JP2004144597A - 流通型高感度電子スピン共鳴装置及びこれを用いた分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】検出感度が高いESR装置;このESR装置に使用する流通型付属装置;このESR装置を用いたフリーラジカルの測定方法を提供すること。
【解決手段】マイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段を含むESR装置において、キャビティ内に収容された、試料入口と試料出口を有する検出セルと、試料導入手段と、ESR装置のマイクロ波の発生とマイクロ波信号の検出を制御する手段と、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段とを有する流通型高感度ESR装置;試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、ESR装置を流通型に改変するための流通型ESR装置用付属装置;及び流通型ESR装置の磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入し、マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理するフリーラジカルの測定方法。
【選択図】 図1
【解決手段】マイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段を含むESR装置において、キャビティ内に収容された、試料入口と試料出口を有する検出セルと、試料導入手段と、ESR装置のマイクロ波の発生とマイクロ波信号の検出を制御する手段と、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段とを有する流通型高感度ESR装置;試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、ESR装置を流通型に改変するための流通型ESR装置用付属装置;及び流通型ESR装置の磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入し、マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理するフリーラジカルの測定方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子スピン共鳴装置、その付属装置、及びこれを用いたフリーラジカルの測定方法に関し、さらに詳細には流通型高感度電子スピン共鳴装置及びこれを用いたフリーラジカルの測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子スピン共鳴(ESR)装置は分子あるいは原子内に不対電子を有する物質を選択的に検出する分光装置である。ESR装置は磁場強度が約330mTの電磁石、9GHz帯域のマイクロ波発信器と信号検出系及びキャビティと呼ばれる検出部位で構成されており、市販のESR装置も広く普及している。
ESR装置の測定対象となる不対電子を有する物質は一般的に常磁性種あるいはラジカル種と呼ばれている。ESR装置によってラジカル種を検出、同定及び定量することで、ラジカル種が関与する反応の機構について定性的あるいは定量的な情報が得られる。前者の定性的な情報とはラジカル種に固有の分光学的な情報であり、ラジカル種の由来、電子状態あるいは構造などの同定に必要な知見である。後者の定量的情報とはラジカル種の濃度に関する分析的な計測結果であり、ラジカル種の生成あるいは消失量から反応機構が考察される。
元来ESR装置はラジカル種の定性的な情報を獲得することを目的に設計、開発されてきた。しかし、活性酸素種などの生体に関わるラジカル種を効果的に消去する物質の探索と機能評価が食品あるいは医薬品開発と関連して注目されたことを背景に、ESR装置の定量的な分析精度の向上が求められている。
【0003】
ESR装置の測定条件が一定に保たれていれば、ラジカル種のESR信号強度はラジカル濃度に依存して増減する。しかし、元来定性的な情報を獲得するために設計されたESR装置の測定条件を分析化学の精度範囲内に維持するには、以下のような技術的な熟練が求められる。
まず、装置条件を補正するために一定のESR信号を与える外部基準試料と被分析試料の信号を同時に計測する方法が採用される。さらに、濃度既知のラジカル種のESR信号を外部標準試料の共存下で記録して得られた信号強度とラジカル濃度の検量線から、被分析試料に含まれるラジカル種の濃度が評価される。
【0004】
さらに具体的には、従来法によるラジカル濃度のESR分析実験操作は以下の手順で行われる。
▲1▼少なくとも2種類の反応溶液を混合後攪拌する、▲2▼試料をESR測定試料管に一定量を採取する、▲3▼一定時間内にESR測定試料管をキャビティにセットする、▲4▼装置の測定条件を一定に保った状態で信号を記録する。
一連の操作は熟練者でも溶液の混合から測定までに少なくとも2分程度の時間を要する繁雑な作業であり、操作性に問題がある。さらに、反応溶液の混合から測定までの反応時間を一定に整えるのは技術的に困難である。また、1回の測定ごとに試料管を洗浄する必要があり、分析化学の視点から試料管内部を常に同条件に保つには相当な熟練を要する。
【0005】
このような方法でESR信号の定量的解析が行われた場合、その定量可能な濃度の下限は水溶液ラジカルでおおよそマイクロモル濃度(μM、10−6M)程度である。近年、ラジカル種の定量的解析が食品及び医薬品開発の分野に普及するにつれて、定量可能なラジカル濃度の下限をピコモル濃度(pM、10−9M)領域に改善する要求が高まりつつある。
しかし、現在市販されているESR装置の検出感度を見る限り、約20年前の装置と比較して最新の装置でも、一桁程度の検出感度向上が認められる程度であり、ESR装置本体の検出感度はほぼ限界に到達しつつある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の目的は、従来のESR装置の検出感度と比較して検出感度が二桁程度改善されたESR装置を提供することである。
本発明の他の目的は、従来のESR装置に接続して使用することにより、検出感度を著しく改善し得る、流通型付属装置を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記流通型ESR装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は下記により達成される。
(1)マイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段を含む電子スピン共鳴装置において、該キャビティ内に収容された、試料入口と試料出口を有する検出セルと、該試料入口に連結された試料導入手段と、該試料出口に連結された試料排出手段と、該電子スピン共鳴装置のマイクロ波の発生とマイクロ波信号の検出を制御する手段と、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段とを設けたことを特徴とする流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(2)該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段が、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットするものである上記1記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(3)所定単位時間が20μ秒〜90秒である上記2記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(4)試料導入手段が、送液ポンプと注入弁を含む上記1〜3のいずれか1項記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(5)試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、電子スピン共鳴装置を流通型に改変するための流通型電子スピン共鳴装置用付属装置。
