JP2004124888A - 偏心bf形状ピストンリングおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】偏心BF形状ピストンリングを精度よく窒化する。
【解決手段】ピストンリングがシリンダー内での面圧分布が最適となるカム形状であり、更に化合物層がない純拡散層がラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面にのみ形成される。
【選択図】 図1
【解決手段】ピストンリングがシリンダー内での面圧分布が最適となるカム形状であり、更に化合物層がない純拡散層がラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面にのみ形成される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関に用いられる外周摺動面に窒化層を有する窒化ピストンリングおよびその製造方法に関するものである。特に本発明は偏心バレルフェースピストンリングに関するものである。
バレルフェース(BF)ピストンリングは形状の項点が厚さの中心部に位置するピストンリングであり、偏心BFピストンリングは前記項点を中心部から誤差レベルでない特定位置(ISO規格によると厚さの1/3を項点とする)にずらしたピストンリングである。
【0002】
【従来の技術】
従来技術による窒化を施したピストンリング、例えばガス窒化法により窒化されたピストンリングは、外周摺動面以外にも窒化層が生成されている。近年開発されている自動車用ガソリンエンジンは、高出力化に伴いピストンリングへの負荷が大きくなり、前記の全面窒化層を有するピストンリングでは、ピストンリング側面部の窒化層がピストン溝を摩耗させ、最悪の場合にリングの振動が激しくなることでピストンリング自体が折損するという問題があった。
【0003】
また、従来ピストンリングの内外周面だけに窒化層を形成させることもあった(例えば特許文献1参照)が、リングのねじれが生じない場合はピストンとトップリング内周部との当たりがないので内周部窒化層は問題を起こさないが、運転中にねじれが生じた場合はトップリング内周角部がピストン溝部を摩耗させるという問題があった。
【0004】
このため、従来技術においては、ガス窒化法で全表面に窒化を入れた後に研削加工または化学的処理等によりトップリングで窒化を入れたくない不要な部位の窒化層を除去する方法、或いは窒化を防止するためにNiメッキなどを摺動部以外に付与した後に窒化処理を行うという方法が行われていた(特許文献2参照)。しかしながら、このような方法ではコスト面でのデメリットが大きい。なお、この公報に、具体的に示されたピストンリングの外周形状はストレートフェースである。
【0005】
更に、サイドレールについてであるが、イオン窒化法を用いて外周摺動面のみに窒化層を施すことが行われている(特許文献3参照)。
【0006】
これら従来のイオン窒化法やガス窒化法では摺動面の最表面に化合物層(白層)の生成が避けられない。この化合物層は非常に脆く、摺動に対しては致命的な欠陥となるため、これを機械加工や化学的処理等で除去することが不可欠であり、技術面およびコスト面での問題があった。
【0007】
この化合物層の対策として、イオン窒化処理におけるアンモニア濃度を20%以下に調整することにより表面に化合物層の生成しないピストンリングが得られることが特許文献4に開示されている。しかしながら、この低アンモニア濃度によるイオン窒化は、窒化時間が非常に長くなるため、母材硬度の低下や窒化後の形状変化が大きく実用的ではない。なおこの公報に、具体的に示されたコンプレッションリングの外周形状はBFであるが偏心BF形状ではない。また窒化層はコンプレッションリングの全周に形成されている。
【0008】
【特許文献1】
実開昭53−147309号公報
【0009】
【特許文献2】
特開昭60−152668号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平4−181067号公報
【0011】
【特許文献4】
特開平7−316778号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平6−220606号公報
【0013】
【非特許文献】
鋳鍛造と熱処理1994,6,第11〜16頁
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来技術(特許文献1〜4)では、短い窒化時間で化合物層がない純拡散層を所望部位に窒化する方法は知られていなかった。
