JP2004115458A - 2−(3−ニトロベンゾイル)安息香酸誘導体を有効成分とする医薬 - Google Patents
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Abstract
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、制癌剤、癌浸潤抑制剤又は癌転移抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の外科手術および放射線療法の進歩による、癌原発巣の除去技術の発展は目覚しいものがある。しかし、癌による死亡の殆どは転移が原因であり、癌転移を抑制することは癌化学療法の最重要課題である。
【0003】
転移のメカニズム研究は急激な進歩を遂げている。癌の転移は癌細胞の原発巣からの離脱、細胞外マトリックス・基底膜への浸潤、血管内侵入、遠隔部位での接着、血管外侵入、基底膜・細胞外マトリックスへの浸潤、増殖という過程を経る。中でも、細胞外マトリックス・基底膜への浸潤の過程は二回行われることから極めて重要なステップであると考えられる。
【0004】
癌細胞の細胞外マトリックス・基底膜への浸潤阻害剤としてはMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)阻害剤が有名であり、数多くの化合物が合成され臨床試験に入っている。しかし、毒性や有効性の点で充分に満足できるものは、まだ得られておらず、新たなタイプの癌浸潤抑制剤・癌転移抑制剤が求められている。
【0005】
2−(3−ニトロベンゾイル)安息香酸誘導体については、色素や記録素材としての報告があるのと同時に生物活性の報告もいくつかある。駆虫剤の中間体として2−(4−アミノ−3−ニトロベンゾイル)安息香酸が報告されている(特許文献1参照)。また、2−[3−ニトロ−4−[4−(2−オキソ−2H−3,1−ベンゾキサジン−1(4H)−イル)−1−ピペリジニル]ベンゾイル]安息香酸がプリン受容体P2X7のアンタゴニストの一つとして、炎症、免疫疾患および心疾患の治療薬として報告されている(特許文献2参照)。また、チロシンキナーゼp56lckの活性を調節することで免疫調節をする化合物の一つとして2−(4−クロロ−3−ニトロベンゾイル)安息香酸が報告されている(特許文献3参照)。しかし、癌細胞の浸潤阻害活性についての報告は現在までない。
【0006】
【特許文献1】
ソ連特許第1095583号明細書
【特許文献2】
国際公開第01/044213号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第02/010191号パンフレット
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、癌細胞の浸潤を抑制しうる新規な医薬、とくに制癌剤、癌浸潤抑制剤又は癌転移抑制剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、癌細胞の細胞外マトリックス・基底膜への浸潤を抑制する物質は優れた制癌剤となる可能性が高いと考え、癌細胞の浸潤を抑制する化合物を探索した結果、特定の2−(3−ニトロベンゾイル)安息香酸誘導体が癌細胞の浸潤を強力に抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記の一般式
【化2】
(式中、Rは、−SR1(R1は、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、または、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である)、または、−N(R2)2(R2は、独立して、水素原子、または、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基であり、少なくとも一方は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である)を表す)で示される化合物またはその塩を有効成分とする医薬を提供するものである。
【0010】
本発明の医薬は、好ましくは、制癌剤、癌浸潤抑制剤または癌転移抑制剤である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の医薬は、上記一般式で示される化合物またはその塩を有効成分とする。
【0012】
上記一般式中のRは、−SR1(R1は、水素原子、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、または、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である)、または、−N(R2)2(R2は、独立して、水素原子、または、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基であり、少なくとも一方は、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である)を表す。
【0013】
「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝状および環状のいずれでもよく、また、飽和でも不飽和でもよい、炭素数が通常1〜20の1価の脂肪族炭化水素基を意味し、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基などのアルキル基、4−ペンテニル基、6−ヘプテニル基、8−デセニル基などのアルケニル基、8−デシニル基、8−ペンタデシニル基、8−ヘプタデシニル基などのアルキニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基などを例示することができる。
【0014】
