JP2004167587A - 偏肉金属管の製造方法およびその加工用ダイス - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属管素材から外径中心と内径中心が偏芯した偏肉金属管をダイスを用いた冷間絞り加工によって製造する方法であって、前記金属管素材が周方向に均等肉厚で形成された金属管であり、これを前記絞り加工を施す絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯しているダイスに押し込んで偏肉を形成することを特徴とする偏肉金属管の製造方法、およびこれに用いられる絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯している加工用ダイスである。上記の製造方法において、上記金属管素材がダイスを用いた冷間絞り加工によって偏肉が形成された偏肉金属管として、冷間絞りを必要回数繰り返すことによって所定の外径および肉厚に成形することが可能である。
【選択図】図4
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、偏肉金属管の製造方法およびそれに用いる加工用ダイスに関し、さらに詳しくは、管の外径中心と内径中心を偏芯させ、周方向に肉厚を変化させた金属管(以下、「偏肉管」または「偏肉金属管」という)を冷間加工によって効率的に製造できる方法およびその偏肉金属管の製造に用いる加工用ダイスに関するものである。
【0002】
【従来技術】
自動車用の機械部品には、金属丸棒のような中実金属素材の外周面に部分的な切削加工を施して使用する事例が多くある。このような機械部品の軽量化ニーズに対応するには、素材を金属管に置き換えるのが一般的であるが、周方向に均等肉厚からなる金属管では、切削加工を施す部位で肉厚を確保のために、金属管素材の肉厚を薄くすることができず、素材の軽量化が制約される。
【0003】
これに対し、金属管素材として偏肉管を使用し、周方向の厚肉部を切削加工を施す部位として、肉厚を確保しつつ切削加工を行えば、機械部品の軽量化が効果的に達成できる。以下、このことを自動車ハンドルの回転運動を直線運動に変換するためのステアリングラックバー(以下、単に「ラックバー」という)を例にして説明する。
【0004】
図5は、丸鋼製のラックバーの構成例を示す図である。同(a)は部分斜視図であり、同(b)はラック歯底の構成を示すX−X視野による横断面図である。図5(a)に示す丸鋼製のラックバー100は、素材直径Dが25〜35mmで、素材長さが500〜700mmに切断され、丸鋼100aの端部近傍にラック部100bが歯切り加工された形状で使用される。そして、図5(b)に示すように、ラック歯底100dの位置では、歯幅wを確保するために、まず歯先部100cとなる平坦面を機械加工した後に歯切り加工が行われる。
【0005】
図6は、金属管を素材とした中空ラックバーの構成例を示す図である。自動車の燃費向上を図る部品軽量化のニーズに対応して、ラックバーについても金属管を素材とすることが推進されている。図6に示す中空ラックバー110のラック部には、上記図5と同様に、金属管素材の外面に歯先部110cとなる平坦面を機械加工した後に歯切り加工が施される。この場合に、歯底110dと管内壁111の間の肉厚hを確保するために、金属管素材の肉厚Tは少なくとも10mm程度とする厚肉管が必要となり、それにともなって内径dを小さくする必要がある。
【0006】
このため、図6に示す中空ラックバー110では、軽量化の効果が小さい。また、このような小径厚肉の金属管素材は、通常、熱間押出しなどで素管を製造した後、冷間抽伸を行って製造することが必要になるので、製造コストが嵩むという問題がある。
【0007】
図7は、金属管を素材とした他の中空ラックバーの構成例を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部のY−Y視野による横断面図および縦断面図を示している。図7に示す中空ラックバー120では、金属管素材120aのラック部の加工を施す部位に冷間プレス加工を行って平坦部を形成し、次いで歯切り加工を行ってラック部120bを形成するようにしている。