更に偏心BFリング特有の形状を窒化後に得る方法は知られていなかった。
【0015】
すなわち、偏心BF形状のピストンリングは、良好な摺動特性を得るためにシリンダ内で均一な面圧分布となる必要があり、自由状態すなわちピストンに組み込みシリンダに入れる前の状態においては図1に示すように真円形状ではない。したがって非真円形状の偏心BF形状のピストンリングを窒化により得る必要がある。
更に、従来の窒化法で窒化した場合、窒化後の形状変化の予測が困難であり、窒化後にくずれた形状を修正することは技術面およびコスト面でのデメリットが大きい。
【0016】
前述の問題の対策として、(イ)偏心BF形状のピストンリングは、表面処理前に理想的なBF形状およびカム形状のピストンリング素材を作製し、窒化処理後に高硬度窒化層の加工を少なくするか或いは高硬度窒化層を全く加工しないことが望ましい。そのために、(ロ)窒化処理時に生成する有害な化合物層を極力少なくする、或いは窒化処理時に化合物層を全く形成させないことが必要である。(ハ)更に窒化後のピストンリングの形状が保たれたまま摺動面のみに化合物層のない純拡散層を短い窒化処理時間で付与することが必要である。
【0017】
前掲特許文献1の方法を偏心BF形状のピストンリングに施すと、内周部変化層を除去する必要があるから(イ)の要件が充たされない。
前掲特許文献2のガス窒化方法及び前掲特許文献3のイオン窒化方法では(ロ)、(ハ)の要件が充たされない。
前掲特許文献4の方法により窒化層をピストンリングの全周に形成すると、窒化処理時間が長いために偏心BFピストンリングの形状が大きく変形や母材硬度の低下で(ハ)の要件が充たされない。また、長時間処理によりコストメリットがなくなることもある
したがって、本発明はこれらの問題を招かない新規な窒化処理による偏心BF形状のピストンリングの製造方法とピストンリングを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る偏心BF(バレルフェース)形状の断面を有する内燃機関用ピストンリングは、前記ピストンリングがシリンダ−内での面圧分布が最適となるカム形状であり、更に化合物層がない純拡散層がラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面にのみ形成されていることを特徴とする。
また、本発明に係る偏心BF(バレルフェース)形状の断面を有する内燃機関用ピストンリングの製造方法は、カム形状に成形した偏心BF形状ピストンリング素材を窒化防止剤を含有する水溶液に浸漬した後、窒化処理防止剤を焼付して窒化防止皮膜を形成する工程と、前にピストンリング素材の外周摺動面のみから前記窒化防止皮膜を除去する工程と、ラジカル窒化法により前記外周摺動面のみに純拡散層を形成させる工程とを、有することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施形態】
MHV700以上の硬度を有する純拡散層の厚さを90μm以上にすると窒化後の変形が大きくなり、偏心BF(バレルフェース)形状を保つことができない。また、MHV700以上の硬度を有する純拡散層の厚さが50μm未満であると、ピストンリングの耐摩耗性が不足する。したがって、MHV700以上の硬度を有する純拡散層は50〜90μmの厚さ範囲内にあることが好ましい。
【0020】
窒化前の処理として、外周摺動部以外に窒化層を形成させないために、リン酸ナトリウムなどの窒化防止剤をピストンリングの外周摺動部以外に塗布し、200〜600℃で5分以上焼付けのための熱処理を行うことで窒化防止皮膜が形成され、ピストンリングの外周摺動部以外に窒化層が形成することを完全に防ぐことが可能になる。リン酸ナトリウムはリン酸マンガン、リン酸亜鉛などと同様に化成処理剤であるので、常温でピストンリングの鋼と反応するが、室温のまま或いは熱処理法が200℃未満であり、かつ熱処理時間が5分未満であると、窒化防止剤の焼付効果が十分ではない。一方熱処理温度が600℃を超えるとピストンリングの変形や母材硬度の低下が激しくなる。焼付後、窒化層を形成させる部位は機械加工等で窒化防止剤を除去する必要がある。
【0021】
上述のようにして作製したピストンリングを、図2中、1はピストンリング素材、2は上下抑え円盤、3はピストンリング素材1の中心部を上下に貫通するロッド、4は締め込みナット、5は合口ピースである。