(6)上記1〜4のいずれか1項記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法において、磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入する工程、マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程を含むことを特徴とするフリーラジカルの測定方法。
(7)該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程が、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットする工程を含むである上記6記載のフリーラジカルの測定方法。
(8)試料導入手段が、送液ポンプと注入弁を含み、注入弁から試料を導入し、送液ポンプからキャリア流体を導入して試料を検出セルに導入する上記6又は7記載のフリーラジカルの測定方法。
(9)試料導入手段が、少なくとも2つの送液ポンプを含み、各送液ポンプから異なる試料を導入し、合流点又はその下流で試料を反応させた後、検出セルに導入する上記6又は7記載のフリーラジカルの測定方法。
(10)試料導入手段が、反応促進手段を含む、上記6〜9のいずれか1項記載のフリーラジカルの測定方法。
(11)反応促進手段が、ミキサー、電解セル、光照射システム、加熱又は冷却システムの少なくとも1種を含んでいる、上記10記載のフリーラジカルの測定方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のESR装置は、市販のESR装置、例えば、日本電子株式会社製ESR装置(JES−FE、−RE及び−TE型装置)等、これに接続して使用する流通型付属装置一式及びパソコンによる高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式で構成されている。前記流通型付属装置一式はESR測定に関わる時間制御、定量性、再現性及び操作性の向上をもたらし、後者の高速積算データ解析ソフトウエア一式はESR信号の高速積算によるシグナル/ノイズ比(SN比)の向上を実現する。本発明の流通型高感度ESR装置の構成の一例を図1に示す。
【0009】
図1において、電磁石と▲3▼信号検出系ESR装置本体が従来のESR装置本体を示し、▲1▼送液系及び▲2▼検出セルが本発明の流通型付属装置一式を示し、▲4▼及び▲5▼が本発明の高速積算及び装置制御ソフトウエア一式を示している。
本発明のESR装置に使用するマイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段自体は従来の電子スピン共鳴装置のものと同じである。本発明のESR装置は、従来は該キャビティ内に固定されていた検出セルを、試料入口と試料出口を有する検出セルに変え、該試料入口に試料導入手段を接続し、該試料出口にドレーンを接続し、基本的には磁場固定下で、検出セルに試料を連続的に導入しながら時間掃引して得られるESR信号を高速積算処理することにより、シグナル/ノイズ比を向上させたことを特徴とするものである。
【0010】
マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段は、好ましくは、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎、例えば、20μ秒〜90秒毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットするものである。所定単位時間20μ秒〜90秒は積算回数と信号取り込み時間間隔の積に相当し、信号取り込み時間が最短の20μ秒で積算回数が1回の場合20μ秒となり、信号取り込み時間が最長の1000μ秒で積算回数が90万回の場合90秒となる。通常は測定時間短縮の観点から積算回数は1000〜20000回が好ましい。
試料導入手段は、例えば、送液ポンプと注入弁を含む。送液ポンプはクロマトグラフィー用送液ポンプ等が好ましく、注入弁としては液体クロマトグラフィー用の六方弁等が便利である。
【0011】
本発明に使用する検出セルとしては、測定溶媒を使用した際の誘電損失を抑制できる形状と内容積を有していることが好ましく、例えば、石英製の円筒型あるいは扁平型ESR測定試料管を使用することが好ましい。円筒型の試料管は、好ましくは直径0.1〜5.0mm、長さ10〜50mm、扁平型の試料管は、好ましくは厚さ2.0〜3.0mm、高さ3.0〜10.0mm、長さ10〜50mmである。2つの電磁石に挟まれた部分の検出セルの試料溶液の厚みは、誘電損失の観点から好ましくは0.1〜5.0mmである。
【0012】
送液装置は毎分0.01mlから10mlの送液量を連続的に送液できる性能が必要であり、このような送液装置としては例えば、40Mpa以上の送液圧力を達成できる液体クロマトグラフ用の送液ポンプが適している。送液系に被測定試料を注入する方法としては例えば、注入弁とマイクロシリンジを使用する方法が挙げられ、その注入量は1.0〜2000 μlの範囲が適している。注入弁を使用しない場合は、先に述べた送液ポンプと同等の性能を備えた送液ポンプを複数台使用し、それぞれの排出溶液を溶液混合機等で混合して検出セルに導入する。
【0013】
本発明の装置において、送液ポンプと検出セルの接続には、テトラフルオロエチレンあるいはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)素材などの化学的に不活性な細管を使用することが好ましい。細管の直径は好ましくは0.1〜5.0mm、さらに好ましくは0.2〜0.6mmである。
【0014】
この送液系で取り扱う測定溶媒は超純水及び各種緩衝溶液、メタノール、エタノールなどの有機溶媒との混合溶液等である。有機溶媒として高純度メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、ジエチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルムなどの非プロトン性極性溶媒、あるいはトルエン、ヘキサン、ベンゼンなどの非極性溶媒が使用される。
【0015】
本発明はさらに上記流通型高感度ESR装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法を提供するものである。この方法は、磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入し、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程を含むことを特徴とするものである。
マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程では、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎、例えば、20μ秒〜90秒毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットする。
【0016】
試料導入手段は、例えば、1つの送液ポンプと注入弁及びマイクロシリンジで構成される。また、少なくとも2つの送液系(送液ポンプ)を用意し、各送液系から異なる試料を導入し、試料の合流点又はその下流でこれらの試料を反応させた後、検出セルに導入することもできる。
本発明の装置には反応促進手段を設けることもできる。例えば、試料を混合し、反応を促進する手段としては、ミキサー、電解セル、UV光等の光照射システム、加熱又は冷却システム等が挙げられる。
光照射、加熱、冷却等は試料が検出セルに導入される前に行っても良いし、検出セルに対して行っても良い。反応促進手段の設置箇所は反応メカニズムの観測という観点から適宜決定すれば良い。
【0017】
上記の点についてさらに具体的に説明する。
送液ポンプと注入弁を組み合わせた系において、ESR装置の検出セル部分に紫外線を照射することでラジカル反応の促進が可能になる。例えば、注入弁から過酸化水素を含む反応溶液を注入して検出セル部分で紫外線照射すると、過酸化水素の紫外線分解で生じるOHラジカルが関与するESR信号の検出が達成される。
これを応用するとOHラジカルに代表される活性酸素ラジカルの反応に関する定量的な測定が実現できる。
また本発明のESR装置の検出セルの上流部分に、反応の促進手段として流通型電解反応層あるいは酸化触媒層を接続することが可能である。前者の電解反応層では、流通系に注入された反応物質が電解酸化あるいは電解還元を受けてラジカルに変換されることで反応が促進されるために、短寿命ラジカル種のESR測定が可能になる。後者の酸化触媒層に酸化チタンなどの光酸化触媒固体を充填して紫外線照射するとラジカル種の生成を伴う反応が促進され、前者と同じく短寿命ラジカル種のESR検出が可能になる。
