JP2004153146A - 超電導マグネット装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】品質の向上した高性能の超電導マグネット装置を提供する。
【解決手段】本発明は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置であって、耐歪み性の低い細径Nb3Sn系超電導コイルに替えて耐歪み性の高いNb3Al系超電導コイル(5)を配置した事を特徴とする超電導マグネット装置である。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置であって、耐歪み性の低い細径Nb3Sn系超電導コイルに替えて耐歪み性の高いNb3Al系超電導コイル(5)を配置した事を特徴とする超電導マグネット装置である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導コイルを同心円状に複数層に配置した高磁場発生用の超電導マグネット装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
NMR用マグネット等の高磁場発生用の超電導マグネット装置では、1つの超電導コイルを用いてそのコイル内に所望の高磁場を発生させるよりも、複数層の超電導コイルを同心円状に積層配置して中央空間に各コイルの合成磁場を発生させる方式の方が、設計上の自由度も大きく且つ製作も容易である事から多層コイル方式が一般的に採用されている。
【0003】
この多層コイル方式では、内側層には、臨界磁場の高い超電導線で形成したコイルが配置され、外側層には、臨界磁場の低い超電導線で形成したコイルが使用されている。特に、同一材料の超電導線を用いたコイルであっても、磁場が高くなると単位断面積当たりの許容電流値は低くなり、しかも、複数層の各コイルは直列に接続されて同一電流が流れる様になっているので、内側の超電導コイルに使用する超電導線は相対的に太径となし、外側の超電導コイルの径は相対的に細径となすのが一般的である。
【0004】
例えば、950MHzクラス以上のNMR用マグネットの場合には、その代表例の断面概念図を図5に示している様に、内側からNb3Al系超電導コイル6、太径線材のNb3Sn系超電導コイル1、中太線材のNb3Sn系超電導コイル2、細径線材のNb3Sn系超電導コイル3及び細径線材の2層のNbTi系超電導コイル4の順に配置されており、臨界磁場が高く、単位断面積当たりの許容電流値の高いNb3Al系超電導コイル6や太径線材のNb3Sn系超電導コイル1が内側に配置された構成となっている。
【0005】
即ち、主磁場発生用の最内層のNb3Al系超電導コイル6及びその外側のNb3Sn系超電導コイル1〜3と、主磁場の減衰補償用の内側NbTi系超電導コイル4aと、磁場均一度補償用の外側NbTi系コイル4bとから構成されている。
【0006】
尚、この様に高磁場発生用の超電導マグネット装置の最内層にNb3Al系超電導コイル6を配置し、その外側にNb3SnやTi3Sn系の超電導コイルを配置する事は、特許文献1に開示されている。
【0007】
一方、900MHzクラス以下のNMR用マグネット、例えば500〜800MHzクラスのNMR用マグネットの場合には、その代表例の断面概念図を図4に示している様に、内側から順次、太径線材のNb3Sn系超電導コイル1、中太線材のNb3Sn系超電導コイル2、細径線材のNb3Sn系超電導コイル3、細径線材の2層のNbTi系超電導コイル4が配置されており、単位断面積当たりの許容電流値の高い太径線材のNb3Sn系超電導コイル1が最内側に配置され、前記臨界電流値の高い最内層のNb3Al系コイル6が省略されて簡略化された構成となっている。
【0008】
即ち、基本的には、特許文献2に開示されている様に、内側層に高価ではあるが比較的臨界電流値の高いNb3Sn系超電導コイル1が配置され、外側層に安価ではあるが超電導特性の低いNbTi系超電導コイル4が配置された構成となっている。
【0009】
更に、要求磁場強度の低い超電導マグネット装置の場合、例えば300〜400MHzの場合には、NbTi系超電導コイルのみが使用されている。
【0010】
【特許文献1】
特開平6−158212号公報(段落0019の実施例5及び図4参照)
【特許文献2】
特開平11−87129号公報(図面及び段落0002参照)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
NMR用マグネットには、永久電流モードで運転し、その過程における磁場減衰を小さくする事が要求されており、超電導コイル全体の抵抗を10−10Ω以下に抑えなければならない。又、近年需要が高まっているタンパク質の解析等に用いられるNMRでは、安定な磁場が要求され、そのドリフト値は10Hz/hr以下が要求されている。しかしながら、同一構成の超電導マグネット装置であっても、その製品毎に品質が安定せず、マグネットが所定の性能を発揮し得ない事態が頻発していた。
【0012】
例えば、図7は、前述の図4に示した多層コイル構造の超電導マグネット装置を製造した際の製造された各超電導マグネット装置のドリフト値のバラツキを示したグラフであり、横軸に各超電導マグネット装置の製造ロット番号を示し、縦軸に各超電導マグネット装置のドリフト値(Hz/hr)を示している。ドリフト値は、超電導マグネット装置全体の抵抗に関連しており、抵抗値が大きくなる程ドリフト値が大きくなるので、ドリフト値が小さい程、品質の良い超電導マグネット装置と言える。この例では、前述のドリフト値(10Hz/hr以下)を満足しないスペックアウトの不良品が17ロット中に6つも生じている。この不良品については、不良部分を特定して、その不良部分の取り替えを行う等の煩雑な作業が要求され、製造コストを押し上げる要因にもなっていた。
【0013】
上記不良品について研究したところ、図4に示した中央の細径線材を用いたNb3Sn系超電導コイル3(図中、太枠で示したコイル)の抵抗が大きくなっている事が判明し、更に調査研究を行った結果、細径Nb3Sn超電導線の熱処理後の工程において、Nb3Sn線が力学的ダメージを受け、その性能が低下している事が判明した。
【0014】