本発明は、図2の治具を使用し、ラジカル窒化法により窒化処理することで、グロ−放電がピストンリングの外周部だけに発生するため、ピストンリングの外周部だけを窒化することが可能になる。
【0022】
ラジカル窒化は非特許文献1などの著者が命名し、発表した用語であるが、現在では一般化している。特許文献としては特許文献4にラジカル窒化法が公開されている。
【0023】
図2に示したピストンリングの合口部を開かせる治具により、ピストンリングを開いた状態で上下に積層する。
図2に示すように,ピストンリング素材1を積層する時の合口の開きは自由状態の規定寸法より0.1〜0.3mm程度開くことが望ましい。上述のように組み付けたピストンリング素材1を軸方向に締め付け、ラジカル窒化法で窒化処理する。
【0024】
この時、窒化処理を短時間で済ませるため、窒化処理するチャンバ−内でグロ−放電を利用した処理物表面の活性化処理を施すことが好ましく、チャンバー内のNH3ガスを1〜2torr程度の減圧中で解離させることにより生成したイオンによりピストンリング素材を処理する。好ましくは、ピストンリング素材を負に帯電させることによりスパッタリングを行う生産性を上げるためには処理物の昇温中に活性化処理と窒化処理を同一チャンバー内で,インラインで行うことが望ましい。
【0025】
また、窒化処理条件を表1の範囲に制御することで窒化時間が短く、化合物層のない純拡散層が得られる。なお、NH3ガス比はH2とNH3の全体に対するNH3の比率である。本発明では、外周摺動面のみに短時間で窒化層が形成され、かつ、窒化層の最表面に化合物層が生成しないため、大幅に製造工程が短縮できると共に、偏心BF形状の精度が保たれる。
【0026】
【表1】
【0027】
また、ラジカル窒化法はスリット内面などの細かい隙間にも窒化できるという特長を有している。したがって、ピストンリングを重ね合わせたわずかな隙間にも窒化層が形成されることがある。これを防ぐためにリン酸ナトリウムなどの窒化防止成分を含ませた溶液をピストンリングの外周摺動部以外の部分に塗布し、焼付けしたものを窒化処理することでピストンリングの摺動面のみに窒化層を形成させることがより確実になる。窒化処理条件は、短時間で化合物層を形成させずに所定の窒化層厚さを得るためには、表1のように、アンモニアガスの濃度、ガス圧力、処理温度、処理電圧を理想的な状態に調整することが好ましい。これによって、化合物層のない窒化層がピストンリングの外周摺動面だけに短時間で生成させることができ、理想的な偏心BF形状を持ったピストンリングになる。
【0028】
【作用】
シリンダ内で均一な面圧分布となる所定の形状にカム成形したものを、ラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面のみに純拡散層を生成させることで、これまでの全表面に窒化し、その後不必要面の窒化層を除去等の方法では容易に得ることができなかった理想的な偏心BF形状を持ったピストンリングが得られる。
【0029】
【実施例】
実施例1
φ85.0×1.2(厚さ)×3.1(幅)mmの寸法と偏心BF形状を有するピストンリングを次の方法で製造した。
表2の成分を有するピストンリング用線材を所定の形状で、ピストンリングの自由合口隙間が12mmになるよう成形した。カム形状に成形後、所定の偏心BF形状まで加工したトップリングを窒化防止剤であるリン酸ナトリウム水溶液中に浸漬した後、300℃の温度で30分間、大気中で熱処理を行った。このリングの外周摺動面をバフ機等で窒化防止成分を機械的に除去し、ラジカル窒化法で外周摺動面のみに70〜80μmの窒化層を生成させた。窒化条件は、被処理物温度を580℃,処理電圧500V,ガス比(NH3/H2)7/3,ガス圧2Torr,処理時間6時間で行った。
【0030】
【表2】
【0031】
図3に断面の顕微鏡組織を示す。図3に示すように、ピストンリングの外周摺動面のみに窒化層が生成しており、その他の部位には窒化層は観察されない。また、窒化層表面には化合物層は認められない。以上のように、摺動面のみに化合物層のない窒化層を生成させ、かつ、ピストンリングの形状は図4に示すように良好な状態に保つことができている。
【0032】
実施例2
上記のピストンリングを高負荷ガソリンエンジンに搭載して、6000rpm,100hの条件で耐久試験を行った。また、比較としてピストンリングの全周に窒化を施したガス窒化トップリングも評価した。表2に示したように、ガス窒化法により作製したトップリング(全窒化)はクラックまたは折損を生じたのに対し、本発明実施例のトップリングはクラックまたは折損は生じていなかった。
