JP2004149904A - Ni基合金の熱処理方法及びコーティング除去方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】γ’相析出強化型Ni基合金により形成された動翼1の表面には、耐酸化コーティングが施されている。再コーティングをするためには、焼鈍炉2にて975°C〜1050°Cの温度で加熱してCr23C6型炭化物及び(Ti,Nb )C 型炭化物を共に固溶させてその存在量を低下させ、その後、残留応力を除去することができ且つ初期融解を生じない1050°C〜1250°Cの温度範囲で加熱をして残留応力を無くす。このようにして、炭化物を排除し且つ残留応力を無くした状態で、塩酸4により酸洗して、コーティングを除去するため、応力腐食割れは発生しない。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Ni基合金の熱処理方法及びコーティング除去方法に関し、応力腐食割れの発生や母材の強度・延性の低下を防止しつつ、残留応力を解除して酸洗によるコーティング除去ができるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
ガスタービンエンジンの各部品は、高温環境下で使用されるため耐熱性を有する材料により形成されている。例えば、ガスタービンの動翼はNi基合金で形成され、静翼や分割環はCo基合金で形成される。
【0003】
更に、これらの高温部品(動翼や静翼や分割環等)の表面には、耐酸化コーティングが施される。耐酸化コーティングとしては、CoNiCrAlY 合金等が採用される。
【0004】
このように、ガスタービンエンジンの高温部品には耐酸化コーティングが施されるが、コーティングの劣化に伴い再コーティングが必要となる。つまり、高温部品をガスタービンエンジンから取り外し、取り外した高温部品に対し再コーティングをする必要がある。その際、旧コーティングを完全に除去してから、新たなコーティング層を形成する必要がある。
【0005】
旧コーティングを除去する方法としては、グラインダを用いた研磨作業によりコーティングを除去する方法があるが、この方法では手間がかかると共に、作業者の技能により除去精度にバラツキが発生してしまい、ひいては、再コーティングしたコーティング層の品質が一定にならないという問題がある。
【0006】
そこで近年では、コーティングの除去は酸洗により実施されている。酸洗では、塩酸中に高温部品を浸漬してコーティングを溶かしてコーティングを除去するため、作業者の熟練を要することなく均一なコーティング除去ができる。
【0007】
ところで、動翼などのNi基合金で形成された高温部品を、酸洗してコーティング除去をすると、高温部品に応力腐食割れが発生することがあった。これは、高温部品には、ガスタービン使用中に発生した残留応力が存在しており、このように残留応力が存在している状態で、酸洗による腐食環境下に置かれると、残留応力と腐食環境と高温部品材料の劣化の影響が相俟って、応力腐食割れ(SCC)が発生してしまうのである。
なお、前述した研磨作業によりコーティング除去をする際には、腐食環境下に置かれるわけではないため、応力腐食割れは発生しない。
【0008】
このような応力腐食割れを抑制するためには、残留応力を除去する焼鈍を施す必要がある。しかし、ガスタービンエンジンの動翼のようなNi基合金で形成された高温部品は、Ni基合金にAl,Ti 等を添加してγ’相〔Ni3(Al,Ti)〕が結晶粒子中に析出して高温強度を高めたγ’相析出強化型合金であるため、応力除去焼鈍のためには1050°C以上での熱処理が必要であり、より効果的に応力除去をするためには1100°C以上での熱処理が必要である。
【0009】
このように、γ’相析出強化型のNi基合金を焼鈍する温度を、1050°C以上(好ましくは1100°C以上)にする必要があるのは、γ’相析出強化型Ni基合金は、高温になるほどγ’相の量が減少するためであり、γ’相量が減少するほど効果的に残留応力を除去できるからである。
【0010】
なお、耐SCC性を向上させるため、Ni基合金で形成された高温部品を、γ’相析出強化型合金とすることは、知られている(例えば特許文献1参照)。
また、動翼を形成するNi基合金は、Niを主材として、Cr,Co,Al,Ti,Mo,W,C,B,Nb を含んだ合金である。
【0011】
【特許文献1】
特開2001−123258 号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところで実機で長時間使用したNi基合金で形成された高温部品は、結晶粒界にCr23C6型炭化物が析出しており、これを残留応力除去のため1050°C以上の高温で加熱すると、当該温度においてCr23C6型炭化物は消失し、これに代わって安定な(Ti,Nb )C 型炭化物が生成する。
【0013】
このため、再コーティング及びそれに付随した熱処理後も、(Ti,Nb )C 型炭化物が母材(高温部品)の粒界に多量に存在することになる。
