JP2004107453A - インクセット、インクジェット記録方法及び記録物 - Google Patents
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Abstract
【課題】単色のみならず混色のカラーバランス及び発色性にも優れた、高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法及びその記録物の提供。
【解決手段】少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を有するインクセットにおいて、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液と上記インク組成物の各々とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクセット。
【選択図】 なし
【解決手段】少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を有するインクセットにおいて、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液と上記インク組成物の各々とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクセット。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性ボールペン、万年筆、水性サインペン等の筆記具や、インクジェットプリンタ用に好適なインクセット、インクジェット記録方法及び記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
安価な装置で高解像度且つ高品位な画像を、高速で印刷可能であるという特徴を有するインクジェット記録は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。しかしながら、インクジェット記録方法はインク組成物が液体であるために、記録媒体上に着弾した際にインク液滴が記録媒体中に浸透するために輪郭部が不明瞭となったり、また、隣接する異なる色間の境界にじみ(所謂カラーブリード)が発生する現象があった。
【0003】
この問題を解決することを目的として、多価金属塩溶液を記録媒体に適用した後、少なくとも一つのカルボキシル基を有する染料を含むインク組成物を適用する方法が提案されている(特許文献1参照)。即ち、多価金属イオンを含有する反応液と染料が記録媒体上で接触することにより不溶性物が形成される。この結果として輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を得ることが可能となる。
【0004】
また、塩との作用により増粘又は凝集するブラックインクとその塩を含有するカラーインクとを組合せて使用することにより、画像濃度が高く且つカラーブリードがない高品位のカラー画像が得られるという技術手段も開示されている(特許文献2参照)。即ち、塩を含有する第一の液と、インク組成物との二液を印字することで、良好な画像を得ることが可能となる。更に、二液を用いる各種の提案がなされている(特許文献3及び特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−202328号公報
【特許文献2】
特開平6−106735号公報
【特許文献3】
特開平3−240557号公報
【特許文献4】
特開平3−240558号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記多価金属イオンを含有するインクセットについて種々の検討を行った。その結果、インク組成物中の色材として顔料を採用すると、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を形成することが可能である一方、新たな課題を認識するに到った。
【0007】
即ち、反応液中の多価金属イオンがインク組成物中の顔料の分散を破壊し、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがないといった効果を奏するものであるが、インク組成物の反応液に対する反応性の違いによってインクごとの発色性が異なってしまい、場合によっては印字物のカラーバランスが崩れてしまうという問題があった。
【0008】
例えば、シアン、マゼンタ、イエローからなるインクセットで、ブルー、レッド、グリーンの2次色画像やグレー画像といった混色画像を形成するときに、インクセットの中で反応液との反応性に大きな差があると、反応性の高いインクの色味が強い画像となってしまうことがあった。一般に、顔料の粒径と発色の間には、「粒径が小さいほど発色性が高く、粒径が大きいほど発色性が低下する」という関係があるといわれている。しかし、これは反応前の顔料インクの粒径についていわれていることであり、厳密には発色に関係しているのは印字後の紙面上での粒径である。上記多価金属イオンを含有する反応液と顔料インクのセットにおいては、反応液と反応した後の粒径が発色に関係しているといえる。そして、特定のインクと反応液との反応物の粒径が、他のインクのそれと大きく異なっている場合、画像の微妙な階調の再現が困難となることがあるとの知見を得た。
【0009】
従って、本発明者らは、反応液と反応する顔料インクを有するインクセットにおいて、カラーバランスが良く、且つ顔料の発色性を最大限に引き出す手段が必要であるとの結論に至った。
従って、本発明の目的は、単色のみならず混色のカラーバランス及び発色性にも優れた、高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくとも2種のインク組成物(以下単に「インク」という場合がある)と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を有するインクセットにおいて、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液と上記インク組成物の各々とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクセットを提供する。
【0011】
上記本発明においては、前記インク組成物が、顔料と顔料分散剤とを含むこと;前記少なくとも2種のインク組成物において、互いに分散剤が異なるか、或いは顔料と分散剤との質量比率が異なること;前記インク組成物が、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの色調からなること;前記反応液の表面張力が、前記インク組成物の何れの表面張力よりも高いこと;前記反応液が、多価金属を含有すること;及び前記多価金属が、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、記録媒体に、少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を付着させて、記録を行うインクジェット記録方法において、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記インク組成物の各々と上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【0013】
上記本発明においては、前記反応液を、前記インクに先だって記録媒体に付与する工程を少なくとも含むこと;前記インク組成物が、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの色調からなること;前記反応液の表面張力が、前記インク組成物の何れの表面張力よりも高いこと;前記反応液が、多価金属を含有すること;及び前記多価金属が、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+の少なくとも1種を含むことが好ましい。
また、本発明は、上記記録方法によって印字されてなることを特徴とする記録物を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明のインクセットは、少なくとも2つの異なる色調のインクが、反応液と全て反応するものであって、上記インクが少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ反応前のインク中の顔料の粒径とインクの反応液との反応後の顔料の粒径が同程度であることが好ましい。
【0015】
インクの反応液との反応後の粒径は、反応液の1,000質量倍希釈水溶液と各インクとを質量比で1:1で混合した混合溶液を測定することにより決定され、本発明のインクセットは、インクセットにおける最大粒径値と最小粒径値の差が100nm以下となることが好ましい。勿論、この際、前記インク組成物が顔料と顔料分散剤とを含むこと、及び前記少なくとも2種のインク組成物において、互いに分散剤が異なるか、或いは顔料と分散剤との質量比率が異なる場合も含まれる。
【0016】
各インクの反応後の粒径が上記の範囲にあることにより、各色の発色性が大きく異なることなく、混色画像においてもバランスの取れた画像が形成できるという効果を奏する。より具体的にいえば、色調が徐々に変化するようなグラデーション部分を再現しようとした場合に、特定の色の発色性が、他の色の発色性よりも強いと、中間の階調が表現できないことがある。しかし、本発明によれば、インクと反応液との反応により得られる反応物の粒径を揃えることにより、特定の色の発色が突出したり、或いは弱すぎたりすることを抑えることができ、多階調の画像の再現性をより向上させることができるという効果を奏する。尚、粒径測定方法としては、従来から用いられている方法の何れを用いてもよく、例えば、動的光散乱法や沈降速度法等が挙げられる。又、本発明における顔料の粒径は、特に断りがない限り重量基準の平均粒径を意味する。
【0017】
(反応液)
水性媒体中にイオン性基の作用によって分散又は溶解させられている色材の分散安定性を記録媒体上で破壊及び凝集することのできる反応液としては、例えば、金属塩、低分子カチオン性化合物、及びカチオン性高分子を含むもの等が挙げられる。この中で、金属塩及び水性媒体を含んでいることがより好ましい。
【0018】
(金属塩について)
反応液に用いることができる金属塩とは、一価の金属イオン及び二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+及びBa2+等の二価金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+等の三価金属イオン等が挙げられる。陰イオンとしては、SO4 2−、Cl−、CO3 −、NO3 −、I−、Br−、ClO3 −及びCH3COO−等が挙げられる。
【0019】
また、一価の金属イオンとしては以下のものが挙げられる。例えば、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)2CO3から選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。ここでM1はアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わし、Phはフェニル基を表す。
【0020】
そして、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム及びトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。勿論、本発明で使用する塩は上記化合物に限定されるものではない。また、反応液中の上記金属塩の含有量は、本発明にかかる効果を考慮すると0.01〜20質量%が好ましい。
【0021】
(低分子カチオン性化合物及びカチオン性高分子について)
反応液に用いることができる低分子カチオン性化合物及びカチオン性高分子とは、本発明の範囲にあり、且つ水に可溶なものである。低分子カチオン性化合物の具体例としては、1級或いは2級或いは3級アミン塩型のラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩や、第4級アンモニウム塩型のラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0022】
また、ピリジニウム塩型のセチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、更にイミダゾリン型の2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンや、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物であるジヒドロキシエチルステアリルアミン等が挙げられる。
【0023】
カチオン性高分子の具体例としては、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミンスルホン塩酸塩、ポリビニルアミン塩酸塩、キトサン酢酸塩等を挙げることができる。また、この他に、ノニオン性高分子物質の一部をカチオン化したビニルピロリドンとアミノアルキルアルキレート4級塩との共重合体、アクリルアマイドとアミノメチルアクリルアマイド4級塩との共重合体等を挙げることができる。勿論、本発明の範疇を越えない限り、これらの化合物に限定されないことはいうまでもない。また、反応液中の上記化合物及び高分子の含有量は、本発明にかかる効果を考慮すると0.1〜20質量%が好ましい。
【0024】
また、反応液は、必ずしも可視域に吸収を示さないものである必要はない。可視域に吸収を示すとしても実質上画像に影響を与えない範囲であれば可視域に吸収を示すものであってもかまわない。
【0025】
(水性媒体)
本発明で使用する反応液に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、反応液の乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或は混合物としても使用することができる。また、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0026】
本発明に使用する反応液中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、反応液全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。また、反応液に含有される水の含有量は反応液全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。更に上記の成分の他に必要に応じて所望の物性値を持つ反応液とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。
【0027】
(インク組成物)
上記した反応液は、色材がイオン性基によって水性媒体に分散又は溶解させられているインク組成物と組合せて記録に用いることで、高品質の画像を形成することができる等の好ましい効果を得られる。
【0028】
かかるインクに用いることのできる色材としては、顔料(マイクロカプセル化顔料、更には着色樹脂等も本明細書中では顔料の範疇とする)が挙げられる。以下これらの色材について詳述する。
【0029】
(顔料)
用い得る顔料としては、例えば、カーボンブラックや有機顔料等が挙げられる。
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではなく従来公知のカーボンブラックを使用することが可能である。また、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0030】
(有機顔料)
有機顔料として具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0031】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、137、138、147、148、151、153、154、166、168、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:3、15:1、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。勿論上記以外でも従来公知の有機顔料が使用可能である。
【0032】
(分散剤)
上記したカーボンブラックや有機顔料を用いる場合には分散剤を併用することが好ましい。分散剤としては、アニオン性基の作用によって上記の顔料を水性媒体に安定に分散させることのできるものが好適に用いられる。分散剤の具体例は、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体或はこれらの塩等が含まれる。また、これらの分散剤は、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、特には3,000〜15,000の範囲のものが好ましい。
【0033】
(自己分散型顔料)
色材として、顔料表面にイオン性基(アニオン性基)を結合させることによって分散剤なしで水性媒体に分散させることのできる顔料、所謂自己分散型顔料を用いることもでき、このような顔料の一例として、例えば、自己分散型カーボンブラックを挙げることができる。自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、アニオン性基がカーボンブラック表面に結合したものを挙げることができる。
【0034】
(アニオン性カーボンブラック)
アニオン性カーボンブラックとしては、カーボンブラックの表面に、例えば、−COO(M2)、−SO3(M2)、−PO3H(M2)及び−PO3(M2)2から選ばれる少なくとも1つのアニオン性基を結合させたものが挙げられる。
【0035】
上記式中、M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす。これらの中で特に−COO(M2)や−SO3(M2)をカーボンブラック表面に結合してアニオン性に帯電せしめたカーボンブラックはインク中の分散性が良好なため本発明に特に好適に用い得る。
【0036】
ところで、上記親水性基中「M2」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0037】
そして、M2をアンモニウム或いは有機アンモニウムとした自己分散型カーボンブラックを含む本発明のインクは、記録画像の耐水性をより向上させることができ、この点において特に好適に用いることができる。これは当該インクが記録媒体上に付与されると、アンモニウムが分解し、アンモニアが蒸発する影響によるものと考えられる。ここでM2をアンモニウムとした自己分散型カーボンブラックは、例えば、M2がアルカリ金属である自己分散型カーボンブラックをイオン交換法を用いてM2をアンモニウムに置換する方法や、酸を加えてH型とした後に水酸化アンモニウムを添加してM2をアンモニウムにする方法等が挙げられる。