「芳香族炭化水素基」は、ヘテロアリール基をも包含する、炭素数(ヘテロ原子がある場合にはその数も炭素数に含める)が通常5〜20のアリール基を意味し、フェニル基、ナフチル基、アンスラニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、イミダゾリル基、ピロリル基、インドリル基、フリル基などを例示することができる。ヘテロアリール基に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などを例示することができる。ヘテロ原子は複数含まれてもよく、その場合には、複数のヘテロ原子は同じであっても異なっていてもよい。
【0015】
脂肪族炭化水素基の置換基としては、上記脂肪族炭化水素基、上記芳香族炭化水素基、カルボン酸基、ニトロ基、硫酸基、アミノ基などが挙げられる。
【0016】
芳香族炭化水素基の置換基としては、上記脂肪族炭化水素基、上記芳香族炭化水素基、カルボン酸基、ニトロ基、硫酸基、アミノ基などが挙げられる。
【0017】
脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、それぞれ、複数の置換を有していてもよく、その場合、複数の置換基は同じであっても異なっていてもよい。
【0018】
上記一般式で示される化合物の塩は、薬理上許容しうる塩であれば特に制限はなく、ナトリウム、カリウム、トリエチルアミンなどとの塩を例示することができる。
【0019】
上記一般式で示される化合物は、公知の方法で得ることができる。例えば、上記一般式においてRの代わりに脱離基を有する化合物は公知であり、この化合物に所望の基を公知の方法に従って導入することにより上記一般式で示される化合物を得ることができる。
【0020】
上記一般式で示される化合物は、細胞外マトリックス・基底膜への癌細胞の浸潤を抑制する作用を有しており、従って、本発明の医薬は、好ましくは、制癌剤、癌浸潤抑制剤または癌転移抑制剤として用いられる。
【0021】
本発明の医薬は、上記一般式で示される化合物またはその塩と薬理上許容しうる担体又は賦形剤とからなる組成物としてもよい。
【0022】
本発明の医薬は、その使用目的や、患者の年齢、体重、感受性、症状の程度などを考慮して、投与経路、投与量、投与頻度、剤形などを適宜決定できる。例えば、本発明の医薬は、経口または非経口的に投与することができる。その投与剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、シロップ剤、懸濁剤、注射剤などを例示することができる。これらの製剤は、製剤の分野で既知の方法に従って製造することができる。また、本発明の医薬は、他の有効成分と組み合わせて投与してもよい。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【製造例1】
【化3】
【0025】
発煙硝酸(30 mL)と酢酸(20 mL)の混合溶液に、2−(4−フルオロベンゾイル)安息香酸(11.0 g、45.0 mmol)を加え、4℃で2時間撹拌後、室温で5時間撹拌した。反応溶液を氷水中に滴下し、生成した沈殿物をクロロホルムで抽出した。クロロホルム層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下濃縮し、残渣をアセトンで再結晶し、得られた結晶をメタノールおよびヘキサンで順次洗浄した。粗結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=95/5)で精製して2−(4−フルオロ−3−ニトロベンゾイル)安息香酸(化合物1, 2.8 g, 9.7 mmol, 22%)を白色結晶として得た。
【0026】
分子量:289
分子式:C14H8NO5F
FAB−MS (Neg.): m/z = 288 (M−H)−
HR−FAB−MS (Neg.): m/z = 288.0311 [288.0308 C14H7NO5F, (M−H)−の計算値]
1H−NMR (270 MHz, DMSO−d6): δ = 7.48 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.64−7.80 (3H, m), 7.94 (1H, br−s), 8.02 (1H, d, J = 7.3 Hz), 8.27 (1H, d, J = 6.8 Hz)
【0027】
【製造例2】
【化4】
【0028】
2−(4−フルオロ−3−ニトロベンゾイル)安息香酸(226 mg, 781μmol)の1,4−ジオキサン溶液(3 mL)にチオフェノール(86 mg, 781μmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(101 mg, 781μmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応溶液を水とクロロホルムで分液後、クロロホルム層をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=20/1)で精製して2−[3−ニトロ−4−(フェニルチオ)ベンゾイル]安息香酸(化合物2, 292 mg, 770μmol, 98%)を黄色結晶として得た。
【0029】
分子量:379
分子式:C20H13NO5S
FAB−MS (Neg.): m/z = 378 (M−H)−
HR−FAB−MS (Neg.): m/z = 378.0450 [378.0436 C20H12NO5S, (M−H)−の計算値]
1H−NMR (270 MHz, DMSO−d6): δ = 6.93 (1H, d, J = 8.4 Hz), 7.45 (1H, d,J = 7.3 Hz), 7.60−7.80 (8H, m), 8.01 (1H, d, J = 7.3 Hz), 8.33 (1H, s),13.35 (1H, br−s)
【0030】
【製造例3】
【化5】
【0031】
