JP2004242511A - 組換え微生物を利用した脱硫法 - Google Patents
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Abstract
【課題】微生物による含硫複素環式硫黄化合物の脱硫反応において、最終生成物による阻害作用や、含硫複素環式硫黄化合物の菌体膜透過における障害を解消し、脱硫率の向上を可能にすること。
【解決手段】硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター、およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を、宿主微生物に機能しうる態様で導入した組換え微生物を2種類以上用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
【選択図】 なし
【解決手段】硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター、およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を、宿主微生物に機能しうる態様で導入した組換え微生物を2種類以上用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微生物を利用した含硫複素環式化合物の脱硫方法に関する。より詳しくは、複数の組換え微生物を用いることにより、脱硫率を向上させることを可能とした新規脱硫方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油等の化石燃料油中には多種類の硫黄化合物が含有されているが、硫黄は大気中に放出されると環境に重大な影響を与えるため、これらの脱硫が求められている。世界の種々の原油中に含まれる硫黄の濃度はそれぞれ異なるが、平均して1.13%程度であり、代表的な含有硫黄化合物はメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類である。原油を蒸留分別した各留分中では、重い留分ほどベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン等のチオフェン類の比率が高い。
【0003】
石油の脱硫方法としては、アルカリ洗浄、溶剤洗浄、吸着などの方法も知られているが、現在では水素化脱硫が主流である。水素化脱硫は、石油留分中の硫黄化合物を高温・高圧、金属触媒の存在下で水素と反応させ、硫黄を硫化水素として除去する、完成度の高い脱硫プロセスである。金属触媒としては、通常アルミナを担体としたコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンなどが使用される。
【0004】
しかし、水素化脱硫法は化石燃料全体の硫黄濃度を低下させることはできても、難脱硫性の含硫複素環式化合物を十分に脱硫することができない。最近は、こうした難脱硫性化合物を効果的に除去し、軽油中の硫黄分を1ppm以下に削減する超深度脱硫の研究が進められ、そのための触媒の改良や反応温度・圧力の向上が試みられている。
【0005】
これに対し、微生物による酵素反応を利用して比較的穏和な条件下で脱硫を行う方法としてバイオ脱硫法がある(例えば、非特許文献1参照)。バイオ脱硫法では、酵素の高い基質特異性により、水素化脱硫では脱硫できなかった硫黄も比較的穏和な条件で除去することが可能である。例えば、シュウドモナス(Pseudomonas) CB1(例えば、非特許文献2参照)、ロドコッカスロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)IGTS8 (ATCC53968) (例えば、非特許文献3参照)、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodokoccus erytythropolis)KA2−5−1株(FERM P−16277)(例えば、非特許文献4参照)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. SY−1 (例えば、非特許文献5参照)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium) sp. DO (例えば、非特許文献6参照)や、アルスロバクター(Arthrobacter) K3b(例えば、非特許文献7参照)を用いた脱硫方法がこれまで報告されている。微生物脱硫法では、水素化脱硫法のように高い温度や圧力を必要とすることなく、ベンゾチオフェン類等を脱硫できる利点がある。
【0006】
ところで、化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物の90%以上はジベンゾチオフェン類であり、その他の微量硫黄化合物は、ベンゾチオフェン類(benzothiophene)、ベンゾテトラナフチールチオフェン類(benzotetranapthylthiophene)、ベンゾナフチルチオフェン類 (benzonaphthylthiophene)である。これらは、C−C結合を切断するような方法で脱硫しようとすると、化石燃料中にある他の芳香族炭化水素の分解によるエネルギー含有量の低下をまねくため、一般にC−S結合を特異的に切断する微生物を用いて脱硫されている。
【0007】
しかしながら、従来の脱硫微生物では、脱硫に関連した脱硫酵素遺伝子が培養液中の無機硫黄化合物や含硫アミノ酸によって発現抑制を受けることが報告されている(例えば、非特許文献8参照)。これは、主に脱硫酵素遺伝子の発現を制御しているプロモーターが誘導型であることによる。すなわち、脱硫反応によって生成した硫黄が硫酸イオンとして培養液中に溶出し、培養液中の硫黄濃度が高くなるにつれて、脱硫遺伝子の発現が抑制され、脱硫効率が低下する。
【0008】
さらに、軽油などの化石燃料中の含硫複素環式硫黄化合物は油相中に存在しているため、含硫複素環式硫黄化合物を微生物によって脱硫するためには、含硫複素環式硫黄化合物を微生物の細胞内へ取り込むことが必要である。しかしながら、微生物には菌体膜が存在するため、軽油などの化石燃料中の含硫複素環式硫黄化合物を脱硫するためには菌体膜を透過することが必要である。特にグラム陰性に属する微生物は菌体膜が細胞壁のみのグラム陽性に属する微生物に比較して、外膜と内膜の二膜を有しているため、グラム陽性に属する微生物より脱硫率が上がらないという現象が見られた。グラム陽性に属する微生物においても、高度にアルキル化された含硫複素環式硫黄化合物や含硫複素環式硫黄化合物の種類によって、菌体膜透過できないか、または透過性が低いため、含硫複素環式硫黄化合物の種類はアルキル化度によって、脱硫率が向上しないという問題があった。
【0009】
【非特許文献1】
Monticello,D.J.,Hydrocarbon Processing, (1994), p39−45
【非特許文献2】
Isbister, J.D. and Kobylinski,E.A.:Microbial desulfurization of coal, in Coal Science andTechnology, (1985), Ser.9, p627
【非特許文献3】
Kilbane,J.J. Resources, Conservationand Recycling, (1990), 3, p69−70
【非特許文献4】
Kobayashi,M. Horiuchi,K., Yoshikawa,O., Hirasawa,K., Ishii,Y., Fujino,K., Sugiyama,H. and Maruhashi,K., Biosci. Biotechnol.Biochem., (2001), 65(2), p289−304,
【非特許文献5】
Ohmori, T., Monna,L.,Saiki, Y. and Kodama,T. Appl.Environ. Microbiol., (1992), 58, p911−915,
【非特許文献6】
van Afferden, M.,Schacht, S., Klein, J.andTruper,H.G.,Arch. Microbiol., (1990), 153, p324−328
【非特許文献7】
Dahlberg, M.D.(1992) Third International Symposium on the Biological Processing of Coal, May4−7, ClearwaterBeach,FL,pp.1−10.Electric Power Research Institute, PaloAlto, CA.
【非特許文献8】
Mamie Z.L., Szuires C.H., Monticello D.J., and Chils J.D., J. Bacteriol., (1996), 178, p6409−6418
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、微生物による含硫複素環式硫黄化合物の脱硫反応において、最終生成物による阻害作用や含硫複素環式硫黄化合物の菌体膜透過における障害を解消し、脱硫率の向上を可能にすることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ロドコッカス(Rhodokoccus)属に属する微生物とマイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属する微生物に、硫黄による抑制を受けることなく、恒常的かつ高発現に機能するkap1プロモーターと、これに機能しうる態様で連結させた脱硫遺伝子を導入して組換え微生物を作製した。そして、この2種類の組換え微生物を、順次または同時に用いることにより、菌体膜透過性が低く脱硫困難な種々の含硫複素環式硫黄化合物を効果的に脱硫できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(11)を提供する。
(1) 硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター、およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を、宿主微生物に機能しうる態様で導入した組換え微生物を2種類以上用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
(2) プロモーターが、kap1プロモーター(配列番号1)である、上記(1)記載の方法。
(3) 脱硫遺伝子が、ロドコッカス属IGTS8株由来の脱硫遺伝子、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属AD109株由来の分解遺伝子、ペニバチルス属A11−1株(FERM BP−6025)由来の脱硫遺伝子、および同A11−2株(FERM BP−26)由来の脱硫遺伝子からなる群より選ばれるいずれか1の脱硫遺伝子である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4) 脱硫遺伝子が、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dsz ABCD(配列番号6)である、上記(3)に記載の方法。
(5) 宿主微生物の少なくとも1種が、マイコバクテリウム属に属する微生物である、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 宿主微生物の少なくとも1種が、ロドコッカス属に属する微生物である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 宿主微生物が、マイコバクテリウム属に属する微生物、およびロドコッカス属に属する微生物の2種類の微生物である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) マイコバクテリウム属に属する微生物が、マイコバクテリウム属 NCIMB10403株またはそれと実質的に同等の菌学的性質を有する細菌である、上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9) ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス属MC1109株(FERM P−18594)またはそれと実質的に同等の菌学的性質を有する細菌である、上記(6)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10) マイコバクテリウム属MR34株(FERM−P−19205)、およびロドコッカス属MC0203株(FERM P−18595)の2種類の組換え微生物を用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
(11) マイコバクテリウム属MR34株(FERM−P−19205)。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、2種類の微生物、特にロドコッカス属およびマイコバクテリウム属に属する微生物に、硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーターおよびC−S結合を選択的に切断する脱硫遺伝子を機能しうる態様で導入した組換え微生物を、順次または同時に用いることにより、化石燃料油である軽油などの含硫複素環式化合物を脱硫する方法を提供する。
【0015】
1.宿主微生物
本発明で用いられる組換え微生物の宿主となる微生物は、KAP1プロモーターが機能しうる微生物であれば、特に限定されない。例えば、ロドコッカス属等のノカルディオフォーム型細菌に分類される微生物、マイコバクテリウム属、ゴルドニア属に属する微生物を用いることができる。なお、ノカルディオフォーム型細菌とは、Bergey’s Manualが採用する細菌の分類体系における33のセクションのうちの1つで、ノカルディア属(Nocardia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)等が含まれる。この分類体系では、従来の階層的分類とは異なり、細菌をその特性−例えば、細胞形態、酵素に対する反応、グラム染色性、エネルギー代謝等により分類している。したがって、同一セクション内では共通のプロモーターが機能しうることが期待される。
【0016】
本発明においては、2種類の異なる宿主微生物が用いられる。これらの微生物は、化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物の菌体膜透過性が異なることが好ましい。特に、菌体膜透過にかかわる特性について、補完性がある2つの微生物であることが望ましい。例えば、一方の微生物が高アルキル化した含硫複素環式化合物に対して特に高い菌体膜透過性を有する微生物であれば、他方の微生物は、低アルキル化した含硫複素環式化合物に対して特に高い菌体膜透過性を有する微生物であることが望ましい。そのような2種類の宿主微生物としては、例えばマイコバクテリウム属に属する微生物とロドコッカス属に属する微生物を挙げることができる。
【0017】
前記マイコバクテリウム属に属する微生物としては、マイコバクテリウム属 NCIMB10403株およびこれと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株を挙げることができる。マイコバクテリウム属 NCIMB10403株は、特に高アルキル化した含硫複素環式化合物に対して、高い菌体膜透過性を有する。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、NCIMB10403株を起源とし、該菌株と同様の菌体膜透過性能力を有しているが、その起源である菌株とは他の1つ以上の性質において異なっている菌株を意味し、例えば、NCIMB10403株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0018】
前記NCIMB10403株は、NCIMB(National Collections of Industrial, Food and Marine Bacteria; http://www.suruga−g.co.jp/jp/ncimb/index.html)より入手できる。表1に、NCIMB10403株に関する情報を記載する。
【0019】
【表1】
【0020】
また、前記ロドコッカス属に属する微生物としては、ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株(FERM P−16277:特開平11−9293参照)やロドコッカス・エリスロポリスMC0203株(FERM P−18595)、およびこれらと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株を挙げることができる。ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株やMC0203株は、特に低アルキル化した含硫複素環式化合物に対して、高い菌体膜透過性を有する。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、KA2−5−1株やMC0203株を起源とし、該菌株と同様の菌体膜透過性能力を有しているが、その起源である菌株とは他の1つ以上の性質において異なっている菌株を意味し、例えば、KA2−5−1株やMC0203株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0021】
2.プロモーター
本発明で用いられるプロモーターは、硫酸イオンによる抑制を受けることなく、恒常的に発現するプロモーターであれば、特に限定されない。そのようなプロモーターとしては、例えば、kap1プロモーターを挙げることができる。
【0022】
kap1プロモーターは、本発明らが、脱硫細菌 ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) KA2−5−1株(FERM P−16277)から単離したプロモーター(特願2001−348384号)で、ロドコッカス属、マイコバクテリウム属、ゴルドニア属等の微生物において、硫酸イオンの影響を受けることなく、恒常的かつ高活性で発現する。したがって、このプロモーター下流に連結された脱硫遺伝子は恒常的に発現し、連続的脱硫反応を可能にする。
【0023】
kap1プロモーターの塩基配列を配列番号1に示すが、この配列に限定されず、配列番号1に示されるDNAと相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも、kap1と同等のプロモーター活性を有する限り、kap1プロモーターに含まれる。なお、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、65℃、0.5×SSC、より好ましくは、55℃、0.1×SSCのような条件をいう。
【0024】
3.脱硫遺伝子
