく膜厚を薄くすることが出来るようになった。
【0055】
なお、本発明でいう引張弾性率は、ISO 527−3に準じて、東洋精機製作所(株)製の引張試験機を用いて、25℃、55%RHで引張試験を行い、10%歪みの強度データから求めたものである。また、上記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルフィルムも、無機酸化物層を有しないセルロースエステルフィルムも何れも同条件で製膜したものである。
【0056】
本発明において、以下、引張弾性率を単に弾性率ということがある。
従来、堅い粒子(充填剤)を混合して高分子材料の弾性率を上げる方法では、充填剤の濃度が上がると急激に弾性率が上昇し、また同様に脆さも急激に増加する。このような添加剤により高い弾性率を有する高分子材料を得るには、脆さも加わるため、調節が不可能であり難しい。
【0057】
これに対して、本発明の無機酸化物相を有する複合セルロースエステルフィルムの弾性率は、無機酸化物相の含有率と共に増加するが、含有率を共に増加するはずの脆さの増加がほとんど見られないため、前述のような充填剤と異なり無機酸化物相の含有率を高くすることが出来るのである。
【0058】
2種以上の材料を組み合わせる複合材料では、製造過程で生成した欠陥が原因で材料が破壊するといわれている。また材料の脆さは、この欠陥の生成確率にも関係する。本発明者らは、このような破壊力学の知見から、加水分解性を有する有機金属化合物から生成した無機酸化物相では、材料破壊の起点となる欠陥が出来にくいため、この無機酸化物相による補強と比較して脆さの欠陥がほとんど発現しないものと推定している。
【0059】
本発明の複合セルロースエステルフィルムまたは光学フィルムは、上記のようなことから、フィルムを薄くしても腰の強い、しっかりとしたフィルムとして扱うことが出来、しかも、本発明の場合には、前述の充填剤の場合のような透明性を劣化させることもなく、このことが本発明の特徴である。
【0060】
本発明の複合セルロースエステルフィルムまたは光学フィルムの製造方法は上記のような弾性率が得られるならば、セルロースエステル、水分、有機金属化合物の存在下、加水分解させる方法として、特に制限がないが、下記のような本発明の複合セルロースエステル溶液を使用する方法により、より確実に得ることが出来る。
【0061】
本発明の複合セルロースエステル溶液、複合セルロースエステルフィルム及び光学フィルムに使用するセルロースエステル、有機溶媒、有機金属化合物について以下に述べる。
【0062】
本発明に使用するセルロースエステルのセルロースは、綿花リンターパルプ、木材パルプ、ケナフ等良質のセルロースを使用するのが好ましい。
【0063】
本発明に使用するセルロースエステルのエステル置換基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が好ましい。
【0064】
本発明に使用するセルロースエステルのエステル形成基の置換度は、下記2式を満足するものであることが好ましい。
【0065】
式中、Xはアセチル基、Yはプロピオニル基及びZはブチリル基それぞれの置換度である。
【0066】
これらで示されるセルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースエステルプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートを挙げることが出来る。
【0067】
本発明に有用なセルロースエステルの製造は、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成出来る。アシル化剤が酸無水物である場合は、反応溶媒として有機酸(例、酢酸)や塩化メチレンが使用され、触媒としては硫酸のような酸性触媒が用いられる。アシル化剤が酸塩化物である場合は、触媒として塩基性化合物が用いられる。工業的に最も一般的な合成方法では、セルロースをアセチル基、プロピオニル基またはビチリル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸または酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸または無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。アセチル化剤、プロピオニル化剤またはブチリル化剤の使用量は、合成するエステルが前述した置換度の範囲となるように調整する。反応溶媒の使用量は、セルロース100質量部に対し100〜1000質量部であることが好ましい。酸性触媒の使用量は、セルロース100質量部に対し0.1〜20質量部であることが好ましい。反応温度は、10〜120℃であることが好ましい。また、アシル化反応が終了した後、必要に応じて加水分解(ケン化)して置換度を調整してもよい。反応終了後、反応混合物(セルロースエステルドープ)を沈澱のような慣用手段を用いて分離し、洗浄、乾燥することによりセルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステルまたは酪酸エステルが得られ、上記アシル化剤を混合して使用することにより、混合セルロースエステル(例えば、セルロースアセテートプロピオネート)が得られる。
【0068】
本発明に有用なセルロースエステルは、綿花リンターから合成されたセルロースエステルと木材パルプから合成されたセルロースエステルのどちらかを単独あるいは混合して用いることが出来る。金属支持体からの剥離性がよい綿花リンターから合成されたセルロースエステルを多く使用した方が生産性が高く好ましい。綿花リンターから合成されたセルロースエステルの比率が60%以上で剥離性が顕著に向上するため、その使用比率は60%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、更には単独で使用することが最も好ましい。
【0069】
本発明に用いるセルロースエステルの数平均分子量は70,000〜300,000、好ましくは90,000〜200,000である。
【0070】
本発明に有用な有機金属化合物は、セルロースエステルを溶解した有機溶媒中に添加して溶解後、水分の存在で加水分解して金属酸化物を生成するものであれば如何なる化合物でもよいが、本発明に有用な有機金属化合物は下記の一般式(I)で示すものが好ましい。
【0071】
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。R1のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることが出来る。R2のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等を挙げることが出来る。またアルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。R3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基としては、β−ジケトン錯体基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンともいう)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸エステル錯体基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等を挙げることが出来、またケトオキシとして、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等を挙げることが出来る。これらの基の炭素原子数は、上記例有機金属示化合物を含んで、18以下が好ましい。また例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0072】
