JP2004155159A - 切断装置及び切断方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】効率よく作業が行え、かつ、綺麗な切断面が得られる切断方法を提供することを目的とする。
【解決手段】脆性材料Wを切断線に沿って加熱し、切断線上を冷却して熱応力により脆性材料Wの表面に亀裂aを生じさせ亀裂aに沿って分断を行う方法である。脆性材料Wの切断線上であって加熱による膨張により生ずる脆性材料Wの圧縮応力が引張応力へと変化する応力変曲点乃至その近傍を冷却し、脆性材料Wの表面に亀裂aを生じさせる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱応力を利用して脆性材料に亀裂を生じさせ、脆性材料を分断する切断装置及び切断方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
脆性材料(例えばガラス板)を分断するには、材料に機械的に亀裂始点を形成し、その近傍に熱源を与え、その熱源を順次切断予定線(切断を意図する線)に沿って移動させ、脆性材料の内部に熱応力を生じさせて亀裂を連続的に進展させ、分割する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この様に、レーザビームの照射による熱源を移動させて、脆性材料の亀裂を進展させて分割する方法は、一般的に割断と言われている。
また、この割断作業において、加熱のためのレーザビーム形状を円筒レンズにより一つの楕円形して材料の加熱を行う技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平1−108006号公報
【特許文献2】
特表平8−509947号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
加熱レーザビームは脆性材料表面で吸収され、熱の発生はその表面近傍に限られる。そのため、従来の方法では、この僅かな領域で発生する熱応力は微小なものとなり、材料を分割するための亀裂発生応力には達しないという問題がある。つまり、材料を分割するだけの応力を発生させるためには、材料表面のみで発生する熱をある時間掛ける等して材料内部に伝導させ、十分な応力を発生させる加熱領域を材料内部に拡大させる等の必要がある。
【0005】
また、レーザビーム形状を楕円形にして加熱し、亀裂を発生させる方法は、次のような問題点がある。半導体レーザを含む一般のレーザ光は、そのビーム中心部分のエネルギー密度が高く、その周辺部へ広がるにつれてエネルギー密度が低くなるガウス分布と呼ばれる分布形状を持っている(図14参照)。このようなエネルギー分布を持ったレーザを円筒レンズにより楕円形状にし、それによる熱源を脆性材料表面の切断線に沿って移動させた場合、材料分断のための十分な応力を発生させる材料表面における熱分布を得るためには、従来の方法では、極めて効率の悪いものであるという問題点がある。つまり、図14と材料表面の温度分布を表す図15に示すように、加熱開始点では、ビームのエネルギー分布が低いため材料の温度を上昇させるに効率的ではなく、材料表面に与えられる熱分布は、レーザ光源のエネルギー分布と同様となる。そのため、加熱時間・距離の延長、又は必要以上の熱量を与えることが必要となり、その結果、レーザエネルギーのピーク部分が表面の溶融・軟化等、及び、脆性材料に組み込んだ素子(半導体)等への熱影響といった不具合を引き起こす原因となる。
【0006】
さらに材料内部に、分断するために必要な大きさの加熱領域を形成した後も、加熱開始点と同様にエネルギー分布が広い裾野形状を有しているため、材料が速やかに冷却されない。
そこで、これらを解消するために、光ファイバー等によりレーザモードの分散を発生させて、エネルギー分布を平均化させる方法が考えられるが、CO レーザのような遠赤外線の高エネルギービームを伝送させるには、光ファイバーに耐久性が必要とされ現実的ではない。さらに、光ファイバーの動きによってモードが変化するため、モードの分散精度に影響するという問題点がある。
