JP2004105134A - 水透過能を強化した植物 - Google Patents

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Maki Katsuhara
且原 真木
Mineo Shibasaka
柴坂 三根夫
Kunihiro Kasamo
笠毛 邦弘
Yuko Tomita
富田 祐子
Yasuyuki Hayashi
林 泰行
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Abstract

【課題】水の透過能が増強するように改変された植物の作出。
【解決手段】細胞膜の水透過能が増強されるように改変された植物。
【選択図】  図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞膜の水透過能が増強されるように改変された植物に関する発明である。より詳しくは、本発明は、細胞膜の水透過能が増強されるように改変されたことにより、細胞膜の二酸化炭素透過能が増強された植物に関する発明である。さらに詳しくは、本発明は、オオムギ(品種名:赤神力 学名 Hordeum vulgare)より単離された水チャネル遺伝子を用いた高い二酸化炭素透過能を持つ植物に関する発明であり、本発明を用いて光合成において律速となっている二酸化炭素の細胞内での移送能の強化が可能となり、これを応用することにより主要作物等の光合成能の強化が可能となる。即ち、作物栽培における高い収量増が期待される。
【0002】
【従来の技術】
水チャネルは分子量23〜30Kdaの疎水性の高い膜貫通領域を6つ持つ生体膜上のタンパク質で、水分子が膜を透過する孔(チャネル)を形成するチャネルタンパク質の一つである。1992年にヒトの赤血球から初めてcDNAが単離され、水透過の機能が明らかにされた。1993年に植物での水チャネルの存在が確認され、これまで、46種類の植物より187個の水チャネル遺伝子が2001年11月末の段階で報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
植物の水チャネルには、原形質膜型と液胞膜型が存在し、原形質膜型の水チャネル(30kDa)のほうが液胞膜型(23kDa)よりアミノ末端部分が長く大きい。植物水チャネルの特徴は、分子種が多く、量も多い点にある。動物と比べて植物では細胞が大きくまた成長も早い。細胞が大きく成長するときに必要な急速な水の透過や、小さな浸透圧差を利用した速やかな水の透過を達成させるために多量の水チャネルが必要と考えられている。
【0004】
ところで、根における水吸収は根の重要な機能の一つであり、また、水吸収の制御は水関連ストレス(乾燥ストレスや塩ストレス)耐性機構と密接に関係する。根の水チャネルは、このような水分生理の分子機構の一つであり、その遺伝子発現は、塩ストレスや乾燥ストレスで動的に調節されていることが近年の研究で明らかになってきた(例えば、非特許文献2を参照)。
【0005】
植物根表層において、水チャネルは外界からの水の吸収に関与し、また根内部では水の組織内移行と道管への水の移動に寄与している。乾燥や塩ストレスによって根外部環境の浸透圧が減少すると、水が逆に植物から流出する可能性があるが、この場合植物は水チャネル発現量を減少させたり、タンパク質りん酸化による水透過率を減少させたりすることにより対応している(例えば、非特許文献3を参照)。
【0006】
これまでに、且原らによりオオムギ水チャネル遺伝子BPW1(別名HvPIP2;1)が単離同定されその機能が明らかにされている(非特許文献4を参照)。
さらに、水分の調整は、気孔の開閉及びそれに伴う炭酸ガスの吸収、さらには、光合成を介した物質生産と密接に関連しており(例えば、非特許文献5および6を参照)、水吸収の制御とその生理機能との関連を明らかにすることが、作物の収量を高める上で重要な課題となっている。
【0007】
しかしながら、これまでに水吸収を制御するよう改変した植物についての報告はされておらず、間接的に耐塩性を付与した植物についての報告があるのみである。耐塩性を付与したということは、水吸収を制御するよう改変したと考えることもできる。このような例として、例えば、コリン酸化酵素(codA)を導入して浸透圧調整物質であるグリシンベタインを高度に蓄積させることにより耐塩性のイネを作出したもの(例えば、非特許文献7を参照。)やナトリウムを液胞へ多く貯めるようにNa/Hアンチポーター遺伝子(AtNHX1)をトマトに過剰発現させたもの(例えば、非特許文献8を参照。)などがある。また、浸透圧調整物質として、このほかにプロリンの過剰蓄積により植物の耐塩性を強化したものが報告されている(例えば、非特許文献9を参照。)。
また、これまでに、水の膜透過に関与するタンパク質、例えば、水チャネルタンパク質の植物体内における働きを調べる研究がアンチセンスなどを使ってなされていたものの(例えば、非特許文献10および11を参照。)、水チャネルタンパク質には多くの種類が存在し、一つの遺伝子の発現を抑制してもほかのアイソフォームにより機能が相補されてしまうため、その働きは見えにくく、詳細は明らかとなっていなかった。すなわち、水チャネルタンパク質には多数のアイソフォームが存在することから、その表現系を調べることが困難であると考えられていた。したがって、これまでに、水チャネル遺伝子などの増強などにより水透過能が増強されるように改変された植物の作出は試みられておらず、またこのような植物も報告されていなかった。
さらに、植物の水透過能を増強するよう改変することにより、二酸化炭素透過能が高められた植物についても報告されていなかった。
【0008】
【非特許文献1】
インターネット  HYPERLINK http://mbclserver.rutgers.edu/CPGN/AquaporinWeb/Aquaporin.group.html http://mbclserver.rutgers.edu/CPGN/AquaporinWeb/Aquaporin.group.htmlに掲載されているリスト
【非特許文献2】
Tyerman S.D., Niemietz C.M., & Bramly H. (2002) Plant aquaporins: multifunctional water and solute channels with expanding roles. Plant, Cell and Environment 25, 173−194
【非特許文献3】
