JP2004113117A - 組換え微生物を用いた高品質な脱硫法 - Google Patents
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Abstract
【課題】着色しない脱硫石油を生産しうる、微生物を用いた高品質脱硫方法を提供すること。
【解決手段】含硫複素環式化合物に、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された、含硫複素環式化合物分解能力を有するノカルディアフォーム型細菌(ゴルドニア属、ロドコッカス属、ミコバクテリウム属)を作用させることにより、実質的に着色のない脱硫石油を取得する、組換え微生物を用いた脱硫方法。
【選択図】 図1
【解決手段】含硫複素環式化合物に、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された、含硫複素環式化合物分解能力を有するノカルディアフォーム型細菌(ゴルドニア属、ロドコッカス属、ミコバクテリウム属)を作用させることにより、実質的に着色のない脱硫石油を取得する、組換え微生物を用いた脱硫方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カロテノイドによる着色がない高品質な石油を得るための、微生物脱硫方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油等の炭化水素燃料中には多種類の硫黄化合物が存在しており、環境規制に対応してその硫黄含量を低減させる脱硫操作が必要となる。
【0003】
含硫化合物の脱硫方法としては、アルカリ洗浄、溶剤脱硫等の方法も知られているが、現在では水素化脱硫法が主流である。水素化脱硫法は、石油留分中の硫黄化合物を触媒存在下で水素と反応させ、硫黄を硫化水素として除去し、製品の低硫黄化をはかる方法である。触媒としては、アルミナを担体としたコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステン等の金属触媒が使用される。しかし、金属触媒は一般にその基質特異性が低く、多様な種類の硫黄化合物を脱硫し、化石燃料全体の硫黄含量を低下させる目的には適しているが、特定のグループの硫黄化合物に対してはその脱硫効果が不十分となる場合がある。例えば、脱硫後の軽油中にはなおもアルキルベンゾチオフェン(アルキルBT)、アルキルジベンゾチオフェン(アルキルDBT)などの種々の複素環式有機硫黄化合物(以下、含硫複素環化合物という)が残存している。
【0004】
こうしたアルキル化ベンゾチオフェン類やアルキル化ジベンゾチオフェン類を水素化脱硫法により完全に除去するためには、より高い反応温度・圧力を必要とするため、莫大な設備投資と運転コストを必要とすることが予想される。
【0005】
一方、微生物を用いた脱硫は、常温常圧での反応が可能なこと、脱硫プロセスにおけるCO2発生量が触媒法に比べて著しく低いことから、安全、環境に配慮した脱硫プロセスとしてこれまで多数検討されてきた。しかも、触媒法では脱硫が困難とされる含硫複素環式化合物、例えば、4,6−ジメチルDBTに対しても高い脱硫能を示すことから、触媒法の補完プロセスとして有用である。
【0006】
例えば、DBTを脱硫する微生物としてロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) KA2−5−1(例えば、非特許文献1参照)、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)IGTS8 (ATCC53968) (例えば、非特許文献2参照)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. SY−1 (例えば、非特許文献3参照)、ミコバクテリウム(Mycobacterium) sp. G3 (例えば、非特許文献4参照), ゴルドナ(Gordona 現ゴルドニア(Gordonia))CYKS1(例えば、非特許文献5参照)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium) sp. DO (例えば、非特許文献6参照)や、ロドッカス(Rhodococcus、旧アルスロバクター(Arthrobacter)) K3b(例えば、非特許文献7参照)、BTを脱硫する微生物として、例えば、ゴルドナ(Gordona、現ゴルドニア(Gordonia)) 213E (例えば、非特許文献8参照)、ロドコッカス(Rhodococcus) T09 (例えば、非特許文献9参照)、ゴルドニア(Gordonia) T08 (例えば、非特許文献10参照)などが報告されている。また、DBTおよびBTの両者を脱硫する単一の微生物については、土壌より分離したペニバチルス属(Paenibacillus)A 11−1およびA
11−2株(例えば、特許文献1参照)が報告されている。
【0007】
上記微生物の大部分は、ロドコッカス、ゴルドニア、ミコバクテリウム等のノカルディオフォーム型細菌に分類される細菌類、あるいはコリネバクテリウム、ブレビバクテリウム等のコリネフォーム型細菌に分類される細菌類であり、石油のような疎水性有機溶媒中の含硫複素環式化合物を脱硫する特徴を有している(例えば、非特許文献11参照)。
【0008】
一方、石油類の品質に関しては、硫黄含量だけでなく、色調に関する規格も定められている。そのため、接触分解系軽油留分の触媒法による脱硫では、高温になると着色しやすいことから、通常より低い温度で二段反応を行うことにより、440nm付近の色調の改善を行ったという報告もある(例えば、非特許文献12参照)。
【0009】
微生物による脱硫法において頻繁に用いられているノカルディオフォーム型細菌は、ピンク、オレンジ、赤色のコロニーを形成するものが多く、これは当該微生物が生産するカロテノイド類によるものである。従って、これらの微生物を用いて石油のような疎水性有機溶媒存在下に微生物反応を行う、いわゆる水−有機溶媒二相系反応では、微生物の生産するカロテノイド類が溶媒側に抽出されて、着色した低品質の脱硫石油ができてしまうという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】
特開平10−36859号公報
【非特許文献1】
Kobayashi M. et al., FEMS Microbiol. Lett., 187, 123−126 (2000)
【非特許文献2】
Kilbane,J.J. Resources, Conservation and Recycling, 3, 69−70 (1990)
【非特許文献3】
Ohmori, T. et al., Appl.Environ. Microbiol.,58,911−915, (1992)
【非特許文献4】
Nekodzuka, S. et al., Biocatalysis and Biotransformation, 15 17−27 (1997)
【非特許文献5】
Rhee S−K et al., Appl.Environ. Microbiol.,64, 2327−2331 (1998)
【非特許文献6】
van Afferden, M. et al., Arch. Microbiol.,153, 324−328, (1990)
【非特許文献7】
Dahlberg, M.D.(1992) Third International Symposium on the BiologicalProcessing of Coal, May4−7, ClearwaterBeach,FL,pp.1−10.Electric Power Research Institute, PaloAlto, CA.