【0008】
この場合に金属管素材の肉厚Tは、歯先120cから管内壁121までの距離とほぼ同一であるから、上記図6に示す中空ラックバー110に比べ、平坦面の機械加工代を削減できるので、金属管素材の肉厚を減らすことができる。このため、図7に示す中空ラックバー120は、前記中空ラックバー110よりもラックバー製品を軽量にできると同時に、素材として使用する金属管の製造方法も簡易になる。
【0009】
しかしながら、この中空ラックバー120の加工には、ラック部の平坦面を形成するために冷間プレス工程が必要になるとともに、さらにラック部の加工部位から金属管内面を支持する工具の抜き取りに手間を要する他、この支持工具が小径となるため、破損し易いという問題もある。
【0010】
【特許文献1】
特開昭52−86960号公報
【特許文献2】
特開平5−154539号公報
【特許文献3】
特開平5−138209号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記図6に示す中空ラックバー110において、平面部の切削加工および歯切り後の歯底肉厚hを確保すると同時に、金属管素材の内径dを極力大きくするには、歯切り加工を施す部位の肉厚が大きくし、その他の部位の肉厚を小さくした偏肉管を使用すればよい。また、上記図7に示す中空ラックバー120のように、平坦部をプレス加工で形成して歯切りを行う場合でも、偏肉管を素材として使用すれば内径部を大きくできるので、金属管内面の支持工具の破損が生じにくくなる。
【0012】
図8は、中空ラックバーの金属管素材として使用できる偏肉管の構成を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部の加工を施す部位の正面図および縦断面図を示している。図8では、管の外径中心Caと内径中心Cbが偏芯した偏肉管を示している。偏肉管を素材とした中空ラックバー130での最厚肉部130aの肉厚をtaとし、最薄肉部130bの肉厚をtbとして、偏肉率αを下記(a)式で定義すれば、αが大きいほど偏肉が大きい。
【0013】
α=2(ta−tb)/(ta+tb) ・・・ (a)
図8に示す偏肉管の製造方法として、例えば、押出し法を採用した特許文献1および特許文献2で提案された方法や、マンドレルミルを適用した特許文献3で提案された方法がある。偏肉管の製造方法には、これらの製管方法に加え、さらに切削加工法がある。
【0014】
しかしながら、前者の製管法を用いた場合には、製造設備が大規模になると同時に、熱間製管の場合には内外面の酸化スケールの除去および外径寸法の精度を確保するために冷間抽伸が必要となり、製造コストが嵩むという問題がある。
【0015】
一方、後者の切削加工法は、丸棒を長尺のガンドリルで孔明けして偏肉管を製造する方法が採用されるが、ガンドリルの切り込み速度が制約されるため孔明け加工能率が劣り、機械部品用の素材として要求される大量生産には不向きな製造方法である。
【0016】
本発明は、このような機械部品の軽量化ニーズに対応して金属管素材として偏肉管を採用する場合の問題点に鑑みてなされたものであり、通常の工業プロセスで量産される金属管を素材に用い、効率的に冷間加工で偏肉管の製造を行い、前述の中空ラックバー等の機械部品の軽量化を実現することができる、偏肉金属管の製造方法およびその製造に用いる加工用ダイスを提供することを目的としている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するため、下記の3つの基本条件に留意しながら、偏肉管の製造方法を種々検討した。
(a) 加工の出発素材となる金属管は、通常の工業プロセスで量産される周方向に均等肉厚で形成される金属管(以下、単に「均肉管」という)を使用する必要がある。これは、工業的な量産性に優れる均肉管を金属管素材に流用することによって、偏肉管の製造コストの低減を図るためであり、金属管素材としては継目無し管、溶接管および鍛接管の管種を問わない。