【0007】
そこで本発明は、効率よく作業が行え、かつ、綺麗な切断面が得られる切断装置及び切断方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明に係る切断装置は、熱応力によって脆性材料の表面に亀裂を生じさせ該亀裂に沿って分断を行う切断装置に於て、切断線に沿って上記脆性材料を加熱するレーザ照射手段と、該レーザ照射手段による加熱エリアに間隔をもって追従して該脆性材料を冷却する冷却手段と、該加熱エリアと該冷却手段による冷却ポイントとの上記間隔を変更可能とする相対位置変更手段と、を備えている。
また、上記レーザ照射手段は、一本のレーザビームを複数本のビームによるビーム列とする変換手段を有し、該ビーム列による加熱エリアの長手方向を上記脆性材料の上記切断線方向としている。
また、上記レーザ照射手段は、上記ビーム列による加熱エリアの長手方向寸法及び幅方向寸法を調整自在とするレンズ手段を有し、該ビーム列を上記脆性材料に対して斜めに照射させるものである。
また、上記冷却手段は、冷却媒体の噴出手段と、該冷却媒体の上記脆性材料への吹きつけを遮断するシャッター手段と、を有している。
また、熱応力により生じさせた上記脆性材料の表面における亀裂を該脆性材料の厚さ方向に進行させる超音波発生手段を有している。
【0009】
また、本発明に係る切断装置は、脆性材料を切断線に沿ってレーザ照射手段により加熱し冷却手段により冷却して熱応力により該脆性材料の表面に亀裂を生じさせ該亀裂に沿って分断を行う切断装置であって、上記レーザ照射手段が、対面する一対のレーザ部分反射面とレーザ全反射面とを有し、斜入射させた一本のレーザビームを順次該レーザ部分反射面を透過させ複数本のビームによるビーム列とするものである。
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明に係る切断方法は、脆性材料を切断線に沿って加熱し、該切断線上を冷却して熱応力により該脆性材料の表面に亀裂を生じさせ該亀裂に沿って分断を行う切断方法であって、上記脆性材料の上記切断線上で上記加熱による膨張により生ずる該脆性材料の圧縮応力が引張応力へと変化する応力変曲点乃至その近傍を冷却し、該脆性材料の表面に亀裂を生じさせる。また、上記脆性材料の加熱を、一本のレーザビームから成形した複数本のビームによるビーム列として行う。
また、熱応力により生じさせた上記脆性材料の表面における亀裂を、超音波により該脆性材料の厚さ方向に進行させる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図示の実施の形態に基づき、本発明を詳説する。
【0012】
本発明に係る切断装置及びその装置による切断方法は、脆性材料(例えば、ガラス板)を熱源により材料表面を溶融・破壊することなく加熱を行い、加熱した部位を急冷することにより、材料内部に熱応力を発生させ、この熱応力により脆性材料の表面に亀裂を発生させ、その後亀裂を進展させ材料を分断するものである。
図1は、その分断において脆性材料Wにおける亀裂a発生を説明する脆性材料の平面図であり、図2は、切断装置における切断作業を説明する斜視図である。
【0013】
本発明に係る切断装置は、脆性材料Wの切断を意図する線(図1と図2の一点鎖線)に沿って、脆性材料Wを加熱するレーザ照射手段1と、レーザ照射手段1による加熱エリアHに間隔Gをもって追従して脆性材料Wを冷却する冷却手段2と、を備えている。さらに、加熱エリアHと冷却手段2による冷却ポイントCとの間隔Gを変更可能とする(図外の)相対位置変更手段と、を備えている。
【0014】
なお、加熱エリアHとは、後述する複数本のレーザビームbによるビーム列5により材料Wが照射された領域であり、また、冷却ポイントCとは、冷却媒体による材料W表面の冷却エリアの中心点である。そして、間隔Gは、加熱エリアHの後方側端部と冷却ポイントCとの距離を表す。なお、図1に示すように、矢印Aは、レーザ照射手段1と冷却手段2との脆性材料Wに対する進行方向であり、前方とはその進行方向前方側であり、後方とは進行方向後方側である。つまり、加熱エリアHは、冷却ポイントCより前方であると言える。
