JP2004149356A - セメント強化用ポリプロピレン繊維 - Google Patents

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増男 矢吹
Kazumasa Nakajima
和政 中島
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Abstract

【課題】ポリプロピレン樹脂繊維に対して親水性を付与することができ、セメントマトリックスとの接着性に優れ、セメント成形物を強化でき、セメント成形物の曲げ強度や衝撃強度を向上させることができるセメント強化用ポリオレフィン樹脂繊維を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン繊維表面をフッ素化処理し、その表面の濡れ指数を40dyn/cm以上にすることにより、ポリプロピレン繊維とセメントとの界面における優れた親和性を付与することができ、セメントマトリックスとの接着性に優れ、セメント成形物を強化でき、セメント成形物の曲げ強度、衝撃強度に優れたセメント成形物を得ることができる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメントマトリックスとの接着性に優れ、セメント成形物を強化するために用いるセメント強化用ポリプロピレン繊維に関するものである。
【0002】
【従来技術】
セメント成形品の補強材として長年使用されていたアスベストの代わりに、合成樹脂繊維として、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられている。
しかしながら、セメント成形品の養生は寸法安定性向上、養生時間の短縮等の目的でオートクレーブで行うことが近年は増加しており、こうしたオートクレーブ養生を行う場合には、ポリオレフィン系以外の繊維は耐熱アルカリ性の不足から劣化してしまうために補強繊維として用いることができなかった。
これらのことより、ポリオレフィン樹脂繊維は、耐熱アルカリ性があるため多用されているが、ポリオレフィン樹脂は、その分子構造内に親水性基やセメントとの接着性に有効な官能基がほとんど存在しないため、セメントマトリックスとの接着性が極めて悪く、ポリオレフィン樹脂繊維で補強したセメント成形体を破壊すると容易に繊維が引き抜けてしまい、繊維の引き抜き抵抗による衝撃強度や曲げ破壊エネルギーの増大は認められても、曲げ強度を大きく向上させるには至らない欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
かかるポリオレフィン樹脂繊維のセメントとの親和性を改良するために、界面活性剤、例えば、ノルマルアルキルホスフェートアルカリ金属塩からなる界面活性剤、または、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルとポリオキシアルキレン脂肪酸エステルからなる界面活性剤等をそれぞれ塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
しかしながら、上記提案の界面活性剤はポリオレフィン系樹脂繊維との接着性がないため、セメントマトリックスと界面活性剤が接着したとしても、繊維とマトリックス間で十分接着力が得られないという欠点があった。
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、ポリオレフィン樹脂繊維に対して親水性を付与することができ、セメントマトリックスとの接着性に優れ、セメント成形物を強化でき、セメント成形物の曲げ強度や衝撃強度を向上させることができるセメント強化用ポリオレフィン樹脂繊維を提供することを目的とする。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−170497号公報(1頁)
【特許文献2】
特開平10−236855号公報(1頁)
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を技術的に解決するために、ポリオレフィン樹脂繊維に対して酸素の存在化でフッ素化処理することにより、その繊維表面の濡れ指数が大幅増加して、ポリオレフィン繊維表面の親水性を大幅に改良することができ、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、ポリプロピレン繊維表面をフッ素化処理してなることを特徴とするセメント強化用ポリプロピレン繊維、存する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリプロピレンとは、プロピレン単独重合体、エチレンープロピレンブロック共重合体あるいはランダム共重合体などの公知のポリプロピレン共重合体またはそれらの混合物を使用することができるが、これらの内でも高強度、耐熱性を要求されるセメント強化用としてはプロピレン単独重合体が望ましく、特にアイソタクチックペンタッド率0.95以上のものを選択することが望ましい。
