JP2004137644A - 合成繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ネルソンローラー表面の付着物堆積を抑制し、糸切れや毛羽の発生を解消すると共に、稼働率の向上が可能でかつ生産効率を改善した合成繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融紡糸した合成繊維糸条を複数のネルソンローラを用いて延伸・熱処理し、引き続いて巻き取る合成繊維の製造方法であって、ネルソンローラーの2つのローラーの回転軸間の角度を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【選択図】図3
【解決手段】溶融紡糸した合成繊維糸条を複数のネルソンローラを用いて延伸・熱処理し、引き続いて巻き取る合成繊維の製造方法であって、ネルソンローラーの2つのローラーの回転軸間の角度を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする合成繊維の製造方法。
【選択図】図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は合成繊維の製造方法に関するものであり、更に詳しくはネルソンローラーに堆積する紡糸油剤に起因する熱変成物の発生を低減し、ローラー洗浄等のための停機周期を延長し、かつ製糸性を向上させることにより、生産効率を増加させるものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミドやポリエステルなどに代表される合成繊維、なかでも産業用合成繊維の製造においては、一般に複数のネルソンローラー群を用いて、未延伸糸を高倍率かつ高張力下で熱延伸を行うことにより、高強力を達成する必要がある。このため、高倍率に延伸された糸条に熱セットを施すために複数のネルソンローラー群の中の少なくとも一つのネルソンローラーは高温に設定されることが必要である。そして、この未延伸糸の延伸・熱処理工程においては、走行糸条から脱落する異物が経時的にネルソンローラーの表面に付着、堆積することに起因して、延伸状態が異常になるという現象を生じ、この現象によって得られる繊維の品質・品位や生産効率に重大な影響を及ぼすことが問題となっていた。
【0003】
ここでいう延伸状態の異常とは、ネルソンローラーの表面に付着、堆積した異物に起因して表面摩擦力が高くなり、走行糸条がネルソンローラーに巻き付いてしまったり、糸条単糸が切断して毛羽となったり、ひいては糸条自身が切断してしまうことなどが挙げられる。
【0004】
また、特にポリマ融点近傍の高温に設定されたネルソンローラー上に付着、堆積した異物が、ネルソンローラーと糸条との間の熱伝達を妨げ、その結果糸条の熱処理が十分に行われなくなり、得られる延伸糸の品質・品位が経時的に変化するといった好ましくない現象も認められる。そして、高温に設定されたネルソンローラーの表面汚れは、比較的短時間で発生して上記延伸状態の異常を生ずるため、定期的あるいは異常状態を検知するごとに、糸条を強制的に切断し、延伸装置を停機してネルソンローラー上の付着物を除去することが頻々に行われており、これによる生産効率の低下と製品の品位低下の問題が大きくクローズアップされていた。
【0005】
ここで、上記ネルソンローラー上の付着堆積物としては、主に糸条に付与した油剤が延伸熱処理ローラー上で熱によって変成することにより生じた固着物、糸条から析出したオリゴマ類およびそれらの熱変成物、水に含まれるシリカなどが考えられる。
【0006】
このような付着堆積物による延伸異常の回避、除去方法として、ネルソンローラーの表面にスクレーパー刃を接触させることにより付着堆積物を清掃する装置(特許文献1参照)、ネルソンローラーの表面に回転ブラシを接触させることにより付着堆積物を清掃する装置(特許文献2参照)が、それぞれ提案されている。しかし、産業用繊維の製造においては、ネルソンローラーとして高温加熱ローラーが使用される場合が多いため、上記のようなスクレーパー刃や回転ブラシによっては、付着堆積物を容易に除去することができない。さらには、太繊度の糸条を高張力延伸するため、糸条の切断後に生ずるローラー巻き付き糸によって、ネルソンローラーに近接して取り付けられたスクレーパー刃や回転ブラシなどの装置の破損が頻発してしまうという問題もあった。
【0007】
また、衣料用繊維製造の分野において走行糸条を糸道ガイドによりネルソンローラー上で往復運動(トラバース)させる方法および装置も提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−78364号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平8−187469号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平8−170215号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、産業用繊維の製造に関しては、通常、衣料用繊維と比較して太繊度を有し、高倍率に延伸するため、衣料用繊維の製造に比較して単糸切れ、糸切れの発生が顕著である。さらに、衣料用繊維製造に用いられるネルソンローラーに比べて表面温度が高く設定されるため、ネルソンローラーへの油剤熱変成物に起因する付着物の蓄積が顕著であり、その影響が得られる糸条の品位に明確に現れるという問題を有している。したがって、単に糸道ガイドを用いて糸条をネルソンローラー上で往復運動させただけでは油剤変成物の生成を十分に防ぐことができず、往復運動の振幅の両端に変成物が堆積し、この堆積物が、経時的な糸切れ、毛羽等の増加引き起こす。これを防ぐためには、やはりネルソンローラー上の付着物を除去するために停機を多く行なわねばならず、稼働率の向上を達成することができなかった。