【0018】
さらに本発明のESR装置の送液系に、細胞あるいは組織など生体試料の懸濁液を通過させ、注入弁から生体組織の刺激物質を導入して生体試料と反応させることにより 、生体試料から生成する活性酸素ラジカルなどの不安定ラジカル種を生成直後に検出セルにより検出することが可能になる。
また本発明のESR装置の送液系を少なくとも2つのシリンジ様の押し出し型ポンプとし、検出セルの上流に両ポンプからの反応溶液を急速混合するミキサーを接続することで、反応の直後に生成する短寿命ラジカル種の検出が可能になる。
この際に、ESR装置の検出セルに反応溶液を導入した直後に送液を停止するストップトフロー測定法を応用することで、生成するラジカル種濃度の定量的な解析から不安定ラジカル種の寿命あるいは生成の速度定数等が評価できる。
さらに、不安定ラジカル種が検出セル内に停止した状態で観測磁場を掃引することでもラジカル種のESR信号が記録可能であり、その際に得られるESR信号は本発明の高速積算処理によってSN比が改善される。
【0019】
本発明はまた、試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、電子スピン共鳴装置を流通型に改変するための流通型電子スピン共鳴装置用付属装置を提供するものである。
先に述べたように、従来のESR装置には、時間的な定量性、再現性及び操作性において大きな問題があった。本発明の流通型付属装置一式は、従来法のこのような問題を改善するための装置である。
【0020】
本発明の流通型付属装置一式は上記のように構成されているため、送液系から送液されたラジカルを含む試料溶液がESRキャビティに予めセットされた検出セルを通過する間にESR信号が検出できる。本発明の流通型付属装置一式を使用することで得られる利点は少なくとも以下の4点にある。
▲1▼検出セルを予めセットしたことで、ESR測定条件を常に一定に維持できる、▲2▼溶液を常に流し続けることで、検出セルの洗浄操作が不必要になる、▲3▼一定の流速で一定の流路を一定体積のラジカル種を含む反応溶液が送液されるため、溶液混合から測定までの反応時間が一定に保たれる、▲4▼ラジカル種を含む反応溶液の調製操作が単純化され、1回の測定に要する時間が短縮できる。
このように、流通型付属装置一式を使用することでESR測定に関する定量性と再現性、操作性が従来型装置に比べて著しく改善される。従って、ESR装置の分析装置としての信頼性、精度及び確度が格段に向上した。
【0021】
次に、高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式によるESR装置の信号検出感度の改善について説明する。
ESR装置の信号検出感度を上げることは、見かけのSN比の改善に他ならない。
現状のESR装置ではおおよそ0.01秒から3秒程度の時定数回路を導入することでSN比の改善を達成している。この他にも磁場掃引を繰り返したESR信号の積算処理によってもSN比の向上が図られている。
前者の手法では時定数を長く設定するとSN比は改善される反面、ESR測定の磁場掃引速度を遅く設定するため、一回の測定につき数十分の測定時間が必要になる。後者の積算法でSN比を二桁改善するには10000回程度の磁場掃引が必要であり、そのためには数時間程度の測定時間を必要とする。いずれの方法でもSN比を改善するには測定時間が著しく長くなるため、寿命の短いラジカル種のESR測定法としては実用性に乏しい。
【0022】
本発明の高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式は、図1に示すように、▲3▼の信号検出系から得られるアナログ形式のESR信号をμ秒間隔でAD変換ボードから▲4▼のデータ処理系に取り込み、本発明の高速積算ソフトウエアで積算処理することでSN比を改善している。さらに、円滑なESR測定とデータ処理を実施するために、高速積算ソフトウエアと連動する装置制御ソフトウエアで測定条件及び設定磁場を制御する。
【0023】
パソコンによるデータ処理系は、ESR本体の信号検出系とADボードを介して接続され、そのADボードは最短で3.0 μ秒の時間間隔でESR信号を本発明に専用の高速積算ソフトウエアに取り込む能力を備えている。
高速積算ソフトウエアはADボードから得られたデータを最大で900,000回積算処理してESR信号強度に変換し、その時間変化及び磁場変化スペクトルとして処理する能力を有している。
装置制御ソフトウエア一式は、本発明の流通型高感度ESR装置に関わる、ESR装置の信号検出系、電磁石、送液装置、ADボードなどハードウエア全般を制御する。
【0024】
以上、本発明のESR装置を磁場固定法により使用する場合を例として説明したが、本発明は磁場固定法に限定されるものではない。本発明の特徴は、基本的には磁場を固定し、フローインジェクション法、すなわち、試料を流通系にすることにより高感度なESR測定を実現したことにある。これは本来ESRがもっているファクター、つまり横軸が磁場であることを止め、ある特定の場所、すなわちピークトップだけを見ていることに他ならない。従って、ピークトップのみならず、そこから少し磁場をずらせた位置でESR測定を行い、その点を結べば本来の磁場を横軸とするESRスペクトルを得ることができる。このようにして構築したESRスペクトルも、磁場固定法によるのと同様に高感度、例えば、2桁程度感度が向上したESRスペクトルである。従って、本発明のESR装置及び付属装置は、磁場固定法のみに限られることなく、従来の磁場掃引法のESRスペクトルとして再構築することにも適用できるものである。
【0025】
【発明の効果】
本発明のESR装置は、上記構成の流通型付属装置一式を具備しているため、送液系から送液されたラジカルを含む試料溶液がESRキャビティに予めセットされた検出セルを通過する間にESR信号が検出できる。検出セルが予めセットされているため、ESR測定条件を常に一定に維持でき、溶液を常に流し続けるため、検出セルの洗浄操作が不必要であり、一定の流速で一定の流路を一定体積のラジカル種を含む反応溶液が送液されるため、溶液混合から測定までの反応時間が一定に保たれ、ラジカル種を含む反応溶液の調製操作が単純化され、1回の測定に要する時間が短縮できる。従って、ESR測定に関する定量性と再現性、操作性が従来型装置に比べて著しく改善され、分析装置としての信頼性、精度及び確度が格段に高い。
そして、信号検出系から得られるアナログ形式のESR信号をμ秒間隔でAD変換ボードからデータ処理系に取り込み、高速積算ソフトウエアで積算処理しているため、SN比が従来のESR装置と比較して格段に高くなり、検出感度が著しく高い。
【0026】
以下、本発明の流通型高感度ESR装置の一実施例を示す。
実施例1(本発明の流通型高感度ESR装置)
ESR装置としては、ラジカルリサーチ株式会社製デジタル掃引ユニット(RDSU−03)を組み込んだ日本電子株式会社製JES−RE−1Xを使用した。
試料導入手段(送液系)としては、毎分あたり0.01mlから10mlの送液能力を有する通常の液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを使用した。このポンプを注入弁を介して検出セルと接続した。検出セルとして、断面1.7mm×9.0mm、長さ約50mm、試料通過部の厚み0.3mmの扁平セルを使用した。この扁平セルを上記ESR装置のキャビティに収納し、扁平セルの出口はドレインに接続した。各部の接続には、内径0.25mmのポリテトラフルオロエチレン管を使用した。
試料を注入弁から注入し、HPLCポンプから溶媒を送液して試料を検出セル内に導入する。ESR装置本体から25 〜100μ秒の時間間隔でADボードを介してESR信号をパソコンに取り込み、1000〜60,000回積算処理してSN比に優れたESR信号に変換する。
【0027】
次に、従来型ESR装置及び本発明の流通型高感度ESR装置を用いたラジカル種の測定例を示す。
測定例1(従来型ESR装置の検出下限濃度)
従来型ESR装置(ラジカルリサーチ株式会社製デジタル掃引ユニット(RDSU−03)を組み込んだ日本電子株式会社製ESR装置JES−RE−1X)によるラジカル溶液のESR信号を記録した。