【0015】
また、加熱される脆性材料Wは、レーザにより加熱されるためには、レーザ照射手段1より照射されるレーザに対して不透明である───加熱エネルギーが材料を透過しない───必要がある。例えば、ガラスは透過最大波長が5〜6μmであり、炭酸ガスレーザ(CO レーザ)の基本発振波長は10.6μmに対して不透明な材料である。
【0016】
レーザ照射手段1は、レーザを材料Wに対して照射する装置であり、冷却手段2は、材料Wに対して冷却冷媒を噴出可能とする装置である。そして、レーザ照射手段1と冷却手段2とは、図示省略するが、一組のユニットとされており、相対位置変更手段は、例えば、そのユニット内において、レーザ照射手段1と冷却手段2との夫々固定位置を変更可能にする治具(基盤)としている。
さらに、本願発明において、このユニットと材料Wとの(材料Wの切断線に沿った)相対位置変化は、どちらを移動させてもよい。なお、以下の説明では、ユニット側を材料Wの切断を意図する線(切断線)に沿って移動させるとして説明する。なお、切断線は仮想上の線であり、切断装置と材料Wの向き(ユニットの移動方向)により決定されるものである。
【0017】
また、本発明においては分断に必要な応力を発生させるために、加熱開始点乃至その近傍では速やかに、材料Wの温度を上昇させ、表面で派生した熱が内部に伝搬するまでは表面を溶融させることなく熱量を供給し、材料内部に加熱領域を形成した後は、速やかに加熱を終了させるよう設定している。つまり、材料Wにおける熱分布は、図3に示すよう設定すればよい。具体的には、図4に示すような分布のレーザを照射している。この分布では、加熱開始時に大きなレーザパワーにより速やかに材料Wの温度を上昇させ、最適温度まで上昇させた後、内部に熱を伝搬させる間一定又はそれに近い材料温度に保持し、表面及び内部に分断発生に必要な応力を発生させる熱分布を形成し、速やかに、与える熱エネルギーをゼロとする。つまり一方向にエネルギー分布を持ったレーザ分布が望ましい。
【0018】
そこで、本発明では、異なったエネルギーを持つ複数のビームによる列を形成し、これを材料Wに照射している。つまり、レーザ照射手段1は、一本のレーザビームBを複数本のビームbによるビーム列5とする変換手段(ビームスプリッタ)4を有し、ビーム列5による加熱エリアHの長手方向を脆性材料Wの切断線方向としている。
具体的に説明すると、図5はレーザ照射手段1の斜視図であり、レーザ照射手段1は、対面する一対のレーザ部分反射面10とレーザ全反射面9とを有する変換手段4を具備しており、レーザ部分反射面10に対してレーザ全反射面9方向外方位置から斜入射させた一本のレーザビームBを、レーザ部分反射面10による部分反射(及び透過)とレーザ全反射面9による全反射とによりレーザを分割し、順次レーザ部分反射面10を透過させ複数本のビームbによるビーム列5とするものである。
【0019】
図5では、一対の平行平面板のうち、脆性材料Wに対面する側の(下方側となる)一方を、使用するレーザビームBを透過させる適当な材料とし、それにコーティング処理(部分透過膜を形成)してレーザビームBを部分反射(減反射)させるよう施したものとして、レーザ部分反射面10としている。そして、レーザ部分反射面10より上方位置となる他方は、使用するレーザビームBを反射(全反射)させる材料とし、若しくは、ビームBを透過させる材料にコーティング処理を施して全反射させるようしてもよい。または、上記コーティングは平行平面板に直接施してもよく、又は、コーティング処理した別の板部材を貼り合わせたものとしてもよい。
【0020】
そして、図5に示すように、一本のレーザビームBを変換手段4の上方開口部13を通過させレーザ部分反射面10へ斜入射させ、出射面(部分反射面10の反対面)から一部が所定のパワーを持った一本目のビームbとして出射され、残りのビームは部分反射面10にて反射され対面側の全反射面9にて反射され一本目のビームbの第一反射面部14に隣りとなる部分反射面10の第二反射面部15に達する。そして、この第二反射面部15にて、同様に一部透過・残り反射が行われ、その後順次繰り返され、部分反射面10の最終反射面部16にて反射した残りのビームは、全反射面9にて全反射して、変換手段4の下方開口部17を通過して材料Wへ照射する。
