JP2004149590A - 安定性を高めた芳香族ポリアミック酸溶液およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】芳香族ポリイミドの繊維あるいはフィルム等の成形物を製造する際の前駆体として好適な安定したポリアミック酸溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】30℃以下の温度に保持した芳香族ポリアミック酸の溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、系を減圧状態にして昇温を開始し、最終的に60℃から150℃の範囲の温度まで加熱して減圧蒸留により系内の水を取り除きながら攪拌混合する。
【選択図】 なし
【解決手段】30℃以下の温度に保持した芳香族ポリアミック酸の溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、系を減圧状態にして昇温を開始し、最終的に60℃から150℃の範囲の温度まで加熱して減圧蒸留により系内の水を取り除きながら攪拌混合する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法に関するものである。より詳しくは、芳香族ポリイミドの繊維あるいはフィルム等の成形物を製造する際に、その前駆体となる安定したポリアミック酸溶液の製造方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
芳香族環がイミド構造で結合されている芳香族ポリイミド樹脂は、その優れた耐熱性や機械特性を生かして電子実装用途を始めとする薄層電子部品の構成材料等へ用途展開が進んでいる。一般に、芳香族ポリイミド樹脂は溶媒に不溶である。従ってその製造には通常、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略する)等のアミド系溶媒の存在下、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる芳香族ポリアミック酸溶液をその前駆体として利用しており、例えばそれを溶液キャストした後、加熱によりアミック酸を脱水閉環してポリイミドのフィルムを得る、というプロセスにて製造されることが多い。
【0003】
かかる際に前駆体として用いられるポリアミック酸は、溶液中で加水分解により分子量低下を引き起こしやすいという特性があり、その溶液粘度は経時的に低下しやすいという傾向があった。特に高温状態では加水分解が促進され粘度低下を引き起こしやすい。このような溶液粘度の不安定さは、均質な製品が求められる実用化の面からは好ましくないものである。
【0004】
安定した溶液を得るには溶液中の水分を完全に除去することが必要であるが、一般にポリアミック酸溶液の溶媒として用いられるNMP等のアミド系溶媒は水と自由に相溶するため、実際の操作上水を完全に取り除くのは難しい。溶液中の水分としては、ポリアミック酸溶液中に予め存在していた水と、アミック酸が加熱により脱水閉環を起こしてイミド化する際に生じる水がある。後者の、溶液中での熱イミド化の際に生成する水を除去する方法としては、ポリアミック酸溶液に、新たに水と共沸する溶媒を加えて共沸蒸留する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかしながらかかる例は溶媒可溶性の特殊なポリイミドの場合であり、大部分のポリイミドは溶媒に不溶であるため適用することは困難である。
【0005】
すなわち、前駆体であるポリアミック酸溶液自体に関しては安定した溶液を製造する方法は未だかつて報告されておらず、いかにして溶液粘度の低下が少なく安定した溶液を製造するかその探索が必要とされていた。
【0006】
【非特許文献1】
Andrew E.Feiringら Macromolecules 1993,26,2779での2781ページ、Solution Polyimide欄
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、芳香族ポリアミック酸の溶液において、加水分解による経時的な溶液粘度の低下が抑えられた、安定した溶液の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、芳香族ポリアミック酸溶液の安定化方法を検討した結果、最初は低温に維持したポリアミック酸溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、温度制御しながら減圧蒸留することにより、安定したポリアミック酸溶液を製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、30℃以下の温度に保持した芳香族ポリアミック酸の溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、系を減圧状態にして昇温を開始し、最終的に60℃から150℃の範囲の温度まで加熱して減圧蒸留により系内の水を取り除きながら攪拌混合することを特徴とする、安定性を高めた芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法である。かかる際の好ましい芳香族ポリアミック酸として、実質的にp−フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物の反応で得られたものが挙げられる。また、水と共沸する溶媒としてN−シクロヘキシル−2−ピロリドンを好ましく挙げることが出来る。さらに本発明は、これらの製造方法により得られた芳香族ポリアミック酸溶液を含むものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