【非特許文献8】
Gilbert.S.C. et al.,Microbiology.144 2545−2553 (1998)
【非特許文献9】
Matsui T. et al., Biosci. Biotech. Biochem. 64(3),596−599 (2000)
【非特許文献10】
Matsui T. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 57, 212−215 (2001)
【0011】
【非特許文献11】
Monticello DJ, Curr. Opin. Biotechnol.11: 540−546 (2000)
【非特許文献12】
牛尾、畑山、PETROTECH、17、701−707 (1994)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、着色しない脱硫石油を生産しうる、微生物を用いた高品質脱硫方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは含硫複素環式化合物分解能を有するノカルディオフォーム型細菌、ゴルドニア(Gordonia)属 TM414株のカロテノイド生成遺伝子群を破壊することにより、石油脱硫能を有し、カロテノイドを生成しない組換え脱硫菌の作製に成功し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(12)に関するものである。
(1) カロテノイド生成遺伝子群を破壊された、含硫複素環式化合物分解能力を有する組換え微生物を作用させることにより、実質的に着色のない脱硫石油を取得することを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
(2) 微生物がトランスポゾンを用いた変異導入によってカロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え微生物である、上記(1)記載の方法。
(3) 組換え微生物がノカルディオフォーム型細菌に属する微生物である、上記(1)または(2)記載の方法。
(4) ノカルディオフォーム型細菌に属する微生物がロドコッカス属に属する微生物である、上記(3)記載の方法。
(5) 含硫複素環式化合物の分解がこれらを含有する培地中で微生物を培養することによって行われる、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 微生物として休止菌体を作用させることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 含硫複素環式化合物がベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンおよびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 含硫複素環式化合物がアルキル化ベンゾチオフェン類およびアルキル化ジベンゾチオフェン類からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物である、上記(7)記載の方法。
(9) 微生物がゴルドニア属TM414TPd株(FERM P−19013)である、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10) 含硫複素環式化合物分解能力を有するノカルディオフォーム型細菌に属する微生物にトランスポゾンを用いた変異導入を行うことによって得られる、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物分解能力を有する組換え微生物。
(11) ノカルディオフォーム型細菌に属する微生物がロドコッカス属に属する微生物である、上記(10)記載の組換え微生物。
(12) ゴルドニア属 TM414TPd株(FERM P−19013)。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物脱硫能を有する組換え微生物を作用させることにより、実質的に着色していない脱硫生成物を取得することを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法に関する。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
1. 組換え微生物の作製
本発明で用いられる組換え微生物は、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物脱硫能を有する微生物である。
【0017】
1.1 親株
本発明で用いられる組換え微生物の親株は、含硫複素環式化合物の脱硫能力を有する微生物である限り特に限定されない。そのような微生物としては、例えばロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) KA2−5−1(FERM P−16277; Kobayashi M. et al., FEMS Microbiol. Lett., 187, 123−126 (2000))、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)IGTS8 (ATCC53968) (Kilbane,J.J. Resources, Conservation and Recycling, 3, 69−70 (1990))、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. SY−1 (Ohmori, T. et al., Appl.Environ. Microbiol.,58,911−915, 1992)、ミコバクテリウム(Mycobacterium) sp. G3 (Nekodzuka, S. et al., Biocatalysis and Biotransformation, 15 17−27 (1997)), ゴルドナ(Gordona 現ゴルドニア(Gordonia))CYKS1(Rhee S−K et al., Appl.Environ. Microbiol.,64, 2327−2331 (1998))、ブレビバクテリウム(Brevibacterium) sp. DO (van Afferden, M. et al., Arch. Microbiol.,153, 324−328,1990)や、ロドッカス(Rhodococcus、旧アルスロバクター(Arthrobacter)) K3b(Dahlberg, M.D.(1992) Third International Symposium on the Biological Processing of Coal, May4−7, ClearwaterBeach,FL,pp.1−10.Electric Power Research Institute, PaloAlto, CA.)、ゴルドナ(Gordona、現ゴルドニア(Gordonia)) 213E (Gilbert.S.C. et al.,Microbiology.144 2545−2553 (1998))、ロドコッカス(Rhodococcus) T09 (Matsui T. et al., Biosci. Biotech. Biochem. 64(3),596−599 (2000))、ゴルドニア(Gordonia) T08 (Matsui T. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 57, 212−215 (2001))などを挙げることができる。
【0018】
本発明においては、前記親株の好適な例として、ノカルディオフォーム型細菌に分類される微生物 ゴルドニア属 TM414株を用いた組換え微生物、TM414TPd株の作製例を記載した。TM414株は代表的な脱硫遺伝子dszを有する脱硫菌であり、一般にバイオ脱硫に適しているといわれているノカルディオフォーム型細菌に属する菌株である。
【0019】
前述したように、ノカルディオフォーム型細菌には、石油のような疎水性有機溶媒中の含硫複素環式化合物を脱硫する特徴を有する微生物が多く、微生物脱硫法に頻繁に用いられている。しかしながら、ノカルディオフォーム型細菌はカロテノイド類を産生するため、その脱硫産物が着色されてしまうという問題を有している。
【0020】
ところで、ノカルディオフォーム型細菌とは、Bergey’s Manualが採用する細菌の分類体系における33のセクションのうちの1つで、ノカルディア属(Nocardia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、ゴルドニア(Gordonia)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属等が含まれる。この分類体系では、従来の階層的分類とは異なり、細菌をその特性−例えば、細胞形態、酵素に対する反応、グラム染色性、エネルギー代謝等により分類している。
【0021】
したがって、同一セクション内では同様の遺伝的改変による共通の効果が期待される。すなわち、他のノカルディオフォーム型細菌についても、TM414株と同様の変異を加えることにより、脱硫能力を維持した状態でカロテノイド生成遺伝子群のみを特異的に破壊することが可能と考えられる。
【0022】
1.2 カロテノイド生成遺伝子群の破壊
前記親株のカロテノイド生成遺伝子群の破壊は、当該遺伝子領域への変異(点変異)の導入によって行うことができる。
【0023】
標的とするカロテノイド生成遺伝子群、当該微生物においてカロテノイドの産生に関与する遺伝子であれば特に限定されず、例えば、Brevibacterium linens のフィトエンデサチュラーゼ(Krubasik P., Sandmann G., Mol. Gen. Genet. 263, 423−432 (2000))のように、カロテノイド合成においてフィトエンをリコペンに変換する酵素等を挙げることができる。
【0024】