【0021】
さらに、部分反射面10におけるビーム透過率は、図6に示すレーザ分布図のように、一本目のビームbのエネルギーが最大で、順次減少乃至一定となるよう設定している。つまり、各ビームbは、所定のエネルギーを有するよう(所定量のビームを透過させるよう)部分反射面10に、反射率が一定又は段階的変化するようコーティングを施している。これにより、本発明のレーザ照射手段1により材料Wに対して照射するレーザの分布は全体として、図6の破線に示すように考えられ、上述した図4のような最適な分布状態を得ることができる。
また、ビーム列5のビームbの本数は、図5に於ては5本としているが、脆性材料Wの特性、均一性等により変更すればよい。
【0022】
このようなレーザ照射手段1を有することにより、安定したエネルギー分布が得られ、かつ、安価な装置とすることができる。一方、図4のようなエネルギー分布をもつレーザを得るためには、他の手段として、レンズ・ミラー等の手段により得ることもできるが、問題点がある。つまり、非球面加工したレンズ・ミラーを用いれば可能であるが、レーザビームの入射位置がずれた場合、著しい分布の変動が発生するおそれがある。また、非球面のレーザ光学部品は高い精度が要求されるため、装置が非常に高価となる。これに対して、本発明によれば、これら問題点が解消できる。
さらに、グレーチングによりビームを分割する手段があるが、干渉角度によりエネルギー量が決まるため、必要とするエネルギー量に正確に分割することができない。
【0023】
さらに、複数枚の反射ミラーを使用した通常のビームスプリッタにより、ビームの分割は可能であるが、ミラー一枚毎の光軸調整が必要となり、また、その調整機構を設置するためのスペースが必要となるため、ビーム間隔が大きくなり調整の作業や調整後の精度保持に問題がある。また、CO レーザのようにレーザビーム径が約4mmといった太いビームを分割する場合、ミラー及びビーム間隔が大きくなるが、本発明の構成によれば、これらの不具合は解消できる。
【0024】
さらに、レーザ照射手段1は、分断する材料Wの外形寸法(厚さ)、特性によりビーム列5(加熱エリアH)の大きさを変更できるよう構成されている。つまり、変換手段4により加工された複数本のビームbは、ビーム列5となって材料Wを照射するが、このビーム列5による材料Wに対する加熱エリアH(ビーム列5)の長手方向寸法X及び幅方向寸法Yを調整自在とするレンズ手段6を有している。具体的に説明すると、図7に示すような光学系を変換手段4のレーザ出射側に設けており、2枚の半円筒形レンズ18,19を相互の軸心(焦線)が直交するように配設し、これらレンズ18,19の相互間隔を調整自在とし、ビーム列5の縦横寸法を独立して変更させている。
【0025】
これにより、図8に示すように部分反射面10を透過した変換手段4からのビーム列5は、先ず、第一レンズ18により、その幅方向寸法Yが縮められ、次いで、第二レンズ19により、その長手方向寸法Xが縮められ、最終的に、独立楕円形状のビームbの一部同士が重なり合って一つの略一文字状のビーム群となる。
また、これらのレンズ19,19に加えて、図示省略するが、例えば結像用凸レンズを加えてもよく、また、半円筒形レンズ18,19に結像用凸レンズの作用を組み込んだものとしてもよい。
【0026】
そして、図2に示すように、このビーム列5を脆性材料Wに対して斜め(角度θ)に照射(斜入射)させている。これによれば、レーザ照射手段1と冷却手段2とを物理的に接近させて配設しなくとも、ビーム列5による加熱エリアHの直後方を冷却手段2により冷却させることができ、ユニットの構成も容易となる。なお、冷却手段2により冷却冷媒を材料Wに対して垂直方向から与えるのが好ましく、また、レーザ照射手段1によるレーザは材料表面にて吸収される波長の場合、材料Wに対して斜め方向から照射しても、その吸収によって生じる加熱効率を低下させることがない。