本発明で用いられる脱硫遺伝子は、含硫複素環式化合物のC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする遺伝子であれば、特に限定されない。そのような酵素は、アルキル化ジベンゾチオフェン類を脱硫して、相当するヒドロキシビフェニール体を生成することができる。
【0025】
前記遺伝子としては、例えば、ロドコッカス属IGTS8株由来の脱硫遺伝子(C.S.Piddinton, B.R.Kovacevich and L.Rambosek, Appl. Environ. Microbiol. 61,468−475(1995))、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子(K.Hirasawa, Y.Ishii, M.Kobayashi, K.Koizumi and K. Maruhashi, Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2), 239−246,2001)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属AD109株由来の分解遺伝子(WO 98/45446)、ペニバチルス(Paenibacillus)属A11−1l株およびA11−2株由来の脱硫遺伝子(FERM BP−6025, FERM BP−26)を挙げることができる。
【0026】
特に望ましくは、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dsz ABCD(K.Hirasawa, Y.Ishii, M.Kobayashi, K.Koizumi and K. Maruhashi, Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2), 239−246,2001;配列番号6)が用いられる。このDszABCDは難脱硫性のアルキル化ベンゾチオフェンを2−ヒドロキシベンゾチオフェン(2−HBP)に分解することができる。
【0027】
4.組換え微生物の構築
4.1 発現ベクターの作製
本発明で用いられる組換え微生物は、前述の宿主微生物に、硫酸イオンによる抑制を受けることなく、恒常的に発現するプロモーター(例えば、kap1プロモーター)およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を機能しうる態様で導入することにより、作製される。
【0028】
微生物への上記遺伝子の挿入は、該プロモーターおよび脱硫酵素遺伝子を含む発現ベクターを用いて行うことができる。用いられるベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド、ファージ、ウィルス、YAC等を使用することができるが、特にトランスポゾンまたはトランスポソームを用いることが好ましい。
【0029】
該発現ベクターは、プロモーターと脱硫遺伝子、あるいはさらに適当なターミネーター配列を、機能しうる態様で含む。ここで、「機能しうる態様」とは、脱硫遺伝子がプロモーターの支配下で適切に発現しうる態様をいう。したがって、脱硫遺伝子はプロモーターの下流に位置することになる。
【0030】
前記発現ベクターには、上述の必須の配列のほか、その目的と効果を損なわない範囲で、他の遺伝子や配列を含むことができる。該遺伝子や配列としては、例えばプラスミドベクターの複製に関与する遺伝子や組換え体の選抜に使用するマーカー遺伝子、相同性組換えベクターにおける置換用の塩基配列およびトランスポゾンベクターの反復DNA配列等が挙げられる。
【0031】
本発明の好ましい態様として、トランスポゾンを用いた発現ベクターを以下のようにして作製することができる。トランスポゾンを用いた方法は、染色体へのDNA挿入の強力なツールとして既に当技術分野では公知であり、例えばpMOD1(エア・ブラウン社)等を用いた方法等が知られている。
【0032】
トランスポゾンは転移性遺伝因子とも呼ばれ、宿主生物の染色体内において新たな位置へ移動する独特な能力(転移能力)を有している。そのため、染色体相同組換え法とは大きく異なり、該因子と標的部位との間に相同性のあるDNA領域を必要としない。またトランスポゾンはその構造上、DNAの両末端の塩基配列のみがトランスポゾンとしての基本機能、すなわち転移に必要であり、この両末端の塩基配列に挟まれた領域に種々の機能性因子、例えば抗生物質耐性遺伝子のようなマーカー遺伝子、制限酵素切断部位等の任意のDNA配列を組み込むことが出来る。
【0033】
トランスポゾンには、選抜をより容易にするために、適当なマーカー遺伝子をレポーター遺伝子とともに挿入することが好ましい。該マーカー遺伝子としては、例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0034】
トランスポゾンの染色体への挿入は、公知の形質転換、形質導入、接合伝達(conjugal mating)または電気穿孔法等により行うことができる。トランスポゾンの挿入組換え体は、例えば上述のトランスポゾン上のマーカー遺伝子により選抜することができる。
【0035】
本発明では、pMOD1のように大腸菌内で複製可能なプラスミドに内包されたトランスポゾン内に、硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター(例えば、配列番号1で示される塩基配列からなるkap1プロモーター)、その下流に脱硫遺伝子(例えば、dszABCD遺伝子)および抗生物質耐性因子等の組換え体選抜のためのマーカー遺伝子を組み込む。次に、適当な制限酵素でトランスポゾン部分を切断し、アガロースゲル電気泳動等により単離する。単離したトランスポゾンDNA断片をトランスポゼースと反応させることにより、宿主内で脱硫酵素遺伝子を発現させる発現ベクターとして使用可能なトランスポソームが調製できる。
【0036】
4.2 微生物の形質転換
微生物の形質転換は、例えば前記発現ベクターを公知の方法によって宿主微生物に導入することによって達成される。導入法は特に限定されず、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等、利用可能な任意の方法を用いればよい。前述のトランスポゾンであれば、公知の形質転換、形質導入、接合伝達(conjugal mating)または電気穿孔法等により行うことができる。
【0037】
4.3 組換え微生物:マイコバクテリウム属 MR34株、およびロドコッカス・エリスロポリス MC0203株
上記の方法によって得られる組換え微生物の好ましい例として、マイコバクテリウム属MR34株、およびロドコッカス属ではMC0203株を挙げることができる。
【0038】
MR34株はマイコバクテリウム属NCIMB10403株に、kap1プロモーターとロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dszABCD(K.Hirasawa, Y.Ishii, M.Kobayashi, K.Koizumi and K. Maruhashi, Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2), 239−246,2001)、および組換え体の選抜のための生理的マーカーであるゲンタマイシン耐性因子を、前述したトランスポソームを用いて組み込んだ、組換え微生物である。このMR34株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2003年2月7日付けでFERM P−19205として寄託されている。
【0039】
水素化脱硫後の化石燃料中に多く含有している4,6位にアルキル側鎖を有するジベンゾチオフェン類から生成するヒドロキシ体はメチル化されやすく、難脱硫性の高アルキル化含硫複素環式化合物となる。MR34株は、これまで微生物では特に難脱硫といわれている4,6−ジプロピルジベンゾチオフェンや10−メチルベンゾナフトチオフェンでさえも、容易に脱硫することができる。
【0040】
一方、MC0203株はロドコッカス・エリスロポリスMC1109株(FERM P−18594)に、kap1プロモーターとロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dszABCD、および組換え体の選抜のための生理的マーカーであるゲンタマイシン耐性因子を、前述したトランスポソームを用いて組み込んだ、組換え微生物である。このロドコッカス・エリスロポリスMC0203株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2001年11月12日付けで FERM P−18595として寄託されている。MC0203は、特有の膜組成をもち、難脱硫性のアルキルジベンゾチオフェン類を容易に脱硫することができる(特願2001−348385号参照)。
【0041】
以上のようにMR34株は、特に高アルキル化含硫複素環式化合物の菌体膜透過性が高く、MC0203株は化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物に存在する低アルキル化化含硫複素環式化合物の菌体膜透過性が高く、いずれも難脱硫性といわれている含硫複素環式化合物のアルキル化体を効率よく脱硫することができる。
【0042】
5. 組換え微生物を用いた脱硫方法
本発明にかかる脱硫方法は、少なくとも2種類の前記組換え微生物を含硫複素環式化合物を含む培養液中に添加し、該微生物の生育条件下で連続的に実施することができる。具体的には、本発明の脱硫方法は以下のようにして行われる。
【0043】
5.1 菌体の培養(菌体生産)
まず前記組換え微生物を、脱硫方法に供する菌体生産ために培養する。培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行えばよい。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。培地の栄養源としては通常用いられているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、コハク酸、クエン酸、酢酸等が使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物等の有機栄養物質が使用される。硫黄源としては利用可能な無機硫黄化合物であればよく、たとえば硫酸塩等が使用される。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類等が必要に応じて用いられる。
【0044】
好適な培地としては、天然栄養培地:例えばLB培地や2YT培地、あるいは無機塩類を主体とする合成培地:例えば、特開平11−181446号「脱硫活性微生物の製造方法」に記載の組成である基本培地等を用いることができる。特にロドコッカス属に属する微生物およびマイコバクテリウム属に属する微生物は、それぞれ後述のNKII(表2)、NKIII培地(表3)を用いることが好ましい。培養は、微生物が生育可能である温度、pHなど、使用する微生物にとって最適な培養条件で行う。一般的には、まず新鮮な培地に種菌を適当量、例えば1〜2容量%接種する。培地としては、前項で記載した培地を用いることができるが、種菌としては、対数増殖期初期から定常期までのいずれかの状態の菌を用いればよく、好ましくは対数増殖期後期のものを用いる。種菌の量は必要に応じて増減することができる。その後、pH6〜9、約30にて1〜2日間往復または回転振盪培養する。
【0045】
5.2 含硫複素環式化合物
本発明において脱硫対象となる含硫複素環式化合物は、特に限定されず、例えば、石油等の化石燃料油中に含まれる含硫複素環式化合物類を広く対象とすることができる。特にkap1プロモーターの挿入により、本発明の組換え微生物は外部環境にかかわらず脱硫酵素遺伝子を高いレベルで発現させる。
【0046】
したがって、挿入する脱硫酵素を選ぶことで、難脱硫性のベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ベンゾテトラヒドロナフトチオフェン、およびベンゾナフトチオフェン類、ならびにアルキル化ベンゾチオフェン類、アルキル化ジベンゾチオフェン類、アルキル化ベンゾテトラヒドロナフトチオフェン類、およびベンゾナフトチオフェン類等を好適に脱硫することができる。かかるアルキル化ベンゾチオフェンとしては2−メチルジベンゾチオフェン、3−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、2−エチルチオフェン等が例示される。アルキル化ジベンゾチオフェンとしては、4−メチルジベンゾチオフェン、4−エチルジベンゾチオフェン、4−プロピルジベンゾチオフェン、4−ブチルジベンゾチオフェン、4−ペンチルジベンゾチオフェン、4−ヘキシルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチルベンゾチオフェン、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン、4,6−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェン、3−プロピル,4,8−ジメチルジベンゾチオフェン等が例示される。またアルキル化べンゾナフトチオフェンとしては、10−メチルベンゾナフトチオフェンが例示される。
【0047】
これらの含硫複素環式化合物を溶解するために使用可能な有機溶媒としては、n−テトラデカンの他、C8〜C20のn−パラフィンやケロシン、軽油、重油などが挙げられる。また、必要に応じて反応液上方の気相を酸素で置換封入してもよい。
【0048】
5.3 脱硫反応
含硫複素環式化合物の分解は、例えば、上記組み換え微生物を上記培地中で培養した後、得られた培養物から遠心分離などの集菌操作によって得られた休止菌体を含硫複素環式化合物と接触させて行うことによって行う。このような休止菌体による脱硫は、例えば以下のようにして行われる。
【0049】
まず、休止菌体を調製する。新鮮な培地に種菌を適当量、例えば1〜2容量%接種する。培地としては、上記の培地を用いることができる。種菌としては、対数増殖期初期から定常期までのいずれかの状態の菌を用いればよく、好ましくは対数増殖期後期のものを用いる。種菌の量は必要に応じて増減することができる。その後、pH6〜9、約30℃にて1〜2日間往復又は回転振盪培養する。
【0050】
次いで、菌体を分離集菌し、洗浄することにより休止菌体が得られる。集菌は、培養菌体が対数増殖期初期から定常期までのいずれの状態にある時に行ってもよいが、対数増殖期中期から後期の状態にある時に行うのが好ましい。また、集菌は、遠心分離の他、濾過、沈降分離等のいかなる方法で行ってもよい。菌体の洗浄には、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等のいかなる緩衝液を使用してもよく、また、水を用いて菌体を洗浄することもできる。あるいはまた、菌体の洗浄を省くこともできる。
【0051】
休止菌体による脱硫は、休止菌体を適当な緩衝液に懸濁して調製した菌懸濁液に軽油または基質である含硫複素環式化合物を油相に添加して反応させることにより行う。緩衝液としては種々の緩衝液を使用できる。緩衝液のpHは特に限定されないが、pH6〜7が好適である。また、緩衝液の代わりに、水や培地等を使用することもできる。菌体懸濁液の濃度は、OD660 が1〜100の間が好適であり、必要に応じて増減できる。菌懸濁液量に対する油量の油水比は0.01〜100の間で行うことが可能であり、必要に応じて使用することができる。好ましくは1〜10の油水比が用いられる。反応温度は30〜42℃で行うことができるが、その他の適当な温度でもよく、好ましくは35〜40℃が好適である。反応時間は1〜2時間が好適であるが、必要に応じて増減できる
なお、2種類またはそれ以上の反応用菌体は脱硫対象である軽油等の含硫複素環式化合物に同時に加えてもよいし、順次加えてもよい。ここで、順次加えるとは、1つの反応用菌体を加えて脱硫反応を行った後、油層のみを分離し、次いで別な反応用菌体を加えて脱硫反応をさせること、あるいはこの工程を繰り返すことを意味する。
【0052】
脱硫率の測定は、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー/質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析などを使用して行うことができる。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用してもよい。
【0053】
5.4 本発明の脱硫方法の利点
本発明の脱硫方法は、導入したプロモーターと脱硫酵素遺伝子により、脱硫遺伝子が恒常的に発現し、反応生成物である硫酸イオンによるフィードバック阻害を受けることなく、かつ宿主菌の菌体膜における化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物に対する菌体膜透過性に対する基質特異性があり、単一の属に属する微生物を用いた場合に比較して、高い脱硫率で脱硫させることが可能になる。
【0054】
また、微生物を用いた含硫複素環式化合物に対する脱硫方法において、含硫複素環式化合物が菌体膜透過性が低いかまたはないために脱硫率および脱硫速度を低下させており、異なった属に属する微生物、特にマイコバクテリウム属およびロドコッカス属に属する微生物を用いることにより、菌体膜透過性における障害を解消し、高い脱硫率を可能にすることができる。
【0055】
さらに、そのような組換え微生物のうち、特に含硫複素環式化合物の菌体膜透過性にかかわる特性がそれぞれ異なる、すなわち脱硫特性が異なる2種類またはそれ以上の組換え微生物を選んで、順次または同時に用いることにより、単独での脱硫効果からは予測できないほど高い脱硫率が達成できる。
【0056】
以上のとおり、本発明の脱硫方法は、外部環境に関わらず脱硫酵素を高活性に発現させ、含硫複素環式化合物に対する菌体膜透過性に対する障害を解消する。さらに、該方法は化石燃料中に含有される難脱硫性の含硫複素環式化合物をも高効率で脱硫しうる。すなわち、本発明の脱硫方法は、化石燃料中に含有される含硫複素環式化合物の工業的レベルでの脱硫方法として利用価値が高い。
【0057】
【実施例】
以下、本発明を参考例および実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0058】
〔参考例1〕プロモーター検索用トランスポゾンの作製
ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株よりプロモーター配列を検索するためのトランスポゾンを以下のようにして作製した。
(1) トランスポゾンDNA断片の作製
トランスポゾンを含むプラスミドであるpMOD1(エア・ブラウン社)からトランスポゾンDNA断片を調製した。まずpMOD1をテンプレートとして、以下のプライマーによりPCR反応を行った。プライマーは、pMOD1に含まれるトランスポゾン中の制限酵素切断部位 PvuIIをStuIに置換し、かつ3’側にHpaIの制限酵素認識部位が導入されるようにデザインされている。