本発明において取り扱いの問題から、爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも一つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとしてR2のアルコキシ基を少なくとも一つを含有する有機金属化合物、またR3のβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する金属化合物が好ましい。
【0073】
本発明に有用な有機金属化合物の金属元素は、遷移金属元素、典型金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素が好ましい。
【0074】
遷移金属元素としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Ir、La、Ce、Nd、Th等を挙げることが出来る。
【0075】
典型金属元素としては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Tl、Bi、Ra、La、Ce、Nd等を挙げることが出来る。
【0076】
半金属元素としては、B、Si、Ge*、As、Sb*、Te、Bi*、Se等を挙げることが出来る。*印の元素は典型金属元素ではあるが、半金属あるいは半導体として半金属元素としてもよいものである。
【0077】
これらのうち、本発明に有用な有機金属化合物のより好ましい金属元素としては、B、Mg、Al、Si、Ti、Ni、Zn、Zr、Mo、Rh、In、Sn、Ba、Hf、Ir、Thであり、更に好ましくは、Al、Si、Ti、Zn、Zr、In、Sn、Ceである。有機金属化合物が加水分解して金属酸化物(無機酸化物相)となった時、可視光に対して優れた透明性を有することがこのましく、上記の金属元素を有する有機金属化合物が好ましい。
【0078】
本発明に有用な有機金属化合物は、セルロースエステルを溶解する有機溶媒に可溶性であることが好ましい。また、加水分解後、ハロゲン化合物を生成するものは、電子機器に悪影響を及ぼす可能性があるので、避けた方がよい。
【0079】
有機金属化合物としては、例えば、ジブチルジエトキシ錫、ブチル錫トリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはブチル錫トリアセトアセトナート、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、エチルエトキシ錫、メチルメトキシ錫、イソプロピルイソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、ジブチリルオキシ錫、ジブチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジブチル錫ジアセトアセトナート、錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいは錫ジアセトアセトナート、エチル錫(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタート錫、ジアセトキシ錫、ジブトキシジアセトキシ錫、ジアセトオキシ錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジアセトオキシ錫アセトアセトナート、ジブチル錫ジアセタート、ジブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、ジメチルチタンビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジメチルチタンジアセトアセトナート、エチルチタントリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエチルチタントリアセトアセトナート、チタントリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはチタントリアセトアセトナート、チタントリス(アセトメチルアセタート)、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン、テトライソプロピルシラン、テトラメトキシシランまたはオルトメチルシリケート、テトラエトキシシランまたはオルトエチルシリケート、テトライソプロポキシシランまたはオルトイソプロピルシリケート、テトラブトキシシランまたはオルトブチルシリケート、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルシランビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジエチルシランジアセトアセトナート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、インジウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはインジウムトリアセトアセトナート、インジウムトリス(ヘキサフルオロペンタンジオナート)あるいはインジウムトリヘキサフルオロアセトアセトナート、インジウムトリアセトアセタート、トリアセトキシインジウム、ジエトキシアセトキシインジウム、トリイソプロポキシインジウム、ジエトキシインジウム(1,1,1−トリフルオロペンタンジオナート)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)インジウム、エトキシインジウムビス(アセトメチルアセタート)、亜鉛ビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいは亜鉛ジアセトアセトナート、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、アルミニウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはアルミニウムトリアセトアセトナート、テトラエトキシセリウム、テトライソプロポキシセリウム、テトラブトキシセリウム、メチルトリエトキシセリウム、エチルジエトキシセリウム、ジエチルジエトキシセリウム、ジブチルジエトキシセリウム、ジメチルメトキシセリウム、トリメトキシセリウム、トリエトキシセリウム、トリイソプロポキシセリウム、トリブトキシセリウム、トリイソプロピルエトキシセリウム、イソプロピルジイソプロポキシセリウム、ジブチルジアセトキシセリウム、ジブチルセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジブチルセリウムジアセトアセトナート、ブチルセリウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはブチルセリウムトリアセトアセトナート、セリウムテトラ(2,4−ペンタンジオナート)あるいはセリウムテトラアセトアセトナート、エチルセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエチルセリウムビスアセトアセトナート、エトキシトリスセリウム(2,4−ペンタンジオナート)あるいはエトキシセリウムトリスアセトアセトナート、ジメチルセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタートセリウム、トリアセトキシセリウム、ジブトキシジアセトキシセリウム、ジアセトオキシセリウムビス(2,4−ペンタンジオナート)あるいはジアセトオキシセリウムアセトアセトナート、ジブチルセリウムジアセタートを挙げることが出来るが、これらに限定されない。なお、上記化合物の基が断らない限り、プロピル、プロポキシ、プロピオニル等はn−、i−の何れでもよく、またブチル、ブトキシ等はn−、i−、s−、t−の何れでもよい。
