JP2004107378A - 多層イオン導電性接着剤及び生体電極 - Google Patents
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Abstract
【課題】皮膚に対する十分な接着力を有するとともに、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる多層イオン導電性接着剤を提供する。
【解決手段】イオン導電性接着剤層を積層した多層イオン導電性接着剤であって、各接着剤層はウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質を含むイオン導電性接着剤前駆体を架橋もしくは硬化したものであり、25℃における3分後のシェアクリープ値が1〜10×10−5cm2/ダインの範囲である、多層イオン導電性接着剤。
【選択図】 なし
【解決手段】イオン導電性接着剤層を積層した多層イオン導電性接着剤であって、各接着剤層はウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質を含むイオン導電性接着剤前駆体を架橋もしくは硬化したものであり、25℃における3分後のシェアクリープ値が1〜10×10−5cm2/ダインの範囲である、多層イオン導電性接着剤。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各層を容易に引き剥がすことができる多層イオン導電性接着剤及びそれを用いた生体電極に関する。
【0002】
このような多層イオン導電性電極は、低周波治療装置、電気刺激式痩身器などの経皮的電気刺激装置(TENS)又は心電図(ECG)監視用装置などのための生体電極において用いることができる。多層イオン導電性接着剤は各層が互いに自己融着や接合を起こすことなく、長期間の保存の後にも互いに容易に引き剥がすことができる多層の導電性接着剤である。このため、本発明の多層イオン導電性接着剤を用いた生体電極では、使用の都度又は粘着性を失った場合に、最上層の接着剤層を多層イオン導電性接着剤から引き剥がして、フレッシュな表面を露出することにより、電極の再使用可能回数を高めることができる。
【0003】
【従来の技術】
生体電極、特に、個人使用のための経皮的電気刺激装置(TENS)では、患者は再利用可能な電極を望んでいる。そこで、典型的なTENS用電極では、再使用のために、接着力はそれほど大きくはないが、何度も接着と剥離を繰り返すことが可能な再使用可能型の単層導電性接着剤が使用されていた。しかし、幾度かの使用により、垢や埃といった汚染物質が導電性接着剤の使用表面を覆ってしまうために、接着力の低下による電極脱離や、電流が清浄表面部のみに集中することによる皮膚に対する刺激発生の問題があった。したがって、患者は電極を好適な条件で繰り返して使用することができる、再使用可能な電極を望んでいる。
【0004】
現在使用されている生体電極に用いられる導電性接着剤は、殆どの場合、単層の導電性接着剤である。なぜならば、それらの多くは1回のみの使用を前提とした使い捨て電極であるからである。しかし、個人使用のための低周波治療器などの経皮的電気刺激装置に関しては、上述のとおりの問題を解決しうる再使用可能な電極が望まれている。
【0005】
このような問題を解決するために、従来は、各導電性接着剤層の間に剥離用ライナータブを持つ逐次剥離可能な多層導電性接着剤を用いた、生体電極が用いられていた(例えば、特許文献1参照)。この公報には、第一接着フィルムと第二接着フィルムとの間に中間ライナー層を介在させた、各導電性接着剤層間にライナー部材を介在させた構造を提案している。このような構造では、導電性接着剤層どうしの導通を確保するために、中間ライナー層に複数の貫通孔を設ける必要があることが記載されている。補強のためにスクリムを挿入することも記載されている。
【0006】
また、この公報には、接着フィルムどうしを直接的に接触させる直接積層型構造をも開示している。しかし、直接積層型構造では導電性接着剤どうしが融着しやすく、剥離が困難になる。このため、剥離性を高めるために各層の導電性接着剤として架橋剤を比較的に多量に添加して凝集力を高めることを提案している。
【0007】
一方、この公報には、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、塩、保湿剤、架橋剤、UV開始剤、ある種の添加剤類、水などを含む混合液を塗布し、UV照射により硬化させることで製造される導電性接着剤が使用されている。このような接着剤では、一般に、積層すると、各導電性接着剤が短時間に融着して剥離が困難になる傾向がある。そこで、各導電性層が融着せずに、積層された導電性接着剤から各層を剥離させるために、組成の変更や架橋剤の添加により各導電性層の凝集力と接着力とを制御することが行われている。すなわち、各導電性接着剤層間の接着力が各導電性接着剤層の凝集力より小さいことにより層間の界面での剥離が可能にしようとするものである。強い凝集力と弱い接着力を与えるために、架橋剤の量を高めると、接着剤の粘着性が抑制されるので、皮膚に対する接着性が十分に確保できず、また、架橋剤の量が十分でないと、自己融着や接合を生じて、各層を剥離できないという問題が生じる。あるいは、層間の界面での剥離を容易にするために剥離力と凝集力を調節した場合であっても、積層後、半年程度の長時間経過の後に、各導電接着剤層どうしが自己融着し又は接合して、剥離力が大きくなるだけでなく、剥離が各層の界面でなく、接着剤内の凝集破壊や補強用のスクリム界面での剥離となるといった問題もある。さらに、中間ライナーを介在させた場合でも、導通用の貫通孔をとおして自己融着や接合が生じ、貫通孔周辺の接着剤内での凝集破壊やスクリム界面での剥離が起こるといった問題がある。
【特許文献1】
特開2001−259044号公報(特許請求の範囲、[0014]
欄、[0025]欄、[0057]欄)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、皮膚に対する十分な接着力を有するとともに、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる多層イオン導電性接着剤、それを用いた生体電極の開発が求められている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の1つの態様によると、
イオン導電性接着剤層を積層した多層イオン導電性接着剤であって、
各接着剤層はウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質を含むイオン導電性接着剤前駆体を架橋もしくは硬化したものであり、25℃における3分後のシェアクリープ値が1〜10×10−5cm2/ダインの範囲である、多層イオン導電性接着剤が提供される。
このような多層イオン導電性接着剤では、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる。このため、このような導電性接着剤を生体電極において用いた場合に、各層を引き剥がすことにより、繰り返し使用することが可能な生体電極とすることができる。
【0010】
なお、「シェアクリープ値」とは一般に、試験片を一定の温度に保持し、一定のせん断荷重を加えたときに生じるある時間における歪み値から算出される物性値である。
本明細書中で用いるときに「シェアクリープ値」は以下の方法により測定される値である。
一定の寸法の各接着剤層を構成する単層の感圧接着シートからなる試験片を2枚用意し、これらをステンレス製の可動プレートの両面にそれぞれ貼り合わせる。感圧接着シートを両面に有する可動プレートの片面をステンレス製の固定プレートに貼り合せ、可動プレートの反対面にはステンレス製のトッププレートを貼り合わせる。25℃の温度において、このようにして得られたトッププレート/感圧接着シート/可動プレート/感圧接着シート/固定プレートの積層体の可動プレート片側端部から積層体に対して平行方向に荷重をかけ、歪みを測定する。この測定値に基づいて、「シェアクリープ値」は以下の式から算出される。
J(t)=(D(t)/T)/(F/S)
(式中、D(t)はt分後の歪み測定値(cm)であり、
Tは試験片の厚さ(cm)であり、
Fは荷重(dyne)であり、
Sは試験片の面積(cm2)である)。
なお、本明細書における試験では25℃の温度において、幅2cm×長さ3.5cm×厚さ0.4mmの寸法の試験片を用い、荷重200gを用いて3分後の歪み値からシェアクリープ値を測定・算出している。シェアクリープ値が大きいほど材料は軟く、変形し、歪みを生じやすくなる。また、同一物質どうしの積層体では自己融着しやすくなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
イオン導電性接着剤層
本発明の多層イオン導電性接着剤は、ウレタンアクリレートオリゴマーを架橋もしくは硬化して得られる接着性ポリマー、保湿剤、電解質などを含む。接着性ポリマーは、皮膚への接着のために十分な接着力を有するとともに、各導電性接着剤層の界面で容易に剥離することができるほど十分な凝集力を有することが求められる。10〜400g/インチ(25.4mm)の180°剥離強さを導電性接着剤に与えることが望ましく、50〜200g/インチ(25.4mm)の180°剥離強さを有する導電性接着剤はより好ましい。導電性接着剤の25℃における3分後のシェアクリープ値は好ましくは1〜10×105cm2/ダインであり、より好ましくは2〜5×105cm2/ダインである。また、使用温度での粘着性を得るために、接着性ポリマーのガラス転移温度は好ましくは0℃以下である。
【0012】
ウレタンアクリレートオリゴマーは、好ましくは、ポリアルキレングリコール、2個以上のイソシアネート基を有する有機イソシアネート、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物、イソシアネート基と反応性の官能基とカルボキシル基との両方を有する化合物を含む反応混合物を反応させることにより得られたオリゴマーである。ウレタンアクリレートオリゴマーは、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物の含有率がオリゴマーの0.35〜0.6モル%であり、より好ましくは0.4〜0.45モル%であるような場合に、十分な皮膚接着力とともに、十分な凝集力を有する接着性ポリマーを得ることが今回判った。このような場合には、得られる接着性ポリマーにおいて、(メタ)アクリロイル基が架橋点を形成し、適度に架橋して、良好な接着力と凝集力のバランスを導電性接着剤に付与することになるからである。
【0013】
ウレタンアクリレートオリゴマーは、例えば、特開2002−60456号公報に開示されている。具体的には、下記式
A−I−{(P−I)r−(B−I)s}t−M 〔I〕
(式〔I〕中、A−はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの脱水素残基:−I−は有機ジイソシアナート由来のジカルバモイル基:−P−はプロピレンオキシドと含有比率50〜95%エチレンオキシドとの数平均分子量500〜5000のランダム共重合体の脱水素残基:−B−はカルボキシル基含有ポリオール化合物の脱水素残基:−Mはモノオールの脱水素残基:t=1のときrは1〜20の数かつsは0〜20の数、t=2〜15のとき繰り返し単位(P−I)r−(B−I)sがその繰り返しの両端でr,s=0〜1かつ該両端以外でr,s=1〜15)で示されることを特徴とするウレタンアクリレートオリゴマーである。
【0014】
上式のオリゴマーのうち、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに由来する残基の量は、オリゴマー全体の0.35〜0.6モル%、好ましくは0.4〜0.45モル%である。
【0015】
上式の−I−は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナート、水添ジフェニルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、およびジフェニルメタンジイソシアナートから選ばれる少なくとも一種類の有機ジイソシアナート化合物由来のジカルバモイル基である。
【0016】
また、上式の−B−は、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシアジピン酸、ジオキシマレイン酸、酒石酸、2,6−ジオキシ安息香酸、1,2−ジオキシグリセリン酸から選ばれるカルボキシル基含有ポリオールの脱水素残基である。
【0017】
上式の−Mは、例えば、アルコキシポリエチレングリコール、アルコキシポリプロピレングリコール、脂肪族アルコール、水酸基含有(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有モノアルコールから選ばれるモノオール化合物の脱水素残基である。