【0038】
アニオン性に帯電している自己分散型カーボンブラックの製造方法としては、例えば、カーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法が挙げられ、この方法によってカーボンブラック表面に−COONa基を化学結合させることができる。
【0039】
ところで、上記した様な種々の親水性基は、カーボンブラックの表面に直接結合させてもよい。或いは他の原子団をカーボンブラック表面と親水性基との間に介在させ、親水性基をカーボンブラック表面に間接的に結合させてもよい。ここで他の原子団の具体例としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、置換若しくは未置換のナフチレン基が挙げられる。ここでフェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。また、他の原子団と親水性基の組合わせの具体例としては、例えば、−C2H4COO(M2)、−Ph−SO3(M2)、−Ph−COO(M2)等(但し、Phはフェニル基を表す)が挙げられる。
【0040】
ところで、本発明において上記した自己分散型カーボンブラックの中から2種若しくはそれ以上を適宜選択してインクの色材に用いてもよい。また、インク中の自己分散型カーボンブラックの添加量としては、インク全質量に対して、0.1〜15質量%、特には1〜10質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることで自己分散型カーボンブラックは、インク中で十分な分散状態を維持することができる。更にインクの色調の調整等を目的として、自己分散型カーボンブラックに加えて染料を色材として添加してもよい。
【0041】
(着色微粒子/マイクロカプセル化顔料)
色材として上記したものの他に、ポリマー等でマイクロカプセル化した顔料や樹脂粒子の周囲を色材で被覆した着色微粒子等も用いることができる。マイクロカプセルに関しては、本来的に水性媒体に対する分散性を有するが、分散安定性を高めるために上記したような分散剤を更にインク中に共存させてもよい。また、着色微粒子を色材として用いる場合には、上記したアニオン系分散剤等を用いることが好ましい。
【0042】
(水性媒体)
上記した様な色材を分散させる水性媒体は、特に限定されるものでなく、反応液に用いる水性媒体として前記したものと同様のものを用いることができる。また、カラーインクをインクジェット法(例えば、バブルジェット(登録商標)法等)で記録媒体に付着せしめる場合には、前述したように優れたインクジェット吐出特性を有するようにインクに所望の粘度及び表面張力を有するように調整することが好ましい。
【0043】
本発明に係るインク組成物に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、インク組成物の乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或は混合物としても使用することができる。また、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0044】
本発明に関わるインク組成物中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク組成物全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。また、インク組成物に含有される水の含有量はインク組成物全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。更に上記の成分のほかに必要に応じて保湿剤を添加することは勿論、所望の物性値を持つインク組成物とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加しても構わない。
【0045】
(インクセット)
前記反応液と組み合わせてインクセットを構成するインクの色調は特に限定されず、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックから選ばれる1つの色調を示すインクとすればよい。具体的には、所望の色調のインクとなるように前記した色材の中から適宜選択して用いることができる。ここで各インク中の色材の含有量は、例えば、インクジェット記録に用いる場合にはインクが優れたインクジェット吐出特性を備え、また、所望の色調や濃度を有するように適時選択すればよいが、目安としては、例えば、インク全質量に対して1〜50質量%の範囲が好ましい。
【0046】
また、インクに含有される水の量はインク全質量に対して50〜95質量%の範囲が好ましい。また、反応液と組み合わせるインクは、異なる色調のインクを2つ以上組み合わせて多色画像の形成に適したインクセットとすることがより好ましい。
【0047】
(記録方法)
前記反応液は、色材がイオン性基の作用によって水性媒体に分散させられているインクと組み合わせて、(i)インクを記録媒体に付与する工程;及び(ii)反応液を記録媒体の少なくともインクが付与される領域に付与する工程、を有する記録方法を採用することによって、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することができる。
【0048】
尚、このようなインクセットが高画像濃度及び高発色で印字品位を良好にできる理由は明らかではないが、例えば、反応液とインクをインクジェット法によって記録媒体(紙)面上に飛翔させ、両者を付着させた場合、インク中では安定し存在していた顔料等の色材が、紙面に付着後急速に反応する。
【0049】
しかし、反応液との反応後の粒径がインクによって大きく異なると、例えば、シアン、マゼンタ、イエローからなるインクセットでブルー、レッド、グリーンの2次色やグレーといった混色の画像を形成するときに、反応性の高いインクの色味が強い画像となってしまう。また、他のインクに比べて極端に反応性の高いインクがあると、主に低デューティーの淡色画像において諧調性の良好な画像が得られにくい。一方、本発明の手段を用いた場合、インクの反応後の粒径が同程度であるので、インクセットのカラーバランスは崩れることなく、結果として良好な混色画像並びに諧調性に優れた淡色画像が得られるという効果を奏すると推察している。
【0050】
上記インクと反応液とのインクセットをインクジェット等で用いた場合、
a:反応液を印字した後にインクを印字する場合、
b:インクを印字した後に反応液を印字する場合、
c:インクを印字した後に反応液を印字させ、更にインクを印字させる場合、
d:反応液を印字した後にインクを印字させ、更に反応液を印字させる場合等、様々な記録方法が考えられる。そしてインクと反応液との付与方法は、適宜選択すればよい。しかし本発明の目的を鑑みれば、反応液をインクに先だって記録媒体に付与する工程を少なくとも含む前記(a)又は(d)が好ましい。
【0051】
反応液の付与方法としては、前述の吐出手段を用いても構わないが、勿論、これに限定されるものではない。例えば、ローラー塗布、バーコート等の従来公知のいかなる手段であっても本発明の技術思想の範囲内である。尚、反応液の付与手段は記録装置と一体であっても別体であっても構わない。吐出手段を用いて反応液を付与する場合には、吐出適性等の確保の制約もあり、むしろローラー塗布等の方法が好ましい場合もある。具体的に前記(a)の場合には、実質的に記録媒体の全面にインクジェット方式と別の方式を用いて反応液を付与することも可能である。
【0052】
以下に反応液付与方法の一例を挙げる。図32及び図33に反応液付与方法の一例を示す。図32において記録媒体は紙送りローラー321と反応液322を付与するためのコーティングローラー323との間に挟み込まれて通過する。その際、コーティングローラー323は反応液322が蓄えられたタンク324に浸されながら回転し、反応液を常に補充しながら記録媒体に反応液を付与する。図33においては反応液が充填された多孔質のコーティングローラー331が回転しながら記録媒体に反応液を付与する。勿論、図32及び図33の類の装置をユニット化してプリンタ本体に組みこんでも構わない。また、上記方法に限定させるものではなく従来公知の方法であっても構わない。
【0053】
これまでの発明者らの検討によれば以下の様に考えられる。前記(a)又は(d)の付与方法においては、先ず、反応液91が記録媒体25に付与され(図1(a)参照)、次いで反応液が付与された部位にインク92が付与される(図1(b)参照)。そのためインク中の色材は、記録媒体25に付与された直後から記録媒体表面に存在する反応液との反応することにより、インク中の色材をより多く記録媒体25の表面に留めることができる結果、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードが生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を形成することが可能になると考えられるからである。
【0054】
また、上記反応液とインク組成物とのインクセットを複数、若しくは上記反応液とインク組成物とのインクセットと他のインク組成物を組み合わせることによってカラー画像の形成に好適に用い得るインクセットを提供することができる。そして、このようなインクセットを用いて、例えば、ブラックインクに上記インクセットを用いて黒色画像部及びカラー画像部と隣接するような記録を行った場合、ブリーディングの発生を極めて有効に抑えることができる。
【0055】
(インク特性、インクジェット吐出特性及び記録媒体への浸透性について)
上記各実施態様にかかるインクセットは、インクジェット記録用のインクセットとして好適に用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明の反応液及びインクは特に好適である。
【0056】
ところで、上記各実施態様にかかる反応液及びインクをインクジェット記録用に用いる場合には、反応液及びインクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、液体の特性としては、例えば、その粘度を1〜15cps及び表面張力が25mN/m(dyne/cm)以上、特には粘度を1〜5cps、及び表面張力が25〜50mN/m(dyne/cm)とすることが好ましい。
【0057】
(インクジェット記録方法)
次に本発明の各々の反応液及びインクを好適に用い得るインクジェット記録方法について説明する。図2は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図3は図2のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0058】
発熱素子基板15は酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1、17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される畜熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性の良い材料で形成される基板20より成り立っている。
【0059】
上記ヘッドの電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインクに気泡が発生し、その発生する圧力でメニスカス23が突出し、インクがヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0060】
図4には図2に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。このマルチヘッドはマルチノズル26を有するガラス板27と、図2に説明したものと同じ様な発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0061】
(インクジェット記録装置)
図5に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図5において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0062】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0063】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面の水分や塵埃等の除去が行われる。また、キャップを介して不図示のポンプによって記録へッドの各インク、更には反応液の吐出口の位置しているインク等を吸引して、記録ヘッド本来のインク、或はインク及び反応液の本来の吐出性能を回復させる回復系ユニットを構成している。
【0064】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。
【0065】
これらの構成により記録ヘッドの65吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。
【0066】
上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0067】
(インクカートリッジ)
図6は、記録ヘッドにインク若しくは反応液を供給する部材、例えば、チューブを介して供給されるインク若しくは該反応液を収容したカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は供給用のインク又は反応液を収納した収容部、例えば、袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、袋40中のインク又は反応液をヘッドに供給可能にする。44は廃インク又は廃反応液を受容する吸収体である。
【0068】
収容部40としてはインク又は反応液との接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。このようなカートリッジは、例えば、図7に示したようにインク又は反応液を吐出せしめる記録ヘッド901に着脱可能に構成されてなるとともに、該カートリッジ45を記録ヘッドに装着した状態ではインク又は反応液が記録ヘッド901に供給される様に構成されている。
【0069】
また、本発明にかかるカートリッジの他の態様として、反応液と該インクとを各々個別に収容した2つの収容部を有し、インク及び反応液を吐出させるためのヘッドに対して着脱可能に構成され、且つインク及び反応液が該記録ヘッドに供給可能に構成されているカートリッジを挙げることができる。
【0070】
図8はそのようなカートリッジ1001の一例を示すものであり、1003は反応液の収容部、1005がインクの収容部であり、該カートリッジは図9に示す様にインク及び反応液の各々を吐出せしめる記録ヘッド1101に着脱可能に構成されてなるとともに、該カートリッジ1001を記録ヘッド1101に装着した状態では反応液及びインクが記録ヘッド1101に供給される様に構成されているものである。
【0071】
また、本発明のインクセットは、図8に示した様に反応液とインクとが物理的に一体化されているものばかりでなく、例えば、図10に示す様に、反応液を収納したカートリッジ1201とインクを収納したカートリッジ1203とを反応液及びインクの各々を吐出させる共通の記録ヘッド1205に装着し、反応液及びインクとを用いてインクジェット画像の記録を行なうことのできる様に構成されているものもまた本発明の範囲内のものである。
【0072】
(記録ユニット)
本発明で使用されるインクジェット装置としては、上述の様にヘッドとカートリッジとが別体となったものに限らず、図11に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図11において、70は記録ユニットであり、この中にはインク又は反応液を収容した収容部である。例えば、インクを収容する場合には、インク吸収体を収納し、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。
【0073】
また、吸収体を用いず、収容部が内部にバネ等を仕込んだ袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図5に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0074】
更に本発明にかかる記録ユニットの他の実施態様として、反応液とイエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックの色相を有するカラーインクから選ばれる少なくとも1つのインクとを、1個のインクタンク内の各々のインク収納部に収納し、且つ各々のインクを吐出させるための記録ヘッドを一体的に備えた記録ユニット、具体的には、例えば、図12に示す様に反応液を収容部1301Lに、イオン性基によって水性媒体に分散させられている黒インクを収納部1301Bkに、また、イエロー、シアン及びマゼンタのカラーインクを各々カラーインク収納部1301Y、1301C及び1301Mに収納し、更に該反応液と他の4つの色調の異なるインクを各々個別に吐出させることができる様にインク流路を分けて構成した記録ヘッド1303を備えている様な記録ユニット1301挙げられる。
【0075】
次に、第二の力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成例を図13に示す。
【0076】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0077】
図13において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。
【0078】
以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、ひずみ応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレートの吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。この様な記録ヘッドは図5に示したものと同様な記録装置に組み込んで使用される。記録装置の細部の動作は先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0079】
(インクセットを用いた記録装置及び記録方法)