Johansson I. Karlsson M., Johanson U.,  Larsson C. & Kjellbom, P. (2000)  The role of aquaporins in cellular and whole plant water balance. Biochemica et Biophysica Acta 1465, 324−342
【非特許文献4】
M.Katsuhara, Y.Akiyama, K.Koshio, M.Shibasaka, K.Kasamo. Functional analysis of water channels in barley roots. Plant Cell Physiology 43(8), 885−893 (2002)
【非特許文献5】
F.A.Bazzaz ”The response of natural ecosystems to the risinf globalC2 levels.” Ann.Rev.Ecol.Syst. (1990) 21:167−196
【非特許文献6】
B.A.Kimball ”Carbon dioxide and agricultural yield: an assemblage and analysis of 430 prioir observations” agronomy journal (1983) 75:779−
【非特許文献7】
A. Sakamoto, Alia, and N. Murata. Metabolic engineering of rice leading to biosynthesis of glycinebetaine and tolerance to salt and cold. Plant Molecular Biology 38: 1011−1019, 1998
【非特許文献8】
H−X. Zhang and E. Blumwald. Transgenic salt−tolerant tomato plants accumulate salt in foliage but not in fruit. Nature Biotechnology 19: 765−768, 2001
【非特許文献9】
P. B. K. Kavi Kishor, Z. Hong, G.−H. Miao, C.−A. A. Hu, and D. P. S. Verma. Overexpression of △ 1−pyrroline−5−carboxylate synthetase increases proline production and confers osmotolerance in transgenic plants. Plant Physiology 108: 1387−1394, 1995
【非特許文献10】
Kaldenhoff Ralf, Grote Karsten, Zhu Jian−Kun, Significance of plasmalemma aquaporins for water−transport in Arabidopsis thaliana. Plant Journal. 14: 121−128, 1998
【非特許文献11】
Chen, G. P; Wilson, I D; Kim, S H; Grierson, D. Inhibiting expression of a tomato ripening−associated membrane protein increases organic acidsand reduces sugar levels of fruit. Planta 212, 799−807 (2001)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、水の透過能が増強するように改変した植物、さらに、このような改変により二酸化炭素の透過能の増加した植物、さらに、より収量の高い穀物の作出を目指すものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、今般、はじめて植物に水チャネル遺伝子を導入し、発現させ、水の透過能を向上させた植物および、さらに二酸化炭素の透過能を向上させた植物を作出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 細胞膜の水透過能が増強されるように改変された植物。
(2) 細胞膜の水透過能が増強されるように改変されたことにより、細胞膜の二酸化炭素透過能が増強された(1)に記載の植物。
(3) 植物における水の透過能が、水の膜透過に関与する遺伝子の発現を増強することにより、増強されているものである(1)または(2)に記載の植物。
(4) 水の膜透過に関与する遺伝子が、水チャネル遺伝子である(3)に記載の植物。
(5) 植物における水の透過能が、下記の何れかの塩基配列を有する遺伝子の発現を増強することにより、増強されているものである(1)〜(3)のいずれかに記載の植物。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列;
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から複数個のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列であって、細胞膜において水を透過する活性を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列;
(C)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列;
(D)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列において1から複数個の塩基が欠失、付加または置換されている塩基配列であって、細胞膜において水を透過する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;または
(E)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列もしくはその相補配列またはそれらの一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、細胞膜において水を透過する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の植物は、細胞膜の水透過能が増強されるように改変された植物である。「水透過能」は、以下の実施例において詳細に記載される方法で、根の単位時間あたり単位面積あたりの水透過率として測定することができる。