変異の導入方法は、化学的変異導入法、紫外線照射による変異導入法、あるいはトランスポゾンや相同組み換え法による点変異導入法など、当該技術分野で公知の変異導入法を用いることができる。なかでも、標的遺伝子以外の遺伝子(特に、脱硫活性に関与する遺伝子群)に影響を与えることなく、カロテノイド生成遺伝子群にのみ特異的に変異を与えうるという点でトランスポゾンを用いた点変異法が望ましい。
【0025】
(1)トランスポゾンを用いた点変異導入
本発明の好ましい態様として、トランスポゾンを用いた点変異導入によるカロテノイド生成遺伝子群の破壊について説明する。
【0026】
トランスポゾンは転移性遺伝因子とも呼ばれ、宿主生物の染色体内において新たな位置へ移動する独特な能力(転移能力)を有している。そのため、染色体相同組換え法とは大きく異なり、該因子と標的部位との間に相同性のあるDNA領域を必要としない。またトランスポゾンはその構造上、DNAの両末端の塩基配列のみがトランスポゾンとしての基本機能、すなわち転移に必要であり、この両末端の塩基配列に挟まれた領域に種々の機能性因子、例えば抗生物質耐性遺伝子のようなマーカー遺伝子、制限酵素切断部位等の任意のDNA配列を組み込むことが出来る。しかも、他の遺伝子には影響を与えることなく標的遺伝子のみを特異的に改変することができる。
【0027】
トランスポゾンを用いた変異導入方法は、染色体への変異導入の強力なツールとして既に当技術分野では公知であり、例えばトランスポゾン複合体(商品名EZ::TNTM<KAN−2>Tnp Transposome TM、Epicentre Technology社)等の市販品を用いて容易に実施することができる。
【0028】
トランスポゾンには、組換え体の選抜をより容易にするために、適当なマーカー遺伝子をレポーター遺伝子とともに挿入することができる。該マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
トランスポゾンの導入は、公知の形質転換、形質導入、接合伝達(conjugal mating)または電気穿孔法等により行うことができる。
【0029】
(2)カロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え体の選抜
カロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え体は、上述のトランスポゾン上のマーカー遺伝子と、形成されるコロニーの色によって容易に選抜することができる。例えば、カナマイシン耐性遺伝子をマーカー遺伝子として含むトランスポゾンを用いた場合であれば、トランスポゾン処理後の菌体をカナマイシンを含む培地で培養し、形成されたコロニーのうち、白色のコロニーを選択する。選択したコロニーは、必要であればさらに培養して純化した後、ジベンゾチオフェン等の含硫複素環式化合物を含有する培地で培養することにより、親株の脱硫能力が維持されているか否かを確認することができる。
【0030】
1.3 組換え微生物:ゴルドニア属 TM414TPd株
上記の方法によって得られる本発明の組換え微生物の好適な例として、ゴルドニア属 TM414TPd株を挙げることができる。TM414TPd株は、ゴルドニア属 TM414株にトランスポゾン点変異を導入して得られた、カロテノイド非生成脱硫菌である。このTM414TPd株の菌学的性質は後述する実施例1の表1に記載したとおりである。
【0031】
なお、TM414TPd株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2002年9月13日付けで寄託され、受託番号FERM P−19013を得ている。
【0032】
なお、本発明においては、上記TM414TPd株には当該菌株と実質的に同等の菌学的性質を有する菌株をも含むものとする。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、TM414TPd株と同様にカロテノイドを生成することなしに含硫複素環式化合物の脱硫することできるが、TM414TPd株とは他の1つ以上の性質において異なっている、TM414TPd株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0033】
2. 組換え微生物を用いた高品質脱硫方法
本発明にかかる脱硫方法は、本発明の組換え微生物を含硫複素環式化合物を含む培養液中に添加し、該微生物を培養することにより実施することができる。具体的には、本発明の脱硫方法は以下のようにして行われる。
【0034】
2.1 組換え微生物の菌体生産(培養)
前項で作製された組換え微生物を、脱硫方法に供する菌体生産ために培養する。培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行われる。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。培地の栄養源としては通常用いられているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコール、スクロース、ラクトース、コハク酸、クエン酸、酢酸などが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物などの有機栄養物質が使用される。分解反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養するのが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用することができる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類などが必要に応じて用いられる。
【0035】
好適な培地としては、A培地(Izumi Y.,Ohshiro T.,Ogino H.,Hine Y.,ShimaoM., Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994))を挙げることができる。培養は、微生物が生育可能である温度、pHで行われ、使用する微生物の最適培養条件で行うのが好ましい。一般的には、培地のpHを適当なpH、例えばpH6〜8とし、また、適当な温度、例えば25〜37℃、好ましくは約30℃付近にて、振盪または通気条件下で好気的に行われる。
【0036】
2.2 含硫複素環式化合物
本発明の脱硫方法の対象となる含硫複素環式化合物は、特に限定されず、例えば、石油等の化石燃料油中に含まれる含硫複素環式化合物類を広く対象とすることができる。例えば、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン類やアルキル化ベンゾチオフェンやアルキル化ジベンゾチオフェン類を挙げることができる。該アルキル化ベンゾチオフェンとしては2−メチルジベンゾチオフェン、3−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、2−エチルチオフェン等が例示される。アルキル化ジベンゾチオフェンとしては、4−メチルジベンゾチオフェン、4−エチルジベンゾチオフェン、4−プロピルジベンゾチオフェン、4−ブチルジベンゾチオフェン、4−ペンチルジベンゾチオフェン、4−ヘキシルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチルベンゾチオフェン、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン、4,6−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェン、3−プロピル,4,8−ジメチルジベンゾチオフェン等が例示される。
【0037】
2.3 脱硫反応(含硫複素環式化合物の分解)
含硫複素環式化合物の分解は、含硫複素環式化合物を含有する培地中で前記組換え微生物を培養することにより実施することができる。
添加される含硫複素環式化合物類の培地中の濃度は、好ましくは5〜10,000ppmであり、より好ましくは 25〜200 ppmである。
【0038】
(1) 微生物の培養条件
微生物の培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行われる。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。
【0039】
培地の栄養源としては通常用いられているものを広く用いることができる。すなわち、炭素源としては、利用可能な炭素化合物であれば特に限定されず、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、コハク酸、クエン酸、酢酸などを使用することができる。窒素源としては、利用可能な窒素化合物であれば特に限定されず、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養物質を使用できる。含硫複素環式化合物類の分解反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養することが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用できる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類、などを必要に応じて用いてもよい。
【0040】
培養は、微生物が生育可能な温度、pHで行われ、使用する微生物の最適培養条件で行うことが好ましい。一般的には、例えば、pH6〜8、温度25〜37℃、好ましくは約30℃付近にて、振盪または通気条件下で好気的に培養される。
【0041】
(2) 休止菌体の調整
含硫複素環式化合物の分解反応に供される微生物はどのような状態のものであってもよいが、休止菌体を用いることが好ましい。休止菌体は、例えば、以下のようにして調製することができる。
【0042】
まず、新鮮な培地に対し適当量、例えば1〜2%容量の種菌を接種し、pH6〜8、温度25〜37℃、好ましくは約30℃付近で、1〜2日間往復あるいは回転振とう培養を行う。この際、種菌としては対数増殖期初期から定常期のいずれの状態の菌でも構わないが、対数増殖期後期のものが好適である。また、接種量は必要に応じて増減してもよい。
