JP2004156091A - 硬質被膜製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来のアークイオンプレーティング法では、エッチング工程時に400〜500℃の熱影響を基材に与えてしまうため、500℃以下では軟化や歪みがほとんど発生しない高価で加工が困難な材料を基材として用いなくてはならない。
【解決手段】ターゲット材6(Cr)より放出されるイオンよりも低原子量のガス(Arガス)を炉1内に導入し、フィラメント電子源2でArガスをイオン化し、基材4にバイアス電圧を印加する。すると、ガスイオンによって基材4がエッチングされる。これによって、基材4の温度を200℃以下にできる。また、基材4の熱容量が小さい場合は、エッチング用バイアス電圧の印加と印加停止を繰り返して基材4の温度上昇を抑えるとともに、中間層を含む成膜工程時にアーク電流の印加と印加停止を繰り返して基材4の温度上昇を抑える。この製造方法によって、基材4の最高温度を200℃以下に抑制して硬質被膜を成膜できる。
【選択図】 図1
【解決手段】ターゲット材6(Cr)より放出されるイオンよりも低原子量のガス(Arガス)を炉1内に導入し、フィラメント電子源2でArガスをイオン化し、基材4にバイアス電圧を印加する。すると、ガスイオンによって基材4がエッチングされる。これによって、基材4の温度を200℃以下にできる。また、基材4の熱容量が小さい場合は、エッチング用バイアス電圧の印加と印加停止を繰り返して基材4の温度上昇を抑えるとともに、中間層を含む成膜工程時にアーク電流の印加と印加停止を繰り返して基材4の温度上昇を抑える。この製造方法によって、基材4の最高温度を200℃以下に抑制して硬質被膜を成膜できる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼等の金属部材に耐摩耗性や耐焼付性等の特性を付与する方法としてアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造技術が知られている。この手法による成膜方法は、TiN、CrN、TiC、AlN、TiAlN等の硬質被膜を、工具や機械部品の表面に成膜する技術として多用されている。各種の成膜技術の中でアークイオンプレーティング法が多用される理由は、成膜速度の速さや、被膜の強固な密着力にある。
【0003】
このアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法は、真空排気工程→予熱工程→エッチング工程→成膜工程(中間層成膜工程を含む)と進む。
従来のエッチング工程では、アーク放電を用いて炉内に配置されたターゲット材(例えば、Cr)の物質をイオン化させて炉内へ放出させるとともに、図2(a)に示すように、基材4にエッチング用バイアス電圧を印加し、ターゲット材から放出されたイオン化物質(Cr等の金属イオン)を基材4にぶつけて基材4の表面をエッチング(酸化物質の除去等のクリーニング)している(先行特許文献なし)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法の大きな問題点として、基材への熱影響がある。
Cr等の金属イオンを用いて基材の表面をエッチングすると、基材の温度が400〜500℃まで上昇してしまう。即ち、従来のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法では、エッチング工程時に400〜500℃の熱影響を基材に与えてしまう。
【0005】
このような高温下では、SUJ2等の軸受鋼やSCr415等の浸炭鋼を基材に用いた場合、基材の軟化や歪みが発生してしまう。
そのため、アークイオンプレーティング法にて硬質被膜を成膜するには、基材にSHD材やSKH材といった500℃以下では軟化や歪みがほとんど発生しない材料を一般的に用いている。しかし、これらの材料は、高価で、且つ加工が困難という問題点を持っている。
【0006】
【発明の目的】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法において、基材の最高温度を下げることにある。即ち、安価で加工が容易な材料よりなる基材であっても、アークイオンプレーティング法を用いて硬質被膜を基材の表面に成膜する技術の提供にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
〔請求項1の手段〕
請求項1のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法は、基材のエッチング工程時に、ターゲット材より放出されるイオンよりも低原子量のガスイオンを用いて基材のエッチングを実施するものである。
このように設けることにより、エッチングをするガスイオンが基材に与えるエネルギーが下がるため、エッチング工程時における基材の温度上昇を従来よりも下げることができる。
このため、従来ではエッチング工程時に軟化や歪みが発生してしまう材料(例えば、SUJ2等の軸受鋼やSCr415等の浸炭鋼)であっても、基材として用いることが可能になる。即ち、従来よりも安価で加工が容易な材料よりなる基材であっても、アークイオンプレーティング法を用いて硬質被膜を基材の表面に成膜することが可能になる。