【0018】
本発明で使用可能なウレタンアクリレートオリゴマーの市販の例として、例えば、共栄社化学社製のPSA−903シリーズのUV硬化性水溶性ウレタンアクリレートオリゴマー(例えば、PSA−903−1、PSA−903−2)やPUA−903などを挙げることができる。
【0019】
なお、各導電性接着剤層はその強度を高めるために不織布などから形成されたスクリムを含んでもよい。
【0020】
電解質
導電性接着剤はイオン導電性を付与するための電解質を含む必要がある。電解質としては無機塩類又は有機塩類を用いることができるが、一般的には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどの無機塩類が用いられる。添加量はイオン導電性と皮膚への刺激を考慮して、接着剤重量の0.1〜5重量%、望ましくは0.5〜3重量%の量で添加される。電解質を溶解するための溶媒は、水だけでなく、有機溶媒も可能ではあるが、皮膚刺激、安全性、イオン導電性(特にイオン移動速度)を考慮すると、水の利用が最も望ましく、その添加量は、乾燥による電気特性の低下をもたらさないように、接着剤の重量を基準として15〜50重量%、20〜25重量%程度の量である。
【0021】
保湿剤
導電性接着剤は、生体電極の保存期間、開封してから使用するまでの期間、最内層の導電性接着剤層を使用するまでの期間、皮膚に貼り付けてからの使用時間において十分な導電性を維持するために必要な水分を確保するために、保湿剤が添加される。保湿剤としては、一般に、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールに代表される多価アルコール類が用いられる。それぞれの保湿剤は種類よって保湿力が異なるので、必要な水分を維持するために必要な量で添加するが、保湿効果とともに、電気特性、接着力などの性能バランスを考慮して添加する必要がある。保湿剤の量は導電性接着剤の重量を基準として、一般には、10〜80重量%、好ましくは20〜50%の量である。
【0022】
多層イオン導電性接着剤の製造方法
各イオン導電性接着剤層は、上記のようなウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質などの各配合成分を混合溶解し、塗布原液を調製し、それを基材上に塗布した後に、紫外線(UV)又はEB(エレクトロンビーム)を照射して後架橋もしくは硬化を行うことにより得られる。これにより、各導電性接着剤層は、導電性接着剤として十分な接着力及び保持力とともに、接着剤内部の凝集力が得られ、結果として、皮膚への糊残り、発汗吸収による急激な接着力の低下が抑制される。具体的には、まず、ウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質などの各配合成分を混合溶解して40℃以上、100℃未満の温度で粘度が100,000mPa.sである塗布原液(導電性接着剤前駆体)を得る。次に、これを40℃〜100℃未満に加熱して混合し、基材に塗布し、紫外線又はエレクトロンビームで架橋もしくは硬化して第一の導電性接着剤層を形成する。全く同様にして第二の導電性接着剤層を形成し、第一の導電性接着剤層と貼り合せて積層する。その後、基材を2層の導電性接着剤層から除去し、2層からなる導電性接着剤を得ることができる。この要領で、導電性接着剤層を積層していくことにより、さらに多層の導電性接着剤を得ることができる。
【0023】
このようなウォームメルト型UV/EB(紫外線/エレクトロンビーム)導電性接着剤前駆体は、ホットメルトコータを用い、コータに付属するエクストルーダでその場で混合しながら高速塗布することが可能で、UVもしくはEBでの後架橋により、皮膚に対して使用可能な接着力を有する生体電極用接着剤が得られる。
【0024】
塗布原液の各配合成分の混合溶解は室温で行うこともできるが、室温での塗布原液の粘度が高すぎる場合には、100℃未満の温度で水分が蒸発しないようなプレッシャーケトルやコンデンサーを付けた高粘度ミキサー又はニーダー、エクストルーダなどを用いて混合溶解し、均一な塗布原液を得ることができる。従来の導電性接着剤原料のように、室温での粘度が2000mPa.s以下の比較的低粘度の溶液では、連続コータでナイフ又は押出しダイでポリエステルライナーに塗布した場合に、垂れ、塗布厚みの低下を生じることがあるため、スクリムと呼ばれる薄手の不織布や紙に溶液を含浸させる必要があるなど、工程上の制約があった。しかしながら、ウレタンアクリレートオリゴマーを接着性ポリマーの原料とする場合には、塗布原液が室温で100,000mP.s以上の高粘度でありかつ40℃〜100℃未満の温度で100,000mPa.s以下の粘度のなるような塗布原液を製造できる。このため、ホットメルトコータのエクトルーダに原料を投入し、40℃〜100℃で水分に蒸発を抑制しながら混合溶解し、押出しダイで塗布することが可能になる。これにより、原料の混合溶解工程と塗布工程を同時に同一の装置で行なえるため、導電性接着剤の生産性が非常に高まる。また、押出しダイで塗布した後に、塗布液は急速に冷却されるため、垂れ、塗布厚さの低下が生じることがない。
【0025】
塗布は、後述するように、各導電性接着剤層の厚さが0.05mm〜1mmとなるように行う。導電性接着剤層が薄すぎると乾燥しやすくなる傾向があり、厚すぎると、生体電極が嵩高になり、使いにくくなる傾向がある。塗布後のUV照射で後架橋を行うことで適切な接着力と凝集力を有する導電性接着剤となるが、UV照射には、低圧又は中圧水銀ランプ及び低強度蛍光ランプが使用できる。この場合、それぞれが異なる発光スペクトルを有し、かつ280〜400nmの波長範囲で最も強く発光するランプを使用するのがよい。UV照射時の照射総量は10〜1000mJ/cm2程度である。ウレタンアクリレートオリゴマーでは、モノマーの残留にあまり注意する必要がなく、高強度のUVランプで短時間低照射エネルギーで後架橋もしくは硬化を行うことができる。また、UV照射の代わりにEB照射によって後架橋を行うことができ、この場合には、開始剤は必要ない。
【0026】
UV照射による後架橋を行う場合には、導電性接着剤前駆体は、UV開始剤を含む必要がある。UV開始剤の種類は使用するUVランプのエネルギーバンドに合うものであり、皮膚刺激、安全性、溶解性、照射後の臭いなどを考慮して選択ことが望ましい。塗布原液は水を含むため、水溶性又は親水性のUV開始剤の使用が好ましい。限定しない開始剤の例としては、イオン性基、親水性基又はその両方で置換されたベンゾフェノン、イオン性基、親水性基又はその両方で置換されたチオキサントン、及び4−置換−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)フェニルケトン(ここで、4−置換基はイオン性基又は親水性基である)などのフェニルケトンからなる群より選ばれるものが挙げられる。特に好ましいUV開始剤としては、チバガイギー社のIrgacureTM−2959として入手可能な1−(4−(2−ヒドロキシ)−フェニル)2−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)が挙げられる。添加量はUV照射量と接着特性などの関係から決定するが、通常、導電性接着剤前駆体の重量を基準として0.01〜10重量%の量であるが、好ましくは0.01重量%〜1.5重量%であり、より好ましくは0.01〜0.06重量%である。1.5重量%を超えて添加すると、導電性接着剤を蛍光灯下に暴露したときに、数日で変色することがあり、さらに数週間で硬化物の空気接触部が軟化してべたべたになるといった劣化を起こすことがある。また、0.01重量%未満の量、例えば、0.005重量%であると、硬化物が軟質になり、皮膚へ付着して使用した後に、糊残りを起こすことがある。0.01〜0.06重量%の範囲では、硬化物の性能が良好で、2〜3ヶ月の蛍光灯下での暴露時にも劣化が認められなかった。
【0027】
他の添加剤
導電性接着剤の蛍光灯下での暴露などに対する安定性を高めるために、導電性接着剤には酸化防止剤又は光安定剤を添加することもできる。導電性接着剤の重量を基準として0.5重量%以上のヒンダードフェノール系酸化防止剤又はヒンダードアミン系光安定剤を導電性接着剤に添加することにより、長期間にわたる蛍光灯下への暴露時にも劣化を起こさない導電性接着剤を得ることができる。
【0028】
限定しないヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、チバガイギー社のIrganoxTMブランドの酸化防止剤のうち、後架橋前の導電性接着剤前駆体混合液に溶解しうるものであって、皮膚への刺激の少ないものであり、硬化した導電性接着剤を着色、変色させないものが選択される。具体的には、IrganoxTM 245, IrganoxTM 1035, IrganoxTM 1076が挙げられ、IrganoxTM 245の使用が望ましい。添加量は、0.5重量%以下であると効果的でなく、他の特性に影響を及ぼさない程度が好ましく、一般に、0.5〜1重量%程度が好ましい。
【0029】
また、限定しないヒンダードアミン系光安定剤としては、チバガイギー社のTinuvinTMブランドの光安定剤のうち、後架橋前の導電性接着剤前駆体混合液に溶解しうるものであって、皮膚への刺激の少ないものであり、硬化した導電性接着剤を着色、変色させないものが選択される。具体的には、TinuvinTM 123, TinuvinTM 292が挙げられ、TinuvinTM 123の使用が望ましい。添加量は、0.5重量%以下であると効果的でなく、他の特性に影響を及ぼさない程度が好ましく、一般に、0.5〜1重量%程度が好ましい。この光安定剤は単独で添加しても又はヒンダードフェノール系酸化防止剤と併用してもよい。
【0030】
生体電極
生体電極は、本発明の多層イオン導電性接着剤からなる接着層と、該接着層に接続された電極端子とを含んでなる。本発明の多層イオン導電性接着剤を用いた生体電極としては、従来から使用されているいずれのタイプの生体電極であってもよく、例えば、低周波治療装置、電気刺激式痩身器などの経皮的電気刺激装置(TENS)又は心電図(ECG)監視用装置などのための生体電極を挙げることができる。典型的な生体電極の構造は米国特許第4,524,087号、同第4,539,996号、同第4,848,353号(Engels)、同第4,846,185号(Carim)、同第4,715,382号(Strands)、同第5,133,356号(Bryanら)、同第5,779,632号(Dietzら)、同第5,012,810号明細書に開示されている。検査用心電図(EKG)手法に使用される場合には、米国特許第4,539,996号明細書に記載されるような電極が使用されることが好ましい。監視用心電図(ECG)手法に使用される場合には、米国特許第4,539,996号、同第4,848,353号、同第5,012,810号及び同第5,133,356号明細書に記載されるような電極が使用されることが好ましい。場合により、米国特許第4,848,353号明細書に見られるように、生体電極が電極の外周から延在している導電性タブであってもよいし、米国特許第5,012,810号明細書に見られるように、絶縁バッキング部材中のスリット又はシームを介して延在する導電体部材であってもよい。この他、電気通信手段がアイレット又は他のスナップ型コネクター、例えば、米国特許第5,012,810号に見られるような導電性タブが該タブに固定されたアイレット又は他のスナップ型コネクターをもっていてもよい。
【0031】
図1及び2には、経皮的電気刺激装置(TENS)用の生体電極の断面図が示されている。生体電極1は、導電性シート2と、このシート2の上に配設された、各導電性接着剤層3を直接積層した多層イオン導電性接着剤4を有する。導電性シート2の端部にはTENS装置への接続のためのタブコネクター接続部(端子)5が多層イオン導電性接着剤4から突き出した構造になっている。また、図2に示すように、多層イオン導電性接着剤の各接着剤層の剥離を容易にするために、多層イオン導電性接着剤の1つの端部(例えば、タブコネクター接続部のカーボン導電性シート側)に剥離用タブ6を設けることができる。剥離用タブ6は好しくは片面剥離処理されており、各導電性接着剤層の端部にのみ配設される。剥離用タブ6は多層イオン導電性接着剤から突き出るように、又は、剥離タブが多層イオン導電性接着剤の端部と一致するように貼り合わされた構造であることができる。
【0032】
TENS用電極では、導電体としてAg/AgCl導電体のような非分極性導電体を使用する必要はないので、カーボン導電体が導電体として使用されてよい。導電性接着剤に接触する皮膚のある部分にイオン電流が集中しないように、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの柔軟なプラスティックフィルム7上に疎水性バインダーシステムからなる導電性カーボンインク8を塗布し、導電性シート2とすることができる。カーボンスタッドがリード線のコネクターとして使用される。商業上使用可能な導電性カーボンインクの限定しない例としては、日本アチソン社のポリエステルバインダーを用いたJEF−120あるいはポリ塩化ビニルを用いたED423SSなどがある。商業上使用可能なPETフィルムの限定しない例としては、ユニチカ社の75μm厚のエンブレットTM−75がある。また、他のカーボン導電体として導電性カーボンをシリコーンゴムに練りこんだ、導電性シリコーンパッドなどがある。商業上使用可能な導電性シリコーンパッドとして、電子通商社が販売するシリコーン導電性ラバーパッドがある。