【0043】
培地としては、特に限定するものではないが、A培地(Izumi Y.,Ohshiro T.,Ogino H.,Hine Y.,Shimao M., Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994))を用いることが好適である。培養後、菌体を培地から分離集菌し、洗浄することにより休止菌体が得られる。ここで、集菌は、培養菌体が対数増殖期初期から定常期までのいずれの状態にある時に行ってもよいが、対数増殖期中期から後期の状態にある時に行うことが好ましい。また、集菌は、遠心分離の他、濾過、沈降分離等のいかなる方法で行ってもよい。菌体の洗浄には、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等の任意の緩衝液を使用することができ、また、水を用いて洗浄することもできる。
【0044】
(3) 休止菌体による分解反応
休止菌体による分解反応は、休止菌体を適当な緩衝液に懸濁して調製した菌懸濁液に、基質である含硫複素環式化合物類を添加して培養・増殖させることにより行う。
【0045】
前記緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を使用することができる。緩衝液のpHは特に限定されないが、pH6〜8が好適である。また、緩衝液の代わりに、水や培地等を使用することもできる。菌体懸濁液の濃度は、OD660が1〜100の間が好適であり、必要に応じて増減できる。基質である含硫複素環式化合物類の培地中の濃度は、好ましくは5〜10,000ppmであり、より好ましくは 25〜200ppmであるが、必要に応じて増減できる。反応温度は25〜37℃、好ましくは30℃付近が好適であるが、特に限定されない。また反応時間は、通常1〜500時間の間で、培地中の含硫複素環式化合物の量や用いる微生物の量によって適宜設定すればよいまた、基質を添加する前に反応温度と同じ温度に反応液を予備加熱してから行ってもよい。
【0046】
また、含硫複素環式化合物を溶解するために使用可能な有機溶媒としては、n−テトラデカンの他、C8 〜C20のn−パラフィンやケロシン、軽油、重油などが挙げられる。また、必要に応じて反応液上方の気相を酸素で置換封入してもよい。
【0047】
脱硫率の測定は、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー/質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析などを使用して行うことができる。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用してもよい。
【0048】
2.4 本発明の脱硫方法の利点
本発明の脱硫方法は、カロテノイド生成遺伝子群の破壊により、カロテノイドを生成することなく石油等の含硫複素環式化合物の脱硫を行うことができる。したがって、この方法で得られる石油は実質的に着色していない高品質の脱硫石油である。ここで実施的に着色していないとは、微生物によって産生されるカロテノイド等の着色物質を含まないことを意味する。本発明の脱硫方法は微生物を用いて行われるため、常温常圧下で温和に反応に進み、しかも無着色の脱硫石油が得られる高品質な脱硫法として利用価値が高い。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
〔実施例1〕 TM414株への点変異導入によるTM414TPd株の取得
1.変異の導入
LB培地100mlに一白金耳量のゴルドニア属TM414株を植菌し、30℃で48時間培養した。得られた培養液の660nmにおける吸光度(OD660)を測定したところ、1.0であった。この培養後を7000rpm 10分の条件で遠心分離して上清を除去した後、得られた菌体を10%グリセロール水溶液で1回洗浄後、OD40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁調整した。
【0050】
この懸濁液80μlにトランスポゾン複合体(商品名EZ::TNTM<KAN−2>Tnp Transposome TM、Epicentre Technology社)1μlを添加し、ジーンパルサーII(Biorad社製)を用いて25μF、400Ω、20kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地0.42mlを添加し、30℃、3時間培養を行った。得られた培養液は、カナマイシン硫酸塩100mg/lおよび寒天末15 g/lを含むLB培地(LBAK培地)に塗末し、30℃、48時間培養した。LBAK培地においてコロニーを形成した菌のうち、白色のコロニーを再度新鮮なLBAK培地に画線することによって菌体を純化し、これをTM414TPd株と命名した。
【0051】
2.TM414TPd株の菌学的性質
このTM414TPd株は、表1に示すような菌学的性質を有していた。
【表1】
このTM414TPd株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2002年9月13日付けで寄託され、受託番号FERM P−19013を得ている。
【0052】
〔実施例2〕 TM414TPd株の遺伝子解析
1.試験方法
TM414TPd株をカナマイシン50 mg/lを含むLB培地10mlに一白金耳量植菌し、30℃で48時間培養した。培養後の液を15,000rpm 5分の条件で遠心分離して上清を除去した後、得られた菌体からISOPLANT(ニッポンジーン社)を用いて10 mM Tris−塩酸−1 mM EDTA緩衝液(pH8.0)に溶解したゲノムDNAを調整した。得られたゲノムDNA溶液5 μlを制限酵素Eco RIを用いて消化し、消化液5 μlにBAP処理pUC118(ニッポンジーン社)1 μl、ライゲーションキットver.2 (タカラバイオ社)6 μlを添加し、16℃、2時間反応させた。この反応液を用いて、E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社)を添付の説明書に従って形質転換した。
【0053】
得られた形質転換体よりカナマイシン耐性株を選抜し、310型genetic analyzer (パーキンエルマー社)を用いて、ゲノム内に挿入されたトランスポゾン由来のカナマイシン耐性遺伝子上流および下流の塩基配列それぞれ約500bpを決定した。この塩基配列分析結果から、さらにユニバーサルコードに従ってアミノ酸配列を推定し、アライメント解析ツールBLASTを用いてタンパク質解析データベースPIRに登録された既知のタンパク質アミノ酸配列との相同性を解析した。
【0054】
2.解析結果
その結果、カナマイシン耐性遺伝子上流(498塩基、164アミノ酸;配列番号1)、および下流(387塩基、135アミノ酸;配列番号2)はBrevibacterium linens のフィトエンデサチュラーゼ(Krubasik P., Sandmann G., Mol. Gen. Genet.263, 423−432 (2000))のアミノ酸配列とそれぞれ52.7%、53.2%の相同性を示した。この酵素は、カロテノイド合成においてフィトエンをリコペンに変換する酵素である。すなわち、TMTP414TPd株は、赤いコロニーを形成する親株TMTP414株のカロテノイド合成系酵素合成が破壊されたことにより、カロテノイドを生成できず、白いコロニーを形成するようになったことが強く示唆された。
【0055】
〔実施例3〕 TM414TPd株による4.6−ジメチルジベンゾチオフェンの分解
1.試験方法
4.6−ジメチルジベンゾチオフェン(4,6−DMDBT)約50 mg/lを溶解したn−テトラデカン2mlをA培地(Izumi Yら、Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994)) 2mlに添加後、1白菌耳量のTM414TPd株を植菌し、30℃、150 rpmで72時間培養した。この培養液に6規定塩酸水溶液0.1mlおよび酢酸エチル2 mlを添加し、攪拌抽出を行い、得られた酢酸エチル抽出液をガスクロマトグラフィーにより定量した。ガスクロマトグラフィー分析は、GC−14A(島津製作所社製)にカラムDB−5(0.25mm×0.25μm×30m ;J&Wサイエンティフィック社製)を装着し、水素炎イオン化検出器(FID)にてカラム温度250℃で分析した。対照として、TM414TPd株の代わりにTM414株を植菌して同様に培養を行った。さらに、4,6−DMDBTの非生物学的な分解を確認するために微生物を植菌せずに同様の操作も行った。
【0056】
さらに培養中にn−テトラデカン相に移行したカロテノイド量をn−テトラデカン相の450nmにおける吸光度により測定した。さらに、培養液を15,000rpm、5分間遠心分離して得られるn−テトラデカン相の吸光度をDU640型吸光度計(ベックマン社製)を用いて200−800nmの範囲で測定した。
【0057】
2.結果
(1)ガスクロマトグラフィー分析
それぞれの結果を表2に示す。TM414およびTM414TPdを植菌、培養した場合のみ保持時間4分に生成物ピークが認められ、GC/MSのスペクトルパターンからジメチルヒドロキシビフェニルと同定された。この結果から、TM414TPdはTM414とほぼ同等に4,6−DMDBTを分解し、脱硫化合物DMHBPを生成しており、実施例1の変異導入によってその脱硫能力の低下はないことが確認された。
【0058】
【表2】
【0059】
(2)吸光度測定(n−テトラデカン相に移行したカロテノイド量の測定)
TM414TPdでは450nmにおける吸収は検出されなかった。また、培養液を15,000rpm、5分間遠心分離して得られるn−テトラデカン相の200−800nmにおける吸光度測定の結果、TM414TPd株では、カロテノイドに特徴的な450nmの吸光度のみが消失していることが確認された(図1)。
【0060】
以上より、TM414TPd株は、油水二相系での脱硫能を保持しつつ、カロテノイド生成能を欠失させることにより油相の着色を抑制することができる変異型脱硫微生物であることが確認された。