次にインクセットを用いてカラー画像を記録する場合には、例えば、前記図4に示した記録ヘッドを5つキャリッジ1401上に並べた記録装置を用いることができる。図14はその一実施例であり、1401L、1401Bk、1401Y、1401M及び1401Cはそれぞれ、反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク、及びシアン、マゼンタ、イエロー各色のインクを吐出するための記録ユニットである。該記録ユニットは前記した記録装置のキャリッジ上に配置され、記録信号に応じて各色のインクを吐出する。また、反応液は、各色の或いは各色の中の少なくとも1色の記録インクが記録紙に付着する部分に、先立って或はインク付着後に付着させる。
【0080】
また、図14では記録ユニットを5つ使用した例を示したが、これに限定されず、例えば、図15に示した様に1つの記録ヘッドで上記の反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク及びYMCの3色のインクを各々含むインクカートリッジ1501L、1501Bk、1501Y、1501M及び1501Cから供給される各色のインクを各々個別に吐出させることができるようにインク流路を分けて構成した記録ヘッド1501に取り付けて記録を行う態様も挙げられる。
【0081】
次に本発明に好適に使用できる記録装置及び記録ヘッドの他の具体例を説明する。図16は、本発明にかかるインクセットを構成する反応液やインクの吐出時に気泡が大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッド及びこのヘッドを用いた液体吐出装置としてのインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【0082】
図16においては、インクジェットプリンタは、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる記録媒体としての用紙1028を図16に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する搬送装置1030と、搬送装置1030による用紙1028の搬送方向Pに略直交する方向Sに略平行に往復運動せしめられる記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成されている。
【0083】
移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a及び1026bに巻きかけられるベルト1016と、ローラユニット1022a及び1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018とを含んで構成されている。
【0084】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図16の矢印R方向に回転したき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図16の矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。また、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図16の矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図16の矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。
【0085】
更に、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0086】
記録部1010は、インクジェットカートリッジ(以下単に「カートリッジ」という場合がある)1012Y、1012M、1012C及び1012Bが各色、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックごとにそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。
【0087】
図17は上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。本例におけるカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェット記録ヘッド100と、インク等の液体を収容する液体タンク1002とで主要部が構成されている。
【0088】
インクジェット記録ヘッド100は液体を吐出するための多数の吐出口832が形成されており、インク等の液体は、液体タンク1002から図示しない液体供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(図18参照)へと導かれるようになっている。カートリッジ1012は、インクジェット記録ヘッド100と液体タンク1001とを一体的に形成し、必要に応じて液体タンク1001内に液体を補給できるようにしたものであるが、この液体吐出ヘッド100に対し、液体タンク1001を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。
【0089】
このような構成のインクジェットプリンタに搭載され得る上述の液体吐出ヘッドの具体例を以下に更に詳しく説明する。図18は本発明の基本的な形態を示す液体吐出ヘッドの要部を模式的に示す概略斜視図であり、図19〜図22は図18に示した液体吐出ヘッドの吐出口形状を示す正面図である。尚、電気熱変換素子を駆動するための電気的な配線等は省略している。
【0090】
本例の液体吐出ヘッドにおいては、例えば、図18に示されるような、ガラス、セラミックス、プラスチック或は金属等からなる基板934が用いられる。このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギー発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として、機能し得るものであれば、特に限定されるものではない。
【0091】
そこで、本例では、Si基板(ウエハ)を用いた場合で説明する。吐出口は、レーザー光による形成方法の他、例えば後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(Mirror Projection Aliner)等の露光装置により形成することもできる。
【0092】
図18において934は電気熱変換素子(以下単に「ヒータ」という場合がある)931及び共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933を備える基板であり、インク供給口933の長手方向の両側に熱エネルギ発生手段であるヒータ931がそれぞれ1列ずつ千鳥状に電気熱変換素子の間隔が、例えば、300dpiで配列されている。この基板934上にはインク流路を形成するためのインク流路壁936が設けられている。このインク流路壁936には、更に吐出口832を備える吐出口プレート935が設けられている。
【0093】
ここで、図18においてはインク流路壁936と吐出口プレート935とは、別部材として示されているが、このインク流路壁936を、例えば、スピンコート等の手法によって基板934上に形成することによりインク流路壁936と吐出口プレート935とを同一部材として同時に形成することも可能である。本例では、更に、吐出口面(上面)935a側は撥水処理が施されている。
【0094】
本例では、図16の矢印S方向に走査しながら記録を行うシリアルタイプのヘッドを用い、例えば、1,200dpiで記録を行う。駆動周波数は10kHzであり、一つの吐出口では最短時間間隔100μsごとに吐出を行うことになる。
【0095】
また、ヘッドの実例寸法の一例としては、例えば、図19に示すように、隣接するノズルを流体的に隔離する隔壁936aは、幅w=14μmである。図22に示すように、インク流路壁936により形成される発泡室1337は、N1(発泡室の幅寸法)=33μm、N2(発泡室の長さ寸法)=35μmである。ヒータ931のサイズは30μmでヒータ抵抗値は53Ωであり、駆動電圧は10.3Vである。また、インク流路壁936及び隔壁936aの高さは12μmで、吐出口プレート厚は11μmのものが使用できる。
【0096】
吐出口832を含む吐出口プレートに設けられた吐出口部940の断面のうち、インクの吐出方向(オリフィスプレート935の厚み方向)に交差する方向で切断してみた断面の形状は概略星形となっており、鈍角の角を有する6つの起部832aと、これら起部832aの間に交互に配され且つ鋭角の角を有する6つの伏部832bとから概略構成されている。即ち、吐出口の中心Oから局所的に離れた領域としての伏部832bをその頂部、この領域に隣接する吐出口の中心Oから局所的に近い領域としての起部832aをその基部として、図18に示すオリフィスプレートの厚み方向(液体の吐出方向)に6つの溝が形成されている。(溝部の位置については図23の1141a参照)
【0097】
本例においては、吐出口部940は、例えば、その厚み方向に交差する方向で切断した断面が一辺27μmの二つの正三角形を60度回転させた状態で組み合わせた形状となっており、図20に示すT1は8μmである。起部832aの角度はすべて120度であり、伏部832bの角度はすべて60度である。
【0098】
従って、吐出口の中心Oと、互いに隣接する溝の中心部(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の中心(重心))を結んで形成される多角形の重心Gとが一致するようになっている。本例の吐出口832の開口面積は400μm2であり、溝部の開口面積(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の面積)は1つあたり約33μm2となっている。図21は図20に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。
【0099】
次に、上述の構成のインクジェット記録ヘッドによる液体の吐出動作について図23〜図30を用いて説明する。図23〜図30は、図18〜図22に記載の液体吐出ヘッドの液体吐出動作を説明するための断面図であり、図22に示す発泡室1337のX−X断面図である。この断面において吐出口部940のオリフィスプレート厚み方向の端部は、溝1141の頂部1141aとなっている。
【0100】
図23はヒータ上に膜状の気泡が生成した状態を示し、図24は図23の約1μs後、図25は図23の約2μs後、図26は図23の約3μs後、図27は図23の約4μs後、図28は図23の約5μs後、図29は図23の約6μs後、図30は図23の約7μs後の状態をそれぞれ示している。尚、以下の説明において、「落下」又は「落とし込み」、「落ち込み」とは、いわゆる重力方向への落下という意味ではなく、ヘッドの取り付け方向によらず、電気熱変換素子の方向への移動をいう。
【0101】
まず、図23に示すように、記録信号等に基づいたヒータ931への通電に伴いヒータ931上の液流路1338内に気泡101が生成されると、約2μs間に図24及び図25に示すように急激に体積膨張して成長する。気泡101の最大体積時における高さは吐出口面935aを上回るが、このとき、気泡の圧力は大気圧の数分の1から10数分の1にまで減少している。
【0102】
次に、気泡101の生成から約2μs後の時点で気泡101は上述のように最大体積から体積減少に転じるが、これとほぼ同時にメニスカス102の形成も始まる。このメニスカス102も図26に示すようにヒータ931側への方向に後退、即ち落下してゆく。
【0103】
ここで、本例においては、吐出口部に複数の溝1141を分散させて有していることにより、メニスカス102が後退する際に、溝1141の部分ではメニスカス後退方向FMとは反対方向FCに毛管力が作用する。その結果、仮に何らかの原因により気泡101の状態に多少のバラツキが認められたとしても、メニスカスの後退時のメニスカス及び主液滴(以下、液体又はインクと記述する場合がある)Iaの形状が、吐出口中心に対して略対称形状となるように補正される。
【0104】
そして、本例では、このメニスカス102の落下速度が気泡101の収縮速度よりも速いために、図27に示すように気泡の生成から約4μs後の時点で気泡101が吐出口832の下面近傍で大気に連通する。このとき、吐出口832の中心軸近傍の液体(インク)はヒータ931に向かって落ち込んでゆく。これは、大気に連通する前の気泡101の負圧によってヒータ931側に引き戻された液体(インク)Iaが、気泡101の大気連通後も慣性でヒータ931面方向の速度を保持しているからである。
【0105】
ヒータ931側に向かって落ち込んでいった液体(インク)は、図28に示すように気泡101の生成から約5μs後の時点でヒータ931の表面に到達し、図29に示すようにヒータ931の表面を覆うように拡がってゆく。このようにヒータ931の表面を覆うように拡がった液体はヒータ931の表面に沿った水平方向のベクトルを有するが、ヒータ931の表面に交差する、例えば、垂直方向のベクトルは消滅し、ヒータ931の表面上に留まろうとし、それよりも上側の液体、即ち、吐出方向の速度ベクトルを保つ液体を下方向に引っ張ることになる。
【0106】
その後、ヒータ931の表面に拡がった液体と上側の液体(主液滴)との間の液体部分Ibが細くなってゆき、気泡101の生成から約7μs後の時点で図30に示すようにヒータ931の表面の中央で液体部分Ibが切断され、吐出方向の速度ベクトルを保つ主液滴Iaとヒータ931の表面上に拡がった液体Icとに分離される。このように分離の位置は液流路1338内部、より好ましくは吐出口832よりも電気熱変換素子931側が望ましい。
【0107】
主液滴Iaは吐出方向に偏りがなく、吐出ヨレすることなく、吐出口832の中央部分から吐出され、記録媒体の被記録面の所定位置に着弾される。また、ヒータ931の表面上に拡がった液体Icは、従来であれば主液滴の後続としてサテライト滴となって飛翔するものであるが、ヒータ931の表面上に留まり、吐出されない。
【0108】
このようにサテライト滴の吐出を抑制することができるため、サテライト滴の吐出により発生し易いスプラッシュを防止することができ、霧状に浮遊するミストにより記録媒体の被記録面が汚れるのを確実に防止することができる。尚、図27〜29において、Idは溝部に付着したインク(溝内のインク)を、また、Ieは液流路内に残存しているインクを表している。
【0109】
このように、本例の液体吐出ヘッドでは、気泡が最大体積に成長した後の体積減少段階で液体を吐出する際に、吐出口の中心に対して分散した複数の溝により、吐出時の主液滴の方向を安定化させることができる。その結果、吐出方向のヨレのない、着弾精度の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。また、高い駆動周波数での発泡ばらつきに対しても吐出を安定して行うことができることによる、高速高精細印字を実現することができる。
【0110】
特に、気泡の体積減少段階でこの気泡を始めて大気と連通させることで液体を吐出することにより、気泡を大気に連通させて液滴を吐出する際に発生するミストを防止できるので、所謂、突然不吐の要因となる、吐出口面に液滴が付着する状態を抑制することもできる。
【0111】
また、本発明に好適に使用できる、吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の記録ヘッドの他の実施態様として、例えば特許第2,783,647号公報に記載のように、いわゆるエッジシュータータイプが挙げられる。
【0112】
本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも熱エネルギーを利用して飛翔的液滴を形成し、記録を行うインクジェット方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0113】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行なわれるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。
【0114】
このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行なうことができる。
【0115】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に、熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。
【0116】
加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明は有効である。
【0117】
更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0118】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或は記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0119】
また、本発明の記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを行うことも安定した記録を行うために有効である。
【0120】
更に、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによってでもよいが、異なる色の複色カラー、又は混色によるフルカラーの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
【0121】
以上説明した本発明においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化するもの、若しくは液体であるもの、或は上述のインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものであればよい。
【0122】
加えて、積極的に熱エネルギーによる昇温をインクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで防止するか、又はインクの蒸発防止を目的として放置状態で固化するインクを用いるかして、何れにしても熱エネルギーの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクとして吐出するものや、記録媒体に到達する時点では既に固化し始めるもの等のような、熱エネルギーによって初めて液化する性質のインクの使用も本発明には適用可能である。
【0123】
