JP2004166569A - 新規微生物細胞 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物細胞、該微生物細胞から調製されるオルガネラゲノムDNAを有するプラスミド、該プラスミドをオルガネラゲノムDNAに導入することにより得られる形質転換体等を提供する。
【解決手段】オルガネラゲノムDNAの全長を重複配列を有する複数の断片として調製し、これらを微生物ゲノムベクターへ相同組み換えを誘導することにより挿入した後、所望により変異を導入し、これを環状プラスミドとして切り離し、植物体等に導入する。
【解決手段】オルガネラゲノムDNAの全長を重複配列を有する複数の断片として調製し、これらを微生物ゲノムベクターへ相同組み換えを誘導することにより挿入した後、所望により変異を導入し、これを環状プラスミドとして切り離し、植物体等に導入する。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物細胞、該微生物細胞から調製されるオルガネラゲノムDNAを有するプラスミド、該プラスミドをオルガネラゲノムDNAに導入することにより得られる形質転換体等に関する。
【0002】
【従来の技術】
オルガネラゲノムDNAとは、核外自己増殖器官として存在する葉緑体やミトコンドリアなどのオルガネラ(細胞小器官)中に存在するゲノムDNAであり、細胞質遺伝を支配し、核遺伝子に対して自律性をもち、形質発現を行う性質を有する。植物等が有するゲノムDNAに変異を導入したり、外来の遺伝子を導入したトランスジェニック植物等を作製する場合、オルガネラDNAに導入する方法は、核DNAへ変異等を導入する方法と比べて、花粉飛散による導入遺伝子または改変遺伝子の他植物等への伝搬のリスクが低いため、非常に有利な手段となる。また、オルガネラは主要な生合成経路の中心部分を構成し、非常に多くのタンパク質を合成する器官であることから、オルガネラゲノムDNAに導入した外来遺伝子は、これをオルガネラ内で発現させることにより大量の目的タンパク質を合成することができる。
【0003】
そこで、さまざまなオルガネラゲノムDNAの形質転換方法が開発されてきている。例えば、タングステンなどの微粒子にDNAをコートした後に該微粒子を粒子銃(パーティクルガン)により細胞または組織に打ち込む方法(例えば、クラミドモナス葉緑体については非特許文献1、高等植物については非特許文献2および非特許文献3をそれぞれ参照)、Agrobacterium介在形質転換方法、プロトプラスト形質転換方法、DNAを含む培地中において植物組織、細胞またはプロトプラストを超音波処理する方法、DNAを全能性植物材料へmicroinsertion(必要であれば、公知の炭化ケイ素技術を用いる)する方法、あるいはエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0004】
しかし、これらの方法においては、導入する遺伝子は相同組み換えなどを利用してオルガネラゲノムDNAに導入されるため、導入効率が低いことや、大きなサイズのDNAは導入が困難であるなどの問題点があった。
【0005】
【非特許文献1】
Boynton, J. E., et al., Science, 240, 1534−1538(1988)
【非特許文献2】
Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87,8526−8530
【非特許文献3】
Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 90,913−917
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、オルガネラゲノムDNAへの変異の導入および外来遺伝子の導入などを効率良く行うこと、また大きなサイズからなる外来遺伝子をオルガネラゲノムDNAへ導入すること、さらに該変異や新規遺伝子をオルガネラゲノムDNAに導入することにより該オルガネラやオルガネラを有する細胞および個体に新規の形質を付与することなどを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、タバコ葉緑体DNAを枯草菌ゲノムベクターへ挿入した後に、挿入されたタバコ葉緑体DNAを環状プラスミドとして回収し、さらに該環状プラスミドにより葉緑体を形質転換することができること、さらに、枯草菌ゲノムベクターはDNAに変異や挿入を付加すること、特に大きなサイズのDNAを挿入することに適していることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、
(1)オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物細胞、
(2)オルガネラゲノムDNAが、変異が導入されたDNAであることとを特徴とする上記(1)に記載の微生物細胞、
(3)変異の導入が、1若しくは数個のDNAの置換、欠失または付加であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の微生物細胞、
(4)変異の導入が、外来遺伝子DNAの挿入であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の微生物細胞、
(5)微生物が、Bacillus属細菌又は高度好熱菌であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の微生物細胞、
(6)上記(1)〜(5)に記載の微生物細胞から調製されるオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドDNA、
(7)上記(6)に記載のプラスミドDNAを、オルガネラに導入することにより得られる形質転換体、該形質転換体を再分化させた個体およびその子孫、
(8)目的蛋白質の製造方法であって、(i)微生物細胞のゲノムにオルガネラゲノムDNAの全長を挿入し、(ii)該オルガネラゲノムDNAに、外来の目的蛋白質をコードするDNAを、導入するオルガネラ内で有効な発現制御領域の制御下となるように挿入し、(iii)得られたオルガネラゲノムDNAをプラスミドとして回収した後に、(iv)該プラスミドをオルガネラに導入し、(v)該オルガネラDNAを保持する形質転換体中で目的蛋白質を発現させることを特徴とする方法、
が、提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
(1)オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムを有する微生物細胞の取得
本発明においては、まずオルガネラゲノムDNAを微生物ゲノムへ挿入する。本発明のオルガネラゲノムDNAを有するオルガネラとしては、ミトコンドリア、および葉緑体などの色素体等が挙げられる。これらオルガネラは何れの個体あるいは細胞のものでもよいが、微生物ゲノム中で組み換えを行った後に該DNAをオリジナルのオルガネラへ導入する工程を行う目的がある場合には、オルガネラへのDNAの導入方法が知られているものが好ましい。また、オルガネラゲノムDNAの塩基配列が解析されているものや、オルガネラゲノムDNAクローンが既にあるものも微生物ゲノムへ挿入する操作において好ましい。具体的には、例えば、タバコ、イネ、シロイヌナズナなどの植物細胞、ヒト、マウス、ショウジョウバエ、線虫等の動物細胞、およびこれらの培養細胞のオルガネラ等が挙げられる。
【0010】
オルガネラゲノムDNAの取得方法は、特に制限はなく、オルガネラに適した公知の方法を適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、タバコの葉緑体ゲノムを取得する方法としてはShinozaki, K., et al., EMBO J., 5, 2043−2049(1986)に記載の方法等が用いられる。また、市販のオルガネラゲノムDNAの部分断片がクローニングされたプラスミドなどを用いることもできる。ミトコンドリアゲノムDNAは、市販のマウスGenomic DNA(Clontech社製)等を用いることもできるし、ISOHAIRキット(NIPPON GENE社製)を用いて毛髪あるいは爪等の細胞から抽出して用いることもできる。
【0011】