2−(4−フルオロ−3−ニトロベンゾイル)安息香酸(217 mg, 749μmol)の1,4−ジオキサン溶液(3 mL)に4−メルカプト安息香酸(117 mg, 759μmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(97 mg, 749μmol)を加え、室温で12時間撹拌した。反応溶液を水とクロロホルムで分液後、クロロホルム層をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=9/1)で精製して2−[4−(4−カルボキシフェニル)チオ−3−ニトロベンゾイル]安息香酸(化合物3, 118 mg, 279μmol,
37%)を黄色結晶として得た。
【0032】
分子量:423
分子式:C21H13NO7S
FAB−MS (Neg.): m/z = 422 (M−H)−
HR−FAB−MS (Neg.): m/z = 422.0334 [422.0334 C21H12NO7S, (M−H)−の計算値]
1H−NMR (270 MHz, DMSO−d6): δ = 6.94 (1H, d, J = 8.64 Hz), 7.23 (1H, m), 7.52 (2H, m), 7.65 (3H, m), 7.93 (1H, m), 8.03 (2H, d, J = 8.37 Hz), 8.25 (1H, s)
【0033】
【製造例4】
【化6】
【0034】
2−(4−フルオロ−3−ニトロベンゾイル)安息香酸(100 mg, 346μmol)の1,4−ジオキサン溶液(3 mL)にメルカプトコハク酸(52 mg, 344μmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(45 mg, 346μmol)を加え、室温で12時間撹拌した。溶媒留去後、水とクロロホルムで分配した。水層をクロロホルムおよび酢酸エチルで抽出後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し2−[4−(1,2−ジカルボキシエチル)チオ−3−ニトロベンゾイル]安息香酸(化合物4, 142 mg, 289μmol, 84%)を淡黄色結晶として得た。
【0035】
分子量:419
分子式:C18H13NO9S
FAB−MS (Neg.): m/z = 418 (M−H)−
HR−FAB−MS (Neg.): m/z = 418.0249 [418.0233 C18H12NO9S, (M−H)−の計算値]
1H−NMR (270 MHz, DMSO−d6): δ = 2.81 (1H, dd, J = 5.67, 17.28 Hz), 2.93 (1H, dd, J = 8.1, 17.28 Hz), 4.47 (1H, dd, J = 5.67, 8.1 Hz), 7.49 (1H, d, J = 7.02 Hz), 7.69 (1H, ddd, J = 1.35, 7.56, 7.56 Hz), 7.76 (1H, ddd, J = 1.35, 7.56, 7.56 Hz), 7.87 (1H, d, J = 8.37 Hz), 7.99 (1H, d, J =8.37 Hz), 8.01 (1H, d, J = 7.02 Hz), 8.25 (1H, d, J = 1.62 Hz)
【0036】
【試験例1】(浸潤阻害活性試験)
文献記載の方法 [A. Albini, et. al., Cancer Res., 47, 3239−3245 (1987)]に準じて行った。すなわち、5μLの基底膜再構成基質マトリゲル(Becton Dickinson Labware)でコートしたポアサイズ8−μmのケモタキセル・チャンバー(クラボウ)を24穴プレートに設置し、ケモタキセル・チャンバー内(上層)にDMEM培地(無血清)で調製した各種細胞浮遊液(5×105 細胞/mL)を0.2 mL播種し(1×105 細胞/チャンバー)、24穴プレート内(下層)にDMEM(10% FCS)培養液を0.55 mL添加した。1時間後、上層および下層に各化合物を細胞増殖阻害が起こらない濃度で添加し、37℃、5% CO2の条件下、24時間インキュベーションした。上層に残った細胞およびマトリゲルを綿棒できれいにふき取り、下層に残った細胞をホルマリン溶液(PBS中0.1%, pH 7.4)で固定後、へマトキシリンで染色した。下層の細胞を顕微鏡で計測し、化合物無添加群をもとに各濃度における阻害活性(%)を下記式により求めた。結果を表1に示す。
【0037】
【数1】
阻害活性(%)= 100−(化合物添加時の浸潤癌細胞数/化合物無添加時の浸潤癌細胞数)×100
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果より、化合物2〜4は、ヒト繊維肉腫細胞HT1080細胞、高転移性のマウスメラノーマ細胞B16BL6細胞の両方において、対照に用いたスラミン(suramin)よりも強い浸潤阻害活性を有することが示された。
【0040】
スラミン(suramin)は抗腫瘍活性、血管新生阻害活性、抗ウィルス活性などが報告されているポリスルホンナフチルウレア化合物で、高転移性のマウスメラノーマ細胞B16BL6細胞の浸潤抑制活性が報告されている[M. Nakajima, et. al., J. Biol. Chem., 266, 9661−9666 (1991)]。また、細胞内受容体ドメインでG−プロテインと受容体の結合を阻害する作用や、Gα−サブユニット活性化の律速段階であるGDP−GTP交換の阻害、逆転写酵素の拮抗阻害、トポイソメラーゼIおよびII阻害、筋小胞体膜におけるCa2+−ATPase阻害、各種成長因子(EGF、PDGF、TGFβなどを含む)の細胞表面への結合阻害、ホスホリパーゼD阻害、ATP結合蛋白質やP2プリン受容体への結合、チロシン脱リン酸化酵素の可逆的・拮抗的阻害作用など多数の生物活性が報告されている。
【0041】
【発明の効果】
本発明で用いられる2−(3−ニトロベンゾイル)安息香酸誘導体は、優れた癌細胞の浸潤抑制活性を有しており、制癌剤、癌浸潤抑制剤又は癌転移抑制剤として使用できる。
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