【0080】
本発明の複合セルロースエステル溶液を調製する際に、またドープとして使用する有機溶媒としては、セルロースエステル及び有機金属化合物を溶解することの出来る有機溶媒であれば制限なく使用出来るが、塩化メチレン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール等を挙げることが出来る。これらの溶媒は二種以上を併用してもよい。中でも塩化メチレン、酢酸メチルまたはアセトンが好ましく、特に塩化メチレン、酢酸メチルが好ましい。溶解性がよく、透明性に優れるセルロースエステルフィルムを得ることが出来る。
【0081】
この他に、後述の溶液流延製膜法で述べるように、セルロースエステルに対して貧溶媒を上記有機溶媒(良溶媒)に混合して用いることも出来る。貧溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサン、等が有用で、特に安全性からエタノールが好ましい。良溶媒と貧溶媒との混合比率は良溶媒が70〜95質量%、貧溶媒が5〜30質量%である。
【0082】
次に、本発明の複合セルロースエステルフィルム及び光学フィルムを製膜するのに有用な溶液流延製膜法について述べる。
【0083】
本発明において、前述のように、複合セルロースエステル溶液だけをドープとして製膜する場合と、セルロースエステル溶液と複合セルロースエステル溶液を混合してドープとして製膜する場合とがある。
【0084】
本発明の複合セルロースエステル溶液は、セルロースエステル及び加水分解性を有する有機金属化合物を有機溶媒に溶解して、若干の水分を存在させることによって行うことによって得ることが出来る。
【0085】
本発明において、セルロースエステルと有機溶媒の関係を、セルロースエステル:有機溶媒の質量比を1:30〜1:7とし、通常セルロースエステルフィルムを製膜するドープよりも薄い状態で行うのが好ましい。セルロースエステルの濃度が高いと不均一の無機酸化物相が出来、均一なセルロースエステルとの緩やかな結合状態をを形成しにくくなる。
【0086】
また、本発明において、セルロースエステルと有機金属化合物との関係も、セルロースエステル:有機金属化合物の質量比を1:10〜1:0.1とすることが好ましく、金属有機化合物をこの範囲より多量に使用することと、セルロースエステルと遊離した金属酸化物粒子が存在するようになり、上記弾性率の不等式に従わなくなり、また有機金属化合物がこの範囲より少ないとセルロースエステルの濃度が高く、無機酸化物相が少なく、セルロースエステルのみのものと変わらなくなってしまう。
【0087】
本発明において、有機金属化合物の加水分解に必要な水の量としては、セルロースエステル:水の質量割合が0.001〜0.1が好ましい。また原料としてのセルロースエステル中に含まれる水分も加水分解に用いられるし、複合セルロースエステル溶液調製の際に、同程度の水を添加してもよい。本発明において、酸触媒等を使っても構わないが、酸触媒を使用すると、製品となってからのフィルムの物理的性質の劣化を招く虞があり、出来るならば使用しない方が好ましい。
【0088】
複合セルロースエステル溶液を調製する際、加水分解に必要とする水分量は、発明の目的である複合セルロースエステルフィルム中に形成される無機酸化物相の量によって決定される。
【0089】
本発明に従い、有機金属化合物とセルロースエステルとを有機溶媒を用いて混合後、フィルムを作製する。水を添加しないで作製した、このフィルムを150℃で一昼夜熱処理を行ったところ、有機金属化合物とセルロースエステルとの配合割合から期待される質量よりも軽くなる。このことは、揮発性の低分子物が蒸発したためであるが、その低分子物には、有機金属化合物も含まれている。有機金属化合物とセルロースエステルとを有機溶媒を用いて混合する時に水を添加すると、加熱による質量減を少なくすることが出来る。しかし、水を多く添加しすぎると、混合溶液中で水が分離したり、有機金属化合物の分解が早く進行して析出したりする弊害が生じる。水の添加がなくともセルロースエステル中に無機化合物相の生成は可能であるが、好ましくは、セルロースエステル:水の質量比が0.001〜0.1である。
【0090】
本発明の複合セルロースエステル溶液を調製する際の調製温度は、20〜有機溶媒の沸点(℃)位が好ましく、あまり急激に加水分解が起こるような温度では、バランスのよい無機酸化物相が形成されにくくなり、粒子化へと進み易くなる。また温度が低過ぎると加水分解があまり進行せず、未反応物が生成し易くなる。調製に要する時間は、仕込む量にもよるが、生産規模では12〜36時間程度が好ましく、特に20〜28時間が好ましい。また十分攪拌することが好ましい。
【0091】
セルロースエステルを有機溶媒中に溶解する方法は、特に限定はなく、通常の方法により調製出来る。例えば、ドープを容器に入れ、常温で、あるいは溶媒が沸騰しない温度、圧力条件下で撹拌混合することにより得られる。撹拌混合は、容器内部の液膜残りのないような装置、方式であることが好ましい。また容器内には窒素ガスなどの不活性ガスで充満させて分解を抑制することが好ましい。また、加圧容器などを用いて加圧条件下で撹拌混合することも溶解性を向上出来好ましい。複合セルロースエステル溶液の調製は、無機酸化物相を均一にしかもセルロースエステルとの結合を保たせるには常圧付近の圧力で調製するのが好ましく、圧力としては103〜500kPa程度が好ましい。攪拌は、パドル式、アンカー式、ヘリカル式、デュスパー式等の攪拌機を制限なく使用することが出来る。
【0092】
本発明により調製された複合セルロースエステル溶液だけを用いて製膜を行ってもよいが、本発明においては、複合セルロースエステル溶液と、別に準備した無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液とを混合して製膜することによって優れたフィルムを得ることも出来る。複合セルロースエステル溶液の粘度は、同濃度のセルロースエステルのみの溶液よりも濃度が高く、それだけで製膜供することが出来る。また後からセルロースエステル溶液と混合してもそれほど粘度の上昇もなく取り扱い易い。
【0093】
また、本発明の複合セルロースエステル溶液のセルロースエステルの濃度が低い場合には、有機溶媒を蒸発させて濃縮した複合セルロースエステル溶液としてもよく、濃縮することによって後述の流延の際の流延し易さ、適度な膜厚のフィルムが得られる。
【0094】
複合セルロースエステル溶液とセルロースエステル溶液を混合してドープとする場合の複合セルロースエステル溶液:セルロースエステル溶液の混合質量比は、0.5:1〜2:1程度が好ましい。
【0095】
無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液の調製において、セルロースエステルと有機溶媒の質量比率は1:1.5〜1:10とすることが好ましく、好ましくは1:2〜1:4である。
【0096】
セルロースエステルを有機溶媒に溶解する方法は、上記複合セルロースエステル溶液の場合と同様であるが、複合セルロースエステル溶液の調製方法よりは、調製のやり方の幅は広く、例えば、特開平9−95538号公報などに記載の冷却溶解法や特開平11−21379号公報に記載の圧力下での溶解処理などにより溶解してもよい。
【0097】
溶解する順序は、沸点以下の有機溶媒中に、セルロースエステルを粉体状で少しずつ加え、ゲルやママコが発生しないように十分攪拌しながら行うのがよい。前記質量比が近ければ近いほど、添加する場合の毎分の量は少ない方がよい。添加終了後溶解開始と同時に200〜500kPa程度に加圧し、攪拌を続行することが好ましい。
【0098】