微生物ゲノムへ挿入するオルガネラゲノムDNAの全長とは、必ずしも全長を含む必要はなく、オリジナルのオルガネラ中でゲノムDNAとして機能し得るものであれば如何なるものであってもよい。また、本発明で用いる微生物細胞の種類は特に限定されず、細菌、真菌、酵母などの任意の微生物細胞を使用できる。これらの中で、好ましくは細菌の細胞、特に好ましくはBacillus属細菌又は高度好熱菌の細胞である。
【0012】
Bacillus属細菌の種類は特に限定されず、例えば、B.subtilis(枯草菌)、B.megaterium(巨大菌)、B.anthracis(脾脱疽菌)、B.cereus、B.stearothermophilus(中度好熱菌)などが挙げられる。好ましくは、DNA取り込み能力と組換え能力に優れたB.subtilis(枯草菌)である。高度好熱菌とは高温下でのみ生育できる細菌の総称である。
【0013】
オルガネラゲノムDNAの微生物細胞への導入方法としては、それぞれの細胞に適した公知の方法を適宜選択して用いることができる。微生物細胞として、枯草菌を用いる場合には、(a)オルガネラゲノムDNAの全長(本明細書中では、これを「オルガネラゲノムDNA」と称することがある)を、互いに重複する塩基配列を有する複数のDNA断片として調製し、該DNA断片を枯草菌ゲノムベクターへ相同組み換えを利用して導入する方法(Itaya, M., Mol. Gen. Gent., 248, 9−16(1995))、および(b)オルガネラゲノムDNAを枯草菌ゲノムベクター中に「尺取り虫法」と称される手法で連続したDNAを組み込む方法(Itaya, M., et al.,J. Biochem., 128, 869−875(2000))等が挙げられる。
【0014】
このうち(a)の方法においては、まず、オルガネラゲノムDNAを互いに重複する塩基配列を有する複数のDNA断片(以下、これを「部分断片」と称することがある)として調製する。部分断片の長さは約10kb程度が好ましいが、相同組み換えが誘導されない等の不都合があった場合には、これを重複配列を有するように分割した断片を調製して部分断片として用いる。各DNA断片の重複配列は、1kb程度が好ましいが、適宜調整して用いられる。DNA断片の調製方法としては、ポリメラーゼチェインリアクションを用いた方法が好ましく用いられるが、この限りではない。取得されたDNA断片は、共通の大腸菌等の菌体内で増幅されるベクターにクローニングする。ここで、共通のベクターに既にクローニングされたDNA断片を用いることもできる。取得された部分断片の微生物ゲノムへの挿入は、微生物DNA断片がクローニングされているベクター配列中でこの部分断片をはさむ2つの塩基配列(以下、これを「共通配列」と称することがある)を微生物ゲノムへ導入した後に、この微生物を部分断片を有するプラスミドで形質転換し、この共通配列において相同組み換えを生じさせることにより部分断片を微生物ゲノムへ導入する方法が用いられる。さらに、オルガネラゲノム中で隣接する塩基配列を有する部分断片(以下、これを「第2の部分断片」と称することがある)を微生物ゲノムに挿入された部分断片と連結させる場合には、該微生物を第2の部分断片を含むプラスミドで形質転換し、部分断片の重複配列と共通配列において相同組み換えを生じさせることにより連結させる方法が用いられる。この連結方法を繰り返すことによりオルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物DNA細胞を取得することができる。
【0015】
(2)微生物ゲノムへ挿入されたオルガネラDNAへの変異の導入
微生物ゲノムへ挿入されたオルガネラゲノムDNAには、種々の変異を導入することができる。変異の種類としては、1または数個のDNAを置換、欠失または付加するものや、外来遺伝子DNAを挿入するもの等が挙げられる。このような変異の導入によりオルガネラ、オルガネラを有する細胞および個体に新規の形質を付与することができるため、植物および動物の育種に極めて有効な手段となる。
【0016】
1または数個のDNAに変異を誘導する方法は、それ自体既知の通常用いられる方法から適宜選択して用いることができる。具体的には、Gene−Directed Mutagenesis法(Itaya, M., et al., Mol. Gen. Genet., 223, 268−272(1990))などが挙げられる。また、外来遺伝子DNAを挿入する場合、導入するオルガネラ内で有効な発現制御領域の制御下となるように外来遺伝子DNAを挿入する必要がある。具体的には、導入するオルガネラ内で有効なプロモーターの下流に外来遺伝子DNAを連結し、さらにその下流に導入するオルガネラ内で有効なターミネーターを連結したDNA等を挿入する。
【0017】
導入するオルガネラ内で有効なプロモーターとしては、例えば導入するオルガネラが葉緑体の場合、16S rRNAプロモーター、rbcLプロモーター、あるいはpsbAプロモーター等が好ましく用いられる。また、導入されたオルガネラ等に外来遺伝子により付与される形質を、誘導調節が可能なものにしようとする場合には、誘導性のプロモーターを用いることも好ましい。
【0018】
外来遺伝子としては、特に制限はなく、これを導入したオルガネラを有する個体等に付与する所望の形質により選択して用いることができる。具体的には、例えば、除草剤などの薬剤耐性遺伝子、病虫害抵抗性遺伝子、選抜マーカー遺伝子、活性強化型葉緑体酵素遺伝子、低温でも高活性を有するラジカルスカベンジャー(カタラーゼ等)遺伝子等が挙げられるが、この限りではない。
【0019】
(3)オルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドの取得およびオルガネラの形質転換
かくして微生物ゲノムに挿入されたオルガネラゲノムDNA、または変異を有するオルガネラゲノムDNAは、特開2000−93号公報に記載の方法、またはオルガネラゲノムDNAの5’または3’末端にレアカッター認識配列を予め導入しておき、これを切り出して回収する方法等を適用することにより、微生物ゲノムから切り離され、環状プラスミドとして微生物細胞内で自律複製ができるようになる。この環状プラスミドDNAを微生物細胞内から公知の方法により回収することによりオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドを取得することができる。
【0020】
次に取得されたオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドにより上記オルガネラを形質転換する。形質転換するオルガネラとしては、導入するオルガネラゲノムDNAを取得したオルガネラと同種のものが好ましいが、オルガネラゲノムDNAにより形質転換され得る限り特に制限はない。
形質転換の方法は、それ自体公知であり、形質転換するオルガネラに適した方法を選択して用いることができる。具体的には、例えば、タングステンなどの微粒子にDNAをコートした後に該微粒子を粒子銃(パーティクルガン)により細胞または組織に打ち込む方法(クラミドモナス葉緑体:Boynton, J. E., et al., Science, 240, 1534−1538(1988);高等植物:Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87,8526−8530、Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA., 90,913−917)、Agrobacterium介在形質転換方法、プロトプラスト形質転換方法(この場合、必要であればポリエチレングリコールの存在下で行う)、DNAを含む培地中において植物組織、細胞、またはプロトプラストを超音波処理する方法、DNAを全能性植物材料へmicroinsertionする方法、(この場合、必要であれば、公知の炭化ケイ素技術を用いる)、あるいはエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0021】
このうち、パーティクルガンにより形質転換する方法においては、上記(2)で調製したオルガネラゲノムDNAを含む環状プラスミドを適当な方法で精製し、これをタングステン等の微粒子の表面にセシウム、スペルミジン等の存在下で付着させる。この微粒子をプラスチック製の弾等の先端に充填し、パーティクルガンに装填する。オルガネラは、これを含む細胞または組織として調製し、これに上記パーティクルガンにより微粒子を撃ち込む。この後、該細胞または組織を培養して、オルガネラゲノムDNAが導入されたオルガネラを有するものを選択すれば、形質転換体を取得することができる。