即ち、この部分のNb3Sn系超電導コイル3では、細径線材同士を接続する際に、熱処理済みの線材のバリアや酸化膜を削り取る工程が不可欠であり、この工程において、細いNb3Sn系超電導線は、曲がり等の変形を受け易く、力学的なダメージを受けてしまう事が頻発し、このため、一部に不良が生じた結果、一部の超電導コイルのみならず、超電導マグネット装置全体として用を成さない事になっていたのである。
【0015】
この点を図6の試験結果によって説明する。図6は、超電導線材としてNb3SnとNb3Alとを選択し、その両者に対して加えられた歪みによる超電導特性の変化の状態を示したグラフであり、横軸は超電導線に加えられた歪み(ε,%)を示し、縦軸は4.2K,12T(テスラ)における超電導材料の歪み付与後の臨界電流値と歪み付与前の臨界電流値との比(Ir)を示している。
【0016】
同グラフにおいて、○印は、ニオブのパイプ内にアルミニウム棒を挿入し、これを急加熱急冷却してNbとAlとの界面にNb3Alを生成させたNb3Al系コイル(RHQT RIT Nb3Al)であり、△印は、ニオブ棒の外周面にアルミニウム箔とニオブ箔とを重ねて巻き付け、これを急加熱急冷却してNb箔とAl箔との界面にNb3Alを生成させたNb3Al系コイル(RHQT JR Nb3Al)であり、*印は、ニオブ棒の外周面にアルミニウム箔とニオブ箔とを重ねて巻き付け、これを低温で拡散接合させてNb箔とAl箔との界面にNb3Alを生成させたNb3Al系コイル(low−temperature JR Nb3Al)であり、+印は、核融合炉用のNb3Sn(ITER Nb3Sn)系コイルの実測値を示している。
【0017】
同図からも明らかな様に、Nb3Sn系コイルでは、歪みの発生と共に、その性能は著しく低下し、0.3%歪みでは初期の55%程度にまで低下している。一方、Nb3Al系コイルでは、0.3%歪みでも初期の97%以上の性能を発揮している。この事から、Nb3Sn系超電導線の耐歪み性は低いが、Nb3Al系超電導線は、多少の歪みが加えられても、その性能低下は極めて小さく、耐歪み性に優れている事が分かる。
【0018】
上記試験結果から、ドリフト値を小さく抑えるには、コイルの接続抵抗を小さくすると共に、線材の歪みによって抵抗が発生しない様にする事も重要な要素である事実が判明した。従来の超電導コイルの製造においては、Nb3Sn線材の熱処理後において僅かな歪みが加わるだけで、その特性が大きく低下し、マグネットが所定の性能を発揮し得ない事態が頻発していたと言える。
【0019】
尚、前記特許文献1には、Nb3Al線材を用いた超電導マグネット装置が開示されているが、この装置は、Nb3Al系超電導線の持つ高い臨界磁場特性を利用するために最内層にNb3Al系超電導コイルを配置するものであって、その外層に前述の細径Nb3Sn系超電導線を用いたコイルを用いているので、上記した細径Nb3Sn系超電導線を用いた事による問題点は、そのまま保有している。
【0020】
一方、最近応用が進んでいる無冷媒型超電導マグネット装置において、直径の大きなステンレス製巻枠にNb3Sn系超電導線を捲着して超電導マグネットを製作すると、熱処理後の前記巻枠とNb3Sn系超電導線の熱収縮差によって、超電導コイルに変形が生じ、超電導特性が著しく低下する減少が生じている。
【0021】
例えば、変形した超電導コイルを用いて励磁試験を行ったところ、要求磁場が僅か0.7Tであるにも拘らず0.3Tまでしか励磁出来なかった。これも前述したNb3Sn系超電導線が局部的に歪みを受けた事により、Nb3Sn系超電導線の特性が著しく低下した結果と考えられる。
【0022】
本発明は、係る問題点に鑑み、従来構造の多層型超電導マグネット装置の製造過程に発生する品質のバラツキを解消し、高品質の超電導マグネット装置を安定して製造する事ができる新規な超電導マグネット装置を提供する事を目的とするものである。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものであって、その特徴とするころは、耐歪み性能の低いNb3Sn系超電導線に代えて、耐歪み性能の高いNb3Al系超電導線を使用するものである。
【0024】
本発明の請求項1に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の内側層にNb3Sn系超電導コイルを、最外層にNbTi系超電導コイルを夫々配置すると共に、中間層にNb3Al系超電導コイルを配置した事を特徴とするものである。
これにより、耐歪み性の低い細径のNb3Sn系超電導線を使用する中間層に、耐歪み性の高いNb3Al系超電導コイルを配置しているので、製作時に捲線時や巻枠との熱膨張係数の相違により超電導線に多少の歪みが生じても、安定した超電導特性を発揮する事が可能となる。
【0025】
又、請求項2に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の最内層にNb3Al系超電導コイルを配置し、その外側層にNb3Sn系超電導コイルとNb3Al系超電導コイルとを順次配置すると共に、最外層にNbTi系超電導コイルを配置したものである。
この様に、臨界電流値が高いNb3Al系超電導コイルを最内層にも使用する事により、一層の高磁場用超電導マグネット装置においても、安定した品質の装置の製造を可能となすものである。
【0026】
又、請求項3に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の超電導コイルは、Nb3Al系超電導コイルとNbTi系超電導コイルとを有し、前記Nb3Al系超電導コイルは前記NbTi系超電導コイルの内側層に配置されてなるものである。
これにより、磁場強度の高いNb3Al系超電導コイルを内側に配置し、磁場強度が比較的低く且つ比較的安価なNbTi系超電導コイルを外側に配置する様にしているので、超電導マグネット装置の製造コストを低減させる事が期待される。
【0027】
又、請求項4に記載の超電導マグネット装置は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記NbTi系超電導コイルは、少なくとも2層から形成されているものである。
これにより、設計の自由度と容易化が可能となる。
【0028】
又、請求項5に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の超電導コイルの内、巻枠直径が500mm以上の超電導コイルの少なくとも1つは、Nb3Al系超電導コイルで形成されているものである。