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば、疎水性有機溶媒中の含硫複素環式化合物を微生物を利用することにより穏和な条件で、着色することなく脱硫することができる。この方法は、着色のない脱硫石油を得るための高品質な脱硫法として利用価値が高い。
【0062】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、TM414株(A)およびTM414TPd株(B)による4,6−ジメチルジベンゾチオフェン分解後の培養液のn−テトラデカン相の、200−800nmにおける吸光度測定結果を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、カロテノイドによる着色がない高品質な石油を得るための、微生物脱硫方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油等の炭化水素燃料中には多種類の硫黄化合物が存在しており、環境規制に対応してその硫黄含量を低減させる脱硫操作が必要となる。
【0003】
含硫化合物の脱硫方法としては、アルカリ洗浄、溶剤脱硫等の方法も知られているが、現在では水素化脱硫法が主流である。水素化脱硫法は、石油留分中の硫黄化合物を触媒存在下で水素と反応させ、硫黄を硫化水素として除去し、製品の低硫黄化をはかる方法である。触媒としては、アルミナを担体としたコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステン等の金属触媒が使用される。しかし、金属触媒は一般にその基質特異性が低く、多様な種類の硫黄化合物を脱硫し、化石燃料全体の硫黄含量を低下させる目的には適しているが、特定のグループの硫黄化合物に対してはその脱硫効果が不十分となる場合がある。例えば、脱硫後の軽油中にはなおもアルキルベンゾチオフェン(アルキルBT)、アルキルジベンゾチオフェン(アルキルDBT)などの種々の複素環式有機硫黄化合物(以下、含硫複素環化合物という)が残存している。
【0004】
こうしたアルキル化ベンゾチオフェン類やアルキル化ジベンゾチオフェン類を水素化脱硫法により完全に除去するためには、より高い反応温度・圧力を必要とするため、莫大な設備投資と運転コストを必要とすることが予想される。
【0005】
一方、微生物を用いた脱硫は、常温常圧での反応が可能なこと、脱硫プロセスにおけるCO2発生量が触媒法に比べて著しく低いことから、安全、環境に配慮した脱硫プロセスとしてこれまで多数検討されてきた。しかも、触媒法では脱硫が困難とされる含硫複素環式化合物、例えば、4,6−ジメチルDBTに対しても高い脱硫能を示すことから、触媒法の補完プロセスとして有用である。
【0006】
例えば、DBTを脱硫する微生物としてロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) KA2−5−1(例えば、非特許文献1参照)、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)IGTS8 (ATCC53968) (例えば、非特許文献2参照)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. SY−1 (例えば、非特許文献3参照)、ミコバクテリウム(Mycobacterium) sp. G3 (例えば、非特許文献4参照), ゴルドナ(Gordona 現ゴルドニア(Gordonia))CYKS1(例えば、非特許文献5参照)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium) sp. DO (例えば、非特許文献6参照)や、ロドッカス(Rhodococcus、旧アルスロバクター(Arthrobacter)) K3b(例えば、非特許文献7参照)、BTを脱硫する微生物として、例えば、ゴルドナ(Gordona、現ゴルドニア(Gordonia)) 213E (例えば、非特許文献8参照)、ロドコッカス(Rhodococcus) T09 (例えば、非特許文献9参照)、ゴルドニア(Gordonia) T08 (例えば、非特許文献10参照)などが報告されている。また、DBTおよびBTの両者を脱硫する単一の微生物については、土壌より分離したペニバチルス属(Paenibacillus)A 11−1およびA
11−2株(例えば、特許文献1参照)が報告されている。
【0007】
上記微生物の大部分は、ロドコッカス、ゴルドニア、ミコバクテリウム等のノカルディオフォーム型細菌に分類される細菌類、あるいはコリネバクテリウム、ブレビバクテリウム等のコリネフォーム型細菌に分類される細菌類であり、石油のような疎水性有機溶媒中の含硫複素環式化合物を脱硫する特徴を有している(例えば、非特許文献11参照)。
【0008】
一方、石油類の品質に関しては、硫黄含量だけでなく、色調に関する規格も定められている。そのため、接触分解系軽油留分の触媒法による脱硫では、高温になると着色しやすいことから、通常より低い温度で二段反応を行うことにより、440nm付近の色調の改善を行ったという報告もある(例えば、非特許文献12参照)。
【0009】
微生物による脱硫法において頻繁に用いられているノカルディオフォーム型細菌は、ピンク、オレンジ、赤色のコロニーを形成するものが多く、これは当該微生物が生産するカロテノイド類によるものである。従って、これらの微生物を用いて石油のような疎水性有機溶媒存在下に微生物反応を行う、いわゆる水−有機溶媒二相系反応では、微生物の生産するカロテノイド類が溶媒側に抽出されて、着色した低品質の脱硫石油ができてしまうという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】
特開平10−36859号公報
【非特許文献1】
Kobayashi M. et al., FEMS Microbiol. Lett., 187, 123−126 (2000)
【非特許文献2】
Kilbane,J.J. Resources, Conservation and Recycling, 3, 69−70 (1990)
【非特許文献3】
Ohmori, T. et al., Appl.Environ. Microbiol.,58,911−915, (1992)
【非特許文献4】
Nekodzuka, S. et al., Biocatalysis and Biotransformation, 15 17−27 (1997)
【非特許文献5】
Rhee S−K et al., Appl.Environ. Microbiol.,64, 2327−2331 (1998)
【非特許文献6】
van Afferden, M. et al., Arch. Microbiol.,153, 324−328, (1990)
【非特許文献7】
Dahlberg, M.D.(1992) Third International Symposium on the BiologicalProcessing of Coal, May4−7, ClearwaterBeach,FL,pp.1−10.Electric Power Research Institute, PaloAlto, CA.
【非特許文献8】
Gilbert.S.C. et al.,Microbiology.144 2545−2553 (1998)
【非特許文献9】
Matsui T. et al., Biosci. Biotech. Biochem. 64(3),596−599 (2000)
【非特許文献10】
Matsui T. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 57, 212−215 (2001)
【0011】
【非特許文献11】
Monticello DJ, Curr. Opin. Biotechnol.11: 540−546 (2000)
【非特許文献12】
牛尾、畑山、PETROTECH、17、701−707 (1994)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、着色しない脱硫石油を生産しうる、微生物を用いた高品質脱硫方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは含硫複素環式化合物分解能を有するノカルディオフォーム型細菌、ゴルドニア(Gordonia)属 TM414株のカロテノイド生成遺伝子群を破壊することにより、石油脱硫能を有し、カロテノイドを生成しない組換え脱硫菌の作製に成功し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(12)に関するものである。
(1) カロテノイド生成遺伝子群を破壊された、含硫複素環式化合物分解能力を有する組換え微生物を作用させることにより、実質的に着色のない脱硫石油を取得することを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
(2) 微生物がトランスポゾンを用いた変異導入によってカロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え微生物である、上記(1)記載の方法。
(3) 組換え微生物がノカルディオフォーム型細菌に属する微生物である、上記(1)または(2)記載の方法。
(4) ノカルディオフォーム型細菌に属する微生物がロドコッカス属に属する微生物である、上記(3)記載の方法。
(5) 含硫複素環式化合物の分解がこれらを含有する培地中で微生物を培養することによって行われる、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 微生物として休止菌体を作用させることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 含硫複素環式化合物がベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンおよびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) 含硫複素環式化合物がアルキル化ベンゾチオフェン類およびアルキル化ジベンゾチオフェン類からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物である、上記(7)記載の方法。