【0008】
〔請求項2の手段〕
請求項1のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法のエッチング用バイアス電圧は、基材の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電圧印加を繰り返すものである。
このように設けることにより、ガスイオン(エッチング用のイオン)がぶつかって基材の温度を上昇させる間隔(エッチングの実行間隔)が隔てられるため、基材が昇温しやすい熱容量の小さいものであっても、エッチング工程時において基材の温度上昇を抑えることができる。
【0009】
〔請求項3の手段〕
請求項3のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法のアーク放電を発生させるアーク電流は、基材の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返すものである。
このように設けることにより、成膜工程時(中間層の成膜工程を含む)においてアーク放電が実施される間隔が隔てられるため、結果的に基材の温度が上昇する間隔が隔てられる。このため、基材が昇温しやすい熱容量の小さいものであっても、成膜工程時において基材の温度上昇を抑えることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、実施例および変形例を用いて説明する。
〔実施例〕
この実施例では、アークイオンプレーティング装置を用いて基材の表面に硬質被膜(この実施例ではCrN)を成膜する製造方法を説明する。
アークイオンプレーティング装置の概略を図1を参照して説明する。
【0011】
アークイオンプレーティング装置は、通常用いられる装置に、炉1内(真空チャンバ)の気体原子(Arガス等)をイオン化する気体原子イオン化手段を取り付けたものである。この気体原子イオン化手段は、フィラメント電子源、プラズマ銃等よりなるものであり、この実施例では気体原子イオン化手段の一例としてフィラメント電子源2を搭載したものを示す。なお、フィラメント電子源2はフィラメント電源3から高電圧が印加されると、フィラメント電子源2から放出される電子によって炉1内の気体原子をイオン化するものである。
【0012】
ここで、通常用いられる周知なアークイオンプレーティング装置について概略説明する。アークイオンプレーティング装置は、真空引き可能な炉1の中心部分に基材4が取付可能な治具5(例えば、回転テーブル)が配置されたものであり、その治具5の周囲には1つあるいは複数のターゲット材6が取付可能に設けられている。
炉1には、炉1内を排気する排気口1aおよび炉1内に気体(Arガス、N2 ガス等)を導入する導入口1bが設けられるとともに、炉1内を予熱する加熱手段(図示しない)が組付けられている。
【0013】
また、炉1内には、ターゲット材6の近傍に陽極7が配置されており、アーク電源8によってターゲット材6と陽極7の間に大電流(例えば、100Aのアーク電流)を流すとターゲット材6と陽極7の間でアーク放電が発生するように設けられている。なお、ターゲット材6と陽極7の間でアーク放電が発生すると、ターゲット材6からイオン化された物質(Cr等の金属イオン)が炉1内に放出される。
【0014】
一方、治具5には、バイアス電源9によって、治具5に取り付けられる基材4に負のバイアス電圧(エッチング用バイアス電圧、成膜用バイアス電圧)を印加するように設けられており、バイアス電源9によって治具5に取り付けられた基材4にバイアス電圧が印加されると、炉1内のプラスイオンが基材4に引きつけられるようになっている。
【0015】
次に、基材4の表面にCrNの硬質被膜11(符号図5参照)を成膜する工程を説明する。
(1)Crのターゲット材6を設置した上記アークイオンプレーティング装置を準備する。
(2)通常のアークプレーティング法と同様、中心近傍の治具5に基材4を配置する。この基材4は、以下の工程中(真空排気工程→予熱工程→エッチング工程→中間層成膜工程を含む成膜工程)において、治具5によって回転させても良いし、回転させなくても良い。
(3)通常のアークプレーティング法で実施する真空排気工程および予熱工程を実施する。即ち、炉1内の真空引きを行い、続いて炉1内の予熱(例えば100℃)を行う。
【0016】
(4)次に、基材4のエッチングを行う。
従来のエッチング工程では、図2(a)に示すようにターゲット材6として用いるCr等の金属をイオン化し、その金属イオンを基材4にぶつけて基材4のエッチングを実施していたが、本発明を適用する新技術では、図2(b)に示すようにターゲット材6より放出されるイオン(Crイオン)よりも低原子量のガス(例えば、Arガス等)をイオン化し、そのガスイオンを基材4にぶつけて基材4のエッチングを実施する。
なお、本実施例ではターゲット材6として、Crを用いる例を示すが、ターゲット材6は金属、非金属からなる固体物質である。そして、エッチングに用いるガスイオンは、ターゲット材6から放出されるターゲットイオンに比べて低原子量のものを用いる。つまり、ターゲット材6より放出されるイオンよりも高原子量のガスイオンもあるが、エッチングに用いるガスイオンは、ターゲット材6より放出されるイオンよりも低原子量のガスイオンを選択するものである。ここで、この実施例に採用するターゲット材6であるCrの原子量は約52であり、Arの原子量は約40である。