本発明の好ましい一形態は、細胞膜の水透過能が増強されるように改変されたことにより、細胞膜の二酸化炭素透過能が増強された植物である。「二酸化炭素透過能」は、以下の実施例において詳細に記載される方法で葉の二酸化炭素透過能として測定することができる。
本発明に用いることができる植物としては、植物における水の透過能が増強するように改変することができ、好ましくは、その結果として、該植物の二酸化炭素透過能が増強される限り、特に限定されない。このような植物として、例えば、主要穀物であるイネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ジャガイモ等や油量作物であるダイズ、ナタネ、パーム椰子やワタ等が好ましく例示できる。
【0012】
「水の透過能の増強」は、植物における水の透過能が増強するように改変することができ、好ましくは、その結果として、該植物の二酸化炭素透過能が増強される限り、方法は限定されないが、植物における水の透過能を、水の膜透過に関与する遺伝子の発現を増強することにより、増強する方法が好ましく挙げられる。「発現の増強」は、目的植物と同じ/または異なる植物由来の水の膜透過に関与する遺伝子を目的植物に導入・発現させることによって、目的の植物に元々存在する水の膜透過に関与する遺伝子のコピー数を増加させることによっておこなうことができ、また目的植物と同じ/または異なる植物由来のより比活性の高い水の膜透過に関与する遺伝子を目的植物に導入・発現させることによっても行うこともできる。また目的の植物に元々存在しない水の膜透過に関与する遺伝子を、目的植物に導入・発現させることによってもおこなうこともできる。さらに、目的の植物に元々存在する水の膜透過に関与する遺伝子の発現を増強させることによっても行うこともできる。なお、「発現の増強」は、これらのうち、1種の方法を用いて行ってもよいし、複数の方法を組み合わせてもよい。
【0013】
「水の膜透過に関与する遺伝子」とは、その発現を増強することにより、目的とする植物における水の透過能が増強され、好ましくは、その結果、該植物の二酸化炭素透過能が増強されるような遺伝子であれば、どのようなものであってもよい。水の膜透過に関与する遺伝子として、例えば、水チャネル遺伝子が好ましい。水チャネル遺伝子は、大きく以下の4つのファミリーに分けられる。(F. Chaumont, F. Barrieu, E. Wojcik, M. J. Chrispeels, and R. Jung, Aquaporins constitute a large and highly divergent protein family in maize. PlantPhysiology 125: 1206−1215 (2001))(U. Johanson, M. Karlsson, I. Johansson, S. Gustavsson, S. Sjovall, L. Fraysse, F. R. Weig, and P. Kjellbom, The complete set of genes encoding major instrisic proteins in Arabidopsis provide a framework for a new nomenclature for major intrinsic proteins in plants. Plant Physiology 126: 1358−1369(2001))。
1. Plasma membrane intrinsic proteins(PIPs)
2. tonoplast intrinsic proteins(TIPs)
3. NOD26−like intrinsic proteins(NIPs)
4. small basic intrinsic proteins(SIPs)
すなわち、水の膜透過に関する遺伝子として、例えば原形質膜型水チャネル遺伝子(PIPs)、液胞膜型水チャネル遺伝子(TIPs)、NOD26様水チャネル遺伝子(NIPs)などが好ましく例示でき、原形質膜型水チャネル遺伝子が特に好ましい。
原形質膜型水チャネル遺伝子としては、オオムギ由来のものとして例えば、水チャネル遺伝子BPW1(配列番号1;ジェンバンク アクセッション番号 AB009307)、シロイヌナズナ由来のものとして例えば、PIP1;1(アクセッション番号CAB71073)、PIP1;2(アクセッション番号AAC28529)、PIP1;3(アクセッション番号AAF81320)、トウモロコシ由来のものとして例えば、ZmPIP1−1(アクセッション番号X82633)、ZmPIP1−2(アクセッション番号AF131201)が挙げられる。このうち、オオムギ水チャネル遺伝子BPW1が好ましい。
なお、「水の膜透過に関与する遺伝子」は、1種を用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
水チャネル遺伝子は、上記のような既知の植物の水チャネル遺伝子の配列をもとに適当なプライマーを作製し、該プライマーを用いて、植物のcDNAを鋳型としてPCR等によって得ることができる。
【0014】
本発明の好ましい一形態は、オオムギの水チャネル遺伝子BPW1の発現を植物において増強させることによって水透過能が増強するように改変された植物、また本発明の別の好ましい一形態は、該遺伝子の発現を植物において増強させたことにより、水透過能が増強するように改変された結果、二酸化炭素透過能が増強された植物である。
また、通常遺伝子においては、種、属、個体等の違いによって、1から複数の位置での1から複数個の塩基の欠失、付加または置換などの変異が当然存在する。本発明に用いることができる遺伝子には、コードするタンパク質の植物の細胞膜において水を透過する活性が損なわれない範囲において、このような変異を含む遺伝子も含まれる。すなわち、本発明の別の好ましい一形態は、コードするタンパク質の植物の細胞膜において水を透過する活性が損なわれない範囲において、配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列において1から複数個の塩基が欠失、付加または置換されている塩基配列を有する遺伝子の発現を植物において増強させることによって、該植物の水透過能が増強するように改変された植物、またさらにその結果、二酸化炭素透過能が増強された植物である。ここで「複数個」とは、具体的には2から430個、好ましくは、2から344個、より好ましくは2から170個である。