(Ti,Nb )C 型炭化物、一般的にはMC型炭化物(但しM は金属)は、Cr23C6型炭化物と比較して粒界強度に劣るため、母材の強度や延性を低下させてしまうという問題があった。つまり、MC型炭化物は硬くて脆く、強度や延性を低下させてしまうのである。
【0014】
本発明は、上記従来技術に鑑み、Ni基合金で形成された高温部品に発生した残留応力を除去するために焼鈍をしても、硬くて脆く母材の強度や延性を低下させてしまうMC型炭化物(例えば(Ti,Nb )C 型炭化物)の発生を抑制した、Ni基合金の熱処理方法及びコーティング除去方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明のNi基合金の熱処理方法の構成は、Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、結晶粒界から炭化物を排除することができる温度範囲で第1段階の加熱をし、
その後に、前記高温部品を、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で第2段階の加熱をしてから、焼鈍することを特徴とする。
【0016】
また本発明のNi基合金の熱処理方法の構成は、析出強化型Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、Cr23C6型炭化物及びMC型炭化物が共に固溶してその存在量が低下する温度範囲で第1段階の加熱をし、
その後に、前記高温部品を、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で第2段階の加熱をしてから、焼鈍することを特徴とする。
【0017】
また、本発明のNi基合金の熱処理方法の構成は、第1段階の加熱での温度範囲は、975°C〜1050°Cであり、第2段階の加熱での温度範囲は、1050°C〜1250°Cであることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明のNi基合金のコーティング除去方法の構成は、前記熱処理方法がされた前記Ni基合金を、酸中に浸漬して、前記コーティングを酸洗処理により除去することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のNi基合金の熱処理方法の構成は、Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、原子間における元素の移動が抑制される高い静水圧環境下で、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で加熱をしてから、焼鈍することを特徴とする。
【0020】
また本発明のNi基合金の熱処理方法の構成は、析出強化型Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、原子間における元素の移動が抑制される高い静水圧環境下で、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で加熱をしてから、焼鈍することを特徴とする。
【0021】
更に、本発明のNi基合金の熱処理方法の構成は、高い静水圧環境下で加熱する温度範囲は、1050°C〜1250°Cであることを特徴とする。
【0022】
また本発明のNi基合金のコーティング除去方法は、高い静水圧環境下で熱処理がされた前記Ni基合金を、酸中に浸漬して、前記コーティングを酸洗処理により除去することを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の方法をガスタービンの動翼に適用した第1の実施の形態を、図1を参照しつつ説明する。
【0025】
まず、ガスタービンの動翼1をガスタービンエンジンから取り外す。動翼1は、γ’相析出強化型のNi基合金であり、Niを主材として、Cr,Co,Al,Ti,Mo,W,C,B,Nb を含んでおり、高温強度を高めるCr23C6型炭化物が析出している。
この動翼1の表面には、CoNiCrAlY 合金等の耐酸化コーティングが施されている。
【0026】
本方法では、劣化した耐酸化コーティングを酸洗処理により除去する前に、次に示すような、残留応力除去のための焼鈍を施して、酸洗処理段階における応力腐食割れ(SCC)の発生を防止する。
【0027】
即ち、動翼1を焼鈍炉2に入れ、まず、Cr23C6型炭化物及び(Ti,Nb )C 型炭化物が共に固溶して、その存在量が低下する温度範囲で加熱する(これを第1段階の加熱と称する)。具体的には、975°C〜1050°Cの温度範囲で、4〜24時間加熱する。
このような加熱により、結晶粒界から炭化物、実質的にはC(炭素)を、予め排除することができる。
【0028】
第1段階の加熱を終了して、結晶粒界から炭化物、実質的にはC(炭素)を予め排除したら、第2段階の加熱をする。
【0029】
第2段階の加熱は、残留応力を除去することができ且つ初期融解を生じない範囲の温度範囲で加熱をする。具体的には、1050°C〜1250°Cの温度範囲で、1〜8時間加熱する。