【0033】
剥離タブに用いられるライナーの限定しない商業上使用可能な例としては、帝人デュポン社の50μm厚のPurexTMA50のシリコーン片面剥離処理ライナーがある。剥離タブライナーのシリコーン処理面は、導電性接着剤層の引き剥がしの際に、剥離した導電性接着剤層と剥離タブライナーが同時に剥がれるように貼り合わされる。
【0034】
積層される導電性接着剤層の数は限定されないが、各導電性接着剤層の厚みにより規定される。多層イオン導電性接着剤の全体の厚さはおよそ0.1〜5mmである。0.5〜2mmの厚さであると、良好な柔軟性が得られるので好ましい。各導電性接着剤層の厚さは限定するつもりはないが、通常、0.05mm〜1mmである。例えば、各導電性接着剤層の厚さが0.4mmである場合には、4枚の導電性接着剤層が積層された導電性接着剤の全体の厚さはおよそ1.6mmとなる。TENS電極については、皮膚に対する接着力を垢や埃のような汚染物質が付着しにくいように制御した場合に、各導電性接着剤層に対して、およそ10回以上の再使用が可能である。そのため、4層の多層イオン導電性接着剤を用いた場合には、およそ40回以上の再使用が可能となる。
【0035】
本発明の多層イオン導電性接着剤では、原料としてウレタンアクリレートオリゴマーを使用する。ウレタンアクリレートオリゴマーは従来のアクリル系オリゴマーよりも皮膚に対して刺激性が低いとされている。万一、オリゴマーの原料となるポリイソシアネートが残留していても、水の存在下に使用されるため、イソシアネート基は分解されて有害性は殆どなくなると考えられているためである。また、ウレタンアクリレートオリゴマーは臭気が殆どなく、この点でも、アクリル系オリゴマーよりも優れている。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
薄い非自己融着性イオン導電性接着剤を積層させた多層導電性接着剤用のイオン導電性接着剤組成物の作成方法を記述する。反応性ウレタンアクリレートオリゴマーとして、共栄社化学のライトタックTMPSA−903−1水溶性ウレタンアクリレートオリゴマーを利用した。保湿剤にポリエチレングリコール300(PEG300)、電解質に塩化カリウム(KCl)、UV開始剤にチバガイギー社のIrgacureTM2959を利用した。表1に配合を示した。
【0037】
【表1】
【0038】
温度を60℃に制御したプラネタリーミキサーで、上記の材料を混合して塗布液を得た。この塗布液を用いて以下のとおりに感圧接着シートを作製した。帝人デュポン社のA−50、50ミクロンPETライナー上にユニセル社のポリエステル製不織布スクリム(目付け15g/m2)B7202Wが配置されるように、ライナー及びスクリムをそれぞれ連続的に送り出し、その上に、上記塗布液を50℃に加温されたモーノポンプで送液しそして塗布し、その上に上記と同一のPETライナーが配置されるように連続的に送り出し、PETライナー/塗布液(不織布スクリムが介在)/PETライナーの順に積層した。なお、この操作は、ギャップ調節の可能な上下2本のロールからなるラミネートロールを用いて、塗布厚が0.4mmになるようにギャップ調節して行った。このようにして、スクリムを介在させた塗布厚0.4mmの塗布液を2枚のライナーフィルムで挟んだ構造体を得た。さらにこの構造体を連続的にウシオ電機社のUVランプ(80W/cm)チェンバーに通過させ、総照射エネルギー350mJ/cm2で硬化(架橋)した。硬化された塗布液は、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートとなった。
【0039】
上記のとおりに4枚の感圧接着シートを製造し、各感圧接着シートからライナーフィルムを剥がして、各導電性接着剤層を形成した。4枚のシートのうちの3枚のシートについては、剥離用ライナータブとして、帝人デュポン社のA−50、50ミクロンPETライナー(片側剥離処理されている)3枚をそれぞれシートの片側端部に1cmの幅でそれぞれ装着し、4枚のシートを積層することで、4層からなる多層導電性接着剤を作成した。これにより、多層導電性接着剤の片側端部において、各導電性接着剤層の間に剥離用タブ(片面剥離処理された)を有する多層導電性接着剤を得た。なお、剥離用タブは多層導電性接着剤の端面から少し突き出るような構造である。
【0040】
次に、ユニチカ社の50μm厚のエンブレットTM−50のPETフィルム上に日本アチソン社のJEF−120カーボンインクを塗布してカーボン導電体シートを得た。カーボン導電体シートのカーボンインクを塗布していない側のPET面に、3M社のMicrofoamTM1774LPテープを貼り合わせた。この導電性シートのカーボンインクを塗布した側に、上記の多層導電性接着剤を貼りあわせ、図2に示すような長径8cm、短径5cmの楕円径TENS用電極を作成した。なお、この電極は、タブコネクターの接続部として、1cm幅の導電体シートを露出した部分を持つものであった。このように製造されたTENS用電極を防湿袋に保存した後、次の事項に関して評価した。
【0041】
1.表面層のACインピーダンス(ACZ:10Hzと100Hz:2枚の電極の接着面同士を貼りあわせる)
2.表面層の皮膚インピーダンス(10Hz)
3.表面層の皮膚接着力
4.表面層の多層からの剥離強度と、剥離時の状態
なお、上記評価は第1の表面層から第4層まで剥離の度に評価する。
【0042】
ACインピーダンスは電極対作成後の1分後にインピーダンス計により10Hzと100Hzで測定した。すべての接着力は、300mm/min.の速度で180度の剥離角で引っ張り試験機で測定した。表面層の多層からの剥離強度は電極作成後の10分後に90度の引っ張り強度で測定した。皮膚接着力は両前腕に一対の電極を貼りつけてから2分後に引っ張り試験機で測定した。皮膚インピーダンスは両前腕に一対の電極を貼りつけてから1分後にインピーダンス計で測定した。剥離時の状態は、剥離面が各導電性接着剤界面であるか、接着剤内部または接着剤とスクリムの界面等のその他かで、同定した。また、上記と同一の方法で製造した感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値を測定した。幅2cm×長さ3.5cm×厚さ0.4mm(単層)の感圧接着シートからなる試験片2枚を切り取り、前述と同様にして200g荷重を用いて3分後の歪み値を測定し、前述の式からシェアクリープ値を算出した。
評価結果を表2に示した。
【0043】
【表2】
【0044】
電極のACインピーダンスは各層を剥離する毎に小さくなる。第1層でもACインピーダンスは十分低く、また皮膚に貼り付けた場合の皮膚インピーダンスも十分低かった。皮膚接着力も各層とも安定しており、電極の浮きや脱落も生じなかった。剥離用タブを使っての最表面層の剥離力も安定しており、剥離モードも各導電性接着剤層の界面であって、自己融着も接合も生じなかった。この非自己融着特性が長期間維持できるかを調べるために、アルミ箔を貼りあわせた保存袋に、作成された電極を入れ、ヒートシールして、49℃で18週間加速劣化させた。この条件はVon’tHoff理論で2年相当の加速劣化条件である。加速劣化後の電極を同様に評価した結果を表3に示す。また、この条件での加速老化後の感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値も上記と同一の測定条件で測定した。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
加速劣化後の電極は特に変色、滲出(Oozing)、軟化、流動化の劣化は認められず、安定であることが判った。皮膚接着力と最表面層の剥離力は初期より高くなったが、電極の浮きや脱離も生じず、剥離力は安定しており、剥離時に苦痛は感じられない。また最表面層の剥離モードも各導電性接着剤層の界面であり、自己融着も接合も生じなかった。これにより本電極は長期間安定で、自己融着も接合も生じない多層導電性接着剤を有する電極であることが示された。
【0047】
(比較例)
米国特許第4,848,353号明細書に開示されている導電性接着剤を改良することで、導電性接着剤を作成した。原料の組成を表4に示した。
【0048】
【表4】
【0049】
AAはアクリル酸、NVPはn−ビニルピロリドン、TEGDMAはトリエチレングリコールジメタクリレート、Irgcure−2959TMはCiba−Geigy社のUV開始剤である。グアーガムとしては三昌社のJaguarTMHP−8を利用した。
【0050】
上記の組成の混合液を、帝人社の50μm厚のPurexTMA50(接着剤に接触する側にシリコーン剥離剤が塗布されている。)のライナーフィルムからなる2つのシートで挟み込まれた低屡、Kimbaly Clack社のKCテッシュに0.2mmの厚みで塗布した。混合液を塗布した2つのライナーフィルムを貼り合わせ、総エネルギーが1100mJ/sq. cmになるまで、平均強度1.5mW/sq. cmの低圧UVランプで架橋(硬化)した。各々の硬化した物質は透明の導電性接着剤になった。両側のライナーフィルムを剥がし、生体電極のための各接着剤層を感圧接着シートの形で形成した。このように得られた5枚の感圧接着シートを積層することにより多層導電性接着剤を得たが、各接着剤層の間に全面に多孔質ライナーを挿入した。
【0051】
具体的には、多孔質ライナーは、25ミクロン厚のポリプロピレンフィルムであって、片面がシリコーン系剥離剤で処理されたライナーに口径0.5mmの穴を500,000個/m2 の密度で開けた多孔質フィルムであった。まず、多孔質ライナーを有しない1枚の感圧接着シートに対して、上記多孔質ライナーを片面に有する感圧接着シートを、ライナーを介して積層し、この上にさらに、同様に片面に多孔質ライナーを有する同様の感圧接着シートを順次積層し、5層の接着剤層を有し、各接着剤層の間に4枚のライナーを各層の全面に有する多層導電性接着剤を得た。
【0052】
次に、ユニチカ社の75μm厚のエンブレットTM−75のPETフィルム上に日本アチソン社のED423SSカーボンインクを塗布したカーボン導電体シートに上記の多層導電性接着剤を貼りあわせ、TENS用電極を作製した。この生体電極は、上記実施例1と同様にタブコネクターの接続部として、1cm幅の導電体シートを露出した部分を持ち、長径8cm、短径5cmの楕円径TENS用電極であった。このTENS用電極を防湿袋に保存した後、上記実施例1と同様に評価した。また、感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値も上記と同一の測定条件で測定した。結果を表5に示した。
【0053】
【表5】
【0054】
電極のACインピーダンスは多孔質ライナーの多孔部位での電気接点となるため、前述の実施例に比べ高くなるが、皮膚インピーダンスは十分低く電気刺激には問題なかった。皮膚接着力も各層とも安定しており、電極の浮きや脱落も生じなかった。多孔ライナーの剥離用タブを使っての最表面層の剥離力は前述の実施例1よりも高いが、安定しており、剥離モードも各導電性接着剤層の界面であり、自己融着も接合も生じなかった。この非自己融着特性が長期間維持できるかを調べるために、作成された電極を、アルミ箔を貼りあわせた保存袋に入れ、ヒートシールして、49℃で9週間加速劣化させた。この条件はVon’tHoff理論で1年相当の加速劣化条件である。加速劣化後の電極を同様に評価した結果を表6に示す。また、この条件での加速老化後の感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値も上記と同一の測定条件で測定した。結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
1年相当の加速劣化後の電極は接着剤が黄変色したが、滲出(Oozing)、軟化、流動化の劣化は認められず、安定であることが判った。最表面層の皮膚接着力は初期と同程度で安定していたが、最表面層を剥離させることは困難で、1000gに引張りでも剥離せず、強制的に剥離させると剥離モードは多孔ライナーの周辺での凝集破壊となり、部分的に接着剤層とスクリムの界面での剥離となり、剥離面が汚くなり、実質的には再接着できるが、剥離可能な多層導電性接着剤とは言い難い。このように従来の導電性接着剤の架橋度を大きくし、初期の非自己融着性を持たしても、長期間の特性の維持は困難であった。本比較例では3分後のシェアクリープ値が10×10−5cm2/dyne以下であっても、このアクリル系の多層イオン導電性接着剤は長期間経過後に自己融着するものであった。