(b) 機械部品として用いられる偏肉管の外面を美麗に仕上げるには、前記金属管素材に冷間加工を施して偏肉管を製造するのが有効である。
(c) しかも、上記(b)の冷間加工は、設備投資の省略または低減を図るために、新たな設備を設置することなく、汎用設備で実施する必要がある。
【0018】
上記(a)〜(c)の基本条件を満足させるため、均肉管の周方向に不均等な増肉加工を施すことによって、金属管素材として使用できる偏肉管を製造することとした。すなわち、上記図8に示す偏肉管130において、部位イでの増肉を最大とし、部位ロでの増肉を最小になるように、部位イおよび部位ロでの増肉加工を施せば、均肉管の外径中心と内径中心が偏芯した偏肉管を製造することができる。
【0019】
具体的な金属管素材の増肉加工方法としては、周方向圧縮加工と軸方向圧縮加工を組み合わせて、均肉管から偏肉管に加工する手段を採用する。周方向圧縮加工の代表例としてスウェージングがあり、軸方向圧縮加工の適用例としてアップセットが挙げられるが、これらはいずれも周方向の均等増肉加工であり、周方向に偏肉を形成することができない。そこで、周方向圧縮と軸方向圧縮を組み合わせ、その組み合わせを周方向部位で変化させることによって、均肉管を偏肉管に加工することとした。
【0020】
本発明は、上述の着想に基づいてなされたものであり、下記(1)の偏肉金属管の製造方法および(2)の偏肉金属管の加工用ダイスを要旨としている。
(1) 金属管素材から外径中心と内径中心が偏芯した偏肉金属管をダイスを用いた冷間絞り加工によって製造する方法であって、前記金属管素材が周方向に均等肉厚で形成された金属管であり、これを前記絞り加工を施す絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯しているダイスに押し込んで偏肉を形成することを特徴とする偏肉金属管の製造方法である。
【0021】
上記の製造方法において、上記金属管素材がダイスを用いた冷間絞り加工によって偏肉が形成された偏肉金属管を素材として、さらに冷間絞りを必要回数繰り返すことによって所定の外径および肉厚に成形することも可能である。
(2) 押し込まれた金属管素材に材料流れにともなって縮径加工を施す絞り部を有する冷間用ダイスであって、前記絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯していることを特徴とする偏肉金属管の加工用ダイスである。
【0022】
本発明の説明において、「均肉管」とは周方向が均等肉厚で形成される金属管であるが、不可避的に発生する周方向の偏肉を含むものであり、実質的な均等肉厚からなる金属管を意味する。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の偏肉金属管の製造方法は、絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯した加工用ダイス(以下、単に「偏芯ダイス」という)を用い、冷間加工によって金属管素材を押し込んで、前記絞り部で素材の絞り加工を行う(以下、単に「偏芯絞り」という)ことによって実現できる。以下に、偏芯絞りの詳細な内容を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明の製造方法で用いる偏芯ダイスの構成を説明する図であり、同(a)は縦断面図を、同(b)は正面図を示している。偏芯ダイス1のダイス孔は、円筒状の入り側ガイド部1a(内径Di)、絞り部1bおよび円筒状の出側ガイド部1c(内径De)で構成されている。そして、前記絞り部1bの内径は、入り側QSから出側PRまでの間で徐々に減少する。
【0025】
ダイス孔の中心軸は絞り部1bで曲折しており、入り側中心軸Ciと出側中心軸Ceは距離e(以下、「ダイス偏芯量」という)でオフセットしている。絞り部1bの入り側QSから出側PRまでの内郭形状は、後述する偏芯絞り加工での材料移動がスムースに行われるように製作することが必要である。このため、図1では、内郭形状を軸方向に二つの円弧を連続させた形状としているが、この内郭形状に限定されるものではなく、偏芯絞り加工に際し材料移動がスムースに行われる限りにおいては、その他の内郭形状を採用することができる。