このような場合インクは、特開昭54−56847号公報或は特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部又は貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0124】
更に加えて、本発明に係る記録装置の形態としては、ワードプロセッサやコンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体又は別体に設けられるものの他、リーダと組み合せた複写装置、更には送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るものであってもよい。
【0125】
次に、上述した液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置の概略について説明する。図31は、本発明の液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図である。
【0126】
図31において、インクジェットヘッドカートリッジ601は、上述した液体吐出ヘッドとこの液体吐出ヘッドに供給するインクを保持するインクタンクとが一体となったものである。このインクジェットヘッドカートリッジ601は、駆動モータ602の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア603、604を介して回転するリードスクリュ605の螺旋溝606に対して係合するキャリッジ607上に搭載されており、駆動モータ602の動力によってキャリッジ607とともにガイド608に沿って矢印a,b方向に往復移動される。記録媒体Pは、図示しない記録媒体搬送手段によってプラテンローラ609上を搬送され、紙押え板610によりキャリッジ607の移動方向にわたってプラテンローラ609に対して押圧される。
【0127】
リードスクリュ605の一端の近傍には、フォトカプラ611、612が配設されている。これらはキャリッジ607のレバー607aのこの域での存在を確認して駆動モータ602の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知手段である。
【0128】
支持部材613は、上述のインクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口のある前面(吐出口面)を覆うキャップ部材614を支持するものである。また、インク吸引手段615は、キャップ部材614の内部にインクジェットヘッドカートリッジ601から空吐出等されて溜まったインクを吸引するものである。このインク吸引手段615によりキャップ内開口部(不図示)を介してインクジェットヘッドカートリッジ601の吸引回復が行われる。
【0129】
インクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口面を払拭するためのクリーニングブレード617は、移動部材618により前後方向(上記キャリッジ607の移動方向に直交する方向)に移動可能に設けられている。これらクリーニングブレード617及び移動部材618は、本体支持体619に支持されている。クリーニングブレード617は、この形態に限らず、他の周知のクリーニングブレードであってもよい。
【0130】
液体吐出ヘッドの吸引回復操作にあたって、吸引を開始させるためのレバー620は、キャリッジ607と係合するカム621の移動に伴って移動し、駆動モータ602からの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達手段で移動制御される。インクジェットヘッドカートリッジ601の液体吐出ヘッドに設けられた発熱体に信号を付与したり、前述した各機構の駆動制御を司ったりするインクジェット記録制御部は装置本体側に設けられており、ここには図示しない。
【0131】
上述の構成を有するインクジェット記録装置600は、図示しない記録媒体搬送手段によりプラテンローラ609上を搬送される記録媒体P’に対し、インクジェットヘッドカートリッジ601は記録媒体P’の全幅にわたって往復移動しながら記録を行う。
【0132】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、以下の記載で、「部」又は「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0133】
(反応液1)
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過し反応液を調製した。
・硝酸マグネシウム(6水和物) 5部
・トリメチロールプロパン 6部
・グリセリン 5部
・ジエチレングリコール 5部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 78部
【0134】
(反応液2)
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過し反応液を調製した。
・硝酸イットリウム(6水和物) 7部
・トリメチロールプロパン 6部
・グリセリン 5部
・ジエチレングリコール 5部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 76部
【0135】
(シアンインク1)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3(製品名:ファストゲンブルーFGF、大日本インキ化学株式会社製))10部、アニオン系高分子P−1(ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、酸価270、重量平均分子量8,500、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)30部、純水60部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約13%、重量平均粒径は100nmの顔料分散体C1を得た。
【0136】
(シアンインク1の組成)
・顔料分散体C1 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0137】
(シアンインク2)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3(製品名:ファストゲンブルーFGF、大日本インキ化学株式会社製))10部、アニオン系高分子P−2(スチレン−アクリル酸共重合体、酸価150、重量平均分子量6,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)30部、純水60部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約13%、重量平均粒径は120nmの顔料分散体C2を得た。
【0138】
(シアンインク2の組成)
・顔料分散体C2 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0139】
(マゼンタインク)
顔料(C.I.ピグメントレッド122(大日本インキ化学株式会社製))10部、アニオン系高分子P−3(n−ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体、酸価263、重量平均分子量11,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)20部、純水70部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約12%、重量平均粒径は155nmの顔料分散体Mを得た。
【0140】
(マゼンタインクの組成)
・顔料分散体M 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0141】
(イエローインク)
顔料(C.I.ピグメントイエロー180(製品名:ノバパームイエローPH−G、ヘキスト社製))10部、アニオン系高分子P−4(エチルアクリレート−アクリル酸共重合体、酸価252、重量平均分子量9,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)25部、純水65部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約12.5%、重量平均粒径は135nmの顔料分散体Yを得た。
【0142】
(イエローインクの組成)
・顔料分散体Y 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0143】
<実施例1>
上記で調整したインクを下記のように組み合わせてインクセットを作製した。
・反応液1
・イエローインク
・マゼンタインク
・シアンインク1
【0144】
各インクの反応液との反応後の質量基準による粒径は以下のようにして求めた。反応液を純水にて1,000倍希釈した希釈水溶液10gをとり、これに上記インクを10g加えてよく混合した。この混合溶液について、動的光散乱法を用いて質量基準の粒度分布を求めた。本実施例のインクセットにおける最大粒径値と最小粒径値の差は表1の通りであった。
【0145】
<実施例2>
上記で調整したインクを下記のように組み合わせてインクセットを作製した。
・反応液2
・イエローインク
・マゼンタインク
・シアンインク1
本実施例のインクセットにおける最大粒径値と最小粒径値の差は表1の通りであった。
【0146】
上記インクセットを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)を用いて下記の様にしてカラーバランス及び混色の色調の評価を行った。評価項目を以下に示す。記録媒体としては、市販のコピー用紙、ボンド紙及び再生紙を使用した。
【0147】
・混色画像の色調
シアン、マゼンタ、イエローを各々20%デューティーでグレー画像を表現し、その色調を目視約30cmの距離で以下の基準で比較することにより、混色画像の色調を評価した。
a:自然なグレー画像の色調。
b:一部の紙で、色調が異なって見える。
c:色調が異なって見える。
【0148】
<比較例1>
シアンインク1をシアンインク2に代えた以外は実施例1と全く同様の評価を行った。このインクセットにおける最大粒径と最小粒径の差は表1の通りであった。
【0149】
<比較例2>
シアンインク1をシアンインク2に代えた以外は実施例2と全く同様の評価を行った。このインクセットにおける最大粒径と最小粒径の差は表1の通りであった。結果の一覧を表1に記す。OD(光学濃度)については3種の記録媒体の平均値とした。
【0150】
【0151】
実施例1及び2のインクセットにおいては反応後の粒径が、結果として各色のODに大きな差はなく、カラーバランスに優れていた。また、グレー画像の色調も目視約30cmの距離において自然な色調であった。一方、比較例1及び2のインクセットにおいては、シアンインクの反応後の粒径が他のインクに比べて大きいため、シアンインクが他のインクに比べてODが高いため、グレー画像の色調は青味が強くなってしまったものと推察している。
【0152】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の各実施態様によれば、インクジェット記録を行う際に、カラーバランス及び発色性に優れ、混色の色ムラを低減した、高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施態様にかかる記録方法の概略説明図。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図。
【図3】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図。
【図4】図2に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図。
【図5】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図。
【図6】インクカートリッジの一例を示す縦断面図。
【図7】本発明の一実施態様にかかるインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図。
【図8】本発明の一実施態様にかかるインクカートリッジの他の実施態様を示す概略平面図。
【図9】図8のインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図。
【図10】本発明にかかるインクセットの他の実施態様を示す概略平面図。
【図11】記録ユニットの一例を示す斜視図。
【図12】本発明にかかる記録ユニットの他の実施態様を示す概略斜視図。
【図13】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図。
【図14】本発明のインクセットの一実施態様にかかる、反応液を収納した記録ユニット、イオン性基の作用によって水性媒体に分散されている色材を含む黒色インクを収納した記録ユニット、及びCMYの各カラーインクを収納した記録ユニットが同一キヤリッジ上に装着された状態を示す該略図。
【図15】図5のインクジェット装置の記録ヘッド部の一態様のオリフィス部の拡大図。
【図16】液体吐出ヘッドを搭載可能なインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図。
【図17】液体吐出ヘッドを備えたインクジェトカートリッジの一例を示す概略斜視図。
【図18】液体吐出ヘッドの一例の要部を模式的に示す概略斜視図。
【図19】液体吐出ヘッドの一例の一部を抽出した概念図。
【図20】図19に示した吐出口の部分の拡大図。
【図21】図20に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図。
【図22】図19における主要部の模式図。
【図23】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図24】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図25】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図26】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図27】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図28】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図29】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図30】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図31】本発明の液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図。
【図32】反応液付与方法の一例を示す模式図。
【図33】反応液付与方法の他の一例を示す模式図。
【符号の説明】
13:ヘッド
14:インク溝
15:発熱ヘッド
16:保護膜
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク小滴
25:記録媒体
26:マルチ溝
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口
91:液体組成物
92:インク
321:紙送りローラー
322:反応液
323:コーティングローラー
324:タンク
331:コーティングローラー
600:インクジェット記録装置
601:インクジェットヘッドカートリッジ
602:駆動モータ
603、604:駆動力伝達ギア
605:リードスクリュ
606:螺旋溝
607:キャリッジ
607a:レバー
608:ガイド
609:プラテンローラ
610:紙押え板
611、612:フォトカプラ
613:支持部材
614:キャップ部材
615:インク吸引手段
616:キャップ内開口部
617:クリーニングブレード
618:移動部材
619:本体支持体
620:(吸引開始)レバー
621:カム
832:吐出口
832a:起部
832b:伏部
901:記録ヘッド
931:電気熱変換素子(ヒータ,インク吐出エネルギ発生素子)
933:インク供給口(開口部)
934:基板
935:オリフィスプレート(吐出口プレート)
935a:吐出口面
936:インク流路壁
936a:隔壁
940:吐出口部
1001:カートリッジ
1003:液体組成物の収容部
1005:インクの収容部
1101:記録ヘッド
1201、1203:カートリッジ
1205:記録ヘッド
1301:記録ユニット
1303:記録ヘッド
1401:キャリッジ
1501:記録ヘッド
1337:発泡室
1338:液流路
1141:溝
1141a:頂部
100:インクジェット記録ヘッド
101:気泡
102:メニスカス
1002:液体タンク
1006:移動駆動部
1008:ケーシング
1010:記録部
1010a:キャリッジ部材
1012:カートリッジ
1012Y,M,C,B:インクジェットカートリッジ
1016:ベルト
1018:モータ
1020:駆動部
1022a、1022b:ローラユニット
1024a、1024b:ローラユニット
1026:回復ユニット
1026a、1026b:プーリ
1028:記録媒体(用紙)
1030:搬送装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性ボールペン、万年筆、水性サインペン等の筆記具や、インクジェットプリンタ用に好適なインクセット、インクジェット記録方法及び記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
安価な装置で高解像度且つ高品位な画像を、高速で印刷可能であるという特徴を有するインクジェット記録は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。しかしながら、インクジェット記録方法はインク組成物が液体であるために、記録媒体上に着弾した際にインク液滴が記録媒体中に浸透するために輪郭部が不明瞭となったり、また、隣接する異なる色間の境界にじみ(所謂カラーブリード)が発生する現象があった。
【0003】
この問題を解決することを目的として、多価金属塩溶液を記録媒体に適用した後、少なくとも一つのカルボキシル基を有する染料を含むインク組成物を適用する方法が提案されている(特許文献1参照)。即ち、多価金属イオンを含有する反応液と染料が記録媒体上で接触することにより不溶性物が形成される。この結果として輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を得ることが可能となる。
