JP2004115903A - ボールねじ部品およびボールねじ - Google Patents

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田本 英樹
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Abstract

【課題】転動疲労に対して長寿命であり、かつ高い割れ強度を有し、かつ経年寸法変化率の増大が抑制されたボールねじ部品およびボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ部品において、鋼をA1変態点を超える浸炭窒化処理温度で浸炭窒化処理後、A1変態点未満の温度に冷却した後、A1変態点以上で浸炭窒化処理の温度未満の焼入れ温度に再加熱し、その後、焼入れを行う。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転動疲労に対して長寿命で、かつ高い耐焼き割れ強度や耐経年寸法変化が必要とされる部位に用いられるボールねじ部品およびボールねじに関するものであり、より具体的には、射出成形機やプレス機械、鉄鋼設備、工作機械等に用いられるボールねじ部品およびボールねじに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ねじ軸の回転によりナットを軸方向に相対的に移動させるようにしたボールねじは、各種機械の送り装置に広く採用されている。ボールねじは、高い送り精度を長期間維持(長寿命)必要性が高く、転動疲労に対して長寿命で、かつ高い耐焼き割れ強度や耐経年寸法変化の特性のボールねじが要求されている。
【0003】
ボールねじの主たる構成部品であるねじ軸、ナット、ボールは以下の材料、熱処理によって製造されている。ねじ軸は、転動面の硬さを硬くして転動疲労寿命の長寿命化を図り、一方ではねじ軸の芯部を未硬化とすることで強靭性を失わない様し、又、焼入れによって発生する焼入歪(曲がり)を矯正する工程が必要であることから、AISI4150で形成し、高周波焼入れするか又はSCM415等で形成して浸炭焼入れし、硬度をHRC58〜62程度としている。また、ナットはSCM415等で形成して浸炭焼入れし、硬度をHRC58〜62程度としている。さらには、ボールをSUJ2で形成し、焼入れを施し、硬度をHRC60以上としている。
【0004】
一般的にボールねじは、ねじ軸やナットに比較してボールの寿命が短い傾向がある。その要因としては、以下の要因が挙げられる。▲1▼転がり軸受に比べ、ボールねじのねじ軸、ナットは、形状の複雑さおよび、寸法が大きい等により、転がり軸受の軌道輪(内輪、外輪)と同等の溝形状精度や面粗さに仕上げることが製作上で困難である。一方、その相手部材となるボールは、製造コスト面を考慮して転がり軸受用のボールを流用して使用していることから、軸受用の転動体と同程度の高い精度を有しているので、ボールの摩耗等が進行し易く、ねじ軸やナットよりもボールが最初に寿命に達する。▲2▼転がり軸受のボールが、軸受軌道輪(円周)を転動するのに対し、ボールねじは、そのボールがねじ軸やナットのねじ溝上を転動する距離(領域)が長いため、ボールねじは転がり軸受に比べ、ボールの転動負荷の比率(割合)が高くなる。▲3▼ボールねじは、転がり軸受と異なり、ねじ軸およびナット(ねじ溝)が捩じれている(螺旋)構造であり、それに起因する転動体とねじ溝の接触面内での滑りが発生する。▲4▼転動体を保持する保持器が無いために転動体同士の擦り合いによる摩擦熱がボールに蓄積され高温状態に晒されやすい。
【0005】
最近、各種産業用機械においては、従来は油圧駆動が一般的であった高荷重条件の直動機構に、ボールねじとサーボモータによる駆動方式すなわち電動化を採用される傾向がある。従って、ボールねじが射出成形機、プレス機械、工作機械、鉄鋼製造設備等の高荷重条件下で使用される傾向になっている。
【0006】
上記の中で代表的なものとしては、電動射出成形機がある。射出成形機は従来から油圧式が主流であったが、近年、省エネや環境面への配慮から、電動化が進行している。電動射出成形機では、射出部、型締め部の主要部や、ノズルタッチ、エジェクタ部などの部分にボールねじが使用される。これらの部位の中で、溶融樹脂の押出しスクリューをその軸線方向に進退させる射出部の駆動装置に用いられるボールねじ及び可動盤を進退させる型締部の駆動装置に用いられるボールねじは、いずれも荷重が加わり始めてボールねじが停止するまでのストロークが短くボールが急停止する動作により、ボールには衝撃荷重に近い重荷重が瞬間的に加わる状況で使用され、ねじ軸又はナットとボール接触面の間には、最大で2000MPa以上の高面圧が加わる。従って、ボールねじを構成する部品には、衝撃荷重に対する耐割れ強度に優れた特性が必要となる。また、溶融粘度の高いプラスチック材料を高圧で射出して保圧するという働きから、ナット数回転程度の小ストローク域を低速で高荷重を受けながら往復運動を繰り返すいわゆる揺動運動を伴うため、ボールねじには高負荷容量および耐久性が特に求められる。
【0007】
射出成形機は、溶融状態(高温状態)の樹脂を取り扱う為、常時高温条件となり、また射出成形機は使用される形態として24時間の連続昼夜運転での使用条件の場合が多く、そこに使用されるボールねじは長時間高温の状態に晒される使用条件となっているため、ボールねじ部品は寸法経年変化が発生しやすい状況となる。
【0008】
また、短ストローク、低速の揺動運動されることから潤滑不良となりやすく、特に、射出部の駆動部や、型締部の駆動部に用いられるボールねじは、いずれも荷重が加わり始めてボールねじが停止するまでのストロークが短くボールが急停止するため、ボールには衝撃荷重に近い重荷重が加わりボールねじは早期に寿命に達してしまうという問題がある。特に、ストロークが短い場合には、前記した通り、転動体を保持する保持器が無いために転動体同士の擦り合いによる摩擦熱がボールに蓄積されやすいという問題があり、その場合焼き付きやスミアリング等が発生しやすくボールの表面損傷によりボールねじが短寿命になり送り精度低下やがた付き等の不具合が生じる。