【0022】
ここで、オルガネラ中には多コピーのオルガネラゲノムDNAが存在するため、形質転換体の選択は慎重に行うことが好ましい。具体的には、導入するオルガネラゲノムDNAに、導入されたオルガネラ内で発現可能なようにマーカー遺伝子を挿入し、形質転換操作後、このマーカー遺伝子の発現により形質転換体を選択する方法等が好ましい。複数のマーカー遺伝子を挿入しておくとさらに正確な選択が可能となる。
【0023】
(4)形質転換体の利用
上記(3)で取得された形質転換体は、その内部に所望により様々な目的の変異が導入されたオルガネラゲノムDNAを有するオルガネラを保持するものである。従って、これを個体に再分化させることによればミュータントあるいはトランスジェニック生物を作製することができる。本方法は特に植物体に有効であり、所望の性質を有する植物の育種に用いることができる。
【0024】
また、オルガネラは生合成が活発であるので、例えば挿入した目的蛋白質をコードする遺伝子を形質転換体が保持するオルガネラ内で発現させ、該遺伝子がコードする蛋白質を大量に合成することにも用いられる。目的蛋白質のオルガネラ内での発現は、形質転換体を培養するか、該形質転換体を再分化させた個体を育成する等して行うことができる。合成される目的蛋白質としては、例えば、微生物由来の抗原用ワクチン蛋白質、動物と植物に共通な細胞質蛋白質の機能阻害蛋白質あるいはペプチド抗体等が好ましく挙げられるが、この限りではない。
【0025】
かくして合成された目的蛋白質は、培養物か個体から採取し、所望によりさらに精製し、食品か医薬品等の有用物質として用いることができる。上記した形質転換体の培養、個体への再分化、個体の育成、目的蛋白質の採取や精製等は、それ自体既知の通常用いられる方法を用いて行うことができる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、下記実施例において、 枯草菌RM125株(Uozumi,T.,et al.Mol.Gen. Genet.,152,65−69(1997))は、当研究室で受け継がれているものを使用した。枯草菌BEST7003株は、上記RM125株のゲノムにおいて、proB遺伝子中に存在するNotI部位に、pBR322(Itaya, M., et al., J. Biochem., 128, 869−875(2000))ベクターDNA断片とテトラサイクリン耐性遺伝子DNA断片を挿入した構造のゲノムを有している。これはproB::pBRTc(Itaya,M.,Mol.Gen.Genet.,241, 287−297(1993))に由来する。タバコ葉緑体ゲノムDNAは、Shinozaki, K., et al., EMBO J., 5, 2043−2049(1986)に記載のとおおりに取得したものを用いた。
【0027】
枯草菌ゲノムベクターにDNA断片を挿入するために使用するベクタープラスミドpCISP401(クロラムフェニコール耐性)、pCISP402(エリスロマイシン耐性)は以下のように構築した。プラスミドpCISP310B、およびpCISP311B(Itaya,M.et al.J.Biochem.,128,869−875(2000))を制限酵素EcoRIとBamHIで完全消化することにより、cI857遺伝子とスペクチノマイシン耐性遺伝子を削除し、EcoRI−NotI−Sse8387I−BamHIリンカー(配列番号1、2:アデコンセプト社に依頼して作製した)を挿入した。pCISP310Bから上記のようにして得られたプラスミドをpCISP401、またpCISP311Bから得られたものをpCISP402とした(図1)。
【0028】
枯草菌ゲノムベクター中のpBR322ベクターの塩基配列に挟まれた領域を回収するベクター、pGETS112は、pBRDHrepAT1F(特願2002−273747明細書)をSmaIで消化し脱リン酸化後、pBEST703(Itaya,M.et al. J.Bacteriol ,174, 5466−5470(1992))をPstIで消化し末端を平滑化して得られたエリスロマイシン耐性遺伝子のカセットを連結して、プラスミドpGETS112を構築した。
【0029】
アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシンは、シグマ社から購入した。ブラストサイジンSはフナコシから購入した。制限酵素NotI、Sse8387Iは宝酒造から購入した。I−PpoIはpromegaから購入した。I−CeuIはNEBから購入した。それ以外の制限酵素は東洋紡から購入した。
PCRによるDNA増幅には宝酒造社のTaKaRa Ex Taq HSを用いた。PCRの条件は、95℃−3分の後、95℃−30秒、60℃−45秒、72℃−2.5〜5分(2kbにつき1分)を30サイクル行った。
【0030】
PCR産物のクローニングにはInvitrogen社のTOPO XL PCR Cloning Kitを用いた。特記以外のプラスミドの構築には、大腸菌JA221株(ATCC37436株としてAmerican Type Culture Collectionより入手可能)を用いた。
構築したプラスミドの抽出、検定、調製等の操作法は、標準プロトコールに従った(Sambrook J,他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold SpringHarbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989))。大腸菌、枯草菌の形質転換は、既報に従って行った(Itaya,M.Mol.Gen.Genet.,241,287−297(1993))。
【0031】
実施例1 pCR−XL−TOPO ベクターを用いたタバコ葉緑体ゲノム DNA 整列クローンの作成
タバコ葉緑体ゲノムDNAを分割して、ぞれぞれが約2kbずつ重複するようなDNA断片を以下のようにして作製した。タバコ葉緑体ゲノムDNAを鋳型とし、プライマー003767F(配列番号1)と010239R(配列番号2)を用いてPCRを行い、得られた断片をTOPO XL PCR Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いてpCR−XL−TOPO ベクターにクローニングし、プラスミドpCR003−010 を作製した。同様に、表1に記載の25組のプライマー(配列番号3〜50)を用いてPCRを行い、それぞれ増幅された断片をpCR−XL−TOPO ベクターにクローニングした(表1;以下これらを総称して「整列クローン」と称することがある)。ここで、全てのforward primerにはSse8387I 認識配列を、またreverse primerにはNotI 認識配列を付加して設計した。表1に記載したプライマー名の数字は、タバコ葉緑体ゲノム配列の塩基番号(accession No. Z00044 Nicotiana tabacum chloroplast genome DNA)を示している。この手法で合計18クローンを得たが、残りの8断片のクローンは得られなかった。
【0032】
実施例2 p CISP401 、p CISP402 ベクターを用いたタバコ葉緑体ゲノム DNA 整列クローンの作成
実施例1で得られたプラスミドから挿入された葉緑体DNA断片を切り出し、枯草菌ゲノムベクターに組み込むためのベクタープラスミドpCISP401、pCISP402(図1)に移した。お互いに相同配列を有する隣り合ったクローンを薬剤耐性の異なるプラスミドへの移行は以下の手法で行った。
【0033】
エリスロマイシン耐性遺伝子を有するpCISP402を、制限酵素NotIとSse8387Iで消化した断片と、実施例1で得たプラスミドpCR003−010(葉緑体ゲノム塩基配列番号:3767番〜10239番)をNotIとSse8387Iで消化した断片を結合し、pE[003−010]を構築した。pE[003−010]はエリスロマイシン耐性プラスミドである。
pCR007−017(葉緑体ゲノム塩基配列番号:7418番〜17999番)中の10kbの断片はpCR003−010と約3kbの相同配列があるため、これはクロラムフェニコール耐性のpCISP401に組み込む必要がある。pCISP401を制限酵素NotIとSse8387Iで消化した断片と、実施例1で得たプラスミドpCR007−017をNotIとSse8387Iで消化した断片を結合し、pC[007−017]を構築した。