【0015】
このような欠失、付加または置換されている塩基配列は、オオムギの水チャネル遺伝子BPW1の配列をもとに適当なプライマーを作製し、該プライマーを用いて、他の植物のcDNAを鋳型としてPCR等によって得ることができる他、例えば部位特異的変異法によって得ることができる。また、他の従来知られている変異処理によっても取得され得る。
【0016】
上記のような変異を有する塩基配列を、目的の植物において発現させ、該植物の水の透過性または二酸化炭素透過性を調べることにより、本発明に用いることができる塩基配列が得られる。水の膜透過性および二酸化炭素透過性は以下の実施例に詳細に示す方法に従って行うことができる。また、変異を有するDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば配列番号1に記載の塩基配列のうち少なくとも塩基番号53〜913からなる塩基配列もしくはその相補配列、またはそれらの一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、水を透過する活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、本発明に用いられるDNAが得られる。なお、ここでいう「一部」とはプローブとして使用するのに有効な長さのことである。また、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、例えば、相同性が高いDNA同士、例えば、配列番号1に示す塩基配列のうち、少なくとも塩基番号53〜913と約50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは65℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩条件でハイブリダイズする条件が挙げられる。なお、相同性はLipman−Pearson法(D. J. Lipman and W. R. Pearson, 227, 1435−1441, (1985), Science)により計算した場合である。
【0017】
上記のような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれるが、それらについては、目的の植物に導入し、水の透過性または二酸化炭素透過性を以下の実施例で詳細に述べられる方法で測定することによって容易に取り除くことができる。
【0018】
本発明の別の好ましい一形態は、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の発現を植物において増強させることによって、水透過能が増強するように改変された植物、また、本発明の別の好ましい一形態は、前記のように、水透過能が増強するように改変された結果、該植物の二酸化炭素透過能が増強された植物である。また、本発明の別の好ましい一形態は、コードするタンパク質の植物の細胞膜において水を透過する活性が損なわれない範囲において、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から複数個のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子の発現を植物において増強させることによって、水透過能が増強するように改変された植物、また、本発明の別の好ましい一形態は、前記のように、水透過能が増強するように改変された結果、該植物の二酸化炭素透過能が増強された植物である。ここで「複数個」とは、具体的には2から144個、好ましくは、2から115個、より好ましくは2から57個である。
【0019】
以下本発明の植物を取得する方法を例示する。
オオムギ等すでに水チャネル遺伝子の同定されている植物を選んで実験に供試する。種子を発芽後3日間水耕培養し、長さが2−3cmになったところで、根をはさみで切って収穫する。この根サンプルから定法にしたがってRNAを抽出する。このRNAを鋳型として、すでに公表されている水チャネル遺伝子、例えばオオムギのBPW1全体をカバーするような、特異的な上流プライマーおよび下流ポリTプライマー(18個のT)を用いて定法によりPCRをおこない、BPW1全長を含むcDNA断片を得る。得られたcDNA断片を市販のクローニングベクターに組み込み、塩基配列の確認を行う。これを出発材料として植物発現用ベクターを構築する。なお、オオムギのBPW1遺伝子の名称は、2001年にHvPIP2;1と改められた。本明細書においては、該遺伝子をBPW1遺伝子と記載するが、これはHvPIP2;1と同義である。
【0020】
例えば、水チャネル遺伝子のcDNAを植物用の発現ベクターのカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターやその他の植物で機能するプロモーターの下流に挿入し、エレクトロポレーション法・アグロバクテリウム法・パーティクルガン法等を用いて主要穀物であるイネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ジャガイモ、等や油量作物である、ダイズ、ナタネ、パーム椰子やワタ等を形質転換する。かくして、本発明の水の透過能が増強された植物、また、さらに二酸化炭素透過能が向上した植物の作出が可能となる。
【0021】
イネの場合、例えば、エレクトロポレーション法により形質転換を行う(Nature338,274 (1989))。即ち、継代後3〜6日のサスペンジョン細胞よりイネプロトプラストを単離後、EPバッファー(5mM MgCl, 70 mM KCl, 0.1%MES, pH5.6;フィルター滅菌する。)10 mlに懸濁、遠心する。再度EPバッファーを加えて、最終6〜8×10プロトプラスト/10 mlとする。35Sプロモーター等で制御された該遺伝子を含むベクター及び35Sプロモーターで制御されたハイグロマイシンB フォスフォトランスフェラーゼ(Hygromycin B phosphotransferase)遺伝子を含むベクターをそれぞれ懸濁液1mlに対し、各々30μgを加え混合する。この懸濁液をマイクロキュベットに入れ、X−Cell 450 Electroporation System(プロメガ社製)にて、1,000μF、750V/cmの減衰波を30秒かける。プロトプラストをチューブに戻し氷中で冷却後、直径3cmのプラスチックシャーレに移す。