(9) 微生物がゴルドニア属TM414TPd株(FERM P−19013)である、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10) 含硫複素環式化合物分解能力を有するノカルディオフォーム型細菌に属する微生物にトランスポゾンを用いた変異導入を行うことによって得られる、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物分解能力を有する組換え微生物。
(11) ノカルディオフォーム型細菌に属する微生物がロドコッカス属に属する微生物である、上記(10)記載の組換え微生物。
(12) ゴルドニア属 TM414TPd株(FERM P−19013)。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物脱硫能を有する組換え微生物を作用させることにより、実質的に着色していない脱硫生成物を取得することを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法に関する。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
1. 組換え微生物の作製
本発明で用いられる組換え微生物は、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物脱硫能を有する微生物である。
【0017】
1.1 親株
本発明で用いられる組換え微生物の親株は、含硫複素環式化合物の脱硫能力を有する微生物である限り特に限定されない。そのような微生物としては、例えばロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) KA2−5−1(FERM P−16277; Kobayashi M. et al., FEMS Microbiol. Lett., 187, 123−126 (2000))、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)IGTS8 (ATCC53968) (Kilbane,J.J. Resources, Conservation and Recycling, 3, 69−70 (1990))、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. SY−1 (Ohmori, T. et al., Appl.Environ. Microbiol.,58,911−915, 1992)、ミコバクテリウム(Mycobacterium) sp. G3 (Nekodzuka, S. et al., Biocatalysis and Biotransformation, 15 17−27 (1997)), ゴルドナ(Gordona 現ゴルドニア(Gordonia))CYKS1(Rhee S−K et al., Appl.Environ. Microbiol.,64, 2327−2331 (1998))、ブレビバクテリウム(Brevibacterium) sp. DO (van Afferden, M. et al., Arch. Microbiol.,153, 324−328,1990)や、ロドッカス(Rhodococcus、旧アルスロバクター(Arthrobacter)) K3b(Dahlberg, M.D.(1992) Third International Symposium on the Biological Processing of Coal, May4−7, ClearwaterBeach,FL,pp.1−10.Electric Power Research Institute, PaloAlto, CA.)、ゴルドナ(Gordona、現ゴルドニア(Gordonia)) 213E (Gilbert.S.C. et al.,Microbiology.144 2545−2553 (1998))、ロドコッカス(Rhodococcus) T09 (Matsui T. et al., Biosci. Biotech. Biochem. 64(3),596−599 (2000))、ゴルドニア(Gordonia) T08 (Matsui T. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 57, 212−215 (2001))などを挙げることができる。
【0018】
本発明においては、前記親株の好適な例として、ノカルディオフォーム型細菌に分類される微生物 ゴルドニア属 TM414株を用いた組換え微生物、TM414TPd株の作製例を記載した。TM414株は代表的な脱硫遺伝子dszを有する脱硫菌であり、一般にバイオ脱硫に適しているといわれているノカルディオフォーム型細菌に属する菌株である。
【0019】
前述したように、ノカルディオフォーム型細菌には、石油のような疎水性有機溶媒中の含硫複素環式化合物を脱硫する特徴を有する微生物が多く、微生物脱硫法に頻繁に用いられている。しかしながら、ノカルディオフォーム型細菌はカロテノイド類を産生するため、その脱硫産物が着色されてしまうという問題を有している。
【0020】
ところで、ノカルディオフォーム型細菌とは、Bergey’s Manualが採用する細菌の分類体系における33のセクションのうちの1つで、ノカルディア属(Nocardia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、ゴルドニア(Gordonia)属、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属等が含まれる。この分類体系では、従来の階層的分類とは異なり、細菌をその特性−例えば、細胞形態、酵素に対する反応、グラム染色性、エネルギー代謝等により分類している。
【0021】
したがって、同一セクション内では同様の遺伝的改変による共通の効果が期待される。すなわち、他のノカルディオフォーム型細菌についても、TM414株と同様の変異を加えることにより、脱硫能力を維持した状態でカロテノイド生成遺伝子群のみを特異的に破壊することが可能と考えられる。
【0022】
1.2 カロテノイド生成遺伝子群の破壊
前記親株のカロテノイド生成遺伝子群の破壊は、当該遺伝子領域への変異(点変異)の導入によって行うことができる。
【0023】
標的とするカロテノイド生成遺伝子群、当該微生物においてカロテノイドの産生に関与する遺伝子であれば特に限定されず、例えば、Brevibacterium linens のフィトエンデサチュラーゼ(Krubasik P., Sandmann G., Mol. Gen. Genet. 263, 423−432 (2000))のように、カロテノイド合成においてフィトエンをリコペンに変換する酵素等を挙げることができる。
【0024】
変異の導入方法は、化学的変異導入法、紫外線照射による変異導入法、あるいはトランスポゾンや相同組み換え法による点変異導入法など、当該技術分野で公知の変異導入法を用いることができる。なかでも、標的遺伝子以外の遺伝子(特に、脱硫活性に関与する遺伝子群)に影響を与えることなく、カロテノイド生成遺伝子群にのみ特異的に変異を与えうるという点でトランスポゾンを用いた点変異法が望ましい。
【0025】
(1)トランスポゾンを用いた点変異導入
本発明の好ましい態様として、トランスポゾンを用いた点変異導入によるカロテノイド生成遺伝子群の破壊について説明する。
【0026】
トランスポゾンは転移性遺伝因子とも呼ばれ、宿主生物の染色体内において新たな位置へ移動する独特な能力(転移能力)を有している。そのため、染色体相同組換え法とは大きく異なり、該因子と標的部位との間に相同性のあるDNA領域を必要としない。またトランスポゾンはその構造上、DNAの両末端の塩基配列のみがトランスポゾンとしての基本機能、すなわち転移に必要であり、この両末端の塩基配列に挟まれた領域に種々の機能性因子、例えば抗生物質耐性遺伝子のようなマーカー遺伝子、制限酵素切断部位等の任意のDNA配列を組み込むことが出来る。しかも、他の遺伝子には影響を与えることなく標的遺伝子のみを特異的に改変することができる。
【0027】
トランスポゾンを用いた変異導入方法は、染色体への変異導入の強力なツールとして既に当技術分野では公知であり、例えばトランスポゾン複合体(商品名EZ::TNTM<KAN−2>Tnp Transposome TM、Epicentre Technology社)等の市販品を用いて容易に実施することができる。
【0028】
トランスポゾンには、組換え体の選抜をより容易にするために、適当なマーカー遺伝子をレポーター遺伝子とともに挿入することができる。該マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
トランスポゾンの導入は、公知の形質転換、形質導入、接合伝達(conjugal mating)または電気穿孔法等により行うことができる。
【0029】
(2)カロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え体の選抜
カロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え体は、上述のトランスポゾン上のマーカー遺伝子と、形成されるコロニーの色によって容易に選抜することができる。例えば、カナマイシン耐性遺伝子をマーカー遺伝子として含むトランスポゾンを用いた場合であれば、トランスポゾン処理後の菌体をカナマイシンを含む培地で培養し、形成されたコロニーのうち、白色のコロニーを選択する。選択したコロニーは、必要であればさらに培養して純化した後、ジベンゾチオフェン等の含硫複素環式化合物を含有する培地で培養することにより、親株の脱硫能力が維持されているか否かを確認することができる。
【0030】
1.3 組換え微生物:ゴルドニア属 TM414TPd株