プライマー:
Forward:5−CCTAGGCCTGTCTCTTATACACATCTCAACCATCATCGATG−3(配列番号2)
Reverse:5−CTTAAGGCCTGTCTCTTATACACATCTCGTTAACCCTGAAGC−3(配列番号3)
次に、反応液の一部を1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、約130bpの遺伝子増幅断片(目的とするトランスポゾンDNA断片)が得られたことを確認した。
【0059】
(2) pMODStの作製
大腸菌由来のベクターpBluescript II SK(+) (ストラタジーン社)を制限酵素SacIおよびKpnIと37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に、これと等容量の3M酢酸ナトリウム水溶液および2.5容のエタノールを加え、析出した沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。回収した溶液に0.1容のBlunting Buffer、0.1容のKODDNA Polymerase(東洋紡社製)を加え、72℃、5分反応させてDNA制限酵素切断面を平滑化した。
【0060】
(1)で調製したpMOD1 DNA反応液(トランスポゾンDNA断片含む)とpBluescriptII KS(+)DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2倍量加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、その塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、(1)で作製したトランスポゾンDNA断片が挿入されたプラスミドを選別した。このプラスミドは、pMODStと命名した。
【0061】
(3) pTnKStの作製
トランスポゾンの抗生物質耐性マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を利用するためにpK18mobsacBベクター(ATCC 87097 Justin A.C.Powell & John A.c.Archer”Molecular characterization of a Rhodococcus ohp operon ”Antonie vanLeeuwenhoek 74:175−188,1998)より前記マーカー遺伝子配列を含むDNA断片を調製した。すなわち、pK18mobsacBをテンプレートとして、以下のプライマーによりPCR反応を行った。
プライマー:
Forward:5−CTAGCTTCACGCTGCCGCAAGCACTCAGGGCGC−3(配列番号4)
Reverse:5−CGAACCCCAGAGTCCCGCTCAGAAGAACTCGTC−3(配列番号5)
反応液の一部を1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、約1.2Kbの遺伝子増幅断片が得られたことを確認した。
【0062】
pMODstを制限酵素HpaIで37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離を行い、上層を採取した。採取した上層にその0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。上記のpK18mobSacB DNA 反応物とpMODst DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0063】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。次にカナマイシン硫酸塩200ppmを含むLB寒天培地[トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、バクトアガー1.5%]に塗沫した。カナマイシン耐性を示した大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、目的の改変がなされたプラスミドを選別した。このプラスミドをpTnKStと命名した。
【0064】
(4) レポーター遺伝子(rsGFP)の挿入
プロモーター配列の挿入を視覚的に確認できるよう、pQBI63(宝酒造社)由来のrsGFP(red−shift Green Fluorescent Protein)遺伝子をレポーター遺伝子として挿入した。まず、pQBI63を制限酵素XbaIおよびBamHIで37℃、1時間反応させて切断後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約800bpのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収し、rsGFPを調製した。このrsGFP DNA断片溶液を同様にXbaIおよびBamHIで切断したpTnKSt DNA溶液と等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0065】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。次にカナマイシン硫酸塩200ppmを含むLB寒天培地[トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、バクトアガー1.5%]に前記反応液を塗沫した。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、rsGFPが挿入されたプラスミドを選別した。このプラスミドをpTnKgfpと命名した。
【0066】
このようにして作製したpTnKgfpを制限酵素StuIで37℃、1時間反応させて切断後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけて、約2.2KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液と等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製したプロモーター検索用トランスポゾンをTnKgfpと命名した。
【0067】
〔参考例2〕ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株からのプロモーターの単離
(1) トランスポゾンTnKgfpによるレポーター遺伝子の導入
500ml容三角フラスコに入った滅菌済みのLB培地100mlにロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株を植菌し、30℃で24時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpmで10分間遠心分離し、沈殿を滅菌水にて2回洗浄後、測定波長660nmでの濁度が40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁した。
【0068】
前記懸濁液80μlに参考例1で調製したTnKgfp溶液1μlを添加し、ジーンパルサーII(バイオラッド社)を用いて25μF、400Ω、1.5kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地 0.42mlを添加し、30℃、3時間培養を行った。得られた培養液をカナマイシン硫酸塩100mg/l、硫酸アンモニウム0.1mMおよび寒天末15 g/lを含む基本培地(A−KmASA培地)に塗末し、30℃、48時間培養した。基本培地は、特開平 11−181446号「脱硫活性微生物の製造方法」に記載の組成を用いた。A−KmASA培地においてコロニーを形成した菌を302nmの紫外線照射下で観察し、rsGFP特有の蛍光緑色を呈したコロニーを選抜した。
【0069】
選抜したコロニーを硫酸アンモニウム0.1mMおよびカナマイシン100mg/lを含む基本培地2mlに、1白菌耳量を植菌し、30℃で72時間培養した。培養液を4℃、17000gで5分間遠心分離し、沈殿した菌体を採取した。採取した菌体よりISOPLANT(ニッポンジーン社製)を用いて染色体DNAを分離精製した。 精製した染色体DNAの全量を制限酵素EcoRIで37℃、16時間反応させ、染色体DNAを切断した。切断した染色体DNAは、GFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて精製した。
【0070】
(2) プロモーターのクローニングおよび塩基配列の決定
一方、大腸菌由来のベクターpBluescript II SK(+) (ストラタジーン社)を制限酵素EcoRIで37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。
【0071】
上記の染色体DNA 反応物とpBluescript II KS(+)DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製) を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0072】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて決定した。得られた塩基配列データは、GENETYX−MAC/ATSQ v3.0 およびGENETYX−MAC v8.0を用いて解析した。解析の結果得られた約350bpの大腸菌プロモーターと相同性の高いDNA配列をKAP1と命名し、KAP1を含むプラスミドをpKAP1と命名した。
【0073】
pKAP1のDNA溶液にEcoRIおよびXbaIを添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA:pH8.0]に溶解し、KAP1 DNA断片溶液とした。
【0074】
〔参考例3〕 組換えトランスポゾンTnKAPDSの作製
(1) pSKABCの作製
ロドコッカス・エリスロポリス KA2−5−1株のdszABCD 遺伝子を含む組換えプラスミドpRKPPBB( Kazuaki Hirasawa et.al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2) 239−246 (2001))溶液にDraI 及び XbaI溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。得られた反応液を0.8%アガロースゲル電気泳動を用いてDNAを分離し、約5.0 kbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、dszABCD を含むDNA断片とした。回収した溶液に0.1容のBlunting Buffer、0.1容のKOD DNA Polymerase(東洋紡社製)を加え、72℃、5分間反応させてDNA制限酵素切断面を平滑化した。
【0075】
一方、pBluescript II SK(+)(ストラタジーン社)を含む溶液にSmaI及びEcoRV溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に、その0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、pBluescript II SK(+)/SmaI/EcoRV断片とした。
【0076】
上記のdszABCD を含むDNA断片とpBluescript II SK(+)/SmaI/EcoRV断片を含む溶液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、1時間インキュベートした。
【0077】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間振とうした。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンエルマー社製)を用いて目的のDNAが挿入されたプラスミドを選別した。このプラスミドをpSKABCと命名した。
【0078】
(2) dszABCD を含むDNA断片の作製
pBluescript II SK(+)(ストラタジーン社)にdszABCD 遺伝子を含む組換えプラスミドpSKABC 溶液を加え、Xba I 及びHind III溶液を添加して37℃、1時間インキュベートし、pBluescript II SK(+)のXbaI及びHind IIIサイトにdszABCD 遺伝子群を組み込んだ。反応液は0.8%アガロースゲル電気泳動にかけ、約5.0kbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解して、dszABCD を含むDNA断片とした。
【0079】
(3) TnKst/EcoRI/Hind III断片の作製
一方、トランスポゾンベクターpTnKstを含むDNA溶液にEcoRI及び、Hind III溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、TnKst/EcoRI/Hind III断片とした。
【0080】
(4) 組換えトランスポゾンTnKAPDSの作製
上記のようにして得られたdszABCDを含むDNA断片溶液、pRHK1/EcoRI/Hind IIIのDNA断片溶液、及び実施例2で得られたKAP1 DNA断片溶液を各等容量ずつ混合し、Ligation High (東洋紡社)を3容加え、よく攪拌した後、16℃、30分間インキュベートした。
【0081】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをカナマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnKAPDS遺伝子溶液とした。このようにして作製したpTnKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnKAPDSと命名した。
【0082】
〔実施例4〕TnKAPDSによるロドコッカス・エリスロポリスMC1109株の形質転換−MC0203株の作製
(1) ロドコッカス・エリスロポリスMC1109株の取得及び同定
500ml容三角フラスコに土壌1gを入れ、汚染が観察されない新鮮軽油50mlと等容量のLB培地を添加して30℃で10日間インキュベートした。得られた軽油添加培養液の1mlを種菌として、500ml容三角フラスコに、新鮮軽油50mlと等容量のLB培地を添加し、これに前記種菌1mlを植菌し、30℃で10日間インキュベートした。同様の継代培養を3回繰り返した。継体培養後の培養液をLB寒天平板に塗布して単一コロニーを分離し、MC1109株と命名した。表2に示した項目についてMC1109株の同定を行い、ロドコッカス・エリスロポリスと同定した。なお、表2から明らかなよう、MC1109株にはオキシダーゼ活性がなく、脱硫能力を有しない。
【0083】
このロドコッカス・エリスロポリスMC1109株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2001年11月12日付けでFERM P−18594 として寄託されている。
【0084】
(2)TnKAPDS による形質転換
500ml容三角フラスコに入った滅菌済みのLB培地100mlにロドコッカス エリスロポリスMC1109株を植菌し、30℃で24時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpm、10分遠心分離し、沈殿を滅菌水にて2回洗浄し、測定波長660nmでの濁度が40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁した。
【0085】
該懸濁液80μlにTnKAPDS トランスポゾン溶液1μlを添加し、ジーンパルサーII(バイオラッド社)を用いて25μF、400Ω、1.5kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地0.42mlを添加し、30℃、3時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000gで遠心分離し、溶液部分を廃棄して等容量のNKII培地(表2)に再懸濁した。
【0086】
【表2】
【0087】
得られた菌懸濁液を100ml容三角フラスコに入ったNKII培地10mlに等容量の4,6−ジエチルジベンゾチオフェン300mg/lを含むテトラデカンを添加し、30℃で72時間培養した。培養液をジベンゾチオフェン25mg/lと寒天15g/lを含むジベンゾチオフェン寒天NKII培地に塗布し、単一コロニーとして取得し、TnKAPDS の形質転換株ロドコッカス・エリスロポリスMC0203株と命名した。
【0088】
このロドコッカス・エリスロポリスMC0203株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2001年11月12日付けで FERM P−18595 として寄託した。
【0089】
〔参考例5〕 組換えトランスポゾンTnGKAPDS の作製
(1) pTnGStの作製
トランスポゾンの抗生物質耐性マーカーとしてゲンタマイシン耐性遺伝子を利用するためにpJQ200(入手先ATCC77482)より前記マーカー遺伝子配列を含むDNA断片を制限酵素SmaI−Hind IIIにより調製した。反応液の一部を1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、約1.4Kbの遺伝子増幅断片が得られたことを確認した。
【0090】
PMODst(参考例1)を制限酵素HpaIで37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離を行い、上層を採取した。採取した上層にその0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。上記のpJQ200のDNA 断片とpMODst DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0091】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。次にゲンタマイシン硫酸塩200ppmを含むLB寒天培地[トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、バクトアガー1.5%]に塗沫した。ゲンタマイシン耐性を示した大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、目的の改変がなされたプラスミドを選別した。このプラスミドをpTnGStと命名した。
【0092】
また、大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをカナマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnKAPDS遺伝子溶液とした。このようにして作製したpTnKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnKAPDSと命名した。