アガロース(80 mg)を入れたパイレックス(コーニング インコーポレイテッドの登録商標)チューブ(オートクレーブ滅菌)に、R2P培地2.5 mlを加え溶かした後、37〜40℃に冷却する。プロトプラストを入れたシャーレに寒天溶液を0.5 ml加え、素早く混合して固めた後、R2P培地を5ml入れた直径5cmのプラスチックシャーレに移す。ナース細胞として、OC細胞を100 mg程度加え、30℃、80回転/分で振とう培養する。10〜14日に20〜30個の細胞塊となるのでこれを取り出し、新しいシャーレに移す。新たにR2P培地5mlを入れ、最終濃度25μg/mlとなるように、ハイグロマイシン溶液(5mg/ml)を加える。2〜3週間後、耐性を示して生育を続ける形質転換細胞と、分裂を停止する非形質転換細胞とが区別できるようになる。耐性を示した形質転換細胞塊をハイグロマイシン(30μg/ml)を含むR2SA寒天培地5mlに置き、30℃、2,000 luxで静置培養する。3週間から1カ月で耐性コロニーは生育を続けてカルスとなる。カルスをR2A培地上で2週間ほど培養した後、PCR等で該遺伝子の導入を確認する。遺伝子の導入されたものを再生培地に移し、再生個体を得る。
この他にも、アグロバクテリウム法(Plant J.6,271 (1994))やパーティクルガン法(Plant Cell Rep.14,586 (1995))によりイネの形質転換を行うことができる。
【0022】
ナタネの形質転換は、アグロバクテリウム法及びエレクトロポレーション法で行う。アグロバクテリウム法による形質転換(Plant Mol.Biol.26,1115(1994))は、以下のように行う。10%過酸化水素水で25分間処理して乾燥させた種子をMS寒天培地上で照明下(1,000〜4,000 lux)2〜3週間培養する。発芽し生長した無菌の下胚軸を2〜5mmの長さに切断し、前培養培地(B5−ビタミン、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(1mg/l)、3%ショ糖、0.7%アガロースを含むMS寒天培地上に適当量のタバコ培養細胞BY−2を敷き詰め滅菌ろ紙をかぶせた培地)上に置いて明所下一晩前培養する。植物で作用するプロモーターで制御された該遺伝子を含むプラスミドを有したアグロバクテリウムを抗生物質を含む5mlのYEB液体培地中、30℃で一晩培養する。この培養液を3,000 rpmで10分間遠心分離し3%のショ糖を含むMS液体培地で一回洗浄した後、同じMS培地に懸濁する。このアグロバクテリウム懸濁液に先の前培養した下胚軸を入れて25℃で5〜20分間振とう培養する。この溶液をろ過し下胚軸のみを取り出し、無菌ペーパータオル上で余分なアグロバクテリウムを取り除き元の前培養培地上で二晩同時培養し下胚軸にアグロバクテリウムを感染させる。この後、下胚軸を除菌培地(B5−ビタミン、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(1mg/l)、3%ショ糖、0.7%アガロース、500mg/lカルベニシリンを含んだMS寒天培地)上に移して三日間培養してアグロバクテリウムの増殖を抑える。次にこれらの下胚軸を一次選抜培地(B5−ビタミン、3mg/lベンジルアミノプリン、1mg/lゼアチン、2%ショ糖、0.7%アガロース、30mg/lカナマイシン、500 mg/lカルベニシリンを含むMS寒天培地)上に移して2週間培養する。更にこれらの下胚軸を二次選抜培地(一次選抜培地のショ糖含量を2%から1%に減少させた培地)上に移し3週間培養する。この時形質転換したカルスは更に大きくなるので、次にこのカルス部分のみを発芽培地(二次選抜培地よりカナマイシンを除き、カルベニシリンを500mg/lから250mg/lに減少させたもの)に移す。再生した芽は伸長培地(0.1 mg/lベンジルアミノプリン、250mg/lカルベニシリン、0.7%アガロースを含むB5寒天培地)上で成長させ、次に発根培地(0.1 mg/l1−ナフタレン酢酸、0.01mg/lベンジルアミノプリン、3%ショ糖、0.8%アガロースを含むMS寒天培地)に移した後、馴化させる。馴化の終了した植物体は隔離温室内で生育させ自家受粉させて種子を得ることができる。
【0023】
エレクトロポーレーション法によるナタネの形質転換(Plant Tissue CultureLetters11,199 (1994))は、以下のように行う。無菌発芽させた下胚軸よりプロトプラストを得、エレクトロポーレーション懸濁溶液(0.4 Mマンニトール、5mM塩化マグネシウム、70 mM塩化カリウム、0.1%MES、pH 5.5)に6x10個/mlの濃度で懸濁する。この懸濁液0.5 mlに該遺伝子のDNAを含んだプラスミドを40μg/ml、ウシ精子遺伝子を40μg/mlの濃度になるように加えた後、X−Cell450(プロメガ社製)で電気パルス(電気容量400 μF、電圧600 V/cm、時間7.5 ms)を印加して遺伝子導入する。エレクトロポーレーション処理したプロトプラストは、0.4 Mグルコース、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(1mg/l)、0.1 mg/lナフタレン酢酸、0.4 mg/lベンジルアミノプリンを含むKM8p培地で1週間培養した後、10 mg/lカナマイシンを加えて形質転換細胞を選抜する。3週間後に得られた形質転換カルスを10 mg/lカナマイシンを含んだCN培地、DN培地、K3培地、B5培地、MS培地に3週間毎に移植し、再生個体を得る。馴化の終了した植物体は隔離温室内で生育させ自家受粉させて種子を得ることができる。
【0024】
その他、各植物の形質転換は、常法により行うことが出来、例えば、大豆等を形質転換する場合には、Bio/technology 6,915 (1988)、同 5,1202 (1987)(以上アグロバクテリウム法)、Plant Cell Rep.10,106 (1991)、同 9,55 (1990)(以上エレクトロポーレーション法)及びTheor.Appl.Gnet.79,337 (1990)、PlantCell Rep.12,250 (1993)(以上パーティクルガン法)等に準じて、行うことができる。
【0025】
【実施例】
以下に実施例を挙げて更に具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0026】
(1)オオムギからのmRNAの単離