上記の方法によって得られる本発明の組換え微生物の好適な例として、ゴルドニア属 TM414TPd株を挙げることができる。TM414TPd株は、ゴルドニア属 TM414株にトランスポゾン点変異を導入して得られた、カロテノイド非生成脱硫菌である。このTM414TPd株の菌学的性質は後述する実施例1の表1に記載したとおりである。
【0031】
なお、TM414TPd株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2002年9月13日付けで寄託され、受託番号FERM P−19013を得ている。
【0032】
なお、本発明においては、上記TM414TPd株には当該菌株と実質的に同等の菌学的性質を有する菌株をも含むものとする。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、TM414TPd株と同様にカロテノイドを生成することなしに含硫複素環式化合物の脱硫することできるが、TM414TPd株とは他の1つ以上の性質において異なっている、TM414TPd株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0033】
2. 組換え微生物を用いた高品質脱硫方法
本発明にかかる脱硫方法は、本発明の組換え微生物を含硫複素環式化合物を含む培養液中に添加し、該微生物を培養することにより実施することができる。具体的には、本発明の脱硫方法は以下のようにして行われる。
【0034】
2.1 組換え微生物の菌体生産(培養)
前項で作製された組換え微生物を、脱硫方法に供する菌体生産ために培養する。培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行われる。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。培地の栄養源としては通常用いられているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコール、スクロース、ラクトース、コハク酸、クエン酸、酢酸などが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物などの有機栄養物質が使用される。分解反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養するのが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用することができる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類などが必要に応じて用いられる。
【0035】
好適な培地としては、A培地(Izumi Y.,Ohshiro T.,Ogino H.,Hine Y.,ShimaoM., Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994))を挙げることができる。培養は、微生物が生育可能である温度、pHで行われ、使用する微生物の最適培養条件で行うのが好ましい。一般的には、培地のpHを適当なpH、例えばpH6〜8とし、また、適当な温度、例えば25〜37℃、好ましくは約30℃付近にて、振盪または通気条件下で好気的に行われる。
【0036】
2.2 含硫複素環式化合物
本発明の脱硫方法の対象となる含硫複素環式化合物は、特に限定されず、例えば、石油等の化石燃料油中に含まれる含硫複素環式化合物類を広く対象とすることができる。例えば、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン類やアルキル化ベンゾチオフェンやアルキル化ジベンゾチオフェン類を挙げることができる。該アルキル化ベンゾチオフェンとしては2−メチルジベンゾチオフェン、3−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、2−エチルチオフェン等が例示される。アルキル化ジベンゾチオフェンとしては、4−メチルジベンゾチオフェン、4−エチルジベンゾチオフェン、4−プロピルジベンゾチオフェン、4−ブチルジベンゾチオフェン、4−ペンチルジベンゾチオフェン、4−ヘキシルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチルベンゾチオフェン、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン、4,6−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェン、3−プロピル,4,8−ジメチルジベンゾチオフェン等が例示される。
【0037】
2.3 脱硫反応(含硫複素環式化合物の分解)
含硫複素環式化合物の分解は、含硫複素環式化合物を含有する培地中で前記組換え微生物を培養することにより実施することができる。
添加される含硫複素環式化合物類の培地中の濃度は、好ましくは5〜10,000ppmであり、より好ましくは 25〜200 ppmである。
【0038】
(1) 微生物の培養条件
微生物の培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行われる。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。
【0039】
培地の栄養源としては通常用いられているものを広く用いることができる。すなわち、炭素源としては、利用可能な炭素化合物であれば特に限定されず、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、コハク酸、クエン酸、酢酸などを使用することができる。窒素源としては、利用可能な窒素化合物であれば特に限定されず、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養物質を使用できる。含硫複素環式化合物類の分解反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養することが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用できる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類、などを必要に応じて用いてもよい。
【0040】
培養は、微生物が生育可能な温度、pHで行われ、使用する微生物の最適培養条件で行うことが好ましい。一般的には、例えば、pH6〜8、温度25〜37℃、好ましくは約30℃付近にて、振盪または通気条件下で好気的に培養される。
【0041】
(2) 休止菌体の調整
含硫複素環式化合物の分解反応に供される微生物はどのような状態のものであってもよいが、休止菌体を用いることが好ましい。休止菌体は、例えば、以下のようにして調製することができる。
【0042】
まず、新鮮な培地に対し適当量、例えば1〜2%容量の種菌を接種し、pH6〜8、温度25〜37℃、好ましくは約30℃付近で、1〜2日間往復あるいは回転振とう培養を行う。この際、種菌としては対数増殖期初期から定常期のいずれの状態の菌でも構わないが、対数増殖期後期のものが好適である。また、接種量は必要に応じて増減してもよい。
【0043】
培地としては、特に限定するものではないが、A培地(Izumi Y.,Ohshiro T.,Ogino H.,Hine Y.,Shimao M., Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994))を用いることが好適である。培養後、菌体を培地から分離集菌し、洗浄することにより休止菌体が得られる。ここで、集菌は、培養菌体が対数増殖期初期から定常期までのいずれの状態にある時に行ってもよいが、対数増殖期中期から後期の状態にある時に行うことが好ましい。また、集菌は、遠心分離の他、濾過、沈降分離等のいかなる方法で行ってもよい。菌体の洗浄には、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等の任意の緩衝液を使用することができ、また、水を用いて洗浄することもできる。
【0044】
(3) 休止菌体による分解反応
休止菌体による分解反応は、休止菌体を適当な緩衝液に懸濁して調製した菌懸濁液に、基質である含硫複素環式化合物類を添加して培養・増殖させることにより行う。
【0045】
前記緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等、種々の緩衝液を使用することができる。緩衝液のpHは特に限定されないが、pH6〜8が好適である。また、緩衝液の代わりに、水や培地等を使用することもできる。菌体懸濁液の濃度は、OD660が1〜100の間が好適であり、必要に応じて増減できる。基質である含硫複素環式化合物類の培地中の濃度は、好ましくは5〜10,000ppmであり、より好ましくは 25〜200ppmであるが、必要に応じて増減できる。反応温度は25〜37℃、好ましくは30℃付近が好適であるが、特に限定されない。また反応時間は、通常1〜500時間の間で、培地中の含硫複素環式化合物の量や用いる微生物の量によって適宜設定すればよいまた、基質を添加する前に反応温度と同じ温度に反応液を予備加熱してから行ってもよい。
【0046】
また、含硫複素環式化合物を溶解するために使用可能な有機溶媒としては、n−テトラデカンの他、C8 〜C20のn−パラフィンやケロシン、軽油、重油などが挙げられる。また、必要に応じて反応液上方の気相を酸素で置換封入してもよい。
【0047】
脱硫率の測定は、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー/質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析などを使用して行うことができる。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用してもよい。
【0048】
2.4 本発明の脱硫方法の利点