複合セルロースエステル溶液とセルロースエステル溶液の混合は通常の注入にて混合し、上記のようなの攪拌機を用いいてよく攪拌すればよいが、両方の液をインラインミキサー(例えば、東レエンジニアリング製Hi−Mixer)のような混合効率のよい混合機を使用することが好ましい。
【0099】
製膜する際の粘度は、流延可能な範囲であればよく、通常0.5〜100Pa・secの範囲に調製されることが好ましい。これは複合セルロースエステル溶液をドープとする場合も混合されたドープの場合も同じである。
【0100】
本発明の複合セルロースエステルフィルムは、複合セルロースエステル溶液または複合セルロースエステル溶液とセルロースエステル溶液を混合した混合溶液の2種類の何れかから形成したドープから作製される。溶解行程以降において、他の添加剤を加えたり、延伸したりすることにより光学用の光学フィルムが得られる。
【0101】
本発明の光学フィルムに有用な添加剤は、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤またはマット剤等である。
【0102】
可塑剤は、可塑化効果の他に、耐湿性を光学フィルムに与えることが出来る。可塑剤としては、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステルやカルボン酸エステル等が挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルク゛リコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等、リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等、カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、及びクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類を挙げることが出来る。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を用いてもよい。可塑剤の量はセルロースエステルに対し1〜30質量%が好ましく、特に4〜13%が好ましい。可塑剤は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加しても良く、溶液調整中や調整後に添加してもよい。可塑剤は、複合セルロースエステル溶液に加えてもよいが、無機酸化物相を正常に生成させるためには出来るだけセルロースエステル溶液に添加する方法が望ましい。
【0103】
液晶表示装置は屋外で使用される機会も多くなっており、偏光板保護フィルムに紫外線をカットする機能を付与することも重要であり、本発明の光学フィルムには紫外線吸収剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点から波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましい。特に、波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましい。
【0104】
このような紫外線吸収剤吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、サリチル酸系化合物等が挙げられる。
【0105】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、
2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチル−フェノール、2−オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール等を挙げることが出来、これらの紫外線吸収剤は市販されているものもある。例えば、チヌビン(TINUVIN、以下片仮名のチヌビンを使用する)171、チヌビン109、チヌビン234等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。また、上記のチヌビン109、チヌビン171、チヌビン326等チヌビンは何れもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の市販品で、好ましく使用出来る。ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。本発明においては、これらの紫外線吸収剤を2種以上用いていることが好ましい。
【0106】
紫外線吸収剤の添加方法は、前記有機溶媒に溶解してから何れの溶液またはドープに添加してもよいが、無機酸化物相生成前の複合セルロースエステル溶液には無機酸化物相の生成の何らかの影響を及ぼす可能性もあるので出来るだけ添加しない方が望ましい。セルロースエステル溶液またはドープに添加するか、または直接セルロースエステル溶液またはドープ中に添加するのが好ましい。
【0107】
本発明において、紫外線吸収剤の使用量は使用した全セルロースエステルに対し、0.1〜2.5質量%、好ましくは0.5〜2.0質量%、より好ましくは0.8〜2.0質量%である。紫外線吸収剤の使用量が2.5質量%より多いと透明性が悪くなる傾向があり好ましくない。
【0108】
フィルムの劣化防止、または耐熱性を向上する目的で、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤を光学フィルムに含有させることが望ましい。
【0109】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどを挙げることが出来る。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。また、この他、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等の熱安定剤を加えてもよい。
【0110】
酸化防止剤の添加は、酸化防止剤を有機溶媒に溶解または分散させて、セルロースエステル溶液、無機酸化物相形成後に安定した複合セルロースエステル溶液、またはドープ中に添加することが出来る。複合セルロースエステル溶液において、無機酸化物相形成中または形成が安定するまでこの酸化防止剤は添加しないようにする必要がある。
【0111】
光学フィルムが、滑り難いとフィルム同士がブロッキングし、取扱性に劣る場合がある。本発明の光学フィルムには、二酸化ケイ素、二酸化チタン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子等のマット剤を含有させることが好ましい。また、フィルムのヘイズを低下するため、二酸化ケイ素のような微粒子は有機物によって表面処理されていることが好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等があげられる。マット効果は微粒子の平均径が大きい方が大きく、透明性は平均径の小さい方が優れるため、微粒子の一次粒子の平均径は0.1μm(100nm)以下、好ましくは5〜50nm、より好ましくは7〜14nmである。二酸化ケイ素の微粒子としては日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL、以降片仮名のアエロジルを使用する)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等が挙げられ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812等が挙げられる。このマット剤の配合はフィルムのヘイズが0.6%以下、動摩擦係数が0.5以下となるように配合することが好ましい。この目的で用いるマット剤の量は、セルロースエステルに対し0.005〜0.3質量%が好ましい。
【0112】