【0017】
低原子量のガスの一例としてArガスを用いた基材4のエッチング工程を説明する。
炉1内にArガスを導入し、炉1内の圧力を0.1〜100Paにする。代表的には1〜2Pa程が望ましい。
次に、フィラメント電子源2にフィラメント電源3から高電圧(フィラメント電圧)を印加して炉1内に導入されたArガスをイオン化するとともに、基材4に100V以上の負のバイアス電圧(エッチング用バイアス電圧≦−100V)を印加する。すると、炉1内でイオン化されたガスイオンが基材4の表面にぶつかり、基材4の表面のエッチングが実施される。
【0018】
このエッチング工程では、ターゲット材6(Cr)よりも低原子量のArガスイオンによって基材4のエッチングを行うため、エッチングをするガスイオンが基材4に与えるエネルギーが従来よりも下がる。このため、図3に示すように、エッチング工程時における基材4の温度を、従来技術の実線Aに示す450℃程から、新技術の実線Bに示す200℃以下に下げることができる。なお、図3および以下において説明する図4、図6、図7に示す基材4の熱影響は、基材4の体積、処理数、処理空間体積、ターゲットの大きさ、ターゲットの数等により大きく変化するものであり、図3、図4、図6、図7はその一例を示すものであり、全ての処理に適合する制御パターンではない。
【0019】
しかし、上述のように低原子量のガスイオンによってエッチングを行っても、基材4の熱容量が小さいと、基材4の温度が上昇してしまう。そのような場合は、基材4の熱容量に応じて、エッチング用バイアス電圧の印加と印加停止、あるいは印加と低電圧印加を繰り返して、基材4の温度上昇を抑えるようにする。即ち、基材4の熱容量が小さくなるほど、エッチング用バイアス電圧の印加率が低くなるように制御する。
【0020】
エッチング用バイアス電圧の印加制御によって、基材4の温度上昇を防ぐ例を図4を参照して説明する。
図4(a)、(b)は、所定の基材4にエッチング用バイアス電圧の印加と印加停止(OFF 時間)を繰り返し、OFF 時間を可変することによって基材4の温度の変化を測定したものである。図4(b)の測定結果から読み取れるように、エッチング用バイアス電圧を連続印加(OFF 時間:0)する場合には400℃近くまで温度上昇するが、OFF 時間を長くすることにより、基材4の温度を200℃以下に抑えることができる。即ち、基材4の熱容量が小さい場合ほどOFF 時間を長くすることにより、基材4の温度上昇を抑えることができる。
この結果、基材4の熱容量が小さくても、図3に示すように、エッチング工程時における基材4の温度を、200℃以下に下げることが可能になる。
【0021】
なお、図4の一例では、エッチング用バイアス電圧を印加する時間(ON時間)を一定にした例を示したが、ON時間を可変させたり、ON時間とOFF 時間の両方を可変するように設けても良い。また、OFF 時間時に完全にエッチング用バイアス電圧を0にしなくても、低電圧を与えるようにしても良いし、エッチング用バイアス電圧を連続的に高低変化させても良い。
【0022】
(5)次に、基材4の種類等によっては密着力向上や応力緩和を目的に、中間層12を基材4の表面に成膜しても良い。なお、中間層12は、図5(a)に示されるように成膜しなくても良いし、図5(b)に示されるように中間層12を1層のみとしても良いし、図示しないが複数種類の中間層12を複数層形成しても良い。
【0023】
ここで、図5(b)に示すように、Crよりなる1層の中間層12を形成する例を説明する。
中間層12を形成する手法は、通常のアークイオンプレーティング法と同様に、ターゲット材6の近傍に配置された陽極7とターゲット材6の間に大電流(アーク電流)を流して陽極7とターゲット材6の間にアーク放電を発生させ、ターゲット材6を構成するCrをCrイオンとして炉1内に放出させるとともに、基材4に1V以上の負のバイアス電圧(成膜用バイアス電圧≦−1V)を印加する。この工程によって、基材4の表面にCrの中間層12が成膜される。なお、この実施例では、Crの中間層12を形成する例を示すが、他の組成の中間層12を形成しても良い。
【0024】
この中間層12の成膜工程では、アーク放電によって炉1内の温度が上昇するとともに、アーク放電によって高温となったCrイオンが基材4に被着する。このため、基材4の熱容量が小さいと、図3の実線A(従来技術)に示すように基材4の温度が300℃程に上昇してしまう。
その場合は、アーク放電を発生させるためのアーク電流を、基材4の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返して、基材4の温度上昇を抑えるようにする。即ち、基材4の熱容量が小さくなるほど、アーク電流の印加率が低くなるように制御する。
【0025】
成膜工程時におけるアーク電流の印加制御によって、成膜時に基材4の温度上昇を防ぐ例を図6を参照して説明する。