第2段階の加熱をしていても、第1段階の加熱により炭化物を予め排除しているので、母材の強度や延性を低下させる(Ti,Nb )C 型炭化物が生成されることはない。
【0030】
第2段階の加熱が終了したら、加熱を停止して自然放熱(自然冷却)させて、動翼1を焼鈍させる。これにより、動翼1に存在していた残留応力が除去される。しかも、第1段階の加熱により、炭化物の発生を排除しているので、第2段階の加熱を経た後においても、母材の強度や延性を低下させる(Ti,Nb )C 型炭化物が生成されることはない。
【0031】
このようにして、残留応力が除去された動翼1を、槽3に貯留した塩酸4中に浸漬する。そうすると、動翼1の表面にコーティングされていた耐酸化コーティングは、酸洗処理により除去される。このとき、動翼1の残留応力は焼鈍により除去されているため、塩酸4の中(つまり腐食環境下)にあっても、応力腐食割れ(SCC)が発生することはない。
【0032】
酸洗処理により耐酸化コーティングが動翼1の表面から除去されたら、動翼1を塩酸4から引き上げ、水洗いした後に、動翼1の表面に新たな耐酸化コーティングを施す。新たな耐酸化コーティングが施された動翼1は、再び、ガスタービンエンジンに取り付けられる。
【0033】
結局、動翼1の母材の強度や延性を低下させることなく、旧コーティングを良好に除去することができる。つまり、(Ti,Nb )C 型炭化物の生成を抑えて焼鈍処理をすることができ、このため、その後の酸洗処理において、応力腐食割れの発生を防止することができる。
【0034】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の方法をガスタービンの動翼に適用した第2の実施の形態を、図2を参照しつつ説明する。
【0035】
まず、ガスタービンの動翼11をガスタービンエンジンから取り外す。動翼11は、γ’相析出強化型のNi基合金であり、Niを主材として、Cr,Co,Al,Ti,Mo,W,C,B,Nb を含んでおり、高温強度を高めるCr23C6型炭化物が析出している。この動翼11の表面には、CoNiCrAlY 合金等の耐酸化コーティングが施されている。
【0036】
この動翼11を、高温・高圧静水圧炉(いわゆるHIP炉)12に入れる。このHIP炉12内には、高圧のアルゴンガスが充填されており、1000〜1500気圧に保たれている。
【0037】
動翼11は、HIP炉12内の1000〜1500気圧の高圧環境下で、残留応力を除去することができ且つ初期融解を生じない範囲の温度範囲で加熱される。具体的には、1050°C〜1250°Cの温度範囲で、1〜8時間加熱する。
【0038】
このような高い静水圧下の環境では、原子間における元素の移動が抑制されるため、高温域における炭化物の変態、即ち、Cr23C6型炭化物が消失し、これに代わって(Ti,Nb )C 型炭化物が生成するという現象は発生しない。
【0039】
HIP炉12による加熱が終了したら、加熱を停止して自然放熱(自然冷却)させて、動翼11を焼鈍させる。これにより、動翼11に存在していた残留応力が除去される。しかも、高圧環境下による加熱により、炭化物の変態を抑制しているので、この加熱を経た後においても、母材の強度や延性を低下させる(Ti,Nb )C 型炭化物が生成されることはない。
【0040】
このようにして、残留応力が除去された動翼11を、槽13に貯留した塩酸14中に浸漬する。そうすると、動翼11の表面にコーティングされていた耐酸化コーティングは、酸洗処理により除去される。このとき、動翼11の残留応力は焼鈍により除去されているため、塩酸14の中(つまり腐食環境下)にあっても、応力腐食割れ(SCC)が発生することはない。
【0041】
酸洗処理により耐酸化コーティングが動翼11の表面から除去されたら、動翼11を塩酸14から引き上げ、水洗いした後に、動翼11の表面に新たな耐酸化コーティングを施す。新たな耐酸化コーティングが施された動翼11は、再び、ガスタービンエンジンに取り付けられる。
【0042】
結局、動翼1の母材の強度や延性を低下させることなく、旧コーティングを良好に除去することができる。つまり、Cr23C6型炭化物から(Ti,Nb )C 型炭化物への変態を抑えて焼鈍処理をすることができ、このため、その後の酸洗処理において、応力腐食割れの発生を防止することができる。
【0043】
なお、上記実施の形態では、Ni基合金の例として動翼を示したが、他の高温部品として使用されているNi基合金にも、本発明方法を適用することができることはいうまでもない。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のNi基合金の熱処理方法では、Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、結晶粒界から炭化物を排除することができる温度範囲で第1段階の加熱をし、
その後に、前記高温部品を、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で第2段階の加熱をしてから、焼鈍するようにした。