【0009】
射出成形機やプレス機械の様に、ボールがナット(又は軸)上を転動する距離(ストローク)が短い(揺動運動)場合には、ストローク内を集中的に転動することになるので、転動面の油膜がかき取られ、潤滑剤の不足して潤滑不良が発生しその結果として短寿命になり易い。
【0010】
潤滑面の対策としては、重荷重用の特殊グリース等の特殊な潤滑剤の採用することがあるが、汎用のグリースに比較してコストが高く、入手が困難であるため、メンテナンス上不利がある。他の対策としてボール転動面にグリースを自動的に定期補給するバイパス孔を設けたりする設計が行われるが、グリース補給装置や、給油通路を形成する必要があるため、製造上のコストアップが発生する。
【0011】
また、ボールねじの負荷容量を上げる方法としては、ボールの循環数を増やしたり、ねじ軸の軸径を大きくしたりする設計構造面での対策が一般的に採用される。しかし、ボール循環数の増加した場合、循環孔加工工数、部品点数、組立工数等の増加によるコストアップが発生する。また、ナット長さの長大化によっても、めねじ研削用砥石を保持するクイールがナットと干渉するおそれがあり、ナットの製作が不可能な場合も生じる。ねじ軸の軸径を大きくする等の長寿命化対策においては、機械のスペース上、問題が生じるケースも多く、また、イナーシャの増大によって容量の大きいモータを使用する必要性が生じるため、コストアップとなる可能性が生じる。
【0012】
潤滑面や設計構造面の対策の他に、ボールねじ部品の熱処理方法における対策が種々行われている。例えば、代表的な機械要素であるころがり軸受部品の転動疲労に対して長寿命を与える熱処理方法としては、焼入れ加熱時の雰囲気RXガス中にアンモニアガスを添加するなどして、その軸受部品の表層部に浸炭窒化処理を施す方法がある。例えば、少なくとも軌道輪を0.4〜0.8%Cの中炭素鋼として、Cr含有量を低減して浸炭窒化の際の固溶N量を相対的に多くして、短時間の浸炭処理により所要の表面硬さと表面硬化層の残留オーステナイト量を確保し、Siの添加により、軸受の耐熱性を付与し、清浄油潤滑下だけでなく、特に、異物混入油潤滑条件下での転がり疲労寿命を向上させている(例えば、特許文献1参照。)。
【0013】
又、鋼中の炭素、シリコン、マンガン、クロムなどの添加元素の量を最適化し冷間加工性の向上および、異物が混入潤滑条件下での疲労寿命を長くするため浸炭窒化により部品の表層に最適量のオーステナイトを分布させ、高い硬度、靭性および耐熱性を付与し、靭性を失わない範囲で部品内部の硬度を浸炭焼入れ品よりも高くする場合もある(例えば特許文献2参照。)。
【0014】
その他の対策としては、ねじ軸を高周波焼入用鋼を素材とし、高周波焼入れか、あるいはクロムモリブデン鋼等を素材として浸炭焼入れし、硬度をHR C58〜62程度とし、ナットはクロムモリブデン鋼等を素材とし、浸炭焼入れされて硬度をHR C58〜62程度とする一方で、ボールを軸受鋼を素材として浸炭窒化処理する方法がある(例えば特許文献3参照。)また、高荷重、衝撃荷重が作用する射出成形機の駆動部に使用されるボールねじのボールに浸炭窒化処理を施すことで、ボールねじの長寿命化を図り、射出成形機の長期安定稼動、コンパクト化を達成するものも存在する(例えば特許文献4参照。)。さらに、ボールの材料の鋼の合金組成を調整し、浸炭窒化処理を施した後、焼入れ焼戻し処理し、残留オーステナイト量を規定することにより、ボールに優れた耐焼き付き性と耐スミアリング特性を付与し、瞬間的な高負荷条件や短ストロークで使用されるボールねじの耐久性を向上したものも存在する(例えば特許文献5参照。)。
【0015】
上記のように、ボールを浸炭窒化処理すると、通常の焼入れと比較して、表層にマルテンサイト組織が多く析出し、また、表面硬度もHRC62以上に上昇するため、亀裂敏感性が低下し、滑りの発生が多いボールの長寿命向上を図ることができ、結果として、ボールにのみ浸炭窒化処理を施したボールねじは、ボールに普通焼入れを施した標準品と比較すると転動疲労寿命が向上する。
【0016】
【特許文献1】
特開平8−4774号公報
【特許文献2】
特開平11−101247号公報
【特許文献3】
特開平10−103445号公報
【特許文献4】
特開平11−300803号公報
【特許文献5】
特開2000−346163号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の浸炭窒化は窒素および酸素を拡散拡散処理のため、長時間高温に保持する必要があるので、割れ強度の向上を図ることが困難である。ボールねじには割れ強度が必要であり、また、残留オーステナイトの増加による経年寸法変化率の増大も問題となる。ボールねじは、構成する部品が軸受の部品等と比べ大型であるので、寸法変化等によって、送り精度等に悪影響がある。
【0018】
この他に、転動疲労に対して長寿命を確保し、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率の増大を防ぐには、鋼の合金設計により、その組成を調整することによって対処することが可能である。しかし合金設計によると、原材料コストが高くなるなどの問題がある。
【0019】
今後のボールねじを構成する部品には、使用環境の高荷重化、高温化に伴い、従来よりも、大きな荷重条件でかつより高温で使用できる特性を備えることが要求される。このため、転動疲労に長寿命で、高強度、かつ高い寸法安定性を有するボールねじ部品が必要になる。
【0020】