【0057】
(実施例−2)
薄い非自己融着性イオン導電性接着剤の作成条件を規定する。皮膚に対する十分な接着力を保有し、非自己融着性をも有するにはイオン導電性接着剤の架橋度を制御する必要がある。皮膚に対する十分な接着力とは、装着電極の脱落、剥離を生じず、剥離時に痛くない接着力であり、50g/inchから200g/inchである。このレベルの皮膚接着力を有し、非自己融着性をも有するイオン導電性接着剤を得るために反応性オリゴマー中の架橋点となるアクリル基の含有率で制御した。共栄社化学のライトタックTMPSA−903シリーズにはオリゴマー原料中で架橋点となる2−ハイドロキシエチルアクリレート(2−HEA)の比率が異なるオリゴマーがある。表7に示す3種類のオリゴマーを接着性ポリマーの前駆体として使用し、保湿剤としてポリエチレングリコール300(PEG300)とプロピレングリコール、電解質として塩化カリウム(KCl)、UV開始剤としてチバガイギー社のIrgacureTM2959を利用したイオン導電性接着剤を作成した。表8に配合を示した。
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
これらの材料から、実施例−1と同様の条件で架橋(硬化)して、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートを得た。この感圧接着シートを積層した多層イオン導電性接着剤に対して、皮膚接着力のついて180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、これらの導電性接着剤を1インチ(2.5cm)幅に切り出し、2枚を貼りあわせ、1時間後、T剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示し、剥離モードを観察した。また、上記と同一の条件下での各導電性接着剤の3分後のシェアクリープ値を測定した。表9に結果を示した。
【0061】
【表9】
【0062】
PSA−903を利用したPG2Aは皮膚に対して、強い接着力を持っており、剥離時に糊残りを起こさなかったが、2枚貼りあわせた粘着剤シートは自己融着を起こし、引き剥がし強度が1500g/インチ以上となり、剥離箇所も界面でなく、糊内の凝集破壊であった。PSA−903利用では、非自己融着性の導電性接着剤は得られなかった。PSA−903−1を利用したPG2Bは皮膚に対して、十分な接着力を持っており、剥離時に糊残りを起こさず、2枚貼りあわせた粘着剤シートも非自己融着性を示し、引き剥がし強度が500g/インチ以下となり、剥離箇所も綺麗に貼りあわせ界面で剥離した。PSA−903−2を利用したPG2Cも非自己融着性を示し、引き剥がし強度が120g/インチ程度と容易に貼りあわせ界面で剥離したが、皮膚に対しての接着力は低くなった。
【0063】
(実施例−3)
PSA−903−1を利用した導電性接着剤は非自己融着性と、十分な接着力を持っていたが、蛍光燈下に長期間暴露すると、空気に触れる部分が黄色に変色し、又は、軟化してきて、べたべたになるといった現象を生じた。これは未反応のUV開始剤が蛍光燈下暴露でラジカルを発生させ、ポリエーテル結合を酸化劣化させるようで、劣化程度はUV開始剤の添加量に依存する事を見出した。共栄社化学のライトタックPSA−903−1オリゴマー、保湿剤としてのポリエチレングリコール300(PEG300)とプロピレングリコール、電解質としての塩化カリウム(KCl)、UV開始剤としてのチバガイギー社のIrgacureTM2959の配合比を変えた数種のイオン導電性接着剤を作成した。表10に配合を示した。
【0064】
【表10】
【0065】
これらの材料から実施例−1と同様の条件で、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着剤シートを得た。これらの導電性接着剤に対して、皮膚接着力についての180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、各導電性接着剤組成物の3分後のシェアクリープ値を測定した。表11に結果を示す。
【0066】
【表11】
【0067】
これらの導電性接着剤のライナーフィルムを剥離し、NEC社製 ライフラインTMII 白色蛍光燈 FLR40SW/M 40Wの下 照度800ルックスの場所にサンプルを連続暴露し、劣化の程度を調べた。表12に結果を示す。
【0068】
【表12】
【0069】
IrgacureTM2959の0.5重量%添加品は、暴露1日で全体が黄色に変色し、2週間で変色は消失したが、接着剤は軟化後、液体状態に流動化した。IrgacureTM2959の0.3重量%以下の添加品では、変色は生じないが、暴露期間に伴い軟化、流動化を生じ、その劣化程度は、Irgacure2959の添加量が少ないほど、小さいことが判明した。また、ライナーが被覆されている部分はこれらの劣化は認められなかった。
【0070】
また、これらの導電性接着剤は含水率が高く、糊を軟化させるプロピレングリコールの含有率が高いため、PSA−903−1を使用しても、IrgacureTM2959の0.5重量%添加品は十分な非自己融着性を示したが、IrgacureTM2959の添加が減少するに従い、非自己融着性を示さなくなり、IrgacureTM2959の添加率が0.2重量%以下では完全な自己融着性を示し、0.1重量%では糊残りする導電性接着剤となった。蛍光燈下での安定性を更に伸ばすために、IrgacureTM2959の添加率を0.1重量%以下にし、非自己融着性を示す導電性接着剤の含水率を20%にし、保湿剤としてポリエチレングリコール300(PEG300)のみを利用する事で、IrgacureTM2959の添加率が0.1重量%以下でも非自己融着性を示す導電性接着剤を作成することに成功した。表13に配合を示した。
【0071】
【表13】
【0072】
これらの材料から実施例−1と同様の条件で感圧接着剤シートを得た。但し、UV照射はFusion社の120W/cmのHバルブを利用し360mJ/cm2のエネルギーで硬化させた。これにより、これらは柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートとなった。これらの導電性接着剤に対して、皮膚接着力についての180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、各導電性接着剤組成物の3分後のシェアクリープ値を測定した。表14に結果を示した。
【0073】
【表14】
【0074】
LP−0は十分な皮膚接着力を示し、かつ完全な非自己融着性を示す導電性接着剤となったが、LP−005は、硬化はするが軟質で糊残りする接着剤となった。LP−0の導電性接着剤のライナーフィルムを剥離し、NEC社製 ライフラインTMII 白色蛍光燈 FLR40SW/M 40Wの下 照度800ルックスの場所にサンプルを連続暴露し、劣化の程度を調べた。表15に結果を示す。
【0075】
【表15】
【0076】
LP−0組成の導電性接着剤は1ヶ月後に全体が微黄変色を生じたが、流動化せず、2ヶ月経過後にやや軟化し、流動化までの劣化は3ヶ月程度まで劣化を抑えることが可能であった。これにより、皮膚に対する十分な接着力を保有し、非自己融着性をも有し、かつ、ある程度の光劣化耐性を有するイオン導電性接着剤を作成できた。
【0077】
(実施例−4)
実施例−3におけるLP−0配合の導電性接着剤の光劣化耐性を更に改善するために、各種添加剤を添加し、その効果を調べた。添加剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤を検討した。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、チバ−ガイギー社のIrganoxTMブランドの酸化防止剤のうちIrganoxTM245,IrganoxTM1035,IrganoxTM1076を添加した。
【0078】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、チバ−ガイギー社のTinuvinTMブランドの光安定剤のうち、TinuvinTM123,TinuvinTM292を添加した。紫外線吸収剤としては、チバ−ガイギー社のTinuvinTMブランドのTinuvinTM1130を添加した。表16に各種添加剤をある程度添加した配合を示した。
【0079】
【表16】
【0080】
これらの材料から実施例−1と同様の条件で、感圧接着シートを得た。但し、UV照射にはFusion社の120W/cmのHバルブを利用し360から450mJ/cm2 のエネルギーで硬化させた。これにより、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートとなった。これらの導電性接着剤に対して、皮膚接着力についての180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、各導電性接着剤組成物の3分後のシェアクリープ値を測定した。表17に結果を示した。
【0081】
【表17】
【0082】
作成された導電性接着剤中、紫外線吸収剤のTinuvinTM1130を添加した系では、硬化のために照射されたUVが吸収され架橋を阻害したため、べたべたの未硬化物になったが、その他は非自己融着性をもつ導電性接着剤となった。硬化した導電性接着剤のライナーフィルムを剥離し、NEC社製 ライフラインTMII 白色蛍光燈 FLR40SW/M 40Wの下 照度800ルックスの場所にサンプルを連続暴露し、劣化の程度を調べた。表18に結果を示す。
【0083】
【表18】
【0084】
IrganoxTM1076とTinuvinTM292に関しては、0.3重量%の添加では全く効果がなく2ヶ月程で軟化、流動化し、劣化してしまったが、0.5重量%以上添加する事で、3ヶ月程でやや軟化はするものの、4ヶ月でも流動化など生じず蛍光燈下の安定性が改善されることを見出したが、接着剤が変色していくことは避けられなかった。各種添加剤の有効添加量は導電性接着剤総量に対して0.5重量%以上が必要と考えその他の添加剤は0.5重量%添加量とし、その効果を調べたところ、IrganoxTM245,IrganoxTM1035が4ヶ月たっても軟化劣化せず、光安定性が改善された。IrganoxTM1035利用時は接着剤の変色が生じたが、IrganoxTM245利用時は6ヶ月たっても変色も生じず、安定である事が見出された。
【0085】
(実施例−5)
実施例−4におけるLP−16配合による導電性接着剤は、皮膚に対する十分な接着力を保有し、非自己融着性をも有し、かつ、光劣化耐性を有するイオン導電性接着剤であることが見出された。この導電性接着剤を実施例−1と同様に、4枚積層して楕円径TENS用電極を作成した。TENS用電極を防湿袋に保存した後、実施例−1と同様の初期特性を評価した。表19に結果を示した。
【0086】
【表19】
【0087】
皮膚接着力も各層とも安定しており、しっかりと皮膚に接着し、電極の浮きや脱離も生じなかった。剥離用タブを使っての最表面層の剥離力も安定しており、剥離モードも各導電性接着剤層の界面であって、自己融着も接合も生じなかった。この非自己融着特性が長期間維持できるかを調べるために、作成された電極を、アルミ箔を貼りあわせた保存袋に入れ、ヒートシールして、49℃で18週間加速劣化させた。この条件はVon’tHoff理論で2年相当の加速劣化条件である。加速劣化後の電極を同様に評価した結果を表20に示す。
【0088】
【表20】
【0089】
加速劣化後の電極は特に変色、滲出(Oozing)、軟化、流動化の劣化は認められず、安定であることが判った。皮膚接着力と最表面層の剥離力は初期より高くなったが、電極の浮きや脱離も生じなく、剥離力は安定しており、剥離時に苦痛は感じられない。また最表面層の剥離モードも各導電性接着剤層の界面であり、自己融着も接合も生じなかった。これにより本電極は長期間安定で、自己融着も接合も生じない多層導電性接着剤を有する電極であることが示された。
【0090】
【発明の効果】
本発明の多層イオン導電性接着剤は、皮膚に対する十分な接着力を有するとともに、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる。このため、このような導電性接着剤を生体電極において用いた場合に、各層を引き剥がすことにより、繰り返し使用することが可能な生体電極とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】経皮的電気刺激装置(TENS)用生体電極の1態様の断面図を示す。
【図2】経皮的電気刺激装置(TENS)用生体電極の別態様の断面図を示す。
【符号の説明】
1…生体電極
2…導電性シート
3…導電性接着剤層
4…多層イオン導電性接着剤
5…タブコネクター接続部
6…剥離用タブ
【発明の属する技術分野】
本発明は、各層を容易に引き剥がすことができる多層イオン導電性接着剤及びそれを用いた生体電極に関する。