これは、Nb3Al系超電導線の高い耐歪み性に鑑み、細径超電導線を用いる事の多い中外層部分にNb3Al系超電導線を用いる事により、超電導マグネット装置全体のドリフト値の上昇を抑える効果を期待するものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を、図面及び実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る超電導マグネット装置の実施の形態例を示す断面概念図であり、図4に示した従来の700〜800MHz用超電導マグネット装置に本発明を適用した場合の例を示すものであって、図4との構成の相違点は、図4の細径Nb3Sn系超電導コイル3に代えてNb3Al系超電導コイル5を配置した点である。
【0030】
即ち、最内層は高磁場のため単位面積当たりの許容電流値が低くなるが、内外層共に同一電流が流れるため、該最内層には、太径のNb3Sn系超電導線を用いた超電導コイル1が配置され、第2層目には、最内層よりも磁場は低いので、その分線径を細くした中太径のNb3Sn系超電導線を用いた超電導コイル2が配置され、その外側に、本発明の特徴であるNb3Al系超電導線を用いた超電導コイル5が配置され、外側層4は、最も磁場が低いので、磁場強度は低いが安価で加工の比較的容易なNbTi系超電導線を用いた2層の超電導コイル4a,4bが配置された構成となしている。
【0031】
次に、この本発明に係る超電導マグネット装置の特性について、実際の製造例(実施例1)によって説明する。図1に示した構成の超電導マグネット装置を10台製造し、前記図4の装置と同様に、各装置のドリフト値を測定した。その結果を図2に示す。
【0032】
図2は、前述の図7に対応するグラフであり、横軸は各装置の製造ロット番号を示し、縦軸は各装置のドリフト値(Hz/hr)を示している。同図から明らかな様に、10台の装置の全てが要求ドリフト値である10Hz/hrを満足するのみならず、全てが2Hz/hr以下という従来の装置では達成出来なかった極めて低いドリフト値が得られている。
【0033】
これは、Nb3Al系超電導線を用いた事により、耐歪み性が向上した結果、製造過程において同程度の歪みが生じても、超電導コイルとしての特性が低下しなかった事によるものである。
【0034】
次に、本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例について説明する。この超電導マグネット装置は、その断面概念図である図3に示されている様に、前述の図5に示した従来の高磁場用の超電導マグネット装置と同様に、前記図1の超電導マグネット装置の最内層に前記Nb3Al系超電導線で形成した超電導コイル6を配置して、950MHz以上の高磁場発生用の超電導マグネット装置となしたものである。
【0035】
この装置においても、中間部に位置する超電導コイルに、耐歪み性を有するNb3Al系超電導線を用いたNb3Al系超電導コイル5を配置しているので、図1で説明した様に安定した高磁場発生用の超電導マグネット装置を製造する事が可能となる。
【0036】
次に、本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例について説明する。最近は、冷媒として液体ヘリウムを用いる事なく冷凍機を用いて液体ヘリウム温度まで冷却する無冷媒型超電導マグネット装置が普及しつつある。この場合には、一般には前述の比較的低磁場発生用の超電導コイル構成である内層側Nb3Sn系超電導コイルと外層側NbTi系超電導コイルとの組み合わせが採用されている。
【0037】
例えば、磁気分離用の超電導マグネット装置の場合には、要求磁場強度はさほど高くはないが、頻繁に励磁と消磁とが繰り返されるため、交流ロスによる発熱が生じ、マグネットが昇温傾向にある。そこで、この発熱を前記冷凍機によって補償すると共に、NbTi系超電導コイルよりも臨界温度が高いというNb3Sn系超電導線の特性を生かすべく、該無冷媒型超電導マグネット装置の内層側にNb3Sn系超電導コイルが配置されている。
【0038】
そこで、係る比較的低磁場発生用のマグネット装置における前記Nb3Sn系超電導コイルに代えて、前記超電導特性に優れたNb3Al系超電導コイルを使用すれば、装置の高磁場化に対応できるのみならず、Nb3Al系超電導線が耐歪み性に優れている事から、製品品質も安定化も図る事が可能となる。
【0039】
尚、上記説明では、内側層にNb3Al系超電導コイルを配置し、その外側層にNbTi系超電導コイルを配置した2層構造について説明したが、これらの中間層に他の超電導コイル、例えばNb3Sn系超電導コイルや酸化物系超電導コイルを配置する事も可能であり、又、冷却システムも前記冷凍機を用いる無冷媒方式の他、従来の液体ヘリウムを用いる方式も採用可能である事はいうまでもない。
【0040】
次に、本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例について説明する。前記Nb3Sn系超電導コイルを使用する超電導マグネット装置において、前記Nb3Sn系超電導コイルを捲着する巻枠のボア径が大きな場合には、Nb3Sn系超電導線の耐歪み性の低さに起因する問題が生じている。
【0041】
例えば、Nb3Sn系超電導線を、捲着胴径が900mmのステンレス製巻枠に捲着し、その外側にNbTi系超電導コイルを配置した構成の磁気分離用超電導マグネット装置の場合には、熱処理後のステンレス製巻枠とNb3Snとの熱収縮差によって、Nb3Sn線材の一部がこぶ状に盛り上がり、ここに大きな歪みが生じて超電導特性を著しく低下させる問題が生じる場合がある。
【0042】
実際の例において、要求磁場は僅か0.7Tの磁気分離用の低磁場超電導マグネット装置であり、理論的にはNbTi系超電導コイルのみでも達成可能な磁場レベルであったが、実際に励磁試験を行ったところ、0.3T程度にしか上がらなかったという例もある。
【0043】
そこで、実施例2として上記Nb3Sn系超電導コイルに代わって耐歪み性の高い前記Nb3Al系超電導線を用いた超電導マグネット装置、即ち、内側層にNb3Al系超電導コイルを配置し外側層に前記NbTi系超電導コイルを配置した装置を製作して励磁試験を行ったところ、問題なく定格磁場の0.7Tに達した。