【0093】
(2) TnGst/EcoRI/Hind III断片およびTnKst/EcoRI/Hind III断片の作製
一方、トランスポゾンベクターpTnGstを含むDNA溶液にEcoRIおよび、Hind III溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、TnGst/EcoRI/Hind III断片とし、トランスポゾンベクターpTnKstを含むDNA溶液にEcoRI及び、Hind III溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、TnKst/EcoRI/Hind III断片とした。
【0094】
(3) 組換えトランスポゾンTnGKAPDSの作製
上記のようにして得られたTnGst/EcoRI/Hind IIIのDNA断片溶液または、TnKst/EcoRI/Hind III断片溶液、dszABCD DNA断片溶液(参考例3参照)、およびkap1DNA断片溶液(参考例1および2参照)を各等容量ずつ混合し、Ligation High (東洋紡社)を3容加え、よく攪拌した後、16℃、30分間インキュベートした。
【0095】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをゲンタマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをゲンタマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnGKAPDS遺伝子溶液およびとした。このようにして作製したpTnGKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnGKAPDSと命名した。また、大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをカナマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnKAPDS遺伝子溶液とした。このようにして作製したpTnKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnKAPDSと命名した。
【0096】
〔参考例6〕マイコバクテリウム sp. NCIMB10403株のTnGKAPDSによる形質転換−MR34株の作製
(1) マイコバクテリウム sp. NCIMB10403株のTnGKAPDSによる形質転換
500ml容三角フラスコに入った滅菌済みのLB培地100mlにマイコバクテリウム属NCIMB10403株(NCIMB:National Collections of Industrial, Food and Marine Bacteria(HYPERLINK ”http://www.suruga−g.co.jp/jp/ncimb/index.html” http://www.suruga−g.co.jp/jp/ncimb/index.html)より入手)を植菌し、30℃で24時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpm、10分遠心分離し、沈殿を滅菌水にて2回洗浄し、測定波長660nmでの濁度が40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁した。
【0097】
該懸濁液80μlにTnGKAPDS トランスポゾン溶液1μlを添加し、ジーンパルサーII(バイオラッド社)を用いて25μF、400Ω、1.5kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地0.42mlを添加し、30℃、3時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000gで遠心分離し、溶液部分を廃棄して等容量のNKIII培地(表3)に再懸濁した。
【0098】
【表3】
【0099】
得られた菌懸濁液を、100ml容三角フラスコに入った培地(NKIII培地から硫黄源のみを除いた培地10mlに同容の4,6−ジエチルジベンゾチオフェン300mg/lを含むテトラデカンを添加したもの)に添加し、30℃で72時間培養した。培養液をジベンゾチオフェン25mg/lと寒天15g/lを含むジベンゾチオフェン寒天NKIII培地に塗布し、単一コロニーとして取得した。このNCIMB10403株のTnGKAPDS による形質転換株をマイコバクテリウムMR34株と命名した。
【0100】
このマイコバクテリウムMR34株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2003年2月7日付けで FERM P−19205として寄託した。
【0101】
〔実施例1〕マイコバクテリウムMR34株およびロドコッカスMC203株による軽油の脱硫試験
(1)試験方法
NKII培地(表2)およびNKIII培地(表3)2mlに、それぞれロドコッカスMC0203株およびマイコバクテリウムMR34株1白菌耳量をそれぞれ、植菌し、30℃で24時間培養した培養液1mlを上記と同じ組成の培地100mlに移植し、さらに30℃で48時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpmで 5分間遠心分離後、得られた沈殿をpH7.2の10mMリン酸緩衝液で2回洗浄し、100ppm MgCl2および10g/Lグルコースを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.2) に懸濁して反応用菌体とした。この反応用菌体の測定波長660nmでの濁度(OD660)は60であった。
【0102】
脱硫活性反応は、ロドコッカスMC0203株菌およびマイコバクテリウムMR34株の反応用菌体がそれぞれ8ml入った100mlの三角フラスコに、3種類の軽油(B−LGO:硫黄濃度406 mg/l、F−LGO:硫黄濃度 122 mg/l、C−LGO:硫黄濃度18 mg/l)を4分の1容量(2ml)加え、37℃、150spmで往復振とうして実施した。それぞれの菌株の菌体濃度はOD660は30であった。
【0103】
また、ロドコッカスMC0203株菌の反応用菌体8mlを用いて同様に脱硫反応を行った後、脱硫後の油層のみを分離し、続けてマイコバクテリウムMR34株の反応用菌体8mlを加えて同様に脱硫反応を行った。さらに、比較試験として、1種類の菌株の反応用菌体のみ8mlを用いて、同様の方法で脱硫活性試験を行った。
【0104】
(2) 脱硫反応の測定
脱硫率の測定は軽油中の残存硫黄濃度はパイロ蛍光法硫黄分析機(7000S Antec Instruments, Inc., Texas, USA)を用いて測定し、残存する硫黄化合物は、GC−AEDにより測定した。
GC−AEDの測定は下記の条件で行った。
【0105】
〔GC−AED 測定条件〕
装置:HP 589A ガスクロマトグラフィー、 HP 5921A 検出器
(Hewlett−Packard, Wilmington, DE USA)
カラム:HP−1 (25 mx0.32mmi.d.)
インジェクター、キャビティ温度:250 ℃
カラム温度:60℃〜250 ℃、5 ℃/min
【0106】
(3) 結果
結果を表4および図1に示した。
【表4】
【0107】
表4に示されるように、2種類の組換え脱硫菌を用いた場合、それぞれ1種類の菌株を単独で用いた場合に比較して、3種類の軽油のいずれについても残存硫黄濃度は低く、高い脱硫率が達成された。すなわち、2種類の組換え脱硫菌を用いることにより、それぞれ1種類の脱硫菌では、菌体濃度、撹拌条件等の種々の脱硫反応条件を改良しても到達できない高い脱硫率を得ることが可能になった。なお、2種類の脱硫菌を順次用いた場合でも、これらを同時に用いた場合と同様の結果が得られた。なお、表4にはMC0203株を先に用いた結果を示したが、MR34株を先に用いた場合でも同様の結果がえられる。
【0108】
〔実施例2〕MR34株とMC0203株によるアルキル化ジベンゾチオフェン類に対する脱硫活性特性試験
(1)試験方法
マイコバクテリウムMR34株およびロドコッカス・エリスロポリスMC0203 株をそれぞれ実施例1と同様の方法で培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpmで5分間遠心分離後、沈殿をpH7.2の10mMリン酸緩衝液で2回洗浄し、100ppmMgCl2および10g/Lグルコースを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.2) に懸濁して反応用菌体を作製した。この菌体溶液OD660は30であった。
【0109】
脱硫活性反応は、上記反応用菌体が5ml入った100mlの三角フラスコに、ジベンゾチオフェン、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン、4,6−ジプロピルじベンゾチオフェンまたは2,4,6,8−テトラエチルジベンゾチオフェンをそれぞれ1.4mM濃度でn−ヘキサデカンに溶解したものを等容量(5ml)加え、37℃、150spmで往復振とうして、反応させた。反応時間は基質によって、脱硫の難易度が異なるので、それぞれの脱硫率が50%を越えない時間実施した。
【0110】
(2) 脱硫活性測定
脱硫活性測定は、以下の条件で高速液体クロマトグラフィーにより、ヘキサデカン中のアルキル化ジベンゾチオフェン量を測定することにより行い、菌体量は乾燥菌体重量(g)を測定して、比活性値として示した。結果を表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
(3) 結果
表5から明らかなように、MR34株とMC0203株はジベンゾチオフェンの側鎖の数または長さによって、異なる脱硫比活性を示した。すなわち、MC0203株は側鎖のないジベンゾチオフェンに対して高い脱硫比活性を示したが、アルキル側鎖の長さが長いほど、またその数が多いほど、脱硫比活性が低いことが確認された。一方、MR34株はアルキル側鎖が長く、またその数が多いジベンゾチオフェンに対しても、高い脱硫比活性を示すことが確認された。
【0113】
この結果は、含硫複素環式化合物の膜透過に関する特性は各菌株によって様々で、油中の含硫複素環式化合物の脱硫活性が菌体膜透過性に大きく影響を受けることを示している。つまり、脱硫活性を上げるためには含硫複素環式化合物に対して高い菌体膜透過性を有する組換え微生物を作製し、これを用いることが望ましいが、1種類の菌株で多くの含硫複素環式化合物をすべて効率よく脱硫することは困難であると考えられた。
【0114】
【発明の効果】
本発明によれば、化石燃料中に含有されるジベンゾチオフェン類、ベンゾチオフェン類、ベンゾテトラナフチールチオフェン類、ベンゾナフチルチオフェン類などの含硫複素環式化合物を含む化石燃料油の脱硫率を上げることができる。
【0115】
【配列表】
【0116】
【配列表フリーテキスト】
配列番号2:プライマー
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:dszABCD
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、脱硫活性試験結果(GC−AEDクロマトグラム)を示すグラフである。各グラフは、(a)脱硫前のB−LGO、(b)2種類の菌株(MR34とMC2030)による脱硫反応、(c)MC2030株のみによる脱硫反応、(d)MR34株のみによる脱硫反応の結果を示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、微生物を利用した含硫複素環式化合物の脱硫方法に関する。より詳しくは、複数の組換え微生物を用いることにより、脱硫率を向上させることを可能とした新規脱硫方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
石油等の化石燃料油中には多種類の硫黄化合物が含有されているが、硫黄は大気中に放出されると環境に重大な影響を与えるため、これらの脱硫が求められている。世界の種々の原油中に含まれる硫黄の濃度はそれぞれ異なるが、平均して1.13%程度であり、代表的な含有硫黄化合物はメルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類である。原油を蒸留分別した各留分中では、重い留分ほどベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン等のチオフェン類の比率が高い。
【0003】
石油の脱硫方法としては、アルカリ洗浄、溶剤洗浄、吸着などの方法も知られているが、現在では水素化脱硫が主流である。水素化脱硫は、石油留分中の硫黄化合物を高温・高圧、金属触媒の存在下で水素と反応させ、硫黄を硫化水素として除去する、完成度の高い脱硫プロセスである。金属触媒としては、通常アルミナを担体としたコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステンなどが使用される。
【0004】
しかし、水素化脱硫法は化石燃料全体の硫黄濃度を低下させることはできても、難脱硫性の含硫複素環式化合物を十分に脱硫することができない。最近は、こうした難脱硫性化合物を効果的に除去し、軽油中の硫黄分を1ppm以下に削減する超深度脱硫の研究が進められ、そのための触媒の改良や反応温度・圧力の向上が試みられている。
【0005】
これに対し、微生物による酵素反応を利用して比較的穏和な条件下で脱硫を行う方法としてバイオ脱硫法がある(例えば、非特許文献1参照)。バイオ脱硫法では、酵素の高い基質特異性により、水素化脱硫では脱硫できなかった硫黄も比較的穏和な条件で除去することが可能である。例えば、シュウドモナス(Pseudomonas) CB1(例えば、非特許文献2参照)、ロドコッカスロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)IGTS8 (ATCC53968) (例えば、非特許文献3参照)、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodokoccus erytythropolis)KA2−5−1株(FERM P−16277)(例えば、非特許文献4参照)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp. SY−1 (例えば、非特許文献5参照)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium) sp. DO (例えば、非特許文献6参照)や、アルスロバクター(Arthrobacter) K3b(例えば、非特許文献7参照)を用いた脱硫方法がこれまで報告されている。微生物脱硫法では、水素化脱硫法のように高い温度や圧力を必要とすることなく、ベンゾチオフェン類等を脱硫できる利点がある。
【0006】
ところで、化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物の90%以上はジベンゾチオフェン類であり、その他の微量硫黄化合物は、ベンゾチオフェン類(benzothiophene)、ベンゾテトラナフチールチオフェン類(benzotetranapthylthiophene)、ベンゾナフチルチオフェン類 (benzonaphthylthiophene)である。これらは、C−C結合を切断するような方法で脱硫しようとすると、化石燃料中にある他の芳香族炭化水素の分解によるエネルギー含有量の低下をまねくため、一般にC−S結合を特異的に切断する微生物を用いて脱硫されている。
【0007】
しかしながら、従来の脱硫微生物では、脱硫に関連した脱硫酵素遺伝子が培養液中の無機硫黄化合物や含硫アミノ酸によって発現抑制を受けることが報告されている(例えば、非特許文献8参照)。これは、主に脱硫酵素遺伝子の発現を制御しているプロモーターが誘導型であることによる。すなわち、脱硫反応によって生成した硫黄が硫酸イオンとして培養液中に溶出し、培養液中の硫黄濃度が高くなるにつれて、脱硫遺伝子の発現が抑制され、脱硫効率が低下する。
【0008】
さらに、軽油などの化石燃料中の含硫複素環式硫黄化合物は油相中に存在しているため、含硫複素環式硫黄化合物を微生物によって脱硫するためには、含硫複素環式硫黄化合物を微生物の細胞内へ取り込むことが必要である。しかしながら、微生物には菌体膜が存在するため、軽油などの化石燃料中の含硫複素環式硫黄化合物を脱硫するためには菌体膜を透過することが必要である。特にグラム陰性に属する微生物は菌体膜が細胞壁のみのグラム陽性に属する微生物に比較して、外膜と内膜の二膜を有しているため、グラム陽性に属する微生物より脱硫率が上がらないという現象が見られた。グラム陽性に属する微生物においても、高度にアルキル化された含硫複素環式硫黄化合物や含硫複素環式硫黄化合物の種類によって、菌体膜透過できないか、または透過性が低いため、含硫複素環式硫黄化合物の種類はアルキル化度によって、脱硫率が向上しないという問題があった。
【0009】
【非特許文献1】
Monticello,D.J.,Hydrocarbon Processing, (1994), p39−45
【非特許文献2】
Isbister, J.D. and Kobylinski,E.A.:Microbial desulfurization of coal, in Coal Science andTechnology, (1985), Ser.9, p627
【非特許文献3】
Kilbane,J.J. Resources, Conservationand Recycling, (1990), 3, p69−70
【非特許文献4】
Kobayashi,M. Horiuchi,K., Yoshikawa,O., Hirasawa,K., Ishii,Y., Fujino,K., Sugiyama,H. and Maruhashi,K., Biosci. Biotechnol.Biochem., (2001), 65(2), p289−304,
【非特許文献5】
Ohmori, T., Monna,L.,Saiki, Y. and Kodama,T. Appl.Environ. Microbiol., (1992), 58, p911−915,
【非特許文献6】
van Afferden, M.,Schacht, S., Klein, J.andTruper,H.G.,Arch. Microbiol., (1990), 153, p324−328
【非特許文献7】
Dahlberg, M.D.(1992) Third International Symposium on the Biological Processing of Coal, May4−7, ClearwaterBeach,FL,pp.1−10.Electric Power Research Institute, PaloAlto, CA.