【0034】
実施例1で得たプラスミドすべてを、表1に示すようにクロラムフェニコール耐性、エリスロマイシン耐性が交互に重なり合うように、上記と同様にしてpCISP401、およびpCISP402に移した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
実施例3 pCR−XL−TOPO ベクタークローンが得られなかった DNA 断片のクローニング
実施例1でpCR−XL−TOPO ベクターにクローニングできなかった8つのPCR断片は、枯草菌ゲノムベクターに挿入可能なベクタープラスミドpCISP310B、pCISP311B、pCISP401、pCISP402に直接クローニングを試み、それぞれ以下の要領で得た。
【0038】
プライマー027472 F(配列番号11)と036813 R(配列番号12)を用いたPCR断片は、内在性の2つのHindIII部位を利用して、pCISP310BのHindIII部位に挿入し、pC[027−036]を得た。
プライマー093163 F(配列番号31)と100012 R(配列番号32)を用いたPCR断片は、内在性の2つのBamHII部位を利用してpCISP401のBamHI部位に挿入し、pC[094−099]Bを得た。
【0039】
プライマー097791 F(配列番号33)と107218 R(配列番号34)を用いたPCR断片は、内在性の2つのHindIII部位を利用してpCISP311BのHindIII部位に挿入し、pE[097−107]Hを得た。
プライマー119725 F(配列番号39)と129134 R(配列番号40)を用いたPCR断片は、2つに分割した。一つはプライマー119725 F中に設計したBamHI部位と、PCR断片中に存在するBglII部位を利用して、pCISP401のBamHI部位に挿入し、pC[119−125]とした。他は、PCR断片中に存在する2カ所のEcoT22I 部位を利用してpCISP402のSse8387I部位に挿入し、pE[124−128]Eを得た。
【0040】
プライマー134417 F(配列番号43)と143798 R(配列番号44)を用いたPCR断片は、プライマー134417 F中に設計したPstI部位と、PCR断片中に存在するPstI部位を利用して、pCISP402のSse8387I 部位に挿入し、pE[134−143]Pを得た。
プライマー141044 F(配列番号45)と150125 R(配列番号46)を用いたPCR断片は、プライマー141044 F中に設計したEcoT22I 部位と、PCR断片中に存在するEcoT22I 部位を利用して、pCISP401のSse8387I 部位に挿入し、pC[141−150]Eを得た。
【0041】
プライマー147065 F(配列番号47)と000079 R(配列番号48)を用いたPCRで得た断片は、内在性の2つのPstI 部位を利用して、pCISP402のSse8387I 部位に挿入し、pE[147−154]Pを得た。
【0042】
実施例 4 整列クローンの枯草菌ゲノムベクターへの導入
実施例2で作成したプラスミドpE[003−010]を用いて枯草菌BEST7003株を形質転換し、エリスロマイシン耐性のBEST9005株を得た。この形質転換ではpE[003−010]内のpBR322配列と、BEST7003ゲノムに組み込んであるpBR322配列で相同組み換えをおこし、pE[003−010]中の葉緑体DNA(塩基番号3767から10239まで6472塩基対)がBEST7003のpBR322中に組み込まる。得られたBEST9005から抽出したDNAをEcoRIで消化し、pCR003−010をプローブに用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、葉緑体DNAがBEST9005ゲノムに組み込まれていることを確認した。さらにDNAプラグのI−PpoI 消化物をパルスフィールドゲル電気泳動し、約7.5kb(挿入された葉緑体DNAとエリスロマイシン耐性遺伝子を含む大きさ)の断片を確認した。
【0043】
BEST9005株中の葉緑体DNAを延長するためににプラスミドpC[007−017]を用いて形質転換し、クロラムフェニコール耐性のBEST9007株を得た。この形質転換ではプラスミドとゲノムの両方に存在するpBR322のアンピシリン耐性遺伝子を含む領域と、葉緑体DNA同士の相同配列(塩基番号7418〜10239)間で組み換えを起こし、pC[007−017]中の7418から17999までが新たにゲノム中に組み込まれる。BEST9007ではBEST9005株に比較すると葉緑体DNAが7760塩基対(塩基番号10239〜17999)延長したことを、BEST9007DNAを鋳型にしてプライマーに007418F(配列番号3)と010239R(配列番号2)、015611F(配列番号5)と017999R(配列番号4)を用いた2カ所のPCRで確認した。さらにpE[003−010]をプローブに用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、葉緑体DNAがBEST9007ゲノムに組み込まれていることを確認した。また、DNAプラグのI−PpoI消化物をパルスフィールドゲル電気泳動し、約15kb(挿入された葉緑体DNAとクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む大きさ)の断片を確認した。
【0044】
このように実施例2、実施例3で作製した整列クローンを交互に形質転換に使用し、エリスロマイシン耐性、クロラムフェニコール耐性の株を交互に選択した。合計25回行った後、最後に得られたBEST9043株はタバコ葉緑体ゲノム全てがそのゲノム中に組み込まれていた。このことは、葉緑体DNAのPCR産物をプローブにしたサザンハイブリダイゼーションと、DNAプラグをI−PpoI 、I−CeuIで消化したものをパルスフィールドゲル電気泳動することによって確認した。
【0045】
実施例5 pGETS ベクターを用いたタバコ葉緑体 DNA の回収
pGETSベクター(pGETS112) を用いて、以下のようにタバコ葉緑体DNAを回収した。
タバコ葉緑体ゲノム155kbのDNAをゲノム中にクローンしたBEST9043に、pGETS112のHindIII完全消化断片を用いて形質転換し、エリスロマイシンで選択した。BEST9043のpBR322中にクローンされたタバコ葉緑体DNA領域をコピーしてプラスミドとして保持する菌だけがエリスロマイシン耐性菌となり、得られた菌をBEST9049と命名した。この株が有するプラスミド をpBEST9049と命名し、塩化セシウム密度勾配超遠心法により調製した。pBEST9049がタバコ葉緑体DNAを保持することは、タバコ葉緑体ゲノムDNA整列クローンをプローブにしたサザンハイブリダイゼーションにより確認した。さらにDNAプラグのI−PpoI 消化物をパルスフィールドゲル電気泳動することにより、約150kbの断片を確認し、タバコ葉緑体ゲノムの全長を有する環状プラスミドを取得した。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、オルガネラゲノムDNAに所望の変異を付加する操作を非常に効率良く行うことができる。また、巨大サイズのDNAをオルガネラゲノムDNAに挿入しようとする場合にも効率よく簡単な操作により行うことができる。この技術は、植物の育種、蛋白質の大量合成方法等に応用可能である。
【0047】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】枯草菌ゲノムベクターにDNA断片を挿入するために使用するベクタープラスミドpCISP401(クロラムフェニコール耐性)、pCISP402(エリスロマイシン耐性)の構造を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物細胞、該微生物細胞から調製されるオルガネラゲノムDNAを有するプラスミド、該プラスミドをオルガネラゲノムDNAに導入することにより得られる形質転換体等に関する。
【0002】
【従来の技術】