図6(a)、(b)は、アーク放電を発生させるためのアーク電流の印加と印加停止(OFF 時間)を繰り返し、OFF 時間を可変することによって基材4の温度の変化を測定したものである。図6(b)の測定結果から読み取れるように、アーク電流を連続印加(OFF 時間:0)する場合には300℃近くまで温度上昇するが、OFF 時間を長くすることにより、基材4の温度を200℃程に抑えることができる。即ち、基材4の熱容量が小さい場合ほどOFF 時間を長くすることにより、基材4の温度上昇を抑えることができる。
この結果、基材4の熱容量が小さくても、図3に示すように、中間層12の成膜工程時における基材4の温度を、従来技術(実線A)の300℃程から新技術(実線B)の200℃程に下げることが可能になる。
【0026】
なお、図6の一例では、アーク電流を流す時間(ON時間)を一定にした例を示したが、ON時間を可変させたり、ON時間とOFF 時間の両方を可変するように設けても良い。また、図7(a)に示すようにOFF 時間時に完全にアーク電流を0にしなくても、低電流を与えるようにしても良いし、図7(b)に示すようにアーク電流を連続的に高低変化させても良い。
【0027】
(6)次に、基材4の表面に硬質被膜11(CrN)を成膜する工程を実施する。
通常のアークイオンプレーティング法と同様に、ターゲット材6の近傍に配置された陽極7とターゲット材6の間に大電流(アーク電流)を流して陽極7とターゲット材6の間にアーク放電を発生させ、ターゲット材6を構成するCrをCrイオンとして炉1内に放出させるとともに、基材4に1V以上の負のバイアス電圧(成膜用バイアス電圧≦−1V)を印加する。この時、必要ならばN2 ガス等の反応ガスを炉1内に導入する。この工程によって、基材4の表面にCrNの硬質被膜11が成膜される。
【0028】
この硬質被膜11の形成時も、アーク放電によって炉1内の温度が上昇するとともに、アーク放電によって高温となったCrイオンが基材4に被着するため、基材4の熱容量が小さいと、図3の実線A(従来技術)に示すように基材4の温度が300℃程に上昇してしまう。
その場合は、アーク放電を発生させるためのアーク電流を、基材4の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返して、基材4の温度上昇を抑える。
このアーク電流の制御は、上述した中間層12の成形時におけるアーク電流の制御と同様であり、説明は割愛する。このアーク電流の制御によって、基材4の熱容量が小さくても、図3に示すように、成膜工程時における基材4の温度を、従来技術(実線A)の300℃程から新技術(実線B)の200℃程に下げることができる。
【0029】
以上の(1)〜(6)の工程、あるいは(5)の工程をとばした工程によって、基材4の最高温度を200℃以下に抑制して、3μm以上の膜厚にてもロックウェルC硬さ試験機を用いた圧痕試験(荷重1470N)での剥離の発生が無く、さらにスクラッチ試験においても80N以上の密着力を示す硬質被膜11の製造ができる。なお、図8に、200℃以下でSUJ2(軸受鋼の一例)よりなる基材4の表面に上記工程によって成膜したCrNのX線回折結果、および成膜後のSUJ2の基材硬さを示す。
【0030】
〔実施例の効果〕
以上で説明したように、アークイオンプレーティング法を用いても、上記製造方法を用いることにより、基材4への熱影響を200℃以下に抑制しつつ、基材4の表面に強固な密着力を持つ硬質被膜11を製造することができる。
即ち、この製造方法により、SUJ2等の軸受鋼やSCr415等の浸炭鋼といった200℃以上に加熱すると軟化や歪みが発生する材料を基材4に用いても、基材4の軟化や歪みの発生が無く、基材4の表面に強固な密着力を持つ硬質被膜11を製造することが可能となる。このため、従来よりも安価で加工が容易な材料よりなる基材4であっても、アークイオンプレーティング法を用いて硬質被膜11を基材4の表面に成膜できる。
【0031】
〔変形例〕
上記の実施例では、エッチングを実施するガスの一例としてArを用いた例を示したが、ターゲット材6から放出される原子より原子量の少ないガスであれば、他の原子のガスを用いても良い。
上記の実施例では、基材4の表面に成膜する硬質被膜11の一例としてCrNを示したが、ターゲット材6の材料を変更するなどして他の組成(TiN、TiC、AlN、TiAlN等)の硬質被膜11を成膜しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】アークイオンプレーティング装置の概略図である。
【図2】新旧のエッチング工程の説明図である。
【図3】各工程時における基材の温度を示すグラフである。
【図4】バイアス電圧制御と基材の温度の関係を示すグラフである。
【図5】基材表面に成膜された被膜の要部断面図である。
【図6】アーク電流制御と基材の温度の関係を示すグラフである。
【図7】アーク電流制御の他の一例を示すグラフである。
【図8】200℃以下で成膜されたCrNのX線回折結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 炉
2 フィラメント電子源(気体原子イオン化手段)
4 基材
6 ターゲット材
11 硬質被膜
12 中間層
【発明の属する技術分野】