【0026】
図1に示す内郭形状は、子午線QP上の二つの円弧のうち入り側円弧を半径rai、中心角θaで、出側円弧を半径rae、中心角θaで示し、同様に、子午線SR上の二つの円弧のうち入り側円弧を半径rbi、中心角θbで、出側円弧を半径rbe、中心角θbで示している。ここで、子午線QPおよび子午線SRは、絞り部1bの入り側Qから出側Pおよび入り側Sから出側Rまでを通る内郭形状を示すものである。
【0027】
図1に示す偏芯ダイスのダイス偏芯率βは、下記(b)式で定義することができる。
【0028】
β=2e/(Di−De) ・・・ (b)
上記(b)式において、入り側と出側の中心軸が同芯(ダイス偏芯量eが0)の場合はβ=0であり、ダイス偏芯量eを最大限大きくした場合にはβ=1となり、βは0〜1の範囲で変化させることができる。
【0029】
なお、本発明の偏芯ダイスでは入り側ガイド部1aおよび出側ガイド部1cは必須のものではなく、別個に製作した入り側ガイド部1aおよび出側ガイド部1cを、絞り部1bのみので構成された偏芯ダイスに連結してもよい。
【0030】
次に、均肉管を素材として偏芯絞りを行う場合に、管の周方向に偏肉を形成するメカニズムを説明する。
【0031】
図2は、偏芯絞りにおける偏肉形成のメカニズムを説明する図であり、同(a)〜(c)は各工程における絞り加工状況を示している。図2に示す偏芯ダイス10はダイス偏芯率β=1の場合であって、絞り部10bの子午線SRは直線状であり、子午線QPは軸方向に二つの円弧を連続させた内郭形状である。
【0032】
図2(a)は、入り側ガイド部10aに均肉管11(外径Do、肉厚to)をセットした状態を示す図である。入り側ガイド部10aの内径Diは、均肉管11の外径Doより僅かに大きく、右方から図示しない駆動装置に装着された押し金12によって、均肉管11を偏芯ダイス10に押し込む。
【0033】
図2(b)は、均肉管11の先頭管端部が出側ガイド部10cまで到達した加工途中状態を示す図である。絞り部10bが均肉管11に作用する力は、子午線QP上では、管の外径絞りにともなう周方向圧縮力と、絞り抵抗および子午線QPの曲がり部での曲げ抵抗、さらにダイス内壁との摩擦抵抗にうち勝って材料を押し込むため、矢印ハで示す軸方向圧縮力が作用する。したがって、材料が入り側Qから出側Pに移動する過程で増肉し易い状況にある。
【0034】
なお、先端部13の近傍の増肉は小さいので、後述するように、この部分は最終的に切り捨てられる。一方、直線状の子午線SR上では、子午線QP側からの周方向圧縮力が伝わるが、均肉管11はダイス内壁との摩擦にうち勝って直進するだけであるので軸方向圧縮力は小さく、増肉は小さい。その結果として、管の周方向においてP点通過部が最厚肉部(肉厚ta)、R点通過部が最薄肉部(肉厚tb)の偏肉が形成される。
【0035】
図2(c)は、さらに押し込みを続け、均肉管11の後端が絞り部1bの入り側QSに到達した状態を示す図である。図2(c)の工程では、絞り部1bの出側PRから押し出された管の外径がDeであり、最厚肉部肉厚taおよび最薄肉部肉厚tbからなる偏肉管14が形成される。
【0036】
この後、押し金12を後退させ、左方から図示しない駆動装置に装着されたストリッパ15で材料を偏芯ダイス1から抜き取る。次いで、管の先端部13および絞り部1bの出側PRで切断することにより偏肉管14が得られる。
【0037】
なお、均肉管11が溶接管で製造され、溶接部の硬度が他の部位よりも硬い場合には、増肉しにくい溶接部を子午線SR上に位置させて偏芯絞りを行うようにするのが望ましい。
【0038】
次に、均肉管を素材とした偏芯絞りにおける偏肉形成への影響因子について説明する。ただし、以下において、絞り比γは、均肉管の外径Do、偏芯絞り後の外径径Deとして、下記(c)式で定義するものである。
【0039】
γ=Do/De ・・・ (c)