【0011】
本発明で用いられる芳香族ポリアミック酸とは、芳香族環がアミック酸の形で結合されたものであり、アミド系溶媒の存在下、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させることにより得られる。
【0012】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物として具体的には、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物などが挙げられる。また芳香族ジアミンとして具体的には、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられる。かかる芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンは、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の組成物として用いても良い。これらの組合せの中でも、ピロメリット酸二無水物とp−フェニレンジアミンとの反応で得られる芳香族ポリアミック酸が、剛直性が極めて高いという物性面および経済性の両面で優れており、好ましく挙げることが出来る。
【0013】
重合により得られる芳香族ポリアミック酸の分子量は、これらジアミンとテトラカルボン酸二無水物の比により制御できるが、ジアミンに対するテトラカルボン酸二無水物のモル比で、0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05の範囲で、用いることが好ましい。
【0014】
芳香族ポリアミック酸は、アミド系溶媒の存在下、溶液重合により得られる。かかる際に用いる溶媒としては、NMP、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミドおよびこれらの混合溶媒を挙げることが出来るが、実用上NMPが好ましく用いられる。ポリマー濃度としては、0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%である。重合は発熱反応であり、低温で行われる。
【0015】
本発明では、まずポリアミック酸溶液に、水と共沸する溶媒を加えた混合物を作ることになる。水と共沸する溶媒として、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどを例示することが出来る。これらの中でもN−シクロヘキシル−2−ピロリドンは、それ自身がアミド系溶媒でもあるので溶液に添加してもポリアミック酸の溶解性を妨げず、また水と相溶性があるので、該溶液を湿式製膜あるいは湿式紡糸にかける場合、通常水とNMPから構成される凝固浴にも容易に溶解するため好ましい溶媒と言える。水と共沸する溶媒の添加量は、溶液内に存在する水の量や溶媒の種類により異なるが、共沸により完全に水を取り除ける量でかつ、ポリアミック酸が析出しない範囲であり、通常ポリアミック酸溶液量に対して、1〜150重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲で選ばれる。
【0016】
本発明において、ポリアミック酸溶液に水と共沸する溶媒を加えた混合物を作る際は、ポリアミック酸の分解を抑制するため不活性ガス雰囲気下で出来る限り低い温度で混合することが好ましく、30℃以下とする。30℃より高い温度では、加水分解が進行しやすく減圧蒸留処理前にポリアミック酸の分子量低下を引き起こす恐れがあり好ましくない。
【0017】
共沸溶媒を加えて30℃以下に保ちながらある程度攪拌して混合した後、系を減圧状態にしてから昇温を開始する。かかる際の減圧度としては、内部の蒸気圧で0.5〜100mmHg、好ましくは1〜50mmHg、より好ましくは2〜40mmHgの範囲である。減圧度が高すぎると溶媒が留去しすぎるため好ましくなく、逆に減圧度が低すぎると、蒸留による留分が留出しにくくなるため好ましくない。減圧度は、蒸留途中で変更しても良いし、上記範囲内でコントロールすれば良い。本発明では、まだ昇温途中で温度が低いときには減圧度を高くしてなるべく速やかに水を留去し、次第に温度が上がってきたときには減圧度を下げて、溶媒が留去し過ぎるのを防ぐ方法が好ましく推奨される。
【0018】