測定には標準試料として、高純度2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル(2,2,6,6−tetramethyl−4−hydroxy−piperidine−N−oxyl、和光純薬から購入、以下「TEMPOL」という)の超純水(和光純薬から購入)水溶液を使用した。50.0μMから1.0 μMの範囲で調製したTEMPOL水溶液のESR信号を25℃で記録した。測定条件は以下のとおりである。
ESR装置本体の測定条件
マイクロ波出力1.0mW、磁場変調強度79μT、掃引磁場幅10mT、掃引時間1.0分、時定数0.01秒、増幅率500、測定温度25℃
各濃度のTEMPOL水溶液のESR信号強度とSN比を表1に示す。ESR信号の相対強度とTEMPOLの濃度をプロットした検量線を図2に示す。
【0028】
表1に示すように、TEMPOL水溶液の濃度低下につれて信号強度とSN比が減少した。TEMPOL濃度が0.5μMの場合にはSN比は2を下回り、定量的な信号強度の解析が不可能であった。また、図2に示すように、TEMPOL濃度が1.0 μM以上の濃度領域では、ESR信号強度とTEMPOL濃度の検量線には直線関係が認められた。この結果から、従来型ESR装置における定量的な測定が可能なTEMPOL水溶液の濃度下限は2.0μMと評価できた。
【0029】
【表1】
表1 従来型ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度及びSN比の相関
【0030】
測定例2(本発明の流通型高感度ESR装置の検出下限濃度)
次に、実施例1に示した本発明の流通型高感度ESR装置を使用して200.0 nMから10.0 nMの範囲で調製したTEMPOL水溶液のESR信号を25℃で記録した。検出セルには石英製水溶液セルを使用し、ESR測定の諸条件は以下に記載の通りである。ESR装置本体の測定条件
マイクロ波出力1.0mW、磁場変調強度160μT、時定数50μ秒、増幅率6300、測定温度25℃
本発明の流通型高感度ESR装置の測定条件
送液系;送液流速0.1ml/分、TEMPOL溶液注入量0.2ml、溶液温度25℃
データ処理系;データ間隔25μ秒、積算回数80000回、信号間隔2.0秒/point
【0031】
送液量を0.1ml毎分に設定した流通系にTEMPOL水溶液を200 μl注入してESR信号を記録した。ESR装置本体の信号検出系からADボードを介して25μ秒間隔で得られた80000のデータを高速積算ソフトウエアで処理して4.0秒ごとのESR信号強度に変換し、TEMPOL水溶液が検出セルに到達して通過するまでESR信号強度の時間変化を記録した。濃度が異なるTEMPOL水溶液のESR信号強度とSN比を表2に示した。表2に示すように、TEMPOL水溶液の濃度低下につれて信号強度とSN比が減少した。TEMPOL濃度が10 nMの場合にはSN比は2を下回り、定量的な信号強度の解析が不可能であった。ESR信号強度とTEMPOLの濃度をプロットした検量線を図3に示す。図3に示すように、TEMPOL濃度が20 nM以上の濃度領域では、ESR信号強度とTEMPOL濃度の検量線には直線関係が認められた。この結果から、流通型高感度ESR装置における定量的な測定が可能なTEMPOL水溶液の濃度下限は20nMと評価できた。
【0032】
【表2】
表2 本発明の流通型高感度ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度及びSN比の相関
【0033】
従来型ESR装置を使用した場合、定量的解析が可能な強度のESR信号が検出できるTEMPOL水溶液の濃度下限は2.0μMであった。同じく、本発明の流通型高感度ESR装置を使用した場合に定量的解析が可能な強度のESR信号が検出できるTEMPOL水溶液の濃度下限は20.0nMであった。すなわち、本発明の流通型高感度ESR装置を使用することで、TEMPOL水溶液の検出感度は2桁(100倍)改善された。この結果は、本発明の流通型付属装置一式、高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式で構成される流通型高感度ESR装置の定量的なESR信号解析における優位性を支持している。
【0034】
測定例3(本発明の流通型高感度ESR装置による連続測定例)
本発明の流通型高感度ESR装置の従来型装置に対する優位性は、連続的なESR測定を実施する際の操作性と再現性の改善にある。TEMPOL水溶液を標準試料として、4.0 μMから0.5 μMの濃度範囲で連速的な測定を実施した。検出セルには石英製水溶液セルを使用し、ESR測定の諸条件は以下に記載の通りである。
【0035】
▲1▼ESR装置本体の測定条件
マイクロ波出力1.0mW、磁場変調強度160μT、時定数50μ秒、増幅率500、測定温度25℃
▲2▼本発明の流通型高感度ESR装置の測定条件
送液系;送液流速0.1ml/分、TEMPOL水溶液注入量0.2ml、溶液温度25℃
データ処理系;データ間隔100μ秒、積算回数10000回、信号間隔1.0秒/point
【0036】
送液量を1.0 ml毎分に設定した流通系にTEMPOL水溶液を200 μl注入してESR信号を記録した。本発明の流通型高感度ESR装置でESR装置本体の信号検出系からADボードを介して100 μ秒間隔で得られた10000のデータを高速積算ソフトウエアで処理して1.0秒ごとのESR信号強度に変換した。
【0037】
図4に、流通系に注入した200 μl のTEMPOL水溶液が検出セルに到達して通過するまでに検出されたESR信号強度の時間変化曲線を示す。横軸は測定開始からの時間、縦軸はESR信号強度を示す。時間変化曲線の上部に記載の数値は、流通系に注入されたTEMPOL水溶液の濃度である。1.0 μM濃度のTEMPOL水溶液を注入して観測されたESR信号のピーク強度及び半値幅はそれぞれ25.8及び12.0秒であり、同濃度の試料を15秒間隔で3回注入して得られた信号のピーク強度及び面積はそれぞれ0.1 %及び0.4 %以内の精度で一致した。これは、検出セル内部に注入されたTEMPOL水溶液が残留することなく有効に洗浄されたことを意味している。
【0038】
次に、4.0μMから0.5μM濃度に調製したTEMPOL水溶液をそれぞれ3回連続して注入してESR信号強度を記録した。得られたESR信号強度はTEMPOL水溶液の濃度に比例して増加あるいは減少した。ESR信号強度とTEMPOL水溶液の濃度をプロットして得た検量線に良好な直線性が認められ、ESR信号強度の実験誤差は2.5 %以内と評価した。
【0039】
本条件での測定間隔はインターバルを含め40秒が最適であったことから、10分間に最大で約15回のESR測定が可能になった。
従来型のESR装置で連続測定を実施する場合、検出セルの洗浄とTEMPOL水溶液の充填及び装置条件の調節などの一連の操作に約1分を要する。さらに、ESR信号強度の測定に少なくとも1分を要することから、10分間の測定時間における可能な連続測定回数はおおよそ4〜5回にとどまる。
従って本発明の流通型高感度ESR装置は、試料調製から信号強度検出までの操作性と同一濃度の試料溶液に対するESR信号強度の再現性に優れており、ESR信号強度の定量的な解析に最適の装置構成である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の流通型高感度ESR装置の構成を示す概略図である。
【図2】従来型ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度の関係(検量線)を示す図である。
【図3】本発明の流通型高感度ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度の関係(検量線)を示す図である。
【図4】本発明の流通型高感度ESR装置で連続記録したTEMPOL水溶液のESR信号強度の時間変化を示す図である。
【図5】本発明の流通型高感度ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度の関係(検量線)を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子スピン共鳴装置、その付属装置、及びこれを用いたフリーラジカルの測定方法に関し、さらに詳細には流通型高感度電子スピン共鳴装置及びこれを用いたフリーラジカルの測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子スピン共鳴(ESR)装置は分子あるいは原子内に不対電子を有する物質を選択的に検出する分光装置である。ESR装置は磁場強度が約330mTの電磁石、9GHz帯域のマイクロ波発信器と信号検出系及びキャビティと呼ばれる検出部位で構成されており、市販のESR装置も広く普及している。