【0044】
磁気分離のための励磁,消磁の繰り返し試験では、マグネットの温度が8.7Kまで上昇したが、Nb3Al系超電導線の高い臨界温度のため、装置の性能低下を生じる事なく、安定した正常動作が継続された。尚、Nb3Al系超電導コイルは、Nb3Al系線材を一旦熱処理して、その後に巻枠に捲着させる所謂リアクトアンドワインド法で製作されたものである。
【0045】
これにより、ボア系が大きな超電導コイルにおいても、その製造工程において、超電導線の巻枠と線材との熱収縮差により線材に歪みが生じても、超電導特性を大きく低下させる事なく安定した超電導マグネット装置を製造する事が可能となる。
【0046】
即ち、Nb3Al系超電導線を用いた超電導コイルは耐歪み性が高いので、ボア径の大きな巻枠に捲着した場合でも、熱処理による捲着線材と巻枠との熱収縮率の差によって生じる捲着線材の歪みに起因する超電導特性の低下を最小限に抑える事が可能である。この効果は、巻枠の径が大きいほど顕著になるが、巻枠直径(捲着胴部直径)が500mmより小さいと、従来のNb3Sn系超電導コイルでも使用可能である。従って、本発明では、500mm以上の巻枠直径を有する超電導コイルをNb3Al系超電導コイルとするものである。この場合には、その内側層にNb3Sn系超電導コイルを配置し、その外側層にNbTi系超電導コイルを配置してもよい事は言うまでもない。又、その他の線材で形成した超電導コイルを配置してもよい事は言うまでもない。
【0047】
以上の説明からも明らかな通り、本発明は、Nb3Al系超電導線は、Nb3Sn系超電導線に比して耐歪み性に優れているとの知見に基づいて構成されたものであるので、上記した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した思想の範囲内において、種々の変形例が存在する事はいうまでもない。
【0048】
特に、Nb3Al系超電導線の線径については、その配置位置に応じて適宜決定すれば良く、一般に内側層に配置されるほど太い線径が選択される事は前述の通りである。
【0049】
又、超電導コイルの冷却手段も、液体ヘリウムを用いる方式でも、冷凍機を用いる無冷媒方式であっても良いが、前記請求項3及び請求項5に記載した発明には、冷凍機を用いる無冷媒方式が好ましい。
【0050】
更に、各請求項に記載した発明において、使用する超電導線としては、各請求項に記載した線材の他、酸化物系超電導線を含めて、適宜装入配置する事も可能である。
【0051】
例えば、請求項1の発明においては、内側層のNb3Sn系超電導コイルと中間層のNb3Al系超電導コイルとの間、又は該Nb3Al系超電導コイルと外側層のNbTi系超電導コイルとの間に他の合金系或いは酸化物系の超電導コイルを、目的に応じて適宜配置する事は可能であり、本発明は、これらの他の合金系或いは酸化物系の超電導線との組み合わせ使用を排除するものではない。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述した如く、上記実施の形態例によれば、従来の細径Nb3Sn系超電導線を用いていた部分を耐歪み性の優れたNb3Al系超電導線に置き換えているので、従来のNb3Sn系超電導線の製作時に不可避的に生じる加工歪みによる超電導マグネットの性能低下の問題が無くなり、安定した高品質の超電導マグネット装置を提供する事が可能となる。
【0053】
又、上記他の実施の形態例によると、中間層にNb3Al系超電導コイルを配置しているので、上記第1の発明の効果が期待されると共に、最内層にも臨界電流値の高いNb3Al系超電導コイルを配置しているので、高磁場発生用の超電導マグネット装置についても、安定した高品質の装置を製造する事が可能となる。
【0054】
又、上記他の実施の形態例によると、比較的安価で且つ磁場強度の比較的低いNbTi系超電導コイルを用いる超電導マグネット装置において、該NbTi系超電導コイルの内側層に、耐歪み性に優れ且つ臨界温度の高いNb3Al系超電導コイルを配置した構成を採用しているので、NbTi系超電導コイルを採用しつつも比較的高い磁場を発生させる超電導マグネット装置を安価で且つ安定した品質で製造する事が可能となり、特に、励磁,消磁を繰り返す様な使用の場合には、Nb3Al系超電導線の高い臨界温度のため、安定して長期間にわたる励磁,消磁の繰り返しが可能になる。
【0055】
又、上記他の実施の形態例によると、巻枠直径が500mm以上の超電導コイルの少なくとも1つを、耐歪み性に優れたNb3Al系超電導コイルで形成しているので、細径超電導線を用いる事の多い中外層部分を、品質の安定したNb3Al系超電導コイルに置き換える事が可能となり、超電導マグネット装置全体のドリフト値の上昇を抑え且つ製作時の歪みによる性能低下も抑えられ、全体として高品質の装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超電導マグネット装置の実施の形態例を示す断面概念図である。
【図2】図1における超電導マグネット装置の実製品のドリフト値を示すグラフである。
【図3】本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例の断面概念図である。
【図4】従来の超電導マグネット装置の一例を示す断面概念図である。
【図5】従来の超電導マグネット装置の他の例を示す断面概念図である。
【図6】図6は、Nb3Al系超電導線とNb3Sn系超電導線の歪みによる性能低下の関係を示すグラフである。
【図7】図4における従来の超電導マグネット装置の実製造品のドリフト値を示すグラフである。
【符号の説明】
1 Nb3Sn系超電導コイル
2 Nb3Sn系超電導コイル
3 Nb3Sn系超電導コイル
4 NbTi系超電導コイル
4a 内側NbTi系超電導コイル
4b 外側NbTi系超電導コイル
5 Nb3Al系超電導コイル
6 Nb3Al系超電導コイル
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導コイルを同心円状に複数層に配置した高磁場発生用の超電導マグネット装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