図3は、偏芯絞りにおける偏肉形成に与えるダイス偏芯率βおよび絞り比γの影響の説明する図である。図3(a)は、絞り比γ一定の条件でのダイス偏芯率βと偏肉管のta/toおよびtb/to(以下、「増肉比」という)との関係を示す図である。ダイス偏芯率β=0では、均肉管素材の硬度が周方向に均等であれば、最厚肉部の増肉比ta/toと、最薄肉部の増肉比tb/toとは等しくなる。
【0040】
ダイス偏芯率βが増加するにつれて、最厚肉部の増肉比ta/toが増加するのに対し、最薄肉部の増肉比tb/toが減少し、周方向の肉厚差が拡大する。その結果、偏肉率αが増加することになるが、これは、ダイス偏芯率βの増加とともに前記図1において子午線QP上での軸圧縮力が増加する一方、子午線SR上での軸圧縮力が減少することによる。
【0041】
図3(b)は、ダイス偏芯率β一定の条件での絞り比γと偏肉管の増肉比との関係を示す図である。絞り比γの増加にともなって、最厚肉部の増肉比ta/toは急激に増加するが、最薄肉部の増肉比tb/toの増加は小さく、周方向の肉厚差が拡大する。これは、前記図1において絞り比γの増加にともなう子午線QP上での軸圧縮力の増加が子午線SR上よりも大きいことによる。
【0042】
上述の通り、ダイス偏芯率βと絞り比γの組み合わせによって、偏肉管の増肉比ta/to、tb/toを調整することができる。しかし、絞り比γが過大になる場合や、均肉管素材の肉厚外径比(to/Do)が小さい場合には、前記図2(b)で二点鎖線ニで示すように、挫屈が発生するおそれがある。
【0043】
このような挫屈は、偏芯ダイスへの押し込み力が過大であることによるものであり、偏芯ダイスの絞り部1b、10bの長さが大き過ぎたり、小さ過ぎる場合にも発生する。したがって、与えられたダイス偏芯率βおよび絞り比γの条件で、材料がスムースに絞り部1b、10bを通過できるように絞り部の内郭形状を設定することが必要である。
【0044】
一回の偏芯絞りでは絞り比γの制約によって、目標とする偏肉率αが得られない場合がある。この場合には、複数回の偏芯絞りを繰り返すことにより、トータルの絞り比γを大きくして、偏肉管の偏肉率αを確保するようにすればよい。
【0045】
図4は、偏肉管を素材とした偏芯絞り加工状況を説明する図である。図4(a)は、1回目の偏芯絞りで得られた偏肉管14を偏芯ダイス20にセットした状態を示す図である。図4に示す偏芯ダイス20は、ダイス偏芯率β=1の場合を示す。偏肉管を素材とした偏芯絞りを行って偏肉率を増加させる場合には、偏肉管14の最厚肉部(肉厚ta)と最薄肉部(肉厚tb)を、絞り部20bの子午線QPと子午線SRの延長上にそれぞれ一致させておくことが必要である。その後、素材である偏肉管14を偏芯ダイス20に押し込む。
【0046】
図4(b)は、管端部が出側ガイド部20cに到達した途中工程での加工状態を示す図である。前記図2の場合と同様に、子午線QP上では、管の外径絞りにともなう周方向圧縮力と、絞り抵抗および子午線QPの曲がり部での曲げ抵抗、さらにダイス内壁との摩擦抵抗にうち勝って材料を押し込むために、矢印ホで示すように、軸方向圧縮力が作用する。特に、曲げ抵抗は肉厚のおよそ二乗に比例して大きくなるので、偏肉管14の最厚肉部は絞り部20bを通過することによってさらに増肉される。
【0047】
一方、直線状の子午線SR上では軸方向圧縮力が小さいので、素材である偏肉管14の最薄肉部が絞り部20bを通過することによる増肉は小さい。その結果、絞り部20bを通過した後の最厚肉部肉厚ta′と最薄肉部肉厚tb′の差は、偏芯絞り前の偏肉管素材の肉厚差(ta−tb)よりも大きくなり、複数回の偏芯絞りを繰り返すことにより、偏肉率αを増加させることができる。
【0048】
なお、偏芯絞りを繰り返す場合に、前回の偏芯絞りでの加工硬化によって絞り加工力が過大となって、例えば、挫屈などの問題が生ずることがある。この場合には、前回の偏芯絞り後に軟化熱処理を適宜実施するのが望ましい。
【0049】
以上のように、複数回の偏芯絞りを繰り返すことによって、偏肉管の偏肉率αを確保できるとともに、目標とするとする外径、肉厚寸法の偏肉管を製造することができる。次に、本発明の製造方法の効果を、実施例を基づいて説明する。
【0050】