本発明において、マット剤をドープ中に均一に分散して存在させる方法は特に制限ないが、微粒子が凝集する場合もあり、十分に分散する必要がある。微粒子を分散するには、まず、有機溶媒と微粒子を混合してから高圧力分散装置で細分散した微粒子分散原液を調製するのが望ましいが、直接有機溶媒に微粒子を分散してもよい。微粒子分散原液を調製した後に、多量の有機溶媒を混合し更に分散して微粒子分散液を調製する方法を用いるが、微粒子分散原液をセルロースエステル溶液に直接混合してドープとしてもよい。微粒子分散原液として細分散するには、微粒子と有機溶媒を混合した組成物を高圧力分散装置で処理するのがよい。ここでいう高圧分散装置は、微粒子と有機溶媒を混合した組成物を細管中に高速通過させることで、高剪断力や高圧状態など特殊な条件を作り出す装置である。例えば1〜2000μmの細管中で装置内部の最大内部圧力条件が5〜100MPaあるものがよく、10〜100MPaであることが好ましく、更に、好ましくは20〜100MPaである。また、その際、最高到達速度が100m/秒に達するもの、伝熱速度が420kJ/hrに達するものが好ましい。上記のような高圧分散装置には、マントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモジナイザー、三和機械(株)社製UHN−01等を挙げることが出来る。微粒子原液は、微粒子と有機溶媒を混合した組成物をディゾルバーのような分散機で予備分散した後、上記に示した高圧力分散機で非常に細かいレベルにまで分散し調製するのが好ましい。高圧力分散装置で分散する場合、分散中の液が空気と触れないように行うのが良好な分散原液を得るには好ましい。高圧力分散装置に導入される瞬間の微粒子及び/または有機溶媒の混合液を空気と遮断しながら導入するのがよい。微粒子分散原液は調製後、一旦貯蔵してもよいが、より多量の有機溶媒に直接に投入してもよい。微粒子分散原液は、少量のセルロースエステルを含有する有機溶媒溶液に添加してからセルロースエステル溶液やドープに添加することが望ましい。無機酸化物相形成中、または形成後安定するまでの間は複合セルロースエステル溶液にはこの微粒子分散原液は添加しない方がよい。それは、微粒子に無機酸化物相及びその形成中の化合物が吸着等が起こらないようにするためである。
【0113】
本発明において、光学フィルム中のシリカ等の無機物の微粒子マット剤は、本発明の光学フィルム中の無機酸化物相と異なることを説明する。マット剤は明確な粒子であるのに対して本発明に係る無機酸化物相は、前述のように明確な粒子として様相を呈していないということである。それは電子顕微鏡の観察によっても明白である。本発明の光学フィルムを化学的な処理を行わないでSEM観察を行うと無機酸化物相は、明確に識別されるような形態では観察されないのに対して、マット剤はSEMで明確な粒子として観察されるので区別される。
【0114】
本発明の光学フィルムには、上記の添加剤の他に下記のような添加剤を含有してもよい。
【0115】
光学フィルムをハロゲン化銀写真感光材料の支持体に使用する場合、通常、青色染料アントラキノン系の染料や、グレーに着色する2、3種の染料を混合する場合がある。セルロースエステルフィルムは若干黄色みを帯びる場合があり、これを嫌う場合には、上記感光材料の支持体に使用するような染料を微量してもよい。その場合、青色や紫色の染料が好ましく用いられる。含有量は少なくて良く、セルロースエステルに対し質量割合として1〜100ppmが好ましく、更に2〜50ppmが好ましい。
【0116】
また、更に上記の他に、帯電防止剤、難燃剤、滑り剤、油剤等も適宜添加してよい。
【0117】
本発明においてドープは、上記セルロースエステル溶液、複合セルロースエステル溶液、微粒子マット剤液等を混合して形成される。混合方法は前述のインラインミキサーで行うのが好ましい。
【0118】
インラインミキサーで混合する前に、各液を濾過しておくことが好ましい。
不溶解異物を含有するセルロースエステル溶液をフィルム化すると不溶解異物が乱反射の原因となるため、液晶表示装置に組み入れた場合には液晶セルの光が散乱してディスプレイが見にくくなる。不溶解異物は通常光では検出し難いが、2枚の偏光板を直交(クロスニコル)状態にし、その間にセルロースエステルフィルムを置いて反対側から光源の光を当てて観察すると、暗視野の中で異物が光って見えるので容易にその大きさと個数を測定出来る。大きさが5〜50μmの異物が250mm2当たり200個以下、50μmを超える大きさの異物は0個であることが好ましい。さらに好ましくは、5〜50μmの異物が250mm2当たり100個以下である。5μm未満の異物は目視上あまり問題とならない。また、50μmを超える大きさの異物は、通常のセルロースエステル製造法ではほとんど生成せず、50μmを超える大きさの異物はセルロースエステル製造プロセス内で除去される。このため、セルロースエステル溶液、複合セルロースエステル溶液、またはドープをフィルターで濾過し、異物を除去することが好ましい。使用するフィルターは、有機溶媒に対して耐性のあるものであればよく、例えば焼結金属フィルター、金属繊維フィルター、樹脂フィルター(織布、不織布)、セラミックスフィルター、ガラスフィルター、濾紙が使用出来る。また、フィルターの平均目開きは、除去しようとする異物の大きさによって適宜変更して使用することが出来るが、通常0.1〜100μmの範囲から選択される。フィルターは単独で用いてもよいし、複数個を直列に連続して用いてもよい。特に、濾水時間が20秒以上の濾紙を使用し、かつ濾過圧力を1.6MPa以下で濾過することが好ましい。より好ましくは、濾水時間が30秒以上の濾紙を使用し、かつ濾過圧力を1.2MPa以下、さらに好ましくは濾水時間が40秒以上の濾紙を使用し、かつ濾過圧力を1.0MPa以下で濾過することが好ましい。濾紙は2枚以上重ねて用いることが好ましい。濾過圧力は濾過流量と濾過面積を適宜選択することで調整出来る。
【0119】
本発明の複合セルロースエステルフィルム及び光学フィルムは、溶液流延製膜方法によって作製される。ここで溶液流延製膜方法について述べる。
【0120】
溶液流延製膜装置は、上記の溶解、濾過、混合してドープを調製する工程を含めて、ドープ輸送工程、流延工程、金属支持体上の乾燥工程(溶媒蒸発工程)、剥離工程、乾燥工程(ロール乾燥工程、幅保持乾燥工程または延伸工程)、巻取工程等を有する製膜装置である。
【0121】
流延工程:ドープを加圧型定量ギアポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、無限に移送する無端の金属支持体(ベルトあるいは回転する金属ドラム)上に加圧ダイからドープを流延する工程である。金属支持体の表面は鏡面となっている。その他の流延方法として、ドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーター法があるが、口金部分のスリット形状を調製出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイにはコートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを2基以上設けても、ドープ量を分割して2層以上に重層してもよい。金属支持体上に流延されたドープ膜を、この工程以降ウェブと呼ぶ。
【0122】
溶媒蒸発工程:ウェブを金属支持体上で加熱し有機溶媒を蒸発させる工程である。有機溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により加熱する方法、輻射熱により表裏から加熱する方法があるが、裏面液体加熱方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。
【0123】
剥離工程: ウェブの残留溶媒量が剥離可能になった時点で、金属支持体上で有機溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。