【0012】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。したがって、本発明の目的は、複数のネルソンローラー群を用いて未延伸糸を延伸・熱処理して延伸糸を製造することからなる合成繊維、特に産業用繊維の製造において、高温のネルソンローラー表面に付着物が堆積するのを抑制しつつ高温・高倍率延伸を行うことにより、産業用繊維に顕著である糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して高強度合成繊維の延伸・熱処理を長期間安定に維持し、さらにネルソンローラー上の付着物を除去するための停機を少なくして稼働率を向上させ生産効率を改善する合成繊維の製造方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明の合成繊維の製造方法は、溶融紡糸した合成繊維糸条をネルソンローラを用いて延伸・熱処理し、引き続いて巻き取る合成繊維の製造方法であって、ネルソンローラのネルソン角を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする。そして、本発明の合成繊維の製造方法は、以下の(1)〜(5)場合により顕著に効果を発揮する。
(1)前記ネルソンローラーのネルソン角とローラの直径の関係が下記式を満足すること。
【0014】
Ymm≦L×(tanθmax −tanθmin)≦50mm
ここで、L×(tanθmax −tanθmin)は他のローラーから当該ネルソンローラーに糸条が走行する際に最初に接触するローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量、Lはネルソンローラーの直径、θmaxはネルソン角が最大時の角度、θminはネルソン角が最小時の角度、Yは走糸の糸幅である。
(2)前記ネルソン角を周期的に変化させるネルソンローラーが延伸ローラーであること。
(3)前記ネルソン角を周期的に変化させるネルソンローラーの表面粗さRaが0.5〜5μmの範囲であること。
(4)前記ネルソン角の変更周期が5〜3600秒であること。
(5)1または複数のネルソンローラーの表面温度が糸条の融点−50℃〜糸条融点であること。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の合成繊維の製造方法の詳細について説明する。
【0016】
本発明の製造方法に供する合成繊維としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンおよびアラミドなどからなる糸条が挙げられるが、紡出された糸条をネルソンローラーを用いて延伸・熱処理することが可能な素材であれば、特に限定されない。
【0017】
また、本発明ではネルソン角を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする。
【0018】
ここで、ネルソン角は図2に表したθのことであり、ネルソンローラーの2つのローラー間を走行する糸条に垂直な面に法線方向(糸条と平行な方向)から2つの回転軸を投影した場合にできる2つの直線に囲まれた角度である。
【0019】
ネルソン角を変化させた場合には、ローラーの異なる部分を糸条が走行するため、ローラーに紡糸油剤に起因する汚れが付着しにくく、汚れに起因する製糸性の悪化を防ぐことができる。また、ネルソンローラーのネルソン角とローラの直径の関係が下記式を満足する場合に本発明の効果がより顕著に現れる。
【0020】
Ymm≦L×(tanθmax −tanθmin)≦50mm
ここで、L×(tanθmax −tanθmin)は他のローラーから当該ネルソンローラーに糸条が走行する際に最初に接触するローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量、Lはネルソンローラーの直径、θmaxはネルソン角が最大時の角度、θminはネルソン角が最小時の角度、Yは走糸の糸幅である。
【0021】
ネルソンローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量が糸条糸幅Yよりも大きい場合には走糸移動量が十分得られるために油剤変成物の堆積を防ぐ効果が大きい。50mmよりも小さくすれば移動量が大きすぎることもなく、ローラーの長さ等の関係から走糸の糸揺れなどが生じ、糸切れなどの原因となることもない。また、このローラーを延伸ローラーとして用いた場合には、紡糸油剤に起因する汚れの堆積が顕著である。これは、延伸ローラーは一般に高温に設定されるためであり、本発明の効果が大きい。
【0022】
またさらに、ネルソン角を周期的に変化せるネルソンローラーの表面粗さRaが0.5〜5μmの範囲である場合には、糸条とローラー表面の摩擦が低減されるので、走行糸条がネルソンローラー表面を移動する際に糸条にダメージを与えることがなく好ましい。また、本発明で使用される糸条は2糸条以上の多糸条であることが好ましい。2糸条以上の場合には、それぞれの糸条について単糸切れ等を減少することができるので、相乗的に大きな効果を得ることができる。
【0023】
さらに、ネルソンローラー上での走行糸条のダメージ軽減および装置の故障率の減少という点から、ネルソン角の変化周期は、5秒以上が好ましく、30秒以上がさらに好ましい。特に30秒以上とすれば糸条とローラーの擦過による製糸性の悪化を防ぐことができ、好ましい。
【0024】
また、本発明で周期的にネルソン角を変化させるとは、ネルソン角θを時間に対して変化させる際に、一定の周期で同じ変化をすること、つまり、時間を横軸にθを縦軸にとった場合に一定の周期でθの軌跡が同じになるように変化させることを言う。例えばθの変化が時間に対して直線的であったり、サインカーブを描く場合等があげられるが、製糸性、糸切れ等の観点から糸条のトラバース運動の両端でのトラバース速度が遅くなることが好ましいため、θの時間変化をサインカーブとした場合にはθmax、θmin付近での変化の速度が遅くなり好ましい。