本発明では、減圧蒸留の際あまり温度を上げすぎるとポリアミック酸のイミド化反応が進行し、溶媒に不溶化することにより析出あるいはゲル化を引き起こすことがあるので好ましくなく、それとは逆に温度をあまり上げないと、蒸留が充分に進まず好ましくない。具体的には系周囲の加熱浴の温度が60℃から150℃の範囲まで加熱して昇温する。好ましくは80℃から120℃の範囲である。温度が150℃より高くなると、熱イミド化が進行しやすくなり不溶化による析出あるいはゲル化を引き起こすことがあるので好ましくない。また温度が60℃より低いと、蒸留による水の除去が充分に進まず好ましくない。
【0019】
また、この際留分として共沸混合物の他にもともとのアミド系溶媒、例えばNMP自体が一部留去することになっても何ら差し支えなく、この場合留去量によりポリマー濃度を調整することも可能である。
【0020】
本発明の方法によれば、重合により得られたポリアミック酸の加水分解を出来る限り抑えながら、溶液系内に存在する水分を取り除くことが可能であり、加水分解の影響がほとんどない、高温おいても溶液粘度の安定した溶液を得ることが出来る。
【0021】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
製造例および実施例で用いた溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンは、東京化成(株)より試薬として購入し、蒸留精製を行い充分に乾燥したものを用いた。ピロメリット酸二無水物は、和光純薬工業(株)より試薬として購入したものを再結晶および昇華により精製したものを用いた。p−フェニレンジアミンは、和光純薬工業(株)より試薬として購入したものを蒸留精製して用いた。
【0023】
溶液粘度は以下のようにして測定した。
溶液粘度: 東機産業(株)製のB型粘度計(VTB−250,B8U型)を用いた。カップに溶液を加え窒素雰囲気下、回転数0.5rpmで測定した。
【0024】
[製造例1]
窒素雰囲気下でp−フェニレンジアミン5.41gをN−メチル−2−ピロリドン380mLに溶解し、この溶液を0℃まで冷却した後、激しく攪拌しながら無水ピロメリット酸二無水物の粉末10.91gを加えた。溶液は発熱しながら徐々に粘度が上昇していき透明な高粘度溶液となった。0℃に冷却したまま、無水ピロメリット酸二無水物を添加後5時間攪拌した。かくして得られた芳香族ポリアミック酸溶液の溶液粘度は、30℃で8,600psであった。
【0025】
[実施例1]
20℃に保持した製造例1で得られたポリアミック溶液300gに、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン75mLを加えた。かかる混合物を20℃で20分間攪拌した後、約5mmHgの減圧状態になるよう真空ポンプで系内を減圧にし、同時に昇温を開始した。昇温開始して25分後にオイルバスの温度は80℃に達したが、その時点で系内の圧力を約5mmHgから約15mmHgに上げた。その15分後にオイルバスの温度は100℃に達し、そのまま100℃、約15mmHgでさらに30分間減圧留去しながら攪拌を継続した。この後、窒素雰囲気下に戻し冷却したところ透明な溶液のままであった。この間、減圧蒸留により留去した溶媒量は41.6gであった。この溶液の溶液粘度は、30℃で7,200psであった。さらに窒素雰囲気下、100℃においてB型粘度計のカップ内に測定溶液を入れてローターを攪拌しながら溶液粘度の経時変化を測定したところ、測定開始して30分後で160ps、2時間後でも160psでほとんど変化がなく、高温でも安定な溶液であることが分かった。
【0026】
[比較例1]
実施例1と同様にして、製造例1で得られたポリアミック酸溶液300mLに、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン75mLを加えて、20℃から100℃まで昇温しながら減圧蒸留を行った。ここで系内の圧力を約15mmHgから約40mmHgに上げ、さらに昇温して20分後にオイルバス温度が160℃なった。この数分後から溶液が白濁化していきすぐに完全な乳褐色の懸濁溶液となり、透明性は完全に失われた。
【0027】
[比較例2]
実施例1でポリアミック酸溶液に加えたN−シクロヘキシル−2−ピロリドン75mLを加えなかった他は、実施例1と同様にして、20℃から100℃まで昇温しながら減圧蒸留を行った。その後窒素雰囲気下、室温に戻したところ実施例1と同じく溶液は透明なままであった。この間、減圧蒸留により留去した溶媒量は32.8gであった。しかしながらこの溶液の溶液粘度は、30℃でも480psと実施例1に比べて大幅に低下してしまい、実用には不適当なものとなった。
【0028】
【発明の効果】
本発明により、芳香族ポリアミック酸の安定した溶液を得ることが出来る。該溶液は、高温においてもポリアミック酸の加水分解による溶液粘度の低下が抑えられるため、芳香族ポリイミドフィルムあるいは繊維等の成形体を製造する際に、その前駆体溶液として有効である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法に関するものである。より詳しくは、芳香族ポリイミドの繊維あるいはフィルム等の成形物を製造する際に、その前駆体となる安定したポリアミック酸溶液の製造方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