【0124】
本発明でいう残留溶媒量とは下記の式で表されるものをいう。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/M}×100
ここで、式中、Mは、製膜中の任意の時点での有機溶媒を含有するウェブの質量、Nは、Mのものを3時間110℃で乾燥した質量である。
【0125】
剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると途中でウェブの一部が剥がれたりする。製膜速度を上げる方法として、ゲル流延法(ゲルキャスティング法、残留溶媒が多くても剥離出来る)がある。ゲル流延法には、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えてドープ流延後ゲル化させる方法や金属支持体の温度を下げてゲル化させる方法等がある。またドープ中に金属塩を加える方法もある。金属支持体上でゲル化させ膜を強くすることによって、剥離を早め製膜速度を上げることが出来る。残量溶媒量が多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易く、生産性と品質との兼ね合いで残留溶媒量を決める。
【0126】
乾燥工程:ウェブを上下に多数配置したロールに上下交互に通して搬送させる乾燥装置、及び/またはピンまたはクリップでウェブの両端の幅を保持して搬送するテンター装置を用いてウェブを乾燥する工程である。乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。高温による乾燥は残留溶媒量が8%以下から行うのがよい。全体を通して、通常乾燥温度は40〜250℃で、70〜180℃が好ましい。使用する有機溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、乾燥条件は使用する有機溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。乾燥工程では有機溶媒の蒸発によってはウェブは巾方向に収縮しようとする。高温度で急激に乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を巾方向にクリップでウェブの巾両端を保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。必要に応じてテンターで横方向に延伸する場合もあり、本発明の光学フィルムにおいては、1.01〜1.20倍に延伸することにより、平面性、寸法安定性、光学特性に優れたフィルムを得ることが出来る。
【0127】
巻き取り工程:ウェブを残留溶媒量が2質量%以下となってからフィルムとして巻き取る工程である。残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることが出来る。巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いれば良く、定トルク法、定テンション法、テーバーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使い分ければよい。
【0128】
セルロースエステルフィルムの膜厚の調節は、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力及び金属支持体の速度をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて得た情報を上記装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0129】
流延直後から乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。ただし、乾燥雰囲気中の蒸発有機溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならない。
【0130】
本発明の方法で製造された無機酸化物相を有する光学フィルムは、透明性、等方性、適度のリターデーションを有することにより、液晶画像表示装置、EL画像表示装置、PDP、FED等の保護フィルム、位相差フィルム、偏光板用保護フィルム等に適用される。
【0131】
【実施例】
本発明を以下に詳細に説明するが、これらに限定されない。
【0132】
実施例1
〔複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)の調製〕
表1に示した有機金属化合物の種類及び量、セルロースエステルの種類及び量、有機溶媒の種類及び水の量で下記のように複合セルロースエステル溶液を調製した。耐圧性の溶解釜に、有機溶媒、セルロースエステル、水の順に釜に投入し、パドル式、アンカー式、ディスパー式のそれぞれを有する攪拌機で攪拌しながら、310kPaの圧力をかけて、溶媒の沸点付近で2時間溶解を行い、その後24時間30℃で攪拌しながら加水分解を行い、複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)を調製した。
【0133】
【表1】
【0134】
なお、表1において、Acはアセチル基、Prはプロピオニル基、TPOTはテトライソプロポキシチタン、TEOSはテトラエトキシシラン、TTAAはチタンテトラアセトアセトナート、MCは塩化メチレン、MAは酢酸メチル、EOHはエタノールである。
【0135】
〔ドープDA1〜DA8及びDB1〜DB8の調製〕
上記複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)をそれぞれ別に安積濾紙No.244を使用して濾過してドープDA1〜DA8とした。
【0136】
また、下記セルロースエステル溶液(CE1〜CE8)それぞれと複合セルロースエステル溶液(H1〜H8)それぞれを加圧精密ギアポンプでインラインミキサー(東レエンジニアリング製Hi−Mixer)に送って両溶液を混合し、安積濾紙No.244を使用して濾過してドープDB1〜DB8とした。
【0137】
〈セルロースエステル溶液(CE1〜CE8)の調製〉
セルロースエステル(表2に示した置換基、置換度の) 150質量部
有機溶媒(表2に示した種類と比率の) 450質量部
を耐圧溶解釜に投入し、上記と同様に攪拌して、310kPaの圧力をかけて、使用した主の有機溶媒の沸点付近に加熱して8時間溶解しセルロースエステル溶液(CE1〜CE8)を調製した。
【0138】
〔複合セルロースエステルフィルムFA1〜FA8及びFB1〜FB8の作製〕
上記ドープDA1〜DA8及びDB1〜DB8を用いて溶液流延製膜方法によりそれぞれ複合セルロースエステルフィルムFA1〜FA8及びFB1〜FB8を作製した。それぞれのドープを別々に加圧ダイスに導入して、乾燥後の膜厚が30〜50μmとなるように、ステンレススティールベルト上に流延した。ステンレススティールベルトの裏側から38℃の温水で加熱し、ウェブ側からは40℃の温風を横から当て、更に50〜70℃の温風をウェブ上から垂直に吹かせて乾燥させ、残留溶媒量40〜60質量%となった時点で、ステンレススティールベルトから剥離し、すぐにウェブの両端をクリップで把持し、80から100℃の熱で乾燥させ、クリップを脱着して、ロール乾燥機で110〜130℃で乾燥させ、フィルムの残留溶媒量が0.8質量%以下になった時点で冷却してそれぞれを巻き取った。
【0139】
比較例1
〔ドープDC1及びDCの2調製〕
〈セルロースエステル溶液CE9とびCE10及びドープDC1とDC2の調製〉
セルロースエステル(表2に示した置換基と置換度) 100質量部
有機溶媒(表2に示した種類と比率) 450質量部
を耐圧溶解釜に投入し、上記と同様に攪拌し、310kPaに加圧、及び使用した主の有機溶媒の沸点付近に加熱して8時間溶解したセルロースエステル溶液CE9及びCE10をそれぞれドープDC1及びDC2とした。