本発明は、従来よりも、高荷重・高温条件で使用でき、転動疲労に対して長寿命であり、かつ高い割れ強度を有し、かつ経年寸法変化率の増大が抑制されたボールねじ部品およびボールねじを提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明は、外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸とナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が、鋼をA1変態点を超える浸炭窒化処理温度で浸炭窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、前記A1変態点以上で前記浸炭窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なったことを特徴とするボールねじ部品である(請求項1)。
【0022】
この構成により、浸炭窒化処理後A1変態点未満の温度に冷却した後に最終的な焼入れを行なうので、オーステナイト粒径を細かくすることができる。この結果、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、割れ強度、転動疲労寿命などを向上させることができる。
【0023】
さらに、たとえばオーステナイトが変態する温度にまで冷却することにより、浸炭窒化処理の際のオーステナイト粒界と最終焼入れの際のオーステナイト粒界とを無関係にすることができる。さらに、最終焼入れの際の加熱温度が浸炭窒化処理時の加熱温度よりも低いので、浸炭窒化処理の効果が及ぶ表層部における未溶解セメンタイト量は浸炭窒化処理のときよりも増大する。このため最終焼入れの加熱温度において、浸炭窒化処理のときより、未溶解セメンタイト量の比率が増大し、オーステナイト量の比率が低下する。しかも、鉄−炭素2元状態図から、セメンタイトとオーステナイトとの共存領域において、焼入れ温度の低下にともないオーステナイトに固溶する炭素濃度も低くなる。
【0024】
最終焼入れ温度に加熱したとき、オーステナイト粒の成長を妨げる未溶解セメンタイト量が多いために、オーステナイト粒は微細となる。また、焼入れによってオーステナイトからマルテンサイトやベイナイトに変態した組織は炭素濃度が低いので、浸炭窒化処理温度から焼き入れた組織に比べて靭性に富んだ組織となる。
【0025】
なお、鋼としては、内輪、外輪、ボールなどの軸受部品に通常用いられている鋼、すなわちJIS規格に規定するいわゆる軸受鋼(SUJ2、SUJ3等)を使用することができる(請求項2)。
【0026】
上記本発明のボールねじ部品の熱処理方法では、再加熱時の焼入れ温度域を、790℃〜830℃の温度域とすることができる(請求項3)。
【0027】
この構成により、オーステナイト結晶粒の成長が生じにくい温度に再加熱して焼入れするので、オーステナイト粒径を細かくすることができる。
【0028】
本発明のボールねじ部品は、上記のいずれかのボールねじ部品の熱処理方法が行われ、オーステナイト結晶粒径を平均粒径で8μm以下とすることができる(請求項4)。
【0029】
オーステナイト粒径を平均粒径で8μm以下とすることにより、転動疲労強度のみならず、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
【0030】
本発明のボールねじ部品は、鋼からなるボールねじ部品であって、浸炭窒化層を備え、焼入れ後のミクロ組織において、そのオーステナイト結晶粒が平均粒径で8μm以下である(請求項5)。
【0031】
この構成により、高い転動疲労寿命を有した上で、いずれも優れた、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを確保することができる。
【0032】
本発明のボールねじ部品の鋼は、浸炭窒化処理された表層以外の部分で、少なくとも炭素を0.6〜1.2重量%、ケイ素を0.15〜1.1重量%、マンガンを0.3〜1.5重量%含むことができる(請求項6)。
【0033】
上記の構成において、炭素が1.2重量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6重量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
【0034】
Si含有率を0.15〜1.1重量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。シリコン含有率が0.15重量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、1.1重量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
【0035】
Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3重量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5重量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。
【0036】
なお、本発明のボールねじ部品の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいる。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1重量%以下である。
【0037】
なお、前記発明において、ボールねじ部品の鋼は、さらに、2.0重量%以下のクロムを含むことができる
【0038】
上記のように、さらに、2.0重量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0重量%以下としたのは、2.0重量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0重量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