本発明は、アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼等の金属部材に耐摩耗性や耐焼付性等の特性を付与する方法としてアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造技術が知られている。この手法による成膜方法は、TiN、CrN、TiC、AlN、TiAlN等の硬質被膜を、工具や機械部品の表面に成膜する技術として多用されている。各種の成膜技術の中でアークイオンプレーティング法が多用される理由は、成膜速度の速さや、被膜の強固な密着力にある。
【0003】
このアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法は、真空排気工程→予熱工程→エッチング工程→成膜工程(中間層成膜工程を含む)と進む。
従来のエッチング工程では、アーク放電を用いて炉内に配置されたターゲット材(例えば、Cr)の物質をイオン化させて炉内へ放出させるとともに、図2(a)に示すように、基材4にエッチング用バイアス電圧を印加し、ターゲット材から放出されたイオン化物質(Cr等の金属イオン)を基材4にぶつけて基材4の表面をエッチング(酸化物質の除去等のクリーニング)している(先行特許文献なし)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法の大きな問題点として、基材への熱影響がある。
Cr等の金属イオンを用いて基材の表面をエッチングすると、基材の温度が400〜500℃まで上昇してしまう。即ち、従来のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法では、エッチング工程時に400〜500℃の熱影響を基材に与えてしまう。
【0005】
このような高温下では、SUJ2等の軸受鋼やSCr415等の浸炭鋼を基材に用いた場合、基材の軟化や歪みが発生してしまう。
そのため、アークイオンプレーティング法にて硬質被膜を成膜するには、基材にSHD材やSKH材といった500℃以下では軟化や歪みがほとんど発生しない材料を一般的に用いている。しかし、これらの材料は、高価で、且つ加工が困難という問題点を持っている。
【0006】
【発明の目的】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法において、基材の最高温度を下げることにある。即ち、安価で加工が容易な材料よりなる基材であっても、アークイオンプレーティング法を用いて硬質被膜を基材の表面に成膜する技術の提供にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
〔請求項1の手段〕
請求項1のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法は、基材のエッチング工程時に、ターゲット材より放出されるイオンよりも低原子量のガスイオンを用いて基材のエッチングを実施するものである。
このように設けることにより、エッチングをするガスイオンが基材に与えるエネルギーが下がるため、エッチング工程時における基材の温度上昇を従来よりも下げることができる。
このため、従来ではエッチング工程時に軟化や歪みが発生してしまう材料(例えば、SUJ2等の軸受鋼やSCr415等の浸炭鋼)であっても、基材として用いることが可能になる。即ち、従来よりも安価で加工が容易な材料よりなる基材であっても、アークイオンプレーティング法を用いて硬質被膜を基材の表面に成膜することが可能になる。
【0008】
〔請求項2の手段〕
請求項1のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法のエッチング用バイアス電圧は、基材の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電圧印加を繰り返すものである。
このように設けることにより、ガスイオン(エッチング用のイオン)がぶつかって基材の温度を上昇させる間隔(エッチングの実行間隔)が隔てられるため、基材が昇温しやすい熱容量の小さいものであっても、エッチング工程時において基材の温度上昇を抑えることができる。
【0009】
〔請求項3の手段〕
請求項3のアークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法のアーク放電を発生させるアーク電流は、基材の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返すものである。
このように設けることにより、成膜工程時(中間層の成膜工程を含む)においてアーク放電が実施される間隔が隔てられるため、結果的に基材の温度が上昇する間隔が隔てられる。このため、基材が昇温しやすい熱容量の小さいものであっても、成膜工程時において基材の温度上昇を抑えることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、実施例および変形例を用いて説明する。
〔実施例〕
この実施例では、アークイオンプレーティング装置を用いて基材の表面に硬質被膜(この実施例ではCrN)を成膜する製造方法を説明する。
アークイオンプレーティング装置の概略を図1を参照して説明する。
【0011】