【0140】
〔セルロースエステルフィルムFC1及びFC2の製膜〕
上記ドープDC1及びDC2を実施例1と同様に濾過し、実施例1と同様の溶液流延製膜によって製膜し、比較のセルロースエステルフィルムFC1及びFC2を作製した。
【0141】
〔評価〕
〈引張弾性率〉
フィルムを長さ20mm、幅10mmの大きさに切り出し、25℃、55%RHの雰囲気で24時間コンディショニングした後、ISO 527−3に準じて、東洋精機製作所(株)製の引張試験機を用いて、25℃、55%RHで引張試験を行った。1試料あたり10ピースずつ測定を行い、伸びが10%での加重を読引張弾性率を算出し、10ピースの平均値をもって引張弾性率(MPa)とし、下記のレベルにわけ評価した。なお、E0は比較例1のセルロースエステルフィルムFC1及びFC2の引張弾性率である。
【0142】
a:E/E0が1.20〜3.00
b:E/E0が1.10〜1.19
c:E/E0が1.05〜1.09
d:E/E0が1.02〜1.04
e:E/E0が1.00〜1.01
なお、比較例の引張り弾性率がE0であるため、E/E0が1.00であり、評価においては(e)とした。
【0143】
〈透過率の測定〉
日立製作所製U−3400分光光度計を用いて波長550nmの光透過率を測定した。
【0144】
実施例1と比較例1で製膜した複合セルロースエステルフィルムFA1〜FA8及びFB1〜FB8とセルロースエステルフィルムFC1及びFC2について測定・評価の結果を表2に示した。
【0145】
【表2】
【0146】
(結果)
比較例のセルロースエステルフィルムに対して本発明の複合セルロースエステルフィルムは透過率を下げることなく、少なくとも1.05倍以上引張弾性率を向上させることが出来ることがわかった。
【0147】
実施例2
〔光学フィルム用ドープDD1〜DD8及びDE1〜DE8の調製〕
〈光学フィルム用ドープDD1〜DD8の調製〉
実施例1で使用したドープDA1〜DA8の500質量部に、下記添加剤添加液TS1〜TS8を30℃で5時間調製後、Hi−Mixerインラインミキサーで添加剤添加液TS1〜TS8を混合し光学フィルム用ドープDD1〜DD8とした。
【0148】
《添加剤添加液TS1〜TS8の調製》
セルロースエステル(表1に記載のH1〜H8に使用したものと同様なそれぞれの置換基、置換度のもの) 3質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 1.8質量部
チヌビン326及びチヌビン171の1:1の混合物 0.45質量部
有機溶媒(表1に記載のH1〜H8に使用したものと同様なそれぞれの種類と比率) 50質量部
微粒子分散液(下記) 0.5質量部
《微粒子分散原液の調製》
4.2質量部のアエロジル200Vを耐圧密閉容器に投入し、30℃にて内部を徐々に減圧して2時間20kPaとし、そこに19質量部のエタノールを導入して1000rpmで攪拌混合し、密閉耐圧容器の底部から20MPaのマントンゴーリン型高圧力分散装置に導入し分散した。
【0149】
《微粒子分散液の調製》
微粒子分散液調製用の耐圧密閉容器に282質量部のメチレンクロライドまたは酢酸メチル(セルロースエステルの種類に合わせて)、1.7質量部のセルロースエステル(セルロースアセテートまたはセルロースアセテートプロピオネート)を溶解しておく。この耐圧密閉容器の空間を内部のメチレンクロライドまたは酢酸メチルの飽和蒸気圧になるような温度として、マントンゴーリン型高圧分散機から微細に分散された微粒子分散原液を導入し500rpmで攪拌し微粒子分散液を得た。
【0150】
《微粒子分散液の濾過及び貯蔵》
この微粒子分散液を既に脱気とメチレンクロライドまたは酢酸メチル:エタノール(質量比9:1)混合液で満たしておいたファインポアNF濾過器(絶対精度10μm)で濾過し、30℃で一旦貯蔵容器に貯蔵した。
【0151】
〈光学フィルム用ドープDE1〜DE8の調製〉
実施例1で使用したドープDB1〜DB8の800質量部に、Hi−Mixerインラインミキサーで上記添加剤添加液TS1〜TS8を混合し光学フィルム用ドープDD1〜DD8とした。
【0152】
〔光学フィルムFD1〜FD8及びFE1〜FE8の作製〕
表3に示した光学フィルム用ドープDD1〜DD8及びDE1〜DE8を別々に、実施例1と同様に溶液流延製膜方法により光学フィルムFD1〜FD8及びFE1〜FE2を作製した。
【0153】
比較例2
〔光学フィルム用ドープDF1及びDF2の調製〕
比較例1で使用したドープDC1とDC2の550質量部に、東レエンジニアリング(株)製のHi−Mixerインラインミキサーで上記添加剤添加液TS1とTS3を混合し光学フィルム用ドープDF1及びDF2とした。
【0154】
〔光学フィルムFF1及びFF2の作製〕
光学フィルム用ドープFF1とFF2それぞれをダイからステンレススティールベルトの上に流延し、実施例1と同様に光学フィルムFF1及びFF2を作製した。
【0155】
光学フィルムFD、FE及びFFについて、実施例1の評価と同様にして、引張弾性率と透過率の測定を行い評価し、結果を表3に示した。
【0156】
【表3】
【0157】
(結果)
添加剤を添加した光学フィルムの引張弾性率は実施例1と同様な引張弾性率の向上がみられ、しかもそれほど透過率が低下しなかった。
【0158】
【発明の効果】
本発明の無機酸化物相を有する複合セルロースエステルフィルムにより、セルロースエステルフィルムと同様に透明性に優れ、弾性率が向上したセルロースエステルフィルムを提供することが出来、この複合セルロースエステルフィルムを使用することにより透明性が良好で、引張弾性率が高い薄手化が可能な光学フィルムを提供出来る。
Claims (33)
- セルロースエステル、水、有機溶媒及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で無機酸化物相を形成することを特徴とする複合セルロースエステル溶液の調製方法。
- 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:有機溶媒の質量比を1:30〜1:7として行うことを特徴とする請求項1に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
- 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:有機金属化合物の質量比を1:10〜1:0.1として行うことを特徴とする請求項1または2に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
- 前記無機酸化物相の形成を、セルロースエステル:水の質量割合で0.001〜0.1として形成することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
- 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
- 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。 - 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法。
- 請求項1乃至8の何れか1項に記載の調製方法で調整された無機酸化物相を含有する複合セルロースエステル溶液を用いて製膜したフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
- セルロースエステル、水分及び加水分解性を有する有機金属化合物の存在下で生成した無機酸化物相を含有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムの引張弾性率E0との比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする複合セルロースエステルフィルム。