この場合、Ni基合金が析出強化型Ni基合金であるときには、第1段階の加熱は、Cr23C6型炭化物及びMC型炭化物が共に固溶してその存在量が低下する温度範囲で行う。
また加熱の温度範囲は、第1段階の加熱での温度範囲は、975°C〜1050°Cであり、第2段階の加熱での温度範囲は、1050°C〜1250°Cであるようにした。
このようにしたため、第1段階の加熱により、炭化物、具体的には母材の強度,延性を低下させるMC型炭化物を発生させることがなくなり、第2段階の加熱を経て焼鈍することにより、確実に残量応力を除去することができる。
【0045】
更に、本発明のNi基合金のコーティング除去方法の構成は、前記熱処理方法がされて残留応力が除去された前記Ni基合金を、酸中に浸漬して、コーティングを酸洗処理により除去するため、応力腐食割れの発生を防止することができる。
【0046】
また、本発明のNi基合金の熱処理方法では、Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、原子間における元素の移動が抑制される高い静水圧環境下で、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で加熱をしてから、焼鈍するようにした。
この場合、加熱の温度範囲は、1050°C〜1250°Cであるようにした。
このようにしたため、高い静水圧環境下での加熱により、母材の強度,延性を低下させるMC型炭化物を発生させることがなくなり、高い静水圧環境下での加熱を経て焼鈍することにより、確実に残量応力を除去することができる。
【0047】
更に、本発明のNi基合金のコーティング除去方法の構成は、高い静水圧環境下での加熱を経て残留応力が除去された前記Ni基合金を、酸中に浸漬して、コーティングを酸洗処理により除去するため、応力腐食割れの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す構成図。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す構成図。
【符号の説明】
1,11 動翼
2 焼鈍炉
3,13 槽
4,14 塩酸
12 HIP炉
Claims (8)
- Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、結晶粒界から炭化物を排除することができる温度範囲で第1段階の加熱をし、
その後に、前記高温部品を、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で第2段階の加熱をしてから、焼鈍することを特徴とするNi基合金の熱処理方法。 - 析出強化型Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、Cr23C6型炭化物及びMC型炭化物が共に固溶してその存在量が低下する温度範囲で第1段階の加熱をし、
その後に、前記高温部品を、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で第2段階の加熱をしてから、焼鈍することを特徴とするNi基合金の熱処理方法。 - 請求項1または請求項2において、
第1段階の加熱での温度範囲は、975°C〜1050°Cであり、
第2段階の加熱での温度範囲は、1050°C〜1250°Cであることを特徴とするNi基合金の熱処理方法。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の熱処理方法がされた前記Ni基合金を、酸中に浸漬して、前記コーティングを酸洗処理により除去することを特徴とするNi基合金のコーティング除去方法。
- Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、原子間における元素の移動が抑制される高い静水圧環境下で、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で加熱をしてから、焼鈍することを特徴とするNi基合金の熱処理方法。
- 析出強化型Ni基合金により形成されると共にコーティングが施された高温部品を、原子間における元素の移動が抑制される高い静水圧環境下で、残留応力を除去することができ且つ初期融解が生じない温度範囲で加熱をしてから、焼鈍することを特徴とするNi基合金の熱処理方法。
- 請求項5または請求項6において、
加熱する温度範囲は、1050°C〜1250°Cであることを特徴とするNi基合金の熱処理方法。 - 請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の熱処理方法がされた前記Ni基合金を、酸中に浸漬して、前記コーティングを酸洗処理により除去することを特徴とするNi基合金のコーティング除去方法。
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