【0033】
【表3】
【0034】
【発明の効果】
上記の通り、本発明の偏心BFピストンリング(トップリング)は、外周摺動面のみに化合物層のない純拡散層を生成させることで窒化後のピストンリングの偏心BF形状は精度よく保たれる。これにより、摺動特性は高いまま維持され、高負荷環境での耐折損性、耐摩耗性を改善させることに極めて有効である。また、窒化処理後の製造工程を大幅に削減することができるため、コスト面でもメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】偏心BFピストンリングの平面形状を示す図である。
【図2】ピストンリングのセット方法概略図である。
【図3】ピストンリング断面の窒化層組織写真である。
【図4】窒化処理後のピストンリングの真円度測定結果を示す写真である。
【符号の説明】
1 ピストンリング
2 ピストンリング固定治具
3 ピストンリング固定用シャフト
4 ピストンリング固定用ナット
5 ピストンリング合口部金具
6 窒化層(ピストンリング外周部)
7 ピストンリング母材
8 ピストンリング側面部
9 ピストンリング内周部
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関に用いられる外周摺動面に窒化層を有する窒化ピストンリングおよびその製造方法に関するものである。特に本発明は偏心バレルフェースピストンリングに関するものである。
バレルフェース(BF)ピストンリングは形状の項点が厚さの中心部に位置するピストンリングであり、偏心BFピストンリングは前記項点を中心部から誤差レベルでない特定位置(ISO規格によると厚さの1/3を項点とする)にずらしたピストンリングである。
【0002】
【従来の技術】
従来技術による窒化を施したピストンリング、例えばガス窒化法により窒化されたピストンリングは、外周摺動面以外にも窒化層が生成されている。近年開発されている自動車用ガソリンエンジンは、高出力化に伴いピストンリングへの負荷が大きくなり、前記の全面窒化層を有するピストンリングでは、ピストンリング側面部の窒化層がピストン溝を摩耗させ、最悪の場合にリングの振動が激しくなることでピストンリング自体が折損するという問題があった。
【0003】
また、従来ピストンリングの内外周面だけに窒化層を形成させることもあった(例えば特許文献1参照)が、リングのねじれが生じない場合はピストンとトップリング内周部との当たりがないので内周部窒化層は問題を起こさないが、運転中にねじれが生じた場合はトップリング内周角部がピストン溝部を摩耗させるという問題があった。
【0004】
このため、従来技術においては、ガス窒化法で全表面に窒化を入れた後に研削加工または化学的処理等によりトップリングで窒化を入れたくない不要な部位の窒化層を除去する方法、或いは窒化を防止するためにNiメッキなどを摺動部以外に付与した後に窒化処理を行うという方法が行われていた(特許文献2参照)。しかしながら、このような方法ではコスト面でのデメリットが大きい。なお、この公報に、具体的に示されたピストンリングの外周形状はストレートフェースである。
【0005】
更に、サイドレールについてであるが、イオン窒化法を用いて外周摺動面のみに窒化層を施すことが行われている(特許文献3参照)。
【0006】
これら従来のイオン窒化法やガス窒化法では摺動面の最表面に化合物層(白層)の生成が避けられない。この化合物層は非常に脆く、摺動に対しては致命的な欠陥となるため、これを機械加工や化学的処理等で除去することが不可欠であり、技術面およびコスト面での問題があった。
【0007】
この化合物層の対策として、イオン窒化処理におけるアンモニア濃度を20%以下に調整することにより表面に化合物層の生成しないピストンリングが得られることが特許文献4に開示されている。しかしながら、この低アンモニア濃度によるイオン窒化は、窒化時間が非常に長くなるため、母材硬度の低下や窒化後の形状変化が大きく実用的ではない。なおこの公報に、具体的に示されたコンプレッションリングの外周形状はBFであるが偏心BF形状ではない。また窒化層はコンプレッションリングの全周に形成されている。
【0008】
【特許文献1】
実開昭53−147309号公報
【0009】
【特許文献2】
特開昭60−152668号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平4−181067号公報