オルガネラゲノムDNAとは、核外自己増殖器官として存在する葉緑体やミトコンドリアなどのオルガネラ(細胞小器官)中に存在するゲノムDNAであり、細胞質遺伝を支配し、核遺伝子に対して自律性をもち、形質発現を行う性質を有する。植物等が有するゲノムDNAに変異を導入したり、外来の遺伝子を導入したトランスジェニック植物等を作製する場合、オルガネラDNAに導入する方法は、核DNAへ変異等を導入する方法と比べて、花粉飛散による導入遺伝子または改変遺伝子の他植物等への伝搬のリスクが低いため、非常に有利な手段となる。また、オルガネラは主要な生合成経路の中心部分を構成し、非常に多くのタンパク質を合成する器官であることから、オルガネラゲノムDNAに導入した外来遺伝子は、これをオルガネラ内で発現させることにより大量の目的タンパク質を合成することができる。
【0003】
そこで、さまざまなオルガネラゲノムDNAの形質転換方法が開発されてきている。例えば、タングステンなどの微粒子にDNAをコートした後に該微粒子を粒子銃(パーティクルガン)により細胞または組織に打ち込む方法(例えば、クラミドモナス葉緑体については非特許文献1、高等植物については非特許文献2および非特許文献3をそれぞれ参照)、Agrobacterium介在形質転換方法、プロトプラスト形質転換方法、DNAを含む培地中において植物組織、細胞またはプロトプラストを超音波処理する方法、DNAを全能性植物材料へmicroinsertion(必要であれば、公知の炭化ケイ素技術を用いる)する方法、あるいはエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0004】
しかし、これらの方法においては、導入する遺伝子は相同組み換えなどを利用してオルガネラゲノムDNAに導入されるため、導入効率が低いことや、大きなサイズのDNAは導入が困難であるなどの問題点があった。
【0005】
【非特許文献1】
Boynton, J. E., et al., Science, 240, 1534−1538(1988)
【非特許文献2】
Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87,8526−8530
【非特許文献3】
Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 90,913−917
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、オルガネラゲノムDNAへの変異の導入および外来遺伝子の導入などを効率良く行うこと、また大きなサイズからなる外来遺伝子をオルガネラゲノムDNAへ導入すること、さらに該変異や新規遺伝子をオルガネラゲノムDNAに導入することにより該オルガネラやオルガネラを有する細胞および個体に新規の形質を付与することなどを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、タバコ葉緑体DNAを枯草菌ゲノムベクターへ挿入した後に、挿入されたタバコ葉緑体DNAを環状プラスミドとして回収し、さらに該環状プラスミドにより葉緑体を形質転換することができること、さらに、枯草菌ゲノムベクターはDNAに変異や挿入を付加すること、特に大きなサイズのDNAを挿入することに適していることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、
(1)オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物細胞、
(2)オルガネラゲノムDNAが、変異が導入されたDNAであることとを特徴とする上記(1)に記載の微生物細胞、
(3)変異の導入が、1若しくは数個のDNAの置換、欠失または付加であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の微生物細胞、
(4)変異の導入が、外来遺伝子DNAの挿入であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の微生物細胞、
(5)微生物が、Bacillus属細菌又は高度好熱菌であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の微生物細胞、
(6)上記(1)〜(5)に記載の微生物細胞から調製されるオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドDNA、
(7)上記(6)に記載のプラスミドDNAを、オルガネラに導入することにより得られる形質転換体、該形質転換体を再分化させた個体およびその子孫、
(8)目的蛋白質の製造方法であって、(i)微生物細胞のゲノムにオルガネラゲノムDNAの全長を挿入し、(ii)該オルガネラゲノムDNAに、外来の目的蛋白質をコードするDNAを、導入するオルガネラ内で有効な発現制御領域の制御下となるように挿入し、(iii)得られたオルガネラゲノムDNAをプラスミドとして回収した後に、(iv)該プラスミドをオルガネラに導入し、(v)該オルガネラDNAを保持する形質転換体中で目的蛋白質を発現させることを特徴とする方法、
が、提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】
(1)オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムを有する微生物細胞の取得
本発明においては、まずオルガネラゲノムDNAを微生物ゲノムへ挿入する。本発明のオルガネラゲノムDNAを有するオルガネラとしては、ミトコンドリア、および葉緑体などの色素体等が挙げられる。これらオルガネラは何れの個体あるいは細胞のものでもよいが、微生物ゲノム中で組み換えを行った後に該DNAをオリジナルのオルガネラへ導入する工程を行う目的がある場合には、オルガネラへのDNAの導入方法が知られているものが好ましい。また、オルガネラゲノムDNAの塩基配列が解析されているものや、オルガネラゲノムDNAクローンが既にあるものも微生物ゲノムへ挿入する操作において好ましい。具体的には、例えば、タバコ、イネ、シロイヌナズナなどの植物細胞、ヒト、マウス、ショウジョウバエ、線虫等の動物細胞、およびこれらの培養細胞のオルガネラ等が挙げられる。
【0010】
オルガネラゲノムDNAの取得方法は、特に制限はなく、オルガネラに適した公知の方法を適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、タバコの葉緑体ゲノムを取得する方法としてはShinozaki, K., et al., EMBO J., 5, 2043−2049(1986)に記載の方法等が用いられる。また、市販のオルガネラゲノムDNAの部分断片がクローニングされたプラスミドなどを用いることもできる。ミトコンドリアゲノムDNAは、市販のマウスGenomic DNA(Clontech社製)等を用いることもできるし、ISOHAIRキット(NIPPON GENE社製)を用いて毛髪あるいは爪等の細胞から抽出して用いることもできる。
【0011】
微生物ゲノムへ挿入するオルガネラゲノムDNAの全長とは、必ずしも全長を含む必要はなく、オリジナルのオルガネラ中でゲノムDNAとして機能し得るものであれば如何なるものであってもよい。また、本発明で用いる微生物細胞の種類は特に限定されず、細菌、真菌、酵母などの任意の微生物細胞を使用できる。これらの中で、好ましくは細菌の細胞、特に好ましくはBacillus属細菌又は高度好熱菌の細胞である。
【0012】
Bacillus属細菌の種類は特に限定されず、例えば、B.subtilis(枯草菌)、B.megaterium(巨大菌)、B.anthracis(脾脱疽菌)、B.cereus、B.stearothermophilus(中度好熱菌)などが挙げられる。好ましくは、DNA取り込み能力と組換え能力に優れたB.subtilis(枯草菌)である。高度好熱菌とは高温下でのみ生育できる細菌の総称である。
【0013】
オルガネラゲノムDNAの微生物細胞への導入方法としては、それぞれの細胞に適した公知の方法を適宜選択して用いることができる。微生物細胞として、枯草菌を用いる場合には、(a)オルガネラゲノムDNAの全長(本明細書中では、これを「オルガネラゲノムDNA」と称することがある)を、互いに重複する塩基配列を有する複数のDNA断片として調製し、該DNA断片を枯草菌ゲノムベクターへ相同組み換えを利用して導入する方法(Itaya, M., Mol. Gen. Gent., 248, 9−16(1995))、および(b)オルガネラゲノムDNAを枯草菌ゲノムベクター中に「尺取り虫法」と称される手法で連続したDNAを組み込む方法(Itaya, M., et al.,J. Biochem., 128, 869−875(2000))等が挙げられる。