【実施例】
(実施例1)
1回の偏芯絞りにおける効果を確認した。均肉管素材(供試材)として、規格が機械構造用炭素鋼鋼管STKM14B(JIS3445)で、肉厚to=3mm、外径Do=42.7mmの電気抵抗溶接管を用いた。この供試材に焼準熱処理(900℃×10分)を施してから長さ550mmに切断し、化成潤滑皮膜処理を行った後、偏芯率βが異なる4種類のダイス(A、B、C、D)で偏芯絞りを行った。ダイス偏芯率βおよび前記図1に基づく寸法を表1に示す。なお、Di、De、rai、rae、rbiおよびrbeはmmで表している。
【0051】
【表1】
【0052】
前記図2に示す(a)〜(c)の工程に従って、供試材に偏芯絞りを施した。図2(c)に示す状態で偏芯絞りを完了して、加工後の供試材を偏芯ダイスから抜き取り、管の先端部13および絞り部10bの出側PRで切断することにより、外径30mm、長さ約600mmの偏肉管14を得た。
【0053】
上記表1に示すダイスを用いて、1回の偏芯絞りで得られた偏肉管14の最厚肉部肉厚ta、最薄肉部肉厚tb、および偏肉率αを測定した。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の結果から、1回の偏芯絞りではダイス偏芯率βを大きくすることによって、偏肉管の偏肉率αを増加できることがわかる。
(実施例2)
実施例1と同様に、1回の偏芯絞りにおける効果を確認した。均肉管素材(供試材)として、規格が機械構造用炭素鋼鋼管STKM14B(JIS3445)である、表3に示す同一肉厚で外径が異なる3種類(I材、II材、III材)の電気抵抗溶接管を用いた。これらを表3に示す長さに切断し、化成潤滑皮膜処理を行った後、前記図2(a)に示すダイス偏芯率β=1のダイスを用いて、素材の溶接ビードをダイスの子午線SRに位置せしめて偏芯絞りを行った。
【0056】
【表3】
【0057】
偏芯絞りに際しては、各供試材毎に加工用ダイスを変更して、絞り比γを1.33〜1.42で変化させた。各供試材に用いたダイス寸法を表4に示すが、いずれも偏芯率β=1とした。なお、Di、De、raiおよびraeはmmで表している。
【0058】
【表4】
【0059】
前記図2に示す偏芯絞りを行い、図2(c)に示す状態で偏芯絞りを完了した。加工後の供試材を偏芯ダイスから抜き取り、管の先端部13および絞り部10bの出側PRで切断、除去することにより、外径30mm、長さ約600mmの偏肉管14を得た。
【0060】
1回の偏芯絞りで得られた偏肉管14の最厚肉部肉厚ta、最薄肉部肉厚tbおよび偏肉率αを測定した結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
表5の結果から、1回の偏芯絞りでは、絞り比γを大きくすることによって、偏肉率αを増加できることがわかる。
(実施例3)
実施例3では、偏芯絞りを2回繰り返すことによる効果を確認した。均肉管素材(供試材)として、規格が機械構造用炭素鋼鋼管STKM14B(JIS3445)で、肉厚to=4.2mm、外径Do=60.5mmである継ぎ目無し鋼管を使用した。供試材を長さ550mmに切断し、化成潤滑皮膜処理の後、前記図2に示すダイス偏芯率β=1の偏芯ダイスを用いて、1回目の偏芯絞りを実施した。使用したダイス寸法は、次の通りである。
【0063】
ガイド部:Di=61mm、De=42.7mm、
絞り部:rai=rae=68.3mm、θa=30°
前記図2に示す偏芯絞りを行い、図2(c)に示す状態で偏芯絞りを完了し、供試材を偏芯ダイスから抜き取り、管の先端部13および絞り部10bの出側PRを切断、除去し、外径42.7mm、長さ約550mmの偏肉管14を得た。得られた偏肉管は、最厚肉部肉厚taは7mm、最薄肉部肉厚tbは5mm、および偏肉率α=0.33であった。
【0064】
この偏肉管に軟化熱処理(700℃×15分)を施して、化成潤滑被膜処理を行った後、実施例1の前記表1に示す、ダイス偏芯率βが異なる4種類の偏芯ダイス(A、B、C、D)を使用して2回目の偏芯絞りを実施した。偏芯ダイスから抜き取った管の先端部13および絞り部10bの出側PRを切断除去し、外径30mm、長さ約600mmの偏肉管14を得た。