【0025】
また、本発明では1または複数のネルソンローラーの表面温度が、糸条の融点−50℃〜糸条融点である場合に顕著に効果が現れる。高温に曝される場合には油剤が特に変成しやすいからである。糸条の融点−50℃よりも高い温度であれば、油剤の熱変性が増加するため本発明の効果が顕著に現れる。また、糸条融点以下の場合には溶け上がりが発生しないので、安定して製糸をすることができる。
【0026】
また、巻き取り速度が3000m/分以上の場合には、走行糸条が高速で移動するため、油剤変成物に伴う異物により糸条が擦過され易いため、本発明の効果が顕著に現れる。また、糸切れ等の観点から巻き取り速度は10000m/分以下が好ましい。
【0027】
なお、ネルソン角を周期的に変化させる方法としては、長期ランニングに耐えられ目的を叶えられる方法であれば、特に限定はしない。例えば、スクロールカム等を用いる方法が好ましい。例えば、ネルソンローラーに接続したモーターを取り付け版に設置し、その取り付け版を土台上で円弧運動するように設置する。そして、土台に取り付け版を円弧運動させるためのモーターを設置し、そのモーターにカムを設置したシャフトを接続し、モーターを回転させてカムを介して取り付け版を円弧運動させることにより、ネルソンローラーの一方のローラーを円弧運動させ、ネルソン角を周期的に変化させる方法が挙げられる。また、ネルソン角の変化周期を任意に設定するため、円弧運動をさせるためのモーターをシャフトの間に減速機を設けることが好ましい。また、同様にスクロールカムの代わりにボールねじを用いる方法、また、シリンダの直線運動を繰り返し行なって一方のローラーを円弧運動させる方法、およびステッピングモータにギヤを介して円弧運動させる方法などが挙げられる。また、コンピューターによる制御によって駆動モーターの回転自体を変化させる方法等も挙げられる。
【0028】
また、取り付け版と土台の間にはベアリング等の摩擦を軽減する手段を設けることが好ましい。
【0029】
以上説明したように、本発明の合成繊維の製造方法によれば、ネルソンローラー上に付着物が堆積するのを防止することにより、ネルソンローラーを長時間初期の状態に維持させることができるばかりか、付着物除去のための停機を少なくして稼働率および生産効率を高めることが可能であり、しかも糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して品質・品位の優れた合成繊維を製造することが可能である。
【0030】
なかでも特に、産業用高強力繊維を、高速の直接紡糸延伸法で製造する場合に、ネルソンローラー上に付着物が堆積するのを抑制することができてより効果的である。
【0031】
また、本発明ではネルソン角を周期的に変更するネルソンローラーより前の工程では、糸条がトラバースしないため、延伸補助装置等と糸条との擦過による製糸性の低下を防ぐことができる。
【0032】
【実施例】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、以下の実施例における各特性の評価は次の方法にしたがって行った。
[融点]
パーキンエルマー社製DSC−7型を用いて2mgのサンプルを溶融し、液体窒素により急冷固化した後、そのサンプルを20℃/分の速度でスキャンすることによって得た熱量変化トレースから求めた。融点は最大吸熱ピークの温度とした。本実施例によって得られた延伸糸の融点は250℃であった。
[表面粗さ]
ネルソンローラーの表面粗さはJIS B0601に従い、Kosaka Lab.製Surfcorder SE1700を用いて触針半径2μm、送り速さ0.5mm/秒、カットオフ0.8mmもしくは2.5mmとして、計測した断面曲線からネルソンローラー表面の粗さ曲線を求めて算出した。
[単糸切れ]
単糸切れ検知装置により、その個数をカウントし、1千万m当たりの単糸切れ個数を表した。
[ローラー汚れ]
24時間ごとに目視により第4ネルソンローラー上の糸道の状態を観察し、○が汚れが軽微、△が汚れ有り、×が汚れ多く糸揺れ大と判定した。
[糸切れ]
1日当たりの糸切れ回数を表した。
[原糸の強度]
JIS L−1017(1995)に基づいて測定した。すなわち、オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試料長25cm、引張り速度30cm/分の条件でS−S曲線を求め、このS−S曲線から値を読みとった。
【0033】
<実施例1>
図3に概略を示した製造装置を用いた。
【0034】
固有粘度(IV)が1.19のポリエチレンテレフタレートチップをエクストルーダ型溶融紡糸装置に供給して2糸条を同時に紡糸した。紡糸温度は300℃とし、15μmの空隙を有する金属フィルターを通して濾過し、口金を通して紡糸した。
【0035】
紡糸糸条を口金面から350mmの間を300℃の高温雰囲気下を通過させた後、約20℃の冷風を吹きつけて冷却固化させた。その後、オイリングローラー(4)で油剤を付与し、第1ネルソンローラー(6)で引き取り、得られた未延伸糸を一旦巻き取ることなく第1ネルソンローラー(6)、第2ネルソンローラー(7)間で1.06倍のプレストレッチを行い、次いで第2ネルソンローラー(7)、第3ネルソンローラー(8a, 8b)間で3.70倍に延伸し、第3ネルソンローラー(8a, 8b)、第4ネルソンローラー(9)間で1.40倍に延伸し、第4ネルソンローラー(9)、第5ネルソンローラー(10)間で1.0%のリラックスを行って、3300m/分の速度でワインダーで2糸条同時に巻取ることにより、総繊度1100dtex、72フィラメントの延伸糸を得た。ここで、第3および第4ネルソンローラー(8a,8b, 9)は表面がRa=1.0μmのいわゆる梨地表面であるCr2O3コーティングのものを用いた。