【非特許文献8】
Mamie Z.L., Szuires C.H., Monticello D.J., and Chils J.D., J. Bacteriol., (1996), 178, p6409−6418
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、微生物による含硫複素環式硫黄化合物の脱硫反応において、最終生成物による阻害作用や含硫複素環式硫黄化合物の菌体膜透過における障害を解消し、脱硫率の向上を可能にすることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ロドコッカス(Rhodokoccus)属に属する微生物とマイコバクテリウム(Mycobacterium)属に属する微生物に、硫黄による抑制を受けることなく、恒常的かつ高発現に機能するkap1プロモーターと、これに機能しうる態様で連結させた脱硫遺伝子を導入して組換え微生物を作製した。そして、この2種類の組換え微生物を、順次または同時に用いることにより、菌体膜透過性が低く脱硫困難な種々の含硫複素環式硫黄化合物を効果的に脱硫できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(11)を提供する。
(1) 硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター、およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を、宿主微生物に機能しうる態様で導入した組換え微生物を2種類以上用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
(2) プロモーターが、kap1プロモーター(配列番号1)である、上記(1)記載の方法。
(3) 脱硫遺伝子が、ロドコッカス属IGTS8株由来の脱硫遺伝子、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属AD109株由来の分解遺伝子、ペニバチルス属A11−1株(FERM BP−6025)由来の脱硫遺伝子、および同A11−2株(FERM BP−26)由来の脱硫遺伝子からなる群より選ばれるいずれか1の脱硫遺伝子である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4) 脱硫遺伝子が、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dsz ABCD(配列番号6)である、上記(3)に記載の方法。
(5) 宿主微生物の少なくとも1種が、マイコバクテリウム属に属する微生物である、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) 宿主微生物の少なくとも1種が、ロドコッカス属に属する微生物である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) 宿主微生物が、マイコバクテリウム属に属する微生物、およびロドコッカス属に属する微生物の2種類の微生物である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8) マイコバクテリウム属に属する微生物が、マイコバクテリウム属 NCIMB10403株またはそれと実質的に同等の菌学的性質を有する細菌である、上記(5)〜(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9) ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス属MC1109株(FERM P−18594)またはそれと実質的に同等の菌学的性質を有する細菌である、上記(6)〜(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10) マイコバクテリウム属MR34株(FERM−P−19205)、およびロドコッカス属MC0203株(FERM P−18595)の2種類の組換え微生物を用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
(11) マイコバクテリウム属MR34株(FERM−P−19205)。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、2種類の微生物、特にロドコッカス属およびマイコバクテリウム属に属する微生物に、硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーターおよびC−S結合を選択的に切断する脱硫遺伝子を機能しうる態様で導入した組換え微生物を、順次または同時に用いることにより、化石燃料油である軽油などの含硫複素環式化合物を脱硫する方法を提供する。
【0015】
1.宿主微生物
本発明で用いられる組換え微生物の宿主となる微生物は、KAP1プロモーターが機能しうる微生物であれば、特に限定されない。例えば、ロドコッカス属等のノカルディオフォーム型細菌に分類される微生物、マイコバクテリウム属、ゴルドニア属に属する微生物を用いることができる。なお、ノカルディオフォーム型細菌とは、Bergey’s Manualが採用する細菌の分類体系における33のセクションのうちの1つで、ノカルディア属(Nocardia)、ロドコッカス属(Rhodococcus)等が含まれる。この分類体系では、従来の階層的分類とは異なり、細菌をその特性−例えば、細胞形態、酵素に対する反応、グラム染色性、エネルギー代謝等により分類している。したがって、同一セクション内では共通のプロモーターが機能しうることが期待される。
【0016】
本発明においては、2種類の異なる宿主微生物が用いられる。これらの微生物は、化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物の菌体膜透過性が異なることが好ましい。特に、菌体膜透過にかかわる特性について、補完性がある2つの微生物であることが望ましい。例えば、一方の微生物が高アルキル化した含硫複素環式化合物に対して特に高い菌体膜透過性を有する微生物であれば、他方の微生物は、低アルキル化した含硫複素環式化合物に対して特に高い菌体膜透過性を有する微生物であることが望ましい。そのような2種類の宿主微生物としては、例えばマイコバクテリウム属に属する微生物とロドコッカス属に属する微生物を挙げることができる。
【0017】
前記マイコバクテリウム属に属する微生物としては、マイコバクテリウム属 NCIMB10403株およびこれと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株を挙げることができる。マイコバクテリウム属 NCIMB10403株は、特に高アルキル化した含硫複素環式化合物に対して、高い菌体膜透過性を有する。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、NCIMB10403株を起源とし、該菌株と同様の菌体膜透過性能力を有しているが、その起源である菌株とは他の1つ以上の性質において異なっている菌株を意味し、例えば、NCIMB10403株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0018】
前記NCIMB10403株は、NCIMB(National Collections of Industrial, Food and Marine Bacteria; http://www.suruga−g.co.jp/jp/ncimb/index.html)より入手できる。表1に、NCIMB10403株に関する情報を記載する。
【0019】
【表1】
【0020】
また、前記ロドコッカス属に属する微生物としては、ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株(FERM P−16277:特開平11−9293参照)やロドコッカス・エリスロポリスMC0203株(FERM P−18595)、およびこれらと実質的に同等の菌学的性質を有する菌株を挙げることができる。ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株やMC0203株は、特に低アルキル化した含硫複素環式化合物に対して、高い菌体膜透過性を有する。ここで、「実質的に同等の菌学的性質を有する菌株」とは、KA2−5−1株やMC0203株を起源とし、該菌株と同様の菌体膜透過性能力を有しているが、その起源である菌株とは他の1つ以上の性質において異なっている菌株を意味し、例えば、KA2−5−1株やMC0203株の変異株や形質転換体を挙げることができる。
【0021】
2.プロモーター
本発明で用いられるプロモーターは、硫酸イオンによる抑制を受けることなく、恒常的に発現するプロモーターであれば、特に限定されない。そのようなプロモーターとしては、例えば、kap1プロモーターを挙げることができる。
【0022】
kap1プロモーターは、本発明らが、脱硫細菌 ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis) KA2−5−1株(FERM P−16277)から単離したプロモーター(特願2001−348384号)で、ロドコッカス属、マイコバクテリウム属、ゴルドニア属等の微生物において、硫酸イオンの影響を受けることなく、恒常的かつ高活性で発現する。したがって、このプロモーター下流に連結された脱硫遺伝子は恒常的に発現し、連続的脱硫反応を可能にする。
【0023】
kap1プロモーターの塩基配列を配列番号1に示すが、この配列に限定されず、配列番号1に示されるDNAと相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも、kap1と同等のプロモーター活性を有する限り、kap1プロモーターに含まれる。なお、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、65℃、0.5×SSC、より好ましくは、55℃、0.1×SSCのような条件をいう。
【0024】
3.脱硫遺伝子
本発明で用いられる脱硫遺伝子は、含硫複素環式化合物のC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする遺伝子であれば、特に限定されない。そのような酵素は、アルキル化ジベンゾチオフェン類を脱硫して、相当するヒドロキシビフェニール体を生成することができる。
【0025】
前記遺伝子としては、例えば、ロドコッカス属IGTS8株由来の脱硫遺伝子(C.S.Piddinton, B.R.Kovacevich and L.Rambosek, Appl. Environ. Microbiol. 61,468−475(1995))、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子(K.Hirasawa, Y.Ishii, M.Kobayashi, K.Koizumi and K. Maruhashi, Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2), 239−246,2001)、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属AD109株由来の分解遺伝子(WO 98/45446)、ペニバチルス(Paenibacillus)属A11−1l株およびA11−2株由来の脱硫遺伝子(FERM BP−6025, FERM BP−26)を挙げることができる。
【0026】
特に望ましくは、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dsz ABCD(K.Hirasawa, Y.Ishii, M.Kobayashi, K.Koizumi and K. Maruhashi, Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2), 239−246,2001;配列番号6)が用いられる。このDszABCDは難脱硫性のアルキル化ベンゾチオフェンを2−ヒドロキシベンゾチオフェン(2−HBP)に分解することができる。
【0027】
4.組換え微生物の構築
4.1 発現ベクターの作製
本発明で用いられる組換え微生物は、前述の宿主微生物に、硫酸イオンによる抑制を受けることなく、恒常的に発現するプロモーター(例えば、kap1プロモーター)およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を機能しうる態様で導入することにより、作製される。
【0028】
微生物への上記遺伝子の挿入は、該プロモーターおよび脱硫酵素遺伝子を含む発現ベクターを用いて行うことができる。用いられるベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド、ファージ、ウィルス、YAC等を使用することができるが、特にトランスポゾンまたはトランスポソームを用いることが好ましい。
【0029】
該発現ベクターは、プロモーターと脱硫遺伝子、あるいはさらに適当なターミネーター配列を、機能しうる態様で含む。ここで、「機能しうる態様」とは、脱硫遺伝子がプロモーターの支配下で適切に発現しうる態様をいう。したがって、脱硫遺伝子はプロモーターの下流に位置することになる。
【0030】
前記発現ベクターには、上述の必須の配列のほか、その目的と効果を損なわない範囲で、他の遺伝子や配列を含むことができる。該遺伝子や配列としては、例えばプラスミドベクターの複製に関与する遺伝子や組換え体の選抜に使用するマーカー遺伝子、相同性組換えベクターにおける置換用の塩基配列およびトランスポゾンベクターの反復DNA配列等が挙げられる。
【0031】
本発明の好ましい態様として、トランスポゾンを用いた発現ベクターを以下のようにして作製することができる。トランスポゾンを用いた方法は、染色体へのDNA挿入の強力なツールとして既に当技術分野では公知であり、例えばpMOD1(エア・ブラウン社)等を用いた方法等が知られている。
【0032】
トランスポゾンは転移性遺伝因子とも呼ばれ、宿主生物の染色体内において新たな位置へ移動する独特な能力(転移能力)を有している。そのため、染色体相同組換え法とは大きく異なり、該因子と標的部位との間に相同性のあるDNA領域を必要としない。またトランスポゾンはその構造上、DNAの両末端の塩基配列のみがトランスポゾンとしての基本機能、すなわち転移に必要であり、この両末端の塩基配列に挟まれた領域に種々の機能性因子、例えば抗生物質耐性遺伝子のようなマーカー遺伝子、制限酵素切断部位等の任意のDNA配列を組み込むことが出来る。
【0033】
トランスポゾンには、選抜をより容易にするために、適当なマーカー遺伝子をレポーター遺伝子とともに挿入することが好ましい。該マーカー遺伝子としては、例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
【0034】
トランスポゾンの染色体への挿入は、公知の形質転換、形質導入、接合伝達(conjugal mating)または電気穿孔法等により行うことができる。トランスポゾンの挿入組換え体は、例えば上述のトランスポゾン上のマーカー遺伝子により選抜することができる。
【0035】
本発明では、pMOD1のように大腸菌内で複製可能なプラスミドに内包されたトランスポゾン内に、硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター(例えば、配列番号1で示される塩基配列からなるkap1プロモーター)、その下流に脱硫遺伝子(例えば、dszABCD遺伝子)および抗生物質耐性因子等の組換え体選抜のためのマーカー遺伝子を組み込む。次に、適当な制限酵素でトランスポゾン部分を切断し、アガロースゲル電気泳動等により単離する。単離したトランスポゾンDNA断片をトランスポゼースと反応させることにより、宿主内で脱硫酵素遺伝子を発現させる発現ベクターとして使用可能なトランスポソームが調製できる。
【0036】
4.2 微生物の形質転換