【0002】
このような多層イオン導電性電極は、低周波治療装置、電気刺激式痩身器などの経皮的電気刺激装置(TENS)又は心電図(ECG)監視用装置などのための生体電極において用いることができる。多層イオン導電性接着剤は各層が互いに自己融着や接合を起こすことなく、長期間の保存の後にも互いに容易に引き剥がすことができる多層の導電性接着剤である。このため、本発明の多層イオン導電性接着剤を用いた生体電極では、使用の都度又は粘着性を失った場合に、最上層の接着剤層を多層イオン導電性接着剤から引き剥がして、フレッシュな表面を露出することにより、電極の再使用可能回数を高めることができる。
【0003】
【従来の技術】
生体電極、特に、個人使用のための経皮的電気刺激装置(TENS)では、患者は再利用可能な電極を望んでいる。そこで、典型的なTENS用電極では、再使用のために、接着力はそれほど大きくはないが、何度も接着と剥離を繰り返すことが可能な再使用可能型の単層導電性接着剤が使用されていた。しかし、幾度かの使用により、垢や埃といった汚染物質が導電性接着剤の使用表面を覆ってしまうために、接着力の低下による電極脱離や、電流が清浄表面部のみに集中することによる皮膚に対する刺激発生の問題があった。したがって、患者は電極を好適な条件で繰り返して使用することができる、再使用可能な電極を望んでいる。
【0004】
現在使用されている生体電極に用いられる導電性接着剤は、殆どの場合、単層の導電性接着剤である。なぜならば、それらの多くは1回のみの使用を前提とした使い捨て電極であるからである。しかし、個人使用のための低周波治療器などの経皮的電気刺激装置に関しては、上述のとおりの問題を解決しうる再使用可能な電極が望まれている。
【0005】
このような問題を解決するために、従来は、各導電性接着剤層の間に剥離用ライナータブを持つ逐次剥離可能な多層導電性接着剤を用いた、生体電極が用いられていた(例えば、特許文献1参照)。この公報には、第一接着フィルムと第二接着フィルムとの間に中間ライナー層を介在させた、各導電性接着剤層間にライナー部材を介在させた構造を提案している。このような構造では、導電性接着剤層どうしの導通を確保するために、中間ライナー層に複数の貫通孔を設ける必要があることが記載されている。補強のためにスクリムを挿入することも記載されている。
【0006】
また、この公報には、接着フィルムどうしを直接的に接触させる直接積層型構造をも開示している。しかし、直接積層型構造では導電性接着剤どうしが融着しやすく、剥離が困難になる。このため、剥離性を高めるために各層の導電性接着剤として架橋剤を比較的に多量に添加して凝集力を高めることを提案している。
【0007】
一方、この公報には、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、塩、保湿剤、架橋剤、UV開始剤、ある種の添加剤類、水などを含む混合液を塗布し、UV照射により硬化させることで製造される導電性接着剤が使用されている。このような接着剤では、一般に、積層すると、各導電性接着剤が短時間に融着して剥離が困難になる傾向がある。そこで、各導電性層が融着せずに、積層された導電性接着剤から各層を剥離させるために、組成の変更や架橋剤の添加により各導電性層の凝集力と接着力とを制御することが行われている。すなわち、各導電性接着剤層間の接着力が各導電性接着剤層の凝集力より小さいことにより層間の界面での剥離が可能にしようとするものである。強い凝集力と弱い接着力を与えるために、架橋剤の量を高めると、接着剤の粘着性が抑制されるので、皮膚に対する接着性が十分に確保できず、また、架橋剤の量が十分でないと、自己融着や接合を生じて、各層を剥離できないという問題が生じる。あるいは、層間の界面での剥離を容易にするために剥離力と凝集力を調節した場合であっても、積層後、半年程度の長時間経過の後に、各導電接着剤層どうしが自己融着し又は接合して、剥離力が大きくなるだけでなく、剥離が各層の界面でなく、接着剤内の凝集破壊や補強用のスクリム界面での剥離となるといった問題もある。さらに、中間ライナーを介在させた場合でも、導通用の貫通孔をとおして自己融着や接合が生じ、貫通孔周辺の接着剤内での凝集破壊やスクリム界面での剥離が起こるといった問題がある。
【特許文献1】
特開2001−259044号公報(特許請求の範囲、[0014]
欄、[0025]欄、[0057]欄)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、皮膚に対する十分な接着力を有するとともに、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる多層イオン導電性接着剤、それを用いた生体電極の開発が求められている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の1つの態様によると、
イオン導電性接着剤層を積層した多層イオン導電性接着剤であって、
各接着剤層はウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質を含むイオン導電性接着剤前駆体を架橋もしくは硬化したものであり、25℃における3分後のシェアクリープ値が1〜10×10−5cm2/ダインの範囲である、多層イオン導電性接着剤が提供される。
このような多層イオン導電性接着剤では、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる。このため、このような導電性接着剤を生体電極において用いた場合に、各層を引き剥がすことにより、繰り返し使用することが可能な生体電極とすることができる。
【0010】
なお、「シェアクリープ値」とは一般に、試験片を一定の温度に保持し、一定のせん断荷重を加えたときに生じるある時間における歪み値から算出される物性値である。
本明細書中で用いるときに「シェアクリープ値」は以下の方法により測定される値である。
一定の寸法の各接着剤層を構成する単層の感圧接着シートからなる試験片を2枚用意し、これらをステンレス製の可動プレートの両面にそれぞれ貼り合わせる。感圧接着シートを両面に有する可動プレートの片面をステンレス製の固定プレートに貼り合せ、可動プレートの反対面にはステンレス製のトッププレートを貼り合わせる。25℃の温度において、このようにして得られたトッププレート/感圧接着シート/可動プレート/感圧接着シート/固定プレートの積層体の可動プレート片側端部から積層体に対して平行方向に荷重をかけ、歪みを測定する。この測定値に基づいて、「シェアクリープ値」は以下の式から算出される。
J(t)=(D(t)/T)/(F/S)
(式中、D(t)はt分後の歪み測定値(cm)であり、
Tは試験片の厚さ(cm)であり、
Fは荷重(dyne)であり、
Sは試験片の面積(cm2)である)。
なお、本明細書における試験では25℃の温度において、幅2cm×長さ3.5cm×厚さ0.4mmの寸法の試験片を用い、荷重200gを用いて3分後の歪み値からシェアクリープ値を測定・算出している。シェアクリープ値が大きいほど材料は軟く、変形し、歪みを生じやすくなる。また、同一物質どうしの積層体では自己融着しやすくなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
イオン導電性接着剤層
本発明の多層イオン導電性接着剤は、ウレタンアクリレートオリゴマーを架橋もしくは硬化して得られる接着性ポリマー、保湿剤、電解質などを含む。接着性ポリマーは、皮膚への接着のために十分な接着力を有するとともに、各導電性接着剤層の界面で容易に剥離することができるほど十分な凝集力を有することが求められる。10〜400g/インチ(25.4mm)の180°剥離強さを導電性接着剤に与えることが望ましく、50〜200g/インチ(25.4mm)の180°剥離強さを有する導電性接着剤はより好ましい。導電性接着剤の25℃における3分後のシェアクリープ値は好ましくは1〜10×105cm2/ダインであり、より好ましくは2〜5×105cm2/ダインである。また、使用温度での粘着性を得るために、接着性ポリマーのガラス転移温度は好ましくは0℃以下である。
【0012】
ウレタンアクリレートオリゴマーは、好ましくは、ポリアルキレングリコール、2個以上のイソシアネート基を有する有機イソシアネート、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物、イソシアネート基と反応性の官能基とカルボキシル基との両方を有する化合物を含む反応混合物を反応させることにより得られたオリゴマーである。ウレタンアクリレートオリゴマーは、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物の含有率がオリゴマーの0.35〜0.6モル%であり、より好ましくは0.4〜0.45モル%であるような場合に、十分な皮膚接着力とともに、十分な凝集力を有する接着性ポリマーを得ることが今回判った。このような場合には、得られる接着性ポリマーにおいて、(メタ)アクリロイル基が架橋点を形成し、適度に架橋して、良好な接着力と凝集力のバランスを導電性接着剤に付与することになるからである。
【0013】
ウレタンアクリレートオリゴマーは、例えば、特開2002−60456号公報に開示されている。具体的には、下記式
A−I−{(P−I)r−(B−I)s}t−M 〔I〕
(式〔I〕中、A−はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの脱水素残基:−I−は有機ジイソシアナート由来のジカルバモイル基:−P−はプロピレンオキシドと含有比率50〜95%エチレンオキシドとの数平均分子量500〜5000のランダム共重合体の脱水素残基:−B−はカルボキシル基含有ポリオール化合物の脱水素残基:−Mはモノオールの脱水素残基:t=1のときrは1〜20の数かつsは0〜20の数、t=2〜15のとき繰り返し単位(P−I)r−(B−I)sがその繰り返しの両端でr,s=0〜1かつ該両端以外でr,s=1〜15)で示されることを特徴とするウレタンアクリレートオリゴマーである。
【0014】
上式のオリゴマーのうち、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物であるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに由来する残基の量は、オリゴマー全体の0.35〜0.6モル%、好ましくは0.4〜0.45モル%である。
【0015】
上式の−I−は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナート、水添キシリレンジイソシアナート、水添ジフェニルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、およびジフェニルメタンジイソシアナートから選ばれる少なくとも一種類の有機ジイソシアナート化合物由来のジカルバモイル基である。
【0016】
また、上式の−B−は、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシアジピン酸、ジオキシマレイン酸、酒石酸、2,6−ジオキシ安息香酸、1,2−ジオキシグリセリン酸から選ばれるカルボキシル基含有ポリオールの脱水素残基である。
【0017】
上式の−Mは、例えば、アルコキシポリエチレングリコール、アルコキシポリプロピレングリコール、脂肪族アルコール、水酸基含有(メタ)アクリレート、カルボキシル基含有モノアルコールから選ばれるモノオール化合物の脱水素残基である。
【0018】
本発明で使用可能なウレタンアクリレートオリゴマーの市販の例として、例えば、共栄社化学社製のPSA−903シリーズのUV硬化性水溶性ウレタンアクリレートオリゴマー(例えば、PSA−903−1、PSA−903−2)やPUA−903などを挙げることができる。
【0019】
なお、各導電性接着剤層はその強度を高めるために不織布などから形成されたスクリムを含んでもよい。
【0020】
電解質
導電性接着剤はイオン導電性を付与するための電解質を含む必要がある。電解質としては無機塩類又は有機塩類を用いることができるが、一般的には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどの無機塩類が用いられる。添加量はイオン導電性と皮膚への刺激を考慮して、接着剤重量の0.1〜5重量%、望ましくは0.5〜3重量%の量で添加される。電解質を溶解するための溶媒は、水だけでなく、有機溶媒も可能ではあるが、皮膚刺激、安全性、イオン導電性(特にイオン移動速度)を考慮すると、水の利用が最も望ましく、その添加量は、乾燥による電気特性の低下をもたらさないように、接着剤の重量を基準として15〜50重量%、20〜25重量%程度の量である。
【0021】
保湿剤