【0027】
ビーム列5による加熱エリアHの形状(大きさ)について説明すると、脆性材料Wの厚さが0.4 mm〜1.0 mmまでの場合、長手方向寸法Xは10mm〜20mmで、幅方向寸法Yは0.6 mm〜1.2 mmとするのが好ましく、縦横比を15〜25とするのがさらに好ましい。本発明において具体的な実施例としては、厚さ0.4 mmのソーダガラスに対して、出力40WのCO レーザを光源として、レーザ照射手段1と冷却手段2とによるユニットの移動速度を250 mm/sec とすることにより、亀裂aを発生させることができた。この場合の切断精度は、長さ300mm にわたって振れが16μmであり、非常に高精度に割断ができた。
また、長手方向寸法Xが10mmで幅方向寸法Yが1.2 mmのとき、加熱エリアHと冷却ポイントCとの間隔Gは約8mmとなった。
【0028】
次に切断方法についてさらに説明すると、まず、脆性材料Wの表面の一端縁に、機械的に割断始点(微小Vノッチ)を加工する。そして、その極近傍にレーザ照射手段1からレーザを照射し局所的に加熱する。脆性材料Wの加熱を行うレーザは、一本のレーザビームBから成形した複数本のビームbによるビーム列5として行う。そしてこの照射による熱源を連続的に切断線に沿って移動させ、冷却手段2から冷却媒体を噴出し、切断線に沿って材料Wの所定位置を急冷する。これにより、割断始点から連続して材料W内部の熱応力により亀裂aを発生させる。つまり、脆性材料Wを切断線に沿って加熱し、切断線上を冷却して熱応力により、脆性材料Wの表面に一筋の亀裂aを生じさせ、後に説明するが、その亀裂aに沿って材料Wの分断を行う。
そして、冷却媒体としては、エア、エアと水の気液混流物、ヘリウム等のガス、液化ガス、ドライアイス等がある。
【0029】
熱応力による亀裂a発生についてさらに説明すると、材料Wの加熱を行うことにより、加熱された領域(加熱エリアHより広い範囲)は材料W内部で膨張しようと働き、その周囲の加熱されていない領域によって押し返されるために材料Wに圧縮応力が発生する。この後、加熱エリアHの後方側位置の冷却を行うと、熱膨張した部分が急激に収縮し引張応力が発生し、この引張応力が材料の破壊靱性値を超えた際に、材料表面に亀裂aを形成する。
【0030】
そして、冷却ポイントCは、加熱分布によって最適な部位が存在しており、その部位に正確に冷却作用を与える事で効率よく最大の引張応力を発生させることができる。つまり、冷却手段2による冷却ポイントCとしては、図1に示すように、脆性材料Wの切断線上で加熱による膨張により生ずる脆性材料Wの圧縮応力が引張応力へと変化する応力変曲点11乃至その近傍を冷却し、脆性材料Wの表面に亀裂aを生じさせるようすればよい。
具体的に説明すると、図1に示すように、材料Wにおいて加熱された領域は圧縮応力が作用するが、熱源(加熱エリアH)の移動方向前方側及び後方側には、(何もしない状態において)引張応力が作用している。そして、この内部応力が圧縮から引張に変化する点であって、加熱エリアHの後方側の切断線上の点を冷却すればよい。
【0031】
なお、この材料W内部に生じる応力は、例えば、有限要素法を用いて解析することができ、冷却すべき位置の特定が可能となる。つまり、材料の特性、熱源、熱源後方の熱分布等によって決定される位置に、圧縮応力から引張応力に変化する位置(変曲点)11が存在する。そして、この位置を中心としたエリアを冷却し、その変曲点11前後の温度差を拡大させることにより、発生する内部応力を最大にすることができる。この場合、亀裂aを発生させる引張応力は、変曲点11を越える位置で発生するため、冷却する面積は極めて小さくてよく、冷却量も材料の強度を超える応力が発生する一定量以上であればよいため、冷却量の変化に結果が影響されにくい。
【0032】
なお、この最適冷却位置よりも前方部位(熱源に近い部位)を冷却すると、加熱による圧縮応力を減少させるだけで、引張応力が発生するまでには至らず亀裂aが発生しない。