NMR用マグネット等の高磁場発生用の超電導マグネット装置では、1つの超電導コイルを用いてそのコイル内に所望の高磁場を発生させるよりも、複数層の超電導コイルを同心円状に積層配置して中央空間に各コイルの合成磁場を発生させる方式の方が、設計上の自由度も大きく且つ製作も容易である事から多層コイル方式が一般的に採用されている。
【0003】
この多層コイル方式では、内側層には、臨界磁場の高い超電導線で形成したコイルが配置され、外側層には、臨界磁場の低い超電導線で形成したコイルが使用されている。特に、同一材料の超電導線を用いたコイルであっても、磁場が高くなると単位断面積当たりの許容電流値は低くなり、しかも、複数層の各コイルは直列に接続されて同一電流が流れる様になっているので、内側の超電導コイルに使用する超電導線は相対的に太径となし、外側の超電導コイルの径は相対的に細径となすのが一般的である。
【0004】
例えば、950MHzクラス以上のNMR用マグネットの場合には、その代表例の断面概念図を図5に示している様に、内側からNb3Al系超電導コイル6、太径線材のNb3Sn系超電導コイル1、中太線材のNb3Sn系超電導コイル2、細径線材のNb3Sn系超電導コイル3及び細径線材の2層のNbTi系超電導コイル4の順に配置されており、臨界磁場が高く、単位断面積当たりの許容電流値の高いNb3Al系超電導コイル6や太径線材のNb3Sn系超電導コイル1が内側に配置された構成となっている。
【0005】
即ち、主磁場発生用の最内層のNb3Al系超電導コイル6及びその外側のNb3Sn系超電導コイル1〜3と、主磁場の減衰補償用の内側NbTi系超電導コイル4aと、磁場均一度補償用の外側NbTi系コイル4bとから構成されている。
【0006】
尚、この様に高磁場発生用の超電導マグネット装置の最内層にNb3Al系超電導コイル6を配置し、その外側にNb3SnやTi3Sn系の超電導コイルを配置する事は、特許文献1に開示されている。
【0007】
一方、900MHzクラス以下のNMR用マグネット、例えば500〜800MHzクラスのNMR用マグネットの場合には、その代表例の断面概念図を図4に示している様に、内側から順次、太径線材のNb3Sn系超電導コイル1、中太線材のNb3Sn系超電導コイル2、細径線材のNb3Sn系超電導コイル3、細径線材の2層のNbTi系超電導コイル4が配置されており、単位断面積当たりの許容電流値の高い太径線材のNb3Sn系超電導コイル1が最内側に配置され、前記臨界電流値の高い最内層のNb3Al系コイル6が省略されて簡略化された構成となっている。
【0008】
即ち、基本的には、特許文献2に開示されている様に、内側層に高価ではあるが比較的臨界電流値の高いNb3Sn系超電導コイル1が配置され、外側層に安価ではあるが超電導特性の低いNbTi系超電導コイル4が配置された構成となっている。
【0009】
更に、要求磁場強度の低い超電導マグネット装置の場合、例えば300〜400MHzの場合には、NbTi系超電導コイルのみが使用されている。
【0010】
【特許文献1】
特開平6−158212号公報(段落0019の実施例5及び図4参照)
【特許文献2】
特開平11−87129号公報(図面及び段落0002参照)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
NMR用マグネットには、永久電流モードで運転し、その過程における磁場減衰を小さくする事が要求されており、超電導コイル全体の抵抗を10−10Ω以下に抑えなければならない。又、近年需要が高まっているタンパク質の解析等に用いられるNMRでは、安定な磁場が要求され、そのドリフト値は10Hz/hr以下が要求されている。しかしながら、同一構成の超電導マグネット装置であっても、その製品毎に品質が安定せず、マグネットが所定の性能を発揮し得ない事態が頻発していた。
【0012】
例えば、図7は、前述の図4に示した多層コイル構造の超電導マグネット装置を製造した際の製造された各超電導マグネット装置のドリフト値のバラツキを示したグラフであり、横軸に各超電導マグネット装置の製造ロット番号を示し、縦軸に各超電導マグネット装置のドリフト値(Hz/hr)を示している。ドリフト値は、超電導マグネット装置全体の抵抗に関連しており、抵抗値が大きくなる程ドリフト値が大きくなるので、ドリフト値が小さい程、品質の良い超電導マグネット装置と言える。この例では、前述のドリフト値(10Hz/hr以下)を満足しないスペックアウトの不良品が17ロット中に6つも生じている。この不良品については、不良部分を特定して、その不良部分の取り替えを行う等の煩雑な作業が要求され、製造コストを押し上げる要因にもなっていた。
【0013】
上記不良品について研究したところ、図4に示した中央の細径線材を用いたNb3Sn系超電導コイル3(図中、太枠で示したコイル)の抵抗が大きくなっている事が判明し、更に調査研究を行った結果、細径Nb3Sn超電導線の熱処理後の工程において、Nb3Sn線が力学的ダメージを受け、その性能が低下している事が判明した。
【0014】
即ち、この部分のNb3Sn系超電導コイル3では、細径線材同士を接続する際に、熱処理済みの線材のバリアや酸化膜を削り取る工程が不可欠であり、この工程において、細いNb3Sn系超電導線は、曲がり等の変形を受け易く、力学的なダメージを受けてしまう事が頻発し、このため、一部に不良が生じた結果、一部の超電導コイルのみならず、超電導マグネット装置全体として用を成さない事になっていたのである。
【0015】
この点を図6の試験結果によって説明する。図6は、超電導線材としてNb3SnとNb3Alとを選択し、その両者に対して加えられた歪みによる超電導特性の変化の状態を示したグラフであり、横軸は超電導線に加えられた歪み(ε,%)を示し、縦軸は4.2K,12T(テスラ)における超電導材料の歪み付与後の臨界電流値と歪み付与前の臨界電流値との比(Ir)を示している。
【0016】
同グラフにおいて、○印は、ニオブのパイプ内にアルミニウム棒を挿入し、これを急加熱急冷却してNbとAlとの界面にNb3Alを生成させたNb3Al系コイル(RHQT RIT Nb3Al)であり、△印は、ニオブ棒の外周面にアルミニウム箔とニオブ箔とを重ねて巻き付け、これを急加熱急冷却してNb箔とAl箔との界面にNb3Alを生成させたNb3Al系コイル(RHQT JR Nb3Al)であり、*印は、ニオブ棒の外周面にアルミニウム箔とニオブ箔とを重ねて巻き付け、これを低温で拡散接合させてNb箔とAl箔との界面にNb3Alを生成させたNb3Al系コイル(low−temperature JR Nb3Al)であり、+印は、核融合炉用のNb3Sn(ITER Nb3Sn)系コイルの実測値を示している。