導電性接着剤は、生体電極の保存期間、開封してから使用するまでの期間、最内層の導電性接着剤層を使用するまでの期間、皮膚に貼り付けてからの使用時間において十分な導電性を維持するために必要な水分を確保するために、保湿剤が添加される。保湿剤としては、一般に、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールに代表される多価アルコール類が用いられる。それぞれの保湿剤は種類よって保湿力が異なるので、必要な水分を維持するために必要な量で添加するが、保湿効果とともに、電気特性、接着力などの性能バランスを考慮して添加する必要がある。保湿剤の量は導電性接着剤の重量を基準として、一般には、10〜80重量%、好ましくは20〜50%の量である。
【0022】
多層イオン導電性接着剤の製造方法
各イオン導電性接着剤層は、上記のようなウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質などの各配合成分を混合溶解し、塗布原液を調製し、それを基材上に塗布した後に、紫外線(UV)又はEB(エレクトロンビーム)を照射して後架橋もしくは硬化を行うことにより得られる。これにより、各導電性接着剤層は、導電性接着剤として十分な接着力及び保持力とともに、接着剤内部の凝集力が得られ、結果として、皮膚への糊残り、発汗吸収による急激な接着力の低下が抑制される。具体的には、まず、ウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質などの各配合成分を混合溶解して40℃以上、100℃未満の温度で粘度が100,000mPa.sである塗布原液(導電性接着剤前駆体)を得る。次に、これを40℃〜100℃未満に加熱して混合し、基材に塗布し、紫外線又はエレクトロンビームで架橋もしくは硬化して第一の導電性接着剤層を形成する。全く同様にして第二の導電性接着剤層を形成し、第一の導電性接着剤層と貼り合せて積層する。その後、基材を2層の導電性接着剤層から除去し、2層からなる導電性接着剤を得ることができる。この要領で、導電性接着剤層を積層していくことにより、さらに多層の導電性接着剤を得ることができる。
【0023】
このようなウォームメルト型UV/EB(紫外線/エレクトロンビーム)導電性接着剤前駆体は、ホットメルトコータを用い、コータに付属するエクストルーダでその場で混合しながら高速塗布することが可能で、UVもしくはEBでの後架橋により、皮膚に対して使用可能な接着力を有する生体電極用接着剤が得られる。
【0024】
塗布原液の各配合成分の混合溶解は室温で行うこともできるが、室温での塗布原液の粘度が高すぎる場合には、100℃未満の温度で水分が蒸発しないようなプレッシャーケトルやコンデンサーを付けた高粘度ミキサー又はニーダー、エクストルーダなどを用いて混合溶解し、均一な塗布原液を得ることができる。従来の導電性接着剤原料のように、室温での粘度が2000mPa.s以下の比較的低粘度の溶液では、連続コータでナイフ又は押出しダイでポリエステルライナーに塗布した場合に、垂れ、塗布厚みの低下を生じることがあるため、スクリムと呼ばれる薄手の不織布や紙に溶液を含浸させる必要があるなど、工程上の制約があった。しかしながら、ウレタンアクリレートオリゴマーを接着性ポリマーの原料とする場合には、塗布原液が室温で100,000mP.s以上の高粘度でありかつ40℃〜100℃未満の温度で100,000mPa.s以下の粘度のなるような塗布原液を製造できる。このため、ホットメルトコータのエクトルーダに原料を投入し、40℃〜100℃で水分に蒸発を抑制しながら混合溶解し、押出しダイで塗布することが可能になる。これにより、原料の混合溶解工程と塗布工程を同時に同一の装置で行なえるため、導電性接着剤の生産性が非常に高まる。また、押出しダイで塗布した後に、塗布液は急速に冷却されるため、垂れ、塗布厚さの低下が生じることがない。
【0025】
塗布は、後述するように、各導電性接着剤層の厚さが0.05mm〜1mmとなるように行う。導電性接着剤層が薄すぎると乾燥しやすくなる傾向があり、厚すぎると、生体電極が嵩高になり、使いにくくなる傾向がある。塗布後のUV照射で後架橋を行うことで適切な接着力と凝集力を有する導電性接着剤となるが、UV照射には、低圧又は中圧水銀ランプ及び低強度蛍光ランプが使用できる。この場合、それぞれが異なる発光スペクトルを有し、かつ280〜400nmの波長範囲で最も強く発光するランプを使用するのがよい。UV照射時の照射総量は10〜1000mJ/cm2程度である。ウレタンアクリレートオリゴマーでは、モノマーの残留にあまり注意する必要がなく、高強度のUVランプで短時間低照射エネルギーで後架橋もしくは硬化を行うことができる。また、UV照射の代わりにEB照射によって後架橋を行うことができ、この場合には、開始剤は必要ない。
【0026】
UV照射による後架橋を行う場合には、導電性接着剤前駆体は、UV開始剤を含む必要がある。UV開始剤の種類は使用するUVランプのエネルギーバンドに合うものであり、皮膚刺激、安全性、溶解性、照射後の臭いなどを考慮して選択ことが望ましい。塗布原液は水を含むため、水溶性又は親水性のUV開始剤の使用が好ましい。限定しない開始剤の例としては、イオン性基、親水性基又はその両方で置換されたベンゾフェノン、イオン性基、親水性基又はその両方で置換されたチオキサントン、及び4−置換−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)フェニルケトン(ここで、4−置換基はイオン性基又は親水性基である)などのフェニルケトンからなる群より選ばれるものが挙げられる。特に好ましいUV開始剤としては、チバガイギー社のIrgacureTM−2959として入手可能な1−(4−(2−ヒドロキシ)−フェニル)2−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)が挙げられる。添加量はUV照射量と接着特性などの関係から決定するが、通常、導電性接着剤前駆体の重量を基準として0.01〜10重量%の量であるが、好ましくは0.01重量%〜1.5重量%であり、より好ましくは0.01〜0.06重量%である。1.5重量%を超えて添加すると、導電性接着剤を蛍光灯下に暴露したときに、数日で変色することがあり、さらに数週間で硬化物の空気接触部が軟化してべたべたになるといった劣化を起こすことがある。また、0.01重量%未満の量、例えば、0.005重量%であると、硬化物が軟質になり、皮膚へ付着して使用した後に、糊残りを起こすことがある。0.01〜0.06重量%の範囲では、硬化物の性能が良好で、2〜3ヶ月の蛍光灯下での暴露時にも劣化が認められなかった。
【0027】
他の添加剤
導電性接着剤の蛍光灯下での暴露などに対する安定性を高めるために、導電性接着剤には酸化防止剤又は光安定剤を添加することもできる。導電性接着剤の重量を基準として0.5重量%以上のヒンダードフェノール系酸化防止剤又はヒンダードアミン系光安定剤を導電性接着剤に添加することにより、長期間にわたる蛍光灯下への暴露時にも劣化を起こさない導電性接着剤を得ることができる。
【0028】
限定しないヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、チバガイギー社のIrganoxTMブランドの酸化防止剤のうち、後架橋前の導電性接着剤前駆体混合液に溶解しうるものであって、皮膚への刺激の少ないものであり、硬化した導電性接着剤を着色、変色させないものが選択される。具体的には、IrganoxTM 245, IrganoxTM 1035, IrganoxTM 1076が挙げられ、IrganoxTM 245の使用が望ましい。添加量は、0.5重量%以下であると効果的でなく、他の特性に影響を及ぼさない程度が好ましく、一般に、0.5〜1重量%程度が好ましい。
【0029】
また、限定しないヒンダードアミン系光安定剤としては、チバガイギー社のTinuvinTMブランドの光安定剤のうち、後架橋前の導電性接着剤前駆体混合液に溶解しうるものであって、皮膚への刺激の少ないものであり、硬化した導電性接着剤を着色、変色させないものが選択される。具体的には、TinuvinTM 123, TinuvinTM 292が挙げられ、TinuvinTM 123の使用が望ましい。添加量は、0.5重量%以下であると効果的でなく、他の特性に影響を及ぼさない程度が好ましく、一般に、0.5〜1重量%程度が好ましい。この光安定剤は単独で添加しても又はヒンダードフェノール系酸化防止剤と併用してもよい。
【0030】
生体電極
生体電極は、本発明の多層イオン導電性接着剤からなる接着層と、該接着層に接続された電極端子とを含んでなる。本発明の多層イオン導電性接着剤を用いた生体電極としては、従来から使用されているいずれのタイプの生体電極であってもよく、例えば、低周波治療装置、電気刺激式痩身器などの経皮的電気刺激装置(TENS)又は心電図(ECG)監視用装置などのための生体電極を挙げることができる。典型的な生体電極の構造は米国特許第4,524,087号、同第4,539,996号、同第4,848,353号(Engels)、同第4,846,185号(Carim)、同第4,715,382号(Strands)、同第5,133,356号(Bryanら)、同第5,779,632号(Dietzら)、同第5,012,810号明細書に開示されている。検査用心電図(EKG)手法に使用される場合には、米国特許第4,539,996号明細書に記載されるような電極が使用されることが好ましい。監視用心電図(ECG)手法に使用される場合には、米国特許第4,539,996号、同第4,848,353号、同第5,012,810号及び同第5,133,356号明細書に記載されるような電極が使用されることが好ましい。場合により、米国特許第4,848,353号明細書に見られるように、生体電極が電極の外周から延在している導電性タブであってもよいし、米国特許第5,012,810号明細書に見られるように、絶縁バッキング部材中のスリット又はシームを介して延在する導電体部材であってもよい。この他、電気通信手段がアイレット又は他のスナップ型コネクター、例えば、米国特許第5,012,810号に見られるような導電性タブが該タブに固定されたアイレット又は他のスナップ型コネクターをもっていてもよい。
【0031】
図1及び2には、経皮的電気刺激装置(TENS)用の生体電極の断面図が示されている。生体電極1は、導電性シート2と、このシート2の上に配設された、各導電性接着剤層3を直接積層した多層イオン導電性接着剤4を有する。導電性シート2の端部にはTENS装置への接続のためのタブコネクター接続部(端子)5が多層イオン導電性接着剤4から突き出した構造になっている。また、図2に示すように、多層イオン導電性接着剤の各接着剤層の剥離を容易にするために、多層イオン導電性接着剤の1つの端部(例えば、タブコネクター接続部のカーボン導電性シート側)に剥離用タブ6を設けることができる。剥離用タブ6は好しくは片面剥離処理されており、各導電性接着剤層の端部にのみ配設される。剥離用タブ6は多層イオン導電性接着剤から突き出るように、又は、剥離タブが多層イオン導電性接着剤の端部と一致するように貼り合わされた構造であることができる。
【0032】
TENS用電極では、導電体としてAg/AgCl導電体のような非分極性導電体を使用する必要はないので、カーボン導電体が導電体として使用されてよい。導電性接着剤に接触する皮膚のある部分にイオン電流が集中しないように、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの柔軟なプラスティックフィルム7上に疎水性バインダーシステムからなる導電性カーボンインク8を塗布し、導電性シート2とすることができる。カーボンスタッドがリード線のコネクターとして使用される。商業上使用可能な導電性カーボンインクの限定しない例としては、日本アチソン社のポリエステルバインダーを用いたJEF−120あるいはポリ塩化ビニルを用いたED423SSなどがある。商業上使用可能なPETフィルムの限定しない例としては、ユニチカ社の75μm厚のエンブレットTM−75がある。また、他のカーボン導電体として導電性カーボンをシリコーンゴムに練りこんだ、導電性シリコーンパッドなどがある。商業上使用可能な導電性シリコーンパッドとして、電子通商社が販売するシリコーン導電性ラバーパッドがある。
【0033】
剥離タブに用いられるライナーの限定しない商業上使用可能な例としては、帝人デュポン社の50μm厚のPurexTMA50のシリコーン片面剥離処理ライナーがある。剥離タブライナーのシリコーン処理面は、導電性接着剤層の引き剥がしの際に、剥離した導電性接着剤層と剥離タブライナーが同時に剥がれるように貼り合わされる。
【0034】
積層される導電性接着剤層の数は限定されないが、各導電性接着剤層の厚みにより規定される。多層イオン導電性接着剤の全体の厚さはおよそ0.1〜5mmである。0.5〜2mmの厚さであると、良好な柔軟性が得られるので好ましい。各導電性接着剤層の厚さは限定するつもりはないが、通常、0.05mm〜1mmである。例えば、各導電性接着剤層の厚さが0.4mmである場合には、4枚の導電性接着剤層が積層された導電性接着剤の全体の厚さはおよそ1.6mmとなる。TENS電極については、皮膚に対する接着力を垢や埃のような汚染物質が付着しにくいように制御した場合に、各導電性接着剤層に対して、およそ10回以上の再使用が可能である。そのため、4層の多層イオン導電性接着剤を用いた場合には、およそ40回以上の再使用が可能となる。