【0011】
【特許文献4】
特開平7−316778号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平6−220606号公報
【0013】
【非特許文献】
鋳鍛造と熱処理1994,6,第11〜16頁
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来技術(特許文献1〜4)では、短い窒化時間で化合物層がない純拡散層を所望部位に窒化する方法は知られていなかった。
更に偏心BFリング特有の形状を窒化後に得る方法は知られていなかった。
【0015】
すなわち、偏心BF形状のピストンリングは、良好な摺動特性を得るためにシリンダ内で均一な面圧分布となる必要があり、自由状態すなわちピストンに組み込みシリンダに入れる前の状態においては図1に示すように真円形状ではない。したがって非真円形状の偏心BF形状のピストンリングを窒化により得る必要がある。
更に、従来の窒化法で窒化した場合、窒化後の形状変化の予測が困難であり、窒化後にくずれた形状を修正することは技術面およびコスト面でのデメリットが大きい。
【0016】
前述の問題の対策として、(イ)偏心BF形状のピストンリングは、表面処理前に理想的なBF形状およびカム形状のピストンリング素材を作製し、窒化処理後に高硬度窒化層の加工を少なくするか或いは高硬度窒化層を全く加工しないことが望ましい。そのために、(ロ)窒化処理時に生成する有害な化合物層を極力少なくする、或いは窒化処理時に化合物層を全く形成させないことが必要である。(ハ)更に窒化後のピストンリングの形状が保たれたまま摺動面のみに化合物層のない純拡散層を短い窒化処理時間で付与することが必要である。
【0017】
前掲特許文献1の方法を偏心BF形状のピストンリングに施すと、内周部変化層を除去する必要があるから(イ)の要件が充たされない。
前掲特許文献2のガス窒化方法及び前掲特許文献3のイオン窒化方法では(ロ)、(ハ)の要件が充たされない。
前掲特許文献4の方法により窒化層をピストンリングの全周に形成すると、窒化処理時間が長いために偏心BFピストンリングの形状が大きく変形や母材硬度の低下で(ハ)の要件が充たされない。また、長時間処理によりコストメリットがなくなることもある
したがって、本発明はこれらの問題を招かない新規な窒化処理による偏心BF形状のピストンリングの製造方法とピストンリングを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る偏心BF(バレルフェース)形状の断面を有する内燃機関用ピストンリングは、前記ピストンリングがシリンダ−内での面圧分布が最適となるカム形状であり、更に化合物層がない純拡散層がラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面にのみ形成されていることを特徴とする。
また、本発明に係る偏心BF(バレルフェース)形状の断面を有する内燃機関用ピストンリングの製造方法は、カム形状に成形した偏心BF形状ピストンリング素材を窒化防止剤を含有する水溶液に浸漬した後、窒化処理防止剤を焼付して窒化防止皮膜を形成する工程と、前にピストンリング素材の外周摺動面のみから前記窒化防止皮膜を除去する工程と、ラジカル窒化法により前記外周摺動面のみに純拡散層を形成させる工程とを、有することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施形態】
MHV700以上の硬度を有する純拡散層の厚さを90μm以上にすると窒化後の変形が大きくなり、偏心BF(バレルフェース)形状を保つことができない。また、MHV700以上の硬度を有する純拡散層の厚さが50μm未満であると、ピストンリングの耐摩耗性が不足する。したがって、MHV700以上の硬度を有する純拡散層は50〜90μmの厚さ範囲内にあることが好ましい。
【0020】
窒化前の処理として、外周摺動部以外に窒化層を形成させないために、リン酸ナトリウムなどの窒化防止剤をピストンリングの外周摺動部以外に塗布し、200〜600℃で5分以上焼付けのための熱処理を行うことで窒化防止皮膜が形成され、ピストンリングの外周摺動部以外に窒化層が形成することを完全に防ぐことが可能になる。リン酸ナトリウムはリン酸マンガン、リン酸亜鉛などと同様に化成処理剤であるので、常温でピストンリングの鋼と反応するが、室温のまま或いは熱処理法が200℃未満であり、かつ熱処理時間が5分未満であると、窒化防止剤の焼付効果が十分ではない。一方熱処理温度が600℃を超えるとピストンリングの変形や母材硬度の低下が激しくなる。焼付後、窒化層を形成させる部位は機械加工等で窒化防止剤を除去する必要がある。