【0039】
本発明のボールねじ部品は、外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸とナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が浸炭窒化層を有し、その水素含有率が0.5ppm以下である(請求項7)。
【0040】
この構成により、水素に起因する鋼の脆化を軽減することができる。水素が0.5ppmを超えると、割れ強度が低下して過酷な荷重が加わる部位には使用できにくくなる。水素量は低いほうが望ましい。しかし、0.3ppm未満に減らすためには、長時間の加熱が必要になり、オーステナイト粒径が粗大化し、かえって靭性が劣化してしまう。このため、より望ましい水素水素量は0.3〜0.5ppmの範囲である。さらに望ましくは、0.35〜0.45ppmの範囲である。
【0041】
なお、上記の水素含有率は、拡散性水素は測定の対象にはせず、所定温度以上で鋼から放出される非拡散性水素のみを測定の対象とするものである。拡散性水素量は、サンプルサイズが小さければ、常温でもサンプルから放出され散逸してしまうので、測定の対象から外している。非拡散性水素は、鋼中の欠陥部などにトラップされており、所定の加熱温度以上ではじめてサンプルから放出される水素である。この非拡散性水素に限定しても、水素含有率は、測定方法によって大きく変動する。上記の水素含有率範囲は熱伝導度法による測定方法による範囲である。さらに、後記するように、LECO社製DH−103型水素分析装置またはそれに準じる測定装置を用いて測定することが望ましい。
【0042】
本発明のボールねじ部品は、外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸とナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が浸炭窒化層を有し、そのオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にある(請求項8)。
【0043】
オーステナイト粒径が微細であることにより、転動疲労寿命を大幅に改良することができる。オーステナイト粒径の粒度番号が10番以下では、転動疲労寿命は大きく改善されないので、10番を超える範囲とする。通常、11番以上とする。オーステナイト粒径は細かいほど望ましいが、通常、13番を超える粒度番号を得ることは難しい。なお、上記のボールねじ部品のオーステナイト粒は、浸炭窒化処理の影響を大きく受けている表層部でも、それより内側の内部でも変化しない。したがって、上記の結晶粒度番号の範囲の対象となる位置は、表層部および内部とする。
【0044】
本発明のボールねじ部品は、外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸とナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が浸炭窒化層を有する鋼を含み、破壊応力値が2650MPa以上である(請求項9)。
【0045】
ボールねじ部品用の鋼をA1変態点を超える浸炭窒化処理温度で浸炭窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後にA1変態点以上の焼入れ温度域に再加熱し焼入れを行うことにより、浸炭窒化処理層を有する鋼の破壊応力値を、従来では得られなかった2650MPa以上にできる。これにより、従来よりも破壊応力値に優れ、それにより強度の高いボールねじ部品を得ることができる。
【0046】
本発明のボールねじは、前記ボールねじ部品が、少なくとも、ねじ軸、ナット、又はボールのいずれかであるようにできる(請求項10)。
【0047】
この構成により、転動疲労寿命に対する耐久性に優れ、高い耐割れ性を有するねじ軸、ナットおよびボールを有するボールねじを得ることができる。
【0048】
本発明のボールねじは、前記ボールねじ部品を、ボールのみとすることができる(請求項11)。
【0049】
この構成により、転動疲労寿命に対する耐久性に優れ、高い耐割れ性を有するボールねじを得ることができる。特に、ボールねじ部品の中で、最も使用条件が厳しいボールの耐久性を向上することが出来るので、従来技術のボールねじにおいてボールのみを本発明のボールねじ部品とすることにより、低コストで容易にボールねじの耐久性を向上させる事が出来る。
【0050】
【発明の実施の形態】
次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態におけるボールねじを示す概略断面図である。図1(a)、(b)にボールねじの代表的な形式を示す。ボールねじ1は、ねじ軸2、ナット3およびボール6を主に構成されている。図1(a)は、循環部がこま式のボールねじを示す。ねじ軸2の外周面のねじ溝4とナット3の内周面のねじ溝5で形成される螺旋状の軌道に、複数のボール6が保持器無しで配され、ねじ軸2を回転駆動することにより、各種の作用体や装置等が取り付けられるナット3をねじ軸2に沿って相対的に往復動させるものである。したがって、ボール6は各ねじ溝4、5から面圧を受けながらねじ溝4,5を転走し、互いに隣接するボール6は転動しながら互いに擦り合わされる。ナット内面のねじ溝の軌道の端まで転走したボール5は、ナット3に設けられた循環部であるこま6を通して、再び軌道内に戻される。図1(b)は、循環部がリターンチューブ式のボールねじを示し、循環部にリターンチューブ8を適用したものである。他の構成は図1(a)とほぼ同様である。
【0051】