【0036】
各ネルソンローラー温度は、第1ネルソンローラー(6)が70℃、第2ネルソンローラー(7)が100℃、第3ネルソンローラー(8a,8b)が120℃、第4ネルソンローラー(9)が240℃、第5ネルソンローラー(10)が無加熱とした。また、各ネルソンローラーへの糸条の捲回数は、第1ネルソンローラー(6)が3回、第2ネルソンローラー(7)が3回、第3ネルソンローラー(8a,8b)が4回、第4ネルソンローラー(9)が7回、第5ネルソンローラー(10)が5回とした。第5ネルソンローラー(10)捲回中の糸条に対し、単糸切れ検知装置を設置し、その個数をカウントし、また、糸切れ回数も併せて評価した。
【0037】
上記の延伸・熱処理工程において第3ネルソンローラーの下方のローラー(8b)を円弧往復動させ、ネルソン角を変化させることにより、糸条をネルソンローラー上で第3ネルソンローラーの下方ローラー(8b)の回転軸方向にトラバースさせた。
【0038】
ネルソン角を周期的に変更する機構としては、図4に示したように第3ネルソンローラーの下方のローラー(8b)に接続したローラー回転用モーター(12)を取り付け版(13)に設置し、その取り付け版(13)を土台(14)上でローラーとモーターの接触面とローラー回転軸の交点から土台に下ろした垂線と土台の上面との交点を支点に円弧運動するように設置し、そして、土台(14)に取り付け版(13)を円弧運動させるためのモーター(15)を設置し、そのモーター(15)にカム(17)を設置したシャフト(16)を接続し、モーター(15)を回転させることによってカム(17)を介して取り付け版(13)を円弧運動させることにより、取り付け版(13)およびモーター(12)と接続されたネルソンローラーの下方のローラー(8b)を周期的に円弧復動させる機構を用いた。
【0039】
また、モーター(15)とシャフト(16)の間には減速機(19)を取り付け、モーターと減速機を用いて円弧運動の周期を30秒に、また、ネルソン角を3.8°〜5.8°となるようにローラーを周期的に円弧運動させた。走糸の移動幅は16mm、走糸幅は5mmであった。これらの条件およびローラー汚れ、単糸切れ、糸切れ、得られた原糸の乾熱収縮の評価結果を表1に併せて示した。
【0040】
本実施例1においては、糸条をネルソンローラー上でトラバースさせることにより、ネルソンローラー表面の状態が4日目までは汚れが少ない状態を維持することができ、単糸切れや糸切れが著しく少ないという効果が認められた。
【0041】
<実施例2〜6>
実施例1において、表1に示す通りにネルソン角、トラバース幅、ネルソンローラ表面粗さ等の条件を変更した。得られた結果を、表1に記載した。それぞれ、単糸切れ、糸切れとも著しく少ないという効果が認められた。
【0042】
<比較例1>
表1に示した条件以外は実施例1と同様の条件によってポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸を行ない、糸条を各ネルソンローラーに捲回してワインダーにて巻き取り、ローラー汚れ、単糸切れ、糸切れを評価した結果を表1に併せて示した。この結果、ネルソン角を周期的に変更せず糸条をネルソンローラー上でトラバースさせない場合は、ローラー表面の状態が2日目までは汚れが軽微な状態を維持することができたが、単糸切れが3日目に急激に増加し、以降巻取りが出来ない状態となって、糸切れも著しく悪い傾向であった。
【0043】
<比較例2>
第4ネルソンローラーの温度を220℃とした以外は比較例1と同様の条件で製糸した。糸条をネルソンローラー上でトラバースさせない場合には比較例1と同様にローラー表面の状態が2日目までは汚れが軽微な状態を維持することができたが、単糸切れが3日目に急激に増加し、以降巻取りが出来ない状態となって、糸切れも著しく悪い傾向であった。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の合成繊維の製造方法によれば、ネルソンローラー上に付着物が堆積するのを抑制することにより、ネルソンローラーを長時間初期の状態に維持させることができることから、付着物除去のための停機を少なくして稼働率および生産効率を高めることが可能であり、しかも糸切れや単糸切れの発生などの不具合を解消して、品質・品位のすぐれた高強度合成繊維を製造することが可能となる。したがって、本発明は合成繊維、特に産業用の高強度繊維の直接紡糸延伸に用いられる延伸熱処理ローラー表面の汚れ抑制において、顕著な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いるネルソンローラーの概略を表す斜視図である。
【図2】本発明に用いるネルソンローラーの概略を表す平面図である。
【図3】本発明の合成繊維の製造方法の概略を表す正面図である。
【図4】本発明に用いるネルソンローラーのネルソン角を周期的に変更させるための手段の概略を表す斜視図であり、第3ネルソンローラー下方のローラーを表す。
【符号の説明】
1.上段ローラー
2.下段ローラー
3.紡糸ダクト
4.オイリングローラー
5.集束ガイド
6.第1ネルソンローラー
7.第2ネルソンローラー
8a、8b.第3ネルソンローラー(延伸ローラー)
9.第4ネルソンローラー(延伸ローラー)
10.第5ネルソンローラー
11.走糸
12.ローラー回転用モーター
13.モーター取り付け板
14.土台
15.ネルソン角変更用モーター
16.シャフト
17.カム
18.摺動ころ
19.減速機
【発明の属する技術分野】