ESR装置の測定対象となる不対電子を有する物質は一般的に常磁性種あるいはラジカル種と呼ばれている。ESR装置によってラジカル種を検出、同定及び定量することで、ラジカル種が関与する反応の機構について定性的あるいは定量的な情報が得られる。前者の定性的な情報とはラジカル種に固有の分光学的な情報であり、ラジカル種の由来、電子状態あるいは構造などの同定に必要な知見である。後者の定量的情報とはラジカル種の濃度に関する分析的な計測結果であり、ラジカル種の生成あるいは消失量から反応機構が考察される。
元来ESR装置はラジカル種の定性的な情報を獲得することを目的に設計、開発されてきた。しかし、活性酸素種などの生体に関わるラジカル種を効果的に消去する物質の探索と機能評価が食品あるいは医薬品開発と関連して注目されたことを背景に、ESR装置の定量的な分析精度の向上が求められている。
【0003】
ESR装置の測定条件が一定に保たれていれば、ラジカル種のESR信号強度はラジカル濃度に依存して増減する。しかし、元来定性的な情報を獲得するために設計されたESR装置の測定条件を分析化学の精度範囲内に維持するには、以下のような技術的な熟練が求められる。
まず、装置条件を補正するために一定のESR信号を与える外部基準試料と被分析試料の信号を同時に計測する方法が採用される。さらに、濃度既知のラジカル種のESR信号を外部標準試料の共存下で記録して得られた信号強度とラジカル濃度の検量線から、被分析試料に含まれるラジカル種の濃度が評価される。
【0004】
さらに具体的には、従来法によるラジカル濃度のESR分析実験操作は以下の手順で行われる。
▲1▼少なくとも2種類の反応溶液を混合後攪拌する、▲2▼試料をESR測定試料管に一定量を採取する、▲3▼一定時間内にESR測定試料管をキャビティにセットする、▲4▼装置の測定条件を一定に保った状態で信号を記録する。
一連の操作は熟練者でも溶液の混合から測定までに少なくとも2分程度の時間を要する繁雑な作業であり、操作性に問題がある。さらに、反応溶液の混合から測定までの反応時間を一定に整えるのは技術的に困難である。また、1回の測定ごとに試料管を洗浄する必要があり、分析化学の視点から試料管内部を常に同条件に保つには相当な熟練を要する。
【0005】
このような方法でESR信号の定量的解析が行われた場合、その定量可能な濃度の下限は水溶液ラジカルでおおよそマイクロモル濃度(μM、10−6M)程度である。近年、ラジカル種の定量的解析が食品及び医薬品開発の分野に普及するにつれて、定量可能なラジカル濃度の下限をピコモル濃度(pM、10−9M)領域に改善する要求が高まりつつある。
しかし、現在市販されているESR装置の検出感度を見る限り、約20年前の装置と比較して最新の装置でも、一桁程度の検出感度向上が認められる程度であり、ESR装置本体の検出感度はほぼ限界に到達しつつある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の目的は、従来のESR装置の検出感度と比較して検出感度が二桁程度改善されたESR装置を提供することである。
本発明の他の目的は、従来のESR装置に接続して使用することにより、検出感度を著しく改善し得る、流通型付属装置を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記流通型ESR装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は下記により達成される。
(1)マイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段を含む電子スピン共鳴装置において、該キャビティ内に収容された、試料入口と試料出口を有する検出セルと、該試料入口に連結された試料導入手段と、該試料出口に連結された試料排出手段と、該電子スピン共鳴装置のマイクロ波の発生とマイクロ波信号の検出を制御する手段と、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段とを設けたことを特徴とする流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(2)該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段が、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットするものである上記1記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(3)所定単位時間が20μ秒〜90秒である上記2記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(4)試料導入手段が、送液ポンプと注入弁を含む上記1〜3のいずれか1項記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
(5)試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、電子スピン共鳴装置を流通型に改変するための流通型電子スピン共鳴装置用付属装置。
(6)上記1〜4のいずれか1項記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法において、磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入する工程、マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程を含むことを特徴とするフリーラジカルの測定方法。
(7)該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程が、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットする工程を含むである上記6記載のフリーラジカルの測定方法。
(8)試料導入手段が、送液ポンプと注入弁を含み、注入弁から試料を導入し、送液ポンプからキャリア流体を導入して試料を検出セルに導入する上記6又は7記載のフリーラジカルの測定方法。
(9)試料導入手段が、少なくとも2つの送液ポンプを含み、各送液ポンプから異なる試料を導入し、合流点又はその下流で試料を反応させた後、検出セルに導入する上記6又は7記載のフリーラジカルの測定方法。
(10)試料導入手段が、反応促進手段を含む、上記6〜9のいずれか1項記載のフリーラジカルの測定方法。
(11)反応促進手段が、ミキサー、電解セル、光照射システム、加熱又は冷却システムの少なくとも1種を含んでいる、上記10記載のフリーラジカルの測定方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のESR装置は、市販のESR装置、例えば、日本電子株式会社製ESR装置(JES−FE、−RE及び−TE型装置)等、これに接続して使用する流通型付属装置一式及びパソコンによる高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式で構成されている。前記流通型付属装置一式はESR測定に関わる時間制御、定量性、再現性及び操作性の向上をもたらし、後者の高速積算データ解析ソフトウエア一式はESR信号の高速積算によるシグナル/ノイズ比(SN比)の向上を実現する。本発明の流通型高感度ESR装置の構成の一例を図1に示す。
【0009】
図1において、電磁石と▲3▼信号検出系ESR装置本体が従来のESR装置本体を示し、▲1▼送液系及び▲2▼検出セルが本発明の流通型付属装置一式を示し、▲4▼及び▲5▼が本発明の高速積算及び装置制御ソフトウエア一式を示している。
本発明のESR装置に使用するマイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段自体は従来の電子スピン共鳴装置のものと同じである。本発明のESR装置は、従来は該キャビティ内に固定されていた検出セルを、試料入口と試料出口を有する検出セルに変え、該試料入口に試料導入手段を接続し、該試料出口にドレーンを接続し、基本的には磁場固定下で、検出セルに試料を連続的に導入しながら時間掃引して得られるESR信号を高速積算処理することにより、シグナル/ノイズ比を向上させたことを特徴とするものである。