オオムギ(品種名:赤神力)の種子10−20gを、10%濃度の過酸化水素水で10分処理した後、水道水および引き続き蒸留水で洗浄してから、蒸留水300−400mLとともに500mL容量の三角フラスコに入れて、一晩25℃、暗黒下で吸水させる。この時、先端にスポンジをつけたガラス管を三角フラスコに挿入し、ポンプでガラス管を通じて空気を送ってバブリングをおこなう。吸水処理した種子を、0.25mM濃度の硫酸カルシウム溶液3.5Lで満たしたポットの上に置いた網に播種する。このポットにも先端にスポンジをつけたガラス管を通し、ポンプでガラス管を通じて空気を送ってバブリングを行う。48時間経過後、ポットの溶液を水耕栽培液(KNO:4.0 mM, NaNO:1.0 mM, NaHPO:4.0 mM, CaCl:2.0 mM, MgSO:1.0 mM,Fe−クエン酸:1.0 ppm, HBO:0.5 ppm, MnCl:0.5 ppm, ZnSO:0.05 ppm, CuSO:0.02 ppm, NaMoO:0.01 ppm)に替え、引き続き24時間培養する。長さが2−3cmになった根をはさみで切って収穫する。
【0027】
この根のサンプルから定法に従ってRNAの抽出を行った。即ち、約0.2 gのサンプルを乳鉢中で液体窒素を加えて良く粉砕した。これに0.8 mlの溶液 D(4 Mグアニジンチオシアン酸・25 mMクエン酸(pH7.0)・0.5%ザルコシール・0.1M 2−メルカプトエタノール)を加えさらに良く擦り潰した。これを2 mlのエッペンドルフチューブへ移し、2 M酢酸ナトリウム(pH4.0)、フェノール(0.1 Mトリス緩衝液飽和)、クロロフォルムをそれぞれ0.08 ml、0.8 ml、0.16 ml加えた後、良く撹拌して、氷中に15分間静置した。4℃で20分間遠心分離し、浮遊物に注意して上層を2 mlのエッペンドルフチューブへ移し、等量のイソプロピールアルコールを加えた。4℃で20分間遠心分離後、さらに0.3 mlの溶液 Dに溶かし、再び、等量のイソプロピルアルコールでRNAを沈殿させた。これを70%のエタノールで洗浄し、乾固した後30μlのジエチルピロカーボネート(DEPC)処理した滅菌水に溶かしトータル RNAを得た。トータル RNA溶液に溶出バッファー(最終濃度:10 mM Tris−HCl pH7.5・1 mM EDTA・ 0.1 % SDS)と滅菌水を加えRNA量が1μg/μlとなるように調製した。Olygotex−dT30(ロッシュ社製)を等量加え、65℃で5分間加熱し、氷上で3分間急冷後、5 M NaClを1/10量加え、37℃で30分間インキュベートした。15,000 rpmで3分間の遠心分離後上清を除去した。ペレットを1 mlの滅菌水に懸濁後65℃で5分間加熱し、氷上で3分間急冷した。15,000 rpmで3分間の遠心分離後、上清を回収し、エタノール沈殿によりmRNAを回収した。
【0028】
(2)cDNAの合成
得られたmRNAよりcDNA合成キット(例えば、Gibco BRL社製)を用いてcDNAを合成した。即ち、鋳型として上記(1)で得られたオオムギの根由来のmRNA(2μg)を添付の5×緩衝液(最終濃度:50 mM Tris−HCl(pH 8.3)、75 mM KCl、3 mM MgCl)に溶かした。これにポリA配列部と結合するオリゴ(dT)プライマー(1μg)、dNTP混合物(最終濃度:各0.5 mM)、ジチオスレイトール(最終濃度:10 mM)、Superscript II逆転写酵素(400ユニット:Gibco BRL社製)を加え、DEPC処理水で全量を20μlとした。振盪後、37℃で1時間保温し、終了後氷冷した。この操作により、1本鎖cDNAを合成した。
【0029】
次に、添付の緩衝液(最終濃度:25 mM Tric−HCl(pH 7.5)、100 mM KCl、5 mM MgCl、10 mM (NHSO、0.15 mM β−NDA+)とdNTP混合物(最終濃度:各250 μM)を加えた後、大腸菌のDNAリガーゼ(10ユニット)とDNAポリメラーゼI(40ユニット)、RNaseH(2ユニット)を加え、DEPC処理水で全量を150μlとした。軽い撹拌後、16℃で2時間処理した。この操作により2本鎖cDNAを合成した。更に、平滑末端にするためにT4ファージのDNAポリメラーゼ(10ユニット)を加えて16℃で10分間保温した。反応を終了させるために0.5 M EDTA(pH 8.0)10μlを加え撹拌した。これを等量のフェノール/クロロホルムで2回処理して酵素を除き、更に、倍量のジエチルエーテルで洗浄を行い、エタノール沈澱で精製されたcDNAを回収した。70%エタノールで洗浄後乾燥させ、滅菌水に溶かしたものを以下の実験に用いた。
【0030】
(3)PCRによる目的遺伝子の増幅とクローニング
(2)で作製したcDNA 100 ngを鋳型にし、オオムギの水チャネルであるBPW1(配列番号1)(ジェンバンクアクセッション番号 AB009307)全体をカバーするような、配列番号3に示す配列特異的上流プライマー、および下流ポリTプライマー(18個のT)を用いて、100 μl溶液(最終濃度:20 mM Tris−HCl pH8.3・1.5 mM MgCl2・0.2 mM dNTP・0.02% ゼラチン・0.1% Triton X−100)で以下の条件でPCRを行った。即ち94℃で1分加熱後、94℃,30秒、52℃,60秒、72℃,60秒の反応を35回繰り返し、最後に72℃,120秒加熱した。1%アガロースゲルで生成物を電気泳動しエチジウムブロマイドで染色したところ1本の主バンドが確認された。エタノール沈殿後乾固し100 μlの滅菌水に溶かした。本溶液1μlとTAクローニングベクター(pCR2.1;インビトロジェン社製)1μlを混合し、ライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて16℃でライゲーションを行った。形質転換は、コンピテントセル(DH5α)を用いてHanahanの方法(DNA cloning. vol1. p109−136.(1985))に従って行った。
【0031】
50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地上に形成された白色コロニーの中から、アルカリ−SDS法でミニスクリーニングを行った。制限酵素EcoRIで切断しDNA断片の長さから目的とする該BPX1遺伝子を含むと考えられるクローンを選抜した。該クローンを大量に精製し、蛍光シーケンサーにて塩基配列を確認したところ、報告されているBPW1遺伝子と完全に遺伝子配列が一致したので、以後該クローンをBPW1として用いた。
【0032】
(4)植物発現ベクターの構築