本発明は合成繊維の製造方法に関するものであり、更に詳しくはネルソンローラーに堆積する紡糸油剤に起因する熱変成物の発生を低減し、ローラー洗浄等のための停機周期を延長し、かつ製糸性を向上させることにより、生産効率を増加させるものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミドやポリエステルなどに代表される合成繊維、なかでも産業用合成繊維の製造においては、一般に複数のネルソンローラー群を用いて、未延伸糸を高倍率かつ高張力下で熱延伸を行うことにより、高強力を達成する必要がある。このため、高倍率に延伸された糸条に熱セットを施すために複数のネルソンローラー群の中の少なくとも一つのネルソンローラーは高温に設定されることが必要である。そして、この未延伸糸の延伸・熱処理工程においては、走行糸条から脱落する異物が経時的にネルソンローラーの表面に付着、堆積することに起因して、延伸状態が異常になるという現象を生じ、この現象によって得られる繊維の品質・品位や生産効率に重大な影響を及ぼすことが問題となっていた。
【0003】
ここでいう延伸状態の異常とは、ネルソンローラーの表面に付着、堆積した異物に起因して表面摩擦力が高くなり、走行糸条がネルソンローラーに巻き付いてしまったり、糸条単糸が切断して毛羽となったり、ひいては糸条自身が切断してしまうことなどが挙げられる。
【0004】
また、特にポリマ融点近傍の高温に設定されたネルソンローラー上に付着、堆積した異物が、ネルソンローラーと糸条との間の熱伝達を妨げ、その結果糸条の熱処理が十分に行われなくなり、得られる延伸糸の品質・品位が経時的に変化するといった好ましくない現象も認められる。そして、高温に設定されたネルソンローラーの表面汚れは、比較的短時間で発生して上記延伸状態の異常を生ずるため、定期的あるいは異常状態を検知するごとに、糸条を強制的に切断し、延伸装置を停機してネルソンローラー上の付着物を除去することが頻々に行われており、これによる生産効率の低下と製品の品位低下の問題が大きくクローズアップされていた。
【0005】
ここで、上記ネルソンローラー上の付着堆積物としては、主に糸条に付与した油剤が延伸熱処理ローラー上で熱によって変成することにより生じた固着物、糸条から析出したオリゴマ類およびそれらの熱変成物、水に含まれるシリカなどが考えられる。
【0006】
このような付着堆積物による延伸異常の回避、除去方法として、ネルソンローラーの表面にスクレーパー刃を接触させることにより付着堆積物を清掃する装置(特許文献1参照)、ネルソンローラーの表面に回転ブラシを接触させることにより付着堆積物を清掃する装置(特許文献2参照)が、それぞれ提案されている。しかし、産業用繊維の製造においては、ネルソンローラーとして高温加熱ローラーが使用される場合が多いため、上記のようなスクレーパー刃や回転ブラシによっては、付着堆積物を容易に除去することができない。さらには、太繊度の糸条を高張力延伸するため、糸条の切断後に生ずるローラー巻き付き糸によって、ネルソンローラーに近接して取り付けられたスクレーパー刃や回転ブラシなどの装置の破損が頻発してしまうという問題もあった。
【0007】
また、衣料用繊維製造の分野において走行糸条を糸道ガイドによりネルソンローラー上で往復運動(トラバース)させる方法および装置も提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−78364号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平8−187469号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平8−170215号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、産業用繊維の製造に関しては、通常、衣料用繊維と比較して太繊度を有し、高倍率に延伸するため、衣料用繊維の製造に比較して単糸切れ、糸切れの発生が顕著である。さらに、衣料用繊維製造に用いられるネルソンローラーに比べて表面温度が高く設定されるため、ネルソンローラーへの油剤熱変成物に起因する付着物の蓄積が顕著であり、その影響が得られる糸条の品位に明確に現れるという問題を有している。したがって、単に糸道ガイドを用いて糸条をネルソンローラー上で往復運動させただけでは油剤変成物の生成を十分に防ぐことができず、往復運動の振幅の両端に変成物が堆積し、この堆積物が、経時的な糸切れ、毛羽等の増加引き起こす。これを防ぐためには、やはりネルソンローラー上の付着物を除去するために停機を多く行なわねばならず、稼働率の向上を達成することができなかった。
【0012】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。したがって、本発明の目的は、複数のネルソンローラー群を用いて未延伸糸を延伸・熱処理して延伸糸を製造することからなる合成繊維、特に産業用繊維の製造において、高温のネルソンローラー表面に付着物が堆積するのを抑制しつつ高温・高倍率延伸を行うことにより、産業用繊維に顕著である糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して高強度合成繊維の延伸・熱処理を長期間安定に維持し、さらにネルソンローラー上の付着物を除去するための停機を少なくして稼働率を向上させ生産効率を改善する合成繊維の製造方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明の合成繊維の製造方法は、溶融紡糸した合成繊維糸条をネルソンローラを用いて延伸・熱処理し、引き続いて巻き取る合成繊維の製造方法であって、ネルソンローラのネルソン角を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする。そして、本発明の合成繊維の製造方法は、以下の(1)〜(5)場合により顕著に効果を発揮する。
(1)前記ネルソンローラーのネルソン角とローラの直径の関係が下記式を満足すること。
【0014】
Ymm≦L×(tanθmax −tanθmin)≦50mm