逆に、最適位置よりも後方部位を冷却すると、加熱された部位の温度が低下するため表面にて発生する応力が減少する。この場合、熱が材料内に伝導することで、応力発生に作用する体積が増加するため、総体として大きな応力が発生し亀裂aを発生させることがあるが、発生応力は、冷却する部分の面積・冷却作用の強さによって変化するため、制御が困難となってしまう。また、熱の広がりにより応力も広い範囲で発生し材料Wの深部にまで割断する作用が働いてしまい、表面に生ずる亀裂aの深さが深くなり、そのため不具合が生じるおそれがある。
【0033】
この不具合とは、材料W表面の亀裂aが深くなると、発生応力の及ばない材料深部が、表面亀裂の機械的作用により左右方向に開かれる。結果として材料Wは分断できるが、切り残る部分が少なくなると材料強度が小さくなり、表面の大きな応力により切り残る部分が部分的に不均一に破壊され、シャークティースと呼ばれる切断不良現象による傷が発生する。この傷があると、これを基点として予期せぬ破壊が発生し、材料強度の低下を招き、切断結果として望ましくないものとなる。従って、最適位置を外して冷却すると、これら不具合が発生することとなる。
【0034】
さらに、この熱応力により形成する亀裂aは材料Wの終端縁まで生じさせないようするのが好ましい。つまり、亀裂aが終端縁の放熱面の状態により切断を意図する方向とは異なる方向に曲がったり、又は、進んできた亀裂aが終端縁に近づくことによって、終端縁が応力に耐えられず、進行してきた亀裂aとは逆向きに終端縁から別の亀裂(進行してきた亀裂aとは方向性が異なる亀裂)が発生するのを防ぐためであり、終端縁における最終的な歪みを防ぐためである。
【0035】
そのため冷却手段2は、上述したように冷却媒体を噴出する噴出手段7と、冷却媒体の脆性材料Wへの吹きつけを遮断するシャッター手段8と、を有している。つまり、材料Wの終端縁手前の所定位置(亀裂aを停止させたい位置)において、ソレノイド等の電気的手段により高速駆動できるアクチュエータを作動させ、シャッター手段8のシャッター板20を材料Wと噴出手段7との間に移動させ(図2の状態)、冷却媒体を遮り、亀裂aの進展を停止させる。なお、終端縁手前の所定位置としては、終端縁より2mm程度の位置が好ましい。これにより、滑らかな切断面が得られる。
【0036】
照射させるレーザを材料Wの終端手前で停止させる手段も考えられるが、ビーム列5は進行方向に対して長い形状を有するため、材料内部の温度変化は進行方法に緩やかに変化しているため、加熱を急停止させても材料内の熱の伝導により、発生する応力が緩やかに減少していく。そして、放熱などの外部要因により加熱停止位置と亀裂停止位置の関係は変動するため、その制御は非常に困難である。
一方、亀裂aは急激な温度変化によって発生するため、本発明のように冷却側を制御することにより亀裂位置の制御が可能となる。
または、材料終端部をマスキングし、レーザ加熱及び冷却を終端部において行わないようしてもよく、これにより、亀裂aを終端縁まで進展させることがない。
【0037】
また、本発明の切断装置は、熱応力により生じさせた脆性材料Wの表面における亀裂aを脆性材料Wの厚さ方向に進行させる超音波発生手段12を有している。つまり、超音波により局所的に材料内部に応力を発生させ、熱応力により生じさせた亀裂aを、脆性材料Wの厚さ方向に材料Wの裏面側まで進行させ、材料Wを分断するものである。
上述したように熱応力により発生させた亀裂aは、図9の亀裂aを生じさせた脆性材料Wの斜視図に示すように、機械的カッターと異なりマイクロクラック(微細な多方向へ向いた小亀裂)の無い亀裂aが得られるが、逆に、マイクロクラックが無いため、材料Wを亀裂aに沿って割断するためには、単なる衝撃力で亀裂aが材料Wの厚さ方向に進展することは希であり、図10の断面図に示すように、亀裂aを開く方向に応力を作用させる必要がある。
【0038】