【0017】
同図からも明らかな様に、Nb3Sn系コイルでは、歪みの発生と共に、その性能は著しく低下し、0.3%歪みでは初期の55%程度にまで低下している。一方、Nb3Al系コイルでは、0.3%歪みでも初期の97%以上の性能を発揮している。この事から、Nb3Sn系超電導線の耐歪み性は低いが、Nb3Al系超電導線は、多少の歪みが加えられても、その性能低下は極めて小さく、耐歪み性に優れている事が分かる。
【0018】
上記試験結果から、ドリフト値を小さく抑えるには、コイルの接続抵抗を小さくすると共に、線材の歪みによって抵抗が発生しない様にする事も重要な要素である事実が判明した。従来の超電導コイルの製造においては、Nb3Sn線材の熱処理後において僅かな歪みが加わるだけで、その特性が大きく低下し、マグネットが所定の性能を発揮し得ない事態が頻発していたと言える。
【0019】
尚、前記特許文献1には、Nb3Al線材を用いた超電導マグネット装置が開示されているが、この装置は、Nb3Al系超電導線の持つ高い臨界磁場特性を利用するために最内層にNb3Al系超電導コイルを配置するものであって、その外層に前述の細径Nb3Sn系超電導線を用いたコイルを用いているので、上記した細径Nb3Sn系超電導線を用いた事による問題点は、そのまま保有している。
【0020】
一方、最近応用が進んでいる無冷媒型超電導マグネット装置において、直径の大きなステンレス製巻枠にNb3Sn系超電導線を捲着して超電導マグネットを製作すると、熱処理後の前記巻枠とNb3Sn系超電導線の熱収縮差によって、超電導コイルに変形が生じ、超電導特性が著しく低下する減少が生じている。
【0021】
例えば、変形した超電導コイルを用いて励磁試験を行ったところ、要求磁場が僅か0.7Tであるにも拘らず0.3Tまでしか励磁出来なかった。これも前述したNb3Sn系超電導線が局部的に歪みを受けた事により、Nb3Sn系超電導線の特性が著しく低下した結果と考えられる。
【0022】
本発明は、係る問題点に鑑み、従来構造の多層型超電導マグネット装置の製造過程に発生する品質のバラツキを解消し、高品質の超電導マグネット装置を安定して製造する事ができる新規な超電導マグネット装置を提供する事を目的とするものである。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものであって、その特徴とするころは、耐歪み性能の低いNb3Sn系超電導線に代えて、耐歪み性能の高いNb3Al系超電導線を使用するものである。
【0024】
本発明の請求項1に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の内側層にNb3Sn系超電導コイルを、最外層にNbTi系超電導コイルを夫々配置すると共に、中間層にNb3Al系超電導コイルを配置した事を特徴とするものである。
これにより、耐歪み性の低い細径のNb3Sn系超電導線を使用する中間層に、耐歪み性の高いNb3Al系超電導コイルを配置しているので、製作時に捲線時や巻枠との熱膨張係数の相違により超電導線に多少の歪みが生じても、安定した超電導特性を発揮する事が可能となる。
【0025】
又、請求項2に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の最内層にNb3Al系超電導コイルを配置し、その外側層にNb3Sn系超電導コイルとNb3Al系超電導コイルとを順次配置すると共に、最外層にNbTi系超電導コイルを配置したものである。
この様に、臨界電流値が高いNb3Al系超電導コイルを最内層にも使用する事により、一層の高磁場用超電導マグネット装置においても、安定した品質の装置の製造を可能となすものである。
【0026】
又、請求項3に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の超電導コイルは、Nb3Al系超電導コイルとNbTi系超電導コイルとを有し、前記Nb3Al系超電導コイルは前記NbTi系超電導コイルの内側層に配置されてなるものである。
これにより、磁場強度の高いNb3Al系超電導コイルを内側に配置し、磁場強度が比較的低く且つ比較的安価なNbTi系超電導コイルを外側に配置する様にしているので、超電導マグネット装置の製造コストを低減させる事が期待される。
【0027】
又、請求項4に記載の超電導マグネット装置は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記NbTi系超電導コイルは、少なくとも2層から形成されているものである。
これにより、設計の自由度と容易化が可能となる。
【0028】
又、請求項5に記載の超電導マグネット装置は、超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、前記複数層の超電導コイルの内、巻枠直径が500mm以上の超電導コイルの少なくとも1つは、Nb3Al系超電導コイルで形成されているものである。
これは、Nb3Al系超電導線の高い耐歪み性に鑑み、細径超電導線を用いる事の多い中外層部分にNb3Al系超電導線を用いる事により、超電導マグネット装置全体のドリフト値の上昇を抑える効果を期待するものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を、図面及び実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る超電導マグネット装置の実施の形態例を示す断面概念図であり、図4に示した従来の700〜800MHz用超電導マグネット装置に本発明を適用した場合の例を示すものであって、図4との構成の相違点は、図4の細径Nb3Sn系超電導コイル3に代えてNb3Al系超電導コイル5を配置した点である。
【0030】
即ち、最内層は高磁場のため単位面積当たりの許容電流値が低くなるが、内外層共に同一電流が流れるため、該最内層には、太径のNb3Sn系超電導線を用いた超電導コイル1が配置され、第2層目には、最内層よりも磁場は低いので、その分線径を細くした中太径のNb3Sn系超電導線を用いた超電導コイル2が配置され、その外側に、本発明の特徴であるNb3Al系超電導線を用いた超電導コイル5が配置され、外側層4は、最も磁場が低いので、磁場強度は低いが安価で加工の比較的容易なNbTi系超電導線を用いた2層の超電導コイル4a,4bが配置された構成となしている。