微生物の形質転換は、例えば前記発現ベクターを公知の方法によって宿主微生物に導入することによって達成される。導入法は特に限定されず、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等、利用可能な任意の方法を用いればよい。前述のトランスポゾンであれば、公知の形質転換、形質導入、接合伝達(conjugal mating)または電気穿孔法等により行うことができる。
【0037】
4.3 組換え微生物:マイコバクテリウム属 MR34株、およびロドコッカス・エリスロポリス MC0203株
上記の方法によって得られる組換え微生物の好ましい例として、マイコバクテリウム属MR34株、およびロドコッカス属ではMC0203株を挙げることができる。
【0038】
MR34株はマイコバクテリウム属NCIMB10403株に、kap1プロモーターとロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dszABCD(K.Hirasawa, Y.Ishii, M.Kobayashi, K.Koizumi and K. Maruhashi, Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2), 239−246,2001)、および組換え体の選抜のための生理的マーカーであるゲンタマイシン耐性因子を、前述したトランスポソームを用いて組み込んだ、組換え微生物である。このMR34株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2003年2月7日付けでFERM P−19205として寄託されている。
【0039】
水素化脱硫後の化石燃料中に多く含有している4,6位にアルキル側鎖を有するジベンゾチオフェン類から生成するヒドロキシ体はメチル化されやすく、難脱硫性の高アルキル化含硫複素環式化合物となる。MR34株は、これまで微生物では特に難脱硫といわれている4,6−ジプロピルジベンゾチオフェンや10−メチルベンゾナフトチオフェンでさえも、容易に脱硫することができる。
【0040】
一方、MC0203株はロドコッカス・エリスロポリスMC1109株(FERM P−18594)に、kap1プロモーターとロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dszABCD、および組換え体の選抜のための生理的マーカーであるゲンタマイシン耐性因子を、前述したトランスポソームを用いて組み込んだ、組換え微生物である。このロドコッカス・エリスロポリスMC0203株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2001年11月12日付けで FERM P−18595として寄託されている。MC0203は、特有の膜組成をもち、難脱硫性のアルキルジベンゾチオフェン類を容易に脱硫することができる(特願2001−348385号参照)。
【0041】
以上のようにMR34株は、特に高アルキル化含硫複素環式化合物の菌体膜透過性が高く、MC0203株は化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物に存在する低アルキル化化含硫複素環式化合物の菌体膜透過性が高く、いずれも難脱硫性といわれている含硫複素環式化合物のアルキル化体を効率よく脱硫することができる。
【0042】
5. 組換え微生物を用いた脱硫方法
本発明にかかる脱硫方法は、少なくとも2種類の前記組換え微生物を含硫複素環式化合物を含む培養液中に添加し、該微生物の生育条件下で連続的に実施することができる。具体的には、本発明の脱硫方法は以下のようにして行われる。
【0043】
5.1 菌体の培養(菌体生産)
まず前記組換え微生物を、脱硫方法に供する菌体生産ために培養する。培養は、微生物の通常の培養法にしたがって行えばよい。培養の形態は固体培養でも液体培養でもよいが、液体培養が好ましい。培地の栄養源としては通常用いられているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、コハク酸、クエン酸、酢酸等が使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物等の有機栄養物質が使用される。硫黄源としては利用可能な無機硫黄化合物であればよく、たとえば硫酸塩等が使用される。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類等が必要に応じて用いられる。
【0044】
好適な培地としては、天然栄養培地:例えばLB培地や2YT培地、あるいは無機塩類を主体とする合成培地:例えば、特開平11−181446号「脱硫活性微生物の製造方法」に記載の組成である基本培地等を用いることができる。特にロドコッカス属に属する微生物およびマイコバクテリウム属に属する微生物は、それぞれ後述のNKII(表2)、NKIII培地(表3)を用いることが好ましい。培養は、微生物が生育可能である温度、pHなど、使用する微生物にとって最適な培養条件で行う。一般的には、まず新鮮な培地に種菌を適当量、例えば1〜2容量%接種する。培地としては、前項で記載した培地を用いることができるが、種菌としては、対数増殖期初期から定常期までのいずれかの状態の菌を用いればよく、好ましくは対数増殖期後期のものを用いる。種菌の量は必要に応じて増減することができる。その後、pH6〜9、約30にて1〜2日間往復または回転振盪培養する。
【0045】
5.2 含硫複素環式化合物
本発明において脱硫対象となる含硫複素環式化合物は、特に限定されず、例えば、石油等の化石燃料油中に含まれる含硫複素環式化合物類を広く対象とすることができる。特にkap1プロモーターの挿入により、本発明の組換え微生物は外部環境にかかわらず脱硫酵素遺伝子を高いレベルで発現させる。
【0046】
したがって、挿入する脱硫酵素を選ぶことで、難脱硫性のベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ベンゾテトラヒドロナフトチオフェン、およびベンゾナフトチオフェン類、ならびにアルキル化ベンゾチオフェン類、アルキル化ジベンゾチオフェン類、アルキル化ベンゾテトラヒドロナフトチオフェン類、およびベンゾナフトチオフェン類等を好適に脱硫することができる。かかるアルキル化ベンゾチオフェンとしては2−メチルジベンゾチオフェン、3−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、5−メチルベンゾチオフェン、2−エチルチオフェン等が例示される。アルキル化ジベンゾチオフェンとしては、4−メチルジベンゾチオフェン、4−エチルジベンゾチオフェン、4−プロピルジベンゾチオフェン、4−ブチルジベンゾチオフェン、4−ペンチルジベンゾチオフェン、4−ヘキシルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチルベンゾチオフェン、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン、4,6−ジプロピルジベンゾチオフェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェン、3−プロピル,4,8−ジメチルジベンゾチオフェン等が例示される。またアルキル化べンゾナフトチオフェンとしては、10−メチルベンゾナフトチオフェンが例示される。
【0047】
これらの含硫複素環式化合物を溶解するために使用可能な有機溶媒としては、n−テトラデカンの他、C8〜C20のn−パラフィンやケロシン、軽油、重油などが挙げられる。また、必要に応じて反応液上方の気相を酸素で置換封入してもよい。
【0048】
5.3 脱硫反応
含硫複素環式化合物の分解は、例えば、上記組み換え微生物を上記培地中で培養した後、得られた培養物から遠心分離などの集菌操作によって得られた休止菌体を含硫複素環式化合物と接触させて行うことによって行う。このような休止菌体による脱硫は、例えば以下のようにして行われる。
【0049】
まず、休止菌体を調製する。新鮮な培地に種菌を適当量、例えば1〜2容量%接種する。培地としては、上記の培地を用いることができる。種菌としては、対数増殖期初期から定常期までのいずれかの状態の菌を用いればよく、好ましくは対数増殖期後期のものを用いる。種菌の量は必要に応じて増減することができる。その後、pH6〜9、約30℃にて1〜2日間往復又は回転振盪培養する。
【0050】
次いで、菌体を分離集菌し、洗浄することにより休止菌体が得られる。集菌は、培養菌体が対数増殖期初期から定常期までのいずれの状態にある時に行ってもよいが、対数増殖期中期から後期の状態にある時に行うのが好ましい。また、集菌は、遠心分離の他、濾過、沈降分離等のいかなる方法で行ってもよい。菌体の洗浄には、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等のいかなる緩衝液を使用してもよく、また、水を用いて菌体を洗浄することもできる。あるいはまた、菌体の洗浄を省くこともできる。
【0051】
休止菌体による脱硫は、休止菌体を適当な緩衝液に懸濁して調製した菌懸濁液に軽油または基質である含硫複素環式化合物を油相に添加して反応させることにより行う。緩衝液としては種々の緩衝液を使用できる。緩衝液のpHは特に限定されないが、pH6〜7が好適である。また、緩衝液の代わりに、水や培地等を使用することもできる。菌体懸濁液の濃度は、OD660 が1〜100の間が好適であり、必要に応じて増減できる。菌懸濁液量に対する油量の油水比は0.01〜100の間で行うことが可能であり、必要に応じて使用することができる。好ましくは1〜10の油水比が用いられる。反応温度は30〜42℃で行うことができるが、その他の適当な温度でもよく、好ましくは35〜40℃が好適である。反応時間は1〜2時間が好適であるが、必要に応じて増減できる
なお、2種類またはそれ以上の反応用菌体は脱硫対象である軽油等の含硫複素環式化合物に同時に加えてもよいし、順次加えてもよい。ここで、順次加えるとは、1つの反応用菌体を加えて脱硫反応を行った後、油層のみを分離し、次いで別な反応用菌体を加えて脱硫反応をさせること、あるいはこの工程を繰り返すことを意味する。
【0052】
脱硫率の測定は、高速液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー/質量スペクトル、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析などを使用して行うことができる。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用してもよい。
【0053】
5.4 本発明の脱硫方法の利点
本発明の脱硫方法は、導入したプロモーターと脱硫酵素遺伝子により、脱硫遺伝子が恒常的に発現し、反応生成物である硫酸イオンによるフィードバック阻害を受けることなく、かつ宿主菌の菌体膜における化石燃料中に存在する含硫複素環式化合物に対する菌体膜透過性に対する基質特異性があり、単一の属に属する微生物を用いた場合に比較して、高い脱硫率で脱硫させることが可能になる。
【0054】
また、微生物を用いた含硫複素環式化合物に対する脱硫方法において、含硫複素環式化合物が菌体膜透過性が低いかまたはないために脱硫率および脱硫速度を低下させており、異なった属に属する微生物、特にマイコバクテリウム属およびロドコッカス属に属する微生物を用いることにより、菌体膜透過性における障害を解消し、高い脱硫率を可能にすることができる。
【0055】
さらに、そのような組換え微生物のうち、特に含硫複素環式化合物の菌体膜透過性にかかわる特性がそれぞれ異なる、すなわち脱硫特性が異なる2種類またはそれ以上の組換え微生物を選んで、順次または同時に用いることにより、単独での脱硫効果からは予測できないほど高い脱硫率が達成できる。
【0056】
以上のとおり、本発明の脱硫方法は、外部環境に関わらず脱硫酵素を高活性に発現させ、含硫複素環式化合物に対する菌体膜透過性に対する障害を解消する。さらに、該方法は化石燃料中に含有される難脱硫性の含硫複素環式化合物をも高効率で脱硫しうる。すなわち、本発明の脱硫方法は、化石燃料中に含有される含硫複素環式化合物の工業的レベルでの脱硫方法として利用価値が高い。
【0057】
【実施例】
以下、本発明を参考例および実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0058】
〔参考例1〕プロモーター検索用トランスポゾンの作製
ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株よりプロモーター配列を検索するためのトランスポゾンを以下のようにして作製した。
(1) トランスポゾンDNA断片の作製
トランスポゾンを含むプラスミドであるpMOD1(エア・ブラウン社)からトランスポゾンDNA断片を調製した。まずpMOD1をテンプレートとして、以下のプライマーによりPCR反応を行った。プライマーは、pMOD1に含まれるトランスポゾン中の制限酵素切断部位 PvuIIをStuIに置換し、かつ3’側にHpaIの制限酵素認識部位が導入されるようにデザインされている。
プライマー:
Forward:5−CCTAGGCCTGTCTCTTATACACATCTCAACCATCATCGATG−3(配列番号2)
Reverse:5−CTTAAGGCCTGTCTCTTATACACATCTCGTTAACCCTGAAGC−3(配列番号3)
次に、反応液の一部を1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、約130bpの遺伝子増幅断片(目的とするトランスポゾンDNA断片)が得られたことを確認した。
【0059】
(2) pMODStの作製
大腸菌由来のベクターpBluescript II SK(+) (ストラタジーン社)を制限酵素SacIおよびKpnIと37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に、これと等容量の3M酢酸ナトリウム水溶液および2.5容のエタノールを加え、析出した沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。回収した溶液に0.1容のBlunting Buffer、0.1容のKODDNA Polymerase(東洋紡社製)を加え、72℃、5分反応させてDNA制限酵素切断面を平滑化した。
【0060】
(1)で調製したpMOD1 DNA反応液(トランスポゾンDNA断片含む)とpBluescriptII KS(+)DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2倍量加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、その塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、(1)で作製したトランスポゾンDNA断片が挿入されたプラスミドを選別した。このプラスミドは、pMODStと命名した。
【0061】
(3) pTnKStの作製
トランスポゾンの抗生物質耐性マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を利用するためにpK18mobsacBベクター(ATCC 87097 Justin A.C.Powell & John A.c.Archer”Molecular characterization of a Rhodococcus ohp operon ”Antonie vanLeeuwenhoek 74:175−188,1998)より前記マーカー遺伝子配列を含むDNA断片を調製した。すなわち、pK18mobsacBをテンプレートとして、以下のプライマーによりPCR反応を行った。
プライマー:
Forward:5−CTAGCTTCACGCTGCCGCAAGCACTCAGGGCGC−3(配列番号4)
Reverse:5−CGAACCCCAGAGTCCCGCTCAGAAGAACTCGTC−3(配列番号5)