特開平10−191983に記載の発現ベクター(pbet/chl/M2)を利用して以下のBPW1発現ベクターを構築した。pbet/chl/M2のSacI部位で切断し、クレノー(Klenow)処理して平滑末端とした後、さらにSalI部位で切断し、(3)で得られたBPW1を含むプラスミドをSalI部位及びEcoRI部位で切断し、ゲル電気泳動後、DNA断片回収キット(例えば、 GFX PCR DNA AND GEL BAND PURIFICATION KIT (アマシャム・ファルマシア社製) )で回収したものと混合し、ライゲーションキット(例えば、Takara ligation kit (宝バイオ社製))を用いてライゲーションした。こうして、該PBW1遺伝子を含むDNA断片をカリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーター及びヒマ由来のカタラーゼの第一イントロン、アグロバクテリウム由来のノパリン合成酵素ポリアデニレーション配列を含む発現ベクターのイントロンとポリアデニレーション配列の間に挿入した。エレクトロポーレーション法で形質転換を行う場合にはこのプラスミド(p35SBpw1)を用いた。
【0033】
(5)イネの形質転換
継代後3〜6日のサスペンジョン細胞よりイネプロトプラストを単離後、EPバッファー(5mM MgCl, 70 mM KCl, 0.1%MES, pH5.6;フィルター滅菌する。)10 mlに懸濁、遠心する。再度EPバッファーを加えて、最終6〜8×10プロトプラスト/10 mlとする。ベクター(p35SPBW1)及び35Sプロモーターで制御されたハイグロマイシンB フォスフォトランスフェラーゼ遺伝子を含むベクターをそれぞれ懸濁液1mlに対し、各々30μgを加え混合する。この懸濁液をマイクロキュベットに入れ、X−Cell 450 Electroporation System(プロメガ社製)にて、1,000μF、750V/cmの減衰波を30秒かける。プロトプラストをチューブに戻し氷中で冷却後、直径3cmのプラスチックシャーレに移す。アガロース(80 mg)を入れたパイレックス(コーニング インコーポレイテッドの登録商標)チューブ(オートクレーブ滅菌)に、R2P培地2.5 mlを加え溶かした後、37〜40℃に冷却する。プロトプラストを入れたシャーレに寒天溶液を0.5 ml加え、素早く混合して固めた後、R2P培地を5ml入れた直径5cmのプラスチックシャーレに移す。ナース細胞として、OC細胞を100 mg程度加え、30℃、80回転/分で振とう培養する。10〜14日に20〜30個の細胞塊となるのでこれを取り出し、新しいシャーレに移す。新たにR2P培地5mlを入れ、最終濃度25μg/mlとなるように、ハイグロマイシン溶液(5mg/ml)を加える。2〜3週間後、耐性を示して生育を続ける形質転換細胞と、分裂を停止する非形質転換細胞とが区別できるようになる。耐性を示した形質転換細胞塊をハイグロマイシン(30μg/ml)を含むR2SA寒天培地5mlに置き、30℃、2,000 luxで静置培養する。3週間から1カ月で耐性コロニーは生育を続けてカルスとなる。カルスをR2A培地上で2週間ほど培養した後、PCR等で該遺伝子の導入を確認する。遺伝子の導入されたものを再生培地に移し、再生個体を得る。
【0034】
形質転換イネは、人工気象器あるいは隔離(閉鎖系)温室にて、各系統ごとにポット植えで生育させた。自家受粉により種子採種を繰り返し、形質転換当代(T世代とする)から2世代後(T世代となる)の植物体を使って、実験と解析を行った。
【0035】
(6)タンパク質発現量の測定
サンプルの生重量を測定し、その3倍容積の磨砕バッファー(シュークロース:0.3M, Tris:50 mM, EDTA:8 mM, DTT:4 mM, PMSF:2 mM (pH7.8))を加えて、乳鉢・乳棒を用いて、あるいはガラスホモジナイザーを用いて磨砕し、残渣を遠心で除いて粗タンパク液を得た。タンパク量は、ブラッドフォード法(Bradford, M.M. 1976. A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principles of protein−dye binding.Anal. Biochem. 72, 248−254.)で定量した。サンプルを可溶化バッファー(60%シュークロース:1 mL, 10% LDL:1 mL, 蒸留水:0.5 mL, DTT:46 mg)と1:1で混合し、100℃で1分間ボイルした後、SDS−PAGE(13%アクリルアミド濃度)法で電気泳動を行った。分離したタンパク質はメンブレンに転写(ATTO社、セミドライ式blotting装置)したのち、定法にしたがってウエスタンブロットにより、目的タンパク質を検出した。BPW1の検出に用いた一次抗体は、BPW1のN末端付近のアミノ酸配列(配列番号2のアミノ酸番号7〜20)に相当する人工ペプチドをエピトープとして、MBL社((株)医学生物学研究所、名古屋市中区丸の内3−5−10)に依頼してウサギを用いて作成した。二次抗体はアルカリホスファテースで標識したヤギ抗ウサギIGg抗体(ICN社、カタログナンバー59299、米国オハイオ州、国内代理店(株)コスモバイオ)を用いて、発色によってシグナルを検出した。発色反応には、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル燐酸、0.15Mトリス酢酸バッファー(pH9.6)、ニトロブルーテトラゾリウムを用いた。
【0036】
ウエスタンブロットにより検出されたバンドの濃さは、メンブレンの画像をスキャナーでコンピュータに取りこんだ後、画像解析ソフト(Molecular Analyst2.1)を用いて数値化した。BPW1と同じ手法で検出したチトクロームCタンパクのデータも取りこみ、定常的に発現している考えられるチトクロームCの発現量を基準にしてBPW1の量を推定した。その結果、それぞれ別系統の形質転換体、632(2)系統と636系統のT世代で、根で導入遺伝子が発現していることが確認された(図1、図2)。図1のデータから、チトクロームcの値を基準にBPW1の発現量を数値化すると図2に示すように野生型に比べて3〜4倍量の増加が認められた。野生型でも発現が認められるが、イネ内在性水チャネルタンパク質にBPW1抗体が反応したものと考えられた。
【0037】
(7)根における水透過率の測定