ここでアイソタクチックペンタッド分率とは、A.Zambelli 等によって Macromolecules 925(1973) に発表された、13C−NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子内のペンタッド単位でのアイソタクチック分率を意味する。
上記ポリプロピレンのメルトフローレート(以下、MFRと略す)は0.1〜50g/10分、好ましくは1〜40g/10分、さらに好ましくは5〜30g/10分の範囲から選択するのがよい。
【0007】
ポリプロピレン繊維の製造方法としては、公知の溶融紡糸方法を採用できるが、高倍率の延伸処理の可能な連糸形状ダイスを用いて紡糸を行なうポリプロピレン繊維がより好ましい。この方法はポリプロピレンを連糸形状ダイスから溶融押出し、次に押出された連糸形状テープのまま延伸処理を施し繊維を形成する。
連糸形状ダイスは少なくとも2個のノズルをシリーズに連結した形状を有しているが、通常5〜20個、好ましくは10〜15個のノズルを連結した形状である。
【0008】
ポリプロピレン繊維の延伸処理はポリプロピレンの融点以下、軟化点以上の温度下に行われるが、加熱方式としては、熱ロール式、熱板式、赤外線式、熱風式等いずれの方式も採用でき、これらの内では内部から電熱加熱されたコンベックス状熱板上で加熱される熱板式が高速生産性、安定性の上で好ましい。
加熱されたポリプロピレン繊維は、前後ロールの周速度差により延伸を行う。延伸倍率は通常3〜20倍、好ましくは5〜15倍、さらに好ましくは8〜12倍の範囲である。
延伸された繊維の引張強度は5g/dt以上でらり、好ましくは7g/dt以上である。引張強度が5g/dt未満では、補強効果が不十分となる。
【0009】
形成されるポリプロピレン繊維の単糸繊度は5〜100デシテクス(dtと略す)の範囲であり、好ましくは10〜60dtの範囲である。上記単糸繊度が5dt未満では、繊維が細すぎて分散が不均一になり、また、100dtを越えると、セメントとの接触面積が減少し補強効果が劣る。
【0010】
上記で得られたポリプロピレン繊維は、所定長さにカットされる。カットされる繊維長は3〜30mmの範囲であり、好ましくは5〜15mmの範囲である。繊維長が3mm未満では、セメントからの抜けが生じ、30mmを越えると分散性が不良となるので、好ましくない。
【0011】
本発明においては、上記ポリプロピレン繊維表面に対して、酸素の存在化でフッ素化処理を施してなり、その表面の濡れ指数が40dyn/cm以上、好ましくは50〜90dyn/cmの範囲することを特徴とする。表面の濡れ指数が40dyn/cm未満では、ポリオレフィン樹脂繊維に対して親水性を十分付与させることができず、セメント成形物の曲げ強度や衝撃強度を向上させることができないので、好ましくない。フッ素化処理としては、例えば、上記ポリプロピレン繊維表面に酸素の存在下でフッ素ガスを接触させて、フッ素化処理して、ポリプロピレン繊維表面に表面酸化層を形成させ、その表面の濡れ指数を上記の範囲に改良する。
【0012】
フッ素化処理しては、例えば、ポリオレフィン樹脂繊維を酸素ガス濃度60〜95容量%の存在下で、フッ素ガス濃度5〜40容量%の範囲でフッ素化処理を行う。フッ素化処理としは、反応操作及び制御等を容易に行うために反応圧力を比較的に低圧力で行うのが好ましく、特に50Pa以下が好ましい。フッ素化処理の形式としては、回分式方式、連続式方式のいずれでも良く、また、処理温度としては、通常10〜100℃の範囲、好ましくは10〜40℃の範囲内で行われる。さらに、処理時間としては、フッ素ガスの濃度、圧力または処理温度等によっても異なるが、通常、10〜2時間、好ましくは30秒〜60秒の範囲内で行われる。
【0013】
上記フッ素化処理を回分法で行う場合は、予めポリプロピレン樹脂繊維を反応容器内に仕込んだ後、真空脱気し、さらに酸素ガスを60〜95容量%を導入し、次いで、フッ素ガスを5〜40容量%の範囲で導入して、処理温度として、10〜100℃の条件でフッ素化処理を行うのが望ましい。また、フッ素化処理後は、反応容器内の未反応ガスを排除し、さらに不活性ガスを用いて反応容器中を十分置換、換気する等をしてフッ素化処理したポリプロピレン繊維を得る。
【0014】
上記ポリプロピレン繊維には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、無機充填材、有機充填材、架橋剤、発泡剤、核剤等の添加剤を配合してもよい。
【0015】
本発明のポリプロピレン繊維を混合し得るセメントとしては、ポルトランドセメント、白色ッポルトランドセメント、アルミナセメント等の水硬性セメントまたは石膏、石灰等の気硬性セメント等のセメント類を挙げることができる。
上記ポリプロピレン繊維の配合量は、セメントに対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。配合量が0.1重量%未満では補強効果が劣り、10重量%以上では均一な分散が困難である上に、曲げ強度が低下するので、好ましくない。
【0016】