【0010】
マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段は、好ましくは、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎、例えば、20μ秒〜90秒毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットするものである。所定単位時間20μ秒〜90秒は積算回数と信号取り込み時間間隔の積に相当し、信号取り込み時間が最短の20μ秒で積算回数が1回の場合20μ秒となり、信号取り込み時間が最長の1000μ秒で積算回数が90万回の場合90秒となる。通常は測定時間短縮の観点から積算回数は1000〜20000回が好ましい。
試料導入手段は、例えば、送液ポンプと注入弁を含む。送液ポンプはクロマトグラフィー用送液ポンプ等が好ましく、注入弁としては液体クロマトグラフィー用の六方弁等が便利である。
【0011】
本発明に使用する検出セルとしては、測定溶媒を使用した際の誘電損失を抑制できる形状と内容積を有していることが好ましく、例えば、石英製の円筒型あるいは扁平型ESR測定試料管を使用することが好ましい。円筒型の試料管は、好ましくは直径0.1〜5.0mm、長さ10〜50mm、扁平型の試料管は、好ましくは厚さ2.0〜3.0mm、高さ3.0〜10.0mm、長さ10〜50mmである。2つの電磁石に挟まれた部分の検出セルの試料溶液の厚みは、誘電損失の観点から好ましくは0.1〜5.0mmである。
【0012】
送液装置は毎分0.01mlから10mlの送液量を連続的に送液できる性能が必要であり、このような送液装置としては例えば、40Mpa以上の送液圧力を達成できる液体クロマトグラフ用の送液ポンプが適している。送液系に被測定試料を注入する方法としては例えば、注入弁とマイクロシリンジを使用する方法が挙げられ、その注入量は1.0〜2000 μlの範囲が適している。注入弁を使用しない場合は、先に述べた送液ポンプと同等の性能を備えた送液ポンプを複数台使用し、それぞれの排出溶液を溶液混合機等で混合して検出セルに導入する。
【0013】
本発明の装置において、送液ポンプと検出セルの接続には、テトラフルオロエチレンあるいはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)素材などの化学的に不活性な細管を使用することが好ましい。細管の直径は好ましくは0.1〜5.0mm、さらに好ましくは0.2〜0.6mmである。
【0014】
この送液系で取り扱う測定溶媒は超純水及び各種緩衝溶液、メタノール、エタノールなどの有機溶媒との混合溶液等である。有機溶媒として高純度メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、ジエチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルムなどの非プロトン性極性溶媒、あるいはトルエン、ヘキサン、ベンゼンなどの非極性溶媒が使用される。
【0015】
本発明はさらに上記流通型高感度ESR装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法を提供するものである。この方法は、磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入し、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程を含むことを特徴とするものである。
マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程では、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎、例えば、20μ秒〜90秒毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットする。
【0016】
試料導入手段は、例えば、1つの送液ポンプと注入弁及びマイクロシリンジで構成される。また、少なくとも2つの送液系(送液ポンプ)を用意し、各送液系から異なる試料を導入し、試料の合流点又はその下流でこれらの試料を反応させた後、検出セルに導入することもできる。
本発明の装置には反応促進手段を設けることもできる。例えば、試料を混合し、反応を促進する手段としては、ミキサー、電解セル、UV光等の光照射システム、加熱又は冷却システム等が挙げられる。
光照射、加熱、冷却等は試料が検出セルに導入される前に行っても良いし、検出セルに対して行っても良い。反応促進手段の設置箇所は反応メカニズムの観測という観点から適宜決定すれば良い。
【0017】
上記の点についてさらに具体的に説明する。
送液ポンプと注入弁を組み合わせた系において、ESR装置の検出セル部分に紫外線を照射することでラジカル反応の促進が可能になる。例えば、注入弁から過酸化水素を含む反応溶液を注入して検出セル部分で紫外線照射すると、過酸化水素の紫外線分解で生じるOHラジカルが関与するESR信号の検出が達成される。
これを応用するとOHラジカルに代表される活性酸素ラジカルの反応に関する定量的な測定が実現できる。
また本発明のESR装置の検出セルの上流部分に、反応の促進手段として流通型電解反応層あるいは酸化触媒層を接続することが可能である。前者の電解反応層では、流通系に注入された反応物質が電解酸化あるいは電解還元を受けてラジカルに変換されることで反応が促進されるために、短寿命ラジカル種のESR測定が可能になる。後者の酸化触媒層に酸化チタンなどの光酸化触媒固体を充填して紫外線照射するとラジカル種の生成を伴う反応が促進され、前者と同じく短寿命ラジカル種のESR検出が可能になる。
【0018】
さらに本発明のESR装置の送液系に、細胞あるいは組織など生体試料の懸濁液を通過させ、注入弁から生体組織の刺激物質を導入して生体試料と反応させることにより 、生体試料から生成する活性酸素ラジカルなどの不安定ラジカル種を生成直後に検出セルにより検出することが可能になる。
また本発明のESR装置の送液系を少なくとも2つのシリンジ様の押し出し型ポンプとし、検出セルの上流に両ポンプからの反応溶液を急速混合するミキサーを接続することで、反応の直後に生成する短寿命ラジカル種の検出が可能になる。
この際に、ESR装置の検出セルに反応溶液を導入した直後に送液を停止するストップトフロー測定法を応用することで、生成するラジカル種濃度の定量的な解析から不安定ラジカル種の寿命あるいは生成の速度定数等が評価できる。
さらに、不安定ラジカル種が検出セル内に停止した状態で観測磁場を掃引することでもラジカル種のESR信号が記録可能であり、その際に得られるESR信号は本発明の高速積算処理によってSN比が改善される。
【0019】
本発明はまた、試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、電子スピン共鳴装置を流通型に改変するための流通型電子スピン共鳴装置用付属装置を提供するものである。
先に述べたように、従来のESR装置には、時間的な定量性、再現性及び操作性において大きな問題があった。本発明の流通型付属装置一式は、従来法のこのような問題を改善するための装置である。
【0020】
本発明の流通型付属装置一式は上記のように構成されているため、送液系から送液されたラジカルを含む試料溶液がESRキャビティに予めセットされた検出セルを通過する間にESR信号が検出できる。本発明の流通型付属装置一式を使用することで得られる利点は少なくとも以下の4点にある。
▲1▼検出セルを予めセットしたことで、ESR測定条件を常に一定に維持できる、▲2▼溶液を常に流し続けることで、検出セルの洗浄操作が不必要になる、▲3▼一定の流速で一定の流路を一定体積のラジカル種を含む反応溶液が送液されるため、溶液混合から測定までの反応時間が一定に保たれる、▲4▼ラジカル種を含む反応溶液の調製操作が単純化され、1回の測定に要する時間が短縮できる。
このように、流通型付属装置一式を使用することでESR測定に関する定量性と再現性、操作性が従来型装置に比べて著しく改善される。従って、ESR装置の分析装置としての信頼性、精度及び確度が格段に向上した。
【0021】
次に、高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式によるESR装置の信号検出感度の改善について説明する。
