JP2004111331A - 転位撚線向け巻線装置および巻線方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】転位長さの長い転位撚線を曲げ半径の差が大きいドラム間で巻きつけても、転位部に生じる歪を小さく抑えることを可能にする転位撚線向け巻線装置および巻線方法を提供する。
【解決手段】中間ドラム13は、比較的直径の大きい繰り出しドラム11即ち曲げ半径の大きい曲面から、直径の小さい巻取ドラム12即ち曲げ半径の小さい曲面に転位撚線15を巻きつける際に、転位撚線15を構成する線材同士のズレを緩和して、巻取ドラム12に巻き付けられた転位撚線15が歪んだり、膨らんだりすることを防止する。
【選択図】 図1
【解決手段】中間ドラム13は、比較的直径の大きい繰り出しドラム11即ち曲げ半径の大きい曲面から、直径の小さい巻取ドラム12即ち曲げ半径の小さい曲面に転位撚線15を巻きつける際に、転位撚線15を構成する線材同士のズレを緩和して、巻取ドラム12に巻き付けられた転位撚線15が歪んだり、膨らんだりすることを防止する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、線材が転位撚り合わせされた転位撚線向け巻線装置および巻線方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
超電導ケーブルに交流電流を通電した時の偏流を抑制する方法として、複数本のテープ状超電導素線を転位撚り合わせした転位撚線構造が知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−203958号公報
【0004】
図13に示すように、例えば複数本のテープ状の線材101を転位撚り合わせした転位撚線102は、特定の線材101が、隣接する他の線材101の上に向かって渡る転位部103を形成している。例えば線材101が柔軟性に富んだ例えば金属材料で構成される場合には、線材101の幅を2mm程度とすれば、転位部103の長さPを100mm程度に設定できる。しかし、例えば、超電導ケーブルなどに用いられる超電導性を示す線材の場合、線材の材料として金属酸化物など剛性が高く柔軟性に乏しい高剛性の材料から構成されることが多いため、線材101の幅が2mm程度であっても、転位部103の長さPを少なくとも500mm程度に設定しなければならない。
【0005】
図14に示すように、こうした転位撚線102を例えばドラム104の周面などの曲面に巻きつけた場合、転位部103における隣接した線材101どうしの厚さ方向での曲げ径の差によって転位撚線102に歪が生じる。この転位部103で生じた歪によって、転位撚線102の端部では隣接した線材101の間で長さQの分だけズレ105が発生する。したがって転位部103に生じる歪は、転位部103の長さPが長くなるほど顕著に大きくなる。また、ドラム104の曲げ半径が小さくなるほど転位部103に生じる歪は顕著に大きくなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
近年、超電導材料など剛性の高い線材から構成された高剛性の転位撚線を、曲げ半径の小さいドラムに巻きつける事例が多くなりつつある。こうした高剛性の転位撚線は転位部の長さを長く設定する必要があるため、曲げ半径の小さいドラムに巻きつけると転位部に生じる歪は更に大きくなる。特に、転位撚線を構成する複数の線材をポリイミドテープなど絶縁テープでスパイラル状に束ねて、転位部の耐圧特性の向上を図っている場合、この転位部で線材が盛り上がったり意図しない方向に屈曲してしまい、形状の維持が不可能になるばかりでなく、抵抗値の増加や導通不良など転位撚線の特性劣化が懸念される。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、転位長さの長い転位撚線を曲げ半径の差が大きいドラム間で巻きつけても、転位部に生じる歪を小さく抑えることを可能にする転位撚線向け巻線装置および巻線方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明では、第1直径の第1ドラムに巻かれた線材が転位撚り合わせされた転位撚線を、前記第1直径よりも小さい第2直径の第2ドラムに向けて繰り出し、前記第2ドラムに巻きつける転位撚線向け巻線装置において、前記第1ドラムと前記第2ドラムとの間に、前記第1直径よりも小さく且つ前記第2直径よりも大きい直径をもつ中間ドラムを少なくとも1つ以上を備え、前記第1ドラムから繰り出された前記転位撚線を前記中間ドラムに沿わせてから前記第2ドラムに巻きつけることを特徴とする転位撚線向け巻線装置が提供される。
【0009】
また、線材が転位撚り合わせされた転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪を生じる繰り出しドラムと、前記転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪よりも大きい第2の歪を生じる巻取ドラムと、前記転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪よりも大きくかつ第2の歪よりも小さい第3の歪を生じる緩衝用の中間ドラムとを備え、前記転位撚線を前記繰り出しドラムから繰り出して前記中間ドラムを介して前記巻取ドラムに巻きつけることを特徴とする転位撚線向け巻線装置が提供される。
【0010】
このような転位撚線向け巻線装置によれば、繰り出しドラム(第1ドラム)から繰り出される転位撚線を、直径差の大きい巻取ドラム(第2ドラム)に直接巻きつけずに、中間ドラム(緩衝ドラム)を介して巻きつける。従って、転位撚線が巻取ドラムで発生する線材間の歪は、繰り出しドラムと巻取ドラムとの大きい直径差に起因して生ずる歪でなく、中間ドラムと巻取ドラムとの小さな直径差によって生ずる歪に抑えられる。転位撚線に膨らみや反りが発生したりすることは効果的に防止され、抵抗値の増加や導通不良を防ぐことができる。
【0011】