芳香族環がイミド構造で結合されている芳香族ポリイミド樹脂は、その優れた耐熱性や機械特性を生かして電子実装用途を始めとする薄層電子部品の構成材料等へ用途展開が進んでいる。一般に、芳香族ポリイミド樹脂は溶媒に不溶である。従ってその製造には通常、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略する)等のアミド系溶媒の存在下、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる芳香族ポリアミック酸溶液をその前駆体として利用しており、例えばそれを溶液キャストした後、加熱によりアミック酸を脱水閉環してポリイミドのフィルムを得る、というプロセスにて製造されることが多い。
【0003】
かかる際に前駆体として用いられるポリアミック酸は、溶液中で加水分解により分子量低下を引き起こしやすいという特性があり、その溶液粘度は経時的に低下しやすいという傾向があった。特に高温状態では加水分解が促進され粘度低下を引き起こしやすい。このような溶液粘度の不安定さは、均質な製品が求められる実用化の面からは好ましくないものである。
【0004】
安定した溶液を得るには溶液中の水分を完全に除去することが必要であるが、一般にポリアミック酸溶液の溶媒として用いられるNMP等のアミド系溶媒は水と自由に相溶するため、実際の操作上水を完全に取り除くのは難しい。溶液中の水分としては、ポリアミック酸溶液中に予め存在していた水と、アミック酸が加熱により脱水閉環を起こしてイミド化する際に生じる水がある。後者の、溶液中での熱イミド化の際に生成する水を除去する方法としては、ポリアミック酸溶液に、新たに水と共沸する溶媒を加えて共沸蒸留する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかしながらかかる例は溶媒可溶性の特殊なポリイミドの場合であり、大部分のポリイミドは溶媒に不溶であるため適用することは困難である。
【0005】
すなわち、前駆体であるポリアミック酸溶液自体に関しては安定した溶液を製造する方法は未だかつて報告されておらず、いかにして溶液粘度の低下が少なく安定した溶液を製造するかその探索が必要とされていた。
【0006】
【非特許文献1】
Andrew E.Feiringら Macromolecules 1993,26,2779での2781ページ、Solution Polyimide欄
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、芳香族ポリアミック酸の溶液において、加水分解による経時的な溶液粘度の低下が抑えられた、安定した溶液の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、芳香族ポリアミック酸溶液の安定化方法を検討した結果、最初は低温に維持したポリアミック酸溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、温度制御しながら減圧蒸留することにより、安定したポリアミック酸溶液を製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、30℃以下の温度に保持した芳香族ポリアミック酸の溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、系を減圧状態にして昇温を開始し、最終的に60℃から150℃の範囲の温度まで加熱して減圧蒸留により系内の水を取り除きながら攪拌混合することを特徴とする、安定性を高めた芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法である。かかる際の好ましい芳香族ポリアミック酸として、実質的にp−フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物の反応で得られたものが挙げられる。また、水と共沸する溶媒としてN−シクロヘキシル−2−ピロリドンを好ましく挙げることが出来る。さらに本発明は、これらの製造方法により得られた芳香族ポリアミック酸溶液を含むものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
【0011】
本発明で用いられる芳香族ポリアミック酸とは、芳香族環がアミック酸の形で結合されたものであり、アミド系溶媒の存在下、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させることにより得られる。
【0012】
上記の芳香族テトラカルボン酸二無水物として具体的には、ピロメリット酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物などが挙げられる。また芳香族ジアミンとして具体的には、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられる。かかる芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンは、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上の組成物として用いても良い。これらの組合せの中でも、ピロメリット酸二無水物とp−フェニレンジアミンとの反応で得られる芳香族ポリアミック酸が、剛直性が極めて高いという物性面および経済性の両面で優れており、好ましく挙げることが出来る。