反応液の一部を1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、約1.2Kbの遺伝子増幅断片が得られたことを確認した。
【0062】
pMODstを制限酵素HpaIで37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離を行い、上層を採取した。採取した上層にその0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。上記のpK18mobSacB DNA 反応物とpMODst DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0063】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。次にカナマイシン硫酸塩200ppmを含むLB寒天培地[トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、バクトアガー1.5%]に塗沫した。カナマイシン耐性を示した大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、目的の改変がなされたプラスミドを選別した。このプラスミドをpTnKStと命名した。
【0064】
(4) レポーター遺伝子(rsGFP)の挿入
プロモーター配列の挿入を視覚的に確認できるよう、pQBI63(宝酒造社)由来のrsGFP(red−shift Green Fluorescent Protein)遺伝子をレポーター遺伝子として挿入した。まず、pQBI63を制限酵素XbaIおよびBamHIで37℃、1時間反応させて切断後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約800bpのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収し、rsGFPを調製した。このrsGFP DNA断片溶液を同様にXbaIおよびBamHIで切断したpTnKSt DNA溶液と等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0065】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。次にカナマイシン硫酸塩200ppmを含むLB寒天培地[トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、バクトアガー1.5%]に前記反応液を塗沫した。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、rsGFPが挿入されたプラスミドを選別した。このプラスミドをpTnKgfpと命名した。
【0066】
このようにして作製したpTnKgfpを制限酵素StuIで37℃、1時間反応させて切断後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけて、約2.2KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液と等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製したプロモーター検索用トランスポゾンをTnKgfpと命名した。
【0067】
〔参考例2〕ロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株からのプロモーターの単離
(1) トランスポゾンTnKgfpによるレポーター遺伝子の導入
500ml容三角フラスコに入った滅菌済みのLB培地100mlにロドコッカス・エリスロポリスKA2−5−1株を植菌し、30℃で24時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpmで10分間遠心分離し、沈殿を滅菌水にて2回洗浄後、測定波長660nmでの濁度が40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁した。
【0068】
前記懸濁液80μlに参考例1で調製したTnKgfp溶液1μlを添加し、ジーンパルサーII(バイオラッド社)を用いて25μF、400Ω、1.5kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地 0.42mlを添加し、30℃、3時間培養を行った。得られた培養液をカナマイシン硫酸塩100mg/l、硫酸アンモニウム0.1mMおよび寒天末15 g/lを含む基本培地(A−KmASA培地)に塗末し、30℃、48時間培養した。基本培地は、特開平 11−181446号「脱硫活性微生物の製造方法」に記載の組成を用いた。A−KmASA培地においてコロニーを形成した菌を302nmの紫外線照射下で観察し、rsGFP特有の蛍光緑色を呈したコロニーを選抜した。
【0069】
選抜したコロニーを硫酸アンモニウム0.1mMおよびカナマイシン100mg/lを含む基本培地2mlに、1白菌耳量を植菌し、30℃で72時間培養した。培養液を4℃、17000gで5分間遠心分離し、沈殿した菌体を採取した。採取した菌体よりISOPLANT(ニッポンジーン社製)を用いて染色体DNAを分離精製した。 精製した染色体DNAの全量を制限酵素EcoRIで37℃、16時間反応させ、染色体DNAを切断した。切断した染色体DNAは、GFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて精製した。
【0070】
(2) プロモーターのクローニングおよび塩基配列の決定
一方、大腸菌由来のベクターpBluescript II SK(+) (ストラタジーン社)を制限酵素EcoRIで37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。
【0071】
上記の染色体DNA 反応物とpBluescript II KS(+)DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製) を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0072】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて決定した。得られた塩基配列データは、GENETYX−MAC/ATSQ v3.0 およびGENETYX−MAC v8.0を用いて解析した。解析の結果得られた約350bpの大腸菌プロモーターと相同性の高いDNA配列をKAP1と命名し、KAP1を含むプラスミドをpKAP1と命名した。
【0073】
pKAP1のDNA溶液にEcoRIおよびXbaIを添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA:pH8.0]に溶解し、KAP1 DNA断片溶液とした。
【0074】
〔参考例3〕 組換えトランスポゾンTnKAPDSの作製
(1) pSKABCの作製
ロドコッカス・エリスロポリス KA2−5−1株のdszABCD 遺伝子を含む組換えプラスミドpRKPPBB( Kazuaki Hirasawa et.al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(2) 239−246 (2001))溶液にDraI 及び XbaI溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。得られた反応液を0.8%アガロースゲル電気泳動を用いてDNAを分離し、約5.0 kbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、dszABCD を含むDNA断片とした。回収した溶液に0.1容のBlunting Buffer、0.1容のKOD DNA Polymerase(東洋紡社製)を加え、72℃、5分間反応させてDNA制限酵素切断面を平滑化した。
【0075】
一方、pBluescript II SK(+)(ストラタジーン社)を含む溶液にSmaI及びEcoRV溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に、その0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、pBluescript II SK(+)/SmaI/EcoRV断片とした。
【0076】
上記のdszABCD を含むDNA断片とpBluescript II SK(+)/SmaI/EcoRV断片を含む溶液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、1時間インキュベートした。
【0077】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間振とうした。得られた大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンエルマー社製)を用いて目的のDNAが挿入されたプラスミドを選別した。このプラスミドをpSKABCと命名した。
【0078】
(2) dszABCD を含むDNA断片の作製
pBluescript II SK(+)(ストラタジーン社)にdszABCD 遺伝子を含む組換えプラスミドpSKABC 溶液を加え、Xba I 及びHind III溶液を添加して37℃、1時間インキュベートし、pBluescript II SK(+)のXbaI及びHind IIIサイトにdszABCD 遺伝子群を組み込んだ。反応液は0.8%アガロースゲル電気泳動にかけ、約5.0kbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解して、dszABCD を含むDNA断片とした。
【0079】
(3) TnKst/EcoRI/Hind III断片の作製
一方、トランスポゾンベクターpTnKstを含むDNA溶液にEcoRI及び、Hind III溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、TnKst/EcoRI/Hind III断片とした。
【0080】
(4) 組換えトランスポゾンTnKAPDSの作製
上記のようにして得られたdszABCDを含むDNA断片溶液、pRHK1/EcoRI/Hind IIIのDNA断片溶液、及び実施例2で得られたKAP1 DNA断片溶液を各等容量ずつ混合し、Ligation High (東洋紡社)を3容加え、よく攪拌した後、16℃、30分間インキュベートした。
【0081】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをカナマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnKAPDS遺伝子溶液とした。このようにして作製したpTnKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnKAPDSと命名した。
【0082】
〔実施例4〕TnKAPDSによるロドコッカス・エリスロポリスMC1109株の形質転換−MC0203株の作製
(1) ロドコッカス・エリスロポリスMC1109株の取得及び同定
500ml容三角フラスコに土壌1gを入れ、汚染が観察されない新鮮軽油50mlと等容量のLB培地を添加して30℃で10日間インキュベートした。得られた軽油添加培養液の1mlを種菌として、500ml容三角フラスコに、新鮮軽油50mlと等容量のLB培地を添加し、これに前記種菌1mlを植菌し、30℃で10日間インキュベートした。同様の継代培養を3回繰り返した。継体培養後の培養液をLB寒天平板に塗布して単一コロニーを分離し、MC1109株と命名した。表2に示した項目についてMC1109株の同定を行い、ロドコッカス・エリスロポリスと同定した。なお、表2から明らかなよう、MC1109株にはオキシダーゼ活性がなく、脱硫能力を有しない。
【0083】
このロドコッカス・エリスロポリスMC1109株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2001年11月12日付けでFERM P−18594 として寄託されている。
【0084】
(2)TnKAPDS による形質転換
500ml容三角フラスコに入った滅菌済みのLB培地100mlにロドコッカス エリスロポリスMC1109株を植菌し、30℃で24時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpm、10分遠心分離し、沈殿を滅菌水にて2回洗浄し、測定波長660nmでの濁度が40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁した。
【0085】
該懸濁液80μlにTnKAPDS トランスポゾン溶液1μlを添加し、ジーンパルサーII(バイオラッド社)を用いて25μF、400Ω、1.5kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地0.42mlを添加し、30℃、3時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000gで遠心分離し、溶液部分を廃棄して等容量のNKII培地(表2)に再懸濁した。
【0086】
【表2】
【0087】
得られた菌懸濁液を100ml容三角フラスコに入ったNKII培地10mlに等容量の4,6−ジエチルジベンゾチオフェン300mg/lを含むテトラデカンを添加し、30℃で72時間培養した。培養液をジベンゾチオフェン25mg/lと寒天15g/lを含むジベンゾチオフェン寒天NKII培地に塗布し、単一コロニーとして取得し、TnKAPDS の形質転換株ロドコッカス・エリスロポリスMC0203株と命名した。
【0088】
このロドコッカス・エリスロポリスMC0203株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2001年11月12日付けで FERM P−18595 として寄託した。
【0089】
〔参考例5〕 組換えトランスポゾンTnGKAPDS の作製
(1) pTnGStの作製
トランスポゾンの抗生物質耐性マーカーとしてゲンタマイシン耐性遺伝子を利用するためにpJQ200(入手先ATCC77482)より前記マーカー遺伝子配列を含むDNA断片を制限酵素SmaI−Hind IIIにより調製した。反応液の一部を1.5%アガロースゲル電気泳動にかけ、約1.4Kbの遺伝子増幅断片が得られたことを確認した。
【0090】
PMODst(参考例1)を制限酵素HpaIで37℃、1時間反応させ、プラスミドDNAを切断した。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離を行い、上層を採取した。採取した上層にその0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解した。上記のpJQ200のDNA 断片とpMODst DNA断片を含む液を等容量ずつ混合し、Ligation high(東洋紡社製)を2容加え、よく攪拌した後、16℃、60分間インキュベートした。
【0091】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02Mグルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とうした。次にゲンタマイシン硫酸塩200ppmを含むLB寒天培地[トリプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム0.5%、バクトアガー1.5%]に塗沫した。ゲンタマイシン耐性を示した大腸菌よりプラスミドを抽出し、これらのプラスミドの塩基配列を310型genetic analyzer(パーキンズエルマー社)を用いて解析し、目的の改変がなされたプラスミドを選別した。このプラスミドをpTnGStと命名した。
【0092】