そこで、本発明では、超音波発生手段12として、図11に示すようにブレーカアーム21の基端部に圧電素子22を貼付け、先端部に材料Wとの密着性を高めるため樹脂部材又は硬質ゴム部材等の当接部材23が貼付けられたものを用いている。これによれば、材料表面の亀裂a上又はその近傍部位にブレーカアーム21(当接部材23)を接触させ超音波を発生させると、超音波は材料Wの面に垂直、即ち裏面へ向かって材料内を伝搬する。材料内部に進行した超音波は、気体や液体では縦波であるが、固体中では縦波だけではなく、変位が進行方法と垂直な横波の作用も持つこととなる。これは、縦方向の圧縮のみならず横方向のズレに対しても復元力を示すという固体の特殊性によるものである。これにより、亀裂aの先端には、超音波の伝搬に伴い開く方向の応力と閉じる方向の応力が交互に作用し、開く方向の応力により表面に形成された亀裂aは、材料Wの裏面に向かって進行する。
【0039】
また、超音波発生手段12の他の例として、図12に示すように、アーム21を円弧当接面を有するブロック体として、アーム全長にわたって材料Wと接触させるようしてもよい。つまり、アーム21又は材料Wを揺動させ部分的に相互接触させてもよい。
さらに、超音波発生手段12の別の例としては、図13に示すように、超音波発生部をローラに取着し、材料Wの表面にローラを接触させ走行させてもよい。
また、超音波の発生は圧電素子によるものに限らず、コイル等の電磁的手段、音叉等の振動による方法でもよい。
【0040】
【発明の効果】
本発明は上述の構成により次のような効果を奏する。
【0041】
(請求項1によれば)脆性材料Wを過熱することなく、高精度に亀裂aを発生させることができる。従って、亀裂aに沿って切断後、その切断面において研磨等の2次加工が不要となる。脆性材料Wの特性等に応じて、加熱エリアHと冷却ポイントCとの間隔Gを調整でき、効率よく亀裂aを発生させるために最適な冷却位置を簡単に設定できる。
【0042】
(請求項2によれば)割断に最適なエネルギー分布を有する熱源を材料Wに与えることができ、エネルギー効率が良い。
(請求項3によれば)様々な特性、形状の脆性材料Wに対応させることができる。
また、加熱エリアHと冷却ポイントCとの間隔Gが小さい場合においても、レーザ照射手段1と冷却手段2とを干渉させることなく離して配置でき、さらに、エネルギーのロスがなく適切な作業が可能となる。
【0043】
(請求項4によれば)所望する位置にて冷却媒体の材料Wへの噴出を停止でき、熱応力による亀裂aの発生を迅速かつ正確な位置にて停止させることができる。材料Wの端縁手前にて亀裂aの発生を停止させることが可能となり、表面亀裂a成形後、材料Wを分割した場合、材料Wの終端部において亀裂進展が不安定になることがなく、より一層切断面の精度を高めることができる。
(請求項5によれば)小さなエネルギーにより、亀裂aを材料Wの厚さ方向に進展させることができ、材料Wの厚さ方向に曲げにくい構造や形状の材料であっても、容易に精度良く材料を分断することができる。
【0044】
(請求項6によれば)極めて簡単な構成により、一本のレーザビームBを複数本のビームbに加工することができる。さらに、低コストの装置とすることができる。複数本のビームbの間隔を小さくすることが可能となり、また、装置をコンパクトにすることができる。
割断に最適なエネルギー分布を有する熱源を材料Wに与えることができ、エネルギー効率が良い。
【0045】
(請求項7によれば)冷却位置を最適位置である応力敷居発生場所(応力変曲点11)とすることで、材料W自体を予熱等することなく、作業の安定化、高速化が図れる。脆性材料Wを過熱することなく、高精度に亀裂aを発生させることができる。従って、亀裂aに沿って切断後、切断面の研磨等の2次加工が不要となる。
【0046】
(請求項8によれば)割断に最適なエネルギー分布を有する熱源を材料Wに与えることができ、エネルギー効率が良い。
【0047】
(請求項9によれば)脆性材料Wを曲げる又は衝撃を加える等の大きな力(応力)が不要であり、材料Wの厚さ方向に曲げにくい構造や形状の材料であっても、容易に精度良く材料を分断することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の切断装置による亀裂発生を説明する脆性部材の平面図である。
【図2】本発明の切断装置の実施の一形態を示す斜視図である。
【図3】理想的な熱分布を説明する説明図である。
【図4】レーザのエネルギー分布を説明する説明図である。