アークイオンプレーティング装置は、通常用いられる装置に、炉1内(真空チャンバ)の気体原子(Arガス等)をイオン化する気体原子イオン化手段を取り付けたものである。この気体原子イオン化手段は、フィラメント電子源、プラズマ銃等よりなるものであり、この実施例では気体原子イオン化手段の一例としてフィラメント電子源2を搭載したものを示す。なお、フィラメント電子源2はフィラメント電源3から高電圧が印加されると、フィラメント電子源2から放出される電子によって炉1内の気体原子をイオン化するものである。
【0012】
ここで、通常用いられる周知なアークイオンプレーティング装置について概略説明する。アークイオンプレーティング装置は、真空引き可能な炉1の中心部分に基材4が取付可能な治具5(例えば、回転テーブル)が配置されたものであり、その治具5の周囲には1つあるいは複数のターゲット材6が取付可能に設けられている。
炉1には、炉1内を排気する排気口1aおよび炉1内に気体(Arガス、N2 ガス等)を導入する導入口1bが設けられるとともに、炉1内を予熱する加熱手段(図示しない)が組付けられている。
【0013】
また、炉1内には、ターゲット材6の近傍に陽極7が配置されており、アーク電源8によってターゲット材6と陽極7の間に大電流(例えば、100Aのアーク電流)を流すとターゲット材6と陽極7の間でアーク放電が発生するように設けられている。なお、ターゲット材6と陽極7の間でアーク放電が発生すると、ターゲット材6からイオン化された物質(Cr等の金属イオン)が炉1内に放出される。
【0014】
一方、治具5には、バイアス電源9によって、治具5に取り付けられる基材4に負のバイアス電圧(エッチング用バイアス電圧、成膜用バイアス電圧)を印加するように設けられており、バイアス電源9によって治具5に取り付けられた基材4にバイアス電圧が印加されると、炉1内のプラスイオンが基材4に引きつけられるようになっている。
【0015】
次に、基材4の表面にCrNの硬質被膜11(符号図5参照)を成膜する工程を説明する。
(1)Crのターゲット材6を設置した上記アークイオンプレーティング装置を準備する。
(2)通常のアークプレーティング法と同様、中心近傍の治具5に基材4を配置する。この基材4は、以下の工程中(真空排気工程→予熱工程→エッチング工程→中間層成膜工程を含む成膜工程)において、治具5によって回転させても良いし、回転させなくても良い。
(3)通常のアークプレーティング法で実施する真空排気工程および予熱工程を実施する。即ち、炉1内の真空引きを行い、続いて炉1内の予熱(例えば100℃)を行う。
【0016】
(4)次に、基材4のエッチングを行う。
従来のエッチング工程では、図2(a)に示すようにターゲット材6として用いるCr等の金属をイオン化し、その金属イオンを基材4にぶつけて基材4のエッチングを実施していたが、本発明を適用する新技術では、図2(b)に示すようにターゲット材6より放出されるイオン(Crイオン)よりも低原子量のガス(例えば、Arガス等)をイオン化し、そのガスイオンを基材4にぶつけて基材4のエッチングを実施する。
なお、本実施例ではターゲット材6として、Crを用いる例を示すが、ターゲット材6は金属、非金属からなる固体物質である。そして、エッチングに用いるガスイオンは、ターゲット材6から放出されるターゲットイオンに比べて低原子量のものを用いる。つまり、ターゲット材6より放出されるイオンよりも高原子量のガスイオンもあるが、エッチングに用いるガスイオンは、ターゲット材6より放出されるイオンよりも低原子量のガスイオンを選択するものである。ここで、この実施例に採用するターゲット材6であるCrの原子量は約52であり、Arの原子量は約40である。
【0017】
低原子量のガスの一例としてArガスを用いた基材4のエッチング工程を説明する。
炉1内にArガスを導入し、炉1内の圧力を0.1〜100Paにする。代表的には1〜2Pa程が望ましい。
次に、フィラメント電子源2にフィラメント電源3から高電圧(フィラメント電圧)を印加して炉1内に導入されたArガスをイオン化するとともに、基材4に100V以上の負のバイアス電圧(エッチング用バイアス電圧≦−100V)を印加する。すると、炉1内でイオン化されたガスイオンが基材4の表面にぶつかり、基材4の表面のエッチングが実施される。
【0018】
このエッチング工程では、ターゲット材6(Cr)よりも低原子量のArガスイオンによって基材4のエッチングを行うため、エッチングをするガスイオンが基材4に与えるエネルギーが従来よりも下がる。このため、図3に示すように、エッチング工程時における基材4の温度を、従来技術の実線Aに示す450℃程から、新技術の実線Bに示す200℃以下に下げることができる。なお、図3および以下において説明する図4、図6、図7に示す基材4の熱影響は、基材4の体積、処理数、処理空間体積、ターゲットの大きさ、ターゲットの数等により大きく変化するものであり、図3、図4、図6、図7はその一例を示すものであり、全ての処理に適合する制御パターンではない。
【0019】
しかし、上述のように低原子量のガスイオンによってエッチングを行っても、基材4の熱容量が小さいと、基材4の温度が上昇してしまう。そのような場合は、基材4の熱容量に応じて、エッチング用バイアス電圧の印加と印加停止、あるいは印加と低電圧印加を繰り返して、基材4の温度上昇を抑えるようにする。即ち、基材4の熱容量が小さくなるほど、エッチング用バイアス電圧の印加率が低くなるように制御する。