【0014】
このうち(a)の方法においては、まず、オルガネラゲノムDNAを互いに重複する塩基配列を有する複数のDNA断片(以下、これを「部分断片」と称することがある)として調製する。部分断片の長さは約10kb程度が好ましいが、相同組み換えが誘導されない等の不都合があった場合には、これを重複配列を有するように分割した断片を調製して部分断片として用いる。各DNA断片の重複配列は、1kb程度が好ましいが、適宜調整して用いられる。DNA断片の調製方法としては、ポリメラーゼチェインリアクションを用いた方法が好ましく用いられるが、この限りではない。取得されたDNA断片は、共通の大腸菌等の菌体内で増幅されるベクターにクローニングする。ここで、共通のベクターに既にクローニングされたDNA断片を用いることもできる。取得された部分断片の微生物ゲノムへの挿入は、微生物DNA断片がクローニングされているベクター配列中でこの部分断片をはさむ2つの塩基配列(以下、これを「共通配列」と称することがある)を微生物ゲノムへ導入した後に、この微生物を部分断片を有するプラスミドで形質転換し、この共通配列において相同組み換えを生じさせることにより部分断片を微生物ゲノムへ導入する方法が用いられる。さらに、オルガネラゲノム中で隣接する塩基配列を有する部分断片(以下、これを「第2の部分断片」と称することがある)を微生物ゲノムに挿入された部分断片と連結させる場合には、該微生物を第2の部分断片を含むプラスミドで形質転換し、部分断片の重複配列と共通配列において相同組み換えを生じさせることにより連結させる方法が用いられる。この連結方法を繰り返すことによりオルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物DNA細胞を取得することができる。
【0015】
(2)微生物ゲノムへ挿入されたオルガネラDNAへの変異の導入
微生物ゲノムへ挿入されたオルガネラゲノムDNAには、種々の変異を導入することができる。変異の種類としては、1または数個のDNAを置換、欠失または付加するものや、外来遺伝子DNAを挿入するもの等が挙げられる。このような変異の導入によりオルガネラ、オルガネラを有する細胞および個体に新規の形質を付与することができるため、植物および動物の育種に極めて有効な手段となる。
【0016】
1または数個のDNAに変異を誘導する方法は、それ自体既知の通常用いられる方法から適宜選択して用いることができる。具体的には、Gene−Directed Mutagenesis法(Itaya, M., et al., Mol. Gen. Genet., 223, 268−272(1990))などが挙げられる。また、外来遺伝子DNAを挿入する場合、導入するオルガネラ内で有効な発現制御領域の制御下となるように外来遺伝子DNAを挿入する必要がある。具体的には、導入するオルガネラ内で有効なプロモーターの下流に外来遺伝子DNAを連結し、さらにその下流に導入するオルガネラ内で有効なターミネーターを連結したDNA等を挿入する。
【0017】
導入するオルガネラ内で有効なプロモーターとしては、例えば導入するオルガネラが葉緑体の場合、16S rRNAプロモーター、rbcLプロモーター、あるいはpsbAプロモーター等が好ましく用いられる。また、導入されたオルガネラ等に外来遺伝子により付与される形質を、誘導調節が可能なものにしようとする場合には、誘導性のプロモーターを用いることも好ましい。
【0018】
外来遺伝子としては、特に制限はなく、これを導入したオルガネラを有する個体等に付与する所望の形質により選択して用いることができる。具体的には、例えば、除草剤などの薬剤耐性遺伝子、病虫害抵抗性遺伝子、選抜マーカー遺伝子、活性強化型葉緑体酵素遺伝子、低温でも高活性を有するラジカルスカベンジャー(カタラーゼ等)遺伝子等が挙げられるが、この限りではない。
【0019】
(3)オルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドの取得およびオルガネラの形質転換
かくして微生物ゲノムに挿入されたオルガネラゲノムDNA、または変異を有するオルガネラゲノムDNAは、特開2000−93号公報に記載の方法、またはオルガネラゲノムDNAの5’または3’末端にレアカッター認識配列を予め導入しておき、これを切り出して回収する方法等を適用することにより、微生物ゲノムから切り離され、環状プラスミドとして微生物細胞内で自律複製ができるようになる。この環状プラスミドDNAを微生物細胞内から公知の方法により回収することによりオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドを取得することができる。
【0020】
次に取得されたオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドにより上記オルガネラを形質転換する。形質転換するオルガネラとしては、導入するオルガネラゲノムDNAを取得したオルガネラと同種のものが好ましいが、オルガネラゲノムDNAにより形質転換され得る限り特に制限はない。
形質転換の方法は、それ自体公知であり、形質転換するオルガネラに適した方法を選択して用いることができる。具体的には、例えば、タングステンなどの微粒子にDNAをコートした後に該微粒子を粒子銃(パーティクルガン)により細胞または組織に打ち込む方法(クラミドモナス葉緑体:Boynton, J. E., et al., Science, 240, 1534−1538(1988);高等植物:Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 87,8526−8530、Svab, Z. , et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA., 90,913−917)、Agrobacterium介在形質転換方法、プロトプラスト形質転換方法(この場合、必要であればポリエチレングリコールの存在下で行う)、DNAを含む培地中において植物組織、細胞、またはプロトプラストを超音波処理する方法、DNAを全能性植物材料へmicroinsertionする方法、(この場合、必要であれば、公知の炭化ケイ素技術を用いる)、あるいはエレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0021】
このうち、パーティクルガンにより形質転換する方法においては、上記(2)で調製したオルガネラゲノムDNAを含む環状プラスミドを適当な方法で精製し、これをタングステン等の微粒子の表面にセシウム、スペルミジン等の存在下で付着させる。この微粒子をプラスチック製の弾等の先端に充填し、パーティクルガンに装填する。オルガネラは、これを含む細胞または組織として調製し、これに上記パーティクルガンにより微粒子を撃ち込む。この後、該細胞または組織を培養して、オルガネラゲノムDNAが導入されたオルガネラを有するものを選択すれば、形質転換体を取得することができる。
【0022】
ここで、オルガネラ中には多コピーのオルガネラゲノムDNAが存在するため、形質転換体の選択は慎重に行うことが好ましい。具体的には、導入するオルガネラゲノムDNAに、導入されたオルガネラ内で発現可能なようにマーカー遺伝子を挿入し、形質転換操作後、このマーカー遺伝子の発現により形質転換体を選択する方法等が好ましい。複数のマーカー遺伝子を挿入しておくとさらに正確な選択が可能となる。
【0023】
(4)形質転換体の利用
上記(3)で取得された形質転換体は、その内部に所望により様々な目的の変異が導入されたオルガネラゲノムDNAを有するオルガネラを保持するものである。従って、これを個体に再分化させることによればミュータントあるいはトランスジェニック生物を作製することができる。本方法は特に植物体に有効であり、所望の性質を有する植物の育種に用いることができる。
【0024】