【0004】
また、塩との作用により増粘又は凝集するブラックインクとその塩を含有するカラーインクとを組合せて使用することにより、画像濃度が高く且つカラーブリードがない高品位のカラー画像が得られるという技術手段も開示されている(特許文献2参照)。即ち、塩を含有する第一の液と、インク組成物との二液を印字することで、良好な画像を得ることが可能となる。更に、二液を用いる各種の提案がなされている(特許文献3及び特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−202328号公報
【特許文献2】
特開平6−106735号公報
【特許文献3】
特開平3−240557号公報
【特許文献4】
特開平3−240558号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記多価金属イオンを含有するインクセットについて種々の検討を行った。その結果、インク組成物中の色材として顔料を採用すると、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を形成することが可能である一方、新たな課題を認識するに到った。
【0007】
即ち、反応液中の多価金属イオンがインク組成物中の顔料の分散を破壊し、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがないといった効果を奏するものであるが、インク組成物の反応液に対する反応性の違いによってインクごとの発色性が異なってしまい、場合によっては印字物のカラーバランスが崩れてしまうという問題があった。
【0008】
例えば、シアン、マゼンタ、イエローからなるインクセットで、ブルー、レッド、グリーンの2次色画像やグレー画像といった混色画像を形成するときに、インクセットの中で反応液との反応性に大きな差があると、反応性の高いインクの色味が強い画像となってしまうことがあった。一般に、顔料の粒径と発色の間には、「粒径が小さいほど発色性が高く、粒径が大きいほど発色性が低下する」という関係があるといわれている。しかし、これは反応前の顔料インクの粒径についていわれていることであり、厳密には発色に関係しているのは印字後の紙面上での粒径である。上記多価金属イオンを含有する反応液と顔料インクのセットにおいては、反応液と反応した後の粒径が発色に関係しているといえる。そして、特定のインクと反応液との反応物の粒径が、他のインクのそれと大きく異なっている場合、画像の微妙な階調の再現が困難となることがあるとの知見を得た。
【0009】
従って、本発明者らは、反応液と反応する顔料インクを有するインクセットにおいて、カラーバランスが良く、且つ顔料の発色性を最大限に引き出す手段が必要であるとの結論に至った。
従って、本発明の目的は、単色のみならず混色のカラーバランス及び発色性にも優れた、高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくとも2種のインク組成物(以下単に「インク」という場合がある)と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を有するインクセットにおいて、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液と上記インク組成物の各々とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクセットを提供する。
【0011】
上記本発明においては、前記インク組成物が、顔料と顔料分散剤とを含むこと;前記少なくとも2種のインク組成物において、互いに分散剤が異なるか、或いは顔料と分散剤との質量比率が異なること;前記インク組成物が、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの色調からなること;前記反応液の表面張力が、前記インク組成物の何れの表面張力よりも高いこと;前記反応液が、多価金属を含有すること;及び前記多価金属が、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、記録媒体に、少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を付着させて、記録を行うインクジェット記録方法において、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記インク組成物の各々と上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【0013】
上記本発明においては、前記反応液を、前記インクに先だって記録媒体に付与する工程を少なくとも含むこと;前記インク組成物が、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの色調からなること;前記反応液の表面張力が、前記インク組成物の何れの表面張力よりも高いこと;前記反応液が、多価金属を含有すること;及び前記多価金属が、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+の少なくとも1種を含むことが好ましい。
また、本発明は、上記記録方法によって印字されてなることを特徴とする記録物を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明のインクセットは、少なくとも2つの異なる色調のインクが、反応液と全て反応するものであって、上記インクが少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ反応前のインク中の顔料の粒径とインクの反応液との反応後の顔料の粒径が同程度であることが好ましい。
【0015】
インクの反応液との反応後の粒径は、反応液の1,000質量倍希釈水溶液と各インクとを質量比で1:1で混合した混合溶液を測定することにより決定され、本発明のインクセットは、インクセットにおける最大粒径値と最小粒径値の差が100nm以下となることが好ましい。勿論、この際、前記インク組成物が顔料と顔料分散剤とを含むこと、及び前記少なくとも2種のインク組成物において、互いに分散剤が異なるか、或いは顔料と分散剤との質量比率が異なる場合も含まれる。
【0016】
各インクの反応後の粒径が上記の範囲にあることにより、各色の発色性が大きく異なることなく、混色画像においてもバランスの取れた画像が形成できるという効果を奏する。より具体的にいえば、色調が徐々に変化するようなグラデーション部分を再現しようとした場合に、特定の色の発色性が、他の色の発色性よりも強いと、中間の階調が表現できないことがある。しかし、本発明によれば、インクと反応液との反応により得られる反応物の粒径を揃えることにより、特定の色の発色が突出したり、或いは弱すぎたりすることを抑えることができ、多階調の画像の再現性をより向上させることができるという効果を奏する。尚、粒径測定方法としては、従来から用いられている方法の何れを用いてもよく、例えば、動的光散乱法や沈降速度法等が挙げられる。又、本発明における顔料の粒径は、特に断りがない限り重量基準の平均粒径を意味する。
【0017】
(反応液)
水性媒体中にイオン性基の作用によって分散又は溶解させられている色材の分散安定性を記録媒体上で破壊及び凝集することのできる反応液としては、例えば、金属塩、低分子カチオン性化合物、及びカチオン性高分子を含むもの等が挙げられる。この中で、金属塩及び水性媒体を含んでいることがより好ましい。
【0018】
(金属塩について)
反応液に用いることができる金属塩とは、一価の金属イオン及び二価以上の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+及びBa2+等の二価金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+等の三価金属イオン等が挙げられる。陰イオンとしては、SO4 2−、Cl−、CO3 −、NO3 −、I−、Br−、ClO3 −及びCH3COO−等が挙げられる。
【0019】
また、一価の金属イオンとしては以下のものが挙げられる。例えば、(M1)2SO4、CH3COO(M1)、Ph−COO(M1)、(M1)NO3、(M1)Cl、(M1)Br、(M1)I、(M1)2SO3及び(M1)2CO3から選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。ここでM1はアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わし、Phはフェニル基を表す。
【0020】
そして、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム及びトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。勿論、本発明で使用する塩は上記化合物に限定されるものではない。また、反応液中の上記金属塩の含有量は、本発明にかかる効果を考慮すると0.01〜20質量%が好ましい。
【0021】
(低分子カチオン性化合物及びカチオン性高分子について)
反応液に用いることができる低分子カチオン性化合物及びカチオン性高分子とは、本発明の範囲にあり、且つ水に可溶なものである。低分子カチオン性化合物の具体例としては、1級或いは2級或いは3級アミン塩型のラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩や、第4級アンモニウム塩型のラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0022】
また、ピリジニウム塩型のセチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、更にイミダゾリン型の2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンや、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物であるジヒドロキシエチルステアリルアミン等が挙げられる。
【0023】
カチオン性高分子の具体例としては、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミンスルホン塩酸塩、ポリビニルアミン塩酸塩、キトサン酢酸塩等を挙げることができる。また、この他に、ノニオン性高分子物質の一部をカチオン化したビニルピロリドンとアミノアルキルアルキレート4級塩との共重合体、アクリルアマイドとアミノメチルアクリルアマイド4級塩との共重合体等を挙げることができる。勿論、本発明の範疇を越えない限り、これらの化合物に限定されないことはいうまでもない。また、反応液中の上記化合物及び高分子の含有量は、本発明にかかる効果を考慮すると0.1〜20質量%が好ましい。
【0024】
また、反応液は、必ずしも可視域に吸収を示さないものである必要はない。可視域に吸収を示すとしても実質上画像に影響を与えない範囲であれば可視域に吸収を示すものであってもかまわない。
【0025】
(水性媒体)
本発明で使用する反応液に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、反応液の乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或は混合物としても使用することができる。また、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0026】
本発明に使用する反応液中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、反応液全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。また、反応液に含有される水の含有量は反応液全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。更に上記の成分の他に必要に応じて所望の物性値を持つ反応液とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができる。
【0027】
(インク組成物)
上記した反応液は、色材がイオン性基によって水性媒体に分散又は溶解させられているインク組成物と組合せて記録に用いることで、高品質の画像を形成することができる等の好ましい効果を得られる。
【0028】
かかるインクに用いることのできる色材としては、顔料(マイクロカプセル化顔料、更には着色樹脂等も本明細書中では顔料の範疇とする)が挙げられる。以下これらの色材について詳述する。
【0029】
(顔料)
用い得る顔料としては、例えば、カーボンブラックや有機顔料等が挙げられる。
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア社製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キャボット社製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)等を使用することができるが、これらに限定されるものではなく従来公知のカーボンブラックを使用することが可能である。また、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0030】
(有機顔料)
有機顔料として具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
【0031】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、137、138、147、148、151、153、154、166、168、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:3、15:1、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。勿論上記以外でも従来公知の有機顔料が使用可能である。
【0032】
(分散剤)
上記したカーボンブラックや有機顔料を用いる場合には分散剤を併用することが好ましい。分散剤としては、アニオン性基の作用によって上記の顔料を水性媒体に安定に分散させることのできるものが好適に用いられる。分散剤の具体例は、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体或はこれらの塩等が含まれる。また、これらの分散剤は、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、特には3,000〜15,000の範囲のものが好ましい。
【0033】
(自己分散型顔料)
色材として、顔料表面にイオン性基(アニオン性基)を結合させることによって分散剤なしで水性媒体に分散させることのできる顔料、所謂自己分散型顔料を用いることもでき、このような顔料の一例として、例えば、自己分散型カーボンブラックを挙げることができる。自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、アニオン性基がカーボンブラック表面に結合したものを挙げることができる。
【0034】
(アニオン性カーボンブラック)
アニオン性カーボンブラックとしては、カーボンブラックの表面に、例えば、−COO(M2)、−SO3(M2)、−PO3H(M2)及び−PO3(M2)2から選ばれる少なくとも1つのアニオン性基を結合させたものが挙げられる。
【0035】
上記式中、M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす。これらの中で特に−COO(M2)や−SO3(M2)をカーボンブラック表面に結合してアニオン性に帯電せしめたカーボンブラックはインク中の分散性が良好なため本発明に特に好適に用い得る。
【0036】
ところで、上記親水性基中「M2」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0037】
そして、M2をアンモニウム或いは有機アンモニウムとした自己分散型カーボンブラックを含む本発明のインクは、記録画像の耐水性をより向上させることができ、この点において特に好適に用いることができる。これは当該インクが記録媒体上に付与されると、アンモニウムが分解し、アンモニアが蒸発する影響によるものと考えられる。ここでM2をアンモニウムとした自己分散型カーボンブラックは、例えば、M2がアルカリ金属である自己分散型カーボンブラックをイオン交換法を用いてM2をアンモニウムに置換する方法や、酸を加えてH型とした後に水酸化アンモニウムを添加してM2をアンモニウムにする方法等が挙げられる。
【0038】
アニオン性に帯電している自己分散型カーボンブラックの製造方法としては、例えば、カーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法が挙げられ、この方法によってカーボンブラック表面に−COONa基を化学結合させることができる。
【0039】
ところで、上記した様な種々の親水性基は、カーボンブラックの表面に直接結合させてもよい。或いは他の原子団をカーボンブラック表面と親水性基との間に介在させ、親水性基をカーボンブラック表面に間接的に結合させてもよい。ここで他の原子団の具体例としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、置換若しくは未置換のナフチレン基が挙げられる。ここでフェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。また、他の原子団と親水性基の組合わせの具体例としては、例えば、−C2H4COO(M2)、−Ph−SO3(M2)、−Ph−COO(M2)等(但し、Phはフェニル基を表す)が挙げられる。
【0040】
ところで、本発明において上記した自己分散型カーボンブラックの中から2種若しくはそれ以上を適宜選択してインクの色材に用いてもよい。また、インク中の自己分散型カーボンブラックの添加量としては、インク全質量に対して、0.1〜15質量%、特には1〜10質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲とすることで自己分散型カーボンブラックは、インク中で十分な分散状態を維持することができる。更にインクの色調の調整等を目的として、自己分散型カーボンブラックに加えて染料を色材として添加してもよい。
【0041】
(着色微粒子/マイクロカプセル化顔料)