【0065】
1回目の偏芯絞りの金属管素材から、2回目の偏芯絞りで得られた偏肉管のトータルの絞り比γは2.02となった。このときに2回の偏芯絞りで得られた偏肉管14の最厚肉部肉厚ta、最薄肉部肉厚tbおよび偏肉率αを測定した。その結果を表6に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
表6の結果から、偏芯絞りを繰り返すことによって偏肉率αが増加させることができ、ダイス偏芯率βと組み合わせることによって、最厚肉部、および最薄肉部の肉厚を調整できることがわかる。
【0068】
【発明の効果】
本発明の製造方法および加工用ダイスによれば、通常の工業プロセスで量産される継ぎ目無し管、溶接管、鍛接管などの均肉管を素材とし、これに汎用のプレス装置による冷間工程での偏芯絞りを施すことにより、周方向に所定の偏肉を形成させた偏肉管を得ることができる。
【0069】
これにより、本発明の偏肉管は、従来の熱間製管法または棒材の機械加工によって製造された偏肉管に比べ、必要とされる製造装置が簡単で、かつ安価であるばかりでなく、冷間加工であるために表面が美麗で寸法精度も優れている。
【0070】
したがって、自動車のラックバーなどの機械部品の素材として使用すれば、製品の軽量化に大いなる効果を奏すると同時に、機械部品の製造コストの低減に大きく寄与することになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いる偏芯ダイスの構成を説明する図であり、同(a)は縦断面図を、同(b)は正面図を示している。
【図2】偏芯絞りにおける偏肉形成のメカニズムを説明する図であり、同(a)〜(c)は加工状況を順を追って示している。
【図3】偏芯絞りにおける偏肉形成に与えるダイス偏芯率βおよび絞り比γの影響の説明する図である。
【図4】偏肉管を素材とした偏芯絞り加工状況を説明する図であり、同(a)および(b)は加工状況を順を追って示している。
【図5】丸鋼製のラックバーの構成例を示す図である。同(a)は部分斜視図であり、同(b)はラック歯底の構成を示すX−X視野による横断面図である。
【図6】均等肉厚の金属管を素材とした中空ラックバーの構成例を示す図である。
【図7】均等肉厚の金属管を素材とした他の中空ラックバーの構成例を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部のY−Y視野による横断面図および縦断面図を示している。
【図8】中空ラックバーの金属管素材として使用できる偏肉管の構成を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部の加工を施す部位の正面図および縦断面図を示す。
【符号の説明】
1、10、20:偏芯ダイス
1a、10a、20a:入り側ガイド部
1b、10b、20b:絞り部
1c、10c、20c:出側ガイド部
11:金属管素材、 12:押し金
13:先端部、 14:偏肉管
15:ストリッパ、 100、110、120:ラックバー
130:偏肉管
Claims (3)
- 金属管素材から外径中心と内径中心が偏芯した偏肉金属管をダイスを用いた冷間絞り加工によって製造する方法であって、前記金属管素材が周方向に均等肉厚で形成された金属管であり、これを前記絞り加工を施す絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯しているダイスに押し込んで偏肉を形成することを特徴とする偏肉金属管の製造方法。
- 上記金属管素材がダイスを用いた冷間絞り加工によって偏肉が形成された偏肉金属管であることを特徴とする請求項1に記載の偏肉金属管の製造方法。
- 押し込まれた金属管素材に材料流れにともなって縮径加工を施す絞り部を有する冷間用ダイスであって、前記絞り部の入り側中心軸と出側中心軸とが偏芯していることを特徴とする偏肉金属管の加工用ダイス。
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