【0013】
重合により得られる芳香族ポリアミック酸の分子量は、これらジアミンとテトラカルボン酸二無水物の比により制御できるが、ジアミンに対するテトラカルボン酸二無水物のモル比で、0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05の範囲で、用いることが好ましい。
【0014】
芳香族ポリアミック酸は、アミド系溶媒の存在下、溶液重合により得られる。かかる際に用いる溶媒としては、NMP、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミドおよびこれらの混合溶媒を挙げることが出来るが、実用上NMPが好ましく用いられる。ポリマー濃度としては、0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%である。重合は発熱反応であり、低温で行われる。
【0015】
本発明では、まずポリアミック酸溶液に、水と共沸する溶媒を加えた混合物を作ることになる。水と共沸する溶媒として、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなどを例示することが出来る。これらの中でもN−シクロヘキシル−2−ピロリドンは、それ自身がアミド系溶媒でもあるので溶液に添加してもポリアミック酸の溶解性を妨げず、また水と相溶性があるので、該溶液を湿式製膜あるいは湿式紡糸にかける場合、通常水とNMPから構成される凝固浴にも容易に溶解するため好ましい溶媒と言える。水と共沸する溶媒の添加量は、溶液内に存在する水の量や溶媒の種類により異なるが、共沸により完全に水を取り除ける量でかつ、ポリアミック酸が析出しない範囲であり、通常ポリアミック酸溶液量に対して、1〜150重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲で選ばれる。
【0016】
本発明において、ポリアミック酸溶液に水と共沸する溶媒を加えた混合物を作る際は、ポリアミック酸の分解を抑制するため不活性ガス雰囲気下で出来る限り低い温度で混合することが好ましく、30℃以下とする。30℃より高い温度では、加水分解が進行しやすく減圧蒸留処理前にポリアミック酸の分子量低下を引き起こす恐れがあり好ましくない。
【0017】
共沸溶媒を加えて30℃以下に保ちながらある程度攪拌して混合した後、系を減圧状態にしてから昇温を開始する。かかる際の減圧度としては、内部の蒸気圧で0.5〜100mmHg、好ましくは1〜50mmHg、より好ましくは2〜40mmHgの範囲である。減圧度が高すぎると溶媒が留去しすぎるため好ましくなく、逆に減圧度が低すぎると、蒸留による留分が留出しにくくなるため好ましくない。減圧度は、蒸留途中で変更しても良いし、上記範囲内でコントロールすれば良い。本発明では、まだ昇温途中で温度が低いときには減圧度を高くしてなるべく速やかに水を留去し、次第に温度が上がってきたときには減圧度を下げて、溶媒が留去し過ぎるのを防ぐ方法が好ましく推奨される。
【0018】
本発明では、減圧蒸留の際あまり温度を上げすぎるとポリアミック酸のイミド化反応が進行し、溶媒に不溶化することにより析出あるいはゲル化を引き起こすことがあるので好ましくなく、それとは逆に温度をあまり上げないと、蒸留が充分に進まず好ましくない。具体的には系周囲の加熱浴の温度が60℃から150℃の範囲まで加熱して昇温する。好ましくは80℃から120℃の範囲である。温度が150℃より高くなると、熱イミド化が進行しやすくなり不溶化による析出あるいはゲル化を引き起こすことがあるので好ましくない。また温度が60℃より低いと、蒸留による水の除去が充分に進まず好ましくない。
【0019】
また、この際留分として共沸混合物の他にもともとのアミド系溶媒、例えばNMP自体が一部留去することになっても何ら差し支えなく、この場合留去量によりポリマー濃度を調整することも可能である。
【0020】
本発明の方法によれば、重合により得られたポリアミック酸の加水分解を出来る限り抑えながら、溶液系内に存在する水分を取り除くことが可能であり、加水分解の影響がほとんどない、高温おいても溶液粘度の安定した溶液を得ることが出来る。
【0021】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
製造例および実施例で用いた溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンは、東京化成(株)より試薬として購入し、蒸留精製を行い充分に乾燥したものを用いた。ピロメリット酸二無水物は、和光純薬工業(株)より試薬として購入したものを再結晶および昇華により精製したものを用いた。p−フェニレンジアミンは、和光純薬工業(株)より試薬として購入したものを蒸留精製して用いた。
【0023】
溶液粘度は以下のようにして測定した。
溶液粘度: 東機産業(株)製のB型粘度計(VTB−250,B8U型)を用いた。カップに溶液を加え窒素雰囲気下、回転数0.5rpmで測定した。