色材として上記したものの他に、ポリマー等でマイクロカプセル化した顔料や樹脂粒子の周囲を色材で被覆した着色微粒子等も用いることができる。マイクロカプセルに関しては、本来的に水性媒体に対する分散性を有するが、分散安定性を高めるために上記したような分散剤を更にインク中に共存させてもよい。また、着色微粒子を色材として用いる場合には、上記したアニオン系分散剤等を用いることが好ましい。
【0042】
(水性媒体)
上記した様な色材を分散させる水性媒体は、特に限定されるものでなく、反応液に用いる水性媒体として前記したものと同様のものを用いることができる。また、カラーインクをインクジェット法(例えば、バブルジェット(登録商標)法等)で記録媒体に付着せしめる場合には、前述したように優れたインクジェット吐出特性を有するようにインクに所望の粘度及び表面張力を有するように調整することが好ましい。
【0043】
本発明に係るインク組成物に用いられる水性媒体の例としては、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、インク組成物の乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或は混合物としても使用することができる。また、水としては脱イオン水を使用することが望ましい。
【0044】
本発明に関わるインク組成物中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク組成物全質量に対して、好ましくは3〜50質量%の範囲が好適である。また、インク組成物に含有される水の含有量はインク組成物全質量に対して好ましくは50〜95質量%の範囲である。更に上記の成分のほかに必要に応じて保湿剤を添加することは勿論、所望の物性値を持つインク組成物とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加しても構わない。
【0045】
(インクセット)
前記反応液と組み合わせてインクセットを構成するインクの色調は特に限定されず、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックから選ばれる1つの色調を示すインクとすればよい。具体的には、所望の色調のインクとなるように前記した色材の中から適宜選択して用いることができる。ここで各インク中の色材の含有量は、例えば、インクジェット記録に用いる場合にはインクが優れたインクジェット吐出特性を備え、また、所望の色調や濃度を有するように適時選択すればよいが、目安としては、例えば、インク全質量に対して1〜50質量%の範囲が好ましい。
【0046】
また、インクに含有される水の量はインク全質量に対して50〜95質量%の範囲が好ましい。また、反応液と組み合わせるインクは、異なる色調のインクを2つ以上組み合わせて多色画像の形成に適したインクセットとすることがより好ましい。
【0047】
(記録方法)
前記反応液は、色材がイオン性基の作用によって水性媒体に分散させられているインクと組み合わせて、(i)インクを記録媒体に付与する工程;及び(ii)反応液を記録媒体の少なくともインクが付与される領域に付与する工程、を有する記録方法を採用することによって、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードを生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することができる。
【0048】
尚、このようなインクセットが高画像濃度及び高発色で印字品位を良好にできる理由は明らかではないが、例えば、反応液とインクをインクジェット法によって記録媒体(紙)面上に飛翔させ、両者を付着させた場合、インク中では安定し存在していた顔料等の色材が、紙面に付着後急速に反応する。
【0049】
しかし、反応液との反応後の粒径がインクによって大きく異なると、例えば、シアン、マゼンタ、イエローからなるインクセットでブルー、レッド、グリーンの2次色やグレーといった混色の画像を形成するときに、反応性の高いインクの色味が強い画像となってしまう。また、他のインクに比べて極端に反応性の高いインクがあると、主に低デューティーの淡色画像において諧調性の良好な画像が得られにくい。一方、本発明の手段を用いた場合、インクの反応後の粒径が同程度であるので、インクセットのカラーバランスは崩れることなく、結果として良好な混色画像並びに諧調性に優れた淡色画像が得られるという効果を奏すると推察している。
【0050】
上記インクと反応液とのインクセットをインクジェット等で用いた場合、
a:反応液を印字した後にインクを印字する場合、
b:インクを印字した後に反応液を印字する場合、
c:インクを印字した後に反応液を印字させ、更にインクを印字させる場合、
d:反応液を印字した後にインクを印字させ、更に反応液を印字させる場合等、様々な記録方法が考えられる。そしてインクと反応液との付与方法は、適宜選択すればよい。しかし本発明の目的を鑑みれば、反応液をインクに先だって記録媒体に付与する工程を少なくとも含む前記(a)又は(d)が好ましい。
【0051】
反応液の付与方法としては、前述の吐出手段を用いても構わないが、勿論、これに限定されるものではない。例えば、ローラー塗布、バーコート等の従来公知のいかなる手段であっても本発明の技術思想の範囲内である。尚、反応液の付与手段は記録装置と一体であっても別体であっても構わない。吐出手段を用いて反応液を付与する場合には、吐出適性等の確保の制約もあり、むしろローラー塗布等の方法が好ましい場合もある。具体的に前記(a)の場合には、実質的に記録媒体の全面にインクジェット方式と別の方式を用いて反応液を付与することも可能である。
【0052】
以下に反応液付与方法の一例を挙げる。図32及び図33に反応液付与方法の一例を示す。図32において記録媒体は紙送りローラー321と反応液322を付与するためのコーティングローラー323との間に挟み込まれて通過する。その際、コーティングローラー323は反応液322が蓄えられたタンク324に浸されながら回転し、反応液を常に補充しながら記録媒体に反応液を付与する。図33においては反応液が充填された多孔質のコーティングローラー331が回転しながら記録媒体に反応液を付与する。勿論、図32及び図33の類の装置をユニット化してプリンタ本体に組みこんでも構わない。また、上記方法に限定させるものではなく従来公知の方法であっても構わない。
【0053】
これまでの発明者らの検討によれば以下の様に考えられる。前記(a)又は(d)の付与方法においては、先ず、反応液91が記録媒体25に付与され(図1(a)参照)、次いで反応液が付与された部位にインク92が付与される(図1(b)参照)。そのためインク中の色材は、記録媒体25に付与された直後から記録媒体表面に存在する反応液との反応することにより、インク中の色材をより多く記録媒体25の表面に留めることができる結果、輪郭部の不明瞭性の改善及びカラーブリードが生じることがなく、更に耐裏抜け性に優れた高品位の画像を形成することが可能になると考えられるからである。
【0054】
また、上記反応液とインク組成物とのインクセットを複数、若しくは上記反応液とインク組成物とのインクセットと他のインク組成物を組み合わせることによってカラー画像の形成に好適に用い得るインクセットを提供することができる。そして、このようなインクセットを用いて、例えば、ブラックインクに上記インクセットを用いて黒色画像部及びカラー画像部と隣接するような記録を行った場合、ブリーディングの発生を極めて有効に抑えることができる。
【0055】
(インク特性、インクジェット吐出特性及び記録媒体への浸透性について)
上記各実施態様にかかるインクセットは、インクジェット記録用のインクセットとして好適に用いることができる。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明の反応液及びインクは特に好適である。
【0056】
ところで、上記各実施態様にかかる反応液及びインクをインクジェット記録用に用いる場合には、反応液及びインクはインクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましい。インクジェットヘッドからの吐出性という観点からは、液体の特性としては、例えば、その粘度を1〜15cps及び表面張力が25mN/m(dyne/cm)以上、特には粘度を1〜5cps、及び表面張力が25〜50mN/m(dyne/cm)とすることが好ましい。
【0057】
(インクジェット記録方法)
次に本発明の各々の反応液及びインクを好適に用い得るインクジェット記録方法について説明する。図2は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図3は図2のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0058】
発熱素子基板15は酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1、17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される畜熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性の良い材料で形成される基板20より成り立っている。
【0059】
上記ヘッドの電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインクに気泡が発生し、その発生する圧力でメニスカス23が突出し、インクがヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0060】
図4には図2に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの外観図を示す。このマルチヘッドはマルチノズル26を有するガラス板27と、図2に説明したものと同じ様な発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0061】
(インクジェット記録装置)
図5に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図5において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0062】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0063】
上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面の水分や塵埃等の除去が行われる。また、キャップを介して不図示のポンプによって記録へッドの各インク、更には反応液の吐出口の位置しているインク等を吸引して、記録ヘッド本来のインク、或はインク及び反応液の本来の吐出性能を回復させる回復系ユニットを構成している。
【0064】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。
【0065】
これらの構成により記録ヘッドの65吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。
【0066】
上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0067】
(インクカートリッジ)
図6は、記録ヘッドにインク若しくは反応液を供給する部材、例えば、チューブを介して供給されるインク若しくは該反応液を収容したカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は供給用のインク又は反応液を収納した収容部、例えば、袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、袋40中のインク又は反応液をヘッドに供給可能にする。44は廃インク又は廃反応液を受容する吸収体である。
【0068】
収容部40としてはインク又は反応液との接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。このようなカートリッジは、例えば、図7に示したようにインク又は反応液を吐出せしめる記録ヘッド901に着脱可能に構成されてなるとともに、該カートリッジ45を記録ヘッドに装着した状態ではインク又は反応液が記録ヘッド901に供給される様に構成されている。
【0069】
また、本発明にかかるカートリッジの他の態様として、反応液と該インクとを各々個別に収容した2つの収容部を有し、インク及び反応液を吐出させるためのヘッドに対して着脱可能に構成され、且つインク及び反応液が該記録ヘッドに供給可能に構成されているカートリッジを挙げることができる。
【0070】
図8はそのようなカートリッジ1001の一例を示すものであり、1003は反応液の収容部、1005がインクの収容部であり、該カートリッジは図9に示す様にインク及び反応液の各々を吐出せしめる記録ヘッド1101に着脱可能に構成されてなるとともに、該カートリッジ1001を記録ヘッド1101に装着した状態では反応液及びインクが記録ヘッド1101に供給される様に構成されているものである。
【0071】
また、本発明のインクセットは、図8に示した様に反応液とインクとが物理的に一体化されているものばかりでなく、例えば、図10に示す様に、反応液を収納したカートリッジ1201とインクを収納したカートリッジ1203とを反応液及びインクの各々を吐出させる共通の記録ヘッド1205に装着し、反応液及びインクとを用いてインクジェット画像の記録を行なうことのできる様に構成されているものもまた本発明の範囲内のものである。
【0072】
(記録ユニット)
本発明で使用されるインクジェット装置としては、上述の様にヘッドとカートリッジとが別体となったものに限らず、図11に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図11において、70は記録ユニットであり、この中にはインク又は反応液を収容した収容部である。例えば、インクを収容する場合には、インク吸収体を収納し、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。
【0073】
また、吸収体を用いず、収容部が内部にバネ等を仕込んだ袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図5に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0074】
更に本発明にかかる記録ユニットの他の実施態様として、反応液とイエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー及びブラックの色相を有するカラーインクから選ばれる少なくとも1つのインクとを、1個のインクタンク内の各々のインク収納部に収納し、且つ各々のインクを吐出させるための記録ヘッドを一体的に備えた記録ユニット、具体的には、例えば、図12に示す様に反応液を収容部1301Lに、イオン性基によって水性媒体に分散させられている黒インクを収納部1301Bkに、また、イエロー、シアン及びマゼンタのカラーインクを各々カラーインク収納部1301Y、1301C及び1301Mに収納し、更に該反応液と他の4つの色調の異なるインクを各々個別に吐出させることができる様にインク流路を分けて構成した記録ヘッド1303を備えている様な記録ユニット1301挙げられる。
【0075】
次に、第二の力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成例を図13に示す。
【0076】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板等を指示固定するための基板84とから構成されている。
【0077】
図13において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属を電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。
【0078】
以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、ひずみ応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレートの吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。この様な記録ヘッドは図5に示したものと同様な記録装置に組み込んで使用される。記録装置の細部の動作は先述と同様に行うもので差しつかえない。
【0079】
(インクセットを用いた記録装置及び記録方法)
次にインクセットを用いてカラー画像を記録する場合には、例えば、前記図4に示した記録ヘッドを5つキャリッジ1401上に並べた記録装置を用いることができる。図14はその一実施例であり、1401L、1401Bk、1401Y、1401M及び1401Cはそれぞれ、反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク、及びシアン、マゼンタ、イエロー各色のインクを吐出するための記録ユニットである。該記録ユニットは前記した記録装置のキャリッジ上に配置され、記録信号に応じて各色のインクを吐出する。また、反応液は、各色の或いは各色の中の少なくとも1色の記録インクが記録紙に付着する部分に、先立って或はインク付着後に付着させる。
【0080】
また、図14では記録ユニットを5つ使用した例を示したが、これに限定されず、例えば、図15に示した様に1つの記録ヘッドで上記の反応液、イオン性基の作用によって水性媒体に分散させられてなるカーボンブラックを含む黒色インク及びYMCの3色のインクを各々含むインクカートリッジ1501L、1501Bk、1501Y、1501M及び1501Cから供給される各色のインクを各々個別に吐出させることができるようにインク流路を分けて構成した記録ヘッド1501に取り付けて記録を行う態様も挙げられる。
【0081】
次に本発明に好適に使用できる記録装置及び記録ヘッドの他の具体例を説明する。図16は、本発明にかかるインクセットを構成する反応液やインクの吐出時に気泡が大気と連通する吐出方式の液体吐出ヘッド及びこのヘッドを用いた液体吐出装置としてのインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図である。
【0082】
図16においては、インクジェットプリンタは、ケーシング1008内に長手方向に沿って設けられる記録媒体としての用紙1028を図16に示す矢印Pで示す方向に間欠的に搬送する搬送装置1030と、搬送装置1030による用紙1028の搬送方向Pに略直交する方向Sに略平行に往復運動せしめられる記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成されている。
【0083】