【0020】
エッチング用バイアス電圧の印加制御によって、基材4の温度上昇を防ぐ例を図4を参照して説明する。
図4(a)、(b)は、所定の基材4にエッチング用バイアス電圧の印加と印加停止(OFF 時間)を繰り返し、OFF 時間を可変することによって基材4の温度の変化を測定したものである。図4(b)の測定結果から読み取れるように、エッチング用バイアス電圧を連続印加(OFF 時間:0)する場合には400℃近くまで温度上昇するが、OFF 時間を長くすることにより、基材4の温度を200℃以下に抑えることができる。即ち、基材4の熱容量が小さい場合ほどOFF 時間を長くすることにより、基材4の温度上昇を抑えることができる。
この結果、基材4の熱容量が小さくても、図3に示すように、エッチング工程時における基材4の温度を、200℃以下に下げることが可能になる。
【0021】
なお、図4の一例では、エッチング用バイアス電圧を印加する時間(ON時間)を一定にした例を示したが、ON時間を可変させたり、ON時間とOFF 時間の両方を可変するように設けても良い。また、OFF 時間時に完全にエッチング用バイアス電圧を0にしなくても、低電圧を与えるようにしても良いし、エッチング用バイアス電圧を連続的に高低変化させても良い。
【0022】
(5)次に、基材4の種類等によっては密着力向上や応力緩和を目的に、中間層12を基材4の表面に成膜しても良い。なお、中間層12は、図5(a)に示されるように成膜しなくても良いし、図5(b)に示されるように中間層12を1層のみとしても良いし、図示しないが複数種類の中間層12を複数層形成しても良い。
【0023】
ここで、図5(b)に示すように、Crよりなる1層の中間層12を形成する例を説明する。
中間層12を形成する手法は、通常のアークイオンプレーティング法と同様に、ターゲット材6の近傍に配置された陽極7とターゲット材6の間に大電流(アーク電流)を流して陽極7とターゲット材6の間にアーク放電を発生させ、ターゲット材6を構成するCrをCrイオンとして炉1内に放出させるとともに、基材4に1V以上の負のバイアス電圧(成膜用バイアス電圧≦−1V)を印加する。この工程によって、基材4の表面にCrの中間層12が成膜される。なお、この実施例では、Crの中間層12を形成する例を示すが、他の組成の中間層12を形成しても良い。
【0024】
この中間層12の成膜工程では、アーク放電によって炉1内の温度が上昇するとともに、アーク放電によって高温となったCrイオンが基材4に被着する。このため、基材4の熱容量が小さいと、図3の実線A(従来技術)に示すように基材4の温度が300℃程に上昇してしまう。
その場合は、アーク放電を発生させるためのアーク電流を、基材4の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返して、基材4の温度上昇を抑えるようにする。即ち、基材4の熱容量が小さくなるほど、アーク電流の印加率が低くなるように制御する。
【0025】
成膜工程時におけるアーク電流の印加制御によって、成膜時に基材4の温度上昇を防ぐ例を図6を参照して説明する。
図6(a)、(b)は、アーク放電を発生させるためのアーク電流の印加と印加停止(OFF 時間)を繰り返し、OFF 時間を可変することによって基材4の温度の変化を測定したものである。図6(b)の測定結果から読み取れるように、アーク電流を連続印加(OFF 時間:0)する場合には300℃近くまで温度上昇するが、OFF 時間を長くすることにより、基材4の温度を200℃程に抑えることができる。即ち、基材4の熱容量が小さい場合ほどOFF 時間を長くすることにより、基材4の温度上昇を抑えることができる。
この結果、基材4の熱容量が小さくても、図3に示すように、中間層12の成膜工程時における基材4の温度を、従来技術(実線A)の300℃程から新技術(実線B)の200℃程に下げることが可能になる。
【0026】
なお、図6の一例では、アーク電流を流す時間(ON時間)を一定にした例を示したが、ON時間を可変させたり、ON時間とOFF 時間の両方を可変するように設けても良い。また、図7(a)に示すようにOFF 時間時に完全にアーク電流を0にしなくても、低電流を与えるようにしても良いし、図7(b)に示すようにアーク電流を連続的に高低変化させても良い。
【0027】
(6)次に、基材4の表面に硬質被膜11(CrN)を成膜する工程を実施する。
通常のアークイオンプレーティング法と同様に、ターゲット材6の近傍に配置された陽極7とターゲット材6の間に大電流(アーク電流)を流して陽極7とターゲット材6の間にアーク放電を発生させ、ターゲット材6を構成するCrをCrイオンとして炉1内に放出させるとともに、基材4に1V以上の負のバイアス電圧(成膜用バイアス電圧≦−1V)を印加する。この時、必要ならばN2 ガス等の反応ガスを炉1内に導入する。この工程によって、基材4の表面にCrNの硬質被膜11が成膜される。
【0028】
この硬質被膜11の形成時も、アーク放電によって炉1内の温度が上昇するとともに、アーク放電によって高温となったCrイオンが基材4に被着するため、基材4の熱容量が小さいと、図3の実線A(従来技術)に示すように基材4の温度が300℃程に上昇してしまう。