水透過率の測定は、Tazawa等の方法(Tazawa, M., Ookuma, E., Shibasaka, M. and Nakashima, S. (1997) Mercurial−sensitive water transport in barleyroots. J. Plant Research 110:435−442)に従って行った。実験には、播種後4−6日の幼植物イネを用いた。根先端から6cmの長さになるように根をサンプリングし、APW液(NaCl、KCl、CaCl各0.1mM)に浸した。根を下図3に示す装置にセットし、2室間はラノリンとグリセリンを4:6で混合したものを塗って仕切った。
気泡をB側に挿入後、両室をAPW液で満たし、次いでA室を高浸透圧液(APW液に最終濃度で200mMになるようにソルビトールを加えたもの)に替えた。浸透圧差にしたがって水が根を通って移動する量をB室の気泡の動きを測定することによって計測した。根の表面積を測定して、各根について、単位時間あたり単位面積当たりの水透過率を算出した。その結果、632(2)系統において、非形質転換体(野生型、品種名キヌヒカリ)に比較して、25%程度根の水透過率が上昇していることが認められた(図4)。
【0038】
(8)葉の二酸化炭素透過性
葉の二酸化炭素透過性は、以下のようにして測定を行った。光合成測定装置(Yuko T. Hanba, Shin−Ichi Miyazawa, Hiroyuki Kogami and Ichiro Terashima ”Effects of leaf age on internal CO transfer conductance and photosynthesis in  tree species having different types of shoot phenology” Australian Journal of Plant Physiology (2001) 28:1075−1084)を用いて、測定チャンバに流入・流出する空気中の二酸化炭素分圧と水蒸気分圧を測定することにより、葉の光合成速度を算出した。光合成速度の測定後、測定チャンバから流出する空気中の二酸化炭素を、光合成測定装置に接続された真空ラインを用いて分離・精製し、質量分析計(フィニガンマット社製)にて、安定同位体比(13C/12C)を測定した。葉の内部での二酸化炭素透過性は、光合成速度と、二酸化炭素の13C/12Cから 以下の計算式によって算出した。
(計算式)
葉内での二酸化炭素に対する透過性(拡散コンダクタンス:g)は、次のようにして計算される。
【0039】
【式1】
Figure 2004105134
【0040】
Δは精製されたCOの同位体比から計算される同位体分別、Δ は拡散コンダクタンスが無限大であると仮定した場合の同位体分別、 A は光合成速度, C は大気中の二酸化炭素分圧、a は CO が水中で拡散・水和するときの同位体分別 (1.8‰)、 b は Rubisco とPEP カルボキシラーゼによる同位体分別 (30‰)。その結果、632(2)系統で、葉において二酸化炭素透過性が上昇した(図5)。
【0041】
【発明の効果】
本発明により、水の透過能が増強するように改変された植物、さらに水の透過能が増強するように改変されたことにより二酸化炭素透過能を向上させた植物が提供される。本発明の植物は、光合成活性の強い農作物を作成するのに有用と考えられる。
【配列表】
Figure 2004105134
Figure 2004105134
Figure 2004105134
Figure 2004105134
Figure 2004105134
Figure 2004105134

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、形質転換体Tの根におけるBPW1タンパク質の発現を示す図(写真)である。野生型: 非形質転換体(品種名:キヌヒカリ)、632(2)および636: 形質転換イネそれぞれ別系統のT
【図2】図2は、BPW1タンパク質の発現の定量の結果を示す図である。
【図3】図3は、水透過率の測定装置模式図である。
【図4】図4は、形質転換体および非転換体イネ根の水透過率を示す図である。
【図5】図5は、二酸化炭素透過性の変化を示す図である。

Claims (5)

  1. 細胞膜の水透過能が増強されるように改変された植物。
  2. 細胞膜の水透過能が増強されるように改変されたことにより、細胞膜の二酸化炭素透過能が増強された請求項1に記載の植物。
  3. 植物における水の透過能が、水の膜透過に関与する遺伝子の発現を増強することにより、増強されているものである請求項1または2に記載の植物。
  4. 水の膜透過に関与する遺伝子が、水チャネル遺伝子である請求項3に記載の植物。
  5. 植物における水の透過能が、下記の何れかの塩基配列を有する遺伝子の発現を増強することにより、増強されているものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物。
    (A)配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列;
    (B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から複数個のアミノ酸が欠失、付加または置換されているアミノ酸配列であって、細胞膜において水を透過する活性を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列;
    (C)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列;
    (D)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列において1から複数個の塩基が欠失、付加または置換されている塩基配列であって、細胞膜において水を透過する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列;または
    (E)配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号53〜913からなる塩基配列もしくはその相補配列またはそれらの一部とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、細胞膜において水を透過する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
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