ESR装置の信号検出感度を上げることは、見かけのSN比の改善に他ならない。
現状のESR装置ではおおよそ0.01秒から3秒程度の時定数回路を導入することでSN比の改善を達成している。この他にも磁場掃引を繰り返したESR信号の積算処理によってもSN比の向上が図られている。
前者の手法では時定数を長く設定するとSN比は改善される反面、ESR測定の磁場掃引速度を遅く設定するため、一回の測定につき数十分の測定時間が必要になる。後者の積算法でSN比を二桁改善するには10000回程度の磁場掃引が必要であり、そのためには数時間程度の測定時間を必要とする。いずれの方法でもSN比を改善するには測定時間が著しく長くなるため、寿命の短いラジカル種のESR測定法としては実用性に乏しい。
【0022】
本発明の高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式は、図1に示すように、▲3▼の信号検出系から得られるアナログ形式のESR信号をμ秒間隔でAD変換ボードから▲4▼のデータ処理系に取り込み、本発明の高速積算ソフトウエアで積算処理することでSN比を改善している。さらに、円滑なESR測定とデータ処理を実施するために、高速積算ソフトウエアと連動する装置制御ソフトウエアで測定条件及び設定磁場を制御する。
【0023】
パソコンによるデータ処理系は、ESR本体の信号検出系とADボードを介して接続され、そのADボードは最短で3.0 μ秒の時間間隔でESR信号を本発明に専用の高速積算ソフトウエアに取り込む能力を備えている。
高速積算ソフトウエアはADボードから得られたデータを最大で900,000回積算処理してESR信号強度に変換し、その時間変化及び磁場変化スペクトルとして処理する能力を有している。
装置制御ソフトウエア一式は、本発明の流通型高感度ESR装置に関わる、ESR装置の信号検出系、電磁石、送液装置、ADボードなどハードウエア全般を制御する。
【0024】
以上、本発明のESR装置を磁場固定法により使用する場合を例として説明したが、本発明は磁場固定法に限定されるものではない。本発明の特徴は、基本的には磁場を固定し、フローインジェクション法、すなわち、試料を流通系にすることにより高感度なESR測定を実現したことにある。これは本来ESRがもっているファクター、つまり横軸が磁場であることを止め、ある特定の場所、すなわちピークトップだけを見ていることに他ならない。従って、ピークトップのみならず、そこから少し磁場をずらせた位置でESR測定を行い、その点を結べば本来の磁場を横軸とするESRスペクトルを得ることができる。このようにして構築したESRスペクトルも、磁場固定法によるのと同様に高感度、例えば、2桁程度感度が向上したESRスペクトルである。従って、本発明のESR装置及び付属装置は、磁場固定法のみに限られることなく、従来の磁場掃引法のESRスペクトルとして再構築することにも適用できるものである。
【0025】
【発明の効果】
本発明のESR装置は、上記構成の流通型付属装置一式を具備しているため、送液系から送液されたラジカルを含む試料溶液がESRキャビティに予めセットされた検出セルを通過する間にESR信号が検出できる。検出セルが予めセットされているため、ESR測定条件を常に一定に維持でき、溶液を常に流し続けるため、検出セルの洗浄操作が不必要であり、一定の流速で一定の流路を一定体積のラジカル種を含む反応溶液が送液されるため、溶液混合から測定までの反応時間が一定に保たれ、ラジカル種を含む反応溶液の調製操作が単純化され、1回の測定に要する時間が短縮できる。従って、ESR測定に関する定量性と再現性、操作性が従来型装置に比べて著しく改善され、分析装置としての信頼性、精度及び確度が格段に高い。
そして、信号検出系から得られるアナログ形式のESR信号をμ秒間隔でAD変換ボードからデータ処理系に取り込み、高速積算ソフトウエアで積算処理しているため、SN比が従来のESR装置と比較して格段に高くなり、検出感度が著しく高い。
【0026】
以下、本発明の流通型高感度ESR装置の一実施例を示す。
実施例1(本発明の流通型高感度ESR装置)
ESR装置としては、ラジカルリサーチ株式会社製デジタル掃引ユニット(RDSU−03)を組み込んだ日本電子株式会社製JES−RE−1Xを使用した。
試料導入手段(送液系)としては、毎分あたり0.01mlから10mlの送液能力を有する通常の液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを使用した。このポンプを注入弁を介して検出セルと接続した。検出セルとして、断面1.7mm×9.0mm、長さ約50mm、試料通過部の厚み0.3mmの扁平セルを使用した。この扁平セルを上記ESR装置のキャビティに収納し、扁平セルの出口はドレインに接続した。各部の接続には、内径0.25mmのポリテトラフルオロエチレン管を使用した。
試料を注入弁から注入し、HPLCポンプから溶媒を送液して試料を検出セル内に導入する。ESR装置本体から25 〜100μ秒の時間間隔でADボードを介してESR信号をパソコンに取り込み、1000〜60,000回積算処理してSN比に優れたESR信号に変換する。
【0027】
次に、従来型ESR装置及び本発明の流通型高感度ESR装置を用いたラジカル種の測定例を示す。
測定例1(従来型ESR装置の検出下限濃度)
従来型ESR装置(ラジカルリサーチ株式会社製デジタル掃引ユニット(RDSU−03)を組み込んだ日本電子株式会社製ESR装置JES−RE−1X)によるラジカル溶液のESR信号を記録した。
測定には標準試料として、高純度2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−N−オキシル(2,2,6,6−tetramethyl−4−hydroxy−piperidine−N−oxyl、和光純薬から購入、以下「TEMPOL」という)の超純水(和光純薬から購入)水溶液を使用した。50.0μMから1.0 μMの範囲で調製したTEMPOL水溶液のESR信号を25℃で記録した。測定条件は以下のとおりである。
ESR装置本体の測定条件
マイクロ波出力1.0mW、磁場変調強度79μT、掃引磁場幅10mT、掃引時間1.0分、時定数0.01秒、増幅率500、測定温度25℃
各濃度のTEMPOL水溶液のESR信号強度とSN比を表1に示す。ESR信号の相対強度とTEMPOLの濃度をプロットした検量線を図2に示す。
【0028】
表1に示すように、TEMPOL水溶液の濃度低下につれて信号強度とSN比が減少した。TEMPOL濃度が0.5μMの場合にはSN比は2を下回り、定量的な信号強度の解析が不可能であった。また、図2に示すように、TEMPOL濃度が1.0 μM以上の濃度領域では、ESR信号強度とTEMPOL濃度の検量線には直線関係が認められた。この結果から、従来型ESR装置における定量的な測定が可能なTEMPOL水溶液の濃度下限は2.0μMと評価できた。
【0029】
【表1】
表1 従来型ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度及びSN比の相関
【0030】
測定例2(本発明の流通型高感度ESR装置の検出下限濃度)
次に、実施例1に示した本発明の流通型高感度ESR装置を使用して200.0 nMから10.0 nMの範囲で調製したTEMPOL水溶液のESR信号を25℃で記録した。検出セルには石英製水溶液セルを使用し、ESR測定の諸条件は以下に記載の通りである。ESR装置本体の測定条件
マイクロ波出力1.0mW、磁場変調強度160μT、時定数50μ秒、増幅率6300、測定温度25℃
本発明の流通型高感度ESR装置の測定条件
送液系;送液流速0.1ml/分、TEMPOL溶液注入量0.2ml、溶液温度25℃
データ処理系;データ間隔25μ秒、積算回数80000回、信号間隔2.0秒/point
【0031】
送液量を0.1ml毎分に設定した流通系にTEMPOL水溶液を200 μl注入してESR信号を記録した。ESR装置本体の信号検出系からADボードを介して25μ秒間隔で得られた80000のデータを高速積算ソフトウエアで処理して4.0秒ごとのESR信号強度に変換し、TEMPOL水溶液が検出セルに到達して通過するまでESR信号強度の時間変化を記録した。濃度が異なるTEMPOL水溶液のESR信号強度とSN比を表2に示した。表2に示すように、TEMPOL水溶液の濃度低下につれて信号強度とSN比が減少した。TEMPOL濃度が10 nMの場合にはSN比は2を下回り、定量的な信号強度の解析が不可能であった。ESR信号強度とTEMPOLの濃度をプロットした検量線を図3に示す。図3に示すように、TEMPOL濃度が20 nM以上の濃度領域では、ESR信号強度とTEMPOL濃度の検量線には直線関係が認められた。この結果から、流通型高感度ESR装置における定量的な測定が可能なTEMPOL水溶液の濃度下限は20nMと評価できた。