次に、これらボールねじのねじ軸2、ナット3、ボール6の少なくとも1つのボールねじ部品に行なう浸炭窒化処理を含む熱処理について説明する。図2は、本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。また、図3は、本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。図2は1次焼入れおよび2次焼入れを行なう方法を示す熱処理パターンであり、図3は焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンである。どちらも本発明の実施の態様例である。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。
【0052】
上記の熱処理を普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上述したように、上記の熱処理方法によれば、オーステナイト結晶粒の粒径を従来の2分の1以下となるミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けたボールねじ部品は、転動疲労特性が長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
【0053】
図4は軸受鋼のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。図4(a)は本発明例の軸受鋼のミクロ組織であり、図4(b)は従来の軸受鋼のミクロ組織である。すなわち、上記図2に示す熱処理パターンを適用した軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図4(a)に示す。また、比較のため、従来の熱処理方法による軸受鋼のオーステナイト結晶粒度を図4(b)に示す。また、図5(a)および図5(b)は、上記図4(a)および図4(b)を図解したオーステナイト結晶粒界を示す図である。これらオーステナイト結晶粒度を示す組織より、従来のオーステナイト粒径はJIS規格の粒度番号で10番であり、また本発明による熱処理方法によれば12番の細粒を得ることができる。また、図4(a)の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。
【0054】
【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。
【0055】
(実施例1)
JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用いて、本発明の実施例1を行なった。表1に示した各試料の製造履歴を以下に示す。
【0056】
【表1】
Figure 2004115903
【0057】
(試料A〜D;本発明例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。図2に示す熱処理パターンにおいて、浸炭窒化処理温度850℃から1次焼入れを行ない、次いで浸炭窒化処理温度より低い温度域780℃〜830℃に加熱して2次焼入れを行なった。ただし、2次焼入温度780℃の試料Aは焼入不足のため試験の対象から外した。
(試料E、F;比較例):浸炭窒化処理は、本発明例A〜Dと同じ履歴で行ない、2次焼入れ温度を浸炭窒素処理温度850℃以上の850℃〜870℃で行なった。
(従来浸炭窒化処理品;比較例):浸炭窒化処理850℃、保持時間150分間。雰囲気は、RXガスとアンモニアガスとの混合ガスとした。浸炭窒化処理温度からそのまま焼入れを行ない、2次焼入れは行わなかった。
(普通焼入れ品;比較例):浸炭窒化処理を行なわずに、850℃に加熱して焼き入れた。2次焼入れは行わなかった。
【0058】
上記の試料に対して、(1)水素量の測定、(2)結晶粒度の測定、(3)シャルピー衝撃試験、(4)破壊応力値の測定、(5)転動疲労試験、の各試験を行なった。次にこれらの試験方法について説明する。
【0059】
I 実施例1の試験方法
(1)水素量の測定
水素量は、LECO社製DH−103型水素分析装置により、鋼中の非拡散性水素量を分析した。拡散性水素量は測定してない。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様を下記に示す。
【0060】
分析範囲:0.01〜50.00ppm
分析精度:±0.1ppmまたは±3%H(いずれか大なるほう)
分析感度:0.01ppm
検出方式:熱伝導度法
試料重量サイス゛:10mg〜35g(最大:直径12mm×長さ100mm)
加熱炉温度範囲:50℃〜1100℃
試薬:アンハイドロン Mg(ClO4)2 、 アスカライト  NaOH
キャリアガス:窒素ガス、ガスドージングガス:水素ガス、いずれのガスも純度99.99%以上、圧力40PSI(2.8kgf/cm2)である。
【0061】
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごと上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性性水素は本実施例では測定しない。次に、サンプラーから試料を取出し抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素量を知ることができる。
(2)結晶粒度の測定
結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。
(3)シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242の金属材料のシャルピー衝撃試験方法に基づいて行なった。試験片は、JIS Z 2202に示されたUノッチ試験片(JIS3号試験片)を用いた。
(4)破壊応力値の測定
図6は、静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。図中のP方向に荷重を負荷して破壊されるまでの荷重を測定する。その後、得られた破壊荷重を、下記に示す曲がり梁の応力計算式により応力値に換算する。なお、試験片は図6に示す試験片に限られず、他の形状の試験片を用いてもよい。