【0021】
上述のようにして作製したピストンリングを、図2中、1はピストンリング素材、2は上下抑え円盤、3はピストンリング素材1の中心部を上下に貫通するロッド、4は締め込みナット、5は合口ピースである。
本発明は、図2の治具を使用し、ラジカル窒化法により窒化処理することで、グロ−放電がピストンリングの外周部だけに発生するため、ピストンリングの外周部だけを窒化することが可能になる。
【0022】
ラジカル窒化は非特許文献1などの著者が命名し、発表した用語であるが、現在では一般化している。特許文献としては特許文献4にラジカル窒化法が公開されている。
【0023】
図2に示したピストンリングの合口部を開かせる治具により、ピストンリングを開いた状態で上下に積層する。
図2に示すように,ピストンリング素材1を積層する時の合口の開きは自由状態の規定寸法より0.1〜0.3mm程度開くことが望ましい。上述のように組み付けたピストンリング素材1を軸方向に締め付け、ラジカル窒化法で窒化処理する。
【0024】
この時、窒化処理を短時間で済ませるため、窒化処理するチャンバ−内でグロ−放電を利用した処理物表面の活性化処理を施すことが好ましく、チャンバー内のNH3ガスを1〜2torr程度の減圧中で解離させることにより生成したイオンによりピストンリング素材を処理する。好ましくは、ピストンリング素材を負に帯電させることによりスパッタリングを行う生産性を上げるためには処理物の昇温中に活性化処理と窒化処理を同一チャンバー内で,インラインで行うことが望ましい。
【0025】
また、窒化処理条件を表1の範囲に制御することで窒化時間が短く、化合物層のない純拡散層が得られる。なお、NH3ガス比はH2とNH3の全体に対するNH3の比率である。本発明では、外周摺動面のみに短時間で窒化層が形成され、かつ、窒化層の最表面に化合物層が生成しないため、大幅に製造工程が短縮できると共に、偏心BF形状の精度が保たれる。
【0026】
【表1】
【0027】
また、ラジカル窒化法はスリット内面などの細かい隙間にも窒化できるという特長を有している。したがって、ピストンリングを重ね合わせたわずかな隙間にも窒化層が形成されることがある。これを防ぐためにリン酸ナトリウムなどの窒化防止成分を含ませた溶液をピストンリングの外周摺動部以外の部分に塗布し、焼付けしたものを窒化処理することでピストンリングの摺動面のみに窒化層を形成させることがより確実になる。窒化処理条件は、短時間で化合物層を形成させずに所定の窒化層厚さを得るためには、表1のように、アンモニアガスの濃度、ガス圧力、処理温度、処理電圧を理想的な状態に調整することが好ましい。これによって、化合物層のない窒化層がピストンリングの外周摺動面だけに短時間で生成させることができ、理想的な偏心BF形状を持ったピストンリングになる。
【0028】
【作用】
シリンダ内で均一な面圧分布となる所定の形状にカム成形したものを、ラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面のみに純拡散層を生成させることで、これまでの全表面に窒化し、その後不必要面の窒化層を除去等の方法では容易に得ることができなかった理想的な偏心BF形状を持ったピストンリングが得られる。
【0029】
【実施例】
実施例1
φ85.0×1.2(厚さ)×3.1(幅)mmの寸法と偏心BF形状を有するピストンリングを次の方法で製造した。
表2の成分を有するピストンリング用線材を所定の形状で、ピストンリングの自由合口隙間が12mmになるよう成形した。カム形状に成形後、所定の偏心BF形状まで加工したトップリングを窒化防止剤であるリン酸ナトリウム水溶液中に浸漬した後、300℃の温度で30分間、大気中で熱処理を行った。このリングの外周摺動面をバフ機等で窒化防止成分を機械的に除去し、ラジカル窒化法で外周摺動面のみに70〜80μmの窒化層を生成させた。窒化条件は、被処理物温度を580℃,処理電圧500V,ガス比(NH3/H2)7/3,ガス圧2Torr,処理時間6時間で行った。
【0030】
【表2】
【0031】
図3に断面の顕微鏡組織を示す。図3に示すように、ピストンリングの外周摺動面のみに窒化層が生成しており、その他の部位には窒化層は観察されない。また、窒化層表面には化合物層は認められない。以上のように、摺動面のみに化合物層のない窒化層を生成させ、かつ、ピストンリングの形状は図4に示すように良好な状態に保つことができている。