その場合は、アーク放電を発生させるためのアーク電流を、基材4の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返して、基材4の温度上昇を抑える。
このアーク電流の制御は、上述した中間層12の成形時におけるアーク電流の制御と同様であり、説明は割愛する。このアーク電流の制御によって、基材4の熱容量が小さくても、図3に示すように、成膜工程時における基材4の温度を、従来技術(実線A)の300℃程から新技術(実線B)の200℃程に下げることができる。
【0029】
以上の(1)〜(6)の工程、あるいは(5)の工程をとばした工程によって、基材4の最高温度を200℃以下に抑制して、3μm以上の膜厚にてもロックウェルC硬さ試験機を用いた圧痕試験(荷重1470N)での剥離の発生が無く、さらにスクラッチ試験においても80N以上の密着力を示す硬質被膜11の製造ができる。なお、図8に、200℃以下でSUJ2(軸受鋼の一例)よりなる基材4の表面に上記工程によって成膜したCrNのX線回折結果、および成膜後のSUJ2の基材硬さを示す。
【0030】
〔実施例の効果〕
以上で説明したように、アークイオンプレーティング法を用いても、上記製造方法を用いることにより、基材4への熱影響を200℃以下に抑制しつつ、基材4の表面に強固な密着力を持つ硬質被膜11を製造することができる。
即ち、この製造方法により、SUJ2等の軸受鋼やSCr415等の浸炭鋼といった200℃以上に加熱すると軟化や歪みが発生する材料を基材4に用いても、基材4の軟化や歪みの発生が無く、基材4の表面に強固な密着力を持つ硬質被膜11を製造することが可能となる。このため、従来よりも安価で加工が容易な材料よりなる基材4であっても、アークイオンプレーティング法を用いて硬質被膜11を基材4の表面に成膜できる。
【0031】
〔変形例〕
上記の実施例では、エッチングを実施するガスの一例としてArを用いた例を示したが、ターゲット材6から放出される原子より原子量の少ないガスであれば、他の原子のガスを用いても良い。
上記の実施例では、基材4の表面に成膜する硬質被膜11の一例としてCrNを示したが、ターゲット材6の材料を変更するなどして他の組成(TiN、TiC、AlN、TiAlN等)の硬質被膜11を成膜しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】アークイオンプレーティング装置の概略図である。
【図2】新旧のエッチング工程の説明図である。
【図3】各工程時における基材の温度を示すグラフである。
【図4】バイアス電圧制御と基材の温度の関係を示すグラフである。
【図5】基材表面に成膜された被膜の要部断面図である。
【図6】アーク電流制御と基材の温度の関係を示すグラフである。
【図7】アーク電流制御の他の一例を示すグラフである。
【図8】200℃以下で成膜されたCrNのX線回折結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 炉
2 フィラメント電子源(気体原子イオン化手段)
4 基材
6 ターゲット材
11 硬質被膜
12 中間層
Claims (3)
- アークイオンプレーティング法を用いた硬質被膜製造方法であって、
基材のエッチング工程時は、ターゲット材より放出されるイオンよりも低原子量のガスイオンを用いて前記基材のエッチングを実施することを特徴とする硬質被膜製造方法。 - 請求項1に記載の硬質被膜製造方法において、
前記エッチング工程時は、炉内に前記ターゲット材より放出されるイオンよりも低原子量のガスを供給して、フィラメント電子源、プラズマ銃等の気体原子イオン化手段にて前記炉内に供給されたガスをイオン化するとともに、イオン化したガスイオンを前記基材にぶつけるためのエッチング用バイアス電圧を前記基材に印加するものであり、
前記エッチング用バイアス電圧は、
前記基材の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電圧印加を繰り返すことを特徴とする硬質被膜製造方法。 - 請求項1または請求項2に記載の硬質被膜製造方法において、
前記ターゲット材の物質を前記基材の表面に成膜する成膜工程時は、
アーク放電を用いて前記ターゲット材の物質をイオン化させて前記炉内へ放出させるとともに、前記ターゲット材から放出されたイオン化物質を前記基材に吸着させるための成膜用バイアス電圧を前記基材に印加するものであり、
前記アーク放電を発生させるアーク電流は、
前記基材の熱容量に応じて、印加と印加停止を繰り返す、あるいは印加と低電流印加を繰り返すことを特徴とする硬質被膜製造方法。
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JP2014152356A (ja) * | 2013-02-07 | 2014-08-25 | Kobe Steel Ltd | イオンボンバードメント装置及びこの装置を用いた基材の表面のクリーニング方法 |
-
2002
- 2002-11-06 JP JP2002322422A patent/JP2004156091A/ja active Pending
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