本発明のポリプロピレン繊維をセメントに混合する方法としては、セメント粉体にポリプロピレン繊維を分散する方法、セメントスラリー中にポリプロピレン繊維を分散するプレミックス法、セメントとポリプロピレン繊維および水を同時に吹き付けるスプレーアップ法などの公知の方法を用いることができる。これらの方法によって得られたセメントスラリーを、用途により抄造成形法、押出成形法、注入成形法等公知の成形法にしたがって成形し、常温で数十日間大気中または水中に放置する自然養生法または2〜3日常温で放置後100〜200℃の温度で処理されるオートクレーブ養生法により養生硬化しセメント成形品とする。
【0017】
本発明のポリプロピレン繊維を用いて製造されるセメント成形品の用途としては、あらゆるセメント製品にわたるものであるが、例えば建造物の壁材、床材コンクリート、仕上げモルタル、防水コンクリート、スレート屋根材等、あるいは土木関係部材としては道路、滑走路等の舗装、道路標識、側溝等の道路部材、下水管、ケーブルダクト等のパイプ類、漁礁、護岸ブロック、テトラポット等、その他各種構築物として枕木、ベンチ、フラワーポット等に使用できる。
【0018】
以下、実施例により、さらに詳細に説明する。
実施例1:
ポリプロピレン(MFR=1.0g/10分)を押出機に供給し、樹脂温度230℃で、2mmφ×10孔の連糸形状ノズルから押出し、熱板接触式延伸法で延伸温度130℃、アニーリング温度135℃、延伸倍率12倍に延伸した。得られた延伸糸の単糸繊度は50dtであった。上記ポリプロピレン延伸糸を10mm長になるようにカットし、短繊維を得た。
この短繊維を反応容器内に仕込んだ後、真空脱気し、酸素ガス80容量%を導入し、次いで、フッ素ガス20容量%を導入して、10Paの圧力下で20℃で反応させた。得られたポリプロピレン短繊維の表面の濡れ指数は、60dyn/cmであった。
セメント成形品の成形はJISR5201に準拠して行った。すなわちポルトランドセメント100重量部と標準砂200重量部とを十分混合し、上記配合物を5重量部添加し、水65重量部を加えて全体が均一になるように混練した後、40mm×40mm×160mmの型枠に流し込み、大気中、常温で48時間放置した後、オートクレーブ中で165℃、20時間養生を行った。
得られた成形物の曲げ強度は28.0MPa、シャルピ衝撃強度は10.5KJ/m、分散性は良好であった。
【0019】
(試験方法)
(1)MFR:JISK6922−1準拠
(2)曲げ強度:JISA1408準拠
(3)シャルピー衝撃強度:JISB7722準拠
(4)分散性評価:ポリプロピレン繊維とセメントを混練しセメントスラリーを作成し、表面の状態を目視により評価した。
【0020】
比較例1
表面処理剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル(HLB=8.0)50重量%とポリオキシエチレンオレイン酸エステル(HLB=9.0)50重量%を混合した表面処理剤水溶液を作成し、浸漬処理後、乾燥して表面処理剤1重量%を塗布させたこと以外は、実施例1と同様にして行った。
得られた成形物の曲げ強度は19.0MPa、シャルピー衝撃強度は6.5KJ/m、繊維の分散性は良好であった。
【0021】
比較例2
表面処理剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル(HLB=8.0)70重量%とポリオキシエチレンオレイン酸エステル(HLB=9.0)30重量%を混合して表面処理剤水溶液を作成し、浸漬処理後、乾燥して表面処理剤1重量%を塗布させたこと以外は実施例1と同様にセメント成形品を成形した。
得られた成形物の曲げ強度は16.5MPa、シャルピー衝撃強度は3.5KJ/m、繊維の分散性は不良であった。
【0022】
比較例3
表面処理剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸エステル(HLB=8.0)30重量%とポリオキシエチレンオレイン酸エステル(HLB=9.0)70重量%を混合して表面処理剤水溶液を作成し、浸漬処理後、乾燥して表面処理剤1重量%を塗布させたこと以外は実施例1と同様にセメント成形品を成形した。
得られた成形物の曲げ強度は17.5MPa、シャルピー衝撃強度は2.8KJ/m、繊維の分散性はやや不良であった。
【0023】
【発明の効果】
本発明のセメント強化用ポリプロピレン繊維は、ポリプロピレン繊維に対し、酸素の存在下にフッ素化処理を行い、その表面の濡れ指数を特定値以上にすることにより、ポリプロピレン繊維とセメントとの界面における優れた親和性を付与することができ、セメントマトリックスとの接着性に優れ、セメント成形物を強化でき、セメント成形物の曲げ強度、衝撃強度に優れたセメント成形物を得ることができる。

Claims (3)

  1. ポリプロピレン繊維表面をフッ素化処理してなることを特徴とするセメント強化用ポリプロピレン繊維。
  2. フッ素化処理がポリプロピレン繊維を酸素の存在下でフッ素化処理し、その表面の濡れ指数を40dyn/cm以上である請求項1に記載のセメント強化用ポリプロピレン繊維。
  3. フッ素化処理がポリプロピレン繊維を酸素の存在下でフッ素化処理し、その表面の濡れ指数を50〜90dyn/cm以上である請求項1に記載のセメント強化用ポリプロピレン繊維。
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