【0032】
実施例2
上記のピストンリングを高負荷ガソリンエンジンに搭載して、6000rpm,100hの条件で耐久試験を行った。また、比較としてピストンリングの全周に窒化を施したガス窒化トップリングも評価した。表2に示したように、ガス窒化法により作製したトップリング(全窒化)はクラックまたは折損を生じたのに対し、本発明実施例のトップリングはクラックまたは折損は生じていなかった。
【0033】
【表3】
【0034】
【発明の効果】
上記の通り、本発明の偏心BFピストンリング(トップリング)は、外周摺動面のみに化合物層のない純拡散層を生成させることで窒化後のピストンリングの偏心BF形状は精度よく保たれる。これにより、摺動特性は高いまま維持され、高負荷環境での耐折損性、耐摩耗性を改善させることに極めて有効である。また、窒化処理後の製造工程を大幅に削減することができるため、コスト面でもメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】偏心BFピストンリングの平面形状を示す図である。
【図2】ピストンリングのセット方法概略図である。
【図3】ピストンリング断面の窒化層組織写真である。
【図4】窒化処理後のピストンリングの真円度測定結果を示す写真である。
【符号の説明】
1 ピストンリング
2 ピストンリング固定治具
3 ピストンリング固定用シャフト
4 ピストンリング固定用ナット
5 ピストンリング合口部金具
6 窒化層(ピストンリング外周部)
7 ピストンリング母材
8 ピストンリング側面部
9 ピストンリング内周部
Claims (6)
- 偏心BF(バレルフェース)形状の断面を有する内燃機関用ピストンリングにおいて、前記ピストンリングがシリンダ−内での面圧分布が最適となるカム形状であり、更に化合物層がない純拡散層がラジカル窒化法によりピストンリングの外周摺動面にのみ形成されていることを特徴とする偏心BF形状ピストンリング。
- 前記純拡散層が硬度HMV700以上であり、かつ厚さが、50〜90μmの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の偏心BF形状ピストンリング。
- カム形状に成形した偏心BF形状ピストンリング素材を、窒化防止剤を含有する水溶液に浸漬した後、窒化処理防止剤を焼付して窒化防止皮膜を形成する工程と、窒化前にピストンリング素材の外周摺動面のみから前記窒化防止皮膜を除去する工程と、ラジカル窒化法により前記外周摺動面のみに純拡散層を形成させる工程とを、有することを特徴とする請求項1または2に記載の偏心BF形状ピストンリングを製造する方法。
- 前記窒化防止剤の焼付けのための加熱熱処理を200〜600℃で5分以上行うことを特徴とする請求項3記載の偏心BF形状ピストンリングを製造する方法。
- 前記窒化防止膜除去工程後に、グロ−放電により生成したプラズマにより前記ピストンリング素材の外周面をスパッタリングすることにより表面清浄を行う工程を行い、次に前記ラジカル窒化処理工程をインラインで行うことを特徴とする請求項3または4記載の偏心BF形状ピストンリングの製造方法。
- 前記ラジカル窒化工程において、ピストンリング素材を複数枚積層させて、自由合口隙間よりも0.1〜0.3mm開いた状態で治具にセットすることを特徴とする請求項3から5までの何れか1項に記載の偏心BF形状ピストンリングの製造方法。
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JP2002292997A JP2004124888A (ja) | 2002-10-04 | 2002-10-04 | 偏心bf形状ピストンリングおよびその製造方法 |
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JP2011225906A (ja) * | 2010-04-15 | 2011-11-10 | Neturen Co Ltd | 耐摩耗性部材、ロータリーバルブ、耐摩耗性処理方法及びロータリーバルブの補修方法 |
-
2002
- 2002-10-04 JP JP2002292997A patent/JP2004124888A/ja active Pending
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