【0024】
[製造例1]
窒素雰囲気下でp−フェニレンジアミン5.41gをN−メチル−2−ピロリドン380mLに溶解し、この溶液を0℃まで冷却した後、激しく攪拌しながら無水ピロメリット酸二無水物の粉末10.91gを加えた。溶液は発熱しながら徐々に粘度が上昇していき透明な高粘度溶液となった。0℃に冷却したまま、無水ピロメリット酸二無水物を添加後5時間攪拌した。かくして得られた芳香族ポリアミック酸溶液の溶液粘度は、30℃で8,600psであった。
【0025】
[実施例1]
20℃に保持した製造例1で得られたポリアミック溶液300gに、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン75mLを加えた。かかる混合物を20℃で20分間攪拌した後、約5mmHgの減圧状態になるよう真空ポンプで系内を減圧にし、同時に昇温を開始した。昇温開始して25分後にオイルバスの温度は80℃に達したが、その時点で系内の圧力を約5mmHgから約15mmHgに上げた。その15分後にオイルバスの温度は100℃に達し、そのまま100℃、約15mmHgでさらに30分間減圧留去しながら攪拌を継続した。この後、窒素雰囲気下に戻し冷却したところ透明な溶液のままであった。この間、減圧蒸留により留去した溶媒量は41.6gであった。この溶液の溶液粘度は、30℃で7,200psであった。さらに窒素雰囲気下、100℃においてB型粘度計のカップ内に測定溶液を入れてローターを攪拌しながら溶液粘度の経時変化を測定したところ、測定開始して30分後で160ps、2時間後でも160psでほとんど変化がなく、高温でも安定な溶液であることが分かった。
【0026】
[比較例1]
実施例1と同様にして、製造例1で得られたポリアミック酸溶液300mLに、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン75mLを加えて、20℃から100℃まで昇温しながら減圧蒸留を行った。ここで系内の圧力を約15mmHgから約40mmHgに上げ、さらに昇温して20分後にオイルバス温度が160℃なった。この数分後から溶液が白濁化していきすぐに完全な乳褐色の懸濁溶液となり、透明性は完全に失われた。
【0027】
[比較例2]
実施例1でポリアミック酸溶液に加えたN−シクロヘキシル−2−ピロリドン75mLを加えなかった他は、実施例1と同様にして、20℃から100℃まで昇温しながら減圧蒸留を行った。その後窒素雰囲気下、室温に戻したところ実施例1と同じく溶液は透明なままであった。この間、減圧蒸留により留去した溶媒量は32.8gであった。しかしながらこの溶液の溶液粘度は、30℃でも480psと実施例1に比べて大幅に低下してしまい、実用には不適当なものとなった。
【0028】
【発明の効果】
本発明により、芳香族ポリアミック酸の安定した溶液を得ることが出来る。該溶液は、高温においてもポリアミック酸の加水分解による溶液粘度の低下が抑えられるため、芳香族ポリイミドフィルムあるいは繊維等の成形体を製造する際に、その前駆体溶液として有効である。
Claims (4)
- 30℃以下の温度に保持した芳香族ポリアミック酸の溶液に、水と共沸する溶媒を加えて混合した後、系を減圧状態にして昇温を開始し、最終的に60℃から150℃の範囲の温度まで加熱して減圧蒸留により系内の水を取り除きながら攪拌混合することを特徴とする、安定性を高めた芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法。
- 芳香族ポリアミック酸が、実質的にp−フェニレンジアミンとピロメリット酸二無水物の反応で得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法。
- 水と共沸する溶媒として、N−シクロヘキシル−2−ピロリドンを加えることを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリアミック酸溶液の製造方法。
- 請求項1から3のいずれか1項に記載の方法により得られる芳香族ポリアミック酸溶液。
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---|---|---|---|
JP2002313874A JP2004149590A (ja) | 2002-10-29 | 2002-10-29 | 安定性を高めた芳香族ポリアミック酸溶液およびその製造方法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2016518511A (ja) * | 2013-05-17 | 2016-06-23 | フジフイルム エレクトロニック マテリアルズ ユー.エス.エー., インコーポレイテッド | ポリイミド及びポリアミド酸エステルポリマーを製造する改良されたプロセス |
-
2002
- 2002-10-29 JP JP2002313874A patent/JP2004149590A/ja active Pending
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