【0031】
次に、この本発明に係る超電導マグネット装置の特性について、実際の製造例(実施例1)によって説明する。図1に示した構成の超電導マグネット装置を10台製造し、前記図4の装置と同様に、各装置のドリフト値を測定した。その結果を図2に示す。
【0032】
図2は、前述の図7に対応するグラフであり、横軸は各装置の製造ロット番号を示し、縦軸は各装置のドリフト値(Hz/hr)を示している。同図から明らかな様に、10台の装置の全てが要求ドリフト値である10Hz/hrを満足するのみならず、全てが2Hz/hr以下という従来の装置では達成出来なかった極めて低いドリフト値が得られている。
【0033】
これは、Nb3Al系超電導線を用いた事により、耐歪み性が向上した結果、製造過程において同程度の歪みが生じても、超電導コイルとしての特性が低下しなかった事によるものである。
【0034】
次に、本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例について説明する。この超電導マグネット装置は、その断面概念図である図3に示されている様に、前述の図5に示した従来の高磁場用の超電導マグネット装置と同様に、前記図1の超電導マグネット装置の最内層に前記Nb3Al系超電導線で形成した超電導コイル6を配置して、950MHz以上の高磁場発生用の超電導マグネット装置となしたものである。
【0035】
この装置においても、中間部に位置する超電導コイルに、耐歪み性を有するNb3Al系超電導線を用いたNb3Al系超電導コイル5を配置しているので、図1で説明した様に安定した高磁場発生用の超電導マグネット装置を製造する事が可能となる。
【0036】
次に、本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例について説明する。最近は、冷媒として液体ヘリウムを用いる事なく冷凍機を用いて液体ヘリウム温度まで冷却する無冷媒型超電導マグネット装置が普及しつつある。この場合には、一般には前述の比較的低磁場発生用の超電導コイル構成である内層側Nb3Sn系超電導コイルと外層側NbTi系超電導コイルとの組み合わせが採用されている。
【0037】
例えば、磁気分離用の超電導マグネット装置の場合には、要求磁場強度はさほど高くはないが、頻繁に励磁と消磁とが繰り返されるため、交流ロスによる発熱が生じ、マグネットが昇温傾向にある。そこで、この発熱を前記冷凍機によって補償すると共に、NbTi系超電導コイルよりも臨界温度が高いというNb3Sn系超電導線の特性を生かすべく、該無冷媒型超電導マグネット装置の内層側にNb3Sn系超電導コイルが配置されている。
【0038】
そこで、係る比較的低磁場発生用のマグネット装置における前記Nb3Sn系超電導コイルに代えて、前記超電導特性に優れたNb3Al系超電導コイルを使用すれば、装置の高磁場化に対応できるのみならず、Nb3Al系超電導線が耐歪み性に優れている事から、製品品質も安定化も図る事が可能となる。
【0039】
尚、上記説明では、内側層にNb3Al系超電導コイルを配置し、その外側層にNbTi系超電導コイルを配置した2層構造について説明したが、これらの中間層に他の超電導コイル、例えばNb3Sn系超電導コイルや酸化物系超電導コイルを配置する事も可能であり、又、冷却システムも前記冷凍機を用いる無冷媒方式の他、従来の液体ヘリウムを用いる方式も採用可能である事はいうまでもない。
【0040】
次に、本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例について説明する。前記Nb3Sn系超電導コイルを使用する超電導マグネット装置において、前記Nb3Sn系超電導コイルを捲着する巻枠のボア径が大きな場合には、Nb3Sn系超電導線の耐歪み性の低さに起因する問題が生じている。
【0041】
例えば、Nb3Sn系超電導線を、捲着胴径が900mmのステンレス製巻枠に捲着し、その外側にNbTi系超電導コイルを配置した構成の磁気分離用超電導マグネット装置の場合には、熱処理後のステンレス製巻枠とNb3Snとの熱収縮差によって、Nb3Sn線材の一部がこぶ状に盛り上がり、ここに大きな歪みが生じて超電導特性を著しく低下させる問題が生じる場合がある。
【0042】
実際の例において、要求磁場は僅か0.7Tの磁気分離用の低磁場超電導マグネット装置であり、理論的にはNbTi系超電導コイルのみでも達成可能な磁場レベルであったが、実際に励磁試験を行ったところ、0.3T程度にしか上がらなかったという例もある。
【0043】
そこで、実施例2として上記Nb3Sn系超電導コイルに代わって耐歪み性の高い前記Nb3Al系超電導線を用いた超電導マグネット装置、即ち、内側層にNb3Al系超電導コイルを配置し外側層に前記NbTi系超電導コイルを配置した装置を製作して励磁試験を行ったところ、問題なく定格磁場の0.7Tに達した。
【0044】
磁気分離のための励磁,消磁の繰り返し試験では、マグネットの温度が8.7Kまで上昇したが、Nb3Al系超電導線の高い臨界温度のため、装置の性能低下を生じる事なく、安定した正常動作が継続された。尚、Nb3Al系超電導コイルは、Nb3Al系線材を一旦熱処理して、その後に巻枠に捲着させる所謂リアクトアンドワインド法で製作されたものである。
【0045】
これにより、ボア系が大きな超電導コイルにおいても、その製造工程において、超電導線の巻枠と線材との熱収縮差により線材に歪みが生じても、超電導特性を大きく低下させる事なく安定した超電導マグネット装置を製造する事が可能となる。
【0046】
即ち、Nb3Al系超電導線を用いた超電導コイルは耐歪み性が高いので、ボア径の大きな巻枠に捲着した場合でも、熱処理による捲着線材と巻枠との熱収縮率の差によって生じる捲着線材の歪みに起因する超電導特性の低下を最小限に抑える事が可能である。この効果は、巻枠の径が大きいほど顕著になるが、巻枠直径(捲着胴部直径)が500mmより小さいと、従来のNb3Sn系超電導コイルでも使用可能である。従って、本発明では、500mm以上の巻枠直径を有する超電導コイルをNb3Al系超電導コイルとするものである。この場合には、その内側層にNb3Sn系超電導コイルを配置し、その外側層にNbTi系超電導コイルを配置してもよい事は言うまでもない。又、その他の線材で形成した超電導コイルを配置してもよい事は言うまでもない。