【0062】
図6の試験片の凸表面における繊維応力をσ1、凹表面における繊維応力をσ2とすると、σ1およびσ2は下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40)。ここで、Nは円環状試験片の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、e1は外半径、e2は内半径を表す。また、κは曲がり梁の断面係数である。
【0063】
σ1=(N/A)+{M/(Aρo)}[1+e1/{κ(ρo+e1)}]
σ2=(N/A)+{M/(Aρo)}[1−e2/{κ(ρo−e2)}]
κ=−(1/A)∫A{η/(ρo+η)}dA
(5)転動疲労試験、
転動疲労寿命試験の試験条件を表2に示す。また、図7は、転動疲労寿命試験機の概略図である。図7(a)は正面図であり、図7(b)は側面図である。図7(a)および(b)において、転動疲労寿命試験片21は、駆動ロール11によって駆動され、ボール13と接触して回転している。ボール13は、(3/4)”のボールであり、案内ロールにガイドされて、転動疲労寿命試験片21との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。
【0064】
II 実施例1の試験結果
(1) 水素量
浸炭窒化処理したままの従来浸炭窒化処理品は、0.72ppmと非常に高い値となっている。これは、浸炭窒化処理の雰囲気に含まれるアンモニア(NH3)が分解して水素が鋼中に侵入したためと考えられる。これに対して、試料B〜Dは、水素量は0.37〜0.40ppmと半分近くにまで減少している。この水素量は普通焼入れ品と同じレベルである。
【0065】
上記の水素量の低減により、水素の固溶に起因する鋼の脆化を軽減することができる。すなわち、水素量の低減により、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は大きく改善されている。
(2) 結晶粒度
結晶粒度は2次焼入れ温度が、浸炭窒化処理時の焼入れ(1次焼入れ)の温度より低い場合、すなわち試料B〜Dの場合、オーステナイト粒は、結晶粒度番号11〜12と顕著に微細化されている。試料EおよびFならびに従来浸炭窒化処理品および普通焼入品のオーステナイト粒は、結晶粒度番号10であり、本発明例の試料B〜Dより粗大な結晶粒となっている。
(3)シャルピー衝撃試験
表1によれば、従来浸炭窒化処理品のシャルピー衝撃値は5.33J/cm2であるのに比して、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は6.30〜6.65J/cm2と高い値が得られている。この中でも、2次焼入れ温度が低いほうがシャルピー衝撃値が高くなる傾向を示す。普通焼入品のシャルピー衝撃値は6.70J/cm2と高い。
(4)破壊応力値の測定
上記破壊応力値は、耐割れ強度に相当する。表1によれば、従来浸炭窒化処理品は2330MPaの破壊応力値となっている。これに比して、試料B〜Dの破壊応力値は2650〜2840MPaと改善された値が得られる。普通焼入品の破壊応力値は2770MPaであり、試料B〜Fの破壊応力値と同等である。このような、試料B〜Dの改良された耐割れ強度は、オーステナイト結晶粒の微細化と並んで、水素含有率の低減による効果が大きいと推定される。
(5)転動疲労試験
表1によれば、普通焼入品は浸炭窒化層を表層部に有しないことを反映して、転動疲労寿命L10は最も低い。これに比して従来浸炭窒化処理品の転動疲労寿命は3.1倍となる。試料B〜Dの転動疲労寿命は従来浸炭窒化処理品より大幅に向上する。本発明の試料E,Fは、従来浸炭窒化処理品とほぼ同等である。
【0066】
上記をまとめると、本発明例の試料B〜Dは、水素含有率が低下し、オーステナイト結晶粒度が11番以上に微細化され、シャルピー衝撃値、耐割れ強度および転動疲労寿命も改善される。
【0067】
(実施例2)
次に実施例2について説明する。下記のA材、B材およびC材について、一連の試験を行なった。熱処理用素材には、JIS規格SUJ2材(1.0重量%C−0.25重量%Si−0.4重量%Mn−1.5重量%Cr)を用い、A材〜C材に共通とした。A材〜C材の製造履歴は次のとおりである。
(A材:比較例):普通焼入れのみ(浸炭窒化処理せず)。
(B材:比較例):浸炭窒化処理後にそのまま焼き入れる(従来の浸炭窒化焼入れ)。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。
(C材:本発明例):図2の熱処理パターンを施した軸受鋼。浸炭窒化処理温度845℃、保持時間150分間。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
【0068】
(1) 転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件および試験装置は、上述したように、表2および図7に示すとおりである。この転動疲労寿命試験結果を表3に示す。
【0069】
【表2】
Figure 2004115903
【0070】
【表3】
Figure 2004115903
【0071】
表3によれば、比較例のB材は、同じく比較例で普通焼入れのみを施したA材のL10寿命(試験片10個中1個が破損する寿命)の3.1倍を示し、浸炭窒化処理による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例のC材は、B材の1.74倍、またA材の5.4倍の長寿命を示している。この改良の主因はミクロ組織の微細化によるものと考えられる。
【0072】
(2) シャルピー衝撃試験