【0035】
本発明の多層イオン導電性接着剤では、原料としてウレタンアクリレートオリゴマーを使用する。ウレタンアクリレートオリゴマーは従来のアクリル系オリゴマーよりも皮膚に対して刺激性が低いとされている。万一、オリゴマーの原料となるポリイソシアネートが残留していても、水の存在下に使用されるため、イソシアネート基は分解されて有害性は殆どなくなると考えられているためである。また、ウレタンアクリレートオリゴマーは臭気が殆どなく、この点でも、アクリル系オリゴマーよりも優れている。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
薄い非自己融着性イオン導電性接着剤を積層させた多層導電性接着剤用のイオン導電性接着剤組成物の作成方法を記述する。反応性ウレタンアクリレートオリゴマーとして、共栄社化学のライトタックTMPSA−903−1水溶性ウレタンアクリレートオリゴマーを利用した。保湿剤にポリエチレングリコール300(PEG300)、電解質に塩化カリウム(KCl)、UV開始剤にチバガイギー社のIrgacureTM2959を利用した。表1に配合を示した。
【0037】
【表1】
【0038】
温度を60℃に制御したプラネタリーミキサーで、上記の材料を混合して塗布液を得た。この塗布液を用いて以下のとおりに感圧接着シートを作製した。帝人デュポン社のA−50、50ミクロンPETライナー上にユニセル社のポリエステル製不織布スクリム(目付け15g/m2)B7202Wが配置されるように、ライナー及びスクリムをそれぞれ連続的に送り出し、その上に、上記塗布液を50℃に加温されたモーノポンプで送液しそして塗布し、その上に上記と同一のPETライナーが配置されるように連続的に送り出し、PETライナー/塗布液(不織布スクリムが介在)/PETライナーの順に積層した。なお、この操作は、ギャップ調節の可能な上下2本のロールからなるラミネートロールを用いて、塗布厚が0.4mmになるようにギャップ調節して行った。このようにして、スクリムを介在させた塗布厚0.4mmの塗布液を2枚のライナーフィルムで挟んだ構造体を得た。さらにこの構造体を連続的にウシオ電機社のUVランプ(80W/cm)チェンバーに通過させ、総照射エネルギー350mJ/cm2で硬化(架橋)した。硬化された塗布液は、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートとなった。
【0039】
上記のとおりに4枚の感圧接着シートを製造し、各感圧接着シートからライナーフィルムを剥がして、各導電性接着剤層を形成した。4枚のシートのうちの3枚のシートについては、剥離用ライナータブとして、帝人デュポン社のA−50、50ミクロンPETライナー(片側剥離処理されている)3枚をそれぞれシートの片側端部に1cmの幅でそれぞれ装着し、4枚のシートを積層することで、4層からなる多層導電性接着剤を作成した。これにより、多層導電性接着剤の片側端部において、各導電性接着剤層の間に剥離用タブ(片面剥離処理された)を有する多層導電性接着剤を得た。なお、剥離用タブは多層導電性接着剤の端面から少し突き出るような構造である。
【0040】
次に、ユニチカ社の50μm厚のエンブレットTM−50のPETフィルム上に日本アチソン社のJEF−120カーボンインクを塗布してカーボン導電体シートを得た。カーボン導電体シートのカーボンインクを塗布していない側のPET面に、3M社のMicrofoamTM1774LPテープを貼り合わせた。この導電性シートのカーボンインクを塗布した側に、上記の多層導電性接着剤を貼りあわせ、図2に示すような長径8cm、短径5cmの楕円径TENS用電極を作成した。なお、この電極は、タブコネクターの接続部として、1cm幅の導電体シートを露出した部分を持つものであった。このように製造されたTENS用電極を防湿袋に保存した後、次の事項に関して評価した。
【0041】
1.表面層のACインピーダンス(ACZ:10Hzと100Hz:2枚の電極の接着面同士を貼りあわせる)
2.表面層の皮膚インピーダンス(10Hz)
3.表面層の皮膚接着力
4.表面層の多層からの剥離強度と、剥離時の状態
なお、上記評価は第1の表面層から第4層まで剥離の度に評価する。
【0042】
ACインピーダンスは電極対作成後の1分後にインピーダンス計により10Hzと100Hzで測定した。すべての接着力は、300mm/min.の速度で180度の剥離角で引っ張り試験機で測定した。表面層の多層からの剥離強度は電極作成後の10分後に90度の引っ張り強度で測定した。皮膚接着力は両前腕に一対の電極を貼りつけてから2分後に引っ張り試験機で測定した。皮膚インピーダンスは両前腕に一対の電極を貼りつけてから1分後にインピーダンス計で測定した。剥離時の状態は、剥離面が各導電性接着剤界面であるか、接着剤内部または接着剤とスクリムの界面等のその他かで、同定した。また、上記と同一の方法で製造した感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値を測定した。幅2cm×長さ3.5cm×厚さ0.4mm(単層)の感圧接着シートからなる試験片2枚を切り取り、前述と同様にして200g荷重を用いて3分後の歪み値を測定し、前述の式からシェアクリープ値を算出した。
評価結果を表2に示した。
【0043】
【表2】
【0044】
電極のACインピーダンスは各層を剥離する毎に小さくなる。第1層でもACインピーダンスは十分低く、また皮膚に貼り付けた場合の皮膚インピーダンスも十分低かった。皮膚接着力も各層とも安定しており、電極の浮きや脱落も生じなかった。剥離用タブを使っての最表面層の剥離力も安定しており、剥離モードも各導電性接着剤層の界面であって、自己融着も接合も生じなかった。この非自己融着特性が長期間維持できるかを調べるために、アルミ箔を貼りあわせた保存袋に、作成された電極を入れ、ヒートシールして、49℃で18週間加速劣化させた。この条件はVon’tHoff理論で2年相当の加速劣化条件である。加速劣化後の電極を同様に評価した結果を表3に示す。また、この条件での加速老化後の感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値も上記と同一の測定条件で測定した。その結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
加速劣化後の電極は特に変色、滲出(Oozing)、軟化、流動化の劣化は認められず、安定であることが判った。皮膚接着力と最表面層の剥離力は初期より高くなったが、電極の浮きや脱離も生じず、剥離力は安定しており、剥離時に苦痛は感じられない。また最表面層の剥離モードも各導電性接着剤層の界面であり、自己融着も接合も生じなかった。これにより本電極は長期間安定で、自己融着も接合も生じない多層導電性接着剤を有する電極であることが示された。
【0047】
(比較例)
米国特許第4,848,353号明細書に開示されている導電性接着剤を改良することで、導電性接着剤を作成した。原料の組成を表4に示した。
【0048】
【表4】
【0049】
AAはアクリル酸、NVPはn−ビニルピロリドン、TEGDMAはトリエチレングリコールジメタクリレート、Irgcure−2959TMはCiba−Geigy社のUV開始剤である。グアーガムとしては三昌社のJaguarTMHP−8を利用した。
【0050】
上記の組成の混合液を、帝人社の50μm厚のPurexTMA50(接着剤に接触する側にシリコーン剥離剤が塗布されている。)のライナーフィルムからなる2つのシートで挟み込まれた低屡、Kimbaly Clack社のKCテッシュに0.2mmの厚みで塗布した。混合液を塗布した2つのライナーフィルムを貼り合わせ、総エネルギーが1100mJ/sq. cmになるまで、平均強度1.5mW/sq. cmの低圧UVランプで架橋(硬化)した。各々の硬化した物質は透明の導電性接着剤になった。両側のライナーフィルムを剥がし、生体電極のための各接着剤層を感圧接着シートの形で形成した。このように得られた5枚の感圧接着シートを積層することにより多層導電性接着剤を得たが、各接着剤層の間に全面に多孔質ライナーを挿入した。
【0051】
具体的には、多孔質ライナーは、25ミクロン厚のポリプロピレンフィルムであって、片面がシリコーン系剥離剤で処理されたライナーに口径0.5mmの穴を500,000個/m2 の密度で開けた多孔質フィルムであった。まず、多孔質ライナーを有しない1枚の感圧接着シートに対して、上記多孔質ライナーを片面に有する感圧接着シートを、ライナーを介して積層し、この上にさらに、同様に片面に多孔質ライナーを有する同様の感圧接着シートを順次積層し、5層の接着剤層を有し、各接着剤層の間に4枚のライナーを各層の全面に有する多層導電性接着剤を得た。
【0052】
次に、ユニチカ社の75μm厚のエンブレットTM−75のPETフィルム上に日本アチソン社のED423SSカーボンインクを塗布したカーボン導電体シートに上記の多層導電性接着剤を貼りあわせ、TENS用電極を作製した。この生体電極は、上記実施例1と同様にタブコネクターの接続部として、1cm幅の導電体シートを露出した部分を持ち、長径8cm、短径5cmの楕円径TENS用電極であった。このTENS用電極を防湿袋に保存した後、上記実施例1と同様に評価した。また、感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値も上記と同一の測定条件で測定した。結果を表5に示した。
【0053】
【表5】
【0054】
電極のACインピーダンスは多孔質ライナーの多孔部位での電気接点となるため、前述の実施例に比べ高くなるが、皮膚インピーダンスは十分低く電気刺激には問題なかった。皮膚接着力も各層とも安定しており、電極の浮きや脱落も生じなかった。多孔ライナーの剥離用タブを使っての最表面層の剥離力は前述の実施例1よりも高いが、安定しており、剥離モードも各導電性接着剤層の界面であり、自己融着も接合も生じなかった。この非自己融着特性が長期間維持できるかを調べるために、作成された電極を、アルミ箔を貼りあわせた保存袋に入れ、ヒートシールして、49℃で9週間加速劣化させた。この条件はVon’tHoff理論で1年相当の加速劣化条件である。加速劣化後の電極を同様に評価した結果を表6に示す。また、この条件での加速老化後の感圧接着シート(すなわち、生体電極を構成する各接着剤層に相当する)についての3分後のシェアクリープ値も上記と同一の測定条件で測定した。結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
1年相当の加速劣化後の電極は接着剤が黄変色したが、滲出(Oozing)、軟化、流動化の劣化は認められず、安定であることが判った。最表面層の皮膚接着力は初期と同程度で安定していたが、最表面層を剥離させることは困難で、1000gに引張りでも剥離せず、強制的に剥離させると剥離モードは多孔ライナーの周辺での凝集破壊となり、部分的に接着剤層とスクリムの界面での剥離となり、剥離面が汚くなり、実質的には再接着できるが、剥離可能な多層導電性接着剤とは言い難い。このように従来の導電性接着剤の架橋度を大きくし、初期の非自己融着性を持たしても、長期間の特性の維持は困難であった。本比較例では3分後のシェアクリープ値が10×10−5cm2/dyne以下であっても、このアクリル系の多層イオン導電性接着剤は長期間経過後に自己融着するものであった。
【0057】
(実施例−2)
薄い非自己融着性イオン導電性接着剤の作成条件を規定する。皮膚に対する十分な接着力を保有し、非自己融着性をも有するにはイオン導電性接着剤の架橋度を制御する必要がある。皮膚に対する十分な接着力とは、装着電極の脱落、剥離を生じず、剥離時に痛くない接着力であり、50g/inchから200g/inchである。このレベルの皮膚接着力を有し、非自己融着性をも有するイオン導電性接着剤を得るために反応性オリゴマー中の架橋点となるアクリル基の含有率で制御した。共栄社化学のライトタックTMPSA−903シリーズにはオリゴマー原料中で架橋点となる2−ハイドロキシエチルアクリレート(2−HEA)の比率が異なるオリゴマーがある。表7に示す3種類のオリゴマーを接着性ポリマーの前駆体として使用し、保湿剤としてポリエチレングリコール300(PEG300)とプロピレングリコール、電解質として塩化カリウム(KCl)、UV開始剤としてチバガイギー社のIrgacureTM2959を利用したイオン導電性接着剤を作成した。表8に配合を示した。
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