【0032】
【表2】
表2 本発明の流通型高感度ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度及びSN比の相関
【0033】
従来型ESR装置を使用した場合、定量的解析が可能な強度のESR信号が検出できるTEMPOL水溶液の濃度下限は2.0μMであった。同じく、本発明の流通型高感度ESR装置を使用した場合に定量的解析が可能な強度のESR信号が検出できるTEMPOL水溶液の濃度下限は20.0nMであった。すなわち、本発明の流通型高感度ESR装置を使用することで、TEMPOL水溶液の検出感度は2桁(100倍)改善された。この結果は、本発明の流通型付属装置一式、高速積算データ解析及び装置制御ソフトウエア一式で構成される流通型高感度ESR装置の定量的なESR信号解析における優位性を支持している。
【0034】
測定例3(本発明の流通型高感度ESR装置による連続測定例)
本発明の流通型高感度ESR装置の従来型装置に対する優位性は、連続的なESR測定を実施する際の操作性と再現性の改善にある。TEMPOL水溶液を標準試料として、4.0 μMから0.5 μMの濃度範囲で連速的な測定を実施した。検出セルには石英製水溶液セルを使用し、ESR測定の諸条件は以下に記載の通りである。
【0035】
▲1▼ESR装置本体の測定条件
マイクロ波出力1.0mW、磁場変調強度160μT、時定数50μ秒、増幅率500、測定温度25℃
▲2▼本発明の流通型高感度ESR装置の測定条件
送液系;送液流速0.1ml/分、TEMPOL水溶液注入量0.2ml、溶液温度25℃
データ処理系;データ間隔100μ秒、積算回数10000回、信号間隔1.0秒/point
【0036】
送液量を1.0 ml毎分に設定した流通系にTEMPOL水溶液を200 μl注入してESR信号を記録した。本発明の流通型高感度ESR装置でESR装置本体の信号検出系からADボードを介して100 μ秒間隔で得られた10000のデータを高速積算ソフトウエアで処理して1.0秒ごとのESR信号強度に変換した。
【0037】
図4に、流通系に注入した200 μl のTEMPOL水溶液が検出セルに到達して通過するまでに検出されたESR信号強度の時間変化曲線を示す。横軸は測定開始からの時間、縦軸はESR信号強度を示す。時間変化曲線の上部に記載の数値は、流通系に注入されたTEMPOL水溶液の濃度である。1.0 μM濃度のTEMPOL水溶液を注入して観測されたESR信号のピーク強度及び半値幅はそれぞれ25.8及び12.0秒であり、同濃度の試料を15秒間隔で3回注入して得られた信号のピーク強度及び面積はそれぞれ0.1 %及び0.4 %以内の精度で一致した。これは、検出セル内部に注入されたTEMPOL水溶液が残留することなく有効に洗浄されたことを意味している。
【0038】
次に、4.0μMから0.5μM濃度に調製したTEMPOL水溶液をそれぞれ3回連続して注入してESR信号強度を記録した。得られたESR信号強度はTEMPOL水溶液の濃度に比例して増加あるいは減少した。ESR信号強度とTEMPOL水溶液の濃度をプロットして得た検量線に良好な直線性が認められ、ESR信号強度の実験誤差は2.5 %以内と評価した。
【0039】
本条件での測定間隔はインターバルを含め40秒が最適であったことから、10分間に最大で約15回のESR測定が可能になった。
従来型のESR装置で連続測定を実施する場合、検出セルの洗浄とTEMPOL水溶液の充填及び装置条件の調節などの一連の操作に約1分を要する。さらに、ESR信号強度の測定に少なくとも1分を要することから、10分間の測定時間における可能な連続測定回数はおおよそ4〜5回にとどまる。
従って本発明の流通型高感度ESR装置は、試料調製から信号強度検出までの操作性と同一濃度の試料溶液に対するESR信号強度の再現性に優れており、ESR信号強度の定量的な解析に最適の装置構成である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の流通型高感度ESR装置の構成を示す概略図である。
【図2】従来型ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度の関係(検量線)を示す図である。
【図3】本発明の流通型高感度ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度の関係(検量線)を示す図である。
【図4】本発明の流通型高感度ESR装置で連続記録したTEMPOL水溶液のESR信号強度の時間変化を示す図である。
【図5】本発明の流通型高感度ESR装置によるTEMPOL水溶液の濃度とESR信号強度の関係(検量線)を示す図である。
Claims (11)
- マイクロ波発生手段、導波管、キャビティ、電磁石、及びマイクロ波信号検出手段を含む電子スピン共鳴装置において、該キャビティ内に収容された、試料入口と試料出口を有する検出セルと、該試料入口に連結された試料導入手段と、該試料出口に連結された試料排出手段と、該電子スピン共鳴装置のマイクロ波の発生とマイクロ波信号の検出を制御する手段と、該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段とを設けたことを特徴とする流通型高感度電子スピン共鳴装置。
- 該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する手段が、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットするものである請求項1記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
- 所定単位時間が20μ〜90秒である請求項2記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
- 試料導入手段が、送液ポンプと注入弁を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置。
- 試料入口と試料出口を有する検出セルと、送液ポンプと、注入弁とを含む、電子スピン共鳴装置を流通型に改変するための流通型電子スピン共鳴装置用付属装置。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載の流通型高感度電子スピン共鳴装置を用いて試料中のフリーラジカルを測定する方法において、磁場強度を固定し、試料導入手段から液体試料を連続的に検出セルに導入する工程、マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程を含むことを特徴とするフリーラジカルの測定方法。
- 該マイクロ波信号検出手段からの出力信号を高速積算処理する工程が、出力信号を20μ秒〜1000μ秒の時間間隔で取り込み、これを所定単位時間毎に積算して得られる信号強度を所定単位時間毎に記録し、時間に対してプロットする工程を含むである請求項6記載のフリーラジカルの測定方法。
- 試料導入手段が、送液ポンプと注入弁を含み、注入弁から試料を導入し、送液ポンプからキャリア流体を導入して試料を検出セルに導入する請求項6又は7記載のフリーラジカルの測定方法。
- 試料導入手段が、少なくとも2つの送液ポンプを含み、各送液ポンプから異なる試料を導入し、合流点又はその下流で試料を反応させた後、検出セルに導入する請求項6又は7記載のフリーラジカルの測定方法。
- 試料導入手段が、反応促進手段を含む、請求項6〜9のいずれか1項記載のフリーラジカルの測定方法。
- 反応促進手段が、ミキサー、電解セル、光照射システム、加熱又は冷却システムの少なくとも1種を含んでいる、請求項10記載のフリーラジカルの測定方法。
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2002
- 2002-10-24 JP JP2002309410A patent/JP2004144597A/ja active Pending
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