また、本発明では、線材が転位撚り合わせされた転位撚線が巻かれた第1直径のドラムから転位撚線を繰り出す繰出工程と、前記第1直径よりも小さい第2直径のドラムに前記転位撚線を巻き取る巻取工程と、前記繰出工程および巻取工程の間にあって、前記第1直径よりも小さく且つ前記第2直径よりも大きい第3直径のドラムに前記転位撚線を沿わせる緩衝工程とを備えたことを特徴とする転位撚線向け巻線方法が提供される。
【0012】
このような転位撚線向け巻線方法によれば、繰出工程のドラムから繰り出される転位撚線を、直径差の大きい巻取工程のドラムに直接巻きつけずに、緩衝工程のドラムを介して巻きつけるので、転位撚線が巻取ドラムで発生する線材間の歪を、繰出工程のドラムと巻取工程のドラムとの大きい直径差に起因して生ずる歪でなく、緩衝工程のドラムと巻取工程のドラムとの小さな直径差によって生ずる歪に抑えられる。転位撚線に膨らみや反りが発生したりすることは効果的に防止され、抵抗値の増加や導通不良を防ぐ方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る転位撚線向け巻線装置の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の巻線装置の概要を示す説明図である。巻線装置10は、繰り出しドラム(第1ドラム)11と、巻取ドラム(第2ドラム)12と、中間ドラム(緩衝ドラム:第3ドラム)13とを備えている。回転軸30を中心に回転する繰り出しドラム11には、例えば高剛性の転位撚線15が巻きつけられており、巻取ドラム12に向けて転位撚線15を供給する(繰出工程)。この転位撚線15は、図2に示すように、複数本(図面では12本)のテープ状の線材16同士が互いに転位撚り合わせてなる長尺の帯状のものである。これらの複数本のテープ状の線材16は撚り合わす際に、各線材16がその長尺方向において、順次その位置を代えて転位するように撚り合わされたものである。この線材16の撚り合わせ部分、即ち特定の線材16が隣接する線材16の上に向かって渡る部分は転位部25を形成する。例えば線材16が金属酸化物など剛性が高く柔軟性に乏しい性質の材料から構成される場合、線材16の幅を2mm程度にすると、転位部25の長さPは少なくとも500mm程度に設定される。
【0014】
図3に示すように、テープ状の線材16は、テープ状の超電導素線17と、この超電導素線17の表面に硫化処理が施された高抵抗化膜18とからなる。線材16の横断面形状は、矩形状とすることが好ましい。線材16の具体的寸法は、例えば幅1.0mm〜10.0mm程度、厚さ0.1mm〜1.0mm程度の範囲のものとされる。高抵抗化膜18は、例えば硫化物からなるものであり、このなかでも硫化銀からなることが好ましい。最近では紫外線硬化型樹脂を被膜するケースもある。
【0015】
超電導素線17は、図4に示すような超電導多心素線(超電導素線)21が平坦化されてなるものである。超電導素線17の横断面形状は、矩形状とすることが好ましい。この超電導素線17は、例えば幅1.0mm〜10.0mm程度、厚さ0.1mm〜1.0mm程度の範囲のものとされる。超電導多心素線21は、超電導フィラメントなどの複数本の超電導体22からなるコア部23がシース材からなる基地24の内部に備えられてなるものである。
【0016】
コア部23の超電導体22は熱処理により超電導体となる材料であってもよい。超電導体22の材料としては、単体では機械的に脆い性質を有する超電導材料が挙げることができ、例えば、Bi2Sr2Ca1Cu2Ox (Bi2212相)、Bi2Sr2Ca2Cu3Oy(Bi2223相)、Bi1.6Pb0.4Sr2Ca2Cu3Ox 、Tl2Ba2Ca2Cu3Oy 、Y1Ba2Cu3O7−xなどで示される組成をもつ酸化物超電導材料のような高温超電導材料や、Nb3Sn、Nb3Alなどで示される組成をもつ超電導材料のうちから選択された一種以上のものが用いられ、特に、Bi系2223相またはBi系2212相のBi系酸化物超電導材料が用いられる。基地24を形成するシース材としては、Ag,Pt,Au等の貴金属あるいはそれらの合金からなるものが用いられる。
【0017】
再び図1を参照して、繰り出しドラム11はR1の直径で形成され、例えばモータ等の動力源によって回転されれば良い。繰り出しドラム11から繰り出された転位撚線15は、中間ドラム13を経て、繰り出しドラム11の直径R1よりも小径の直径R2で形成される巻取ドラム12に巻き取られる(巻取工程)。回転軸26を中心に回転する巻取ドラム12は巻線装置10に着脱自在にセットされる。巻取ドラム12は、例えば超電導コイルの巻枠、配線用ドラムなどが挙げられる。
【0018】
中間ドラム13は、転位撚線15が繰り出しドラム11から繰り出され巻取ドラム12に巻き取られるまでの移動経路の途上に設置される。回転軸27を中心に回転するこの中間ドラム13は、繰り出しドラム11の直径R1よりも小さく、且つ巻取ドラム12の直径R2よりも大きい直径R3で形成される。よって、直径の異なる多種の巻取ドラム12に転位撚線15を巻きつける場合、その都度、巻取ドラム12の直径R2に対応した直径の中間ドラム13に交換すればよい。転位撚線15は中間ドラム13の周面の一部に沿わせるだけでもよく、中間ドラム13に任意の回数だけ巻き付けてもよい。
【0019】
こうした中間ドラム13は、比較的直径の大きい繰り出しドラム11、即ち曲げ半径の大きい曲面から、直径の小さい巻取ドラム12即ち曲げ半径の小さい曲面に転位撚線15を巻きつける際に、転位撚線15を構成する線材16同士のズレを緩和して、巻取ドラム12に巻き付けられた転位撚線15が歪んだり、膨らんだりすることを防止する(緩衝工程)。
【0020】
例えばいま、ある直径のドラムAからそれよりも小さい直径のドラムBに転位撚線を巻きつける場面を想定すると、ドラムAとドラムBとの直径の差が大きいほど、巻きつけた転位撚線に生じる歪は大きくなる。こうした歪の発生は転位撚線で直接繋がっている隣接するドラムにのみ影響を与える。
【0021】