また、大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをカナマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnKAPDS遺伝子溶液とした。このようにして作製したpTnKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnKAPDSと命名した。
【0093】
(2) TnGst/EcoRI/Hind III断片およびTnKst/EcoRI/Hind III断片の作製
一方、トランスポゾンベクターpTnGstを含むDNA溶液にEcoRIおよび、Hind III溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、TnGst/EcoRI/Hind III断片とし、トランスポゾンベクターpTnKstを含むDNA溶液にEcoRI及び、Hind III溶液を添加し、37℃、1時間インキュベートした。この溶液に等容量のフェノールクロロホルムを加えてよく混ぜた後、4℃、17000gで10分間遠心分離し、上層を採取した。採取した上層に0.1容の3M酢酸ナトリウム水溶液と2.5容のエタノールを加え、析出する沈殿物を遠心分離により回収し、TE緩衝液[0.025M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.025M EDTA :pH8.0]に溶解し、TnKst/EcoRI/Hind III断片とした。
【0094】
(3) 組換えトランスポゾンTnGKAPDSの作製
上記のようにして得られたTnGst/EcoRI/Hind IIIのDNA断片溶液または、TnKst/EcoRI/Hind III断片溶液、dszABCD DNA断片溶液(参考例3参照)、およびkap1DNA断片溶液(参考例1および2参照)を各等容量ずつ混合し、Ligation High (東洋紡社)を3容加え、よく攪拌した後、16℃、30分間インキュベートした。
【0095】
大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをゲンタマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをゲンタマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnGKAPDS遺伝子溶液およびとした。このようにして作製したpTnGKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnGKAPDSと命名した。また、大腸菌JM109株のコンピテントセル(宝酒造社製)に上記反応液を加え、0℃、1時間静置後、42℃、1分間の熱処理を行い、SOC培地[トリプトン2%、酵母エキス0.5%、0.025M 塩化ナトリウム, 0.0025M 塩化カリウム、0.01M 硫酸マグネシウム、0.01M 塩化マグネシウム、0.02M グルコース:pH7.4]を加えて、37℃、1時間、振とう培養した。得られた培養液0.1mlをカナマイシン25mg/l、寒天15g/1を含むLB培地に塗布し、37℃、1昼夜培養した。得られた培養コロニーをカナマイシン25mg/lを含むLB培地1.5mlに植菌し、GFX micro Plasmid kit(アマシャムファルマシア)を用いて調製したプラスミドDNAを、50μl TE緩衝液に溶解し、pTnKAPDS遺伝子溶液とした。このようにして作製したpTnKAPDS遺伝子溶液を制限酵素StuIで37℃、1時間反応後、0.7%アガロースゲル電気泳動にかけ、約6KbのDNA断片をGFX PCR and Gel band Purification kit(アマシャムファルマシア社製)を用いて回収した。回収したDNA溶液に等容量のトランスポゾーム溶液を加え、さらに2容の100%グリセロールを加えてよく混ぜた後、室温にて20分インキュベートした。調製した組換えトランスポゾンをTnKAPDSと命名した。
【0096】
〔参考例6〕マイコバクテリウム sp. NCIMB10403株のTnGKAPDSによる形質転換−MR34株の作製
(1) マイコバクテリウム sp. NCIMB10403株のTnGKAPDSによる形質転換
500ml容三角フラスコに入った滅菌済みのLB培地100mlにマイコバクテリウム属NCIMB10403株(NCIMB:National Collections of Industrial, Food and Marine Bacteria(HYPERLINK ”http://www.suruga−g.co.jp/jp/ncimb/index.html” http://www.suruga−g.co.jp/jp/ncimb/index.html)より入手)を植菌し、30℃で24時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpm、10分遠心分離し、沈殿を滅菌水にて2回洗浄し、測定波長660nmでの濁度が40になるように10%グリセロール水溶液に懸濁した。
【0097】
該懸濁液80μlにTnGKAPDS トランスポゾン溶液1μlを添加し、ジーンパルサーII(バイオラッド社)を用いて25μF、400Ω、1.5kV/cmの条件で処理した。処理液にSOC培地0.42mlを添加し、30℃、3時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000gで遠心分離し、溶液部分を廃棄して等容量のNKIII培地(表3)に再懸濁した。
【0098】
【表3】
【0099】
得られた菌懸濁液を、100ml容三角フラスコに入った培地(NKIII培地から硫黄源のみを除いた培地10mlに同容の4,6−ジエチルジベンゾチオフェン300mg/lを含むテトラデカンを添加したもの)に添加し、30℃で72時間培養した。培養液をジベンゾチオフェン25mg/lと寒天15g/lを含むジベンゾチオフェン寒天NKIII培地に塗布し、単一コロニーとして取得した。このNCIMB10403株のTnGKAPDS による形質転換株をマイコバクテリウムMR34株と命名した。
【0100】
このマイコバクテリウムMR34株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、2003年2月7日付けで FERM P−19205として寄託した。
【0101】
〔実施例1〕マイコバクテリウムMR34株およびロドコッカスMC203株による軽油の脱硫試験
(1)試験方法
NKII培地(表2)およびNKIII培地(表3)2mlに、それぞれロドコッカスMC0203株およびマイコバクテリウムMR34株1白菌耳量をそれぞれ、植菌し、30℃で24時間培養した培養液1mlを上記と同じ組成の培地100mlに移植し、さらに30℃で48時間培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpmで 5分間遠心分離後、得られた沈殿をpH7.2の10mMリン酸緩衝液で2回洗浄し、100ppm MgCl2および10g/Lグルコースを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.2) に懸濁して反応用菌体とした。この反応用菌体の測定波長660nmでの濁度(OD660)は60であった。
【0102】
脱硫活性反応は、ロドコッカスMC0203株菌およびマイコバクテリウムMR34株の反応用菌体がそれぞれ8ml入った100mlの三角フラスコに、3種類の軽油(B−LGO:硫黄濃度406 mg/l、F−LGO:硫黄濃度 122 mg/l、C−LGO:硫黄濃度18 mg/l)を4分の1容量(2ml)加え、37℃、150spmで往復振とうして実施した。それぞれの菌株の菌体濃度はOD660は30であった。
【0103】
また、ロドコッカスMC0203株菌の反応用菌体8mlを用いて同様に脱硫反応を行った後、脱硫後の油層のみを分離し、続けてマイコバクテリウムMR34株の反応用菌体8mlを加えて同様に脱硫反応を行った。さらに、比較試験として、1種類の菌株の反応用菌体のみ8mlを用いて、同様の方法で脱硫活性試験を行った。
【0104】
(2) 脱硫反応の測定
脱硫率の測定は軽油中の残存硫黄濃度はパイロ蛍光法硫黄分析機(7000S Antec Instruments, Inc., Texas, USA)を用いて測定し、残存する硫黄化合物は、GC−AEDにより測定した。
GC−AEDの測定は下記の条件で行った。
【0105】
〔GC−AED 測定条件〕
装置:HP 589A ガスクロマトグラフィー、 HP 5921A 検出器
(Hewlett−Packard, Wilmington, DE USA)
カラム:HP−1 (25 mx0.32mmi.d.)
インジェクター、キャビティ温度:250 ℃
カラム温度:60℃〜250 ℃、5 ℃/min
【0106】
(3) 結果
結果を表4および図1に示した。
【表4】
【0107】
表4に示されるように、2種類の組換え脱硫菌を用いた場合、それぞれ1種類の菌株を単独で用いた場合に比較して、3種類の軽油のいずれについても残存硫黄濃度は低く、高い脱硫率が達成された。すなわち、2種類の組換え脱硫菌を用いることにより、それぞれ1種類の脱硫菌では、菌体濃度、撹拌条件等の種々の脱硫反応条件を改良しても到達できない高い脱硫率を得ることが可能になった。なお、2種類の脱硫菌を順次用いた場合でも、これらを同時に用いた場合と同様の結果が得られた。なお、表4にはMC0203株を先に用いた結果を示したが、MR34株を先に用いた場合でも同様の結果がえられる。
【0108】
〔実施例2〕MR34株とMC0203株によるアルキル化ジベンゾチオフェン類に対する脱硫活性特性試験
(1)試験方法
マイコバクテリウムMR34株およびロドコッカス・エリスロポリスMC0203 株をそれぞれ実施例1と同様の方法で培養した。得られた培養液を4℃、10,000rpmで5分間遠心分離後、沈殿をpH7.2の10mMリン酸緩衝液で2回洗浄し、100ppmMgCl2および10g/Lグルコースを含む0.2Mリン酸緩衝液(pH7.2) に懸濁して反応用菌体を作製した。この菌体溶液OD660は30であった。
【0109】
脱硫活性反応は、上記反応用菌体が5ml入った100mlの三角フラスコに、ジベンゾチオフェン、4,6−ジエチルジベンゾチオフェン、4,6−ジプロピルじベンゾチオフェンまたは2,4,6,8−テトラエチルジベンゾチオフェンをそれぞれ1.4mM濃度でn−ヘキサデカンに溶解したものを等容量(5ml)加え、37℃、150spmで往復振とうして、反応させた。反応時間は基質によって、脱硫の難易度が異なるので、それぞれの脱硫率が50%を越えない時間実施した。
【0110】
(2) 脱硫活性測定
脱硫活性測定は、以下の条件で高速液体クロマトグラフィーにより、ヘキサデカン中のアルキル化ジベンゾチオフェン量を測定することにより行い、菌体量は乾燥菌体重量(g)を測定して、比活性値として示した。結果を表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
(3) 結果
表5から明らかなように、MR34株とMC0203株はジベンゾチオフェンの側鎖の数または長さによって、異なる脱硫比活性を示した。すなわち、MC0203株は側鎖のないジベンゾチオフェンに対して高い脱硫比活性を示したが、アルキル側鎖の長さが長いほど、またその数が多いほど、脱硫比活性が低いことが確認された。一方、MR34株はアルキル側鎖が長く、またその数が多いジベンゾチオフェンに対しても、高い脱硫比活性を示すことが確認された。
【0113】
この結果は、含硫複素環式化合物の膜透過に関する特性は各菌株によって様々で、油中の含硫複素環式化合物の脱硫活性が菌体膜透過性に大きく影響を受けることを示している。つまり、脱硫活性を上げるためには含硫複素環式化合物に対して高い菌体膜透過性を有する組換え微生物を作製し、これを用いることが望ましいが、1種類の菌株で多くの含硫複素環式化合物をすべて効率よく脱硫することは困難であると考えられた。
【0114】
【発明の効果】
本発明によれば、化石燃料中に含有されるジベンゾチオフェン類、ベンゾチオフェン類、ベンゾテトラナフチールチオフェン類、ベンゾナフチルチオフェン類などの含硫複素環式化合物を含む化石燃料油の脱硫率を上げることができる。
【0115】
【配列表】
【0116】
【配列表フリーテキスト】
配列番号2:プライマー
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:dszABCD
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、脱硫活性試験結果(GC−AEDクロマトグラム)を示すグラフである。各グラフは、(a)脱硫前のB−LGO、(b)2種類の菌株(MR34とMC2030)による脱硫反応、(c)MC2030株のみによる脱硫反応、(d)MR34株のみによる脱硫反応の結果を示す。
Claims (11)
- 硫酸イオンの抑制を受けることなく恒常的に発現するプロモーター、およびC−S結合を選択的に切断する酵素をコードする脱硫遺伝子を、宿主微生物に機能しうる態様で導入した組換え微生物を2種類以上用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
- プロモーターが、kap1プロモーター(配列番号1)である、請求項1記載の方法。
- 脱硫遺伝子が、ロドコッカス属IGTS8株由来の脱硫遺伝子、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属AD109株由来の分解遺伝子、ペニバチルス属A11−1株(FERM BP−6025)由来の脱硫遺伝子、および同A11−2株(FERM BP−26)由来の脱硫遺伝子からなる群より選ばれるいずれか1の脱硫遺伝子である、請求項1または2に記載の方法。
- 脱硫遺伝子が、ロドコッカス属KA2−5−1株由来の脱硫遺伝子dsz ABCD(配列番号6)である、請求項3に記載の方法。
- 宿主微生物の少なくとも1種が、マイコバクテリウム属に属する微生物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 宿主微生物の少なくとも1種が、ロドコッカス属に属する微生物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 宿主微生物が、マイコバクテリウム属に属する微生物、およびロドコッカス属に属する微生物の2種類の微生物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- マイコバクテリウム属に属する微生物が、マイコバクテリウム属 NCIMB10403株またはそれと実質的に同等の菌学的性質を有する細菌である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
- ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス属MC1109株(FERM P−18594)またはそれと実質的に同等の菌学的性質を有する細菌である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
- マイコバクテリウム属MR34株(FERM−P−19205)、およびロドコッカス属MC0203株(FERM P−18595)の2種類の組換え微生物を用いることを特徴とする、含硫複素環式化合物の脱硫方法。
- マイコバクテリウム属MR34株(FERM−P−19205)。
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JP2011223925A (ja) * | 2010-04-20 | 2011-11-10 | Mitsubishi Rayon Co Ltd | ロドコッカス細菌のためのランダムゲノム挿入及び欠失ツール |
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2003
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