また、オルガネラは生合成が活発であるので、例えば挿入した目的蛋白質をコードする遺伝子を形質転換体が保持するオルガネラ内で発現させ、該遺伝子がコードする蛋白質を大量に合成することにも用いられる。目的蛋白質のオルガネラ内での発現は、形質転換体を培養するか、該形質転換体を再分化させた個体を育成する等して行うことができる。合成される目的蛋白質としては、例えば、微生物由来の抗原用ワクチン蛋白質、動物と植物に共通な細胞質蛋白質の機能阻害蛋白質あるいはペプチド抗体等が好ましく挙げられるが、この限りではない。
【0025】
かくして合成された目的蛋白質は、培養物か個体から採取し、所望によりさらに精製し、食品か医薬品等の有用物質として用いることができる。上記した形質転換体の培養、個体への再分化、個体の育成、目的蛋白質の採取や精製等は、それ自体既知の通常用いられる方法を用いて行うことができる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、下記実施例において、 枯草菌RM125株(Uozumi,T.,et al.Mol.Gen. Genet.,152,65−69(1997))は、当研究室で受け継がれているものを使用した。枯草菌BEST7003株は、上記RM125株のゲノムにおいて、proB遺伝子中に存在するNotI部位に、pBR322(Itaya, M., et al., J. Biochem., 128, 869−875(2000))ベクターDNA断片とテトラサイクリン耐性遺伝子DNA断片を挿入した構造のゲノムを有している。これはproB::pBRTc(Itaya,M.,Mol.Gen.Genet.,241, 287−297(1993))に由来する。タバコ葉緑体ゲノムDNAは、Shinozaki, K., et al., EMBO J., 5, 2043−2049(1986)に記載のとおおりに取得したものを用いた。
【0027】
枯草菌ゲノムベクターにDNA断片を挿入するために使用するベクタープラスミドpCISP401(クロラムフェニコール耐性)、pCISP402(エリスロマイシン耐性)は以下のように構築した。プラスミドpCISP310B、およびpCISP311B(Itaya,M.et al.J.Biochem.,128,869−875(2000))を制限酵素EcoRIとBamHIで完全消化することにより、cI857遺伝子とスペクチノマイシン耐性遺伝子を削除し、EcoRI−NotI−Sse8387I−BamHIリンカー(配列番号1、2:アデコンセプト社に依頼して作製した)を挿入した。pCISP310Bから上記のようにして得られたプラスミドをpCISP401、またpCISP311Bから得られたものをpCISP402とした(図1)。
【0028】
枯草菌ゲノムベクター中のpBR322ベクターの塩基配列に挟まれた領域を回収するベクター、pGETS112は、pBRDHrepAT1F(特願2002−273747明細書)をSmaIで消化し脱リン酸化後、pBEST703(Itaya,M.et al. J.Bacteriol ,174, 5466−5470(1992))をPstIで消化し末端を平滑化して得られたエリスロマイシン耐性遺伝子のカセットを連結して、プラスミドpGETS112を構築した。
【0029】
アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシンは、シグマ社から購入した。ブラストサイジンSはフナコシから購入した。制限酵素NotI、Sse8387Iは宝酒造から購入した。I−PpoIはpromegaから購入した。I−CeuIはNEBから購入した。それ以外の制限酵素は東洋紡から購入した。
PCRによるDNA増幅には宝酒造社のTaKaRa Ex Taq HSを用いた。PCRの条件は、95℃−3分の後、95℃−30秒、60℃−45秒、72℃−2.5〜5分(2kbにつき1分)を30サイクル行った。
【0030】
PCR産物のクローニングにはInvitrogen社のTOPO XL PCR Cloning Kitを用いた。特記以外のプラスミドの構築には、大腸菌JA221株(ATCC37436株としてAmerican Type Culture Collectionより入手可能)を用いた。
構築したプラスミドの抽出、検定、調製等の操作法は、標準プロトコールに従った(Sambrook J,他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual.Cold SpringHarbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989))。大腸菌、枯草菌の形質転換は、既報に従って行った(Itaya,M.Mol.Gen.Genet.,241,287−297(1993))。
【0031】
実施例1 pCR−XL−TOPO ベクターを用いたタバコ葉緑体ゲノム DNA 整列クローンの作成
タバコ葉緑体ゲノムDNAを分割して、ぞれぞれが約2kbずつ重複するようなDNA断片を以下のようにして作製した。タバコ葉緑体ゲノムDNAを鋳型とし、プライマー003767F(配列番号1)と010239R(配列番号2)を用いてPCRを行い、得られた断片をTOPO XL PCR Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いてpCR−XL−TOPO ベクターにクローニングし、プラスミドpCR003−010 を作製した。同様に、表1に記載の25組のプライマー(配列番号3〜50)を用いてPCRを行い、それぞれ増幅された断片をpCR−XL−TOPO ベクターにクローニングした(表1;以下これらを総称して「整列クローン」と称することがある)。ここで、全てのforward primerにはSse8387I 認識配列を、またreverse primerにはNotI 認識配列を付加して設計した。表1に記載したプライマー名の数字は、タバコ葉緑体ゲノム配列の塩基番号(accession No. Z00044 Nicotiana tabacum chloroplast genome DNA)を示している。この手法で合計18クローンを得たが、残りの8断片のクローンは得られなかった。
【0032】
実施例2 p CISP401 、p CISP402 ベクターを用いたタバコ葉緑体ゲノム DNA 整列クローンの作成
実施例1で得られたプラスミドから挿入された葉緑体DNA断片を切り出し、枯草菌ゲノムベクターに組み込むためのベクタープラスミドpCISP401、pCISP402(図1)に移した。お互いに相同配列を有する隣り合ったクローンを薬剤耐性の異なるプラスミドへの移行は以下の手法で行った。
【0033】
エリスロマイシン耐性遺伝子を有するpCISP402を、制限酵素NotIとSse8387Iで消化した断片と、実施例1で得たプラスミドpCR003−010(葉緑体ゲノム塩基配列番号:3767番〜10239番)をNotIとSse8387Iで消化した断片を結合し、pE[003−010]を構築した。pE[003−010]はエリスロマイシン耐性プラスミドである。
pCR007−017(葉緑体ゲノム塩基配列番号:7418番〜17999番)中の10kbの断片はpCR003−010と約3kbの相同配列があるため、これはクロラムフェニコール耐性のpCISP401に組み込む必要がある。pCISP401を制限酵素NotIとSse8387Iで消化した断片と、実施例1で得たプラスミドpCR007−017をNotIとSse8387Iで消化した断片を結合し、pC[007−017]を構築した。
【0034】
実施例1で得たプラスミドすべてを、表1に示すようにクロラムフェニコール耐性、エリスロマイシン耐性が交互に重なり合うように、上記と同様にしてpCISP401、およびpCISP402に移した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
実施例3 pCR−XL−TOPO ベクタークローンが得られなかった DNA 断片のクローニング
実施例1でpCR−XL−TOPO ベクターにクローニングできなかった8つのPCR断片は、枯草菌ゲノムベクターに挿入可能なベクタープラスミドpCISP310B、pCISP311B、pCISP401、pCISP402に直接クローニングを試み、それぞれ以下の要領で得た。
【0038】
プライマー027472 F(配列番号11)と036813 R(配列番号12)を用いたPCR断片は、内在性の2つのHindIII部位を利用して、pCISP310BのHindIII部位に挿入し、pC[027−036]を得た。