ここで、L×(tanθmax −tanθmin)は他のローラーから当該ネルソンローラーに糸条が走行する際に最初に接触するローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量、Lはネルソンローラーの直径、θmaxはネルソン角が最大時の角度、θminはネルソン角が最小時の角度、Yは走糸の糸幅である。
(2)前記ネルソン角を周期的に変化させるネルソンローラーが延伸ローラーであること。
(3)前記ネルソン角を周期的に変化させるネルソンローラーの表面粗さRaが0.5〜5μmの範囲であること。
(4)前記ネルソン角の変更周期が5〜3600秒であること。
(5)1または複数のネルソンローラーの表面温度が糸条の融点−50℃〜糸条融点であること。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の合成繊維の製造方法の詳細について説明する。
【0016】
本発明の製造方法に供する合成繊維としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンおよびアラミドなどからなる糸条が挙げられるが、紡出された糸条をネルソンローラーを用いて延伸・熱処理することが可能な素材であれば、特に限定されない。
【0017】
また、本発明ではネルソン角を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする。
【0018】
ここで、ネルソン角は図2に表したθのことであり、ネルソンローラーの2つのローラー間を走行する糸条に垂直な面に法線方向(糸条と平行な方向)から2つの回転軸を投影した場合にできる2つの直線に囲まれた角度である。
【0019】
ネルソン角を変化させた場合には、ローラーの異なる部分を糸条が走行するため、ローラーに紡糸油剤に起因する汚れが付着しにくく、汚れに起因する製糸性の悪化を防ぐことができる。また、ネルソンローラーのネルソン角とローラの直径の関係が下記式を満足する場合に本発明の効果がより顕著に現れる。
【0020】
Ymm≦L×(tanθmax −tanθmin)≦50mm
ここで、L×(tanθmax −tanθmin)は他のローラーから当該ネルソンローラーに糸条が走行する際に最初に接触するローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量、Lはネルソンローラーの直径、θmaxはネルソン角が最大時の角度、θminはネルソン角が最小時の角度、Yは走糸の糸幅である。
【0021】
ネルソンローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量が糸条糸幅Yよりも大きい場合には走糸移動量が十分得られるために油剤変成物の堆積を防ぐ効果が大きい。50mmよりも小さくすれば移動量が大きすぎることもなく、ローラーの長さ等の関係から走糸の糸揺れなどが生じ、糸切れなどの原因となることもない。また、このローラーを延伸ローラーとして用いた場合には、紡糸油剤に起因する汚れの堆積が顕著である。これは、延伸ローラーは一般に高温に設定されるためであり、本発明の効果が大きい。
【0022】
またさらに、ネルソン角を周期的に変化せるネルソンローラーの表面粗さRaが0.5〜5μmの範囲である場合には、糸条とローラー表面の摩擦が低減されるので、走行糸条がネルソンローラー表面を移動する際に糸条にダメージを与えることがなく好ましい。また、本発明で使用される糸条は2糸条以上の多糸条であることが好ましい。2糸条以上の場合には、それぞれの糸条について単糸切れ等を減少することができるので、相乗的に大きな効果を得ることができる。
【0023】
さらに、ネルソンローラー上での走行糸条のダメージ軽減および装置の故障率の減少という点から、ネルソン角の変化周期は、5秒以上が好ましく、30秒以上がさらに好ましい。特に30秒以上とすれば糸条とローラーの擦過による製糸性の悪化を防ぐことができ、好ましい。
【0024】
また、本発明で周期的にネルソン角を変化させるとは、ネルソン角θを時間に対して変化させる際に、一定の周期で同じ変化をすること、つまり、時間を横軸にθを縦軸にとった場合に一定の周期でθの軌跡が同じになるように変化させることを言う。例えばθの変化が時間に対して直線的であったり、サインカーブを描く場合等があげられるが、製糸性、糸切れ等の観点から糸条のトラバース運動の両端でのトラバース速度が遅くなることが好ましいため、θの時間変化をサインカーブとした場合にはθmax、θmin付近での変化の速度が遅くなり好ましい。
【0025】
また、本発明では1または複数のネルソンローラーの表面温度が、糸条の融点−50℃〜糸条融点である場合に顕著に効果が現れる。高温に曝される場合には油剤が特に変成しやすいからである。糸条の融点−50℃よりも高い温度であれば、油剤の熱変性が増加するため本発明の効果が顕著に現れる。また、糸条融点以下の場合には溶け上がりが発生しないので、安定して製糸をすることができる。
【0026】
また、巻き取り速度が3000m/分以上の場合には、走行糸条が高速で移動するため、油剤変成物に伴う異物により糸条が擦過され易いため、本発明の効果が顕著に現れる。また、糸切れ等の観点から巻き取り速度は10000m/分以下が好ましい。
【0027】
なお、ネルソン角を周期的に変化させる方法としては、長期ランニングに耐えられ目的を叶えられる方法であれば、特に限定はしない。例えば、スクロールカム等を用いる方法が好ましい。例えば、ネルソンローラーに接続したモーターを取り付け版に設置し、その取り付け版を土台上で円弧運動するように設置する。そして、土台に取り付け版を円弧運動させるためのモーターを設置し、そのモーターにカムを設置したシャフトを接続し、モーターを回転させてカムを介して取り付け版を円弧運動させることにより、ネルソンローラーの一方のローラーを円弧運動させ、ネルソン角を周期的に変化させる方法が挙げられる。また、ネルソン角の変化周期を任意に設定するため、円弧運動をさせるためのモーターをシャフトの間に減速機を設けることが好ましい。また、同様にスクロールカムの代わりにボールねじを用いる方法、また、シリンダの直線運動を繰り返し行なって一方のローラーを円弧運動させる方法、およびステッピングモータにギヤを介して円弧運動させる方法などが挙げられる。また、コンピューターによる制御によって駆動モーターの回転自体を変化させる方法等も挙げられる。