- 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルの他にセルロースエステル含有していることを特徴とする請求項9または10に記載の複合セルロースエステルフィルム。
- 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項10または11に記載の複合セルロースエステルフィルム。
- 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする請求項9乃至13の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。 - 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする請求項9乃至14の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
- 前記無機酸化物相の含有率が1〜90質量%であることを特徴とする請求項9乃至15の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルム。
- 請求項1乃至8の何れか1項に記載の複合セルロースエステル溶液の調製方法で調製した複合セルロースエステル溶液を、無限に移送する無端の金属支持体上に流延してウェブとなし、剥離可能な残留溶媒量に達した後、ウェブを該金属支持体から剥離し、続いて乾燥工程で乾燥することにより得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
- セルロースエステル、水分及び加水分解性の有機金属化合物を有機溶媒に溶解してセルロースエステル溶液とし、該セルロースエステル溶液中の有機金属化合物を加水分解して無機酸化物相を形成させた後、該無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液を、無限に移送する無端の金属支持体上に流延してウェブとなし、剥離可能な残留溶媒量に達した後、ウェブを該金属支持体から剥離し、続いて乾燥工程で乾燥することにより得ることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
- 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステル溶液と、無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液とを混合して混合溶液とし、該混合溶液を流延することを特徴とする請求項17または18に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記複合セルロースエステル溶液に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びマット剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする請求項17乃至19の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記無機酸化物相を有しないセルロースエステル溶液に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及びマット剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする請求項18または19に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記混合溶液に可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、マット剤及び配向助剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤または該添加剤を含有する添加剤液を添加することを特徴とする請求項19に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記ウェブを、残留溶媒量が20〜200質量%で剥離することを特徴とする請求項17乃至22の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記剥離後のウェブを少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする請求項17乃至23の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記剥離後のウェブの両端をクリップで把持し、幅保持または幅方向に延伸することを特徴とする請求項17乃至24の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記セルロースエステルの置換基が、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基から選ばれる少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項18乃至25の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記有機金属化合物が下記一般式で示されるものであることを特徴とする請求項18乃至27の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
一般式(I) R1 xMR2 yR3 z
式中、Mは金属、R1はアルキル基、R2はアルコキシ基、R3はβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。 - 前記有機金属化合物の金属元素が遷移金属元素、典型金属元素及び半金属元素から選ばれる少なくとも一種の金属元素であることを特徴とする請求項18乃至28の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 前記無機酸化物相の含有率が1〜90質量%であることを特徴とする請求項18乃至29の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
- 請求項17乃至30の何れか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
- 前記無機酸化物相を有する複合セルロースエステルを有するフィルムの引張弾性率Eと無機酸化物相を有しないセルロースエステルフィルムE0との引張弾性率の比E/E0が1.05〜3.0であることを特徴とする請求項31に記載の光学フィルム。
- 請求項9乃至16の何れか1項に記載の複合セルロースエステルフィルムを用いることを特徴とする光学フィルム。
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JP2006274015A (ja) * | 2005-03-29 | 2006-10-12 | Fuji Photo Film Co Ltd | セルロースアシレートフィルム及びその製造方法 |
WO2015111435A1 (ja) * | 2014-01-24 | 2015-07-30 | コニカミノルタ株式会社 | 位相差フィルム、偏光板及びva型液晶表示装置 |
-
2002
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Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02 Effective date: 20090324 |