線材16の転位部25(図2参照)を図5に示す直径R1(第1直径)の繰り出しドラム11の曲面(周面)に沿わせた時に発生する線材16の曲げ径の差による線材16どうしの歪(第1の歪)をS1、転位部25を直径R1よりも小さい直径R2(第3直径)の中間ドラム13の曲面(周面)に沿わせた時に発生する歪(第3の歪)をS2、転位部25を直径R2よりも小さい直径R3(第2直径)の巻取ドラム12の曲面(周面)に沿わせた時に発生する歪(第2の歪)をS3とすると、歪の大きさは各ドラムの直径に反比例してS3>S2>S1となる。そして、直径の異なるドラム間で転位撚線を巻きつけた際に生ずるの歪は、それぞれのドラムで発生する歪同士の差になる。
【0022】
従って、本発明のように、繰り出しドラム11の転位撚線15を中間ドラム13を介して巻取ドラム12に巻きつけた場合、巻取ドラム12に巻き取られた転位撚線15の歪はS3とS2との差になる。一方、従来のように繰り出しドラム11の転位撚線15を直接巻取ドラム12に巻き付けた場合の転位撚線15に生ずる歪はS3とS1との差になる。S3とS1との差よりもS3とS2との差の方が大幅に小さいので、繰り出しドラム11から転位撚線15を巻取ドラム12に巻きつけたときに生じる線材16どうしの歪は大幅に低減される。直径差の大きいドラム間で転位撚線15を巻きつけても、転位撚線15に膨らみや反りが発生したりすることは効果的に防止される。また、繰り出しドラム11と中間ドラム13との間隔L1、および中間ドラム13と巻取ドラム12との間隔L2は、それぞれ転位部25の長さP以上に設定されれば良い。
【0023】
【実施例】
本出願人は、線材間での歪を抑えるのに有効な中間ドラムの半径を見出す検証を行うのに先立って、転位撚線をある曲げ径のドラムに巻きつけた時の転位撚線の挙動を考察した。図6に示すように、一定間隔で結束テープ31が巻きつけられた転位撚線15をある曲げ径のドラム32に巻きつけると、転位撚線15の繰り出し方向に線材の緩み33となって現れる。この線材の緩み33は転位撚線15の曲げ歪の負荷に相当するため、緩み33が最大となったときの歪の量を調査した。
【0024】
こうした調査に用いた転位撚線15のモデルは線材6本撚りの構造を採用し、図7に示すように、転位部の長さP、各線材の厚みtの転位撚線15の転位部が半径rのドラムに巻かれた状態を想定した。このモデルでは、転位の過程で積層する線材の層数が最大になるのは4層であると考えられる。この場合、曲げ負荷時における転位部の中立軸は2層目と3層目の線材の間に存在しており、1つの転位部あたりの中立軸と最上層の線材とのズレは(3tP)/(2r)で表される。転位撚線15を半径rのドラムに巻き付けた場合、線材が転位部の最上層を経る時に、この長さ分だけ繰り出し方向にズレることになる。
【0025】
図8に示すような転位撚線15の配置を想定して、各位置での中立軸とのズレをtP/rで規格化した結果を図9に示す。図中のマイナス値は巻取り方向へのズレを、プラス値は繰り出し方向へのズレをそれぞれ示している。6本撚り転位撚線を構成する、ある1本の線材に着目すると、この線材は転位部を6回経ることで最初の位置に戻る。いま、図8に示したような、ある地点でA,B,C,D,E,Fの位置にある6本の線材を例にとると、それぞれの線材が6回転位部を経るにつれてA,B,C,D,E,Fの位置を順次経由してこれを繰り返す。
【0026】
図10に6本撚りの転位撚線を構成する1〜6の各線材が、1〜6番目の転位部を経過する毎に生じるズレの計算結果を示す。また、図10の1〜6の各線材が1〜6番目の転位部を順次経過した時点でのズレは、それまで経てきた転位部の各地点で生じたズレの積算であるから、1〜6の各線材の各転位部でのズレの積算結果を図11に示す。これら図10、図11の結果から、6本撚りの転位撚線における各線材のズレが最大になるのは、3つの転位部を経た時点であり、そのズレ量は(5tP)/(2r)であることが検証された。図10、図11の線材1,3,6番について、そのズレの変化を図12に示した。
【0027】
以上のような転位撚線を構成する各線材に生じるズレの検証結果を踏まえて、本出願人は、直径の異なるドラム間で転位撚線を巻きつける際に、線材間での歪を抑えるのに有効な中間ドラム(緩衝ドラム)の半径を見出す検証を実施した。まず、転位撚線を構成する線材の本数別に、線材間で発生するズレ量を算出する数式を検証した。転位撚線を構成する線材の本数が4a(aは自然数)本の場合の線材間のズレ量Sを求める数式を以下の(1)式に示す。また、転位撚線を構成する線材の本数が4a−2(aは自然数)本の場合の線材間のズレ量Sを求める数式を以下の(2)式に示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R=転位撚線の曲げ半径である。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
また、転位撚線を構成する線材の本数が3,5,7,9,11本の場合の線材間のズレ量Sを求める数式を以下の(3)式,(4)式,(5)式,(6)式,(7)式にそれぞれ示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R=転位撚線の曲げ半径である。
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
【数6】
【0035】
【数7】
【0036】
本出願人は、上述したズレの算出式に基づいて、曲げ半径の異なる複数のドラムに転位撚線を巻きつけて、転位部に膨らみが発生するか否かを検証した。検証にあたって、転位部の長さが100mm、線材の厚みが0.3mmの6本撚り高剛性転位撚線を準備した。
【0037】
検証の結果、上述した検証用の高剛性の転位撚線を曲げ半径が100mm未満のドラムに巻きつけると、転位部に膨らみが発生した。この時(曲げ半径が100mm)の線材間のズレ量を上述した(2)式に基づいて計算すると、0.75mmになる。つまり、上述した検証用の転位撚線の場合、ズレの最大値が0.75mmより大きくなると、転位部に異常が生じることが判明した。
【0038】
つまり、ドラムAからドラムBに向けて上述した検証用の転位撚線を巻きつける場合、ドラムBのズレとドラムAのズレを0.75mm以下に抑えれば、高剛性の転位撚線の転位部に異常が生じるのを防止できることが判明した。