【0028】
また、取り付け版と土台の間にはベアリング等の摩擦を軽減する手段を設けることが好ましい。
【0029】
以上説明したように、本発明の合成繊維の製造方法によれば、ネルソンローラー上に付着物が堆積するのを防止することにより、ネルソンローラーを長時間初期の状態に維持させることができるばかりか、付着物除去のための停機を少なくして稼働率および生産効率を高めることが可能であり、しかも糸切れや毛羽の発生などの不具合を解消して品質・品位の優れた合成繊維を製造することが可能である。
【0030】
なかでも特に、産業用高強力繊維を、高速の直接紡糸延伸法で製造する場合に、ネルソンローラー上に付着物が堆積するのを抑制することができてより効果的である。
【0031】
また、本発明ではネルソン角を周期的に変更するネルソンローラーより前の工程では、糸条がトラバースしないため、延伸補助装置等と糸条との擦過による製糸性の低下を防ぐことができる。
【0032】
【実施例】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、以下の実施例における各特性の評価は次の方法にしたがって行った。
[融点]
パーキンエルマー社製DSC−7型を用いて2mgのサンプルを溶融し、液体窒素により急冷固化した後、そのサンプルを20℃/分の速度でスキャンすることによって得た熱量変化トレースから求めた。融点は最大吸熱ピークの温度とした。本実施例によって得られた延伸糸の融点は250℃であった。
[表面粗さ]
ネルソンローラーの表面粗さはJIS B0601に従い、Kosaka Lab.製Surfcorder SE1700を用いて触針半径2μm、送り速さ0.5mm/秒、カットオフ0.8mmもしくは2.5mmとして、計測した断面曲線からネルソンローラー表面の粗さ曲線を求めて算出した。
[単糸切れ]
単糸切れ検知装置により、その個数をカウントし、1千万m当たりの単糸切れ個数を表した。
[ローラー汚れ]
24時間ごとに目視により第4ネルソンローラー上の糸道の状態を観察し、○が汚れが軽微、△が汚れ有り、×が汚れ多く糸揺れ大と判定した。
[糸切れ]
1日当たりの糸切れ回数を表した。
[原糸の強度]
JIS L−1017(1995)に基づいて測定した。すなわち、オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、試料長25cm、引張り速度30cm/分の条件でS−S曲線を求め、このS−S曲線から値を読みとった。
【0033】
<実施例1>
図3に概略を示した製造装置を用いた。
【0034】
固有粘度(IV)が1.19のポリエチレンテレフタレートチップをエクストルーダ型溶融紡糸装置に供給して2糸条を同時に紡糸した。紡糸温度は300℃とし、15μmの空隙を有する金属フィルターを通して濾過し、口金を通して紡糸した。
【0035】
紡糸糸条を口金面から350mmの間を300℃の高温雰囲気下を通過させた後、約20℃の冷風を吹きつけて冷却固化させた。その後、オイリングローラー(4)で油剤を付与し、第1ネルソンローラー(6)で引き取り、得られた未延伸糸を一旦巻き取ることなく第1ネルソンローラー(6)、第2ネルソンローラー(7)間で1.06倍のプレストレッチを行い、次いで第2ネルソンローラー(7)、第3ネルソンローラー(8a, 8b)間で3.70倍に延伸し、第3ネルソンローラー(8a, 8b)、第4ネルソンローラー(9)間で1.40倍に延伸し、第4ネルソンローラー(9)、第5ネルソンローラー(10)間で1.0%のリラックスを行って、3300m/分の速度でワインダーで2糸条同時に巻取ることにより、総繊度1100dtex、72フィラメントの延伸糸を得た。ここで、第3および第4ネルソンローラー(8a,8b, 9)は表面がRa=1.0μmのいわゆる梨地表面であるCr2O3コーティングのものを用いた。
【0036】
各ネルソンローラー温度は、第1ネルソンローラー(6)が70℃、第2ネルソンローラー(7)が100℃、第3ネルソンローラー(8a,8b)が120℃、第4ネルソンローラー(9)が240℃、第5ネルソンローラー(10)が無加熱とした。また、各ネルソンローラーへの糸条の捲回数は、第1ネルソンローラー(6)が3回、第2ネルソンローラー(7)が3回、第3ネルソンローラー(8a,8b)が4回、第4ネルソンローラー(9)が7回、第5ネルソンローラー(10)が5回とした。第5ネルソンローラー(10)捲回中の糸条に対し、単糸切れ検知装置を設置し、その個数をカウントし、また、糸切れ回数も併せて評価した。
【0037】
上記の延伸・熱処理工程において第3ネルソンローラーの下方のローラー(8b)を円弧往復動させ、ネルソン角を変化させることにより、糸条をネルソンローラー上で第3ネルソンローラーの下方ローラー(8b)の回転軸方向にトラバースさせた。
【0038】
ネルソン角を周期的に変更する機構としては、図4に示したように第3ネルソンローラーの下方のローラー(8b)に接続したローラー回転用モーター(12)を取り付け版(13)に設置し、その取り付け版(13)を土台(14)上でローラーとモーターの接触面とローラー回転軸の交点から土台に下ろした垂線と土台の上面との交点を支点に円弧運動するように設置し、そして、土台(14)に取り付け版(13)を円弧運動させるためのモーター(15)を設置し、そのモーター(15)にカム(17)を設置したシャフト(16)を接続し、モーター(15)を回転させることによってカム(17)を介して取り付け版(13)を円弧運動させることにより、取り付け版(13)およびモーター(12)と接続されたネルソンローラーの下方のローラー(8b)を周期的に円弧復動させる機構を用いた。