移動駆動部1006は、所定の間隔をもって対向配置される回転軸に配されるプーリ1026a及び1026bに巻きかけられるベルト1016と、ローラユニット1022a及び1022bに略平行に配置され記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を順方向及び逆方向に駆動させるモータ1018とを含んで構成されている。
【0084】
モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図16の矢印R方向に回転したき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図16の矢印S方向に所定の移動量だけ移動される。また、モータ1018が作動状態とされてベルト1016が図16の矢印R方向とは逆方向に回転したとき、記録部1010のキャリッジ部材1010aは図16の矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動されることとなる。
【0085】
更に、移動駆動部1006の一端部には、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が記録部1010のインク吐出口配列に対向して設けられている。
【0086】
記録部1010は、インクジェットカートリッジ(以下単に「カートリッジ」という場合がある)1012Y、1012M、1012C及び1012Bが各色、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックごとにそれぞれ、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えられる。
【0087】
図17は上述のインクジェット記録装置に搭載可能なインクジェットカートリッジの一例を示す。本例におけるカートリッジ1012は、シリアルタイプのものであり、インクジェット記録ヘッド100と、インク等の液体を収容する液体タンク1002とで主要部が構成されている。
【0088】
インクジェット記録ヘッド100は液体を吐出するための多数の吐出口832が形成されており、インク等の液体は、液体タンク1002から図示しない液体供給通路を介して液体吐出ヘッド100の共通液室(図18参照)へと導かれるようになっている。カートリッジ1012は、インクジェット記録ヘッド100と液体タンク1001とを一体的に形成し、必要に応じて液体タンク1001内に液体を補給できるようにしたものであるが、この液体吐出ヘッド100に対し、液体タンク1001を交換可能に連結した構造を採用するようにしてもよい。
【0089】
このような構成のインクジェットプリンタに搭載され得る上述の液体吐出ヘッドの具体例を以下に更に詳しく説明する。図18は本発明の基本的な形態を示す液体吐出ヘッドの要部を模式的に示す概略斜視図であり、図19〜図22は図18に示した液体吐出ヘッドの吐出口形状を示す正面図である。尚、電気熱変換素子を駆動するための電気的な配線等は省略している。
【0090】
本例の液体吐出ヘッドにおいては、例えば、図18に示されるような、ガラス、セラミックス、プラスチック或は金属等からなる基板934が用いられる。このような基板の材質は、本発明の本質ではなく、流路構成部材の一部として機能し、インク吐出エネルギー発生素子、及び後述する液流路、吐出口を形成する材料層の支持体として、機能し得るものであれば、特に限定されるものではない。
【0091】
そこで、本例では、Si基板(ウエハ)を用いた場合で説明する。吐出口は、レーザー光による形成方法の他、例えば後述するオリフィスプレート(吐出口プレート)935を感光性樹脂として、MPA(Mirror Projection Aliner)等の露光装置により形成することもできる。
【0092】
図18において934は電気熱変換素子(以下単に「ヒータ」という場合がある)931及び共通液室部としての長溝状の貫通口からなるインク供給口933を備える基板であり、インク供給口933の長手方向の両側に熱エネルギ発生手段であるヒータ931がそれぞれ1列ずつ千鳥状に電気熱変換素子の間隔が、例えば、300dpiで配列されている。この基板934上にはインク流路を形成するためのインク流路壁936が設けられている。このインク流路壁936には、更に吐出口832を備える吐出口プレート935が設けられている。
【0093】
ここで、図18においてはインク流路壁936と吐出口プレート935とは、別部材として示されているが、このインク流路壁936を、例えば、スピンコート等の手法によって基板934上に形成することによりインク流路壁936と吐出口プレート935とを同一部材として同時に形成することも可能である。本例では、更に、吐出口面(上面)935a側は撥水処理が施されている。
【0094】
本例では、図16の矢印S方向に走査しながら記録を行うシリアルタイプのヘッドを用い、例えば、1,200dpiで記録を行う。駆動周波数は10kHzであり、一つの吐出口では最短時間間隔100μsごとに吐出を行うことになる。
【0095】
また、ヘッドの実例寸法の一例としては、例えば、図19に示すように、隣接するノズルを流体的に隔離する隔壁936aは、幅w=14μmである。図22に示すように、インク流路壁936により形成される発泡室1337は、N1(発泡室の幅寸法)=33μm、N2(発泡室の長さ寸法)=35μmである。ヒータ931のサイズは30μmでヒータ抵抗値は53Ωであり、駆動電圧は10.3Vである。また、インク流路壁936及び隔壁936aの高さは12μmで、吐出口プレート厚は11μmのものが使用できる。
【0096】
吐出口832を含む吐出口プレートに設けられた吐出口部940の断面のうち、インクの吐出方向(オリフィスプレート935の厚み方向)に交差する方向で切断してみた断面の形状は概略星形となっており、鈍角の角を有する6つの起部832aと、これら起部832aの間に交互に配され且つ鋭角の角を有する6つの伏部832bとから概略構成されている。即ち、吐出口の中心Oから局所的に離れた領域としての伏部832bをその頂部、この領域に隣接する吐出口の中心Oから局所的に近い領域としての起部832aをその基部として、図18に示すオリフィスプレートの厚み方向(液体の吐出方向)に6つの溝が形成されている。(溝部の位置については図23の1141a参照)
【0097】
本例においては、吐出口部940は、例えば、その厚み方向に交差する方向で切断した断面が一辺27μmの二つの正三角形を60度回転させた状態で組み合わせた形状となっており、図20に示すT1は8μmである。起部832aの角度はすべて120度であり、伏部832bの角度はすべて60度である。
【0098】
従って、吐出口の中心Oと、互いに隣接する溝の中心部(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の中心(重心))を結んで形成される多角形の重心Gとが一致するようになっている。本例の吐出口832の開口面積は400μm2であり、溝部の開口面積(溝の頂部と、この頂部に隣接する2つの基部とを結んでできる図形の面積)は1つあたり約33μm2となっている。図21は図20に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図である。
【0099】
次に、上述の構成のインクジェット記録ヘッドによる液体の吐出動作について図23〜図30を用いて説明する。図23〜図30は、図18〜図22に記載の液体吐出ヘッドの液体吐出動作を説明するための断面図であり、図22に示す発泡室1337のX−X断面図である。この断面において吐出口部940のオリフィスプレート厚み方向の端部は、溝1141の頂部1141aとなっている。
【0100】
図23はヒータ上に膜状の気泡が生成した状態を示し、図24は図23の約1μs後、図25は図23の約2μs後、図26は図23の約3μs後、図27は図23の約4μs後、図28は図23の約5μs後、図29は図23の約6μs後、図30は図23の約7μs後の状態をそれぞれ示している。尚、以下の説明において、「落下」又は「落とし込み」、「落ち込み」とは、いわゆる重力方向への落下という意味ではなく、ヘッドの取り付け方向によらず、電気熱変換素子の方向への移動をいう。
【0101】
まず、図23に示すように、記録信号等に基づいたヒータ931への通電に伴いヒータ931上の液流路1338内に気泡101が生成されると、約2μs間に図24及び図25に示すように急激に体積膨張して成長する。気泡101の最大体積時における高さは吐出口面935aを上回るが、このとき、気泡の圧力は大気圧の数分の1から10数分の1にまで減少している。
【0102】
次に、気泡101の生成から約2μs後の時点で気泡101は上述のように最大体積から体積減少に転じるが、これとほぼ同時にメニスカス102の形成も始まる。このメニスカス102も図26に示すようにヒータ931側への方向に後退、即ち落下してゆく。
【0103】
ここで、本例においては、吐出口部に複数の溝1141を分散させて有していることにより、メニスカス102が後退する際に、溝1141の部分ではメニスカス後退方向FMとは反対方向FCに毛管力が作用する。その結果、仮に何らかの原因により気泡101の状態に多少のバラツキが認められたとしても、メニスカスの後退時のメニスカス及び主液滴(以下、液体又はインクと記述する場合がある)Iaの形状が、吐出口中心に対して略対称形状となるように補正される。
【0104】
そして、本例では、このメニスカス102の落下速度が気泡101の収縮速度よりも速いために、図27に示すように気泡の生成から約4μs後の時点で気泡101が吐出口832の下面近傍で大気に連通する。このとき、吐出口832の中心軸近傍の液体(インク)はヒータ931に向かって落ち込んでゆく。これは、大気に連通する前の気泡101の負圧によってヒータ931側に引き戻された液体(インク)Iaが、気泡101の大気連通後も慣性でヒータ931面方向の速度を保持しているからである。
【0105】
ヒータ931側に向かって落ち込んでいった液体(インク)は、図28に示すように気泡101の生成から約5μs後の時点でヒータ931の表面に到達し、図29に示すようにヒータ931の表面を覆うように拡がってゆく。このようにヒータ931の表面を覆うように拡がった液体はヒータ931の表面に沿った水平方向のベクトルを有するが、ヒータ931の表面に交差する、例えば、垂直方向のベクトルは消滅し、ヒータ931の表面上に留まろうとし、それよりも上側の液体、即ち、吐出方向の速度ベクトルを保つ液体を下方向に引っ張ることになる。
【0106】
その後、ヒータ931の表面に拡がった液体と上側の液体(主液滴)との間の液体部分Ibが細くなってゆき、気泡101の生成から約7μs後の時点で図30に示すようにヒータ931の表面の中央で液体部分Ibが切断され、吐出方向の速度ベクトルを保つ主液滴Iaとヒータ931の表面上に拡がった液体Icとに分離される。このように分離の位置は液流路1338内部、より好ましくは吐出口832よりも電気熱変換素子931側が望ましい。
【0107】
主液滴Iaは吐出方向に偏りがなく、吐出ヨレすることなく、吐出口832の中央部分から吐出され、記録媒体の被記録面の所定位置に着弾される。また、ヒータ931の表面上に拡がった液体Icは、従来であれば主液滴の後続としてサテライト滴となって飛翔するものであるが、ヒータ931の表面上に留まり、吐出されない。
【0108】
このようにサテライト滴の吐出を抑制することができるため、サテライト滴の吐出により発生し易いスプラッシュを防止することができ、霧状に浮遊するミストにより記録媒体の被記録面が汚れるのを確実に防止することができる。尚、図27〜29において、Idは溝部に付着したインク(溝内のインク)を、また、Ieは液流路内に残存しているインクを表している。
【0109】
このように、本例の液体吐出ヘッドでは、気泡が最大体積に成長した後の体積減少段階で液体を吐出する際に、吐出口の中心に対して分散した複数の溝により、吐出時の主液滴の方向を安定化させることができる。その結果、吐出方向のヨレのない、着弾精度の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。また、高い駆動周波数での発泡ばらつきに対しても吐出を安定して行うことができることによる、高速高精細印字を実現することができる。
【0110】
特に、気泡の体積減少段階でこの気泡を始めて大気と連通させることで液体を吐出することにより、気泡を大気に連通させて液滴を吐出する際に発生するミストを防止できるので、所謂、突然不吐の要因となる、吐出口面に液滴が付着する状態を抑制することもできる。
【0111】
また、本発明に好適に使用できる、吐出時に気泡を大気と連通する吐出方式の記録ヘッドの他の実施態様として、例えば特許第2,783,647号公報に記載のように、いわゆるエッジシュータータイプが挙げられる。
【0112】
本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも熱エネルギーを利用して飛翔的液滴を形成し、記録を行うインクジェット方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
【0113】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行なわれるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。
【0114】
このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4,463,359号明細書、同第4,345,262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4,313,124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行なうことができる。
【0115】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路又は直角液流路)の他に、熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4,558,333号明細書、米国特許第4,459,600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。
【0116】
加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明は有効である。
【0117】
更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成の何れでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0118】
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、或は記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0119】
また、本発明の記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを行うことも安定した記録を行うために有効である。
【0120】
更に、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによってでもよいが、異なる色の複色カラー、又は混色によるフルカラーの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
【0121】
以上説明した本発明においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化するもの、若しくは液体であるもの、或は上述のインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものであればよい。
【0122】
加えて、積極的に熱エネルギーによる昇温をインクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで防止するか、又はインクの蒸発防止を目的として放置状態で固化するインクを用いるかして、何れにしても熱エネルギーの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクとして吐出するものや、記録媒体に到達する時点では既に固化し始めるもの等のような、熱エネルギーによって初めて液化する性質のインクの使用も本発明には適用可能である。
【0123】
このような場合インクは、特開昭54−56847号公報或は特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部又は貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0124】
更に加えて、本発明に係る記録装置の形態としては、ワードプロセッサやコンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体又は別体に設けられるものの他、リーダと組み合せた複写装置、更には送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るものであってもよい。
【0125】
次に、上述した液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置の概略について説明する。図31は、本発明の液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図である。
【0126】
図31において、インクジェットヘッドカートリッジ601は、上述した液体吐出ヘッドとこの液体吐出ヘッドに供給するインクを保持するインクタンクとが一体となったものである。このインクジェットヘッドカートリッジ601は、駆動モータ602の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア603、604を介して回転するリードスクリュ605の螺旋溝606に対して係合するキャリッジ607上に搭載されており、駆動モータ602の動力によってキャリッジ607とともにガイド608に沿って矢印a,b方向に往復移動される。記録媒体Pは、図示しない記録媒体搬送手段によってプラテンローラ609上を搬送され、紙押え板610によりキャリッジ607の移動方向にわたってプラテンローラ609に対して押圧される。
【0127】
リードスクリュ605の一端の近傍には、フォトカプラ611、612が配設されている。これらはキャリッジ607のレバー607aのこの域での存在を確認して駆動モータ602の回転方向切り換え等を行うためのホームポジション検知手段である。
【0128】