【0039】
こうした結果に基づいて、線材の本数が4a(aは自然数)本の転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける時に、線材間のズレが0.75mm以下となる条件を満たす数式を以下の(8)式に示す。また、線材の本数が4a−2(aは自然数)本の転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける時に、線材間のズレが0.75mm以下の条件を満たす数式を以下の(9)式に示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R1=繰り出し側の転位撚線の曲げ半径、R2=巻取側の転位撚線の曲げ半径である。
【0040】
【数8】
【0041】
【数9】
【0042】
また、線材の本数が3,5,7,9,11本の転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける時に、線材間のズレが0.75mm以下の条件を満たす数式を以下の(10)式,(11)式,(12)式,(13)式,(14)式に示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R1=繰り出し側の転位撚線の曲げ半径、R2=巻取側の転位撚線の曲げ半径である。
【0043】
【数10】
【0044】
【数11】
【0045】
【数12】
【0046】
【数13】
【0047】
【数14】
【0048】
転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける際には、上述した数式に基づいて、ドラムBとドラムAとのズレの差が0.75mm以下になるように、それぞれのドラムの半径を設定する必要がある。
【0049】
以上の検証から、繰り出しドラム11から中間ドラム13を経て巻取ドラム12に向けて転位撚線を巻きつける場合には、繰り出しドラム−中間ドラム間のズレの差、および中間ドラム−巻取ドラム間のズレの差がいずれも0.75mm以下になるように、上述した数式に基づいて繰り出しドラム11、中間ドラム13および巻取ドラム12のそれぞれの直径を設定すれば、転位撚線15の転位部25に膨らみを生じることを防止できることが見出された。
【0050】
本出願人は、6本転位撚線で転位部長さ200mm、厚み0.3mm、幅2mmの超電導線材から構成した高剛性転位撚線を直径120mmの巻き枠に巻き付けて超電導マグネットを試作した。超電導マグネットの概要は導体長312mm、高さ300mm、内径120mm、外形150mm、層数14である。こうした超電導マグネットを試作する際に、本発明例として直径260mmの繰り出しドラムから直径160mmの中間ドラムを介してドラム内径に等しい直径120mmのコイル巻き枠(巻取ドラム)に上述した仕様の高剛性の転位撚線を巻きつけた。
【0051】
こうした本発明例では、コイル巻き枠での線材間のズレは、260mmのドラムから160mmのドラムに巻きつけられた時には0.71mm、160mmのドラムから120mmのドラムに巻きつけられた時には0.61mmといずれも0.75mm以下であった。本発明によれば、転位部に膨らみを生じさせることなく高剛性の転位撚線をコイル巻き枠(巻取ドラム)に巻きつけることが可能であることが確認された。
【0052】
また、比較例として、直径260mmの繰り出しドラムから直径120mmのコイル巻き枠(巻取ドラム)に向けて上述した仕様の高剛性の転位撚線を直接巻きつけた。こうした比較例では、コイル巻き枠での線材間のズレの値は1.33mmと0.75mm以上であり、高剛性の転位撚線の転位部には膨らみが生じていた。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の転位撚線向け巻線装置および巻線方法によれば、転位長さの長い高剛性の転位撚線を曲げ半径の差が大きいドラム間で巻きつけても、転位部に生じる歪を小さく抑えることを可能にする転位撚線向け巻線装置および巻線方法は提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である転位撚線向け巻線装置を示す平面図である。
【図2】図2は、転位撚線の部分斜視図である。
【図3】図3は、転位撚線を構成する線材を示す断面図である。
【図4】図4は、超電導多心素線(超電導素線)を示す部分斜視図である。
【図5】図5は、転位撚線向け巻線装置の作用を示す説明図である。
【図6】図6は、転位撚線をある曲げ径のドラムに巻きつけた時の線材の緩みを示す説明図である。
【図7】図7は、転位撚線の中立軸と線材のズレを示す説明図である。
【図8】図8は、転位撚線のズレを検証するにあたって採用した6本撚り転位撚線のモデルを示す断面図である。
【図9】図9は、各位置での中立軸とのズレをtP/rで規格化した結果を示す表である。
【図10】図10は、各線材が転位部を経過する毎に生じるズレの計算結果を示す表である。
【図11】図11は、各線材が転位部を経過する毎に生じるズレを積算した計算結果を示す表である。
【図12】図12は、線材のズレの挙動を示したグラフである。
【図13】図13は、一般的な転位撚線を示す部分斜視図である。
【図14】図14は、従来の巻線装置によって転位撚線に生じたズレを示す説明図である。
【符号の説明】
10 巻線装置、11 繰り出しドラム(第1ドラム)、12 巻取ドラム(第2ドラム)、13 中間ドラム(第3ドラム)、15 転位撚線、16 線材、25 転位部
【発明の属する技術分野】
本発明は、線材が転位撚り合わせされた転位撚線向け巻線装置および巻線方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
超電導ケーブルに交流電流を通電した時の偏流を抑制する方法として、複数本のテープ状超電導素線を転位撚り合わせした転位撚線構造が知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−203958号公報
【0004】