本発明の脱硫方法は、カロテノイド生成遺伝子群の破壊により、カロテノイドを生成することなく石油等の含硫複素環式化合物の脱硫を行うことができる。したがって、この方法で得られる石油は実質的に着色していない高品質の脱硫石油である。ここで実施的に着色していないとは、微生物によって産生されるカロテノイド等の着色物質を含まないことを意味する。本発明の脱硫方法は微生物を用いて行われるため、常温常圧下で温和に反応に進み、しかも無着色の脱硫石油が得られる高品質な脱硫法として利用価値が高い。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
〔実施例1〕 TM414株への点変異導入によるTM414TPd株の取得
1.変異の導入
LB培地100mlに一白金耳量のゴルドニア属TM414株を植菌し、30℃で48時間培養した。得られた培養液の660nmにおける吸光度(OD660)を測定したところ、1.0であった。この培養後を7000rpm 10分の条件で遠心分離して上清を除去した後、得られた菌体を10%グリセロール水溶液で1回洗浄後、OD40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁調整した。
【0050】
この懸濁液80μlにトランスポゾン複合体(商品名EZ::TNTM<KAN−2>Tnp Transposome TM、Epicentre Technology社)1μlを添加し、ジーンパルサーII(Biorad社製)を用いて25μF、400Ω、20kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地0.42mlを添加し、30℃、3時間培養を行った。得られた培養液は、カナマイシン硫酸塩100mg/lおよび寒天末15 g/lを含むLB培地(LBAK培地)に塗末し、30℃、48時間培養した。LBAK培地においてコロニーを形成した菌のうち、白色のコロニーを再度新鮮なLBAK培地に画線することによって菌体を純化し、これをTM414TPd株と命名した。
【0051】
2.TM414TPd株の菌学的性質
このTM414TPd株は、表1に示すような菌学的性質を有していた。
【表1】
このTM414TPd株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2002年9月13日付けで寄託され、受託番号FERM P−19013を得ている。
【0052】
〔実施例2〕 TM414TPd株の遺伝子解析
1.試験方法
TM414TPd株をカナマイシン50 mg/lを含むLB培地10mlに一白金耳量植菌し、30℃で48時間培養した。培養後の液を15,000rpm 5分の条件で遠心分離して上清を除去した後、得られた菌体からISOPLANT(ニッポンジーン社)を用いて10 mM Tris−塩酸−1 mM EDTA緩衝液(pH8.0)に溶解したゲノムDNAを調整した。得られたゲノムDNA溶液5 μlを制限酵素Eco RIを用いて消化し、消化液5 μlにBAP処理pUC118(ニッポンジーン社)1 μl、ライゲーションキットver.2 (タカラバイオ社)6 μlを添加し、16℃、2時間反応させた。この反応液を用いて、E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社)を添付の説明書に従って形質転換した。
【0053】
得られた形質転換体よりカナマイシン耐性株を選抜し、310型genetic analyzer (パーキンエルマー社)を用いて、ゲノム内に挿入されたトランスポゾン由来のカナマイシン耐性遺伝子上流および下流の塩基配列それぞれ約500bpを決定した。この塩基配列分析結果から、さらにユニバーサルコードに従ってアミノ酸配列を推定し、アライメント解析ツールBLASTを用いてタンパク質解析データベースPIRに登録された既知のタンパク質アミノ酸配列との相同性を解析した。
【0054】
2.解析結果
その結果、カナマイシン耐性遺伝子上流(498塩基、164アミノ酸;配列番号1)、および下流(387塩基、135アミノ酸;配列番号2)はBrevibacterium linens のフィトエンデサチュラーゼ(Krubasik P., Sandmann G., Mol. Gen. Genet.263, 423−432 (2000))のアミノ酸配列とそれぞれ52.7%、53.2%の相同性を示した。この酵素は、カロテノイド合成においてフィトエンをリコペンに変換する酵素である。すなわち、TMTP414TPd株は、赤いコロニーを形成する親株TMTP414株のカロテノイド合成系酵素合成が破壊されたことにより、カロテノイドを生成できず、白いコロニーを形成するようになったことが強く示唆された。
【0055】
〔実施例3〕 TM414TPd株による4.6−ジメチルジベンゾチオフェンの分解
1.試験方法
4.6−ジメチルジベンゾチオフェン(4,6−DMDBT)約50 mg/lを溶解したn−テトラデカン2mlをA培地(Izumi Yら、Applied and Environmental Microbiology, 223−226 (1994)) 2mlに添加後、1白菌耳量のTM414TPd株を植菌し、30℃、150 rpmで72時間培養した。この培養液に6規定塩酸水溶液0.1mlおよび酢酸エチル2 mlを添加し、攪拌抽出を行い、得られた酢酸エチル抽出液をガスクロマトグラフィーにより定量した。ガスクロマトグラフィー分析は、GC−14A(島津製作所社製)にカラムDB−5(0.25mm×0.25μm×30m ;J&Wサイエンティフィック社製)を装着し、水素炎イオン化検出器(FID)にてカラム温度250℃で分析した。対照として、TM414TPd株の代わりにTM414株を植菌して同様に培養を行った。さらに、4,6−DMDBTの非生物学的な分解を確認するために微生物を植菌せずに同様の操作も行った。
【0056】
さらに培養中にn−テトラデカン相に移行したカロテノイド量をn−テトラデカン相の450nmにおける吸光度により測定した。さらに、培養液を15,000rpm、5分間遠心分離して得られるn−テトラデカン相の吸光度をDU640型吸光度計(ベックマン社製)を用いて200−800nmの範囲で測定した。
【0057】
2.結果
(1)ガスクロマトグラフィー分析
それぞれの結果を表2に示す。TM414およびTM414TPdを植菌、培養した場合のみ保持時間4分に生成物ピークが認められ、GC/MSのスペクトルパターンからジメチルヒドロキシビフェニルと同定された。この結果から、TM414TPdはTM414とほぼ同等に4,6−DMDBTを分解し、脱硫化合物DMHBPを生成しており、実施例1の変異導入によってその脱硫能力の低下はないことが確認された。
【0058】
【表2】
【0059】
(2)吸光度測定(n−テトラデカン相に移行したカロテノイド量の測定)
TM414TPdでは450nmにおける吸収は検出されなかった。また、培養液を15,000rpm、5分間遠心分離して得られるn−テトラデカン相の200−800nmにおける吸光度測定の結果、TM414TPd株では、カロテノイドに特徴的な450nmの吸光度のみが消失していることが確認された(図1)。
【0060】
以上より、TM414TPd株は、油水二相系での脱硫能を保持しつつ、カロテノイド生成能を欠失させることにより油相の着色を抑制することができる変異型脱硫微生物であることが確認された。
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば、疎水性有機溶媒中の含硫複素環式化合物を微生物を利用することにより穏和な条件で、着色することなく脱硫することができる。この方法は、着色のない脱硫石油を得るための高品質な脱硫法として利用価値が高い。
【0062】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、TM414株(A)およびTM414TPd株(B)による4,6−ジメチルジベンゾチオフェン分解後の培養液のn−テトラデカン相の、200−800nmにおける吸光度測定結果を示すグラフである。
Claims (12)
- カロテノイド生成遺伝子群を破壊された、含硫複素環式化合物分解能力を有する組換え微生物を作用させることにより、実質的に着色のない脱硫石油を取得することを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
- 微生物がトランスポゾンを用いた変異導入によってカロテノイド生成遺伝子群を破壊された組換え微生物である、請求項1記載の方法。
- 組換え微生物がノカルディオフォーム型細菌に属する微生物である、請求項1または2記載の方法。
- ノカルディオフォーム型細菌に属する微生物がロドコッカス属に属する微生物である、請求項3記載の方法。
- 含硫複素環式化合物の分解がこれらを含有する培地中で微生物を培養することによって行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 微生物として休止菌体を作用させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 含硫複素環式化合物がベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンおよびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 含硫複素環式化合物がアルキル化ベンゾチオフェン類およびアルキル化ジベンゾチオフェン類からなる群より選ばれる少なくとも1以上の化合物である、請求項7記載の方法。
- 微生物がゴルドニア属TM414TPd株(FERM P−19013)である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- 含硫複素環式化合物分解能力を有するノカルディオフォーム型細菌に属する微生物にトランスポゾンを用いた変異導入を行うことによって得られる、カロテノイド生成遺伝子群を破壊された含硫複素環式化合物分解能力を有する組換え微生物。
- ノカルディオフォーム型細菌に属する微生物がロドコッカス属に属する微生物である、請求項10記載の組換え微生物。
- ゴルドニア属 TM414TPd株(FERM P−19013)。
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