支持部材613は、上述のインクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口のある前面(吐出口面)を覆うキャップ部材614を支持するものである。また、インク吸引手段615は、キャップ部材614の内部にインクジェットヘッドカートリッジ601から空吐出等されて溜まったインクを吸引するものである。このインク吸引手段615によりキャップ内開口部(不図示)を介してインクジェットヘッドカートリッジ601の吸引回復が行われる。
【0129】
インクジェットヘッドカートリッジ601の吐出口面を払拭するためのクリーニングブレード617は、移動部材618により前後方向(上記キャリッジ607の移動方向に直交する方向)に移動可能に設けられている。これらクリーニングブレード617及び移動部材618は、本体支持体619に支持されている。クリーニングブレード617は、この形態に限らず、他の周知のクリーニングブレードであってもよい。
【0130】
液体吐出ヘッドの吸引回復操作にあたって、吸引を開始させるためのレバー620は、キャリッジ607と係合するカム621の移動に伴って移動し、駆動モータ602からの駆動力がクラッチ切り換え等の公知の伝達手段で移動制御される。インクジェットヘッドカートリッジ601の液体吐出ヘッドに設けられた発熱体に信号を付与したり、前述した各機構の駆動制御を司ったりするインクジェット記録制御部は装置本体側に設けられており、ここには図示しない。
【0131】
上述の構成を有するインクジェット記録装置600は、図示しない記録媒体搬送手段によりプラテンローラ609上を搬送される記録媒体P’に対し、インクジェットヘッドカートリッジ601は記録媒体P’の全幅にわたって往復移動しながら記録を行う。
【0132】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、以下の記載で、「部」又は「%」とあるものは特に断らない限り質量基準である。
【0133】
(反応液1)
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過し反応液を調製した。
・硝酸マグネシウム(6水和物) 5部
・トリメチロールプロパン 6部
・グリセリン 5部
・ジエチレングリコール 5部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 78部
【0134】
(反応液2)
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過し反応液を調製した。
・硝酸イットリウム(6水和物) 7部
・トリメチロールプロパン 6部
・グリセリン 5部
・ジエチレングリコール 5部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 76部
【0135】
(シアンインク1)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3(製品名:ファストゲンブルーFGF、大日本インキ化学株式会社製))10部、アニオン系高分子P−1(ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、酸価270、重量平均分子量8,500、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)30部、純水60部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約13%、重量平均粒径は100nmの顔料分散体C1を得た。
【0136】
(シアンインク1の組成)
・顔料分散体C1 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0137】
(シアンインク2)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3(製品名:ファストゲンブルーFGF、大日本インキ化学株式会社製))10部、アニオン系高分子P−2(スチレン−アクリル酸共重合体、酸価150、重量平均分子量6,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)30部、純水60部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約13%、重量平均粒径は120nmの顔料分散体C2を得た。
【0138】
(シアンインク2の組成)
・顔料分散体C2 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0139】
(マゼンタインク)
顔料(C.I.ピグメントレッド122(大日本インキ化学株式会社製))10部、アニオン系高分子P−3(n−ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体、酸価263、重量平均分子量11,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)20部、純水70部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約12%、重量平均粒径は155nmの顔料分散体Mを得た。
【0140】
(マゼンタインクの組成)
・顔料分散体M 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0141】
(イエローインク)
顔料(C.I.ピグメントイエロー180(製品名:ノバパームイエローPH−G、ヘキスト社製))10部、アニオン系高分子P−4(エチルアクリレート−アクリル酸共重合体、酸価252、重量平均分子量9,000、固形分10%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)25部、純水65部を混合し、以下に示す材料をバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分は約12.5%、重量平均粒径は135nmの顔料分散体Yを得た。
【0142】
(イエローインクの組成)
・顔料分散体Y 30部
・グリセリン 9部
・ジエチレングリコール 6部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
(商品名:アセチレノールEH) 1部
・水 54部
【0143】
<実施例1>
上記で調整したインクを下記のように組み合わせてインクセットを作製した。
・反応液1
・イエローインク
・マゼンタインク
・シアンインク1
【0144】
各インクの反応液との反応後の質量基準による粒径は以下のようにして求めた。反応液を純水にて1,000倍希釈した希釈水溶液10gをとり、これに上記インクを10g加えてよく混合した。この混合溶液について、動的光散乱法を用いて質量基準の粒度分布を求めた。本実施例のインクセットにおける最大粒径値と最小粒径値の差は表1の通りであった。
【0145】
<実施例2>
上記で調整したインクを下記のように組み合わせてインクセットを作製した。
・反応液2
・イエローインク
・マゼンタインク
・シアンインク1
本実施例のインクセットにおける最大粒径値と最小粒径値の差は表1の通りであった。
【0146】
上記インクセットを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)を用いて下記の様にしてカラーバランス及び混色の色調の評価を行った。評価項目を以下に示す。記録媒体としては、市販のコピー用紙、ボンド紙及び再生紙を使用した。
【0147】
・混色画像の色調
シアン、マゼンタ、イエローを各々20%デューティーでグレー画像を表現し、その色調を目視約30cmの距離で以下の基準で比較することにより、混色画像の色調を評価した。
a:自然なグレー画像の色調。
b:一部の紙で、色調が異なって見える。
c:色調が異なって見える。
【0148】
<比較例1>
シアンインク1をシアンインク2に代えた以外は実施例1と全く同様の評価を行った。このインクセットにおける最大粒径と最小粒径の差は表1の通りであった。
【0149】
<比較例2>
シアンインク1をシアンインク2に代えた以外は実施例2と全く同様の評価を行った。このインクセットにおける最大粒径と最小粒径の差は表1の通りであった。結果の一覧を表1に記す。OD(光学濃度)については3種の記録媒体の平均値とした。
【0150】
【0151】
実施例1及び2のインクセットにおいては反応後の粒径が、結果として各色のODに大きな差はなく、カラーバランスに優れていた。また、グレー画像の色調も目視約30cmの距離において自然な色調であった。一方、比較例1及び2のインクセットにおいては、シアンインクの反応後の粒径が他のインクに比べて大きいため、シアンインクが他のインクに比べてODが高いため、グレー画像の色調は青味が強くなってしまったものと推察している。
【0152】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の各実施態様によれば、インクジェット記録を行う際に、カラーバランス及び発色性に優れ、混色の色ムラを低減した、高品位の画像を形成することが可能となるインクセット、インクジェット記録方法並びにその記録物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施態様にかかる記録方法の概略説明図。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図。
【図3】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図。
【図4】図2に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図。
【図5】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図。
【図6】インクカートリッジの一例を示す縦断面図。
【図7】本発明の一実施態様にかかるインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図。
【図8】本発明の一実施態様にかかるインクカートリッジの他の実施態様を示す概略平面図。
【図9】図8のインクカートリッジが記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図。
【図10】本発明にかかるインクセットの他の実施態様を示す概略平面図。
【図11】記録ユニットの一例を示す斜視図。
【図12】本発明にかかる記録ユニットの他の実施態様を示す概略斜視図。
【図13】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図。
【図14】本発明のインクセットの一実施態様にかかる、反応液を収納した記録ユニット、イオン性基の作用によって水性媒体に分散されている色材を含む黒色インクを収納した記録ユニット、及びCMYの各カラーインクを収納した記録ユニットが同一キヤリッジ上に装着された状態を示す該略図。
【図15】図5のインクジェット装置の記録ヘッド部の一態様のオリフィス部の拡大図。
【図16】液体吐出ヘッドを搭載可能なインクジェットプリンタの一例の要部を示す概略斜視図。
【図17】液体吐出ヘッドを備えたインクジェトカートリッジの一例を示す概略斜視図。
【図18】液体吐出ヘッドの一例の要部を模式的に示す概略斜視図。
【図19】液体吐出ヘッドの一例の一部を抽出した概念図。
【図20】図19に示した吐出口の部分の拡大図。
【図21】図20に示した吐出口の部分のインク付着状態を示す模式図。
【図22】図19における主要部の模式図。
【図23】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図24】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図25】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図26】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図27】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図28】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図29】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図30】液体吐出ヘッドの液体吐出動作を経時的に説明するための概略断面図。
【図31】本発明の液体吐出ヘッドを装着して適用することのできる液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置600の概略斜視図。
【図32】反応液付与方法の一例を示す模式図。
【図33】反応液付与方法の他の一例を示す模式図。
【符号の説明】
13:ヘッド
14:インク溝
15:発熱ヘッド
16:保護膜
17−1、17−2:電極
18:発熱抵抗体層
19:蓄熱層
20:基板
21:インク
22:吐出オリフィス(微細孔)
23:メニスカス
24:インク小滴
25:記録媒体
26:マルチ溝
27:ガラス板
28:発熱ヘッド
40:インク袋
42:栓
44:インク吸収体
45:インクカートリッジ
51:給紙部
52:紙送りローラー
53:排紙ローラー
61:ブレード
62:キャップ
63:インク吸収体
64:吐出回復部
65:記録ヘッド
66:キャリッジ
67:ガイド軸
68:モーター
69:ベルト
70:記録ユニット
71:ヘッド部
72:大気連通口
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口
91:液体組成物
92:インク
321:紙送りローラー
322:反応液
323:コーティングローラー
324:タンク
331:コーティングローラー
600:インクジェット記録装置
601:インクジェットヘッドカートリッジ
602:駆動モータ
603、604:駆動力伝達ギア
605:リードスクリュ
606:螺旋溝
607:キャリッジ
607a:レバー
608:ガイド
609:プラテンローラ
610:紙押え板
611、612:フォトカプラ
613:支持部材
614:キャップ部材
615:インク吸引手段
616:キャップ内開口部
617:クリーニングブレード
618:移動部材
619:本体支持体
620:(吸引開始)レバー
621:カム
832:吐出口
832a:起部
832b:伏部
901:記録ヘッド
931:電気熱変換素子(ヒータ,インク吐出エネルギ発生素子)
933:インク供給口(開口部)
934:基板
935:オリフィスプレート(吐出口プレート)
935a:吐出口面
936:インク流路壁
936a:隔壁
940:吐出口部
1001:カートリッジ
1003:液体組成物の収容部
1005:インクの収容部
1101:記録ヘッド
1201、1203:カートリッジ
1205:記録ヘッド
1301:記録ユニット
1303:記録ヘッド
1401:キャリッジ
1501:記録ヘッド
1337:発泡室
1338:液流路
1141:溝
1141a:頂部
100:インクジェット記録ヘッド
101:気泡
102:メニスカス
1002:液体タンク
1006:移動駆動部
1008:ケーシング
1010:記録部
1010a:キャリッジ部材
1012:カートリッジ
1012Y,M,C,B:インクジェットカートリッジ
1016:ベルト
1018:モータ
1020:駆動部
1022a、1022b:ローラユニット
1024a、1024b:ローラユニット
1026:回復ユニット
1026a、1026b:プーリ
1028:記録媒体(用紙)
1030:搬送装置
Claims (14)
- 少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を有するインクセットにおいて、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液と上記インク組成物の各々とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクセット。
- 前記インク組成物が、顔料と顔料分散剤とを含む請求項1に記載のインクセット。
- 前記少なくとも2種のインク組成物において、互いに分散剤が異なるか、或いは顔料と分散剤との質量比率が異なる請求項1又は2に記載のインクセット。
- 前記インク組成物が、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの色調からなる請求項1〜3の何れか1項に記載のインクセット。
- 前記反応液の表面張力が、前記インク組成物の何れの表面張力よりも高い請求項1〜4の何れか1項に記載のインクセット。
- 前記反応液が多価金属を含有する請求項1〜5の何れか1項に記載のインクセット。
- 前記多価金属が、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+の少なくとも1種を含む請求項6に記載のインクセット。
- 記録媒体に、少なくとも2種のインク組成物と、該インク組成物の全てと反応し、該インクを凝集せしめる反応液と、を付着させて、記録を行うインクジェット記録方法において、該インク組成物が少なくともアニオン性物質により分散されている、若しくは表面にアニオン性基を有する顔料を含有し、且つ上記インク組成物の各々と上記反応液の1,000質量倍希釈水溶液とを質量比で1:1で混合した複数の混合溶液間における顔料の最大粒径と最小粒径との差が100nm以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
- 前記反応液を、前記インクに先だって記録媒体に付与する工程を少なくとも含む請求項8に記載のインクジェット記録方法。
- 前記インク組成物が、少なくともシアン、マゼンタ、イエローの色調からなる請求項8又は9に記載のインクジェット記録方法。
- 前記反応液の表面張力が、前記インク組成物の何れの表面張力よりも高い請求項8〜10の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。
- 前記反応液が、多価金属を含有する請求項8〜11の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。
- 前記多価金属が、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+の少なくとも1種を含む請求項12に記載のインクジェット記録方法。
- 請求項8〜13の何れか1項に記載の記録方法によって印字されてなることを特徴とする記録物。
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