図13に示すように、例えば複数本のテープ状の線材101を転位撚り合わせした転位撚線102は、特定の線材101が、隣接する他の線材101の上に向かって渡る転位部103を形成している。例えば線材101が柔軟性に富んだ例えば金属材料で構成される場合には、線材101の幅を2mm程度とすれば、転位部103の長さPを100mm程度に設定できる。しかし、例えば、超電導ケーブルなどに用いられる超電導性を示す線材の場合、線材の材料として金属酸化物など剛性が高く柔軟性に乏しい高剛性の材料から構成されることが多いため、線材101の幅が2mm程度であっても、転位部103の長さPを少なくとも500mm程度に設定しなければならない。
【0005】
図14に示すように、こうした転位撚線102を例えばドラム104の周面などの曲面に巻きつけた場合、転位部103における隣接した線材101どうしの厚さ方向での曲げ径の差によって転位撚線102に歪が生じる。この転位部103で生じた歪によって、転位撚線102の端部では隣接した線材101の間で長さQの分だけズレ105が発生する。したがって転位部103に生じる歪は、転位部103の長さPが長くなるほど顕著に大きくなる。また、ドラム104の曲げ半径が小さくなるほど転位部103に生じる歪は顕著に大きくなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
近年、超電導材料など剛性の高い線材から構成された高剛性の転位撚線を、曲げ半径の小さいドラムに巻きつける事例が多くなりつつある。こうした高剛性の転位撚線は転位部の長さを長く設定する必要があるため、曲げ半径の小さいドラムに巻きつけると転位部に生じる歪は更に大きくなる。特に、転位撚線を構成する複数の線材をポリイミドテープなど絶縁テープでスパイラル状に束ねて、転位部の耐圧特性の向上を図っている場合、この転位部で線材が盛り上がったり意図しない方向に屈曲してしまい、形状の維持が不可能になるばかりでなく、抵抗値の増加や導通不良など転位撚線の特性劣化が懸念される。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、転位長さの長い転位撚線を曲げ半径の差が大きいドラム間で巻きつけても、転位部に生じる歪を小さく抑えることを可能にする転位撚線向け巻線装置および巻線方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明では、第1直径の第1ドラムに巻かれた線材が転位撚り合わせされた転位撚線を、前記第1直径よりも小さい第2直径の第2ドラムに向けて繰り出し、前記第2ドラムに巻きつける転位撚線向け巻線装置において、前記第1ドラムと前記第2ドラムとの間に、前記第1直径よりも小さく且つ前記第2直径よりも大きい直径をもつ中間ドラムを少なくとも1つ以上を備え、前記第1ドラムから繰り出された前記転位撚線を前記中間ドラムに沿わせてから前記第2ドラムに巻きつけることを特徴とする転位撚線向け巻線装置が提供される。
【0009】
また、線材が転位撚り合わせされた転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪を生じる繰り出しドラムと、前記転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪よりも大きい第2の歪を生じる巻取ドラムと、前記転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪よりも大きくかつ第2の歪よりも小さい第3の歪を生じる緩衝用の中間ドラムとを備え、前記転位撚線を前記繰り出しドラムから繰り出して前記中間ドラムを介して前記巻取ドラムに巻きつけることを特徴とする転位撚線向け巻線装置が提供される。
【0010】
このような転位撚線向け巻線装置によれば、繰り出しドラム(第1ドラム)から繰り出される転位撚線を、直径差の大きい巻取ドラム(第2ドラム)に直接巻きつけずに、中間ドラム(緩衝ドラム)を介して巻きつける。従って、転位撚線が巻取ドラムで発生する線材間の歪は、繰り出しドラムと巻取ドラムとの大きい直径差に起因して生ずる歪でなく、中間ドラムと巻取ドラムとの小さな直径差によって生ずる歪に抑えられる。転位撚線に膨らみや反りが発生したりすることは効果的に防止され、抵抗値の増加や導通不良を防ぐことができる。
【0011】
また、本発明では、線材が転位撚り合わせされた転位撚線が巻かれた第1直径のドラムから転位撚線を繰り出す繰出工程と、前記第1直径よりも小さい第2直径のドラムに前記転位撚線を巻き取る巻取工程と、前記繰出工程および巻取工程の間にあって、前記第1直径よりも小さく且つ前記第2直径よりも大きい第3直径のドラムに前記転位撚線を沿わせる緩衝工程とを備えたことを特徴とする転位撚線向け巻線方法が提供される。
【0012】
このような転位撚線向け巻線方法によれば、繰出工程のドラムから繰り出される転位撚線を、直径差の大きい巻取工程のドラムに直接巻きつけずに、緩衝工程のドラムを介して巻きつけるので、転位撚線が巻取ドラムで発生する線材間の歪を、繰出工程のドラムと巻取工程のドラムとの大きい直径差に起因して生ずる歪でなく、緩衝工程のドラムと巻取工程のドラムとの小さな直径差によって生ずる歪に抑えられる。転位撚線に膨らみや反りが発生したりすることは効果的に防止され、抵抗値の増加や導通不良を防ぐ方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る転位撚線向け巻線装置の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の巻線装置の概要を示す説明図である。巻線装置10は、繰り出しドラム(第1ドラム)11と、巻取ドラム(第2ドラム)12と、中間ドラム(緩衝ドラム:第3ドラム)13とを備えている。回転軸30を中心に回転する繰り出しドラム11には、例えば高剛性の転位撚線15が巻きつけられており、巻取ドラム12に向けて転位撚線15を供給する(繰出工程)。この転位撚線15は、図2に示すように、複数本(図面では12本)のテープ状の線材16同士が互いに転位撚り合わせてなる長尺の帯状のものである。これらの複数本のテープ状の線材16は撚り合わす際に、各線材16がその長尺方向において、順次その位置を代えて転位するように撚り合わされたものである。この線材16の撚り合わせ部分、即ち特定の線材16が隣接する線材16の上に向かって渡る部分は転位部25を形成する。例えば線材16が金属酸化物など剛性が高く柔軟性に乏しい性質の材料から構成される場合、線材16の幅を2mm程度にすると、転位部25の長さPは少なくとも500mm程度に設定される。