【0047】
以上の説明からも明らかな通り、本発明は、Nb3Al系超電導線は、Nb3Sn系超電導線に比して耐歪み性に優れているとの知見に基づいて構成されたものであるので、上記した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した思想の範囲内において、種々の変形例が存在する事はいうまでもない。
【0048】
特に、Nb3Al系超電導線の線径については、その配置位置に応じて適宜決定すれば良く、一般に内側層に配置されるほど太い線径が選択される事は前述の通りである。
【0049】
又、超電導コイルの冷却手段も、液体ヘリウムを用いる方式でも、冷凍機を用いる無冷媒方式であっても良いが、前記請求項3及び請求項5に記載した発明には、冷凍機を用いる無冷媒方式が好ましい。
【0050】
更に、各請求項に記載した発明において、使用する超電導線としては、各請求項に記載した線材の他、酸化物系超電導線を含めて、適宜装入配置する事も可能である。
【0051】
例えば、請求項1の発明においては、内側層のNb3Sn系超電導コイルと中間層のNb3Al系超電導コイルとの間、又は該Nb3Al系超電導コイルと外側層のNbTi系超電導コイルとの間に他の合金系或いは酸化物系の超電導コイルを、目的に応じて適宜配置する事は可能であり、本発明は、これらの他の合金系或いは酸化物系の超電導線との組み合わせ使用を排除するものではない。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述した如く、上記実施の形態例によれば、従来の細径Nb3Sn系超電導線を用いていた部分を耐歪み性の優れたNb3Al系超電導線に置き換えているので、従来のNb3Sn系超電導線の製作時に不可避的に生じる加工歪みによる超電導マグネットの性能低下の問題が無くなり、安定した高品質の超電導マグネット装置を提供する事が可能となる。
【0053】
又、上記他の実施の形態例によると、中間層にNb3Al系超電導コイルを配置しているので、上記第1の発明の効果が期待されると共に、最内層にも臨界電流値の高いNb3Al系超電導コイルを配置しているので、高磁場発生用の超電導マグネット装置についても、安定した高品質の装置を製造する事が可能となる。
【0054】
又、上記他の実施の形態例によると、比較的安価で且つ磁場強度の比較的低いNbTi系超電導コイルを用いる超電導マグネット装置において、該NbTi系超電導コイルの内側層に、耐歪み性に優れ且つ臨界温度の高いNb3Al系超電導コイルを配置した構成を採用しているので、NbTi系超電導コイルを採用しつつも比較的高い磁場を発生させる超電導マグネット装置を安価で且つ安定した品質で製造する事が可能となり、特に、励磁,消磁を繰り返す様な使用の場合には、Nb3Al系超電導線の高い臨界温度のため、安定して長期間にわたる励磁,消磁の繰り返しが可能になる。
【0055】
又、上記他の実施の形態例によると、巻枠直径が500mm以上の超電導コイルの少なくとも1つを、耐歪み性に優れたNb3Al系超電導コイルで形成しているので、細径超電導線を用いる事の多い中外層部分を、品質の安定したNb3Al系超電導コイルに置き換える事が可能となり、超電導マグネット装置全体のドリフト値の上昇を抑え且つ製作時の歪みによる性能低下も抑えられ、全体として高品質の装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る超電導マグネット装置の実施の形態例を示す断面概念図である。
【図2】図1における超電導マグネット装置の実製品のドリフト値を示すグラフである。
【図3】本発明に係る超電導マグネット装置の他の実施の形態例の断面概念図である。
【図4】従来の超電導マグネット装置の一例を示す断面概念図である。
【図5】従来の超電導マグネット装置の他の例を示す断面概念図である。
【図6】図6は、Nb3Al系超電導線とNb3Sn系超電導線の歪みによる性能低下の関係を示すグラフである。
【図7】図4における従来の超電導マグネット装置の実製造品のドリフト値を示すグラフである。
【符号の説明】
1 Nb3Sn系超電導コイル
2 Nb3Sn系超電導コイル
3 Nb3Sn系超電導コイル
4 NbTi系超電導コイル
4a 内側NbTi系超電導コイル
4b 外側NbTi系超電導コイル
5 Nb3Al系超電導コイル
6 Nb3Al系超電導コイル
Claims (5)
- 超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、
前記複数層の内側層にNb3Sn系超電導コイル(1)を、最外層にNbTi系超電導コイル(4)を夫々配置すると共に、中間層にNb3Al系超電導コイル(5)を配置した事を特徴とする超電導マグネット装置。 - 超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、
前記複数層の最内層にNb3Al系超電導コイル(6)を配置し、その外側層にNb3Sn系超電導コイル(1)とNb3Al系超電導コイル(5)とを順次配置すると共に、最外層にNbTi系超電導コイル(4)を配置した事を特徴とする超電導マグネット装置。 - 超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、
前記複数層の超電導コイルは、Nb3Al系超電導コイル(5,6)とNbTi系超電導コイル(4)とを有し、前記Nb3Al系超電導コイル(5,6)は前記NbTi系超電導コイル(4)の内側層に配置されてなる事を特徴とする超電導マグネット装置。 - 前記NbTi系超電導コイル(4)は、少なくとも2層(4a,4b)から形成されている請求項1乃至3のいずれかに記載の超電導マグネット装置。
- 超電導コイルを同心円状に複数層配置してなる超電導マグネット装置において、
前記複数層の超電導コイルの内、巻枠直径が500mm以上の超電導コイルの少なくとも1つは、Nb3Al系超電導コイル(5)で形成されている事を特徴とする超電導マグネット装置。
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