【図5】変換手段の斜視図である。
【図6】変換手段により得られるビーム列のエネルギー分布を示す説明図である。
【図7】レンズ手段の斜視図である。
【図8】レンズ手段によるビーム列の変換の様子を説明する説明図である。
【図9】亀裂が生じた脆性材料の斜視図である。
【図10】亀裂が生じた脆性材料の割断を説明する断面図である。
【図11】超音波発生手段の一例を示す正面図である。
【図12】超音波発生手段の他の例を示す斜視図である。
【図13】超音波発生手段の別の例を示す斜視図である。
【図14】従来の切断装置に使用されるレーザビームのエネルギー分布を説明する説明図である。
【図15】従来の切断装置に使用されるレーザビームによる脆性材料の温度分布を説明する説明図である。
【符号の説明】
1 レーザ照射手段
2 冷却手段
3 相対位置変更手段
4 変換手段
5 ビーム列
6 レンズ手段
7 噴出手段
8 シャッター手段
9 全反射面
10 部分反射面
11 応力変曲点
12 超音波発生手段
a 亀裂
B レーザビーム
b ビーム
C 冷却ポイント
G 間隔
H 加熱エリア
W 脆性材料
X 長手方向寸法
Y 幅方向寸法

Claims (9)

  1. 熱応力によって脆性材料(W)の表面に亀裂(a)を生じさせ該亀裂(a)に沿って分断を行う切断装置に於て、切断線に沿って上記脆性材料(W)を加熱するレーザ照射手段(1)と、該レーザ照射手段(1)による加熱エリア(H)に間隔(G)をもって追従して該脆性材料(W)を冷却する冷却手段(2)と、該加熱エリア(H)と該冷却手段(2)による冷却ポイント(C)との上記間隔(G)を変更可能とする相対位置変更手段と、を備えたことを特徴とする切断装置。
  2. 上記レーザ照射手段(1)は、一本のレーザビーム(B)を複数本のビーム(b)によるビーム列(5)とする変換手段(4)を有し、該ビーム列(5)による加熱エリア(H)の長手方向を上記脆性材料(W)の上記切断線方向とした請求項1記載の切断装置。
  3. 上記レーザ照射手段(1)は、上記ビーム列(5)による加熱エリア(H)の長手方向寸法(X)及び幅方向寸法(Y)を調整自在とするレンズ手段(6)を有し、該ビーム列(5)を上記脆性材料(W)に対して斜めに照射させる請求項2記載の切断装置。
  4. 上記冷却手段(2)は、冷却媒体の噴出手段(7)と、該冷却媒体の上記脆性材料(W)への吹きつけを遮断するシャッター手段(8)と、を有する請求項1、2又は3記載の切断装置。
  5. 熱応力により生じさせた上記脆性材料(W)の表面における亀裂(a)を該脆性材料(W)の厚さ方向に進行させる超音波発生手段(12)を有する請求項1,2,3又は4記載の切断装置。
  6. 脆性材料(W)を切断線に沿ってレーザ照射手段(1)により加熱し冷却手段(2)により冷却して熱応力により該脆性材料(W)の表面に亀裂(a)を生じさせ該亀裂(a)に沿って分断を行う切断装置であって、上記レーザ照射手段(1)が、対面する一対のレーザ部分反射面(10)とレーザ全反射面(9)とを有し、斜入射させた一本のレーザビーム(B)を順次該レーザ部分反射面(10)を透過させ複数本のビーム(b)によるビーム列(5)とすることを特徴とする切断装置。
  7. 脆性材料(W)を切断線に沿って加熱し、該切断線上を冷却して熱応力により該脆性材料(W)の表面に亀裂(a)を生じさせ該亀裂(a)に沿って分断を行う切断方法であって、上記脆性材料(W)の上記切断線上で上記加熱による膨張により生ずる該脆性材料(W)の圧縮応力が引張応力へと変化する応力変曲点(11)乃至その近傍を冷却し、該脆性材料(W)の表面に亀裂(a)を生じさせることを特徴とする切断方法。
  8. 上記脆性材料(W)の加熱を、一本のレーザビーム(B)から成形した複数本のビーム(b)によるビーム列(5)として行う請求項7記載の切断方法。
  9. 熱応力により生じさせた上記脆性材料(W)の表面における亀裂(a)を、超音波により該脆性材料(W)の厚さ方向に進行させる請求項7又は8記載の切断方法。
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