【0039】
また、モーター(15)とシャフト(16)の間には減速機(19)を取り付け、モーターと減速機を用いて円弧運動の周期を30秒に、また、ネルソン角を3.8°〜5.8°となるようにローラーを周期的に円弧運動させた。走糸の移動幅は16mm、走糸幅は5mmであった。これらの条件およびローラー汚れ、単糸切れ、糸切れ、得られた原糸の乾熱収縮の評価結果を表1に併せて示した。
【0040】
本実施例1においては、糸条をネルソンローラー上でトラバースさせることにより、ネルソンローラー表面の状態が4日目までは汚れが少ない状態を維持することができ、単糸切れや糸切れが著しく少ないという効果が認められた。
【0041】
<実施例2〜6>
実施例1において、表1に示す通りにネルソン角、トラバース幅、ネルソンローラ表面粗さ等の条件を変更した。得られた結果を、表1に記載した。それぞれ、単糸切れ、糸切れとも著しく少ないという効果が認められた。
【0042】
<比較例1>
表1に示した条件以外は実施例1と同様の条件によってポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸を行ない、糸条を各ネルソンローラーに捲回してワインダーにて巻き取り、ローラー汚れ、単糸切れ、糸切れを評価した結果を表1に併せて示した。この結果、ネルソン角を周期的に変更せず糸条をネルソンローラー上でトラバースさせない場合は、ローラー表面の状態が2日目までは汚れが軽微な状態を維持することができたが、単糸切れが3日目に急激に増加し、以降巻取りが出来ない状態となって、糸切れも著しく悪い傾向であった。
【0043】
<比較例2>
第4ネルソンローラーの温度を220℃とした以外は比較例1と同様の条件で製糸した。糸条をネルソンローラー上でトラバースさせない場合には比較例1と同様にローラー表面の状態が2日目までは汚れが軽微な状態を維持することができたが、単糸切れが3日目に急激に増加し、以降巻取りが出来ない状態となって、糸切れも著しく悪い傾向であった。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の合成繊維の製造方法によれば、ネルソンローラー上に付着物が堆積するのを抑制することにより、ネルソンローラーを長時間初期の状態に維持させることができることから、付着物除去のための停機を少なくして稼働率および生産効率を高めることが可能であり、しかも糸切れや単糸切れの発生などの不具合を解消して、品質・品位のすぐれた高強度合成繊維を製造することが可能となる。したがって、本発明は合成繊維、特に産業用の高強度繊維の直接紡糸延伸に用いられる延伸熱処理ローラー表面の汚れ抑制において、顕著な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いるネルソンローラーの概略を表す斜視図である。
【図2】本発明に用いるネルソンローラーの概略を表す平面図である。
【図3】本発明の合成繊維の製造方法の概略を表す正面図である。
【図4】本発明に用いるネルソンローラーのネルソン角を周期的に変更させるための手段の概略を表す斜視図であり、第3ネルソンローラー下方のローラーを表す。
【符号の説明】
1.上段ローラー
2.下段ローラー
3.紡糸ダクト
4.オイリングローラー
5.集束ガイド
6.第1ネルソンローラー
7.第2ネルソンローラー
8a、8b.第3ネルソンローラー(延伸ローラー)
9.第4ネルソンローラー(延伸ローラー)
10.第5ネルソンローラー
11.走糸
12.ローラー回転用モーター
13.モーター取り付け板
14.土台
15.ネルソン角変更用モーター
16.シャフト
17.カム
18.摺動ころ
19.減速機
Claims (7)
- 溶融紡糸した合成繊維糸条をネルソンローラを用いて延伸・熱処理し、引き続いて巻き取る合成繊維の製造方法であって、ネルソンローラのネルソン角を周期的に変化させることにより、糸条をネルソンローラー回転軸方向にトラバースさせることを特徴とする合成繊維の製造方法。
- 前記ネルソンローラーのネルソン角とローラの直径の関係が下記式を満足することを特徴とする請求項1記載の合成繊維の製造方法。
Ymm≦L×(tanθmax −tanθmin)≦50mm
ここで、L×(tanθmax −tanθmin)は他のローラーから当該ネルソンローラーに糸条が走行する際に最初に接触するローラー上での走糸のローラー回転軸方向の移動量、Lはネルソンローラーの直径、θmaxはネルソン角が最大時の角度、θminはネルソン角が最小時の角度、Yは走糸の糸幅である。 - 前記ネルソン角を周期的に変化させるネルソンローラーが延伸ローラーであることを特徴とする請求項1記載の合成繊維の製造方法。
- 前記ネルソン角を周期的に変化させるネルソンローラーの表面粗さRaが0.5〜5μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の合成繊維の製造方法。
- 前記ネルソン角の移動周期が5〜3600秒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
- 1または複数のネルソンローラーの表面温度が糸条の融点−50℃〜糸条融点であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の合成繊維の製造方法。
- 前記合成繊維の巻き取り速度が3000〜10000m/分であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載の合成繊維の製造方法。
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