【0014】
図3に示すように、テープ状の線材16は、テープ状の超電導素線17と、この超電導素線17の表面に硫化処理が施された高抵抗化膜18とからなる。線材16の横断面形状は、矩形状とすることが好ましい。線材16の具体的寸法は、例えば幅1.0mm〜10.0mm程度、厚さ0.1mm〜1.0mm程度の範囲のものとされる。高抵抗化膜18は、例えば硫化物からなるものであり、このなかでも硫化銀からなることが好ましい。最近では紫外線硬化型樹脂を被膜するケースもある。
【0015】
超電導素線17は、図4に示すような超電導多心素線(超電導素線)21が平坦化されてなるものである。超電導素線17の横断面形状は、矩形状とすることが好ましい。この超電導素線17は、例えば幅1.0mm〜10.0mm程度、厚さ0.1mm〜1.0mm程度の範囲のものとされる。超電導多心素線21は、超電導フィラメントなどの複数本の超電導体22からなるコア部23がシース材からなる基地24の内部に備えられてなるものである。
【0016】
コア部23の超電導体22は熱処理により超電導体となる材料であってもよい。超電導体22の材料としては、単体では機械的に脆い性質を有する超電導材料が挙げることができ、例えば、Bi2Sr2Ca1Cu2Ox (Bi2212相)、Bi2Sr2Ca2Cu3Oy(Bi2223相)、Bi1.6Pb0.4Sr2Ca2Cu3Ox 、Tl2Ba2Ca2Cu3Oy 、Y1Ba2Cu3O7−xなどで示される組成をもつ酸化物超電導材料のような高温超電導材料や、Nb3Sn、Nb3Alなどで示される組成をもつ超電導材料のうちから選択された一種以上のものが用いられ、特に、Bi系2223相またはBi系2212相のBi系酸化物超電導材料が用いられる。基地24を形成するシース材としては、Ag,Pt,Au等の貴金属あるいはそれらの合金からなるものが用いられる。
【0017】
再び図1を参照して、繰り出しドラム11はR1の直径で形成され、例えばモータ等の動力源によって回転されれば良い。繰り出しドラム11から繰り出された転位撚線15は、中間ドラム13を経て、繰り出しドラム11の直径R1よりも小径の直径R2で形成される巻取ドラム12に巻き取られる(巻取工程)。回転軸26を中心に回転する巻取ドラム12は巻線装置10に着脱自在にセットされる。巻取ドラム12は、例えば超電導コイルの巻枠、配線用ドラムなどが挙げられる。
【0018】
中間ドラム13は、転位撚線15が繰り出しドラム11から繰り出され巻取ドラム12に巻き取られるまでの移動経路の途上に設置される。回転軸27を中心に回転するこの中間ドラム13は、繰り出しドラム11の直径R1よりも小さく、且つ巻取ドラム12の直径R2よりも大きい直径R3で形成される。よって、直径の異なる多種の巻取ドラム12に転位撚線15を巻きつける場合、その都度、巻取ドラム12の直径R2に対応した直径の中間ドラム13に交換すればよい。転位撚線15は中間ドラム13の周面の一部に沿わせるだけでもよく、中間ドラム13に任意の回数だけ巻き付けてもよい。
【0019】
こうした中間ドラム13は、比較的直径の大きい繰り出しドラム11、即ち曲げ半径の大きい曲面から、直径の小さい巻取ドラム12即ち曲げ半径の小さい曲面に転位撚線15を巻きつける際に、転位撚線15を構成する線材16同士のズレを緩和して、巻取ドラム12に巻き付けられた転位撚線15が歪んだり、膨らんだりすることを防止する(緩衝工程)。
【0020】
例えばいま、ある直径のドラムAからそれよりも小さい直径のドラムBに転位撚線を巻きつける場面を想定すると、ドラムAとドラムBとの直径の差が大きいほど、巻きつけた転位撚線に生じる歪は大きくなる。こうした歪の発生は転位撚線で直接繋がっている隣接するドラムにのみ影響を与える。
【0021】
線材16の転位部25(図2参照)を図5に示す直径R1(第1直径)の繰り出しドラム11の曲面(周面)に沿わせた時に発生する線材16の曲げ径の差による線材16どうしの歪(第1の歪)をS1、転位部25を直径R1よりも小さい直径R2(第3直径)の中間ドラム13の曲面(周面)に沿わせた時に発生する歪(第3の歪)をS2、転位部25を直径R2よりも小さい直径R3(第2直径)の巻取ドラム12の曲面(周面)に沿わせた時に発生する歪(第2の歪)をS3とすると、歪の大きさは各ドラムの直径に反比例してS3>S2>S1となる。そして、直径の異なるドラム間で転位撚線を巻きつけた際に生ずるの歪は、それぞれのドラムで発生する歪同士の差になる。
【0022】
従って、本発明のように、繰り出しドラム11の転位撚線15を中間ドラム13を介して巻取ドラム12に巻きつけた場合、巻取ドラム12に巻き取られた転位撚線15の歪はS3とS2との差になる。一方、従来のように繰り出しドラム11の転位撚線15を直接巻取ドラム12に巻き付けた場合の転位撚線15に生ずる歪はS3とS1との差になる。S3とS1との差よりもS3とS2との差の方が大幅に小さいので、繰り出しドラム11から転位撚線15を巻取ドラム12に巻きつけたときに生じる線材16どうしの歪は大幅に低減される。直径差の大きいドラム間で転位撚線15を巻きつけても、転位撚線15に膨らみや反りが発生したりすることは効果的に防止される。また、繰り出しドラム11と中間ドラム13との間隔L1、および中間ドラム13と巻取ドラム12との間隔L2は、それぞれ転位部25の長さP以上に設定されれば良い。
【0023】
【実施例】
本出願人は、線材間での歪を抑えるのに有効な中間ドラムの半径を見出す検証を行うのに先立って、転位撚線をある曲げ径のドラムに巻きつけた時の転位撚線の挙動を考察した。図6に示すように、一定間隔で結束テープ31が巻きつけられた転位撚線15をある曲げ径のドラム32に巻きつけると、転位撚線15の繰り出し方向に線材の緩み33となって現れる。この線材の緩み33は転位撚線15の曲げ歪の負荷に相当するため、緩み33が最大となったときの歪の量を調査した。