シャルピー衝撃試験は、Uノッチ試験片を用いて、上述のJISZ2242に準じた方法により行なった。試験結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
Figure 2004115903
【0074】
浸炭窒化処理を行なったB材(比較例)のシャルピー衝撃値は、普通焼入れのA材(比較例)より高くないが、C材はA材と同等の値が得られた。
【0075】
(3) 静的破壊靭性値の試験
図8は、静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。この試験片のノッチ部に、予き裂を約1mm導入した後に、3点曲げによる静的荷重を加え、破壊荷重Pを求めた。破壊靭性値(KIc値)の算出には次に示す(I)式を用いた。また、試験結果を表5に示す。
KIc=(PL√a/BW2){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)2−75.3(a/W)3+77.5(a/W)4}…(I)
【0076】
【表5】
Figure 2004115903
【0077】
予き亀裂深さが浸炭窒化層深さよりも大きくなったため、比較例のA材とB材とには違いはない。しかし、本発明例のC材は比較例に対して約1.2倍の値を得ることができた。
【0078】
(4) 静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)
静圧壊強度試験片は、上述のように図6に示す形状のものを用いた。図中、P方向に荷重を付加して、静圧壊強度試験を行なった。試験結果を表6に示す。
【0079】
【表6】
Figure 2004115903
【0080】
浸炭窒化処理を行なっているB材は普通焼入れのA材よりもやや低い値である。しかしながら、本発明のC材は、B材よりも静圧壊強度が向上し、A材と遜色ないレベルが得られている。
【0081】
(5) 経年寸法変化率
保持温度130℃、保持時間500時間における経年寸法変化率の測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(0.1mm深さ)と併せて表7に示す。
【0082】
【表7】
Figure 2004115903
【0083】
残留オーステナイト量の多いB材の寸法変化率に比べて、本発明例のC材は2分の1以下に抑制されていることがわかる。
【0084】
(6) 異物混入潤滑下における寿命試験
玉軸受6206を用い、標準異物を所定量混入させた異物混入潤滑下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表8に、また試験結果を表9に示す。
【0085】
【表8】
Figure 2004115903
【0086】
【表9】
Figure 2004115903
【0087】
A材に比べ、従来の浸炭窒化処理を施したB材は約2.5倍になり、また、本発明例のC材は約2.3倍の長寿命が得られた。本発明例のC材は、比較例のB材に比べて残留オーステナイトが少ないものの、窒素の侵入と微細化されたミクロ組織の影響でほぼ同等の長寿命が得られている。
【0088】
上記の結果より、本発明例のC材、すなわち本発明の熱処理方法によって製造されたボールねじ部品は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、割れ強度の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかった。
【0089】
以下に、本発明が適用される代表例である実施形態について説明する。図9に示した実施形態は、インラインスクリュー式横型射出成形機における射出部駆動装置21と型締部駆動装置22に関するものであり、型締め形式は直圧式である。
【0090】射出部駆動装置21は加熱シリンダー23内に挿入された押出しスクリュー24をその軸線方向に進退させる装置であって、減速機とモータとからなる回転駆動源25を有し、その駆動軸にボールねじ26のねじ軸27を結合している。ねじ軸27に嵌合されたナット28は円筒状の連結部材29の内径面に一体化されている。連結部材29の一端は押出しスクリュー24の後端に連結され、その押出しスクリュー24とねじ軸27とが同心状に配置される。上記の押出しスクリュー24は加熱シリンダー23の内部で軸受30により回転・進退自在に支持され、加熱シリンダー23の外部に露出した後端部にセレーション31が形成される。そのセレーション31の部分に歯車32がかみ合わされ、更にその歯車32にかみ合わされた歯車33を介して、押出しスクリュー24の回転駆動源34に連結される。加熱シリンダー23の上部に材料供給用のホッパー35が設けられ、また加熱シリンダー23の外周面にヒータ36が装着される。
【0091】上記のホッパー35内の樹脂材料は回転駆動源34により押出しスクリュー24を回転させることにより前方に送られ、ヒータ36により加熱溶融される。射出部駆動装置21の回転駆動源25を駆動してボールねじ26のねじ軸27を回転させると、ナット28及びこれと一体の連結部材29が前進し、その連結部材29に連結された押出しスクリュー24を前進させ、加熱シリンダー23内の溶融樹脂を先端のノズル37から固定盤38内に注入する。樹脂の注入を終えると、回転駆動源34により押出しスクリュー24を樹脂材料の送り出し方向に回転させ、樹脂材料を送り出すと共に、連結部材29とナット28の回転により押出しスクリュー24を後退させ、次の押出しに備えさせる。
【0092】一方、前記の型締部駆動装置22は、固定台39に軸受41を介してボールねじ42のナット43を回転自在に支持せしめ、そのナット43にモータと減速装置とからなる回転駆動源44の回転駆動力をベルト45により該ナット43に伝達する。そのナット43にねじ軸46が嵌合され、そのねじ軸46の先端に可動盤47が連結される。可動盤47は前記の固定盤38と固定台39との間に設けられた案内棒48によりスライド自在に支持され、固定盤38に対し接近・離反するようになっている。固定盤38と可動盤37との対向面に金型49、49’が搭載される。また、可動盤47には、図示を省略しているが、成形された製品を突き出すための突き出しピンが出没自在に設けられている。