これらの材料から、実施例−1と同様の条件で架橋(硬化)して、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートを得た。この感圧接着シートを積層した多層イオン導電性接着剤に対して、皮膚接着力のついて180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、これらの導電性接着剤を1インチ(2.5cm)幅に切り出し、2枚を貼りあわせ、1時間後、T剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示し、剥離モードを観察した。また、上記と同一の条件下での各導電性接着剤の3分後のシェアクリープ値を測定した。表9に結果を示した。
【0061】
【表9】
【0062】
PSA−903を利用したPG2Aは皮膚に対して、強い接着力を持っており、剥離時に糊残りを起こさなかったが、2枚貼りあわせた粘着剤シートは自己融着を起こし、引き剥がし強度が1500g/インチ以上となり、剥離箇所も界面でなく、糊内の凝集破壊であった。PSA−903利用では、非自己融着性の導電性接着剤は得られなかった。PSA−903−1を利用したPG2Bは皮膚に対して、十分な接着力を持っており、剥離時に糊残りを起こさず、2枚貼りあわせた粘着剤シートも非自己融着性を示し、引き剥がし強度が500g/インチ以下となり、剥離箇所も綺麗に貼りあわせ界面で剥離した。PSA−903−2を利用したPG2Cも非自己融着性を示し、引き剥がし強度が120g/インチ程度と容易に貼りあわせ界面で剥離したが、皮膚に対しての接着力は低くなった。
【0063】
(実施例−3)
PSA−903−1を利用した導電性接着剤は非自己融着性と、十分な接着力を持っていたが、蛍光燈下に長期間暴露すると、空気に触れる部分が黄色に変色し、又は、軟化してきて、べたべたになるといった現象を生じた。これは未反応のUV開始剤が蛍光燈下暴露でラジカルを発生させ、ポリエーテル結合を酸化劣化させるようで、劣化程度はUV開始剤の添加量に依存する事を見出した。共栄社化学のライトタックPSA−903−1オリゴマー、保湿剤としてのポリエチレングリコール300(PEG300)とプロピレングリコール、電解質としての塩化カリウム(KCl)、UV開始剤としてのチバガイギー社のIrgacureTM2959の配合比を変えた数種のイオン導電性接着剤を作成した。表10に配合を示した。
【0064】
【表10】
【0065】
これらの材料から実施例−1と同様の条件で、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着剤シートを得た。これらの導電性接着剤に対して、皮膚接着力についての180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、各導電性接着剤組成物の3分後のシェアクリープ値を測定した。表11に結果を示す。
【0066】
【表11】
【0067】
これらの導電性接着剤のライナーフィルムを剥離し、NEC社製 ライフラインTMII 白色蛍光燈 FLR40SW/M 40Wの下 照度800ルックスの場所にサンプルを連続暴露し、劣化の程度を調べた。表12に結果を示す。
【0068】
【表12】
【0069】
IrgacureTM2959の0.5重量%添加品は、暴露1日で全体が黄色に変色し、2週間で変色は消失したが、接着剤は軟化後、液体状態に流動化した。IrgacureTM2959の0.3重量%以下の添加品では、変色は生じないが、暴露期間に伴い軟化、流動化を生じ、その劣化程度は、Irgacure2959の添加量が少ないほど、小さいことが判明した。また、ライナーが被覆されている部分はこれらの劣化は認められなかった。
【0070】
また、これらの導電性接着剤は含水率が高く、糊を軟化させるプロピレングリコールの含有率が高いため、PSA−903−1を使用しても、IrgacureTM2959の0.5重量%添加品は十分な非自己融着性を示したが、IrgacureTM2959の添加が減少するに従い、非自己融着性を示さなくなり、IrgacureTM2959の添加率が0.2重量%以下では完全な自己融着性を示し、0.1重量%では糊残りする導電性接着剤となった。蛍光燈下での安定性を更に伸ばすために、IrgacureTM2959の添加率を0.1重量%以下にし、非自己融着性を示す導電性接着剤の含水率を20%にし、保湿剤としてポリエチレングリコール300(PEG300)のみを利用する事で、IrgacureTM2959の添加率が0.1重量%以下でも非自己融着性を示す導電性接着剤を作成することに成功した。表13に配合を示した。
【0071】
【表13】
【0072】
これらの材料から実施例−1と同様の条件で感圧接着剤シートを得た。但し、UV照射はFusion社の120W/cmのHバルブを利用し360mJ/cm2のエネルギーで硬化させた。これにより、これらは柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートとなった。これらの導電性接着剤に対して、皮膚接着力についての180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、各導電性接着剤組成物の3分後のシェアクリープ値を測定した。表14に結果を示した。
【0073】
【表14】
【0074】
LP−0は十分な皮膚接着力を示し、かつ完全な非自己融着性を示す導電性接着剤となったが、LP−005は、硬化はするが軟質で糊残りする接着剤となった。LP−0の導電性接着剤のライナーフィルムを剥離し、NEC社製 ライフラインTMII 白色蛍光燈 FLR40SW/M 40Wの下 照度800ルックスの場所にサンプルを連続暴露し、劣化の程度を調べた。表15に結果を示す。
【0075】
【表15】
【0076】
LP−0組成の導電性接着剤は1ヶ月後に全体が微黄変色を生じたが、流動化せず、2ヶ月経過後にやや軟化し、流動化までの劣化は3ヶ月程度まで劣化を抑えることが可能であった。これにより、皮膚に対する十分な接着力を保有し、非自己融着性をも有し、かつ、ある程度の光劣化耐性を有するイオン導電性接着剤を作成できた。
【0077】
(実施例−4)
実施例−3におけるLP−0配合の導電性接着剤の光劣化耐性を更に改善するために、各種添加剤を添加し、その効果を調べた。添加剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤を検討した。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、チバ−ガイギー社のIrganoxTMブランドの酸化防止剤のうちIrganoxTM245,IrganoxTM1035,IrganoxTM1076を添加した。
【0078】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、チバ−ガイギー社のTinuvinTMブランドの光安定剤のうち、TinuvinTM123,TinuvinTM292を添加した。紫外線吸収剤としては、チバ−ガイギー社のTinuvinTMブランドのTinuvinTM1130を添加した。表16に各種添加剤をある程度添加した配合を示した。
【0079】
【表16】
【0080】
これらの材料から実施例−1と同様の条件で、感圧接着シートを得た。但し、UV照射にはFusion社の120W/cmのHバルブを利用し360から450mJ/cm2 のエネルギーで硬化させた。これにより、柔軟でタックを持ち、臭いのない感圧接着シートとなった。これらの導電性接着剤に対して、皮膚接着力についての180度剥離試験を30cm/分の速度で行い、g/インチの単位で表示した。剥離時の皮膚表面への糊残りを観察した。また、各導電性接着剤組成物の3分後のシェアクリープ値を測定した。表17に結果を示した。
【0081】
【表17】
【0082】
作成された導電性接着剤中、紫外線吸収剤のTinuvinTM1130を添加した系では、硬化のために照射されたUVが吸収され架橋を阻害したため、べたべたの未硬化物になったが、その他は非自己融着性をもつ導電性接着剤となった。硬化した導電性接着剤のライナーフィルムを剥離し、NEC社製 ライフラインTMII 白色蛍光燈 FLR40SW/M 40Wの下 照度800ルックスの場所にサンプルを連続暴露し、劣化の程度を調べた。表18に結果を示す。
【0083】
【表18】
【0084】
IrganoxTM1076とTinuvinTM292に関しては、0.3重量%の添加では全く効果がなく2ヶ月程で軟化、流動化し、劣化してしまったが、0.5重量%以上添加する事で、3ヶ月程でやや軟化はするものの、4ヶ月でも流動化など生じず蛍光燈下の安定性が改善されることを見出したが、接着剤が変色していくことは避けられなかった。各種添加剤の有効添加量は導電性接着剤総量に対して0.5重量%以上が必要と考えその他の添加剤は0.5重量%添加量とし、その効果を調べたところ、IrganoxTM245,IrganoxTM1035が4ヶ月たっても軟化劣化せず、光安定性が改善された。IrganoxTM1035利用時は接着剤の変色が生じたが、IrganoxTM245利用時は6ヶ月たっても変色も生じず、安定である事が見出された。
【0085】
(実施例−5)
実施例−4におけるLP−16配合による導電性接着剤は、皮膚に対する十分な接着力を保有し、非自己融着性をも有し、かつ、光劣化耐性を有するイオン導電性接着剤であることが見出された。この導電性接着剤を実施例−1と同様に、4枚積層して楕円径TENS用電極を作成した。TENS用電極を防湿袋に保存した後、実施例−1と同様の初期特性を評価した。表19に結果を示した。
【0086】
【表19】
【0087】
皮膚接着力も各層とも安定しており、しっかりと皮膚に接着し、電極の浮きや脱離も生じなかった。剥離用タブを使っての最表面層の剥離力も安定しており、剥離モードも各導電性接着剤層の界面であって、自己融着も接合も生じなかった。この非自己融着特性が長期間維持できるかを調べるために、作成された電極を、アルミ箔を貼りあわせた保存袋に入れ、ヒートシールして、49℃で18週間加速劣化させた。この条件はVon’tHoff理論で2年相当の加速劣化条件である。加速劣化後の電極を同様に評価した結果を表20に示す。
【0088】
【表20】
【0089】
加速劣化後の電極は特に変色、滲出(Oozing)、軟化、流動化の劣化は認められず、安定であることが判った。皮膚接着力と最表面層の剥離力は初期より高くなったが、電極の浮きや脱離も生じなく、剥離力は安定しており、剥離時に苦痛は感じられない。また最表面層の剥離モードも各導電性接着剤層の界面であり、自己融着も接合も生じなかった。これにより本電極は長期間安定で、自己融着も接合も生じない多層導電性接着剤を有する電極であることが示された。
【0090】
【発明の効果】
本発明の多層イオン導電性接着剤は、皮膚に対する十分な接着力を有するとともに、長期間の保存の後にも、各層の自己融着や接合を生ぜず、各層間の界面で容易に引き剥がすことができる。このため、このような導電性接着剤を生体電極において用いた場合に、各層を引き剥がすことにより、繰り返し使用することが可能な生体電極とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】経皮的電気刺激装置(TENS)用生体電極の1態様の断面図を示す。
【図2】経皮的電気刺激装置(TENS)用生体電極の別態様の断面図を示す。
【符号の説明】
1…生体電極
2…導電性シート
3…導電性接着剤層
4…多層イオン導電性接着剤
5…タブコネクター接続部
6…剥離用タブ
Claims (6)
- イオン導電性接着剤層を積層した多層イオン導電性接着剤であって、
各接着剤層はウレタンアクリレートオリゴマー、保湿剤及び電解質を含むイオン導電性接着剤前駆体を架橋もしくは硬化したものであり、25℃における3分後のシェアクリープ値が1〜10×10−5cm2/ダインの範囲である、多層イオン導電性接着剤。 - 前記ウレタンアクリレートオリゴマーはポリアルキレングリコール、2個以上のイソシアネート基を有する有機イソシアネート、イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物、イソシアネート基と反応性のある官能基とカルボキシル基との両方を有する化合物を含む反応混合物を反応させることにより得られたオリゴマーである、請求項1記載の多層イオン導電性接着剤。
- イソシアネート基と反応性のある官能基と(メタ)アクリロイル基との両方を有する化合物の含有率がオリゴマーの0.35〜0.6モル%である、請求項2記載の多層イオン導電性接着剤。
- ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の多層イオン導電性接着剤。
- ヒンダードアミン系光安定剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の多層イオン導電性接着剤。
- 請求項1〜5のいずれか1項記載の多層イオン導電性接着剤からなる接着層と、該接着層に接続された電極端子とを含んでなる生体電極。
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