【0024】
こうした調査に用いた転位撚線15のモデルは線材6本撚りの構造を採用し、図7に示すように、転位部の長さP、各線材の厚みtの転位撚線15の転位部が半径rのドラムに巻かれた状態を想定した。このモデルでは、転位の過程で積層する線材の層数が最大になるのは4層であると考えられる。この場合、曲げ負荷時における転位部の中立軸は2層目と3層目の線材の間に存在しており、1つの転位部あたりの中立軸と最上層の線材とのズレは(3tP)/(2r)で表される。転位撚線15を半径rのドラムに巻き付けた場合、線材が転位部の最上層を経る時に、この長さ分だけ繰り出し方向にズレることになる。
【0025】
図8に示すような転位撚線15の配置を想定して、各位置での中立軸とのズレをtP/rで規格化した結果を図9に示す。図中のマイナス値は巻取り方向へのズレを、プラス値は繰り出し方向へのズレをそれぞれ示している。6本撚り転位撚線を構成する、ある1本の線材に着目すると、この線材は転位部を6回経ることで最初の位置に戻る。いま、図8に示したような、ある地点でA,B,C,D,E,Fの位置にある6本の線材を例にとると、それぞれの線材が6回転位部を経るにつれてA,B,C,D,E,Fの位置を順次経由してこれを繰り返す。
【0026】
図10に6本撚りの転位撚線を構成する1〜6の各線材が、1〜6番目の転位部を経過する毎に生じるズレの計算結果を示す。また、図10の1〜6の各線材が1〜6番目の転位部を順次経過した時点でのズレは、それまで経てきた転位部の各地点で生じたズレの積算であるから、1〜6の各線材の各転位部でのズレの積算結果を図11に示す。これら図10、図11の結果から、6本撚りの転位撚線における各線材のズレが最大になるのは、3つの転位部を経た時点であり、そのズレ量は(5tP)/(2r)であることが検証された。図10、図11の線材1,3,6番について、そのズレの変化を図12に示した。
【0027】
以上のような転位撚線を構成する各線材に生じるズレの検証結果を踏まえて、本出願人は、直径の異なるドラム間で転位撚線を巻きつける際に、線材間での歪を抑えるのに有効な中間ドラム(緩衝ドラム)の半径を見出す検証を実施した。まず、転位撚線を構成する線材の本数別に、線材間で発生するズレ量を算出する数式を検証した。転位撚線を構成する線材の本数が4a(aは自然数)本の場合の線材間のズレ量Sを求める数式を以下の(1)式に示す。また、転位撚線を構成する線材の本数が4a−2(aは自然数)本の場合の線材間のズレ量Sを求める数式を以下の(2)式に示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R=転位撚線の曲げ半径である。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
また、転位撚線を構成する線材の本数が3,5,7,9,11本の場合の線材間のズレ量Sを求める数式を以下の(3)式,(4)式,(5)式,(6)式,(7)式にそれぞれ示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R=転位撚線の曲げ半径である。
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
【数6】
【0035】
【数7】
【0036】
本出願人は、上述したズレの算出式に基づいて、曲げ半径の異なる複数のドラムに転位撚線を巻きつけて、転位部に膨らみが発生するか否かを検証した。検証にあたって、転位部の長さが100mm、線材の厚みが0.3mmの6本撚り高剛性転位撚線を準備した。
【0037】
検証の結果、上述した検証用の高剛性の転位撚線を曲げ半径が100mm未満のドラムに巻きつけると、転位部に膨らみが発生した。この時(曲げ半径が100mm)の線材間のズレ量を上述した(2)式に基づいて計算すると、0.75mmになる。つまり、上述した検証用の転位撚線の場合、ズレの最大値が0.75mmより大きくなると、転位部に異常が生じることが判明した。
【0038】
つまり、ドラムAからドラムBに向けて上述した検証用の転位撚線を巻きつける場合、ドラムBのズレとドラムAのズレを0.75mm以下に抑えれば、高剛性の転位撚線の転位部に異常が生じるのを防止できることが判明した。
【0039】
こうした結果に基づいて、線材の本数が4a(aは自然数)本の転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける時に、線材間のズレが0.75mm以下となる条件を満たす数式を以下の(8)式に示す。また、線材の本数が4a−2(aは自然数)本の転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける時に、線材間のズレが0.75mm以下の条件を満たす数式を以下の(9)式に示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R1=繰り出し側の転位撚線の曲げ半径、R2=巻取側の転位撚線の曲げ半径である。
【0040】
【数8】
【0041】
【数9】
【0042】
また、線材の本数が3,5,7,9,11本の転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける時に、線材間のズレが0.75mm以下の条件を満たす数式を以下の(10)式,(11)式,(12)式,(13)式,(14)式に示す。但し、各数式中、n=転位撚線を構成する線材の本数、t=線材の厚み、P=転位部の長さ、R1=繰り出し側の転位撚線の曲げ半径、R2=巻取側の転位撚線の曲げ半径である。
【0043】
【数10】
【0044】
【数11】
【0045】
【数12】
【0046】
【数13】
【0047】
【数14】
【0048】
転位撚線をドラムAからドラムBに向けて巻きつける際には、上述した数式に基づいて、ドラムBとドラムAとのズレの差が0.75mm以下になるように、それぞれのドラムの半径を設定する必要がある。