【0093】上記の型締部駆動装置22は、その回転駆動源44の回転によりナット43を回転させ、これによりねじ軸46と共に可動盤47を固定盤38の方向に前進させることにより金型39、39’の型締めを行う。また逆転させることにより可動盤47を後退させ、金型49、49’を開放して成形製品を突き出す。
【0094】次に、図10に示した実施形態は、型締部駆動装置22において、ボールねじ42のナット43を可動盤47に固定し、これに嵌合したねじ軸46を固定台39の軸受41により回転自在に支持するようにしたものであり、ねじ軸46に回転駆動源44が結合される。回転駆動源44の回転によりねじ軸46が回転するとナット43と一体の可動盤47が進退し、金型49、49’の型締めと開放を行う。その他の構造は図9の実施形態のものと同一である。
【0095】
以上の構成を有する射出成形機のボールねじ26,42として本発明を適用したボールねじを使用することができる。
【0096】なお、上記の実施形態では、型締部駆動装置22の型締め形式を直圧式としているが、トグルジョイント式とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) 本発明の実施形態の代表例であるこま式ボールねじを示す概略断面図である。(b) 本発明の実施形態の代表例であるリターンチューブ式のボールねじを示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における熱処理方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態における熱処理方法の変形例を説明する図である。
【図4】軸受鋼のミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。(a)は本発明例の軸受鋼のミクロ組織であり、(b)は従来の軸受鋼のミクロ組織である。
【図5】(a)は図4(a)を図解したオーステナイト粒界を示し、(b)は図4(b)を図解したオーステナイト粒界を示す。
【図6】静圧壊強度試験(破壊応力値の測定)の試験片を示す図である。
【図7】転動疲労寿命試験機の概略図である。(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
【図8】静的破壊靭性試験の試験片を示す図である。
【図9】本発明の実施形態である射出成形機の概略断面図である。
【図10】図9における射出成形機の型締部駆動装置を変形した実施例の概略断面図である。
【符号の説明】
1 ボールねじ、2 ねじ軸、3 ナット、6 ボール、11 駆動ロール、12 案内ロール、13 (3/4)”ボール、21 転動疲労寿命試験片、T1 浸炭窒化処理温度、T2 焼入れ加熱温度

Claims (11)

  1. 外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸及びナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が、鋼をA1変態点を超える浸炭窒化処理温度で浸炭窒化処理した後、A1変態点未満の温度に冷却し、その後、前記A1変態点以上で前記浸炭窒化処理の温度未満の焼入れ温度域に再加熱し、焼入れを行なったことを特徴とするボールねじ部品。
  2. 前記鋼が軸受鋼である請求項1に記載のボールねじ部品。
  3. 前記焼入れ温度域が790℃〜830℃の温度域である、請求項1〜2のいずれかに記載のボールねじ部品。
  4. オーステナイト結晶粒径が平均粒径で8μm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のボールねじ部品。
  5. 鋼からなり浸炭窒化層を備え、焼入れ後のミクロ組織において、そのオーステナイト結晶粒が平均粒径で8μm以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のボールねじ部品。
  6. 前記鋼が、浸炭窒化処理された表層以外の部分で、少なくとも炭素を0.6〜1.2重量%、ケイ素を0.15〜1.1重量%、マンガンを0.3〜1.5重量%含む、請求項1〜5のいずれかに記載のボールねじ部品。
  7. 外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸及びナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が浸炭窒化層を有し、その水素含有率が0.5ppm以下であるボールねじ部品。
  8. 外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸及びナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が浸炭窒化層を有し、そのオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超える範囲にあるボールねじ部品。
  9. 外周にねじ溝が形成されたねじ軸、内周にねじ溝が形成されたナット、ねじ軸及びナットのねじ溝に組込まれたボールを有するボールねじにおいて、少なくとも前記いずれかのボールねじ部品が浸炭窒化層を有する鋼を含み、破壊応力値が2650MPa以上であるボールねじ部品。
  10. 前記ボールねじ部品がねじ軸、ナット又はボールのいずれかである請求項1〜9のいずれかに記載のボールねじ。
  11. 前記ボールねじ部品がボールのみである請求項1〜9のいずれかに記載のボールねじ。
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