プライマー093163 F(配列番号31)と100012 R(配列番号32)を用いたPCR断片は、内在性の2つのBamHII部位を利用してpCISP401のBamHI部位に挿入し、pC[094−099]Bを得た。
【0039】
プライマー097791 F(配列番号33)と107218 R(配列番号34)を用いたPCR断片は、内在性の2つのHindIII部位を利用してpCISP311BのHindIII部位に挿入し、pE[097−107]Hを得た。
プライマー119725 F(配列番号39)と129134 R(配列番号40)を用いたPCR断片は、2つに分割した。一つはプライマー119725 F中に設計したBamHI部位と、PCR断片中に存在するBglII部位を利用して、pCISP401のBamHI部位に挿入し、pC[119−125]とした。他は、PCR断片中に存在する2カ所のEcoT22I 部位を利用してpCISP402のSse8387I部位に挿入し、pE[124−128]Eを得た。
【0040】
プライマー134417 F(配列番号43)と143798 R(配列番号44)を用いたPCR断片は、プライマー134417 F中に設計したPstI部位と、PCR断片中に存在するPstI部位を利用して、pCISP402のSse8387I 部位に挿入し、pE[134−143]Pを得た。
プライマー141044 F(配列番号45)と150125 R(配列番号46)を用いたPCR断片は、プライマー141044 F中に設計したEcoT22I 部位と、PCR断片中に存在するEcoT22I 部位を利用して、pCISP401のSse8387I 部位に挿入し、pC[141−150]Eを得た。
【0041】
プライマー147065 F(配列番号47)と000079 R(配列番号48)を用いたPCRで得た断片は、内在性の2つのPstI 部位を利用して、pCISP402のSse8387I 部位に挿入し、pE[147−154]Pを得た。
【0042】
実施例 4 整列クローンの枯草菌ゲノムベクターへの導入
実施例2で作成したプラスミドpE[003−010]を用いて枯草菌BEST7003株を形質転換し、エリスロマイシン耐性のBEST9005株を得た。この形質転換ではpE[003−010]内のpBR322配列と、BEST7003ゲノムに組み込んであるpBR322配列で相同組み換えをおこし、pE[003−010]中の葉緑体DNA(塩基番号3767から10239まで6472塩基対)がBEST7003のpBR322中に組み込まる。得られたBEST9005から抽出したDNAをEcoRIで消化し、pCR003−010をプローブに用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、葉緑体DNAがBEST9005ゲノムに組み込まれていることを確認した。さらにDNAプラグのI−PpoI 消化物をパルスフィールドゲル電気泳動し、約7.5kb(挿入された葉緑体DNAとエリスロマイシン耐性遺伝子を含む大きさ)の断片を確認した。
【0043】
BEST9005株中の葉緑体DNAを延長するためににプラスミドpC[007−017]を用いて形質転換し、クロラムフェニコール耐性のBEST9007株を得た。この形質転換ではプラスミドとゲノムの両方に存在するpBR322のアンピシリン耐性遺伝子を含む領域と、葉緑体DNA同士の相同配列(塩基番号7418〜10239)間で組み換えを起こし、pC[007−017]中の7418から17999までが新たにゲノム中に組み込まれる。BEST9007ではBEST9005株に比較すると葉緑体DNAが7760塩基対(塩基番号10239〜17999)延長したことを、BEST9007DNAを鋳型にしてプライマーに007418F(配列番号3)と010239R(配列番号2)、015611F(配列番号5)と017999R(配列番号4)を用いた2カ所のPCRで確認した。さらにpE[003−010]をプローブに用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、葉緑体DNAがBEST9007ゲノムに組み込まれていることを確認した。また、DNAプラグのI−PpoI消化物をパルスフィールドゲル電気泳動し、約15kb(挿入された葉緑体DNAとクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む大きさ)の断片を確認した。
【0044】
このように実施例2、実施例3で作製した整列クローンを交互に形質転換に使用し、エリスロマイシン耐性、クロラムフェニコール耐性の株を交互に選択した。合計25回行った後、最後に得られたBEST9043株はタバコ葉緑体ゲノム全てがそのゲノム中に組み込まれていた。このことは、葉緑体DNAのPCR産物をプローブにしたサザンハイブリダイゼーションと、DNAプラグをI−PpoI 、I−CeuIで消化したものをパルスフィールドゲル電気泳動することによって確認した。
【0045】
実施例5 pGETS ベクターを用いたタバコ葉緑体 DNA の回収
pGETSベクター(pGETS112) を用いて、以下のようにタバコ葉緑体DNAを回収した。
タバコ葉緑体ゲノム155kbのDNAをゲノム中にクローンしたBEST9043に、pGETS112のHindIII完全消化断片を用いて形質転換し、エリスロマイシンで選択した。BEST9043のpBR322中にクローンされたタバコ葉緑体DNA領域をコピーしてプラスミドとして保持する菌だけがエリスロマイシン耐性菌となり、得られた菌をBEST9049と命名した。この株が有するプラスミド をpBEST9049と命名し、塩化セシウム密度勾配超遠心法により調製した。pBEST9049がタバコ葉緑体DNAを保持することは、タバコ葉緑体ゲノムDNA整列クローンをプローブにしたサザンハイブリダイゼーションにより確認した。さらにDNAプラグのI−PpoI 消化物をパルスフィールドゲル電気泳動することにより、約150kbの断片を確認し、タバコ葉緑体ゲノムの全長を有する環状プラスミドを取得した。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、オルガネラゲノムDNAに所望の変異を付加する操作を非常に効率良く行うことができる。また、巨大サイズのDNAをオルガネラゲノムDNAに挿入しようとする場合にも効率よく簡単な操作により行うことができる。この技術は、植物の育種、蛋白質の大量合成方法等に応用可能である。
【0047】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】枯草菌ゲノムベクターにDNA断片を挿入するために使用するベクタープラスミドpCISP401(クロラムフェニコール耐性)、pCISP402(エリスロマイシン耐性)の構造を示す図である。
Claims (8)
- オルガネラゲノムDNAの全長が挿入されたゲノムDNAを有する微生物細胞。
- オルガネラゲノムDNAが、変異が導入されたDNAであることとを特徴とする請求項1に記載の微生物細胞。
- 変異の導入が、1若しくは数個のDNAの置換、欠失または付加であることを特徴とする請求項1または2に記載の微生物細胞。
- 変異の導入が、外来遺伝子DNAの挿入であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の微生物細胞。
- 微生物が、Bacillus属細菌又は高度好熱菌であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の微生物細胞。
- 請求項1〜5に記載の微生物細胞から調製されるオルガネラゲノムDNAを有する環状プラスミドDNA。
- 請求項6に記載のプラスミドDNAを、オルガネラに導入することにより得られる形質転換体、該形質転換体を再分化させた個体およびその子孫。
- 目的蛋白質の製造方法であって、(i)微生物細胞のゲノムにオルガネラゲノムDNAの全長を挿入し、(ii)該オルガネラゲノムDNAに、外来の目的蛋白質をコードするDNAを、導入するオルガネラ内で有効な発現制御領域の制御下となるように挿入し、(iii)得られたオルガネラゲノムDNAをプラスミドとして回収した後に、(iv)該プラスミドをオルガネラに導入し、(v)該オルガネラDNAを保持する形質転換体中で目的蛋白質を発現させることを特徴とする方法。
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