【0049】
以上の検証から、繰り出しドラム11から中間ドラム13を経て巻取ドラム12に向けて転位撚線を巻きつける場合には、繰り出しドラム−中間ドラム間のズレの差、および中間ドラム−巻取ドラム間のズレの差がいずれも0.75mm以下になるように、上述した数式に基づいて繰り出しドラム11、中間ドラム13および巻取ドラム12のそれぞれの直径を設定すれば、転位撚線15の転位部25に膨らみを生じることを防止できることが見出された。
【0050】
本出願人は、6本転位撚線で転位部長さ200mm、厚み0.3mm、幅2mmの超電導線材から構成した高剛性転位撚線を直径120mmの巻き枠に巻き付けて超電導マグネットを試作した。超電導マグネットの概要は導体長312mm、高さ300mm、内径120mm、外形150mm、層数14である。こうした超電導マグネットを試作する際に、本発明例として直径260mmの繰り出しドラムから直径160mmの中間ドラムを介してドラム内径に等しい直径120mmのコイル巻き枠(巻取ドラム)に上述した仕様の高剛性の転位撚線を巻きつけた。
【0051】
こうした本発明例では、コイル巻き枠での線材間のズレは、260mmのドラムから160mmのドラムに巻きつけられた時には0.71mm、160mmのドラムから120mmのドラムに巻きつけられた時には0.61mmといずれも0.75mm以下であった。本発明によれば、転位部に膨らみを生じさせることなく高剛性の転位撚線をコイル巻き枠(巻取ドラム)に巻きつけることが可能であることが確認された。
【0052】
また、比較例として、直径260mmの繰り出しドラムから直径120mmのコイル巻き枠(巻取ドラム)に向けて上述した仕様の高剛性の転位撚線を直接巻きつけた。こうした比較例では、コイル巻き枠での線材間のズレの値は1.33mmと0.75mm以上であり、高剛性の転位撚線の転位部には膨らみが生じていた。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の転位撚線向け巻線装置および巻線方法によれば、転位長さの長い高剛性の転位撚線を曲げ半径の差が大きいドラム間で巻きつけても、転位部に生じる歪を小さく抑えることを可能にする転位撚線向け巻線装置および巻線方法は提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である転位撚線向け巻線装置を示す平面図である。
【図2】図2は、転位撚線の部分斜視図である。
【図3】図3は、転位撚線を構成する線材を示す断面図である。
【図4】図4は、超電導多心素線(超電導素線)を示す部分斜視図である。
【図5】図5は、転位撚線向け巻線装置の作用を示す説明図である。
【図6】図6は、転位撚線をある曲げ径のドラムに巻きつけた時の線材の緩みを示す説明図である。
【図7】図7は、転位撚線の中立軸と線材のズレを示す説明図である。
【図8】図8は、転位撚線のズレを検証するにあたって採用した6本撚り転位撚線のモデルを示す断面図である。
【図9】図9は、各位置での中立軸とのズレをtP/rで規格化した結果を示す表である。
【図10】図10は、各線材が転位部を経過する毎に生じるズレの計算結果を示す表である。
【図11】図11は、各線材が転位部を経過する毎に生じるズレを積算した計算結果を示す表である。
【図12】図12は、線材のズレの挙動を示したグラフである。
【図13】図13は、一般的な転位撚線を示す部分斜視図である。
【図14】図14は、従来の巻線装置によって転位撚線に生じたズレを示す説明図である。
【符号の説明】
10 巻線装置、11 繰り出しドラム(第1ドラム)、12 巻取ドラム(第2ドラム)、13 中間ドラム(第3ドラム)、15 転位撚線、16 線材、25 転位部
Claims (3)
- 第1直径の第1ドラムに巻かれた線材が転位撚り合わせされた転位撚線を、前記第1直径よりも小さい第2直径の第2ドラムに向けて繰り出し、前記第2ドラムに巻きつける転位撚線向け巻線装置において、
前記第1ドラムと前記第2ドラムとの間に、前記第1直径よりも小さく且つ前記第2直径よりも大きい直径をもつ中間ドラムを少なくとも1つ以上を備え、前記第1ドラムから繰り出された前記転位撚線を前記中間ドラムに沿わせてから前記第2ドラムに巻きつけることを特徴とする転位撚線向け巻線装置。 - 線材が転位撚り合わせされた転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪を生じる繰り出しドラムと、前記転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪よりも大きい第2の歪を生じる巻取ドラムと、前記転位撚線を周面に沿わせた際に線材間で第1の歪よりも大きくかつ第2の歪よりも小さい第3の歪を生じる緩衝用の中間ドラムとを備え、前記転位撚線を前記繰り出しドラムから繰り出して前記中間ドラムを介して前記巻取ドラムに巻きつけることを特徴とする転位撚線向け巻線装置。
- 線材が転位撚り合わせされた転位撚線が巻かれた第1直径のドラムから転位撚線を繰り出す繰出工程と、前記第1直径よりも小さい第2直径のドラムに前記転位撚線を巻き取る巻取工程と、前記繰出工程および巻取工程の間にあって、前記第1直径よりも小さく且つ前記第2直径よりも大きい第3直径のドラムに前記転位撚線を沿わせる緩衝工程とを備えたことを特徴とする転位撚線向け巻線方法。
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JP2007265697A (ja) * | 2006-03-27 | 2007-10-11 | Sumitomo Electric Ind Ltd | 超電導ケーブルの製造方法 |
CN103996463A (zh) * | 2014-06-05 | 2014-08-20 | 江苏五洲电磁线有限公司 | 一种收线装置 |
-
2002
- 2002-09-20 JP JP2002275581A patent/JP2004111331A/ja not_active Withdrawn
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